説明

P−PTCサーミスタ組成物の製造方法、P−PTCサーミスタ組成物、P−PTCサーミスタ素体及びP−PTCサーミスタ

【課題】 P−PTCサーミスタの信頼性を十分に高くできるP−PTCサーミスタ組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】 上記課題を解決する本発明のP−PTCサーミスタ組成物の製造方法は、組成物材料準備工程S1、混練物調製工程S2、打ち抜き工程S3、成形工程S4及び架橋工程S5を有し、高分子マトリックスと導電性粒子とを含有する混練物を架橋する架橋工程において、混練物の温度上昇を抑制するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、P−PTCサーミスタ組成物の製造方法、P−PTCサーミスタ組成物、P−PTCサーミスタ素体及びP−PTCサーミスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミック材料からなるサーミスタ素体を備えるPTC(Positive Temperature Coefficient;正特性)サーミスタが知られている。このPTC−サーミスタは自己制御型発熱体、過電流保護素子、温度センサー等に利用されている。したがって、一般にPTC−サーミスタに要求される特性としては、非動作時の室温抵抗値が十分に低いこと、室温抵抗値及び動作時の抵抗値の間の抵抗変化率が極力大きいこと、及び繰り返し動作による抵抗値の変化が十分に小さいこと、が挙げられる。しかしながら、上述のセラミック材料からなるサーミスタ素体を備えるPTCサーミスタは、遮断特性が十分でなく、サーミスタ素体の発熱温度が高いため、上記特性を満足し難いものである。さらには、かかる従来のPTC−サーミスタは小型化、軽量化、低コスト化が困難である。
【0003】
また、近年、PTCサーミスタに対しては、リチウムイオン電池を代表とする電池の保護素子としての需要が増加してきているため、100℃以下、好ましくは80〜95℃前後の動作温度が望まれている。そこで、これらの要求に応えるために、熱可塑性樹脂(高分子マトリックス)と導電性微粒子とからなる成形体をサーミスタ素体として備えるタイプのPTCサーミスタ(以下、必要に応じて「P−PTCサーミスタ」という。)の検討がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、動作温度の調整が容易であり、しかも十分低い室温抵抗が得られ、動作時と非動作時の抵抗変化率の大きいP−PTCサーミスタの提供を意図して、動作温度が比較的低温となるP−PTCサーミスタとして、サーミスタ素体のマトリックス材料に低密度ポリエチレンを用い、これに混合する導電性フィラーとしてニッケル粉末を用いたものが開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−168005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者は、上記特許文献1に記載のものを始めとする従来のP−PTCサーミスタの製造方法について詳細に検討を行ったところ、このような従来の製造方法では、繰り返し動作による抵抗値の変化、特に室温抵抗値の変化を十分に小さくできないことを見出した。
【0006】
通常、PTC−サーミスタの繰り返し動作による抵抗値の変化を評価する方法として、熱衝撃試験が用いられる。熱衝撃性試験とは、一般電子部品の信頼性試験の一つであり、急激な温度変化(熱衝撃)を繰り返し与えた後の電子部品の各種特性を評価する試験をいう。従来、P−PTCサーミスタに対する熱衝撃試験においては、−40℃で30分保持した後に85℃まで温度を上昇させ、そこで30分保持し、再び−40℃まで冷却する、という熱サイクルを繰り返した後のP−PTCサーミスタの抵抗値を測定していた。その結果、室温抵抗値が30mΩ以下であると、繰り返し動作による室温抵抗値の変化が十分に小さいものである、すなわち信頼性が十分高いものであると判断していた。
【0007】
しかしながら、P−PTCサーミスタに対する高信頼性の要求は年々高まっており、上述のような従来の判断基準を満足するだけでは、信頼性に十分優れたP−PTCサーミスタとは言えなくなってきている。
【0008】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、最終的に得られるP−PTCサーミスタの信頼性を十分に高くできるP−PTCサーミスタ組成物の製造方法、P−PTCサーミスタ組成物及びP−PTCサーミスタ素体を提供することを目的とする。また、本発明は、十分に優れた信頼性を示すP−PTCサーミスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明のP−PTCサーミスタ組成物の製造方法は、高分子マトリックスと導電性粒子とを含有する混練物を架橋する架橋工程において、前記混練物の温度上昇を抑制することを特徴とする。
【0010】
P−PTCサーミスタ組成物の製造の際、上記混練物からP−PTCサーミスタ素体を得るためには、その組成物を架橋させる必要がある。このP−PTCサーミスタ組成物の架橋は高分子マトリックスの架橋反応により進行するが、この架橋反応が発熱反応であるため、従来のP−PTCサーミスタ組成物の製造方法では、上述の混練物が上記架橋工程において発熱していた。本発明者らは、架橋工程における混練物の発熱が最終的に得られるP−PTCサーミスタの信頼性に影響を与えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明によると、この混練物の発熱を抑制することにより、P−PTCサーミスタの信頼性は、従来のものよりも優れたものとなる。その要因は現在のところ詳細には明らかにしていないが、その一つとして、以下の要因が考えられる。すなわち、比較的高温で混練物を架橋すると、導電性粒子によって構築される導電パスが多くの部分で分断された状態で高分子マトリックスが架橋されると推定される。架橋処理により得られるサーミスタ素体を冷却すると、導電性パスの分断されていた部分も繋がるようになり、サーミスタ素体は室温付近で非常に低い抵抗値を示す。しかしながら、高分子マトリックスは比較的高温で架橋されているため、室温付近ではサーミスタ素体中に歪みが発生していると考えられる。そのような状態で様々な熱履歴を経ることにより、室温付近におけるサーミスタ素体の歪みが大きくなっていき、それに伴い導電パスの分断が増加する傾向にあるため、室温抵抗値が上昇していくと推測される。
【0012】
一方、本発明のP−PTCサーミスタ組成物の製造方法によると、高分子マトリックスが比較的低温で架橋されているので、導電パスの繋がりが良好な状態で高分子マトリックスの架橋が安定的に形成されていると考えられる。したがって、その後、様々な熱履歴を経ても、高分子マトリックスは室温付近においては安定な架橋状態を維持できるので、サーミスタ素体の室温抵抗値の変化が抑制されていると推定される。
【0013】
あるいは、本発明によると、混練物の発熱を抑制することにより、高分子マトリックスの架橋反応の反応速度が上昇し、混練物の架橋時間が短縮化され、これにより十分に高い信頼性のP−PTCサーミスタが得られるとも考えられる。ただし、要因はこれらに限定されない。
【0014】
ここで、混練物の「温度上昇を抑制する」とは、上述のような架橋工程において、混練物が晒されていた従来の環境よりも混練物の温度上昇を抑制できるような環境下に、上記混練物を配置することをいう。
【0015】
本発明のP−PTCサーミスタ組成物の製造方法では、架橋工程において、混練物の温度が65℃未満となるように混練物の温度上昇を抑制すると、一層信頼性に優れたP−PTCサーミスタを得ることができるので好ましい。
【0016】
本発明のP−PTCサーミスタ組成物の製造方法に用いる高分子マトリックスはポリオレフィン系結晶性ポリマーであると、本発明の効果を一層発揮できるため好ましい。ポリオレフィン系ポリマーは導電性粒子に対して線膨張係数の差が低いため、サーミスタの動作後であってもサーミスタ素体中に内部応力が発生し難く、それによって引き起こされる抵抗値の上昇も抑制される傾向にあると考えられる。このような観点から、ポリオレフィン系結晶性ポリマーが直鎖状低密度ポリエチレンであるとより好ましい。
【0017】
また、本発明のP−PTCサーミスタ組成物の製造方法に用いる導電性粒子がニッケルを主成分とする粒子であることが好ましい。このような粒子が高分子マトリックス中に均一に分散して存在すると、P−PTCサーミスタの熱衝撃試験後の室温抵抗値を十分に低く保つことができ、更には長期間保存した場合の保存安定性に優れる。このような観点から、導電性粒子として、フィラメント状の粒子を用いるとより好ましい。
【0018】
また、上述した混練物には、重量平均分子量が100〜2000である低分子有機化合物を更に含有することが好ましい。これにより、P−PTCサーミスタの抵抗−温度特性曲線にあらわれるヒステリシスを低減することができ、抵抗変化率の増大の効果もあり、さらに動作温度の調整も可能となる。したがって、比抵抗値をより低くできる傾向にある。なお、「比抵抗値」とは、25℃で測定される抵抗値のことをいう。
【0019】
本発明のP−PTCサーミスタ組成物は、高分子マトリックスと導電性粒子とを含有する混練物を架橋する際に、混練物の温度上昇を抑制することにより得られることを特徴とする。このP−PTCサーミスタ組成物を用いてP−PTCサーミスタを製造すると、熱衝撃試験後の室温抵抗値を十分に低く保つことができる。
【0020】
本発明のP−PTCサーミスタ素体は、高分子マトリックスと導電性粒子とを含有するシート状の混練物を架橋する際に、混練物の温度上昇を抑制することにより得られることを特徴とする。このようなサーミスタ素体を用いてP−PTCサーミスタを製造すると、そのサーミスタは十分に優れた信頼性を有することが可能となる。
【0021】
本発明のP−PTCサーミスタは、互いに対向した状態で配置された1対の電極と、当該1対の電極の間に配置されたP−PTCサーミスタ素体とを備え、正の抵抗−温度特性を有し、P−PTCサーミスタ素体が、高分子マトリックスと導電性粒子とを含有するシート状の混練物を架橋する際に、混練物の温度上昇を抑制することにより得られるものであることを特徴とする。
【0022】
このようなP−PTCサーミスタは、上述したP−PTCサーミスタ組成物やP−PTCサーミスタ素子を用いて製造することができる。したがって、このP−PTCサーミスタは、熱衝撃試験後の室温抵抗値を十分に低く保つことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、最終的に得られるP−PTCサーミスタの信頼性を十分に高くできるP−PTCサーミスタ組成物の製造方法、P−PTCサーミスタ組成物及びP−PTCサーミスタ素体を提供することができる。また、本発明によると、十分に優れた信頼性を示すP−PTCサーミスタを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0025】
図1は、本発明の好適な実施形態のP−PTCサーミスタの基本構成を示す模式断面図である。図1に示すP−PTCサーミスタ(以下、単に「サーミスタ」ともいう。)10は、主として、互いに対向した状態で配置された1対の電極2及び電極3と、電極2と電極3との間に配置されており且つ正の抵抗−温度特性を有するP−PTCサーミスタ素体(以下、単に「サーミスタ素体」ともいう。)1とから構成されている。
【0026】
電極2及び電極3は、例えば、平板状の形状を有しており、サーミスタの電極として機能する電子伝導性を有するものであれば特に限定されない。また、必要に応じて電極2及び電極3には図示しないリードが接続されており、それぞれ電極2及び電極3から外部に電荷を放出又は注入することが可能となっている。

【0027】
図2は、本発明の好適な実施形態のP−PTCサーミスタを製造する手順の一例を示す概略フロー図である。以下、この図2に示した順にしたがって各工程を説明する。
【0028】
(組成物材料準備工程)
この組成物材料準備工程S1は、サーミスタ素体1を形成するP−PTCサーミスタ組成物(以下、単に「サーミスタ組成物」ともいう。)の構成材料を準備する工程である。本実施形態の工程S1において準備される構成材料は、高分子マトリックス、低分子有機化合物、及び導電性粒子である。
【0029】
高分子マトリックスとしては、熱可塑性樹脂が好ましく、その中でもポリオレフィン系結晶性ポリマーを用いると更に好ましい。このポリオレフィン系結晶性ポリマーを用いると、サーミスタ10の非動作時の比抵抗値と動作時の比抵抗値との間の変化率が大きくなり、繰り返し動作させた場合であっても使用初期に得られる抵抗値を十分に維持できる傾向にある。よって、サーミスタ10の比抵抗値を一層低くできる傾向にある。このような観点から、このポリオレフィン系結晶性ポリマーが直線状低密度ポリエチレンであると好ましく、メタロセン系触媒により重合された直鎖状ポリエチレンであると更に好ましい。ここで、「メタロセン系触媒」とは、ビス(シクロペンタジニエル)金属錯体系の触媒であり、この触媒を用いた重合反応により得られる直鎖状ポリエチレンは分子量分布が狭くなる傾向にあるため、比較的低温の動作温度のサーミスタを一層容易に得ることができる。
【0030】
上述した効果が発揮される要因として、ポリオレフィン系結晶性ポリマーは導電性粒子に対して線膨張係数の差が低いため、サーミスタ10の動作後であってもサーミスタ素体1中に内部応力が発生し難く、それによって引き起こされる抵抗値の上昇も抑制される傾向にあることが考えられる。ただし、要因はこれに限定されない。
【0031】
高分子マトリックスの融点は、動作時の低分子有機化合物の融解による流動、素体の変形などを防止するため、低分子有機化合物の融点よりも高いことが望ましく、7℃以上高いことが好ましく、7〜40.5℃高いことが望ましい。また、高分子マトリックスの融点は、70〜200℃であることが好ましい。
【0032】
高分子マトリックスの具体例としては、(1)ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)、(2)少なくとも1種のオレフィン(例えばエチレン、プロピレン)と、少なくとも1種の極性基を含有するオレフィン性不飽和モノマ−に基づく繰り返し単位で構成されたコポリマ−(例えば、エチレン−酢酸ビニルコポリマ−)、(3)ハロゲン化ビニルおよびビニリデンポリマ−(例えば、ポリビニルクロライド、ポリビニルフルオライド、ポリビニリデンフルオライド)、(4)ポリアミド(例えば12−ナイロン)、(5)ポリスチレン、(6)ポリアクリロニトリル、(7)熱可塑性エラストマ−、(8)ポリエチレンオキサイド、ポリアセタ−ル、(9)熱可塑性変性セルロ−ス、(10)ポリスルホン類、(11)ポリメチル(メタ)アクリレ−ト等が挙げられる。
【0033】
より具体的には、(1)高密度ポリエチレン[例えば、商品名:ハイゼックス2100JP(三井化学社製)、Marlex6003(フィリップ社製)等]、(2)低密度ポリエチレン[例えば、商品名:LC500(日本ポリケム社製)、DYMH−1(ユニオン−カ−バイド社製)等]、(3)中密度ポリエチレン[例えば、商品名:2604M(ガルフ社製)等]、(4)メタロセン系触媒直鎖状ポリエチレン[例えば、商品名:SP2520(三井化学社製)等]、(5)エチレン−エチルアクリレ−トコポリマ−[例えば、商品名:DPD6169(ユニオン−カ−バイド社製)等]、(6)エチレン−アクリル酸コポリマ−[例えば、商品名:EAA455(ダウケミカル社製)等]、(7)ヘキサフルオエチレン−テトラフルオロエチレンコポリマ−[例えば、商品名:FEP100(デュポン社製)等]、(8)ポリビニリデンフルオライド[例えば、商品名:Kynar461(ペンバルト社製)等]等が挙げられる。
【0034】
このような高分子マトリックスの分子量は重量平均分子量Mwが10000〜5000000であることが好ましい。これらの高分子マトリックスは1種のみを用いても2種以上を併用してもよく、異なる種類の高分子マトリックス同士が架橋された構造を有するものを用いてもよい。
【0035】
サーミスタ素体1に含有される導電性粒子は、電子伝導性を有していれば特に限定されず、例えば、カーボンブラック、グラファイト、各形状の金属粒子若しくはセラミック系導電性粒子を用いることができる。これらは1種類を単独で或いは2種類以上を組み合わせて用いられる。
【0036】
これらのなかで、特に過電流保護素子のような比抵抗値と十分な抵抗変化率の双方が求められる用途の場合、導電性金属粒子を用いることが好ましい。この導電性金属粒子を用いると最終的に得られるサーミスタの比抵抗値をより低くすることができる。そのような観点から、導電性金属粒子としては、銅、アルミニウム、ニッケル、タングステン、モリブデン、銀、亜鉛若しくはコバルト等が用いられるが、特に、銀若しくはニッケルを用いると好ましい。さらにその形状としては、球状、フレーク状若しくは棒状等が挙げられるが、表面にスパイク状の突起を有するものが好ましい。このような導電性金属粒子は、その一つ一つの粒子(一次粒子)が個別に存在する粉体であってもよいが、それらの一次粒子が鎖状に連なりフィラメント状の二次粒子を形成していることがより好ましい。その材質はニッケルを主成分とすると好ましく、比表面積が0.4〜2.5m/gであって、見かけ密度が0.2〜1.0g/cm程度であるとより好ましい。ここで、「比表面積」とは、BET一点法に基づく窒素ガス吸着法により求められる比表面積を示す。
【0037】
このような導電性粒子は下記式(I)で表される化合物の分解反応により得られる粒子であることが好ましい。なお、式(I)中、Mは、Ni、Fe及びCuからなる群より選択される少なくとも1種の元素であると好ましく、Niであるとより好ましい。
【0038】
M(CO) …(I)
【0039】
すなわち、M(CO) → M + 4COの反応の進行により生成する粒子であることが好ましい。M(CO)の分解反応により生成した金属粉は、反応条件により、粒子サイズや粒子形状を、上述した好ましい範囲に制御することができる。
一次粒子の平均粒径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5〜4.0μm程度である。これらのうち、一次粒子の平均粒径は1.0〜4.0μmが最も好ましい。この平均粒径はフィッシュー・サブシーブ法で測定したものである。
【0040】
低分子有機化合物は、サーミスタ10の抵抗−温度特性曲線にあらわれるヒステリシスを低減するためにサーミスタ素体1に含有されるものであり、これにより、抵抗変化率の増大の効果もあり、さらに動作温度の調整も可能となる。したがって、比抵抗値をより低くできる傾向にある。この低分子有機化合物は、重量平均分子量Mwが100〜2000の低分子有機化合物であると好ましく、また、結晶性ポリマーであると好ましい。さらに、低分子有機化合物は、20〜70℃において固体の状態をとるものであると好ましい。
【0041】
低分子有機化合物の具体例としては、例えば、ワックス、油脂、脂肪酸、高級アルコ−ル等から選択されるものである。これらの低分子有機化合物は、市販されており、市販品をそのまま用いることもできる。低分子有機化合物は、これらのうち、1種のみを用いても2種以上を併用してもよい。
【0042】
より具体的には、ワックスとしては、パラフィンワックスやマイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックスをはじめとする植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックスのような天然ワックス等がある。油脂としては、脂肪または固体脂と称されるものなどが挙げられる。
【0043】
ワックスや油脂の成分は、炭化水素(具体的には、炭素数22以上のアルカン系の直鎖炭化水素等)、脂肪酸(具体的には、炭素数22以上のアルカン系の直鎖炭化水素の脂肪酸等)、脂肪酸エステル(具体的には、炭素数20以上の飽和脂肪酸とメチルアルコール等の低級アルコールとから得られる飽和脂肪酸のメチルエステル等)、脂肪酸アミド(具体的には、炭素数10以下の飽和脂肪酸第1アミドやオレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどの不飽和脂肪酸アミド等)、脂肪族アミン(具体的には、炭素数16以上の脂肪族第1アミン)、高級アルコール(具体的には、炭素数16以上のn−アルキルアルコール)などが挙げられる。
【0044】
更に具体的には、低分子有機化合物として、例えば、パラフィンワックス(例えば、テトラコサンC2450;融点(mp)49〜52℃、ヘキサトリアコンタンC3674;mp73℃、商品名HNP−10(日本精蝋社製);mp75℃、HNP−3(日本精蝋社製);mp66℃など)、マイクロクリスタリンワックス(例えば、商品名Hi−Mic−1080(日本精蝋社製);mp83℃、Hi−Mic−1045(日本精蝋社製);mp70℃、Hi−Mic2045(日本精蝋社製);mp64℃、Hi−Mic3090(日本精蝋社製);mp89℃、セラッタ104(日本石油精製社製);mp96℃、155マイクロワックス(日本石油精製社製);mp70℃など)、脂肪酸(例えば、ベヘン酸(日本精化社製);mp81℃、ステアリン酸(日本精化社製);mp72℃、パルミチン酸(日本精化社製);mp64℃など)、脂肪酸エステル(例えば、アラキン酸メチルエステル(東京化成社製);mp48℃など)、脂肪酸アミド(例えば、オレイン酸アミド(日本精化社製);mp76℃)がある。この低分子有機化合物は、動作温度等によって1種あるいは2種以上を選択して用いることができる。
【0045】
サーミスタ組成物中の導電性粒子の含有量は、得られるサーミスタ10の非動作時の比抵抗値と、温度上昇に伴う比抵抗値の変化及び均一な混練物を得る観点から調整される。特に、導電性粒子としてニッケルを主成分とする粒子を用いる場合、サーミスタ10の比抵抗値を2×10−1Ω・cm以下にするようにその粒子の含有割合を調整しても、サーミスタ組成物の体積に対して40体積%以下とすることが可能となる。したがって、サーミスタ素体1にクラックが入り難くなる傾向にあり、そのサーミスタ素体1の電極2、3への密着性が低下することがない傾向にある。
【0046】
また、低分子有機化合物の含有量は、高分子マトリックスの含有量に対して、体積基準で5〜50%とすることが好ましい。低分子有機化合物の含有量が体積基準で5%未満になると、抵抗変化率が十分に得られ難くなる傾向にある。低分子有機化合物の含有量が体積基準で50%を越えると、低分子有機化合物が溶融する際にサーミスタ素体1が大きく変形する他、導電性粒子との混練が困難になる傾向にある。
【0047】
なお、サーミスタ組成物の構成材料として、上述のもの以外に、さらに従来のサーミスタ素体に添加される各種添加剤を含有してもよい。
【0048】
(混練物調製工程)
混練物調製工程S2は、上記組成物材料準備工程S1で準備した高分子マトリックス、低分子有機化合物及び導電性粒子を含有している混練物を調製する工程である。
【0049】
混練の作業は、公知の混練技術を使用すればよく、ニ−ダ、押出機、ミル等の撹拌手段で、例えば、10〜120分程度行えばよい。具体的には、例えば、ラボプラストミル(東洋精機製作所社製)などを用いることができる。
【0050】
なお、必要に応じて混練物を更に粉砕処理し、粉砕物を再び混練してもよい。混練においては、高分子マトリックスの熱劣化を防止する目的で酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤としては、例えば、フェノ−ル類、有機イオウ類、フォスファイト類等が用いられる。
【0051】
ここで、混練物調製工程S2において、溶融・混練温度、混練時間、或いは、同じ試料の溶融・混練回数を複数回行う等の溶融・混練条件の検討を行うことにより、PTCサーミスタ素体1中の金属粉の分散度(分散状態)を調節することができる。
【0052】
(打ち抜き工程)
打ち抜き工程S3は、混練物調製工程S2によって得られた混練物をシート状にするために適当な大きさに打ち抜く工程である。
【0053】
はじめに適当な厚さ(例えば0.8mm)になるように混練物調製工程S2で得られた混練物を130〜240℃の温度で圧着しシート状とする。そして、得られたシート状の混練物を適当な形状(例えば3.5mm×9mmの長方形)に打ち抜くことによって、シート状(例えば直方体状)の混練物を得ることができる。
【0054】
この打ち抜き方法としては、通常のP−PTCサーミスタの製造方法において、混練物を打ち抜く方法であれば特に限定されることなく用いることができる。
【0055】
(成形工程)
成形工程S4は、打ち抜き工程S3によって得られた混練物を、両側から電極材料で挟み圧着することにより成形して、電極2、3に挟まれたシート状の混練物を得る工程である。したがって、本実施形態において成形工程は、電極を混練物に圧着する電極圧着工程を兼ねることとなる。
【0056】
具体的には、打ち抜き工程S3によって得られた混練物は、電極材料で挟み込まれ、温度130〜240℃で圧着される。これにより、電極材料がシート状の混練物に固定される。
【0057】
ここで電極材料としては、通常のP−PTCサーミスタの電極材料に用いられるものであれば、特に限定されることなく採用でき、例えばNiなどの金属板や金属箔を挙げることができる。その厚みは25〜35μm程度である。また、電極材料は表面が粗面化処理された電極材料であることが好ましい。この場合、金属表面の凹凸とシート状の混練物の表面とのアンカー効果によって、より強固に固定することができる。なお、圧着は例えば熱圧着機もしくは加圧ローラを用いて行うことができる。
【0058】
(架橋工程)
架橋工程S5は、成形工程S4によって得られた電極2、3に挟まれたシート状の混練物に対して電子線照射や加熱等を行うことにより、高分子マトリックスを架橋して、場合によっては硬化させ、サーミスタ素体1を得る工程である。この際、本実施形態のP−PTCサーミスタの製造方法によると、発熱するシート状の混練物の温度上昇を抑制するようにしながら、混練物を架橋させる。
【0059】
混練物の温度上昇を抑制する方法(温度上昇抑制手段)としては、その混練物を室温よりも低い温度を有する物質と接触させて混練物を冷却する方法、混練物の発熱により加熱される混練物周囲の気体を強制的に拡散除去して混練物の温度上昇を抑制する方法、などが挙げられる。混練物を室温よりも低い温度を有する物質と接触させる方法においては、上述の物質として、固体状、液体状、気体状を問わない。
【0060】
固体状の物質としては、例えば、凝固した高分子ゲル状物質を含有する保冷剤、氷、ドライアイス、塩化アンモニウム及び塩化ナトリウムを含有する溶液を凝固させて得られる保冷剤などが挙げられる。かかる固体状の物質を混練物と接触させるには、シート状の混練物を固体状の物質上に配置させたり、あるいは固体状の物質で混練物を挟み込んだり等すればよい。この際、固体状の物質を直接混練物に接触させてもよいが、固体状の物質が混練物と直接接触して、混練物が劣化等するのを防ぐためには、固体状の物質と混練物との間に、混練物と反応し難い樹脂製のシート等を介すると好ましい。この樹脂製のシートとしては、電子線等の照射により混練物を架橋させる場合に、その電子線等によっても分解し難いポリオレフィン樹脂が好ましく、入手の容易さの観点からポリエチレンなどがより好ましい。
【0061】
液体状の物質としては、例えば、液体窒素、冷却アルコール、冷水、凝固点降下を利用した金属塩水溶液などが挙げられる。かかる液体状の物質を混練物と接触させるには、容器に貯留した液体状の物質中にシート状の混練物を浸漬させたり、あるいは、流動する液体状の物質中にシート状の混練物を浸漬させたり等すればよい。この際、液体状の物質を直接混練物に接触させてもよいが、液体状の物質が混練物と直接接触して、混練物が劣化等するのを防ぐためには、上述したようなポリオレフィン樹脂からなる容器(袋など)に混練物を入れて密閉した上で、その袋ごと液体状の物質に浸漬すると好ましい。あるいは、上述したような液体状の物質がその中を流動する管上に混練物を配置させてもよい。
【0062】
気体状の物質としては、例えば、冷却された各種ガス(空気、不活性ガス等)、ドライアイスや液体窒素などの揮発した直後のガスなどが挙げられる。かかる気体状の物質を混練物と接触させるには、シート状の混練物をそれらのガス雰囲気中に配置させたり、それらのガスを流通している環境下に配置させたり等すればよい。この際、気体状の物質を直接混練物に接触させてもよいが、気体状の物質が混練物と直接接触して、混練物が劣化等するのを防ぐためには、上述した樹脂製の容器に混練物を入れて密閉した状態で気体状の物質が存在する環境中に配置したり、気体状の物質がその中を流動する管上に混練物を配置させてもよい。
【0063】
なお、本実施形態においては、電極2、3で挟み込んだ状態の混練物の温度上昇を抑制するが、その際、電極2、3が室温よりも低い温度を有する物質に接触し、それらの電極を介して、混練物の温度上昇が抑制されてもよい。
【0064】
混練物の発熱により加熱される混練物周囲の気体を強制的に拡散除去して混練物の温度上昇を抑制する方法としては、混練物の周囲に混練物との反応性が極めて低いガスを流通させる方法などが挙げられる。その際の流通方向としては特に限定されず、混練物の表面延在方向に平行にガスを流通させてもよく、混練物に吹き付けるようにしてガスを流通させてもよい。この際、用いられるガスとしては、空気、酸素、二酸化炭素、窒素、希ガスなど特に限定されないが、特に混練物を劣化させないようにする観点から、窒素や希ガス等の不活性ガスが好ましい。
【0065】
以上説明した温度上昇抑制手段は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、保冷剤で挟んだ混練物に冷却された不活性ガスを吹き付ける等も可能である。
【0066】
図3は、本実施形態の架橋工程において、混練物の温度上昇を抑制する態様の一例を示す模式断面図である。保冷剤54は凝固した高分子ゲル状物質を含有するもの又は塩化アンモニウム及び塩化ナトリウムを含有する溶液を凝固させて得られるものであり、あらかじめ冷凍庫等に貯蔵することにより例えば−20℃付近まで冷却されている。符号52は、電子線に対して透明なポリエチレン製のシートを示しており、2枚のシートの縁端部を互いに接着させ合うことにより袋状を成し、保冷剤をその中に収容して密封されている。このようにして、冷却材50が得られる。
【0067】
冷却材50上には電極(図示せず。)で挟み込まれたシート状の混練物56が配置されている。この状態を約30分間維持して、シート状の混練物が十分に冷却されたら、例えば混練物の上方から適当な照射量の電子線(図示せず。)を混練物56に向けて照射する。これにより、電子線は混練物56に入射する。電子線の照射により、混練物56は、その構成材料である高分子マトリックスの架橋反応の進行に伴い架橋していく。この際、混練物56は発熱するものの、冷却材50(保冷剤54)の作用により、混練物を冷却材50等の上述したような混練物の温度上昇抑制手段を用いない場合と比較して、その温度上昇は十分に抑制される。
【0068】
混練物の温度上昇が抑制されているか否かを確認する方法としては、温度計(温度検知用シール、アルコール温度計、水銀温度計等)を設置した混練物に対して、上述したような温度上昇抑制手段を用いた場合と、用いない場合でそれぞれ架橋処理を施し、その際の温度変化を観察する方法などが挙げられる。
【0069】
本実施形態において、このようにして混練物を架橋させてサーミスタ1を得、そのサーミスタ素体1を備えたP−PTCサーミスタ10が得られる。得られたP−PTCサーミスタ10は、熱衝撃試験後の室温抵抗値を十分に低く保つことができ、例えば、−40℃で30分間維持した後、85℃まで昇温し85℃で30分間維持した後、−40℃まで降温する、という熱サイクルを1000回繰り返したとしても、室温抵抗値を30mΩ以下に保つことができる。特に、混練物の温度変化を観察しながら高分子マトリックスの架橋反応を進行させる際に、混練物の温度が65℃未満となるように、電子線の照射量等を調整して、混練物の温度上昇を抑制すると、かかる効果を一層有効に発揮可能となる。
【0070】
なお、このように混練物の架橋の際の温度上昇を抑制すると、得られるP−PTCサーミスタ10を加熱していく場合の抵抗値の上昇を早めることができ、換言すればP−PTCサーミスタ10の動作時間を短くすることができる。
【0071】
架橋工程を経て得られたサーミスタ10は、リード接合工程を経て用いられる。リード接合工程は、架橋工程により得られたサーミスタ素体1を挟んだ電極2、3の表面にそれぞれリード4、5を接合することによりサーミスタ10の電極2及び電極3から外部に電荷を放出又は注入することを可能とする工程である。このリード接合方法としては、通常のサーミスタの製造方法において用いられるものであれば特に限定されることなく用いることができる。
【0072】
以上、本発明のサーミスタの製造方法の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば上述の実施形態では、混練物を架橋させるのに電子線照射を行っているが、ラジカル重合開始剤を活性化させるエネルギーを混練物に付与する方法であれば特に限定されない。例えば、エネルギーとしては、電子線の他、ガンマ線、紫外線、熱等の手段が挙げられる。この中では、上述の実施形態のように電子線を用いて架橋を行う放射線架橋を行うと、電子加速器を用いて、必要に応じて、適当な加速電圧及び電子線照射量を設定することができるため好ましい。例えば、混練物の全体に亘って均一に架橋させたい場合は、250kV以上、好ましくは1000kV以上の加速電圧を有する電子線を、40〜300KGy、好ましくは40〜200KGyの照射量で照射し、架橋させることもできる。
【0073】
なお、これらのエネルギー照射は一度に多量のエネルギーを付与してもよく、少量のエネルギーを何回かに分けて付与してもよい。これにより、混練物の温度上昇を一層抑制することが可能となる。更に、エネルギーを付与するタイミングは架橋反応を妨げない範囲であれば特に限定されないが、成形工程後に照射することが好ましい。
【0074】
また、例えば、混練物調製工程において、混練手段として押出機、特に二軸押出機を用いると、二軸押出機に投入された高分子マトリックス、低分子有機化合物及び導電性粒子は、二軸押出機内のスクリューにより混合され、押出機の押し出し部(先端部)より押し出される。この際、その押出機の押し出し部にダイを取り付けることによって、混練物がシート状、略円筒状に押し出されるか、若しくは略円筒状に押し出されてもよい。そして押し出された混練物は適度な大きさのダイス毎に切断されてもよい。このように適度な大きさ(例えば質量にして15g程度)のダイス毎に切断されることにより、次の打ち抜き工程を除くことも可能である。
【0075】
また、打ち抜き工程と成形工程の順番を逆にしてもよい。すなわち、混練物に電極2,3を熱圧着した後に、適度な大きさに打ち抜くこともできる。更にまた、架橋工程後に打ち抜き工程を経ることも可能である。あるいは、成形工程より前に混練物に対してある程度架橋処理を施し、成形工程を経た後に、混練物を更に架橋してもよい。
【0076】
更に、架橋工程S5において、上述の温度上昇抑制手段に加えて、大気圧の空気中の酸素分圧よりも酸素分圧を低下させた雰囲気中で混練物の架橋処理を行ってもよい。具体的には、例えば、室温以下の温度に冷却された窒素ガス流通下、排気・密閉された気密性の袋体中に収容された混練物の架橋処理等を行ってもよい。
【0077】
また、本発明の製造方法において、サーミスタの比抵抗値を更に低くするために成形工程S4を行う前に減圧保存工程を行ってもよく、サーミスタの破壊電圧を高くするために成形工程S4を行う前に水接触工程を行うことも可能である。
【0078】
ここで、減圧保存工程とは、成形工程S4を行う前の混練物を減圧雰囲気の下、保存する工程である。また、水接触工程とは、成形工程S4を行う前の混練物を水中で保存する工程である。なお、これらの工程における減圧保存処理及び水接触処理は成形工程S4前であれば両方を同時に行ってもよい。
【実施例】
【0079】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
(実施例1)
結晶性高分子マトリツクスとしてメタロセン触媒直鎖状低密度ポリエチレン(融点122℃、密度0.93g/cm)を60体積%、低分子有機化合物としてポリエチレンワックス(融点100℃、分子量600)を10体積%、導電性粒子としてフィラメント状ニッケル粉末(平均粒径0.7μm)30体積%を準備した(組成物材料準備工程)。次いで、それらの材料をミルに投入し、150℃の温度で30分間ラボプラストミル(東洋精機社製)にて加熱混練して混練物を得た(混練物調製工程)。
【0081】
混練終了後、得られた混練物を取り出し、厚さ0.8mmのシート状になるよう熱成形した。得られたシートを室温まで自然冷却した後、9mm×3.5mmの大きさに打ち抜き、9mm×3.5mm×0.8mmの直方体形状(シート状)の成形物を得た(打ち抜き工程)。
【0082】
得られた成形物の両面に、片側が粗面化されたニッケル板(厚さ100μm)2枚を、粗面化された側が対向するように挟み、通常の熱圧着機により150℃で混練物とニッケル箔を圧着し、全体で厚さ0.7mmの成形体を得た(成形工程)。
【0083】
続いて、塩化アンモニウム及び塩化ナトリウムの溶液を含む保冷剤をポリエチレンシートで包装し密封して得られる市販の冷却材(川合技研社製、ネオアイス、商品名)を2つ準備する。これらを恒温槽(ESPEC社製、PU−1KPH、商品名)で約5時間保存し、約−20℃まで冷却した後、恒温槽から取り出した。また、成形体表面に、温度検知用シール(アズワン社製、サーモラベルスーパーミニ3R、商品名)を貼付した。
【0084】
次に、温度検知用シールを貼付した成形体を図3に示すようにして、2つの冷却材の間に挟み込み、その状態を30分間維持した後、これらをその状態のまま、電子線照射装置内(大気雰囲気)に配置した。次いで、冷却材の外側から成形体に向けて、電子線を加速電圧2000kV、照射線量300kGyの条件で照射して実施例1に係るP−PTCサーミスタを得た(架橋工程)。照射終了後、成形体(サーミスタ素体)に載置された冷却材を取り外して、サーミスタ素体表面の温度検知用シールを観測して、その温度を確認した。その結果を表1に示す。
【0085】
【表1】




【0086】
(実施例2〜5)
冷却材の冷却温度を−20℃に代えて、表1に示した温度とした以外は実施例1と同様にして、実施例2〜5に係るP−PTCサーミスタをそれぞれ得た。
【0087】
(実施例6)
電子線の照射量を300kGyに代えて100kGyとした以外は実施例1と同様にして、実施例6に係るP−PTCサーミスタを得た。
【0088】
(実施例7)
成形工程まで実施例1と同様にして得られた成形体を袋体(ラミジップ(アズワン社製、商品名))に収容した。次いで、袋体に収容された状態で成形体をバキュームシーラーであるCUTE PACK FCB−270(FUJI IMPULSE社製、商品名)にセットし、バキュームシーラー内(袋体内)を減圧した後、袋体の開口端である加熱シール部を加熱圧着することによって袋体を密封した。このときのバキュームシーラー内の酸素分圧は真空に近い状態であり、測定不能であった。そして袋体に真空封入された成形体について、実施例6と同様にして架橋工程を経て、実施例7に係るP−PTCサーミスタを得た。
【0089】
(比較例1)
冷却材を用いずに、直接電子線を成形体に照射した以外は実施例1と同様にして、比較例1に係るP−PTCサーミスタを得た。
【0090】
(比較例2)
電子線の照射量を300kGyに代えて100kGyとした以外は比較例1と同様にして、比較例2に係るP−PTCサーミスタを得た。
【0091】
(サーミスタ特性評価1)
架橋工程の後、実施例1〜5及び比較例1に係るP−PTCサーミスタをそれぞれ24時間大気中に静置し、その次に、該サーミスタの室温抵抗値(初期室温抵抗値)及び温度−抵抗値特性(初期温度−抵抗値特性)を測定した。温度−抵抗値特性の測定は、恒温槽内にサーミスタを配置し、恒温槽の温度を2℃/分の速度で昇温しながら、サーミスタの抵抗値を測定することにより行った。初期室温抵抗値の結果を表1に、初期温度−抵抗値特性の結果を、実施例1については図4、実施例2については図5、実施例3については図6、実施例4については図7、実施例5については図8、比較例1については図9に、それぞれ三角形プロットで示す。
【0092】
次いで、該サーミスタを熱衝撃試験環境下(−40℃で30分間維持し、85℃まで昇温し、85℃で30分間維持し、−40℃まで降温するサイクルを1000回繰り返す環境下。)に晒した後、24時間大気中に静置し、続いて、室温抵抗値(試験後室温抵抗値)及び温度−抵抗値特性(試験後温度−抵抗値特性)を測定した。試験後室温抵抗値の結果を表1に、試験後温度−抵抗値特性の結果を、実施例1については図4、実施例2については図5、実施例3については図6、実施例4については図7、実施例5については図8、比較例1については図9に、それぞれ方形プロットで示す。
【0093】
(サーミスタ特性評価2)
架橋工程の後、実施例6、7及び比較例2に係るP−PTCサーミスタをそれぞれ24時間大気中に静置し、その次に、該サーミスタの室温抵抗値(初期室温抵抗値)及び温度−抵抗値特性(初期温度−抵抗値特性)を測定した。温度−抵抗値特性の測定は、恒温槽内にサーミスタを配置し、恒温槽の温度を2℃/分の速度で昇温しながら、サーミスタの抵抗値を測定することにより行った。初期室温抵抗値及び初期温度−抵抗値特性における動作時間の結果を表2に示す。
【0094】
【表2】




【0095】
次いで、該サーミスタを熱衝撃試験環境下(−40℃で30分間維持し、60℃まで昇温し、60℃で30分間維持し、−40℃まで降温するサイクルを3回繰り返す環境下。)に晒した後、24時間大気中に静置し、続いて、室温抵抗値(試験後室温抵抗値)を測定した。試験後室温抵抗値の結果を表2に示す。なお、表2に示す結果はいずれも、上述の測定を5回行った結果の平均値を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の実施形態のP−PTCサーミスタの基本構成を示す模式断面図である。
【図2】本発明の実施形態のP−PTCサーミスタを製造する手順の一例を示す概略フロー図である
【図3】本発明の実施形態に係る架橋工程における架橋処理の一態様を示す模式断面図である。
【図4】本発明の実施例1のP−PTCサーミスタの温度−抵抗値特性を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例2のP−PTCサーミスタの温度−抵抗値特性を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例3のP−PTCサーミスタの温度−抵抗値特性を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例4のP−PTCサーミスタの温度−抵抗値特性を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例5のP−PTCサーミスタの温度−抵抗値特性を示すグラフである。
【図9】本発明の比較例1のP−PTCサーミスタの温度−抵抗値特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0097】
1・・・P−PTCサーミスタ素体、2、3・・・電極、10・・・P−PTCサーミスタ、50…冷却材、52…シート、54…保冷剤、56…混練物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子マトリックスと導電性粒子とを含有する混練物を架橋する架橋工程において、前記混練物の温度上昇を抑制することを特徴とするP−PTCサーミスタ組成物の製造方法。
【請求項2】
前記架橋工程において、前記混練物の温度が65℃未満となるように前記混練物の温度上昇を抑制することを特徴とする請求項1記載のP−PTCサーミスタ組成物の製造方法。
【請求項3】
前記高分子マトリックスとして、ポリオレフィン系結晶性ポリマーを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のP−PTCサーミスタ組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系結晶性ポリマーが直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項3記載のP−PTCサーミスタ組成物の製造方法。
【請求項5】
前記導電性粒子として、ニッケルを主成分とする粒子を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のP−PTCサーミスタ組成物の製造方法。
【請求項6】
前記導電性粒子として、フィラメント状の粒子を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のP−PTCサーミスタ組成物の製造方法。
【請求項7】
重量平均分子量が100〜2000である低分子有機化合物を更に含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のP−PTCサーミスタ組成物の製造方法。
【請求項8】
高分子マトリックスと導電性粒子とを含有する混練物を架橋する際に、前記混練物の温度上昇を抑制することにより得られることを特徴とするP−PTCサーミスタ組成物。
【請求項9】
高分子マトリックスと導電性粒子とを含有するシート状の混練物を架橋する際に、前記混練物の温度上昇を抑制することにより得られることを特徴とするP−PTCサーミスタ素体。
【請求項10】
互いに対向した状態で配置された1対の電極と、前記1対の電極の間に配置されたP−PTCサーミスタ素体と、を備え、
正の抵抗−温度特性を有し、
前記P−PTCサーミスタ素体が、高分子マトリックスと導電性粒子とを含有するシート状の混練物を架橋する際に、前記混練物の温度上昇を抑制することにより得られるものである、ことを特徴とするP−PTCサーミスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−59952(P2007−59952A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327489(P2006−327489)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【分割の表示】特願2004−133984(P2004−133984)の分割
【原出願日】平成16年4月28日(2004.4.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】