説明

NOカチオンを触媒とする反応方法

【課題】
本発明は、非金属性の化合物であるNOカチオン(ニトロソニウム)を含む化合物を触媒として使用するクリーンで環境にやさしい新規な化学方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、次の一般式(1)、
NO (1)
(式中、Xは陰イオンを表す。)
で表されるニトロソニウム化合物の存在下に、C=N−Z分極構造を有する化合物とビニル(チオ)エーテル誘導体とを[3+2]付加環化反応させて、含窒素複素環化合物を製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次の一般式(1)、
NO (1)
(式中、Xは陰イオンを表す。)
で表されるニトロソニウム化合物の存在下に、C=N−Z分極構造を有する化合物とビニル(チオ)エーテル誘導体とを[3+2]付加環化反応させて、含窒素複素環化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NOカチオン(ニトロソニウム)を含む化合物は非金属性無機化合物であり、酸化剤やドピング材料として利用されてきた。また、触媒としても利用されており、従来の金属触媒使用時に生じる有害な金属廃棄物が出ないため、既存の触媒反応よりもよりクリーンな方法であるといえる。また、その触媒は非常に高活性であり極少量の触媒量でも十分に機能する。例えば、ディールスアルダー型の1,4−付加反応の触媒(非特許文献1及び2参照)やアミノメチル基のヒドロキシメチル基へ変換するための反応(特許文献1参照)、シアノ安息香酸アミドをシアノ安息香酸に分解する反応(特許文献2参照)、またオレフィンと一酸化炭素との交互共重合体を製造するための触媒成分(特許文献3参照)などとして利用されてきた。
【0003】
ニトロンは、C=N−Oの化学構造を有する化合物で、化学合成の原料として使用のみならず、それ自体が医薬用途や分析試薬としても使用されている化合物であり、ベンジルアミン類を過酸化水素などの酸化剤で酸化して製造することができる(特許文献4及び5参照)。ニトロンは、分極構造を有する化合物であり、1,3−双極性付加反応を行うことが知られており、オレフィン類と反応してイソキサゾリジン環を形成する(非特許文献3、及び特許文献6参照)。また、イノラートアニオン(インオールアニオン)と付加反応を起こしてイソキサゾリジノン環を形成することも報告されている(特許文献7参照)。しかしながら、NOカチオン(ニトロソニウム)を触媒とする方法は未だ報告されていない。
また、3−ピラゾリジノンとアルデヒドまたはケトンより調製されるアゾメチンイミンも、ニトロンと同様な分極構造を有する化合物であり、環部分の一部にC=N−N−CO−という特徴的な分極構造を有する化合物である。アゾメチンイミンもニトロンと同様に[3+2]付加環化反応を行うことが知られており、例えば、アセチレン誘導体と環化付加反応してピラゾリン誘導体を生成する(非特許文献4、及び5参照)、オレフィン類とも同様に環化付加反応を行うことが知られている(非特許文献6、及び7参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−219667号公報
【特許文献2】特開2000−154171号公報
【特許文献3】特開平6−172514号公報
【特許文献4】特開2005−53895号公報
【特許文献5】特開2003−286242号公報
【特許文献6】特開2003−261544号公報
【特許文献7】特開2003−221385号公報
【非特許文献1】Zhou, Y.; Jia, X.; Li, R.; Liu, Z.; Liu, Z.; Wu, L., Tetrahedron Lett. 2005, 46, 8973.
【非特許文献2】Zhou, Y.; Jia, X.-D.; Li, R.; Han, B.; Wu, L., Chinese J. Chem. 2005, 25, 422.
【非特許文献3】Gothelf, K. V.; Jorgensen, K. A., Chem. Rev. 1998, 98, 863.
【非特許文献4】Shintani, R.; Fu, G. C., J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 10778.
【非特許文献5】Suarez, A.; Downey, C. W.; Fu, G. C., J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 11244.
【非特許文献6】Suga, H.; Funyu, A.; Kakehi, A., Org. Lett. 2007, 9, 97.
【非特許文献7】Chen, W.; Du, W.; Duan, Y.-Z.; Wu, Y.; Yang, S.-Y,; Chen, Y.-C., Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 7667.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、非金属性の化合物であるNOカチオン(ニトロソニウム)を含む化合物を触媒として使用するクリーンで環境にやさしい新規な化学方法を提供するものである。また、本発明は、ビニル(チオ)エーテル誘導体との[3+2]付加環化反応の方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
NOカチオン(ニトロソニウム)を含む化合物は非金属性の化合物であり、従来の金属触媒使用時に生じる有害な金属廃棄物が出ないため、既存の触媒反応よりもよりクリーンな方法であるといえる。
そこで本発明者らは、NOカチオンの高い反応性に着目し、これを触媒として用いる有機合成反応の検討を行ったところ、ニトロンやアゾメチンイミンのような分極構造を有する化合物とビニル(チオ)エーテルとが、効率的に[3+2]付加環化反応を起こすことを見出した。この反応におけるNOカチオン(ニトロソニウム)の触媒は非常に高活性であり極少量の触媒量でも十分に機能することもわかった。
また、3−ピラゾリジノンとアルデヒドまたはケトンより調製されるアゾメチンイミンとビニルエーテルとの[3+2]付加環化反応は新規反応であり、この手法によって合成されるテトラヒドロピラゾロ[1,2−a]ピラゾール環はこれまで報告されている手法では導入できないN,O−アセタール部位を有する新規化合物である。このN,O−アセタール部位にはルイス酸存在下炭素求核剤を導入することができ、炭素骨格のさらなる伸長が可能であるため、非常に有用であると考えられる。さらに、そのN−N結合は還元条件下切断することができ、ジアザシクロオクタン誘導体へと導くことができた。
【0007】
即ち、本発明は、次の一般式(1)、
NO (1)
(式中、Xは陰イオンを表す。)
で表されるニトロソニウム化合物の存在下に、C=N−Z分極構造を有する化合物とビニル(チオ)エーテル誘導体とを[3+2]付加環化反応させて、含窒素複素環化合物を製造する方法に関する。
より詳細には、本発明は、次の一般式(1)、
NO (1)
(式中、Xは陰イオンを表す。)
で表されるニトロソニウム化合物の存在下に、次の一般式(2)、
【0008】
【化10】

【0009】
(式中、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよい複素環基を表し、Zは酸素原子又は窒素原子を表し、Zが酸素原子の場合には、−Z−R基は−O基を表し、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、そして、Zが窒素原子の場合には、−Z−は−N−を表し、RとRは一緒になって−CH−(CH)n−CO−基(式中、nは1〜5の整数を表す。)を表し隣接する窒素原子と共に環を形成する。)
で表されるC=N−Z分極構造を有する化合物と、次の一般式(3)、
【0010】
【化11】

【0011】
(式中、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、Yは酸素原子、硫黄原子、又は窒素原子を表し、Yが酸素原子又は硫黄原子の場合には、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を表すか、又はRと一緒になってアルキレン基を形成して隣接する原子と共に環を形成してもよく、Yが窒素原子の場合には、−Y−R基は一緒になって次の式、
【0012】
【化12】

【0013】
で表されるピロリドン環を表す。)
で表されるビニル(チオ)エーテル誘導体とを[3+2]付加環化反応させて、次の一般式(4)、
【0014】
【化13】

【0015】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、Y、及びZは、前記したものと同じものを表す。)
で表される含窒素複素環化合物を製造する方法に関する。
【0016】
本発明をさらに詳細に説明すれば以下のとおりである。
(1)次の一般式(1)、
NO (1)
(式中、Xは陰イオンを表す。)
で表されるニトロソニウム化合物の存在下に、C=N−Z分極構造を有する化合物とビニル(チオ)エーテル誘導体とを[3+2]付加環化反応させて、含窒素複素環化合物を製造する方法。
(2)一般式(1)で表されるニトロソニウム化合物における陰イオンが、BF又はPFである前記(1)に記載の方法。
(3)一般式(1)で表されるニトロソニウム化合物が、NOPFである前記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)C=N−Z分極構造を有する化合物が、前記した一般式(2)で表される分極性の化合物である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)一般式(2)で表される分極性の化合物が、次の一般式(5)、
【0017】
【化14】

【0018】
(式中、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよい複素環基を表し、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。)
で表されるニトロンである前記(4)に記載の方法。
(6)一般式(2)で表される分極性の化合物が、次の一般式(6)、
【0019】
【化15】

【0020】
(式中、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよい複素環基を表し、nは1〜5の整数を表す。)
で表されるアゾメチンイミンである前記(4)に記載の方法。
(7)ビニル(チオ)エーテル誘導体が、前記した一般式(3)で表されるビニル(チオ)エーテル誘導体である前記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)ビニル(チオ)エーテル誘導体が、次の一般式(7)、
【0021】
【化16】

【0022】
(式中、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。)
で表されるビニルエーテル誘導体である前記(7)に記載の方法。
(9)ビニル(チオ)エーテル誘導体が、次の一般式(8)、
【0023】
【化17】

【0024】
(式中、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。)
で表されるビニルチオエーテル誘導体である前記(7)に記載の方法。
(10)ビニル(チオ)エーテル誘導体が、次の式、
【0025】
【化18】

【0026】
で表されるN−ビニルピロリドンである前記(7)に記載の方法。
(11)生成する含窒素複素環化合物が、前記した一般式(4)で表される含窒素複素環化合物である前記(1)〜(10)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、NOカチオンを触媒として使用する新規な[3+2]付加環化反応させる方法を提供するものであり、本発明の方法で使用される触媒は非金属性の化合物であり、従来の金属触媒使用時に生じる有害な金属廃棄物が出ないため既存の合成法よりもよりクリーンな方法で環境にやさしい方法を提供するものである。
また、本発明の方法における触媒は、非常に高活性であり極少量の触媒量でも十分に機能し、目的の含窒素複素環化合物を効率的に製造することができる。
さらに、本発明の方法によって製造されるテトラヒドロピラゾロ[1,2−a]ピラゾール環はこれまで報告されている手法では導入できないN,O−アセタール部位を有する新規化合物である。このN,O−アセタール部位にはルイス酸存在下炭素求核剤を導入することができ、炭素骨格のさらなる伸長が可能であるため、非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明で使用されるC=N−Z分極構造を有する化合物は、前記した一般式(2)で表される構造を有する化合物であり、より詳細には一般式(5)で表されるニトロンやその誘導体、及び一般式(6)で表されるアゾメチンイミンやその誘導体である。
一般式(2)、一般式(5)、及び一般式(6)における「置換基を有していてもよい炭化水素基」としては、無置換の炭化水素基、又は、ハロゲン、カルボキシル基、水酸基、エステル基、ニトロ基、シアノ基、エーテル基、チオール基、アミド基、アミノ基、チオエーテル基等の置換基を1個以上有していてもよい炭化水素基を意味する。
また、「置換基を有していてもよい炭化水素基」における「炭化水素基」としては、炭素数が1〜20、好ましくは1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基など)、炭素数が2〜20、好ましくは2〜10の直鎖状又は分岐状のアルケニル基(例えばエテニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基又は2−ペンテニル基)、炭素数が2〜20、好ましくは2〜10の直鎖状又は分岐状のアルキニル基(例えばエチニル基、2−プロピニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、2−メチル−3−ブチニル基、フェニルエチニル基など)、炭素数3〜15、好ましくは炭素数3〜10の飽和又は不飽和の単環式、多環式又は縮合環式のシクロアルキル基(例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基又はシクロヘキシル基など)、炭素数6〜18、好ましくは炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式のアリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、又はアントリル基など)、炭素数6〜18、好ましくは炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式のアリール基に、前記した炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基が結合した、炭素数7〜40、好ましくは炭素数7〜20、炭素数7〜15のアラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基、又はα−ナフチル−メチル基など)などの基が挙げられる。
【0029】
一般式(2)、一般式(5)、及び一般式(6)における「置換基を有していてもよい複素環基」としては、無置換の複素環基、又は、ハロゲン、カルボキシル基、水酸基、エステル基、ニトロ基、シアノ基、エーテル基、チオール基、アミド基、アミノ基、チオエーテル基等の置換基を1個以上有していてもよい複素環基を意味する。
また、「置換基を有していてもよい複素環基」における「複素環基」としては、1個〜4個、好ましくは1〜3個又は1〜2個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員、好ましくは5〜8員の環を有する単環式、多環式、又は縮合環式の複素環基が挙げられる。このような複素環基としては、例えば、2−フリル基、2−チエニル基、2−ピロリル基、2−ピリジル基、2−インドール基、ベンゾイミダゾリル基などが挙げられる。
【0030】
一般式(2)、一般式(5)、及び一般式(6)における好ましいRの基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基など炭素数が1〜20、好ましくは1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基;フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、又はアントリル基など炭素数6〜18、好ましくは炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式のアリール基;2−フリル基、2−チエニル基、2−ピロリル基、2−ピリジル基などの1個〜4個、好ましくは1〜3個又は1〜2個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員、好ましくは5〜8員の環を有する単環式、多環式、又は縮合環式の複素環基が挙げられる。これらのアルキル基、アリール基、及び複素環基は前記してきたような置換基で置換されていてもよい。より好ましいRの基としては、フェニル基などの置換基を有してもよいアリール基が挙げられる。
一般式(2)、及び一般式(5)における好ましいRの基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、又はアントリル基など炭素数6〜18、好ましくは炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式のアリール基が挙げられる。より好ましいRの基としては、フェニル基などの置換基を有してもよいアリール基が挙げられる。
【0031】
一般式(2)においてZが酸素原子の場合には、一般式(2)における−Z−R基は−O基を表し、ニトロンやその誘導体となる。
また、一般式(2)においてZが窒素原子の場合には、RとRが一緒になって隣接する窒素原子と共に環を形成し、アゾメチンイミンやその誘導体となる。この場合における、RとRが一緒になった基としては、−CH−(CH)n−CO−基(式中、nは1〜5の整数を表す。)が挙げられる。この場合の一般式(2)で表される化合物は、一般式(6)として表されるものとなる。一般式(2)及び一般式(6)における好ましいnの数としては1〜3、より好ましくは1が挙げられる。
【0032】
一般式(3)、一般式(7)、及び一般式(8)における「置換基を有していてもよい炭化水素基」としては、前記で説明してきた置換基を有していてもよい炭化水素基が挙げられる。
一般式(3)におけるYが酸素原子又は硫黄原子の場合には、一般式(7)、及び一般式(8)で表されるビニル(チオ)エーテル誘導体となる。
一般式(3)、一般式(7)、及び一般式(8)における好ましいR、R、及びRの基としては、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基など炭素数が1〜20、好ましくは1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。より好ましい基としては水素原子が挙げられる。また、Rの基としては、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基など炭素数が1〜20、好ましくは1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。Rの基はRと一緒になってアルキレン基を形成して隣接する原子と共に環を形成してもよい。この場合におけるアルキレン基としては、炭素数2〜10、好ましくは3〜5の直鎖状又は分岐状のアルキレン基が挙げられる。形成される環としては5〜8員の環が好ましい。
【0033】
一般式(3)におけるYが窒素原子の場合には、−Y−R基は一緒になってピロリドン環を示すことになる。このような場合の好ましい化合物としては、N−ビニルピロリドンが挙げられる。
本発明の方法により製造される含窒素複素環化合物としては、一般式(4)で表される化合物が挙げられる。一般式(4)におけるZが酸素原子の場合には、Z−R3基が全体として酸素原子となってイソオキサゾリジン環を形成することになる。この場合の好ましい原料化合物としては、一般式(5)で表されるニトロン誘導体と一般式(7)で表されるビニルエーテル誘導体又は一般式(8)で表されるビニルチオエーテル誘導体が挙げられる。
また、一般式(6)で表されるアゾメチンイミンやその誘導体を原料とする場合には、一般式(7)のビニルエーテル誘導体との反応が好ましい。この場合には、二環性のテトラヒドロピラゾロ[1,2−a]ピラゾール環を有する化合物が生成される。このテトラヒドロピラゾロ[1,2−a]ピラゾール環を有する生成物のN,O−アセタール部位は、炭素求核剤を導入することができ、また、そのN−N結合は還元条件下切断することができ、ジアザシクロオクタン誘導体へと導くことができる。
一般式(3)におけるYが窒素原子の場合の化合物については、一般式(7)のビニルエーテルと反応させるのが好ましい。この場合にはピロリドン環が置換したテトラヒドロピラゾロ[1,2−a]ピラゾール環を有する化合物を得ることができる。
【0034】
一般式(1)、
NO (1)
(式中、Xは陰イオンを表す。)
で表されるニトロソニウム化合物としては、例えばNOBF、NOPF、NOSbF、NOAsF、NOCuCl、NOCHSOなどが挙げられるが、なかでも非金属性のものが好ましく、好ましいニトロソニウム化合物としては、例えばNOBF、又はNOPFが挙げられる。特に好ましいニトロソニウム化合物としては、NOPFが挙げられる。
ニトロソニウム化合物の使用量としては、一般式(2)で表されるC=N−Z分極構造を有する化合物に対して、0.1モル%〜10モル%、好ましくは1〜10モル%程度が挙げられる。
【0035】
本発明の方法は、例えば、一般式(1)で表されるニトロソニウム化合物、並びに一般式(2)で表されるC=N−Z分極構造を有する化合物及び一般式(3)で表されるビニル(チオ)エーテル誘導体とを、溶媒中で混合して行われる。
溶媒としては、この反応に不活性なものであれば各種の有機溶媒を使用することができる。好ましい溶媒の例としては、ジクロルメタン(DCM)などのハロゲン化アルキル、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒などが挙げられる。好ましい溶媒としては、ジクロルメタンが挙げられる。
本発明の方法はアルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0036】
本発明の方法は、常圧又は加圧で行うことができるが、通常は常圧で行うのが好ましい。反応温度は室温以下が好ましく、例えば、−50度〜室温の範囲で設定できる。
反応混合物中から、目的物を単離精製する方法としては、特に制限はなく、通常の抽出操作、分液操作、結晶化方法、蒸留法、クロマトグラフィーなどの単離精製手段により単離精製することができる。
また、本発明の方法により得られた含窒素複素環化合物は、通常の合成化学における加水分解反応、還元反応、脱炭酸反応の反応条件により処理することができる。
【0037】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
ニトロンとビニルエーテルの[3+2]付加環化反応による、トランス−5−tert−ブトキシ−2,3−ジフェニルイソオキサゾリジン(主生成物)の製造
次の反応式で示される方法にしたがって、イソオキサゾリジン誘導体を製造した。
【0039】
【化19】

【0040】
アルゴン雰囲気下、NOPF(0.005mmol)およびニトロン(0.5mmol)を20mLナスフラスコに量りとり、塩化メチレン2.0mLを加えて−30℃で攪拌した。ここにtert−ブチルビニルエーテル(0.75mmoL)を加え、同温度で1時間攪拌した。ここに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を停止し、塩化メチレンで3度抽出した。得られた有機層を合わせ無水硫酸ナトリウム上で乾燥し、濾過、濃縮後粗生成物を得た。アルミナカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:ジエチルエーテル=40:1〜5:1)にて用いて目的物をジアステレオ混合物として単離した。ジアステレオ比は粗生成物のH−NMR分析により決定した。淡黄色固体。収率95%,トランス:シス=83:17
H−NMR(CDCl)[ppm]
1.25 (s, 9H), 2.48 (ddd, 1H, J = 12, 9.6, 5.2 Hz),
2.62 (dd, 1H, J = 12, 6.8 Hz), 4.80 (dd, 1H, J = 8.4, 8.4 Hz),
5.63 (d, 1H, J = 4.8 Hz), 6.87 (t, 1H, J = 7.6 Hz),
6.97 (d, 2H, J = 8.4 Hz), 7.17 (t, 2H, J = 7.2 Hz), 7.2-7.3 (m, 1H),
7.35 (t, 2H, J = 7.6 Hz), 7.48 (d, 2H, J = 7.2 Hz)
13C−NMR(CDCl)[ppm]
28.8, 47.6, 67.5, 74.9, 97.1, 115.4, 121.1, 126.5, 127.4, 128.2,
128.8, 141.6, 152.5
【0041】
シス−5−tert−ブトキシ−2,3−ジフェニルイソオキサゾリジン(少量生成物)
橙色固体
H−NMR(CDCl)[ppm]
1.36 (s, 9H), 2.32 (ddd, 1H, J = 13, 6.8, 3.2 Hz),
2.96 (ddd, 1H, J = 13, 9.2, 5.6 Hz), 4.39 (dd, 1H, J = 8.8, 6.8 Hz),
5.63 (dd, 1H, J = 5.6, 3.2 Hz), 6.8-7.0 (m, 3H),
7.17 (t, 2H, J = 7.6 Hz), 7.2-7.3 (m, 1H), 7.35 (t, 2H, J = 8.0 Hz),
7.55 (d, 2H, J = 7.2 Hz)
13C−NMR(CDCl)[ppm]
28.9, 47.2, 68.9, 75.0, 96.2, 115.6, 121.7, 127.2, 127.4, 128.5,
128.7, 142.0, 150.9
【実施例2】
【0042】
アゾメチンイミンとビニルエーテルの[3+2]付加環化反応による、シス−7−tert−ブトキシ−5−フェニルテトラヒドロピラゾロ[1,2−a]ピラゾール−1(5H)−オン(主生成物)
次の反応式で示される方法にしたがって、テトラヒドロピラゾロ[1,2−a]ピラゾール誘導体を製造した。
【0043】
【化20】

【0044】
アルゴン雰囲気下、NOPF(0.005mmol)およびアゾメチンイミン(0.5mmol)を20mLナスフラスコに量りとり、塩化メチレン2.0mLを加えて0℃で攪拌した。ここにtert−ブチルビニルエーテル(0.75 mmoL)を加え、同温度で6時間攪拌した。ここに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を停止し、塩化メチレンで3度抽出した。得られた有機層を合わせ無水硫酸ナトリウム上で乾燥し、濾過、濃縮後粗生成物を得た。シリカゲル薄層クロマトグラフィー(ベンゼン:酢酸エチル=1:1)にて用いて目的物を各ジアステレオマーごとに単離した。ジアステレオ比は粗生成物のH−NMR分析により決定した。橙色固体。収率80%,シス:トランス=92:8
H−NMR(CDCl)[ppm]
1.34 (s, 9H), 2.19 (ddd, 1H, J = 14, 11, 4.8 Hz),
2.53 (ddd, 1H, J =18, 11, 4.8 Hz), 2.65-2.85 (m, 2H),
2.99 (ddd, 1 H, J = 13, 9.6, 3.2 Hz), 3.35-3.55 (m, 2H),
5.51 (dd, 1H, J = 7.2, 4.8 Hz), 7.23-7.45 (m, 5H)
13C−NMR(CDCl)[ppm]
28.2, 29.9, 43.5, 46.8, 69.7, 75.5, 79.1, 127.8, 128.2, 128.6,
137.7, 176.7
【0045】
トランス−7−tert−ブトキシ−5−フェニルテトラヒドロピラゾロ[1,2−a]ピラゾール−1(5H)−オン(少量生成物)
赤色粘性液体
H−NMR(CDCl)[ppm]
1.36 (s, 9H), 2.00 (br, 1H), 2.30 (m, 1H),
2.49 (ddd, 1H, J = 9.2, 4.1, 1.8 Hz), 2.63 (dt, 1H, J = 8.7, 4.1 Hz),
3.14 (mbr, 2H), 4.18 (br, 1H), 5.57 (d, 1H, J = 3.2 Hz),
7.23 (d, 2H, J = 4.6 Hz), 7.3-7.4 (m, 3H).
13C−NMR(CDCl)[ppm]
28.4, 34.2, 45.3, 46.7, 66.3, 75.4, 77.2, 128.3, 128.4, 128.9,
137.2, 170.4
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、NOカチオンを触媒として使用する新規な[3+2]付加環化反応させる方法を提供するものであり、本発明の方法の触媒は非金属性の化合物であり、クリーンで環境にやさしい方法を提供するものである。
また、本発明の方法によって製造されるイソオキサゾリン誘導体やテトラヒドロピラゾロ[1,2−a]ピラゾール誘導体は、医薬品、農薬などのファインケミカル分野だけでなく、電子材料や産業基材などの製造において有用な合成中間体を与えるため、本発明の方法は産業上価値ある方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)、
NO (1)
(式中、Xは陰イオンを表す。)
で表されるニトロソニウム化合物の存在下に、C=N−Z分極構造を有する化合物とビニル(チオ)エーテル誘導体とを[3+2]付加環化反応させて、含窒素複素環化合物を製造する方法。
【請求項2】
一般式(1)で表されるニトロソニウム化合物における陰イオンが、BF又はPFである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一般式(1)で表されるニトロソニウム化合物が、NOPFである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
C=N−Z分極構造を有する化合物が、次の一般式(2)、
【化1】

(式中、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよい複素環基を表し、Zは酸素原子又は窒素原子を表し、Zが酸素原子の場合には、−Z−R基は−O基を表し、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、そして、Zが窒素原子の場合には、−Z−は−N−を表し、RとRは一緒になって−CH−(CH)n−CO−基(式中、nは1〜5の整数を表す。)を表し隣接する窒素原子と共に環を形成する。)
で表される分極性の化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
一般式(2)で表される分極性の化合物が、次の一般式(5)、
【化2】

(式中、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよい複素環基を表し、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。)
で表されるニトロンである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
一般式(2)で表される分極性の化合物が、次の一般式(6)、
【化3】

(式中、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよい複素環基を表し、nは1〜5の整数を表す。)
で表されるアゾメチンイミンである請求項4に記載の方法。
【請求項7】
ビニル(チオ)エーテル誘導体が、次の一般式(3)、
【化4】

(式中、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、Yは酸素原子、硫黄原子、又は窒素原子を表し、Yが酸素原子又は硫黄原子の場合には、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を表すか、又はRと一緒になってアルキレン基を形成して隣接する原子と共に環を形成してもよく、Yが窒素原子の場合には、−Y−R基は一緒になって次の式、
【化5】

で表されるピロリドン環を表す。)
で表されるビニル(チオ)エーテル誘導体である請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ビニル(チオ)エーテル誘導体が、次の一般式(7)、
【化6】

(式中、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。)
で表されるビニルエーテル誘導体である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ビニル(チオ)エーテル誘導体が、次の一般式(8)、
【化7】

(式中、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。)
で表されるビニルチオエーテル誘導体である請求項7に記載の方法。
【請求項10】
ビニル(チオ)エーテル誘導体が、次の式、
【化8】

で表されるN−ビニルピロリドンである請求項7に記載の方法。
【請求項11】
生成する含窒素複素環化合物が、次の一般式(4)、
【化9】

(式中、R、R、R、R、R、R、R、Y、及びZは、前記したものと同じものを表す。)
で表される含窒素複素環化合物である請求項1〜10のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2009−215248(P2009−215248A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61915(P2008−61915)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】