説明

Nb3Sn超電導線材製造用前駆体およびその製造方法並びにNb3Sn超電導線材

【課題】臨界電流密度を良好に維持したまま交流損失をできるだけ低減することができ、NMR分析装置等で用いる超電導マグネットへの用途適用を可能にできるNb3Sn超電導線材、およびこうしたNb3Sn超電導線材を製造するための前駆体の構成等を提供する。
【解決手段】内部Sn法によってNbSn超電導線材を製造する際に用いる超電導線材製造用前駆体において、中央にSnまたはSn基合金芯が配置されると共に、その周囲にCuまたはCu基合金からなる層と、その外周に、NbまたはNb基合金シートとCuまたはCu基合金シートを重ね巻きしたロール状積層物が配置され、更にその外周に安定化銅層を有する一次複合線材を、複数本束ねてCuまたはCu基合金からなるパイプに挿入して縮径加工されたものであり、縮径加工後の最終形状におけるロール状積層物の平均厚さが60μm以下となるように設定されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Nb3Sn超電導線材を内部Sn法によって製造するための前駆体(超電導線材製造用前駆体)、およびその製造方法、並びにNb3Sn超電導線材に関するものであり、殊に中磁場から高磁場発生用超電導マグネットの素材として有用なNb3Sn超電導線材を、内部Sn法によって製造する為の前駆体等の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導線材が実用化されている分野のうち、高分解能核磁気共鳴(NMR)分析装置や核融合装置、加速器等に用いられる超電導マグネットについては、発生磁場が高いほど分解能が高まることから、超電導マグネットは近年ますます高磁場化の傾向にある。
【0003】
高磁場発生用超電導マグネットに使用される超電導線材としては、Nb3Sn線材が実用化されており、このNb3Sn超電導線材の製造には主にブロンズ法が採用されている。
【0004】
このブロンズ法は、Cu−Sn基合金(ブロンズ)マトリクス中に、複数のNbまたはNb基合金からなる芯材を埋設して複合線材が構成される。この複合線材を、押出し若しくは伸線加工等の縮径加工を施すことによって、上記芯材を細径化してフィラメント(以下、Nb基フィラメントと呼ぶ)とし、このNb基フィラメントとブロンズからなる複合線材を複数束ねて線材群となし、その外周に安定化の為の銅(安定化銅)を配置した後、更に縮径加工する。引き続き、縮径加工後の上記線材群を600℃以上、800℃以下程度で熱処理(拡散熱処理)することにより、Nb基フィラメントとブロンズマトリクスの界面にNb3Sn化合物層を生成する方法である。
【0005】
しかしながら、この方法ではブロンズ中に固溶できるSn濃度には限界があり(15.8質量%以下)、生成されるNb3Sn化合物層の厚さが薄く、また結晶性が劣化してしまい、臨界電流密度Jcが高くないという欠点がある。
【0006】
Nb3Sn超電導線材を製造する方法としては、上記ブロンズ法の他に、内部Sn法も知られている。この内部Sn法では、ブロンズ法のような固溶限によるSn濃度に限界がないのでSn濃度をできるだけ高く設定でき、良質なNb3Sn相が生成可能であるため、高磁場での高い臨界電流密度Jcが得られるといわれている。
【0007】
内部Sn法では、図1(Nb3Sn超電導線材製造用前駆体の模式図)に示すように、CuまたはCu基合金(以下、「Cuマトリクス」と呼ぶことがある)4の中央部に、SnまたはSn基合金からなる芯材(以下、「Sn基金属芯」と呼ぶことがある)3を埋設すると共に、Sn基金属芯3の周囲のCuマトリクス4中に、複数のNbまたはNb基合金からなる芯材(即ち、「Nb基フィラメント」と呼ぶことがある)2を相互に接触しないように配置して前駆体(超電導線材製造用前駆体)1とする。
【0008】
この前駆体に伸線加工等の縮径加工を施した後、熱処理(拡散熱処理)によってSn基金属芯3中のSnを拡散させ、Nb基フィラメント2と反応させることによってNb3Snを生成させる方法である(例えば、特許文献1)。
【0009】
また上記のような前駆体1においては、図2に示すように、前記Nb基フィラメント2とSn基金属芯3が配置された部分(以下、「超電導コア部」と呼ぶことがある)と、その外部の安定化銅層4aの間に拡散障壁層6を配置した構成を採用するのが一般的である。この拡散障壁層6は、例えばNb層またはTa層、或いはNb層とTa層の2層からなり、拡散熱処理の際に超電導コア部内のSn(Sn基金属芯3)が外部に拡散してしまうことを防止し、超電導コア部内でのSnの純度を高める作用を発揮するものである。
【0010】
上記のような、超電導線材製造用前駆体を製造するには、下記の手順で行われる。まず、Nb基フィラメントをCuマトリスク管に挿入し、押出し加工や伸線加工等の縮径加工を施して複合体とし(通常、断面形状が六角形に形成される)、これを適当な長さに裁断する。そして、Cu製外筒を有し、拡散バリア層を設け或いは設けないビレット内に前記複合体を充填し、その中央部にCuマトリクス(Cu製中実ビレット)を配置して押出し等の縮径加工をした後、中央部のCuマトリクスを機械的に穿孔してパイプ状複合体を構成する。或いは、他の方法として、Cu外筒とCu内筒で構成され、拡散障壁層6を有しまたは有さない中空ビレット内(外筒と内筒の間)に前記複合体を複数本充填してパイプ押出し等の縮径加工を施してパイプ状複合体を構成する。
【0011】
そして、これらの方法によって作製されたパイプ状複合体の中央空隙部内に、Sn基金属芯を挿入して縮径加工して、前記図1、2に示したような前駆体(一次複合線材)が製造される。以下では、これらのものを、「モノエレメント線材」と呼ぶことがある。
【0012】
上記のようにして構成された各前駆体(モノエレメント線材)は、拡散障壁層6を有するか或いは有さないCuマトリクス管内部に複数本束ねて充填され、更に縮径加工されて多芯型の超電導線材製造用前駆体(以下、「マルチエレメント線材」と呼ぶことがある)とされる。
【0013】
図3、4は、マルチエレメント線材の構成例を示したものである。このうち図3は、前記図1に示した前駆体1(モノエレメント線材)を、拡散障壁層6aを有するCuマトリクス5内に複数本束ねて埋設し、マルチエレメント線材11としたものである。図4は、前記第2図に示した前駆体(モノエレメント線材)を、拡散障壁層を有さないCuマトリクス5内に複数本束ねて埋設してマルチエレメント前駆体11aとしたものである。
【0014】
上記のような内部Sn法において、超電導線材の臨界電流密度Jcを高くしようとすると、Nb基フィラメントの断面積を大きくする必要があり、その結果Nb基フィラメント同士の間隔が狭くなる。また、拡散障壁層はモノエレメント毎に配置した方が好ましいものとされる(前記図2、4)。
【0015】
その場合、Nb3Sn相が生成する際(拡散熱処理時)に、体積膨張によってNb基フィラメント同士の結合(ブリッジング)が発生したり、Nbからなる拡散障壁層上にNb3Sn相がリング状に形成されて、交流損失が大きくなるという問題がある。
【0016】
交流損失は、超電導線材への電流や磁場が変動したときに発生するエネルギーの損失であるが、こうした交流損失を低減するためには、Nb基フィラメント同士の間隔を広くするか、Nb基フィラメントを同心円状に配置してSn基金属芯を小さくすること等が考えられるが、これらの構成は臨界電流密度Jcの低下につながるものである。高い臨界電流密度Jcを実現しつつ交流損失を低減するための最も有効な手段としては、線径をできるだけ小さくしたモノエレメント線材を用いてマルチエレメント線材を構成するのが良いことが予想される。しかしながら、こうした構成を採用すると、より多くの加工を加える必要があり、加工中の断線等の問題が顕在化することになる。
【0017】
通常の内部Sn法では、線材中央にSn基金属芯を配置される関係上、中間焼鈍を行なわずにほとんど冷間でのみで縮径加工が行われることになる。線径をできるだけ小さくしたモノエレメント線材を実現するためには、できるだけ多くの加工を加える必要があるが、そうするとNb基フィラメントが加工硬化して断線が発生することが多くなる。
【0018】
できるだけ加工率を小さくして良好な超電導特性(高臨界電流密度Jc、低交流損失)を実現する技術として、例えば特許文献2のような技術も提案されている。この技術では、図5に示すように、中央に配置されるSn基合金芯3の外周を、メッシュ状のNb部材(以下、Nbメッシュと呼ぶ)7とCuシート8を重ね巻き(以下、「ジェリーロール巻き」と呼ぶことがある)したロール状積層物9を配置し、更にその外周に拡散障壁層6bを配置し、これをCuパイプ15内に挿入して縮径加工を施すことによってモノエレメント線材20(超電導線材製造用前駆体)を得る。更に、このモノエレメント線材20を複数本束ねてCu製パイプ内に挿入して縮径加工することによって、図6に示すようなCuマトリクス21内に複数のモノエレメント線材20が埋設されたマルチエレメント線材11bを得るものである。こうした方法は、MJR法(Modified jelly Roll法)と呼ばれている。
【特許文献1】特開昭49−114389号公報
【特許文献2】米国特許第4262412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上記のようなMJR法では、Nbメッシュを使用するものであるので、それだけ前駆体を製造するときの加工率を低くできるという利点がある。しかしながら、図5、6に示したような前駆体では、加工中にCuシートが部分的にNbメッシュの孔部分に入り込んだ状態となり、線材断面で見たときには、Nb部分は点在した状態となるので(前記図5参照)、Nb3Sn相の反応効率は、通常の内部Sn法に適用される前駆体(前記図1〜4)を用いたときと同等程度のものしか得られないという問題がある。
【0020】
またこの方法では、特殊なNbメッシュを使用するものであるので、Nb基フィラメントを使用する場合と比べて高価になるばかりか、加工率を低くしても内部断線が発生しやすくという問題がある。しかも冷間での加工だけしか行われないので、NbとCuとの密着性が悪く、こうしたことも断線発生の原因となる。また、高い臨界電流密度Jcを実現するためには、エレメント内のCu比率をできるだけ低くする必要があり、そのためにはメッシュの孔径をできるだけ小さくすることが有効であるが、メッシュの孔径を小さくするにも加工上限界があり、期待するほどの高い臨界電流密度Jcが得られていないのが実情である。
【0021】
本発明はこうした状況の下でなされたものであって、その目的は、臨界電流密度Jcを良好に維持したまま交流損失をできるだけ低減することができ、NMR分析装置等で用いる超電導マグネットへの用途適用を可能にできるNb3Sn超電導線材、およびこうしたNb3Sn超電導線材を製造するための前駆体の構成、並びにこうした前駆体を製造するための有用な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成することのできた本発明の超電導線材製造用前駆体とは、内部Sn法によってNbSn超電導線材を製造する際に用いる超電導線材製造用前駆体において、中央にSnまたはSn基合金芯が配置されると共に、その周囲にCuまたはCu基合金からなる層と、その外周に、NbまたはNb基合金シート(以下、「Nbシート」で代表することがある)とCuまたはCu基合金シート(以下、「Cuシート」で代表することがある)を重ね巻きしたロール状積層物が配置され、更にその外周に安定化銅層を有する一次複合線材を、複数本束ねてCuまたはCu基合金からなるパイプに挿入して縮径加工されたものであり、縮径加工後の最終形状におけるロール状積層物の平均厚さが60μm以下となるように設定されたものである点に要旨を有するものである。
【0023】
本発明のNb3Sn超電導線材製造用前駆体においては、前記NbまたはNb基合金シートとCuまたはCu基合金シートの厚さの比(NbまたはNb基合金シートの厚さ/CuまたはCu基合金シートの厚さ)が2.0〜5.0であることが好ましい。また中央に配置されることのあるSn基合金芯は、Tiを1.0〜5.0質量%の範囲で含むものであることが好ましい。
【0024】
更に、(a)前記ロール状積層物の内側または外側に、NbまたはNb基合金シートのみを重ね合わせた領域を設け、その領域のシート間にTiシートを挟み込んで配置したものとすることや、(b)前記一次複合線材のロール状積層物の外周に拡散障壁層を形成するか、または複数本束ねて挿入される一次複合線材とCuまたはCu基合金からなるパイプの間に拡散障壁層を形成したものとすること、等も好ましい実施形態である。
【0025】
上記のような超電導線材製造用前駆体を、拡散熱処理してNb3Sn系超電導相を形成することによって、希望する良好な超電導特性(高臨界電流密度Jc、低交流損失)を発揮するNb3Sn超電導線材が得られる。
【0026】
上記のような超電導線材製造用前駆体を製造するに当たっては、前記一次複合線材におけるSnまたはSn基合金芯を除いた部分について熱間押し出し加工を行い、その後、SnまたはSn基合金芯を中央部に挿入して冷間伸線し、この一次複合線材を複数本束ねてCuまたはCu基合金からなるパイプに挿入して縮径加工するようにすれば良い。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、NbシートとCuシートをジェリーロール巻きすると共に、このジェリーロール巻きしたロール状積層物をできるだけ小さくすることによって、臨界電流密度Jcを良好に維持したまま交流損失をできるだけ低減することができる超電導線材を得ることのできるNb3Sn超電導線材製造用前駆体が実現できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明者らは、上記目的を達成するために様々な角度から検討した。その結果、NbシートとCuシートをジェリーロール巻きすると共に、ジェリーロール巻きしたロール状積層物の厚みをできるだけ小さく(具体的には、最終形状での平均厚さで60μm以下)すれば、臨界電流密度Jcを良好に維持したまま交流損失をできるだけ低減することができることを見出し、本発明を完成した。
【0029】
内部Sn法による超電導線材の製造においては、前駆体の中央に配置されるSn基金属芯中のSnが拡散することによって、Nb3Sn相が形成されるのであるが、Snの拡散は、NbシートとCuシートをジェリーロール巻きしたロール状積層物中は進行しにくいものとなる、即ち、ロール状積層物中は、Snは、薄いが多層のNb層を通して拡散する必要があり、Cu層のみを介して拡散する内部Sn法と比べると、反応効率が低下することが予想される。
【0030】
上記MJR法は、Nbメッシュを使用することによって、反応効率を高めたものであるが、前述した別の不都合が生じることになる。しかしながら、本発明者らが検討したところによれば、NbメッシュではないNbシートと、Cuシートをジェリーロール巻きしたロール状積層物の平均厚さを、最終形状で60μm以下となるように制御してやれば、Snの拡散がロール状積層物の全体に行き渡り、Nb3Sn相が十分に形成されたのである。ロール状積層物の平均厚さは、40μm以下であることが好ましいが、この厚さをあまり薄くすることは加工面で限界があることから、10μm以上であることが好ましい。尚、上記「平均厚さ」とは、ロール状積層物の厚さに変動が多少あっても平均してこの厚さを確保していればよいことを意味し、必ずしも全周に亘って60μm以下を確保する必要はない。
【0031】
本発明のNb3Sn超電導線材製造用前駆体においては、前記NbシートとCuシートの厚さの比(Nbシートの厚さ/Cuシートの厚さ)が2.0〜5.0であることが好ましい。この比の値が2.0未満では、Nb3Sn相の面積が少なくなり、臨界電流密度Jcが低下することになる。また、CuはSnの拡散を促進する作用を発揮するものであるが、上記比の値が5.0よりも大きくなると、CuによるSn拡散促進作用が低下し、十分な量のNb3Sn相が形成されにくくなる。尚、この比の値は、好ましくは3.0以上、4.0以下とするのが良い。
【0032】
ところで、Nb3Sn超電導線材では、Nb3Sn相内にTiを含有させることによって、高磁場での臨界電流密度Jcが向上することが知られている。そのTi添加方法として、本発明の前駆体においては、中央に配置されるSn基金属芯3(Sn合金芯)にTiを含有させることも有効である。特に、本発明の前駆体のように、ロール状積層物の平均厚さを適切な範囲を設定したときには、Sn基金属芯3中のTi含有量が1.0質量%以上含有させることによって、Tiの添加効果が有効に発揮されることになる。しかしながら、Ti含有量が5.0質量%を超えると、逆に不純物が多くなってNb3Sn相の化学量論組成がずれることになって臨界電流密度Jcが低下することになる。
【0033】
本発明の前駆体の構成を、図面によって説明する。図7は、本発明の前駆体(マルチエレメント線材)を作製するときの一次複合線材(モノエレメント線材)の構成例を模式的に示した断面図であり、その構成は前記図1に示した前駆体における超電導コア部をロール状積層物としたものである。
【0034】
図7に示した構成では、Sn基金属芯3の周囲に、CuまたはCuからなる層25と、その外周にNbシート26とCuシート27をジェリーロール巻きしたロール状積層物9aが配置され、その外周に安定化銅4bを有する構成となっている。こうした構成の一次複合線材20a(モノエレメント線材)を縮径加工した後、複数束ねてCuまたはCuパイプ内に挿入して縮径加工することによって、図8に示すようなCuマトリスク5b中に一次複合線材20aが複数本埋設されたマルチエレメント線材11c(本発明の超電導線材製造用前駆体)が得られる。
【0035】
図7、8に示した前駆体は、以下のようにして製造されるが、ロール状積層物9aを構成する以外の基本的な手順は前述した製造手順と同様である。まずNbシート26とCuシート27を重ね巻きしてロール積層物9aとし、これを、Cu外筒を有するビレット内に充填し、ロール状積層物9aの中央にCu芯を配置して熱間押し出し加工した後、中心のCu芯を機械的に穿孔してパイプ状複合物を形成する。または別の方法として、Cu外筒とCu内筒を有する中空ビレット内に前記ロール状積層物9aを充填して熱間押し出ししてパイプ状複合体を形成する。これらの方法で作製したパイプ状複合体の中央部に、Sn基金属芯3を挿入して冷間加工することによって、図7に示した前駆体(一次複合線材)が構成される。そして、この一次複合線材を、複数束ねてCuパイプ内に挿入して冷間伸線加工することによって、図8に示した多芯の前駆体が構成される。そして、図8に示した最終形状において、本発明の前駆体ではロール状積層物の平均厚さ60μm以下となっているものである。
【0036】
図9は、本発明の前駆体(マルチエレメント線材)を作製するときの一次複合線材(モノエレメント線材)の他の構成例を模式的に示した断面図であり、この構成はNb3Sn相内にTiを添加させるための構成を示したものである。前述の如く、Nb3Sn超電導線材ではNb3Sn相内にTiを含有させることによって、高磁場での臨界電流密度Jcが向上することが知られており、そのTiの添加方法として中央に配置されるSn基金属芯3にTiを含有させることも有効である。しかしながら、Sn−Ti系の化合物は硬く、縮径加工中の加工性を阻害する原因となる場合があり、Sn基金属芯3に含有させるTiの量にも限界がある。そこで、本発明の前駆体においては、Tiの添加手段の他の例として、前記ロール状積層物9aの内側または外側(図9は内側)に、Nbシート26のみを重ね合わせた領域を1周設け、その領域のNbシート26,26間にTiシート30を挟み込んで配置して一次複合線材20b(モノエレメント線材)を構成したものである。こうした構成を採用することによって、加工性を阻害することなくTiを更に添加することができるものとなる。Tiシート30は、半周または部分的でも良いし、複数層とすることもできる。
【0037】
こうした構成によってTiを添加するときには、その添加量は、Nbシート26に対して1.0〜2.0質量%となるようにすることが好ましい。Ti添加量が1.0質量%未満になると、Ti添加による効果が小さくなり、2.0質量%を超えると、Tiが却って不純物的なものとなってNb3Sn相の質の低下を招くことになる。
【0038】
いずれの手順を採用するにしても、前記一次複合線材におけるSnまたはSn基合金芯を除いた部分について熱間押し出し加工を行い、その後、SnまたはSn基合金芯を中央部に挿入して一次複合線材として冷間伸線し、この一次複合線材を複数本束ねてCuまたはCu基合金からなるパイプに挿入して縮径加工することになる。
【0039】
こうした構成では、Nbの加工性を向上できるので、ロール状積層物の厚さを薄くすること(即ち、単芯線の大きさを小さくすること)が可能となり、従来の内部Sn法でのモノエレメント線材を小さくして交流損失を低減するのと同等以上の効果が発揮されることになる。また従来の内部Sn法では、エレメントの本数を増加させるように細く加工するには加工率をできるだけ上げる必要があり、そうすれば断線が発しやすくなるので、交流損失を低減するためにはNbに対するCuの比率を上げ、Nb芯同士の間隔を広げる必要があったが、本発明の前駆体ではその必要もなく、臨界電流密度Jcを低下させることなく、交流損失を低減できることになる。
【0040】
本発明の前駆体によれば、Nbシート26を使用することによって、Nbの加工率が従来の内部Sn法と比べて低くすることができるだけでなく、またMJR法のようなNbメッシュを使用せず、しかも熱間加工によって加工することによってNbシート26とCuシート27との密着性を高めることができ、加工中の断線の発生率が格段と低減されることになる。
【0041】
前記図7〜9に示した構成では、説明の便宜上、拡散障壁層を省略した構成を示したが、前記図2〜4に示した構成と同様に、一次複合線材におけるロール状積層物9aの外周に拡散障壁層を形成するか、または複数本束ねて挿入される一次複合線材20aとCuまたはCu基合金からなるパイプ(前記Cuマトリクス5b)の間に拡散障壁層を形成したものも、本発明の前駆体の構成として有用である。尚、このときの拡散障壁層の構成は、NbまたはNb基合金シートのみを重ね合わせたものが例示できる。
【0042】
上記のような超電導線材製造用前駆体を用い、Nb3Snを生成させる拡散熱処理(通常600℃以上、800℃未満程度)をすることによって、良好な超電導特性(高臨界電流密度Jc、低交流損失)を発揮するNb3Sn超電導線材を得ることができる。尚、上記熱処理の前に、180〜600℃の温度範囲でSnをCuに拡散させる熱処理を行うのが良い。
【0043】
本発明の前駆体では、その基本的な構成として、NbまたはNb基合金シートとCuまたはCu基合金シートを重ね巻きしてロール状積層物を構成するものであるが、シートの素材として用いるNb基合金またはCu基合金としては、NbやCuにTa,Hf,Zr等の元素を、加工性を阻害しない程度(1〜2質量%程度)で含有したものであっても良い。またSn基金属芯として用いるSn基合金としては、Ti,Ta,Zr,Hf等の元素を、加工性を阻害しない程度(5質量%程度以下)でSnに含有させたものを使用することができる。
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0045】
[実施例1]
Cu製外筒(外径:143mm、内径:127mm)およびCu製内筒(外径:80mm、内径:61mm)からなるCu中空ビレットを準備した。このCu中空ビレットの前記Cu製外筒の内面側に、Nbシート(厚さ:0.4mm)とCuシート(厚さ:0.1mm)を交互に重ね巻きして張り付け(この段階での厚さ16mm)、その内側に前記Cu製内筒を配置して溶接を行い、中空ビレットを作製した。
【0046】
こうして得られた中空ビレットを、熱間パイプ押出し加工した後、前記Cu製内筒内にSn金属芯を挿入して伸線し、六角断面形状の一次複合線材(六角対辺:4.3mm)を作製した(前記図7参照)。
【0047】
この複合線材を、55本束ねてCu製パイプ(外径:45mm、内径:37mm)内に挿入し、次いで伸線加工によって直径:1.2mmまで伸線加工してマルチエレメント線材(超電導線材製造用前駆体)とした(前記図8参照)。
【0048】
得られたマルチエレメント線材(外径:1.2mmのもの)を、400℃×50時間+700℃×100時間の熱処理(拡散熱処理)を施して、NbSn超電導線材とした。得られたNb3Sn超電導線材について、下記の条件で臨界電流密度(Jc)および交流損失を測定した。
【0049】
[臨界電流密度Jcの測定]
液体ヘリウム中(温度4.2K)で、12T(テスラ)または18Tの外部磁場の下、試料(超電導線材)に通電し、4端子法によって発生電圧を測定し、この値が0.1μV/cmの電界が発生した電流値(臨界電流Ic)を測定し、この電流値を、線材の非Cu部当りの断面積で除して臨界電流密度Jcを求めた。
【0050】
[交流損失の測定]
ピックアップコイル法によって、液体ヘリウム中(温度4.2K)で±3T(テスラ)の振動磁場中で測定した。
【0051】
[実施例2]
実施例1と同様にしてCu中空ビレットを作製し、熱間でパイプ押出し加工した後、前記Cu製内筒内にSn金属芯を挿入して更に伸線し、六角断面形状の一次複合線材(六角対辺:1.9mm)を作製した(前記図7参照)。
【0052】
この一次複合線材を、211本束ねてCu製パイプ(外径:45mm、内径:37mm)内に挿入し、次いで伸線加工によって直径:1.2mmまで伸線加工してマルチエレメント線材(超電導線材製造用前駆体)とした(前記図8参照)。
【0053】
得られたマルチエレメント線材(外径:1.2mmのもの)を、400℃×50時間+700℃×100時間の熱処理(拡散熱処理)を施して、Nb3Sn超電導線材とした。得られたNb3Sn超電導線材について、実施例1と同様の条件で臨界電流密度(Jc)および交流損失を測定した。
【0054】
[実施例3]
Cu製外筒(外径:143mm、内径:127mm)およびCu製内筒(外径:80mm、内径:61mm)からなるCu中空ビレットを準備した。このCu中空ビレットの前記Cu製外筒の内面側に、Nbシート(厚さ:0.4mm)とCuシート(厚さ:0.1mm)を交互に重ね巻きし、このロール状積層物の内側にNbシートが巻き余る部分を設け、Nbシート間にTiシートを1周分差し込んだもの張り付け、その内側に前記Cu製内筒を配置して溶接を行い、中空ビレットを作製した。
【0055】
こうして得られた中空ビレットを、熱間パイプ押出し加工した後、前記Cu製内筒内にSn金属芯を挿入して伸線し、六角断面形状の一次複合線材(六角対辺:4.3mm)を作製した(前記図9参照)。
【0056】
この一次複合線材を、55本束ねてCu製パイプ(外径:45mm、内径:37mm)内に挿入し、次いで伸線加工によって直径:1.2mmまで伸線加工してマルチエレメント線材(超電導線材製造用前駆体)とした(前記図8参照)。
【0057】
得られたマルチエレメント線材(外径:1.2mmのもの)を、400℃×50時間+700℃×100時間の熱処理(拡散熱処理)を施して、Nb3Sn超電導線材とした。得られたNb3Sn超電導線材について、実施例1と同様の条件で臨界電流密度(Jc)および交流損失を測定した。
【0058】
[実施例4]
実施例3と同様にしてCu中空ビレットを作製し、熱間でパイプ押出し加工した後、前記Cu製内筒内にSn金属芯を挿入して更に伸線し、六角断面形状の一次複合線材(六角対辺:1.9mm)を作製した(前記図7参照)。
【0059】
この一次複合線材を、211本束ねてCu製パイプ(外径:45mm、内径:37mm)内に挿入し、次いで伸線加工によって直径:1.2mmまで伸線加工してマルチエレメント線材(超電導線材製造用前駆体)とした(前記図8参照)。
【0060】
得られたマルチエレメント線材(外径:1.2mmのもの)を、400℃×50時間+700℃×100時間の熱処理(拡散熱処理)を施して、Nb3Sn超電導線材とした。得られたNb3Sn超電導線材について、実施例1と同様の条件で臨界電流密度(Jc)および交流損失を測定した。
【0061】
[実施例5]
Cu製外筒(外径:143mm、内径:127mm)およびCu製内筒(外径:80mm、内径:61mm)からなるCu中空ビレットを準備し、このCu中空ビレットの前記Cu製外筒の内面側に、Nbシート(厚さ:0.3mm)とCuシート(厚さ:0.05mm)を交互に重ね巻きして張り付け、その内側に前記Cu製内筒を配置して溶接を行い、中空ビレットを作製した。
【0062】
こうして得られた中空ビレットを、熱間パイプ押出し加工した後、前記Cu製内筒内にSn金属芯を挿入して伸線し、六角断面形状の一次複合線材(六角対辺:4.3mm)を作製した(前記図7参照)。
【0063】
この一次複合線材を、55本束ねてCu製パイプ(外径:45mm、内径:37mm)内に挿入し、次いで伸線加工によって直径:1.2mmまで伸線加工してマルチエレメント線材(超電導線材製造用前駆体)とした(前記図8参照)。
【0064】
得られたマルチエレメント線材(外径:1.2mmのもの)を、400℃×50時間+700℃×100時間の熱処理(拡散熱処理)を施して、Nb3Sn超電導線材とした。得られたNb3Sn超電導線材について、実施例1と同様の条件で臨界電流密度(Jc)および交流損失を測定した。
【0065】
[実施例6]
Cu製外筒(外径:143mm、内径:127mm)およびCu製内筒(外径:80mm、内径:61mm)からなるCu中空ビレットを準備し、このCu中空ビレットの前記Cu製外筒の内面側に、Nbシート(厚さ:0.25mm)とCuシート(厚さ:0.05mm)を交互に重ね巻きして張り付け、その内側に前記Cu製内筒を配置して溶接を行い、中空ビレットを作製した。
【0066】
こうして得られた中空ビレットを、熱間パイプ押出し加工した後、前記Cu製内筒内にSn金属芯を挿入して伸線し、六角断面形状の一次複合線材(六角対辺:4.3mm)を作製した(前記図7参照)。
【0067】
この一次複合線材を、55本束ねてCu製パイプ(外径:45mm、内径:37mm)内に挿入し、次いで伸線加工によって直径:1.2mmまで伸線加工してマルチエレメント線材(超電導線材製造用前駆体)とした(前記図8参照)。
【0068】
得られた一次複合線材(外径:1.2mmのもの)を、400℃×50時間+700℃×100時間の熱処理(拡散熱処理)を施して、Nb3Sn超電導線材とした。得られたNb3Sn超電導線材について、実施例1と同様の条件で臨界電流密度(Jc)および交流損失を測定した。
【0069】
[実施例7]
Cu製外筒(外径:143mm、内径:127mm)およびCu製内筒(外径:80mm、内径:61mm)からなるCu中空ビレットを準備し、このCu中空ビレットの前記Cu製外筒の内面側に、Nbシート(厚さ:0.1mm)とCuシート(厚さ:0.05mm)を交互に重ね巻きして張り付け、その内側に前記Cu製内筒を配置して溶接を行い、中空ビレットを作製した。
【0070】
こうして得られた中空ビレットを、熱間パイプ押出し加工した後、前記Cu製内筒内にSn金属芯を挿入して伸線し、六角断面形状の一次複合線材(六角対辺:4.3mm)を作製した(前記図7参照)。
【0071】
このジェリーロール単芯線を、55本束ねてCu製パイプ(外径:45mm、内径:37mm)内に挿入し、次いで伸線加工によって直径:1.2mmまで伸線加工してマルチエレメント線材(超電導線材製造用前駆体)とした(前記図8参照)。
【0072】
得られたマルチエレメント線材(外径:1.2mmのもの)を、400℃×50時間+700℃×100時間の熱処理(拡散熱処理)を施して、Nb3Sn超電導線材とした。得られたNb3Sn超電導線材について、実施例1と同様の条件で臨界電流密度(Jc)および交流損失を測定した。
【0073】
[実施例8]
Cu製外筒(外径:143mm、内径:127mm)およびCu製内筒(外径:80mm、内径:61mm)からなるCu中空ビレットを準備し、このCu中空ビレットの前記Cu製外筒の内面側に、Nbシート(厚さ:0.2mm)とCuシート(厚さ:0.2mm)を交互に重ね巻きして張り付け、その内側に前記Cu製内筒を配置して溶接を行い、中空ビレットを作製した。
【0074】
こうして得られた中空ビレットを、熱間パイプ押出し加工した後、前記Cu製内筒内にSn金属芯を挿入して伸線し、六角断面形状の一次複合線材(六角対辺:4.3mm)を作製した(前記図7参照)。
【0075】
この一次複合線材を、55本束ねてCu製パイプ(外径:45mm、内径:37mm)内に挿入し、次いで伸線加工によって直径:1.2mmまで伸線加工してマルチエレメント線材(超電導線材製造用前駆体)とした(前記図8参照)。
【0076】
得られたマルチエレメント線材(外径:1.2mmのもの)を、400℃×50時間+700℃×100時間の熱処理(拡散熱処理)を施して、Nb3Sn超電導線材とした。得られたNb3Sn超電導線材について、実施例1と同様の条件で臨界電流密度(Jc)および交流損失を測定した。
【0077】
[実施例9]
実施例1と同様にして,直径:1.6mmのマルチエレメント線材(超電導線材製造用前駆体)とした(前記図8参照)。
【0078】
得られたマルチエレメント線材(外径:1.6mmのもの)を、400℃×50時間+700℃×100時間の熱処理(拡散熱処理)を施して、Nb3Sn超電導線材とした。得られたNb3Sn超電導線材について、実施例1と同様の条件で臨界電流密度(Jc)および交流損失を測定した。
【0079】
[実施例10]
Cu製外筒(外径:143mm、内径:127mm)およびCu製内筒(外径:80mm、内径:61mm)からなるCu中空ビレットを準備した。このCu中空ビレットの前記Cu製外筒の内面側に、Nbシート(厚さ:0.4mm)とCuシート(厚さ:0.1mm)を交互に重ね巻きして張り付け(この段階での厚さ16mm)、その内側に前記Cu製内筒を配置して溶接を行い、中空ビレットを作製した。
【0080】
こうして得られた中空ビレットを、熱間パイプ押出し加工した後、前記Cu製内筒内に、Tiを2.0質量%含むSn合金芯を挿入して伸線し、六角断面形状の一次複合線材(六角対辺:1.9mm)を作製した(前記図7参照)。
【0081】
この複合線材を、211本束ねてCu製パイプ(外径:45mm、内径:37mm)内に挿入し、次いで伸線加工によって直径:1.2mmまで伸線加工してマルチエレメント線材(超電導線材製造用前駆体)とした(前記図8参照)。
【0082】
得られたマルチエレメント線材(外径:1.2mmのもの)を、400℃×50時間+700℃×100時間の熱処理(拡散熱処理)を施して、NbSn超電導線材とした。得られたNb3Sn超電導線材について、実施例1と同様の条件で臨界電流密度(Jc)および交流損失を測定した。
【0083】
[比較例1]
実施例1と同様にして作製した中空ビレットを、熱間パイプ押出し加工した後、前記Cu製内筒内にSn金属芯を挿入して更に伸線し、六角断面形状の一次複合線材(六角対辺:7.1mm)を作製した(前記図7参照)。
【0084】
この一次複合線材を、19本束ねてCu製パイプ(外径:45mm、内径:37mm)内に挿入し、次いで伸線加工によって直径:1.5mmまで伸線加工してマルチエレメント線材(超電導線材製造用前駆体)とした(前記図8参照)。
【0085】
得られたマルチエレメント線材(外径:1.5mmのもの)を、400℃×50時間+700℃×100時間の熱処理(拡散熱処理)を施して、Nb3Sn超電導線材とした。得られたNb3Sn超電導線材について、実施例1と同様の条件で臨界電流密度(Jc)および交流損失を測定した。
【0086】
[比較例2]
比較例1と同様にして,直径:1.2mmのマルチエレメント線材(超電導線材製造用前駆体)とした(前記図8参照)。
【0087】
得られたマルチエレメント線材(外径:1.2mmのもの)を、400℃×50時間+700℃×100時間の熱処理(拡散熱処理)を施して、Nb3Sn超電導線材とした。得られたNb3Sn超電導線材について、実施例1と同様の条件で臨界電流密度(Jc)および交流損失を測定した。
【0088】
[比較例3]
Cu製パイプ(外径:21mm、内径18mm)内に、外径:17mmのNb−1質量%Ti合金芯を装入した後、縮径加工し六角断面形状のCu/Nb−Ti複合線を作製した(六角対辺:4.3mm)。
【0089】
Cu製外筒(外径:143mm、内径:127mm)およびCu製内筒(外径:70mm、内径:61mm)からなるCu中空ビレットの前記Cu製外筒の内面側に、Nbからなる拡散障壁層(厚さ:5mm)を配置した後、前記Cu製内筒の周り(即ち、Cu製外筒とCu製内筒の間の空隙)に、前記Cu/Nb−Ti複合線を336本束ねて挿入した。Cu/Nb−Ti複合線を挿入したCu中空ビレットに蓋をして、真空引きした後、前記蓋を溶接した。
【0090】
こうして得られた中空ビレットを、パイプ押出し加工およびパイプ抽伸加工した後、前記Cu製内筒内にSn金属芯を挿入して更に伸線し、六角断面形状のモノエレメント線材(六角対辺:4.3mm)を作製した。
【0091】
得られたモノエレメント線材を裁断した後、更に55本束ねてCu製パイプ(外径:45mm、内径37mm)内に装入して縮径加工を行い、外径:1.2mmのマルチエレメント線材(超電導線材製造用前駆体)を作製した。
【0092】
得られたマルトエレメント線材(外径:1.2mmのもの)を、400℃×50時間+700℃×100時間の熱処理(拡散熱処理)を施して、Nb3Sn超電導線材とした。得られたNb3Sn超電導線材について、実施例1と同様の条件で臨界電流密度(Jc)および交流損失を測定した。
【0093】
[比較例4]
Cu製パイプ(外径:43mm、内径37mm)内に、Sn金属芯にNbメッシュ(厚さ:0.2mm)とCuシート(厚さ:0.05mm)を交互に重ね巻きしたものの外周のNbシートのみを重ね巻きして拡散障壁層としたものを装入して、縮径加工し六角断面形状のMJR法単芯線(六角対辺:4.3mm)を作製した。
【0094】
これを55本束ねて、Cu製パイプ(外径:45mm、内径37mm)内に挿入して、縮径加工を行い、外径:1.2mmのマルチエレメント線材(超電導線材製造用前駆体)を作製した。
【0095】
得られたマルトエレメント線材(外径:1.2mmのもの)を、400℃×50時間+700℃×100時間の熱処理(拡散熱処理)を施して、Nb3Sn超電導線材とした。得られたNb3Sn超電導線材について、実施例1と同様の条件で臨界電流密度(Jc)および交流損失を測定した。
【0096】
[比較例5]
実施例10と同様にして作製した中空ビレットを、熱間パイプ押出し加工した後、前記Cu製内筒内に、Tiを2.0質量%含むSn合金芯を挿入して伸線し、六角断面形状の一次複合線材(六角対辺:7.1mm)を作製した(前記図7参照)。
【0097】
この一次複合線材を、19本束ねてCu製パイプ(外径:45mm、内径:37mm)内に挿入し、次いで伸線加工によって直径:1.2mmまで伸線加工してマルチエレメント線材(超電導線材製造用前駆体)とした(前記図8参照)。
【0098】
得られたマルチエレメント線材(外径:1.2mmのもの)を、400℃×50時間+700℃×100時間の熱処理(拡散熱処理)を施して、Nb3Sn超電導線材とした。得られたNb3Sn超電導線材について、実施例1と同様の条件で臨界電流密度(Jc)および交流損失を測定した。
【0099】
実施例1〜10、および比較例1〜5で得られた超電導線材の超電導特性(臨界電流密度Jc、交流損失)を、製造条件(単芯本数、Nb/Ti厚み比、モノエレメント線材直径(ジェリーロール単芯直径)、ロール状積層物厚さ(ジェリーロール厚さ)および加工中の断線回数と共に、一括して下記表1に示す。尚、Nb/Ti厚み比、ジュエリーロール単芯直径およびジュエリーロール厚みは、最終形状(超電導線材前駆体)の段階で、断面の外周部および中央部のSEM観察写真画像に基づいて、各5本の単芯(合計10本)を任意に選び、測定した平均値である。
【0100】
【表1】

【0101】
この結果から明らかなように、本発明で規定する要件(および好ましい要件)を満足する実施例1〜10のものでは、交流損失も低減されており、良好な臨界電流密度Jcが実現できていることが分かる。これに対して、比較例1〜5のものは、本発明で規定する要件のいずかを欠くものであり、超電導特性のいずれかが劣化している。詳細には、比較例1、2、5のものでは、ジェリーロール厚さが60μmを超えるものであるので、臨界電密度Jcおよび交流損失のいずれも劣化している。また、比較例3、4のものでは、交流損失も低減されており、良好な臨界電流密度Jcが実現できているが、断線回数が多くなっている。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】内部Sn法に適用される超電導線材製造用前駆体(モノエレメント線材)の構成例を模式的に示した断面図である。
【図2】内部Sn法に適用される超電導線材製造用前駆体(モノエレメント線材)の他の構成例を模式的に示した断面図である。
【図3】内部Sn法に適用される超電導線材製造用前駆体(マルチエレメント線材)の構成例を模式的に示した断面図である。
【図4】内部Sn法に適用される超電導線材製造用前駆体(マルチエレメント線材)の他の構成例を模式的に示した断面図である。
【図5】MJR法に適用される超電導線材製造用前駆体(モノエレメント線材)の構成例を模式的に示した断面図である。
【図6】MJR法に適用される超電導線材製造用前駆体(マルチエレメント線材)の構成例を模式的に示した断面図である。
【図7】本発明の前駆体(マルチエレメント線材)を作製するときの一次複合線材(モノエレメント線材)の構成例を模式的に示した断面図である。
【図8】発明の前駆体(マルチエレメント線材)の構成例を模式的に示した断面図である。
【図9】本発明の前駆体(マルチエレメント線材)を作製するときの一次複合線材(モノエレメント線材)の他の構成例を模式的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0103】
1 超電導線材製造用前駆体(モノエレメント線材)
2 Nb基フィラメント
3 Sn基金属芯
4,5,5a,5b,21 Cuマトリクス(Cu母材)
4a,4b 安定化銅
6,6a 拡散障壁層
9,9a ロール状積層物
11,11a,11b,11c 超電導線材製造用前駆体(マルチエレメント線材)
20a,20b 一次複合線材
26 Nbシート
27 Cuシート
30 Tiシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部Sn法によってNbSn超電導線材を製造する際に用いる超電導線材製造用前駆体において、中央にSnまたはSn基合金芯が配置されると共に、その周囲にCuまたはCu基合金からなる層と、その外周に、NbまたはNb基合金シートとCuまたはCu基合金シートを重ね巻きしたロール状積層物が配置され、更にその外周に安定化銅層を有する一次複合線材を、複数本束ねてCuまたはCu基合金からなるパイプに挿入して縮径加工されたものであり、縮径加工後の最終形状におけるロール状積層物の平均厚さが60μm以下となるように設定されたものであることを特徴とするNb3Sn超電導線材製造用前駆体。
【請求項2】
前記NbまたはNb基合金シートとCuまたはCu基合金シートの厚さの比(NbまたはNb基合金シートの厚さ/CuまたはCu基合金シートの厚さ)が2.0〜5.0である請求項1に記載のNb3Sn超電導線材製造用前駆体。
【請求項3】
前記Sn基合金芯は、Tiを1.0〜5.0質量%の範囲で含むものである請求項1または2に記載のNb3Sn超電導線材製造用前駆体。
【請求項4】
前記ロール状積層物の内側または外側に、NbまたはNb基合金シートのみを重ね合わせた領域を設け、その領域のシート間にTiシートを挟み込んで配置したものである請求項1〜3のいずれかに記載のNb3Sn超電導線材製造用前駆体。
【請求項5】
前記一次複合線材のロール状積層物の外周に拡散障壁層を形成するか、または複数本束ねて挿入される一次複合線材とCuまたはCu基合金からなるパイプの間に拡散障壁層を形成したものである請求項1〜4のいずれかに記載のNb3Sn超電導線材製造用前駆体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の超電導線材製造用前駆体を、拡散熱処理してNb3Sn系超電導相を形成したものであるNb3Sn超電導線材。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の超電導線材製造用前駆体を製造するに当り、前記一次複合線材におけるSnまたはSn基合金芯を除いた部分について熱間押し出し加工を行った後、SnまたはSn基合金芯を中央部に挿入して冷間伸線し、この一次複合線材を複数本束ねてCuまたはCu基合金からなるパイプに挿入して縮径加工することを特徴とする超電導線材製造用前駆体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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