説明

NCAM機能を調節するためのポリ−α2,8−シアル酸模倣ペプチドの使用

【課題】PSA-依存性NCAM機能を特異的に調節するための、ならびに神経変性疾患、脳および脊髄の損傷、加齢性の学習および記憶の問題および癌の治療のためのポリ-α2,8-シアル酸(PSA)模倣ペプチドの提供。
【解決手段】5〜30アミノ酸残基、好ましくは9〜15、最も好ましくは約12アミノ酸残基からなるペプチドの、神経変性疾患、脳および脊椎の損傷、加齢性の学習および記憶の問題ならびに癌の予防および/または治療のために投与されるNCAM機能の調節用の医薬の製造のための使用。該ペプチドは、抗-ポリ-α2,8シアル酸(PSA)抗体により認識されるNCAMに結合したポリ-α2,8シアル酸のBエピトープを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ-α2,8-シアル酸 (PSA)模倣ペプチド(mimetic peptide)の、インビトロおよびインビボでのPSA-依存性NCAM機能を特異的に調節するための使用、ならびに神経変性疾患、脳および脊髄の損傷、加齢性の学習および記憶の問題および癌の治療のためのそれらの適用に関する。
【背景技術】
【0002】
他の細胞との細胞表面相互作用を修飾する、ニューロンおよびグリア細胞を含む細胞の能力は、神経組織の発達、リモデリングおよび修復、ならびに腫瘍の形成および転移に重要な要素である。このような過程におそらく関係する多くの候補分子のうち、従来にはない(unconventional)炭化水素ポリマーであるポリ-α2,8-シアル酸(PSA)を持つ、IgGスーパーファミリーのメンバー、神経細胞接着分子(NCAM)のイソ型は特に興味深い。
【0003】
PSAは、α2,8結合した負に帯電したN-アセチルノイラミン酸(シアル酸)残基のポリマーである。NCAMが持つ単一PSA鎖は、通常、少なくとも30の繰返し単位からなり、鎖長は種々の起源から単離されたNCAMにおいて実質的に多様である(von Der Oheら、Glycobiology、2002、12、47〜63;Rougonら、Eur. J. Cell. Biol.、1993a、61、197〜207)。これと比較すると、髄膜炎菌(Neisseria meningitides) グループBおよびイー・コリ(E. coli) K1のような細菌の莢膜において見出されるポリ-α2,8-シアル酸は、約200の繰返し単位のより長いポリマーを形成する。NMR顕微鏡法を用いた研究は、PSAが溶液中で8以上の近接するシアル酸単位からなるらせん構造を有することを示している(Rougonら、1993a、前出;Yamasakiら、1991)。PSAは、多くの水和された容積および高い負電荷密度を有するので、接着力を弱め、かつ全体の細胞表面相互作用を負に調整するのに良好に配置される(Rutishauserら、Science、1988、240、53〜57)。NCAMのスプライスされた全ての既知の他のイソ型は、第5番目のIg様ドメインでポリシアル化されることができ(Rougonら、1993a、前出)、NCAMは、神経系において明確に同定された唯一のポリシアル酸のキャリアーである(Rougonら、J. Cell. Biol.、1986、103、2429〜2437)。PSAとNaチャネルのα鎖との関係を説明したある報告(Zuberら、J. Biol. Chem.、1992、267、9965〜9971)があるが、NCAMノックアウトマウスにおけるPSA免疫反応性の不在(Cremerら、Nature、1994、367、455〜457)は、NCAMが、脊椎動物の脳における、PSAの唯一でなければ主要なキャリアーであることを示唆する。
【0004】
PSAのNCAMへの結合(attachment)は、発達的に調整されるプロセスである。高PSA含量のNCAMは、細胞移行、シナプス発生ならびに軸索の成長および分枝のような発達の間の形態形成的変化と関連するが、成人の脳では、NCAMのシアル化に乏しい形が優位を占める(Rougonら、Polysialic Acid、1993b、Roth J.R.、Rutishauser U.およびTroy F. A.編、Birkhauser-Verlag: Basel、323〜333;Rutishauserら、1998、前出;Edelmanら、Annu. Rev. Cell. Biol.、1986、2、81〜116)。しかしながら、PSA-NCAMは、高い程度の可塑性を示す成人の脳構造中に存続する(Rougonら、1993a、前出)。例えば、PSA-NCAMは、活性誘導シナプス可塑性の2つの必須の形、長期増強(long-term potentiation (LTP))および長期抑圧(long-term depression (LTD))に必要であり、これらは学習および記憶の中心であり、かつ発達の間に活性依存型パターン形成であると考えられている(Mullerら、Neuron、1996、17、413〜422)。実際に、NCAM突然変異マウスから調製された海馬組織は、LTPおよびLTDについての能力が大きく減少されたことが示され、この欠損は、NCAMのPSA部分の酵素分解により模倣することができる。これらの知見は、NCAMタンパク質よりもむしろPSAが可塑性に必要であることを示す。視床下部−神経下垂体系でおこる形態的可塑性(Theodosisら、J. Neurosci.、1999、19、10228〜10236)は、エンドノイラミニダーゼのインビボ注入がそれを妨げるので、PSAの存在にも依存する。
【0005】
PSA-NCAMは、筋再生、軸索再生および脳腫瘍(Figarella-Brangerら、Cancer Res.、1990、50、6364〜6370;Duboisら、Neuromuscul. Disord.、1994、4、171〜182;Aubertら、Comp. Neurol.、1998、399、1〜19;Mullerら、Neuroscience、1994、61、441〜445)または脳の神経変性疾患(Le Gal La Salleら、J. Neurosci.、1992、12、872〜882)のようないくつかの病理の状況において再び発現する。これらの知見に基づいて、PSA-NCAMは、形態形成および組織リモデリングに必要な細胞表面相互作用における動的変化のための重要な許容因子であることがわかってきた(Rougonら、1993b、前出;Figarella-Branger、1993;Rutishauser、Development、1992、99〜104)。
【0006】
神経性および内分泌性の特徴を有する多くの腫瘍は、PSA-NCAMを発現した。例えば、PSA-NCAMは、神経芽腫および髄芽腫(Figarella-Brangerら、前出)、肺の小細胞癌(Patelら、Int. J. Cancer、1989、44、573〜578)および横紋筋肉腫で検出され、これらの腫瘍の侵襲および転移の能力におそらく関係している(Rougonら、1993b、前出)。最近、転移のヌードマウスモデルへのノイラミニダーゼの注射が、原発腫瘍でのPSAの除去を示し、転移を遅らせた(Danielら、Oncogene、2001、20、997〜1004)。
【0007】
つまり、PSA-NCAM分子、より正確には炭化水素PSAは、可塑性および脳の損傷の後の機能的回復を促進するか、または転移の形成を予防する将来の治療のアプローチの可能性のあるターゲットの一つである。
【0008】
よって、PSA機能を調節するいくつかのストラテジーが開発されている:
- 遺伝的操作:NCAMまたはポリシアリルトランスフェラーゼノックアウトマウス(Cremer
ら、前出):このストラテジーは治療のための展望を開いていない、
- 酵素的分解:エンドノイラミニダーゼ(Theodosisら、前出;Danielら、前出):そのサ
イズが大きいことおよびインビボでの拡散が制限されていること、ならびに免疫応答を誘発する可能性のために、この治療的な可能性はむしろ限定される、
- 抗-PSAモノクローナル抗体(Monnierら、Developmental Biology、2001、229、1〜14);その抗体の性質のために、この治療的な可能性はむしろ制限される、
- 細菌の莢膜から単離したPSAアナログであるコロミン酸;酸性pHでのその不安定性、ならびに純度および均質性の点でその厳密な組成を調節する(バッチ毎のシアル酸の鎖長の較正)のが不可能であることから、この治療的な可能性はむしろ制限される、
- インビトロでのPSA生合成を阻害し得る小分子であるN-ブタノイルマンノースアミン (ManBut) (Mahalら、Science、2001、294、380〜382);その活性はインビボでは証明されていない。
【0009】
しかしながら、現在まで、PSAの作用機構または機能を解明するのに用いられてきたこれらのストラテジーは、インビボでPSAの機能を調節し得る新規の薬物の発見に導いていない。
よって、インビボで特異的にPSA-依存性NCAM機能を調節し得る新規の分子に対する必要性があり、これは脳または脊髄の損傷後の可塑性および機能的回復を促進するか、または転移を予防するための医薬組成物として用いることができる。
【0010】
髄膜炎菌グループBのPSA-特異的エピトープを含む細菌からの炭化水素エピトープの分子模倣物(mimetic)を提示するペプチドが、これらの微生物に対して安全で効果的なワクチン候補を開発する観点で記載されている(Shinら、Infection and Immunity、2001、69、3335〜3342);Shinらに開示の髄膜炎菌グループB PSA-特異的ペプチドは、脊椎動物細胞(ニューロン)のPSAエピトープとは異なるエピトープを提示し、よって該ニューロンのPSA (NCAM に結合したPSA)に結合し、かつ神経性の損傷を引き起こし得る抗体を誘導しない。さらに、Shinらは、NCAM結合PSAエピトープ(PSA-attached to NCAM epitope)の模倣物を提示するペプチドを2つ(DHQRFFV (配列番号31)およびAHQASFV (配列番号32))しか開示しておらず、これらは髄膜炎菌グループBのPSA模倣ペプチドの特異性を証明するためのコントロールとして用いられている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、NCAM結合PSAエピトープの分子模倣物である他のペプチドを単離し、これらのPSA模倣ペプチドが、インビボで、PSA-依存性様式で、通常はNCAMのポリシアリル化により影響される細胞のプロセスを調節(増強または阻害)することができることを証明している。例えば、本発明者らは、PSA模倣ペプチドの、インビボでの、軸索の成長、誘導および束形成ならびにニューロンの遊走に対する有意な影響を証明している。さらに、PSA模倣ペプチドの投与は、脊髄損傷後の機能的回復をもたらし、損傷部位での反応性グリオーシスの減少も伴っている。
【0012】
本発明の関係において、ポリ-α2,8シアル酸またはPSAとは、NCAMに結合したPSAを意味し、細菌の莢膜からのPSAのようなその他のPSAに対するものである。
【0013】
インビボにおいて低い投与量(μM濃度)で活性であり、かついずれの細胞毒性も示さないこれらのPSA模倣ペプチドは:
- 神経変性疾患の治療(パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、アルツハイマー病、多発性硬化症):これらは細胞治療のアジュバントとして有用である;PSA模倣ペプチドと組み合わせたニューロンの始原細胞(PSAを発現)の移植は、脳の損傷を受けた領域において始原細胞の遊走および軸索の成長(outgrowth)を有意に増強するであろう、
- 脳および脊髄の損傷の治療:これらは、軸索の生存および再生を増加させることにより、脳および脊髄の損傷後の機能的回復を促進するであろう、
- 加齢性の学習および記憶の問題の予防および治療:これらは、神経発生および/またはシナプス可塑性を増加させることにより神経系の可塑性を促進するであろう、
- 癌の治療:これらは、PSA発現腫瘍、例えば神経外胚葉の腫瘍からの細胞遊走を阻害することにより転移の形成を予防するであろう
に有用である。
【0014】
上記の治療的使用のほかにも、PSA模倣ペプチドは、炭化水素PSAの作用機構および未知の機能を解明するための相補的な道具として有用である。
【0015】
本発明は、5〜30アミノ酸残基、好ましくは9〜15、最も好ましくは約12アミノ酸残基からなるペプチドのNCAM機能の調節用の医薬の製造のための使用に関し、該ペプチドはNCAMに結合したポリ-α2,8シアル酸のBエピトープを含み、これは抗-ポリ-α2,8シアル酸抗体により認識される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、PSA-NCAM構造を図解する。
【図2】図2は、PSA模倣ペプチドp65およびp66の、インビトロでの神経突起の成長への影響を示す。
【図3】図3は、PSA模倣ペプチドp65のインビボにおける束形成および誘導に対する効果を示す。
【図4】図4は、リバースp65 ペプチド(A、D)、エンドシアリダーゼN (B,E)または模倣ペプチドp65およびp66 (C、F)の影響を示す。
【図5】図5は、p65模倣ペプチドの異なる形態(環状、直線状、直線状かつアセチル化)の、細胞遊走平均距離への、リバースp65コントロールペプチドと比較した影響を示す。
【図6】図6は、p65 模倣ペプチドの、ノックアウトマウス(NCAM -/-)または異型接合型マウス(NCAM +/-)での細胞遊走平均距離への影響を示す。
【図7】図7は、p65およびp21模倣ペプチドの、細胞遊走平均距離への影響を示す。
【図8】図8は、PSA模倣ペプチドp65の、細胞遊走へのインビボでの影響を示す。
【図9】図9は、脊髄損傷からの機能的回復を、p65ペプチドまたはコントロールとしてのp65リバースペプチドの注射後に、分析するのに用いるプロトコルを示す。
【図10】図10は、p65ペプチド(p65)またはコントロールとしてのp65リバースペプチド(Rev)注射後の、脊髄損傷からの機能的回復を示す。
【図11】図11は、脊髄損傷後の反応性グリオーシスの、p65ペプチドまたはコントロールとしてのp65リバースペプチドで処理したマウスにおける減少を示す。
【図12】図12は、環状模倣ペプチドの結合特異性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
「抗- PSA抗体により認識されるBエピトープ」とは、特異的および選択的に、インビトロおよびインビボで、抗原としてのポリ-α2,8シアル酸での刺激に応答して、リンパ細胞により産生される抗体のパラトープと反応するペプチドのことをいう。例えばAntibodies: A Laboratory Manual, E. HowellおよびD Lane、Cold Spring Harbor Laboratory、1988に記載のようなプロトコルに従って標準の技法により調製された抗-PSA抗体は、当該技術においてよく知られている。これらは、限定されないが、モノクローナル抗体735 (Froschら、P.N.A.S;1985、82、1194〜1198)、30H12 (Coquillatら、Infect. Immun.、2001、69、7130〜7139)またはMenB (ABCYS AbC0019;Rougonら、J. Cell. Biol.、1986、103、2429〜2437)を含む。
【0018】
本発明は、直線状および環状のペプチドの使用を含む。本発明により定義される好ましい環状ペプチドは、ペプチド鎖のあるアミノ酸の側鎖がペプチド鎖の別のアミノ酸の側鎖に、2つのシステイン残基の間のジスルフィド結合のような共有結合の形成を介して共有結合しているペプチドを含む。
【0019】
本発明により定義されるペプチドとは、次の活性を有するペプチドのことをいう。
- 抗体結合活性:これらは、抗-PSAモノクローナルまたはポリクローナル抗体により特異的に認識される、および
- 生物学的活性:これらはPSA-依存性NCAM機能を調節(増強または阻害)する活性を有する。
【0020】
本発明において定義されるペプチドは、以下においてPSA模倣ペプチド、模倣ペプチドまたはペプチドと呼ぶ。特に明記しない限り、該ペプチドは直線状または環状のいずれかである。
模倣ペプチドの抗体結合活性は、当業者に公知の標準的なイムノアッセイにより確かめられる。例えば、100 %のペプチド結合は、10-4M以上の濃度で、2.5μg/ウェルの濃度の抗-PSA モノクローナル抗体を用いるELISAにおいて観察され、この抗体結合活性は、コロミン酸のようなPSAアナログにより特異的に阻害される。
【0021】
模倣ペプチドの生物学的活性は、標準的な細胞増殖および細胞遊走アッセイにより、インビボまたはインビトロで確かめられ、これらは当業者に公知である。例えば、異なる起源(後根神経節、小脳のニューロン、網膜など)からの一次ニューロン(primary neurons)についてのアッセイは、次の影響を示す:
- インビボおよびインビトロでの神経突起の長さの用量依存性での有意な増加、- インビボおよびインビトロでの軸索誘導についての有意な影響(軸索の脱束化(axons defasciculation))、ならびに
- 細胞遊走の有意な増加または阻害。
【0022】
さらに、公知の試験による脊髄片側切断からの機能的回復の研究を含む機能的アッセイ(BBB試験:Basso、BeattieおよびBresnahan試験;Bassoら、Restor. Neurol. Neurosci、2002、5、189〜218;ロータロッド(rotarod)試験)は、無関係のペプチドで処理した動物に比べて、有意な歩行運動(locomotor)および良好な運動の協調回復を模倣ペプチド処理動物において示す。
模倣ペプチドの生物学的活性は、エンドノイラミニダーゼを用いる酵素消化により特異的に阻害され、NCAMノックアウトマウスでは見られない。
【0023】
本発明の使用の有利な実施形態によると、該ペプチドは、それぞれDSPLVPFIDFHP、LWQPPLIPGIDF、QIEPWFTPEDFP、TRLAPLVFPLDY、SWLQMPWALVRT、EIHLRMIKQITI、WHLEYMWRWPRL、LIEQRLPKHILT、YETSSSRLLAYA、TLASQLSNTSAY、SDQGVNGSWSNP、WHNWNLWAPASPT、IKSPLTWLVPPD、SHLDLSTGHRTS、CYPLNPEVYHCG、CWPLSHSVIVCG、CSSVTAWTTGCG、CYMASGVFLCG、CWPLGPSTYICG、CSLIASMETGCG、CSKIASMETGCG、CYIGDPPFNPCG、CWPLGDSTVICG CPLRLAFTFGCGおよ
びCTRMSHGYWICGに相当する配列番号1〜12および14〜26の配列からなる群より選択される
配列を含む。
【0024】
本発明の使用の別の有利な実施形態によると、該ペプチドは配列WHWQWTPWSIQP (配列番号13)を含む直線状ペプチドである。
本発明の使用の別の有利な実施形態によると、該ペプチドは配列WHWQWTPWSIQP (配列番号13)を含む環状ペプチドである。
【0025】
本発明は、当初のペプチドの抗体結合活性および生物学的活性に実質的に影響しない1以上の修飾を含む、上記で定義されるようなペプチドのいずれの機能的派生物の使用も含む。
このような修飾は、例えばペプチド鎖中の1以上のアミノ酸残基の付加および/または欠失および/または置換、および/または1以上のアミド結合の非アミド結合による置き換え、および/または1以上のアミノ酸側鎖の異なる化学部分(chemical moiety)による置き換え、および/またはN-末端、C-末端もしくは1以上の側鎖の保護基による保護、および/または二重結合および/または環化および/または立体特異性の、アミノ酸鎖への、硬さ(rigidity)および/または結合親和性を増加するか、および/または酵素的分解に対するペプチドの耐性を増強するための導入を含む。全ての変形は当該技術において知られているので、当業者は本発明による他のペプチド/エピトープを製造し、試験し、同定し、かつ選択することができるであろうことを提示する。
【0026】
例えば、アミノ酸を等価なアミノ酸により置換することが可能である。本明細書において用いられる「等価なアミノ酸」は、当初のペプチド構造に属するアミノ酸の1つを、当初のペプチド構造の抗体結合活性および生物学的活性を変えずに置換し得るいずれのアミノ酸のことをいう。これらの等価なアミノ酸は、置換される当初のアミノ酸との構造的相同性、および本発明によるペプチドの標的細胞へのそれらの生物学的活性により決定され得る。説明のための例として、例えばロイシンのバリンまたはイソロイシンによる、アスパラギン酸のグルタミン酸による、グルタミンのアスパラギンによる、アスパラギンのリシンによるなどのような置換を行う可能性にも言及するべきである。これは、同じ条件下で逆の置換も許容されると理解される。L-型の残基をD-型の残基により置き換えるか、またはグルタミン(Q)残基のピログルタミン酸化合物による置き換えが可能な場合もある。
【0027】
好ましくは、該ペプチドは、配列番号1〜配列番号26からなる群より選択される配列からなる。
最も好ましくは、該ペプチドは:
- 配列番号1 (DSPLVPFIDFHP)を示す直線状ペプチド(以下、p21という)、および
- 配列番号18 (CSSVTAWTTGCG)または配列番号22 (CSKIASMETGCG)の位置1のシステイン残基の側鎖が、配列番号18または配列番号22の位置11のシステイン残基の側鎖にジスルフィド結合を介して共有結合している環状ペプチド(これらのペプチドは、以下、それぞれp65およびp66という)
からなる群より選択される。
【0028】
本発明の使用の別の有利な実施形態によると、該ペプチドは、別のペプチドもしくはペプチド以外の分子と会合しているか、および/または適切な支持体、例えばポリマー、脂質の小胞、マイクロスフェア、タンパク質などに組み込まれている。他のペプチドもしくはペプチド以外の分子および/または上記で定義されるような支持体は、模倣ペプチドが脳血流関門(brain-blood barrier)を横切ることを可能にするのが好ましい。
【0029】
ペプチドの溶解性、吸収、生物学的利用能、生物学的半減期を向上させるであろうこのような会合は、当業者に公知の技術を用いてつくられる。これは、限定されないが、共有結合(例えばアミド結合、ジスルフィド結合など)を介するか、またはキレート化、静電的相互作用、疎水的相互作用、水素結合、イオン-双極子相互作用、双極子-双極子相互作用もしくはこれらのいずれの組み合わせを介することができる。
【0030】
本発明の使用の別の有利な実施形態によると、該ペプチドは、共有結合または非共有結合により連結された、本発明による複数の同じまたは異なるペプチドを含む複合体に組み込まれている。
本発明の使用の別の有利な実施形態によると、該ペプチドは、蛍光マーカーのようなマーカーとの組み合わせで本発明によるペプチドの検出を促進する。
本発明の別の有利な実施形態によると、該ペプチドは融合タンパク質に含まれて、該ペプチドの発現を許容する。
【0031】
本発明の使用の別の有利な実施形態によると、該医薬は、神経変性疾患、脳および脊髄の損傷、加齢性の学習および記憶の問題からなる群より選択される病理の症状の予防および/または治療用である。
【0032】
本発明の使用の別の有利な実施形態によると、配列番号1〜12および14〜26の配列を含むかもしくはこれからなる直線状または環状ペプチド、および配列番号13を含む環状ペプチドからなる群より選択されるペプチド、あるいは上記で定義されるようなこれらの複合体は、癌の予防および/または治療用の医薬の製造のために用いられる。
【0033】
本発明で定義されるペプチドは、いずれの適切なプロセスにより製造することができる。好ましくは、組み込まれることとなる異なるアミノ酸残基の連続的連結による液相または固相での化学合成(液相でN-末端の端からC-末端の端へ、または固相でC末端の端からN-末端の端へ)により得られ、ここでN-末端の端および反応性側鎖は、予め従来の基によりブロックされている。固相合成については、Merrifield (J. Am. Chem. Soc.、1964、85、2149〜2154)により記載される技術を用いることができる。
【0034】
本発明により定義されるようなペプチドは、遺伝子工学技術により得ることもできる。典型的な例は、該ペプチドをエンコードする核酸配列を含む発現ベクターを含む宿主細胞を、ペプチドの発現に適する条件下で培養し、そして宿主細胞培養物からペプチドを回収することを含む。ペプチドは、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドとともに枠内で発現ベクター中にcDNAをクローニングすることにより、融合タンパク質に含まれ得る。代わりに、同一または異なるペプチドのマルチマーを、モノマーの多コピーをコードするか、または異なるモノマーをコードするポリヌクレオチドを発現することにより製造することもできる。
【0035】
さらに本発明は、配列番号13の配列を含む直線状ペプチドを除く、上記に定義されるようなペプチドまたはペプチド複合体を含む医薬に関する。
さらに本発明は、配列番号13の配列を含む直線状ペプチドを除く、上記に定義されるようなペプチドまたはペプチド複合体の有効量を、医薬的に許容される担体との組み合わせで含む医薬組成物に関する。
【0036】
本発明の医薬組成物の担体は、神経系に作用する薬物の非経口、髄腔内、経口、エアロソル、鼻腔または眼での投与のためのいずれのビヒクルであり得る。例えば、本発明による組成物は、髄腔内に投与され、これにより組成物の中枢神経系への直接の浸透が可能になる。代わりに、鼻を介して投与され、これによりエアロソル組成物が中枢神経系へ嗅神経を通って浸透することが可能になる。または眼の経路を介して、あるいはW.M. Pardridge、Peptide drug Delivery、Raven Press、N.Y.、1991に記載のようないずれのその他の適切な投与方法により投与される。
【0037】
組成物中のペプチドの量は、約0.1μM〜約10μMの範囲の濃度である。投与の好ましい頻度および有効投与量は、患者ごとに変動するであろう。
【0038】
本発明は、5〜30アミノ酸残基、好ましくは9〜15、最も好ましくは約12アミノ酸残基からなる上記で定義されるようなペプチドに関し、該ペプチドは、抗-ポリ-α2,8シアル酸(PSA)抗体により認識されるNCAMに結合したポリ-α2,8シアル酸のBエピトープを含むが、WHWQWTPWSIQP (配列番号13), DHQRFFV (配列番号31)およびAHQASFV (配列番号32)からなる
群より選択される配列を含む直線状ペプチドを除く。
【0039】
本発明は、本発明による上記のペプチドをエンコードするポリヌクレオチド、および該ポリヌクレオチドの相補物(complement)、ならびにそれらの少なくとも5ヌクレオチドの断片も提供する。
特に、本発明は、配列番号1〜12および配列番号14〜26のペプチドをエンコードするヌクレオチド配列を提供し、これは、遺伝コードの縮重(degeneration)に起因する、これらのペプチドをエンコードする全ての可能なヌクレオチド配列の例を含む。
本発明の核酸は、組換えDNA技術および/または化学的DNA合成の公知の方法により得ることができる。
【0040】
本発明は、本発明のペプチドをエンコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターも提供する。本発明のベクターは、本発明のペプチドをエンコードする配列が適切な転写および翻訳の調節要素の支配下に置かれている発現ベクターが好ましい。これらのベクターは、公知の組換えDNAおよび遺伝子工学の技術により得ることができ、かつ宿主細胞へ導入することができる。
【0041】
本発明は、本発明のベクター、好ましくは発現ベクターにより形質転換された原核または真核の宿主細胞も含む。
【0042】
本発明において定義されるペプチドは、次の利点を有する:
- インビボにおいて低い投与量(0.5μM濃度)で活性であり、
- インビボにおいて安定であり、
- 細胞外で作用するのでインビボにおいて非常に効果的であり、よってそれらの活性は細胞内部へ浸透するそれらの能力により制限されず、
- 毒性でなく、かつ
- 容易に大量生産できる。
【0043】
本発明を、以下に続く追加の説明および図によりさらに説明するが、これらは本発明によるPSA模倣ペプチドの単離、結合特異性および生物学的効果を説明する実施例に言及する。しかし、これらの実施例は、本発明の説明のためにのみ与えられており、本発明を限定するものではないと解されるべきである。
【0044】
- 図1は、PSA-NCAM構造を図解する。
- 図2は、PSA模倣ペプチドp65およびp66の、インビトロでの神経突起の成長への影響を示す。マウスの後根神経節の外植片(E13,5)を、BSAコンジュゲート(B、E)として、または可溶な形(C、F)でマイクロプレートを被覆したp65およびp66ペプチドの不在(A、D)または存在下で培養した。(G) 最長の神経突起の平均長に対する模倣ペプチドの効果の定量。*** P<0.001は、スチューデントのt検定を用い、コントロールと比較した。(H) 最長の神経突起の平均長の累積度数分布プロット。
【0045】
- 図3は、PSA模倣ペプチドp65のインビボにおける束形成および誘導(guidance)に対する効果を示す。E9の雛(chick)の全網膜をのせた調製物(A)およびDiI結晶の位置を示すその模式図(B)。ダッシュでできた方形は、そこから写真を撮影した領域を示す。矢印は眼裂のほうを指す。E3にリバースペプチド(C、F)またはp65ペプチド(D、G、E、H)を注入されたE9の雛の網膜の軸索。矢印の頭は、それらの束を離れてそれに垂直に走る軸索の例を示す。
【0046】
- 図4〜7は、模倣ペプチド(p65、p21、p66)、該ペプチドの異なる形態(環状、直線状、直線状かつアセチル化)、コントロールペプチド(リバースp65およびリバースp66およびp22)、またはエンドシアリダーゼNの存在下で培養された、通常のマウス(NCAM +/+)、異型接合性マウス(NCAM +/-)、またはノックアウトマウス(NCAM -/-)からの脳室下帯外植片(subventricular zone explants) (P1)について分析されたインビトロでの細胞遊走へのPSA模倣ペプチドの影響を示す。
【0047】
- 図4は、リバースp65 ペプチド(A、D)、エンドシアリダーゼN (B,E)または模倣ペプチドp65およびp66 (C、F)の影響を示す。(G)細胞遊走平均距離への模倣ペプチドの影響の定量。*** P<0.001は、スチューデントのt検定を用いてコントロールと比較した。(H)遊走の平均距離の累積度数分布プロット。(I)細胞遊走の平均距離へのp65ペプチドの用量依存性効果。
- 図5は、p65模倣ペプチドの異なる形態(環状、直線状、直線状かつアセチル化)の、細胞遊走平均距離への、リバースp65コントロールペプチドと比較した影響を示す。*** P<0.001は、スチューデントのt検定を用いてコントロールと比較した。
【0048】
- 図6は、p65 模倣ペプチドの、ノックアウトマウス(NCAM -/-)または異型接合型マウス(NCAM +/-)での細胞遊走平均距離への影響を示す。NCAM +/-マウスからのエンドN処理した細胞、およびリバースp65処理した細胞を、比較のために含む。*** P<0.001は、スチューデントのt検定を用いてコントロールと比較した。そして、
- 図7は、p65およびp21模倣ペプチドの、細胞遊走平均距離への影響を示す。エンドN処理した細胞およびコントロールペプチド(リバースp65およびp22)で処理したペプチドを、比較のために含む。*** P<0.001は、スチューデントのt検定を用いてコントロールと比較した。
【0049】
- 図8は、PSA模倣ペプチドp65の、細胞遊走へのインビボでの影響を示す:(A) 移植の略図。(B) p65ペプチドの存在下で移植されたマウスのRMS (Rostral Migration Stream)を示す切片の共焦点顕微鏡写真。矢印の頭は、GFPおよびPSA陽性細胞の例を示す。SVZ外植片(P1)を、リバースペプチド(C、D)、またはp65 ペプチド(E、F)の存在下に移植し、脳を、移植の3日後(C、E)または移植の4日後(D、F)に分析した。(G) p65ペプチドの、移植3日後に嗅球に到達するGFP陽性細胞の数への影響の定量。* P<0.05は、スチューデントのt検定を用いてコントロールと比較した。
【0050】
- 図9は、脊髄損傷からの機能的回復を、p65ペプチドまたはコントロールとしてのp65リバースペプチドの注射後に、分析するのに用いるプロトコルを示す。
- 図10は、p65ペプチド(p65)またはコントロールとしてのp65リバースペプチド(Rev)注射後の、脊髄損傷からの機能的回復を示す。A:Basso、BeattieおよびBresnahan試験(BBB試験)。B:ロータロッド試験。p65についてn = 11、およびRevについてn = 8。*** P<0.01、** P<0.01、* P<0.05は、スチューデントのt検定を用いてコントロールと比較した。
【0051】
- 図11は、脊髄損傷後の反応性グリオーシスの、p65ペプチドまたはコントロールとしてのp65リバースペプチドで処理したマウスにおける減少を示す。
A:抗-GFAPおよび抗-PSA抗体を単独または組み合わせ(二重ラベリング)で用いる免疫蛍光分析。B:GFAP染色の定量。* P< 0.05は、スチューデントのt検定を用いてコントロールと比較した。
- 図12は、環状模倣ペプチドの結合特異性を示す。
- 図12A: 30H12抗-PSAモノクローナル抗体-被覆プレートを用いるELISA。番号1〜16は、表IVに示すペプチド配列に相当する。
- 図12B、12Cおよび12D:PSA-NCAM発現細胞への競合性結合。B:p65 (1 mM)またはp66 (1mM)のMenB抗-PSA抗体との予備インキュベーション。C:ペプチドなしの30H12抗-PSA抗体。D:p65 (1 mM)またはp66 (1 mM)の、30H12抗-PSA抗体との予備インキュベーション。
【0052】
実施例1:抗-PSAモノクローナル抗体を用いるペプチドライブラリのスクリーニング
1) 材料および方法
1.1) 材料
- ペプチド12マーファージディスプレイライブラリ
2つのライブラリをスクリーニングした。第一のライブラリ(12 (商標) ファージディスプレイペプチドライブラリ、NEW ENGLAND BIOLABS)は、M13-様ファージ粒子の表面に提示された12マーの直線状ペプチドを、pIIIマイナーコートタンパク質のN-末端への融合タンパク質として含む(5コピー/ファージ粒子)。ライブラリの分散(variance)は、一定の配列長で108〜109ペプチドまで異なる。
【0053】
第二のライブラリは、Feliciら(J. Mol. Biol.、1991、222、301〜301)に記載のようにして調製され、位置1および11でジスルフィド結合により連結された2つのシステイン残基を含む12マーの環状ペプチドを含み、M13様ファージ粒子の表面に、pVIIIメジャーコートタンパク質のN-末端への融合タンパク質として提示される(100コピー/ファージ)。ライブラリは、一定の配列長で約108ペプチドを含む。
【0054】
- 抗-PSAモノクローナル抗体 (mAb)
Antibodies:A Laboratory Manual、E. HowellおよびD Lane、Cold Spring Harbor Laboratory、1988に記載のような標準的技術により調製された抗-PSAモノクローナル抗体を用いる。例えばモノクローナル抗体735 (Froschら、P.N.A.S;1985、82、1194〜1198)、30H12 (IgG 2a;Coquillatら、Infect. Immun.、2001、69、7130〜7139)またはMenB (IgM;ABCYS AbC0019)を用い得る。
- プレート(Maxisorp(商標)、NUNC)
- チューブ(Maxisorp(商標)、NUNC)
- イー・コリ(E. coli) ER2537株 (NEW ENGLAND BIOLABS)
- 96 gIII配列決定プライマー(NEW ENGLAND BIOLABS):
5'-CCCTCATAGTTAGCGTAACG-3' (配列番号27)
【0055】
1.2) バッファー
- ブロッキング溶液:PBS中に0.5 % BSA
- コーティング溶液:PBS中に25μg/ml 抗-PSA mAb
- TBS:50 mM Tris-HCl pH 8.6、150 mM NaCl。
- TBST:0.1 %または0.5 % Tween 20を含有するTBS。
- PEG /NaCl:20 % (W/V)ポリエチレングリコール-8000、2.5 M NaCl。
- ヨウ化物バッファー:10mM Tris-HCl、pH 8.0、1 mM EDTA、4M NaCl。
【0056】
1.3) 方法
Maxisorp(商標)チューブを、コーティング液2 mlを用いて、+4℃で、緩やかな攪拌で、Ph.D. 12(商標) ファージディスプレイペプチドライブラリキット(NEW ENGLAND BIOLABS)の使用説明書に従ってインキュベートした。コーティング溶液を除き、新しい回のバイオパニングのための新しいチューブのコーティングに用いた。コートしたチューブを、ブロッキング溶液2 mlで1時間インキュベーションし、TBSTで6回洗浄した。チューブをファージ溶液(0.1 % Tween 20を含むTBST中に7.5 1010 pfu/ml) 2 mlで満たし、室温で1時間、緩やかな攪拌でインキュベートした。ファージ溶液の除去後、チューブをTBSTで10回洗浄した。結合したファージを、特異的にTBS 中の1 mM コロミン酸で1時間、または非特異的に、1 M Tris-HClで直ちに中和する0.2 MグリシンHCl (pH 2.2)で10分間のいずれかで溶出した。溶出物を、イー・コリER2537培養物(開始OD600:0.03) 20 ml中で、4.5時間、37℃で激しく振とうして増幅させた。培養物を10分間、10,000 rpmで、4℃にて遠心分離した。上清を新しいチューブに入れ、さらに10分間遠心分離した。PEG/NaCl溶液を上清に添加し(6容量の上清について1容量 PEG/NaCl)、ファージを一晩4℃にて沈殿させた。沈殿物を含む溶液を、15分間、10,000 rpmで4℃にて遠心分離した。上清をデカンテーションし、ペレットを1 ml TBSに懸濁し、1/6容量のPEG/NaClを用いて1時間、氷上で再沈殿させた。遠心分離後、ペレットを最後に200 ml TBS、0.02 % NaN3に懸濁した。
【0057】
増幅された溶出物をTBSTに溶解し、第二および第三回のバイオパニングを上記のようにして行い、第二回については、洗浄およびファージインキュベーションに0.1 % Tween 20を含むTBSTを用い、第三回ではその含量は0.5 %であった。
第三回からの非増幅溶出物は、次いでLB/IPTG/X-galプレート上で力価測定した。青いプラークをとり、ファージクローンを2 mlのイー・コリER2537培養物中で4.5時間、37℃で激しく振とうしながら増幅させた。10分間10,000 rpm、4℃で遠心分離後、上清を1/6容量のPEG/NaClと混合し、ファージを4℃で一晩沈殿させた。沈殿物を15分間、10,000 rpmで、4℃にて遠心分離した。ペレットを、TBS 100μlに懸濁した。この溶液から10μlを、一本鎖ファージDNAを沈殿させるためにヨウ化物バッファー100μlおよびエタノール250μlと混合した。10分間室温でインキュベーション後、溶液を10分間、15,000 rpmで遠心分離した。上清を捨て、ペレットを70 %エタノールで洗浄し、真空下に短く乾燥させた。ペレットを、ペプチド挿入物の自動配列決定のための配列決定プライマーを含む蒸留水10μl中に懸濁した(標準M13-40プライマーを用いる、Applied Biosystem 877/377でのBigDye Terminatorサイクルシーケンシング)。残りの一本ファージ溶液をELISA実験に用いた。
【0058】
2) 結果
3回のバイオパニングの後、次の配列を示すファージを単離した(表I、II、IIIおよびIV)。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
5つの直線状ペプチドは、3回のバイオパニング後に単離されたファージにおいて高い出現率(occurrence)を有する(表III)。
【0062】
【表3】

【0063】
GeneStream Alignホームページでの配列番号1の配列へのアラインメントは、配列類似性が配列番号2について42.9 %、配列番号3について30.8 %、配列番号4について28.6 %から、配列番号5について8.3 %まで変動することを示した。
環状ペプチドをディスプレイする34個のファージクローンは、3サイクルのバイオパニングの後に、用量依存性の様式で抗体に結合し、これらは同じアイソタイプの無関係(irrelevant)の抗体に結合しなかった。ELISA試験において最高の値を示すこれらのクローンの16個からのDNAを調製してシーケンスした(表IV)。3つのクローンが同じ配列(配列番号17)を示し、二量体モチーフWPが5つのクローンで見つかった。
【0064】
【表4】

【0065】
実施例2:競合性ファージELISAによるペプチド特異性の分析
1) 材料および方法
1.1) 材料
- 抗-PSA モノクローナル抗体 735または30H12
- 抗体コーティングのためのMaxiSorp(商標)プレート(NUNC):ELISAプレート
- ファージ希釈のためのマイクロタイタープレート(NUNC):希釈プレート
-表IIIおよびIVの実施例1からのペプチドを提示するM13バクテリオファージ
- HRPコンジュゲート抗-M13抗体(PHARMACIA 27-9411-01)
- ABTS [2,2'アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)、SIGMA]
- コロミン酸(SIGMA)
- デキストラン(SIGMA)
【0066】
1.2) バッファー
- PBS pH 7.4
- ブロッキング溶液:PBS 中の0.5 % BSA
- TBS
- TBST:0.05 % Tween 20含有TBS
- ホースラディッシュペルオキシダーゼ-コンジュゲート抗-M13抗体溶液:TBST中に1/5000
- ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)基質溶液:50 mM クエン酸ナトリウム pH 4.0 100μl 中に22 mg ABTS。酵素反応の前に、30 % H2O2 36 mlをABTS溶液21 mlに加える。
- 競合剤溶液:TBST中の1 mMコロミン酸
- コントロール溶液:TBST中の1 mMデキストラン
【0067】
1.3) 方法
MaxiSorp(商標)プレートのウェルを、mAb溶液(25μg/ml) 100μlで2時間、室温にてコートした。コントロールのウェルを、ブロッキング溶液のみでコートした。平行して、ファージ希釈プレートをブロッキング溶液200μlで2時間ブロックした。ELISAプレートの抗体でコートしたウェルおよびコントロールのウェルを、ブロッキング溶液200μlで1時間ブロックした。平行して、ファージ希釈プレートを6回、TBSTで洗浄し、ウェルにTBST 120μlを加えた。適切な容量のファージ溶液を第一のウェルに加えて、容量をTBSTで140μlに調整した。ウェル1のファージ溶液を、第一のウェルから20μlを取り出して第二のウェルに移し、140μlの全容量を達成することにより1/7の比で希釈した。これを残りのウェルについて繰り返した。コントロールのウェルについてのファージ希釈を同じ方法で行った。ブロックしたELISAプレートを6回、TBSTで洗浄し、ファージ希釈溶液または競合剤溶液を加えた。1時間のインキュベーション後、プレートを10回、TBSTで洗浄した。1時間のインキュベーション後、ウェルを10回、TBSTで洗浄した。HRP-コンジュゲートM13抗体溶液100μlを、ウェルに加えた。1時間のインキュベーション後、ウェルを10回、TBSTで洗浄し、HRP基質溶液(H2O2とともに) 100μlをウェルに加えた。プレートを405 nmでマイクロプレートリーダーを用いて読み取った。
【0068】
2) 結果
実施例Iからの配列番号1〜5のペプチドの結合特異性を、コロミン酸を競合剤として用いる競合性ELISAにおいて試験した。表V〜IXに示す結果は、710 ng/ウェルの濃度の配列番号5を提示するファージ(100 %)との比較による結合のパーセンテージとして表す。
【0069】
【表5】

【0070】
【表6】

【0071】
【表7】

【0072】
【表8】

【0073】
【表9】

【0074】
配列番号1 (DSPLVPFIDFHP)の配列を提示するファージは、他のファージに比べて、mAb 735に対して最もよい結合を示した。この結合は、コロミン酸と競合したが、デキストランは競合効果を示さなかった。配列番号4の配列を示すファージは同様の値を示した。配列番号4の配列の出現率が低いので、配列番号1の配列(ペプチドp21)およびコントロールとして配列番号1の配列のランダム変異体 (ペプチドp22: PDHIFVFSPDLP、配列番号28)を合成することにした。
【0075】
2つのシステイン残基がジスルフィドブリッジを介して結合している、配列CSSVTAWTTGCG (配列番号18)およびCSKIASMETGCG (配列番号22)にそれぞれ相当する環状ペプチドを提示するファージは、他のファージに比べてmAb 30H12に対して最もよい結合を示した。よって、対応する環状ペプチド(p65およびp66)を合成することにした。
【0076】
実施例3:競合性ペプチドELISA、ELISAおよびPSA-NCAM発現細胞への競合性結合によるp21、p65およびp66の特異性の分析
1) ビオチン化ペプチド-BSAコンジュゲートの調製
1.1) 材料
- m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシイミド エステル(MBS、SIGMA M2786、PIERCE 22311)
- ビオチンアミドカプロエート-N-ヒドロキシスクシイミド エステル(NHS-ビオチン、SIGMA 02643、PIERCE 20217)
- ジメチルホルムアミド(DMF、SIGMA)
- BSA (CALBIOCHEM 122605)
【0077】
- p21 (DSPLVPFIDFHPC、配列番号29)、p65およびp66由来のシステイン含有合成ペプチド、ならびにそれぞれp22 (PDHIFVFSPDLPC、配列番号30)、p65およびp66リバースペプチドに由来する対応するシステイン含有コントロールペプチド
- PD-10サイズ排除カラム(AMERSHAM-PHARMACIA 17-0851-01)
- ウルトラフリー-4-セントリフュージフィルター& タブ Biomax 50K NMWLメンブレン、4 ml容量(MILLIPORE UFV4BQK25)
- L-システイン(SIGMA)
【0078】
1.2) バッファー
- MBSストック溶液:DMF中に13 mg/ml
- NHS-ビオチンストック溶液:DMF中に2.5 mg/ml (これらの濃度は、高度に活性化された、ビオチン約5分子/BSA分子のBSA分子に導く)
- コンジュゲーションバッファー:0.083 M NaH2PO4、0.9 M NaCl、pH 7.2。
- PBS pH 7.4
- システイン溶液:コンジュゲーションバッファー中にL-システイン100 mg/ml
【0079】
1.3) 方法
BSA 10 mgを、コンジュゲーションバッファー2 mlに溶解し、MBS/NHS-ビオチンストック溶液140μlを加えた。溶液を1時間室温で、緩やかに攪拌しながらインキュベーションした。PD-10カラムをコンジュゲーションバッファー50 mlで平衡化した。カラムに溶液2.14 mlを加えた後、活性化BSAを、コンジュゲーションバッファーの0.5 mlの一定量で溶出した。タンパク質の溶出を280 nmでモニターした。適切な量のシステイン含有ペプチドを、コンジュゲーションバッファー1 mlに溶解した。5マーについて(MW 1500、ペプチド1.14 mgをBSA 10 mgに加えた)。このペプチド溶液を、マレイミド活性化/ビオチン化BSAを含む、プールしたフラクションに加えた。室温で2時間のインキュベーション後、システイン溶液100 mlを加えて、反応しなかった(non-reacted)マレイミド基をブロックした。1時間後、反応溶液を限外ろ過ユニット内でPBS 1 mlで5回透析した。ビオチン化コンジュゲートをPBSに溶解し、一定量を- 20℃で保存した。
【0080】
2) 抗-PSA mAbへのビオチン化ペプチド-BSAコンジュゲートの競合性ELISA
2.1) 材料、バッファーおよび方法
2.1.1) 材料
- mAb 735および30H12
- 抗体コーティングのためのMaxiSorp(商標)プレート(NUNC):ELISAプレート
- ペプチド希釈のためのマイクロタイタープレート(NUNC):希釈プレート
- 上記のようにして調製したビオチン化ペプチド-BSAコンジュゲート
- エキストラアビジンアルカリホスファターゼ-アビジンコンジュゲート(SIGMA E2636)
- p-ニトロフェニル-ホスファターゼ アルカリ基質(SIGMA 104-105)
【0081】
2.1.2) バッファー
- PBS pH 7.4
- ブロッキング溶液:PBS中に0.5 % BSA
- TBS
- TBST:0.05 % Tween 20含有TBS
- エキストラアビジン アルカリホスファターゼ-アビジンコンジュゲート溶液:TBST中に1 /5000
- アルカリホスファターゼ基質溶液:50 mM NaHCO3、1 mM MgCl2溶液pH 9.6 5 ml中に1錠- 混合競合剤溶液:TBST中にペプチド-BSAコンジュゲートグラジエントとともに1 mMコロミン酸
【0082】
2.1.3) 方法
Maxisorp (商標)プレートのウェルを、mAb溶液(25μg/ml) 100μlで2時間、室温でコートした。ELISAプレートのコントロールウェルを、ブロッキング溶液だけでコートした。
平行して、ペプチド-BSA コンジュゲート希釈プレートを、ブロッキング溶液200μlで2時間ブロックした。抗体でコートしたウェルおよびコントロールウェルを、ブロッキング溶液200μlで1時間ブロックした。平行して、ペプチド-BSAコンジュゲート希釈プレートをTBSTで6回洗浄し、TBST 120μlをウェルに加えた。適切な容量のペプチド-BSA コンジュゲート溶液を第一のウェルに加えて、TBSTで容量を140μlに調整した。ウェル1のペプチド-BSAコンジュゲートを、第一のウェルから20μlを取り出して第二のウェルに移して、同様に140μlの全体容量を達成することにより1/7の比に希釈した。これを残りのウェルについて繰り返した。コントロールウェルについてのペプチド-BSAコンジュゲート希釈を同じ方法で行った。ブロックされたELISAプレートを、TBSTで6回洗浄し、ペプチド-BSAコンジュゲート希釈または混合競合剤溶液100μlをウェルに加えた。1時間のインキュベーション後、ウェルをTBSTで10回洗浄し、アルカリホスファターゼ基質溶液100μlをウェルに加えた。プレートを、10〜60分後に、マイクロプレートリーダーを用いて405 nmで読み取った。
【0083】
2.2) 結果
ペプチドp21 (配列番号1)の特異性を、競合性ELISAにおいて、ビオチン化p21-BSAコンジュゲートおよびコントロールとしてp21 (p22)コンジュゲートのランダム変異体(randomized variant)を用いて調べた。表XおよびXIに示す結果は、100%の結合に相当する最高濃度(9.45 10-5 M)でのペプチドp21との比較による結合のパーセンテージとして表す。
【0084】
【表10】

【0085】
【表11】

【0086】
表Xは、コロミン酸存在下でのp21結合の明確な阻害を示す。これに比べて、コンドロイチン硫酸Cは、ペプチドBの結合に影響がなかった。表XIは、p21コンジュゲート(p22)のランダム変異体について、mAb 735への結合を示さない;コロミン酸またはコンドロイチン硫酸Cが存在するときに、違いは観察されなかった。これらの結果は、配列番号1 (ペプチドp21)の配列が、mAb 735に特異的に濃度依存性の様式で結合するという結論に導く。
【0087】
3) ペプチド-BSAコンジュゲートを用いるELISA
環状ペプチドの特異性を、ELISAアッセイにおいて30H12抗体でコートしたプレートを用い、競合剤を省略する以外は競合性ELISAについて上述したようなプロトコルに従って調べた。図12Aに示す結果は、環状ペプチドが抗原特異的な様式で抗体に結合することを示す。最高の結合を示すペプチド p65およびp66を、さらなる研究のために選択した。
【0088】
4) PSA-NCAM発現細胞への競合性結合
p65およびp66ペプチドの特異性を、競合性アッセイにおいて抗-PSA抗体およびPSA-NCAM発現細胞を用いて試験した。30H12モノクローナル抗体の、0.1 mMのp65またはp66ペプチ
ドのいずれかとの予備インキュベーションは、PSA-NCAM発現細胞へのその結合を阻害した(図12Dに対して12B)。結合特異性は、ペプチド認識を、他の抗-PSAモノクローナル抗体(MenB)により試験することにより、さらに詳細に試験した。図12Cに示す結果は、p65およびp66ペプチドが30H12だけに結合することを示す;ペプチドのMenBとの予備インキュベーションは、PSA-NCAMの認識を妨げなかった(図12C)。つまり、p65およびp66ミモトープ(mimotope)は、独特の(イディオタイプの)決定因子に特異的であるようである。
【0089】
実施例8:PSA模倣ペプチドの生物活性の分析
1) 材料および方法
1.1) 動物
GFPトランスジェニックマウスについては、以前にHadjantonakisら(Biotechnol.、2002、2、11〜)に記載され、全ての分析をSwissバックグラウンドで行った。NCAMノックアウトマウス(NCAM -/-)は、前出のCremerらに以前に記載されている。
【0090】
1.2) 後根神経節(DRG)外植片培養
E13,5 DRGを、HBSS培地中のマウスの胎児(embryo)から解剖して取り出し、ポリリシンまたはBSAに連結したペプチドでコートしたガラスのカバーグラス上に植えた。外植片は、可溶型のペプチド(40μM)の存在下または不在下に、Faivre-Sarrailhら、J.Cell. Sci.、1999、18、3015〜3027およびChazalら、J.Neurosci.、2000、20、1446〜1457に記載されたようにして補った2 mlのニューロベーサル(neurobasal)培地(DMEM/Ham's F12、3:1 (V/V)、GIBCO、20mM Hepesで緩衝)中に培養した。
【0091】
1.3) 脳室下帯(SVZ)外植片培養
SVZ外植片の培養を、前出のChazalらに記載のようにして行った。簡単に、1日齢のマウスを迅速な断頭により殺した。脳を切開し、ビブラトーム(Leica)により切片にした。側脳室の前角(anterior lateral ventricle horn)の側壁からのSVZを、HBSS培地(LIFE TECHNOLOGIES)中に切片化し、直径200〜300μmの外植片に切断した。外植片をマトリゲル(Matrigel) (BECKTON DICKINSON)と混合し、4ウェルのディッシュ中で培養した。高分子化後、ゲルを、B-27サプリメント(LIFE TECHNOLOGIES)含有無血清培地400μlで、40μMのペプチド(p65、p66、リバースp65、p21またはp22) およびミリリットル当たり70 UのエンドNの存在下または不在下に重ねた。
【0092】
1.4) 免疫組織化学
固定したDRG (後根神経節)外植片および切片を、4℃でそれぞれ抗-ニューロフィラメント(SMI-31、1:800の希釈、STERNBERGER MONOCLONALS)で2時間、そして抗-PSA抗体(1:200の希釈、Rougonら、J. Cell. Biol.、1986、103、2429〜2437)で一晩インキュベートした。対応する蛍光標識二次抗体(テキサスレッドコンジュゲートのヤギ抗-マウスIgMまたはIgG、IMMUNOTECH)を用いる1時間のインキュベーションにより、明示化を行った。
【0093】
1.5) 細胞遊走距離(SVZ外植片)およびニューロンの成長(DRG外植片)。
48時間の培養後、外植片を直接(SVZ)またはPBS中の4% パラホルムアルデヒド溶液での一晩の固定化、そして免疫染色(DRG)の後に調べた。2.5X、5X、10Xおよび32Xの対物レンズ(Axiovert 35M、ZEISS)を用いて観察した。像をビデオカメラ(Cool View、PHOTONIC SCIENCE)で集め、イメージプロセシングソフトウェア(Visiolab1000、BIOCOM)を用いて分析した。平均遊走距離(条件当たり少なくとも5つの外植片を含む、異なる5回の実験について算出)または最長の神経突起の平均長(条件当たり少なくとも8つの外植片を含む2回の異なる実験について算出)は、外植片の端と細胞遊走の前線(cell migration front)の境界との間のマイクロメートルでの距離であった。各外植片について4回の測定を行った。コントロールと異なる実験条件との間の差の有意性を、スチューデントのt検定により算出した。
【0094】
1.6) 移植
1日齢のGFPマウスSVZの直径100μmの外植片を、15分間、10%のウシ胎児血清添加DMEM中に、0.01 Mのp65またはリバースペプチドの存在下にインキュベートし、6週齢のマウスのSVZに、LoisおよびAlvarez-Buylla (Science、1994、264、1145〜1148)に記載のようにして定位的に移植した(0.5μl)。移植の3または4日後に、動物の心臓内をPBS中の4%パラホルムアルデヒド溶液で潅流した。脳を切開し、後固定し、凍結保護し、そしてイソペンタン中に凍結させた。矢状の連続切片(sagittal serial section) (12μm)を、Leicaミクロトームで切断し、そして上記のようにして免疫染色した。3日後に嗅球に到達したGFP細胞を、UV蛍光を用いて40X対物レンズ(Axioscope、ZEISS)で観察し、そして2つの異なる実験(条件当たり4匹の動物)において計測した。2つの条件の間の差の有意性を、スチューデントのt検定で算出した。
【0095】
1.7) 硝子体内(intravitreal)注射および網膜の全体の顕微鏡標本作製
Monnierら(Developmental Biology、2001、229、1〜14)に記載のようにして注射を行った。簡単に、2 X 2 cmの窓を、E3を超えるニワトリ胎児 (chick embryos)の殻にあけた。ファストグリーン1μlを、10 mMのp65またはリバースペプチドと、右目の硝子体にキャピラリを用いて注射した。37℃で5日間インキュベーションした後、(E8)網膜を解剖し、ニトロセルロースフィルター(MILLIPORE)上に広げ、PBS中の4%パラホルムアルデヒド溶液で固定した。2つの小さいDiI (1,1'-ジオクタデシル-3,3,3',3'-テトラメチルインドカルボシアニン ペルクロレート)の結晶を、眼裂まで背側に適用した。網膜を、暗中、37℃で10日間、亀裂中で染料が軸索の成長円錐に到達するまで保存し、グリセロール:PBS (9:1、v:v)中に標本作製し、共焦顕微鏡を用いて分析した。
【0096】
2) 結果
2.1) PSA模倣ペプチドのインビトロでの軸索成長および束形成に対する影響 (図2)
マウスの後根神経節外植片(E13,5)を、可溶型か、またはBSAコンジュゲートとしてマイクロプレート上にコートされたかのいずれかのp65およびp66環状模倣ペプチドの存在下に培養した。ペプチドの不在下またはリバースペプチド(コートされたかまたは可溶の形)の存在下で培養された細胞を、コントロールとして用いた。
ペプチドの神経突起の成長および束形成への影響を、定性的および定量的に分析した(図2 A〜H)。
【0097】
可溶の形のp65およびp66は、コントロールに比較して、軸索の束の明らかな脱束化(C対AおよびF対D)、ならびに軸索成長における有意な増加(C対A)を誘導する。
興味深いことに、コートされた形のp65およびp66は、束形成について反対の影響を誘導し(B対AおよびE対D)、そして神経突起成長には影響がなかった。
【0098】
これらの結果は、可溶の形のp65およびp66が、コントロールに比較して、神経突起成長をそれぞれ34 %および21 %増加させたが、コートされた形の同じペプチドが、神経突起成長に有意な増加を誘導しなかったことを示す定量分析により確かめられた(図2Gおよび2H)。
これらの結果は、PSA模倣ペプチドが、インビトロでの軸索成長および束形成を調節し
得ることを示す。
【0099】
2.2) PSA模倣ペプチドのインビボでの軸索の束形成および誘導に対する影響(図3)
p65およびp66を、ニワトリ胎児の目(E3)に注射し、網膜をE9に観察した。図3に示す結果は、網膜成長中のPSA模倣ペプチドの存在により、軸索の誘導および束形成欠損を誘導することを示す。軸索は、それらの束を離れ、それに垂直に走る(D、G、EおよびHにおける矢印の頭)。これに比べて、コントロールペプチドの注射の後は、軸索誘導および束形成における欠損は観察されない。
これらの結果は、PSA模倣ペプチドが、インビボでの軸索成長および誘導を調節し得ることを示す。
【0100】
2.3) インビトロでの細胞遊走に対するPSA模倣ペプチドの影響(図4〜7)
インビトロでの細胞遊走に対するPSA模倣ペプチドの影響を、マトリゲル中で、模倣ペプチド(p65、p21、p66)、p65ペプチドの異なる形(環状、直線状、直線状かつアセチル化)、コントロールペプチド(リバースp65およびリバースp66およびp22)、またはエンドシアリダーゼNの存在下に培養した1日齢の正常マウス(NCAM +/+)、異型接合(NCAM +/-)またはノックアウトマウス(NCAM -/-)からの脳室下帯外植片について分析した。結果を図4〜7に示す。
【0101】
- 図4 (A〜I)は、p65およびp66ペプチドを培養に添加すると、ニューロンの前駆体の遊走の速度(rate)およびそれらの鎖様配置の修飾を増加させることを示す(CおよびF)。これらの効果は、リバースペプチドでは見出されず(AおよびD)、かつPSA-依存性であった。なぜなら、これらはエンドN処理により撤廃されるからである(BおよびE)。
これらの結果は、p65およびp66がニューロンの前駆体の遊走速度の有意な増加を誘導する(0.4μMにおいてそれぞれ+40%および+26%、ペプチドなしのコントロールに比べて)が、エンドNはそれを減少させる(−21%、ペプチドなしのコントロールに比べて)ことを示す定量分析(GおよびH)により確認された。
p65 (I)の用量作用曲線は、細胞遊走に対する最適な影響が、0.4μM以上のペプチドで観察されることを示す。
【0102】
- 図5は、p65の環化がp65促進効果に必要であることを示す。なぜなら、直線状の形の対応するアミノ酸配列は、N-アセチル化されてもされていなくても、細胞遊走を刺激することができないからである。
- 図6は、p65の影響がPSA発現依存性であることを示す。なぜなら、前駆体の遊走の有意な減少が、リバースペプチドまたはp65ペプチドの存在下で、NCAM +/-マウスと比較してNCAM -/-マウスにおいて観察されたからである。この影響は、エンドN処理NCAM +/-マウスおよびNCAM -/-マウスにおいて比較でき、p65は、NCAM -/-マウスにおける減少された遊走を逆にしなかった。
【0103】
- 図7は、p65が、ニューロンの前駆体の遊走の速度において、対応するコントロールペプチド(リバースp65)に比べて、有意な増加を誘導することを示す。
これに比べてp21は、ニューロンの前駆体の遊走の速度において、対応するコントロールペプチド(p22ペプチド)に比べて、有意な減少を誘導する。減少は、エンドN処理細胞において観察されるものと比較できる。
これらの結果は、模倣ペプチドが、細胞遊走をPSA-依存性の様式で刺激する(p65)か、または阻害する(p21)ことができることを示す。
【0104】
2.4) PSA模倣ペプチドのインビボにおける細胞遊走に対する影響(図8)
インビボにおける細胞遊走に対するPSA模倣ペプチドの影響を、組織の移植およびSVZ細胞の遊走の評価により分析した。1日齢のGFPマウスからのSVZ組織の小片(直径100μm)を、p65、p65リバースペプチドの存在下またはペプチドの不在下で成熟マウスのSVZ領域に移植した。結果を図8に示す。
【0105】
図8は、p65ペプチドの存在が、コントロールに比べて、(ロストラルマイグレーションストリーム(Rostral Migration Stream)またはRMSを介して)嗅球に遊走するGFP陽性細胞の数を有意に増加させることを示す。この影響は、早くも移植3日後に観察された(図8E)。これらの結果は、移植3日後に嗅球に存在するGFP陽性細胞の数が、コントロールに比べてp65の存在下に17倍増加することを示す定量分析により確認された(図8G)。
これらの影響は、NCAMノックアウトマウスにおいて撤廃されたので、PSA-依存性であった。
これらの結果は、模倣ペプチドがPSA陽性細胞の遊走を増加させ得ることを示す。
【0106】
実施例9:PSA模倣ペプチドの注射後の脊髄損傷からの機能的回復の分析
1) 材料および方法
1.1) 脊髄の外科手術およびペプチド送達
雄性Swiss-CD1マウス(8〜10週齢)に、ケタミンおよびキシラジンの混合物を用いて麻酔をかけた。脊髄は、皮膚の正中線の切開の作製および傍脊柱筋の収縮により露出させた。椎弓切除をT7〜T8レベルにおいて行い、脊髄を露出させた。虹彩切除鋏を用いて、腹側の索(ventral funiculus)のほとんどの部分を避けて(sparing)左右の後索、後角を横に切開する左右の背側片側切断(bilateral dorsal hemisection)を行って、背内側の主要な皮質脊髄路(dorsomedial main Cortico Spinal Tract (CST))の完全な横断をもたらした。ペプチドを受けた一連のマウスについて、p65またはリバースp65 (10μM)ペプチド10μlで飽和させたSurgicoll綿撒糸を、横断部位の上に適用し、そして拡散を防ぐためにワセリンで覆った。内部の筋肉層の全てを微細な糸を用いて縫合した。皮膚を、外科用ステープルを用いて縫合した。外科手術に続いて、食塩水1 mlを脱水を防ぐために皮下投与し、麻酔から完全に回復するまでマウスを加温ランプの下においた。次いでマウスをケージに戻し、感染を防ぐために抗生物質Baitryl (商標)の皮下注射を毎日受けた。完全に自律神経性膀胱機能が回復するまで、手動で膀胱排泄を行った。
【0107】
1.2) 機能性試験(図9)
動物の機能性評価を、D1、D4、D7、D14、D21、D28、D35の日(D)において、脊髄損傷に続く第一の週の間、および次いでD35まで毎週、グループの正体を隠して2人の異なる観察者により行った。歩行運動の回復を、BBB試験(Basso、BeattieおよびBresnahan試験;Bassoら、Restor. Neurol. Neurosci、2002、5、189〜218)を用いて評価した。スケールは、0 (後脚の動きが観察されない)〜21 (通常歩行)の範囲であり、3つの範囲に細別し得る。0〜7のスコアは、低い回復に相当する(関節の動き、体重支持(weight-support)なし、足の配置(paw placement)なし)。8〜13のスコアは、中間の回復に関する(足の配置、前脚-後脚協調運動)。14〜21のスコアは、非常に良好な回復に関し得る。最後に、試験の最後の日(D35)に、マウスをロータロッド試験に供して、良好な運動の協調(fine motor coordination)を評価した。
【0108】
1.3) 組織学(図9)
D5に、p65 (n=3)またはリバースp65 (n=3)を受けた損傷動物を、心臓を通して(transcardiacally)潅流させた。脊髄を矢状面において20μmの間隔で10 mm長の区画に損傷部位で切断した。損傷の範囲を調べるために、ニッスル染色を全ての動物の一連の1-イン-6切片において行った。一連の1-イン-3切片を、MenB抗-PSA (マウスIgM)および/または抗-GFAP (マウスIgG)抗体で染色した。結合した抗体を、適切な蛍光標識二次抗体により視覚化した。
【0109】
2) 結果
損傷を切断後、脳および脊椎の軸索は、成体のCNSを介して進行しない。代わりに、これらの繊維は、損傷部位で捕らえられ、シナプスの標的から断絶されたままで、多くの臨床上の事例において深在性および永存性の欠損に導く。脊髄損傷(SCI)は、軸索での断絶が、ニューロンの最小限の死にもかかわらず、有意な作業不能に導く最も明確な例である。
つまり、p65 PSA模倣ペプチド(およびコントロールとして用いられるそのリバース相対物)の脊髄損傷からの機能的回復に対する効果が、マウスにおいて分析された。
【0110】
2.1) 損傷部位においてp65ペプチドを受けたマウスにおける脊髄損傷後の歩行運動回復の改善
図10 (AおよびB)に示す結果は、PSA模倣ペプチド処理が、中胸の背側片側切断損傷(midthoracic dorsal hemisection injury)後の機能的回復と相関することを示す。より精密には、回復を、脊髄損傷後に歩行運動機能の標準電場測定(standardized open-field measure)、BBBスコアを用いて評価した。この尺度では、21が正常な機能であり、0は後脚の両側完全麻痺である。全てのマウスは、損傷後のD1においてスコア0を有していた。p65-処理マウスは、45日間の観察期間にわたって徐々に部分的機能を回復した(図10A)。p65-処理マウスのスコアは、損傷後のD14から開始して、それに続く時点までずっとp65-リバースコントロールよりも有意に高かった。この改善が観察される期間(14日間)を考えると、これは損傷部位から腰の運動プール(lumbar motor pool)まで延びるCST繊維のある種の長距離成長に悪影響を及ぼさない。腰髄における局所的な発芽(Local sprouting)、および赤核-脊髄系のような他の下行性路(descending tract)、または末梢の固有脊髄回路構成(distal intrinsic spinal cord circuitry)もまた貢献しているはずである。機構にかかわらず、p65-処理マウスにおける歩行運動回復は、コントロールの動物に比べて有意に大きかった。回復におけるp65の有利な効果を、D35において行われたロータロッド試験によりさらに評価された(図10B)。
【0111】
2.2) D5における反応性グリオーシスの減少
ペプチドの影響を評価するために、反応性グリオーシスの指標として神経膠繊維酸性タンパク質(Glial Fibrillary acidic Protein (GFAP))発現の定量を、外科手術後D5の動物の部分集合において行った。これらの動物は、定量のために盲検様式で選択した。3匹のp65 (動物当たり10スライス)および3匹のp65-リバース(動物当たり10スライス)の動物を分析した。二重標識(Double-labelling)を、MenB抗-PSA抗体を用いて行った。定量も盲検様式で行った。
有意な差が、p65処理とp65-リバース動物との間で観察され(図11AおよびB)、p65-処理が、おそらく瘢痕の内部で遊走の防止、または炎症性サイトカインの作用のような関係する他のプロセスの阻害により、反応性グリオーシスをリバースp65-処理に比べて40%減少させたことを示した。いずれの場合においても、これらの結果は機能的回復がp65-処理マウスにおいてより良好であるという事実を支持した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5〜30アミノ酸残基、好ましくは9〜15、最も好ましくは約12アミノ酸残基からなるペプチドであって、抗-ポリ-α2,8シアル酸抗体により認識されるNCAMに結合したポリ-α2,8シアル酸のBエピトープを含むペプチドの、NCAM機能の調節用の医薬の製造のための使用。
【請求項2】
ペプチドが直線状または環状であることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
ペプチドが、それぞれDSPLVPFIDFHP、LWQPPLIPGIDF、QIEPWFTPEDFP、TRLAPLVFPLDY、SWLQMPWALVRT、EIHLRMIKQITI、WHLEYMWRWPRL、LIEQRLPKHILT、YETSSSRLLAYA、TLASQLSNTSAY、SDQGVNGSWSNP、WHNWNLWAPASPT、IKSPLTWLVPPD、SHLDLSTGHRTS、CYPLNPEVYHCG、CWPLSHSVIVCG、CSSVTAWTTGCG、CYMASGVFLCG、CWPLGPSTYICG、CSLIASMETGCG、CSKIASMETGCG、CYIGDPPFNPCG、CWPLGDSTVICG CPLRLAFTFGCGおよびCTRMSHGYWICGに相当する配列番号1〜12および14〜26の配列、ならびにこれらの機能的派生物からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
ペプチドが、配列番号1〜12および配列番号14〜配列番号26からなる群より選択される配列からなることを特徴とする請求項3に記載の使用。
【請求項5】
ペプチドが、配列番号1からなる直線状ペプチドであることを特徴とする請求項4に記載の使用。
【請求項6】
ペプチドが、配列番号18または配列番号22の位置1のシステイン残基の側鎖が、配列番号18または配列番号22の位置11のシステイン残基の側鎖にジスルフィド結合を介して共有結合している環状ペプチドであることを特徴とする請求項4に記載の使用。
【請求項7】
ペプチドが、配列番号13の配列またはその機能的派生物を含む環状ペプチドであることを特徴とする請求項1または2に記載の使用。
【請求項8】
ペプチドが、配列番号13の配列またはその機能的派生物を含む直線状ペプチドであることを特徴とする請求項1または2に記載の使用。
【請求項9】
ペプチドが、共有結合または非共有結合により連結された、請求項1〜8のいずれか1つにおいて定義されるいくつかの同一または異なるペプチドからなる複合体に含まれることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の使用。
【請求項10】
医薬が、神経変性疾患、脳および脊椎の損傷、加齢性の学習および記憶の問題からなる群より選択される病理学的症状の予防および/または治療のためであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の使用。
【請求項11】
医薬が癌の予防および/または治療のためであることを特徴とする請求項1〜7および9のいずれか1つに記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−16810(P2011−16810A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178921(P2010−178921)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【分割の表示】特願2004−544626(P2004−544626)の分割
【原出願日】平成15年10月16日(2003.10.16)
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【出願人】(505141886)ユニベルシテ デ ラ メディテラニー アイクス マルセイユ セカンド (2)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LA MEDITERRANEE AIX MARSEILLE II
【住所又は居所原語表記】58 Boulevard Charles Livon,F−13007 Marseille,FRANCE
【出願人】(505141897)
【氏名又は名称原語表記】SCHAFER−N
【住所又は居所原語表記】Fruebjergvej 3,DK−2100 Copenhagen,DENMARK
【出願人】(505141576)ユニベルシタートスクリニカム ハンブルグ−エッペンドルフ (2)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITATSKLINIKUM HAMBURG−EPPENDORF
【住所又は居所原語表記】Martinistrasse 52,20246 Hamburg,GERMANY
【Fターム(参考)】