NK細胞の機能調節剤およびそのスクリーニング法
【課題】感染・腫瘍等に対する生体防御に重要な役割を担う、NK細胞の機能(サイトカイン/ケモカイン産生)を調節する、新しい作用機序を持つ薬剤、及びそのスクリーニング方法の提供。
【解決手段】NK細胞の活性化に関与する、CBM複合体の構成因子(例、Carma1、Bcl10)の発現又は機能を調節し得る物質を含む、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生の選択的な調節剤。被験物が、CBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節するか否かを評価することを含む、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生を選択的に調節し得る物質の、スクリーニング方法。及びCBM複合体の構成因子の発現又は機能が調節されたNK細胞。
【解決手段】NK細胞の活性化に関与する、CBM複合体の構成因子(例、Carma1、Bcl10)の発現又は機能を調節し得る物質を含む、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生の選択的な調節剤。被験物が、CBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節するか否かを評価することを含む、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生を選択的に調節し得る物質の、スクリーニング方法。及びCBM複合体の構成因子の発現又は機能が調節されたNK細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NK細胞におけるサイトカイン/ケモカイン産生の調節剤及びそのスクリーニング方法、CBM複合体の構成因子の発現又は機能が調節されたNK細胞等に関する。
【背景技術】
【0002】
NK細胞は、ウイルス感染細胞、腫瘍細胞、移植片などを直接認識して、細胞傷害性及びサイトカイン産生を示し、生体防御において重要な機能を担っていると考えられている細胞である。NK細胞は「自己」「非自己」を認識する多様なレセプターを発現しており、これにより標的細胞を認識して傷害する。
【0003】
ところで、1)免疫レセプターチロシンベース活性化モチーフ(Immunoreceptor tyrosine-based activation motif:ITAM)を含有する分子に会合するレセプターであるT細胞レセプター又はB細胞レセプターを介するシグナル伝達が、T細胞又はB細胞の全般的な活性化(例、細胞増殖亢進、液性因子の分泌亢進)の制御に関与し得ること、2)T細胞レセプター又はB細胞レセプターを介するシグナル伝達が、Carma1、Bcl10及びMalt1を含む複合体(CBM複合体)を経由して、上記の全般的な活性化を引き起こし得ることが報告されている(非特許文献1〜6参照)。
【非特許文献1】Gaide O et al., Nat Immunol. 2002 Sep; 3(9): 836-43
【非特許文献2】Wang D et al., Nat Immunol. 2002 Sep; 3(9): 830-5
【非特許文献3】Hara H et al., Immunity. 2003 Jun; 18(6): 763-75
【非特許文献4】Newton K et al., Curr Biol. 2003 Jul 15; 13(14): 1247-51
【非特許文献5】Egawa T et al., Curr Biol. 2003 Jul 15; 13(14): 1252-8
【非特許文献6】Hara H et al., J Exp Med. 2004 Nov 1; 200(9): 1167-77
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、新規作用機序を有する医薬及びそれらを開発し得る種々の手段などを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、予想外なことに、CBM複合体を経由するITAM含有分子会合レセプターを介するシグナル伝達が、NK細胞の特定の機能の制御にのみ関与し得ること、より詳細には、NK細胞では、CBM複合体が、ITAM含有分子会合レセプターを介するサイトカイン及び/又はケモカイン産生に関与し得るものの、ITAM含有分子会合レセプターを介する細胞傷害活性に関与し得ないことなどを見出した。従って、CBM複合体の構成因子の発現又は機能の調節により、NK細胞の特定の機能のみを調節することが可能になると考えられる。また、CBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節する物質のスクリーニングは、NK細胞の特定の機能のみの調節能を有する医薬等の開発などに有用であると考えられる。
【0006】
以上に基づき、本発明者らは、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は下記の通りである。
〔1〕被験物がCBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節するか否かを評価することを含む、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生を選択的に調節し得る物質のスクリーニング方法。
〔2〕該構成因子がCarma1又はBcl10である、上記〔1〕の方法。
〔3〕該サイトカイン及び/又はケモカイン産生が、NK細胞においてITAM含有分子会合レセプターにより媒介されるサイトカイン及び/又はケモカイン産生である、上記〔1〕又は〔2〕のスクリーニング方法。
〔4〕被験物が該構成因子の発現又は機能を抑制するか否かを評価することを含む、該サイトカイン及び/又はケモカイン産生を選択的に抑制し得る物質のスクリーニング方法である、上記〔1〕又は〔2〕の方法。
〔5〕被験物が該構成因子の発現又は機能を調節するか否かの評価が、a)被験物がCBM複合体の形成を調節するか否か、あるいはb)被験物がCarma1又はBcl10の発現を調節するか否かのいずれかを評価することにより行われる、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかの方法。
〔6〕スクリーニング方法がNK細胞を用いて行われる、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかの方法。
〔7〕該サイトカイン及び/又はケモカイン産生を選択的に調節し得る物質が、感染症、癌、炎症性疾患、免疫疾患、移植片拒絶反応又はアレルギー疾患の予防・治療薬である、上記〔1〕の方法。
〔8〕該サイトカイン及び/又はケモカイン産生を選択的に抑制し得る物質が、炎症性疾患、移植片拒絶反応、自己免疫疾患又はアレルギー疾患の予防・治療薬である、上記〔4〕の方法。
〔9〕該予防・治療薬が、さらに癌又は感染症に罹患している、又は罹患する危険性がある被験体に対する医薬である、上記〔7〕又は〔8〕の方法。
〔10〕CBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節し得る物質を含む、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生の選択的な調節剤。
〔11〕該構成因子の発現又は機能を抑制し得る物質を含む、該サイトカイン及び/又はケモカイン産生の選択的な抑制剤である、上記〔10〕の剤。
〔12〕CBM複合体の構成因子の発現又は機能が調節されたNK細胞。
〔13〕該NK細胞が、細胞傷害活性を保持しつつ、サイトカイン及び/又はケモカイン産生能が変更された細胞である、上記〔12〕のNK細胞。
【発明の効果】
【0007】
本発明の調節剤は、例えば、感染症、癌、炎症性疾患、免疫疾患(例、免疫不全症、自己免疫疾患)、移植片拒絶反応、アレルギー疾患等の種々の疾患に対する医薬として有用であり得る。
本発明のスクリーニング方法は、例えば、上述の疾患に対する医薬の開発に有用であり得る。
本発明のNK細胞は、例えば、上述の疾患の予防・治療薬の開発、上述の疾患の予防・治療のための細胞療法、NK細胞におけるサイトカイン/ケモカイン産生機構の解析、サイトカイン/ケモカイン産生調節遺伝子の探索に有用であり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生の選択的な調節剤を提供する。
【0009】
NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生の「選択的」な調節とは、NK細胞の細胞傷害活性を保持しつつ、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生を特異的に調節することをいう。同様に、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生の「選択的」な促進又は抑制(あるいは活性化又は阻害)とは、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生を特異的に促進又は抑制(あるいは活性化又は阻害)することをいう。
【0010】
本発明の剤は、CBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節し得る物質を含み得る。
【0011】
CBM複合体とは、その構成因子としてCarma1、Bcl10及びMalt1を含むタンパク質複合体を意味する。従って、CBM複合体の構成因子はこれらの因子であり得る。Carma1は、ヒトCarma1(例、GenBankアクセッション番号:AF322641参照)又はそのオルソログ、あるいはそれらの変異体であり得る。Bcl10は、ヒトBcl10(例、GenBankアクセッション番号:AF082283参照)又はそのオルソログ、あるいはそれらの変異体であり得る。Malt1は、ヒトMalt1(例、GenBankアクセッション番号:AB026118参照)又はそのオルソログ、あるいはそれらの変異体であり得る。Carma1、Bcl10及びMalt1のオルソログは特に限定されず、例えば非ヒト哺乳動物(例、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、サル、ウサギ、ラット、ハムスター、モルモット、マウス)に由来するものであり得る。Carma1、Bcl10及びMalt1はそれぞれ、CBM複合体の形成を通じて、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生を調節し得る限り、そのコードするアミノ酸配列において1以上(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1、2又は3個)のアミノ酸の変異(例、欠失、置換、付加、挿入)を有していてもよい(このようなタンパク質が、上記の「変異体」に該当する)。
【0012】
本発明の剤により選択的に調節され得るサイトカイン及び/又はケモカイン産生は、NK細胞においてITAM含有分子会合レセプターにより媒介されるサイトカイン及び/又はケモカイン産生であり得る。
【0013】
ITAM含有分子とは、免疫レセプターチロシンベース活性化モチーフ(Immunoreceptor tyrosine-based activation motif)を有する分子をいう。NK細胞は、このようなITAM含有分子を発現している。例えば、NK細胞に発現しているITAM含有分子としては、FcRγ、DAP12、CD3ζが挙げられる。
【0014】
ITAM含有分子会合レセプターとは、上述のITAM含有分子との直接的な相互作用を通じてそのシグナルを細胞内に導入し、当該細胞の生理機能を調節し得るレセプターを意味する。本発明では、NK細胞におけるITAM含有分子会合レセプターが意図される。NK細胞におけるITAM含有分子会合レセプターとしては、例えば、ヒト及びマウスについては、FcγR(CD16)(ヒト/マウス)、NK1.1(マウス)、NKG2D(ヒト/マウス)、Ly49D(マウス)、Ly49H(マウス)、CD94/NKG2C(ヒト/マウス)、KIR2DS1−S5(ヒト)、KIR3DS1(ヒト)、NKp30(ヒト)、NKp44(ヒト)、NKp46(ヒト)が挙げられる。FcγR、NK1.1、NKp30及びNKp46は、ITAM含有分子であるFcRγと会合し、NKG2D及びLy49H、Ly49D、KIR2DS1−S5、KIR3DS1、NKp44、CD94/NKG2Cは、DAP12と会合する。このようなレセプターに対するリガンドとしては、アゴニスト又はアンタゴニストを含む種々のリガンドが知られている。このようなリガンドとしては、例えば、IgG(CD16に対するリガンド)、抗NK1.1 F(ab’)2フラグメント(NK1.1に対するリガンド)、Rae1β−Fc(NKG2Dに対するリガンド)、抗Ly49D(Ly49Dに対するリガンド)が挙げられる。
【0015】
NK細胞において産生されるサイトカイン及び/又はケモカインは、ITAM含有分子会合レセプター又はその他のレセプター(例、IL−12レセプター、IL−18レセプター)による媒介により産生されるサイトカイン及び/又はケモカインであり得る。このようなサイトカインとしては、例えば、IFN−γ、TNF−α、GM−CSF、IL−1α、IL−1β、IL−8、IL−13が挙げられる。また、このようなケモカインとしては、例えば、MIP−1α、MIP−1β、RANTES、ATACが挙げられる。
【0016】
一実施形態では、本発明の剤は、サイトカイン及び/又はケモカイン産生の選択的な促進剤であり得る。この場合、本発明の剤は、CBM複合体の構成因子の発現又は機能を促進し得る物質を含み得る。
【0017】
CBM複合体の構成因子の発現とは、CBM複合体の構成因子をコードする遺伝子から翻訳産物(即ち、タンパク質)が産生され且つ機能的な状態でその作用部位に局在することをいう。従って、CBM複合体の構成因子の発現を促進する物質は、CBM複合体の構成因子の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾、局在化およびタンパク質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。なお、本明細書中で使用される場合、CBM複合体の構成因子の発現の促進としては、CBM複合体の構成因子(タンパク質)自体の補充をも含むものとする。
【0018】
CBM複合体の構成因子の発現又は機能を促進する物質としては、例えば、CBM複合体の構成因子(即ち、Carma1、Bcl10、Malt1)、PKCθ、PKCβ、TAK1、及びそれらの発現ベクターなどのCBM複合体の構成因子の発現を促進する物質、並びにCBM複合体の形成を促進する物質(例、PMA)などのCBM複合体の構成因子の機能を促進する物質が挙げられる。
【0019】
CBM複合体の構成因子は、天然タンパク質又は組換えタンパク質であり得る。CBM複合体の構成因子は、自体公知の方法により調製でき、例えば、a)CBM複合体の構成因子を含む生体試料から構成因子を回収してもよく、b)宿主細胞(例、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞)に構成因子の発現ベクター(後述)を導入することにより形質転換体を作製し、該形質転換体により産生される構成因子を回収してもよく、c)ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセート等を用いる無細胞系により構成因子を合成してもよい。CBM複合体の構成因子は、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィー、CBM複合体の構成因子抗体の使用などの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;これらを組合せた方法などにより適宜精製される。
【0020】
別の実施形態では、本発明の剤は、サイトカイン及び/又はケモカイン産生の選択的な抑制剤であり得る。この場合、本発明の剤は、CBM複合体の構成因子の発現又は機能を抑制し得る物質を含み得る。CBM複合体の構成因子の発現を抑制する物質は、CBM複合体の構成因子の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾、局在化およびタンパク質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。
【0021】
CBM複合体の構成因子の発現を抑制する物質としては、例えば、アンチセンス核酸(例、DNA、RNA、又は修飾ヌクレオチド、あるいはそれらのキメラ分子)、リボザイム、RNAi誘導性核酸(細胞内に導入されることによりRNAi効果を誘導し得るポリヌクレオチド、好ましくはRNA:例、siRNA)、アプタマー、並びにこれらをコードする核酸を含む発現ベクターが挙げられる。
【0022】
CBM複合体の構成因子の機能を抑制する物質としては、例えば、CBM複合体の形成を抑制する物質(例、抗体若しくはドミナントネガティブ変異体又はそれらの発現ベクター、あるいは低分子化合物)が挙げられる。
【0023】
CBM複合体の構成因子に対する抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよく、周知の免疫学的手法により作製できる。また、該抗体は、抗体のフラグメント(例、Fab、F(ab’)2)、組換え抗体(例、単鎖抗体)であってもよい。
【0024】
例えば、ポリクローナル抗体は、CBM複合体の構成因子あるいはそのフラグメント(必要に応じて、ウシ血清アルブミン、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)等のキャリアタンパク質に架橋した複合体とすることもできる)を抗原として、市販のアジュバント(例、完全又は不完全フロイントアジュバント)とともに、動物の皮下あるいは腹腔内に2〜3週間おきに2〜4回程度投与し(部分採血した血清の抗体価を公知の抗原抗体反応により測定し、その上昇を確認しておく)、最終免疫から約3〜約10日後に全血を採取して抗血清を精製することにより取得できる。抗原を投与する動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、モルモット、ハムスターなどの哺乳動物が挙げられる。
【0025】
また、モノクローナル抗体は、細胞融合法(例、渡邊武、細胞融合法の原理とモノクローナル抗体の作成、谷内昭、高橋利忠編、「モノクローナル抗体とがん―基礎と臨床―」、第2-14頁、サイエンスフォーラム出版、1985年)により作成することができる。例えば、マウスに該因子を市販のアジュバントと共に2〜4回皮下あるいは腹腔内に投与し、最終投与の約3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、白血球を採取する。この白血球と骨髄腫細胞(例、NS-1、P3X63Ag8など)を細胞融合して該因子に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。細胞融合はPEG法[J. Immunol. Methods,81(2): 223-228 (1985)]でも電圧パルス法[Hybridoma, 7(6): 627-633 (1988)]であってもよい。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIA又はRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、又はマウスもしくはラット、好ましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清および動物の腹水から取得できる。
【0026】
しかしながら、ヒトにおける治療効果と安全性を考慮すると、本発明の抗体は、キメラ抗体、ヒト化又はヒト型抗体であってもよい。キメラ抗体は、例えば「実験医学(臨時増刊号), Vol.6, No.10, 1988」、特公平3-73280号公報等を、ヒト化抗体は、例えば特表平4-506458号公報、特開昭62-296890号公報等を、ヒト抗体は、例えば「Nature Genetics, Vol.15, p.146-156, 1997」、「Nature Genetics, Vol.7, p.13-21, 1994」、特表平4-504365号公報、国際出願公開WO94/25585号公報、「日経サイエンス、6月号、第40〜第50頁、1995年」、「Nature, Vol.368, p.856-859, 1994」、特表平6-500233号公報等を参考にそれぞれ作製することができる。
【0027】
CBM複合体の構成因子のドミナントネガティブ変異体は、CBM複合体の構成因子に対する変異の導入によりその活性が低減したものである。該ドミナントネガティブ変異体は、天然のCBM複合体の構成因子と競合することで間接的にその機能を阻害することができる。変異としては、例えば、機能性部位における、当該部位が担う機能の低下をもたらすようなアミノ酸の変異(例、1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加)が挙げられる。例えば、CBM複合体の構成因子のドミナントネガティブ変異体としては、既報のものを使用することができる(例、Bertin J et al., J. Biol. Chem., vol.276, p.11877-11882, 2001; Pomerantz JL et al., EMBO J., vol.21, p.5184-5194, 2002; Lucas PC et al., J. Biol. Chem., vol.276, 19012-19012, 2002参照)。
【0028】
CBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節する物質が、核酸分子又はタンパク質分子である場合、本発明の剤は、核酸分子又はタンパク質分子をコードする核酸分子を含む発現ベクターを有効成分とすることもできる。当該発現ベクターは、上記の核酸分子をコードするオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドが、投与対象である哺乳動物の細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されていなければならない。本発明の発現ベクターが含み得るプロモーターは、その制御下にある因子の発現を可能とする限り特に限定されず、因子の種類により適宜選択され得るが、例えば、polIIIプロモーター(例、tRNAプロモーター、U6プロモーター、H1プロモーター)、哺乳動物用プロモーター(例、CMVプロモーター、CAGプロモーター、SV40プロモーター)が挙げられる。また、使用されるプロモーターとしては、NK細胞に特異的なプロモーター(例、lckプロモーター、Pmed1プロモーター)を用いてもよい。
【0029】
発現ベクターは、好ましくは核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含む。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含むこともできる。
【0030】
発現ベクターとして使用される基本骨格のベクターは、プラスミド又はウイルスベクターであり得るが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0031】
本発明の剤は、CBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節する物質に加え、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0032】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤又は錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤、あるいは散剤、顆粒剤等である。
【0033】
非経口的な投与(例、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解又は懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0034】
本発明の剤の投与量は、有効成分の活性や種類、投与様式(例、経口、非経口)、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001mg〜約5.0gである。
【0035】
本発明の剤は、例えば、医薬として有用である。本発明の剤が医薬として使用される場合、感染症、癌、炎症性疾患、免疫疾患(例、免疫不全症、自己免疫疾患)、移植片拒絶反応、アレルギー疾患等の種々の疾患の予防・治療に使用し得る。
【0036】
詳細には、CBM複合体の構成因子の発現又は機能を促進する物質を含む本発明の促進剤は、サイトカイン及び/又はケモカイン産生の促進が所望される疾患の予防・治療、又は状態の改善に使用され得る。サイトカイン及び/又はケモカイン産生の促進が所望される疾患又は状態としては、例えば、感染症(例、エイズ、C型肝炎等のウイルス感染症、寄生虫感染症、脳脊髄膜炎等の細菌感染症)、癌、免疫不全症が挙げられる。本発明の促進剤はまた、NK細胞の細胞傷害活性を保持しつつ、サイトカイン及び/又はケモカイン産生を促進することが所望される被験体に好適に使用し得る。このような被験体としては、例えば、上記疾患又は状態の2以上を併発している、又は併発する危険性がある被験体が挙げられる。以下、必要に応じて、本発明の促進剤が対象とする疾患又は状態を「疾患又は状態I」と省略する。
【0037】
一方、CBM複合体の構成因子の発現又は機能を抑制する物質を含む本発明の抑制剤は、サイトカイン及び/又はケモカイン産生の抑制が所望される疾患の予防・治療、又は状態の改善に使用され得る。サイトカイン及び/又はケモカイン産生の抑制が所望される疾患又は状態としては、例えば、炎症性疾患(例、乾癬、リウマチ性関節炎等の慢性炎症性疾患:例、Ottaviani C. et al., Eur. J. Immunol., 36: 118 (2006)参照)、肝臓移植等の移植における移植片拒絶反応(例、Obara H. et al., American Jouanal of Transplantation, 5: 2094 (2005)参照)、自己免疫疾患、アレルギー疾患が挙げられる。本発明の抑制剤はまた、NK細胞の細胞傷害活性を保持しつつ、サイトカイン及び/又はケモカイン産生を抑制することが所望される被験体に好適に使用し得る。このような被験体としては、例えば、上記疾患又は状態に加え、癌又は感染症(例、上述の感染症)を併発している、又は併発する危険性がある被験体が挙げられる。以下、必要に応じて、本発明の抑制剤が対象とする疾患又は状態を「疾患又は状態II」と省略する。
【0038】
本発明はまた、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生を選択的に調節し得る物質のスクリーニング方法を提供する。
【0039】
スクリーニング方法に供される被験物は、いかなる化合物又は組成物であってもよく、例えば、核酸(例、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド)、糖質(例、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖)、脂質(例、飽和又は不飽和の直鎖、分岐鎖及び/又は環を含む脂肪酸)、アミノ酸、タンパク質(例、オリゴペプチド、ポリペプチド)、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリ、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリ、天然成分(例、微生物、動植物、海洋生物等由来の成分)、あるいは食品、飲料水等が挙げられる。
【0040】
本発明のスクリーニング方法は、被験物がCBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節し得るか否かを評価可能である限り、如何なる形態でも行われ得る。例えば、本発明のスクリーニング方法では、細胞、動物又は再構成系を用いて、CBM複合体の構成因子の発現又は機能が評価され得る。本発明のスクリーニング方法では、必要に応じて、ITAM含有分子会合レセプターに対するリガンド(例、上述のリガンド)で処理された細胞、動物が用いられ得る(後述の方法論でも同様)。
【0041】
より詳細には、CBM複合体の構成因子の発現を評価するスクリーニング方法(方法論I)は、例えば、下記の工程(a)〜(d)を含み得る:
(a)被験物をCBM複合体の構成因子の発現を解析可能な細胞に接触させる工程;
(b)被験物を接触させた細胞におけるCBM複合体の構成因子の発現量を測定する工程;
(c)該発現量を、被験物を接触させない対照細胞におけるCBM複合体の構成因子の発現量と比較する工程;
(d)上記(c)の比較結果に基づいて、CBM複合体の構成因子の発現量を調節する被験物を選択する工程。
【0042】
方法論Iの工程(a)では、被験物がCBM複合体の構成因子の発現を解析可能な細胞と接触条件下におかれる。CBM複合体の構成因子の発現を解析可能な細胞に対する被験物の接触は、培地中で行われ得る。
【0043】
CBM複合体の構成因子の発現を解析可能な細胞とは、CBM複合体の構成因子の産物(例、転写産物、翻訳産物)の発現レベルを直接的又は間接的に評価可能な細胞をいう。CBM複合体の構成因子の産物の発現レベルを直接的に評価可能な細胞は、CBM複合体の構成因子の発現細胞であり得、一方、CBM複合体の構成因子の産物の発現レベルを間接的に評価可能な細胞は、CBM複合体の構成因子遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞であり得る。
【0044】
CBM複合体の構成因子の発現細胞は、CBM複合体の構成因子を潜在的に発現するものである限り特に限定されず、例えば、免疫細胞(例、NK細胞、T細胞、B細胞)が挙げられるが、NK細胞が好ましい。
【0045】
CBM複合体の構成因子をコードする遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、CBM複合体の構成因子をコードする遺伝子の転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む細胞である。CBM複合体の構成因子遺伝子の転写調節領域は、CBM複合体の構成因子の発現を制御し得る領域である限り特に限定されないが、例えば、各CBM複合体の構成因子をコードする遺伝子の転写開始点から上流約2kbpまでの領域、あるいは該領域の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つこれらのCBM複合体の構成因子の転写を制御する能力を有する領域などが挙げられる。レポーター遺伝子は、検出可能なタンパク質又は検出可能な物質を生成する酵素をコードする遺伝子であればよく、例えばGFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、LUC(ルシフェラーゼ)遺伝子、CAT(クロラムフェニコルアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子等が挙げられる。
【0046】
CBM複合体の構成因子遺伝子の転写調節領域、及び当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子が導入される細胞は、CBM複合体の構成因子遺伝子の転写調節機能を評価できる限り、即ち、該レポーター遺伝子の発現量が定量的に解析可能である限り特に限定されない。しかしながら、CBM複合体の構成因子に対する生理的な転写調節因子を発現し、CBM複合体の構成因子の発現調節の評価により適切であると考えられることから、該導入される細胞としては、CBM複合体の構成因子の発現細胞が好ましい。
【0047】
被験物とCBM複合体の構成因子の発現を解析可能な細胞とが接触される培地は、用いられる細胞の種類などに応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件もまた、用いられる細胞の種類などに応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
【0048】
方法論Iの工程(b)では、被験物を接触させた細胞におけるCBM複合体の構成因子の発現量が測定される。発現量の測定は、用いた細胞の種類などを考慮し、上述した自体公知の方法により行われ得る。また、CBM複合体の構成因子の発現を解析可能な細胞として、CBM複合体の構成因子転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞を用いた場合、発現量は、レポーターのシグナル強度に基づき測定され得る。
【0049】
方法論Iの工程(c)では、被験物を接触させた細胞におけるCBM複合体の構成因子の発現量が、被験物を接触させない対照細胞におけるCBM複合体の構成因子の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物を接触させない対照細胞におけるCBM複合体の構成因子の発現量は、被験物を接触させた細胞におけるCBM複合体の構成因子の発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【0050】
方法論Iの工程(d)では、CBM複合体の構成因子の発現を調節する被験物が選択される。例えば、CBM複合体の構成因子の発現を促進する(発現量を増加させる)被験物は、上述の「疾患又は状態I」の予防、治療又は改善に有用である。一方、CBM複合体の構成因子の発現を抑制する(発現量を減少させる)被験物は、例えば、上述の「疾患又は状態II」の予防、治療又は改善に有用である。
【0051】
CBM複合体の構成因子の機能を評価するスクリーニング方法(方法論II)は、例えば、下記の工程(a)〜(d)を含み得る:
(a)被験物をCBM複合体の2以上の構成因子に接触させる工程;
(b)被験物を接触させた場合に形成されたCBM複合体量を測定する工程;
(c)該複合体量を、被験物を接触させない場合に形成されたCBM複合体量と比較する工程;
(d)上記(c)の比較結果に基づいて、CBM複合体量を調節する被験物を選択する工程。
【0052】
方法論IIの工程(a)では、被験物がCBM複合体の2以上の構成因子と接触条件下におかれる。本工程では、CBM複合体のうち、互いに結合能を有する2以上の因子(例、Carma1、Bcl10)、又は3つの因子が再構成系において用いられ得る。CBM複合体の構成因子は自体公知の方法により調製できる。例えば、CBM複合体の構成因子の発現組織から単離・精製できる。しかしながら、迅速、容易かつ大量に構成因子を調製し、また、ヒト構成因子を調製するためには、遺伝子組換え技術により組換えタンパク質を調製するのが好ましい。組換えタンパク質は、細胞系、無細胞系のいずれで調製したものでもよい。
【0053】
方法論IIの工程(a)はまた、CBM複合体の構成因子の発現細胞に被験物質を接触させることにより行われ得る。この場合、発現細胞としては、CBM複合体の2以上の構成因子がそれぞれ異なる蛍光タンパク質と融合したタンパク質を発現するものが好適に使用され得る。
【0054】
方法論IIの工程(b)では、複合体量の測定は、自体公知の方法により行われ得る。例えば、測定は、表面プラズモン共鳴を利用する方法(例、Biacoreの使用)、免疫沈降法などにより行われ得る。あるいは、測定は、共焦点顕微鏡下で行われ得る。
【0055】
方法論IIの工程(c)では、被験物を接触させた場合に形成されたCBM複合体量が、被験物を接触させない場合に形成されたCBM複合体量と比較される。複合体量の比較は、例えば、方法論Iで上述したような有意差の有無に基づいて行なわれる。
【0056】
方法論IIの工程(d)では、CBM複合体量を調節する被験物が選択される。例えば、CBM複合体量を増加させる(CBM複合体の構成因子の機能を促進する)被験物は、例えば、上述の「疾患又は状態I」の予防、治療又は改善に有用である。一方、CBM複合体量を減少させる(CBM複合体の構成因子の機能を抑制する)被験物は、例えば、上述の「疾患又は状態II」の予防、治療又は改善に有用である。
【0057】
また、本発明のスクリーニング方法は、以下の工程を含むものであり得る(方法論III):
(a)被験物を動物に投与する工程;
(b)被験物を投与した動物におけるCBM複合体の構成因子の発現又は機能を測定する工程;
(c)該発現又は機能を、被験物を投与しない対象動物におけるCBM複合体の構成因子の発現又は機能と比較する工程;
(d)上記(c)の比較結果に基づいて、CBM複合体量を調節する被験物を選択する工程。
【0058】
方法論IIIで用いられ得る動物は、上述の哺乳動物であり得る。方法論IIIの工程(a)における被験物の動物への投与は、自体公知の方法により行うことができる。また、方法論IIIの工程(b)〜(d)は、方法論I及びIIと同様にして行うことができる。
【0059】
本発明はまた、CBM複合体の1以上の構成因子の発現又は機能が調節されたNK細胞を提供する。
【0060】
本発明の細胞は、単離及び/又は精製されたものであり得る。本発明の細胞は、CBM複合体の1以上(例、1、2又は3)の構成因子の発現又は機能の調節(例、促進、抑制)により、サイトカイン及び/又はケモカイン産生が選択的に調節された細胞であり得る。本発明の細胞は、CBM複合体の1以上の構成因子の発現が一過的に調節された細胞、又は当該発現が恒常的に調節された細胞(例、ホモ接合性又はヘテロ接合性欠損細胞、あるいはゲノムに遺伝子が導入された細胞等のゲノム改変細胞)であり得る。本発明の細胞は形質転換体又は非形質転換体であり得る。本発明の細胞はまた、ITAM含有分子会合レセプターに対するリガンドで処理された、又は処理されていない細胞であり得る。
【0061】
本発明の細胞は、例えば、CBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節し得る物質でNK細胞を処理することにより作製できる。本発明の細胞はまた、遺伝子導入動物又は遺伝子欠損(いわゆるノックアウト)動物からNK細胞を単離及び/又は精製することにより、あるいはNK細胞の前駆細胞を単離及び/又は精製し、次いでこの前駆細胞をNK細胞に分化させることにより作製できる。例えば、Carma1ノックアウト動物(例、Hara H et al., Immunity, vol.18, p.763-775, 2003参照)、Bcl10ノックアウト動物(例、Ruland J et al. Cell, vol.104, p.33-42, 2001参照)、Malt1ノックウアウト動物(例、Ruefli-Brasse et al., Science, vol. 302, p.1581-1584, 2003参照)が公知であるので、本発明では、このような動物から本発明の細胞を調製できる。また、これらの動物を交配させ、多重ノックアウト動物を作出した後、この多重ノックアウト動物からNK細胞を得ることもできる。
【0062】
本発明の細胞は、例えば、a)上述の疾患又は状態の予防、治療及び/又は改善薬の開発(例、本発明のスクリーニング方法での使用)、b)上述の疾患又は状態の予防、治療及び/又は改善のための細胞療法、c)NK細胞におけるサイトカイン/ケモカイン産生機構の解析、d)サイトカイン/ケモカイン産生調節遺伝子の探索などに有用であり得る。
【0063】
本明細書中で挙げられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0064】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0065】
実施例1:Carma1はNK細胞分化に重要ではない
本発明者らは、野生型(Wt)及びCarma1−/−マウス由来のNK細胞の分化及び表現型を調べた。Carma1−/−マウスの骨髄、肝臓及び脾臓における成熟NK1.1+DX5+NK細胞の百分率(図1A、左)、並びに脾臓におけるCD3−NK1.1+NK細胞の絶対数(図1B)は、Wtコントロールマウスと比較して有意に変化しなかった。成熟NK細胞は、インテグリン、Ly49、C型レクチンファミリーレセプター、NKG2ファミリーレセプター、CD43、2B4及びCD122を含む、種々の表面レセプターを発現する。幾つかのレセプター(例、Mac1及びLy49)は、NK細胞の成熟プロセスの間に調節される。図1Aに示されるように、脾臓CD3−NK1.1+NK細胞内のMac1high細胞の百分率及び数は、WtマウスとCarma1−/−マウスとの間で同等であった(図1A、右)。さらに、Ly−49レセプター及びNKG2A/C/E/D、並びに他の7つの異なるNKマーカーの発現は、Carma1欠損により有意に影響されなかった(表1)。これらの結果は、Carma1がNK細胞の分化及び表現型の成熟に必須でないことを示す。
【0066】
【表1】
【0067】
実施例2:Carma1は、ITAM含有分子会合レセプターにより誘導されるNK細胞の細胞傷害性に重要ではない
NK細胞機能におけるCarma1の役割は全くの未知である。先ず、本発明者らは、WtNK細胞とCarma1−/−NK細胞(Wt及びCarma1−/−マウスの脾細胞からの濃縮NK細胞を、IL−15を用いて7日間増殖させたものを使用)との間のパーフォリン及びグランザイムの発現レベルをRT−PCR解析により比較した。Carma1−/−マウスにおける正常なNK細胞の分化の結果と一致して、Carma1−/−NK細胞のパーフォリン及びグランザイムBの転写レベルは、WtNK細胞のものと同等であった(図2A)。次に、本発明者らは、NK感受性標的Yac1細胞及びNK耐性標的P815細胞に対するIL−15増殖性NK細胞の天然の細胞傷害性を51Cr放出アッセイにより調べた。本発明者らは、Carma1の欠落がこれらの標的に対する細胞傷害性に影響しないことを見出した(図2B)。同様の結果が、新鮮に単離されたNK細胞を用いて得られた(データ示さず)。Carma1は、「ITAM含有分子」に会合するTCR及びBCRを介するシグナル伝達に必須である。NK細胞は、リガンド発現標的細胞に対するNK細胞の細胞傷害性を誘導し得る種々のITAM含有分子会合レセプターを発現することから、本発明者らは、これらのレセプターにより媒介されるNK細胞の細胞傷害性を調べた。本発明者らが試験したレセプターは、FcRγと会合するFcγR(CD16)及びNK1.1、並びにDAP12及び/又はDAP10と会合するLy49H及びNKG2Dであった。FcγR誘導性細胞傷害性を、表面ビオチン化され、かつ抗ビオチンAbでコーティングされているBa/F3細胞に対する抗体依存性細胞媒介細胞傷害性(ADCC)を用いて51Cr放出アッセイにより調べた。また、NK1.1媒介細胞傷害性を、抗NK1.1mAbによるFcR+P815細胞に対する逆ADCCを用いて51Cr放出アッセイにより試験した。さらに、Ly49H及びNKG2D媒介細胞傷害性を、標的細胞としてそれらの各リガンドm157及びRae1βを発現しているBa/F3細胞を用いて51Cr放出アッセイにより試験した。全ての場合において、これらのレセプターにより誘導されるIL−15増殖性Carma1−/−NK細胞の細胞傷害性は、WtNK細胞と比較して、有意に損なわれなかった(図2C〜F)。これらの結果は、Carma1がこれらのITAM含有分子会合レセプターを介する刺激によるNK細胞の細胞傷害性の誘導に必須ではないことを示す。
【0068】
実施例3:Carma1は、ITAM含有分子会合レセプター媒介サイトカイン/ケモカイン産生に必須である
本発明者らは以前に、Carma1がTリンパ球におけるTCR誘導性IL−2及びIFN−γ産生に必須であることを報告した。ITAM含有分子会合レセプターを介するNK細胞による標的細胞の認識は、IFN−γ、GM−CSF及びTNF−αを含む炎症性サイトカインを誘導する。従って、本発明者らは、Carma1の損失がNK細胞のサイトカイン産生に影響するかどうかを試験した。CD16及びNK1.1がFcRγと会合するのに対し、NKG2D及びLy49DがITAM含有分子としてDAP12と会合し、そしてNKG2Dもまた、PI3K結合についてのYxxMモチーフを含有するDAP10と会合する。Wt及びCarma1−/−マウスの脾細胞からの精製IL−15増殖性NK細胞を、FcRブロッカー(可溶性抗CD16mAb、10μg/ml)の存在又は不在下において示された量の固定化マウスIgG、抗NK1.1mAbの固定化F(ab’)2フラグメント、あるいはFcRブロッカーの存在下において固定化Rae1β−Fc又はコントロールヒトIgG、あるいはFcRブロッカーの存在下において20μg/mlの固定化抗Ly49DmAb又はコントロールラットIgG、あるいはPMA(10ng/ml)+カルシウムイオノフォア(1μM)を用いて刺激した。刺激24時間後に、培養上清中のIFN−γ、TNF−α及びGM−CSFを、ELISAにより測定した。また、抗NK1.1mAbの固定化F(ab’)2フラグメント(5μg/ml)による3時間刺激後に、IFN−γ、TNF−α及びGM−CSFの転写物のリアルタイムPCRを行った。さらに、NK細胞をIL−18(5ng/ml)、IL−12(1ng/ml)、又はIL−12+IL−18で刺激した。刺激24時間後の上清中のIFN−γをELISAにより測定した。その結果、固定化されたマウスIgG(CD16に対するリガンド、図3A)、抗NK1.1 F(ab’)2フラグメント(図3B)、Rae1β−Fc(図3C)又は抗Ly49D(図3D)を用いた刺激は、Carma1−/−NK細胞において、IFN−γ、TNF−α及びGM−CSF産生における劇的な低下を示した。これらの欠陥は、高用量の活性化刺激でさえも克服され得なかった。このことは、Carma1がNK細胞におけるFcRγ並びにDap12又は/及びDAP10媒介サイトカイン産生に重要であることを示唆する。さらに、PMA+カルシウムイオノフォアに応答するサイトカイン産生もまた、Carma1−/−NK細胞において損なわれた(図3E)。このことは、Carma1がPKCの下流で機能することを示す。定量的RT−PCR解析は、NK1.1刺激後のサイトカインのmRNA発現が、Carma1−/−NK細胞では著明に減少することを示した。このことは、サイトカイン産生の不全が転写レベルで調節されることを示唆する(図3F)。ITAM含有分子会合レセプター刺激とは対照的に、IL−12及びIL−18誘導性サイトカン産生は、WtNK細胞とCarma1−/−NK細胞との間で同等であった(図3G)。このことは、Carma1−/−NK細胞がサイトカンを産生し得ること、並びにこの欠陥がITAM含有分子会合レセプターを介して特異的に誘導されることを示す。
【0069】
NK細胞は、炎症性サイトカインの強力な供給源である。NK細胞上のITAM含有分子会合レセプターの架橋によって、エフェクター細胞を免疫応答の部位にリクルートするために重要である、CC−ケモカイン(マクロファージ炎症性タンパク質1α(MIP−1α)、MIP−1β及びRANTESを含む)の豊富な産生を誘導することが報告されている。従って、本発明者らは、Carma1の損失がNK細胞のCC−ケモカイン産生に影響するかどうかを試験した。Wt及びCarma1−/−マウスの脾細胞からの精製及びIL−15増殖性NK細胞を、示された量の固定化マウスIgG、抗NK1.1mAbの固定化F(ab’)2フラグメント、あるいはFcRブロッカー(可溶性α−CD16mAb、10μg/ml)の存在下において固定化Rae1β−Fc又はコントロールヒトIgG、あるいはFcRブロッカーの存在下において20μg/mlの固定化抗Ly49DmAb又はコントロールラットIgG、PMA(10ng/ml)+カルシウムイオノフォア(1μM)、あるいはIL−18(5ng/ml)+IL−12(1ng/ml)を用いて刺激した。刺激24時間後に、培養上清中のMIP−1α、MIP−1β、及びRANTESをELISAにより測定した。その結果、サイトカイン産生と同様に、Carma1−/−NK細胞は、FcRγ会合レセプターであるCD16及びNK1.1(それぞれ、図4A及びB)、DAP12/DAP−10会合レセプターであるNKG2D及びLy49D(それぞれ、図4C及びD)、並びにPKC活性化(PMA+カルシウムイオノフォア、図4E)を介する刺激後に、MIP−1α、MIP−1β及びTANTESの産生の重篤な不全を示した。対照的に、Carma1−/−NK細胞によるこれらのケモカイン産生は、IL−12、IL−18(データ示さず)、あるいはIL−12+IL−18(図4F)により正常に誘導された。
【0070】
まとめると、これらの結果は、Carma1が、PKC活性化の「下流」で機能すること、並びにNK細胞において、ITAM含有分子会合レセプターを介する刺激の際のサイトカイン及びケモカイン産生に重要であり、IL−12R及びIL−18Rによるサイトカイン及びケモカイン産生には重要でないことを示す。
【0071】
実施例4:Card9ではなく、Bcl10が、ITAM含有分子会合レセプター誘導性サイトカイン/ケモカイン産生に必須である
Bcl10との複合体形成は、Carma1がリンパ球における抗原レセプターシグナル伝達で機能するために重要である。しかしながら、NK細胞におけるCarma1媒介シグナル伝達経路におけるBcl10の関与は未知である。従って、本発明者らは、Bcl10−/−マウスのNK細胞の機能を解析した。Bcl10+/−及びBcl10−/−マウスの脾細胞からの濃縮NK細胞を、IL−15を用いて7日間増殖させ、そして51Cr放出アッセイにより、Yac1又はP815標的細胞に対する細胞溶解活性について、並びに抗ビオチンAb又はコントロールIgGの存在下における表面ビオチン化BaF3標的細胞に対するADCCについて試験した。また、Bcl10+/−及びBcl10−/−マウスからのIL−15増殖性NK細胞を、10μg/mlの固定化抗CD16(2.4G2)、抗NK1.1mAbの固定化F(ab’)2フラグメント(10μg/ml)、FcRブロッカー(可溶性抗CD16mAb、10μg/ml)の存在下において10μg/mlの固定化Rae1β−Fc又はコントロールヒトIgG、FcR−ブロッカーの存在下において20μgの固定化抗Ly49DmAb又はコントロールラットIgG、PMA(10ng/ml)+カルシウムイオノフォア(1μM)、あるいは10ng/mlのIL−18を用いて刺激した。24時間の刺激後、培養上清中のIFN−γ及びMIP−1βを、ELISAにより測定した。その結果、Yac−1及びP815標的細胞に対する細胞傷害性(図5A)、並びにAbコーティングBa/F3細胞に対するADCC(図5B)は、Bcl10−/−NK細胞とBcl10+/−NK細胞との間で同等であった。対照的に、ITAM含有分子会合レセプターであるCD16、NK1.1、NKG2D及びLy49D(それぞれ、図5C〜F)、あるいはPMA+カルシウムイオノフォア(図5G)の刺激の際のサイトカイン及びケモカイン産生は、Bcl10−/−マウスにより著しく損なわれた。この不全は、ITAM含有分子会合レセプター特異的であるようである。なぜなら、IL−18媒介IFN−γ産生は、Bcl10欠損により影響されないからである(図5H)。従って、Bcl10は、NK細胞におけるITAM含有分子会合レセプター媒介サイトカイン及びケモカイン産生に重要に関与し、細胞傷害性に重要に関与しない。
【0072】
デクチン−1(ITAM含有レセプター:それ自身がITAMを保有)は、真菌成分であるザイモサン(zymosan)に対する主要な哺乳動物パターン認識レセプターである。最近、別のCARDファミリータンパク質であるCard9がBcl10とカップリングし、サイトカイン産生及び自然(innate)な抗真菌免疫のために、骨髄細胞のデクチン−1媒介活性化を制御することが示された。従って、Card9は、Carma1及びBcl10と共に、NK細胞のITAM含有分子会合レセプター媒介活性化に関与するのかもしれない。この疑問に注目するため、本発明者らは、Card9欠損(Card9−/−)マウスを作出した。Card9のヌル変異を、Card9タンパク質の欠落により確認した(データ示さず)。NK細胞の分化は、Card9−/−マウスにおいて正常であるようであった(データ示さず)。図5Iに示されるように、Card9−/−マウス由来のNK細胞は、抗CD16並びにIL−12+IL−18での刺激後にIFN−γ産生を正常に誘導した。
【0073】
これらの結果は、Carma1/Bcl10複合体が、NK細胞におけるITAM媒介シグナルをサイトカイン及びケモカイン遺伝子発現に中継することを示唆する。
【0074】
実施例5:Carma1は、ITAM含有分子会合レセプター媒介NF−κB活性化を調節する
Carma1−/−及びBcl10−/−NK細胞におけるケモカイン/サイトカイン産生の機能的欠陥についての分子機構を同定するため、本発明者らは、ITAM含有分子会合レセプターの下流のシグナル伝達経路を解析した。先ず、細胞傷害性を誘導するシグナル経路を試験するため、抗CD16mAbを用いたFcγRの架橋により刺激された、Wt及びCarma1−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞における総チロシンリン酸化及びVav1のリン酸化レベルを測定した。また、Indo−1−AMロードNK細胞を抗NK1.1mAb又は抗NKG2DmAbで刺激し、FL5/FL4蛍光を200秒間モニターした。さらに、NK細胞をYac1細胞を用いて1時間インキュベートし、脱顆粒細胞におけるLAMP1/2の表面発現をフローサイトメトリにより検出した。その結果、Wt及びCarma1−/−NK細胞は、α−CD16刺激後に同等の総チロシンリン酸化を示した(図6A)。細胞内カルシウム動員は、パーフォリン依存性のNK細胞の細胞傷害性につながる初期事象であり、Vav1はCD16及びNKG2Dの双方の刺激後にリン酸化され、NK細胞におけるERKの活性化及び細胞傷害性顆粒のエキソサイトーシスを制御する。本発明者らは、Vav1リン酸化(図6B)及び抗CD16刺激後のカルシウム動員(図6C)もまたWtNK細胞とCarma1−/−NK細胞との間で同等であることを見出した。さらに、リソソームタンパク質LAMP−1/2の細胞表面発現の誘導はNK細胞の脱顆粒と相関することが知られており、それは、Carma1−/−NK細胞におけるYac1標的細胞とのインキュベーション後に正常に誘導された(図6D)。従って、Carma1の損失は、NK細胞の細胞傷害性に必要とされるITAM含有分子会合レセプター誘導性近位シグナル伝達事象に影響しない。これは、実施例2の結果を支持する。
【0075】
第2に、本発明者らは、MAPK活性化を解析した。なぜなら、ERK、JNK及びp38は、NK細胞におけるサイトカイン及びケモカイン遺伝子発現の調節に関与することが示されているからである。本発明者らの以前の報告は、TCR及びBCR媒介JNK活性化がCarma1−/−T及びBリンパ球で損なわれることを示した。そこで、本発明者らは、抗CD16mAbを用いたFcγRの架橋による刺激の際のWt及びCarma1−/−NK細胞におけるMAPK(ERK、JNK及びp38)の活性化を試験した。しかしながら、α−CD16によるCarma1+/+及びCarma1−/−NK細胞の刺激は、ERK、JNK、及びp38のリン酸化に如何なるみかけ上の差異も示さなかった(図7A)。このことは、Carma1がNK細胞におけるMAPK活性化に関与しないことを示す。
【0076】
第3に、Carma1/Bcl10複合体は、T及びBリンパ球において抗原レセプターをNF−κB活性化にカップリングするために必須であるため、本発明者らは、NK細胞において、ITAM含有分子会合レセプター誘導NF−κBシグナル伝達におけるCarma1の役割を、IκB分解及びNF−κBのDNA結合活性を解析することにより調べた。NF−κBの結合活性は以下の通り調べた。即ち、核抽出液を、固定化抗CD16mAb(10mg/ml)を用いて示された期間にわたり、あるいはIL−18(10ng/ml)を用いて8時間にわたり刺激されたWt及びCarma1−/−NK細胞から調製し、NF−κBの結合活性を、核因子NF−κB p65キット(BD)を用いて評価した。その結果、I−κBαの分解は、α−CD16刺激に応答するCarma1−/−NK細胞では損なわれた(図7B)。同様の不全が、Bcl10−/−NK細胞において観察された(データ示さず)。一致して、p65含有NF−κB複合体のDNA結合活性が、α−CD16刺激後のCarma1−/−NK細胞の核において著明に減少した(図7C)。対照的に、IκBα分解及びNF−κBのDNA結合活性の不全は、Carma1−/−NK細胞をTNFα又はIL−18で刺激した場合に観察されなかった(図7D〜G)。従って、Carma1は、他のNF−κB活性化レセプターではなくITAM含有分子会合レセプターを介する刺激の際にNF−κB活性化を選択的に誘導する。
【0077】
以前に、本発明者らは、Carma1がT及びB細胞においてPKCの下流で作用し、PKC刺激をNF−κB活性化へと媒介することを示した。興味深いことに、Carma1−/−NK細胞は、PMA+イオノフォア刺激により誘導されるサイトカイン及びケモカイン産生の不全さえも示した。さらに、PMA+イオノフォアでの刺激の際のIκBα分解は、Carma1−/−NK細胞において重篤に損なわれ(図7C)、一方、ERK活性化は影響されなかった。このことは、Carma1が、TCR及びBCRと同様に、NK細胞においてITAM含有分子会合レセプターシグナル伝達におけるPKCの下流で機能することを示唆する(図8)。
【0078】
CBM複合体は、NK細胞におけるサイトカイン/ケモカイン産生のうち、ITAM媒介レセプターシグナル伝達を介するサイトカイン/ケモカイン産生に特異的に関与し得る。IL−12及び/又はIL−18誘導性サイトカイン/ケモカイン産生(ITAM媒介レセプターシグナル伝達を介さないもの)とITAM媒介レセプターシグナル伝達を介するサイトカイン/ケモカイン産生との間の生物学的意義の相違点は、以下の通りである。IL−12/18は、感染性微生物などの異物に反応したマクロファージや樹状細胞から多量に産生されるため、IL−12及び/又はIL−18誘導性サイトカイン/ケモカイン産生は主に感染に対応し得る。一方、ITAM含有分子会合レセプターのリガンドとなるものは、癌化や感染によるストレスにより細胞が発現する分子、自己/非自己のMHC分子、ウイルス産物などの多岐にわたるため、ITAM媒介レセプターシグナル伝達を介するサイトカイン/ケモカイン産生は、感染のみならず、腫瘍細胞の排除や移植片拒絶などでも働く可能性がある。
【0079】
以上より、概略すれば、本発明者らの研究成果は、下記1)〜6)を提示するものである:
1)Carma1がNK細胞分化に重要ではない(例、Cama1−/−マウスにおけるNK細胞の正常な分化を支持する図1A及びB参照);
2)Carma1がNK細胞の細胞傷害性に重要ではない(例、図2A〜F参照);
3)Carma1がITAM含有分子会合レセプター媒介サイトカイン/ケモカイン産生に必須であり得る(例、Carma1−/−NK細胞におけるITAM含有分子会合レセプター誘導サイトカイン産生の不全を支持する図3A〜G、及びCarma1−/−NK細胞におけるITAM含有分子会合レセプター誘導性ケモカイン産生の不全を支持する図4A〜F参照);
4)Bcl10がITAM含有分子会合レセプター誘導性サイトカイン/ケモカイン産生に必須であり得る(例、図5A〜I参照);
5)Carma1がITAM含有分子会合レセプター媒介NF−κB活性化を調節し得る(例、Carma1−/−NK細胞におけるカルシウム動員、Vav1活性化及び溶解性顆粒のエキソサイトーシスの正常な誘導を支持する、図6A〜D、並びに図7A〜G参照)。
6)Carma1及びBcl10は、おそらくMalt1との複合体の形成を通じて、その機能を発揮し得る。従って、本発明者らは、NK細胞における殺傷活性及びサイトカイン/ケモカイン産生について図8に示されるような機構を提唱する。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1A】野生型(Wt)及びCarma1−/−マウスの骨髄、脾臓及び肝臓におけるNK細胞のフローサイトメトリを示す図である。四分割部における数は、領域中の陽性細胞の百分率を示す。結果は、5つの異なる実験を表したものである。
【図1B】Wt及びCarma1−/−マウスの脾臓における成熟NK細胞の百分率(左)及び総数(右)を示す図である。データは、5匹のマウスからの結果の平均±s.d.である。
【図2A】グランザイムBのmRNAレベルの半定量的RT−PCRによる解析結果を示す図である。Wt及びCarma1−/−マウスの脾細胞からの濃縮NK細胞を、IL−15を用いて7日間増殖させた後(以下の図2B〜Fでも同様)、アッセイに供した。
【図2B】Yac1又はP815標的細胞に対する天然の細胞傷害性を示す図である(n=3)。細胞溶解活性を51Cr放出アッセイにより試験した。縦軸の単位:%、横軸のE:TはEffector:Target比を示す(図2C〜Fも同様)。
【図2C】抗ビオチンAb又はコントロールIgGの存在下における表面ビオチン化BaF3標的細胞に対するADCCを示す図である(n=3)。細胞溶解活性を51Cr放出アッセイにより試験した。
【図2D】抗NK1.1mAb又はコントロールIgGでコーティングされたP815細胞に対する逆ADCCを示す図である(n=3)。細胞溶解活性を51Cr放出アッセイにより試験した。
【図2E】BaF3又はm157発現BaF3標的細胞に対する細胞傷害性を示す図である(n=3)。細胞溶解活性を51Cr放出アッセイにより試験した。
【図2F】BaF3又はRae1β発現BaF3標的細胞に対する細胞傷害性を示す図である(n=3)。細胞溶解活性を51Cr放出アッセイにより試験した。
【図3A】FcRブロッカー(可溶性抗CD16mAb:2.4G2、10μg/ml)の存在又は不在下において固定化マウスIgGで刺激された、Wt及びCarma1−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のサイトカイン産生を示す図である(n=3)。
【図3B】抗NK1.1mAbの固定化F(ab’)2フラグメントで刺激された、Wt及びCarma1−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のサイトカイン産生を示す図である(n=3)。
【図3C】FcRブロッカー(可溶性抗CD16mAb:2.4G2、10μg/ml)の存在下において固定化Rae1β−Fc又はコントロールヒトIgGで刺激された、Wt及びCarma1−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のサイトカイン産生を示す図である(n=3)。
【図3D】FcRブロッカー(可溶性抗CD16mAb:2.4G2、10μg/ml)の存在下において20μg/mlの固定化抗Ly49DmAb又はコントロールラットIgGで刺激された、Wt及びCarma1−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のサイトカイン産生を示す図である(n=3)。
【図3E】PMA(10ng/ml)+カルシウムイオノフォア(1μM)で刺激された、Wt及びCarma1−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のサイトカイン産生を示す図である(n=3)。P:PMA、I:カルシウムイオノフォア
【図3F】抗NK1.1mAbの固定化F(ab’)2フラグメント(5μg/ml)による3時間刺激後のサイトカインの転写物のリアルタイムPCRを示す図である(n=3)。
【図3G】IL−18又は/及びIL−12で刺激された、Wt及びCarma1−/−マウス由来NK細胞のIFN−γ産生を示す図である(n=3)。
【図4A】固定化マウスIgGで刺激された、Wt及びCarma1−/−マウスの脾細胞由来のIL−15増殖性NK細胞のケモカイン産生を示す図である(n=3)。
【図4B】抗NK1.1mAbの固定化F(ab’)2フラグメントで刺激された、Wt及びCarma1−/−マウスの脾細胞由来のIL−15増殖性NK細胞のケモカイン産生を示す図である(n=3)。
【図4C】FcRブロッカー(可溶性α−CD16mAb、10μg/ml)の存在下において固定化Rae1β−Fc又はコントロールヒトIgGで刺激された、Wt及びCarma1−/−マウスの脾細胞由来のIL−15増殖性NK細胞のケモカイン産生を示す図である(n=3)。
【図4D】FcRブロッカー(可溶性α−CD16mAb、10μg/ml)の存在下において20μg/mlの固定化抗Ly49DmAb又はコントロールラットIgGで刺激された、Wt及びCarma1−/−マウスの脾細胞由来のIL−15増殖性NK細胞のケモカイン産生を示す図である(n=3)。
【図4E】PMA(10ng/ml)+カルシウムイオノフォア(1μM)で刺激された、Wt及びCarma1−/−マウスの脾細胞由来のIL−15増殖性NK細胞のケモカイン産生を示す図である(n=3)。
【図4F】IL−18(5ng/ml)+IL−12(1ng/ml)で刺激された、Wt及びCarma1−/−マウスの脾細胞由来のIL−15増殖性NK細胞のケモカイン産生を示す図である(n=3)。
【図5A】51Cr放出アッセイによる、Yac1又はP815標的細胞に対するBcl10+/−及びBcl10−/−マウス由来のNK細胞の細胞溶解活性を示す図である(n=3)。
【図5B】抗ビオチンAb又はコントロールIgGの存在下における表面ビオチン化BaF3標的細胞に対する、Bcl10+/−及びBcl10−/−マウス由来のNK細胞のADCCを示す図である(n=3)。
【図5C】10μg/mlの固定化抗CD16(2.4G2)で刺激された、Bcl10+/−及びBcl10−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のIFN−γ及びMIP−1β産生を示す図である(n=3)。
【図5D】抗NK1.1mAbの固定化F(ab’)2フラグメント(10μg/ml)で刺激された、Bcl10+/−及びBcl10−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のIFN−γ及びMIP−1β産生を示す図である(n=3)。
【図5E】FcRブロッカー(可溶性抗CD16mAb、10μg/ml)の存在下において10μg/mlの固定化Rae1β−Fc又はコントロールヒトIgGで刺激された、Bcl10+/−及びBcl10−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のIFN−γ及びMIP−1β産生を示す図である(n=3)。
【図5F】FcR−ブロッカー(可溶性抗CD16mAb、10μg/ml)の存在下において20μgの固定化抗Ly49DmAb又はコントロールラットIgGで刺激された、Bcl10+/−及びBcl10−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のIFN−γ及びMIP−1β産生を示す図である(n=3)。
【図5G】PMA(10ng/ml)+カルシウムイオノフォア(1μM)で刺激された、Bcl10+/−及びBcl10−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のIFN−γ及びMIP−1β産生を示す図である(n=3)。
【図5H】10ng/mlのIL−18で刺激された、Bcl10+/−及びBcl10−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のIFN−γ産生を示す図である(n=3)。
【図5I】示された量の抗CD16(左)、又はIL−12(1ng/ml)+IL−18(5ng/ml)(右)で刺激された、Card9+/+及びCard9−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のIFN−γ産生を示す図である(n=3)。
【図6A】抗CD16mAbを用いたFcγRの架橋により刺激された、Wt及びCarma1−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞における総チロシンリン酸化レベルを示す図である。
【図6B】抗CD16mAbを用いたFcγRの架橋により刺激された、Wt及びCarma1−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞におけるVav1リン酸化レベルを示す図である。
【図6C】抗NK1.1mAb又は抗NKG2DmAbで刺激したNK細胞のカルシウム動員を示す図である。
【図6D】Yac1細胞とインキュベートされた脱顆粒NK細胞におけるLAMP1/2の表面発現を示す図である。
【図7A】抗CD16mAbを用いたFcγRの架橋による刺激の際のWt及びCarma1−/−NK細胞におけるMAPK(ERK、JNK及びp38)の活性化を示す図である。
【図7B】抗CD16mAbを用いたFcγRの架橋による刺激の際のCarma1−/−NK細胞における欠陥的IκBα分解を示す図である。
【図7C】PMA+カルシウムイオノフォアによる刺激の際のCarma1−/−NK細胞における欠陥的IκBα分解(ERK活性化ではない)を示す図である。
【図7D】TNF−α(10ng/ml)による刺激の際のCarma1−/−NK細胞における正常なIκBα分解を示す図である。
【図7E】IL−18(10ng/ml)による刺激の際のCarma1−/−NK細胞における正常なIκBα分解を示す図である。
【図7F】固定化抗CD16mAb(10mg/ml)で刺激されたWt及びCarma1−/−NK細胞におけるNF−κB結合活性を示す図である(n=3)。
【図7G】IL−18(10ng/ml)で刺激されたWt及びCarma1−/−NK細胞におけるNF−κB結合活性を示す図である(n=3)。
【図8】NK細胞における殺傷活性及びサイトカイン/ケモカイン産生に対するCarma1/Bcl10媒介シグナルの差示的要件を示す図である。NK細胞上のITAM含有分子会合レセプター(例、CD16、NK1.1、NKG2D、Ly49D及びLy49H)を介する刺激は、標的細胞の溶解並びに炎症性サイトカイン及びケモカインの産生を生じる。NK細胞の細胞傷害性並びにサイトカイン及びケモカインの産生に必要とされるシグナルは、異なって調節されているようである。Carma1は、サイトカイン及びケモカイン産生に必要とされるシグナルに関与するが、NK細胞の細胞傷害性に関連するシグナル(例、カルシウム動員、Vav1活性化、及び溶解性顆粒のエキソサイトーシス)に重要ではない。Carma1は、Bcl10にカップリングし、ITAM含有分子会合レセプターにより誘導されるNF−κB活性化を制御するが、他のNF−κB活性化レセプター(例、IL−12R、IL−18R及びTNFR1)により誘導されるNF−κB活性化を制御しない。PKCは、おそらくリンパ球における抗原レセプターシグナル伝達と類似の様式において、ITAM誘導シグナルをCarma1/Bcl10媒介NF−κB活性化に中継し得る。
【技術分野】
【0001】
本発明は、NK細胞におけるサイトカイン/ケモカイン産生の調節剤及びそのスクリーニング方法、CBM複合体の構成因子の発現又は機能が調節されたNK細胞等に関する。
【背景技術】
【0002】
NK細胞は、ウイルス感染細胞、腫瘍細胞、移植片などを直接認識して、細胞傷害性及びサイトカイン産生を示し、生体防御において重要な機能を担っていると考えられている細胞である。NK細胞は「自己」「非自己」を認識する多様なレセプターを発現しており、これにより標的細胞を認識して傷害する。
【0003】
ところで、1)免疫レセプターチロシンベース活性化モチーフ(Immunoreceptor tyrosine-based activation motif:ITAM)を含有する分子に会合するレセプターであるT細胞レセプター又はB細胞レセプターを介するシグナル伝達が、T細胞又はB細胞の全般的な活性化(例、細胞増殖亢進、液性因子の分泌亢進)の制御に関与し得ること、2)T細胞レセプター又はB細胞レセプターを介するシグナル伝達が、Carma1、Bcl10及びMalt1を含む複合体(CBM複合体)を経由して、上記の全般的な活性化を引き起こし得ることが報告されている(非特許文献1〜6参照)。
【非特許文献1】Gaide O et al., Nat Immunol. 2002 Sep; 3(9): 836-43
【非特許文献2】Wang D et al., Nat Immunol. 2002 Sep; 3(9): 830-5
【非特許文献3】Hara H et al., Immunity. 2003 Jun; 18(6): 763-75
【非特許文献4】Newton K et al., Curr Biol. 2003 Jul 15; 13(14): 1247-51
【非特許文献5】Egawa T et al., Curr Biol. 2003 Jul 15; 13(14): 1252-8
【非特許文献6】Hara H et al., J Exp Med. 2004 Nov 1; 200(9): 1167-77
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、新規作用機序を有する医薬及びそれらを開発し得る種々の手段などを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、予想外なことに、CBM複合体を経由するITAM含有分子会合レセプターを介するシグナル伝達が、NK細胞の特定の機能の制御にのみ関与し得ること、より詳細には、NK細胞では、CBM複合体が、ITAM含有分子会合レセプターを介するサイトカイン及び/又はケモカイン産生に関与し得るものの、ITAM含有分子会合レセプターを介する細胞傷害活性に関与し得ないことなどを見出した。従って、CBM複合体の構成因子の発現又は機能の調節により、NK細胞の特定の機能のみを調節することが可能になると考えられる。また、CBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節する物質のスクリーニングは、NK細胞の特定の機能のみの調節能を有する医薬等の開発などに有用であると考えられる。
【0006】
以上に基づき、本発明者らは、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は下記の通りである。
〔1〕被験物がCBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節するか否かを評価することを含む、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生を選択的に調節し得る物質のスクリーニング方法。
〔2〕該構成因子がCarma1又はBcl10である、上記〔1〕の方法。
〔3〕該サイトカイン及び/又はケモカイン産生が、NK細胞においてITAM含有分子会合レセプターにより媒介されるサイトカイン及び/又はケモカイン産生である、上記〔1〕又は〔2〕のスクリーニング方法。
〔4〕被験物が該構成因子の発現又は機能を抑制するか否かを評価することを含む、該サイトカイン及び/又はケモカイン産生を選択的に抑制し得る物質のスクリーニング方法である、上記〔1〕又は〔2〕の方法。
〔5〕被験物が該構成因子の発現又は機能を調節するか否かの評価が、a)被験物がCBM複合体の形成を調節するか否か、あるいはb)被験物がCarma1又はBcl10の発現を調節するか否かのいずれかを評価することにより行われる、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかの方法。
〔6〕スクリーニング方法がNK細胞を用いて行われる、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかの方法。
〔7〕該サイトカイン及び/又はケモカイン産生を選択的に調節し得る物質が、感染症、癌、炎症性疾患、免疫疾患、移植片拒絶反応又はアレルギー疾患の予防・治療薬である、上記〔1〕の方法。
〔8〕該サイトカイン及び/又はケモカイン産生を選択的に抑制し得る物質が、炎症性疾患、移植片拒絶反応、自己免疫疾患又はアレルギー疾患の予防・治療薬である、上記〔4〕の方法。
〔9〕該予防・治療薬が、さらに癌又は感染症に罹患している、又は罹患する危険性がある被験体に対する医薬である、上記〔7〕又は〔8〕の方法。
〔10〕CBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節し得る物質を含む、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生の選択的な調節剤。
〔11〕該構成因子の発現又は機能を抑制し得る物質を含む、該サイトカイン及び/又はケモカイン産生の選択的な抑制剤である、上記〔10〕の剤。
〔12〕CBM複合体の構成因子の発現又は機能が調節されたNK細胞。
〔13〕該NK細胞が、細胞傷害活性を保持しつつ、サイトカイン及び/又はケモカイン産生能が変更された細胞である、上記〔12〕のNK細胞。
【発明の効果】
【0007】
本発明の調節剤は、例えば、感染症、癌、炎症性疾患、免疫疾患(例、免疫不全症、自己免疫疾患)、移植片拒絶反応、アレルギー疾患等の種々の疾患に対する医薬として有用であり得る。
本発明のスクリーニング方法は、例えば、上述の疾患に対する医薬の開発に有用であり得る。
本発明のNK細胞は、例えば、上述の疾患の予防・治療薬の開発、上述の疾患の予防・治療のための細胞療法、NK細胞におけるサイトカイン/ケモカイン産生機構の解析、サイトカイン/ケモカイン産生調節遺伝子の探索に有用であり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生の選択的な調節剤を提供する。
【0009】
NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生の「選択的」な調節とは、NK細胞の細胞傷害活性を保持しつつ、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生を特異的に調節することをいう。同様に、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生の「選択的」な促進又は抑制(あるいは活性化又は阻害)とは、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生を特異的に促進又は抑制(あるいは活性化又は阻害)することをいう。
【0010】
本発明の剤は、CBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節し得る物質を含み得る。
【0011】
CBM複合体とは、その構成因子としてCarma1、Bcl10及びMalt1を含むタンパク質複合体を意味する。従って、CBM複合体の構成因子はこれらの因子であり得る。Carma1は、ヒトCarma1(例、GenBankアクセッション番号:AF322641参照)又はそのオルソログ、あるいはそれらの変異体であり得る。Bcl10は、ヒトBcl10(例、GenBankアクセッション番号:AF082283参照)又はそのオルソログ、あるいはそれらの変異体であり得る。Malt1は、ヒトMalt1(例、GenBankアクセッション番号:AB026118参照)又はそのオルソログ、あるいはそれらの変異体であり得る。Carma1、Bcl10及びMalt1のオルソログは特に限定されず、例えば非ヒト哺乳動物(例、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、サル、ウサギ、ラット、ハムスター、モルモット、マウス)に由来するものであり得る。Carma1、Bcl10及びMalt1はそれぞれ、CBM複合体の形成を通じて、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生を調節し得る限り、そのコードするアミノ酸配列において1以上(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1、2又は3個)のアミノ酸の変異(例、欠失、置換、付加、挿入)を有していてもよい(このようなタンパク質が、上記の「変異体」に該当する)。
【0012】
本発明の剤により選択的に調節され得るサイトカイン及び/又はケモカイン産生は、NK細胞においてITAM含有分子会合レセプターにより媒介されるサイトカイン及び/又はケモカイン産生であり得る。
【0013】
ITAM含有分子とは、免疫レセプターチロシンベース活性化モチーフ(Immunoreceptor tyrosine-based activation motif)を有する分子をいう。NK細胞は、このようなITAM含有分子を発現している。例えば、NK細胞に発現しているITAM含有分子としては、FcRγ、DAP12、CD3ζが挙げられる。
【0014】
ITAM含有分子会合レセプターとは、上述のITAM含有分子との直接的な相互作用を通じてそのシグナルを細胞内に導入し、当該細胞の生理機能を調節し得るレセプターを意味する。本発明では、NK細胞におけるITAM含有分子会合レセプターが意図される。NK細胞におけるITAM含有分子会合レセプターとしては、例えば、ヒト及びマウスについては、FcγR(CD16)(ヒト/マウス)、NK1.1(マウス)、NKG2D(ヒト/マウス)、Ly49D(マウス)、Ly49H(マウス)、CD94/NKG2C(ヒト/マウス)、KIR2DS1−S5(ヒト)、KIR3DS1(ヒト)、NKp30(ヒト)、NKp44(ヒト)、NKp46(ヒト)が挙げられる。FcγR、NK1.1、NKp30及びNKp46は、ITAM含有分子であるFcRγと会合し、NKG2D及びLy49H、Ly49D、KIR2DS1−S5、KIR3DS1、NKp44、CD94/NKG2Cは、DAP12と会合する。このようなレセプターに対するリガンドとしては、アゴニスト又はアンタゴニストを含む種々のリガンドが知られている。このようなリガンドとしては、例えば、IgG(CD16に対するリガンド)、抗NK1.1 F(ab’)2フラグメント(NK1.1に対するリガンド)、Rae1β−Fc(NKG2Dに対するリガンド)、抗Ly49D(Ly49Dに対するリガンド)が挙げられる。
【0015】
NK細胞において産生されるサイトカイン及び/又はケモカインは、ITAM含有分子会合レセプター又はその他のレセプター(例、IL−12レセプター、IL−18レセプター)による媒介により産生されるサイトカイン及び/又はケモカインであり得る。このようなサイトカインとしては、例えば、IFN−γ、TNF−α、GM−CSF、IL−1α、IL−1β、IL−8、IL−13が挙げられる。また、このようなケモカインとしては、例えば、MIP−1α、MIP−1β、RANTES、ATACが挙げられる。
【0016】
一実施形態では、本発明の剤は、サイトカイン及び/又はケモカイン産生の選択的な促進剤であり得る。この場合、本発明の剤は、CBM複合体の構成因子の発現又は機能を促進し得る物質を含み得る。
【0017】
CBM複合体の構成因子の発現とは、CBM複合体の構成因子をコードする遺伝子から翻訳産物(即ち、タンパク質)が産生され且つ機能的な状態でその作用部位に局在することをいう。従って、CBM複合体の構成因子の発現を促進する物質は、CBM複合体の構成因子の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾、局在化およびタンパク質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。なお、本明細書中で使用される場合、CBM複合体の構成因子の発現の促進としては、CBM複合体の構成因子(タンパク質)自体の補充をも含むものとする。
【0018】
CBM複合体の構成因子の発現又は機能を促進する物質としては、例えば、CBM複合体の構成因子(即ち、Carma1、Bcl10、Malt1)、PKCθ、PKCβ、TAK1、及びそれらの発現ベクターなどのCBM複合体の構成因子の発現を促進する物質、並びにCBM複合体の形成を促進する物質(例、PMA)などのCBM複合体の構成因子の機能を促進する物質が挙げられる。
【0019】
CBM複合体の構成因子は、天然タンパク質又は組換えタンパク質であり得る。CBM複合体の構成因子は、自体公知の方法により調製でき、例えば、a)CBM複合体の構成因子を含む生体試料から構成因子を回収してもよく、b)宿主細胞(例、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞)に構成因子の発現ベクター(後述)を導入することにより形質転換体を作製し、該形質転換体により産生される構成因子を回収してもよく、c)ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセート等を用いる無細胞系により構成因子を合成してもよい。CBM複合体の構成因子は、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィー、CBM複合体の構成因子抗体の使用などの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;これらを組合せた方法などにより適宜精製される。
【0020】
別の実施形態では、本発明の剤は、サイトカイン及び/又はケモカイン産生の選択的な抑制剤であり得る。この場合、本発明の剤は、CBM複合体の構成因子の発現又は機能を抑制し得る物質を含み得る。CBM複合体の構成因子の発現を抑制する物質は、CBM複合体の構成因子の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾、局在化およびタンパク質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。
【0021】
CBM複合体の構成因子の発現を抑制する物質としては、例えば、アンチセンス核酸(例、DNA、RNA、又は修飾ヌクレオチド、あるいはそれらのキメラ分子)、リボザイム、RNAi誘導性核酸(細胞内に導入されることによりRNAi効果を誘導し得るポリヌクレオチド、好ましくはRNA:例、siRNA)、アプタマー、並びにこれらをコードする核酸を含む発現ベクターが挙げられる。
【0022】
CBM複合体の構成因子の機能を抑制する物質としては、例えば、CBM複合体の形成を抑制する物質(例、抗体若しくはドミナントネガティブ変異体又はそれらの発現ベクター、あるいは低分子化合物)が挙げられる。
【0023】
CBM複合体の構成因子に対する抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよく、周知の免疫学的手法により作製できる。また、該抗体は、抗体のフラグメント(例、Fab、F(ab’)2)、組換え抗体(例、単鎖抗体)であってもよい。
【0024】
例えば、ポリクローナル抗体は、CBM複合体の構成因子あるいはそのフラグメント(必要に応じて、ウシ血清アルブミン、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)等のキャリアタンパク質に架橋した複合体とすることもできる)を抗原として、市販のアジュバント(例、完全又は不完全フロイントアジュバント)とともに、動物の皮下あるいは腹腔内に2〜3週間おきに2〜4回程度投与し(部分採血した血清の抗体価を公知の抗原抗体反応により測定し、その上昇を確認しておく)、最終免疫から約3〜約10日後に全血を採取して抗血清を精製することにより取得できる。抗原を投与する動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、モルモット、ハムスターなどの哺乳動物が挙げられる。
【0025】
また、モノクローナル抗体は、細胞融合法(例、渡邊武、細胞融合法の原理とモノクローナル抗体の作成、谷内昭、高橋利忠編、「モノクローナル抗体とがん―基礎と臨床―」、第2-14頁、サイエンスフォーラム出版、1985年)により作成することができる。例えば、マウスに該因子を市販のアジュバントと共に2〜4回皮下あるいは腹腔内に投与し、最終投与の約3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、白血球を採取する。この白血球と骨髄腫細胞(例、NS-1、P3X63Ag8など)を細胞融合して該因子に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。細胞融合はPEG法[J. Immunol. Methods,81(2): 223-228 (1985)]でも電圧パルス法[Hybridoma, 7(6): 627-633 (1988)]であってもよい。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIA又はRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、又はマウスもしくはラット、好ましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清および動物の腹水から取得できる。
【0026】
しかしながら、ヒトにおける治療効果と安全性を考慮すると、本発明の抗体は、キメラ抗体、ヒト化又はヒト型抗体であってもよい。キメラ抗体は、例えば「実験医学(臨時増刊号), Vol.6, No.10, 1988」、特公平3-73280号公報等を、ヒト化抗体は、例えば特表平4-506458号公報、特開昭62-296890号公報等を、ヒト抗体は、例えば「Nature Genetics, Vol.15, p.146-156, 1997」、「Nature Genetics, Vol.7, p.13-21, 1994」、特表平4-504365号公報、国際出願公開WO94/25585号公報、「日経サイエンス、6月号、第40〜第50頁、1995年」、「Nature, Vol.368, p.856-859, 1994」、特表平6-500233号公報等を参考にそれぞれ作製することができる。
【0027】
CBM複合体の構成因子のドミナントネガティブ変異体は、CBM複合体の構成因子に対する変異の導入によりその活性が低減したものである。該ドミナントネガティブ変異体は、天然のCBM複合体の構成因子と競合することで間接的にその機能を阻害することができる。変異としては、例えば、機能性部位における、当該部位が担う機能の低下をもたらすようなアミノ酸の変異(例、1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加)が挙げられる。例えば、CBM複合体の構成因子のドミナントネガティブ変異体としては、既報のものを使用することができる(例、Bertin J et al., J. Biol. Chem., vol.276, p.11877-11882, 2001; Pomerantz JL et al., EMBO J., vol.21, p.5184-5194, 2002; Lucas PC et al., J. Biol. Chem., vol.276, 19012-19012, 2002参照)。
【0028】
CBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節する物質が、核酸分子又はタンパク質分子である場合、本発明の剤は、核酸分子又はタンパク質分子をコードする核酸分子を含む発現ベクターを有効成分とすることもできる。当該発現ベクターは、上記の核酸分子をコードするオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドが、投与対象である哺乳動物の細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されていなければならない。本発明の発現ベクターが含み得るプロモーターは、その制御下にある因子の発現を可能とする限り特に限定されず、因子の種類により適宜選択され得るが、例えば、polIIIプロモーター(例、tRNAプロモーター、U6プロモーター、H1プロモーター)、哺乳動物用プロモーター(例、CMVプロモーター、CAGプロモーター、SV40プロモーター)が挙げられる。また、使用されるプロモーターとしては、NK細胞に特異的なプロモーター(例、lckプロモーター、Pmed1プロモーター)を用いてもよい。
【0029】
発現ベクターは、好ましくは核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含む。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含むこともできる。
【0030】
発現ベクターとして使用される基本骨格のベクターは、プラスミド又はウイルスベクターであり得るが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0031】
本発明の剤は、CBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節する物質に加え、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0032】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤又は錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤、あるいは散剤、顆粒剤等である。
【0033】
非経口的な投与(例、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解又は懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0034】
本発明の剤の投与量は、有効成分の活性や種類、投与様式(例、経口、非経口)、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001mg〜約5.0gである。
【0035】
本発明の剤は、例えば、医薬として有用である。本発明の剤が医薬として使用される場合、感染症、癌、炎症性疾患、免疫疾患(例、免疫不全症、自己免疫疾患)、移植片拒絶反応、アレルギー疾患等の種々の疾患の予防・治療に使用し得る。
【0036】
詳細には、CBM複合体の構成因子の発現又は機能を促進する物質を含む本発明の促進剤は、サイトカイン及び/又はケモカイン産生の促進が所望される疾患の予防・治療、又は状態の改善に使用され得る。サイトカイン及び/又はケモカイン産生の促進が所望される疾患又は状態としては、例えば、感染症(例、エイズ、C型肝炎等のウイルス感染症、寄生虫感染症、脳脊髄膜炎等の細菌感染症)、癌、免疫不全症が挙げられる。本発明の促進剤はまた、NK細胞の細胞傷害活性を保持しつつ、サイトカイン及び/又はケモカイン産生を促進することが所望される被験体に好適に使用し得る。このような被験体としては、例えば、上記疾患又は状態の2以上を併発している、又は併発する危険性がある被験体が挙げられる。以下、必要に応じて、本発明の促進剤が対象とする疾患又は状態を「疾患又は状態I」と省略する。
【0037】
一方、CBM複合体の構成因子の発現又は機能を抑制する物質を含む本発明の抑制剤は、サイトカイン及び/又はケモカイン産生の抑制が所望される疾患の予防・治療、又は状態の改善に使用され得る。サイトカイン及び/又はケモカイン産生の抑制が所望される疾患又は状態としては、例えば、炎症性疾患(例、乾癬、リウマチ性関節炎等の慢性炎症性疾患:例、Ottaviani C. et al., Eur. J. Immunol., 36: 118 (2006)参照)、肝臓移植等の移植における移植片拒絶反応(例、Obara H. et al., American Jouanal of Transplantation, 5: 2094 (2005)参照)、自己免疫疾患、アレルギー疾患が挙げられる。本発明の抑制剤はまた、NK細胞の細胞傷害活性を保持しつつ、サイトカイン及び/又はケモカイン産生を抑制することが所望される被験体に好適に使用し得る。このような被験体としては、例えば、上記疾患又は状態に加え、癌又は感染症(例、上述の感染症)を併発している、又は併発する危険性がある被験体が挙げられる。以下、必要に応じて、本発明の抑制剤が対象とする疾患又は状態を「疾患又は状態II」と省略する。
【0038】
本発明はまた、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生を選択的に調節し得る物質のスクリーニング方法を提供する。
【0039】
スクリーニング方法に供される被験物は、いかなる化合物又は組成物であってもよく、例えば、核酸(例、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド)、糖質(例、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖)、脂質(例、飽和又は不飽和の直鎖、分岐鎖及び/又は環を含む脂肪酸)、アミノ酸、タンパク質(例、オリゴペプチド、ポリペプチド)、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリ、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリ、天然成分(例、微生物、動植物、海洋生物等由来の成分)、あるいは食品、飲料水等が挙げられる。
【0040】
本発明のスクリーニング方法は、被験物がCBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節し得るか否かを評価可能である限り、如何なる形態でも行われ得る。例えば、本発明のスクリーニング方法では、細胞、動物又は再構成系を用いて、CBM複合体の構成因子の発現又は機能が評価され得る。本発明のスクリーニング方法では、必要に応じて、ITAM含有分子会合レセプターに対するリガンド(例、上述のリガンド)で処理された細胞、動物が用いられ得る(後述の方法論でも同様)。
【0041】
より詳細には、CBM複合体の構成因子の発現を評価するスクリーニング方法(方法論I)は、例えば、下記の工程(a)〜(d)を含み得る:
(a)被験物をCBM複合体の構成因子の発現を解析可能な細胞に接触させる工程;
(b)被験物を接触させた細胞におけるCBM複合体の構成因子の発現量を測定する工程;
(c)該発現量を、被験物を接触させない対照細胞におけるCBM複合体の構成因子の発現量と比較する工程;
(d)上記(c)の比較結果に基づいて、CBM複合体の構成因子の発現量を調節する被験物を選択する工程。
【0042】
方法論Iの工程(a)では、被験物がCBM複合体の構成因子の発現を解析可能な細胞と接触条件下におかれる。CBM複合体の構成因子の発現を解析可能な細胞に対する被験物の接触は、培地中で行われ得る。
【0043】
CBM複合体の構成因子の発現を解析可能な細胞とは、CBM複合体の構成因子の産物(例、転写産物、翻訳産物)の発現レベルを直接的又は間接的に評価可能な細胞をいう。CBM複合体の構成因子の産物の発現レベルを直接的に評価可能な細胞は、CBM複合体の構成因子の発現細胞であり得、一方、CBM複合体の構成因子の産物の発現レベルを間接的に評価可能な細胞は、CBM複合体の構成因子遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞であり得る。
【0044】
CBM複合体の構成因子の発現細胞は、CBM複合体の構成因子を潜在的に発現するものである限り特に限定されず、例えば、免疫細胞(例、NK細胞、T細胞、B細胞)が挙げられるが、NK細胞が好ましい。
【0045】
CBM複合体の構成因子をコードする遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、CBM複合体の構成因子をコードする遺伝子の転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む細胞である。CBM複合体の構成因子遺伝子の転写調節領域は、CBM複合体の構成因子の発現を制御し得る領域である限り特に限定されないが、例えば、各CBM複合体の構成因子をコードする遺伝子の転写開始点から上流約2kbpまでの領域、あるいは該領域の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つこれらのCBM複合体の構成因子の転写を制御する能力を有する領域などが挙げられる。レポーター遺伝子は、検出可能なタンパク質又は検出可能な物質を生成する酵素をコードする遺伝子であればよく、例えばGFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、LUC(ルシフェラーゼ)遺伝子、CAT(クロラムフェニコルアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子等が挙げられる。
【0046】
CBM複合体の構成因子遺伝子の転写調節領域、及び当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子が導入される細胞は、CBM複合体の構成因子遺伝子の転写調節機能を評価できる限り、即ち、該レポーター遺伝子の発現量が定量的に解析可能である限り特に限定されない。しかしながら、CBM複合体の構成因子に対する生理的な転写調節因子を発現し、CBM複合体の構成因子の発現調節の評価により適切であると考えられることから、該導入される細胞としては、CBM複合体の構成因子の発現細胞が好ましい。
【0047】
被験物とCBM複合体の構成因子の発現を解析可能な細胞とが接触される培地は、用いられる細胞の種類などに応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件もまた、用いられる細胞の種類などに応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
【0048】
方法論Iの工程(b)では、被験物を接触させた細胞におけるCBM複合体の構成因子の発現量が測定される。発現量の測定は、用いた細胞の種類などを考慮し、上述した自体公知の方法により行われ得る。また、CBM複合体の構成因子の発現を解析可能な細胞として、CBM複合体の構成因子転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞を用いた場合、発現量は、レポーターのシグナル強度に基づき測定され得る。
【0049】
方法論Iの工程(c)では、被験物を接触させた細胞におけるCBM複合体の構成因子の発現量が、被験物を接触させない対照細胞におけるCBM複合体の構成因子の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物を接触させない対照細胞におけるCBM複合体の構成因子の発現量は、被験物を接触させた細胞におけるCBM複合体の構成因子の発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【0050】
方法論Iの工程(d)では、CBM複合体の構成因子の発現を調節する被験物が選択される。例えば、CBM複合体の構成因子の発現を促進する(発現量を増加させる)被験物は、上述の「疾患又は状態I」の予防、治療又は改善に有用である。一方、CBM複合体の構成因子の発現を抑制する(発現量を減少させる)被験物は、例えば、上述の「疾患又は状態II」の予防、治療又は改善に有用である。
【0051】
CBM複合体の構成因子の機能を評価するスクリーニング方法(方法論II)は、例えば、下記の工程(a)〜(d)を含み得る:
(a)被験物をCBM複合体の2以上の構成因子に接触させる工程;
(b)被験物を接触させた場合に形成されたCBM複合体量を測定する工程;
(c)該複合体量を、被験物を接触させない場合に形成されたCBM複合体量と比較する工程;
(d)上記(c)の比較結果に基づいて、CBM複合体量を調節する被験物を選択する工程。
【0052】
方法論IIの工程(a)では、被験物がCBM複合体の2以上の構成因子と接触条件下におかれる。本工程では、CBM複合体のうち、互いに結合能を有する2以上の因子(例、Carma1、Bcl10)、又は3つの因子が再構成系において用いられ得る。CBM複合体の構成因子は自体公知の方法により調製できる。例えば、CBM複合体の構成因子の発現組織から単離・精製できる。しかしながら、迅速、容易かつ大量に構成因子を調製し、また、ヒト構成因子を調製するためには、遺伝子組換え技術により組換えタンパク質を調製するのが好ましい。組換えタンパク質は、細胞系、無細胞系のいずれで調製したものでもよい。
【0053】
方法論IIの工程(a)はまた、CBM複合体の構成因子の発現細胞に被験物質を接触させることにより行われ得る。この場合、発現細胞としては、CBM複合体の2以上の構成因子がそれぞれ異なる蛍光タンパク質と融合したタンパク質を発現するものが好適に使用され得る。
【0054】
方法論IIの工程(b)では、複合体量の測定は、自体公知の方法により行われ得る。例えば、測定は、表面プラズモン共鳴を利用する方法(例、Biacoreの使用)、免疫沈降法などにより行われ得る。あるいは、測定は、共焦点顕微鏡下で行われ得る。
【0055】
方法論IIの工程(c)では、被験物を接触させた場合に形成されたCBM複合体量が、被験物を接触させない場合に形成されたCBM複合体量と比較される。複合体量の比較は、例えば、方法論Iで上述したような有意差の有無に基づいて行なわれる。
【0056】
方法論IIの工程(d)では、CBM複合体量を調節する被験物が選択される。例えば、CBM複合体量を増加させる(CBM複合体の構成因子の機能を促進する)被験物は、例えば、上述の「疾患又は状態I」の予防、治療又は改善に有用である。一方、CBM複合体量を減少させる(CBM複合体の構成因子の機能を抑制する)被験物は、例えば、上述の「疾患又は状態II」の予防、治療又は改善に有用である。
【0057】
また、本発明のスクリーニング方法は、以下の工程を含むものであり得る(方法論III):
(a)被験物を動物に投与する工程;
(b)被験物を投与した動物におけるCBM複合体の構成因子の発現又は機能を測定する工程;
(c)該発現又は機能を、被験物を投与しない対象動物におけるCBM複合体の構成因子の発現又は機能と比較する工程;
(d)上記(c)の比較結果に基づいて、CBM複合体量を調節する被験物を選択する工程。
【0058】
方法論IIIで用いられ得る動物は、上述の哺乳動物であり得る。方法論IIIの工程(a)における被験物の動物への投与は、自体公知の方法により行うことができる。また、方法論IIIの工程(b)〜(d)は、方法論I及びIIと同様にして行うことができる。
【0059】
本発明はまた、CBM複合体の1以上の構成因子の発現又は機能が調節されたNK細胞を提供する。
【0060】
本発明の細胞は、単離及び/又は精製されたものであり得る。本発明の細胞は、CBM複合体の1以上(例、1、2又は3)の構成因子の発現又は機能の調節(例、促進、抑制)により、サイトカイン及び/又はケモカイン産生が選択的に調節された細胞であり得る。本発明の細胞は、CBM複合体の1以上の構成因子の発現が一過的に調節された細胞、又は当該発現が恒常的に調節された細胞(例、ホモ接合性又はヘテロ接合性欠損細胞、あるいはゲノムに遺伝子が導入された細胞等のゲノム改変細胞)であり得る。本発明の細胞は形質転換体又は非形質転換体であり得る。本発明の細胞はまた、ITAM含有分子会合レセプターに対するリガンドで処理された、又は処理されていない細胞であり得る。
【0061】
本発明の細胞は、例えば、CBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節し得る物質でNK細胞を処理することにより作製できる。本発明の細胞はまた、遺伝子導入動物又は遺伝子欠損(いわゆるノックアウト)動物からNK細胞を単離及び/又は精製することにより、あるいはNK細胞の前駆細胞を単離及び/又は精製し、次いでこの前駆細胞をNK細胞に分化させることにより作製できる。例えば、Carma1ノックアウト動物(例、Hara H et al., Immunity, vol.18, p.763-775, 2003参照)、Bcl10ノックアウト動物(例、Ruland J et al. Cell, vol.104, p.33-42, 2001参照)、Malt1ノックウアウト動物(例、Ruefli-Brasse et al., Science, vol. 302, p.1581-1584, 2003参照)が公知であるので、本発明では、このような動物から本発明の細胞を調製できる。また、これらの動物を交配させ、多重ノックアウト動物を作出した後、この多重ノックアウト動物からNK細胞を得ることもできる。
【0062】
本発明の細胞は、例えば、a)上述の疾患又は状態の予防、治療及び/又は改善薬の開発(例、本発明のスクリーニング方法での使用)、b)上述の疾患又は状態の予防、治療及び/又は改善のための細胞療法、c)NK細胞におけるサイトカイン/ケモカイン産生機構の解析、d)サイトカイン/ケモカイン産生調節遺伝子の探索などに有用であり得る。
【0063】
本明細書中で挙げられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0064】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0065】
実施例1:Carma1はNK細胞分化に重要ではない
本発明者らは、野生型(Wt)及びCarma1−/−マウス由来のNK細胞の分化及び表現型を調べた。Carma1−/−マウスの骨髄、肝臓及び脾臓における成熟NK1.1+DX5+NK細胞の百分率(図1A、左)、並びに脾臓におけるCD3−NK1.1+NK細胞の絶対数(図1B)は、Wtコントロールマウスと比較して有意に変化しなかった。成熟NK細胞は、インテグリン、Ly49、C型レクチンファミリーレセプター、NKG2ファミリーレセプター、CD43、2B4及びCD122を含む、種々の表面レセプターを発現する。幾つかのレセプター(例、Mac1及びLy49)は、NK細胞の成熟プロセスの間に調節される。図1Aに示されるように、脾臓CD3−NK1.1+NK細胞内のMac1high細胞の百分率及び数は、WtマウスとCarma1−/−マウスとの間で同等であった(図1A、右)。さらに、Ly−49レセプター及びNKG2A/C/E/D、並びに他の7つの異なるNKマーカーの発現は、Carma1欠損により有意に影響されなかった(表1)。これらの結果は、Carma1がNK細胞の分化及び表現型の成熟に必須でないことを示す。
【0066】
【表1】
【0067】
実施例2:Carma1は、ITAM含有分子会合レセプターにより誘導されるNK細胞の細胞傷害性に重要ではない
NK細胞機能におけるCarma1の役割は全くの未知である。先ず、本発明者らは、WtNK細胞とCarma1−/−NK細胞(Wt及びCarma1−/−マウスの脾細胞からの濃縮NK細胞を、IL−15を用いて7日間増殖させたものを使用)との間のパーフォリン及びグランザイムの発現レベルをRT−PCR解析により比較した。Carma1−/−マウスにおける正常なNK細胞の分化の結果と一致して、Carma1−/−NK細胞のパーフォリン及びグランザイムBの転写レベルは、WtNK細胞のものと同等であった(図2A)。次に、本発明者らは、NK感受性標的Yac1細胞及びNK耐性標的P815細胞に対するIL−15増殖性NK細胞の天然の細胞傷害性を51Cr放出アッセイにより調べた。本発明者らは、Carma1の欠落がこれらの標的に対する細胞傷害性に影響しないことを見出した(図2B)。同様の結果が、新鮮に単離されたNK細胞を用いて得られた(データ示さず)。Carma1は、「ITAM含有分子」に会合するTCR及びBCRを介するシグナル伝達に必須である。NK細胞は、リガンド発現標的細胞に対するNK細胞の細胞傷害性を誘導し得る種々のITAM含有分子会合レセプターを発現することから、本発明者らは、これらのレセプターにより媒介されるNK細胞の細胞傷害性を調べた。本発明者らが試験したレセプターは、FcRγと会合するFcγR(CD16)及びNK1.1、並びにDAP12及び/又はDAP10と会合するLy49H及びNKG2Dであった。FcγR誘導性細胞傷害性を、表面ビオチン化され、かつ抗ビオチンAbでコーティングされているBa/F3細胞に対する抗体依存性細胞媒介細胞傷害性(ADCC)を用いて51Cr放出アッセイにより調べた。また、NK1.1媒介細胞傷害性を、抗NK1.1mAbによるFcR+P815細胞に対する逆ADCCを用いて51Cr放出アッセイにより試験した。さらに、Ly49H及びNKG2D媒介細胞傷害性を、標的細胞としてそれらの各リガンドm157及びRae1βを発現しているBa/F3細胞を用いて51Cr放出アッセイにより試験した。全ての場合において、これらのレセプターにより誘導されるIL−15増殖性Carma1−/−NK細胞の細胞傷害性は、WtNK細胞と比較して、有意に損なわれなかった(図2C〜F)。これらの結果は、Carma1がこれらのITAM含有分子会合レセプターを介する刺激によるNK細胞の細胞傷害性の誘導に必須ではないことを示す。
【0068】
実施例3:Carma1は、ITAM含有分子会合レセプター媒介サイトカイン/ケモカイン産生に必須である
本発明者らは以前に、Carma1がTリンパ球におけるTCR誘導性IL−2及びIFN−γ産生に必須であることを報告した。ITAM含有分子会合レセプターを介するNK細胞による標的細胞の認識は、IFN−γ、GM−CSF及びTNF−αを含む炎症性サイトカインを誘導する。従って、本発明者らは、Carma1の損失がNK細胞のサイトカイン産生に影響するかどうかを試験した。CD16及びNK1.1がFcRγと会合するのに対し、NKG2D及びLy49DがITAM含有分子としてDAP12と会合し、そしてNKG2Dもまた、PI3K結合についてのYxxMモチーフを含有するDAP10と会合する。Wt及びCarma1−/−マウスの脾細胞からの精製IL−15増殖性NK細胞を、FcRブロッカー(可溶性抗CD16mAb、10μg/ml)の存在又は不在下において示された量の固定化マウスIgG、抗NK1.1mAbの固定化F(ab’)2フラグメント、あるいはFcRブロッカーの存在下において固定化Rae1β−Fc又はコントロールヒトIgG、あるいはFcRブロッカーの存在下において20μg/mlの固定化抗Ly49DmAb又はコントロールラットIgG、あるいはPMA(10ng/ml)+カルシウムイオノフォア(1μM)を用いて刺激した。刺激24時間後に、培養上清中のIFN−γ、TNF−α及びGM−CSFを、ELISAにより測定した。また、抗NK1.1mAbの固定化F(ab’)2フラグメント(5μg/ml)による3時間刺激後に、IFN−γ、TNF−α及びGM−CSFの転写物のリアルタイムPCRを行った。さらに、NK細胞をIL−18(5ng/ml)、IL−12(1ng/ml)、又はIL−12+IL−18で刺激した。刺激24時間後の上清中のIFN−γをELISAにより測定した。その結果、固定化されたマウスIgG(CD16に対するリガンド、図3A)、抗NK1.1 F(ab’)2フラグメント(図3B)、Rae1β−Fc(図3C)又は抗Ly49D(図3D)を用いた刺激は、Carma1−/−NK細胞において、IFN−γ、TNF−α及びGM−CSF産生における劇的な低下を示した。これらの欠陥は、高用量の活性化刺激でさえも克服され得なかった。このことは、Carma1がNK細胞におけるFcRγ並びにDap12又は/及びDAP10媒介サイトカイン産生に重要であることを示唆する。さらに、PMA+カルシウムイオノフォアに応答するサイトカイン産生もまた、Carma1−/−NK細胞において損なわれた(図3E)。このことは、Carma1がPKCの下流で機能することを示す。定量的RT−PCR解析は、NK1.1刺激後のサイトカインのmRNA発現が、Carma1−/−NK細胞では著明に減少することを示した。このことは、サイトカイン産生の不全が転写レベルで調節されることを示唆する(図3F)。ITAM含有分子会合レセプター刺激とは対照的に、IL−12及びIL−18誘導性サイトカン産生は、WtNK細胞とCarma1−/−NK細胞との間で同等であった(図3G)。このことは、Carma1−/−NK細胞がサイトカンを産生し得ること、並びにこの欠陥がITAM含有分子会合レセプターを介して特異的に誘導されることを示す。
【0069】
NK細胞は、炎症性サイトカインの強力な供給源である。NK細胞上のITAM含有分子会合レセプターの架橋によって、エフェクター細胞を免疫応答の部位にリクルートするために重要である、CC−ケモカイン(マクロファージ炎症性タンパク質1α(MIP−1α)、MIP−1β及びRANTESを含む)の豊富な産生を誘導することが報告されている。従って、本発明者らは、Carma1の損失がNK細胞のCC−ケモカイン産生に影響するかどうかを試験した。Wt及びCarma1−/−マウスの脾細胞からの精製及びIL−15増殖性NK細胞を、示された量の固定化マウスIgG、抗NK1.1mAbの固定化F(ab’)2フラグメント、あるいはFcRブロッカー(可溶性α−CD16mAb、10μg/ml)の存在下において固定化Rae1β−Fc又はコントロールヒトIgG、あるいはFcRブロッカーの存在下において20μg/mlの固定化抗Ly49DmAb又はコントロールラットIgG、PMA(10ng/ml)+カルシウムイオノフォア(1μM)、あるいはIL−18(5ng/ml)+IL−12(1ng/ml)を用いて刺激した。刺激24時間後に、培養上清中のMIP−1α、MIP−1β、及びRANTESをELISAにより測定した。その結果、サイトカイン産生と同様に、Carma1−/−NK細胞は、FcRγ会合レセプターであるCD16及びNK1.1(それぞれ、図4A及びB)、DAP12/DAP−10会合レセプターであるNKG2D及びLy49D(それぞれ、図4C及びD)、並びにPKC活性化(PMA+カルシウムイオノフォア、図4E)を介する刺激後に、MIP−1α、MIP−1β及びTANTESの産生の重篤な不全を示した。対照的に、Carma1−/−NK細胞によるこれらのケモカイン産生は、IL−12、IL−18(データ示さず)、あるいはIL−12+IL−18(図4F)により正常に誘導された。
【0070】
まとめると、これらの結果は、Carma1が、PKC活性化の「下流」で機能すること、並びにNK細胞において、ITAM含有分子会合レセプターを介する刺激の際のサイトカイン及びケモカイン産生に重要であり、IL−12R及びIL−18Rによるサイトカイン及びケモカイン産生には重要でないことを示す。
【0071】
実施例4:Card9ではなく、Bcl10が、ITAM含有分子会合レセプター誘導性サイトカイン/ケモカイン産生に必須である
Bcl10との複合体形成は、Carma1がリンパ球における抗原レセプターシグナル伝達で機能するために重要である。しかしながら、NK細胞におけるCarma1媒介シグナル伝達経路におけるBcl10の関与は未知である。従って、本発明者らは、Bcl10−/−マウスのNK細胞の機能を解析した。Bcl10+/−及びBcl10−/−マウスの脾細胞からの濃縮NK細胞を、IL−15を用いて7日間増殖させ、そして51Cr放出アッセイにより、Yac1又はP815標的細胞に対する細胞溶解活性について、並びに抗ビオチンAb又はコントロールIgGの存在下における表面ビオチン化BaF3標的細胞に対するADCCについて試験した。また、Bcl10+/−及びBcl10−/−マウスからのIL−15増殖性NK細胞を、10μg/mlの固定化抗CD16(2.4G2)、抗NK1.1mAbの固定化F(ab’)2フラグメント(10μg/ml)、FcRブロッカー(可溶性抗CD16mAb、10μg/ml)の存在下において10μg/mlの固定化Rae1β−Fc又はコントロールヒトIgG、FcR−ブロッカーの存在下において20μgの固定化抗Ly49DmAb又はコントロールラットIgG、PMA(10ng/ml)+カルシウムイオノフォア(1μM)、あるいは10ng/mlのIL−18を用いて刺激した。24時間の刺激後、培養上清中のIFN−γ及びMIP−1βを、ELISAにより測定した。その結果、Yac−1及びP815標的細胞に対する細胞傷害性(図5A)、並びにAbコーティングBa/F3細胞に対するADCC(図5B)は、Bcl10−/−NK細胞とBcl10+/−NK細胞との間で同等であった。対照的に、ITAM含有分子会合レセプターであるCD16、NK1.1、NKG2D及びLy49D(それぞれ、図5C〜F)、あるいはPMA+カルシウムイオノフォア(図5G)の刺激の際のサイトカイン及びケモカイン産生は、Bcl10−/−マウスにより著しく損なわれた。この不全は、ITAM含有分子会合レセプター特異的であるようである。なぜなら、IL−18媒介IFN−γ産生は、Bcl10欠損により影響されないからである(図5H)。従って、Bcl10は、NK細胞におけるITAM含有分子会合レセプター媒介サイトカイン及びケモカイン産生に重要に関与し、細胞傷害性に重要に関与しない。
【0072】
デクチン−1(ITAM含有レセプター:それ自身がITAMを保有)は、真菌成分であるザイモサン(zymosan)に対する主要な哺乳動物パターン認識レセプターである。最近、別のCARDファミリータンパク質であるCard9がBcl10とカップリングし、サイトカイン産生及び自然(innate)な抗真菌免疫のために、骨髄細胞のデクチン−1媒介活性化を制御することが示された。従って、Card9は、Carma1及びBcl10と共に、NK細胞のITAM含有分子会合レセプター媒介活性化に関与するのかもしれない。この疑問に注目するため、本発明者らは、Card9欠損(Card9−/−)マウスを作出した。Card9のヌル変異を、Card9タンパク質の欠落により確認した(データ示さず)。NK細胞の分化は、Card9−/−マウスにおいて正常であるようであった(データ示さず)。図5Iに示されるように、Card9−/−マウス由来のNK細胞は、抗CD16並びにIL−12+IL−18での刺激後にIFN−γ産生を正常に誘導した。
【0073】
これらの結果は、Carma1/Bcl10複合体が、NK細胞におけるITAM媒介シグナルをサイトカイン及びケモカイン遺伝子発現に中継することを示唆する。
【0074】
実施例5:Carma1は、ITAM含有分子会合レセプター媒介NF−κB活性化を調節する
Carma1−/−及びBcl10−/−NK細胞におけるケモカイン/サイトカイン産生の機能的欠陥についての分子機構を同定するため、本発明者らは、ITAM含有分子会合レセプターの下流のシグナル伝達経路を解析した。先ず、細胞傷害性を誘導するシグナル経路を試験するため、抗CD16mAbを用いたFcγRの架橋により刺激された、Wt及びCarma1−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞における総チロシンリン酸化及びVav1のリン酸化レベルを測定した。また、Indo−1−AMロードNK細胞を抗NK1.1mAb又は抗NKG2DmAbで刺激し、FL5/FL4蛍光を200秒間モニターした。さらに、NK細胞をYac1細胞を用いて1時間インキュベートし、脱顆粒細胞におけるLAMP1/2の表面発現をフローサイトメトリにより検出した。その結果、Wt及びCarma1−/−NK細胞は、α−CD16刺激後に同等の総チロシンリン酸化を示した(図6A)。細胞内カルシウム動員は、パーフォリン依存性のNK細胞の細胞傷害性につながる初期事象であり、Vav1はCD16及びNKG2Dの双方の刺激後にリン酸化され、NK細胞におけるERKの活性化及び細胞傷害性顆粒のエキソサイトーシスを制御する。本発明者らは、Vav1リン酸化(図6B)及び抗CD16刺激後のカルシウム動員(図6C)もまたWtNK細胞とCarma1−/−NK細胞との間で同等であることを見出した。さらに、リソソームタンパク質LAMP−1/2の細胞表面発現の誘導はNK細胞の脱顆粒と相関することが知られており、それは、Carma1−/−NK細胞におけるYac1標的細胞とのインキュベーション後に正常に誘導された(図6D)。従って、Carma1の損失は、NK細胞の細胞傷害性に必要とされるITAM含有分子会合レセプター誘導性近位シグナル伝達事象に影響しない。これは、実施例2の結果を支持する。
【0075】
第2に、本発明者らは、MAPK活性化を解析した。なぜなら、ERK、JNK及びp38は、NK細胞におけるサイトカイン及びケモカイン遺伝子発現の調節に関与することが示されているからである。本発明者らの以前の報告は、TCR及びBCR媒介JNK活性化がCarma1−/−T及びBリンパ球で損なわれることを示した。そこで、本発明者らは、抗CD16mAbを用いたFcγRの架橋による刺激の際のWt及びCarma1−/−NK細胞におけるMAPK(ERK、JNK及びp38)の活性化を試験した。しかしながら、α−CD16によるCarma1+/+及びCarma1−/−NK細胞の刺激は、ERK、JNK、及びp38のリン酸化に如何なるみかけ上の差異も示さなかった(図7A)。このことは、Carma1がNK細胞におけるMAPK活性化に関与しないことを示す。
【0076】
第3に、Carma1/Bcl10複合体は、T及びBリンパ球において抗原レセプターをNF−κB活性化にカップリングするために必須であるため、本発明者らは、NK細胞において、ITAM含有分子会合レセプター誘導NF−κBシグナル伝達におけるCarma1の役割を、IκB分解及びNF−κBのDNA結合活性を解析することにより調べた。NF−κBの結合活性は以下の通り調べた。即ち、核抽出液を、固定化抗CD16mAb(10mg/ml)を用いて示された期間にわたり、あるいはIL−18(10ng/ml)を用いて8時間にわたり刺激されたWt及びCarma1−/−NK細胞から調製し、NF−κBの結合活性を、核因子NF−κB p65キット(BD)を用いて評価した。その結果、I−κBαの分解は、α−CD16刺激に応答するCarma1−/−NK細胞では損なわれた(図7B)。同様の不全が、Bcl10−/−NK細胞において観察された(データ示さず)。一致して、p65含有NF−κB複合体のDNA結合活性が、α−CD16刺激後のCarma1−/−NK細胞の核において著明に減少した(図7C)。対照的に、IκBα分解及びNF−κBのDNA結合活性の不全は、Carma1−/−NK細胞をTNFα又はIL−18で刺激した場合に観察されなかった(図7D〜G)。従って、Carma1は、他のNF−κB活性化レセプターではなくITAM含有分子会合レセプターを介する刺激の際にNF−κB活性化を選択的に誘導する。
【0077】
以前に、本発明者らは、Carma1がT及びB細胞においてPKCの下流で作用し、PKC刺激をNF−κB活性化へと媒介することを示した。興味深いことに、Carma1−/−NK細胞は、PMA+イオノフォア刺激により誘導されるサイトカイン及びケモカイン産生の不全さえも示した。さらに、PMA+イオノフォアでの刺激の際のIκBα分解は、Carma1−/−NK細胞において重篤に損なわれ(図7C)、一方、ERK活性化は影響されなかった。このことは、Carma1が、TCR及びBCRと同様に、NK細胞においてITAM含有分子会合レセプターシグナル伝達におけるPKCの下流で機能することを示唆する(図8)。
【0078】
CBM複合体は、NK細胞におけるサイトカイン/ケモカイン産生のうち、ITAM媒介レセプターシグナル伝達を介するサイトカイン/ケモカイン産生に特異的に関与し得る。IL−12及び/又はIL−18誘導性サイトカイン/ケモカイン産生(ITAM媒介レセプターシグナル伝達を介さないもの)とITAM媒介レセプターシグナル伝達を介するサイトカイン/ケモカイン産生との間の生物学的意義の相違点は、以下の通りである。IL−12/18は、感染性微生物などの異物に反応したマクロファージや樹状細胞から多量に産生されるため、IL−12及び/又はIL−18誘導性サイトカイン/ケモカイン産生は主に感染に対応し得る。一方、ITAM含有分子会合レセプターのリガンドとなるものは、癌化や感染によるストレスにより細胞が発現する分子、自己/非自己のMHC分子、ウイルス産物などの多岐にわたるため、ITAM媒介レセプターシグナル伝達を介するサイトカイン/ケモカイン産生は、感染のみならず、腫瘍細胞の排除や移植片拒絶などでも働く可能性がある。
【0079】
以上より、概略すれば、本発明者らの研究成果は、下記1)〜6)を提示するものである:
1)Carma1がNK細胞分化に重要ではない(例、Cama1−/−マウスにおけるNK細胞の正常な分化を支持する図1A及びB参照);
2)Carma1がNK細胞の細胞傷害性に重要ではない(例、図2A〜F参照);
3)Carma1がITAM含有分子会合レセプター媒介サイトカイン/ケモカイン産生に必須であり得る(例、Carma1−/−NK細胞におけるITAM含有分子会合レセプター誘導サイトカイン産生の不全を支持する図3A〜G、及びCarma1−/−NK細胞におけるITAM含有分子会合レセプター誘導性ケモカイン産生の不全を支持する図4A〜F参照);
4)Bcl10がITAM含有分子会合レセプター誘導性サイトカイン/ケモカイン産生に必須であり得る(例、図5A〜I参照);
5)Carma1がITAM含有分子会合レセプター媒介NF−κB活性化を調節し得る(例、Carma1−/−NK細胞におけるカルシウム動員、Vav1活性化及び溶解性顆粒のエキソサイトーシスの正常な誘導を支持する、図6A〜D、並びに図7A〜G参照)。
6)Carma1及びBcl10は、おそらくMalt1との複合体の形成を通じて、その機能を発揮し得る。従って、本発明者らは、NK細胞における殺傷活性及びサイトカイン/ケモカイン産生について図8に示されるような機構を提唱する。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1A】野生型(Wt)及びCarma1−/−マウスの骨髄、脾臓及び肝臓におけるNK細胞のフローサイトメトリを示す図である。四分割部における数は、領域中の陽性細胞の百分率を示す。結果は、5つの異なる実験を表したものである。
【図1B】Wt及びCarma1−/−マウスの脾臓における成熟NK細胞の百分率(左)及び総数(右)を示す図である。データは、5匹のマウスからの結果の平均±s.d.である。
【図2A】グランザイムBのmRNAレベルの半定量的RT−PCRによる解析結果を示す図である。Wt及びCarma1−/−マウスの脾細胞からの濃縮NK細胞を、IL−15を用いて7日間増殖させた後(以下の図2B〜Fでも同様)、アッセイに供した。
【図2B】Yac1又はP815標的細胞に対する天然の細胞傷害性を示す図である(n=3)。細胞溶解活性を51Cr放出アッセイにより試験した。縦軸の単位:%、横軸のE:TはEffector:Target比を示す(図2C〜Fも同様)。
【図2C】抗ビオチンAb又はコントロールIgGの存在下における表面ビオチン化BaF3標的細胞に対するADCCを示す図である(n=3)。細胞溶解活性を51Cr放出アッセイにより試験した。
【図2D】抗NK1.1mAb又はコントロールIgGでコーティングされたP815細胞に対する逆ADCCを示す図である(n=3)。細胞溶解活性を51Cr放出アッセイにより試験した。
【図2E】BaF3又はm157発現BaF3標的細胞に対する細胞傷害性を示す図である(n=3)。細胞溶解活性を51Cr放出アッセイにより試験した。
【図2F】BaF3又はRae1β発現BaF3標的細胞に対する細胞傷害性を示す図である(n=3)。細胞溶解活性を51Cr放出アッセイにより試験した。
【図3A】FcRブロッカー(可溶性抗CD16mAb:2.4G2、10μg/ml)の存在又は不在下において固定化マウスIgGで刺激された、Wt及びCarma1−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のサイトカイン産生を示す図である(n=3)。
【図3B】抗NK1.1mAbの固定化F(ab’)2フラグメントで刺激された、Wt及びCarma1−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のサイトカイン産生を示す図である(n=3)。
【図3C】FcRブロッカー(可溶性抗CD16mAb:2.4G2、10μg/ml)の存在下において固定化Rae1β−Fc又はコントロールヒトIgGで刺激された、Wt及びCarma1−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のサイトカイン産生を示す図である(n=3)。
【図3D】FcRブロッカー(可溶性抗CD16mAb:2.4G2、10μg/ml)の存在下において20μg/mlの固定化抗Ly49DmAb又はコントロールラットIgGで刺激された、Wt及びCarma1−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のサイトカイン産生を示す図である(n=3)。
【図3E】PMA(10ng/ml)+カルシウムイオノフォア(1μM)で刺激された、Wt及びCarma1−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のサイトカイン産生を示す図である(n=3)。P:PMA、I:カルシウムイオノフォア
【図3F】抗NK1.1mAbの固定化F(ab’)2フラグメント(5μg/ml)による3時間刺激後のサイトカインの転写物のリアルタイムPCRを示す図である(n=3)。
【図3G】IL−18又は/及びIL−12で刺激された、Wt及びCarma1−/−マウス由来NK細胞のIFN−γ産生を示す図である(n=3)。
【図4A】固定化マウスIgGで刺激された、Wt及びCarma1−/−マウスの脾細胞由来のIL−15増殖性NK細胞のケモカイン産生を示す図である(n=3)。
【図4B】抗NK1.1mAbの固定化F(ab’)2フラグメントで刺激された、Wt及びCarma1−/−マウスの脾細胞由来のIL−15増殖性NK細胞のケモカイン産生を示す図である(n=3)。
【図4C】FcRブロッカー(可溶性α−CD16mAb、10μg/ml)の存在下において固定化Rae1β−Fc又はコントロールヒトIgGで刺激された、Wt及びCarma1−/−マウスの脾細胞由来のIL−15増殖性NK細胞のケモカイン産生を示す図である(n=3)。
【図4D】FcRブロッカー(可溶性α−CD16mAb、10μg/ml)の存在下において20μg/mlの固定化抗Ly49DmAb又はコントロールラットIgGで刺激された、Wt及びCarma1−/−マウスの脾細胞由来のIL−15増殖性NK細胞のケモカイン産生を示す図である(n=3)。
【図4E】PMA(10ng/ml)+カルシウムイオノフォア(1μM)で刺激された、Wt及びCarma1−/−マウスの脾細胞由来のIL−15増殖性NK細胞のケモカイン産生を示す図である(n=3)。
【図4F】IL−18(5ng/ml)+IL−12(1ng/ml)で刺激された、Wt及びCarma1−/−マウスの脾細胞由来のIL−15増殖性NK細胞のケモカイン産生を示す図である(n=3)。
【図5A】51Cr放出アッセイによる、Yac1又はP815標的細胞に対するBcl10+/−及びBcl10−/−マウス由来のNK細胞の細胞溶解活性を示す図である(n=3)。
【図5B】抗ビオチンAb又はコントロールIgGの存在下における表面ビオチン化BaF3標的細胞に対する、Bcl10+/−及びBcl10−/−マウス由来のNK細胞のADCCを示す図である(n=3)。
【図5C】10μg/mlの固定化抗CD16(2.4G2)で刺激された、Bcl10+/−及びBcl10−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のIFN−γ及びMIP−1β産生を示す図である(n=3)。
【図5D】抗NK1.1mAbの固定化F(ab’)2フラグメント(10μg/ml)で刺激された、Bcl10+/−及びBcl10−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のIFN−γ及びMIP−1β産生を示す図である(n=3)。
【図5E】FcRブロッカー(可溶性抗CD16mAb、10μg/ml)の存在下において10μg/mlの固定化Rae1β−Fc又はコントロールヒトIgGで刺激された、Bcl10+/−及びBcl10−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のIFN−γ及びMIP−1β産生を示す図である(n=3)。
【図5F】FcR−ブロッカー(可溶性抗CD16mAb、10μg/ml)の存在下において20μgの固定化抗Ly49DmAb又はコントロールラットIgGで刺激された、Bcl10+/−及びBcl10−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のIFN−γ及びMIP−1β産生を示す図である(n=3)。
【図5G】PMA(10ng/ml)+カルシウムイオノフォア(1μM)で刺激された、Bcl10+/−及びBcl10−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のIFN−γ及びMIP−1β産生を示す図である(n=3)。
【図5H】10ng/mlのIL−18で刺激された、Bcl10+/−及びBcl10−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のIFN−γ産生を示す図である(n=3)。
【図5I】示された量の抗CD16(左)、又はIL−12(1ng/ml)+IL−18(5ng/ml)(右)で刺激された、Card9+/+及びCard9−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞のIFN−γ産生を示す図である(n=3)。
【図6A】抗CD16mAbを用いたFcγRの架橋により刺激された、Wt及びCarma1−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞における総チロシンリン酸化レベルを示す図である。
【図6B】抗CD16mAbを用いたFcγRの架橋により刺激された、Wt及びCarma1−/−マウス由来のIL−15増殖性NK細胞におけるVav1リン酸化レベルを示す図である。
【図6C】抗NK1.1mAb又は抗NKG2DmAbで刺激したNK細胞のカルシウム動員を示す図である。
【図6D】Yac1細胞とインキュベートされた脱顆粒NK細胞におけるLAMP1/2の表面発現を示す図である。
【図7A】抗CD16mAbを用いたFcγRの架橋による刺激の際のWt及びCarma1−/−NK細胞におけるMAPK(ERK、JNK及びp38)の活性化を示す図である。
【図7B】抗CD16mAbを用いたFcγRの架橋による刺激の際のCarma1−/−NK細胞における欠陥的IκBα分解を示す図である。
【図7C】PMA+カルシウムイオノフォアによる刺激の際のCarma1−/−NK細胞における欠陥的IκBα分解(ERK活性化ではない)を示す図である。
【図7D】TNF−α(10ng/ml)による刺激の際のCarma1−/−NK細胞における正常なIκBα分解を示す図である。
【図7E】IL−18(10ng/ml)による刺激の際のCarma1−/−NK細胞における正常なIκBα分解を示す図である。
【図7F】固定化抗CD16mAb(10mg/ml)で刺激されたWt及びCarma1−/−NK細胞におけるNF−κB結合活性を示す図である(n=3)。
【図7G】IL−18(10ng/ml)で刺激されたWt及びCarma1−/−NK細胞におけるNF−κB結合活性を示す図である(n=3)。
【図8】NK細胞における殺傷活性及びサイトカイン/ケモカイン産生に対するCarma1/Bcl10媒介シグナルの差示的要件を示す図である。NK細胞上のITAM含有分子会合レセプター(例、CD16、NK1.1、NKG2D、Ly49D及びLy49H)を介する刺激は、標的細胞の溶解並びに炎症性サイトカイン及びケモカインの産生を生じる。NK細胞の細胞傷害性並びにサイトカイン及びケモカインの産生に必要とされるシグナルは、異なって調節されているようである。Carma1は、サイトカイン及びケモカイン産生に必要とされるシグナルに関与するが、NK細胞の細胞傷害性に関連するシグナル(例、カルシウム動員、Vav1活性化、及び溶解性顆粒のエキソサイトーシス)に重要ではない。Carma1は、Bcl10にカップリングし、ITAM含有分子会合レセプターにより誘導されるNF−κB活性化を制御するが、他のNF−κB活性化レセプター(例、IL−12R、IL−18R及びTNFR1)により誘導されるNF−κB活性化を制御しない。PKCは、おそらくリンパ球における抗原レセプターシグナル伝達と類似の様式において、ITAM誘導シグナルをCarma1/Bcl10媒介NF−κB活性化に中継し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験物がCBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節するか否かを評価することを含む、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生を選択的に調節し得る物質のスクリーニング方法。
【請求項2】
該構成因子がCarma1又はBcl10である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該サイトカイン及び/又はケモカイン産生が、NK細胞においてITAM含有分子会合レセプターにより媒介されるサイトカイン及び/又はケモカイン産生である、請求項1又は2記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
被験物が該構成因子の発現又は機能を抑制するか否かを評価することを含む、該サイトカイン及び/又はケモカイン産生を選択的に抑制し得る物質のスクリーニング方法である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
被験物が該構成因子の発現又は機能を調節するか否かの評価が、a)被験物がCBM複合体の形成を調節するか否か、あるいはb)被験物がCarma1又はBcl10の発現を調節するか否かのいずれかを評価することにより行われる、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
スクリーニング方法がNK細胞を用いて行われる、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
該サイトカイン及び/又はケモカイン産生を選択的に調節し得る物質が、感染症、癌、炎症性疾患、免疫疾患、移植片拒絶反応又はアレルギー疾患の予防・治療薬である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
該サイトカイン及び/又はケモカイン産生を選択的に抑制し得る物質が、炎症性疾患、移植片拒絶反応、自己免疫疾患又はアレルギー疾患の予防・治療薬である、請求項4記載の方法。
【請求項9】
該予防・治療薬が、さらに癌又は感染症に罹患している、又は罹患する危険性がある被験体に対する医薬である、請求項7又は8記載の方法。
【請求項10】
CBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節し得る物質を含む、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生の選択的な調節剤。
【請求項11】
該構成因子の発現又は機能を抑制し得る物質を含む、該サイトカイン及び/又はケモカイン産生の選択的な抑制剤である、請求項10記載の剤。
【請求項12】
CBM複合体の構成因子の発現又は機能が調節されたNK細胞。
【請求項13】
該NK細胞が、細胞傷害活性を保持しつつ、サイトカイン及び/又はケモカイン産生能が変更された細胞である、請求項12記載のNK細胞。
【請求項1】
被験物がCBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節するか否かを評価することを含む、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生を選択的に調節し得る物質のスクリーニング方法。
【請求項2】
該構成因子がCarma1又はBcl10である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該サイトカイン及び/又はケモカイン産生が、NK細胞においてITAM含有分子会合レセプターにより媒介されるサイトカイン及び/又はケモカイン産生である、請求項1又は2記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
被験物が該構成因子の発現又は機能を抑制するか否かを評価することを含む、該サイトカイン及び/又はケモカイン産生を選択的に抑制し得る物質のスクリーニング方法である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
被験物が該構成因子の発現又は機能を調節するか否かの評価が、a)被験物がCBM複合体の形成を調節するか否か、あるいはb)被験物がCarma1又はBcl10の発現を調節するか否かのいずれかを評価することにより行われる、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
スクリーニング方法がNK細胞を用いて行われる、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
該サイトカイン及び/又はケモカイン産生を選択的に調節し得る物質が、感染症、癌、炎症性疾患、免疫疾患、移植片拒絶反応又はアレルギー疾患の予防・治療薬である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
該サイトカイン及び/又はケモカイン産生を選択的に抑制し得る物質が、炎症性疾患、移植片拒絶反応、自己免疫疾患又はアレルギー疾患の予防・治療薬である、請求項4記載の方法。
【請求項9】
該予防・治療薬が、さらに癌又は感染症に罹患している、又は罹患する危険性がある被験体に対する医薬である、請求項7又は8記載の方法。
【請求項10】
CBM複合体の構成因子の発現又は機能を調節し得る物質を含む、NK細胞におけるサイトカイン及び/又はケモカイン産生の選択的な調節剤。
【請求項11】
該構成因子の発現又は機能を抑制し得る物質を含む、該サイトカイン及び/又はケモカイン産生の選択的な抑制剤である、請求項10記載の剤。
【請求項12】
CBM複合体の構成因子の発現又は機能が調節されたNK細胞。
【請求項13】
該NK細胞が、細胞傷害活性を保持しつつ、サイトカイン及び/又はケモカイン産生能が変更された細胞である、請求項12記載のNK細胞。
【図1A】
【図1B】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図3G】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図5G】
【図5H】
【図5I】
【図6C】
【図6D】
【図7F】
【図7G】
【図8】
【図2A】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図1B】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図3G】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図5G】
【図5H】
【図5I】
【図6C】
【図6D】
【図7F】
【図7G】
【図8】
【図2A】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【公開番号】特開2008−118862(P2008−118862A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303073(P2006−303073)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
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