説明

Nb−W系合金膜からなる水素分離膜

【課題】水素含有ガスから水素を選択的に透過して分離するための水素分離膜であって、Nb−W系合金からなる水素分離膜を提供する。
【解決手段】水素含有ガスから水素を選択的に透過して分離するための水素分離膜であって、NbにWを添加して合金化したNb−W合金膜からなることを特徴とする水素分離膜、および、NbにWとTaを添加して合金化したNb−W−Ta合金膜からなることを特徴とする水素分離膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた水素透過性能および耐水素脆性を有するNb−W系合金膜からなる水素分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
水素含有ガスから水素を選択的に透過して分離する水素分離膜が知られている。水素分離膜の構成材料には各種金属、合金やセラミックス、あるいは分子ふるい炭素など各種あるが、その代表例としてPd系合金(特許文献1、等)がある。しかし、Pd系合金の水素分離膜では、Y、Gdなどの性能向上効果の大きい希土類系元素を添加した場合でも水素分離性能は2〜3倍しか向上せず、またPd自体が貴金属であるためコスト高となるという欠点がある。
【0003】
特許文献2には、そのようなPd系合金膜に代わるものとして、Nbを主成分とし、V、Ta、Ni、Ti、MoおよびZrからなる群から選ばれる1種以上の元素で合金化してなるNb合金系水素分離膜が開示され、特許文献3には、同じくNb合金からなる水素分離膜として、Pd、Ru、Re、Pt、AuおよびRhからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素5〜25質量%とのNb合金からなる水素分離膜が開示され、特許文献4には、Nb箔は、その両側にPd膜を被覆した場合、同じく両側にPd膜を被覆したTa箔、V箔に比べて水素透過量としては最も高い値を示すことが開示されている。
【0004】
【特許文献1】米国特許第2773561号公報
【特許文献2】特開2000−159503号公報
【特許文献3】特開2002−206135号公報
【特許文献4】米国特許第3350846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そのように、特許文献2にはNbとV、Ta、Ni、Ti、Mo、Zrの6種の元素との合金からなる水素分離膜が開示され、特許文献3にはNbとPd、Ru、Re、Pt、Au、Rhの6種の元素との合金からなる水素分離膜が開示されているが、NbとWとの合金膜、またNbとWとTaとの合金膜が水素分離膜として有効であることについては開示されていない。
【0006】
本発明者らが、Nb合金からなる水素分離膜に係る以上の事実を基にNb−W合金膜、Nb−W−Ta合金膜について現実の実験により追求したところ、(1)特許文献2および特許文献3に記載の合計12種の元素のほかに、Wについても、Nbとの合金が水素分離膜として優れた特性を有することを見い出し、また、(2)Nb−W合金またはNb−W−Ta合金からなる水素分離膜の性能は水素透過係数Φのみの評価では決まらず、水素透過速度と耐水素脆性の両立させるには、適切な使用温度、固溶水素量、適切な一次側、二次側の使用圧力を選択する必要があることを見い出した。
【0007】
本発明は、それらの事実に基づき、(a)Nb−W合金膜またはNb−W−Ta合金膜からなる新規水素分離膜を提供することを目的とするものである。以下において、それら両合金膜からなる水素分離膜に関連する参考発明として、(b)Nb−W合金膜またはNb−W−Ta合金膜による分離条件を特定の手法により選定することにより、水素含有ガスから水素を選択的に分離する水素分離法、および、(c)それらNb−W系合金膜による水素の分離のための条件設定法についても説明している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(1)は、NbにWを添加して合金化したNb−W合金膜からなることを特徴とする水素分離膜である。より詳しくは、本発明(1)は、水素含有ガスから水素を選択的に透過して分離するための水素分離膜であって、NbにWを添加して合金化したNb−W合金膜からなることを特徴とする水素分離膜である。
【0009】
本発明(2)は、NbにWとTaを添加して合金化したNb−W−Ta合金膜からなることを特徴とする水素分離膜である。より詳しくは、本発明(2)は、水素含有ガスから水素を選択的に透過して分離するための水素分離膜であって、NbにWとTaを添加して合金化したNb−W−Ta合金膜からなることを特徴とする水素分離膜である。Taに代え、またはTaに加えて、第3族、第4族元素の1種または2種以上を添加してもよい。
【0010】
〈参考発明〉下記発明(3)〜(6)は参考発明である。
本発明(3)は、Nb−W合金膜からなる水素分離膜を使用して水素含有ガスから水素を分離する方法であって、
(a)温度Tにおける、
(b)Nb−W合金膜に対する水素雰囲気の水素圧力P、
(c)Nb−W合金膜に対する固溶水素量Cを測定し、
(d)温度T、水素圧力P、固溶水素量Cの実測データを基にこれら3要件を関連付けたPCT曲線を作成し、
前記PCT曲線を基に固溶水素量CとNb−W合金膜の脆性破壊との関係を求めて耐水素脆性に係る限界固溶水素量を評価することにより、水素分離膜としての使用温度、一次側、二次側の水素圧力条件を設定し、Nb−W合金膜を前記設定条件を基に使用して水素含有ガスから水素を分離することを特徴とするNb−W合金膜による水素分離法である。
【0011】
本発明(4)は、Nb−W−Ta合金膜からなる水素分離膜を使用して水素含有ガスから水素を分離する方法であって、
(a)温度Tにおける、
(b)Nb−W−Ta合金膜に対する水素雰囲気の水素圧力P、
(c)Nb−W−Ta合金膜に対する固溶水素量Cを測定し、
(d)温度T、水素圧力P、固溶水素量Cの実測データを基にこれら3要件を関連付けたPCT曲線を作成し、
前記PCT曲線を基に固溶水素量CとNb−W−Ta合金膜の脆性破壊との関係を求めて耐水素脆性に係る限界固溶水素量を評価することにより、水素分離膜としての使用温度、一次側、二次側の水素圧力条件を設定し、Nb−W−Ta合金膜を前記設定条件を基に使用して水素含有ガスから水素を分離することを特徴とするNb−W−Ta合金膜による水素分離法である。
【0012】
本発明(5)は、Nb−W合金膜からなる水素分離膜を使用して水素含有ガスから水素を分離するための条件を設定する方法であって、
(a)温度Tにおける、
(b)Nb−W合金膜に対する水素雰囲気の水素圧力P、
(c)Nb−W合金膜に対する固溶水素量Cを測定し、
(d)温度T、水素圧力P、固溶水素量Cの実測データを基にこれら3要件を関連付けたPCT曲線を作成し、
当該PCT曲線を基に固溶水素量CとNb−W合金膜の脆性破壊との関係を求めて耐水素脆性に係る限界固溶水素量を評価することにより、使用温度、一次側、二次側の水素圧力条件を設定することを特徴とするNb−W合金膜による水素の分離のための条件設定法である。
【0013】
本発明(6)は、Nb−W−Ta合金膜からなる水素分離膜を使用して水素含有ガスから水素を分離するための条件を設定する方法であって、
(a)温度Tにおける、
(b)Nb−W−Ta合金膜に対する水素雰囲気の水素圧力P、
(c)Nb−W−Ta合金膜に対する固溶水素量Cを測定し、
(d)温度T、水素圧力P、固溶水素量Cの実測データを基にこれら3要件を関連付けたPCT曲線を作成し、
当該PCT曲線を基に固溶水素量CとNb−W−Ta合金膜の脆性破壊との関係を求めて耐水素脆性に係る限界固溶水素量を評価することにより、使用温度、一次側、二次側の水素圧力条件を設定することを特徴とするNb−W−Ta合金膜による水素の分離のための条件設定法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下(a)〜(d)の効果が得られる。
(a)Nb合金系水素分離膜の構成材料として従来知られていた12種のNb合金膜のほかに、新たにNb−W系合金、すなわちNb−W合金、Nb−W−Ta合金を加えることができる。
(b)Nb−W合金、Nb−W−Ta合金は安価であるので実用上有用である。
(c)Nb−W合金膜またはNb−W−Ta合金膜からなる水素分離膜における使用温度、一次側と二次側の水素圧力をPCT曲線を利用して水素分離膜としての使用条件を最適化することができる。
(d)PCT曲線を利用して水素分離膜としての使用条件を最適化することができることから、Nb−W合金膜またはNb−W−Ta合金膜からなる水素分離膜による水素含有ガスからの水素分離の範囲を拡げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に到達するに至る過程を含めて本発明及び参考発明を順次説明する。
【0016】
Pd合金などの合金系の水素分離膜について、水素の透過速度を高めるためには、膜材料に対する水素の固溶量や水素の拡散速度を高くする必要がある。しかし、水素の固溶量を大きくすると、膜材料の種類如何によっては水素脆化が顕著になることが知られている。したがって、水素の固溶量と耐水素脆性との両特性を満たす膜材料を得るためには、膜材料に対する固溶水素量の確保に加えて、水素による脆化を避けるための条件を確かめ、把握することが必要となる。
【0017】
ところで、Pd合金などの合金系の水素分離膜の性能については従来、水素透過係数Φのみを用いて評価されている。しかし、Nb合金の場合、水素の溶解反応がシーベルトの法則(Sievert's law:C=K×P1/2。以下“シーベルツ則”と略称する。)に従わない場合があり、この場合には水素透過係数Φ(=DK)を用いて水素透過能を評価することは適切ではない。
【0018】
シーベルツ則が成り立つ範囲では水素透過係数Φと水素透過速度Jが比例関係にあるが、前記特許文献2では“水素透過係数Φ=水素分離性能”であるとして説明され、前記特許文献3では、水素の溶解度がPd−Ag合金と比較して増加したことしか示されておらず、これでは工業的に重要な水素透過速度Jが増加するとは限らない。
【0019】
しかし、本発明によれば、Nb−W合金膜、Nb−W−Ta合金膜については、水素分離膜としての使用温度範囲において、固溶水素量を低下させることによって耐水素脆性を改善できることがわかった。
【0020】
Nb−W合金膜、Nb−W−Ta合金膜がどのような耐水素脆性をもつのかを確かめるには、その前提として、水素分離膜としての使用温度範囲における、(a)水素雰囲気中、すなわち一次側と二次側が同じ水素圧である水素雰囲気中において、また(b)水素透過中、すなわち一次側の水素圧が二次側の水素圧より大きい水素雰囲気中において、Nb合金膜の水素脆性等の機械的性質をその場で定量的に測定、評価できる試験装置が必要である。
【0021】
そこで、本発明者らは、Nb−W合金膜、Nb−W−Ta合金膜の水素脆性等の機械的性質をその場で測定できる特殊な試験装置〔スモールパンチ試験装置(以下適宜“SP試験装置”と略記する。)と称している〕を新たに開発し、当該SP試験装置を用いてNb−W合金膜、Nb−W−Ta合金膜の水素脆性その他の特性を定量的に測定し、評価した。
【0022】
本SP試験装置を使用することにより、Nb−W合金、Nb−W−Ta合金からなる水素分離膜材料について、その使用温度範囲において、対応するPCT曲線に基づいた固溶水素量と変形、破壊形態との関係を求め、耐水素脆性についての限界固溶水素量を評価することができる。ここで、PCT曲線とは、それらのNb合金膜について、(a)使用温度と(b)固溶水素量と(c)水素圧力との関係を示したデータを意味する。
【0023】
〈SP試験装置の構造および試験事項と、その操作法の概略〉
SP試験装置の構造および試験事項と、その操作法の概略を説明する。図1はSP試験装置の構造、操作法を説明する図で、図1(a)は縦断面図、図1(b)は図1(a)中コア部分を拡大して示した図である。本SP試験装置は全体としては円筒状である。
【0024】
図1において、1は支持部材である。支持部材1は支持台とも言えるが、本明細書では支持部材と称している。支持部材1は縦断面が2段の凸状(2個のフランジを有する)を備えて構成され、その中央部に円筒状の空隙を有している。2は支持部材1に設けた導入水素貯留部、3は導入水素貯留部2から後述一次側水素雰囲気Yに連通する導管、5は支持部材1に設けた導出水素貯留部、4は後述二次側水素雰囲気Zから導出水素貯留部5に連通する導管である。
【0025】
導入水素貯留部2は、弁V1を備える当該導入水素貯留部2への水素供給用の導管に連通し、導出水素貯留部5は、弁V2を備える当該導出水素貯留部5からの水素排出用の導管に連通している。
【0026】
支持部材1における2段の凸状(2個のフランジを有する)のうち、1段目(図中、下の方)の凸状の外周には蛇腹(bellows)9の下端部を固定するフランジ部材(以下、固定部材と略称する。)6が配置されている。固定部材6はボルト7により支持部材1のフランジに固定され、固定部材6とフランジとの間はガスケット(Cu製)8により気密シールされている。
【0027】
12は支持部材1と相対する上部位置に置かれた上下動可能な上蓋部材である。上蓋部材12は縦断面が2段の逆凸状(2個のフランジを有する)に構成されている。上蓋部材12における2段の逆凸状のうち、1段目(図中、上の方)の逆凸状の外周には蛇腹9の上端部を固定するフランジ部材10が配置されている。固定部材10はボルト(図示は省略している。)により上蓋部材12のフランジに固定され、固定部材10と上蓋部材12のフランジとの間はガスケット(Cu製)11により気密シールされている。
【0028】
13は上蓋部材12を上下に移動させるスライディングシャフト(滑動軸)であり、その下端が支持部材1に固定されている。16はロードセルである。後述膜試料20をセットした後、上蓋部材12をスライディングシャフト13を介して下方に移動することにより、後述パンチャー24を下方へ移動させることで、後述膜試料20に所定の荷重(押圧力)を加えることができる。なお、14は閉空間Y内の圧力上昇時に上蓋部材12の脱落を防ぐためのロックナットであり、13のスライディングシャフトに沿って15のスライドブッシュを介して上蓋部材12が下方に移動できる。
【0029】
支持部材1、固定部材6、ガスケット8、蛇腹9、固定部材10、上蓋部材12、ガスケット11、導入水素貯留部5、後述膜試料20の上面および後述固定部材21で囲まれた閉空間Yが、後述膜試料20に対する一次側の水素雰囲気Yとなり、後述膜試料20の下面、導管4および導出水素貯留部5で囲まれた空間が二次側水素雰囲気Zとなる。
【0030】
〈膜試料に対する水素圧力の負荷〉
導入水素貯留部2、導管3を経て供給する水素量を弁V1で調節することにより一次側の水素圧を調節し、導管4、導出水素貯留部5を経て導出する水素量を弁V2で調節することにより二次側の水素雰囲気の水素圧を調節する。これにより、後述膜試料20の一次側と二次側との水素雰囲気を同一の水素圧力に制御し、また異なる水素圧力に制御することができる。
【0031】
〈膜試料に対する荷重の付与、計測〉
20は膜試料、19は膜試料20を支持するガスケット(SUS鋼製)である。21は膜試料20の固定部材、24はパンチャー、25は鋼球である。固定部材21の下部は逆凹状に形成され、下端面から上端面に至る複数の貫通孔22を有している。当該逆凹状の底部面は膜試料の上面との間にスペースを保ち、複数の貫通孔22は水素雰囲気Yと連通している。
【0032】
固定部材21の中央部に上下貫通する円筒状の空隙を有している。23はその内壁である。固定部材21の中央部の円筒状空隙に内壁23に沿ってパンチャー24が嵌挿され、鋼球25は膜試料20の上面に当接、配置される。パンチャー24により鋼球25を押し下げ、鋼球25を膜試料20に押し付けることにより、所定の荷重に対応する膜試料の形状変化の有無、また形状変化有りのときの、その変化の程度を観察することができる。所定の荷重値はロードセル16により計測される。
【0033】
支持部材1の中央部の円筒状空隙の近傍にはセラミックヒータ17が内蔵されており、膜試料20の近くまで熱電対18が挿入されている。セラミックヒータ17と熱電対18により膜試料の温度を測定、制御する。
【0034】
本SP試験装置は、Nb−W合金膜、Nb−W−Ta合金膜に対して真空〜0.3MPaの水素圧力を負荷することができ、室温〜600℃の範囲で温度制御が可能であり、それらの条件下における延性−脆性遷移を評価することが可能である。
【0035】
〈SP試験装置によるNb−W合金膜について試験〉
SP試験装置を使用して、アーク溶解法により製造した縦横の長さ10mm、厚さ0.5mm(10mm×10mm×0.5mm=50mm3)のNb−5W合金膜(=NbとWの合計量中、Wが5モル%のNbとWの合金膜。以下、同種の記載について同じ。)の試験片について、400〜500℃の範囲の各温度において、0.001〜5.00(1×10-3〜5×100)MPaの各水素圧Pと固溶水素量C〔H/M(水素原子と金属原子の原子比、以下、同種の記載について同じ。)〕との間の関係を把握した上でSP試験を行い、“荷重−変位”を測定して評価した。
【0036】
ここで、400〜500℃の各温度とは“Nb−5W合金”膜の各試験片について所定温度、例えば400℃の一定温度とし、試験が終了するまで同じ温度で試験することを意味する。また、0.001〜5.00MPaの各水素圧とは、一次側水素雰囲気Yと二次側水素雰囲気Zは同一の水素圧とし、Nb−5W合金膜の各試験片について当該水素圧を所定水素圧、例えば0.01MPaの一定水素圧とし、試験が終了するまで同じ水素圧雰囲気で試験することを意味する。
【0037】
SP試験による水素脆性の定量評価は、以下のようにして行った。
【0038】
(a)例えば“Nb−5W合金膜”の試験片について、温度と水素圧を例えば500℃と0.01MPaとし、この雰囲気に1時間保持した後、当該試験片に鋼球25による荷重により押圧力をかけながら試験片を変形させ、そのときの荷重とクロスヘッド(鋼球のヘッド)の移動量を試験片が破壊するまで記録を続け、“荷重−変位”曲線を作成する。
【0039】
(b)当該試験片の固溶水素量〔H/M(H/Mは水素原子と金属原子の原子比)〕は、当該試験の温度におけるPCT曲線に基づいて、当該試験で加えた水素圧力から見積もった。
【0040】
(c)“荷重−変位”曲線から、膜試料が破壊に至るまでのSP吸収エネルギーを求めた。
【0041】
ここで、吸収エネルギーとは、試験片の変形開始から破壊に至るまでに要した仕事量に対応(相当)している。パンチャー24により鋼球25を押し下げた圧力、つまり荷重(MPa)を変位量に対して積分する(=荷重−変位曲線の下の面積を計算する)ことでSP吸収エネルギーを算出する。
【0042】
〈PCT測定装置による測定〉
PCT測定装置による測定結果の例として、Nb−5W合金膜の各試験片について、400℃、450℃、500℃の各温度における固溶水素量Cと水素圧力の関係を図2に示す。縦軸は水素圧力(MPa)、横軸は固溶水素量C(H/M)である。
ここで、PCT測定装置(JIS H 7201)とは、ある温度Tにおいて、物質が水素を吸蔵、放出するときの特性(圧力P、水素吸蔵量C)を測定する装置である。図2における固溶水素量Cは水素吸蔵量Cに相当している。
【0043】
図2のとおり、Nb−5W合金膜は、温度が400℃、450℃、500℃と、高くなるに従って、左上にシフトしている。すなわち、固溶水素量が抑制されると同時に、曲線の傾きが大きい領域が1気圧近傍の高圧側へシフトしている。これは、常圧付近において水素の圧力差を負荷したときに、水素分離膜、本例ではNb−5W合金膜の両面において大きな水素濃度差が得られるために、高い水素透過速度が得られることを意味する。
【0044】
〈SP試験〉
SP試験結果の例として、Nb−5W合金膜のSP吸収エネルギーを図3に示した。水素圧力0.01MPaにおける結果である。比較のために、純Nbの場合についての結果も示している。
【0045】
図3のとおり、Nb−5W合金はSP吸収エネルギーが、純ニオブの約10倍も高く、良好な耐水素脆性を有していることがわかる。同様にして測定したNb−W−Ta合金膜についても良好な結果が得られている。
【0046】
〈水素透過試験〉
水素透過試験結果の例として、Nb−5W合金膜の水素透過速度試験の結果を図4に示した。温度は500℃で、負荷した圧力条件は図4中の下部に示している。図4には、Nb−5W合金膜のほかに、Pd−26Ag合金膜についての結果を示している。横軸は、試験開始からの時間、縦軸は、単位時間(s)に単位面積(m2)を透過する水素の量を膜厚m-1)で規格化した水素透過速度J・d(mol・m-1・s-1)である。 なお、図4、図5の縦軸の記載中、符号“mol H”は水素原子としてのモル数(=原子数)の意味である。
【0047】
図4のとおり、Nb−5W合金膜の場合、水素透過速度は、43×10-3mol・m-1・s-1の値を示している。これに対して、Pd−26Ag合金膜の透過速度は、12×10-3 mol・m-1・s-1である。このように、本発明によるNb−5W合金膜は、良好な水素透過速度を示し、Pd−Ag合金膜に較べて低い圧力差しか負荷していないにも拘わらず、数倍も高い水素透過速度が得られている。Nb−W−Ta合金膜についても、Nb−W合金膜と同様に良好な結果が得られている。
【0048】
〈水素の拡散係数〉
以上の結果を基に、水素濃度差ΔCと水素透過速度J・d(=J×d)の関係を利用して、水素の拡散係数を求めることができる。
【0049】
図5はその結果の一例である。図5中、横軸は、水素分離膜の一次側と二次側との間の水素濃度差ΔCである。これは、PCT曲線に基づいて水素圧力から見積もった固溶水素量Cを用いて算出することができる。縦軸は、単位面積、単位膜厚の分離膜を透過する水素の透過速度J・d(mol・m-1・s-1)である。
【0050】
図5のとおり、水素透過速度は、一次側と二次側の水素濃度差に比例しており、原点を通る直線で近似できる。この直線の傾きから、水素が透過しているその場の水素の拡散係数を正しく求めることができる。
【0051】
〈水素透過その場における水素の拡散係数〉
その結果、Nb−5W合金の500℃における水素の拡散係数は、5.98×10-92・s-1であった。同様にして、純Nbの500℃における水素の拡散係数は2.95×10-92・s-1であった。すなわち、NbにWを添加することによって、水素の拡散速度も促進されることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】SP試験装置の構造、操作法を説明する図
【図2】Nb−W系合金膜について、400〜500℃における、雰囲気の水素圧力Pと固溶水素量Cの関係をプロットした図
【図3】SP試験により求めた、純NbおよびNb−W系合金のSP吸収エネルギーを示す図
【図4】Nb−W系合金およびPd−Ag系合金について、水素透過速度試験の試験条件、結果を示す図
【図5】Nb−W系合金および純Nbについて、水素透過速度J.dと水素濃度差ΔCの関係をプロットした図
【符号の説明】
【0053】
1 支持部材
2 支持部材1に設けた導入水素貯留部
3 水素貯留部2から一次側水素雰囲気Yに連通する導管
4 二次側水素雰囲気Zから導出水素貯留部5に連通する導管
5 支持部材1に設けた導出水素貯留部
6 蛇腹9の下端部を固定するフランジ部材
7 ボルト
8 ガスケット
9 蛇腹
10 蛇腹9の上端部を固定するフランジ部材
11 ガスケット
12 支持部材1と相対する上部位置に置かれた上下動可能な上蓋部材
13 スライディングシャフト
14 ナット
15 スライドブッシュ
16 ロードセル
17 セラミックヒータ
18 熱電対
19 膜試料20の固定部材
20 膜試料
21 膜試料20の固定部材
22 貫通孔
24 パンチャー
25 鋼球
26 支持部材1の凸部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素含有ガスから水素を選択的に透過して分離するための水素分離膜であって、NbにWを添加して合金化したNb−W合金膜からなることを特徴とする水素分離膜。
【請求項2】
水素含有ガスから水素を選択的に透過して分離するための水素分離膜であって、NbにWとTaを添加して合金化したNb−W−Ta合金膜からなることを特徴とする水素分離膜。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−250234(P2012−250234A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−167840(P2012−167840)
【出願日】平成24年7月28日(2012.7.28)
【分割の表示】特願2008−72609(P2008−72609)の分割
【原出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:日本金属学会2007年秋期(第141回)大会 主催者名:社団法人日本金属学会 開催日:平成19年9月19日〜9月21日
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】