説明

N−アシルアゼチジン−2−カルボン酸の生物学的分割

【課題】エナンチオマー的に純粋なアゼチジン−2−カルボン酸、特にエナンチオマー的に純粋な(S)−アゼチジン−2−カルボン酸の製造に有用な新規分割方法の提供。
【解決手段】エナンチオ特異性を示す酵素によるラセミ体のN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸エステルの生物変換からなる、エナンチオマーに富むN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸の獲得方法であって、上記エナンチオ特異性を示す酵素がカンジダ・アンタルクチカのリパーゼまたはアスペルギルス・タマリイのエステラーゼに特有の性質を有する場合を除き、上記N−アシル基が線状もしくは環状アルカノイル基または場合により置換されたベンゾイル基である場合を除き、そして上記エステルがフェニルまたは線状もしくは環状C1-6アルキルエステルである場合を除く、上記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエナンチオマー的に純粋なアゼチジン−2−カルボン酸、特にエナンチオマー的に純粋な(S)−アゼチジン−2−カルボン酸の製造に有用な新規分割方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アゼチジン−2−カルボン酸は変わったアミノ酸である。それの(S)−エナンチオマーはとりわけ高分子量ポリペプチドの合成に有用であることが知られており、またよく知られたアミノ酸であるプロリンの類似体として特に知られている。
【0003】
このアミノ酸は天然源からの入手可能性が限られており、実際には(S)−エナンチオマーとしてだけ見いだされている。そのために純粋なラセミ化合物および個々の(R)−または(S)−単一エナンチオマーのいずれかを製造するための効率的かつ経済的な合成方法の開発が望まれている。
【0004】
以前に文書で証明された(S)−アゼチジン−2−カルボン酸のキラル合成には、N−トシルで保護されたL−メチオニンから出発してホモセリンラクトンを経る5段階製造(例えば特願昭49−14457号およびBull. Chem.Soc. Jpn. (1973) 46, 699 参照)およびL−2,4−ジアミノ酪酸から出発してL−4−アミノ−2−クロロ酪酸を経る5段階製造(Biochem. J. (1956) 64, 323参照)がある。
【0005】
以前に文書で証明された、ラセミ化合物からのエナンチオマー的に純粋なアゼチジン−2−カルボン酸の製造は、長くてかなり複雑な多段階方法からなる。
例えば、ラセミ体のアゼチジン−2−カルボン酸の保護、分割およびそれに続く脱保護からなる4段階製造は、J. Heterocyclic Chem. (1969) 6,993 で知られている。この方法では、N−カルボベンジルオキシで保護されたラセミ体のアゼチジン−2−カルボン酸を分割剤としてのL−チロシンヒドラジドを用いて分割し、次いで最後の脱保護段階の前に単離する。この方法にはL−チロシンヒドラジドが高価であるというさらに別の不利点がある。
【0006】
このような方法には、分割剤を再循環する必要性があるために典型的には煩わしく、しかも必要とする異性体としてその物質の半分が必然的に得られるだけであるという問題点がある。従って、経済的な全般的製造方法として、望ましくない異性体の再循環方法を見いだし、そしてこれが余分な化学的段階を最小にした一つの方法に統合されることが必要になる。
【0007】
さらに、化学合成を経て得られるラセミ体のアゼチジン−2−カルボン酸は必然的に汚染物質を含有する。すなわち、必要とする単一のエナンチオマーだけを製造すると同時により経済的である分割方法はまた、生成物の化学的精製を容易にするものと期待される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
生物学的分割(bioresolution)は、エナンチオマー的に純粋な化合物を製造するのに一般に有用であることが知られている方法である。しかし、特定のキラル化合物の分割における技術の潜在的有用性および有効性は予測が困難である。
【0009】
アゼチジン−2−カルボン酸に関して、生体触媒分割方法は今まで全く開示されたことがない。さらに、アゼチジン−2−カルボン酸に関しては、望ましくない異性体の再循環
を効率的な方法で統合し、かつラセミ化合物合成から生ずる不純物を考慮する分割は今まで開示されたことがない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
意外なことに、本発明者等はエナンチオマーに富むアゼチジン−2−カルボン酸が、新規で効率的な生物学的分割方法により極めてエナンチオマー的に純粋な形態でかつ極めて高い収率で得られるということを見いだした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エナンチオマーに富むN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸を得る方法が提供される。その方法は、エナンチオ特異性を示す酵素によるラセミ体のN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸エステルの生物変換(biotransformation)からなる(以下、「本発明方法」と称する)。
【0012】
ここで使用する「エナンチオマーに富む」とは、一方のエナンチオマーが他方のエナンチオマーよりも多い割合で存在するN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸の各エナンチオマーのいずれかの混合物、例えば50%より大きい、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%のエナンチオマー純度(エナンチオマー余剰;e.e.)を有する混合物を意味する。
【0013】
当業者ならば本発明方法はまた、“光学的に富む”N−アシルアゼチジン−2−カルボン酸を得る方法としても言及され得ることが分かるであろう。
【0014】
本発明方法は、N−アシルアゼチジン−2−カルボン酸エステルの一つのエナンチオマーを対応する酸に優先的に加水分解することができる適当な酵素の使用からなり、その酸は他方の望ましくないエナンチオマーエステルから、およびラセミ体のN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸エステルの合成で生じる不純物から容易に分離され得る。さらに、残りのエステルは容易に回収され、ラセミ化され次いでその分割方法で再使用され得る。
【0015】
本発明方法で使用できるN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸のエステルとしては、アリール(例えばフェニル)または線状もしくは環状アルキル[特に低級アルキル(例えばC1-6アルキル)]エステルがある。特に好ましいエステルとしてはN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸のプロピルエステル、エチルエステルおよび特にメチルエステルを挙げることができる。
【0016】
本発明方法で使用できるN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸およびエステルのN−アシル基としては、線状もしくは環状アルカノイル基または場合により置換されたベンゾイル基を挙げることができる。しかし、本発明者等によればN−アシル基は場合により置換されたN−ベンゾイル基、特にN−ベンゾイル基がより好ましい。
【0017】
本発明方法はその分割方法を妨害しない適当な溶媒の存在下で実施することができる。適当な溶媒としては水があるが、それは適当なバッファー系例えば生物学的系で普通に使用されるバッファー系(例えばTris、MESm、Bis-Tris、ACES、PIPES、MOPSOのようなバッファー)およびリン酸バッファーのような無機バッファーで処理して適当なpHにすることができる。
【0018】
生物変換された酸およびエステルは当業者によく知られた技術、例えば溶媒抽出により分離され得る。
生物変換されたエナンチオマーに富む酸のN−アシル基を引き続き当業者によく知られたに技術に従って、例えばアルカリの存在下での加水分解により除去するとエナンチオマ
ー的に純粋なアゼチジン−2−カルボン酸を製造することができる。この方法でケン化は、水性媒体中、室温と100℃との間の温度で、適当なアルカリ(例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物)の存在下において実施することができる。有利なことに、本発明者等はこのエナンチオマーに富むN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸(および特にN−ベンゾイル誘導体)のケン化はラセミ化なしで進行することを見いだした。
【0019】
すなわち、本発明方法はエナンチオマーに富むアゼチジン−2−カルボン酸を製造する方法の一部分として使用され得る。
【0020】
本発明のさらに別の特徴によれば、エナンチオマー的に純粋なアゼチジン−2−カルボン酸の製造方法が提供される。その方法は前述の生物変換を行い、次いで生成したエナンチオマーに富むN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸を脱アシル化することからなる。
【0021】
本発明方法は80%より大きいエナンチオマー純度(エナンチオマー余剰;e.e.)を有するアゼチジン−2−カルボン酸のいずれかのエナンチオマーの製造に使用することができるが、ここで“エナンチオマー的に純粋なアゼチジン−2−カルボン酸”とは、50%より大きい e.e.を有するアゼチジン−2−カルボン酸の一つのエナンチオマーを意味する。
【0022】
エナンチオマー純度は、同時に化学純度を増加させる適当な溶媒(例えば酢酸エチル)からの結晶化によってさらに改善され得ることがある(例えば98%より大きい純度にまで)。
残りのまだ生物変換されていないエナンチオマーに富むエステルのラセミ化は、適当な溶媒(例えばメタノール)の存在下、例えば20〜100℃(用いる溶媒による)において適当な塩基(例えばナトリウムメトキシド)で処理することにより行うことができる。この再ラセミ化されたエステルは引き続き本発明方法で再使用することができる。
【0023】
適当な酵素を用いることにより、本発明方法は脱アシル化段階と組み合わせて、エナンチオマー的に純粋な(R)−またはエナンチオマー的に純粋な(S)−アゼチジン−2−カルボン酸を製造するのに使用することができる。しかし、(S)−エナンチオマーの前記用途を考慮すれば、本発明方法は後者の(S)−エナンチオマーの製造に使用する方が好ましいし、その酵素は(S)−エステルに関してエナンチオ特異性を有する方が好ましい。
【0024】
特に、本発明者等によれば(S)−アゼチジン−2−カルボン酸への効率的な製造方法は、適当なエナンチオ特異性の酵素を用いるラセミ体のN−ベンゾイルアゼチジンカルボン酸アルキルエステルの生物学的分割、それに続くN−ベンゾイル基の除去により実施できることが見いだされた。
【0025】
本発明方法で使用する酵素は、それが由来する微生物の存在下または単離された形態で使用することができる。この酵素は所望により固定化され得る。
【0026】
適当な酵素系の選択は、例えば後述のような、試験酵素の存在下でのラセミ体のN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸エステルの試みの生物変換からなる適当なプロトコルにより行われる。
【0027】
ここで使用する「試みの生物変換」なる用語は、適当な量の試験酵素の存在下でラセミ体のN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸エステルを提供し、そしてエナンチオマーに富むN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸(前述の定義を有する)が生成されるかどうかを測定することを意味する。分割条件は前述のように変更され得るし、生成物のエナンチオマー純度は例えば後述のような当業者によく知られた技術に従って測定され得る。
【0028】
すなわち、本発明のさらに別の特徴によれば、本発明方法で使用する酵素の選択方法が提供される。その方法は試験酵素の存在下でのラセミ体のN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸エステルの試みの生物変換からなる。
【0029】
本発明方法で使用する適当な酵素の例としては、カンジダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)のリパーゼおよびアスペルギルス・タマリイ(Aspergillus tamarii)のエステラーゼに特有な性質(および/または同じ酵素活性を有する)ものを挙げることができる。本発明者等によればそのような酵素は優先的に(S)−エステルを(S)−酸に加水分解し、その酸は望ましくない(R)−エステルから抽出により容易に分離されそして引き続き前述のようにケン化され得るということが見いだされた。ある微生物からの酵素「に特有な性質を有する酵素」なる用語を用いることにより、本発明ではもとの微生物から直接的および間接的に由来する酵素、例えば適当な異種の宿主微生物中の適当な遺伝子から発現される酵素が包含される。
【0030】
また当業者にとっては、ラセミ体のN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸エステルから(S)−アゼチジン−2−カルボン酸を製造する別法は、適当にエナンチオ特異性な酵素を用いて(R)−N−アシルアゼチジン−2−カルボン酸を酵素的に製造し(未変換(S)−エステルが残る)、それに続いて前記で示したように分離することからなることは明らかであろう。次いでこの(R)−アゼチジン−2−カルボン酸をいずれかの順序でラセミ化、エステル化するとさらに別のラセミ体基質が得られる。引き続きこの(S)−エステルのエステル基およびN−アシル基を1または2段階で慣用操作に従って除去すると、(S)−アゼチジン−2−カルボン酸が得られる。しかし、包含される多数の段階を考慮すれば、この操作は(S)−エステルの(S)−酸への直接的酵素加水分解より好ましくはない。
【0031】
本発明方法は前記の化学的方法とは違って、化学量論的量の分割剤または補助剤を取り扱う必要がない;すなわち、生物変換からの生成物は容易に分離することができ;そして望ましくないエナンチオマーが容易に再循環され得る形態で各物質を提供するという利点を有する。さらに、本発明方法はエナンチオマー的に純粋なアゼチジン−2−カルボン酸が、従来用いられていたエナンチオマー的に純粋なアゼチジン−2−カルボン酸の製造方法よりも高い収率、大きなエナンチオマー純度、少ない段階を包含する方法、少ない時間、好都合に、低いコストで製造され得るという利点を有する。
【実施例】
【0032】
〔実施例1〕
ラセミ体のN−ベンゾイルアゼチジン−2−カルボン酸メチルエステルの分割
上記エステル(4.8g, 21.9mmol)を室温でバッファー溶液(pH7.5, 50mMリン酸カリウム, 100mL)中で撹拌した。カンジダ・アンタルクチカ由来のリパーゼ(0.48g; Chirazyme L2; Boehringer Mannheim社製)を加え、その混合物を1M NaOHで滴定してpH7.5にした。3.5時間後に塩基吸収が38%変換を示した時に、酵素をろ過により除去し、5M NaOHでpH8.5に調整した。そのエステルを酢酸エチル(300ml,5回)で抽出し、次いで合一した有機溶液を飽和炭酸水素ナトリウム溶液(100ml)、ブライン(100ml)で洗浄し、MgSO4で乾燥し、次いでろ過し、真空中で蒸発させてラセミ化用の無色油状物(7.72g,57%e.e., キラルGC:Chirasil DEXCB カラムにより測定)を得た。酸生成物は生物変換溶液をpH1.6に酸性化し、次いで酢酸エチル(200ml,4回)で抽出することにより回収された。得られた溶液をMgSO4で乾燥し、次いで蒸発乾固して粘稠性油状物(1.7g,84%e.e., 対応するメチルエステルへの誘導化およびその後の前記キラルGC分析により測定)を得た。
【0033】
(S)−N−ベンゾイルアゼチジン−2−カルボン酸(1.6g, 84%e.e.)を4M NaOH溶液(100ml)中、周囲温度で18時間次いで75℃で3.5時間撹拌した。4℃に冷却し、酸性化
してpH1.5にした後にその溶液を酢酸エチル(250ml)で抽出し、次いで蒸発乾固して白色固形物(1.11g)を得た。これを水(100ml)中に溶解し、次いでアンバーライト(Amberlite)IRA-67(4g)を加えた。反応混合物を室温で撹拌し、次いで樹脂をろ過により除去し、ろ液を真空中で蒸発させて遊離アミノ酸を白色固形物(0.90g)として得た。生成物をメタノール中で15分間還流し、次いで4℃で結晶化することにより98%e.e.に結晶化して(S)−アゼチジン−2−カルボン酸を白色固形物(0.39g, 98%e.e.,キラルHPLC:Chirex(D)Penicillamineカラムにより測定)として得た。
【0034】
〔実施例2〕
エナンチオマーに富むN−ベンゾイルアゼチジン−2−カルボン酸の結晶化
(S)−N−ベンゾイルアゼチジン−2−カルボン酸(10.0g, 48mmol,70%e.e.)を室温で10分間酢酸エチル(20ml)とともに撹拌し、その後氷浴上で2時間冷却した。製造された白色固形物(4.09g,>98%e.e.)を吸引ろ過により集め、ポンプで15分間乾燥した。
【0035】
〔実施例3〕
N−ベンゾイルアゼチジン−2−カルボン酸メチルエステルのラセミ化
(S)−N−ベンゾイル−2−アゼチジンカルボン酸メチルエステル(5.2g, 23.7mmol,98%e.e.)をメタノール(200ml)中に溶解し、次いでナトリウムメトキシド(0.26g,4.8mmol)を加え、その溶液を24時間還流した。酢酸をpHが6.5になるまで加え、各溶媒を蒸発により除去した。残留物を酢酸エチル(400ml)中に溶解し、水(100ml)次いでブライン(100ml)で抽出した。酢酸エチル層を乾燥し(MgSO4)そして真空中で蒸発させて5%e.e.の無色液体(4.5g)を得た。
【0036】
〔実施例4〕
高イオン強度下でのカンジダ・アンタルクチカのリパーゼによるN−ベンゾイルアゼチジン−2−カルボン酸メチルエステルの生物変換
標記エステル(110g粗製)をバッファー溶液(1MのKH2PO4,pH7.0,600mL)およびメチルt−ブチルエーテル(200ml)中で25℃において撹拌した。カンジダ・アンタルクチカ由来のリパーゼ(22g,Chirazyme L2;Boehringer Mannheim社製)を加え、その混合物を24時間撹拌した。酵素をろ過により除去し、次いでメチルt−ブチルエーテルを分離させた。水性層を酢酸エチル(250mL)で2回抽出し、次に全ての有機層を合一し、各溶媒を真空中で除去した。これにより残留エステルを含む黄色油状物47gが得られた。水性層を濃HClでpH2.5に酸性化し、次いで酢酸エチル(250mL)で5回抽出した。酢酸エチルフラクションを合一し、真空中で蒸発させて湿気のあるケーキを得、次いで得られた白色結晶固形物をヘプタン:酢酸エチルの3:1溶液(50mL)と完全に混合した。結晶生成物をろ過し、次いで乾燥して97.7%e.e.の(S)−N−ベンゾイルアゼチジンカルボキシレート37.2gを得た(このe.e.は下記実施例5に記載のようにして測定された)。
【0037】
〔実施例5〕
スクリーニングによるエステラーゼ含有アスペルギルス・タマリイ菌株の同定
知られたエステラーゼ活性を有する選択された微生物菌株(出願人の菌株収集から得られる)をKH2PO4(7g/L)、K2HPO4(2g/L)、(NH4)2SO4(1g/L)、酵母エキス(10g/L)、痕跡量の元素溶液(1ml/L)およびグルコース(10g/L)の水溶液からなる培地中で増殖させた。この培地は250mL三角フラスコ当たり25mLに調製し、pH6.0(真菌および酵母の場合)およびpH7.0(細菌の場合)に調整し、次いで121℃で20分間滅菌した。痕跡量の元素溶液はCaCl2.2H2O(3.6g/L)、CoCl2.6H2O(2.4g/L)、CuCl2.2H2O(0.85g/L)、FeCl3.6H2O(5.4g/L)、H3BO4(0.3g/L)、HCl(333mL(濃HCl)/L)、MnCl2.4H2O(2.0g/L)、Na2MoO4.2H2O(4.8g/L)およびZnO(2.0g/L)からなった。各菌株のグリセロール原液100μLを各フラスコ中に接種し、25℃でNew Brunswickの調整
環境インキュベーターシェーカー(モデルNo. G-25)中、250rpmで24〜72時間増殖させた。次いで各培養の10mL試料を遠心分離により収集し、ペレットを50mMのKH2PO4(pH7.0)4mL中に再懸濁した。
【0038】
シンチレーションバイアル中で860μLの50mM KH2PO4,pH7.0を40μLの50%w/vのN−ベンゾイルアゼチジン−2−カルボン酸メチルエステル(2.0gのN−ベンゾイル−2−アゼチジンカルボン酸メチルエステル,+2mLのH2O,+0.02gのトウイーン(Tween)80,15〜18μmで4℃において、10秒間オンおよび3秒間オフでの10分間超音波処理した)および前記のようにして増殖させた100μLの再懸濁培養と混合した。反応は25℃でNew Brunswickの調整環境インキュベーターシェーカー(モデルNo.G-25)中、250rpmで実施した。各試料を7日まで採取し、HPLCにより変換について分析した。すなわち、各試料を所望により希釈し、20μLを5cmのHypersil BDS C18カラム上に注入した。溶離バッファーは50%v/vのMeOH+1g/LのH3PO4であった。流速は分当たり1.5mLであり、検出は225nmで3分の実施時間であった。有意な加水分解を示す各反応に関して、エステルおよび生成物のe.e.を測定した。エステルのe.e.はGCにより測定した。各試料のpHをNaOHでpH9.5に調整し、酢酸エチル中に抽出し、MgSO4で乾燥し次いで25mの0.25mm CHIRASIL DEX CB カラム上に注入した。オーブン温度は分析中125℃に維持した。生成物のe.e.はHPLCにより測定した。各試料のpHをNaOHでpH9.5に調整し、酢酸エチル中に4回抽出してエステルを除去した。次いでpHをH3PO4で1.5に調整し、生成物を酢酸エチル中に抽出し、MgSO4で乾燥し次いで20μLを25cmのChiralcel ODカラム上に注入した。溶離バッファーは92:8:1のヘプタン:プロパン−2−オール:トリフルオロ酢酸であった。流速は分当たり1.0mLであり、検出は254nmであった。用いた菌株の中で、1種のアスペルギルス・タマリイ−CMC3242は初期スクリーンで、48時間の生物変換後に添加基質の30%変換を達成した。残留エステルは99%より大きいe.e.を有する(R)−エナンチオマーであり、そして生成物は74%より大きいe.e.を有する(S)−エナンチオマーであることが示された。アスペルギルス・タマリイ−CMC3242菌株は、ブダペスト条約により1997年7月8日、International Mycological Institute(Egham,英国)に寄託され、受託No. IMI 375930を得ている。
【0039】
〔実施例6〕
アスペルギルス・タマリイ−CMC3242の発酵
胞子懸濁液接種物の調製には、アスペルギルス・タマリイの培養をPDAプレート(121℃で20分間滅菌し、50℃に冷却し、140mmペトリ皿中に注いだ39g/Lの馬鈴薯デキストロースアガー(Oxoid CM 139)上に拡散培養し、25℃で7日間インキュベートした。次いでアスペルギルス・タマリイの胞子を滅菌性(121℃で20分間滅菌した)の10%w/vのグリセロール+0.1%w/vのトウイーン80中に再懸濁した。1mLの各試料を2mLクリオバイアル中に等分し、−80℃で保存した。発酵槽にはKH2PO4(7g/L)、K2HPO4(2g/L)、(NH4)2SO4(1g/L)、MgSO4.7H2O(1g/L)、痕跡量の元素溶液(1ml/L)、ポリプロピレングリコール(1mL/L)、酵母エキス(20g/L)およびスクロース(20g/L)の培地を使用した。この培地は発酵槽当たり1.5Lの最終容量に調製し、pHを6.0に調整し、次いで滅菌した(121℃で60分間)。スクロースは50%w/v溶液として別個に滅菌し、冷却後に発酵槽に加えた。この発酵槽に1mLの胞子懸濁液を接種した。温度を25℃に維持し、pHを5.8〜6.2に調整した。撹拌は1000rpmであり、空気速度は1.0L/分に設定した。48時間後に発酵槽に100mLの34%w/vスクロース,+100mLの34%w/v酵母エキス,+1.7g/Lの(NH4)2SO4(121℃で60分間別個に滅菌された)からなる供給物を加えた。72時間の増殖後に、発酵生産物をろ過により収集し、細胞ペーストとして−20℃に保存した。250gの全湿潤バイオマスを集めたところ、細胞のg当たり41.7Uの活性を有した(1U=1時間で生産される生成物1mg)。
【0040】
〔実施例7〕
アスペルギルス・タマリイによるN−ベンゾイルアゼチジン−2−カルボン酸メチルエス
テルの全細胞生物変換および(S)−アゼチジン−2−カルボン酸の単離
凍結細胞ペースト(50g)を200mLの0.1M Na2HPO4/NaH2PO4バッファー、pH6.4中に溶かした。これらの細胞を乳鉢および乳棒を用いて粉砕した。ラセミ体のN−ベンゾイルアゼチジン−2−カルボン酸メチルエステル100gを反応混合物に加え、その容量を200mLの0.1M Na2HPO4/NaH2PO4バッファー、pH6.4で1000mLにした。反応を25℃で実施し、pHを6.4に調整した。さらに別の50gの細胞を4.5時間後に加えた。12時間後に、生物変換ブロスをセライト(Celite)パッドでろ過した。残留物をジクロロメタン(500mL)で洗浄し、二相ろ液を分配し、その水溶液をさらに別のジクロロメタン(4×750mL)で抽出した。合一したジクロロメタン溶液をブライン(200mL)で洗浄し、乾燥し(MgSO4)、ろ過し、次いで溶媒を真空中で蒸発させてオレンジ色の油状物(56.1g、56.1%回収率、54%e.e.)を得た。最初の水溶液を酸性化し(pH2,濃HCl)、再びジクロロメタン(3×750mL)で抽出した。有機(軽く乳化されている)溶液をそれぞれに分離し、合一した。これらの合一した抽出物を放置(1時間)して完全に分離し、次いで分離漏斗に入れた。有機層をブライン(100mL)で洗浄し、乾燥し(MgSO4)、ろ過し、次いで溶媒を真空中で蒸発させて半結晶固形物(33.7g;36%収率;94%e.e.)を得た。この半結晶酸(33g)を酢酸エチル(75mL)中で室温において全体で20分間撹拌し、白色固形物(18g;55%収率;>99%e.e.)を吸引ろ過により集めた。ろ液を蒸発乾固し、第2群の生成物(2g;6%収率;>99%e.e.)を単離した。1H NMR(CDCl3)は生成物の構造に一致した。
【0041】
(S)−N−ベンゾイルアゼチジン−2−カルボン酸(5.90g;28.78mmol)を水(92mL)中の水酸化ナトリウム(6.92g;0.173mol)の溶液中に室温で撹拌しながら溶解した。反応混合物を75℃に22時間加熱し、次いで放置して室温に冷却させた。その反応混合物をpH2に調整し(濃HCl)、酢酸エチル(3×100mL)で抽出した。次いでその水溶液を蒸発乾固して白色固形物(13g)を得た。これを無水エタノール(150mL)中、50℃で1時間スラリー状にし、次いで放置(約1時間)して室温に冷却させた。その塩を吸引ろ過により除去し、エタノール溶液を蒸発乾固して白色固形物(1.85g,47%収率)を得た。単離物を水(100mL)中に再溶解し、アンバーライトIRA-67イオン交換樹脂(5g)とともに30分間撹拌することにより(pH7.1に)中和した。樹脂を吸引ろ過により除去し、ろ液を蒸発乾固して僅かに灰色がかった白色の固形物(1.38g;定量収率)を得た。この灰色がかった白色の固形物を還流MeOH(10mL)で5分間スラリー状にし、放置して室温に冷却させ、精製した生成物(905mg;31%収率;98%e.e.)を吸引ろ過により集めた。1H NMR(D2O)は生成物の構造に一致した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エナンチオ特異性を示す酵素によるラセミ体のN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸エステルの生物変換からなる、エナンチオマーに富むN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸を得る方法であって、上記エナンチオ特異性を示す酵素がカンジダ・アンタルクチカのリパーゼまたはアスペルギルス・タマリイのエステラーゼに特有の性質を有する場合を除き、上記N−アシル基が線状もしくは環状アルカノイル基または場合により置換されたベンゾイル基である場合を除き、そして上記エステルがフェニルまたは線状もしくは環状C1-6アルキルエステルである場合を除く、上記方法。
【請求項2】
酵素が(S)−エステルに関してエナンチオ特異性を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
N−アシルアゼチジン−2−カルボン酸のエナンチオマー富化が、その後引き続き溶媒からの結晶化により増加されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
溶媒が酢酸エチルであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
望ましくないエナンチオマーのラセミ化をさらに含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ラセミ化を塩基での処理を介して行うことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
塩基がナトリウムメトキシドであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法、それに続くエナンチオマーに富むN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸の脱アシル化を含むエナンチオマー的に純粋なアゼチジン−2−カルボン酸の製造方法。
【請求項9】
脱アシル化をアルカリの存在下での加水分解により行うことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
アルカリがアルカリ金属水酸化物であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
アゼチジン−2−カルボン酸が(S)−アゼチジン−2−カルボン酸であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ラセミ体のN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸エステルの、エナンチオマーに富むN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸への生物変換におけるエナンチオ特異性を示す酵素の使用であって、上記エナンチオ特異性を示す酵素がカンジダ・アンタルクチカのリパーゼまたはアスペルギルス・タマリイのエステラーゼに特有の性質を有する場合を除き、上記N−アシル基が線状もしくは環状アルカノイル基または場合により置換されたベンゾイル基である場合を除き、そして上記エステルがフェニルまたは線状もしくは環状C1-6アルキルエステルである場合を除く、上記使用。
【請求項13】
その方法が試験酵素の存在下でのラセミ体のN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸エステルの試みの生物変換およびエナンチオマーに富むN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸が生成されるかどうかの測定からなる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法で使用するための酵素の選択方法。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法での請求項13記載の方法により得られる酵素の使用。

【公開番号】特開2009−22270(P2009−22270A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132899(P2008−132899)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【分割の表示】特願平10−505754の分割
【原出願日】平成9年7月15日(1997.7.15)
【出願人】(391008951)アストラゼネカ・アクチエボラーグ (625)
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
【Fターム(参考)】