説明

PCB含有油泥処理装置

【課題】 本発明は、PCBが付着した微粉末を含む油泥を無害化処理することに適したPCB含有油泥処理装置を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明にかかるPCB含有油泥処理装置の代表的な構成は、PCBが付着した微粉末を含む油泥とPCBを洗浄する溶剤との混合液を貯留する撹拌槽204と、撹拌槽内の混合液を撹拌する撹拌装置208と、油泥が沈降した後に上澄みの溶剤を抜き出す溶剤抜出装置210と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCBが付着した微粉末を含む油泥を無害化処理するPCB含有油泥処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビフェニル(以下PCBと略称する)は、化学的に安定している、熱により分解しにくい、電気絶縁性に優れている、沸点が高い、不燃性であるなどの性質を有する物質である。このため、変圧器、安定器、開閉器、計器用変成器、コンデンサ、サージアブソーバ、遮断器、整流器、放電コイル、リアクトル等に使用する絶縁油、ボイラーや熱交換器の熱媒体等幅広い分野で使用されてきた。わが国では、これまで約59、000トンのPCBが生産され、このうち約54,000トンが国内で使用された(例えば非特許文献1)。
【0003】
近年、PCBの人体への有毒性が明らかになり、わが国では1972年からは、PCBの新たな製造はされなくなった。さらに、1973年に制定された「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」に基づき、1974年からは、その製造、輸入等が事実上禁止となった。その後、我が国においては、高圧変圧器及び高圧コンデンサを始めとしたPCB廃棄物について、その処理体制の整備が著しく停滞していたため、長期にわたり処分がなされず、事業者において保管が行われてきた。このように処分のめどが立たないまま長期にわたる保管が継続する中で、PCB廃棄物の紛失等が発生し、環境汚染の進行が懸念される状況となっている。
【0004】
そこで「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」が2001年に施行され、PCBおよびPCBを含む廃油等を15年以内に処分するよう義務付けた。
【0005】
従来からのPCBの処理法としては様々なものが提唱されており、代表的なものとしては、脱塩素化分解法、水熱酸化分解法、還元熱分解法、光分解法、プラズマ分解法などがある。
【0006】
PCBそれ自体を処理する前段階として、PCBが付着した機器を部材ごとに解体する必要がある。例えば特許文献1(特開2006−334572号)には、PCB混入絶縁油を含有する変圧器の解体および洗浄方法が開示されている。
【特許文献1】特開2006−334572号
【非特許文献1】環境省 「ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画」 <インターネットURL http://www.env.go.jp/recycle/poly/plan/180320.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているように、PCB処理装置においては、洗浄処理を行う前に被処理物たる機器および部品を分解し、物によっては破砕する必要がある。このように分解や破砕するとき、微粉末が発生し、被処理物に付着したまま洗浄処理が行われる。
【0008】
微粉末には金属粉のスラッジから木片、紙粉など様々なものが含まれており、材質も比重も多種多様である。洗浄により被処理物から除去された微粉末は大きなものはストレーナ(40メッシュのフィルタ)で分離している。しかし、数nmから数μmくらいの大きさのものはストレーナでは分離できず、使用後の溶剤(洗浄液)と共に受入槽や蒸留塔に導入され、その底部に蓄積する。この蓄積した油泥は、PCB処理装置の定期点検ごとに排出される。
【0009】
上記のように粒子の細かい微粉末は、緻密なケーキ層(液中の懸濁物質が蓄積して形成するケーキ状の堆積層)を形成しやすい。ケーキ層には溶剤が自然通液しにくいため、溶剤中に堆積しているにもかかわらず、無害化処理は困難である。したがって定期点検時に排出された油泥には、極めて微量ながらも処理すべき濃度のPCBが残留している。
【0010】
しかしながら、上記のように微粉末からなる油泥を適切に処理する方法がなく、PCB処理装置が稼働するにつれて増加するPCB含有油泥の処遇に苦慮していた。
【0011】
そこで本発明は、PCBが付着した微粉末を含む油泥を無害化処理することに適したPCB含有油泥処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明にかかるPCB含有油泥処理装置の代表的な構成は、PCBが付着した微粉末を含む油泥とPCBを洗浄する溶剤との混合液を貯留する撹拌槽と、撹拌槽内の混合液を撹拌する撹拌装置と、油泥が沈降した後に上澄みの溶剤を抜き出す溶剤抜出装置と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、PCBが付着した微粉末を含む油泥を、無害化処理した後に、溶剤と油泥とを分離させることができる。すなわち、油泥が数nmから数μm程度の極めて小さな微粉末であるとき、フィルタを用いて捕捉しながら通液しようとすれば目詰まりを生じてしまって効率が著しく低下するが、上記構成によれば高速かつ効果的に無害化処理することができる。
【0014】
撹拌装置は、溶液中に挿入した攪拌羽根を回転させることによって行う機械撹拌であってもよい。なお、バブリングによる撹拌は有機溶剤が揮発してしまうため好ましくなく、スラリー循環による撹拌は金属微粉によるポンプ部品の摩耗を招くため好ましくない。これに対し上記のように攪拌機による機械撹拌を行うことにより、油泥と溶剤の混合液を支障なくよく撹拌することができる。
【0015】
撹拌槽の底面に傾斜面を形成し、撹拌装置による下降流を傾斜面に沿わせることによって上昇流に変換してもよい。これにより撹拌槽内全体に行き渡る流れを生成し、よりよく撹拌を行うことができる。
【0016】
吸引管の撹拌槽側の先端は昇降可能であって、上澄みの溶剤に上方から進入してもよい。堆積した油泥の高さに応じて吸引管を下降させることにより、堆積した油泥の表面近傍の溶剤まで吸引することができる。
【0017】
吸引管の撹拌槽内部側の先端に上面が開口した容器状の集液桶を備えていてもよい。これにより、吸引管先端から溶剤を吸引する際の流れによって油泥を巻き上げてしまうことを防止することができる。特に集液桶を沈殿物に一部めり込ませた状態で、その集液桶の内部から吸引することにより、油泥を巻き上げることなく、かつ油泥のきわめて表面近傍の溶剤まで吸引することができる。
【0018】
撹拌槽から排出した洗浄後の油泥を乾燥させるための脱液装置を備え、脱液装置は、減圧装置と、加熱装置とを有していてもよい。油泥が極めて粒子の小さい微粉末であることから、圧搾による脱液ではフィルタに早期に目詰まりを生じ、効率が上がらないという問題がある。しかし、加熱と減圧によって溶剤を蒸気化すれば円滑にフィルタを通過することができるため、目詰まりを生じることなく脱液、乾燥することができる。
【0019】
脱液装置は、柔軟性を有するフィルタからなる濾布袋を設置可能であって、濾布袋に油泥を充填することでもよい。濾布袋は柔軟性を有するフィルタとすることにより、硬質のものよりも目の細かいフィルタを採用しやすい。また交換可能な袋体とすることにより、設置式のフィルタよりもバッチ処理が容易である。
【0020】
濾布袋を支持する載置台を備え、加熱装置は載置台を加熱してもよい。減圧した状態において脱液装置の外壁から加熱したとしても、熱伝達媒体となるべき空気がほとんど存在しないため、油泥を加熱することが困難である。そこで濾布袋の載置台を加熱することにより、濾布袋に当接した載置台によって直接的に加熱することが可能となる。
【0021】
加熱装置は、少なくとも傾斜方向の上方と下方で独立して温度制御可能としてもよい。脱液(乾燥)が進行すると上方よりも下方の方により多くの溶剤が残留し、上方が先に乾燥する。そこで上記のようにヒータを上下独立して温度制御可能としたことにより、上方のヒータの温度が所定温度以上に上昇した場合(上方が乾燥した場合)にはその加熱を低下または停止させることにより、効率的に脱液することができる。
【0022】
濾布袋を支持する載置台を備え、載置台は、油泥の進入方向に対して下方に向かって約15°以上傾斜していることが好ましい。これにより、濾布袋中に油泥を円滑に導入することができる。
【0023】
脱液装置の蓋に、濾布袋の開口部を押さえて封止する閉塞部材と、濾布袋のほぼ全面を載置台に向かって圧迫する圧迫板を備えていてもよい。圧迫板は、濾布袋内の溶剤が蒸気化して脱液される際に、濾布袋を圧迫していることにより、濾布袋(すなわち油泥)を平坦に成形することができる。これにより、脱液装置の蓋を閉じるという1つの段取りによって、濾布袋の開口部を封止しつつ、同時に濾布袋の全面を圧迫することができる。
【0024】
閉塞部材および圧迫板は共に濾布袋に向かって付勢されており、閉塞部材の方が圧迫板よりも濾布袋に向かって突出して配置されており、かつ、閉塞部材の付勢力の方が圧迫板の付勢力よりも強いことが好ましい。これにより、濾布袋から油泥が漏出することを防止することができる。
【0025】
圧迫板は多数の開口を有していてもよい。これにより、圧迫板による圧搾で濾布袋の表面から漏出する溶剤を円滑に流出させることができる。多数の開口を有する圧迫板の例としては、パンチングメタル、網体、枠体などで構成することができる。
【0026】
減圧装置には、水分離装置を設けていてもよい。特に減圧装置が油回転真空ポンプである場合には、動作油に水が混入すると動作油が浮いてしまい、動作不良を招くためである。
【0027】
脱液装置から排出されたガスを冷却して液化させる凝縮器を備えていてもよい。これにより、排出された水と溶剤を回収して再利用することができる。
【0028】
撹拌槽または脱液装置の上方に配置された排気ダクトと、排気ダクトに接続された活性炭フィルタとを備えていてもよい。これにより排出される雰囲気ガスに仮に微量のPCBが混入していたとしても、確実に吸収して漏洩を防止することができる。
【0029】
撹拌槽と脱液装置との間に、所定の容量を有する計量槽と、撹拌槽と計量槽との間の経路を開閉する第1バルブと、計量槽と脱液装置との間の経路を開閉する第2バルブとを備えていてもよい。これにより、撹拌槽に沈殿した油泥を所定容量の計量槽に移送して充填し、撹拌槽から計量槽への移送を停止した後に、計量槽から脱液装置に油泥を移送することができる。したがって、きわめて簡易に一定量の油泥を脱液装置に移送することができる。
【0030】
計量槽は、上端が撹拌槽内の液面より上方に位置する空気抜き管を有していてもよい。これにより撹拌槽から計量槽に油泥を移送する際に、第1バルブを締めるのが遅れたとしても、計量槽から油泥があふれ出ることを防止することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明にかかるPCB含有油泥処理装置によれば、PCBが付着した数nmから数μm程度の極めて小さな微粉末を含む油泥を、高速かつ効果的に無害化処理した後に、溶剤と油泥とを分離させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明にかかるPCB含有油泥処理装置の実施形態について説明する。以下の実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。
【0033】
[PCB処理装置]
図1は機器のPCB無害化処理を行う装置の概略構成を示す図であって、本実施形態にかかるPCB含有油泥処理装置の処理対象となる「PCBが付着した微粉末を含む油泥」が生じる過程について説明する。
【0034】
図1に示すPCB処理装置500は、処理対象となる機器の例としての柱上変圧器の洗浄と再資源化を行うための設備である。PCB処理装置500は大別して、受入解体設備510と、洗浄設備520、判定設備530、払出設備540を備えている。
【0035】
受入解体設備510では、一時保管所512に受け入れられた機器を解体ライン514において碍子、金属、ケース(鉄)、木材などの材質に応じて分解する。特に柱状変圧器では鉄心と銅製のコイルを分離機516において分解する。これらの解体や分離された被処理物は材質毎に分類し、所定の形状と容量を有するバケット(不図示)に入れられた状態で洗浄設備520の洗浄機522へと搬送される。
【0036】
洗浄設備520では、被処理物は洗浄機522においてバケットごと溶剤に浸漬される。被処理物には主として表面にPCBが付着しており、浸積洗浄および超音波洗浄によって洗浄される。洗浄に用いる溶剤としては既知の様々なものを使用することができるが、例えばウンデカン(C1124)などの有機化合物を利用することができる。コイルには絶縁紙が巻き付けられているため、洗浄後に破砕機/選別機524へと搬送して銅と絶縁紙を分離・選別した後に、さらに銅線は銅二次洗浄機525において再度洗浄する。分離した絶縁紙は、焼却処分によって高温無害化することができる。洗浄した被処理物、および二次洗浄したコイルの銅線は、判定設備530の判定機532へと搬送される。
【0037】
判定設備530において、判定機532では、溶剤に洗浄後の被処理物等を浸漬し、溶剤のPCB濃度を測定することにより、卒業(洗浄が完了したか否か)を判定する。卒業判定に合格すると、払出設備540の払出前保管所542に一時的に保管された後に払い出しされ、再利用できる材質はリサイクル設備へと搬出され、再利用できないものは産業廃棄物として焼却処分などの適正な処理が施される。
【0038】
上記構成のPCB処理装置において、洗浄機522または銅二次洗浄機525で使用した溶剤は、使用済溶剤の受入槽527に回収され、蒸留塔528において再生処理された後に、循環して再利用される。一方、受入解体設備510において分解や破砕された被処理物には、微粉末を含む破片が付着しており、洗浄によって溶剤に混入して溶剤と共に回収される。洗浄機522や銅二次洗浄機525と受入槽527の間にはストレーナ526が配置されており、40メッシュのフィルタによって大きめの破片を回収している。しかし数nmから数μmくらいの大きさのものはストレーナ526では分離できず、使用後の溶剤と共に受入槽527や蒸留塔528に導入され、その底部に蓄積する。この蓄積した破片は、油泥としてPCB処理装置の定期点検ごとに排出される。
【0039】
油泥はPCBが付着した微粉末を含み、微粉末は金属粉のスラッジから木片、紙粉など様々なものが含まれており、材質も比重も多種多様である。洗浄機522や銅二次洗浄機525において溶剤に浸漬されていることからPCBの濃度は低下しているものの、完全には除去されておらず、極めて微量ながらも処理すべき濃度のPCBが残留している。そこで本発明は、以下のPCB含有油泥処理装置およびPCB含有油泥処理方法によって、油泥の処理を行う。
【0040】
[PCB含有油泥処理装置およびPCB含有油泥処理方法]
図2〜図4は本実施形態にかかるPCB含有油泥処理装置を示す図であって、図2はPCB含有油泥処理装置の正面図、図3はPCB含有油泥処理装置の側面図、図4はPCB含有油泥処理装置の平面図である。
【0041】
図2乃至図4に示すPCB含有油泥処理装置(以下、単に「処理装置100」という。)は大別して、撹拌分離部200と、計量移送部220と、脱液乾燥部240とを備えている。
【0042】
図2に示すように、撹拌分離部200には、PCBが付着した微粉末を含む油泥がドラム缶102に収容されて搬入される。ドラム缶102はローラコンベア202によって撹拌槽204へと移動し、パワーシリンダー206によって持ち上げられつつ傾けられ、油泥を撹拌槽204へと投入する。また撹拌槽204へは、PCBを洗浄するための溶剤が、例えば油泥と同量程度投入される。ここで用いる溶剤は、上記説明したPCB処理装置500において用いた溶剤と同じ材質であることが好ましい。
【0043】
撹拌槽204には、貯留した油泥と溶剤の混合液を撹拌する撹拌装置208と、油泥が沈降した後に上澄みの溶剤を抜き出す溶剤抜出装置210とを備えている。また撹拌槽204は蓋204aを備えており、撹拌中には蓋を閉じるように構成されている。
【0044】
撹拌装置208はモータ208aの駆動軸の先端に撹拌羽根208bを備えている。撹拌羽根208bは撹拌槽204の底部近傍に配置されており、貯留した混合液に下降流を生じさせることにより機械撹拌する。一方、撹拌槽204の底面には、撹拌装置208による下降流と対向する位置に傾斜面204bが形成されており、下降流を傾斜面204bに沿わせることによって上昇流に変換している。これにより撹拌槽内全体を循環する流れを生成し、よりよく撹拌を行うことができる。
【0045】
溶剤抜出装置210は、図3に示すように、撹拌槽より下方に設置された溶剤貯槽212と、一端が溶剤貯槽212に接続され他端が撹拌槽204内の溶剤に挿入された吸引管214とを有している。
【0046】
上記構成の撹拌槽204、撹拌装置208、溶剤抜出装置210を用いて、油泥に付着したPCBを処理する工程について説明する。図5は油泥の洗浄工程を説明するフローチャート、図6は撹拌槽内の油泥と溶剤の状態を説明する模式図である。
【0047】
まず撹拌槽204に油泥と溶剤を投入して貯留し(S102)、図6(a)に示すように撹拌装置208を用いて混合液を所定時間(例えば1時間)撹拌する(撹拌工程:S104)。撹拌羽根208bの回転速度は、例えば200rpmとすることができる。図6(b)に示すように、所定時間(例えば12時間)静置し、油泥を沈降させる(静置分離工程:S106)。図6(c)に示すように、油泥が沈降した後の上澄みの溶剤を抜き出す(溶剤抜出工程:S108)。
【0048】
次に抜き出した溶剤のPCB濃度を測定し(S110)、基準値以下であるか否かを判定する(S112)。基準値以上であった場合には図6(d)に示すように撹拌槽に再び溶剤を補充し(S114)、基準値以下となるまで撹拌工程(S104)〜溶剤抜出工程(S108)を繰り返す。基準値以下であった場合には、撹拌槽204の排出口204c(図2参照)から計量槽へ払い出しをする(S116)。このとき、撹拌羽根208bは数rpm程度の超低速回転を行うことにより、油泥を円滑に送出する。
【0049】
上記構成によれば、PCBが付着した微粉末を含む油泥を、無害化処理した後に、溶剤と油泥とを分離させることができる。すなわち、油泥が数nmから数μm程度の極めて小さな微粉末であるとき、フィルタを用いて捕捉しながら通液しようとすれば目詰まりを生じてしまって効率が著しく低下するが、上記のように静置による沈降を行うことにより、高速かつ効果的に分離することができる。なお、一般に微粉末は沈降が遅いが、撹拌することにより逆に早期に沈降することがわかった。これは、底部に溜まった金属粉を撹拌によって巻き上げることにより、溶剤中に浮遊する紙粉などを付着させ、もしくは紙粉を分散させることによって沈降を促進させることができると考えられる。
【0050】
また、油泥のPCB濃度を直接測定することは困難であるが、抜き出した溶剤のPCB濃度を測定することにより、油泥のPCB濃度を間接的に測定して無害化処理の達成を判定することができる。
【0051】
なお吸引管214は、撹拌槽204側の先端が昇降可能となっており、溶剤に上方から進入することができる。堆積した油泥の高さに応じて吸引管を下降させることにより、堆積した油泥の表面近傍の溶剤まで吸引することができる。
【0052】
図7は吸引管214の先端に設けた集液桶を説明する図である。図7(a)に示すように、吸引管214の撹拌槽204側の先端には、さらに上面が開口した容器状の集液桶214aが設けられている。吸引管214がこの集液桶214aの内部から吸引することにより、吸引する際の溶剤の流れによって油泥を巻き上げてしまうことを防止することができる。特に図7(b)に示すように、集液桶214aを沈殿物(油泥)に一部めり込ませた状態で、その集液桶214aの内部から吸引することにより、油泥を巻き上げることなく、かつ油泥のきわめて表面近傍の溶剤まで吸引することができる。
【0053】
計量移送部220は撹拌槽から脱液乾燥部240へと油泥を移送するものであって、所定の容量を有する計量槽224と、撹拌槽204と計量槽224との間の経路を開閉する第1バルブ222と、計量槽224と脱液装置との間の経路を開閉する第2バルブ226とから構成される。
【0054】
第1バルブ222を開くことによって撹拌槽204に沈殿した油泥を計量槽224に移送する。このとき第2バルブ226は閉塞した状態にある。そして計量槽224が充填されたら第1バルブ222を閉塞する。そして第2バルブ226を開くことにより、脱液乾燥部240へと油泥を移送する(油泥移送工程)。ここで、計量槽224を所定の容量(例えば10リットル)としていることにより、極めて簡易に、一定量の油泥を移送することができる。なおこの容量は後述する濾布袋の容量以下とすることが好ましい。
【0055】
また計量槽224は、上端が撹拌槽204内の混合液の液面より上方に位置する空気抜き管228を有している。これにより撹拌槽204から計量槽224に油泥を移送する際に、第1バルブ222を締めるのが遅れたとしても、計量槽224から油泥があふれ出ることを防止することができる。
【0056】
脱液乾燥部240は、脱液装置250と、減圧装置260、加熱装置262、凝縮器264を備えている。図8は脱液装置の構成を説明する図である。
【0057】
図8に示すように、脱液装置250は油圧装置242によって開閉可能な蓋252を有し、蓋252を閉塞して密封することによって真空容器とすることができる。また脱液装置250の内部には濾布袋280を載置するための載置台254が設けられており、計量移送部220から移送された油泥は濾布袋280の内部に充填される。載置台は油泥の進入方向に対して下方に向かって約15°以上傾斜しており、濾布袋280中に油泥を円滑に導入することができる。傾斜角度は油泥の粘度にもよるが、15°以下では流動性が悪く、濾布袋280内に円滑に充填することが難しい。一方、加熱性と濾布袋の成形性(平坦性)は、傾斜角度が小さいほど好ましい。このため、傾斜は水平に対して15°程度とすることが好ましい。
【0058】
濾布袋は柔軟性を有するフィルタによって袋体を形成したものである。柔軟性を有するフィルタは硬質のものよりも目の細かいフィルタを採用しやすく、また洗浄によって目詰まりを取り除きやすい。また交換可能な袋体とすることにより、設置式のフィルタよりもバッチ処理が容易である。濾布袋の具体例としては、石炭灰用の網目の非常に細かい袋を用いることができる。
【0059】
また蓋252には、濾布袋280の開口部を押さえて封止する閉塞部材252aと、濾布袋280のほぼ全面を載置台254に向かって圧迫する圧迫板252bを備えている。圧迫板252bは、濾布袋280内の溶剤が蒸気化して脱液される際に、濾布袋280を圧迫していることにより、濾布袋280(すなわち油泥)を平坦に成形する。また圧迫板252bは多数の開口を有しており、圧迫板252bによる圧搾で濾布袋280の表面から漏出する溶剤を円滑に流出させることができる。多数の開口を有する圧迫板の例としては、パンチングメタル、網体、枠体などで構成することができる。
【0060】
閉塞部材252aおよび圧迫板252bは共に濾布袋280に向かってバネ部材によって付勢されている。閉塞部材252aの方が圧迫板252bよりも濾布袋280に向かって突出して配置されている。また、閉塞部材252aの付勢力の方が圧迫板252bの付勢力よりも強く設定されている。これにより、脱液装置の蓋を閉じるという1つの段取りによって、濾布袋280の開口部を封止しつつ、同時に濾布袋280の全面を圧迫することができる。上記バネ部材としてコイルばねを図示しているが、板バネなど他の弾性部材を用いてもよい。なお閉塞部材252aおよび圧迫板252bを付勢する付勢部材としては、弾性部材に限定するものではなく、例えばリンク機構などを用いた押圧部材であってもよい。
【0061】
加熱装置262は載置台254の下面に設けられており、載置台254を加熱することによって濾布袋280を直接加熱する。減圧した状態において脱液装置250の外壁から加熱したとしても、熱伝達媒体となるべき空気がほとんど存在しないため、油泥を加熱することが困難である。そこで濾布袋280の載置台254を加熱することにより、効率的に熱を伝達することが可能となる。また加熱装置262は、載置台254の傾斜方向の上方と下方に2分割して設けられており、独立して温度制御可能となっている。
【0062】
図4に示すように、脱液装置250には凝縮器264および第1ドレン回収ポット268を介して減圧装置260が接続されている。脱液装置250から排出された蒸気は凝縮器264によって液化され、水または溶剤として第1ドレン回収ポット268に蓄積される。
【0063】
また図3に示すように、脱液装置250には第2ドレン回収ポット270が接続されており、脱液装置250内で滴下した溶剤および水を回収するよう構成されている。
【0064】
図9は減圧加熱乾燥工程を説明するフローチャートである。まず濾布袋280を脱液装置250内の載置台254の上に設置し(S202)、計量槽224から油泥を導入する(S204)。濾布袋280は容量に制限が生じるが、上記の油泥移送工程によれば一定量ずつの油泥を移送することができるため、好適に濾布袋を充填することができる。
【0065】
次に油圧装置242を動作させ、蓋252を閉じることにより脱液装置250を密封しつつ、閉塞部材252aによって濾布袋280の開口部を圧迫して封止し(S206)、あわせて圧迫板252bによって濾布袋280の全面を圧迫する(S208)。濾布袋280は油泥が極めて粒子の小さい微粉末であることから即座に目詰まりするが、少量の水または溶剤は圧搾されて脱液される。このとき滴下した液体は、第2ドレン回収ポットに回収する。
【0066】
次に、加熱装置262によって加熱しつつ、減圧装置260によって脱液装置250の内部を真空に近い程度まで減圧する(減圧加熱乾燥工程:S210)。濾布袋280は、圧迫によって目詰まりしていたとしても、蒸気化すれば円滑にフィルタを通過することができるため、目詰まりしているか否かにかかわらず脱液、乾燥することができる。
【0067】
減圧加熱乾燥工程においては、加熱温度は60℃以下とする。特に溶剤としてウンデカン(C1124)を用いる場合には、引火点が70℃であるため、安全性を考慮して60℃以下とすることが好ましい。
【0068】
減圧加熱乾燥が進行すると、上方よりも下方の方により多くの溶剤が残留し、上方が先に乾燥する。そこで上下の加熱装置262の温度をそれぞれ監視し(S212)、上方の加熱装置の温度が所定温度以上に上昇した場合(上方が乾燥した場合)には、その加熱を低下または停止させる(S214)。これにより、効率的に脱液することができる。
【0069】
さらに減圧加熱乾燥を行っている間は、凝縮器264の入口温度を監視し(S216)、温度が高い間は水であるとして回収し(S218)、温度が急激に低下したより後は溶剤であるとして回収する(S220)。油泥には溶剤ばかりではなく水も混入しているが、水は廃棄処理し、溶剤は蒸留して再使用するため、別離して回収する要請がある。水と溶剤とでは蒸気圧の差異から水の方が先に蒸発するが、水分蒸発が終了すると溶媒が蒸発を開始まで蒸気の流れが途絶えるために、凝縮器の入口温度が低下する。また系内に水が存在する条件では沸点の低い溶媒は蒸発しないので、水が凝縮器に凝集しきった段階で、水を系外に排出した後、真空度を上げて溶剤の蒸発、回収を行う必要がある。そこで、この温度低下を検知することにより、水と溶剤とを分離して回収することができる。
【0070】
そして、減圧加熱乾燥を所定時間継続し(S222)、所定時間が継続したら加熱および減圧を停止する(S224)。なお所定時間は、油泥に含まれる水および溶剤の潜熱および熱損失から概ね算出することができる。
【0071】
そして脱液(乾燥)が終了した濾布袋280を取り出す(S226)。濾布袋280は、圧迫板252bによって圧迫されながら乾燥されたため平坦となっており、既存のPCB処理装置500のバケットに収容することができる。そして図1に示した洗浄機522に投入し、通常の機器の被処理物と同様にPCB卒業判定装置にかけることができ、新たに専用の卒業判定装置を設ける必要がない。
【0072】
なお、減圧装置260には、不図示の水分離装置を設けていてもよい。凝縮器264で液化して第1ドレン回収ポット268で回収するとしても、特に凝縮器264の能力が足りないと減圧装置260まで蒸気が到達して液化するためである。特に減圧装置260が油回転真空ポンプである場合には、動作油に水が混入すると動作油が浮いてしまい、動作不良を招くおそれがあるため、水分離装置を設けることは有効である。
【0073】
また図2に示しように、撹拌槽204または脱液装置250の上方に排気ダクト104を配置し、排気ダクトからの排気経路に活性炭フィルタを設けてもよい。これにより排出される雰囲気ガスに仮に微量のPCBが混入していたとしても、確実に吸収して漏洩を防止することができる。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0075】
例えば濾布袋280は内部の油泥を掻き出して再利用することも可能であるが、濾布袋として石炭灰用の袋を使用した場合は燃やしても有毒ガスを生じないため、乾燥させた汚泥を収容したまま焼却処分することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、PCBが付着した微粉末を含む油泥を無害化処理するPCB含有油泥処理装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】機器のPCB無害化処理を行う装置の概略構成を示す図である。
【図2】PCB含有油泥処理装置の正面図である。
【図3】PCB含有油泥処理装置の側面図である。
【図4】PCB含有油泥処理装置の平面図である。
【図5】油泥の洗浄工程を説明するフローチャートである。
【図6】撹拌槽内の油泥と溶剤の状態を説明する模式図である。
【図7】吸引管214の先端に設けた集液桶を説明する図である。
【図8】脱液装置の構成を説明する図である。
【図9】減圧加熱乾燥工程を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0078】
100…処理装置、102…ドラム缶、104…排気ダクト、200…撹拌分離部、202…ローラコンベア、204…撹拌槽、204a…蓋、204b…傾斜面、204c…排出口、206…パワーシリンダー、208…撹拌装置、208a…モータ、208b…撹拌羽根、210…溶剤抜出装置、212…溶剤貯槽、214…吸引管、214a…集液桶、220…計量移送部、222…第1バルブ、224…計量槽、226…第2バルブ、228…空気抜き管、240…脱液乾燥部、242…油圧装置、250…脱液装置、252…蓋、252a…閉塞部材、252b…圧迫板、254…載置台、260…減圧装置、262…加熱装置、264…凝縮器、268…第1ドレン回収ポット、270…第2ドレン回収ポット、280…濾布袋、500…PCB処理装置、510…受入解体設備、512…一時保管所、514…解体ライン、516…分離機、520…洗浄設備、522…洗浄機、524…破砕機/選別機、525…銅二次洗浄機、526…ストレーナ、527…受入槽、528…蒸留塔、530…判定設備、532…判定機、540…払出設備、542…払出前保管所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCBが付着した微粉末を含む油泥とPCBを洗浄する溶剤との混合液を貯留する撹拌槽と、
前記撹拌槽内の混合液を撹拌する撹拌装置と、
油泥が沈降した後に上澄みの溶剤を抜き出す溶剤抜出装置と、
を備えたことを特徴とするPCB含有油泥処理装置。
【請求項2】
前記撹拌槽から排出した洗浄後の油泥を乾燥させるための脱液装置を備え、
前記脱液装置は、減圧装置と、加熱装置とを有することを特徴とする請求項1に記載のPCB含有油泥処理装置。
【請求項3】
前記脱液装置は、柔軟性を有するフィルタからなる濾布袋を設置可能であって、
前記濾布袋に油泥を充填することを特徴とする請求項2に記載のPCB含有油泥処理装置。
【請求項4】
前記濾布袋を支持する載置台を備え、該載置台は、油泥の進入方向に対して下方に向かって約15°以上傾斜していることを特徴とする請求項3に記載のPCB含有油泥処理装置。
【請求項5】
前記脱液装置の蓋に、
前記濾布袋の開口部を押さえて封止する閉塞部材と、
前記濾布袋のほぼ全面を前記載置台に向かって圧迫する圧迫板を備えたことを特徴とする請求項3または請求項4に記載のPCB含有油泥処理装置。
【請求項6】
前記撹拌槽と前記脱液装置との間に、
所定の容量を有する計量槽と、
前記撹拌槽と前記計量槽との間の経路を開閉する第1バルブと、
前記計量槽と前記脱液装置との間の経路を開閉する第2バルブとを備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のPCB含有油泥処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−106803(P2009−106803A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279035(P2007−279035)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(591130319)東電環境エンジニアリング株式会社 (27)
【Fターム(参考)】