説明

N−アシル化合物の製造

アシル化された窒素原子を有する化合物は、該化合物のN−プロトン化された付加物が塩化物−アニオン、臭化物−アニオン又はヨウ化物−アニオンと、又は遊離窒素−塩基がハロゲン化アシル、好ましくは塩化アシルと、遊離されたHCl、HClもしくはHIを追い出す酸の存在で反応されることによって、製造されることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−アシル化された化合物の製造方法に関する。
【0002】
カルボン酸塩化物でのアミンのアシル化は公知反応である、Methoden der organischen Chemie (Houben-Weyl), 第4版 (1958), XI/2巻、10及び11並びに30〜34頁参照。反応の際に塩化水素が脱離され、この塩化水素はもう一つのアミン分子とアミン塩酸塩の形成下に結合される。それにより、前記アミンの半分は遊離された塩酸の結合のために消費される。アミンを完全にアミドへ変換しようとする場合には、遊離する塩化水素が他の方法で、例えば微細に粉末化されたアルカリ金属炭酸塩の添加により、結合されなければならない。選択的に、酸を結合する薬剤としてピリジンが添加されることができる。引用された前記教本の34頁に、塩化アセチルが確かにアミンにとって強力に作用するアセチル化剤であるが、しかしながら無水酢酸よりもあまり頻繁に使用されない、それというのも、無水酢酸がより快適に取り扱われることができ、かつほぼ常に目的が達せられるからであるという所見が見出される。本発明の課題は、窒素原子のアシル化を伴う化合物の単純化された製造方法を記載することである。この課題は、本発明による方法により解決される。
【0003】
本発明による方法は、アシル置換された窒素原子を有する化合物の製造を含んでおり、出発化合物は、塩化物−アニオン、臭化物−アニオン又はヨウ化物−アニオンを有するN−プロトン化された付加物の形での対応する窒素化合物及びハロゲン化アシルであり、その場合にハロゲン化アシルは好ましくは塩化アシルであり;その場合にアシル化は、使用されるアシル基に対応するカルボン酸の存在で実施される。前記窒素原子は、プロトンに加えて少なくとも1つの別の水素原子を有していなければならず;選択的に遊離窒素塩基から出発されるが、しかしその場合に少なくとも1つの水素原子が窒素原子に結合されていなければならない。“アシル”という概念は、基RC(O)を表し、ここでRは次のものを表す:炭素原子1〜6個を有する線状又は分枝鎖状のアルキル;フェニル;1つ又はそれ以上のハロゲン原子により置換されており、炭素原子1〜6個を有する線状又は分枝鎖状のアルキル;又は1つ又はそれ以上のハロゲン原子により置換されているフェニル。好ましくはアシルはハロゲンアシル、特にトリフルオロアセチル、ジフルオロアセチル、クロロジフルオロアセチル、CC(O)、CHFC(O)又はCClFC(O)を表す。極めて特に好ましくはトリフルオロアシル化が実施され、かつ対応する酸はトリフルオロ酢酸である。
【0004】
原則的には、任意の窒素化合物、例えばアミン又はそれらのハロゲン化水素酸塩付加物又はカルボン酸アミドがアシル化されることができる。本発明による方法を用いてアシル化される好ましい窒素化合物は、アミノ酸又はそれらの誘導体、例えばエステル又はペプチドである。極めて特に好ましくは、特にトリフルオロアセチル基を有する、N−アシル化されたアミノ酸エステル又はペプチドの本発明による製造方法が使用される。ここでも、ハロゲン化水素酸塩付加物、好ましくは塩酸塩、又は遊離窒素原子を有する化合物が使用されることができる。
【0005】
本発明による方法を用いて、例えばそれ自体として又は化学合成において有用であるアシルアミドが製造されることができる。市販製品であるトリフルオロアセトアミドは、例えば化学合成において使用されることができる。
【0006】
アシル基又はハロゲンアシル基の導入は、保護基としての性質の見地に立っても、特に化学合成において、窒素原子のために興味深い。特にトリフルオロアセチル基は公知の保護基である、例えば米国特許第5,541,206号明細書、第6欄参照。
【0007】
極めて特に好ましくは、本発明による方法は、アミノ酸及びそれらの誘導体、特にエステル、並びにペプチド、のアシル化、特にトリフルオロアシル化に使用される。
【0008】
極めて好適であるのは、N−トリフルオロアセチル−L−フェニルアラニンアルキルエステル、N−トリフルオロアセチル−D−フェニルアラニンアルキルエステル及びN−アシル−リシン−アルキルエステル(ω−アミノ基)、特にメチルエステル及びエチルエステル、の製造のための使用である。特にトリフルオロアシル基での、アシル化は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、プロリン、ヒドロプロリン、セリン、トレオニン、システイン、シスチン、メチオニン、トリプトファン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン及びヒスチジン、のエステル、特にアルキルエステル、殊にメチルエステル及びエチルエステルが可能である。
【0009】
フェニルアラニン−化合物は、例えば米国特許第5,541,206号又は同第4,816,484号明細書に挙げられた化合物の製造の際の、有用な中間生成物である。
【0010】
本発明により得られるアシル化された化合物の単離は常法により行われることができる。特に化合物の凝固のための、極めて好適な一方法は、出願整理番号PCT/EP 03/02453を有するまだ公開されていない国際特許出願明細書に記載されている。不純物を含有する反応混合物並びに融点>30℃を有する有機化合物は、不純物を蒸発除去するために加熱される。残留している有機化合物はついで冷却された移動ベルト(Laufband)上に装填される。そのような方法は、当該方法の場合に得られる化合物のためにも使用されることができる。
【0011】
本発明は、塩酸塩が生じず、かつ取り除かれる必要がないという利点を有する。
【0012】
本発明は次の例に基づいてさらに説明される。
【実施例】
【0013】
省略形:
MeOH=メタノール
MeOHHCl=メタノール及びHClの溶液
TFA=トリフルオロ酢酸
TFAC=トリフルオロアセチルクロリド
例1:
フェニルアラニンからのL−フェニルアラニンメチルエステル−塩酸塩の製造
【0014】
【化1】

【0015】
バッチ:
61.6mol(1973.66g) MeOH(32.04g/mol)
9.8mol(352.8g) HCl(36.0g/mol)
3.05mol(503.83g) L−フェニルアラニン(165.19g/mol)
1.0mol(103.0g) ジイソプロピルエーテル(102.18g/mol)。
【0016】
実施:
4l−多口フラスコ(Mehrhalskolben)中に、溶剤中のフェニルアラニンを装入し、前もって製造されたMeOHHCl−溶液と混合し、溶液にした。バッチを、より良好な溶液にするために50℃に加温し、約5分間、還流加熱した(約55℃)。引き続いて、過剰のMeOH及びHClを留去するために、真空を適用した。バッチが濁り(eintruebte)、より粘稠になり、白色フロックが形成するまで蒸留した。放置後に、沈殿したフェニルアラニン−メチルエステル×HClを吸引濾過した(abgenutscht)。純度は99.4%(GC)であり、融点160℃であった。
【0017】
出発物質としてD−又はD/L−フェニルアラニンを用いて試験を繰り返すと、匹敵しうる試験結果となった。
【0018】
例2:
L−フェニルアラニンメチルエステル−塩酸塩のトリフルオロアシル化
【0019】
【化2】

【0020】
バッチ:
2.0mol(435.2g) 例1からのL−フェニルアラニンメチルエステル−塩酸塩(215.68g/mol)
7.8mol(889.36g) トリフルオロ酢酸(114.02g/mol)
2.6mol(350.5g) トリフルオロ酢酸アセチルクロリド(132.47g/mol)。
【0021】
実施:
4l−多口フラスコ中にL−フェニルアラニンメチルエステル(HCl−付加物として存在していた)を装入し、TFA中に溶解させた。溶解過程の間にバッチを既にゆっくりと90℃に温度調節した。その際に既にHClが遊離し;バブルカウンター上で激しいガス発生によってわかる。エステルの完全な溶解及び温度の到達後に、ついでTFACを導通させ、その際に依然として多量のHClが遊離した。
【0022】
TFACを、全てのエステルがN−トリフルオロアセチル−L−フェニルアラニンメチルエステルに変換するまで導通させた。溶剤TFAを真空中で除去し、冷却後に、融点52℃及び理論の95%の収率を有するN−トリフルオロアセチル−L−フェニルアラニンメチルエステルが残留した。試験変法において、溶融した塊状物を、冷却したベルト上に導いた。これは、良好に取り扱い可能な生成物としての易流動性(leicht schuettbaren)ペレットとなった。
【0023】
例3:
例1からのD−フェニルアラニンメチルエステルHCl及びD/L−フェニルアラニンメチルエステルHClのトリフルオロアセチル化
例2を、例1からのD−フェニルアラニンメチルエステル*HCl及びD/L−フェニルアラニンメチルエステルHClの使用下に繰り返した。試験結果は、例2の結果に相当していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチル化された窒素原子を有する化合物の製造方法であって、
アシルがRC(O)を表し、かつRが次の意味:炭素原子1〜6個を有する線状又は分枝鎖状のアルキル;フェニル;1つ又はそれ以上のハロゲン原子により置換されており、炭素原子1〜6個を有する線状又は分枝鎖状のアルキル、又は1つ又はそれ以上のハロゲン原子により置換されているフェニルを有し、ハロゲン化アシルと、N−プロトン化されており、かつアシル化すべき窒素原子上に少なくとも1つの別の水素原子を有し、かつ塩化物−アニオン、臭化物−アニオン又はヨウ化物−アニオンとして存在するか又は遊離塩基の形の対応する窒素化合物とから、酸強度が形成されたハロゲン化水素を反応混合物から追い出すのに十分である酸の存在で、アセチル化された窒素原子を有する化合物を製造する方法。
【請求項2】
ハロゲンアシル−窒素基を有する化合物を製造し、その際にハロゲンアシルトリフルオロアセチル、ジフルオロアセチル、クロロジフルオロアセチル、CC(O)、CHFC(O)又はCClFC(O)を意味する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ハロゲンアシル基に対応するハロゲンカルボン酸の存在で反応させる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
アミノ酸、それらの誘導体、好ましくはアミノ酸エステル、又はペプチドをアシル化する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
トリフルオロアセチル化合物をトリフルオロ酢酸の存在で製造する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
L−フェニルアラニンアルキルエステル、D−フェニルアラニンアルキルエステル又はリシンアルキルエステルのN−トリフルオロアセチル化合物を製造する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
メチルエステル又はエチルエステルを製造する、請求項6記載の方法。

【公表番号】特表2007−505059(P2007−505059A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525671(P2006−525671)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009248
【国際公開番号】WO2005/028420
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(592165314)ゾルファイ フルーオル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (55)
【氏名又は名称原語表記】Solvay Fluor GmbH
【住所又は居所原語表記】Hans−Boeckler−Allee 20,D−30173 Hannover,Germany
【Fターム(参考)】