説明

NiCuZn系フェライトおよびそれを用いた電子部品

【課題】 直流重畳特性の飛躍的な向上が図れるフェライトおよびそれを用いた電子部品を提供する。
【解決手段】 本発明のNiCuZn系フェライトは、所定の主成分配合組成に対して、酸化ビスマスがBi23換算で0.25〜0.40重量%(ただし、0.25重量%を含まない)、酸化錫がSnO2換算で1.00〜2.50重量%含有されており、かつ当該NiCuZn系フェライトの粒子中には、酸化錫SnO2の偏析が見られ、所定の測定要領で定義されるSnO2の最大組成差が4.0以上であるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はNiCuZn系フェライト、およびそれを用いた電子部品に関し、特に、閉磁路を形成する電子部品の材料として用いられるフェライトおよびそれを用いて製造された電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Ni、Cu、Zn等を含有した酸化物磁性材料としてのフェライトは、優れた磁気特性を備えているために、例えば、各種の電子部品のコア(磁心)材料として、あるいは、積層チップインダクタなどのインダクタ部品の材料などとして用いられている。
【0003】
このような磁芯やインダクタ部品は種々の温度環境で使用されることを考慮して、温度変化に対する初透磁率μiの変化率が少ないこと、すなわち、初期透磁率μiの温度特性が良好なこと(温度に対する変動が小さいこと)が要望される。
【0004】
また、積層チップインダクタなどのコイル導体を備える電子部品は、閉磁路を形成しコイル導体に直流電流を通電していくと、電流値に応じてインダクタンスが低下する傾向がある。電子部品としては、比較的大きな電流が通電してもインダクタンスの低下が極力少ないほうが望ましい。そのため、直流電流の通電に対するインダクタンスの変化率が小さいこと、すなわち、直流重畳特性が良好であることが要求されている。
【0005】
このような要望に応じるべく、特開2003−272912号公報には、閉磁路を形成する電子部品に使用され、大きな外部応力が付加された場合でも、所望の磁気特性を確保することができ、且つ優れた直流重畳特性を有する酸化物磁性材料、およびそれを用いた積層型電子部品を提供することを目的として、所定の組成からなるNi−Cu−Zn系フェライト材料主成分にSnO2を0.2〜3wt%添加してなる酸化物磁性材料の提案がなされている。これによれば、40MPaの圧縮応力が負荷された場合でも初透磁率の変化率を10%以内に抑制することができ、しかも良好な直流重畳特性を得ることができるとされている。しかしながら、SnO2のみの添加では、飛躍的に直流重畳特性を向上させることは期待できない。
【0006】
また、特開2002−255637号公報には、温度変化による特性値の変化が極めて少なく、同時に比抵抗が高い酸化物磁性体磁器組成物およびそれを用いたインダクタ部品を提供することを目的として、所定の組成からなるNi−Cu−Zn系フェライト材料主成分にSnO2を1.5重量部〜3.0重量部、Co34を0.02重量部〜0.20重量部、Bi23を0.45重量部以下含有させてなる酸化物磁性体磁器組成物の提案がなされている。これによれば温度変化による特性値の変化が極めて少なく、同時に比抵抗が高いので渦電流損失が小さくQ値が改善されて高性能の電子部品が得られるとされている。しかしながら、当該公報に開示の技術は、直流重畳特性の向上を目的としてなされたものではなく、しかも当該公報の具体的実施例には本願発明の組成のものは開示されておらず、例えば、80〜130程度の同じ初透磁率μiで直流重畳特性を考察した場合において、本願発明のごとく格段と優れた直流重畳特性が得られるという効果が発現するNiCuZn系フェライトは存在していない。
【0007】
このような従来技術の問題を解決するために、本出願人は、すでに、特開2007−169105号公報に開示されているNiCuZn系フェライトおよびそれを用いた電子部品の提案を行なっており、この提案によって、結果として直流重畳特性の飛躍的な向上が図れている。
【0008】
【特許文献1】特開2003−272912号公報
【特許文献2】特開2002−255637号公報
【特許文献3】特開2007−169105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明の提案趣旨は、本願出願人がすでに提案している技術をさらに進展させ、さらなる直流重畳特性の向上を図らんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決するために、本発明のNiCuZn系フェライトは、主成分として酸化鉄がFe23換算で45.0〜49.0モル%、酸化銅がCuO換算で5.0〜14.0モル%、酸化亜鉛がZnO換算で1.0〜32.0モル%、酸化ニッケルがNiO換算で残部モル%含有され、前記主成分に対して、酸化ビスマスがBi23換算で0.25〜0.40重量%(ただし、0.25重量%を含まない)、酸化錫がSnO2換算で1.00〜2.50重量%含有されており、当該NiCuZn系フェライトの粒子中には、酸化錫SnO2の偏析が確認でき、下記の測定要領で定義されるSnO2の最大組成差が4.0以上であるように構成される。
【0011】
<測定要領>
(1)TEMで観察されるフェライト粒子群の中から任意のフェライト粒子20個を測定サンプル粒子Gi(i=1〜20)として選定する。
(2)20個の測定サンプル粒子Giについて、1粒子ごとに、最大SnO2モル濃度Yimax(mol%)と最小SnO2モル濃度Yimin(mol%)を求める。
(3)1粒子ごとに、最大SnO2モル濃度Yimax(mol%)と最小SnO2モル濃度Yimin(mol%)の差であるYimax-Yiminの値をそれぞれ算出し、20個の測定サンプル粒子Giの中で最も大きい(Yimax-Yimin)maxの値をSnO2の最大組成差として定義する。
【0012】
また、本発明のNiCuZn系フェライトの好ましい態様として、製造段階における酸化錫の添加として、Zn2SnO4化合物が使用されてなるように構成される。
【0013】
また、本発明のNiCuZn系フェライトの好ましい態様として、上記SnO2の最大組成差を有する粒子は、当該粒子における10点の測定点における格子定数の変動率が最も大きいもので、0.1%以上変化しているように構成される。
【0014】
また、本発明のNiCuZn系フェライトの好ましい態様として、上記SnO2の最大組成差を有する粒子は、当該粒子における10点の測定点におけるFe23の組成の変動率が最も大きいもので、4.0モル%以上変動しているように構成される。
【0015】
本発明のNiCuZn系フェライトを有してなる電子部品は、上記NiCuZn系フェライトを有してなるように構成される。
【0016】
また、本発明のNiCuZn系フェライトを有してなる電子部品の好ましい態様として、前記電子部品はコイル導体を備えるとともに、前記フェライトからなるコア部を備え、コア部が閉磁路を形成する積層インダクタまたはLC複合部品であるように構成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明のNiCuZn系フェライトは、所定の主成分配合組成に対して、酸化ビスマスがBi23換算で0.25〜0.40重量%(ただし、0.25重量%を含まない)、酸化錫がSnO2換算で1.00〜2.50重量%含有されており、かつ当該NiCuZn系フェライトの粒子中には、酸化錫SnO2の偏析が見られ、下記の測定要領で定義されるSnO2の最大組成差が4.0以上であるように構成されているので、フェライト結晶構造上、従来にない新規な構造を備えており、この構造により、直流重畳特性のさらなる向上が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明のNiCuZn系フェライト(酸化物磁性材料)について詳細に説明する。
【0019】
本発明のNiCuZn系フェライトにおける実質的な主成分は、酸化鉄がFe23換算で45.0〜49.0モル%(特に好ましくは、47.0〜48.8モル%)、酸化銅がCuO換算で5.0〜14.0モル%(特に好ましくは、7.0〜12モル%)、酸化亜鉛がZnO換算で1.0〜32.0モル%(特に好ましくは、14.0〜28.0モル%)、酸化ニッケルがNiO換算で残部モル%含有されて構成される。
【0020】
さらに本発明のNiCuZn系フェライトにおいては、このような主成分に対して、副成分としての酸化ビスマスがBi23換算で0.25重量%を超え、0.40重量%以下、(特に好ましくは、0.26〜0.33重量%)、酸化錫がSnO2換算で1.00〜2.50重量%(特に好ましくは、1.00〜2.20重量%)含有される。
【0021】
なお、上述の組成量は、配合組成量から算出される平均組成値である。
【0022】
上記の主成分の組成範囲において、酸化鉄(Fe23)の含有量が45.0モル%未満となると、比抵抗率が低下する傾向があるとともに、初透磁率μiも低下する傾向があり好ましくない。この一方で、酸化鉄(Fe23)の含有量が49.0モル%を超えると、焼結性が著しく劣化するという不都合が生じる。
【0023】
また、上記の主成分の組成範囲において、酸化銅(CuO)の含有量が5.0モル%未満となると、焼結性が劣化するという不都合が生じる傾向があり、この一方で、酸化銅(CuO)の含有量が14.0モル%を超えると、比抵抗率が低下し、また、フェライト焼結体粒界部にCuの偏析が著しくなるという不都合が生じる傾向がある。
【0024】
さらに、上記の主成分の組成範囲において、酸化亜鉛(ZnO)の含有量が1.0モル%未満となると、初透磁率μiが低く電子部品材料として好ましくないという不都合が生じる傾向がある。この一方で、酸化亜鉛(ZnO)の含有量が32.0モル%を超えると、キュリー温度が100℃以下となってしまい実用化が困難となるという不都合が生じる傾向がある。
【0025】
また、上記の主成分に対して含有される副成分の組成範囲において、酸化ビスマス(Bi23)の含有量が0.25重量%以下となると、直流重畳特性の向上が顕著でないという不都合が生じる傾向がある。この一方で、酸化ビスマス(Bi23)の含有量が0.40重量%を超えると、異常成長した粒子が発生し磁気特性が劣化するという不都合が生じる傾向がある。
【0026】
さらに、上記の主成分に対して含有される副成分の組成範囲において、酸化錫(SnO2)の含有量が1.00重量%未満となると、直流重畳特性の向上が顕著でないという不都合が生じる傾向がある。この一方で、酸化錫(SnO2)の含有量が2.50重量%を超えると、焼結性が著しく劣化するという不都合が生じる傾向がある。
【0027】
本発明においては、前記主成分に対して、さらに、前記副成分に加えてMn34、ZrO2等の添加成分を添加することができる。許容される添加量範囲は、本発明での作用効果を阻害しない範囲とされる。
【0028】
さらに、本願発明で最も重要なことであり、かつ発明の要部として認識すべき点は、焼結体の1粒子内における組成の分布のバラツキ量を意図的に大きくしているということである。すなわち、本願発明者らは、焼結体の1粒子内に所定量以上の組成の分布のバラツキを意図的に形成させることによって、直流重畳特性をさらに向上させることが可能となることを見出し、本願発明を創設している。焼結体の1粒子内において、大きな組成分布のバラツキを意図的に形成させることによって、フェライト粒子内に応力の分布が生じ、これによって、直流重畳特性をさらに向上させることが可能となっているものと考えられる。
【0029】
本願発明においては、焼結体の1粒子内における組成の分布のバラツキ量の条件を、従来例との明確な差別化が図れるようにとの配慮から、酸化錫SnO2に注目して、その酸化錫SnO2のバラツキ量を発明の作用効果が発現できる範囲に規定し、発明の構成要件としてまとめている。
【0030】
すなわち、本願発明のNiCuZn系フェライトの粒子中には、酸化錫SnO2の偏析が見られ、下記の測定要領で定義されるSnO2の最大組成差が4.0以上、特に、4.4〜16.9の範囲となるように構成されている。
【0031】
SnO2の最大組成差の測定要領について、以下説明する。
【0032】
(1)TEM(Transmission Electron Microscope : 透過電子顕微鏡)で観察されるフェライト粒子群の中から任意のフェライト粒子20個を測定サンプル粒子Gi(i=1〜20)として選定する。特に、TEMの明視野像の中で、一つの円内に収まる一群のフェライト粒子20個を選定することが望ましい。
【0033】
(2)20個の測定サンプル粒子Giについて、1粒子ごとに、最大SnO2モル濃度Yimax(mol%)と最小SnO2モル濃度Yimin(mol%)を求める。
【0034】
具体的には、1粒子ごとに、略均等に分散するように10個の測定点を定める。ただし、粒界に近傍の測定点は除くことが望ましい。粒界にのみ存在する副成分の影響を極力避けるためである。
【0035】
10個の測定点についてTEM−EDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)解析により、各測定点の組成を求め、最大SnO2モル濃度Yimax(mol%)と最小SnO2モル濃度Yimin(mol%)を得る。
【0036】
(3) 1粒子ごとに、最大SnO2モル濃度Yimax(mol%)と最小SnO2モル濃度Yimin(mol%)の差であるYimax-Yiminの値をそれぞれ算出し、20個の測定サンプル粒子Giの中で最も大きい(Yimax-Yimin)maxの値をSnO2の最大組成差として定める。
【0037】
後述する本願発明者らの実験結果からも明らかように、SnO2の最大組成差が4.0未満となると、直流重畳特性のさらなる向上を図ることができなくなってしまう。なお、SnO2の最大組成差の上限値に制約は特にないが、一般には18程度の値が上限であろうと実験データから推測される。
【0038】
また、上記SnO2の最大組成差を有する粒子は、当該粒子における上述の10点の測定点における格子定数の変動率が最も大きいもので、0.1%以上変化している。上限値は、0.4%程度である。格子定数はTEM(Transmission Electron Microscope:透過電子顕微鏡)を用いたCBED(Convergent Beam Electron Diffraction:収束電子線回折)法にて得られるHOLZ(Higher Order Laue Zone:高次ラウエゾーン)線を解析することにより得られるものを使用した。
【0039】
粒子の結晶を格子定数がa=b=c、α=β=γ=90°である立方晶としたとき、a=Lとする。
【0040】
格子定数の変動率(VL)は、10点のうち最大格子定数をLmax、最小格子定数をLminとした場合、
VL= 100×(Lmax−Lmin)/Lmin)
で定義される。
【0041】
また、上記SnO2の最大組成差を有する粒子は、当該粒子における上述の10点の測定点におけるFe23の組成の変動率が最も大きいもので、4.0モル%以上変動している。上限値は、15モル%程度である。
【0042】
本発明のフェライト材料は、所定の加工が施された磁性体シートや誘電体シートを積層して焼成して形成される積層型の電子部品、すなわち、積層型インダクタや積層型LC複合部品のコア材料とすることができる。積層型インダクタでは、コイル状部形成のための内部導体が形成されたフェライト組成物シートを複数枚準備して、これらを積層した後に焼成すればよい。
【0043】
また、本発明のフェライトは、例えば、所定形状のコア材に成形加工され、必要な巻線が巻回された後、樹脂モールド(樹脂被覆)され、固定インダクタ、チップインダクタ等として用いられる。これらは、例えば、テレビ、ビデオレコーダ、携帯電話や自動車電話などの移動体通信機等の各種電子機器として使用される。コアの形状は特に限定されるものではないが、例えば、外径、長さ、共に2mm以下のドラム型コアが例示できる。
【0044】
モールド材(被覆材)として用いられる樹脂としては、熱可塑性や熱硬化性樹脂が例示できる。より具体的には、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリウレタン、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂等が例示できる。モールド材をモールドする具体的手段としては、ディップ、塗布、吹き付け等を用いることができる。さらには、射出成形、流し込み成形等を用いても良い。
【0045】
本発明のフェライトを用いたチップインダクタ(電子部品)の構成を例示すると、当該チップインダクタは、例えば、本発明のフェライト材料を用いて両端に径の大きな鍔を備える円筒体形状に成形したコアと、このコアの胴部に巻回された巻線と、この巻線の端部と外部電気回路とを接続し、かつコアを樹脂内に固定するためのコア両端に配置された端子電極と、これらの外部を覆うように形成されたモールド樹脂とを備えて構成される。
【0046】
(本発明のフェライトの製造方法についての説明)
次ぎに、本発明のフェライトの製造方法の一例について説明する。
【0047】
まず、主成分の原料と副成分(添加物)の原料が本発明のフェライトの所定範囲内となるように所定量配合して準備する。
【0048】
本願のNiCuZn系フェライト発明において、特に重要なことは、本願発明のNiCuZn系フェライトの粒子中に、酸化錫SnO2の過度の偏析が発現し、上記の要領で定義されたSnO2の最大組成差が4.0以上となるように製造することである。そのためには、製造段階における酸化錫の添加として、一般に使用されているSnO2を用いるのではなく、Zn2SnO4化合物を用いることが手法の一つして挙げられる。
【0049】
Zn2SnO4化合物を用いることによって、NiCuZn系フェライトの粒子中に、酸化錫SnO2の過度の偏析が発現するのか、その理由は定かでないが、「直流重畳特性を向上させるSnO2とフェライトの主組成の一つであるZnOとの化合物であるZn2SnO4は、NiCuZn系フェライトと同様のスピネル型の結晶構造を有していること、かつ格子定数も8.5Å程度とフェライトの値に近いため、焼結後の粒子においてZn2SnO4結晶相とNiCuZn結晶相が共存している、」という現象が生じているのではないかと推測することができる。
【0050】
なお、Zn2SnO4化合物の内のZn成分は、わずかではあるが、NiCuZn系フェライトの主成分組成として換算される。
【0051】
次いで、準備しておいた原料をボールミル等を用いて湿式混合する。これを乾燥させた後、仮焼きする。仮焼きは酸化性雰囲気中、例えば、空気中で行なわれる。仮焼き温度は、500〜900℃、仮焼き時間は1〜20時間とすることが好ましい。次いで、得られた仮焼物をボールミル等により所定の大きさに粉砕する。なお、本発明のフェライトにおいては、当該粉砕の際に(あるいは粉砕後)、Zn2SnO4化合物を含む副成分の原料を添加して混合するようにすることが望ましい。
【0052】
仮焼き物を粉砕した後、例えばポリビニルアルコール等の適当なバインダを適当量加えて、所望の形状に成形する。
【0053】
ついで、成形体を焼成する。焼成は、酸化性雰囲気中、通常は、空気中で行なわれる。焼成温度は800〜1000℃程度で、焼成温度は1〜5時間程度とされる。
【実施例】
【0054】
以下、具体的実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0055】
組成物中の主成分としてFe23、NiO、CuO、およびZnOが下記表1に示される組成割合となるように各原料を所定量配合した後、ボールミルで16時間ほど湿式混合した。
【0056】
さらにこれらの混合粉を乾燥させた後、空気中730℃で10時間仮焼きして仮焼粉を得た。この仮焼粉に副成分としてBi23、SnO2が下記表1の組成割合となるように各原料を所定量添加し、鋼鉄製ボールミルで16時間粉砕し、粉砕粉を得た。
【0057】
このようにして得られた粉砕粉(フェライト粉)に、6%ポリビニルアルコール溶液を加えて混合した後、スプレードライヤを用いて造粒粉を得た。このようにして得られた顆粒を用いて、成形密度3.10Mg/m3となるように外径13mm、内径6mm、高さ3mmのトロイダル形状に成形した。
【0058】
このように成形した成形体を大気中で、920℃の焼成温度で2時間焼成し、トロイダルコアサンプルを得た。
【0059】
これらの各サンプルについて(1)100kHzにおける初透磁率、(2)直流重畳特性、および(3)SnO2の最大組成差、をそれぞれ求め、結果を下記表1に示した。
【0060】
なお、表1中のSnO2の最大組成差は、上述の要領で求め、粒子内の組成分析は、TEM−EDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)解析を用いて行なった。
【0061】
なお、上記(1)〜(2)の測定ならびに算出は以下の要領で行った。
【0062】
(1)100kHzにおける初透磁率μi
920℃の各焼成温度で製造した各トロイダルコアサンプルにワイヤを20回巻回した後、LCRメータにてインダクタンス値等を測定し、100kHz、25℃における初透磁率μi920(下付きの添字は焼成温度を示している)を求めた。
【0063】
(2)直流重畳特性
ワイヤを20回ほど巻回した各トロイダルコアサンプルについて直流電流を流した時のμの変化を測定し、μと直流電流の関係をグラフにする。次いで、このグラフを用いて直流電流0mA時の初期の透磁率μiが10%低下するときの電流値を計算するという手法によって、初透磁率μiの10%低下の電流値Idc10%down(mA)を求めた。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
上記表1において、平均組成が同一となっている同じ番号の実施例と比較例との対比で、初透磁率μiおよび直流重畳特性のデータを比較することができる。表1の結果、本発明の効果は明らかである。
【0067】
また、参考までに、下記表2に、上記表1の実施例3において、SnO2の最大組成差が得られた1粒子の10点(測定箇所3−1〜3−10の10点、測定点の直径は1nmである)の測定点の生データ(単位:モル%)を示した。
【0068】
同様に、表1の比較例3*において、SnO2の最大組成差が得られた1粒子の10点(測定箇所3*−1〜3*−10の10点、測定点の直径は1nmである)の測定点の生データ(単位:モル%)を示した。なお、表2中のBi23濃度がゼロとなっているのは、Bi23は結晶粒界に存在し、結晶内部に存在しないと考えられるからである。
【0069】
【表3】

【0070】
以上の結果より本発明の効果は明らかである。すなわち、本発明のNiCuZn系フェライトは、所定の主成分配合組成に対して、酸化ビスマスがBi23換算で0.25〜0.40重量%(ただし、0.25重量%を含まない)、酸化錫がSnO2換算で1.00〜2.50重量%含有されており、かつ当該NiCuZn系フェライトの粒子中には、酸化錫SnO2の偏析が見られ、上述した測定要領で定義されるSnO2の最大組成差が4.0以上であるように構成されているので、フェライト結晶構造上、従来にない新規な構造を備えており、この構造により、直流重畳特性のさらなる向上が図れる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のNiCuZn系フェライトは、幅広く各種の電気部品産業に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として酸化鉄がFe23換算で45.0〜49.0モル%、酸化銅がCuO換算で5.0〜14.0モル%、酸化亜鉛がZnO換算で1.0〜32.0モル%、酸化ニッケルがNiO換算で残部モル%含有されて構成されるNiCuZn系フェライトであって、
前記主成分に対して、酸化ビスマスがBi23換算で0.25〜0.40重量%(ただし、0.25重量%を含まない)、酸化錫がSnO2換算で1.00〜2.50重量%含有されており、
当該NiCuZn系フェライトの粒子中には、酸化錫SnO2の偏析が見られ、下記の測定要領で定義されるSnO2の最大組成差が4.0以上であることを特徴とするNiCuZn系フェライト。
<測定要領>
(1)TEMで観察されるフェライト粒子群の中から任意のフェライト粒子20個を測定サンプル粒子Gi(i=1〜20)として選定する。
(2)20個の測定サンプル粒子Giについて、1粒子ごとに、最大SnO2モル濃度Yimax(mol%)と最小SnO2モル濃度Yimin(mol%)を求める。
(3)1粒子ごとに、最大SnO2モル濃度Yimax(mol%)と最小SnO2モル濃度Yimin(mol%)の差であるYimax-Yiminの値をそれぞれ算出し、20個の測定サンプル粒子Giの中で最も大きい(Yimax-Yimin)maxの値をSnO2の最大組成差として定義する。
【請求項2】
製造段階における酸化錫の添加として、Zn2SnO4化合物が使用されてなる請求項1に記載のNiCuZn系フェライト。
【請求項3】
上記SnO2の最大組成差を有する粒子は、当該粒子における10点の測定点における格子定数の変動率が最も大きいもので、0.1%以上変化している請求項1または請求項2に記載のNiCuZn系フェライト。
【請求項4】
上記SnO2の最大組成差を有する粒子は、当該粒子における10点の測定点におけるFe23の組成の変動率が最も大きいもので、4.0モル%以上変動している請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のNiCuZn系フェライト。
【請求項5】
NiCuZn系フェライトを有してなる電子部品であって、
前記フェライトは、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載されたフェライトであることを特徴とする電子部品。
【請求項6】
前記電子部品はコイル導体を備えるとともに、前記フェライトからなるコア部を備え、コア部が閉磁路を形成する積層インダクタまたはLC複合部品である請求項5に記載の電子部品。

【公開番号】特開2009−263196(P2009−263196A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118425(P2008−118425)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】