説明

NiCuZnフェライト

【課題】 高周波数域において初透磁率を大きく得ることができ、高周波数域での用途に好ましく適用できるNiCuZnフェライトを提供すること
【解決手段】 主成分は酸化鉄が47mol%以上50mol%未満,酸化ニッケルが17.5mol%以上25.5mol%以下,酸化亜鉛が19.5mol%以上27.5mol%以下であり残部を酸化銅とし、副成分は酸化ビスマスが0.8wt%以上7wt%以下,酸化ケイ素が0.2wt%以上0.8wt%以下とする組成にする。これによる焼結体は、混合した各材料の特質を相互に作用させたものとなり、材質特性は初透磁率μが周波数100MHzにおいて50以上となる。副成分の酸化ケイ素は酸化ビスマスとともに添加するので結晶粒界に均一に分散でき、比較的低温で焼成できるために焼成後の平均粒子径を1μm程度以下に抑えることができ、これにより、高周波特性を良好に得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni,Cu,Znを含むNiCuZnフェライトに関するもので、より具体的には、初透磁率μの周波数特性を高周波化し得るような成分組成の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のフェライト材料として、NiCuZn系フェライトは、比抵抗が高い特徴から高周波域での渦電流損失を小さくでき、高周波用のコア材料に用いることが多く、いわゆる通信用の用途など比較的に高周波数域での用途に好まれている。例えば、コモンモードチョークコイルや積層インダクタなどの用途がある。
【0003】
比較的高周波数域での用途には、磁気特性はまず高周波透磁率が大きいということが最重要であると言え、例えば周波数100MHzにおいて初透磁率μは50以上に得たいという要求がある。これには例えば特許文献1,2などに見られるように、酸化コバルトを添加することがよく、高周波透磁率の改善が得られることが分かっている。
【0004】
また、例えば特許文献3〜7などには、NiCuZn系フェライトについて組成の開示があり、耐応力性,低温焼成,耐熱衝撃性など、それぞれの観点で材質特性の改善を図るようにした技術の提案がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2679716号公報
【特許文献2】特開平5−326243号公報
【特許文献3】特開平3−91209号公報
【特許文献4】特開平3−93667号公報
【特許文献5】特開平9−7814号公報
【特許文献6】特開平11−35369号公報
【特許文献7】特開2003−59711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、高周波数域での用途において、磁気特性はまず高周波透磁率が大きいということが最重要であり、酸化コバルトを添加することで高周波透磁率の改善が得られることが分かっている。しかし、酸化コバルトを添加することで、新たに、温度特性が悪化してしまう問題がある。そこで、温度特性の改善には酸化ケイ素を添加する対策があるが、酸化ケイ素を酸化コバルトとともに添加すると、周波数特性が悪化する問題があり適切な対策を施す必要があるといった課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明のNiCuZnフェライトは、(1)Ni,Cu,Znを含むNiCuZn系のフェライト材料であって、主成分は
酸化鉄が47mol%以上50mol%未満,
酸化ニッケルが17.5mol%以上25.5mol%以下,
酸化亜鉛が19.5mol%以上27.5mol%以下であり
残部を酸化銅とし、副成分は
酸化ビスマスが0.8wt%以上7wt%以下,
酸化ケイ素が0.2wt%以上0.8wt%以下とする組成に構成する。
【0008】
(2)上記組成による焼結体は、初透磁率μが周波数100MHzにおいて50以上であるものにするとよい。(3)前記組成による焼結体は、平均粒子径が1μm以下とするとよい。ここで、粒子径・平均粒子径は、以下のようにして求めた。たとえば得られた焼結体のSEM写真等から、粒子を球形と仮定し、各粒子の直径を測定するコード法により求める。ここで測定した直径の平均値を簡易的な3次元近似として1.5倍した値を平均粒子とした。測定には200個以上の粒子を測定する。このとき同時に粒子分布も得られ、本発明の材質では、約0.1〜10μmの幅で分布している。写真による目視から平均粒径が1μm以下であることは容易に確認できる。
【0009】
したがって本発明では、酸化鉄,酸化ニッケル,酸化亜鉛,酸化銅および酸化ビスマス,酸化ケイ素を上述した所定の配合比とすることにより、得られた焼結体は、高い初透磁率μを良好な周波数特性に得ることができる。上述した本発明に係る組成は実験から見いだした結果であり、焼結体の材質特性は、初透磁率μが周波数100MHzにおいて50以上であることを確認した。つまり、酸化鉄が50mol%に近い組成で、副成分に酸化ビスマスおよび酸化ケイ素を添加して各成分を変更した試料を製造して評価試験を行ったところ、本発明に係る組成において高周波特性を良好に向上し得ることを見いだした。
【0010】
酸化鉄の配合をできるだけ50mol%に近づけることでは、磁気モーメントを大きくし、焼結体において個々の粒子の磁気特性を良好にし、初透磁率を大きくすることができる。そこで本発明ではこのとき、副成分に酸化ビスマスおよび酸化ケイ素を添加するので、酸化ケイ素に対して酸化ビスマスが大きく影響し、相互に作用することになり、結晶粒界に酸化ケイ素が均一に析出し、酸化ケイ素を均一に分散させることができる。これは粒子表面を被覆するような状態になり、比較的低温で焼成できることから、フェライト相の粒成長を抑えることができる。これにより、焼成後の平均粒子径を1μm程度以下に抑えることができる。したがって、フェライト相の粒子径が小さく、粒子個々は磁壁のない単磁区構造であることから、高周波特性を良好に得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るNiCuZnフェライトでは、主成分は酸化鉄が47mol%以上50mol%未満,酸化ニッケルが17.5mol%以上25.5mol%以下,酸化亜鉛が19.5mol%以上27.5mol%以下であり残部を酸化銅とし、副成分は酸化ビスマスが0.8wt%以上7wt%以下,酸化ケイ素が0.2wt%以上0.8wt%以下とする組成にするので、これによる焼結体(酸化物磁性材料)は、混合した各材料の特質を相互に作用させたものとなる。
【0012】
焼結体の材質特性は、初透磁率μが周波数100MHzにおいて50以上となる。すなわち本発明に係る焼結体は高周波数域において初透磁率を大きく得ることができる。もちろん本発明は、酸化コバルトを添加しない組成であるので、たとえば高周波数域で使用される積層チップ部品の用途に好ましく適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。本発明に係るNiCuZnフェライトは、酸化鉄(Fe),酸化ニッケル(NiO),酸化亜鉛(ZnO),酸化銅(CuO)等を主成分とし、いわゆるNiCuZn系フェライトの組成になっている。具体的には、主成分は
酸化鉄(Fe)が47mol%以上50mol%未満,
酸化ニッケル(NiO)が17.5mol%以上25.5mol%以下,
酸化亜鉛(ZnO)が19.5mol%以上27.5mol%以下であり
残部を酸化銅(CuO)とし、副成分は
酸化ビスマス(Bi)が0.8wt%以上7wt%以下,
酸化ケイ素(SiO)が0.2wt%以上0.8wt%以下とする組成にしている。
【0014】
製造には、まず上述した各原料主成分を所定量秤量して湿式混合する。例えばボールミルで粉砕しつつ混ぜて混合粉体を製造し、これを乾燥させて解砕し、次に仮焼きする。仮焼きは、例えば電気炉を使用して大気中で温度を700〜850℃程度とする。
【0015】
次にボールミル等によりそれを再び粉砕する。粉砕は所定の時間(例えば20〜30時間程度)行う。この粉体に対して、上述した各原料副成分を所定量秤量して添加して混合し、さらにポリビニルアルコール(PVA)を所定に(例えば1wt%)加えてスラリを形成し、スプレードライにより造粒して所定粒径の粉体を得る。
【0016】
次に、造粒した粉体はふるいで製粒し、得られた粉体へ成形のための圧力を加えて例えばリング形状に成形し、この後、電気炉等で焼成を行う。焼成は、例えば大気中で温度を800〜1000℃とし、所定時間(例えば5時間)の焼成により焼結体を製造する。
【0017】
この焼結体は、平均結晶粒子径が略1μm程度以下となるように製造しており、これは副成分の酸化ビスマス(Bi),酸化ケイ素(SiO)によるところが大きく、そして、各原料の均一化および高精度な秤量制御,焼成工程における高精度制御など、製造工程の全般についての精緻化により実現している。
【0018】
酸化鉄(Fe)の配合は、初透磁率μを大きく得るにはできるだけ50mol%に近い配合がよい。しかしその一方、酸化鉄(Fe)の成分量が50mol%を超えることで表面抵抗が大きく低下することもよく知られている。また、酸化鉄(Fe)が47mol%未満になると初透磁率μが低下し、周波数特性も悪化する。このため、酸化鉄(Fe)は47mol%以上50mol%未満が好ましい。なお、後述するように実施例では、酸化鉄(Fe)の配合は、多くとも49mo1%に設定していて、これは製造過程におけるバラツキを考慮し、50mol%を超えることがないようにした設定を採っている。
【0019】
酸化亜鉛(ZnO)の配合は、成分量を増すほど初透磁率μを大きく得ることができるが、25.5mol%以上では周波数特性の悪化があり高周波数域で初透磁率μが低下する。また、19.5mol%未満では低周波数域から高周波数域までの全周波数域で初透磁率μが小さくなり実用上適さない。したがって、酸化亜鉛(ZnO)の配合は19.5mol%以上25.0mol%以下の範囲内が好ましい。
【0020】
酸化ニッケル(NiO)の配合は他の成分の補完を行うような役割を果たし、特に酸化亜鉛(ZnO)の成分量に影響が大きく相反する関係にある。このため、酸化ニッケル(NiO)の配合は17.5mol%以上25.5mol%以下の範囲内が好ましいことが分かっている。
【0021】
酸化銅(CuO)の配合は好ましくは5mol%以上9mol%以下であり、少なくなると(5mol%未満)、焼成の最適温度が上がってしまい、焼成を比較的に低温(1000〜1250℃程度)で行うことができなくなる。酸化銅(CuO)が多すぎると(9mol%を超えると)、初透磁率μの低下があり、飽和磁束密度が低下し、キュリー点の低下が起きる。
【0022】
酸化ビスマス(Bi)の添加量は、好ましくは1.5wt%程度がよく、1.5wt%以上3wt%以下程度に設定したい。副成分の酸化ビスマス(Bi),酸化ケイ素(SiO)は相互の影響が大きい特徴があり、酸化ビスマス(Bi)を1.5wt%程度とするとき、酸化ケイ素(SiO)の添加量は0.5wt%程度が好ましい。また、酸化ケイ素(SiO)の添加量は温度係数を小さくする観点からも0.5wt%程度が好ましいと言える。酸化ケイ素(SiO)の添加量が0.2wt%以上0.8wt%以下の範囲を外れると、初透磁率μは低下し、周波数特性も悪化する。
【0023】
ここに本発明に係る組成にあっては、Ni,Cu,Znを含むNiCuZn系のフェライト組成について各成分の配合がきわめて適正値となっており、混合した各材料の特質を相互に作用させることができ、磁気特性を良好に得ることができる。具体的には後述する実施例に示すように、本発明に係る組成の焼結体では材質特性は、初透磁率μが周波数100MHzにおいて50以上となるようになっている。
【0024】
酸化鉄(Fe)の配合をできるだけ50mol%に近づけることでは、磁気モーメントを大きくし、焼結体において個々の粒子の磁気特性を良好にし、初透磁率を大きくすることができる。そこで本発明ではこのとき、副成分に酸化ビスマス(Bi)および酸化ケイ素(SiO)を添加するので、酸化ケイ素(SiO)に対して酸化ビスマス(Bi)が大きく影響し、相互に作用することになり、結晶粒界に酸化ケイ素(SiO)が均一に析出し、酸化ケイ素(SiO)を均一に分散させることができる。これは粒子表面を被覆するような状態になり、比較的低温で焼成できることから、フェライト相の粒成長を抑えることが出来る。これにより、焼成後の平均粒子径を1μm程度以下に抑えることができる。したがって、フェライト相の粒子径が小さく、粒子個々は磁壁のない単磁区構造であることから、高周波特性を良好に得ることができる。その結果、高周波数域において初透磁率μを大きく得ることができる。
【0025】
すなわち、本発明に係る焼結体は高周波数域において初透磁率μを大きく得ることができ、もちろん酸化コバルトは添加しない組成であり、したがって、高周波数域での用途に好ましく適用でき、積層インダク夕やコモンモードチョークコイル等のコア材料に好ましく利用することができる。
【実施例1】
【0026】
上述した製造手順により試料を製造した。つまり、本発明の効果を実証するため、組成を変更して複数の試料を製造し、それら各試料について初透磁率μを測定した。
【0027】
(実施例1〜17)
試料は表1に示すように、組成を変更した33の試料とし、外形をリング形状のものとした。主成分の配合は、酸化鉄(Fe)は46mol%以上49mol%以下の範囲で変更し、酸化ニッケル(NiO)は16.5mol%以上26.5mol%以下の範囲で変更し、酸化亜鉛(ZnO)は18.5mol%以上28.5mol%以下の範囲で変更し、残部を酸化銅(CuO)とし、そして副成分の配合は、酸化ビスマス(Bi)は0.7wt%以上8.0wt%以下の範囲で変更し、酸化ケイ素(SiO)は0wt%以上1.0wt%以下の範囲で変更し、これらの組み合わせから33の試料を用意した。
【0028】
なお、酸化鉄(Fe)の配合は、多くとも49mo1%に設定した。これは製造過程におけるバラツキを考慮し、50mol%を超えることがないようにした設定を採ったためである。また、これら各組成による焼結体は、平均結晶粒子径が1μm程度以下となるように製造しており、これは副成分の酸化ビスマス(Bi),酸化ケイ素(SiO)によるところが大きい。そして、各原料の均一化および高精度な秤量制御,焼成工程における高精度制御など、製造工程の全般についての精緻化により実現した。
【0029】
製造時の条件は、仮焼きは大気中で750℃のトップ温度で行い、仮焼き後の粉砕はボールミルにより20〜30時間の粉砕を行った。そして、各原料副成分を添加した粉体にポリビニルアルコール(PVA)を1wt%添加して造粒を行った。リング形状の成形物に対して焼成は、大気中で800〜1000℃のトップ温度により5時間行い、焼結体を得た。
【0030】
【表1】

【0031】
初透磁率μの測定は、リング状の試料のインダクタンス値と直列抵抗値をインピーダンスアナライザにて測定し、その測定値から求めた。各試料について初透磁率μを測定したところ、本発明に係る組成の実施例1から実施例17についてその磁気特性を確認した。そして、他の14の試料はすべて比較例となる。
【0032】
表1に示す測定結果から明らかなように、各原料成分の特質を相互に作用させて好適な磁気特性を発現させるには、各成分の組成を本発明に係る所定範囲とすることが好ましい。すなわち、主成分は
酸化鉄(Fe)が47mol%以上50mol%未満,
酸化ニッケル(NiO)が17.5mol%以上25.5mol%以下,
酸化亜鉛(ZnO)が19.5mol%以上27.5mol%以下であり
残部を酸化銅(CuO)とし、副成分は
酸化ビスマス(Bi)を0.8wt%以上7wt%以下,
酸化ケイ素(SiO)を0.2wt%以上0.8wt%以下とする組成は、表1に示す実施例1〜17が該当し、これらのものでは、初透磁率μが周波数100MHzにおいて50以上となる材質特性が得られることを確認した。
【0033】
表1から明らかなように、酸化ビスマス(Bi)を1.5wt%,酸化ケイ素(SiO)を0.5wt%とした組成(実施例5)は、初透磁率μが大幅に向上しており、酸化ビスマス(Bi),酸化ケイ素(SiO)の添加量は当該値の近辺が好ましいと言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni,Cu,Znを含むNiCuZn系のフェライト材料であって、主成分は
酸化鉄が47mol%以上50mol%未満,
酸化ニッケルが17.5mol%以上25.5mol%以下,
酸化亜鉛が19.5mol%以上27.5mol%以下であり
残部を酸化銅とし、副成分は
酸化ビスマスが0.8wt%以上7wt%以下,
酸化ケイ素が0.2wt%以上0.8wt%以下とする組成であることを特徴とするNiCuZnフェライト。
【請求項2】
前記組成による焼結体は、初透磁率μが周波数100MHzにおいて50以上であることを特徴とする請求項1に記載のNiCuZnフェライト。
【請求項3】
前記組成による焼結体は、平均粒子径が1μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のNiCuZnフェライト。

【公開番号】特開2010−215453(P2010−215453A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64255(P2009−64255)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】