説明

OLEDにおける有機層の形成

1つかそれ以上のOLEDデバイス上に有機材料の層を形成するためドナーから基板への有機材料のレーザー転写を可能にする装置であって、ドナーはレーザー光吸収層と熱転写性有機材料を備えた層とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光ダイオード(OLED)としても知られる有機電場発光(EL)デバイスに関し、特に、こうしたデバイスにおける有機層の形成を促進する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(一般にRGB画素と呼ばれる)赤、緑、及び青色の画素といった着色した画素のアレイを有するカラーまたはフルカラー有機電場発光(EL)ディスプレイでは、RGB画素を形成するため色を発生する有機EL媒体の正確なパターン化が必要である。基本的なELデバイスは、一般に、アノードと、カソードと、アノードとカソードとの間に挟まれた有機EL媒体とを有する。有機EL媒体は有機薄膜の1つかそれ以上の層を含んでもよく、層または層の中の領域の1つが主として光の発生または電場発光を担当する。この特性の層を一般に有機EL媒体の発光層と呼ぶ。有機EL媒体中に存在する他の有機層は一般に電子の輸送を促進し、(正孔伝導のための)正孔輸送層または(電子伝導のための)電子輸送層と呼ばれる。フルカラー有機ELディスプレイパネル中のRGB画素を形成する際、有機EL媒体の発光層または有機EL媒体全体を正確にパターン化する方法を考案する必要がある。
【0003】
通常、電場発光画素は、米国特許第5,742,129号に示すように、シャドウマスク技術によってディスプレイ上に形成する。この技術は有効であるが、いくつかの欠点を有する。シャドウマスクを使用して高解像度の画素サイズを達成することは困難であった。その上、基板とシャドウマスクとの間の位置合わせの問題が存在し、画素を適当な場所に形成するよう注意を払わなければならない。基板サイズを増大することが望ましい場合、適当に位置決めされた画素を形成するようにシャドウマスクを操作することは困難である。シャドウマスク法のさらなる短所は、マスクの孔が時間と共に詰まることがあるというものである。マスク上の孔が詰まるとELディスプレイ上の画素が機能しなくなるという望ましくない結果を生じる。
【0004】
シャドウマスク法には、1辺が数インチより大きい寸法のELデバイスを製造する際特に明らかになるさらなる問題がある。ELデバイスを正確に形成するため必要な精度(±5マイクロメータの孔位置)で大型のシャドウマスクを製造するのは極めて困難である。
【0005】
高解像度有機ELディスプレイをパターン化する方法が、グランデ(Grande)他によって、米国特許第5,851,709号で開示されている。この方法は、以下の順序の、1)対向する第1及び第2の表面を有するドナー基板を提供するステップと、2)ドナー基板の第1の表面の上に光透過性、断熱性の層を形成するステップと、3)断熱性の層の上に光吸収性の層を形成するステップと、4)第2の表面から断熱性の層に延びる開口のアレイをドナー基板に提供するステップと、5)光吸収性の層の上に形成した転写性色形成有機ドナー層を提供するステップと、6)基板の開口とデバイス上の対応する色画素との間の配向関係においてドナー基板をディスプレイ基板と正確に位置合わせするステップと、7)開口の上の光吸収性の層に十分な熱を発生してドナー基板上の有機層のディスプレイ基板への熱転写を発生させるため放射発生源を利用するステップとを含む。グランデ他のアプローチの問題は、ドナー基板上の開口のアレイのパターン化が必要なことである。このため、ドナー基板とディスプレイ基板との間の正確な機械的位置合わせが必要であることを含む、シャドウマスク法と同じ問題の多くが生じる。さらなる問題は、ドナーパターンが固定されており容易に変更できないというものである。
【0006】
パターン化していないドナーシートと、レーザーのような正確な光源を使用して、パターン化したドナーにまつわる難点のいくつかを除去することが可能である。こうした方法は、米国特許第5,688,551号でリットマン(Littman)他によって開示されており、また一連の特許でウォルク(Wolk)他によって開示されている(米国特許第6,114,088号、第6,140,009号、第6,214,520号及び第6,221,553号)。
【0007】
同じ譲受人に譲受された米国特許第5,937,272号で、タン(Tang)は、EL材料の蒸着によって薄膜トランジスタ(TFT)アレイ基板の上にマルチカラー画素(例えば、赤、緑、及び青の副画素)をパターン化する方法を教示している。こうしたEL材料は、(上記米国特許第5,937,272号の図4、図5、及び図6のように)ドナー支持材料の1つの表面の上にプレコーティングし、選択したパターンの蒸着によって基板に転写すればよい。
【0008】
EL材料の転写は好適には、タンが上記の特許に記載したような真空チャンバ内で行われ、特に、真空は好適にはドナーと基板との間に維持される。また、ドナーと基板とは、ELの転写中、(タンの教示によればコーティングと基板の隆起部分との間が250マイクロメータ未満といった)ごく近接した距離を保持しなければならない。さらに、ドナーは基板の隆起部分と接触し、それによってコーティングと、EL材料を蒸着する基板の陥没部分との間の十分な間隔を維持してもよい。何れの場合にも、ドナーと基板との間に真空を維持しつつドナーと基板とを真空チャンバ内で接触した状態に保持する方法が必要である。
【0009】
イスベルグ(Isberg)他は、同じ譲受人に譲受された欧州特許出願第1 028 001 A1号で、ドナー層と基板との間の接着促進層をさらに使用することを開示している。これはタンが必要とした緊密な接触を促進する助けになるが、接着促進層が接着剤の形態で不純物を導入することがあるため不利となるだろう。
【0010】
手動の板によって印加するもののような機械的圧力を使用することも可能ではあるが、マイクロメータ台の公差が必要なため表面全体にわたって均一に維持するのは困難である。空気または他の流体による圧力の方が良好に作用するだろうが、真空チャンバを平静な状態に維持する必要がある条件ではこうした圧力の使用は困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、有機材料の1つかそれ以上の層の形成を促進するためOLED基板に対してドナーを位置決めするより有効な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、1つかそれ以上のOLEDデバイス上に有機材料の層を形成するためドナーから基板への有機材料の転写を可能にする装置であって、ドナーがレーザー光吸収層と熱転写性有機材料を備えた層とを含み、
a)光のビームを発生する可動式レーザーと、ドナー中のレーザー光吸収層に対応する位置に該光ビームを集束する少なくとも1つのレンズとを提供する手段と、
b)基板とドナーとの一部の間が離隔するかまたは基板とドナーが接触するかの何れかとなり、有機材料が基板の一部に転写されるようなお互いに対するある関係にドナーと基板とを支持するよう配置した第1の固定具と、
c)第1の固定具に位置合わせされ係合する圧力板を含む第2の固定具であって、ドナーが圧力板上に支持され圧力板がドナーと基板とを第1の固定具に締め付けるよう可動式でありドナーの非転写表面に対してチャンバを形成する第2の固定具と、
d)基板に対するドナーの位置決めを保証するようドナーの非転写表面に圧力を印加するためチャンバに流体を供給する手段と、
e)透明な部分を通じたドナーの非転写表面へのレーザー光ビームの透過を可能にするようなドナーの非転写表面に対するある関係に配置された該透明な部分を含む第1の固定具と、
f)レーザー光吸収層がレーザー光ビームの焦平面の±35μm以内にあるようにドナーに対するレーザーの間隔を維持する手段であって、基板への有機材料の転写を発生させる熱の吸収を可能にするためレーザー光ビームがドナー全体にわたって移動する際レーザー光がレーザー光吸収層に集束するようレーザーが位置決めされる手段とを備える装置によって達成される。
【発明の効果】
【0013】
この方法の利点は、ドナーの転写表面範囲全体にわたってドナー材料の放射吸収層をレーザーの焦平面内に維持することである。この方法のさらなる利点は、ドナーと基板との間に真空が維持される周囲真空または真空環境においてドナーと基板との間の均一な間隔を維持できることである。この方法は、汚染を低下させるために有利な環境(真空)中で適切な締め付けを提供する。さらなる利点は、この方法はドナーと基板媒体の取り扱いを含めた完全な自動化が可能なことである。本発明は、形成処理中の多数のOLEDディスプレイデバイスを有する大面積にわたる有機層の形成に特に適しており、それによってスループットを増大する。
【0014】
層の厚さといったデバイスの特徴的な寸法はマイクロメータ未満のものが多いため、図面の縮尺は寸法精度より視覚化の容易さを考慮したものになっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
「ディスプレイ」または「ディスプレイパネル」という用語は、ビデオ画像またはテキストを電子的に表示することができる画面を示すために利用する。「画素」という用語は、当業技術分野で承認された使用法により、他の範囲と独立して光を放出するよう刺激することができるディスプレイパネルの範囲を示すために利用する。「マルチカラー」という用語は、異なる範囲で異なる色相の光を放出することができるディスプレイパネルを記述するために利用する。特に、この用語は、異なる色の画像を表示することができるディスプレイパネルを記述するために利用する。これらの範囲は必ずしも連続していない。「フルカラー」という用語は、可視スペクトルの赤、緑、及び青領域で発光し、任意の組み合わせの色相の画像を表示することができる多色ディスプレイパネルを記述するために利用する。赤、緑、及び青は三原色を構成し、これらの三原色を適当に混合することによって他の全ての色を生成することができる。「色相」という用語は、可視スペクトル内の光放出の輝度プロファイルを指し、異なる色相によって色の視覚的に識別可能な差を示す。画素または副画素は一般に、ディスプレイパネル中の最小のアドレス指定可能な単位を示すために使用する。モノクロディスプレイの場合、画素または副画素という区別はない。「副画素」という用語は、マルチカラーディスプレイパネルにおいて使用し、特定の色を放出するよう独立してアドレス指定可能な画素の何らかの部分を示すために利用する。例えば、青の副画素は、青の光を放出するようアドレス指定可能な画素の部分である。フルカラーディスプレイでは、画素は一般に、三原色の副画素、すなわち青、緑、及び赤を備える。「ピッチ」という用語は、ディスプレイパネル中の2つの画素または副画素を分離する距離を示すために使用する。すなわち、副画素のピッチとは、2つの副画素間の離隔距離を意味する。「真空」という用語は、本出願では1トールまたはそれ未満の圧力を示すために使用する。
【0016】
フィリップス(Phillips)他は、その開示を引用によって本出願の記載に援用する、「OLEDデバイスの層を形成するドナーからの有機材料の転写を可能にする装置(Apparatus for Permitting Transfer of Organic Material From a Donor to Form a Layer in an OLED Device)」という名称の、2001年12月12日出願の同じ譲受人に譲受された米国特許出願第10/021,410号で、有機材料の1つかそれ以上の層の形成を促進するためOLED基板に対してドナーを位置決めする装置を記述している。こうした装置はフラッシュランプ式照射によって良好に動作する。しかし、照射法としてレーザーを使用するには、ドナーの放射吸収層を、例えば±35μmといった厳密な公差内に保持し、有機材料転写処理中レーザーの焦平面内に位置するようにすることが必要である。有機材料転写処理中の外部と内部との間の圧力差及び圧力板を締め付けるために必要な圧力による応力によって、放射吸収層を位置決めする位置決めする表面が屈曲し、放射吸収層の一部がレーザーの焦平面から外れることがある。こうした屈曲を、例えば放射吸収層を位置決めする各構成要素について±10μm未満に低減し、総合変動がドナーの全ての点で±35μm未満になるようにドナーに対するレーザーの間隔を維持する必要がある。
【0017】
ここで図1を参照すると、本明細書に記載の装置での使用が可能なドナー32の構造の1つの実施形態が示される。ドナー32はシートまたは連続ロールとして形成してよい。ドナー32は、少なくとも、好適には可撓性で、非転写表面33を備える支持材72を含む。支持材72はまず、有機材料の転写を発生させるような熱を生じるスペクトルの所定の部分の放射を吸収することができる放射吸収性材料を含むレーザー光吸収層74によってコーティングした後、熱転写性有機材料の層70によってコーティングする。そして、支持材72はドナー32の非転写表面33を備え、有機材料70はドナー32の転写表面35を備える。レーザー光吸収層74はスペクトルの所定の部分の放射を吸収し、それによって熱を生じることができる。放射吸収材料は、米国特許第5,578,416号に記載の色素のような色素、炭素のような顔料、またはニッケル、クロム、チタン等といった金属でもよい。
【0018】
支持材72は、少なくとも以下の要求を満たすいくつかの材料の何れかから製造してよい。支持材72は、一側面を加圧された有機材料転写ステップの際、及び水蒸気のような揮発成分を除去するよう企図される何らかの前処理加熱ステップの際、構造的完全性を維持できなければならない。さらに、支持材72は、有機材料70の比較的薄いコーティングを1つの表面の上に受け取り、コーティングした支持材(ドナー32)の予想される貯蔵期間中劣化することなくこのコーティングを保持できなければならない。こうした要求を満たす支持材料は、例えば、金属箔、支持材72の上にコーティングした転写性有機材料70の転写を発生させると予想される支持材の温度値より高いガラス転移温度を示すある種のプラスチック箔、及び繊維強化プラスチック箔を含む。適切な支持材料は周知の工学的アプローチに応じて選択すればよいが、選択する支持材料のいくつかの態様は、本発明を実施する際有用なドナー支持材として構成する際さらに検討する価値があることが認識されるだろう。例えば、支持材72は、レーザー光吸収層74または有機材料70によってプレコーティングする前に、多段階清掃と表面準備処理が必要なことがある。支持材72が放射透過性材料である場合、支持材72またはその表面に放射吸収材料を組み込むことは、支持材72をさらに有効に加熱し、それに対応して支持材72から基板への転写性有機材料70の転写を向上させるため有利なことがある。
【0019】
通常のOLEDデバイスは、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、及び陰極を普通この順序で含んでよい。有機材料70は、正孔注入材料、正孔輸送材料、電子輸送材料、発光材料、ホスト材料、またはこれらの材料の何れかの組み合わせとなってよい。これらの材料を以下説明する。
【0020】
正孔注入(HI)材料
必ずしも必要ではないが、有機発光ディスプレイに正孔注入層を提供するのが有益であることが多い。正孔注入材料は、後続の有機層の膜形成特性を改善し正孔輸送層への正孔の注入を促進する役目を果たすことがある。正孔注入層で使用する適切な材料は、米国特許第4,720,432号に記載のポルフィリン化合物、及び米国特許第6,208,075号に記載のプラズマ蒸着フルオロカーボンポリマーを含むが、これらに制限されない。ELデバイスにおいて有用であると伝えられる代替正孔注入材料は、第EP 0 891 121 A1号及び第EP 1 029 909 A1号に記載されている。
【0021】
正孔輸送(HT)材料
有機材料70として有用な正孔輸送材料が芳香族第三級アミンのような化合物を含むことは周知であり、芳香族第三級アミンとは、少なくとも1つが芳香環の要素である炭素原子にだけ結合する少なくとも1つの三価窒素原子を含む化合物であると理解されている。1つの形態では、芳香族第三級アミンは、モノアリールアミン、ジアリールアミン、トリアリールアミン、またはポリマーアリールアミンといったアリールアミンでもよい。モノマートリアリールアミンの例は、米国特許第3,180,730号で、クリュプフェル(Klupfel)他によって例示されている。
【0022】
1つかそれ以上のビニル基によって置換され、かつ/または少なくとも1つの活性水素を含む基を備える他の適切なトリアリールアミンは、その開示を引用によって本出願の記載に援用する、同じ譲受人に譲受された米国特許3,567,450号及び第3,658,520号でブラントリー(Brantly)他によって開示されている。
【0023】
芳香族第三級アミンのさらに好適な種類は、米国特許第4,720,432号及び第5,061,569号で開示されているような少なくとも2つの芳香族第三級アミン部分を含むものである。こうした化合物は構造式Aによって表されるものを含む。
【0024】
【化1】

【0025】
ここで、
1及びQ2は別個に選択された芳香族第三級アミン部分であり、
Gは炭素−炭素結合のアリーレン、シクロアルキレン、またはアルキレン基といった結合基である。
【0026】
1つの実施形態では、Q1またはQ2の少なくとも1つは、例えばナフタレンのような多環式縮合環状構造を含む。Gがアリール基である場合、それは好都合にはフェニレン、ビフェニレン、またはナフタレン部分である。
【0027】
構造式Aを満足し2つのトリアリールアミン部分を含むトリアリールアミンの有用な種類は構造式Bによって表される。
【0028】
【化2】

【0029】
ここで、
1及びR2は各々別個に水素原子、アリール基、またはアルキル基を表すか、またはR1及びR2は共にシクロアルキル基を完成する原子を表し、
3及びR4は各々別個にアリール基を表し、そのアリール基は、構造式Cによって示されるようなジアリール置換アミノ基によって置換される。
【0030】
【化3】

【0031】
ここでR5及びR6は別個に選択されたアリール基である。1つの実施形態では、R5及びR6の少なくとも1つは、例えばナフタレンのような多環式縮合環状構造を含む。
【0032】
芳香族第三級アミンの別の種類はテトラアリールジアミンである。望ましいテトラアリールジアミンはアリーレン基を介して結合した、式Cによって示されるような2つのジアリールアミノ基を含む。有用なテトラアリールジアミンは式Dによって表されるものを含む。
【0033】
【化4】

【0034】
ここで、
各Areは、フェニレンまたはアントラセン部分といった別個に選択されたアリーレン基であり、
nは1〜4の整数であり、
Ar、R7、R8、及びR9は別個に選択されたアリール基である。
【0035】
通常の実施形態では、Ar、R7、R8、及びR9の少なくとも1つは、例えばナフタレンのような多環式縮合環状構造を含む。
【0036】
上記の構造式A、B、C、Dの様々なアルキル、アルキレン、アリール、及びアリーレン部分についても各々同様に置換されてもよい。通常の置換基はアルキル基、アルコキシル基、アリール基、アリールオキシ基、及びフッ化物、塩化物、及び臭化物といったハロゲンを含む。様々なアルキル及びアルキレン部分は通常1個〜約6個の炭素原子を含む。シクロアルキル部分は3個〜約10個の炭素原子を含むことがあるが、通常は、例えばシクロペンチル、シクロヘキシル、及びシクロヘプチル環状構造といった5個、6個、または7個の炭素原子を含む。アリール及びアリーレン部分は普通フェニル及びフェニレン部分である。
【0037】
OLEDデバイスにおける正孔輸送層は単一の芳香族第三級アミン化合物またはその混合物から形成してよい。詳しく言うと、式Bを満足するトリアリールアミンのようなトリアリールアミンを、式Dによって示されるようなテトラアリールジアミンと組み合わせて利用してよい。トリアリールアミンをテトラアリールジアミンと組み合わせて利用する場合、後者は、トリアリールアミンと電子注入及び電子輸送層との間に挿入された層として配置する。有用な芳香族第三級アミンの例は以下である。
1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン
1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン
4,4’−ビス(ジフェニルアミノ)クアドリフェニル
ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)−フェニルメタン
N,N,N−トリ(p−トリル)アミン
4−(ジ−p−トリルアミノ)−4’−[4(ジ−p−トリルアミノ)−スチリル]スチルベン
N,N,N’,N’−テトラ−p−トリル−4−4’−ジアミノビフェニル
N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノビフェニル
N−フェニルカルバゾール
ポリ(N−ビニルカルバゾール)
N,N’−ジ−1−ナフタレニル−N,N’−ジフェニル−4,4’−ジアミノビフェニル
4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4”−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]p−テルフェニル
4,4’−ビス[N−(2−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’−ビス[N−(3−アセナフテニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
1,5−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ナフタレン
4,4’−ビス[N−(9−アンスリル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4”−ビス[N−(1−アンスリル)−N−フェニルアミノ]−p−テルフェニル
4,4’−ビス[N−(2−フェナンスリル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’−ビス[N−(8−フルオランテニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’−ビス[N−(2−ピレニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’−ビス[N−(2−ナフタセニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’−ビス[N−(2−ペリレニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’−ビス[N−(1−コロレニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
2,6−ビス(ジ−p−トリルアミノ)ナフタレン
2,6−ビス[ジ−(1−ナフチル)アミノ]ナフタレン
2,6−ビス[N−(1−ナフチル)−N−(2−ナフチル)アミノ]ナフタレン
N,N,N’,N’−テトラ(2−ナフチル)−4−4”−ジアミノ−p−テルフェニル
4,4’−ビス{N−フェニル−N−[4−(1−ナフチル)−フェニル]アミノ}ビフェニル
4,4’−ビス「N−フェニル−N−(2−ピレニル)アミノ]ビフェニル
2,6−ビス[N,N−ジ(2−ナフチル)アミン]フルオレン
1,5−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ナフタレン
【0038】
有用な正孔輸送材料の別の種類は、第EP 1 009 041号に記載の多環式芳香族化合物を含む。さらに、ポリ(N−ビニルカルバゾール)(PVK)、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、及びPEDOT/PSSとも呼ばれるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4−スチレンスルホネート)のような共重合体といったポリマー正孔輸送材料を使用してもよい。
【0039】
発光材料
有機材料70として有用な発光材料は周知である。米国特許第4,769,292号及び第5,935,721号にさらに十分に記載されているように、有機EL素子の発光層
(LEL)は、この領域での電子−正孔対の再結合の結果として電場発光が生じる発光または蛍光材料を備える。発光層は単一の材料から構成してもよいが、より一般的には、例えばゲスト化合物によってドーピングしたホスト材料、または発光が主としてドーパントから生じ任意の色とすることができる化合物といった2つかそれ以上の化合物を含む。発光層のホスト材料は、以下定義するような電子輸送材料、上記で定義したような正孔輸送材料、または正孔−電子の再結合をサポートする別の材料でもよい。ドーパントは普通、高度蛍光染料から選択するが、第WO98/55561号、第WO00/18851号、WO00/57676号、及びWO00/70655号に記載の遷移金属複合体のような燐光性化合物も有用である。通常、0.01〜10質量%のドーパントをホスト材料中にコーティングする。
【0040】
ドーパントとして色素を選択するための重要な関係は、分子の最高占有分子軌道と最低非占有分子軌道との間のエネルギー差として定義されるバンドギャップ電位の比較である。ホストからドーパントへの有効なエネルギー転写のため、必要な条件は、ドーパントのバンドギャップがホスト材料のバンドギャップより小さいことである。
【0041】
使用できることが知られているホスト及び発光分子は、米国特許第4,768,292号、第5,141,671号、第5,150,006号、第5,151,629号、第5,294,870号、第5,405,709号、第5,484,922号、第5,593,788号、第5,645,948号、第5,683,823号、第5,755,999号、第5,928,802号、第5,935,720号、第5,935,721号、及び第6,020,078号に記載のものを含むが、これらに制限されない。
【0042】
8−ヒドロキシキノリン及び同様の誘導体の金属複合体(式E)は、電場発光をサポートすることができる有用なホスト化合物の1つの種類を構成し、例えば緑、黄、橙、及び赤といった500nmより長い波長の光放出に特に適している。
【0043】
【化5】

【0044】
ここで、
Mは金属を表し、
nは1〜3の整数であり、
Zは発生する都度別個に、少なくとも2つの縮合芳香環を有する核を完成する原子を表す。
【0045】
上記から、金属は一価、二価、または三価の金属でもよいことが明らかである。金属は、例えば、リチウム、ナトリウム、またはカリウムといったアルカリ金属、マグネシウムまたはカルシウムといったアルカリ土類金属、またはボロンまたはアルミニウムといった土類金属でもよい。一般に、有用なキレート化金属であることが知られた一価、二価、または三価の金属を利用すればよい。
【0046】
Zは、少なくとも1つがアゾール環またはアジン環である少なくとも2つの縮合芳香環を含む複素環核を完成する。必要な場合、脂肪族環及び芳香族環の両方を含む追加の環を2つの必要な環と共に縮合してもよい。機能を改善することなく分子の大きさを増やすのを避けるため、環の原子の数は18またはそれ未満に維持する。
【0047】
有用なキレート化オキシノイドの例は以下である。
CO−1:アルミニウムトリスオキシン[別名、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(III)]
CO−2:マグネシウムビスオキシン[別名、ビス(8−キノリノラト)マグネシウム(II)]
CO−3:ビス[ベンゾ{f}−8−キノリノラト)亜鉛(II)
CO−4:ビス(2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III)−μ−オキソ−ビス(2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III)
CO−5:インジウムトリスオキシン[別名、トリス(8−キノリノラト)インジウム]
CO−6:アルミニウムトリス(5−メチルオキシン)[別名、トリス(5−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III)]
CO−7:リチウムオキシン[別名、(8−キノリノラト)リチウム(I)]
CO−8:ガリウムオキシン[別名、トリス(8−キノリノラト)ガリウム(III)]
CO−9:ジルコニウムオキシン[別名、テトラ(8−キノリノラト)ジルコニウム(IV)]
【0048】
9,10−ジ−(2−ナフチル)アンスラセン(式F)の誘導体は、電場発光をサポートすることができる有用なホストの1つの種類を構成し、例えば青、緑、黄、橙または赤といった400nmより長い波長の光放出に特に適している。
【0049】
【化6】

【0050】
ここでR1、R2、R3、R4、R5、及びR6は、各環についての1つかそれ以上の置換基を表し、各置換基は以下のグループから別個に選択する。
グループ1:水素、または1個〜24個の炭素原子のアルキル
グループ2:5個〜20個の炭素原子のアリールまたは置換アリール
グループ3:アントラセニル、ピレニル、またはペリレニルの縮合芳香環を完成するために必要な4個〜24個の炭素原子
グループ4:フリル、チェニル、ピリジル、キノリニルまたは他の複素環系の縮合複素芳香環を完成するために必要な5個〜24個の炭素原子のヘテロアリールまたは置換ヘテロアリール
グループ5:1個〜24個の炭素原子のアルコキシルアミノ、アルキルアミノ、またはアリールアミノ
グループ6:フッ素、塩素、臭素またはシアノ
【0051】
ベンザゾール誘導体(式G)は、電場発光をサポートすることができる有用なホストの別の種類を構成し、例えば青、緑、黄、橙または赤といった400nmより長い波長の光放出に特に適している。
【0052】
【化7】

【0053】
ここで、
nは3〜8の整数であり、
ZはO、NRまたはSであり、
R’は水素、例えばプロピル、t−ブチル、ヘプチル等といった1個〜24個の炭素原子のアルキル、例えばフェニル及びナフチル、フリル、チェニル、ピリジル、キノリニル及び他の複素環系といった5個〜20個の炭素原子のアリールまたはヘテロ原子置換アリール、またはクロロ、フルオロといったハロゲン、または縮合芳香環を完成するために必要な原子であり、
Lは、アルキル、アリール、置換アルキル、または置換アリールを含む結合単位であり、多数のベンザゾールを互いに共役的または非共役的に接続する。
【0054】
有用なベンザゾールの例は、2,2’,2”−(1,3,5−フェニレン)トリス[1−フェニル−1H−ベンズイミダゾール]である。
【0055】
望ましい蛍光ドーパントは、アントラセン、テトラセン、キサンテン、ペリレン、ルブレン、クマリン、ローダミン、キナクリドン、ジシアノメチレンピラン化合物、チオピラン化合物、ポリメチン化合物、ピリリウム及びチアピリリウム化合物、及びカルボスチリル化合物の誘導体を含む。有用なドーパントの例は以下を含むが、これらに制限されない。
【0056】
【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【0057】
他の有機発光材料は、例えば、同じ譲受人に譲受された米国特許第6,194,119B1号及びそこに引用された参考文献でウォルク(Wolk)他によって教示されているポリフェニレンビニレン誘導体、ジアルコキシ−ポリフェニレンビニレン、ポリ−パラ−フェニレン誘導体、及びポリフルオレン誘導体といったポリマー物質でもよい。
【0058】
電子輸送(ET)材料
本発明の有機ELデバイスで使用するための好適な電子輸送材料は、(一般に8−キノリノールまたは8−ヒドロキシキノリンとも呼ばれる)オキシン自体のキレートを含む金属キレート化オキシノイド化合物である。こうした化合物は電子の注入及び輸送を助け、どちらでも高いレベルの性能を示し薄膜の形態の製造が容易である。考慮されるオキシノイド化合物の例は、前に記載した式Eを満たすものである。
【0059】
他の電子輸送材料は、米国特許4,356,429号に記載されているような様々なブタジエン誘導体、及び米国特許第4,539,507号に記載されているような様々な複素環蛍光増白剤を含む。構造式Gを満たすベンザゾールも有用な電子輸送材料である。
【0060】
他の電子輸送材料は、例えば、有機導電性分子及びポリマー便覧、第1〜4巻、H.S.ナルワ編、ジョン ワイリー アンド サンズ、チチェスター(1997年)(Handbook of Organic Conductive Molecule and Polymers,Vols.1−4、H.S.Nalwa,ed.,John Wiley and Sons,Chichester(1997))に記載されているようなポリフェニレンビニレン誘導体、ポリ−パラ−フェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリチオフェン、ポリアセチレン、及び他の導電性ポリマー有機材料といったポリマー物質でもよい。
【0061】
場合によっては、単一の層が光放出及び電子輸送の両方をサポートする機能を果たし、従って発光材料と電子輸送材料とを含むことがある。
【0062】
ここで図2を参照すると、本発明によって設計された、ドナーから基板への有機材料の転写を可能にする装置8の1つの実施形態の断面図が示される。第1の固定具10は、チャンバの一部を形成し、基板34の一部とドナー32との間に均一な離隔が存在するかまたは基板34とドナー32とが接触し、有機材料が基板34の一部に転写されるようなお互いに対するある関係にドナー32と基板34とを支持するように配置する。基部20は第1の固定具10の一部であり真空チャンバ39の一部でもある。基部20の接触面118と圧力板38の基板支持面120は、ドナー32のレーザー光吸収層74が圧力板38によって第1の固定具10に締め付けられた後その位置を維持するために必要な構造を提供する。流体の漏れがないかまたは真空チャンバ内の環境条件に有害な影響を与えない十分に低い漏れ率を有する気密シールが画定される。ここでは図示しないが、ガスケット、O−リング、クランプ及びファスナといった追加の材料を必要に応じて使用し気密シールを形成してもよい。第1の固定具10の基部20の上に設置したO−リング24は締め付けの際完全に(通常その自由な直径の80%まで)圧縮され気密シールを形成する。O−リング24は通常ビトン(viton)から製造するが、ステンレス鋼、アルミニウムまたは高真空環境に適した他の材料を使用してもよい。第1の固定具10は、基部20に嵌合する透明な部分26を含む。透明な部分26はここに示すような板の形態または他の好都合な形状でよく、基部20との気密シールを形成する。透明な部分26は、ドナー32の非転写表面の上になるように配置する。
【0063】
透明な部分26は、レーザー光ビームの透過を可能にするよう入射する放射に対して透明な材料であり、両面の間の少なくとも1大気圧の圧力差に耐えるのに十分な構造である。1つの例はショット ガラス テクノロジ社(Schott Glass Technologies,Inc.)が製造する光学BK−7ガラスであり、これはレーザー光に対して光学的に透明になるよう準備されている。透明な部分26の厚さは材料の特性、圧力差、及び全体の露出面積によって決定する。
【0064】
第2の固定具12は圧力板38を含むが、これは以下明らかにする方法で第1の固定具10に位置合わせされ係合しており、ドナー32を締め付けてO−リング24を圧縮し、ドナー32の非転写表面33と透明な部分26との間の気密チャンバを形成するよう可動式である。基板34はこの締め付け処理の際にドナー32と圧力板38との間に捉えられる。圧力板38はそれによってドナー32と基板34とを第1の固定具10に締め付ける。圧力板38は鋼、アルミニウムまたは剛体のプラスチックといった剛体の材料から製造し、有機材料転写処理中±10μm以内になるよう平坦でなければならない。
【0065】
図2の第1及び第2の固定具の開いた関係は装置8を出入りするドナー32及び基板34の移送を促進する。この実施形態では、基板34は、第2の固定具12に支持されるように固定具の間に配置する。ドナー32は基板34の上に配置する。ドナー32は柔軟な支持具から形成してもよいので、剛体のフレーム30をドナー32のシートの装填及び取り出しのための支持具として必要に応じて使用してもよい。
【0066】
基板34は、ドナーからの有機材料を受け取るための表面を提供する有機固体、無機固体または有機及び無機固体の組み合わせでよい。基板34は剛体または可撓性でよく、シートまたはウェハ、または連続ロールといった独立した別個の部片として処理してよい。通常の基板材料は、ガラス、プラスチック、金属、セラミック、半導体、金属酸化物、半導体酸化物、半導体窒化物、またはそれらの組み合わせを含む。基板34は材料の均質な混合物、材料の複合体、または材料の多数の層でもよい。基板34は、例えばアクティブマトリックス低温ポリシリコンTFT基板といったOLEDデバイスを準備するため一般的に使用される基板であるOLED基板でよい。基板34は、光放出の意図した方向に応じて光透過性または不透明の何れかでよい。光透過特性は基板を通じてEL放出を見るために望ましい。この場合、透明なガラスまたはプラスチックが一般に利用される。EL放出を上部電極を通じて見る適用業務では、基板34の透過特性は重要でないので、光透過性、光吸収性または光反射性でもよい。この場合使用される基板は、ガラス、プラスチック、半導体材料、セラミックス、及び回路基板材料、または、パッシブマトリックスデバイスまたはアクティブマトリックスデバイスの何れかでよいOLEDデバイスを形成する際一般に使用される何らかの他のものを含むが、これらに制限されない。
【0067】
装置8は、真空ポンプ41によって真空下に保持した真空チャンバ39内に提供すればよい。これは、1)非接触ギャップ間の転写は真空下でより有効である、2)ドナー材料の中には酸素、水分、または他の汚染物質の影響を受けやすいものがある、といったいくつかの理由からある種の転写のため有利である。矢印16は、真空チャンバ39の外部と内部との間の圧力差によって真空チャンバ39に印加される力を表す。こうした力は場合によってはチャンバ壁の屈曲を発生し、閉位置でドナー32が上に乗る基部20の位置を変化させることがある。
【0068】
第1の固定具10は、第2の固定具12の機能の一部または全てを実行する位置に配置してもよく、第2の固定具12は第1の固定具10の機能の一部または全てを実行する位置に配置してもよいことが理解されるだろう。
【0069】
図3Aは、可動式レーザーが基板34の表面に平行な平面内を移動できる閉じた配置の上記の装置8を示す。第1の固定具10と第2の固定具12とは互いに係合するように位置合わせされ、圧力板38はドナー32を間に捉えた状態で第1の固定具10に締め付けられており、ドナー32の非転写表面33の上にチャンバ40を形成する。圧力板38は、ドナー32の上及び周囲で基部20内のO−リング24を完全に圧縮し(図3Bに詳細を示す)、ドナー32のレーザー光吸収層74をレーザー60の焦平面内に位置決めし、基板34をドナー32と正しい関係になるように位置決めする一方、チャンバ40の周囲に気密シールを形成する。基部20と透明な部分26とによって形成された気密シールと共に、チャンバ40はドナー32の非転写表面33に対する圧力の提供が可能になるように形成する。矢印18は、圧力板38に印加され圧力板38を第1の固定具10に対して締め付ける力を示すが、それによって圧力板38の屈曲が発生することがあり、それによってドナー32のレーザー光吸収層74の一部がレーザー光ビーム62の焦平面から外れることがある。また、この締め付け力は基部20の屈曲を発生することもあり、基部20が十分に剛体でない場合、圧力板38の配置ずれが発生し、レーザー光吸収層74の一部がレーザー光ビーム62の焦平面から外れることがある。
【0070】
流体供給源46及び流体通路44は、流体をチャンバ40に供給し、ドナー32と基板34との一部の間に管理された離隔が存在するかまたは基板34とドナー32とが接触するような圧力をドナー32の非転写表面33に印加する構造を提供する。矢印22は、流体がドナー32と、ひいては基板34及び圧力板38に行使する圧力を表す。この圧力のため、場合によっては圧力板38及びドナー32の屈曲または移動が発生することがあり、それによってレーザー光吸収層74の一部がレーザー光ビーム62の焦平面から外れることがある。チャンバ40を加圧する流体は、気体(例えば、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム)、液体(例えば水または液体過フッ化炭化水素)、圧力下で液化する気体(例えばフレオン)または超臨界流体(例えば二酸化炭素)でもよい。気体は好適な流体である。窒素またはアルゴンは最も好適な流体である。可動式レーザー60は例えばレーザー光ビーム62のような光のビームを発生する。レーザー60は、ドナー32のレーザー光吸収層74に対応する位置にレーザー光ビーム62を集束する少なくとも1つのレンズ64を含む。レーザー60は、OLEDデバイスを準備する際使用するため米国特許第6,582,875号でケイ(Kay)他が記載したようなマルチチャネルリニアアレイレーザーでもよい。レーザー移動機構66は、基板34の任意の点の上にレーザー60を位置決めし、ドナー32の非転写表面33の適当な部分への、透明な部分26の適当な部分を通じたレーザー光ビーム62の透過を可能にする。レーザー移動機構66は、ケイが記載したような微細位置決め機器でもよい。レーザー60は、圧力板38が基部20に完全に締め付けられた時、レーザー光ビーム62がドナー32全体にわたって移動する際レーザー光がレーザー光吸収層74に集束するように位置決めする。
【0071】
有機材料転写処理中、レーザー光吸収層74をレーザー60の焦平面に対して正しく位置決めするためには、有機材料転写処理中の初期負荷条件での過剰な屈曲を避けるよう圧力板38と基部20とを正しく設計する必要がある。こうした負荷条件は、1)チャンバ40の壁にかかる圧力差は1大気圧、2)圧力板38は第1の固定具10の基部20に対して完全に締め付けられO−リング24を完全に圧縮している、及び3)チャンバ40は十分な圧力下(通常5psiaまたはそれ未満)にある、である。これに対処するため、その開示を引用によって本出願の記載に援用する、ブラッドリー A.フィリップス(Bradley A.Phillips)他による「OLEDデバイスの層を形成するドナーからの有機材料の転写を可能にする装置(Apparatus for Permitting Transfer of Organic Material From a Donor to Form a Layer in an OLED Device)」という名称の、2001年12月12日出願の同じ譲受人に譲受された米国特許出願第10/021,410号に対するいくつかの拡張がなされている。
【0072】
レーザー光ビーム62を使用したドナー32から基板34への有機材料の材料転写を実行するため、ドナー32は、図4A及び図4Bに示すような画定された空間関係を維持しなければならない。すなわち、レーザー光吸収層74とレーザー移動平面114との間の空間関係はレーザーの焦点距離122によって画定する。通常、この距離は公称値から±35μmの公差を有する。
【0073】
図5は、装置8の通常の設計の三次元図である。真空チャンバ39の壁は50mm厚で、外形寸法は900×1020×240mmである。基部20は真空チャンバ39の上部を形成しやはり50mm厚であり透明な部分26を設置するための開口を備えている。透明な部分26は真空チャンバ39の上部に嵌合し、基部20と共に第1の固定具10を形成する。入口45を使用して基板34及びドナー32を真空チャンバ39に装填しそこから取り出す。入口45は、使用中仕切り弁(図示せず)によって閉じてもよく、通常は隣接する真空チャンバに取り付ける。
【0074】
図6は、真空チャンバ39の三次元構造変形解析の結果の三次元図を示す。この解析は、基部20に対する圧力板38の力の合計が約4000ポンドであり工具材料がステンレス鋼である上記の負荷条件下での過度の屈曲を示している。この特定の場合では、有限要素解析ソフトウェアを利用して解析を行ったが、任意の構造解析技術を使用してよい。この解析は、動作負荷条件で、基部20が入口上部47で負の‘y’方向に87μmより多く屈曲することを示した。これは許容可能な±10μmの公差より大きく、レーザー光吸収層74の位置の過度の偏差を発生する。
【0075】
ここで図7を参照すると、補強リブによって望ましくない屈曲を減少させた、本発明によって設計した真空チャンバの三次元図が示される。真空チャンバ42は入口45の上の補強リブ48を含む。解析の結果は、入口上部47に補強リブ48を追加したことによって基部20の屈曲は±6μm未満に減少したことを示した。従って、補強リブ48は、レーザー光吸収層74がレーザー光ビームの焦平面の±35μm以内にあるようにドナー32に対するレーザー60の間隔を維持する1つの方法である。
【0076】
図8は、上記に記載した同じ負荷条件に対して有限要素解析ソフトウェアによって決定した圧力板に対する同様の三次元構造変形解析の結果を示す。上記に記載したように、圧力板38は、第1の固定具10に締め付けられた後、ドナー32の位置を維持する1つの方法の役目を果たすので、レーザー60及びレーザー光ビーム62がレーザー移動機構66によって作動されドナー32全体にわたって移動する際ドナー32のレーザー光吸収層74はレーザー光ビーム62の焦平面内に維持される。この解析では、圧力板38は50mm厚のステンレス鋼であり締め付け力は各縁端に沿った中間点に印加した。この解析は、圧力板38の偏差が9μm未満であり、これは10μmの許容限度以下であることを示した。
【0077】
ここで図9を参照すると、ばねで負荷をかけた圧力板によってドナーの周囲に沿ってO−リングに均一な圧力を印加するため圧力板を設置した構造の断面図が示される。作動器50は保持ポスト52によって圧力板38に取り付けられるが、これはねじ、リベット、ボルトまたは他の固定機構でよい。ばね54は作動器50と圧力板38との間の距離を維持し、通常適当な力のレベルに事前に負荷をかけられている。保持ポスト52とばね54とは圧力板38を設置する1つの方法の役目を果たし、作動器50の位置合わせがずれている場合でも圧力板38がドナー32の周囲に沿ってO−リング24に均一な圧力を印加できるようにする。ばね54は、作動器50が最低点に達する前に全長に沿ってO−リング24を完全に圧縮する十分な力を印加する寸法でなければならない。これによって、均一な圧力が維持され、O−リング24によって形成されたシールに沿った漏れが発生しないことが保証される。通常の適用業務の場合、圧力板38から必要とされる力は4000ポンドでよい。4つのばねを使用し、ばねの自由長さが2.00インチであり、ばねの圧縮が20%であることを想定すると、ばねは約2500ポンド/インチのばね定数を備えた寸法となる。
【0078】
ここで図10を参照すると、ばねで負荷をかけた圧力板によってドナーの周囲に沿ってO−リングに均一な圧力を印加するため圧力板を設置した上記の構造の上面図が示される。
【0079】
ここで図11を参照すると、圧力板と第1の固定具との係合を制御する方法の三次元図が示される。第1の固定具10は、第1の固定具10の表面の上に設定した高さだけ突出する止めボタン80を含む。その高さは、例えばボタン80の機械加工、シムの使用、精密調整ねじの使用、または他の調整機構によって制御すればよい。有機材料転写処理中、止めボタン80は、締め付けた圧力板38の調整式の精密な位置決めと、ひいてはレーザー光吸収層74の位置決めの精密な調整を提供する。止めボタン80は、圧力板38が気密シールを形成するのに十分なだけO−リング24を圧縮するように調整しなければならない。
【0080】
破損の原因となる故障が発生しないように、透明な部分26がその厚さにかかる圧力差(通常約1大気圧)によって誘発される引張荷重に耐えるよう設計することは重要である。この適用業務の場合、通常の引張荷重はBK7のような光学ガラスの場合1000psi未満に保持すべきである。引張荷重の減少は主として、所与のウィンドウサイズに対するガラス厚さの増大、材料の特性、表面の状態及び境界(設置)の状態によって達成すればよい。ここで図12を参照すると、ある部品寸法、BK7光学ガラスの場合の材料の特性、境界(設置)の状態、及び1大気圧の圧力差を想定した透明な部分26に対する応力の三次元図が示される。この解析は有限要素解析ソフトウェアを使用して行ったが、単純な応力公式を使用して行ってもよい。この場合、引張応力は、透明な部分26の縁端90に示す上部縁端に沿った中間点と下部中央94とに特に集中していることが示されているが、1000psiの設計基準未満である。圧縮は特に中央上部92に集中している。
【0081】
また、レーザー光ビームが透明な部分26を通過する際のレーザー光ビーム62の屈折のずれはドナー32に対するレーザー光ビーム62の位置のずれを発生することがあるので、上記の圧力差によって透明な部分26に対して誘発される屈曲の量を最小化することも重要である。ここで図13を参照すると、有限要素解析ソフトウェアによって決定したような、上記で決定した応力による透明な部分の変形の三次元図が示される。透明な部分26は、決定可能な下向きの曲がりを有する。この変形は、引張応力の減少について上記で説明したように透明な部分26の厚さを増大することによって減少させることができる。
【0082】
図14Aは、本発明に係る基板34に対するドナー32の配置の1つの実施形態の断面図を示す。この実施形態では、ドナー32の転写表面35と基板34とは、非転写表面33に対して加圧流体によって行使される圧力と、基板34に対して圧力板38によって行使される圧力とによって完全に接触した状態に保持される。こうした配置によって、例えば溶融転写による有機材料の転写が可能になる。
【0083】
図14Bは、本発明に係る基板34に対するドナー32の配置の別の実施形態の断面図を示す。この実施形態では、基板34の受け表面106は、薄膜トランジスタ100が存在するため不均一である。各画素または副画素の多層構造の結果、薄膜トランジスタ100は基板34内で隆起した表面部分102によって離隔されている。これは、その開示を引用によって本出願の記載に援用する、同じ譲受人に譲受された米国特許第5,937,272号でタン(Tang)によって記載されている。隆起した表面部分102が存在することによって、非転写表面33に対して加圧流体によって行使される圧力に対するギャップ104の離隔が維持され、ドナー32と基板34との部分の間の離隔が維持される。
【0084】
また、図14Bは、光による処理によるドナー32から基板34の一部への有機材料の転写を示す。あるパターンのレーザー光ビーム62は非転写表面33を照射する。レーザー光ビーム62がレーザー光吸収層74に衝突すると熱110が発生して、レーザー光ビーム62のすぐ近くの有機材料70が熱110を吸収できるようにし、基板34への有機材料70の転写を可能にする。ドナー32に入射した光の大部分は熱に変換されるが、これはドナー32の選択的に照射した部分でしか発生しない。パターン化された転写において、有機材料70の加熱された部分の一部または全ては有機材料転写を経験する、すなわち、昇華、気化、または融除し、基板34の受け表面106上に転写された有機材料112となる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本出願に記載の装置での使用が可能なドナーの構造の1つの実施形態の断面図を示す。
【図2】本発明によって設計し真空チャンバ内に密閉した装置の断面図である。
【図3A】可動式レーザーを備えた閉じた構成の上記の装置の断面図である。
【図3B】図3Aの詳細図である。
【図4A】ドナーとレーザーとの間の空間関係を示す断面図である。
【図4B】ドナーとレーザーとの間の空間関係を示す断面図である。
【図5】本発明で使用可能な装置の通常の設計の三次元図である。
【図6】有限要素解析が過度の屈曲(視覚的に強調されている)を示す真空チャンバの三次元図である。
【図7】補強リブによって屈曲を減少させた、本発明によって設計した真空チャンバの三次元図である。
【図8】有限要素解析によって決定した圧力板の屈曲(視覚的に強調されている)の三次元図である。
【図9】本発明により均一な圧力を印加する圧力板のための設置構造の三次元図である。
【図10】圧力板を設置するための図9の設置構造の上面図である。
【図11】圧力板と第1の固定具との係合を制御する方法の三次元図である。
【図12】有限要素解析によって決定した、有機転写処理中の透明部分に対する応力負荷の三次元図である。
【図13】有限要素解析によって決定した、透明部分の屈曲(視覚的に強調されている)の三次元図である。
【図14A】基板に対するドナーの配置の1つの実施形態の断面図である。
【図14B】基板に対するドナーの配置の別の実施形態の断面図である。
【符号の説明】
【0086】
8 装置
10 第1の固定具
12 第2の固定具
16 矢印
18 矢印
20 基部
22 矢印
24 O−リング
26 透明な部分
30 剛体のフレーム
32 ドナー
33 非転写表面
34 基板
35 転写表面
38 圧力板
39 真空チャンバ
40 チャンバ
41 真空ポンプ
42 真空チャンバ
44 流体通路
45 入口
46 流体供給源
47 入口上部
48 補強リブ
50 作動器
52 保持ポスト
54 ばね
60 レーザー
62 レーザー光ビーム
64 レンズ
66 レーザー移動機構
70 有機材料
72 支持材
74 レーザー光吸収層
80 止めボタン
90 縁端
92 中央上部
94 中央下部
100 薄膜トランジスタ
102 隆起した表面部分
104 ギャップ
106 受け表面
110 熱
112 転写された有機材料
114 レーザー移動平面
118 接触表面
120 基板支持面
122 レーザーの焦点距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つかそれ以上のOLEDデバイス上に有機材料の層を形成するためドナーから基板への有機材料の転写を可能にする装置であって、前記ドナーがレーザー光吸収層と熱転写性有機材料を備えた層とを含み、
a)光のビームを発生する可動式レーザーと、前記ドナー中の前記レーザー光吸収層に対応する位置に該光ビームを集束する少なくとも1つのレンズとを提供する手段と、
b)前記基板と前記ドナーとの一部の間が離隔するかまたは前記基板と前記ドナーが接触するかの何れかとなり、有機材料が前記基板の一部に転写されるようなお互いに対するある関係に前記ドナーと前記基板とを支持するよう配置した第1の固定具と、
c)前記第1の固定具に位置合わせされ係合する圧力板を含む第2の固定具であって、前記ドナーが前記圧力板上に支持され前記圧力板が前記ドナーと前記基板とを前記第1の固定具に締め付けるよう可動式であり前記ドナーの非転写表面に対してチャンバを形成する第2の固定具と、
d)前記基板に対する前記ドナーの位置決めを保証するよう前記ドナーの前記非転写表面に圧力を印加するため前記チャンバに流体を供給する手段と、
e)透明な部分を通じた前記ドナーの前記非転写表面への前記レーザー光ビームの透過を可能にするような前記ドナーの前記非転写表面に対するある関係に配置された該透明な部分を含む前記第1の固定具と、
f)前記レーザー光吸収層が前記レーザー光ビームの焦平面の±35μm以内にあるように前記ドナーに対する前記レーザーの間隔を維持する手段であって、前記基板への有機材料の転写を発生させる熱の吸収を可能にするため前記レーザー光ビームが前記ドナー全体にわたって移動する際前記レーザー光が前記レーザー光吸収層に集束するよう前記レーザーが位置決めされる手段とを備える装置。
【請求項2】
前記流体が気体または液体である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記レーザー光吸収層が、有機材料の転写を発生させる熱を生じるためスペクトルの所定の部分の放射を吸収することができる放射吸収材料を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
さらに、前記ドナーが前記圧力板によって前記第1の固定具に締め付けられた後前記ドナーの位置を維持する手段を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記維持手段が、前記圧力板が前記第1の固定具に締め付けられる時圧縮される前記第1の固定具上に設置されたO−リングを含む、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記放射吸収材料が、有機材料のパターン化された転写を発生するように選択されたパターン化された層の形態である、請求項3に記載の装置。
【請求項7】
さらに、真空チャンバを含み、前記装置が該真空チャンバ内に提供される、請求項3に記載の装置。
【請求項8】
前記ドナーがシート中に形成される、請求項3に記載の装置。
【請求項9】
前記維持手段が、前記ドナーの周囲に沿って前記O−リングに均一な圧力を印加する前記圧力板を設置する手段を含む、請求項5に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【公表番号】特表2007−504621(P2007−504621A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525361(P2006−525361)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/027417
【国際公開番号】WO2005/027236
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】