説明

OmpTプロテアーゼ変異体を用いたポリペプチドの切断方法

ポリペプチド中の所望する切断部位に係るP1位がアルギニン又はリジンであり、P1’位がアスパラギン酸、グルタミン酸又はプロリン以外であり、P10位からP3位まで又はP3’位からP5’位までのアミノ酸配列中の任意の部位に1つの塩基性アミノ酸又は2つ若しくは3つの塩基性アミノ酸を連続して配し(但し、1つの塩基性アミノ酸を配する場合、P6又はP4位を除く)、OmpTプロテアーゼ又はそのN末端から97番目のアミノ酸を置換した変異酵素を用いて当該ポリペプチド中の所望する切断部位で切断することを特徴とするポリペプチドの切断方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は大腸菌が有するOmpTプロテアーゼ又はその変異体を利用して生理活性ペプチド、タンパク質及びそれらの誘導体を融合タンパク質から直接切出す方法に関する。詳細には大腸菌成熟型OmpTプロテアーゼを用いる融合タンパク質の切断において、切断部位のP3位、P4位及びP5位に塩基性アミノ酸を配することにより当該切断部位のP1位とP1’位の間のペプチド結合における切断率を上昇させる方法、更に、OmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸を置換してそのP1’位に対する基質特異性を改変した変異体を用い、P1’位のアミノ酸がアルギニン又はリジン以外である場合においても融合タンパク質から生理活性ペプチド、タンパク質及びそれらの誘導体を効率よく遊離、生産する方法に関する。
【背景技術】
大腸菌OmpTプロテアーゼは大腸菌外膜画分に存在し、主に塩基性アミノ酸対の間のペプチド結合を選択的に切断するプロテアーゼである。この大腸菌OmpTプロテアーゼのアミノ酸配列と相同性を有し且つプロテアーゼ活性を有するあるいは有すると推定されるタンパク質は、Salmonella、Yersinia、Shigella等の腸内細菌にも見出されており、これら一群のタンパク質はomptin familyと称されている。
大腸菌OmpTプロテアーゼは分子量約33500である。Sugimura等はOmpTプロテアーゼについて、基質特異性を調べ、本酵素がアルギニン−アルギニン、リジン−リジン、アルギニン−リジン及びリジン−アルギニンの塩基性アミノ酸対の中央のペプチド結合を特異的に切断する酵素であることを報告している(Sugimura,K.and Nishihara,T.J.Bacteriol.170:5625−5632,1988)。
しかしながら本酵素は全ての塩基性アミノ酸対を切断するわけではなく、むしろその特異性は高い。例えばヒトガンマインターフェロンには塩基性アミノ酸対が10箇所存在するが、それらのうちで2箇所のみが切断される(Sugimura,K.and Higashi,N.J.Bacteriol.170:3650−3654,1988)。これは基質であるヒトガンマインターフェロンの立体構造や塩基性アミノ酸対周辺の酵素が認識すると思われる部位のアミノ酸配列の影響によると思われる。
本明細書においてはSchechterとBergerの表記方法(Schechter,I.and Berger,A.Biochem.Biophys.Res.Commun.27:157−162,1967)に従って基質のアミノ酸の位置を表記した。即ち、Pn…P2−P1−P1’−P2’…Pn’においてP1位とP1’位の間のペプチド結合が切断部位であり、アミノ酸は1文字あるいは3文字表記とし、↓を切断部位とした。
例えば、アミノ酸配列−ロイシン−チロシン−リジン−アルギニン−ヒスチジン−のリジンとアルギニンの間で切断される場合(−Leu−Tyr−Lys↓Arg−His−)、ロイシンがP3位、チロシンがP2位、リジンがP1位、アルギニンがP1’位、ヒスチジンがP2’位のアミノ酸となる。
更に、切断部位及びその周辺アミノ酸配列にアミノ酸置換を導入して切断を受けなくなった場合又は新たな切断部位が生じる場合においても、特に断りのない限り、もとの配列上の対応するアミノ酸の位置としてこれらを用いることとする。
これまでに塩基性アミノ酸対以外のアミノ酸配列におけるOmpTプロテアーゼ切断部位も見出されており、DekkerらはAla−Arg−Arg−Ala(P2−P1↓P1’−P2’)のアミノ酸配列からなるOmpTプロテアーゼ基質にアミノ酸置換を導入した基質を用いて、OmpTプロテアーゼが切断部位のP1位のアミノ酸として塩基性アミノ酸であるアルギニン及びリジンに対して高い特異性を示す一方で、P1’位のアミノ酸に関しては寛容であることを報告している(Dekker,N.et al.Biochemistry 40:1694−1701,2001)。
本発明者らも、尿素存在ポリペプチド変性条件下において本酵素が切断できる融合タンパク質のP1’位にアミノ酸置換を導入した融合タンパク質を基質に用いて、P1’位のアミノ酸がアスパラギン酸、グルタミン酸、及びプロリン以外のアミノ酸である場合に切断されることを見出している(Okuno,K.et al.Biosci.Biotechnol.Biochem.66:127−134,2002、特願2000−602803)。但し、これらの場合において切断効率はP1’位アミノ酸残基がアルギニン又はリジンである場合と比較して低い。
切断部位周辺配列に対する特異性に関してはP2位又はP2’位に酸性アミノ酸を配した場合に切断を受けなくなることが示されている(Dekker,N.et al.Biochemistry 40:1694−1701,2001)。
更に、本発明者らはP4位又はP6位に塩基性アミノ酸であるアルギニン又はリジンを配した場合に切断効率が増加し、逆に酸性アミノ酸であるアスパラギン酸又はグルタミン酸を配した場合にはそれが減少することを報告している(Okuno,K.et al.Biotechnol.Appl.Biochem.36:77−84,2002、特願2000−602803)。
その他の切断部位周辺配列に対する特異性に関しては明らかとなっていないがOmpTプロテアーゼは塩基性の高い抗菌ペプチドであるプロタミンを切断すること(Stumpe,S.et al.J.Bacteriol.180:4002−4006,1998)、プロテアーゼ活性に関わるOmpTプロテアーゼ菌体外ドメインに酸性アミノ酸が多く存在すること(Vandeputte−Rutten,L.et al.EMBO J.20:5033−5039,2001)からOmpTプロテアーゼと基質間の相互作用には電荷による作用が重要であろうと推測される。
OmpTプロテアーゼの応用面に関して、切断部位に対する特異性の高さ、更には大腸菌外膜に存在しているプロテアーゼであることより、本プロテアーゼは遺伝子組換え技術で作製した融合タンパク質から目的ポリペプチドを遊離させる際にプロセッシング酵素として用いられている。
Hankeらは大腸菌を用いたコレステロールエステラーゼの分泌生産にあたり、それを大腸菌ヘモリシンAタンパク質と融合させて菌体外に分泌させた後、外膜に存在しているOmpTプロテアーゼを作用させて融合タンパク質から活性あるコレステロールエステラーゼを得ることに成功している。彼らは、アルギニン−リジンの配列を持つリンカーを配し、この配列をOmpTプロテアーゼで切断している。(Hanke,C.et al.Mol.Gen.Genet.233:42−48,1992)。
また、本発明者等はOmpTプロテアーゼが変性剤に対して抵抗性があることを見出し、この性質を利用することで封入体として発現された融合タンパク質を変性剤の存在下で切断できることを示した。即ち、大腸菌発現系で封入体としてStaphylococcus aureus V8プロテアーゼ誘導体融合タンパク質を発現し、それを尿素により可溶化した後、尿素存在下でOmpTプロテアーゼを働かせ、融合タンパク質からV8プロテアーゼ誘導体部分を遊離し、リフォールディングを行ない、酵素活性を有するV8プロテアーゼ誘導体を生産することに成功している(Yabuta,M.et al.Appl.Microbiol.Biotechnol.44:118−125,1995)。
通常、融合タンパク質から目的ポリペプチドあるいは目的タンパク質を遊離させる際には、アミノ酸配列に対する特異性の高い酵素がプロセッシング酵素としてよく用いられている。それらに使われるプロテアーゼには、Xa因子、トロンビン、エンテロキナーゼ等が知られているが、これらの酵素は哺乳類を起源とする酵素であり、その供給量は低く、コストが高いため、融合タンパク質法によるペプチド及びタンパク質の工業的大量処理には適していない。更には目的ポリペプチド、タンパク質を医薬品として用いる際には、酵素に由来するウイルス汚染及び狂牛病の原因因子である変性プリオンタンパク質の汚染についても考慮することが必要である。
OmpTプロテアーゼは大腸菌に起源を持つことから、プロセッシング酵素として用いるとき供給量、コスト及び安全性の面において前述の酵素より優れていることは明白である。また、OmpTプロテアーゼは封入体中にも存在するため融合タンパク質を封入体として発現させる場合には尿素などの変性剤により融合タンパク質を溶解するだけで作用する。更に、OmpTプロテアーゼは大腸菌外膜に存在するため菌体そのものを反応系に添加することによりOmpTプロテアーゼ反応を行なうことができる(Grodberg,J.and Dunn,J.J.J.Bacteriol.170:1245−1253)。
医薬品製造などの工業的ペプチド生産において大腸菌で生産された融合タンパク質をプロセッシングして目的ポリペプチドを得る際に用いるプロテアーゼの多くは大腸菌由来ではないために精製して使用する必要がある。そのため精製を必要とせず、大腸菌菌体そのもの、外膜画分の添加あるいは封入体溶解のみでOmpTプロテアーゼをプロセッシングプロテアーゼとして使用することはポリペプチド生産コストの大幅な改善に寄与する。しかし従来大腸菌OmpTプロテアーゼを用いた融合タンパク質のプロセッシングにおいて遊離されてくるポリペプチドのN末端アミノ酸は一部の例外を除きリジンあるいはアルギニンであるものに限られていた。
OmpTプロテアーゼの有用性は大きいが、本発明以前は、OmpTプロテアーゼを融合タンパク質の切断酵素として用いる場合、切断部位及びその周辺のアミノ酸配列をどのようにデザインすれば意図する部位で特異的且つ効率的な切断が可能なのかということに関する知見は限られていた。そのため、効率的に切断可能な目的ポリペプチドのN末端アミノ酸の種類は限定されていた。従って、得ることのできる目的ポリペプチドの種類が制限されるあるいは、たとえ切断可能であっても効率的な切断が行えないという問題が生じていた。
【特許文献1】特願2000−602803
【非特許文献1】Sugimura,K.and Nishihara,T.J.Bacteriol.170:5625−5632,1988
【非特許文献2】Sugimura,K.and Higashi,N.J.Bacteriol.170:3650−3654,1988
【非特許文献3】Schechter,I.and Berger,A.Biochem.Biophys.Res.Commun.27:157−162,1967
【非特許文献4】Dekker,N.et al.Biochemistry 40:1694−1701,2001
【非特許文献5】Okuno,K.et al.Biosci.Biotechnol.Biochem.66:127−134,2002
【非特許文献6】Okuno,K.et al.Biotechnol.Appl.Biochem.36:77−84,2002
【非特許文献7】Stumpe,S.et al.J.Bacteriol.180:4002−4006,1998
【非特許文献8】Vandeputte−Rutten,L.et al.EMBO J.20:5033−5039,2001
【非特許文献9】Hanke,C.et al.Mol.Gen.Genet.233:42−48,1992
【非特許文献10】Yabuta,M.et al.Appl.Microbiol.Biotechnol.44:118−125,1995
【非特許文献11】Grodberg,J.and Dunn,J.J.J.Bacteriol.170:1245−1253,1988
【発明の開示】
本発明においては上記の問題点を克服し、プロセッシング酵素としてOmpTプロテアーゼ若しくはその変異体を利用してあらゆる種類の目的ポリペプチドを融合タンパク質から効率的且つ特異的に遊離する方法、即ち、目的ポリペプチドのN末端アミノ酸をP1’位アミノ酸残基として融合タンパク質のP1−P1’の1箇所のみを効率よく切断させることを本発明の課題とする。
上述の課題に対し本発明者らは、OmpTプロテアーゼの切断部位及びその周辺アミノ酸配列を更に調べ、新たな切断方法や認識・切断配列を見出せれば、上記のこれらの制限を解決することができ、本酵素が融合タンパク質のプロセッシング酵素として更に有用となると考えた。また、OmpTプロテアーゼ自体に部位特異的変異を導入して基質特異性が野生型と異なるOmpTプロテアーゼ変異体を作製し、これを利用することも可能であると考えた。
そこで本発明者らは、OmpTプロテアーゼの基質認識及び切断には切断部位周辺のアミノ酸配列が重要であることから、既知の切断部位を利用し、切断部位及びその周辺アミノ酸配列を検討することにより新たな基質特異性を見い出し、これを融合タンパク質の切断に応用するために鋭意検討を行なった。
本発明において「OmpTプロテアーゼ」とは、シグナルペプチドが除かれた後の大腸菌由来の成熟型OmpTプロテアーゼ又は当該OmpTプロテアーゼ以外のOmpTプロテアーゼ活性を有するタンパク質(OmpT様プロテアーゼ)を意味する。OmpT様プロテアーゼとしては、(1)Yersinia pestis plasminogen activator、(2)Salmonella typhimurium E protein、(3)Escherichia coli及び(4)Shigella flexneri SopA等が挙げられる。
本発明において「OmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体」とは、上記OmpTプロテアーゼの97番目のアスパラギン酸(Asp97)を他のアミノ酸で置換したOmpTプロテアーゼ変異体又は上記OmpT様プロテアーゼのアミノ酸配列中で上記OmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸に相当するアミノ酸を置換した変異体(OmpT様プロテアーゼ97番相当アミノ酸変異体)を意味する。
OmpTプロテアーゼの97番目のアスパラギン酸を置換する他のアミノ酸としては、例えば、アラニン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸又はヒスチジンを挙げることができる。また、OmpT様プロテアーゼ97番相当アミノ酸変異体としては、上記OmpT様プロテアーゼのうち、(1)Yersinia pestis plasminogen activatorについては117位(シグナルペプチドを含む全アミノ酸配列におけるN末端からのアミノ酸残基の数で示した。
OmpTの場合同様にシグナルペプチドを含んだアミノ酸残基数で示すと97番目アミノ酸は117位となる)のアスパラギン酸を、(2)Salmonella typhimurium E proteinについては134位のアスパラギン酸を、(3)Escherichia coli OmpPについては117位のアスパラギン酸を、及び(4)Shigella flexneri SopAについては117位のアスパラギン酸を例えばアラニン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸又はヒスチジンに置換したもの等が挙げられる。
本発明において「目的ペプチド」とは、最終的に得たいペプチドのみならず、融合タンパク質からOmpTプロテアーゼ等で切断後、更に修飾反応や切断反応を受ける製造中間体(所謂、前駆体ペプチド)をも含む意味で用いられる。
本発明において「保護ペプチド」とは、目的ペプチドとリンカーペプチドを介して融合タンパク質を構成するペプチドであって、リンカーペプチドをも含む意味で用いられる。
本発明において「所望する切断部位」とは、ポリペプチド中の任意の部位、保護ペプチドとリンカーペプチドを介して融合した目的ペプチドからなる融合タンパク質におけるリンカーペプチドのC末端と目的ペプチドのN末端との間の部位又は当該リンカーペプチド中の任意の部位を意味する。
本発明の主な主題は以下の(1)〜(4)の事項に関する。:
(1)ポリペプチド中の所望する切断部位に係るP1位がアルギニン又はリジンであり、P1’位がアスパラギン酸、グルタミン酸又はプロリン以外であり、P10位からP3位まで又はP3’位からP5’位までのアミノ酸配列中の任意の部位に1つの塩基性アミノ酸又は2つ若しくは3つの塩基性アミノ酸を連続して配し(但し、1つの塩基性アミノ酸を配する場合、P6又はP4位を除く)、OmpTプロテアーゼを用いて当該ポリペプチド中の所望する切断部位で切断することを特徴とするポリペプチドの切断方法、及び当該切断方法を用いて融合タンパク質から目的ペプチドを得ることを特徴とする目的ペプチドの製造方法、
(2)OmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体を用いてポリペプチド中の所望の切断部位で切断することを特徴とするポリペプチドの切断方法、及び当該切断方法を用いて融合タンパク質から目的ペプチドを得ることを特徴とする目的ペプチドの製造方法、
(3)ポリペプチド中の所望する切断部位に係るP1位がアルギニン又はリジンであり、P1’位がアルギニン又はリジン以外であり、P10位からP3位まで又はP3’位からP5’位までのアミノ酸配列中の任意の部位に1つの塩基性アミノ酸又は2つ若しくは3つの塩基性アミノ酸を連続して配することからなる上記(2)に記載の方法、
(4)OmpTプロテアーゼ又はOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体を用いてポリペプチド中の所望する切断部位で切断することからなるポリペプチドの切断方法であって、当該ポリペプチド中に上記プロテアーゼによる切断を所望しない部位が存在する場合、当該部位に係るP3位に酸性アミノ酸を配することにより当該部位における切断を抑制することを特徴とするポリペプチドの切断方法、及び当該切断方法を用いて融合タンパク質から目的ペプチドを得ることを特徴とする目的ペプチドの製造方法。
上記(1)については、OmpTプロテアーゼの切断部位の好ましくはP10位からP3位(但し、P6又はP4位の1箇所のみを塩基性アミノ酸で置換した場合を除く)、特に好ましくはP5位からP3位のアミノ酸を塩基性アミノ酸に置換することにより切断率が増加するという新しい知見に基づいている。しかしながら、連続する塩基性アミノ酸の間のペプチド結合をOmpTが切断しやすいという性質があるためP5位からP3位に連続する塩基性アミノ酸を配した場合、これらの部位のペプチド結合がOmpTにより切断されてしまう。
ところが3連続するアルギニンに対するOmpTの切断率は2連続する場合に比べて減少するという既知の性質を用いて、P5位からP3位に3連続するアルギニンを配した場合にはP5位からP3位のアルギニンの間での切断を抑えることができた。すなわちこれにより所望の部位での切断(P1位とP1’位のアミノ酸の間での切断)を促進し、所望しない部位での切断(P5位からP3位のアミノ酸の間での切断)を抑制することができた。
以上のことから、切断所望部位のP3位、P4位及びP5位に塩基性アミノ酸(好ましくは、アルギニン)を配したアミノ酸配列を所望のポリペプチド中に設計し、当該ポリペプチド中の所望する切断部位のP1’位が従来のアルギニン又はリジンの場合のみならず、アスパラギン酸、グルタミン酸又はプロリンを除くその他のアミノ酸の場合にもOmpTプロテアーゼにより非常に効率的に切断を行なえることを見出した。
更に当該方法は、目的ポリペプチドを含む融合タンパク質を大腸菌宿主で製造させ、大腸菌が本来持っている又は遺伝子工学的に導入したOmpTプロテアーゼで融合タンパク質から所望する切断部位のP1’位からC末端側に配されたN末端アミノ酸がアスパラギン酸、グルタミン酸又はプロリン以外である目的ポリペプチドを切出す場合に特に都合がよい。
また、上記(2)及び(3)については、OmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸を特定のアミノ酸に置換した場合、OmpTプロテアーゼでは切断することができない切断部位においても実際に切断できることを見出したことは、目的ペプチドの製造において当該ペプチドのN末端アミノ酸の種類を多様に選択できるので非常に有用性が高い。特に、融合タンパク質を用いた目的ペプチドの製法において、融合タンパク質に係るリンカー配列を−Arg−Arg−Arg−Ala−Arg−目的ペプチドと設計し、且つOmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアスパラギン酸を特に好ましくはロイシン、メチオニン又はヒスチジンに置換したプロテアーゼ変異体をプロセッシングプロテアーゼとして利用することにより遊離されてくるポリペプチドのN末端アミノ酸がリジンあるいはアルギニンであるもの以外でも効率よく且つ特異的に遊離を可能にすることができる。
本願に係る実施例においては大腸菌由来OmpTプロテアーゼの変異体を用いた融合タンパク質の切断を実施したが、OmpTプロテアーゼ以外のOmpTプロテアーゼ活性を有するもの又はそのアミノ酸配列中でOmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸に相当するアミノ酸を置換した変異体を用いて融合タンパク質を切断することも十分に可能であると考えられる。
更に、上記(4)については、ポリペプチド又は融合タンパク質中にOmpTプロテアーゼ及びその変異体による切断を所望しない部位が存在する場合、当該部位に係るP3位に酸性アミノ酸を配することにより当該部位における切断を抑制することを見出した。この知見は特に融合タンパク質から目的ペプチドを得る際の融合タンパク質の設計において有用であり、目的ペプチドの製造を非常に効率よく行なうことができる。
更に具体的には本発明は以下の事項に関する。:
(1)ポリペプチド中の所望する切断部位に係るP1位がアルギニン又はリジンであり、P1’位がアスパラギン酸、グルタミン酸又はプロリン以外であり、P10位からP3位まで又はP3’位からP5’位までのアミノ酸配列中の任意の部位に1つの塩基性アミノ酸又は2つ若しくは3つの塩基性アミノ酸を連続して配し(但し、1つの塩基性アミノ酸を配する場合、P6又はP4位を除く)、OmpTプロテアーゼを用いて当該ポリペプチド中の所望する切断部位で切断することを特徴とするポリペプチドの切断方法。
(2)所望する切断部位を介してC末端がアルギニン又はリジンである保護ペプチドと融合したN末端がアスパラギン酸、グルタミン酸又はプロリン以外である目的ペプチドからなる融合タンパク質中の当該切断部位に係るP10位からP3位まで又はP3’位からP5’位までのアミノ酸配列中の任意の部位に1つの塩基性アミノ酸又は2つ若しくは3つの塩基性アミノ酸を連続して配し(但し、1つの塩基性アミノ酸を配位する場合、P6又はP4位を除く)、上記切断部位がOmpTプロテアーゼにより切断されうる切断部位である融合タンパク質をコードする遺伝子を有する発現プラスミドにより宿主細胞を形質転換し、当該細胞内において上記遺伝子を発現させ、上記切断部位において上記プロテアーゼで切断されることにより融合タンパク質から目的ペプチドを得ることを特徴とする目的ペプチドの製造方法。
(3)ポリペプチド中又は融合タンパク質中にOmpTプロテアーゼによる切断を所望しない部位が存在する場合、当該部位に係るP3位に酸性アミノ酸を配することにより当該部位における切断を抑制することからなる上記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)ポリペプチド中又は融合タンパク質中の所望する切断部位に係るP10位〜P3位の間に2又は3連続して塩基性アミノ酸を配することからなる上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5)ポリペプチド中又は融合タンパク質中の所望する切断部位に係るP5位〜P3位に3連続して塩基性アミノ酸を配することからなる上記(4)に記載の方法。
(6)塩基性アミノ酸がアルギニン及び/又はリジンである上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7)塩基性アミノ酸がアルギニンである上記(6)に記載の方法。
(8)OmpTプロテアーゼを用いて、ポリペプチド中の所望する切断部位で切断することからなるポリペプチドの切断方法又は融合タンパク質中の所望する切断部位で切断することからなる目的ペプチドの製造方法であって、当該ポリペプチド中又は当該融合タンパク質中にOmpTプロテアーゼによる切断を所望しない部位が存在する場合、当該部位に係るP3位に酸性アミノ酸を配することにより当該部位における切断を抑制することを特徴とする当該方法。
(9)酸性アミノ酸がアスパラギン酸である上記(3)〜(8)のいずれか1項に記載の方法。
(10)ポリペプチド中又は融合タンパク質中の所望する切断部位に係るP5位からP1位までのアミノ酸配列がArg−Arg−Arg−Ala−Argである上記(1)〜(9)のいずれか1項に記載の方法。
(11)ポリペプチド中又は融合タンパク質中の所望する切断部位に係るP7位からP1位までのアミノ酸配列がAsp−Ala−Arg−Arg−Arg−Ala−Argである上記(1)〜(9)のいずれか1項に記載の方法。
(12)OmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸が、アラニン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸又はヒスチジンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体を用いてポリペプチド中の所望の切断部位で切断することを特徴とするポリペプチドの切断方法。
(13)ポリペプチド中の所望する切断部位に係るP1位がアルギニン又はリジンであり、P1’位がアルギニン又はリジン以外である場合に、OmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸が、アラニン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸又はヒスチジンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体を用いて当該ポリペプチド中の所望の切断部位で切断することを特徴とするポリペプチドの切断方法。
(14)ポリペプチド中の所望する切断部位に係るP1位がアルギニン又はリジンであり、P1’位がアルギニン又はリジン以外であり、P10位からP3位まで又はP3’位からP5’位までのアミノ酸配列中の任意の部位に1つの塩基性アミノ酸又は2つ若しくは3つの塩基性アミノ酸を連続して配し、OmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸が、アラニン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸又はヒスチジンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体を用いて当該ポリペプチド中の所望する切断部位で切断することを特徴とするポリペプチドの切断方法。
(15)所望する切断部位において、OmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸が、アラニン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸又はヒスチジンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体により切断されうる切断部位を介して保護ペプチドと融合した目的ペプチドからなる融合タンパク質をコードする遺伝子を有する発現プラスミドにより宿主細胞を形質転換し、当該細胞内において上記遺伝子を発現させ、上記切断部位において上記プロテアーゼで切断されることにより融合タンパク質から目的ペプチドを得ることを特徴とする目的ペプチドの製造方法。
(16)所望する切断部位において、OmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸が、アラニン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸又はヒスチジンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体により切断されうる切断部位を介してC末端がアルギニン又はリジンである保護ペプチドと融合したN末端がアルギニン又はリジン以外である目的ペプチドからなる融合タンパク質をコードする遺伝子を有する発現プラスミドにより宿主細胞を形質転換し、当該細胞内において上記遺伝子を発現させ、上記切断部位において上記プロテアーゼで切断されることにより融合タンパク質から目的ペプチドを得ることを特徴とする目的ペプチドの製造方法。
(17)所望する切断部位を介してC末端がアルギニン又はリジンである保護ペプチドと融合したN末端がアルギニン又はリジン以外である目的ペプチドからなる融合タンパク質中の当該切断部位に係るP10位からP3位まで又はP3’位からP5’位までのアミノ酸配列中の任意の部位に1つの塩基性アミノ酸又は2つ若しくは3つの塩基性アミノ酸を連続して配し、上記切断部位がOmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸が、アラニン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸又はヒスチジンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体により切断されうる切断部位である融合タンパク質をコードする遺伝子を有する発現プラスミドにより宿主細胞を形質転換し、当該細胞内において上記遺伝子を発現させ、上記切断部位において上記プロテアーゼで切断されることにより融合タンパク質から目的ペプチドを得ることを特徴とする目的ペプチドの製造方法。
(18)ポリペプチド中又は融合タンパク質中にOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体による切断を所望しない部位が存在する場合、当該部位に係るP3位に酸性アミノ酸を配することにより当該部位における切断を抑制することからなる上記(12)〜(17)のいずれか1項に記載の方法。
(19)ポリペプチド中又は融合タンパク質中の所望する切断部位に係るP10位〜P3位の間に2又は3連続して塩基性アミノ酸を配することからなる上記(12)〜(18)のいずれか1項に記載の方法。
(20)ポリペプチド中又は融合タンパク質中の所望する切断部位に係るP5位〜P3位に3連続して塩基性アミノ酸を配することからなる上記(19)に記載の方法。
(21)塩基性アミノ酸がアルギニン及び/又はリジンである上記(14)、(17)〜(20)のいずれか1項に記載の方法。
(22)塩基性アミノ酸がアルギニンである上記(21)に記載の方法。
(23)OmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体を用いて、ポリペプチド中の所望する切断部位で切断することからなるポリペプチドの切断方法又は融合タンパク質中の所望する切断部位で切断することからなる目的ペプチドの製造方法であって、当該ポリペプチド中又は当該融合タンパク質中にOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体による切断を所望しない部位が存在する場合、当該部位に係るP3位に酸性アミノ酸を配することにより当該部位における切断を抑制することを特徴とする当該方法。
(24)酸性アミノ酸がアスパラギン酸である上記(18)〜(23)のいずれか1項に記載の方法。
(25)ポリペプチド中又は融合タンパク質中の所望する切断部位に係るP5位からP1位までのアミノ酸配列がArg−Arg−Arg−Ala−Argである上記(12)〜(24)のいずれか1項に記載の方法。
(26)ポリペプチド中又は融合タンパク質中の所望する切断部位に係るP7位からP1位までのアミノ酸配列がAsp−Ala−Arg−Arg−Arg−Ala−Argである上記(12)〜(24)のいずれか1項に記載の方法。
(27)OmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸が、ロイシン、メチオニン又はヒスチジンである上記(12)〜(26)のいずれか1項に記載の方法。
(28)ポリペプチド又は融合タンパク質中の所望の切断部位に係るP1’位又は目的ペプチドのN末端がセリン又はアラニンであり、97番目のアミノ酸がロイシンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体を用いる上記(12)〜(26)のいずれか1項に記載の方法。
(29)ポリペプチド又は融合タンパク質中の所望の切断部位に係るP1’位又は目的ペプチドのN末端がフェニルアラニン、アラニン、セリン、システイン又はチロシンであり、97番目のアミノ酸がメチオニンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体を用いる上記(12)〜(26)のいずれか1項に記載の方法。
(30)ポリペプチド又は融合タンパク質中の所望の切断部位に係るP1’位又は目的ペプチドのN末端がアラニン、バリン、イソロイシン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン又はアスパラギンであり、97番目のアミノ酸がヒスチジンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体を用いる上記(12)〜(26)のいずれか1項に記載の方法。
(31)目的ペプチドが22残基から45残基のアミノ酸からなるペプチドである上記(2)〜(11)、(15)〜(30)のいずれか1項に記載の方法。
(32)目的ペプチドが、副腎皮質刺激ホルモン(1−24)、モチリン又はカルシトニン前駆体である上記(31)に記載の方法。
(33)宿主細胞が大腸菌である上記(2)〜(11)、(15)〜(32)のいずれか1項に記載の方法。
(34)OmpTプロテアーゼ又はOmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸がアラニン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸又はヒスチジンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体をコードする遺伝子を発現する菌体そのものを切断用プロテアーゼとして用いることからな上記(1)〜(33)のいずれか1項に記載の方法。
(35)OmpTプロテアーゼ又はOmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸がアラニン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸又はヒスチジンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体をコードする遺伝子と当該プロテアーゼによる切断を所望するポリペプチド又は融合タンパク質をコードする遺伝子とを共発現することからなる上記(1)〜(33)のいずれか1項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
図1は、融合タンパク質PRR及びPRXの構造を示す図である。融合タンパク質PRRのアミノ酸配列の上に各アミノ酸の位置を示し、下の数字はPRRのN末端からのアミノ酸配列番号を示す。β−gal117S4Hは大腸菌のβ−ガラクトシダーゼのN末端から117アミノ酸に由来する保護タンパク質、GLP−1(7−37)はヒトグルカゴン様ペプチド−1(7−37)、Linker peptideはアミノ酸配列番号128番目のグルタミンから153番目のアルギニンまでを示す。融合タンパク質PRRでのOmpTプロテアーゼ切断部位を(黒三角)で示す。融合タンパク質PRXはPRRの141番目アルギニンをその他の19種類のアミノ酸に置換した融合タンパク質である。
図2は、融合タンパク質PAnの構造を示す図である。融合タンパク質PAのアミノ酸配列の上に各アミノ酸の位置を示し、下の数字はPAのN末端からのアミノ酸配列番号を示す。β−gal117S4Hは大腸菌のβ−ガラクトシダーゼのN末端から117アミノ酸に曲来する保護タンパク質、GLP−1(7−37)はヒトグルカゴン様ペプチド−1(7−37)、Linker peptideはアミノ酸配列番号128番目のグルタミンから153番目のアルギニンまでを示す。融合タンパク質PAでのOmpTプロテアーゼ切断部位を(黒三角)で示す。融合タンパク質PAnにおいてアミノ酸置換導入後のアルギニンを斜体太字で示す。PAnのOmpTプロテアーゼ切断部位を↓で示す。図中右に融合タンパク質PAの切断率を100%とした場合の各融合タンパク質の切断率を示す。aはArg139−Arg40での切断率も含む。bはArg141−Arg142での切断率も含む。cはArg143Ala144での切断率も含む。
図3は、融合タンパク質PA1A3’,PA1’A3’,PA23’,PA323’及びPA2’3’の構造を示す図である。融合タンパク質PA3’のアミノ酸配列の上に各アミノ酸の位置を示し、下の数字はPA3’のN末端からのアミノ酸配列番号を示す。β−gal117S4Hは大腸菌のβ−ガラクトシダーゼのN末端から117アミノ酸に由来する保護タンパク質、GLP−1(7−37)はヒトグルカゴン様ペプチド−1(7−37)、Linker peptideはアミノ酸配列番号128番目のグルタミンから153番目のアルギニンまでを示す。アルギニンは太字で示す。融合タンパク質PA3’でのOmpTプロテアーゼ切断部位を▽(切断率73%)、(黒三角)(切断率220%)で示す。融合タンパク質PA1A3’,PA1’A3’,PA23’,PA323’及びPA2’3’においてPA3’にアミノ酸置換導入後のアミノ酸を斜体で示し、OmpTプロテアーゼ切断部位を↓で示す。図中右に融合タンパク質PAの切断率を100%とした場合の各融合タンパク質のArg140−Arg141(●)とArg143−Ala144(○)での切断率を示す。NDは検出されなかったことを示す。aはArg140−Ala141での切断率を示す。bはArg139−Arg140の切断率も含む。cはArg142−Arg143での切断率も含む。
図4は、融合タンパク質PA3D23’,PA4D23’及びPA5D23’の構造を示す図である。融合タンパク質PA23’のアミノ酸配列の上に各アミノ酸の位置を示し、下の数字はPA23’のN末端からのアミノ酸配列番号を示す。β−gal117S4Hは大腸菌のβ−ガラクトシダーゼのN末端から117アミノ酸に由来する保護タンパク質、GLP−1(7−37)はヒトグルカゴン様ペプチド−1(7−37)、Linker peptideはアミノ酸配列番号128番目のグルタミンから153番目のアルギニンまでを示す。アルギニンは太字で示す。融合タンパク質PA23’での主なOmpTプロテアーゼ切断部位を(黒三角)で示す。融合タンパク質PA3D23’,PA4D23’及びPA5D23’においてPA23’にアミノ酸置換導入後のアミノ酸を斜体で示し、OmpTプロテアーゼ切断部位を↓で示す。図中右に融合タンパク質PAの切断率を100%とした場合の各融合タンパク質のArg140−Arg141(●)とArg143−Ala144(○)での切断率を示す。NDは検出されなかったことを示す。
図5は、融合タンパク質PRMT及びPMTの構造を示す図である。両融合タンパク質のアミノ酸配列上の数字はN末端からのアミノ酸配列番号を示す。β−gal117S4Hは大腸菌のβ−ガラクトシダーゼのN末端から117アミノ酸に由来する保護タンパク質、Linker peptideはPRMTではアミノ酸配列番号128番目のグルタミンから140番目のアルギニンまでを、PMTではアミノ酸配列番号128番目のグルタミンから143番目のアルギニンまでを示す。融合タンパク質PRMTの140番目のアルギニンまでのアミノ酸配列は図1に示した構造を有する融合タンパク質PRR(特願2000−602803参照)のN末端から140番目のアルギニンまでのアミノ酸配列と一致する。また、融合タンパク質PMTの143番目のアルギニンまでのアミノ酸配列は融合タンパク質PA23’(図4)のN末端から143番目のアルギニンまでのアミノ酸配列と一致する。融合タンパク質PMTのOmpTプロテアーゼによる切断部位を●で示し、OmpTプロテアーゼ変異体D97Mによる切断部位を○で示した。RAR−motilinはPMTからArg140−Arg141の切断により遊離するArg−Ala−Arg−motilinからなるポリペプチド、RRAR−motilinはPMTからArg139−Arg140の切断により遊離するArg−Arg−Ala−Arg−motilinからなるポリペプチドである。
図6は、融合タンパク質PRMT及びPMTと野生型OmpTプロテアーゼ及びOmpTプロテアーゼ変異体D97Mの反応(25℃、120分)をHPLCで解析した結果を示す。
図7は、W3110 M25 PMT及びW3110 M25 OmpT D97M発現菌の2L高密度培養における培養液OD660の経時変化を示す図である。○はW3110 M25 PMT、●はW3110 M25 OmpT D97Mである。両組換え大腸菌ともにグルコース濃度1.5%、32℃で培養を開始し、培養開始後約12時間でグルコースが枯渇した後に2%となるようにグリセロールを添加し、37℃に培養温度を変え、その後、グリセロールが枯渇するごとに同様に2%となるようにグリセロールを添加し(W3110 M25 PMT,↑;W3110 M25 OmpT D97M,↓)、W3110 M25 PMTは培養開始後24時間でW3110 M25 OmpT D97Mは20時間で培養を終了した。
図8は、融合タンパク質PMTからのOmpTプロテアーゼ変異体OmpTD97Mによるモチリン遊離の経時変化を示す。
図9において、Aは60分後の反応液をHPLCで、BはSDS−PAGEで分析した結果を示す。レーン1,PMTのみ;2,PMT+D97M;3,モチリン標準品。反応液組成:4M 尿素,50mM リン酸ナトリウム(pH7.0),2mM EDTA,PMT OD660=50,OmpT D97M OD660=16;反応温度:25℃;120min−1で振とう
図10において、Aは実施例1、3、5、7、9、16及び18で構築した融合タンパク質発現プラスミドの構造を示す。Bは実施例11で構築したOmpTプロテアーゼ又はOmpTプロテアーゼ変異体発現プラスミドの構造を示す。
図11は、融合タンパク質PAC及びPCTの構造を示す。各融合タンパク質のアミノ酸配列下の数字はN末端からのアミノ酸配列番号を示す。β−gal117S4Hは大腸菌のβ−ガラクトシダーゼのN末端から117アミノ酸に由来する保護タンパク質、Linker peptideはアミノ酸配列番号128番目のグルタミンから143番目のアルギニンまでを示す。各融合タンパク質の143番目のアルギニンまでのアミノ酸配列は融合タンパク質PA23’(図4)のN末端から143番目のアルギニンまでのアミノ酸配列と一致する。
図12は、融合タンパク質と野生型OmpTプロテアーゼ及びOmpTプロテアーゼ変異体の反応をHPLCで解析した結果を示す。PACはD97Lと10分間、PCTはD97Hと2時間、25℃で反応させた。
図13は、実施例17で構築したOmpTプロテアーゼ変異体D97M発現プラスミドの構造を示す。MCS,マルチクローニングサイト。
図14は、実施例17で作製した融合タンパク質PMTとOmpTプロテアーゼ変異体D97Mを共発現するW3110 M25形質転換大腸菌から得られた封入体を用いた融合タンパク質PMTからのヒトモチリンの遊離を示すSDS−PAGEによる分析結果である。Mr,タンパク質分子量マーカー;レーン1,反応開始後20分;2,40分;3,60分;4,120分;5,180分;6,240分;7,300分;8,360分;9,1440分(24時間);10,モチリン標準品。反応液組成:4M 尿素,50mM リン酸ナトリウム(pH7.0),2mM EDTA,封入体OD660=20;反応温度:25℃
図15は、融合タンパク質PMT、PMT6D及びPMT7Dの構造を示す図である。融合タンパク質のアミノ酸配列上の数字はN末端からのアミノ酸配列番号を示す。β−gal117S4Hは大腸菌のβ−ガラクトシダーゼのN末端から117アミノ酸に由来する保護タンパク質、Linker peptideはアミノ酸配列番号128番目のグルタミンから143番目のアルギニンまでを示す。これらの融合タンパク質の143番目のアルギニンまでのアミノ酸配列はそれぞれ融合タンパク質PA23’、PA3D23’及びPA4D23’(図4)のN末端から143番目のアルギニンまでのアミノ酸配列と一致する。それぞれの融合タンパク質のOmpTプロテアーゼ変異体D97Mによる切断部位を矢印で示した。AR−motilinはArg41−Ala142の切断により遊離するAla−Arg−motilinからなるポリペプチド、RRAR−motilinはArg139−Arg140の切断により遊離するArg−Arg−Ala−Arg−motilinからなるポリペプチドである。
図16は、融合タンパク質PMTとOmpTプロテアーゼ変異体D97Mの反応(25℃、120分)をHPLCで解析した結果を示す。括弧内の数字は融合タンパク質から生成したモチリン濃度を100とした場合の各副産物濃度を示した。
図17は、融合タンパク質PMT6DとOmpTプロテアーゼ変異体D97Mの反応(25℃、120分)をHPLCで解析した結果を示す。括弧内の数字は融合タンパク質から生成したモチリン濃度を100とした場合の各副産物濃度を示した。
図18は、融合タンパク質PMT7DとOmpTプロテアーゼ変異体D97Mの反応(25℃、120分)をHPLCで解析した結果を示す。括弧内の数字は融合タンパク質から生成したモチリン濃度を100とした場合の各副産物濃度を示した。
【発明を実施するための最良の形態】
以下本発明を詳説する。
pG117S4HompPRRはグルカゴン様ペプチド−1(7−37)(GLP−1(7−37))を含む融合タンパク質(PRR)を発現する発現プラスミドである。
本融合タンパク質の保護タンパク質は大腸菌β−ガラクトシダーゼのN末端117アミノ酸を含むβ−gal117S4Hを保護タンパク質とし、アルギニン−アルギニン配列を配した26アミノ酸よりなるリンカー配列及びGLP−1(7−37)より構成されている。大腸菌OmpTプロテアーゼはPRRのリンカー配列においてアルギニン−アルギニン配列の中央のペプチド結合を切断し、GLP−1(7−37)を含む44アミノ酸の目的ポリペプチドを遊離させることを本発明者は既に見出している(Okuno,K.et al.Biosci.Biotechnol.Biochem.66:127−134,2002)。
次に本発明者は融合タンパク質(PRR)を基にP1位とP1’位がアルギニン、これらの部位以外のP10位からP5’位のアミノ酸をすべてアラニンに置換した融合タンパク質であるPAを作製した。
更に、この融合タンパク質PAを出発として各部位のアラニンを1箇所ずつアルギニンに置換した融合タンパク質(PAn)を作製して、OmpTプロテアーゼ切断部位周辺に塩基性アミノ酸であるアルギニンを配することによるOmpTプロテアーゼ切断への影響を検討した。
その結果、切断部位周辺アミノ酸配列のP10位からP3位あるいはP3’位からP5’位に塩基性アミノ酸(例えば、アルギニン、リジン)が存在する場合(但し、P6又はP4位の1箇所のみを塩基性アミノ酸で置換した場合を除く)、切断率が上昇することを新たに見出した。
一方、P2位又はP2’位がアルギニンの場合は、切断部位として配しているP1位とP1’位の2つのアルギニンに加えてアルギニンが3連続する配列となるが、この場合には逆に切断率が減少した。即ち、切断部位周辺にアルギニンを存在させることで切断率は上昇するが、アルギニンが3連続した場合には、切断率は減少するということであり、切断部位周辺アミノ酸配列をアルギニンに置換することにより切断率の制御が可能であることが判明した。
更に、P3’位にアルギニンが存在する融合タンパク質PA3’(切断部位周辺アミノ酸配列が−Ala−Ala−Arg[P1]−Arg[P1’]−Ala−Arg[P3’]−Ala[P4’]−Ala−)において、P3’位のアルギニンとP4’位のアラニンの間での切断も生じていることが判明し、ここにアルギニン−アラニンの間を効率よく切断できる配列が見出された。塩基性アミノ酸が連続して並ぶ配列以外の配列で効率よく基質が切断されたことは、OmpTプロテアーゼをプロセッシング酵素として使用する場合に極めて重要であるため、本発明者らは、さらなる検討を実施した。
切断部位周辺にアルギニンを配することにより切断効率が上昇するという知見、更にはアルギニンが3連続する場合にはアルギニン−アルギニン間で切断されにくくなるという知見に基づき、種々のアミノ酸配列を検討したところ、アミノ酸配列−Arg−Arg−Arg−Ala−Arg−Ala−において、主たる切断が−Arg−Arg−Arg−Ala−Arg↓Ala−で生じることを見出した。即ち、3連続する塩基性アミノ酸を配することにより、それ以降に存在する塩基性アミノ酸部位での切断が促進されるという性質があることが明らかとなった。
しかし、上記アミノ酸配列(−Arg−Arg−Arg−Ala−Arg−Ala−)では3連続するアルギニン配列中でもなお切断が生じた。これを減少させる目的でN末端側上流アミノ酸配列に酸性アミノ酸であるアスパラギン酸を配したアミノ酸配列−Asp−Ala−Arg−Arg−Arg−Ala−Arg↓Ala−を作製した。この配列を用いることにより、アルギニン−アラニンの間の切断率が半分に低下したが、3連続するアルギニン配列中の切断を抑えることに成功した。即ち、これらの配列−Arg−Arg−Arg−Ala−Arg↓Ala−又は−Asp−Ala−Arg−Arg−Arg−Ala−Arg↓Ala−においては、OmpTプロテアーゼの切断がアルギニン−アラニン間で生じ易いように最適化されているものと考えられる。これらの配列(−Arg−Arg−Arg−Ala−Arg−Ala−及びAsp−Ala−Arg−Arg−Arg−Ala−Arg−Ala−)、特に望ましくは、Asp−Ala−Arg−Arg−Arg−Ala−Arg−Ala−を用いることによりP1’位がアラニン以外のアミノ酸でも効率よく切断できることが期待された。
以上の結果から、−Arg−Arg−Arg−Ala−Arg↓Ala−の切断部位のC末端側アミノ酸配列に生理活性ペプチドを配することによりOmpTプロテアーゼで直接融合タンパク質からその生理活性ペプチドを切出すことが可能かどうかを、モチリン(N末端アミノ酸はフェニルアラニン)を目的ポリペプチドとして検討した。モチリンを目的ポリペプチドとする融合タンパク質PMTを作製し、OmpTプロテアーゼを作用させモチリンの切出しを試みた。
ところが、融合タンパク質PMTからモチリンを効率よく切出せないことが判明した。この結果より、OmpTプロテアーゼの基質特異性としてP1’位のアミノ酸に関して寛容ではあることは既知であるが、効率的な切断に利用するには本プロテアーゼ自体に変異を導入しP1’位のアミノ酸に対する特異性を高める必要があると考えられた。
すでにOmpTの結晶構造を解析した論文(Vandeputte−Rutten,L.et al.EMBO J.20:5033−5039,2001)が発表されており、これに関連する論文(Kramer,RA.et al.FEBS lett.505:426−430,2001)中で基質のP1’位のアミノ酸とOmpTプロテアーゼのAsp97(N末端から97番目のアスパラギン酸)が相互作用しているのではないかと考察されている。この97番目のアミノ酸を置換した際に生ずる基質特異性の変化を調べるため、OmpTのAsp97を20種類のアミノ酸(アスパラギン酸への同義置換を含む)に置換した変異体に対するプラスミドを作製し、これらをOmpT欠損大腸菌BL21株に導入してOmpTプロテアーゼ変異体OmpT D97X(Xは20種類のアミノ酸に対応)発現大腸菌20株を調製した。
これらをOmpTプロテアーゼのP1’位基質特異性を調べる目的で調製した図1に示した構造を持つ融合蛋白質PRX(Xは20種類のアミノ酸に対応、特願2000−602803参照)を基質として作用させ、各々の融合蛋白質の切断を調べた。。その結果、OmpTプロテアーゼの97番目のアスパラギン酸をアラニン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、セリン、トレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸、ヒスチジンに置換したものは、切断率に高低はあるものの、融合蛋白質PRXを切断する活性を有することが判明した。特に変異体OmpT D97Lはセリン、アラニンに、OmpT D97Mはフェニルアラニン、アラニン、セリン、システイン及びチロシンに、OmpT D97Hはアラニン、バリン、イソロイシン、メチオニン、スレオニン、システイン及びアスパラギンにそれぞれ高い特異性を示すことが明らかとなった。
これより得られた知見を用いてモチリンのN末端アミノ酸がフェニルアラニンであることを考慮し、P1’部位がフェニルアラニンの場合に切断が良好であったOmpT D97Mを前述の融合タンパク質PMTに対して作用させたところ、効率よくモチリンを切出すことが可能となった。即ち、本発明者らはOmpTプロテアーゼの切断部位周辺の配列を最適化し、更に、OmpTプロテアーゼ変異体を利用することにより、これまで所望の位置での切断が困難であった。OmpTプロテアーゼによる切断を可能なものとすることに成功した。
更に、この手法が工業的に利用可能であることを検証するために融合タンパク質PMT発現大腸菌及びOmpT D97Mプロテアーゼ変異体発現大腸菌を高密度培養し、融合タンパク質PMT発現大腸菌から調製した封入体を含む反応液にOmpT D97Mプロテアーゼ変異体発現大腸菌そのものを直接添加して25℃、1時間作用させた。この反応液に20mM 酢酸(pH4.0)を添加し、沈殿除去後、上澄液を陽イオン交換及び逆相クロマトグラフィーに供した。これら一連の操作により融合タンパク質PMT発現大腸菌培養液1Lあたり純度99.0%以上のモチリンを回収率52%で160mg生産することができ、十分に工業化可能な水準であることが示された。
更に、このポリペプチド生産系の汎用性を確かめるために目的ポリペプチドとしてヒト副腎皮質刺激ホルモン(1−24)(N末端アミノ酸がセリン)及びヒトカルシトニン前駆体(N末端アミノ酸がシステイン)を配した融合タンパク質を調製し、OmpTプロテアーゼ変異体で処理した。その結果いずれの場合においても所望する目的ポリペプチドを得ることができこの系の汎用性の広さを示すことに成功した。
また、融合タンパク質PMTとOmpT D97Mプロテアーゼ変異体を共発現する大腸菌を調製し、この大腸菌を培養して得られた封入体を尿素により溶解しただけで融合タンパク質PMTからヒトモチリンが遊離可能であることも確認した。
なお、後述の実施例において示されていない具体的な実験操作は特に記載のない限り以下の方法に従った。
(1)発現プラスミドの構築
発現プラスミドの構築は大腸菌JM109を用いて常法に従った。構築された発現プラスミドが目的のプラスミドであることを変異導入のために行なったPCRにより得られたDNA領域及び合成DNAによる置換で得られたDNA領域の塩基配列決定により確認した。なお、実施例1、3、5、7、9、16、18で作製したプラスミドの構造を図10Aに実施例11で作製したプラスミドの構造を図10Bに示した。実施例17で作製したプラスミドは図13に示した。
(2)OmpTプロテアーゼ酵素活性の測定
OmpTプロテアーゼ活性はダイノルフィンA(ペプチド研究所製)を基質として測定した。
0.1% Triton X−100を含む50mMリン酸ナトリウム(pH6.0)40μLに1mg/mLのダイノルフィンA 5μLを加えて、これにOmpTプロテアーゼ活性測定サンプル5μLを添加して反応を開始した。反応は25℃で10分間行ない、1N HCl 5μLを加えて反応を停止した。反応液を10000×g、3分間遠心分離して上澄液を回収し、20μLをHPLCに供し、分析した。
HPLC分析はYMC PROTEIN RPカラムを用い、カラム温度40℃、流速1mL/minで行った。3分間0.1%トリフルオロ酢酸を含む10%アセトニトリルで洗浄した後に、10分間0.1%トリフルオロ酢酸を含む10−15%アセトニトリルのリニアグラジエントにより溶出を行った。220nmの吸収をモニターし、分解産物であるペプチドTyr−Gly−Gly−Phe−Leu−Argを検出した。この反応条件下、25℃1分間でダイノルフィンA 1μmolを切断した時のOmpTプロテアーゼ活性を1unitとした。
(3)SDS−ポリアクリルアミド電気泳動
融合タンパク質の切断を検討するために用いたSDS−ポリアクリルアミド電気泳動はゲルにテフコ社製の16% Peptide−PAGEmini、泳動バッファーにバイオラッド社製のTricine泳動バッファー、分子量マーカーにテフコ社又はバイオラッド社製のタンパク質分子量マーカーを用いて行った。サンプルに等量の4M尿素を含む2×SDS−PAGEサンプルバッファーを添加して100℃、5分間加熱した。10μLを電気泳動に供し、テフコ社の指定する泳動条件で電気泳動を行った。泳動後、クマジーブリリアントブルーR−250を含む染色液で染色した。
(4)封入体の調製
本実施例において、大腸菌で融合タンパク質は封入体として発現され、大腸菌がOmpTプロテアーゼを発現している場合には得られた封入体を尿素で溶解しただけでOmpTプロテアーゼによる切断を受ける。そこで切断を避けるために融合タンパク質発現プラスミドでOmpTプロテアーゼ欠損大腸菌株であるW3110 M25を形質転換して、融合タンパク質を封入体として発現させた。各融合タンパク質を発現するW3110 M25組換え大腸菌を2L三角フラスコ中でテトラサイクリン10mg/Lを含むLB液体培地(0.5%(w/v)酵母エキス、1%(w/v)トリプトン、0.5%塩化ナトリウム)400mLを用いて37℃、1晩、150rpmで旋回培養した。
翌日、4℃、6000×g、10分間遠心分離により菌体を回収し、これを超音波処理して菌体破砕した。この菌体破砕液に脱イオン水を加えて30mLとして、4℃、25000×g、15分間遠心分離し、上清を廃棄して沈殿画分(封入体)を回収した。更に、30mLの50mM Tris−HCl(pH8.0),5mM EDTA,1% Triton X−100に懸濁して4℃、25000×g、15分間遠心分離により沈殿を得た。この沈殿を30mLの脱イオン水で懸濁後、4℃、25000×g、15分間遠心分離して沈殿を回収した。これに脱イオン水を添加して1.5 mLとなるようにし、懸濁後4℃、10000×g、30分間遠心分離することにより沈殿を得て、再度同操作を繰り返して、OD660=100となるように脱イオン水で沈殿を懸濁し、このようにして調製した封入体をOmpTプロテアーゼ反応の基質として使用した。
(5)OmpTプロテアーゼ反応
融合タンパク質を基質としてOmpTプロテアーゼ反応を次のように行った。10M 尿素20μLに1M リン酸ナトリウム(pH7.0)2.5μL、及び50mM EDTA 2μLを加え、融合タンパク質封入体(OD660=100)10μLを添加して、封入体を溶解した。これに水を10.5μL加え、1.4units/mLのOmpTプロテアーゼ5μLを添加して反応液量50μLで反応を開始した。反応温度は25℃で30分間行なった。
OmpTプロテアーゼと反応して得られたポリペプチドの定量は特に断りのない限り以下の条件でHPLCにより行った。OmpTプロテアーゼ反応液に150μLの6%酢酸、2M 尿素を添加して反応を停止し、10000×g、3分間遠心分離して上澄液20μLをYMC PROTEIN RPカラムに供した。HPLCはカラム温度40℃、流速1mL/minで行った。20分間0.1%トリフルオロ酢酸を含む30−50%アセトニトリルのリニアグラジエントにより溶出を行ない、214nmの吸収をモニターしてポリペプチドの定量を行った。
(6)ポリペプチドの質量解析
切断部位を推定するために、HPLCで単離したポリペプチドの質量分析をThermo Finnigan社製SSQ710を用いて行った。
(7)大腸菌外膜画分の調製
宿主をW3110 M25とするOmpTプロテアーゼ又はOmpTプロテアーゼ変異体を発現する大腸菌の外膜画分を以下のように調製して実施例10、14、16及び18でOmpTプロテアーゼ又はOmpTプロテアーゼ変異体として融合タンパク質の切断反応に用いた。培養方法は(4)と同様に行い、培養終了後、4℃、6000×g、10分間遠心分離により菌体を得た。この菌体を10mM Tris−HCl(pH8.0)、1mM EDTA(TE)で懸濁、超音波処理により菌体破砕した。この菌体破砕液を4℃、1000×g、10分間遠心分離して沈殿を廃棄して破砕液を回収した。更に、この破砕液を4℃、36000×g、40分間遠心分離して沈殿を回収し、TEで懸濁、再度4℃、36000×g、40分間遠心分離した。得られた沈殿をOD660=10となるようにTEで懸濁した。使用するまで−20℃で凍結保存した。
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明を詳細に説明する。
[実施例1] 融合タンパク質PAnの調製
OmpTプロテアーゼは大腸菌外膜に存在するエンドプロテアーゼである。本酵素の切断において切断部位周辺のアミノ酸配列中の塩基性アミノ酸が非常に大きく影響すると考えられたため、本発明者は本酵素の既知の切断部位を利用し、以下に示す実験を行ない、塩基性アミノ酸の位置と切断率との関係を検討した。
OmpTプロテアーゼにより切断される構造を持つ図2に示した融合タンパク質PA(リンカーペプチドを介した大腸菌のβ−ガラクトシダーゼのN末端117アミノ酸に由来する保護タンパク質(β−gal117S4H)とヒトグルカゴン様ペプチド−1(7−37)(GLP−1(7−37))の融合タンパク質の切断部位のP10位からP2位及びP2’位からP5’位のアラニンをアルギニンに置換することにより、リンカーペプチド内に存在するOmpTプロテアーゼ切断部位を変換した融合タンパク質PAn(図2:nは切断部位に対するアミノ酸の位置[Pn]に対応し、P10からP2及びP2’からP5’まで)を作製し、OmpTプロテアーゼによる切断について検討することにした。
大腸菌OmpTプロテアーゼの認識・切断部位としてアルギニン−アルギニン配列が融合タンパク質のリンカー部分に挿入された融合タンパク質PRR(図1)の発現プラスミドであり図10Aに示した構造を有するpG117S4HompPRR(特願2000−602803参照)をもとにPCRでの部位特異的変異導入及び合成DNAとの置換により融合タンパク質PAを発現するプラスミドであり図10Aに示した構造を有するpG117S4HompPAを構築した。更に、融合タンパク質PAnの発現プラスミドpG117S4HompPAnは図2に示す構造を有する融合タンパク質PAの発現プラスミドpG117S4HompPAにPCRを用いて塩基置換を導入して構築した。構築したプラスミドの構造を図10Aに示した。これらの融合タンパク質発現プラスミドでOmpTプロテアーゼ欠損大腸菌株であるW3110 M25を形質転換して、融合タンパク質を封入体として発現させた。
[実施例2] OmpTプロテアーゼによる融合タンパク質PAnの切断
OmpTプロテアーゼにより切断される構造を持つ図2に示した融合タンパク質PAのOmpTプロテアーゼ切断部位周辺のアラニンをアルギニンに置換した融合タンパク質PAn(図2)を用いて、OmpTプロテアーゼによる切断率を検討した。PAnをpH7.0で特願2000−602803に従ってベンザミジンセファロース6Bを用いて精製したOmpTプロテアーゼ標品と反応させた。酵素反応後、HPLCにより分析した結果から得られた切断率もあわせて図2に示す。また、質量分析の結果から得られた切断部位も図2に示す。
すべてのPAnはもとのPAと同じ部位でOmpTプロテアーゼによる切断を受け、PA2,PA2’及びPA3’はその他の部位でも切断が起こることが示された(図2)。特に、PA3’はArg140−Arg141及びArg14−Ala144の2か所で切断され(切断率はそれぞれ220,73%)、連続する塩基性アミノ酸以外の間(Arg143−Ala144)で切断されていることがわかった。
また、PA2とPA2’を除くすべてのPAnにおいて切断率の上昇が認められ、切断部位周辺アミノ酸配列中のP10からP3及びP3’からP5’にアルギニンを配することにより切断率を向上させることができると考えられる。それらのうちでもPA4が最も切断率が高くPAの約5倍を示し、P4位にアルギニンを配することが最も効果的であることがわかった。一方,PA2及びPA2’では切断率が約1/3にまで減少し、3連続するアルギニン配列になると切断率が低下することがわかった。
[実施例3] 融合タンパク質PA1A3’、PA1’A3’の調製
OmpTプロテアーゼは連続する塩基性アミノ酸の間を主に切断する酵素であることが知られている。ところが実施例2の結果から融合タンパク質PA3’が2か所Arg140−Arg141及びArg143−Ala144で切断されていることがわかり、しかもそのうちの1か所は−Arg↓Ala−の切断であることがわかった。その−Arg↓Ala−での切断率は連続する塩基性アミノ酸の間の切断率と比較すると低いが工業的に利用できる可能性のある切断率へ改善可能であると考えられた。
そこで融合タンパク質PA3’の2か所の切断部位Arg140−Arg141及びArg143−Ala144のうちArg140−Arg141での切断をおさえるためにArg140又はArg141をアラニンに置換したアミノ酸配列を有する融合タンパク質PA1A3’及びPA1’A3’(図3)の調製を行ない、それらのOmpTプロテアーゼによる切断を検討した。あわせて、これらの融合タンパク質を用いてArg143−Ala144の切断にArg140(Arg143、Ala14をそれぞれP1位、P1’位とするとP4位)とArg141(Arg143、Ala14をそれぞれP1位、P1’位とするとP3位)のいずれが必要であるかについても検討した。
融合タンパク質PA1A3’及びPA1’A3’の発現プラスミドpG117S4HompPA1A3’及びpG117S4HompPA1’A3’は図3に示す構造を有する融合タンパク質PA3’の発現プラスミドpG117S4HompPA3’にPCRを用いて塩基置換を導入して構築した。構築したプラスミドの構造を図10Aに示した。これらの融合タンパク質発現プラスミドでOmpTプロテアーゼ欠損大腸菌株であるW3110 M25を形質転換して、融合タンパク質を封入体として発現させた。
[実施例4] OmpTプロテアーゼによる融合タンパク質PA1A3’及びPA1’A3’の切断
図3に示した融合タンパク質PA1A3’及びPA1’A3’のOmpTプロテアーゼによる切断部位及び切断率を検討した。PA1A3’及びPA1’A3’をpH7.0で特願2000−602803に従ってベンザミジンセファロース6Bを用いて精製したOmpTプロテアーゼ標品を用いて反応させた。酵素反応後、HPLCにより分析した結果から得られた切断率、質量分析の結果から得られた切断部位も図3に示す。PA1A3’及びPA1’A3’はともにArg143−Ala144で切断されていることがわかった。
しかし、いずれの切断率もPAのArg140−Arg141での切断率に比べて低い値であった。またPA1’A3’ではArg140−Ala141での切断も確認された。Arg143−Ala144を切断部位P1−P1’と考えた場合、Arg14−Ala144での切断はP3位のアルギニン(PA1A3’のArg141)又はP4位のアルギニン(PA1’A3’のArg140)のいずれかが存在すれば起こるが、P4位及びP3位の両方にアルギニンを配したPA3’の方がPA1A3’及びPA1’A3’よりも切断率が高いことが示唆された。
[実施例5] 融合タンパク質PA23’、PA323’及びPA2’3’の調製
実施例4の結果から融合タンパク質PA1A3’及びPA1’A3’がArg43−Ala144で切断されており、特にPA1A3’ではArg143−Ala144のみで切断されたことがわかったが、その切断率は低いものであった。そこで融合タンパク質PA3’にアミノ酸置換を導入して、−Arg↓A1a−(Arg143−Ala144)の切断率を更に上げるようなアミノ酸配列の設計を試みた。実施例2の結果に基づき、−Arg↓Ala−(Arg143−Ala14)の切断率を上げ、連続する塩基性アミノ酸の間(Arg140−Arg141)の切断率を下げると予想されるアミノ酸配列(2連続するアルギニンを3連続又は4連続するアルギニンにした)を有する融合タンパク質PA23’、PA323’及びPA2’3’(図3)の調製を以下のように行ない、それらのOmpTプロテアーゼによる切断を検討した。
融合タンパク質PA23’及びPA2’3’の発現プラスミドpG117S4HompPA23’及びpG117S4Homp PA2’3’は図3に示す構造を有する融合タンパク質PA3’の発現プラスミドpG117S4HompPA3’にPCRを用いて塩基置換を導入して構築した。更に、融合タンパク質PA323’の発現プラスミドpG117S4HompPA323’ は図3に示す構造を有する融合タンパク質PA23’の発現プラスミドpG117S4HompPA23’にPCRを用いて塩基置換を導入して構築した。構築したプラスミドの構造を図10Aに示した。これらの融合タンパク質発現プラスミドでOmpTプロテアーゼ欠損大腸菌株であるW3110 M25を形質転換して、融合タンパク質を封入体として発現させた。
[実施例6] OmpTプロテアーゼによる融合タンパク質PA23’、PA323’及びPA2’3’の切断
図3に示した融合タンパク質PA23’、PA323’及びPA2’3’のOmpTプロテアーゼによる切断部位及び切断率を検討した。PA23’、PA323’及びPA2’3’をpH7.0で特願2000−602803に従ってベンザミジンセファロース6Bを用いて精製したOmpTプロテアーゼ標品を用いて25℃、30分間反応させた。酵素反応後、HPLCにより分析した結果から得られた切断率、質量分析の結果から得られた切断部位も図3に示す。PA23’、PA323’及びPA2’3’はArg143−Ala144で切断されていることが確認された。PA23’のArg143−Ala144での切断率はPAのArg140−Arg141での切断率の2.9倍の切断率を示した。
Arg139−Arg140及びArg140−Arg141での切断も見られたがArg143−Ala144での切断の13%であった。PA323’のArg143−Ala144での切断率もPAのArg140−Arg141での切断率の2.9倍の切断率を示したがArg14−Arg141での切断も見られ、Arg143−Ala144での切断率の59%であった。PA2’3’に関して、Arg143−Ala144での切断率はPAのArg140−Arg141での切断率の63%と低く、Arg140−Arg141及びArg142−Arg143での切断も確認された。以上のことから、これら3種の融合タンパク質のうちPA23’が−Arg↓Ala−(Arg143−Ala144)の切断率を上げて連続する塩基性アミノ酸の間の切断率を下げるための最適な配列を有することが示された。
[実施例7] 融合タンパク質PA5D23’、PA4D23’及びPA3D23’の調製
融合タンパク質PA23’においてArg143−Ala144の切断率が非常に高いことが実施例6の結果で示された。しかしながらArg139−Arg14あるいはArg140−Arg141での切断も確認された。そこで、切断部位近傍に酸性アミノ酸がある場合にその切断がおさえられると考えられることから、Arg139−Arg140あるいはArg140−Arg141での切断をおさえるためにAla136、Ala137又はAla138をアスパラギン酸に置換した融合タンパク質PA5D23’、PA4D23’及びPA3D23’(図4)の調製を以下のように行ない、それらのOmpTプロテアーゼによる切断を検討した。
融合タンパク質PA5D23’、PA4D23’及びPA3D23’の発現プラスミドpG117S4HompPA5D23’、pG117S4HompPA4D23’及びpG117S4HompPA3D23’は図4に示す構造を有する融合タンパク質PA23’の発現プラスミドpG117S4HompPA23’にPCRを用いて塩基置換を導入して構築した。構築したプラスミドの構造を図10Aに示した。これらの融合タンパク質発現プラスミドでOmpTプロテアーゼ欠損大腸菌株であるW3110 M25を形質転換して、融合タンパク質を封入体として発現させた。
[実施例8] OmpTプロテアーゼによる融合タンパク質PA5D23’、PA4D23’及びPA3D23’の切断
図4に示した融合タンパク質PA5D23’、PA4D23’及びPA3D23’のOmpTプロテアーゼによる切断部位及び切断率を検討した。PA5D23’、PA4D23’及びPA3D23’をpH7.0で特願2000−602803に従ってベンザミジンセファロース6Bを用いて精製したOmpTプロテアーゼ標品を用いて25℃、30分間反応させた。酵素反応後、HPLCにより分析した結果から得られた切断率、質量分析の結果から得られた切断部位も図4に示す。PA5D23’、PA4D23’及びPA3D23’の主な切断部位はArg143−Ala144であることが確認された。
特にPA4D23’のArg143−Ala144での切断率はPA23’に比べると低下したがPAのArg140−Arg141での切断率の2倍の切断率を示した。一方PA23’で検出されたArg139−Arg140及びArg140−Arg141での切断は検出されなかった。即ちArg140−Arg141をP1−P1’と考えた場合にP3位にアスパラギン酸を配することによりその切断が抑えられたと考えられる。同様にArg139−Arg140をP1−P1’と考えた場合にP2位にアスパラギン酸を配することによりその切断が抑えられたと考えられる。PA5D23’のArg143−Ala144での切断率もPAのArg140−Arg141での切断率の1.9倍の切断率を示したがArg140−Arg141での切断も見られた。
PA3D23’に関して、PA4D23’と同様にArg139−Arg140及びArg140−Arg141での切断は検出されなかった。即ちArg140−Arg141をP1−P1’と考えた場合にP4位にアスパラギン酸を配することによりその切断が抑えられたと考えられる。同様にArg139−Arg140をP1−P1’と考えた場合にP3位にアスパラギン酸を配することによりその切断が抑えられたと考えられる。しかしながらArg143−Ala144での切断率はPAのArg140−Arg141での切断率と同程度でPA4D23’よりも低くかった。以上のことから、これら3種の融合タンパク質のうちPA4D23’が−Arg↓Ala−(Arg143−Ala144)での切断率をより高くして連続する塩基性アミノ酸の間の切断を抑えるための最適な配列を有することが示された。
従って、OmpTプロテアーゼを用いて保護タンパク質−リンカーペプチド−目的ポリペプチドからなる融合タンパク質よりN末端アミノ酸がアスパラギン酸、グルタミン酸及びプロリン以外の17種類のアミノ酸のいずれかである目的ポリペプチドを切出したい場合、−Asp−Ala−Arg−Arg−Arg−Ala−Arg−のアミノ酸配列のC末端に続けてその目的ポリペプチドを配することにより特異的に切出しできる可能性があると考えられる。
[実施例9] 融合タンパク質PRMT及びPMTの調製
実施例6の結果からOmpTプロテアーゼは図3で示した融合タンパク質PA23’における本酵素の切断部位周辺のアミノ酸配列において−Arg↓Ala−を効率よく切断できることが示された。このことから切断部位が−ArgXaa−(Xaaは酸性アミノ酸であるアスパラギン酸、グルタミン酸及びプロリン以外の17アミノ酸)であっても効率よく切断できることが予想された。そこで本発明者は実施例6に用いた融合タンパク質PA23’の143番目のアルギニンに続けてN末端が酸性アミノ酸、プロリン以外のアミノ酸であり、更に、塩基性アミノ酸以外のアミノ酸に置換した場合に本酵素による切断はどうなるのかについて検討した。
まずOmpTプロテアーゼによりArg140−Arg141が切断される図1に示した構造を有する融合タンパク質PRR(特願2000−602803参照)のN末端から140番目のアルギニンに続けてヒトモチリンを配した融合タンパク質PRMT(図5)を対照として作製した。次に、融合タンパク質PA23’(図3及び図4)のN末端から143番目のアルギニンに続けてヒトモチリンを配した融合タンパク質PMT(図5)を作製した。
融合タンパク質PRMTの発現プラスミドpG117S4HompPRMTとPMTの発現プラスミドpG117S4HompPMTの構造を図10Aに示した。これら2種類の融合タンパク質発現プラスミドでOmpTプロテアーゼ欠損大腸菌株であるW3110 M25をそれぞれ形質転換し、融合タンパク質生産菌を作製した。得られた菌株を培養後、融合タンパク質PRMT及びPMTを封入体として調製した。
[実施例10] OmpTプロテアーゼによる融合タンパク質PRMT及びPMTの切断
図5に示した融合タンパク質PRMT及びPMTのOmpTプロテアーゼによる切断をW3110 M25を宿主としたOmpTプロテアーゼを発現する大腸菌の膜画分を用いてSDS−PAGEあるいはHPLCにより検討した。SDS−PAGEにおいてOmpTプロテアーゼによる融合タンパク質PMTの切断を確認できたが、PRMTの切断は検出できなかった。HPLCによっても融合タンパク質PMTの切断を確認できたが主にArg139−Arg140あるいはArg140−Arg141の塩基性アミノ酸対の間での切断であり、Arg143−Phe144でのペプチド切断断片即ちヒトモチリンは質量分析によりごくわずかに検出できたのみである。
このことから切断部位周辺のアミノ酸配列を−Arg−Arg−Arg−Ala−Arg−motilinとしただけではOmpTプロテアーゼにより主なペプチド切断断片としてヒトモチリンを切出すことができないとわかった。このことから本プロテアーゼの基質特異性としてP1’位のアミノ酸に関して寛容ではあるものの効率的な切断に利用するには本プロテアーゼ自体に変異を導入することにより更に、P1’位のアミノ酸に対する特異性を高める必要があると考えられた。そこでOmpTプロテアーゼ変異体を作製し、それを用いて融合タンパク質からヒトモチリンを主に切出すことができるかどうかを検討した。
[実施例11] OmpTプロテアーゼ変異体発現大腸菌の調製
OmpTプロテアーゼの結晶構造を解析した論文(Vandeputte−Rutten,L.et al.EMBO J.20:5033−5039,2001)及びこれに関連する論文(Kramer,RA.et al.FEBSLlett.505:426−430,2001)中で基質のP1’位のアミノ酸とOmpTプロテアーゼのAsp97が相互作用しているのではないかと考察されていたため、OmpTプロテアーゼのAsp97に以下のようにPCRを用いて20種類のアミノ酸(アスパラギン酸への同義置換を含む)に置換したプラスミドを作製し、これらをOmpTプロテアーゼ欠損大腸菌BL21株に導入してOmpTプロテアーゼ変異体発現大腸菌20株を調製した。
OmpTプロテアーゼのAsp97に変異を導入しやすくし、できるだけPCRで増幅したDNA領域を少なくするために、図10Bに示した構造を持つOmpTプロテアーゼ発現プラスミドpOmpTTcE(特願2000−602803参照)のOmpTプロテアーセSer99をコードするAGTをTCTに換えることにより制限酵素部位XbaIをPCRを用いて導入したOmpTプロテアーゼ発現プラスミドpOmpTXbaIの構築をまず行なった。次にOmpTプロテアーゼのAsp97を20種類のアミノ酸(アスパラギン酸への同義置換を含む)に置換した変異体OmpT D97X(Xは置換後の20種類のアミノ酸を示す)を発現するプラスミドpOmpTD97XはOmpTプロテアーゼ発現プラスミドpOmpTXbaIからPCRを用いた変異導入により構築した。発現プラスミドpOmpTXbaI及びpOmpTD97Xの構造を図10Bに示した。
得られた20種類の発現プラスミドpOmpTD97XをそれぞれOmpTプロテアーゼ欠損大腸菌BL21株に導入してOmpTプロテアーゼ変異体OmpTD97X発現大腸菌20株を調製した。これらの大腸菌を試験管によりテトラサイクリン10μg/mLを含むLB液体培地2mLを用いて37℃でOD660=1程度まで振とう培養後、菌体を遠心分離により回収した。これらに1mLのTE(10mM Tris−HCl,1mM EDTA,pH8.0)を加えて懸濁後、遠心分離により菌体を回収した。更に、同操作を繰り返して得られた菌体にOD660=2となるようにTEを添加して懸濁したものをOmpTプロテアーゼ変異体OmpT D97X反応用の菌体懸濁液とした。これらの菌体懸濁液は使用まで−20℃で凍結保存した。
[実施例12] OmpTプロテアーゼ変異体発現大腸菌菌体懸濁液中に含まれるOmpTプロテアーゼ変異体量の確認
OmpTプロテアーゼ変異体発現大腸菌菌体懸濁液中に含まれるOmpTプロテアーゼ変異体量がすべての菌体懸濁液において同量であることを確認するために抗OmpTプロテアーゼ抗体を用いてウェスタンブロッティング及び免疫染色を行なった。抗OmpTプロテアーゼ抗体は精製OmpTプロテアーゼをウサギに免疫感作し、得られた抗血清からIgG画分を精製し、更に、ここから精製OmpTプロテアーゼにアフィニティーのある画分を回収することにより調製した。
1レーンあたりOD660=0.01に相当する菌体懸濁液を12%SDS−PAGEに供し、電気泳動終了後、PVDF膜を用いてウェスタンブロッティングを行った。調製した転写膜をブロッキング液(5%(w/v)skimmilk/1x TBST)に浸漬し、室温で30分間振とうした。次に抗OmpTプロテアーゼ抗体をブロッキング液で1000倍希釈したものに膜を浸漬し、室温で100分間振とうした。その後、液を捨て、1x TBSTで5分間、3回洗浄した。更に、ブロッキング液で1000倍希釈したパーオキシダーゼ結合抗ウサギIgG抗体液に膜を浸漬し、室温で45分間振とうした。
1×TBSTで10分間、4回洗浄後、ECLキット(アマシャムファルマシア社製)で検出した。宿主であるOmpTプロテアーゼ欠損大腸菌BL21株からはバンドは検出されず、その他の菌体懸濁液からはほぼ同等の強度でバンドが検出されたことからOmpTプロテアーゼ変異体発現大腸菌菌体懸濁液中に含まれるOmpTプロテアーゼ変異体量はすべての菌体懸濁液においてほぼ同量であろうと考えられた。(*1x TBST=10mM Tris−HCl(pH7.0),150mM NaCl,0.05% Tween 20)
[実施例13] OmpTプロテアーゼ変異体OmpT D97XのP1’位基質特異性の検討
OmpTプロテアーゼは大腸菌外膜に存在するため反応液中に菌体のまま加えることにより基質と作用させることができる。そのため、OmpTプロテアーゼ変異体OmpT D97XのP1’位基質特異性を調べる目的で図1に示した構造を有する融合蛋白質PRX(特願2000−602803参照)を基質としてOmpTプロテアーゼ変異体OmpT D97Xとの反応性を次のようにして検討した。10M尿素20μLに1Mリン酸ナトリウム(pH7.0)2.5μL、及び50mM EDTA 2μLを加え、融合タンパク質封入体(OD660=100)5μLを添加して、封入体を溶解した。
これに水を10.5μL加え、実施例11で調製したOmpTプロテアーゼ変異体発現大腸菌菌体懸濁液10μLを添加して反応液量50μLで反応を開始した。反応は25℃で60分間行なった。反応して得られたペプチド断片の定量はOmpTプロテアーゼ反応時と同じ条件でHPLCにより行なった。結果を表1に示す。

野生型OmpTプロテアーゼ(D97D)と融合タンパク質PRRの反応における切断率を100%として相対切断率を示した。−は相対切断率が3.0%未満であったことを示す。OmpTプロテアーゼ変異体D97V,D97I,D97P,D97W,D97G,D97Y,D97K及びD97Rは20種類いずれの融合タンパク質PRXとも相対切断率が3.0%未満であった。融合タンパク質PRL,PRP,PRW,PRG,PRQ,PRD,PRE及びPRHはいずれのOmpTプロテアーゼ変異体OmpT D97Xとも相対切断率が3%未満であった。
この結果、比較的切断率が高く、野生型OmpTプロテアーゼとは基質特異性の異なる変異体をいくつか得ることができた。融合タンパク質PRR及びPRKに対してはD97D(野生型)が、PRSにはD97Lが、PRFとPRYにはD97Mが、PRA、PRV、PRI、PRM、PRT、PRC及びPRNにはD97Hがそれぞれ最も高い特異性を示すことがわかった。これらのうちでPRFに特異性が高いD97M変異体を用いて実施例9で調製した融合タンパク質PRMT及びPMTとの反応を行ない、ヒトモチリンを切出せるかどうか検討した。
[実施例14] OmpTプロテアーゼD97M変異体による融合タンパク質PMTからのヒトモチリンの切出し
OmpTプロテアーゼD97M変異体によるヒトモチリン融合タンパク質PRMT及びPMT(図5)からのヒトモチリンの切出し検討は宿主をW3110 M25とする野生型OmpTプロテアーゼ(D97D)及びOmpTプロテアーゼ変異体D97Mを発現する大腸菌の外膜画分を用いて行なった。10M尿素20μLに1Mリン酸ナトリウム(pH7.0)2.5μL、及び50mM EDTA 2μLを加え、融合タンパク質封入体(OD660=100)10μLを添加して、封入体を溶解した。これに水を10.5μL加え、組換え大腸菌の外膜画分5μLを添加して反応液量50μLで反応を開始した。反応は25℃で120分間行なった。
反応液に150μLの6%酢酸、2M尿素を添加して反応を停止し、10000×g、3分間遠心分離して上澄液50μLをYMC PROTEIN RPカラムに供した。HPLCはカラム温度40℃、流速1mL/minで行った。15分間0.1%トリフルオロ酢酸を含む20−27.5%アセトニトリルのリニアグラジエントにより溶出を行ない、214nmの吸収をモニターした。切断部位はポリペプチド断片を単離して質量分析することにより同定した。図6に対照であるOmpTプロテアーゼD97D野生型及びD97M変異体によるヒトモチリン融合タンパク質PRMT及びPMTの切断をHPLCにより分析した結果を示した。また、表2にそれらの切断部位と切断率を示した。

切断率はD97D野生型でPMTを切断した時のArg139−Arg140での切断率を100として全て相対切断率で表示した。D97D野生型でPRMTは切断されず、PMTを切断した場合にはArg139−Arg140及びArg140−Arg14での切断が主であった。ところがD97M変異体を用いたところPRMTは切断されてモチリンが切り出された。PMTも切断されてモチリンが遊離されることがわかったが、Arg139−Arg140での切断も確認された。しかし、PMTから遊離されるモチリンの量はPRMTよりも3.5倍高かった。この結果はモチリンの切り出しにはD97M変異体が必要であり、切断部位周辺の配列によりモチリンの切断効率が変化することを示している。
[実施例15] モチリンをモデルペプチドとしたOmpTプロテアーゼ変異体を用いたポリペプチド生産例
OmpTプロテアーゼ変異体を用いたポリペプチド生産例としてW3110M25モチリン融合タンパク質PMT生産菌(実施例9参照)及びOmpTプロテアーゼ変異体OmpT D97M発現菌(W3110 M25をpOmpTD97Mで形質転換して作製)をそれぞれ2Lスケールで高密度培養を行ない、W3110 M25 OmpT D97M発現菌菌体を使用してPMTからモチリンを切出し、更に、精製を行なうことによりモチリンを生産した。それらは以下の3ステップからなる。
なお、モチリンの定量は反応液を6%酢酸、2M尿素により希釈したものを実施例14に記載したHPLC分析法と同じ条件で分析し、ペプチド研究所より購入したヒトモチリンを標準品として用いることにより行なった。また、モチリンの純度は50分間0.1%トリフルオロ酢酸を含む0−50%アセトニトリルのリニアグラジエントによる溶出を行なった以外は定量時と同じ条件のHPLCにより分析した。
(1)W3110 M25モチリン融合タンパク質PMT生産菌及びOmpTプロテアーゼ変異体OmpT D97M発現菌の2Lスケール高密度培養
W3110 M25モチリン融合タンパク質PMT生産菌及びOmpTプロテアーゼ変異体OmpT D97M発現菌の2Lスケール高密度培養を以下のように行ない、それぞれから封入体及び発現菌体を調製した。PMT生産菌及びOmpT D97M発現菌を500mL三角フラスコ中でテトラサイクリン10mg/Lを含むLB液体培地100mLを用いて37℃、1晩旋回培養した。翌日、これを4g/L KHPO,4g/L KHPO,2.7g/L NaHPO,0.2g/L NH Cl,1.2g/L(NHSO,4g/L酵母エキス,2g/L MgSO・7HO,40mg/L CaCl・2HO,40mg/L FeSO・7HO,10mg/L MnSO・nHO,10mg/L AlCl・6HO,4mg/L CoCl・6HO,2mg/L ZnSO・7HO,2mg/L NaMoO・2HO,1mg/L CuCl・2HO,0.5mg/L HBO,15g/Lグルコース,10mg/Lテトラサイクリンを含む培地2Lの入った攪拌培養器に移して32℃で培養を開始した。
グルコース枯渇後、2%となるようにグリセロールを添加し、培養温度を37℃に上げた。その後グリセロールが枯渇するごとに逐次2%となるようにグリセロールを添加し培養を継続した。培養経過は図7に示した。PMT生産菌は培養開始後24時間で終了し、培養液容量は1700mLであった。マントンゴーリンにより菌体を破砕した後、4℃、6000×g、10分間遠心分離により沈殿を得た。この沈殿を2000mLの脱イオン水で懸濁し、4℃、6000×g、10分間遠心分離により沈殿を回収した。更に、得られた沈殿を2000mLの50mM Tris−HCl(pH8.0),5mM EDTA,1% Triton−X 100に懸濁し、4℃、6000×g、10分間遠心分離により沈殿を回収した。
この沈殿を2000mLの脱イオン水に懸濁して4℃、6000×g、10分間遠心分離して沈殿を回収した。再度同操作を繰り返して26gの沈殿を得た。これを26mLの脱イオン水に懸濁して封入体懸濁液(OD60=250,45mL)とし使用するまで−20℃で凍結保存した。OmpTプロテアーゼ変異体W3110 M25 OmpT D97M発現菌は培養開始後20時間で培養を終了し、培養液容量は2100mLであった。培養液を4℃、6000×g、10分間遠心分離することにより沈殿を得た。この沈殿を2000mLのTE(10mM Tris−HCl(pH8.0),1mM EDTA)で懸濁し、4℃、6000×g、10分間遠心分離により沈殿を回収した。再度同操作を繰り返して311gの沈殿を回収した。この沈殿を脱イオン水に懸濁して菌体懸濁液(OD660=320,390mL)とし使用するまで−20℃で凍結保存した。
(2)OmpTプロテアーゼ変異体W3110 M25 OmpT D97M発現菌による封入体融合タンパク質PMTの切断
10M尿素8mLに1Mリン酸ナトリウム(pH7.0)1mL、及び50mM EDTA 0.8mLを加え、融合タンパク質封入体PMT(OD660=250)4mLを添加して、封入体を溶解した。これに水を5.2mLを加え、(1)で調製したOmpTプロテアーゼ変異体W3110 M25 OmpT D97M発現菌懸濁液(OD660=320)1mLを添加して反応液量20mLで反応を開始した。反応は25℃で120min−1で振とうして60分間行なった。60分後、反応液13.5mL(W3110 M25モチリン融合タンパク質PMT生産菌培養液100mL分の封入体に相当)に40.5mLの20mM酢酸(pH4.0)を添加して4℃、25000×g、10分間遠心分離により上澄液を得た。これによりほとんどの未反応融合タンパク質、保護ペプチド及び大腸菌由来タンパク質の除去ができた。
この上澄液に20mM酢酸(pH4.0)を加えることにより容量を200mLとし、これを以下の精製に供した。この上澄液への20mM酢酸(pH4.0)添加によりpHを低下させて以下の陽イオン交換クロマトグラフィーに吸着させることができる。なお、図8にモチリン切出しの反応時間を決めるために同条件で120分までモチリン遊離の経時変化を観察した結果を示す。また、反応開始後、60分での融合タンパク質の切断をHPLC及びSDS−PAGEで分析した結果も合わせて図9のA及びBに示す。SDS−PAGEで示すように、反応開始60分で融合タンパク質PMTがほぼ完全に切断されるために遊離するモチリンの増加がほぼ止まった。そのため反応時間を60分とした。
また、Arg143−Phe144で切断されて生じるヒトモチリンだけでなく、Arg139−Arg140で切断されて生じるポリペプチド(RRAR−motilin)も検出された。SDS−PAGE上ではヒトモチリンよりもRRAR−motilinの方がバンドが濃く量的に多く見える(図9のB)が、HPLCによる分析結果からはヒトモチリンのピークの方がRRAR−motilinよりもエリアが大きく量的に多い結果(図9のA)となり矛盾が生じた。これはSDS−PAGEにおいてRRAR−motilinの方がヒトモチリンよりも染色されやすいことが原因であると考えられる。従って、SDS−PAGEの結果ではバンドの濃さが正しく両者の量比を反映していないものと思われる。
(3)モチリンの精製
20mM酢酸(pH4.0)であらかじめ平衡化したアマシャム・ファルマシア社製SP−sepharose Fast Flow(27mL,Φ26mm X 50mm)に上述の上澄液200mLをアプライした。次に20mM酢酸(pH4.0)及び20mM酢酸(pH4.0),0.1M NaClをそれぞれ100mLずつ通液して洗浄を行なった。溶出は20mM酢酸(pH4.0),0.1−0.5M NaClのリニアグラジエントで200mL通液することにより行なった。この陽イオン交換クロマトグラフィーの流速は全て5mL/minで操作した。溶出画分を5mLずつ分取し、それらのHPLC分析結果からフラクションを選択しプールした。これにより融合タンパク質PMTがArg13−Arg140で切断されて生じるポリペプチドの除去ができた。
このプールを0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)であらかじめ平衡化済みのVydac 214TPB1520(24mL,Φ10mm X 300mm)に供した。0.1% TFA 100mLを通液することにより洗浄し、溶出は0.1% TFA,0−30%アセトニトリルリニアグラジエントで200mL通液して行なった。この逆相クロマトグラフィーの流速は全て1.6mL/minで操作した。溶出画分を4mLずつ分取し、それらのHPLC分析結果からフラクションを選択しプールした。本精製の結果を表3に示す。

本精製で得られた標品のHPLC分析、質量分析及びN末端アミノ酸分析の結果はヒトモチリンの示すものと一致した。本精製によりW3110 M25モチリン融合タンパク質PMT生産菌培養液1Lあたり純度99.0%以上のヒトモチリンを回収率52%で160mg得ることが可能であることが示された。
[実施例16] OmpTプロテアーゼ変異体を用いた融合タンパク質からの生理活性ポリペプチド遊離例
ヒトモチリン以外にOmpTプロテアーゼ変異体を用いて生理活性ポリペプチドを融合タンパク質から遊離できるかどうかを調べるために図11に示したヒト副腎皮質刺激ホルモン(1−24)融合タンパク質PAC及びヒトカルシトニン前駆体融合タンパク質PCTを発現する図10のAに示した構造を持つプラスミドを構築し、それらをW3110 M25へ導入した形質転換体から各融合タンパク質を封入体として調製した。それぞれOmpTプロテアーゼ変異体D97LあるいはD97H発現大腸菌W3110 M25の外膜画分と10分間あるいは2時間、25℃で反応させた。コントロールとして両融合タンパク質共に野生型OmpTプロテアーゼを用いた反応も行った。HPLCによる解析結果を図12に示す。
また、HPLCにより各融合タンパク質の切断断片を単離して質量分析も行った。HPLCはYMC PROTEIN RPカラムを用いてカラム温度40℃、流速1mL/minで行った。50分間0.1%トリフルオロ酢酸を含む10−50%アセトニトリルのリニアグラジエントにより溶出を行ない、214nmの吸収をモニターした。融合タンパク質PACは野生型OmpTプロテアーゼによりArg143−Ser144で切断されてヒト副腎皮質刺激ホルモン(1−24)を遊離した。また、Arg140−Arg141でも切断され、RAR−ACTHを遊離した。図12には示されていないがArg143−Ser144およびLys158−Lys159で切断されてACTH(1−15)およびACTH(16−24)も生じていた。更に、PACはD97LによりArg143−Ser144で切断されて、ヒト副腎皮質刺激ホルモン(1−24)は野生型OmpTプロテアーゼの場合の2.9倍遊離した。
他の部位で切断されて生じる副産物は遊離されなかった。融合タンパク質PCTは野生型OmpTプロテアーゼによりArg139−Arg140及びArg140−Arg141で切断され、RRAR−CT及びRAR−CTを遊離した。PCTはD97HによりArg139−Arg140、Arg141−Ala142及びArg143−Cys144で切断されてRRAR−CT、AR−CT及びヒトカルシトニン前駆体を遊離した。いずれの融合タンパク質からも目的とする生理活性ポリペプチドが変異型OmpTプロテアーゼにより遊離されることが確認された。このことから本実施例で示したリンカーペプチド配列とOmpTプロテアーゼ変異体を利用した生理活性ポリペプチド生産系は特定の生理活性ポリペプチドに対してのみ利用できるというわけではなく、その汎用性は広いものと考えられる。
[実施例17] 融合タンパク質PMTとOmpTプロテアーゼ変異体D97Mの共発現
大腸菌で融合タンパク質を封入体として発現し、その宿主大腸菌がOmpTプロテアーゼを発現している場合には得られた封入体を尿素で溶解しただけでOmpTプロテアーゼによる切断を受ける。そこでOmpTプロテアーゼ欠損大腸菌株W3110 M25を宿主として融合タンパク質PMTの発現プラスミドpG117S4HompPMT(実施例9参照)とOmpTプロテアーゼ変異体D97Mを発現するプラスミドを共発現した場合にヒトモチリンが封入体溶解により遊離するかどうかを検討した。OmpTプロテアーゼ変異体D97Mを発現するプラスミドpOmpTD97MはpG117S4HompPMTと複製起点が同じであるため不和合である。
共発現を可能にするためにpMW218由来のOmpTプロテアーゼ変異体D97M発現プラスミド(図13)を以下のように構築した。プラスミドpOmpTD97M(実施例11参照)を鋳型としてXhoI及びHindIII制限酵素部位を含むプライマーを用いてPCRによりpOmpTD97MのラクトースプロモーターからtrpAターミネーターまでを増幅した。得られたDNA断片をXhoI及びHindIIIで消化後、pMW218をSalI及びHindIIIで消化したDNA断片に挿入してpMW218由来のOmpTプロテアーゼ変異体D97M発現プラスミドを作製した。W3110 M25モチリン融合タンパク質PMT生産菌(実施例9参照)を図13に示したpMW218由来のOmpTプロテアーゼ変異体D97M発現プラスミドで形質転換した。
このW3110 M25組換え大腸菌を2L三角フラスコ中でテトラサイクリン10mg/L及びカナマイシン20mg/Lを含むLB液体培地400mLを用いて37℃、1晩、旋回培養した。封入体の調製はすべて脱イオン水を用いて洗浄した以外は常法に従った。得られた封入体からのヒトモチリンの遊離反応は以下のように行った。10M尿素160μLに1Mリン酸ナトリウム(pH7.0)20μL、及び50mM EDTA 16μLを加え、融合タンパク質封入体(OD660=100)80μLを添加して、封入体を溶解した。これに水を124μL加えて反応を開始した。
反応は25℃で行い、反応開始後20、40、60、120、180、240、300、360、1440分後にサンプリングしてSDS−PAGEによる分析に供した(図14)。分析の結果1440分間即ち24時間反応することにより融合タンパク質PMTがほぼ完全に分解されることがわかった。このことから実施例15のようにOmpTプロテアーゼ変異体D97Mを発現するプラスミドpOmpTD97Mの形質転換大腸菌を用いた場合ほど迅速ではないが、反応時間を長くすることにより共発現菌から得られた封入体を溶解しただけでも融合タンパク質PMTの完全分解が可能であり、ヒトモチリンを遊離できることが示された。
[実施例18] 融合タンパク質PMT、PMT6D、PMT7DとOmpTプロテアーゼ変異体D97Mの反応
実施例14の結果から融合タンパク質PMTからOmpTプロテアーゼ変異体D97Mによりモチリンが生成することがわかったが、Arg139−Arg140でも切断されて副産物であるRRAR−motilinが生成した。一方、実施例8の結果から切断を所望しない部位のP3又はP4位に酸性アミノ酸であるアスパラギン酸を配することによりその部位での切断を抑えることができることが示された。
そこでモチリン融合タンパク質PMTのArg139−Arg140は切断を所望しない部位であるため、図15に示したモチリン融合タンパク質PMT6D、PMT7Dを発現する図10Aに示した構造を持つプラスミドを作製して、これらでW3110 M25大腸菌株を形質転換して、これらの融合タンパク質を封入体として回収し、これらの封入体を用いて、モチリン融合タンパク質濃度4mg/mL(OD660はおよそ20)、4M尿素、2mM EDTA、50mMリン酸ナトリウム、OmpTプロテアーゼ変異体D97M0.52mg/mL(OD660は1)で25℃、2時間反応した。なお、封入体タンパク質濃度はHPLCにより以下のように測定した。6%酢酸、2M尿素に封入体をOD660=1となるように添加して、10000×g、3分間遠心分離して上澄液50μLをYMC PROTEIN RPカラムに供した。HPLCはカラム温度40℃、流速1mL/minで行った。
40分間0.1%トリフルオロ酢酸を含む20−60%アセトニトリルのリニアグラジエントにより溶出を行ない、220nmの吸収をモニターした。標準品として牛血清アルブミン(BSA)を用いて封入体タンパク質濃度を決定した。また、大腸菌の外膜画分中のOmpTプロテアーゼ変異体D97Mの懸濁液(OD660=0.5)をSDS−PAGEに供し、標準品として精製OmpTを用いて、デンシトメーターにより変異体濃度を測定した。反応液をHPLCにより分析した結果を図16、17及び18に示した。モチリン融合タンパク質PMT、PMT6D、PMT7Dからそれぞれ280、250、370μg/mLのモチリンが遊離した。
また、それぞれから遊離したモチリン濃度を100とした場合の副産物AR−motilin(Arg141−Ala142で切断されて生成)、RRAR−motilin(Arg139−Arg140で切断されて生成)の濃度を図16〜図18に示した。PMT(図16)では副産物がそれぞれ2.8、33%生成するのに対し、PMT6D(図17)では3.5、16%となり、特にRRAR−motilinの生成が抑えられた。さらに、PMT7D(図18)ではRRAR−motilin由来のピークが検出されなかった。これは実施例8の結果に一致するものであり、OmpT変異体酵素を用いた場合にも、切断を所望しない部位のP3又はP4位に酸性アミノ酸であるアスパラギン酸を配することによりその部位での切断を抑えることができることがわかった。PMT7Dから最も多くモチリンが遊離した(370μg/mL)が、これは副産物が生成しなかった分、モチリン遊離濃度が高くなったものと考えられる。
次に本発明に係る各種融合タンパク質のそれぞれの基本全アミノ酸配列を示す。
融合タンパク質PRR(配列番号:1;図1;実施例1〜2、13)
PRRに係る配列

上記のアミノ酸配列において、下線部はヒトグルカゴン様ペプチド−1(7−37)(GLP−1(7−37))のアミノ酸配列、2重下線部はOmpTプロテアーゼ切断部位である塩基性アミノ酸対(Arg140−Arg141)を示す。大腸菌のβ−ガラクトシダーゼのN末端117アミノ酸に由来する保護タンパク質(β−gal117S4H)はアミノ酸番号1のメチオニンからアミノ酸番号127のアルギニンまでのアミノ酸配列からなる。リンカーペプチドはアミノ酸番号128のグルタミンからアミノ酸番号153のアルギニンまでのアミノ酸配列からなる。
PA系融合タンパク質(配列番号:2;図2;実施例1〜2)
PAに係る配列

上記のアミノ酸配列において、下線部はヒトグルカゴン様ペプチド−1(7−37)(GLP−1(7−37))のアミノ酸配列、2重下線部はOmpTプロテアーゼ切断部位である塩基性アミノ酸対(Arg140−Arg141)を示す。大腸菌のβ−ガラクトシダーゼのN末端117アミノ酸に由来する保護タンパク質(β−gal117S4H)はアミノ酸番号1のメチオニンからアミノ酸番号127のアルギニンまでのアミノ酸配列からなる。リンカーペプチドはアミノ酸番号128のグルタミンからアミノ酸番号153のアルギニンまでのアミノ酸配列からなる。
PA3’系融合タンパク質(配列番号:3;図2〜3;実施例3〜6
PA3’に係る配列

上記のアミノ酸配列において、下線部はヒトグルカゴン様ペプチド−1(7−37)(GLP−1(7−37))のアミノ酸配列、2重下線部はOmpTプロテアーゼ切断部位(Arg140−Arg141及びArg143−Ala144)を示す。大腸菌のβ−ガラクトシダーゼのN末端117アミノ酸に由来する保護タンパク質(β−gal117S4H)はアミノ酸番号1のメチオニンからアミノ酸番号127のアルギニンまでのアミノ酸配列からなる。リンカーペプチドはアミノ酸番号128のグルタミンからアミノ酸番号153のアルギニンまでのアミノ酸配列からなる。
PA23’系融合タンパク質(配列番号:4;図3〜4;実施例5〜8)
PA23’に係る配列

上記のアミノ酸配列において、下線部はヒトグルカゴン様ペプチド−1(7−37)(GLP−1(7−37))のアミノ酸配列、2重下線部はOmpTプロテアーゼ切断部位(Arg139−Arg140、Arg140−Arg141及びArg143−Ala44)を示す。大腸菌のβ−ガラクトシダーゼのN末端117アミノ酸に由来する保護タンパク質(β−gal117S4H)はアミノ酸番号1のメチオニンからアミノ酸番号127のアルギニンまでのアミノ酸配列からなる。リンカーペプチドはアミノ酸番号128のグルタミンからアミノ酸番号153のアルギニンまでのアミノ酸配列からなる。
融合タンパク質PRMT(配列番号:5;図5;実施例9〜10、14)
PRMTに係る配列

上記のアミノ酸配列において、下線部はヒトモチリンのアミノ酸配列、2重下線部は融合タンパク質PRRのOmpTプロテアーゼ切断部位P1位に相当するアルギニン(Arg140)を示す。大腸菌のβ−ガラクトシダーゼのN末端117アミノ酸に由来する保護タンパク質(β−gal117S4H)はアミノ酸番号1のメチオニンからアミノ酸番号127のアルギニンまでのアミノ酸配列からなる。リンカーペプチドはアミノ酸番号128のグルタミンからアミノ酸番号140のアルギニンまでのアミノ酸配列からなる。
融合タンパク質PMT(配列番号:6;図5;実施例9〜10、14〜15、17〜18)
PMTに係る配列

上記のアミノ酸配列において、下線部はヒトモチリンのアミノ酸配列を示す。大腸菌のβ−ガラクトシダーゼのN末端117アミノ酸に由来する保護タンパク質(β−gal117S4H)はアミノ酸番号1のメチオニンからアミノ酸番号127のアルギニンまでのアミノ酸配列からなる。リンカーペプチドはアミノ酸番号128のグルタミンからアミノ酸番号143のアルギニンまでのアミノ酸配列からなる。
融合タンパク質PAC(配列番号:7;図11;実施例16)
PACに係る配列

上記のアミノ酸配列において、下線部はヒト副腎皮質刺激ホルモン(1−24)のアミノ酸配列を示す。大腸菌のβ−ガラクトシダーゼのN末端117アミノ酸に由来する保護タンパク質(β−gal117S4H)はアミノ酸番号1のメチオニンからアミノ酸番号127のアルギニンまでのアミノ酸配列からなる。リンカーペプチドはアミノ酸番号128のグルタミンからアミノ酸番号143のアルギニンまでのアミノ酸配列からなる。
融合タンパク質PCT(配列番号:8;図11;実施例16)
PCTに係る配列

上記のアミノ酸配列において、下線部はヒトカルシトニン前駆体のアミノ酸配列を示す。大腸菌のβ−ガラクトシダーゼのN末端117アミノ酸に由来する保護タンパク質(β−gal117S4H)はアミノ酸番号1のメチオニンからアミノ酸番号127のアルギニンまでのアミノ酸配列からなる。リンカーペプチドはアミノ酸番号128のグルタミンからアミノ酸番号143のアルギニンまでのアミノ酸配列からなる。
【配列表】








【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチド中の所望する切断部位に係るP1位がアルギニン又はリジンであり、P1’位がアスパラギン酸、グルタミン酸又はプロリン以外であり、P10位からP3位まで又はP3’位からP5’位までのアミノ酸配列中の任意の部位に1つの塩基性アミノ酸又は2つ若しくは3つの塩基性アミノ酸を連続して配し(但し、1つの塩基性アミノ酸を配する場合、P6又はP4位を除く)、OmpTプロテアーゼを用いて当該ポリペプチド中の所望する切断部位で切断することを特徴とするポリペプチドの切断方法。
【請求項2】
所望する切断部位を介してC末端がアルギニン又はリジンである保護ペプチドと融合したN末端がアスパラギン酸、グルタミン酸又はプロリン以外である目的ペプチドからなる融合タンパク質中の当該切断部位に係るP10位からP3位まで又はP3’位からP5’位までのアミノ酸配列中の任意の部位に1つの塩基性アミノ酸又は2つ若しくは3つの塩基性アミノ酸を連続して配し(但し、1つの塩基性アミノ酸を配する場合、P6又はP4位を除く)、上記切断部位がOmpTプロテアーゼにより切断されうる切断部位である融合タンパク質をコードする遺伝子を有する発現プラスミドにより宿主細胞を形質転換し、当該細胞内において上記遺伝子を発現させ、上記切断部位において上記プロテアーゼで切断されることにより融合タンパク質から目的ペプチドを得ることを特徴とする目的ペプチドの製造方法。
【請求項3】
ポリペプチド中又は融合タンパク質中にOmpTプロテアーゼによる切断を所望しない部位が存在する場合、当該部位に係るP3位に酸性アミノ酸を配することにより当該部位における切断を抑制することからなる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ポリペプチド中又は融合タンパク質中の所望する切断部位に係るP10位〜P3位の間に2又は3連続して塩基性アミノ酸を配することからなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ポリペプチド中又は融合タンパク質中の所望する切断部位に係るP5位〜P3位に3連続して塩基性アミノ酸を配することからなる請求項4に記載の方法。
【請求項6】
塩基性アミノ酸がアルギニン及び/又はリジンである請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
塩基性アミノ酸がアルギニンである請求項6項に記載の方法。
【請求項8】
OmpTプロテアーゼを用いて、ポリペプチド中の所望する切断部位で切断することからなるポリペプチドの切断方法又は融合タンパク質中の所望する切断部位で切断することからなる目的ペプチドの製造方法であって、当該ポリペプチド中又は当該融合タンパク質中にOmpTプロテアーゼによる切断を所望しない部位が存在する場合、当該部位に係るP3位に酸性アミノ酸を配することにより当該部位における切断を抑制することを特徴とする当該方法。
【請求項9】
酸性アミノ酸がアスパラギン酸である請求項3〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ポリペプチド中又は融合タンパク質中の所望する切断部位に係るP5位からP1位までのアミノ酸配列がArg−Arg−Arg−Ala−Argである請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ポリペプチド中又は融合タンパク質中の所望する切断部位に係るP7位からP1位までのアミノ酸配列がAsp−Ala−Arg−Arg−Arg−Ala−Argである請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
OmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸が、アラニン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸又はヒスチジンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体を用いてポリペプチド中の所望の切断部位で切断することを特徴とするポリペプチドの切断方法。
【請求項13】
ポリペプチド中の所望する切断部位に係るP1位がアルギニン又はリジンであり、P1’位がアルギニン又はリジン以外である場合に、OmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸が、アラニン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸又はヒスチジンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体を用いて当該ポリペプチド中の所望の切断部位で切断することを特徴とするポリペプチドの切断方法。
【請求項14】
ポリペプチド中の所望する切断部位に係るP1位がアルギニン又はリジンであり、P1’位がアルギニン又はリジン以外であり、P10位からP3位まで又はP3’位からP5’位までのアミノ酸配列中の任意の部位に1つの塩基性アミノ酸又は2つ若しくは3つの塩基性アミノ酸を連続して配し、OmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸が、アラニン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸又はヒスチジンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体を用いて当該ポリペプチド中の所望する切断部位で切断することを特徴とするポリペプチドの切断方法。
【請求項15】
所望する切断部位において、OmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸が、アラニン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸又はヒスチジンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体により切断されうる切断部位を介して保護ペプチドと融合した目的ペプチドからなる融合タンパク質をコードする遺伝子を有する発現プラスミドにより宿主細胞を形質転換し、当該細胞内において上記遺伝子を発現させ、上記切断部位において上記プロテアーゼで切断されることにより融合タンパク質から目的ペプチドを得ることを特徴とする目的ペプチドの製造方法。
【請求項16】
所望する切断部位において、OmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸が、アラニン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸又はヒスチジンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体により切断されうる切断部位を介してC末端がアルギニン又はリジンである保護ペプチドと融合したN末端がアルギニン又はリジン以外である目的ペプチドからなる融合タンパク質をコードする遺伝子を有する発現プラスミドにより宿主細胞を形質転換し、当該細胞内において上記遺伝子を発現させ、上記切断部位において上記プロテアーゼで切断されることにより融合タンパク質から目的ペプチドを得ることを特徴とする目的ペプチドの製造方法。
【請求項17】
所望する切断部位を介してC末端がアルギニン又はリジンである保護ペプチドと融合したN末端がアルギニン又はリジン以外である目的ペプチドからなる融合タンパク質中の当該切断部位に係るP10位からP3位まで又はP3’位からP5’位までのアミノ酸配列中の任意の部位に1つの塩基性アミノ酸又は2つ若しくは3つの塩基性アミノ酸を連続して配し、上記切断部位がOmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸が、アラニン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸又はヒスチジンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体により切断されうる切断部位である融合タンパク質をコードする遺伝子を有する発現プラスミドにより宿主細胞を形質転換し、当該細胞内において上記遺伝子を発現させ、上記切断部位において上記プロテアーゼで切断されることにより融合タンパク質から目的ペプチドを得ることを特徴とする目的ペプチドの製造方法。
【請求項18】
ポリペプチド中又は融合タンパク質中にOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体による切断を所望しない部位が存在する場合、当該部位に係るP3位に酸性アミノ酸を配することにより当該部位における切断を抑制することからなる請求項12〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
ポリペプチド中又は融合タンパク質中の所望する切断部位に係るP10位〜P3位の間に2又は3連続して塩基性アミノ酸を配することからなる請求項12〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
ポリペプチド中又は融合タンパク質中の所望する切断部位に係るP5位〜P3位に3連続して塩基性アミノ酸を配することからなる請求項19に記載の方法。
【請求項21】
塩基性アミノ酸がアルギニン及び/又はリジンである請求項14、17〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
塩基性アミノ酸がアルギニンである請求項21に記載の方法。
【請求項23】
OmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体を用いて、ポリペプチド中の所望する切断部位で切断することからなるポリペプチドの切断方法又は融合タンパク質中の所望する切断部位で切断することからなる目的ペプチドの製造方法であって、当該ポリペプチド中又は当該融合タンパク質中にOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体による切断を所望しない部位が存在する場合、当該部位に係るP3位に酸性アミノ酸を配することにより当該部位における切断を抑制することを特徴とする当該方法。
【請求項24】
酸性アミノ酸がアスパラギン酸である請求項18〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
ポリペプチド中又は融合タンパク質中の所望する切断部位に係るP5位からP1位までのアミノ酸配列がArg−Arg−Arg−Ala−Argである請求項12〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
ポリペプチド中又は融合タンパク質中の所望する切断部位に係るP7位からP1位までのアミノ酸配列がAsp−Ala−Arg−Arg−Arg−Ala−Argである請求項12〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
OmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸が、ロイシン、メチオニン又はヒスチジンである請求項12〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
ポリペプチド又は融合タンパク質中の所望の切断部位に係るP1’位又は目的ペプチドのN末端がセリン又はアラニンであり、97番目のアミノ酸がロイシンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体を用いる請求項12〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
ポリペプチド又は融合タンパク質中の所望の切断部位に係るP1’位又は目的ペプチドのN末端がフェニルアラニン、アラニン、セリン、システイン又はチロシンであり、97番目のアミノ酸がメチオニンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体を用いる請求項12〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
ポリペプチド又は融合タンパク質中の所望の切断部位に係るP1’位又は目的ペプチドのN末端がアラニン、バリン、イソロイシン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン又はアスパラギンであり、97番目のアミノ酸がヒスチジンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体を用いる請求項12〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
目的ペプチドが22残基から45残基のアミノ酸からなるペプチドである請求項2〜11、15〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
目的ペプチドが、副腎皮質刺激ホルモン(1−24)、モチリン又はカルシトニン前駆体である請求項31記載の方法。
【請求項33】
宿主細胞が大腸菌である請求項2〜11、15〜32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
OmpTプロテアーゼ又はOmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸がアラニン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸又はヒスチジンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体をコードする遺伝子を発現する菌体そのものを切断用プロテアーゼとして用いることからなる請求項1〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
OmpTプロテアーゼ又はOmpTプロテアーゼのN末端から97番目のアミノ酸がアラニン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸又はヒスチジンであるOmpTプロテアーゼ97番アミノ酸変異体をコードする遺伝子と当該プロテアーゼによる切断を所望するポリペプチド又は融合タンパク質をコードする遺伝子とを共発現することからなる請求項1〜33のいずれか1項に記載の方法。

【国際公開番号】WO2005/030956
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【発行日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514321(P2005−514321)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014704
【国際出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(503062312)第一アスビオファーマ株式会社 (25)
【Fターム(参考)】