説明

PAN系繊維紡糸における水系凝固剤からの未反応モノマー回収装置

【課題】
本発明の目的は、かかる従来技術の背景に鑑み、凝縮器詰まりによる洗浄停機を防止するモノマー回収装置および方法を提供することである。
【解決手段】
ラジカル開始剤による、均一溶液重合によって得られたポリアクリロニトリル系重合体を紡出してポリアクリロニトリル系繊維を得る際に生じる、未反応のモノマー・未分解ラジカル開始剤を含む水系凝固剤からモノマーを気化分離させる蒸留部、及び気化したモノマー成分と水とを凝縮させる凝縮部からなる系内において、凝縮部の詰まりを冷却水調節バルブの開度から検知して、自動的に凝縮器を他の凝縮器に切り換えることを特徴とする、凝縮器のみを複数有するモノマー回収装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル開始剤による、均一溶液重合によって得られたポリアクリロニトリル(PAN)系重合体を紡出してPAN系繊維を得る際に生じる、未反応モノマー・溶液・未分解ラジカル開始剤・開始剤分解物・水・及びその他添加物を含む水系凝固剤からモノマーを気化分離させること、及び気化したモノマー成分と水とを凝縮させてモノマー回収する装置およびモノマーの回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にアクリロニトリルの重合はラジカル重合であり、工業的にPAN系重合体を得るプロセスには、均一系である溶液重合と不均一系である水系懸濁重合に大別される。均一系溶液重合においては、一般にラジカル重合の反応速度は反応の進行が進むにつれて遅くなるので、高転化率を得るためには、大型の装置、あるいは長い反応時間を必要とし工業的に不利であるため、転化率を90%前後で打ち切るのが経済的にも有利である。このため、重合体溶液は未反応のモノマーを含んでいる。溶液重合は均一重合であるため、水系不均一重合で必要となるポリマーの分離、乾燥、溶解工程がなく、水系不均一重合に比較して工程が簡略であるという利点がある。溶液重合での未反応モノマーの除去は、重合を打ち切り、未反応モノマーを含む重合体溶液を、減圧した脱気槽の内壁に薄膜にして供給し、未反応モノマーを除去する方法が一般的である。得られた重合溶液を水系凝固剤中へ紡糸してPAN系繊維が得られる。
この水系凝固剤へは未反応モノマー・溶液・未分解ラジカル開始剤・開始剤分解物・水・及びその他添加剤が含まれる。前記水系凝固剤からモノマーを気化分離させること及びモノマー成分と水とを凝縮させ未反応モノマーを回収する際に、蒸留塔を用いるが凝縮器で未反応モノマーと未反応ラジカル開始剤の昇華したものが析出・重合し、凝縮器つまりを形成する。
従来の方法として、モノマー回収設備を複数有し洗浄時期をずらしながら運転を継続するという方法があるが、設備コストが高くなることから好ましくない。
【0003】
さらに、特許文献1のように凝縮器へ重合禁止剤を添加し、重合を抑えるものが提案されているが、昇華した未反応ラジカル開始剤の析出を防ぐことはできず、析出・重合によって凝縮器が詰まった際は洗浄停機を強いられる。また、禁止剤をppmオーダーで添加するため、処理量が大きく変動すると均一に添加するのが困難である。
【0004】
また、凝縮器詰まりを予測するものとして特許文献2のように冷媒の温度・水量から冷媒通過管内の詰まりを予測するものがある。しかしながら、これは管内の詰まり警報であり、凝縮部で未反応ラジカル開始剤とモノマーが重合し詰まりを生ずるプロセスでの警報として用いたとしても、洗浄時期を判断するのに役立つが、洗浄停機を回避する方法とはなり得ない。
【特許文献1】特開2003−292528 号公報
【特許文献2】特開 昭60−149857 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、かかる従来技術の背景に鑑み、凝縮器詰まりによる洗浄停機を防止するモノマー回収装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
【0007】
すなわち、ラジカル開始剤による、均一溶液重合によって得られたポリアクリロニトリル系重合体を紡出してポリアクリロニトリル系繊維を得る際に生じる、未反応のモノマー・未分解ラジカル開始剤を含む水系凝固剤からモノマーを気化分離させる蒸留部、及び気化したモノマー成分と水とを凝縮させる凝縮部からなる系内において、凝縮部の詰まりを冷却水調節バルブの開度から検知して、自動的に凝縮器を他の凝縮器に切り換えることを特徴とする、凝縮器のみを複数有するモノマー回収装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下に説明するとおり、アクリロニトリル系モノマーの重合時における未反応モノマー成分の回収方法において、未反応モノマーを含む工程液からモノマー除去する際に、従来よりも大幅に凝縮器詰まりによる洗浄停機を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の代表的な実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
本発明は、ラジカル開始剤による、均一溶液重合によって得られたPAN系重合体を紡出してPAN系繊維を得る際に生じる、未反応モノマー・溶液・未反応ラジカル開始剤・開始剤分解物・水、及びその他添加物を含む水系凝固剤からモノマー成分を気化分離させること、及び気化したモノマー成分と水とを凝縮させる系内において、凝縮器つまりによる洗浄停機を防止する技術に関する。
【0011】
図2は、従来のモノマー回収工程全てを模試的に示している。
まず、紡出工程1から蒸留塔2へ水系凝固剤が供給される。この水系凝固剤は、ラジカル開始剤による溶液均一重合によって得られたPAN系重合体を紡出してPAN系繊維を得る際に生じる、未反応モノマー・溶液・未反応ラジカル開始剤・開始剤分解物・水、及びその他添加物を含んだ水溶液である。
【0012】
蒸留塔2では直接蒸留する方法によってモノマー/水は蒸留されて気化し、凝縮器3に導入されて未反応モノマー成分と水の混合液になる。凝縮器3で液化されたモノマー成分と水との混合液はデカンター6を介して分離され、モノマー成分と水とで回収される。
この凝縮器3は温度計5で出側混合液の温度を監視し、冷却水量を冷却水量調整バルブ4で調整しながら、運転を継続している。
【0013】
ところで、気化して凝縮器3に送り込まれる混合気体にはモノマー成分及び水の他に、僅かではあるが、未反応ラジカル開始剤の昇華したものが混入している。この未反応ラジカル開始剤の昇華したものは、冷却により析出し、モノマー成分の重合開始剤として機能する。この析出物およびモノマー成分の重合体が凝縮器3に詰まりを生じさせる。詰まりに伴って装置の伝熱効果の妨げが発生し、詰まり発生前の冷却水量では十分な冷却が出来ずに温度計5の温度が上がり、元に戻そうと、冷却水量調整バルブ4が開いて冷却水量を増やしてゆく。
【0014】
やがてこの冷却水量調整バルブ4を全開にしても温度が下がらなくなり、詰まり除去のための洗浄停機せざるを得なくなる。
【0015】
図1は、本発明におけるモノマー回収装置の一例を示している。
本発明にあっては、凝縮器の数を複数個有することもできるが、設備費ミニマイズのため、本実施形態では2つとしている。
まず、紡出工程1から蒸留塔2へ水系凝固剤が供給される。
蒸留塔2では直接蒸留する方法によってモノマー/水は蒸留されて気化し、一方向へしか流れない切替弁7aを介し、凝縮器3aへ導入されて未反応モノマー成分と水の混合液になる。この凝縮器3aで液化されたモノマー成分と水との混合液は一方向からしか流れない切替弁7bを介して、デカンター6へ供給される。その後、混合液はデカンター6で分離され、モノマー成分と水とで回収される。
この凝縮器3aは温度計5aで出側混合液の温度を監視し、冷却水量を冷却水量調整バルブ4aで調整しながら、運転を継続している。
凝縮器3aに詰まりが生じた際、温度計5aの温度が上がり、元に戻そうと、冷却水量調整バルブ4aが開いて冷却水量を増やしてゆく。
やがてこの冷却水量調整バルブ4aを全開にしても温度が下がらなくなる。この際、冷却水量調整バルブ4aの全開の信号を合図として、一方向へしか流れない切替弁7a及び一方向からしか流れない切替弁7bが凝縮器3b側へ切り替わる。その後、凝縮器3bは温度5bを監視し、冷却水量を冷却水量調整バルブ4bで調整することにより運転を継続することが出来る。従って、凝縮器3aの詰まりは、蒸留塔を含むモノマー回収装置全体を洗浄停機させることなく、除去することが可能となる。
【実施例】
【0016】
(実施例1)アクリロニトリル99.7mol%、イタコン酸0.3mol%をジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒として重合し、未反応モノマーを1.7重量%含むポリマー濃度19.7重量%、45℃における粘度が600ポイズのアクリル系重合体のDMSO溶液を水系凝固浴へ紡出してPAN系繊維を得た際に発生した、水系凝固剤を図1にしめすモノマー回収装置で、凝縮器を切り替えながらモノマー回収運転を実施した。10ヶ月間上記の運転を継続した後でも凝縮器詰まりによる洗浄停機は無かった。
(比較例1)図2にあるように単一の凝縮器しか持たず、切り替え運転しないこと以外は実施例1と同様の方法でモノマー運転を実施したところ、2ヶ月後に凝縮器に詰まりが生じ、凝縮不能となって洗浄停機を余儀なくされた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態の一例であるモノマー回収装置。
【図2】従来のモノマー回収装置を示した図である。
【符号の説明】
【0018】
1 :紡出工程
2 :蒸留塔
3、3a、3b:凝縮器
4、4a、4b:冷却水量調整バルブ
5、5a、5b:温度計
6 :デカンター
7a、7b :切替弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル開始剤による、均一溶液重合によって得られたポリアクリロニトリル系重合体を紡出してポリアクリロニトリル系繊維を得る際に生じる、未反応のモノマー・未分解ラジカル開始剤を含む水系凝固剤からモノマーを気化分離させる蒸留部、及び気化したモノマー成分と水とを凝縮させる凝縮部からなる系内において、凝縮部の詰まりを冷却水調節バルブの開度から検知して、自動的に凝縮器を他の凝縮器に切り換えることを特徴とする、凝縮器のみを複数有するモノマー回収装置。
【請求項2】
請求項1記載のモノマー回収装置において、冷却水量調節バルブが全開になった際、自動的に凝縮器を切り替えることを特徴とするモノマーの回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−241648(P2006−241648A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−61946(P2005−61946)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】