説明

OTX2標的細胞を特異的にターゲティングするためのポリペプチド

本発明は、ホメオタンパク質Otx2標的細胞への興味対象分子の特異的ターゲティングを可能にするポリペプチドに関する。これらのポリペプチドは、一般配列:B1B2X1B3B4X2B5X3X4X5X6B6X7X8X9 (配列番号1)(式中:B1、B2、B3、B4、B5及びB6は独立して、アルギニン又はリジンであり、X1及びX8は独立して、アスパラギン又はグルタミンであり、X2は、アスパラギン酸又はグルタミン酸であり、X3、X4及びX6は独立して、スレオニン又はセリンであり、X5は、フェニルアラニン、チロシン又はトリプトファンであり、X7は、アラニン又はグリシンを表し、X9は、ロイシン、イソロイシン又はバリンである)で規定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホメオタンパク質Otx2標的細胞、特に網膜神経節ニューロン及び網膜双極ニューロンへの興味対象分子の特異的ターゲティングを可能にするポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
網膜は、眼の背後を覆う細胞シートである。これは、光エネルギーを捕捉して、それを神経シグナルに変換する役割を有する種々のタイプのニューロンと、グリア細胞も含む。
概略的に、網膜は、3つの主なニューロン層を含む:光受容ニューロン(錐体及び杆体)、双極ニューロン及び神経節ニューロン。その他のニューロン、すなわちアマクリンニューロン及び水平ニューロンは、調節性の役割を有する。光受容ニューロンは、光に反応し、それらが生じるシグナルを、双極ニューロンにより神経節ニューロン(この軸索が視神経の神経線維を構築する)へ伝達し、脳へ情報を送達する。
網膜ニューロンの変性は、種々の網膜症と関係する。つまり、光受容ニューロンの変性は、ある種の病変状態、例えば色素性網膜炎又は黄斑変性と関係する。その他の病変状態、例えば緑内障において、神経節ニューロンが主に影響を受ける。
【0003】
Otx2 (オルトデンティクルホモログ2(Orthodenticle homolog 2))は、ビコイド型ホメオドメインを含むホメオタンパク質である(Simeoneら、Embo J、12、2735〜47、1993)。これは、Otxホメオタンパク質ファミリーに属し、胚形成中の脳の発達において基本的な役割を有する(Acamporaら、Prog Neurobiol、64、69〜95、2001; Simeoneら、Curr Opin Genet Dev、12、409〜15、2002)。
【0004】
以前の研究中に、本発明者らのチームは、網膜神経節ニューロンの生存に対するホメオタンパク質Otx2 (オルトデンティクルホモログ2)の正の効果を示した。これらの結果は、PCT出願WO/2009/106767に報告されている。
Otx2 (オルトデンティクルホモログ2)は、ビコイド型ホメオドメインを含むホメオタンパク質である(Simeoneら、Embo J、12、2735〜47、1993)。これは、Otxホメオタンパク質ファミリーに属し、胚形成中の脳の発達において基本的な役割を有する(Acamporaら、Prog Neurobiol、64、69〜95、2001; Simeoneら、Curr Opin Genet Dev、12、409〜15、2002)。Otx2が、大脳皮質の出生後の発達、特にその可塑性において役割を有することも示されている。網膜で合成されるOtx2は、視覚皮質に輸送され、ここで視覚皮質のパルブアルブミンニューロンにより取り込まれ、そのことによりそれらの成熟を誘導し、まず可塑性の臨界期の開始、そしてそのいくらか後に終了を導く(Sugiyamaら、Cell、134、508〜20、2008)。
【0005】
可塑性の臨界期は、限定された期間の時間間隔(動物の種及び関与する感覚機能によって変動する)で表される出生後発達の段階であり、この間に、感覚刺激が、対応する大脳領域の機能組織を改変できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、研究を続けるうちに、網膜において、Otx2が、神経節ニューロン及び双極ニューロンと特異的に結合することを見出し、この結合を担うOtx2の領域を同定した。本発明者らは、この同じ領域が、これらのニューロンを取り囲むコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのペリニューロナルネットと相互作用することにより、視覚皮質のパルブアルブミンニューロンにOtx2をターゲティングさせることも担うこと、そして、パルブアルブミンニューロンにより取り込まれた内因性Otx2タンパク質と競合することにより、この取り込みを阻害することを可能にすることも示した。この阻害は、これらのニューロンを未成熟状態に戻すことを導き、可塑性の臨界期を再開することを可能にする。
【0007】
Otx2をその標的細胞にターゲティングさせることを担う領域は、15アミノ酸のペプチド配列で構成される。本発明者らは、単離されたこのポリペプチドが、Otx2タンパク質全体と同じ結合特異性を有することにも注目した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の主題は、配列B1B2X1B3B4X2B5X3X4X5X6B6X7X8X9 (配列番号1)
(式中:
B1、B2、B3、B4、B5及びB6は独立して、アルギニン又はリジンを表し;
X1及びX8は独立して、アスパラギン又はグルタミンであり;
X2は、アスパラギン酸又はグルタミン酸を表し;
X3、X4及びX6は独立して、スレオニン又はセリンを表し;
X5は、フェニルアラニン、チロシン又はトリプトファンを表し;
X7は、アラニン又はグリシンを表し;
X9は、ロイシン、イソロイシン又はバリンを表す)
で規定される単離された細胞ターゲティングポリペプチドである。
このポリペプチドは、網膜細胞の存在下で、神経節ニューロン及び双極ニューロンと特異的に結合する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の好ましい実施形態は、
- アミノ酸B1、B3、B4、B5及びB6の少なくとも1つがアルギニンであり、かつ/又は
- B2がリジンであり、かつ/又は
- アミノ酸X1及びX8の少なくとも1つがグルタミンであり、かつ/又は
- X2がグルタミン酸であり、かつ/又は
- アミノ酸X3、X4及びX6の少なくとも1つがスレオニンであり、かつ/又は
- X5がフェニルアラニンであり、かつ/又は
- X7がアラニンであり、かつ/又は
- X9がロイシンである
ポリペプチドである。
本発明による細胞ターゲティングポリペプチドのある特に好ましい実施形態によると、これは、以下の配列:RKQRRERTTFTRAQL (配列番号2)で規定される。
【0011】
本発明によるポリペプチドを構成するアミノ酸は、L型の天然アミノ酸であり得る。これらのアミノ酸の全て又はいくつかをD型の異性体で置き換えて、インビボでのポリペプチドの安定性を増加させることもできる。L型又はD型のアミノ酸は、適切であれば、その配列を上に示す配列番号1の配列又は配列番号2の配列の逆配列に従って連結することもできる。
【0012】
本発明の主題は、本発明による細胞ターゲティングポリペプチドの、興味対象の積荷をOtx2標的細胞に特異的にターゲティングさせることを可能にするための使用でもある。
Otx2標的細胞の例として、すでに上述した網膜神経節ニューロン及び網膜双極ニューロンに加えて、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンのペリニューロナルネットで覆われたニューロンが挙げられ、これは、特に、特に視覚皮質にあるパルブアルブミンを発現するニューロン(PVニューロン)を含む。その他のOtx2標的細胞は、中脳のニューロン、特に黒質及び腹側被蓋野のドーパミン作動性ニューロンと、それらのシナプス標的である。
その他のOtx2標的は、例えば本発明によるターゲティングポリペプチドを標識と組み合わせ、該標識化ポリペプチドを、試験される組織又は器官の試料と接触させ、該試料中の、該ポリペプチドと結合する細胞の存在又は不在と、該ポリペプチドと結合する細胞が存在する場合は、それらの位置とを検出することにより、本発明によるターゲティングポリペプチドにより容易に同定できる。
【0013】
全般的な用語「積荷」は、標的細胞を標的にすることが望まれる任意の分子又は分子複合体のことをいう。
本発明による細胞ターゲティングポリペプチドにより輸送できる積荷は、非常に多様な性質のものであり得る。これらは、化学分子、巨大分子、例えばタンパク質若しくは核酸、或いは粒子、例えばリポソーム、ナノ粒子、又はウイルス若しくはウイルス様粒子であり得る。これらは、組織若しくは器官においてOtx2標的細胞を検出及び/又は局在化することを可能にすることを意図する標識、又はOtx2標的細胞を特異的に標的にすることが望まれる有効成分であり得る。
【0014】
興味対象の積荷を標的細胞にターゲティングさせることだけでなく、積荷を該細胞に侵入させることも望まれる場合、本発明による細胞ターゲティングポリペプチドは、トランスデューサポリペプチドを有利に随伴できる。
トランスデューサポリペプチドは、特定の輸送体又は受容体の存在とは独立して生存細胞の内部に透過する能力を与える「伝達ドメイン」とよばれる配列を含むポリペプチドである。
非常に多数のトランスデューサポリペプチドが、それ自体で公知である。限定しない例として、ホメオドメインの第3ヘリックスに由来するポリペプチドであるペネトラチン;HIV1のTatタンパク質、特に該タンパク質の48〜60のフラグメントに由来するポリペプチド;ポリアルギニン;HSVのVP22タンパク質に由来するポリペプチド;核局在化配列とコンジュゲートしたシグナル配列に由来するポリペプチド;神経ペプチドの部分と、ガラニンと、スズメバチ毒ポリペプチドとの融合体に由来するトランスポータント(transportans)が挙げられる。
【0015】
本発明の主題は、本発明による細胞ターゲティングポリペプチドとトランスデューサポリペプチドとを含む単離ポリペプチドでもある。
このポリペプチドは、ホメオドメイン全体と、該ホメオドメインにすぐ先行する2アミノ酸とを含むOtx2の単離フラグメントであり得る。このフラグメントは、本発明によるターゲティング配列とホメオドメインの少なくとも第3ヘリックスとが維持されることを条件として、ホメオドメインの配列の一部分が欠失していてもよい。
【0016】
ポリペプチドは、本発明による細胞ターゲティングポリペプチドに異種トランスデューサポリペプチドを連結したキメラポリペプチドであってもよい。この関係において、好ましいトランスデューサポリペプチドは、ペネトラチンファミリーのものである。このことにより、本発明による細胞ターゲティングポリペプチドが、ホメオドメインの第3ヘリックスを少なくとも含む、Otx2以外のホメオタンパク質のホメオドメインフラグメントを、又は例えばPCT出願WO 00/01417若しくはWO 00/29427に記載されるもののようなペネトラチン誘導体を連結することが可能である。
【0017】
本発明の主題は、積荷と結合された本発明による細胞ターゲティングポリペプチドを、所望によりトランスデューサポリペプチドを随伴させて含む組成物でもある。
本発明による細胞ターゲティングポリペプチドと積荷との間の結合は、特に問題の積荷の性質及び構想される使用形態に応じて、それ自体公知の種々の方法により行うことができる。一般的に、細胞ターゲティングポリペプチド(所望により、トランスデューサポリペプチドと融合される)は、積荷を、適切である場合にはスペーサアームにより、例えばペプチドリンカーにより共有的に随伴する。これらは、イオン又は疎水性相互作用により非共有的に随伴してもよい。この場合、ターゲティングポリペプチドは、積荷と非共有結合できる分子と結合してよい。この分子は、PCT出願WO 04/069279に記載されるような1つ以上の疎水性ドメインを有する積荷と疎水性相互作用により結合できる、特にペネトラチンのようなトランスデューサポリペプチドであり得る。
【0018】
本発明による組成物のある特定の実施形態によると、上記の組成物は、積荷を構成する1つ以上のポリペプチド配列と、所望によりトランスデューサポリペプチドと結合した本発明による細胞ターゲティングポリペプチドを含むキメラポリペプチドの形態にある。細胞ターゲティングポリペプチドと、トランスデューサポリペプチドと、積荷を構成するポリペプチド配列とが配置される順序は、不可欠なものでない。
本発明によるキメラポリペプチドの非限定的な例として、本発明による細胞ターゲティングポリペプチドと、トランスデューサポリペプチドと、1つ以上の転写調節配列及び/又は1つ以上の翻訳調節配列とを含むキメラポリペプチドが挙げられる。用語「キメラポリペプチド」は、本明細書において、その通常の意味で、異なる起源の配列が連結したポリペプチドのことをいうために用いられ、よって、天然のOtx2タンパク質は除外される。
【0019】
多くの転写調節配列又は翻訳調節配列が、それ自体で知られている。
例えば、以下のものが挙げられる:
- 例えばHSVウイルス(ヘルペス単純ウイルス)のVP16トランス活性化因子のような転写活性化配列;
- 例えばエングレイルド(Engrailed) (例えばキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)のエングレイルドのアミノ酸1〜298に対応する(GenBank AAA65478))のもののような転写抑制配列;
- 例えばOtx2を含む多くのホメオタンパク質で検出されるeIF4E結合部位(概説として、Topisirovic及びBorden、Histol. Histopathol.、20、1275〜1284、2005を参照されたい)のような転写調節(特に活性化)配列。
【0020】
本発明によるキメラポリペプチドは、それ自体で公知の種々の方法、特にペプチド合成又は従来の遺伝子工学技術により得ることができる。
細胞ターゲティングポリペプチドと、トランスデューサポリペプチドと、1つ以上の転写調節配列及び/又は1つ以上の翻訳調節配列とを含む本発明によるキメラポリペプチドは、天然Otx2タンパク質と同じ用途において、特にOtx2標的細胞の生存を増加させるために用いることができる。よって、これらは、特に緑内障及び種々の眼の、遺伝的又は血管性の神経障害、例えば色素性網膜炎若しくは視神経損傷に関与する、網膜神経節ニューロン及び/又は網膜双極ニューロンの変性を予防或いは治療するために、特に用いることができる。これらは、あるいくつかの神経変性疾患(例えばアルツハイマー病、多発性硬化症又はパーキンソン病)の治療の関係においても用いることができる。一般的に、これらのキメラポリペプチドは、PCT出願WO 2009/106767においてOtx2について記載されるものと同じ態様に従う上記の用途において用い得る。
【0021】
本発明を行うためには、上記のキメラポリペプチドを標的細胞と接触させることが必要である。これは、実際に、トランスデューサポリペプチドによりもたらされる内在化配列により、該細胞の内部に透過する。好ましくは、この接触は、0.5〜10 nM、有利には1〜5nM、特に有利には1.5〜3nMの上記のキメラポリペプチドの濃度で行われる。
インビトロでは、上記のキメラポリペプチドをニューロン培養培地に加えることが必要である。インビボでは、これを、種々の経路で、局所的に、特に注射又は注入により硝子体液若しくは眼窩下空間へ、又は洗眼剤若しくは眼軟膏剤の形態で投与できる。これは、例えば眼内インプラントの形態で、制御放出デバイスを用いて投与することもできる。適切であれば、これは、例えば静脈内注射により全身的に投与できる。
【0022】
標的細胞との接触において所望の濃度を得るためのインビボで投与されるキメラポリペプチドの用量は、特に、構想される投与方法に応じて当業者が容易に決定して調整できる。
【0023】
この接触は、標的細胞を、上記のキメラポリペプチドを発現するか又は過剰発現して、分泌するように形質転換された細胞の存在下に置くことにより行うことができる。インビトロでは、このことは、これらの形質転換細胞を、細胞と共培養することにより行うことができる。インビボでは、上記のキメラポリペプチドを発現するか又は過剰発現して、分泌するように形質転換された細胞を、例えば網膜に移植できる。
適切であれば、上記のキメラポリペプチドを、1つ以上のその他の治療活性成分と、共同又は別々の投与において組み合わせることもできる。
【0024】
本発明による細胞ターゲティングポリペプチドは、Otx2がその標的細胞、特にコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのペリニューロナルネットで覆われたパルブアルブミンニューロンと結合することを阻害して、それらの可塑性を回復することを可能にするために用いることもできる。これらは、よって、問題の標的細胞を含む脳の領域の、可塑性の臨界期中の発達欠陥に起因する疾患の治療のために用いることができる。例えば、これらは、弱視の治療の関係において、又は神経疾患若しくは精神疾患、例えば不安障害、外傷後ストレス障害及び躁うつ病若しくは統合失調症の治療の関係において用いることができる。これらは、病変状態又はニューロンの喪失を導く脳卒中における身体的及び形態的な可塑性の回復の関係においても用いることができる。
【0025】
Otx2がその標的細胞と結合することを阻害するために、本発明による細胞ターゲティングポリペプチドは、該標的細胞との接触の際に、Otx2の濃度よりも少なくとも10倍高い、好ましくは100〜1000倍高い上記のポリペプチドの濃度を得る様な様式で用いられる。典型的には、上記のポリペプチドは、1〜10μM、有利には10〜100μM、特に有利には100〜1000μMの濃度で用い得る。
【0026】
Otx2がその標的細胞と結合することを阻害するためのインビボでの使用のために、上記のターゲティングポリペプチドは、好ましくは、例えば脳に移植された浸透圧ミニポンプにより局所的に投与される。
標的細胞との接触の際に所望の濃度を得るためにインビボで投与されるキメラポリペプチドの用量は、特に、構想される投与方法に応じて当業者が容易に決定して調整できる。
【0027】
本発明による細胞ターゲティングポリペプチドは、Otx2標的細胞と特異的に結合できるその他の分子のスクリーニングのために用いることもできる。
この関係において、本発明の主題は、Otx2と同じ結合部位にてOtx2標的細胞と特異的に結合できる分子をスクリーニングする方法であって:
- 本発明による細胞ターゲティングポリペプチドを、Otx2標的細胞、Otx2と結合しない細胞、及び各試験分子と接触させるステップと、
- 上記の細胞ターゲティングポリペプチドがOtx2標的細胞と結合することを阻害でき、Otx2と結合しない細胞と結合しない分子を選択するステップと
を含むことを特徴とする方法である。
有利には、上記の方法は、Otx2標的細胞と、Otx2と結合しない細胞との両方の存在下で、例えば網膜の切片にて行われる。
【0028】
本発明は、本発明によるターゲティングポリペプチドの同定及びそのターゲティング特異性の証明を示す非限定的な実施例に言及する以下のさらなる記載により、より明確に理解される。
【実施例】
【0029】
実施例1:OTX2を、網膜神経節ニューロン及び網膜双極ニューロンに標的にさせる配列の同定
以前の実験の間に(2009年1月9日の出願PCT/FR2009/000031を参照)、眼に注射したOtx2が、網膜神経節ニューロン(RGC)に実質的に濃縮されることが見出された。
細胞ターゲティングドメインがOtx2の配列中に存在するかどうかを調べるために、Otx2タンパク質全体又はこのタンパク質の種々のフラグメントと結合したアルカリホスファターゼドメインを含むキメラタンパク質を構築した。
以下の融合タンパク質を構築した:
- アルカリホスファターゼ-全Otx2 (AP-Otx2)
- アルカリホスファターゼ-Otx2のC末端領域+ホメオドメイン(AP-Ct-Otx2)
- アルカリホスファターゼ-Otx2のN末端領域+ホメオドメイン(AP-Nt-Otx2)
- アルカリホスファターゼ-Otx2のホメオドメイン(AP-Hd-Otx2)。
【0030】
ヒトOtx2タンパク質又は試験されるフラグメントをコードする配列を、ベクターpAPtag-5 (GenHunter)に、アルカリホスファターゼをコードする配列とインフレームでクローニングした。作製した種々の構築物を、図1に模式的に示す。
【0031】
図1の凡例:シグナル配列:アルカリホスファターゼのシグナル配列;アルカリホスファターゼ:アルカリホスファターゼ、Nt:Otx2のN末端領域(アミノ酸1〜37);Hd:Otx2のホメオドメイン(アミノ酸38〜97);Ct:Otx2のC末端領域(アミノ酸98〜289);6×His:ポリヒスチジンタグ。
【0032】
直径10 cmの培養皿で培養したHEK 293細胞に、予め精製した、構築した各ベクター10μgを、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を製造業者の使用説明に従って用いて形質移入した。形質移入細胞を48時間、10%胎児ウシ血清(FCS)を補ったDMEM/F12中でインキュベートした。上清を回収し、100×gで5分間遠心分離し、-80℃で貯蔵した。この上清を精製せずに、網膜区画へのキメラタンパク質の結合を試験するために用いる。
【0033】
結合試験を行うために、凍結新鮮網膜の低温保持切片(20μm)を8分間、100%冷却エタノール中で固定し、次いで、4mMのMgCl2を含むホスフェートバッファー(PBS)中で3回洗浄する。
切片を、PBSバッファー、4mM MgCl2及び10% FCS中で1時間、室温(RT)にてインキュベートする。
結合のために、試験される融合タンパク質を含む上清を、PBSで1/20に希釈し、室温にて2時間インキュベートする。
次いで、切片をPBS、4mM MgCl2中で5回洗浄し、結合したリガンドを、次いで、2分間固定する(60%アセトン、4% PFA、20 mM Hepes、pH7)。
PBSで3回洗浄した後に、切片を65℃に2時間、PBS中で加熱して、内因性ホスファターゼを不活性化する。切片を、次いで、PBSで2回洗浄した後に、アルカリホスファターゼ活性を視覚化する(切片を5分間、100 mM Tris、pH 9.5、100 mM NaCl、5mM MgCl2でプレインキュベートし、その後、NBT/BCIP (Promega)を加える)。
【0034】
AP-Nt-Otx2及びAP-Hd-Otx2融合タンパク質を用いて得られた結果を、図2に示す。
図2の凡例:
A:AP-Nt-Otx2融合タンパク質を用いて得られた標識。
B:AP-Hd-Otx2融合タンパク質を用いて得られた標識。
CP:網膜色素上皮の細胞;Cb:双極細胞;RGC:神経節細胞。
【0035】
これらの結果は、Otx2のN末端ドメイン及びそのホメオドメインを含む融合タンパク質がRGC及び双極細胞と特異的に結合するが、ホメオドメインだけを含む融合タンパク質は、いずれの網膜細胞とも結合しないことを示す。
【0036】
Otx2のN末端ドメインの種々のフラグメント+ホメオドメイン部分に相当するビオチン付加ペプチドを合成し、上記のようにして調製した網膜の切片とのその結合を試験した。網膜の切片とのペプチドのインキュベーションは、上記と同じ条件で行い、次いで、結合したペプチドを有する切片を、アルカリホスファターゼ標識ストレプトアビジンとインキュベートして、上記のようにしてアルカリホスファターゼ活性を検出した。
配列RKQRRERTTFTRAQL (配列番号2)に相当する、試験したペプチドの1つ(RK-Otx2)は、AP-Otx2及びAP-Nt-Otx2融合タンパク質と同じ結合特異性を有する。
【0037】
次いで、このポリペプチドに変異を創出した。2つの塩基性アミノ酸(RK)を2つの中性アミノ酸(AA)に交換し、よって、配列AAQRRERTTFTRAQL (配列番号3)に相当するある変異体(AA-Otx2)は、網膜細胞とのいずれの結合も阻害しない。
これらの結果を、図3に示す。
図3の凡例:
A:RK-Otx2ペプチドを用いて得られた標識。
B:AA-Otx2ペプチドを用いて得られた標識。
CP:網膜色素上皮の細胞;Cb:双極細胞;RGC:神経節細胞。
【0038】
これらの結果は、RK-Otx2ペプチドが、AP-Nt-Otx2と同様に、神経節細胞及び双極細胞と結合することを示す。一方、AA-Otx2ペプチドを用いては結合が観察されない。RKジペプチドがRAで置き換えられている別のペプチド(RA-Otx2)は、神経節細胞及び双極細胞と弱く結合するだけである(結果は示さず)。
【0039】
RK-Otx2ペプチドが実際にAP-Nt-Otx2と同じ結合特異性を有することを確かめるために、AP-Nt-Otx2の結合を拮抗するRK-Otx2及びAA-Otx2ポリペプチドの能力を試験した。網膜の区画とのAP-Nt-Otx2の結合についての試験は、AP-Nt-Otx2を含有する上清のインキュベーションを、2μg/mlのRK-Otx2ペプチド又はAA-Otx2ペプチドの存在下で行った以外は上記のようにして行った。
【0040】
結果を、図4に示す。
図4の凡例:
A:RK-Otx2ペプチドの存在下でのAP-Nt-Otx2の結合。
B:AA-Otx2ペプチドの存在下でのAP-Nt-Otx2の結合。
CP:網膜色素上皮の細胞;Cb:双極細胞;RGC:神経節細胞。
これらの結果は、RK-Otx2ペプチドが、双極細胞及び神経節細胞とのAP-Nt-Otx2の結合を遮断するが、AA-Otx2ペプチドはこの結合に対して影響を有さないことを示す。
【0041】
実施例2:細胞ターゲティング配列を含むOTX2フラグメントと異種転写活性化ドメインとが連結したキメラポリペプチドの、網膜神経節ニューロンの生存に対する影響
Otx2が、網膜神経節ニューロンを、N-メチル-D-アスパルテート(NMDA)の毒性の影響に対して保護することが以前に示された(2009年1月9日の出願PCT/FR2009/000031を参照)。
Otx2のN末端ドメイン及びそのホメオドメイン(Otx2のアミノ酸1〜97)を、ヘルペスウイルスのVP16トランス活性化因子ドメイン(MLGDGDSPGPGFTPHDSAPYGALDMADFEFEQMFTDALGIDEYGG、配列番号4)と融合することにより、キメラポリペプチドを遺伝子的に構築して細菌合成により生成した。
【0042】
C57 Bl6マウスの右目に、1mMのNMDA又は30 ngのキメラポリペプチドを補った1mMのNMDAのいずれかを含有する1μlの注射用バッファー(PBS又は9‰NaCl)を与え、左目に、添加物のない同じ容量の注射用バッファーを与えた。
神経節ニューロンの生存を、網膜において神経節ニューロンで特異的に発現される転写因子であるBrain 3A (Brn3A)の発現レベルを測定することにより決定した(Xiangら、J. Neurosci., 15, 4762〜4785、1995)。
4日後に、動物を犠牲にし、網膜を回収し、そこからmRNAを抽出する。
Brn3A mRNAの発現レベルを、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)遺伝子を参照遺伝子として用いる定量RT-PCRにより決定し、右目と左目とのBrn3A mRNAの発現の比を算出した。
【0043】
結果を、図5に示す。用いた添加物をx軸に沿って示す。右目と左目とのBrn3A mRNAの量(HPRT mRNAに対して標準化した)の比率を、y軸に沿って示す。
これらの結果は、単独で投与されたNMDAが、神経節ニューロンの量を著しく低下させ(およそ60%)、30 ngのキメラポリペプチドの添加が、NMDAの毒性の影響に対して神経節ニューロンを効果的に保護することを示す。
【0044】
実施例3:大脳皮質の標的細胞とのOTX2の結合
AP-Otx2、AP-Nt-Otx2、AP-Hd-Otx2及びAP-HdAA-Otx2融合タンパク質(AP-Nt-Otx2は、RKアミノ酸ダブレットがAAダブレットで置き換えられたAP-Nt-Otx2のバリアントである)の、単独(1/20に希釈した培養上清)、或いはOtx2全体(1μg/ml)又はRK-Otx2若しくはAA-Otx2ペプチド(2μg/ml)の存在下での大脳皮質の細胞との相互作用を、成体マウス脳の低温保持切片において、上記の実施例1に記載するプロトコルを用いて試験した。
【0045】
結果を、図6に示す。
図6の凡例:A〜D、尺度バー500μm;(A) AP-Nt-Otx2;(B) AP (アルカリホスファターゼ単独);(C) 全Otx2の存在下でのAP-Nt-Otx2;(D) AP Hd-Otx2;E〜H、尺度バー100μm;(E) AP-Nt-Otx2;(F) AP-HdAA-Otx2;(G) RK-Otx2の存在下でのAP-Nt-Otx2;(H) AA-Otx2の存在下でのAP-Nt-Otx2。
これらの結果は、AP-Nt-Otx2が、視覚皮質のものを含む皮質細胞と結合するが、一方、AP、AP-Hd-Otx2又はAP-HdAA-Otx2を用いて結合が観察されないことを示す。さらに、Otx2全体及びRK-Otx2は、AA-Otx2はそうではないが、標的細胞とのAP-Nt-Otx2の結合を遮断する。
【0046】
グリコサミノグリカン(GAGs)、特にコンドロイチン硫酸プロテオグリカンは、細胞外基質の必須の構成要素(ペリニューロナルネット)であり、これは、視覚皮質のパルブアルブミンニューロンを取り囲む。ペリニューロナルネットの設置は、可塑性の臨界期の最後と同時である。これは、この臨界期の最後に発生する皮質可塑性の喪失における主要な因子を構成し、コンドロイチナーゼ-ABCで処理することによるこのペリニューロナルネットの破壊が、この可塑性の回復を可能にすることが示されている(Pizzorussoら、Science、298、1248〜51、2002)。
【0047】
パルブアルブミンニューロンと関連するペリニューロナルネットが、AP-Nt-Otx2とその標的細胞との間の結合に関与するかどうかを決定するために、AP-Otx2の結合を、メタノールで固定した成体マウス脳の低温保持切片で試験し、次いで、50 mM Tris [pH 8.0]、40 mMの酢酸ナトリウム、0.1% BSA及びプロテアーゼ阻害剤を含むバッファー中のコンドロイチナーゼABC (2U/ml)の存在下で24時間インキュベートした。これと並行して、コンドロイチナーゼABCで処理したか又は処理していない切片を、ペリニューロナルネットのGAGと結合する、FITCで標識された0.01 mg/ml のフジ(Wisteria floribunda)アグルチニンレクチン(WFA; Sigma-Aldrich)とインキュベートした。
【0048】
結果を、図7に示す。
図7の凡例:(A)及び(B) WFAでの標識;(C)及び(D) AP-Otx2の存在下でのインキュベーション;(A)及び(C)未処理切片;(B)及び(D)コンドロイチナーゼABCで処理した切片。
これらの結果は、ペリニューロナルネットのGAGを破壊するコンドロイチナーゼABCでの処理が、AP-Nt-Otx2の結合も消失させることを示す。
よって、AP-Nt-Otx2結合部位を有しているのは、パルブアルブミンニューロンと関連するペリニューロナルネットのGAGであると考えられる。
【0049】
実施例4:RK-OTX2ペプチドによる、OTX2の内因性移動のインビボ遮断
上記のように、RK-Otx2ペプチドは、その標的細胞とのOtx2の結合をインビトロで遮断できる。この効果がインビボでも発生するかどうかを試験した。
この目的のために、RK-Otx2ペプチド(0.25 mg/ml)、AA-Otx2ペプチド(0.25 mg/ml)又はPBSバッファーをポリシアル酸(0.25 mg/ml、ペプチドの拡散を可能にし、その表面でポリシアル酸を発現するニューロンとのペプチドの非特異的結合を回避するため)と組み合わせて、成体マウスの右視覚皮質に7日間にわたって、定位的に移植したカニューレと連結した浸透圧ミニポンプ(Alzet 1003D, Alza)を用いてゆっくりと注入した(1μl/時間) (Henschら、Science、282、1504〜8、1998; Fagiolini及びHensch、Nature、404、183〜6、2000)。注入の最後に、マウスに4% PFAを潅流し、脳切片(25μm)を切り取って、Otx2及びRK-Otx2ペプチドの局在を研究する。Otx2は、1/200に希釈したラット抗Otx2モノクローナル抗体(Sugiyamaら、Cell、134、508〜20、2008)、その後、1/2000に希釈したAlexa 488標識ロバ抗ラット抗体(Molecular Probes)を用いて視覚化する。RK-Otx2ペプチドは、Cy5で標識したストレプトアビジンを用いて視覚化する。
Otx2を発現する細胞を、視覚皮質の両眼領域のII/III及びIV層を含む700×350μmの表面積にわたって計数した。
【0050】
結果を、図8に示す。
図8の凡例:
A〜E:RK-Otx2の注入(尺度バー=100μm)。
A、B:RK-Otx2ペプチドの検出;A:対照半球;B:注入した半球。
C、D:Otx2の検出;C:対照半球;D:注入した半球。
E:Otx2を発現する細胞の定量;黒色のバー:対照半球;灰色のバー:注入した半球。
F〜J:AA-Otx2の注入(尺度バー=100μm)。
F、G:AA-Otx2ペプチドの検出;A:対照半球;B:注入した半球。
H、I:Otx2の検出;H:対照半球;I:注入した半球。
J:Otx2を発現する細胞の定量;黒色のバー:対照半球;灰色のバー:注入した半球;*p<0.005、対応のあるスチューデントのt検定;誤差バーは、平均の標準誤差を表す。
【0051】
これらの結果は、RK-Otx2ペプチドを視覚皮質に7日間にわたって注入することは、Otx2を発現する細胞の数を有意に低減することを示す。一方、AA-Otx2ペプチドの場合、Otx2を発現する細胞の数の小さいわずかな低減だけが観察される。
【0052】
Sytox緑色標識により、注入が、細胞の数に対してそれ自体では影響しなかったことが確認された。Otx2を発現する細胞の数の低減が細胞死によるものでないことを確実にするために、このペプチドの注入を、上記のプロトコルに従って行い、Otx2を発現する細胞の数を、注入の終了の8日後に測定した。これらの条件下では、非常に少量のRK-Otx2ペプチドだけが注入の終了の8日後に検出され、処置半球におけるOtx2を発現する細胞の数は、対照半球のもののレベルに回復する。
【0053】
実施例5:RK-OTX2ペプチドによる皮質可塑性の回復
眼の皮質の可塑性に対するRK-Otx2ペプチドの影響を、この可塑性を回復できることが知られているコンドロイチナーゼ-ABCのものと比較した(Pizzorussoら、Science、298、1248〜51、2002)。
RK-Otx2ペプチド又はAA-Otx2ペプチドを、実施例4に記載されるようにして成体マウス(よって、可塑性の臨界期の終了後)に注入した。コンドロイチナーゼ-ABC又は注射用バッファー(脱イオン水+0.1% BSA)を、視覚皮質を取り囲む3つの部位(APラムダ、LM 1.5 mm; APラムダ、4.0 mm; AP + 1.5 mm; LM 2.5 mm)に、2つの異なる深さ(300及び500μm)で注射した(各注射0.4μl)。
【0054】
ペプチドの注入又はコンドロイチナーゼABCの注射の後に、マウスを4日間の単眼遮断に供し、次いで、視覚刺激に対する応答を、単一ニューロン細胞外電気生理により測定する。電気生理記録は、標準的な技術を用いてネンブタール/クロルプロチキセン麻酔の下で行う(Gordon及びStryker、J Neurosci、16、3274〜86、1996; Matagaら、Neuron、44、1031〜41、2004)。5〜7回の単一ニューロン記録を各マウスについて、一次視覚皮質の中央側方軸の両側で行って、単眼領域と両眼領域をカバーし、サンプリングの偏りを回避した。7点分類システム(Wiesel及びHubel、J Neurophysiol、26、978〜93、1963)を用いて、細胞優位性スコアを細胞応答に割り当てた(Gordon及びStryker、J Neurosci、16、3274〜86、1996)。両眼領域での眼球優位性を、以下のようにして決定した対側性偏り指数(CBI)に従って各マウスについて算出した:
(CBI): [(n1-n7)+2/3(n2-n6) + 1/3(n3-n5) + N]/2N
(式中、N = 全細胞数、nx = xの眼球優位性スコアに対応する細胞数)。
一方又は他方の眼に有利な偏りのこの加重平均は、完全同側性優位性についての0から、完全対側性優位性についての1までの範囲であり得る。
【0055】
さらに、処置マウス脳の前頭部切片を、実施例4に記載するようにして調製して、パルブアルブミンニューロンに対するRK-Otx2ペプチドの影響を決定した。切片は、実施例3に記載されるようなWFA、又はマウス抗パルブアルブミンモノクローナル抗体(1/500、Sigma-Aldrich)(これは、Cy3標識ロバ抗マウス抗体を用いて視覚化した)のいずれかを用いて標識した。標識細胞は、実施例4に記載されるようにして定量した。
【0056】
結果を、図9に示す。
図9の凡例:
A:RK-Otx2ペプチド(RK)若しくはAA-Otx2ペプチド(AA)の注入後、又はコンドロイチナーゼABC(chABC)の注射後、又は注射用バッファー単独(Veh)の注射後の対側性偏り指数。
B〜E:RKペプチドを注入した半球(C及びE)、及び注入していない半球の視覚皮質の顆粒上領域(supragranular region)におけるWFAでの標識(B及びC)及びパルブアルブミンの発現(D及びE) (尺度バー= 100μm)。
F:RK-Otx2ペプチド(RK)又はAA-Otx2ペプチド(AA)の注入後のWFAで標識した細胞及びパルブアルブミンを発現する細胞の定量;黒色のバー:対照半球;灰色のバー:注入した半球;*p<0.05、対応のあるスチューデントのt検定;誤差バーは、平均の標準誤差を表す。
【0057】
これらの結果は、単眼遮断が、コンドロイチナーゼABCで処置したもの(chABC)と同様に、しかし注射用バッファー又はAA-Otx2ペプチドで処置したマウスとは異なって、RK-Otx2ペプチドで処置した成体マウスにおいて眼球優位性を誘導する(0.7から0.57への対側性偏り指数の減少)ことを示す。
【0058】
これと並行して、RK-Otx2ペプチドの注入(しかし、AA-Otx2ペプチドの注入はそうでない)は、WFAの結合のための部位及びパルブアルブミンのための部位の発現も減少させる。パルブアルブミン陽性細胞数は56.2%減少し、WFAの結合のための部位により取り囲まれる細胞数は、51.3%減少する。
これらの結果から、RK-Otx2ペプチドによるOtx2移動の遮断は、パルブアルブミン発現の阻害と、コンドロイチナーゼABCにより引き起こされるものと同様にペリニューロナルネットの破壊とを引き起こすことが明らかになる。このことは、臨界期中に通常観察されることと同様に、パルブアルブミンニューロンが未成熟状態に戻ることをもたらし、この未成熟状態は、臨界期を再開し、それと関連する可塑性を回復することを可能にする。
【図2A】

【図2B】

【図3A】

【図3B】

【図4A】

【図4B】

【図5】

【図6A】

【図6B】

【図6C】

【図6D】

【図6E】

【図6F】

【図6G】

【図6H】

【図7A】

【図7B】

【図7C】

【図7D】

【図1】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列B1B2X1B3B4X2B5X3X4X5X6B6X7X8X9 (配列番号1)
(式中:
B1、B2、B3、B4、B5及びB6は独立して、アルギニン又はリジンを表し;
X1及びX8は独立して、アスパラギン又はグルタミンを表し;
X2は、アスパラギン酸又はグルタミン酸を表し;
X3、X4及びX6は独立して、スレオニン又はセリンを表し;
X5は、フェニルアラニン、チロシン又はトリプトファンを表し;
X7は、アラニン又はグリシンを表し;
X9は、ロイシン、イソロイシン又はバリンを表す)
で規定され、
網膜細胞の存在下におかれたときに、神経節ニューロン及び双極ニューロンと特異的に結合する
ことを特徴とする細胞ターゲティングポリペプチド。
【請求項2】
- アミノ酸B1、B3、B4、B5及びB6の少なくとも1つがアルギニンであり、かつ/又は
- B2がリジンであり、かつ/又は
- アミノ酸X1及びX8の少なくとも1つがグルタミンであり、かつ/又は
- X2がグルタミン酸であり、かつ/又は
- アミノ酸X3、X4及びX6の少なくとも1つがスレオニンであり、かつ/又は
- X5がフェニルアラニンであり、かつ/又は
- X7がアラニンであり、かつ/又は
- X9がロイシンである
ことを特徴とする請求項1に記載の細胞ターゲティングポリペプチド。
【請求項3】
以下の配列:RKQRRERTTFTRAQL (配列番号2)で規定されることを特徴とする請求項2に記載の細胞ターゲティングポリペプチド。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞ターゲティングポリペプチドと、トランスデューサポリペプチドとを含むポリペプチド。
【請求項5】
興味対象の積荷と結合した請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリペプチドを含む組成物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリペプチドと、積荷を構成する1つ以上のポリペプチドとを含むキメラポリペプチドで構成されることを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記キメラポリペプチドが
- 請求項4に記載のポリペプチドと、
- 1つ以上の転写調節配列及び/又は1つ以上の翻訳調節配列を含む積荷と
を含むことを特徴とする請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチドの、興味対象の積荷をOtx2標的細胞にインビトロで特異的にターゲティングさせるための使用。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチドの、興味対象の積荷をOtx2標的細胞に特異的にターゲティングさせることを可能にする診断又は治療目的の組成物を製造するための使用。
【請求項10】
請求項4に記載のポリペプチドの、興味対象の積荷をOtx2標的細胞にインビトロで特異的にターゲティングさせ、前記積荷を前記細胞に内在化させるための使用。
【請求項11】
請求項4に記載のポリペプチドの、興味対象の積荷をOtx2標的細胞に特異的にターゲティングさせ、前記積荷を前記細胞に内在化させることを可能にする診断又は治療目的の組成物を製造するための使用。
【請求項12】
請求項7に記載の組成物の、Otx2標的細胞の生存をインビトロで増加させるための使用。
【請求項13】
請求項7に記載の組成物の、Otx2標的細胞の変性を予防又は治療するための医薬品を製造するための使用。
【請求項14】
前記Otx2標的細胞が、網膜神経節ニューロン又は網膜双極ニューロンであることを特徴とする請求項8〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチドの、弱視、不安障害、外傷後ストレス障害、躁うつ病及び統合失調症から選択される疾患の治療用の、パルブアルブミンニューロンとのOtx2の結合を阻害する医薬品の製造のための使用。

【公表番号】特表2012−515194(P2012−515194A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545779(P2011−545779)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【国際出願番号】PCT/FR2010/000045
【国際公開番号】WO2010/081975
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【出願人】(505429980)
【氏名又は名称原語表記】ECOLE NORMALE SUPERIEURE
【住所又は居所原語表記】45,rue d’Ulm,F−75230 Paris Cedex 05,FRANCE
【Fターム(参考)】