説明

NDフィルタ及びこれを用いた光量絞り装置

【課題】耐擦傷性および帯電防止性に優れた薄膜積層型のNDフィルタを提供する。
【解決手段】光吸収膜3,5と誘電体膜2,4,6を透明基材1上に積層したNDフィルタにおいて、積層2〜6の表面を被覆するように、炭素膜7が形成されている。炭素膜7は、室温から150℃以下の成膜温度で形成されている。光吸収膜3,5は、金属と金属化合物の混合物からなり、金属原料が、Ti,Cr,Ni,NiCr,NiFe及びNiTiから選択される。誘電体膜2,4,6はSiO又はAlを用いる。透明基材1は、可視域において透明な樹脂製のフィルムからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はNDフィルタに関する。ND(ニュートラルデンシティ)フィルタは、光量絞り用として可視域全般にわたり均一に透過光量を減衰させる目的で使用するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりカメラやビデオなどの撮像系において、被写体輝度が高すぎるときは絞りを最小径に絞っても(開口径を最小にしても)感光面へ規定量を越える光量が入射してしまう場合がある。このため、撮像系の一部にNDフィルタを装着して感光面への入射光量を規制することがしばしば行われている。この場合、NDフィルタの分光特性は単に入射光量を減少させるということから、可視域全般にわたり均一な透過率を有していることが必要となっている。カメラやビデオなどの撮像系においては、可視域全般にわたり均一に光量を減衰させる目的で以前からプラスチックフィルムベースのNDフィルタが用いられてきた。
【0003】
近年では光学特性および耐久性に優れた薄膜積層型のNDフィルタが利用されるようになってきており、特許文献1〜特許文献3に記載されている。
【特許文献1】特開昭52−113236号公報
【特許文献2】特開平07−063915号公報
【特許文献3】特開2003−043211公報
【0004】
特許文献1には、金属薄膜(Ti,Niなど)と誘電体膜(MgF2)の交互層からなるNDフィルタが提案されている。すなわち、特許文献1では光吸収膜として金属膜を利用している。特許文献2は、2種類以上のTi金属酸化膜(消衰係数k:1.0〜3.0)と誘電体膜(Al,SiO,MgF)との交互層からなるNDフィルタを開示している。特許文献2では、2種類以上のTi金属酸化膜からなる吸収膜の出発材料として、Tiの低級酸化物(TiO,Ti,Ti,Tiなど)を利用している。特許文献3は、光吸収膜と誘電体膜をプラスチックフィルムなどの透明基材上に積層した薄膜型にNDフィルタを開示している。光吸収膜は、金属材料を原料として蒸着により成膜されたものであり、酸素を含む混合ガスを成膜時に導入し、真空度を一定に維持した状態で生成した金属材料の酸化物を含有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜特許文献3に記載された薄膜積層型のNDフィルタは、いずれもプラスチックフィルムなどの透明基材上に、金属系の光吸収膜と無機絶縁物系の誘電体膜とを積層した構成となっている。したがって、積層の表面最外層は、金属系の光吸収膜か無機絶縁物系の誘電体膜のどちらかになる。しかしながら、金属系の光吸収膜を最外層とした場合には、傷などが付きやすくなる為、耐擦傷性に劣るという課題がある。一方、絶縁物系の誘電体膜を最外層とした場合には、耐擦傷性の問題は少なくなるものの、静電気が帯電しやすくなる。静電気によるゴミの吸着が発生し、歩留まり低下の要因となる。すなわち、誘電体膜を最外層とした場合には、帯電防止性が劣るという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した従来の技術の課題に鑑み、本発明は耐擦傷性および帯電防止性に優れた薄膜積層型のNDフィルタを提供することを目的とする。かかる目的を達成するために以下の手段を講じた。即ち本発明は、光吸収膜と誘電体膜を透明基材上に積層したNDフィルタにおいて、前記積層の表面を被覆するように、炭素膜が形成されていることを特徴とする。
【0007】
場合により、前記透明基材の裏面側にも炭素膜が形成されている。又前記炭素膜は、室温から150℃以下の成膜温度で形成されている。好ましくは前記光吸収膜は、金属と金属化合物の混合物からなり、金属の原料が、Ti,Cr,Ni,NiCr,NiFe及びNiTiから選択される。又前記誘電体膜はSiO又はAlを用いる。又前記透明基材は、可視域において透明な樹脂製のフィルムからなる。かかるNDフィルタは例えば光量絞り装置に用いられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光吸収膜と誘電体膜を透明基材上に積層したNDフィルタにおいて、積層の表面を被覆するように、保護膜として炭素膜を形成している。炭素膜は、一般にダイヤモンド構造、DLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)構造あるいはグラファイト構造を持つことが知られている。炭素膜は緻密な組成を有し硬度が高いので、耐擦傷性に優れている。また、炭素膜は無機絶縁物系の誘電体膜に比べ表面抵抗値が低く、帯電防止性がある。この様な特性を有する炭素膜をNDフィルタの最外層に形成する事で、傷が付き難く且つゴミなどが吸着し難い製品を得る事ができる。なお、最外層に形成する保護膜は、一般にNDフィルタの光学特性に影響を及ぼさない事が必要である。この点、炭素膜は優れた耐擦傷性及び帯電防止性に加え、可視域で実用的な透明性を有している。したがって、NDフィルタの保護膜として好適である。加えて、炭素膜はその緻密な組成に起因して、高い耐磨耗性を有すると共に摩擦係数が低い。NDフィルタを光量絞り装置の稼動部などに取り付けた場合、表面を炭素膜で被覆することにより摩擦係数が低くなり、動作不良を防ぐことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明にかかる薄膜型NDフィルタの構成を示す模式的な断面図である。図示するように、本NDフィルタ0は、光吸収膜3,5と誘電体膜2,4,6を透明基材1上に積層した薄膜型となっている。特徴事項として、積層の表面を被覆するように、炭素膜7が形成されている。場合によっては、透明基材1の裏面側にも炭素膜を形成する様にしてもよい。好ましくは、炭素膜7は、150℃以下の成膜温度で形成されている。また光吸収膜3,5は、金属と金属化合物の混合物からなり、例えば金属の原料はTiである。これに代えて、Cr,Ni,NiCr,NiFeまたはNiTiから選択してもよい。また誘電体膜2,4,6は無機絶縁材としてSiOを用いる事ができる。これに代えて、Alを用いてもよい。また透明基材1は、可視域において透明な樹脂製のフィルム(例えばPET)からなる。かかる構成を有する薄膜型NDフィルタ0は、例えば光量絞り装置に用いられる。
【0010】
引き続き図1を参照して、NDフィルタ0の具体的な膜構成を説明する。まず、透明基材1は、厚みが0.1mmのPET(ポリエチレンテレフタレート)からなる。但し、本発明はこれに限られるものではなくPET以外のポリエステルフィルムやポリカーボネートフィルムを用いる事ができる。光量絞り用としてはPETなどポリエステルフィルムやポリカーボネートフィルムが好ましいが、特に用途を限定しなければ透明基材1として使用波長領域において透明であるガラスやプラスチックを適宜使う事ができる。一般に透明基材1はプラスチックやガラスなどの絶縁体である為、静電気が帯電しやすい。したがって、何らかの帯電防止策を講じないと、静電気などでゴミなどが付着し、フィルタ機能を損なう恐れがある。
【0011】
透明基材1の上に形成された第一の誘電体膜2はSiOからなり、その物理膜厚は59nmである。その上に成膜された第一の光吸収膜3は、金属Tiとその化合物との混合物からなる。Ti金属化合物は、飽和酸化物TiOを主成分とし、その他の残余成分として低級酸化物Ti,TiOなどや窒化物TiNなどの副生成物を含んでいる。第一の光吸収膜3の物理膜厚は28nmである。その上に成膜された第二の誘電体膜4はSiOからなり、その物理膜厚は51nmである。その上に成膜された第二の光吸収膜5は、同じく金属Tiとその飽和酸化物TiOを主成分とし、その他の残余成分として低級酸化物Ti,TiOや金属窒化物TiNを含んでいる。第二の光吸収膜5の物理膜厚は25nmである。その上に成膜された第三の誘電体膜6はSiOからなりその物理膜厚は78nmである。なお、かかる層構成は例示であって本発明の範囲を限定するものではない。光学薄膜の場合、通常使用波長において透明なセラミックス材料を誘電体膜として表現している。光の干渉効果が現れる厚さ(波長の数倍程度)の誘電体膜を積層することで入射する光線の光学特性(反射量、透過量、偏光、位相など)を自由に調節する事が出来る。本実施形態では、図1に示す層構成とすることで、NDフィルタに反射防止機能を付与している。一方光吸収膜は、使用波長領域において文字通り光を吸収する働きがあり、可視域では通常金属を用いる。本発明では、特に金属単体にその飽和酸化物を含む金属化合物を導入することで光学特性及び物理特性を改善している。
【0012】
NDフィルタ0を構成する積層の最外層は、SiOからなる誘電体膜6となっている。この誘電体膜6は無機絶縁物なので表面抵抗は比較的高い。したがって、静電気が帯電しやすく、このままではゴミが付着する恐れがある。また、無機誘電体膜6は、金属及びその化合物の混合物からなる光吸収膜5に比べればある程度の硬さを有するが、それでも傷などが付く恐れがある。そこで本発明は、NDフィルタ0の最外層を炭素膜7で被覆している。この炭素膜7は耐擦傷性及び帯電防止性に優れており、NDフィルタ0の優れた表面保護膜として機能する。炭素膜7の物理膜厚は例えば20nmと薄く、光学的には無色透明に近いため、NDフィルタ0の光学特性に悪影響を及ぼす事はない。
【0013】
炭素膜7は、ダイヤモンド構造、DLC構造あるいはグラファイト構造を持つものが知られている。本発明は、どの構造の炭素膜であってもNDフィルタ0の保護膜として適用可能である。保護膜としての機能を奏するためには、20nm程度まで厚く形成する必要がある。光学設計の面からは、20nm程度まで厚く形成しても、NDフィルタの光学特性の影響が少ない膜構造が好ましい。あるいは、仮に影響があっても、誘電体膜や光吸収膜などの膜厚調整によって変動が抑えられる程度に、消衰係数が小さい膜構造が好ましい。また、耐擦傷性の面からは付着力が高く硬度があり摩擦係数の小さい膜構造が好ましい。以上の観点から、炭素膜7は例えばプラズマCVDで作成したDLC膜が好ましい。特に、プラズマCVDは150℃以下100℃程度のプロセス温度でDLC膜を成膜できる為、透明基材1の耐熱性を損なう事がない。透明基材1をプラスチックフィルムで構成した場合、成膜温度を室温から150℃以下好ましくは100℃程度まで抑えることで、熱変形や層間剥離を防ぐことが可能である。仮にプロセス温度が150℃を超えると、フィルム基材の熱収縮量が大きくなったり、熱による反り変形が生じる。更に200℃を越えて高温になると、フィルム基材の熱分解が生じる恐れがある。場合によっては透明基材1に対するDLC膜の付着力を高めるためSiCその他の下地膜(アンダーコート)を形成してもよい。アンダーコートはスパッタリングあるいはCVDを利用した低温プロセスで成膜できる。なお本明細書では150℃以下の成膜温度を低温プロセスと呼んでいる。この様に、NDフィルタ0の積層の最外層に炭素膜7を形成することで、NDフィルタ0の耐擦傷性が向上すると共に、摩擦係数が小さくなることで動作不良の発生要因が減少し、さらに表面抵抗値が低下することでゴミの付着が抑えられる。
【0014】
上述したように、NDフィルタ0の表面を保護する炭素膜7として、例えば硬質のDLC膜が好ましい。従来、DLC膜はスパッタリング法で成膜することが一般的である。しかしながら、スパッタリング法ではDLC膜の厚みを薄くしようとすると、被覆性が低下して下層の表面が露出してしまう事がある。この様な事態を避ける為、スパッタリング法よりも被覆性が優れているCVD法によりDLC膜を形成することが好ましい。CVDの方がスパッタリング法に比べて硬度の高いDLC膜を形成できるという利点がある。特にプラズマCVD法を用いれば、低温プロセスでDLC膜を成膜可能である。一般にプラズマCVD法により薄膜形成を行う場合、薄膜形成前に基材の表面をプラズマ洗浄することにより膜と基材との密着性を向上させる事ができる。基材表面のプラズマ洗浄は、放電ガスとしてアルゴンなどの希ガスが用いられる。
【0015】
図2は、本発明にかかるNDフィルタの他の実施形態を示す模式的な断面図である。理解を容易にするため、図1に示した最初の実施形態と対応する部分には対応する参照番号を付してある。(A)に示した実施形態は、基本的に図1に示した先の実施形態と同じであるが、透明基材1の裏側にも炭素膜7´を形成している点で特徴がある。この様に、NDフィルタ0の表裏両面を炭素膜7,7´で被覆することにより、より効果的に耐擦傷性及び帯電防止性を強化する事ができる。
【0016】
(B)に示した実施形態は基本的に(A)に示した実施形態と同様であるが、透明基材1と炭素膜7´との間に下地膜8を介在させている点に特徴がある。透明基材1としてプラスチックフィルムを用いた場合、必ずしも炭素膜7´を強固に基材1の裏側に付着させる事ができない。そこで、付着力を高めるため、下地膜(アンダーコート)8を介在させている。この下地膜8としては、例えばSiC(シリコンカーバイド)膜を用いる事ができる。SiC膜は例えばプラズマCVD法あるいはスパッタリング法で成膜可能である。
【0017】
(C)に示した実施形態は、透明基材1の表側と裏側に、同一の層構造を形成したものである。これにより表裏両面での不要反射を抑制できる。なおそれぞれの層構成は、図1に示した先の実施形態の層構成と同じである。
【0018】
本発明にかかるNDフィルタは、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法などを用いて作成する事ができる。例えば、誘電体膜と光吸収膜の積層部分を真空蒸着法で作成し、炭素膜の部分をCVD法で作成する事ができる。但し本発明はこれに限られるものではなく、適当なPVD成膜法及びCVD成膜法を採用できるが、透明基材の耐熱性の観点から低温プロセスが好ましい。図3は、図1に示したNDフィルタの積層部分の作成に使用する真空蒸着装置の一例を示す模式的なブロック図である。図示する様に、本装置は真空チャンバ11を主体に構成されており、その上には膜厚モニタ12と膜厚制御器13が取り付けられている。チャンバ11内には処理対象となる基材を支持固定する基材ホルダ14と、膜厚測定用基材15と、蒸着源16とが組み込まれている。膜厚モニタ12は光源と分光器と受光器とを備えている。分光器から出射した光は膜厚測定用基材15に入射し、これから反射した光が受光器に入射し、その出力が膜厚制御器13に送られる。この様に、膜厚をリアルタイムでモニタすることにより、基材上に所望の厚みの光吸収膜や誘電体膜を成膜する様にしている。
【0019】
チャンバ11には真空計ゲージ部17、真空計制御部18、ガス導入ユニット19及び排気ユニット20が接続している。本実施例では、チャンバ11内の真空度を一定に保つ為に、APC方式を採用している。具体的には、真空計ゲージ部17及び真空計制御部18を介してフィードバックをかけ、ガス導入ユニット19を制御して、チャンバ11内に導入される混合ガスの量を調整している。但し、本発明はこれに限られるものではなく、導入量をニードルバルブにて一定に調整する方式を採用してもよい。
【0020】
図4は、図3に示した真空蒸着装置を用いて、図1に示したNDフィルタの積層部分を作成する場合の成膜条件を表わした表図である。図示する様に、基材温度は100℃としている。又、チャンバの到達真空度は1×10−3Paに設定している。ここで、光吸収膜3,5を成膜する為に、原料としてTiを用い、蒸着速度は0.5〜1.0nm/secに設定している。Tiを蒸着する際に導入する反応性ガスとして、本実施例では窒素と酸素を4:1で混合した空気を用いている。但し、本発明はこれに限られるものではなく、一般には酸素を50%以下の割合で含有する混合ガスが用いられる。例えば、OとNの混合ガスに代えてOとArの混合ガスを用いることができる。尚、酸素を含有した混合ガスを導入した場合の蒸着真空度は、3〜4×10−3Paに設定した。但し、本発明はこれに限られるものではなく、一般に1×10−3Pa〜1×10−2Paの間で一定に維持すれば良好な光学特性並びに物理特性を有し且つ金属とその飽和酸化物を主成分とし残余の低級酸化物の割合を抑制した光吸収膜を成膜することができる。次に、誘電体膜2,4,6を成膜する場合には、蒸着源としてSiOを用い、蒸着速度は0.5〜1.0nm/secに設定している。SiOを成膜する場合には特に反応性のガスを導入していない。本実施例では真空蒸着を用いて光吸収膜を形成している。これに代え、他のPVD成膜方法として、イオンプレーティング法、イオンアシスト法、スパッタ法など緻密な膜が形成できる手法を利用してもよい。
【0021】
図5は、図1に示したNDフィルタのうち保護膜となるカーボン膜の成膜に用いるプラズマCVD装置を示した模式的なブロック図である。図示する様に、本プラズマCVD装置は、チャンバ21とマスフローコントローラ(MFC)22a,22bと第一の電極23とRF電源24と第二の電極25と直流バイアス電源26とで構成されている。一対の電極23,25は互いに対向配置されており、いわゆる平行平板型プラズマCVD装置である。
【0022】
引き続き図5を参照して、炭素膜の成膜方法を説明する。あらかじめ、電極23の表面に、NDフィルタ0の半完成品をセットしておく。この状態で、チャンバ21内に原料ガスとしてCHを例えば100sccmの流量で供給し、さらに補助放電ガスとしてHeなどの希ガスを100sccmの流量で供給して、チャンバ21内の圧力を5Paに維持する。CHガス及び希ガスの流量はそれぞれマスフローコントローラ22a,22bにより調整する。
【0023】
そして、処理対象となるNDフィルタ0の半完成品が取り付けられた第一の電極23に、基材バイアス電圧として直流バイアス電源26から出力される−300Vの電圧を印加する。また、RF電源24から第二の電極25に周波数が13.56MHzの高周波電力を供給して、プラズマを発生させる。これにより、第二の電極25の近傍にプラズマが発生し、プラズマ中のC(カーボン)イオンがNDフィルタ0の半完成品側に移動して、その表面上に硬質のDLC膜が形成される。なお、補助放電ガスはHeに限定されるものではなく、希ガスであればよい。例えばNeや、HeとNeとの混合ガスを使用する事ができる。また、Arガスにこれよりも質量数が低い元素のガスを混合して、この混合ガスを補助放電ガスとして使用してもよい。
【0024】
図6は、上記のようにして作成されたNDフィルタの光学特性を示すグラフである。横軸に可視域の波長を取り、縦軸には反射率及び透過率の尺度を表す光量(%)を取ってある。グラフから明らかなように、本NDフィルタは可視域においてニュートラルな透過特性を示し、表面の反射率も低く抑えられたNDフィルタを作成する事ができた。さらに本NDフィルタを環境試験に投入したところ、非常に良好な耐久性を示すことがわかった。場合によっては、光吸収膜に含まれる低級酸化物など不安定な成分を安定化させるため、酸素雰囲気中で加熱処理などを行ってもよい。
【0025】
図7は、本NDフィルタをカメラ用光量絞り装置に適用した模式図である。一対に搭載されたうちの1枚を示した絞り羽根100の凹部にはNDフィルタ105が接着剤106または熱溶着などにより固設されている。絞り羽根100は駆動部103によりピン104の周りを回動して開口部101を開閉するように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明にかかるNDフィルタの層構成を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明にかかるNDフィルタの他の実施形態を示す模式的な断面図である。
【図3】本発明にかかるNDフィルタの作成に用いる真空蒸着装置を示す模式的なブロック図である。
【図4】本発明にかかるNDフィルタの成膜条件を示す表図である。
【図5】本発明にかかるNDフィルタの作成に用いる平行平板型CVD装置を示す模式的なブロック図である。
【図6】本発明にかかるNDフィルタの光学特性を示すグラフである。
【図7】本発明にかかるNDフィルタをカメラ用光量絞り装置に適用した模式図である。
【符号の説明】
【0027】
0・・・NDフィルタ、1・・・透明基材、2・・・誘電体膜、3・・・光吸収膜、4・・・誘電体膜、5・・・光吸収膜、6・・・誘電体膜、7・・・炭素膜、8・・・下地膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光吸収膜と誘電体膜を透明基材上に積層したNDフィルタにおいて、
前記積層の表面を被覆するように、炭素膜が形成されていることを特徴とするNDフィルタ。
【請求項2】
前記透明基材の裏面側にも炭素膜が形成されていることを特徴とする請求項1記載のNDフィルタ。
【請求項3】
前記炭素膜は、室温から150℃以下の成膜温度で形成されていることを特徴とする請求項1記載のNDフィルタ。
【請求項4】
前記光吸収膜は、金属と金属化合物の混合物からなり、金属の原料が、Ti,Cr,Ni,NiCr,NiFe及びNiTiから選択されることを特徴とする請求項1記載のNDフィルタ。
【請求項5】
前記誘電体膜はSiO又はAlを用いることを特徴とする請求項1記載のNDフィルタ。
【請求項6】
前記透明基材は、可視域において透明な樹脂製のフィルムからなることを特徴とする請求項1記載のNDフィルタ。
【請求項7】
請求項1乃至6記載のNDフィルタを用いた光量絞り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−84994(P2006−84994A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271713(P2004−271713)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000001225)日本電産コパル株式会社 (755)
【Fターム(参考)】