説明

PDP基板製造用マイクロ波プラズマ処理装置

【課題】PDPの各色の蛍光体を同時処理することによって、紫外線照射による劣化を防止する手段を提供する。
【解決手段】真空チャンバ1と、真空チャンバに接続された真空ポンプ2と、真空チャンバ内に配置され、その上にPDP基板3が置かれる処理台4と、処理台の上面を加熱するためのヒータ5と、真空チャンバ内において処理台の上方に間隔をあけて配置され、処理台上のPDP基板に対してプラズマを照射するプラズマ照射ヘッド6と、プラズマ照射ヘッドおよび処理台を相対移動させる移動機構14と、プラズマ照射ヘッドに処理ガスを供給するガス供給源12と、プラズマ照射ヘッドに対し、処理ガスを励起するためのマイクロ波を供給するマイクロ波発生源13を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル(以下、「PDP」とする。)を形成する基板、特に、PDPを形成する一対の基板のうち、アドレス電極および隔壁が設けられ、隣接する隔壁間の間隙に赤色、緑色および青色のそれぞれの蛍光体層が設けられた基板(背面基板)を製造するためのマイクロ波プラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PDPは、LCDと比べて、自発光であること及びカラーフィルタを必要としないことから高輝度であり、また、物理的なシャッターが不要なことから応答が高速である、という長所を有している。
【0003】
図3(b)は、PDPの構造を示す概略断面図である。図3(b)を参照して、PDPは、対向配置された前面基板25および背面基板20を備えている。前面基板20上には表示電極(図示されない)が設けられる。背面基板20上には、アドレス電極21および隔壁22が設けられ、隣接する隔壁22間の間隙(セル)に各色(赤色、緑色、青色)の蛍光体層23a〜23cが設けられる。
【0004】
前面基板25は背面基板20の隔壁22上に密着せしめられ、2枚の基板20、25の間に、希ガス(例えばネオンガスとキセノンガスの混合ガス)からなる放電ガスが封入された状態で封止材料24によって封止される。そして、セル内の電極に高電圧を印加して放電させると、放電ガスがプラズマ化して紫外線が放射され、この紫外線が蛍光体に当たると、蛍光体は赤色、緑色又は青色に発光し、それによってカラー表示を行うことができる。
【0005】
ところが、従来のPDPにおいては、蛍光体、特に、青色および緑色の蛍光体が紫外線照射によって劣化し、輝度が低下するという問題があり、蛍光体の紫外線照射による劣化を防止する方法がこれまでに提案されているが、赤色、緑色および青色の蛍光体を同時処理することによって、紫外線照射による劣化を防止する方法はこれまでなかった(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2005−144318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、PDPの各色の蛍光体を同時処理することによって、紫外線照射による劣化を防止する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、真空チャンバと、前記真空チャンバに接続された真空ポンプと、前記真空チャンバ内に配置され、その上に処理すべきPDP基板が置かれる処理台と、前記処理台の上面を加熱するためのヒータ手段と、前記真空チャンバ内において前記処理台の上方に間隔をあけて配置され、前記処理台上の前記PDP基板に対して下向きにプラズマを照射するプラズマ照射ヘッドと、前記プラズマ照射ヘッドおよび前記処理台を相対移動させる移動機構と、前記プラズマ照射ヘッドに処理ガスを供給するガス供給源と、前記プラズマ照射ヘッドに対し、前記処理ガスを励起するためのマイクロ波を供給するマイクロ波発生源と、を備えたPDP基板製造用マイクロ波プラズマ処理装置を構成したものである。
【0009】
上記構成において、前記プラズマ照射ヘッドは、ライン状のプラズマを照射することが好ましい。
また、前記PDP基板上には、アドレス電極および隔壁が設けられ、隣接する隔壁間の間隙に赤色、緑色および青色のそれぞれの蛍光体層が設けられていることが好ましく、さらに、前記赤色の蛍光体は、(Y,Gd)BOEu3+またはYEu3+またはY(P,V)OEu3+であり、前記緑色の蛍光体は、ZnSiOMn2+またはBaMgAl1017Mn2+またはBaMgAl1017Mn2+またはLaPOCe3+Tb3+であり、前記青色の蛍光体は、BaMgAl1017Eu2+またはCaMgSiEu2+であることが好ましい。
【0010】
上記構成において、前記ガス供給源が供給する前記処理ガスは、0.05体積%以上の水素ガスを含有する希ガスであることが好ましく、前記処理台の上面は、前記ヒータ手段によって200〜400℃に加熱されることが好ましく、前記真空チャンバの内部は、1〜40Torrの圧力に保持されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、赤色、緑色及び青色の各蛍光体を同時処理して紫外線照射による劣化を防止することができ、そして、処理後のPDP基板を用いて、長時間使用しても発光強度が低下することのないPDPを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明の1実施例によるPDP基板製造用マイクロ波プラズマ処理装置の構造を示す概略断面図であり、図2は、図1の装置のプラズマ照射ヘッドの構造を示す概略斜視図である。
図1および図2を参照して、本発明によれば、真空チャンバ1と、真空チャンバ1に接続された真空ポンプ2と、真空チャンバ1内に配置され、その上に処理すべきPDP基板3が置かれる処理台4が備えられる。処理台4には、その上面を加熱するためのヒータ5が組み込まれている。
【0013】
また、真空チャンバ1内には、処理台4の上方に間隔をあけてプラズマ照射ヘッド6が配置され、処理台4上のPDP基板3に対して下向きにプラズマを照射するようになっている。図2を参照して、プラズマ照射ヘッド6は、縦長の導波管7および放電管8を有している。放電管8は、石英ガラスやセラミックス等の誘電体から構成され、断面逆U字形状を有している。放電管8は、その細長い開口部8aが下向きになるようにして、導波管7の内部に埋め込まれた状態で、ブロック9によって導波管7に取付けられている。放電管8の開口部8aは、プラズマ放出口として機能する。
【0014】
ブロック9は、放電管8の長手方向に沿ってのびており、ブロック9の内部には、ガス導入路10が形成され、さらに、ブロック9の放電管開口部側の壁面には、ガス導入路10に連通する多数のガス噴出口11が設けられている。
ガス導入路10には、プラズマ照射ヘッド6に処理ガスを供給するガス供給源12が接続されている。ガス供給源12は、水素ガスとアルゴン等の希ガスとの混合ガスであって0.05体積%以上の水素ガスを含むもの、あるいは100%水素ガスからなるガスを供給するようになっている。
【0015】
また、プラズマ照射ヘッド6には、処理ガスを励起するためのマイクロ波を供給するマイクロ波発生源13が接続されている。
【0016】
真空チャンバ1の内部には、プラズマ照射ヘッド6を処理台4に対して移動させる移動機構14が設けられ、プラズマ照射ヘッド6はこの移動機構14に取付けられることにより、水平面内において放電管8の長手方向に直角な方向に移動し得るようになっている。
【0017】
次に本発明の装置の動作について説明する。まず、処理台4上にプラズマ処理すべきPDP基板3が置かれる。図3(a)は、PDP基板の一例の概略断面図である。図3(a)を参照して、PDP基板3は、一般に背面基板とも呼ばれ、矩形状のガラス板20に、アドレス電極21および隔壁22を設け、隣接する隔壁22間の間隙に赤色、緑色および青色のそれぞれの蛍光体層23a〜23cを設けたものからなっている。蛍光体層23a〜23cは、赤色、緑色または青色を発色する蛍光体のペーストを塗布、焼成することによって形成される。
赤色蛍光体としては、例えば、(Y,Gd)BOEu3+またはYEu3+またはY(P,V)OEu3+が使用され、緑色蛍光体としては、ZnSiOMn2+またはBaMgAl1017Mn2+またはBaMgAl1017Mn2+またはLaPOCe3+Tb3+が使用され、青色蛍光体としては、BaMgAl1017Eu2+またはCaMgSiEu2+が使用される。
【0018】
PDP基板3は、4辺のうちの一対の対辺が放電管8の長手方向に平行になるように、かつ各色の蛍光体層23a〜23cを備えた面が上を向くように配置される。
そして、真空ポンプ2が作動せしめられ、真空チャンバ1が所定の低圧状態、すなわち1Torr〜大気圧、好ましくは、1Torr〜40Torrにされる。その後、ガス供給源12からガス導入路10内に処理ガスが導入され、ガス噴出口11から放電管8の内部空間に噴出される。
【0019】
また、マイクロ波発生源13から導波管7内にマイクロ波が供給される。このとき、マイクロ波は主として放電管8の周壁を透過して放電管8の内部空間に漏れ出し、それによって、ガス噴出口11から放電管8の内部空間に噴出された処理ガスが励起され、プラズマ化され、生成されたプラズマが放電管8の開口部8aから下向きにライン状に放出され、PDP基板3上に照射される。
【0020】
さらに、処理台4のヒータ5が作動せしめられ、PDP基板3が200℃〜400℃の温度に加熱される。
【0021】
そして、プラズマ照射ヘッド6からPDP基板3に対してプラズマを照射させつつ、移動機構14によってプラズマ照射ヘッド6が移動せしめられ、PDP基板3一端側から他端側までプラズマが照射される。照射されるプラズマ密度は1×1012〜1014cm−3、プラズマの電子温度は1eV〜3eV程度である。
【0022】
プラズマ照射終了後、PDP基板3が真空チャンバ1から取り出され、図3(b)に示すように、PDP基板3上に前面基板25が密着せしめられ、内部にキセノンガスとネオンガスの混合ガス等の放電ガスが封入された状態で、低融点ガラス等の封止材料24によって封止され、PDPが得られる。
【0023】
本発明によれば、PDP基板を高温加熱しながら、水素ガスを含む処理ガスを用いて発生せしめたプラズマに晒したことによって、PDP基板上に設けられた赤色、緑色および青色の各色の蛍光体の紫外線照射による劣化が防止され、PDPを長時間使用しても、発光強度は低下することがない。
【0024】
次に、本発明の装置により製造したPDPの性能を評価する試験を行った。試験では、同一の構成を有するPDP基板を2種類用意し、一方のPDP基板を、本発明の装置を使用して、300℃に加熱して、5%の水素ガスを含むアルゴンガスを処理ガスとして、発生させたプラズマに10分間晒した後、当該PDP基板を用いてPDPを作製した。他方のPDP基板は、比較例として、プラズマに晒さずに、従来の熱処理のみを行った後、当該PDP基板を用いてPDPを作製した。
【0025】
作製した2種類のPDPを駆動させ、駆動時間に対する発光強度維持率を測定した。測定結果をプロットし、図4および図5のグラフを得た。図4および図5のグラフは、それぞれ、本発明の装置によってプラズマに晒したPDP基板を用いたPDPのグラフと、プラズマに晒さなかったPDP基板を用いたPDPのグラフである。なお、各グラフ中、Rは赤色蛍光体、Gは緑色蛍光体、Bは青色蛍光体の測定データを表す。図4および図5のグラフの比較から、本発明の装置によってプラズマ処理を行ったPDP基板を使用することによって、長時間駆動しても、PDPの発光強度の低下が殆ど生じないことがわかる。
【0026】
本発明による装置は、PDP基板上での各色の蛍光体の焼成工程にも使用することができる。この場合には、処理ガスとして、酸素ガスを含むHeやAr等の希ガスが使用される。そして、本発明の装置によれば、例えば、真空チャンバ内の圧力を500Torrとし、各色の蛍光体ペーストを塗布したPDP基板を300℃に加熱した状態で、酸素ガスを50体積%含むHeガスを処理ガスとして使用し、PDP基板にプラズマを照射することによって、5〜10分間で従来よりも低温かつ短時間で焼成を行うことができる(従来法では、例えば、蛍光体ペーストを塗布したPDP基板を、常圧で、500℃の温度で3時間加熱する。)
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の1実施例によるPDP基板製造用マイクロ波プラズマ処理装置の構造を示す概略断面図である。
【図2】図1の装置のプラズマ照射ヘッドの構造を示す概略斜視図である。
【図3】(a)はPDP基板(背面基板)の一例の構造を示す概略断面図であり、(b)はPDPの構造を示す概略断面図である。
【図4】本発明の装置によるプラズマ処理を行った基板を用いたPDPの駆動時間と発光強度維持率の関係を示すグラフである。
【図5】プラズマ処理をしない基板を用いたPDPの駆動時間と発光強度維持率の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0028】
1 真空チャンバ
2 真空ポンプ
3 PDP基板
4 処理台
5 ヒータ
6 プラズマ照射ヘッド
7 導波管
8 放電管
8a 開口部
9 ブロック
10 ガス導入路
11 ガス噴出口
12 ガス供給源
13 マイクロ波発生源
14 移動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、
前記真空チャンバに接続された真空ポンプと、
前記真空チャンバ内に配置され、その上に処理すべきPDP基板が置かれる処理台と、
前記処理台の上面を加熱するためのヒータ手段と、
前記真空チャンバ内において前記処理台の上方に間隔をあけて配置され、前記処理台上の前記PDP基板に対して下向きにプラズマを照射するプラズマ照射ヘッドと、
前記プラズマ照射ヘッドおよび前記処理台を相対移動させる移動機構と、
前記プラズマ照射ヘッドに処理ガスを供給するガス供給源と、
前記プラズマ照射ヘッドに対し、前記処理ガスを励起するためのマイクロ波を供給するマイクロ波発生源と、を備えたPDP基板製造用マイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記プラズマ照射ヘッドは、ライン状のプラズマを照射することを特徴とする請求項1に記載のPDP基板製造用マイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項3】
前記PDP基板上には、アドレス電極および隔壁が設けられ、隣接する隔壁間の間隙に赤色、緑色および青色のそれぞれの蛍光体層が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のPDP基板製造用マイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項4】
前記赤色の蛍光体は、(Y,Gd)BOEu3+またはYEu3+またはY(P,V)OEu3+であり、前記緑色の蛍光体は、ZnSiOMn2+またはBaMgAl1017Mn2+またはBaMgAl1017Mn2+またはLaPOCe3+Tb3+であり、前記青色の蛍光体は、BaMgAl1017Eu2+またはCaMgSiEu2+であることを特徴とする請求項3に記載のPDP基板製造用マイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項5】
前記ガス供給源が供給する前記処理ガスは、0.05体積%以上の水素ガスを含有する希ガスであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載のPDP基板製造用マイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項6】
前記処理台の上面は、前記ヒータ手段によって200〜400℃に加熱されることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載のPDP基板製造用マイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項7】
前記真空チャンバの内部は、1〜40Torrの圧力に保持されることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載のPDP製造用マイクロ波プラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−288054(P2008−288054A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132382(P2007−132382)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(392036326)株式会社アドテック プラズマ テクノロジー (24)
【Fターム(参考)】