説明

PI3キナーゼ阻害剤の効果判定法

【課題】ホスファチジルイノシトール3(PI3)キナーゼ阻害剤の効果を判定するための新規なマーカー遺伝子を同定し、PI3キナーゼ阻害剤の臨床効果を投薬開始後すみやかに判定する方法を提供する。
【解決手段】PI3キナーゼ阻害剤投与前後の被験者から採取された試料について、10遺伝子あるいは前記遺伝子産物の発現量を解析することにより、当該被験者に対するPI3キナーゼ阻害剤の効果を判定する。あるいは、上記遺伝子に加えて、1又は2以上の遺伝子あるいは前記遺伝子産物の発現量を解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定遺伝子又は当該遺伝子産物の発現プロファイルを指標としたPI3キナーゼ阻害剤の効果判定法に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの病態はその種類、発症部位或いは進行度等により様々であり、こうした多様性と患者個人の応答性の違いが、抗がん剤による治療を困難なものとしている。この問題を克服し、より副作用が少なく有効な抗がん剤治療を実現するためには、個々の患者の薬剤感受性を投薬開始後すみやかに判定する診断法の開発が必要である。しかしながら、従来採用されてきた画像診断法では、抗がん剤の効果が反映される(すなわち、画像上で腫瘍サイズの縮小が認められる)までに時間がかかり、投薬開始後、投薬を継続するか中断するかをすみやかに判断することは難しい。
【0003】
これに対し、cDNAマイクロアレイ法などによるゲノムワイドな遺伝子発現解析手法を用いて個々のがんの病態や抗がん剤感受性の違いを遺伝子レベルで解析し、患者毎に至適化した「オーダーメード医療」を実現しようという動きが高まっている。
【0004】
一方、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3キナーゼ)は、生体膜に存在するイノシトールリン脂質の3位をリン酸化する酵素で、(1)タンパク質キナーゼ等の活性化を介した核へのシグナル伝達、(2) 抗アポトーシスのシグナル伝達、(3) 細胞骨格の調節を介した、細胞の運動性や形態変化、(4)物質輸送、分泌調節、など生体内で様々な役割を担っている。最近、PI3キナーゼは発がんやがんの生存、増殖、転移などにも重要な役割を果たしていることから(非特許文献1及び2)、抗がん剤の有力な標的としても期待されている(非特許文献3及び4)。
【0005】
しかしながら、PI3キナーゼ阻害剤については、薬剤が奏功したがん細胞において発現が変動する細胞内発現タンパク質や特定のマーカー遺伝子が報告されていないため、薬剤投与後にその効果をすみやかに判定することが困難で、有用なバイオマーカーの開発が望まれていた。
【0006】
【非特許文献1】I. Vivanco, C.L. Sawyers, The phosphatidylinositol 3-Kinase AKT pathway in human cancer, Nat Rev Cancer 2 (2002) 489-501.
【非特許文献2】Y. Samuels, K. Ericson, Oncogenic PI3K and its role in cancer, Curr Opin Oncol 18 (2006) 77-82.
【非特許文献3】J. Luo, B.D. Manning, L.C. Cantley, Targeting the PI3K-Akt pathway in human cancer: rationale and promise, Cancer Cell 4 (2003) 257-262.
【非特許文献4】L. Stephens, R. Williams, P. Hawkins, Phosphoinositide 3-kinases as drug targets in cancer, Curr Opin Pharmacol 5 (2005) 357-365.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ホスファチジルイノシトール3(PI3)キナーゼ阻害剤の効果を判定するための新規なマーカー遺伝子を同定し、被験者のPI3キナーゼ阻害剤適合性を薬剤投与開始後すみやかに診断することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、Affymetrix GeneChip(登録商標)を用いて、がん細胞株(A549、PC-3)に新規PI3キナーゼ阻害剤であるZSTK474を処理し、その処理前後における遺伝子発現変動を解析して、顕著に変動する遺伝子群を特定した。
【0009】
すなわち、本発明は、PI3キナーゼ阻害剤投与前後に被験者から採取された試料について、表2又は表5に示される10遺伝子あるいは前記遺伝子産物(前記遺伝子によってコードされるタンパク質)の発現量を解析することにより、当該被験者に対するPI3キナーゼ阻害剤の効果を判定する方法に関する。
【0010】
本発明の方法では、上記遺伝子に加えて、さらに表3に示される21遺伝子あるいは前記遺伝子産物の発現量も指標として使用してもよい。あるいは、表1及び表4に示される遺伝子群から選ばれる1又は2以上の遺伝子あるいは前記遺伝子産物の発現量も指標として使用してもよい。
【0011】
具体的には、PI3キナーゼ阻害剤投与後において、前記表1〜表3に示される遺伝子あるいは前記遺伝子産物の発現量が、投与前に比較して亢進しており、前記表4又は表5に示される遺伝子あるいは前記遺伝子産物の発現量が、投与前に比較して抑制されている場合、当該被験者に対するPI3キナーゼ阻害剤の効果が高い(当該被験者はPI3キナーゼ阻害剤感受性が高い)と評価することができる。
【0012】
PI3キナーゼ阻害剤としては、例えば、ZSTK474またはLY294002等を挙げることができる。
【0013】
前記遺伝子の発現量は、DNAチップ、cDNAマイクロアレイ、及びメンブレンフィルター等の固相化試料を用いた核酸ハイブリダイゼーション法、RT-PCR法、Northern blot法、ATAC-PCR法、サブトラクション法、ディファレンシャル・ディスプレイ法、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法、クロスハイブリダイゼーション法等を用いて解析することができる。
【0014】
また前記遺伝子産物の発現量は、ウエスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、RIA法等を用いて解析することができる。
【0015】
なお、試料としては、遺伝子の発現量を解析する場合であれば、標的部位の組織細胞から抽出したtotal RNA又はmRNA、また遺伝子産物の発現量を解析する場合であれば、前記細胞の抽出液や血清を使用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、PI3キナーゼ阻害剤の効果(PI3キナーゼ阻害剤に対する感受性)をモニターすることができる。これにより、投薬開始後すみやかに当該薬剤に対する患者の適性(感受性)を的確に判断して、安全かつ有効な治療を行なうことができる。PI3キナーゼ阻害剤は抗がん剤としての効果が期待できるため、本発明はがんの治療と診断のための新規なツールとなりうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
1.PI3キナーゼ阻害剤
前述のとおり、PI3キナーゼは発がんやがんの生存、増殖、転移などがんにとって重要な役割を果たすことからがん治療の有力な標的とされており、したがって、PI3キナーゼ阻害剤は、がんの治療薬として期待されている。
【0018】
現在知られているPI3キナーゼ阻害剤としては、たとえば、Wortmannin、LY294002 [2-(4-morpholinyl)-8-phenyl-4H-1-benzopyran-4-one]、ZSTK474 [2-(2-difluoromethylbenzimidazol-1-yl)-4,6-dimorpholino-1,3,5-triazine](Yaguchi et al., J Natl Cancer Inst. 2006 Apr 19;98(8):545-56.)、Quercetin [3,3’,4’,5,7-Pentahydroxyflavone](W.F. Matter, R.F. Brown, C.J. Vlahos, The inhibition of phosphatidylinositol 3-kinase by quercetin and analogs, Biochem Biophys Res Commun 186 (1992) 624-631)、、SF-1126 [N2-[4-Oxo-4-[4-(4-oxo-8-phenyl-4H-1-benzopyran-2-yl)morpholin-4-ium-4-ylmethoxy]butyryl]-L-arginyl-glycyl-L-aspartyl-L-serine acetate]、BEZ-235 [2-Methyl-2-[4-[3-methyl-2-oxo-8-(3-quinolinyl)-2,3-dihydro-1H-imidazo[4,5-c]quinolin-1-yl]phenyl]propanenitrile]等があげられる。
【0019】
【化1】

【0020】
1)Wortmannin
細胞浸透性の真菌代謝産物である。PI3キナーゼの精製調製品及び細胞質画分に対し、選択的、非可逆的かつ強力な細胞浸透性阻害作用を有する。
【0021】
2)LY294002 [2-(4-morpholinyl)-8-phenyl-4H-1-benzopyran-4-one]
天然フラボノイドであるケルセチンのアナログである。PI3キナーゼ阻害効果に加えて、カゼインキナーゼII阻害効果も有する(Vlahos, C.J., Matter, W.F., Hui, K.Y., et al. A specific inhibitor of phosphatidylinositol 3-kinase, 2-(4-morpholinyl)-8-phenyl-4H-1-benzopyran-4-one (LY294002). J Biol Chem 269, 5241-5248 (1994))。
【0022】
3)ZSTK474 [2-(2-difluoromethylbenzimidazol-1-yl)-4,6-dimorpholino-1,3,5-triazine]
ZSTK474は、アロマターゼ(アンドロゲンをエストロゲンに変換する酵素)阻害剤であるトリアジン誘導体として作製された化合物であるが、アロマターゼ阻害剤は全くなく、強いPI3キナーゼ阻害活性を有することが確認された。ZSTK474は既知のPI3K阻害剤LY294002やWortmanninと構造は異なるが、計算機による分子モデル解析からPI3KのATP結合部位へ配位しうることが判明している。ZSTK474は、動物がんモデルにおいて経口投与で強力な抗がん作用を示し、かつ低毒性であるというこれまでのPI3K阻害剤にない特徴をもつため、抗癌剤として開発が進められている(Yaguchi et al., J Natl Cancer Inst. 2006 Apr 19;98(8):545-56)。
【0023】
4)Quercetin [3,3’,4’,5,7-Pentahydroxyflavone]
PI3キナーゼ(IC50 = 3.8 μM)阻害作用のほか、フォスフォリパーゼA2 (IC50 = 2 μM)の阻害作用を有する。ミトコンドリアATPase,フォスフォジエステラーゼ及びプロテインキナーゼCに対する阻害作用も認められている。
【0024】
2.マーカー遺伝子群
発明者らは、ヒトがん細胞株をPI3キナーゼ阻害剤(ZSTK474)で処理し、その処理前後で顕著に変動する遺伝子群を特定した。これらの遺伝子を表1〜表5に示す。
【0025】
【表1】



【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

【0029】
【表5】

【0030】
上記遺伝子群のうち、表1〜表3に記載の遺伝子は、PI3キナーゼ阻害剤によって顕著に発現亢進された遺伝子であり、表4及び表5に記載の遺伝子は、PI3キナーゼ阻害剤によって顕著に発現抑制された遺伝子である。
【0031】
これらのマーカー遺伝子は、in vitroで2種類のがん細胞株(PC-3、A549)において、それぞれの細胞株の増殖抑制が起こる濃度でZSTK474を処理した6時間後の発現量が、溶媒であるDMSO(ジメチルスルフォキシド)を処理した6時間後に比べて2倍以上発現亢進、もしくは1/2以下に発現低下が認められた遺伝子等、PI3キナーゼ阻害剤であるZSTK474処理に伴い顕著な発現変動がみられた遺伝子であり、PI3キナーゼ阻害剤感受性(効果)の指標として使用しうる遺伝子である。したがって、被験者から採取した試料(がん細胞)におけるこれらマーカー遺伝子の発現量に基づいて、当該被験者のPI3キナーゼ阻害剤適合性を判定することができる。
【0032】
マーカー遺伝子としては、発現亢進遺伝子については、表2に記載の7遺伝子を使用するか、これに加えて表3に記載の21遺伝子を使用することが好ましく、さらに必要に応じて表1から選ばれる1又は2以上の遺伝子を使用するとよい。発現抑制遺伝子については、表5に示される3遺伝子を使用することが好ましく、さらに必要に応じて表4から選ばれる1又は2以上の遺伝子を使用するとよい。
【0033】
なお、上記においては、GeneChip上に固定化された遺伝子であっても、その由来や配列が不明な遺伝子は便宜上マーカー遺伝子として数えていないが、我々はこれらを解析から除外する意図ではない。これらの遺伝子についても、遺伝子チップ等によりその発現量が解析可能な限り、他のマーカー遺伝子と同様に解析に加えてもよい。
【0034】
3.PI3キナーゼ阻害剤の効果予測
(1) マーカー遺伝子の発現量を指標とする場合
被験者のPI3キナーゼ阻害剤の効果判定は、例えば以下の工程により実施することができる。
1) PI3キナーゼ投与前後の標的部位の組織細胞(がん細胞)をバイオプシーで採取し、採取されたがん細胞からtotal RNAあるいはmRNAを抽出してサンプルとする。必要に応じて、レーザーマイクロダイセクションによりがん細胞だけを正確に分取して、RNA抽出に用いる;
2) 上記サンプル(投与前後)における、マーカー遺伝子の発現量をそれぞれ測定し、投与後のがん細胞における発現量を投与前のものと比較する(あるいは、投与前のがん細胞に対する相対的発現量として求める);
3) PI3キナーゼ阻害剤投与後の発現変動(プロファイル)から、上記被験者のPI3キナーゼ阻害剤効果(感受性)を判定する;
上記工程1において、試料である標的部位の組織細胞(がん細胞)からのtotal RNAあるいはmRNAの抽出は、公知の方法に基づき、市販のキット等を用いて容易に実施することができる。
【0035】
上記工程2において、マーカー遺伝子の発現量は、投与前のがん細胞に対する投与後のがん細胞の相対的発現量として求める。遺伝子の相対的発現量の検出は、特に限定されず、例えばRT-PCR法、Northern blot法、ATAC-PCR法、DNAチップ(アフィメトリクス社製等)、DNAアレイ、cDNAマイクロアレイ、及びメンブレンフィルター等の固相化試料を用いた核酸ハイブリダイゼーション法、サブトラクション法、ディファレンシャル・ディスプレイ法、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法、ならびにクロスハイブリダイゼーション法など、任意の遺伝子発現定量法を用いることができる。
【0036】
なかでも、アレイやチップを用いて検出する方法は多数の遺伝子の発現プロファイルを一度に解析する場合に簡便で好ましい。こうしたアレイやチップは、本発明のマーカー遺伝子を検出できるものであれば特に限定されない。たとえば、アフィメトリクス社の提供するGeneChip(登録商標)を用いて発現解析をすることができる。遺伝子発現解析に用いる検体は、必要に応じてレーザーマイクロダイセクションにより腫瘍細胞を正確に分取し、RNA調製に用いる。ビオチンラベル化したターゲットcRNA(mRNAに相補的なRNA)の調製は、アフィメトリクス社が提供するGeneChip(登録商標)One-cycle Target Labeling and Control Reagent packageならびにTwo-cycle Target Labeling and Control Reagent packageを用いて行うことができる。これらのキットには、cRNAを増幅するための行程がそれぞれ1又は2サイクル含まれる。利用できるRNAの量に応じて、これらのキットの使い分けをすることができるが、トータルRNAの量に余裕がある場合(5μg以上)、One-cycle Target Labeling and Control Reagent packageを用いた方が測定精度がよい。ラベル化ターゲットは、GeneChip(登録商標)プローブアレー上にハイブリダイズさせた後、スキャニングを行い、データを取得することができる。
【0037】
また、RT-PCR法の1つであるリアルタイム定量PCR法は微量なDNAを高感度かつ定量的に検出できるという点で好ましい。RT-PCRでは、検出すべき遺伝子のmRNAを逆転写し、これを当該遺伝子も特異的なプライマーによりPCR増幅する。増幅産物は、電気泳動等により分離し、定量することができる。リアルタイム定量PCR法は、Applied Biosystems社が提供するTaqMan(登録商標) Gene Expresson Assaysを利用することができる。TaqMan(登録商標) Gene Expresson Assaysは、遺伝子の特異的プライマ・TaqMan MGBプローブの混合液であり、マーカー遺伝子それぞれについて購入可能である。測定は、薬剤投与前後のがん細胞から抽出したトータルRNAを、ランダムプライマーを用いた逆転写反応を行い、cDNAを調製した後、マーカー遺伝子のTaqMan(登録商標) Gene Expresson Assaysを用い、Applied Biosystems社ABI PRISM 7000 Sequence Detection Systemなどの機器を利用することができる。なお、逆転写反応は、たとえば、Invitrogen社のSuperScriptIIを用いて行うことができる。
【0038】
上記工程3では、前記相対的発現量(投与前後の発現変動)に基づき、被験者におけるPI3キナーゼ阻害剤の効果(PI3キナーゼ阻害剤に対する感受性)を評価する。表1〜表3に示される遺伝子は、薬剤が奏功した際に発現誘導されるマーカー遺伝子であり、表4又は表5に示される遺伝子は、薬剤が奏功した際に発現抑制されるマーカー遺伝子である。
【0039】
よって、指標とするマーカー遺伝子群のうち、発現亢進あるいは発現抑制が認められるものの割合が高ければ、当該被験者はそのPI3キナーゼ阻害剤に対して感受性(PI3キナーゼ阻害剤の効果)が高いと判定できる。一方、指標とするマーカー遺伝子群のうち、発現亢進あるいは発現抑制が認められるものの割合が低ければ、当該被験者はそのPI3キナーゼ阻害剤に対して感受性が低い(PI3キナーゼ阻害剤の効果が低い)と判定できる。
【0040】
たとえば、PI3キナーゼ阻害剤投与後において、前記表1〜表3に示されるすべての遺伝子の発現量が、投与前に比較して2倍以上に亢進しており、前記表4又は表5に示されるすべての遺伝子の発現量が、投与前に比較して1/2以下に抑制されている場合、当該被験者はPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性が高い、つまりPI3キナーゼ阻害剤の効果が高いと評価できる。
【0041】
上記の例は最も単純な予測方法であり、複数のマーカー遺伝子を用いた判定システムを構築することにより、測定されたデータを用いたより信頼性の高い効果判定をすることもできる。
【0042】
(2) マーカー遺伝子産物であるタンパク質の発現量を指標とする場合
被験者のPI3キナーゼ阻害剤の効果予測は、例えば以下の工程により実施することができる。
1) PI3キナーゼ阻害剤投与前後の被験者の腫瘍組織をバイオプシーで採取し、その細胞抽出液を調製してサンプルとする。必要に応じて、レーザーマイクロダイセクションにより正確にがん細胞だけを分取し、サンプル調製に用いる。又は、PI3キナーゼ阻害剤投与前後の被験者の血清を採取し、サンプルとする;
2) 上記サンプル(投与前後)における、マーカー遺伝子産物(タンパク質)の発現量をそれぞれ測定し、投与後のがん細胞における発現量を投与前のものと比較する(あるいは、投与前のがん細胞に対する相対的発現量として求める);
3) PI3キナーゼ阻害剤投与後の発現変動(プロファイル)から、上記被験者におけるPI3キナーゼ阻害剤の効果を判定する;
上記工程1において、細胞抽出液は、たとえば、採取した組織細胞を細胞破砕液で溶解し、遠心後の上清(細胞質・膜分画)に、尿素, CHAPS, DTT等を添加して、タンパク質を変性させて調製する。
【0043】
ELISA/RIA用試料は、例えば、回収した血清をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈したものを用いる。ウエスタンブロット用(電気泳動用)試料は、例えば、細胞抽出液をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈して、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動用の2−メルカプトエタノールを含むサンプル緩衝液(シグマ社製等)と混合したものを用いる。ドット/スロットブロット用試料は、例えば、回収した細胞抽出液そのもの、又は緩衝液で適宜希釈したものを、ブロッティング装置を使用するなどして、直接メンブレンへ吸着させたものを用いる。
【0044】
上記工程2において、タンパク質の発現量は、ウエスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、及びRIA法によって検出することができる。
【0045】
検出に用いられる抗体は、公知の方法にしたがって調製できる。すなわち、抗原となるマーカー遺伝子産物(全長、もしくは一部)を用いて動物を免疫し、該動物生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。また、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein, Nature 256, 495-497, 1975、Kennet, R. ed., Monoclonal Antibody p.365-367, 1980, Prenum Press, N.Y.)にしたがって、特異的抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを樹立し、これよりモノクローナル抗体を得てもよい。
【0046】
前記抗体作製用の抗原としては、マーカー遺伝子産物の部分断片(人工ポリペプチド)、あるいはこれらに任意のアミノ酸配列や担体(例えば、N末端付加するキーホールリンペットヘモシアニン)が付加された誘導体を用いてもよい。また、マーカー遺伝子産物の全長、又は一部を人工的に大腸菌等に産生させた遺伝子組換え蛋白質を用いてもよい。
【0047】
抗体は、それを直接標識するか、又は該抗体を一次抗体とし、該一次抗体を特異的に認識する(抗体を作製した動物由来の抗体を認識する)標識二次抗体と協同で検出に用いられる。
【0048】
前記標識の種類として好ましいものは、酵素(アルカリホスファターゼ又は西洋ワサビペルオキシダーゼ)、蛍光色素(Alexa680又はIRDye800)、又はビオチン(ただし二次抗体のビオチンにさらに酵素標識ストレプトアビジンを結合させる操作が加わる)であるが、これらに限定されない。標識二次抗体(又は標識ストレプトアビジン)としては、予め標識された抗体(又はストレプトアビジン)が、各種市販されている。なお、RIAの場合は125I等の放射性同位元素で標識された抗体を用い、測定は液体シンチレーションカウンター等を用いて行う。
【0049】
これら標識された酵素の活性、もしくは、レーザー光で励起した標識蛍光色素の蛍光強度を測定することにより、抗原の発現量が定量される。アルカリホスファターゼ又は西洋ワサビペルオキシダーゼで標識する場合、これら酵素の触媒により発色する基質や発光する基質が市販されている。
【0050】
発色する基質を用いた場合、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法を利用すれば、目視で検出できる。ELISA法では、市販のマイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの吸光度(測定波長は基質により異なる)を測定し、定量することが好ましい。また上述の抗体作製に使用した抗原の希釈系列を調製し、これを標準抗原試料として他の試料と同時に検出操作を行い、標準抗原濃度と測定値をプロットした標準曲線を作成することにより、他の試料中の抗原濃度を定量することも可能である。
【0051】
一方、発光する基質を使用した場合は、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法においては、X線フィルム又はイメージングプレートを用いたオートラジオグラフィーや、インスタントカメラを用いた写真撮影により検出することができる。また、デンシトメトリーやモレキュラー・イメージャーFxシステム(バイオラッド社製)等を利用した定量も可能である。さらに、ELISA法で発光基質を用いる場合は、発光マイクロプレートリーダー(例えば、バイオラッド社製等)を用いて酵素活性を測定する。また、Alexa680、IRDye800等の蛍光色素を用いた場合、Li-Cor社のOddysseyなどの機器を用いて測定することができる。
【0052】
よって、指標とするマーカー遺伝子産物群のうち、発現亢進あるいは発現抑制が認められるものの割合が高ければ、当該被験者はそのPI3キナーゼ阻害剤に対して感受性(PI3キナーゼ阻害剤の効果)が高いと判定できる。一方、指標とするマーカー遺伝子産物群のうち、発現亢進あるいは発現抑制が認められるものの割合が低ければ、当該被験者はそのPI3キナーゼ阻害剤に対して感受性が低い(PI3キナーゼ阻害剤の効果が低い)と判定できる。
【0053】
たとえば、PI3キナーゼ阻害剤投与後において、前記表1〜表3に示されるすべての遺伝子産物の発現量が、投与前に比較して2倍以上に亢進しており、前記表4又は表5に示されるすべての遺伝子産物の発現量が、投与前に比較して1/2以下にに抑制されている場合、当該被験者はPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性が高い、つまりPI3キナーゼ阻害剤の効果が高いと評価できる。
【0054】
上記の例は最も単純な予測方法であり、複数のマーカー遺伝子産物を用いた判定システムを構築することにより、測定されたデータを用いたより信頼性の高い効果判定をすることもできる。
【0055】
4.PI3キナーゼ阻害剤効果判定(診断)用キット
本発明の方法で使用される以下の1)〜4)は、PI3キナーゼ阻害剤の効果を判定するためのキット構成要素として利用できる。
1)PCR増幅で用いるマーカー遺伝子検出用のプライマー(オリゴヌクレオチド)及びプローブ
2)DNAチップ・マイクロアレー・ノーザンブロット等で用いるハイブリダイゼーションによるマーカー遺伝子検出用プローブ
3)マーカー遺伝子産物であるタンパク質に特異的に結合し、該タンパク質を検出するための抗体
4)上記3)記載の抗体に特異的に結合しうる二次抗体
【0056】
1)マーカー遺伝子増幅用プライマーは、本発明のマーカー遺伝子あるいはその特定領域を特異的にPCR増幅するためのオリゴヌクレオチドである。前記プライマーは、本発明のマーカー遺伝子が選択されれば、その特異性の高い領域に基づいて、市販のプライマー設計ソフトを用いるなどして、容易に設計することができる。また、プローブは、TaqMan法の場合、プライマーと組み合わせて使用する。センスプライマー、アンチセンスプライマーに挟まれた該遺伝子のDNA配列特異的な1本鎖DNAで、通常適当な蛍光色素(たとえばMGB)により標識されている。
【0057】
2)マーカー遺伝子検出用プローブとは、マーカー遺伝子と特異的にハイブリダイズし、該遺伝子を検出するために用いられる1本鎖又は2本鎖のDNA断片である。こうしたDNA断片は、前記マーカー遺伝子のうち特異性の高い領域に相補的な配列として設計することができ、25塩基長又はそれ以上が好ましい。プローブは、適当な標識によりラベル(例えば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよいし、適当な担体に固定化されていてもよい。なお、前記担体は複数のマーカー遺伝子に対応する複数のプローブを固定化したものであってもよい。
【0058】
3)及び4)の抗体は、前項記載の方法により作製することができる。抗体は、適当な標識によりラベル(例えば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよいし、ビオチン等により適当に修飾されていてもよい。
【0059】
キットには、上記構成要素のほか、本発明のPI3キナーゼ阻害剤の効果予測を実施するために必要な他の試薬(ランダムヘキサマー、オリゴDTプライマー、核酸基質)、酵素(RTase, DNA polymerase等)、反応液(PCR反応液等)等を含んでいても良い。
【実施例】
【0060】
実施例1:
1.材料及び方法
ヒト肺がん細胞株 A549細胞、及びヒト前立腺がん細胞 PC-3細胞は米国ATCC(American tissue culture collection)より入手した。細胞は、5%仔牛血清(GIBCO)を含むRPMI-1640培地にA549細胞は8×105cells/10ml/10cmシャーレ、PC-3細胞は 6×105 cells/10ml/10cmシャーレで播種した。
【0061】
PI3キナーゼ(PI3K)阻害剤としては、下記に示すZSTK474を用いた。
【0062】
【化2】

【0063】
ZSTK474は、それぞれ最終濃度の1,000倍のものをDMSOに希釈して準備した。各細胞は、以下に示す条件でZSTK474に暴露し、5%CO2存在下、37℃で培養を行った。
【0064】
細胞株 A549 PC-3
PTEN WT null
ZSTK474 0 0
処理濃度 0.1 0.03
(μM) 0.3 0.1
1 0.3
(GI50) (0.5) (0.1)
処理時間 0h/6h/24h
【0065】
薬剤添加6hないし24h後の細胞を回収し、Buffer RLT/2-ME (Qiagen社RNeasy mini kit)600μlを添加し、RNeasy mini kit添付のプロトコールに従ってtotal RNAを抽出した。抽出したtotal RNAは、Nano Dropを用いて定量後、One-cycle cDNA synthesis kit(Affymetrix)により増幅し、ビオチン化ターゲットとして調製した。調製したビオチン化ターゲットを、Affymetrix GeneChip(登録商標) U133Plus2.0にハイブリダイズさせ、メーカー推奨のプロトコールにしたがい、洗浄、染色後、スキャナーにかけた。得られたデータは、各DNAチップデータシグナル値の90 percentile値を1000として正規化を行った。
【0066】
2.データ解析
2.1 発現亢進遺伝子
(i) PC-3細胞にて、測定した28サンプルを用いて発現量によるフィルター(最低1サンプル以上が200以上、4サンプル以上が”P”=present)をパスし、未処理細胞の2回の解析(同じ日に解析)で再現性が得られ(0.75以上、1.333未満)、DMSO6h処理に比較して、ZSTK474(0.03、0.1、0.3μMのいずれか)処理で2倍以上発現亢進された遺伝子は853遺伝子であった。
【0067】
(ii) A549細胞にて、測定した26サンプルを用いて発現量によるフィルター(最低1サンプル以上が200以上、4サンプル以上が”P”)をパスし、未処理細胞での2回の解析(別の日に解析)で再現性が得られ(0.5以上、2未満)、DMSO6h処理に比較して、ZSTK474(0.1、0.3、1μMのいずれか)処理で2倍以上発現亢進された遺伝子は518遺伝子であった。
【0068】
(iii) (i)(ii)共通の遺伝子:すなわち、両細胞株ともにZSTK474処理後に2倍以上発現亢進された遺伝子は73遺伝子であった(表1)。
【0069】
(iv) (iii)のうち、両細胞株ともにZSTK474処理後に3倍以上発現が亢進された遺伝子は以下の7(のべ11)遺伝子であった(表2)。
1. CCNG2・・・cyclin G2 (3)
2. HBP1・・・HMG-box transcription factor 1
3. KLHL24・・・kelch-like 24 (Drosophila) (2)
4. FAM100B・・・family with sequence similarity 100, member B (2)
5. FBXO32・・・F-box protein 32
6. RICTOR・・・rapamycin-insensitive companion of mTOR
7. TFE3・・・transcription factor binding to IGHM enhancer 3
(*カッコ内の数字は、同一遺伝子が複数回登場したことを示す)
【0070】
(v) (iii)のうち、両細胞株ともに24h後でもDMSO処理と比較してZSTK処理で2倍以上発現亢進が認められた遺伝子は、以下の21(のべ29)遺伝子であった(表3)。
1. CCCNG2・・・cyclin G2 (3)
2. RNASE4・・・RNase A family, 4 (3)
3. PNRC1・・・proline-rich nuclear receptor coactivator 1
4. HBP1・・・HMG-box transcription factor 1
5. EPHX2・・・epoxide hydrolase 2, cytoplasmic
6. TFPI・・・tissue factor pathway inhibitor (3)
7. GABARAPL・・・GABA(A) receptor-associated protein like 1
8. YPEL1・・・Yippee-like 1
9. KLHL24・・・kelch-like 24 (Drosophila) (2)
10. DNAJC12・・・DnaJ (Hsp40) homolog, sucfamily C, member 12
11. KIAA1370・・・KIAA1370
12. LOC153222・・・Adult retina protein
13. PCMTD1・・・protein-L-isoaspartate (D-aspartate) O-methyltransferase domain containing 1
14. RICTOR・・・rapamycin-insensitive companion of mTOR
15. JMY・・・Junction-mediating and regulatory protein
16. NT5E・・・5’-nucleotidase, ecto (CD73)
17. MAML・・・mastermind-like 3 (Drosophila)
及び、UniGene IDがHs.205952、Hs.597550、Hs.587911、Hs.618649の4遺伝子
【0071】
2.2 発現抑制遺伝子
(i) PC-3細胞にて、測定した28サンプルを用いて発現量によるフィルター(最低1サンプル以上が200以上、4サンプル以上が”P”)をパスし、未処理細胞での2回の解析(別の日に解析)で再現性が得られ(0.75以上、1.333未満)、DMSO6h処理に比較して、ZSTK474(0.03、0.1、0.3μMのいずれか)処理で0.5倍以下の発現抑制が認められた遺伝子は368遺伝子であった。
【0072】
(ii) A549細胞にて、測定した26サンプルを用いて発現量によるフィルター(最低1サンプル以上が200以上、4サンプル以上が”P”)をパスし、未処理細胞での2回の解析(別の日に解析)で再現性が得られ(0.5以上、2未満)、DMSO6h処理に比較して、ZSTK474(0.1、0.3、1μMのいずれか)処理で0.5倍以下の発現抑制が認められた遺伝子は436遺伝子であった。
【0073】
(iii) (i)(ii)の共通の遺伝子:すなわち、両細胞株でZSTK474処理後に0.5倍以下の発現抑制が認められた遺伝子は以下の19(のべ22)遺伝子であった(表4)。
1. HSPA1A・・・heat shock 70kDa protein 1A (2)
2. HSPA1B・・・heat shock 70kDa protein 1B (2)
3. PSME・・・proteasome (prosome, macropain) activator subunit 3 (PA28 gamma; Ki)
4. EIF5B・・・eukaryotic translation initiation factor 5B
5. AMD1・・・adenosylmethionine decarboxylase 1
6. PPIF・・・peptidylprolyl isomerase F (cyclophilin F)
7. IFRD1・・・interferon-related developmental regulator 1
8. RNU3IP2・・・RNA, U3 small nucleolar interacting protein 2
9. GGA2・・・golgi associated, gamma adaptin ear containing, ARF binding protein 2
10. GTF2F2・・・general transcription factor IIF, polypeptide 2, 30kDa
11. PHLDA2・・・pleckstrin homology-like domain, family A, member 2
12. APBA2・・・amyloid beta (A4) precursor protein-binding, family A, member 2 (X11-like)
13. FAM98A・・・Rfamily with sequence similarity 98, member A
14. NPHP4・・・nephronophthisis 4
15. MGC14376・・・hypothetical protein MGC14376
16. MCM10・・・minichromosome maintenance deficient 10 (S. cerevisiae)
17. GPATC4・・・G patch domain containing 4
18. CHAC2・・・ChaC, cation transport regulator-like 2 (E. coli)
19. PPAP2A・・・Phosphatidic acid phosphatase type 2A
【0074】
(iv) (iii)のうち、両細胞株ともに24h後でもDMSO処理と比較してZSTK処理で0.5倍以下の発現抑制が認められた遺伝子は、以下の3(のべ4)遺伝子であった(表5)。
1. PHLDA2・・・pleckstrin homology-like domain, family A, member 2
2. CHAC2・・・ChaC, cation transport regulator-like 2 (E. coli)
3. PPAP2A・・・Phosphatidic acid phosphatase type 2A
【0075】
3.結果
2つのがん細胞株においてZSTK474処理後に顕著な発現亢進あるいは発現抑制が認められた遺伝子あるいは当該遺伝子産物はPI3キナーゼ阻害剤に対する細胞の感受性(PI3キナーゼ阻害剤の効果)を判定するためのマーカーとして利用可能である。
すなわち、PI3K阻害剤投与(処理)後の腫瘍細胞、もしくは被験者の血清において、前項2.1の(ii)〜(iv)記載の遺伝子(表1〜3に示される遺伝子)あるいは当該遺伝子産物の顕著な発現亢進、あるいは2.2の(iii)(iv)記載の遺伝子(表4もしくは表5に示される遺伝子)あるいは当該遺伝子産物の顕著な発現抑制がみられた場合、当該細胞を提供した被験者に対するPI3キナーゼ阻害剤の効果は高いと判定できる。
【0076】
実施例2:
1.材料及び方法
ヒト肺がん細胞株 PC-3細胞は、5%仔牛血清(GIBCO)を含むRPMI-1640培地で6×105 cells/10ml/10cmシャーレで播種した。
【0077】
PI3キナーゼ(PI3K)阻害剤としては、前述のZSTK474と下記に示すLY294002を用いた。
【0078】
【化3】

【0079】
ZSTK474、LY294002は、それぞれ最終濃度の1,000倍のものをDMSOに希釈して準備した。各細胞は、以下に示す条件で薬剤に暴露し、5%CO2存在下、37℃で培養を行った。
【0080】
薬剤 ZSTK474 LY294002
処理濃度 0 0
(μM) 0.03 1
0.1 3
0.3 10
(GI50) (0.1) (3)
処理時間 0h/6h/24h
【0081】
薬剤添加6hないし24h後の細胞を回収し、Buffer RLT/2-ME (Qiagen社RNeasy mini kit)600μlを添加し、RNeasy mini kit添付のプロトコールに従ってtotal RNAを抽出した。抽出したtotal RNAは、Nano Dropを用いて定量後、One-cycle cDNA synthesis kit(Affymetrix)により増幅し、ビオチン化ターゲットとして調製した。調製したビオチン化ターゲットを、Affymetrix GeneChip(登録商標) U133Plus2.0にハイブリダイズさせ、メーカー推奨のプロトコールにしたがい、洗浄、染色後、スキャナーにかけた。得られたデータは、各DNAチップデータシグナル値の90 percentile値を1000として正規化を行った。
【0082】
2.データ解析
2.1 発現亢進遺伝子
(i) 測定したすべてのサンプルを用いて発現量によるフィルター(最低1サンプル以上が300以上)をパスし、未処理細胞の2回の解析(同じ日に解析)で再現性が得られ(0.75以上、1.333未満)、未処理と比較してDMSO6h処理での発現量変動が2倍以内(0.5以上2以下)の遺伝子は13,547遺伝子であった。
【0083】
(ii) DMSO6h処理に比較して、ZSTK474(0.03、0.1、0.3μMのいずれか)処理で2倍以上発現亢進された遺伝子は210遺伝子であった。この中には、特に興味深いものとして以下の遺伝子が含まれていた。
1. PIK3CA・・・Phosphoinositide-3-kinase, catalytic, alpha polypeptide
【0084】
(iii) DMSO6h処理に比較して、LY294002(1、3、10μMのいずれか)処理で2倍以上発現亢進された遺伝子は266遺伝子であった。
【0085】
(iv) ZSTK474・LY294002ともに薬剤処理後に2倍以上発現が亢進された遺伝子((ii)かつ(iii))は89遺伝子であった(表6)。この中には、発現亢進により細胞増殖停止の原因となることが予想されるなど、特に興味深いものとして以下の遺伝子が含まれていた。
1. CCNG2・・・cyclin G2
2. CDKN1A・・・cyclin-dependent kinase inhibitor 1A (p21, Cip1)
3. CDKN1B・・・cyclin-dependent kinase inhibitor 2B (p15, inhibits CDK4)
4. RNASE4・・・ribonuclease, RNase A family, 4
5. RASD1・・・Ras, dexamethasone induced
6. FBXO32・・・F-box protein 32
【0086】
(v) ZSTK474処理後に2倍以上発現が亢進された遺伝子のうち、LY294002で発現亢進が認められない(3doseとも1.333未満)は51遺伝子であった(表7)。この中には、特に興味深いものとして以下の遺伝子が含まれていた。
1. FAS・・・Fas (TNF receptor superfamily, member 6)
2. CUL4B・・・cullin 4B
3. ITPR1・・・inositol 1,4,5-triphosphate receptor, type 1
4. RNASE4・・・ribonuclease, RNase A family, 4
【0087】
2.2 発現抑制遺伝子
(i)測定したすべてのサンプルを用いて発現量によるフィルター(最低1サンプル以上が300以上)をパスし、未処理細胞の2回の解析(同じ日に解析)で再現性が得られ(0.75以上、1.333未満)、未処理と比較してDMSO6h処理での発現量変動が2倍以内(0.5以上2以下)の遺伝子は13,547遺伝子であった。
【0088】
(ii)DMSO6h処理に比較して、ZSTK474(0.03、0.1、0.3μMのいずれか)処理で1/2倍以下に発現抑制された遺伝子は197遺伝子であった。
【0089】
(iii) DMSO6h処理に比較して、LY294002(1、3、10μMのいずれか)処理で1/2倍以下に発現抑制された遺伝子は389遺伝子であった。
【0090】
(iv) ZSTK474・LY294002ともに薬剤処理後に1/2倍以下に発現抑制された遺伝子((ii)かつ(iii))は65遺伝子であった(表8)。この中には、発現抑制により細胞増殖停止の原因となることが予想されるなど、特に興味深いものとして以下の遺伝子が含まれていた。
1. CDK6・・・cyclin-dependent kinase 6
2. IL8・・・interleukin-8
3. HSPA1A/B・・・heat shock 70kDa protein 1A/1B
4. CDC25A・・・cell division cycle 25A
【0091】
(v) ZSTK474処理後に1/2倍以下に発現抑制された遺伝子のうち、LY294002で発現亢進が認められない(3doseとも1.333未満)は44遺伝子であった(表9)。特に興味深いものとして以下の遺伝子が含まれていた。
1. GLI3・・・GLI-Kruppel family member GLI3 (Greig cephalopolysyndactyly syndrome)
2. HSF1・・・heat shock transcription factor 1
【0092】
【表6】



【0093】
【表7】



【0094】
【表8】


【0095】
【表9】


【0096】
3.結果
2つのPI3キナーゼ阻害剤ZSTK474・LY294002処理後に共通して、又は片方の薬剤(特に、まもなく臨床試験開始予定のZSTK474)特異的に、顕著な発現亢進あるいは発現抑制が認められた遺伝子あるいは当該遺伝子産物はPI3キナーゼ阻害剤に対する細胞の感受性(PI3キナーゼ阻害剤の効果)を判定するためのマーカーとして利用可能である。
【0097】
すなわち、PI3K阻害剤投与(処理)後の腫瘍細胞、もしくは被験者の血清において、前項2.1の(iv) (v)記載の遺伝子(表6・7に示される遺伝子)あるいは当該遺伝子産物の顕著な発現亢進、あるいは2.2の(iv)(v)記載の遺伝子(表8・9に示される遺伝子)あるいは当該遺伝子産物の顕著な発現抑制がみられた場合、当該細胞を提供した被験者に対するPI3キナーゼ阻害剤の効果は高いと判定できる。
【0098】
実施例3:
1.材料及び方法
ヒト肺がん細胞株 A549細胞、ヒト前立腺がん細胞株PC-3細胞は、5%仔牛血清(GIBCO)を含むRPMI-1640培地で6×105cells/10ml/10cmシャーレで播種した。
PI3キナーゼ(PI3K)阻害剤としては、前述のZSTK474とLY294002を用いた。
ZSTK474、LY294002は、それぞれ最終濃度の1,000倍のものをDMSOに希釈して準備した。以下に示す条件で細胞を薬剤に暴露し、5%CO2存在下、37℃で培養を行った。
【0099】
薬剤 ZSTK474 LY294002
処理濃度(μM) 0.3 または1 10または30
(GI50) (0.1) (3)
処理時間 0h/1h/3h/6h/12h/24h
【0100】
薬剤添加1h〜24h後の細胞を回収し、NE-PER (PIERCE社)を用いて、細胞質画分、核画分を分画して抽出し、ウェスタンブロット(後述)用の試料とした。また、フローサイトメーターによる解析を行う際は、80%エタノール/PBSで細胞を固定し、RNaseでRNAを消化した後、細胞内のDNAをpropidium iodideで染色した。この試料をFACSCalibur(Becton Dickinson社)を用いて測定した。リアルタイム定量PCR(後述)を行うために、薬剤添加後の細胞を回収し、RNeasy mini kit(Qiagen社)を用いてTotal RNAを抽出した。抽出したRNAは、Nano Dropで吸光度を測定し、定量した。
【0101】
ウェスタンブロットは、実施例2で注目すべき遺伝子として挙げたCDC25A(表8)に加え、CDC25A脱リン酸化基質であるCDK2、そのスレオニン14/チロシン15残基のリン酸化フォーム(P-CDK2)、retinoblastoma蛋白質(pRB)とそのリン酸化フォーム(P-pRB-Ser780およびP-pRB-Ser807/811)、Cyclin D1、Aktとそのリン酸化フォーム(P-Akt-Ser473)、GSK-3βとそのリン酸化フォーム(P-GSK3β-Ser9)、p15Ink4B(実施例2の表6で注目すべき遺伝子として挙げたCDKN2Bの遺伝子産物)それぞれに対する特異的な抗体を用いておこなった。
【0102】
リアルタイム定量PCRは、実施例2で注目すべき遺伝子として挙げたp15Ink4B (CDKN2B、表6)、CDC25A(表8)に加えて、ZSTK474曝露後24h後に1/2以下に発現抑制されることがDNAチップで確認されたCDK2についても行った。抽出したTotal RNA 1μgをSuperScript II(Invitrogen社)を用いて逆転写反応を行い、得られた1st strand cDNAを鋳型として、当該遺伝子の発現を特異的に測定するTaqman Gene Expression AssaysとABI PRISM 7000 Sequence Detection System(Applied Biosystems社)を用いて定量した。
【0103】
ZSTK474曝露後のCDC25Aのプロモーター活性を測定するために、CDC25Aのプロモーター領域(-754〜+434)を含むDNA領域を2種のプライマー(Sense: TCTAGGAGCTGCCACAGGTT(配列番号1); Antisense: CTGCAGCTGGTCCATAGTGA(配列番号2))を用いて、PC-3細胞より抽出したゲノムDNAを鋳型としてPCR増幅した。増幅したDNA断片は、SacI制限酵素で消化し、切り出されたCDC25Aのプロモーター領域(-754〜+434)をプロメガ社のpGL4.10ホタルルシフェラーゼ発現レポータープラスミドのマルチクローニングサイトに挿入し、pGL4.10-CDC25A/SacIを作製した。挿入したDNA配列および方向は、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing kitおよび3130 Genetic Analyzer(Applied Biosystems社)を用いて確認した。
【0104】
pGL4.10-CDC25A/SacIは、コントロールのpGL4.74ウミシイタケルシフェラーゼ発現レポータープラスミド(Promega社)とともに、PC-3細胞にLipofectamine2000(Invitrogen社)を用いて導入し、ZSTK474添加後のプロモーター活性の変化をピッカジーンデュアルシーパンジー(東洋インキ)/Centro LB960プレートリーダー(Berthold社)で測定した。
【0105】
2.結果
2.1 フローサイトメーターによる細胞周期の解析
ZSTK474は、非常に強い抗腫瘍効果を発揮する。この効果がアポトーシスなどの細胞死を起こす(すなわちCytotoxicな効果)ことに起因するのか、それとも細胞周期を停止させる(すなわちCytostaticな効果)ことに起因するのかを検討するために、フローサイトメーターを用いてZSTK474曝露後の細胞周期変動を検討した。その結果、ZSTK474曝露12h以内に細胞周期のG0/G1期の割合が増え始め、24h以内に80%以上の細胞がG0/G1期に停止し、少なくとも48h以上この状態が継続した(図1)。また、ZSTK474曝露48h後以内にアポトーシスを示すG1期細胞より低いDNA含量を示すポピュレーション(sub-G1)の増加がまったく認められなかった。これらのことから、ZSTK474はがん細胞にアポトーシスを起こさず、細胞周期をG0/G1期に停止させることで抗腫瘍効果を発揮するものと考えられた。
【0106】
2.2 既知のPI3キナーゼ下流因子の解析
ZSTK474はPI3キナーゼ阻害活性があるので、ZSTK474をがん細胞に曝露することにより、PI3キナーゼの下流のシグナル伝達が阻害されることが予想される。PI3キナーゼは細胞内2次メッセンジャーであるPIP3を生成し、PDK1を活性化しAktをリン酸化・活性化することが知られているが(I. Vivanco, C.L. Sawyers, The phosphatidylinositol 3-Kinase AKT pathway in human cancer, Nat Rev Cancer 2(2002) 489-501.)、ZSTK474曝露後1h以内に確かにAktの脱リン酸化が認められた(図2)。また、AktはGSK-3βをリン酸化することによって不活性化することが知られているが(I. Vivanco et al., 前掲)、ZSTK474曝露後Aktの不活化に伴いGSK-3βのリン酸化フォームが顕著に減少した(図2)。脱リン酸化(活性)型GSK-3βは、Cyclin D1のリン酸化・核外移行をおこし、pRBのリン酸化に必要なCDK4の補酵素であるCyclin D1のリン酸化・核外移行を引き起こすことが報告されているが(D.A. Cross, D.R. Alessi, P. Cohen, M. Andjelkovich, B.A. Hemmings, Inhibition of glycogen synthase kinase-3 by insulin mediated by protein kinase B, Nature 378 (1995) 785-789.)、ZSTK474曝露後確かに核内Cyclin D1が顕著に減少し、pRBのリン酸化フォームも顕著に減少した(図2)。このことから、ZSTK474は、Cyclin D1のリン酸化・核外移行を介してpRBのリン酸化を抑制することにより、細胞周期の停止に働くものと考えられた。同様の結果は、他のPI3キナーゼ阻害剤LY294002を用いた際にも認められた(データは示さず)。
【0107】
2.3 リアルタイム定量PCRによる細胞周期関連遺伝子の発現変動解析
つぎに、実施例2でDNAチップにより発現変動が認められた遺伝子のうち、既知のPI3キナーゼ下流因子には含まれない、細胞周期停止に関与するCCNG2、p15Ink4B(CDKN2B)の発現上昇と、細胞周期亢進に働くCDC25Aの発現抑制をリアルタイム定量PCRで確かめた。その結果、DNAチップと同様の結果が確認された(図3)。このことから、これらの遺伝子の発現変動は、ZSTK474曝露後の細胞周期停止に機能的に関与をしている可能性が考えられた。また、これらの発現変動を検出することにより、ZSTK474の抗腫瘍効果を判定できる可能性が示された。
【0108】
2.4 ウェスタンブロットによる解析
つぎに、ZSTK474曝露後に発現誘導が認められたp15Ink4B(CDKN2B)と、発現抑制が認められたCDC25A・CDK2 (ZSTK474曝露後24h以内に発現が1/2以下に抑制される遺伝子)について、ウェスタンブロットによる蛋白質レベルの解析を行った。その結果、RNAレベルで発現誘導されたp15Ink4Bは、蛋白質レベルでもZSTK474曝露24h後に顕著な発現誘導が認められた(図4)。一方、RNAレベルで発現抑制が認められたCDC25Aは、曝露3h以内に発現低下が認められ、24h以内にほぼ完全に消失した(図4)。CDK2はやや遅れて24h後に蛋白質発現の低下が認められた(図4)。結果として、調べた蛋白質のうちCDC25Aの発現低下がもっとも顕著な発現変動であることが確認された。
【0109】
2.5 レポーターアッセイによるCDC25Aプロモーター活性の測定
ZSTK474曝露後のCDC25AのRNAレベル・蛋白質レベルの発現抑制が、CDC25A遺伝子のプロモーター活性の低下に起因するものかどうかを検討するために、CDC25Aのプロモーター(L. Wu, E.C. Goodwin, L.K. Naeger, E. Vigo, K. Galaktionov, K. Helin, D. DiMaio, E2F-Rb complexes assemble and inhibit cdc25A transcription in cervical carcinoma cells following repression of human papillomavirus oncogene expression, Mol. Cell. Biol. 20 (2000) 7059-7067.)をホタルルシフェラーゼ遺伝子上流に挿入したレポーター遺伝子を作製し、コントロールのHSV-TK(ヘルペス単純ウイルスチミジンキナーゼ遺伝子)プロモーターによってドライブされるウミシイタケルシフェラーゼ発現プラスミドとともにPC-3細胞にトランスフェクションし、ZSTK474曝露後のプロモーター活性を測定した。その結果、ZSTK474曝露後12h以内にプロモーター活性が40%以下に低下することが示された(図5)。このことから、ZSTK474曝露により、確かにCDC25A遺伝子のプロモーター活性が抑制されることがわかった。
【0110】
2.6 CDC25Aの脱リン酸化基質であるCDK2の細胞内局在の解析
CDC25Aは脱リン酸化酵素であり、細胞周期のG1からS期の進行に必須なCDK2のスレオニン14・チロシン15残基を脱リン酸化することにより核局在を誘導し、活性化させる(Y. Gu, J. Rosenblatt, D.O. Morgan, Cell cycle regulation of CDK2 activity by phosphorylation of Thr160 and Tyr15, EMBO J. 11 (1992) 3995-4005.)。そこで、ZSTK474曝露後のCDK2の細胞内局在を検討した。その結果、ZSTK474曝露3h以内に、CDC25Aの発現低下と平行して、核内のCDK2蛋白質が減少し、12h後にはほぼ完全に消失した(図6)。一方、リン酸化CDK2蛋白質の核画分における発現を検討したところ、ZSTK474曝露3h〜6h後CDK2の総量は減少しているにもかかわらず、リン酸化CDK2はむしろ増加していた(図6)。すなわち、CDC25Aの発現低下によりCDK2を脱リン酸化することができず、一過的に核でのリン酸化CDK2の量が増加したものと考えられる。また、核内の活性化型(脱リン酸化型)CDK2が減少することによりCDK2の活性低下を引き起こし、S期進行が阻害されると考えられる。同様の結果は、LY294002曝露時も認められた。以上のことから、CDC25Aの発現低下をRNAレベル・蛋白質レベルで測定(あるいは、その基質であるCDK2の核外移行・消失を測定)することにより、PI3キナーゼ阻害剤の抗腫瘍効果(細胞周期のG0/G1期停止)をモニターできると結論された。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、PI3キナーゼ阻害剤の効果を判定する方法を提供する。これにより、投薬開始後にすみやかに患者の適性を判断して、より有効な治療を行なうことができる。PI3キナーゼ阻害剤は抗がん剤としての効果が期待でき、したがって、本発明はがんの治療と診断のための新規なツールとして利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】図1は、ZSTK474暴露後のフロサイトメーターによる細胞周期の解析結果を示す。
【図2】図2は、ZSTK474暴露後のGSK-3β、Cyclin D1、pRBの挙動を示す(図中、上からAktのリン酸化フォーム(P-Akt-Ser473)、GSK-3βのリン酸化フォーム(P-GSK3β-Ser9)、核内Cyclin D1、核外Cyclin D1、pRB、pRBのリン酸化フォーム(P-pRB-Ser780)および同(P-pRB-Ser807/811))。
【図3】図3は、リアルタイム定量PCRとDNAチップによるCCCNG2、p15lnk4b、CDC25Aの発現変動解析結果を示す(横軸:ZSTK474処理濃度(N:未処理、D:DMSO)、縦軸:発現量)。
【図4】図4は、ウェスタンブロットによる蛋白質レベルの解析結果を示す(図中、上からAktのリン酸化フォーム(P-Akt-Ser473)、p15Ink4b、CDC25A、CDK2)。
【図5】図5は、レポーターアッセイによるCDC25Aプロモーター活性の解析結果を示す。
【図6】図6は、CDC25A発現抑制に伴うCDK2・リン酸化CDK2(T14/Y15)の発現変化(細胞内局在)を示す。
【図7】図7は、ZSTK474によるCDC25A発現抑制を介したG0/G1期停止メカニズムを示す模式図である。
【配列表フリーテキスト】
【0113】
配列番号1:プライマー(センス)
配列番号2:プライマー(アンチセンス)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PI3キナーゼ阻害剤投与前後に被験者から採取された試料について、表2又は表5に示される10遺伝子あるいは前記遺伝子産物の発現量を解析することにより、当該被験者に対するPI3キナーゼ阻害剤の効果を判定する方法。
【請求項2】
上記遺伝子に加えて、さらに表3に示される21遺伝子あるいは前記遺伝子産物の発現量を解析する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記遺伝子に加えて、さらに表1及び表4に示される遺伝子群から選ばれる1又は2以上の遺伝子あるいは前記遺伝子産物の発現量を解析する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
PI3キナーゼ阻害剤投与後において、前記表1〜表3に示される遺伝子あるいは前記遺伝子産物の発現量が、投与前に比較して亢進しており、前記表4又は表5に示される遺伝子あるいは前記遺伝子産物の発現量が、投与前に比較して抑制されている場合、当該被験者に対するPI3キナーゼ阻害剤の効果が高いと評価することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記遺伝子の発現量が、DNAチップ、cDNAマイクロアレイ、及びメンブレンフィルター等の固相化試料を用いた核酸ハイブリダイゼーション法、RT-PCR法、Northern blot法、ATAC-PCR法、サブトラクション法、ディファレンシャル・ディスプレイ法、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法、ならびにクロスハイブリダイゼーション法から選ばれるいずれか1つの方法によって解析される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記遺伝子産物の発現量が、ウエスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、及びRIA法から選ばれるいずれか1つの方法によって検出される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記試料が、遺伝子の発現量を解析する場合であれば、標的部位の組織細胞から抽出したtotal RNA又はmRNA、また遺伝子産物の発現量を解析する場合であれば、前記細胞の抽出液や血清である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
PI3キナーゼ阻害剤がZSTK474またはLY294002である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−73035(P2008−73035A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218225(P2007−218225)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000173588)財団法人癌研究会 (34)
【Fターム(参考)】