説明

PD−1抗体およびPD−L1抗体ならびにその使用

本発明は、PD−1抗体およびPD−L1抗体ならびにその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、PD−1抗体およびPD−L1抗体ならびにその使用に関する。
【0002】
発明の背景
コレセプターシグナル伝達は、免疫応答を調和しそして密接に調節するための重要な機序である。αβT細胞の通常の活性化スキームは、HLAクラスIまたはIIによって提示されるペプチド抗原によってもたらされるポジティブなシグナルに依拠する。コレセプターシグナルは、この活性化を増加させるかまたは妨げるかのいずれかである。
【0003】
ネガティブなシグナル伝達分子の中で、CD28/B7ファミリーに属するものが、圧倒的に最も研究されている。このファミリーの3つのメンバーが、記載されている:CTL関連抗原−4(CTLA−4)、プログラム死−1(PD−1)ならびにBおよびTリンパ球アテニュエーター(BTLA)。それらは全て、トレランスの制御に役割を果たす。それらは、免疫応答を制限、終結および/または減弱させるネガティブなシグナルを与える。
【0004】
PD−1は、アポトーシスを起こしているT細胞ハイブリドーマにおいてアップレギュレーションした遺伝子として単離され、そしてプログラム死1と命名された。PD−1またはCD279は、活性化T細胞およびB細胞、ならびに活性化骨髄系細胞上に発現する。
【0005】
その発現は、活性化T細胞上にのみ見られるCTLA−4よりも広い。
【0006】
PD−1は、T細胞レセプター(TcR)とコライゲーションされると、阻害シグナルを誘起する。
【0007】
PD−1細胞質ドメインは、2つのチロシンを含み、1つは免疫レセプターチロシン抑制性レセプター(ITIM)を構成し、他方は免疫レセプターチロシンベーススイッチモチーフ(ITSM)を構成する。第2のチロシンのリン酸化により、チロシンホスファターゼSHP2が補充され、そしてある程度SHP1が補充される。これらのホスファターゼは、ZAP70、CD3ζおよびPKCθを脱リン酸化し、そして結果的にT細胞シグナルを減弱する。
【0008】
PD−1は主に、G0/G1での細胞停止を引き起こし、そしてT細胞におけるサイトカイン産生を阻害することによって、T細胞およびB細胞の増殖を阻害する。
【0009】
2つのPD−1リガンド、すなわちPD−L1/B7H1/CD274およびPD−L2/B7−DC/CD273が、記載されている。PD−L1は、B細胞、樹状細胞、マクロファージおよびT細胞などの免疫細胞上に低レベルで発現し、そして活性化後にアップレギュレーションされる。PD−L1はまた、内皮細胞、心臓、肺、膵臓、筋肉、ケラチノサイトおよび胎盤などの非リンパ器官上にも発現する。非リンパ組織内の発現は、PD−L1が、末梢組織における自己反応性T細胞およびB細胞ならびに骨髄系細胞の機能を調節し得るか、または標的器官における炎症応答を調節し得ることを示唆する。PD−L1発現は主に、内皮細胞および上皮細胞上でのPD−L1の主なレギュレーターである1型および2型インターフェロンによって調節される。PD−L1は、腫瘍試料中に発現し、そして予後不良に関連する。種々のウイルス感染が、宿主組織上において強力なPD−L1発現を誘導する。
【0010】
PD−L2/B7−DC細胞表面発現は、マクロファージおよび樹状細胞に限定されるが、PD−L2転写物は、心臓、肝臓および膵臓などの非造血組織に見られた。その表面発現は、IFNγおよびTh2サイトカインの産生に依存する。
【0011】
PD−L1およびPD−L2の発現はまた、明確に異なる刺激に依存する。マクロファージ上でPD−L1は、INFγによって誘導されるが、PD−L2は、IL−4によって誘導される。類似の調節が、DC上に見られるが、これらの差異は、絶対的ではない。これらの研究は、PD−L1が、優先的にTh1応答を調節し得、一方、PD−L2は、Th2応答を調節することを示唆する傾向がある。
【0012】
PD−L1およびPD−L2の両方が、T細胞の増殖、サイトカインの産生、ならびにβ1およびβ2インテグリンにより媒介される接着を阻害する。しかしながらいくつかの矛盾するデータが、共刺激機能を提案した。しかしながら、PD−L1ではなくPD−L2が、樹状細胞における逆シグナル伝達をトリガーし、IL−12の産生およびT細胞の活性化をもたらす。
【0013】
PD−L1およびPD−L2の発現パターンは、免疫調節における重複した役割および異なる役割の両方を示唆する。PD−L1は、多種多様なヒト癌において豊富である(Dong et al (2002) Nat. Med 8:787-9)。PD−1とPD−L1との間の相互作用により、腫瘍浸潤リンパ球の減少、T細胞レセプター媒介増殖の減少、および癌細胞による免疫回避が起こる(Dong et al. (2003) J. MoI. Med. 81:281-7; Blank et al. (2005) Cancer Immunol. Immunother. 54:307-314; Konishi et al. (2004) Clin. Cancer Res. 10:5094-100)。PD−1とPD−L1との局所的相互作用を阻害することによって、免疫抑制を逆転させることができ、そしてその効果は、PD−1とPD−L2との相互作用が同様に遮断されれば相加的である(Iwai et al. (2002) Proc. Nat 7. Acad. ScL USA 99: 12293-7; Brown et al. (2003) J. Immunol. 170:1257-66)。
【0014】
PD−1欠損動物は、自己免疫性心筋症、ならびに関節炎および腎炎を伴うループス様症候群を含む、種々の自己免疫表現型を発達させる(Nishimura et al. (1999) Immunity H: 141-51; Nishimura et al. (2001) Science 291:319-22)。さらに、PD−1は、自己免疫性脳脊髄炎、全身性エリテマトーデス、移植片対宿主疾病(GVHD)、I型糖尿病、および関節リウマチにおいて役割を果たしていることが判明した(Salama et al. (2003) J Exp Med 198:71-78: Prokunina and Alarcon-Riquelme (2004) Hum MoI Genet 13:R143; Nielsen et al. (2004) Lupus 11:510)。
【0015】
動物モデルにおいては、遮断mAbを使用したPD−L1およびPD−L2の遮断は、系統特異的な実験的自己免疫性脳炎の感受性および慢性的進行における明確に異なる役割を証明する。NOD前糖尿病性マウスにおいては、PD−L2ではなくPD−L1の遮断が、糖尿病を誘発した。自己免疫性糖尿病のRIP−mOVAマウスモデルを使用して、Martin-Orozco等はPD−L2ではなくPD−L1が、糖尿病発症の阻害を媒介したことを見出した(Martin-Orozco et al. (2006) J Immunol. 15;177(12):8291-5)。
【0016】
現在までに、特に癌患者において、ワクチンに対して強力な免疫応答を誘導することを証明した満足の行くアプローチはなかった。癌患者においてそして慢性感染中に観察された免疫抑制機序を克服するために依然として方法を考案する必要がある。
【0017】
自己免疫疾病の処置および移植片対宿主疾病(GVHD)における移植拒絶の予防は、免疫抑制剤に依存するが、それらは重篤な副作用を有するかまたは常には効果的ではない。新たな免疫抑制剤が、所望される。
【0018】
発明の要約
本発明は、CNCM寄託番号I−4122の下で入手できるハイブリドーマから得ることのできるPD−1抗体(PD1.3)に関する。
【0019】
本発明はまた、PD1.3のCDRを含むPD−1抗体にも関する。
【0020】
本発明は、療法によるヒトまたは動物の身体の処置のための方法における使用のためのPD1.3またはその誘導体に関する。
【0021】
本発明は、癌または慢性感染の処置のためのPD1.3またはその誘導体に関する。
【0022】
本発明は、PD1.3またはその誘導体を含む、癌または慢性感染の処置のためのワクチンに関する。
【0023】
本発明は、
a)PD1.3またはその誘導体;および
b)癌または慢性感染の処置のためのワクチン
を含む、癌または慢性感染の処置のためのキットに関する。
【0024】
本発明はまた、PD−1へのPD−L1の結合を安定化する、PD−L1抗体に関する。
【0025】
本発明は、療法によるヒトまたは動物の身体の処置のための方法において使用するためのPD−1へのPD−L1の結合を安定化する、PD−L1抗体に関する。
【0026】
本発明は、自己免疫疾病、移植拒絶または移植片対宿主疾病の処置のための、PD−1へのPD−L1の結合を安定化する、PD−L1抗体に関する。
【0027】
発明の詳細な説明
定義
本発明による「抗体」または「免疫グロブリン」は、同じ意味を有し、そして本発明において同等に使用される。本明細書において使用する「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち、抗原と免疫特異的に結合する抗原結合部位を含む分子を指す。従って、抗体という用語は、完全な抗体分子だけでなく、抗体フラグメントまたは誘導体も包含する。抗体フラグメントは、Fv、Fab、F(ab’)、Fab’、dsFv、scFv、sc(Fv)およびダイアボディを含むがそれらに限定されない。
【0028】
天然抗体においては、2つの重鎖が、互いにジスルフィド結合によって連結され、そして各々の重鎖は、ジスルフィド結合によって軽鎖に連結されている。軽鎖にはラムダ(λ)およびカッパ(κ)の二種類がある。抗体分子の機能的活性を決定する5つの主要な重鎖クラス(またはアイソタイプ)がある:IgM、IgD、IgG、IgAおよびIgE。各々の鎖は、明確に異なる配列ドメインを含む。軽鎖は、2つのドメイン、すなわち可変ドメイン(VL)および定常ドメイン(CL)を含む。重鎖は、4つのドメイン、すなわち可変ドメイン(VH)および3つの定常ドメインを含む(CH1、CH2およびCH3、まとめてCHと称する)。軽鎖(VL)および重鎖(VH)の両方の可変領域が、結合認識および抗原に対する特異性を決定する。軽鎖(CL)および重鎖(CH)の定常領域ドメインが、抗体鎖の会合、分泌、経胎盤移動性、補体結合、およびFcレセプター(FcR)への結合などの重要な生物学的特性を付与する。Fvフラグメントは、免疫グロブリンのFabフラグメントのN末端部分であり、そして1つの軽鎖および1つの重鎖の可変部分からなる。抗体の特異性は、抗体結合部位と抗原性決定基との間の構造的相補性に存する。抗体結合部位は、主に超可変領域または相補性決定領域(CDR)に由来する残基からなる。時折、非超可変領域またはフレームワーク領域(FR)からの残基が、全体的なドメイン構造に影響を及ぼし、従って、結合部位に影響を及ぼす。相補性決定領域すなわちCDRは、天然免疫グロブリン結合部位の天然Fv領域の結合親和性および特異性を共に規定するアミノ酸配列を指す。免疫グロブリンの軽鎖および重鎖の各々は、L−CDR1、L−CDR2、L−CDR3およびH−CDR1、H−CDR2、H−CDR3とそれぞれ称される3つのCDRを有する。それ故、抗原結合部位は、重鎖および軽鎖のV領域の各々に由来するCDRセットを含む、6つのCDRを含む。フレームワーク領域(FR)は、CDR間に挿入されたアミノ酸配列を指す。
【0029】
「キメラ抗体」という用語は、動物の抗体、典型的にはマウス抗体の一部と、ヒト抗体の一部との遺伝子操作した融合物を指す。一般的には、キメラ抗体は、約33%のマウスタンパク質および67%のヒトタンパク質を含む。動物抗体によって誘起されるヒト抗動物抗体応答が減少するように開発したため、それらは、動物抗体の特異性と、ヒト抗体の効率的なヒト免疫系相互作用とを兼ね備える。
【0030】
本発明による「ヒト化抗体」という用語は、ヒト抗体に由来する可変領域フレームワークおよび定常領域を有するが動物抗体のCDRを保持する、抗体を指す。
【0031】
「Fab」という用語は、約50,000の分子量および抗原結合活性を有する抗体フラグメントを示し、プロテアーゼのパパインを用いてIgGを処理することによって得られたフラグメントの中で、H鎖のN末端側の約半分および完全なL鎖が、ジスルフィド結合を通して結合している。
【0032】
「F(ab’)」という用語は、約100,000の分子量および抗原結合活性を有する抗体フラグメントを指し、これは、プロテアーゼのペプシンを用いてIgGを処理することによって得られたフラグメントの中で、ヒンジ領域のジスルフィド結合を介して結合したFabよりも僅かに大きい。
【0033】
「Fab’」という用語は、約50,000の分子量および抗原結合活性を有する抗体フラグメントを指し、これは、F(ab’)のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断することによって得られる。
【0034】
単鎖Fv(「scFv」)ポリペプチドは、ペプチドをコードするリンカーによって連結した、VHおよびVLをコードする遺伝子を含む遺伝子融合体から通常発現する、共有結合的に連結したVH:VLヘテロダイマーである。「dsFv」は、ジスルフィド結合によって安定化したVH:VLヘテロダイマーである。二価および多価抗体フラグメントは、一価scFvの会合によって自発的に形成し得るか、または二価sc(Fv)のように、ペプチドリンカーによって一価scFvをカップリングすることによって生成することができる。
【0035】
「ダイアボディ」という用語は、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体フラグメントを指し、このフラグメントは、軽鎖可変ドメイン(VL)に接続した重鎖可変ドメイン(VH)を同じポリペプチド鎖(VH−VL)中に含む。同じ鎖上の2つのドメイン間で対を形成するには短すぎるリンカーを使用することによって、ドメインを別の鎖の相補的ドメインと対を形成させ、そして2つの抗原結合部位を作り出す。
【0036】
「精製された」および「単離された」によって、ポリペプチド(すなわち本発明による抗体)またはヌクレオチド配列を言及する場合、指定した分子が、同じ型の他の生物学的巨大分子の実質的に非存在下において存在することを意味する。本明細書において使用する「精製された」という用語は、好ましくは、少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、より好ましくはさらには少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の同じ型の生物学的巨大分子が存在することを意味する。特定のポリペプチドをコードする「単離された」核酸分子は、ポリペプチドをコードしない他の核酸分子を実質的に含まない核酸分子を指し;しかしながら、分子は、前記組成物の基本的な特徴に有害な影響を及ぼさないいくつかの追加的な塩基または部分を含んでいてもよい。
【0037】
本発明に関連して、本明細書において使用する「処置する」または「処置」という用語は、このような用語が適用する疾患もしくは容態、またはこのような疾患もしくは容態の1つ以上の症状の進行を逆転、寛解、阻害するか、または前記を予防することを意味する。「治療有効量」は、被験体に治療利点を付与するのに必要とされる活性剤の最小量を意図する。例えば、哺乳動物への「治療有効量」は、病的症状、疾病の進行、または疾患に関連した生理学的容態、または疾患に屈することに対する抵抗性の改善を誘導、回復または別様に引き起こすような量である。
【0038】
本明細書において使用する「予防」という用語は、疾病または容態に罹患するとまだ診断されていない被験体において前記疾病または容態が起こることを予防することを指す。
【0039】
本明細書において使用する「被験体」という用語は、哺乳動物、例えばげっ歯類、ネコ、イヌおよび霊長類を示す。好ましくは、本発明による被験体は、ヒトである。
【0040】
本明細書において使用する「癌」、「過増殖」および「新生物」という用語は、自律的増殖能を有する細胞、すなわち、急速に増殖している細胞増殖によって特徴付けられる異常な状態または容態を指す。過増殖および新生物疾病状態は、病的、すなわち疾病状態を特徴付けるまたは構成するとして分類され得るか、あるいは、非病的、すなわち正常からは逸脱しているが疾病状態には関連していないとして分類され得る。この用語は、病理組織学的タイプまたは侵襲性の段階に関係なく、全てのタイプの癌性増殖または発癌過程、転移性組織または悪性に形質転換した細胞、組織もしくは器官を含むことを意味する。「癌」または「新生物」という用語は、罹患している肺、乳房、甲状腺、リンパ系、胃腸および泌尿生殖器などの種々の器官系の悪性疾患、ならびに、大半の大腸癌、腎細胞癌、前立腺癌および/または精巣腫瘍、非小細胞肺癌、小腸癌および食道癌などの悪性疾患を含む腺癌を含む。
【0041】
本発明者らは、2009年2月4日に、ブダペスト条約の規約に従って、Collection Nationale de Cultures de Microorganismes(CNCM, Institut Pasteur, 25 rue du Docteur Roux, 75724 Paris Cedex 15, France)に、マウスPD−1抗体(PD1.3)を産生するハイブリドーマを寄託した。寄託したハイブリドーマは、CNCM寄託番号I−4122を有する。
【0042】
「PD1.3」は、CNCM寄託番号I−4122の下で入手できるハイブリドーマから得ることのできる単離されたPD−1抗体を指す。
【0043】
「PD1.3の誘導体」という表現は、PD1.3の6つのCDRを含むPD−1抗体を指す。
【0044】
本発明者らは、2008年10月15日に、ブダペスト条約の規約に従って、Collection Nationale de Cultures de Microorganismes(CNCM, Institut Pasteur, 25 rue du Docteur Roux, 75724 Paris Cedex 15, France)にマウスPD−L1抗体(PDL1.1)を産生するハイブリドーマを寄託した。寄託したハイブリドーマは、CNCM寄託番号I−4080を有する。
【0045】
「PDL1.1」は、CNCM寄託番号I−4080の下で入手できるハイブリドーマから得ることのできる単離されたPD−L1抗体を指す。
【0046】
「PDL1.1の誘導体」という表現は、PDL1.1の6つのCDRを含むPD−L1抗体を指す。
【0047】
本発明者らは、2008年10月15日に、ブダペスト条約の規約に従って、Collection Nationale de Cultures de Microorganismes(CNCM, Institut Pasteur, 25 rue du Docteur Roux, 75724 Paris Cedex 15, France)にマウスPD−L1抗体(PDL1.2)を産生するハイブリドーマを寄託した。寄託したハイブリドーマは、CNCM寄託番号I−4081を有する。
【0048】
「PDL1.2」は、CNCM寄託番号I−4081の下で入手できるハイブリドーマから得ることのできる単離されたPD−L1抗体を指す。
【0049】
「PDL1.2の誘導体」という表現は、PDL1.2の6つのCDRを含むPD−L1抗体を指す。
【0050】
本発明の抗体およびそれらをコードする核酸
本発明は、CNCM寄託番号I−4122の下で入手できるハイブリドーマから得ることのできる単離されたPD−1抗体(PD1.3)に関する。
【0051】
本発明は、CNCM寄託番号I−4122の下で入手できるハイブリドーマに関する。
【0052】
本発明は、PD1.3の6つのCDRを含む抗体に関する。
【0053】
別の態様において、本発明は、PD1.3のVL鎖およびVH鎖を含む、PD1.3の誘導体に関する。
【0054】
別の態様において、本発明は、PD1.3の可変ドメインを含む、キメラ抗体であるPD1.3の誘導体に関する。
【0055】
本発明はまた、PD−1へのPD−L1の結合を安定化する、単離されたPD−L1抗体に関する。
【0056】
典型的には、PD−1へのPD−L1の結合の安定化は、実施例に記載の方法に従って測定され得る。
【0057】
PD−1へのPD−L1の結合を安定化する、単離されたPD−L1抗体の例は、PDL1.1、PDL1.2またはその誘導体である。
【0058】
本発明はまた、CNCM寄託番号I−4080またはI−4081の下で入手できるハイブリドーマに関する。
【0059】
本発明はまた、PDL1.1の6つのCDRまたはPDL1.2の6つのCDRを含む抗体に関する。
【0060】
別の態様において、本発明は、それぞれPDL1.1またはPDL1.2のVL鎖およびVH鎖を含む、PDL1.1またはPDL1.2の誘導体に関する。
【0061】
別の態様において、本発明は、PDL1.1またはPDL1.2の可変ドメインを含む、キメラ抗体であるPDL1.1またはPDL1.2の誘導体に関する。
【0062】
1つの態様において、本発明の抗体は、モノクローナル抗体である。
【0063】
1つの態様において、本発明の抗体は、キメラ抗体である。
【0064】
1つの態様において、本発明の抗体は、ヒト化抗体である。
【0065】
本発明のさらなる態様は、本発明の抗体をコードする核酸配列に関する。
【0066】
特定の態様において、本発明は、本発明の抗体のVHドメインまたはVLドメインをコードする核酸配列に関する。
【0067】
典型的には、前記核酸は、プラスミド、コスミド、エピソーム、人工染色体、ファージまたはウイルスベクターなどの任意の適切なベクターに含まれ得る、DNA分子またはRNA分子である。
【0068】
「ベクター」、「クローニングベクター」および「発現ベクター」という用語は、ビヒクルを意味し、これによりDNA配列またはRNA配列(例えば外来遺伝子)を、宿主細胞に導入することができ、よって宿主を形質転換し、そして導入した配列の発現(例えば転写および翻訳)を促進することができる。
【0069】
よって、本発明のさらなる目的は、本発明の核酸を含むベクターに関する。
【0070】
このようなベクターは、調節エレメント、例えばプロモーター、エンハンサー、ターミネーターなどを含み得、被験体への投与時に前記抗体の発現を引き起こすかまたは指令する。動物細胞のための発現ベクターに使用されるプロモーターおよびエンハンサーの例としては、SV40の初期プロモーターおよびエンハンサー、モロニーマウス白血病ウイルスのLTRプロモーターおよびエンハンサー、免疫グロブリンH鎖のプロモーターおよびエンハンサーなどが挙げられる。
【0071】
ヒト抗体C領域をコードする遺伝子を挿入および発現することができる限り、動物細胞のための任意の発現ベクターを、使用することができる。適切なベクターの例としては、pAGE107、pAGE103、pHSG274、pKCR、pSG1βd2−4−などが挙げられる。
【0072】
プラスミドの他の例としては、複製起点を含む複製プラスミド、または組込みプラスミド、例えばpUC、pcDNA、pBRなどが挙げられる。
【0073】
ウイルスベクターの他の例としては、アデノウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルスおよびAAVベクターが挙げられる。このような組換えウイルスは、パッケージング細胞をトランスフェクションすることによって、またはヘルパープラスミドもしくはウイルスを用いての一過性トランスフェクションによってなどの、当技術分野において公知の技術によって産生され得る。ウイルスパッケージング細胞の典型例としては、PA317細胞、PsiCRIP細胞、GPenv+細胞、293細胞などが挙げられる。このような複製欠陥組換えウイルスを産生するための詳細なプロトコールは、例えばWO 95/14785, WO 96/22378, US 5,882,877, US 6,013,516, US 4,861,719, US 5,278,056およびWO 94/19478に見出され得る。
【0074】
本発明のさらなる目的は、本発明による核酸および/またはベクターによってトランスフェクション、感染または形質転換した細胞に関する。「形質転換」という用語は、宿主細胞への「外来」(すなわち外因性または細胞外)遺伝子、DNA配列またはRNA配列の導入を意味し、よって宿主細胞は、導入した遺伝子または配列を発現して、所望の物質、典型的には導入した遺伝子または配列によってコードされるタンパク質または酵素を産生する。導入したDNAまたはRNAを受容しそして発現する宿主細胞は、「形質転換」している。
【0075】
本発明の核酸を使用して、適切な発現系において本発明の抗体を産生し得る。「発現系」という用語は、例えば、ベクターが保有し宿主細胞に導入した外来DNAによってコードされるタンパク質の発現のための、適切な条件下の宿主細胞および適合性ベクターを意味する。
【0076】
一般的な発現系としては、E.coli宿主細胞およびプラスミドベクター、昆虫宿主細胞およびバキュロウイルスベクター、ならびに哺乳動物宿主細胞およびベクターが挙げられる。宿主細胞の他の例としては、以下に制限されるわけではないが、原核細胞(例えば細菌)および真核細胞(例えば酵母細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞など)が挙げられる。具体例としては、E.coli、KluyveromycesまたはSaccharomyces酵母、哺乳動物細胞系(例えばVero細胞、CHO細胞、3T3細胞、COS細胞など)ならびに一次または樹立した哺乳動物細胞培養(例えば、リンパ芽球細胞、線維芽細胞、胚細胞、上皮細胞、神経細胞、脂肪細胞などから産生)が挙げられる。例としてはまた、マウスSP2/0−Ag14細胞(ATCC CRL1581)、マウスP3X63−Ag8.653細胞(ATCC CRL1580)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子(本明細書において以後「DHFR遺伝子」と称する)が欠損しているCHO細胞、ラットYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞(ATCC CRL1662、本明細書においては以後「YB2/0細胞」と称する)などが挙げられる。
【0077】
本発明はまた、本発明による抗体を発現している組換え宿主細胞を産生する方法に関し、前記方法は、工程:(i)in vitroまたはex vivoにおいて前記したような組換え核酸またはベクターをコンピテントな宿主細胞に導入すること、(ii)in vitroまたはex vivoにおいて得られた組換え宿主細胞を培養すること、および(iii)場合により、前記抗体を発現および/または分泌する細胞を選択することを含む。このような組換え宿主細胞を、本発明の抗体の産生のために使用することができる。
【0078】
本発明の抗体を産生する方法
本発明の抗体を、任意の化学的、生物学的、遺伝学的または酵素的技術など、これらに限定されない当技術分野において公知の任意の技術を単独でまたは組み合わせてのいずれかによって産生し得る。
【0079】
所望の配列のアミノ酸配列を知っていれば、当業者は、ポリペプチドの産生のための標準的な技術によって前記抗体を容易に産生することができる。例えば、それらを、周知の固相法を使用して、好ましくは市販されているペプチド合成装置(例えば、Applied Biosystems, Foster City, Californiaによって製造されたもの)を使用してそして製造業者の指示に従って合成することができる。あるいは、本発明の抗体を、当技術分野において周知の組換えDNA技術によって合成することができる。例えば、抗体を、抗体をコードするDNA配列を発現ベクターに取り込み、そして所望の抗体を発現するであろう適切な真核生物宿主または原核生物宿主にこのようなベクターを導入した後に、DNA発現産物として得ることができ、前記宿主から周知の技術を使用して後に単離することができる。
【0080】
特に、本発明はさらに、本発明の抗体を産生する方法に関し、前記方法は、(i)前記抗体の発現を可能とするに適した条件下で、本発明による形質転換した宿主細胞を培養すること;および(ii)発現した抗体を回収することからなる工程を含む。
【0081】
別の特定の態様において、前記方法は、工程:
(i)抗体の発現を可能とするに適した条件下でCNCM I−4122、CNCM I−4080またはCNCM I−4081として寄託したハイブリドーマを培養すること;および
(ii)発現した抗体を回収することを含む。
【0082】
本発明の抗体を、例えばプロテインA−セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析またはアフィニティクロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製手順によって培養培地から適切に分離する。
【0083】
特定の態様において、本発明のヒトキメラ抗体を、以前に記載したようなVLおよびVHドメインをコードする核酸配列を得、ヒト抗体CHおよびヒト抗体CLをコードする遺伝子を有する動物細胞のための発現ベクターにそれらを挿入することによってヒトキメラ抗体発現ベクターを構築し、そして発現ベクターを動物細胞に導入することによってコード配列を発現させることによって産生し得る。
【0084】
ヒトキメラ抗体のCHドメインとしては、それはヒト免疫グロブリンに属する任意の領域であり得るが、IgGクラスのものが適切であり、そしてまたIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4などのIgGクラスに属するサブクラスのいずれか1つを使用することができる。また、ヒトキメラ抗体のCLとしては、それは、Igに属する任意の領域であり得、そしてカッパークラスまたはラムダクラスのものを使用することができる。
【0085】
キメラ抗体を産生するための方法は、当技術分野において周知である従来の組換えDNA技術および遺伝子トランスフェクション技術を含む(特許文書US5,202,238;およびUS5,204,244を参照されたい)。
【0086】
本発明のヒト化抗体を、以前に記載のように、CDRドメインをコードする核酸配列を得、(i)ヒト抗体のそれと同一である重鎖定常領域および(ii)ヒト抗体のそれと同一である軽鎖定常領域をコードする遺伝子を有する動物細胞のための発現ベクターにそれらを挿入することによってヒト化抗体発現ベクターを構築し、そして該発現ベクターを動物細胞に導入することによって該遺伝子を発現させることによって産生し得る。
【0087】
ヒト化抗体発現ベクターは、抗体重鎖をコードする遺伝子および抗体軽鎖をコードする遺伝子が別々のベクター上に存在するタイプ、または両方の遺伝子が同じベクター上に存在する(タンデムタイプ)タイプのいずれかであり得る。ヒト化抗体発現ベクターの構築のし易さ、動物細胞への導入のし易さ、および動物細胞における抗体H鎖の発現レベルとL鎖の発現レベルとの間のバランスの点では、タンデムタイプのヒト化抗体発現ベクターが、好ましい。タンデムタイプのヒト化抗体発現ベクターの例としては、pKANTEX93(WO97/10354)、pEE18などが挙げられる。
【0088】
従来の組換えDNAおよび遺伝子トランスフェクション技術に基づいたヒト化抗体を産生するための方法は、当技術分野において周知である。抗体を、例えば、CDR移植(EP239,400;PCT公報WO91/09967; 米国特許第5,225,539;第5,530,101;および第5,585,089)、ベニアリングまたは再表面化(EP592,106;EP 519,596)、およびチェーンシャッフリング(米国特許第5,565,332)を含む、当技術分野において公知の多種多様な技術を使用してヒト化することができる。このような抗体の調製のための一般的な組換えDNA技術も公知である(欧州特許出願EP125023および国際特許出願WO96/02576を参照されたい)。
【0089】
本発明のFabを、PD−1と特異的に反応する抗体をプロテアーゼのパパインを用いて処理することによって得ることができる。また、該抗体のFabをコードするDNAを原核生物発現系のためのまたは真核生物発現系のための該ベクターに挿入し、そしてベクターを原核生物または真核生物(適宜)に導入して該Fabを発現させることによってFabを産生することができる。
【0090】
本発明のF(ab’)を、PD1.3と特異的に反応する抗体をプロテアーゼのペプシンで処理することによって得ることができる。また、該F(ab’)を、チオエーテル結合またはジスルフィド結合を介して以下に記載したFab’を結合することによっても産生し得る。
【0091】
本発明のFab’を、ヒトPD−1と特異的に反応するF(ab’)を還元剤のジチオトレイトールで処理することによって得ることができる。また、該抗体のFab’フラグメントをコードするDNAを、原核生物用の発現ベクターまたは真核生物用の発現ベクターに挿入し、そして該ベクターを原核生物または真核生物(適宜)に導入して、その発現を行なうことによって該Fab’を産生することができる。
【0092】
本発明のscFvを、以前に記載したようなVHおよびVLドメインをコードするcDNAを得、scFvをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用の発現ベクターまたは真核生物用の発現ベクターに挿入し、そしてその後、該発現ベクターを原核生物または真核生物(適宜)に導入して該scFvを発現させることによって産生することができる。ヒト化scFvフラグメントを生成するために、CDR移植と呼ばれる周知の技術を使用し得、これは、ドナーのscFvフラグメントから相補性決定領域(CDR)を選択し、そしてそれらを公知の3次元構造のヒトscFvフラグメントフレームワークに移植することを含む(例えば、W098/45322;WO87/02671;US5,859,205;US5,585,089;US4,816,567;EP0173494を参照されたい)。
【0093】
本明細書において記載した抗体のアミノ酸配列の改変を考える。例えば、抗体の結合親和性および/または他の生物学的特性が向上することが望ましくあり得る。非ヒト動物由来の抗体のVHおよびVLにおけるCDRのみを、ヒト抗体のVHおよびVLのFRに単に移植することによってヒト化抗体を産生する場合、抗原結合活性は、非ヒト動物由来の元の抗体のそれと比較して減少することが知られている。CDRにおけるだけでなくFRにおける、非ヒト抗体のVHおよびVLのいくつかのアミノ酸残基も、抗原結合活性に直接的または間接的に関連していると考えられる。従って、これらのアミノ酸残基を、ヒト抗体のVHおよびVLのFRに由来する異なるアミノ酸残基を用いて置換することにより、結合活性が減少するだろう。問題を解決するために、ヒトCDRを用いて移植した抗体においては、ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列の中で、抗体との結合に直接関連しているか、またはCDRのアミノ酸残基と相互作用するか、または抗体の3次元構造を維持し、そして抗原への結合に直接関連しているアミノ酸残基を同定するために試みを行なわなければならない。減少した抗原結合活性を、同定したアミノ酸を非ヒト動物由来の元の抗体のアミノ酸残基を用いて置換することによって増加させることができた。
【0094】
改変および変化を、本発明の抗体の構造、およびそれらをコードするDNA配列に行ない得、そして依然として所望の特徴を有する抗体をコードする機能的分子を得る。
【0095】
アミノ配列を変化させる際に、アミノ酸のハイドロパシー指数を考慮し得る。タンパク質上に相互作用的な生物学的機能を付与する際のハイドロパシーアミノ酸指数の重要性が、一般的に当技術分野において理解されている。アミノ酸の相対的なハイドロパシー特徴は、得られるタンパク質の二次構造に寄与し、これは次いで、タンパク質と、他の分子、例えば酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原などとの相互作用を規定することが認められる。各アミノ酸は、その疎水性および荷電特徴に基づいてハイドロパシー指数が割り当てられており、これらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);トレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5)である。
【0096】
本発明のさらなる態様はまた、本発明の抗体の機能保存的な変異体も包含する。
【0097】
「機能保存的変異体」は、タンパク質または酵素中の所与のアミノ酸残基を、ポリペプチドの全体的なコンフォメーションおよび機能を変容(alter)させることなく変化させている(これは、アミノ酸を、類似の特性(例えば、極性、水素結合能、酸性、塩基性、疎水性、芳香族など)を有するアミノ酸を用いて置換することを含むがそれらに限定されない)ものである。保存されていると指摘されたもの以外のアミノ酸は、タンパク質中において異なっていてもよく、よって、類似の機能のいずれか2つのタンパク質間のタンパク質またはアミノ酸の配列類似率は変化し得、そして、例えば、Cluster法によるなどのアラインメントスキームに従って決定したところ70%〜99%であり得、類似性はMEGALIGNアルゴリズムに基づく。「機能保存的変異体」はまた、BLASTまたはFASTAアルゴリズムによって決定したところ少なくとも60%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%、さらに好ましくは少なくとも90%、そしてさらにより好ましくは少なくとも95%のアミノ酸同一性を有し、そして比較する天然タンパク質または親タンパク質と同じまたは実質的に類似した特性または機能を有する、ポリペプチドを含む。
【0098】
2つのアミノ酸配列は、短い方の配列の全長にかけてアミノ酸の80%超、好ましくは85%超、好ましくは90%超が同一である場合、または約90%超、好ましくは95%超が類似(機能的同一)している場合に「実質的に相同」または「実質的に類似」している。好ましくは、類似配列または相同配列を、例えばGCG(Genetics Computer Group, Program Manual for the GCG Package, Version 7, Madison, Wisconsin)パイルアッププログラム、またはBLAST、FASTAなどの配列比較アルゴリズムのいずれかを使用したアラインメントによって同定する。
【0099】
例えば、認め得る活性の減少を伴うことなく、タンパク質構造中の特定のアミノ酸を、他のアミノ酸によって置換することができる。タンパク質の相互作用能および性質は、タンパク質の生物学的な機能的活性を規定するので、特定のアミノ酸置換をタンパク質配列中に、およびもちろんそのDNAコーディング配列中に行なって、依然として類似した特性を有するタンパク質を得ることができる。従って、本発明の抗体配列または前記抗体をコードする対応するDNA配列において種々の変化を、認め得るその生物学的活性の減少を伴うことなく行なうことができると考えられる。
【0100】
特定のアミノ酸を、類似のハイドロパシー指数またはスコアを有する他のアミノ酸によって置換し得、そして依然として、類似した生物学的活性を有するタンパク質が得られ、すなわち、依然として生物学的に機能的に等価なタンパク質が得られることが当技術分野において知られている。
【0101】
前記に概略を示したように、それ故、アミノ酸の置換は、一般的に、アミノ酸側鎖置換基の相対的類似性、例えば、その疎水性、親水性、荷電、サイズなどに基づく。前記の種々の特徴を考慮に入れた例示的な置換は、当業者には周知であり、そして、アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびトレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびに、バリン、ロイシンおよびイソロイシンを含む。
【0102】
本発明の抗体の別のタイプのアミノ酸改変は、抗体の元のグリコシル化パターンを変容させるのに有用であり得る。
【0103】
「変容させる」によって、抗体に見られる1つ以上の炭水化物部分を欠失させること、および/または抗体中に存在しない1つ以上のグリコシル化部位を付加することを意味する。
【0104】
抗体のグリコシル化は、典型的にはN結合である。「N結合」は、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の付着を指す。トリペプチド配列のアスパラギン−X−セリンおよびアスパラギン−X−トレオニン(Xはプロリンを除く任意のアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖への炭水化物部分の酵素的付着のための認識配列である。従って、ポリペプチド中のこれらのいずれかのトリペプチド配列の存在は、潜在的なグリコシル化部位を作り出す。抗体へのグリコシル化部位の付加を、抗体が前記のトリペプチド配列の1つ以上を含むように(N結合グリコシル化部位のために)、アミノ酸配列を変容させることによって簡便に達成する。
【0105】
別のタイプの共有結合的修飾は、抗体にグリコシドを化学的または酵素的にカップリングすることを含む。これらの手順は、N結合またはO結合グリコシル化のためのグリコシル化能を有する宿主細胞における抗体の産生を必要としないために有利である。使用するカップリング形態に依存して、糖を、(a)アルギニンおよびヒスチジン、(b)遊離カルボキシル基、(c)遊離スルフヒドリル基、例えばシステインのそれ、(d)遊離ヒドロキシル基、例えばセリン、トレオニン、またはヒドロキシプロリンのそれ、(e)芳香族残基、例えばフェニルアラニン、チロシン、またはトリプトファンのそれ、あるいは(f)グルタミンのアミド基に付着させ得る。例えば、このような方法は、WO87/05330に記載されている。
【0106】
抗体上に存在する任意の炭水化物部分の除去を、化学的にまたは酵素的に達成し得る。化学的脱グリコシル化は、化合物のトリフルオロメタンスルホン酸または等価な化合物への抗体の曝露を必要とする。この処理により、連結している糖(N−アセチルグルコサミンまたはN−アセチルガラクトサミン)を除く殆どまたは全ての糖が切断され、抗体はインタクトのままで残る。抗体上の炭水化物部分の酵素的切断を、多種多様なエンド−およびエキソ−グリコシダーゼの使用によって達成し得る。
【0107】
抗体の別のタイプの共有結合的修飾は、米国特許第4,640,835;第4,496,689;第4,301,144;第4,670,417;第4,791,192または第4,179,337において示された様式での、多種多様な非タンパク質性ポリマーの1つ、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、またはポリオキシアルキレンへの抗体の連結を含む。
【0108】
また、例えば抗体の抗原依存性細胞介在性細胞傷害作用(ADCC)および/または補体依存性細胞傷害作用(CDC)を増強するために、エフェクター機能に関して本発明の抗体を改変することが望ましくあり得る。これを、抗体のFc領域に1つ以上のアミノ酸置換を導入することによって達成し得る。代替的にまたは追加的に、システイン残基をFc領域に導入し得、これにより、この領域における鎖間ジスルフィド結合形成が可能となる。このようにして生成したホモダイマー抗体は、内部移行能および/または増加した補体介在性細胞殺滅および/または抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)を改善し得る(Caron PC. et al. J Exp Med. 1992 Oct 1;176(4):1191-5およびShopes B. J Immunol. 1992 May 1;148(9):2918-22)。
【0109】
本発明の抗体の治療使用
本発明者らは、PD1.3が、PD−1へのPD−L1およびPD−L2の結合を阻害し、よってこれを癌患者および慢性感染中に観察されるPD−1によって媒介される免疫抑制機序を克服するために使用し得ることを実証した。
【0110】
本発明は、療法によるヒトまたは動物の身体の処置のための方法における使用のためのPD1.3またはその誘導体に関する。
【0111】
本発明は、癌または慢性感染の処置のためのPD1.3またはその誘導体に関する。
【0112】
本発明はまた、癌または慢性感染を処置するための方法に関し、前記方法は、それを必要とする被験体に、治療有効量のPD1.3またはその誘導体を投与する工程を含む。
【0113】
癌の例としては、血液学的悪性疾患、例えばB細胞リンパ系新生物、T細胞リンパ系新生物、非ホジキンリンパ腫(NHL)、B−NHL、T−NHL、慢性リンパ球性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、NK細胞リンパ系新生物および骨髄系細胞系統新生物が挙げられるがそれらに限定されない。非血液学的癌の例としては、大腸癌、乳癌、肺癌、脳癌、前立腺癌、頭頸部癌、膵臓癌、膀胱癌、結腸直腸癌、骨癌、子宮頸部癌、肝癌、口腔癌、食道癌、甲状腺癌、腎臓癌、胃癌、精巣癌および皮膚癌が挙げられるがそれらに限定されない。
【0114】
慢性感染の例としては、ウイルス、細菌、寄生虫または真菌の感染、例えば慢性肝炎、肺感染、下気道感染、気管支炎、インフルエンザ、肺炎および性行為感染症が挙げられるがそれらに限定されない。ウイルス感染の例としては、肝炎(HAV、HBV、HCV)、単純ヘルペス(HSV)、帯状疱疹、HPV、インフルエンザ(Flu)、エイズおよびエイズ関連合併症、水痘(水疱瘡)、感冒、サイトメガロウイルス(CMV)感染、天然痘(痘瘡)、コロラドダニ熱、デング熱、エボラ出血熱、口蹄疫、ラッサ熱、麻疹、マールブルグ出血熱、伝染性単核球症、ムンプス、ノロウイルス、灰白髄炎、進行性多巣性白質脳症(PML)、狂犬病、風疹、SARS、ウイルス性脳炎、ウイルス性胃腸炎、ウイルス性髄膜炎、ウイルス性肺炎、西ナイル病および黄熱病が挙げられるがそれらに限定されない。細菌感染の例としては、肺炎、細菌性髄膜炎、コレラ、ジフテリア、結核、炭疽病、ボツリヌス症、ブルセラ症、カンピロバクター症、チフス、淋病、リステリア症、ライム病、リウマチ熱、百日咳(pertussis)(百日咳、Whooping Cough)、ペスト、サルモネラ症、猩紅熱、細菌性赤痢、梅毒、破傷風、トラコーマ、野兎病、腸チフス熱、および尿路感染症が挙げられるがそれらに限定されない。寄生虫感染の例としては、マラリア、リーシュマニア症、トリパノソーマ症、シャーガス病、クリプトスポリジウム症、肝蛭症、フィラリア症、アメーバ感染、ジアルジア症、蟯虫感染、住血吸虫症、条虫症、トキソプラズマ症、旋毛虫症、およびトリパノソーマ症が挙げられるがそれらに限定されない。真菌感染の例としては、カンジダ症、アスペルギルス症、コクシジオイデス症、クリプトコッカス症、ヒストプラスマ症および足白癬が挙げられるがそれらに限定されない。
【0115】
PD1.3またはその誘導体を、癌または慢性感染の処置のためのワクチンアジュバントとして使用し得る。
【0116】
本発明は、PD1.3またはその誘導体を含む、癌または慢性感染の処置のためのワクチンに関する。
【0117】
本発明は、
a)PD1.3またはその誘導体;および
b)癌または慢性感染の処置のためのワクチン
を含む、癌または慢性感染の処置のためのキットに関する。
【0118】
キットの2つの成分を、時間をかけて同時にまたは連続的に投与し得る。
【0119】
癌または慢性感染の処置のためのワクチンの例としては、HIVおよびHBVなどのウイルス、細菌、寄生虫もしくは真菌の感染に対するワクチン、ならびにウイルス関連癌(例えばHPVまたはHBV)に対するワクチン、またはメラノーマ、白血病、乳癌、肺癌を有する患者の処置に例えば使用する抗癌ワクチンが挙げられるがそれらに限定されない。
【0120】
さらに、本発明者らは、PD−1へのPD−L1の結合を安定化し、よってPD−1によって媒介される免疫抑制機序を刺激するのに使用し得る、PD−L1抗体を生成した。これらのPD−L1抗体は、免疫抑制剤として使用され得る。
【0121】
さらなる態様において、本発明は、療法によるヒトまたは動物の身体の処置のための方法における使用のためのPD−1へのPD−L1の結合を安定化する、PD−L1抗体に関する。
【0122】
特に、本発明は、自己免疫疾病、移植拒絶または移植片対宿主疾病の処置のための、PD−1へのPD−L1の結合を安定化する、PD−L1抗体に関する。
【0123】
本発明はまた、自己免疫疾病、移植拒絶または移植片対宿主疾病の処置のための方法に関し、前記方法は、それを必要とする被験体に、PD−1へのPD−L1の結合を安定化する、治療有効量のPD−L1抗体を投与する工程を含む。典型的には、PD−1へのPD−L1の結合を安定化するPD−L1抗体は、PDL1.1、その誘導体、PDL1.2またはその誘導体であり得る。
【0124】
処置され得る自己免疫疾病の例としては、関節リウマチ(RA)、インシュリン依存性糖尿病(I型糖尿病)、多発性硬化症(MS)、クローン病、全身性エリテマトーデス(SLE)、強皮症、シェーグレン症候群、尋常性天疱瘡、類天疱瘡、アジソン病、強直性脊椎炎、再生不良性貧血、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、セリアック病、皮膚筋炎、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、橋本病、特発性白血球減少症、特発性血小板減少性紫斑病、男性不妊症、混合性結合組織病、重症筋無力症、悪性貧血、水晶体起因性ブドウ膜炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性粘液水腫、ライター症候群、全身硬直症候群、甲状腺中毒症、潰瘍性大腸炎およびウェゲナー肉芽腫症が挙げられるがそれらに限定されない。
【0125】
典型的には、PD−1へのPD−L1の結合を安定化するPD−L1抗体を、他の免疫抑制剤および化学療法剤(プレドニゾン、アザチオプリン、シクロスポリン、メトトレキセートおよびシクロホスファミドなどであるがそれらに限定されない)と組み合わせて使用し得る。
【0126】
本発明はまた、本発明の抗体を含む薬学的組成物に関する。
【0127】
それ故、本発明の抗体を、薬学的に許容される賦形剤および場合により持続放出マトリックス、例えば生分解性ポリマーと合わせて、治療組成物を形成してもよい。
【0128】
「薬学的に」または「薬学的に許容される」は、適宜、哺乳動物、特にヒトに投与した場合に、有害な反応、アレルギー反応または他の望ましくない反応を生じない分子実体および組成物を指す。薬学的に許容される担体または賦形剤は、任意のタイプの無毒性固体、半固体もしくは液体充填剤、希釈剤、封入材料または製剤助剤を指す。
【0129】
薬学的組成物の剤形、投与経路、投与量およびレジメンは、当然ながら、患者の、処置しようとする容態、病気の重篤度、年齢、体重および性別などに依存する。
【0130】
本発明の薬学的組成物を、局所、経口、非経口、鼻腔内、静脈内、筋肉内、皮下または眼内投与などのために製剤化し得る。
【0131】
好ましくは、薬学的組成物は、注射することのできる製剤のための薬学的に許容されるビヒクルを含む。これらは、特に、等張性で無菌の食塩水溶液(リン酸一ナトリウムもしくはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムもしくは塩化マグネシウムなどまたはこのような塩の混合物)、または場合に応じて滅菌水もしくは生理食塩水を添加すると注射溶液の復元が可能となる、乾燥した、特に凍結乾燥した組成物であり得る。
【0132】
投与のために使用する投与量を、種々のパラメーターの関数として、特に使用する投与形態、関連する病態、または代替的には所望の処置期間の関数として適合することができる。
【0133】
薬学的組成物を調製するために、有効量の抗体を、薬学的に許容される担体または水性媒体中に溶解または分散し得る。
【0134】
注射使用に適した剤形は、無菌水性液剤または分散剤;ゴマ油、ピーナッツ油または水性プロピレングリコールを含む製剤;および無菌注射溶液または分散液の即時調製のための無菌粉末を含む。全ての場合において、剤形は無菌でなければならず、そして容易にシリンジが扱える程度に流動性でなければならない。それは製造および保存の条件下において安定でなければならず、そして細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保存されていなければならない。
【0135】
遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性化合物の溶液を、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合した水中において調製することができる。分散液もまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコールおよびその混合物中、ならびに油中において調製することができる。通常の保存および使用の条件下において、これらの調製物は、微生物の増殖を防止するための保存剤を含む。
【0136】
本発明の抗体を、中性形または塩形の組成物へと製剤化することができる。薬学的に許容される塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基を用いて形成)を含み、そしてこれを、例えば、塩酸もしくはリン酸のような無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸を用いて形成する。また、遊離カルボキシル基を用いて形成する塩を、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウムまたは水酸化鉄のような無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどのような有機塩基から誘導することもできる。
【0137】
担体はまた、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、適切なその混合物、および植物油を含む、溶媒または分散媒体であり得る。適切な流動性を、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合には必要とされる粒子径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の防止を、種々の抗細菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらすことができる。多くの場合、例えば糖または塩化ナトリウムなどの等張剤を含めることが好ましい。注射用組成物の持続的吸収は、組成物中における、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収遅延剤の使用によってもたらすことができる。
【0138】
無菌注射用溶液を、適切な溶媒中に必要量の活性化合物を、必要であれば前記に列挙した種々の他の成分と共に取り込み、その後、滅菌ろ過することによって調製する。一般的には、分散液を、基本分散媒体と、前記に列挙したものに由来する必要とされる他の成分とを含む無菌ビヒクルに、種々の滅菌した活性成分を取り込むことによって調製する。無菌注射用溶液の調製のための無菌粉末の場合、好ましい調製法は、真空乾燥技術および凍結乾燥技術であり、これにより、以前に滅菌ろ過したその溶液から、活性成分と任意の追加の所望の成分の粉末が得られる。
【0139】
直接的な注入のためのより濃縮したまたは高度に濃縮した溶液の調製も考えられ、極めて急速に浸透し、小さな腫瘍領域に高濃度の活性剤を送達する、溶媒としてのDMSOの使用が考えられる。
【0140】
製剤化した後、溶液を、投与製剤と適合性の様式で、治療的に有効な量で投与する。製剤を、前記した注射用溶液のタイプなどの多種多様な剤形で容易に投与するが、薬物放出カプセルなども、使用することができる。
【0141】
水溶液での非経口的な投与のために、例えば、溶液を、必要であれば適切に緩衝化するべきであり、そして十分な食塩水またはグルコースを用いて液体をまず等張とすべきである。これらの特定の水溶液は、特に、静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内投与に適している。これに関して、使用することのできる無菌水性媒体は、本開示に鑑みて当業者には公知である。例えば、1投与量を1mlの等張NaCl溶液に溶解し得、そして1000mlの皮下点滴療法用液体に添加するか、または提案した点滴部位に注入し得る(例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」 15th Edition, pages 1035-1038および1570-1580参照)。用量のいくらかの変更が、処置される被験体の容態に依存して必然的になされるだろう。投与責任者は、いずれの事象においても、個々の被験体に対する適切な用量を決定する。
【0142】
本発明の抗体を、1用量あたり、約0.0001〜1.0mg、または約0.001〜0.1mg、または約0.1〜1.0またはさらには約10mgなどを含むように、治療混合物内に製剤化し得る。複数の用量を投与してもよい。
【0143】
静脈内または筋肉内注射などの非経口投与のために製剤化した化合物に加えて、他の薬学的に許容される剤形としては、例えば、経口投与のための錠剤または他の固形剤;徐放性カプセル;および現在使用されている任意の他の剤形が挙げられる。
【0144】
特定の態様において、リポソームおよび/またはナノ粒子の使用が、宿主細胞への抗体の導入のために考えられる。リポソームおよび/またはナノ粒子の形成および使用は当業者には公知である。
【0145】
ナノカプセルは、一般に、安定かつ再現性のある様式で化合物を封入することができる。細胞内におけるポリマーの過負荷に起因する副作用を回避するために、in vivoにおいて分解され得るポリマーを使用してこのような超微細粒子(約0.1μmのサイズ)を、一般的に設計する。これらの必要条件に合致する生分解性ポリアルキル−シアノアクリレートナノ粒子を、本発明における使用に考え、そしてこのような粒子を、容易に作製し得る。
【0146】
リポソームは、水性媒体中に分散したリン脂質から形成され、そして自発的に多層の同心円状の二重層小胞(多層小胞(MLV)とも呼ばれる)を形成する。MLVは、一般的に、25nmから4μmの直径を有する。MLVの超音波処理により、コア中に水溶液を含む、200〜500Åの範囲の直径を有する小さな単ラメラ小胞(SUV)が形成される。リポソームの物理的特徴は、pH、イオン強度および二価カチオンの存在に依存する。
【0147】
本発明を、以下の図面および実施例を鑑みてさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】Biacoreを使用したPD−1へのPD−L1およびPD−L2の競合的結合のSPR分析。(A)(B)において使用した表面競合的結合阻害の図解。(B)PD−1チップを、漸増量のPD−L2(0〜1000RU)と共にプレインキュベーションし、そしてPD−L1を10μg/mlで2分間10μl/分の流速で、結合したPD−L2を除去することなく注入した。種々のレベルのPD−L2占有度で結合したPD−L1を示すセンサーグラムを重ねる。(C)(D)において使用した溶液阻害の図解。(D)10μg/mlのPD−1組換えタンパク質を、漸増濃度のPD−L2(0〜60μg/ml)と共にプレインキュベーションし、そして10μl/分の流速で2分間PD−L1チップ上に注入した。注入の終了から10秒後にモニタリングしたRU値を、PD−L2濃度の関数としてプロットした(logスケール)。
【図2】PD1.3抗体は、PD−L1およびPD−L2の両方へのPD−1の結合を遮断し、そしてT細胞の活性化を増強する。(A)(B)および(C)において使用した表面競合的結合阻害の図解。第1ステップにおいて、固定したPD−1タンパク質を抗体Fabを使用して飽和させ、そして対応するPD−1リガンドを、第2ステップにおいて可溶性分析物として注入する。(BおよびC)PD−L1Ig(B)およびPD−L2Igタンパク質(C)を、10μg/mlで2分間10μl/分の流速でPD−1チップ上に注入するか(無し)、または抗PD−1Fab、PD1.3もしくはPD1.6と共にプレインキュベーションしたPD−1チップ上に注入した。種々の状況におけるPD−1リガンドの結合を示すセンサーグラムを重ねる。示したデータは、2回の別々の実験の代表である。(D)PD1.3mAbは、PD−1を発現している細胞への、PD−L1 FcおよびPD−L2 Fcの結合を妨げる。(EおよびF)PD1.3mAbは、DC相互作用時にCD4 T細胞においてIFN−γおよびIL10の産生を誘導することができる。同種異型iDCを、抗PD1.3、PD1.6またはアイソタイプ対照と、CD4+ T細胞と共に共培養した。培養を、5日間インキュベーションし、上清をサイトカイン分析のために取り出した。IFN−γ産生(E)およびIL10産生(F)のレベルを、二重にELISA検出によって決定した。示したデータは、2回の別々の実験の代表である。
【図3】PD−L1およびPD−L2は、同じ分子機序でPD−1に結合しない。(A)PD−1チップへのPD−L1およびPD−L2の結合と、CD80チップへのPD−L1およびCTLA−4の結合を示す、重ね合わせたセンサーグラム。10μg/mlのタンパク質を30秒間10μl/分の流速でPD−1チップ上に注入し、そしてさらに120秒間かけて解離させた。(B)PD−1チップ上へのそれぞれPD−L1(上)およびPD−L2(下)の短い(青色)および長い(赤色)注入を示す重ね合わせたセンサーグラム。10μg/mlのタンパク質を1分間または7分間10μl/分の流速でPD−1チップ上に注入した。センサーグラムをY軸において正規化し、そして注入の終了時にX軸にアラインさせた。
【図4】PDL1.1およびPDL1.2 PD−L1抗体は、PD−1へのPD−L1の結合を安定化する。(A)PD−1チップ上への、PD−L1 Ig組換えタンパク質の注入(灰色)、またはPD−L1抗体と共にプレインキュベーションしたPD−L1 Ig組換えタンパク質の注入(黒色)を示す、重ね合わせたセンサーグラム。10μg/mlのPD−L1 Ig組換えタンパク質を、100μg/mlの飽和濃度でPDL1.1、PDL1.2またはPDL1.3 PD−L1抗体Fabと共にプレインキュベーションし、そして10分間10μl/分の流速でPD−1 Igチップ上に注入した。センサーグラムを、Y軸において正規化し、そして注入の終了時にX軸にアラインさせた。(B)PD−L1を発現するCOS細胞上でのFACS分析。PDL1.1、PDL1.2およびPDL1.3Fab mAbを、PD−L1を発現している細胞と共に5または30分間インキュベーションした。PD−1 Igの結合は、ヤギ抗ヒト(GAH)にコンジュゲーションしたPEにより判明し、MFI比をY軸に示した。示したデータは、3回の別々の実験の代表である。
【図5】PD−L1とPD−1の相互作用の可能性ある機序
【図6】表3
【0149】
実施例
要約
プログラム死1分子(PD−1)は、末梢性トレランスおよび持続ウイルス感染の調節、ならびに免疫系からの腫瘍の回避機序に関与する。PD−L1およびPD−L2という2つのリガンドが記載されており、これらは、組織分布、発現の調節およびPD−1へのその結合に関与する残基において異なっている。本発明者らは、組換えタンパク質およびmAbを使用して、表面プラズモン共鳴および細胞表面結合によって、PD−1とそのリガンドとの相互作用の分子機序をさらに調査した。本発明者らは、PD−L1およびPD−L2の両方が、PD−1への結合に関して交差競合することを実証できた。興味深いことにそして同じように、1つの選択したPD−1 mAbが、PD−L1およびPD−L2の両方の結合に干渉し得る。PD−L1およびPD−L2は、同等な親和性で、しかし会合および解離の特徴のレベルにおいて示される顕著な差異をもってPD−1に結合した。従って、PD−L2ではなくPD−L1は、遅延した相互作用を示し、これはコンフォメーション遷移の現象を連想させる。これらの機序を、PD−1からのPD−L1の解離を遅延させ得るPD−L1mAbのお陰でさらに確認した。この機序は、PD−1相互作用に限定されなかった。なぜならPD−L1は、その第2リガンドのCD80と類似した様式で挙動するからである。
【0150】
最後に、CTLA−4およびPD−L1は、CD80上の明確に異なる重複していない部位に結合した。これらのデータはさらに、PD−1と両方のリガンドとの相互作用の異なる分子機序を強調し、これにより、PD−1への両方のリガンドの結合を妨げ得、慢性感染、癌および移植における免疫抑制の最適な遮断を可能とするmAb療法を考案するための新規な道を同定する。
【0151】
材料および方法
構築物
ヒトPD−1およびCTLA−4 cDNAを、RT−PCRによって、(CD3+CD28)活性化T細胞から表1に示すプライマーを使用して生成し、そしてその後、DNA4ベクター(Yang WC et al., Int. Immnol. 2000)にサブクローニングした。ヒトPD−1およびCTLA−4の細胞外領域(aa1〜152およびaa)を、このプラスミドから表1に示すプライマーを使用して増幅し、そしてCos Fcリンクベクター(SmithKline Beecham Pharmaceuticals, King of Prussia, PA)を使用してヒトIgG1配列のFcフラグメントと共にインフレームにクローニングした。ヒトPD−L1およびPD−L2 cDNAを、RT−PCRによって、脳および肺のヒト全RNA(Clontech Laboratories, Inc)からそれぞれ表1に示すプライマーを使用して生成した。PD−1と同じクローニングプロトコールを使用して、Ig融合タンパク質として完全長PD−Lおよびその細胞外部分を生成した。
【0152】
【表1】

【0153】
PD1、PD−L、PD−L2、CTLA−4およびCD80可溶性ヒトIg融合タンパク質
PD1、PD−L1、PD−L2およびCTLA−4の細胞外ドメインを、Cos Fcリンクベクターを使用して、ヒトIgG1配列のFcフラグメントとライゲーションすることによって、キメラcDNAを構築した。
【0154】
Cos細胞を、2mM L−グルタミンを含むDMEM10%FBS中で培養し、そしてFBSを含まないCHO−S−SFM II培地(Invitrogen製)中において、CFLベクター中のDNAプラスミド構築物を用いて、FuGENE6トランスフェクション試薬を用いて製造業者のプロトコール(ROCHE)に従ってトランスフェクションした。培養上清を、トランスフェクションから7日後に回収し、ろ過し、そして製造業者のプロトコール(Bio-rad, Hercules, CA)に従って5mlのアフィゲルプロテインAカラムにのせた。洗浄後、タンパク質を0.1mol/Lクエン酸緩衝液(pH3.5)を用いて溶出し、濃縮し、そしてリン酸緩衝食塩水(PBS)に対して透析した。精製工程を、ELISAによって、コーティングした抗ヒトIgG−UNLB抗体および抗ヒトIgG-AP抗体(Southern Biotechnology Associates)で構成されるサンドイッチ顕示システムを使用してモニタリングし、そしてpNPP基質(Sigma)によって明らかにした。ヒトIg融合タンパク質の純度および品質を、ゲル電気泳動、およびそれぞれヒトPD1、PD−L1、PD−L2またはCTLA−4をトランスフェクションしたCOS細胞系上での細胞表面染色によって制御した。CD80FcをR&Dから購入した。
【0155】
抗ヒトPD1、PD−L1、PD−L2およびCD80モノクローナル抗体の生成およびFabフラグメンテーション
ヒトPD1、PD−L1およびPD−L2に対するMAbを同じように産生した。雌BALB/cマウスを、フロイントアジュバントと共に10μgのヒトIg融合タンパク質を用いての腹腔内注入によって免疫化した。免疫化は2週間間隔で3回繰り返し、4回目の免疫化は、10μgのIg融合タンパク質を用いての尾への静脈内注入によってなした。3日後、脾臓細胞を、PEG1500(Roche)を用いてX63Ag8骨髄腫細胞と融合し、そしてHAT選択(Sigma)およびハイブリドーマクローニング因子(OrigenのHCF)を用いてクローニングした。ハイブリドーマ上清を、それぞれヒトPD1、PD−L1またはPD−L2をトランスフェクションしたCOS細胞系の細胞表面を染色することによって、トランスフェクションしていないCOS細胞との反応性の欠如についてスクリーニングした。クローンPD1.3(マウス、IgG2b)およびPD1.6(マウス、IgG1)、PDL1.1、PDL1.2およびPDL1.3(マウス、IgG1)およびPD−L2(マウス、IgG1)を、腹水液の産生によって産生し、プロテインAアフィニティカラムを用いて精製し、そしてFACSおよびBiacore分析ならびに機能的研究のための試薬として選択した。一過性トランスフェクトCOS細胞を、製造業者のプロトコール(ROCHE)に従ってFuGENE6トランスフェクション試薬を用いて得た。CD80mAb 2D10.4は以前に報告されている。
【0156】
Fabフラグメンテーションを、製造業者のプロトコール(PIERCE)に従ってイムノピュアFab調製キットを用いてパパインを使用して実施した。完全なMAbおよびFabを還元性SDS−PAGEにかけ、そしてゲルをクーマシーブルーで染色し、コンタミしている完全mAbはFab調製物中には全く存在しなかった(データは示さず)。Fabは、それぞれレセプターに結合するその能力を保持していた。完全なmAbおよびそのFabを用いてのFACS分析により、PD−1、PD−L1またはPD−L2をトランスフェクションしたCOS細胞への結合時におけるほぼ同じ平均蛍光強度が判明した。
【0157】
FACS分析
Cos−7細胞系を、2mM L−グルタミン(Invitrogen)を含むDMEM10%FBS中で培養した。一過性にトランスフェクションしたCOS細胞の染色は、基本的な手順に従った。簡潔に言えば、細胞を、最適な希釈度のmAbと共にインキュベーションし、2%FBSおよび0.02%アジ化ナトリウムを含む冷PBS中で洗浄し、そしてFITCとコンジュゲーションしたヤギ抗マウス(GAM)(Beckman Coulter)と共にインキュベーションした。洗浄後、細胞を、FACS CANTOフローサイトメーター(Becton Dickinson)で分析した。
【0158】
PD−1へのPD−L1の結合に対する、PDL1.1およびPDL1.2の抗PD−L1非遮断抗体の効果を試験するために、4μg/mlのPD−1 Igタンパク質を、非処理であるか、または7.5μg/mlのPDL1.1、PDL1.2またはPDL1.3 Fab mAbと共に5または30分間プレインキュベーションした、PD−L1をトランスフェクションしたCOS細胞上に加えた。PD−1 Igの結合は、ヤギ抗ヒト(GAH)のコンジュゲーションしたPEにより判明した。結果を平均蛍光強度(MFI)として表現する。MFI比を、Fabとプレインキュベーションした細胞のMFI/非処理細胞のMFIによって計算した。
【0159】
Biacore実験
表面プラズモン共鳴測定を、Biacore1000アップグレード装置(Biacore GE Healthcare)で25℃において実施した。全てのBiacore実験においてHBS−EP緩衝液(Biacore GE Healthcare)をランニング緩衝液として用い、そしてセンサーグラムをBiaevaluation4.1ソフトウェアを用いて分析した。
【0160】
タンパク質の固定のために、組換えタンパク質を、センサーチップCM5上のデキストラン層のカルボキシル基に共有結合的に固定した。センサーチップ表面を、EDC/NHS(N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩およびN−ヒドロキシスクシンイミド(Biacore GE Healthcare))を用いて活性化した。タンパク質をカップリング緩衝液(10mMアセテート、pH5.2)中で10μg/mlまで希釈し、そして適切な固定レベルに到達するまで(すなわち1000〜1200RU)注入した。
【0161】
残りの活性基の脱活性化を、100mMエタノールアミンpH8(Biacore GE Healthcare)を使用して実施した。
【0162】
タンパク質の親和性を決定するために、0.3〜30nMおよび1.37〜90nMの可溶性抗体および組換えタンパク質の連続希釈液をそれぞれ2分間かけて40μl/分の一定の流速で、固定した組換え標的タンパク質を含むデキストラン層上に注入し、そして3分間かけて解離させ、その後、500mM NaClおよび10mM NaOH緩衝液の8秒間の注入によって再生した。
【0163】
得られたセンサーグラムを、適切なモデルを使用したグローバルフィッティングによって分析した。
【0164】
表面競合的結合阻害実験のために、可溶性分析物を、適切に固定した組換え標的タンパク質を含むデキストラン層上に10μg/mlの一定濃度で注入した。各競合サイクルは、10μl/分の一定の流速での2分間の3回の注入工程からなっていた。最初に、1つの分析物を2回注入する。第2に、第1の分析物を除去することなく、第2の分析物を注入し、そしてセンサーグラムおよびRU値をモニタリングする。第2の分析物のセンサーグラムを、この分析物をヌード組換え標的タンパク質上に直接的に注入した場合に得られたセンサーグラムと比較する。第1分析物による第2の分析物の結合阻害の比率(I2−1)を、以下の式:I2−1=(1−(RU2−1/RU))×100を使用して、注入から10秒後に得られたRU値から決定した。RU2−1およびRUは、第1分析物の存在下および非存在下においてそれぞれモニタリングした第2分析物のRU値である。各サイクル後、40μl/分の流速で500mM NaClおよび10mM NaOH緩衝液を8秒間注入することによってセンサーチップを再生した。
【0165】
溶液阻害実験のために、10μg/mlの一定濃度の可溶性組換えタンパク質を、漸増濃度の同族組換えリガンド(0〜60μg/ml)または抗体(PD−1 mAb、PD−L2 mAbおよびPD−L1 mAbのそれぞれについて、0〜80μg/mlおよび0〜120μg/ml)と共にプレインキュベーションし、そして10μl/分の流速で2分間かけて適切なチップ上に注入した。注入の終了から10秒後にRU値をモニタリングした。各サイクル後、40μl/分の流速で500mM NaClおよび10mM NaOH緩衝液を8秒間注入することによってセンサーチップを再生した。
【0166】
PD−1へのPD−L1の結合に対する、PDL1.1およびPDL1.2抗体の安定化効果を測定するために、10μg/mlの一定濃度の可溶性組換えPD−L1 Igタンパク質を、100μg/mlの飽和濃度のPDL1.1およびPDL1.2抗体Fabと共にプレインキュベーションし、そして10μl/分の流速で10分間かけてPD−1チップ上に注入した。センサーグラムをモニタリングし、Y軸において100RUに正規化し、そして抗PD−L1抗体Fabとプレインキュベーションしないで得られたものと比較した。
【0167】
未成熟な単球由来DC(iDC)の調製
iDCを、改変を加えた以前に確立したプロトコール(Charbonnier et al, Eur J Immunol. 1999;29(8):2567-78)に従って単球から調製した。PBMCを健康な個体志願者から入手し、そしてlymphoprep(商標)Axis−Shield(ABCys)勾配遠心分離による分画によって単離した。単球は、製造業者のプロトコール(Miltenyi Biotec)に従って単球単離キットIIヒトを用いてのネガティブセレクションによってPBMCから得た。単球を、6ウェルプレート中の、10%FBSを含むRPMI 1640(Invitrogen)培地中で、2.5×10細胞/ウェル(Falcon, BD Biosciences)で培養し、そして20ng/mlの組換えヒトインターロイキン4(IL−4)および100ng/mlの組換えヒトGM−CSF(ABCys French society)を用いて5日間分化させた。iDCは、一貫してCD14およびCD83陰性であり、CD1aは92%超、CD11bは96%超、HLADRは80%超、CD80細胞は20%超であった。
【0168】
iDCを用いてのCD4T細胞の同種異型刺激
CD4T細胞を、製造業者のプロトコール(Miltenyi Biotec)に従ってCD4T細胞単離キットIIヒトを用いてのネガティブセレクションによりPBMCから単離した。CD4T細胞は、通例的に95%超の純度であった。CD4T細胞(2×10/ウェル)を、種々の濃度のPD−1、PD−L1およびPD−L2に対するmAbを加えて、3枚の96ウェル平底プレート(Falcon; BD Biosciences)中で、10%FBSを補充した200μlのRPMI 1640(Invitrogen)中の2×10iDC/ウェルと共に共培養した。アイソタイプの一致したmAb(B9.3、マウスIgG1およびB9.4、マウスIgG2b)を、陰性対照として使用した。培養を5日間インキュベーションした。
【0169】
サイトカイン分析のためのELISA
その後、上清を回収し、培養上清中のIFN−γおよびIL−10の産生をELISA検出によってOptEIA(商標)ヒトIFN−γおよびIL10セットを使用して製造業者のプロトコール(BD Biosciences)に従って検出した。検出限界は、4pg/mlであった。
【0170】
結果
PD−1、PD−L1、PD−L2mAbおよびPD−1 Ig、PD−L1 IgおよびPD−L2 Ig融合タンパク質の特徴付け
本研究を実施するために、本発明者らは、PD−1およびそのリガンドに対して作られたmAbを作製し、そしてそれらをFab、ならびにPD−1、PDL−1およびPDL−2の細胞外ドメインおよびヒトIgG1のFc部分に対応する可溶性融合タンパク質として使用した。本発明者らは、mAbのFabフラグメントおよび融合タンパク質の両方の結合特徴を、トランスフェクションした細胞上で、SPRによって、BiacoreT100およびフローサイトメトリーを使用して調査した(データは示さず)。
【0171】
SPRを使用した動的分析によって、mAbのFabフラグメントのKDは0.26〜41nMの範囲であった。
【0172】
2つのPD−1mabのPD1.3およびPD1.6は交差結合しなかった(データは示さず)。3つのPD−L1mAbは、交差結合するPDL1.1およびPDL1.2を有する一方のグループと、他方方でPDL1.3エピトープは、他の2つのmAbとは独立しているグループの2つを表わす(データは示さず)。
【0173】
本発明者らは次に、PD−L1およびPD−L2が、CM5チップにカップリングしたPD−1に相互に結合し得るかどうかを調査した。本発明者らは、共有結合的なカップリングが、PD−L2組換えタンパク質を不活性化し、そしてPD−1FcとPD−L2mAbとの結合を妨げる(データは示さず)ことを観察し、このことは、結合部位がおそらく遊離NH2を含むが、それは、固定したPD−1に対するPD−L1およびPD−L2の結合に対しては全く影響を及ぼさず(図1および図4A)、また、固定したPD−L1に対するPD−1の結合にも全く影響を及ぼさなかったこと(図1)を示す。類似の実験を、CD80およびCTLA−4タンパク質を使用して行なった。
【0174】
合わせて考えると、これらの結果は、その同族レセプターに結合した3つの融合タンパク質およびFabフラグメントは、CM5センサーチップにカップリングしたその標的に特異的に結合したことを実証する。
【0175】
PD−L1およびPD−L2は、PD−1への結合に対して交差競合する
本発明者らは次に、PD−L1およびPD−L2が一緒にPD−1に結合し得るかどうか、またはPD−1占有に対して交差競合するかどうかを調査した。
【0176】
図1に示したように、本発明者らは、SPR分析を実施した。PD−1チップを漸増量のPD−L2(0〜1000RUの結合したPD−L2)と共にプレインキュベーションし、そしてPD−L1を、結合したPD−L2を除去することなく注入した。センサーグラムは、PD−L1が、PD−L2占有度の増加時にPD−L2に対して打ち負かし得ることを示す。(図1パネルA)。別の実験設定においては、本発明者らは、漸増濃度のPD−L2(0〜60μg/ml)と共に10μg/mlのPD−1組換えタンパク質をプレインキュベーションし、そして前記複合体をPD−L1チップ上に注入した。PD−L2プレインキュベーションは、用量依存的にPD−L1へのPD−1の結合を妨げた(図1、パネルB)。
【0177】
これらのデータは、両方のリガンドが、他のPD−1リガンドの結合を妨げること、そして結果として、PD−1へのPD−L1またはPD−L2の事前の結合は、用量依存的に他のリガンドとの相互作用を妨げるであろうことを実証する。同じ結果が、トランスフェクションした細胞上でのフローサイトメトリーによって得られた(データは示さず)。ヒトPD−L1は、ヒトCD80と相互作用する(図1C)。PD−1の存在下におけるCD80に対するPD−L1の結合の干渉の可能性を分析するために、本発明者らは、プレインキュベーション実験を実施し、そしてPD−1と共にPD−L1をプレインキュベーションすることは、PD−L1:CD80の相互作用を妨げることを示す(図1C)。本発明者らは次に、CTLA−4およびPD−L1とCD80との相互作用を試験した。すでに報告したように、CTLA4に対してCD80が強力に結合するが、これはCTLA−4 Igそれ自体によって妨げられるが、またCD80 mAb2D10.4によっても妨げられる(図1E)。最後に、本発明者らは、CTLA−4およびPD−L1と、CD80との相互作用を試験した(図1D)。CD80へのCTLA−4の事前の結合は、PD−L1の結合を妨げなない。CD80 mAb 2D10.4は、CD80へのPD−L1の結合を妨げなかったが、それは完全にCTLA−4−CD80の相互作用を消失させた。これらの実験は、CTLA−4およびPD−L1が、両方共に同時にヒトPD−L1に結合することができることを実証する。
【0178】
PD1.3mabは、PD−1へのPD−L1およびPD−L2の両方の結合を妨げる
追加の1セットの実験において、本発明者らは、PD−1mAbが、逆向きに、PD−L1およびPD−L2の両方の結合を妨げ得るかどうかを調査した。図2パネルBおよびCに示したように、抗PD1.6ではなく抗PD1.3が、PD−1へのPD−L1(図2Bおよび2Cの上のパネル)およびPD−L2(図2Bおよび2Cの下のパネル)の両方の結合を完全に阻害した。相互的に、PD1.3mAbは用量依存的に、PD−L1チップへのPD−1Fcの結合を遮断した(データは示さず)。FACS分析によって、PD1.3mAbは、PD−L1およびPD−L2発現細胞へのPD−1Fcの結合を阻害することができる(図2C)。
【0179】
PD−1mabは、同種異型の未成熟な樹状細胞によるT細胞の活性化をモデュレーションすることができる
本発明者らは次に、PD−1に対して作られたmAbの機能的能力を調査した。本発明者らは、最適以下の活性化に対する同種異型T細胞の活性化、すなわち未成熟な単球由来樹状細胞の活性化を誘導するその能力を試験した。非阻害性のPD1.6ではなく、PD−1リガンドとの相互作用を阻害するmAbであるPD1.3が、IFNγおよびIL10の産生の増加(図2パネルD)およびT細胞増殖(データは示さず)によって示されるように、CD4 T細胞の活性化を増強することができた。
【0180】
合わせて考えると、これらのデータは、2つのリガンドがPD−1結合に競合し、そして逆に、阻害性抗PD−1mAbは容易にPD−1リガンド結合を妨げることができ、結果として、T細胞活性化を増強することができることを実証する。
【0181】
PD−L1およびPD−L2は、PD−1結合のその分子機序において異なる
本発明者らは次に、PD−1へのPD−L1およびPD−L2の結合の機序を調査した。本発明者らは、この相互作用の異なる工程を特定するために、注意深い動態研究を実施した。動的結合アッセイを実施して、PD−1と、PD−L1およびPD−L2融合タンパク質との間の平衡解離定数を決定した。最初に結合データを1:1のラングミュアモデルを使用して分析した。PD−L2/PD−1については、適合は非常に良好であり、そして9.97nMのKDが得られた。両方の組換え分析物は二価であったが、ラングミュアモデルは非常に良好にデータに適合し、このことは各分子の2つの結合部位がおそらく同時に相互作用することを示す。従って、KD値は結合価を示す可能性が最も高い。
【0182】
PD−L1/PD−1ならびにPD−L1/CD80については、ラングミュアモデルを使用した適合は、も非常に悪くかつ不適切であった。
【0183】
実際に、図3パネルAに示したように、2つのリガンドが、明確に異なる特徴でもってPD−1と相互作用した。PD−L1は急速に会合し、そしてまた非常に速く解離した。これに対して、PD−L2の結合は、異なる勾配を有して遅延し、そしてより頑強であった。残りの数値も強く異なっていた。従って、PDL−L1 PD−1解離相において2つの明確に異なる現象が観察した。初期の相(この間に、PD−L1は解離の開始時にPD−1から急速に解離した)の後に、シグナルがより安定に出現する遅い解離速度によって特徴付けられる後期の相が続き、一方でPD−L2 PD−1解離は、より均一であった。適合のために試験した種々のモデルからの、「コンフォメーション修飾モデル」は、最善かつ信頼性のある適合を与え、そしてPD−1チップ上で10.7nMおよび56.5nMの見かけの解離定数(KD#)が得られた。
【0184】
「コンフォメーション修飾モデル」から、注入時間の延長もまた結合の安定性を増加させるであろうことが予測され得る。この仮説を試験するために、その後、本発明者らは、2つの設定に従ってPD−1チップへのPD−L1およびPD−L2の結合を比較し、10μg/mlのPD−L1またはPD−L2融合タンパク質をそれぞれ7分間または1分間の間に注入した。図3Bにおいて示したセンサーグラムは、接触時間が、PD−1チップへのPD−L1の結合の安定性に影響を及ぼすことを明瞭に実証する。PD−1チップへのPD−L1の解離は、注入時間をより長くした場合により遅かった。
【0185】
対照として、PD−L2についての解離動態は、注入時間を延長することによって影響を受けなかった(図3B)。
【0186】
合わせて考えると、これらのデータは、PD−L1およびPD−L2と、PD−1との相互作用の機序における顕著な差異を実証する。PD−L1を用いて得られたデータは、、そのレセプターとのその効率的な結合のためにはコンフォメーション変化が必要とされるようなモデルと適合する。
【0187】
本発明者らは最後に、このコンフォメーション変化モデルが、PD−L1:PD−1相互作用に限定され、従って、リガンドに因るか、またはCD80のような別のPD−L1リガンドでも観察されるかどうかを分析した。図3Aに示したように、CD80へのPD−L1の結合もまた、コンフォメーション変化モデルに関連した。合わせて考えると、これらのデータは、PD−L1およびPD−L2はPD−1へのその結合において異なることを示す。そのリガンドに、すなわちPD−1およびCD80に類似の会合機序および解離機序で結合する。
【0188】
非遮断性PD−L1mabは、PD−1へのPD−L1の結合を増加させる
本発明者らはまた、PD−1へのPD−L1およびPD−L2の相互作用を妨げる、PD−L1およびPD−L2mabの能力を試験した。抗PD−L2および抗PDL1.3mAbは、それぞれPD−1/PD−L2およびPD−L1相互作用を妨げた(データは示さず)。しかしながら、抗PDL1.1および抗PDL1.2は、PD−L1/PD−1相互作用を阻害しなかった(データは示さず)。PD−1へのPD−L1の結合は、PD−L1のコンフォメーション修飾を誘導し得るので、本発明者らは、PD−1/PD−L1の結合に干渉しない2つのmAbは、リガンド−レセプター相互作用に必須であり得る他のPD−L1領域に影響を及ぼし得ると判断した。従って、本発明者らはまた、PD−1への結合を遮断しない抗PD−L1抗体がこの現象に影響を及ぼし得るかどうかを調査した。そうするために、PD−L1 Igタンパク質を、飽和濃度のPDL1.1およびPDL1.2抗体Fabと共にインキュベーションし、そしてPD−1チップ上に注入した(図4A)。本発明者らは、両方の非遮断性抗PD−L1抗体とのプレインキュベーションが、PD−1チップからのPD−L1 Igタンパク質の解離を明瞭に修飾することを観察した。PD−L1がPDL1.1またはPDL1.2Fabのいずれかに結合している場合にはPD−L1の解離はより遅い。PD−L1へのPDL1.1またはPDL1.2Fabの結合は、PD−L1 PD−1の相互作用の安定性を増加させるようであり、これはおそらくPD−L1のコンフォメーション修飾に影響を及ぼすことによってである。これらのデータは、PD−1へのPD−L1の結合の適合のために本発明者らが選択することを好んだ「コンフォメーション修飾モデル」と一致しているようである。しかしながら、コンフォメーション遷移現象を、Biacoreを使用して観察することができるという事実は、PD−L1状態の修飾が、急速な現象ではないことを示す。本発明者らは次にこれらの考察を考慮して、細胞表面に発現されるネイティブなPD−L1分子上にコンフォメーション修飾を観察し得るかどうかを調査した。
【0189】
従って、PD−1へのPD−L1の結合に対する、PDL1.1およびPDL1.2非遮断性抗体の安定化効果を、細胞レベルで分析した。PD−L1を発現するCOS細胞を、5または30分間かけて3つの異なる抗PD−L1 Fabと共にインキュベーションした。その後、PD−1 Igタンパク質の結合をFACS分析によって試験した。PDL1.1Fabプレインキュベーションは、PD−1タンパク質結合に因るMFIの増加を誘導した(図4B)。Fab注入から早くも5分後にこの増加が現れ、そして30分後にはさらに増強した。この結果は、SPR分析のデータと一致した(図4A)。図4Bに示したように、非遮断性PDL1.1およびPDL1.2の両方が、PD−1の結合の増加を誘導する。対照においては、遮断性PDL1.3Fabは、このPD−1結合を損なった(図4B)。PD−L1を発現する未成熟なDCを使用して同じ結果が得られた(データは示さず)。合わせて考えると、非遮断性PD−L1mAbは中立ではなく、実際は、PD−1へのPD−L1の結合を促進する。
【0190】
参考文献
本出願全体を通じて、種々の参考文献が、本発明が属する最先端技術を説明する。これらの参考文献の開示は、本開示への参照によって本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PD−1へのPD−L1の結合を安定化する、PD−L1抗体。
【請求項2】
CNCM寄託番号I−4080またはI−4081の下で入手できるハイブリドーマから得ることのできる、PD−L1抗体。
【請求項3】
請求項2のPD−L1抗体のCDRを含む、PD−1へのPD−L1の結合を安定化する、PD−L1抗体。
【請求項4】
療法によるヒトまたは動物の身体の処置のための方法における使用の、請求項1〜3のいずれか1項記載のPD−L1抗体。
【請求項5】
自己免疫疾病、移植拒絶または移植片対宿主疾病の処置のための、請求項4記載のPD−L1抗体。
【請求項6】
CNCM I−4122、CNCM I−4080およびCNCM I−4081からなる群より選択される、ハイブリドーマ細胞系。
【請求項7】
CNCM寄託番号I−4122の下で入手できるハイブリドーマから得ることのできる、PD−1抗体。
【請求項8】
請求項7のPD−1抗体のCDRを含む、PD−1抗体。
【請求項9】
療法によるヒトまたは動物の身体の処置のための方法における使用の、請求項7または8記載のPD−1抗体。
【請求項10】
癌または慢性感染の処置のための、請求項9記載のPD−1抗体。
【請求項11】
請求項7または8記載のPD−1抗体を含む癌または慢性感染の処置のためのワクチン。
【請求項12】
a)請求項7または8記載のPD−1抗体;および
b)癌または慢性感染の処置のためのワクチン
を含む、癌または慢性感染の処置のためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−517406(P2012−517406A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548724(P2011−548724)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051563
【国際公開番号】WO2010/089411
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(503285612)ユニヴェルシテ・ドゥ・ラ・メディテラネ (15)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LA MEDITERRANEE
【出願人】(591100596)アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (59)
【Fターム(参考)】