説明

PNAプローブを利用した検体中の目的DNAまたはRNAの検出方法及び検出用キット、PNAプローブとハイブリダイズさせる目的DNAまたはRNAの調製方法及び調製用キット、ならびに目的DNAまたはRNAを検出するためのPNAチップ。

【課題】本発明は、より簡便、正確かつ短時間に検体中の目的DNAまたはRNAを検出できるPNAプローブを利用した検出方法及び検出用キットを提供することを目的とする。
【解決手段】検体中の目的DNAまたはRNAとこれとハイブリダイズできるPNAプローブとを、DMSOを含有させたハイブリダイゼーション液中でインキュベートすることによりハイブリダイズさせ、得られたハイブリダイズ産物を炭素数1〜4の低級アルコールを含む洗浄液で洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PNAプローブを利用した検体中の目的DNAまたはRNAの検出方法及び検出用キット、PNAプローブとハイブリダイズさせる目的DNAまたはRNAの調製方法及び調製用キット、ならびに目的DNAまたはRNAを検出するためのPNAチップに関するものであり、より簡便、正確、短時間に目的DNAまたはRNAを検出すること可能にするものである。
【背景技術】
【0002】
近年、目的の遺伝子を検出する方法として、ダイレクト・ハイブリダイゼーション法や遺伝子増幅法(PCR法)を用いた方法などが利用されている。また、近年、多数のプローブを貼り付けたDNAチップが発明され、研究および医療の診断などの分野で用いられ始めている。一般的なDNAチップの大きさは1〜10cmで、この領域に数千〜数十万種のDNAを整列させるように固定化する。一般的に、蛍光標識DNAプローブとのハイブリダイゼーションにより発現遺伝子や多型を検出する。検出には1〜10μmの解像度をもつ高性能蛍光スキャナーが用いられている。DNAチップ技術は、ポストゲノムの研究課題としてゲノム構造解析プロジェクトの成果を飛躍的に発展させる新しい技術として開発され、創薬研究・疾病の診断や予防法の開発などの研究開発に新しい手段を提供するものと期待されている。この手法は、その原理がシンプルなこと、大量の遺伝子の発現情報等を一括して収集できること、蛍光ラベルを用いて視覚に訴えることなどその分かりやすさから広まりつつある。
【0003】
しかし、DNAチップには核酸同士の結合力によりハイブリダイゼーションさせる原理が採用されているため、インキュベーション時間を長くとる必要があるという欠点を有する。元来DNAチップは60−80塩基の長さを有するDNAプローブをチップ基板上に貼り付けたものが多く、これを競合ハイブリダイゼーションによって解析する方法が一般的である。しかし、当該DNAプローブは塩基数が多いため、1塩基のミスマッチを認識する必要がある一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphisms、以下SNPs)解析には不向きであり、そのため20−30塩基程度のショートオリゴDNAを用いたチップも考案されている。しかしながら、DNAプローブの塩基数を少なくした場合にはハイブリダイゼーションの効率が低下するので、ハイブリ時間を長くする必要があり、短時間で結果を得ることができない。このため、DNAチップは精度や感度の面で技術的にはまだまだ開発段階にある。また、DNAチップの精度を評価するためには多検体解析後、分布図を作成しなければならないなどの手間や時間を要する。
【0004】
ECA(Electronic Chemical Array)チップは合成オリゴDNA(80塩基)を金の微小電極上に共有結合させたセラミック・チップである。このチップのアレイが微小電極と相同しており、標的遺伝子を捕捉した電極にだけ電流が流れるので、電気信号として標的遺伝子を検出できることを特徴とする。従来のDNAチップが標識されたDNAを試料として使用するのに対し、無標識で測定にかけられるECAチップは高感度でPCRが不要になる。また、SPR(Surface Plasmon Resonance)はDNAチップ・ECAチップと比べると集積化がよくないが、生態環境に一番近い状態で速度論的な解析ができるという点で非常に興味深い。
【0005】
一方、1991年頃から、擬似核酸の一種であるペプチド核酸(Peptide nucleic acid、以下PNA)が開発され、注目されている(非特許文献1)。例えばPNA/DNAやPNA/RNAの熱に対する安定性は、DNA/DNAやDNA/RNAよりも極めて高いことが証明されているため、PNAを用いた場合、ハイブリダイゼーション温度を従来に比べて高くすることが可能であり、PNAと目的の核酸以外の非特異的結合をより抑えることができると推測される。また、DNA/DNAの場合は、リン酸基のもつ負電荷をできるだけ抑えるために塩濃度を一定値以上に設定する必要があるが、PNA/DNAの場合はPNA自体が負電荷をもたない中性高分子であるので塩濃度の影響をほとんど受けない。従って、ハイブリダイゼーションは酸性、塩基性、低イオン強度下でも可能であり、DNA/RNAプローブで用いられるハイブリダイゼーションバッファーなどにおける規則が必要なくなると推測され、PNAプローブでは蒸留水で希釈するだけでよく、作業上の手間を軽減可能であると期待される。さらに、DNAやRNAの糖リン酸バックボーンは負電荷を帯びていて相補鎖間の静電的な反発があるが、PNAの場合はもともと電荷を持たないので静電的な反発が無い。
【0006】
このように、PNAは従来の核酸と比較して、(1)高い二重鎖形成能、(2)高い塩基配列認識能を持ち、(3)生体内ヌクレアーゼ・プロテアーゼに対し非常に安定で分解されないので、PNAはアンチセンス分子として、DNAに代わる分子生物学や遺伝子工学に利用価値の高いツールとして非常に注目を集めるようになった。
【0007】
しかし、PNAには、合成が困難であることやPNAオリゴマーが細胞膜を透過しにくいという欠点がある。また、PNAプローブをチップに固定させてDNAチップと同様に使用しようとしても、目的DNAまたはRNAを特異的に検出することは困難であり、PNAのより効果的な利用方法の模索が続いている。
【非特許文献1】Perry-O’Keefe, H. et al., J. Microbiol. Method., Vol.47, pp. 281-292 (2000).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術を背景として、本発明者らは簡便なPNAの高度処理技術の構築を試みた。すなわち、本発明は、より簡便、正確かつ短時間に検体中の目的DNAまたはRNAを検出できるPNAプローブを利用した検出方法及び検出用キットを提供することを目的とする。また、本発明は、PNAプローブとハイブリダイズさせる目的DNAまたはRNAの調製方法及び調製用キットを提供することを目的とする。さらに本発明は、競合ハイブリダイゼーションを要することなく、より正確かつ容易に目的DNAまたはRNAの有無を判断することができるPNAチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑み研究を行ったところ、本発明者は、検体中の目的DNAまたはRNAとこれとハイブリダイズできるPNAプローブとを、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)を含有させたハイブリダイゼーション液中でインキュベートすることによりハイブリダイズさせ、得られたハイブリダイズ産物を炭素数1〜4の低級アルコールを含む洗浄液で洗浄することにより、PNAプローブと目的DNAまたはRNAとを短時間でハイブリダイズさせることが可能であることを見出した。また、本発明者は、目的DNAまたはRNAを増幅させた後に得られた増幅産物をPNAプローブとハイブリダイズさせる際、1:4〜100のモル比でセンスプライマーとアンチセンスプライマーを用いて目的DNAまたはRNAの増幅産物を得た場合に、より効率良く目的DNAまたはRNAとPNAプローブとをハイブリダイズできることを見出した。また、本発明者は、PNAチップを、少なくとも目的DNAまたはRNAの塩基配列と完全相補的な配列を有するPNAプローブ、目的DNAまたはRNAの塩基配列とミスマッチな塩基を1つだけ有するPNAプローブ、及び目的DNAまたはRNAとハイブリダイズしないPNAプローブを備えたものとすることにより、より正確かつ容易に目的DNAまたはRNAを検出できることを見出した。本発明は上記知見に基づきさらに検討を重ねた結果完成されたものであり、下記に掲げるものである。
項1.PNAプローブを利用した検体中の目的DNAまたはRNAの検出方法であって、以下の工程、
(1)DMSOを含むハイブリダイゼーション液中で検体中の目的DNAまたはRNAと、該目的DNAまたはRNAとハイブリダイズできるPNAプローブとを、ハイブリダイズできる条件下でインキュベートする工程、
(2)前記工程(1)の産物を炭素数1〜4の低級アルコールを含む洗浄液で洗浄する工程、及び
(3)前記工程(2)の後にPNAプローブと目的DNAまたはRNAとのハイブリダイズ産物の有無を検出する工程、
を含むことを特徴とする、検出方法。
項2.前記ハイブリダイゼーション液のDMSOの濃度が約5〜60重量%である、項1に記載の検出方法。
項3.前記洗浄溶液の炭素数1〜4の低級アルコール濃度が50〜100重量%である、項1に記載の検出方法。
項4.目的DNAまたはRNAが、センスプライマーとアンチセンスプライマーを1:4〜100の比で用いて得られた増幅産物である、項1に記載の検出方法。
項5.前記PNAプローブがチップ上に配置されたPNAチップを用いて目的DNAまたはRNAを検出する、項1に記載の検出方法。
項6.前記PNAチップが、少なくとも、目的DNAまたはRNAの塩基配列と完全相補的な配列を有するPNAプローブ、目的DNAまたはRNAの塩基配列とミスマッチな塩基を1つ有するPNAプローブ、及びネガティブコントロールとなるPNAプローブを備えるものである、項5に記載の検出方法。
項7.PNAプローブを利用した検体中の目的DNAまたはRNAの検出用キットであって、以下、
(i)DMSOを含むハイブリダイゼーション液、及び
(ii)炭素数1〜4の低級アルコールを含む洗浄液、
を含むことを特徴とする、キット。
項8.さらに、1:4〜100の比で使用されるセンスプライマーとアンチセンスプライマーを含む、項7に記載のキット。
項9.さらに、前記PNAプローブがチップ上に配置されたPNAチップを含む、項7に記載のキット。
項10.PNAプローブとハイブリダイズさせる目的DNAまたはRNAの調製方法であって、目的DNAまたはRNAを、センスプライマーとアンチセンスプライマーを1:4〜100の比で用いてPCRを行うことにより得ることを特徴とする、調製方法。
項11.PNAプローブとハイブリダイズさせる目的DNAまたはRNAの調製用キットであって、1:4〜100の比で使用されるセンスプライマーとアンチセンスプライマーを含むことを特徴とする、キット。
項12.目的DNAまたはRNAを検出するためのPNAチップであって、少なくとも、目的DNAまたはRNAの塩基配列と完全相補的な配列を有するPNAプローブ、目的DNAまたはRNAの塩基配列とミスマッチな塩基を1つ有するPNAプローブ、及びネガティブコントロールとなるPNAプローブを備えることを特徴とする、PNAチップ。
項13.前記目的DNAまたはRNAの塩基配列と完全相補的な配列を有するPNAプローブと、前記目的DNAまたはRNAの塩基配列とミスマッチな塩基を1つ有するPNAプローブと、前記ネガティブコントロールとなるPNAプローブが隣接して配置されているものである、項12に記載のPNAチップ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
1.PNAプローブを利用した検体中の目的DNAまたはRNAの検出方法及び検出用キット
本発明の検出方法は、(1)DMSOを含むハイブリダイゼーション液中で検体中の目的DNAまたはRNAと、該目的DNAまたはRNAとハイブリダイズできるPNAプローブとを、ハイブリダイズできる条件下でインキュベートする工程、(2)前記工程(1)の産物を炭素数1〜4の低級アルコールを含む洗浄液で洗浄する工程、及び(3)前記工程(2)の後にPNAプローブと目的DNAまたはRNAとのハイブリダイズ産物の有無を検出する工程、を含むことを特徴とする。また、本発明の検出用キットは、(i)DMSOを含むハイブリダイゼーション液、及び(ii)炭素数1〜4の低級アルコールを含む洗浄液を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明においてハイブリダイズできるとは、DMSOを含むハイブリダイゼーション液と炭素数1〜4の低級アルコールを含む洗浄液を用いるハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズさせた場合に、目的DNAまたはRNAと該目的DNAまたはRNAを標的とするPNAプローブとのハイブリダイズ産物が得られることをいう。以下、本発明の検出方法及び検出用キットを詳細に説明する。
【0012】
本発明の検出方法
本発明の検出方法は、上述の通り、DMSOを含むハイブリダイゼーション液中で検体中の目的DNAまたはRNAと、該目的DNAまたはRNAとハイブリダイズできるPNAプローブとを、これらがハイブリダイズできる条件下でインキュベートする工程(1)を含む。具体的には該工程は、目的DNAまたはRNAを含む検体を、ハイブリダイゼーション液に混和し、この混和液を、目的DNAまたはRNAとハイブリダイズできるPNAプローブ存在下で適切な時間・温度でインキュベートするものである。該PNAプローブはあらかじめ加温しておくことが好ましい。
【0013】
この場合、インキュベーション温度は目的DNAまたはRNA、PNAプローブの塩基配列、PNAプローブの長さなどに応じて適宜調節でき、好ましくは36〜50℃の範囲であり、さらに好ましくは50℃である。また、インキュベーション時間も、目的DNAまたはRNA、PNAプローブの塩基配列、PNAプローブの長さなどに応じて適宜調節でき、好ましくは5〜60分であり、さらに好ましくは60分である。PNAプローブの加温温度は制限されないが、好ましくは上記インキュベーション温度と同じ温度である。
【0014】
なお、本発明において使用するハイブリダイゼーション液は次のように説明できる。ハイブリダイゼーション液は、通常使用されているハイブリダイゼーション液にDMSOを加えることにより作成されたものであればよい。ハイブリダイゼーション液のDMSO濃度は、好ましくは約5〜60重量%、さらに好ましくは20〜25重量%である。一例として、ハイブリダイゼーション液として、DMSOを加えた、1重量%SDSを含有する5×SSPEが使用できる。
【0015】
また、本発明の検出方法は、上述の通り、工程(1)の産物を炭素数1〜4の低級アルコールを含む洗浄液で洗浄する工程(2)を含む。具体的には該工程は、工程(1)で得られた検体中のDNAまたはRNAとプローブとのハイブリダイズ産物を、炭素数1〜4の低級アルコールを含む洗浄液に接触させることにより、PNAプローブと付着しているだけのDNAまたはRNAなど、PNAプローブとハイブリダイズしていないDNAまたはRNAを除去するものである。
【0016】
ここで、洗浄は、目的DNAまたはRNA、PNAプローブの塩基配列、PNAプローブの長さなどに応じて適宜調節された温度で行うことができるが、好ましくは60℃以下、さらに好ましくは50℃以下であり、さらに温度管理の手間を要しない点から室温がより好ましい。また、洗浄は、目的DNAまたはRNA、PNAプローブの塩基配列、PNAプローブの長さなどに応じて適宜調節された時間行うことができるが、短時間で検出できる点から好ましくは1〜30分、さらに好ましくは1〜15分である。
【0017】
本発明において使用する洗浄液は次のように説明できる。洗浄液は通常使用されている洗浄液に炭素数1〜4の低級アルコールを加えることにより作成されたものであればよいが、好ましくは蒸留水などの水に低級アルコールを加えることにより作成されたものである。洗浄液中の低級アルコール濃度は50〜100重量%とすることができ、好ましくは80〜100重量%、さらに好ましくは100重量%である。炭素数1〜4の低級アルコールの例としてはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられ、好ましくはエタノールである。
【0018】
上記ハイブリダイゼーション液及び洗浄液を使用することにより、目的DNAまたはRNAと、目的DNAまたはRNAにハイブリダイズできるPNAプローブとのハイブリダイズ産物を高い精度で得ることができる。また、上記ハイブリダイゼーション液及び洗浄液を使用することにより、PNAプローブに単に付着しているだけでハイブリダイズしていないDNAまたはRNAを効果的に除去することができる。
【0019】
このため、上記ハイブリダイゼーション液及び洗浄液を使用することにより、目的DNAまたはRNAとPNAプローブを短時間でハイブリダイズさせることができ、かくして得られるハイブリダイズ産物の蛍光発光等のシグナルを、以下説明する工程(3)において鮮明に観察することができる。
【0020】
なお、上記工程(2)の後、必要に応じてさらに洗浄することができ、例えば0.1%SDSを含む1xSSPEにより洗浄することができる。
【0021】
本発明の検出方法は、上述の通り、PNAプローブと目的DNAまたはRNAとのハイブリダイズ産物の有無を検出する工程(3)を含む。具体的には該工程は、PNAプローブと目的DNAまたはRNAとのハイブリダイズ産物の有無を、該ハイブリダイズ産物由来のシグナルの有無またはシグナル強度により判別するものである。該シグナルは、例えばあらかじめプローブに標識しておいた標識剤や蛍光色素に基づいて得ることができ、当該シグナル、シグナル強度は蛍光顕微鏡やスキャナー等の従来公知の装置を用いて観察、測定することができる。そして例えば、PNAプローブと目的DNAまたはRNAとのハイブリダイズ産物由来のシグナルが観察されれば検体中に目的DNAまたはRNAが存在すると判定され、観察されなければ存在しないと判定される。
【0022】
本発明において使用する上記検体中の目的DNAまたはRNAは次のように説明できる。検体中の目的DNAまたはRNAは、ウイルス由来、細菌由来、ニワトリ由来、ブタ由来、ヒト由来など、その由来は制限されない。また、該検体は目的DNAまたはRNAの有無を判断できるように調製されたものであればよく、例えば検体として、何らかの細胞膜透過処理を施した細胞を含むものでもよく、抽出された目的DNAまたはRNAそのものを含むものでもよく、またPCRやRT−PCR等による目的DNAまたはRNAの増幅産物を含むものであってもよい。
【0023】
検体として目的DNAまたはRNAの増幅産物を使用する場合、当該増幅産物は通常の方法に従い得ることができる。目的DNAまたはRNAの増幅産物を得る場合には、上述するように例えばPCRまたはRT−PCR法が使用できるが、温度、時間、サイクル数などの各PCR条件、また逆転写反応条件は、目的DNAまたはRNAあるいはプライマーの塩基配列、長さなど応じて適宜調整される。当該調整は、当業者であれば予備的実験等を経ることにより容易成し得る。使用されるセンスプライマーとアンチセンスプライマーについては、センスプライマーとアンチセンスプライマーを1:4〜100のモル比で用いて増幅産物を得ることが好ましく、センスプライマーとアンチセンスプライマーを1:4〜50のモル比で用いることがより好ましく、これらを1:10のモル比で用いることがさらに好ましい。
【0024】
センスプライマーとアンチセンスプライマーを1:1のモル比で用いて得た増幅産物を使用した場合と、これらのモル比を1:10で用いて得た増幅産物を使用した場合を比較すると、前者より後者のほうが、目的DNAまたはRNAとPNAプローブとをより効率良くハイブリダイズさせることができ、ハイブリダイズ産物をより明瞭に検出することができる。
【0025】
本発明において使用するPNAプローブは次のように説明できる。PNAプローブは目的DNAまたはRNAを検出できるものであれば限定されず、目的DNAまたはRNAの塩基配列と完全相補的なものでもよく、完全相補的でないものでもよく、プローブの塩基配列および長さ、ハイブリダイゼーションの条件などに応じて適宜決定できる。好ましくは、PNAプローブは目的DNAまたはRNAの少なくとも一部の領域の塩基配列と完全相補的なもの(以下、PNAプローブ1と称することもある)、前記領域と1塩基のミスマッチを有するものであり(以下、PNAプローブ2と称することもある)、さらに好ましくはPNAプローブ1である。また、本発明のPNAチップには、さらにネガティブコントロールとなるプローブを固定させることが好ましい。ここでネガティブコントロールとなるプローブとは、目的DNAまたはRNAとハイブリダイズしないプローブを意味する。
【0026】
なお、本発明において「目的DNAまたはRNAの塩基配列と完全相補的な配列を有するPNAプローブ」とは、目的DNAまたはRNAの少なくとも一部分の領域と完全相補的であるプローブを指し、これは目的DNAまたはRNAの全塩基配列のうち一部分の領域と完全相補的なプローブだけでなく、目的DNAまたはRNAの全塩基配列と完全相補的なプローブも含む。また、本発明において「目的DNAまたはRNAの塩基配列とミスマッチな塩基を1つ有するPNAプローブ」は、好ましくは前記「目的DNAまたはRNAの塩基配列と完全相補的な配列を有するPNAプローブ」の塩基配列とミスマッチな塩基を1つ有するPNAプローブである。
【0027】
また、本発明において使用するPNAプローブは、目的DNAまたはRNAを検出できるだけの長さを有しているものであれば限定されず、好ましくはPNAプローブとしてのPNAオリゴマーを約12〜20merとすることができる。また、PNAプローブはビオチンなどの各種標識剤で標識することができ、またCy3、Cy5などの各種蛍光色素で標識することもできる。また、PNAプローブは、チップ上に固定されたものでもよく、またチップ上に固定されていないものでもよい。
【0028】
チップ上に固定されたPNAプローブを使用する場合、すなわちPNAチップを使用する場合、当該PNAチップはガラス、プラスチック、セラミックなどのチップ材料として一般的に用いられている基板上に、既に合成したPNAプローブを貼り付けることにより作製されたものでもよく、また当該基板上でPNAプローブを合成することにより作製されたものでもよい。PNAチップには当然のことながら複数のPNAプローブを固定させることができるが、推定Tm値を統一したプローブを固定することが好ましい。また、この場合、PNAプローブは、目的DNAまたはRNAまたは増幅産物の任意の部分をターゲットとするものであればよく、好ましくは目的DNAまたはRNAまたは増幅産物の末端部分をターゲットとするものである。また、PNAチップに配置される複数のPNAプローブは、検体中の目的DNAまたはRNAを検出できる組み合わせであれば制限されない。
【0029】
例えば、目的DNAまたはRNAと他のDNAまたはRNAにおいて1塩基の違いを判別したい場合には、チップには少なくとも前記PNAプローブ1と、前記PNAプローブ2がともに固定される。この場合、PNAプローブ1と目的DNAまたはRNAとは効率良くハイブリダイズできるが、PNAプローブ2と目的DNAまたはRNAとは全くハイブリダイズしないハイブリダイゼーション条件に適宜調整する、すなわち上記工程(1)及び工程(2)の条件を適宜調整することにより、目的DNAまたはRNAを特異的に検出することができる。このため、本発明の方法によれば例えばSNPsを判断することが可能であり、また同一疾患の各種遺伝子表現亜型を診断することも可能である。
【0030】
また、ほかの例は、PNAチップには、目的DNAまたはRNAの少なくとも一部の領域の塩基配列と完全相補的なPNAプローブ1と、当該領域の塩基配列と1塩基のミスマッチを有するPNAプローブ2と、当該領域と2塩基のミスマッチを有するPNAプローブ(以下、PNAプローブ3と称することもある)をともに固定させることができる。この場合には、ハイブリダイゼーション条件、すなわち上記工程(1)及び工程(2)の条件を適宜調整することにより、PNAプローブ1と目的DNAまたはRNAとは効率良くハイブリダイズさせ、PNAプローブ2と目的DNAまたはRNAとは前者ほど効率良くハイブリダイズさせず、さらにPNAプローブ3と目的DNAまたはRNAとでは全くハイブリダイズさせないようにすることができる。この場合、例えばハイブリダイゼーション後の洗浄過程において、PNAプローブ2を固定したスポットに若干蛍光発光が残る程度に洗浄を制御することで、擬陽性の問題をクリアできる。すなわち、例えばPNAプローブ1、PNAプローブ2、PNAプローブ3において、蛍光発光等のシグナル強度に差がなければ擬陽性反応と判定される。また、例えばPNAプローブ1、PNAプローブ2、PNAプローブ3の順にシグナル強度が低下している場合には、目的DNAまたはRNAを正確に検出できていると判定される。
【0031】
上述したいずれのPNAチップにおいても、さらにネガティブコントロールとなるプローブを配置させることが好ましい。また、上記工程(1)及び工程(2)の条件は、目的DNAまたはRNA、ならびにプローブの塩基配列及び長さなどに応じて、当業者であれば予備的実験を経ることにより容易に調整できる。
【0032】
さらに、例えば、PNAチップには上記PNAプローブ1、PNAプローブ2を、さらにネガティブコントロールとなるPNAプローブを、チップ上に縦列、横列、円形状など様々な配置形態で隣接乃至近接して配置させることができる。これら各プローブの間には、別の配列を有するPNAプローブを配置させることもできる。隣接とは、あるPNAプローブが少なくとも別の1つのPNAプローブと隣りあっていればよく、例えば横方向に一列で配置させること、縦方向に一列で配置させることなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、少なくともPNAプローブ1とPNAプローブ2が隣り合って配置させることであり、さらに好ましくはPNAプローブ1、PNAプローブ2、ネガティブコントロールとなるプローブを縦または横方向に順に並んで配置させることが好ましい。
【0033】
上述のように、少なくともPNAプローブ1とPNAプローブ2とをチップ上に隣接乃至近接して配置させることにより、プローブを配置させた各スポット間における蛍光強度を比較することがより容易になる。すなわち、各プローブをこのように配置させることによって、擬陽性の有無の判断が一層容易かつ正確となる。従って、本発明は、チップ上に、少なくとも目的DNAまたはRNAと完全相補的な配列を有するPNAプローブと、当該目的DNAまたはRNAと1塩基のミスマッチを有するPNAプローブとをともに配置させることにより、擬陽性反応の有無を判断する方法をも提供すものでもある。
【0034】
また、本発明ではさらに、目的DNAまたはRNAと2塩基のミスマッチを有するPNAプローブ3も、PNAプローブ1、PNAプローブ2、ネガティブコントロールとなるPNAプローブなどと隣接乃至近接して配置させることが好ましい。いずれのPNAプローブを組合わせて配置させるかについては、当業者が研究目的、診断目的などにあわせて適宜選択すればよい。
【0035】
本発明の検出用キット
本発明の検出用キットは、上述の通り、DMSOを含むハイブリダイゼーション液と、炭素数1〜4の低級アルコールを含む洗浄液を含むものである。該キットに含まれるハイブリダイゼーション液及び低級アルコールは前述する通りである。また、当該キットを使用した場合のハイブリダイゼーション条件及び目的DNAまたはRNAの有無の判断、検出手段に関しても、前述と同様に行うことができる。
【0036】
また、本発明における検体中の目的DNAまたはRNAについても前述する通りであり、増幅産物も上記と同様にして得ることができる。また、利用するPNAプローブも前述する通りである。
【0037】
また、当該キットにはさらに1:4〜100の比で使用されるセンスプライマーとアンチセンスプライマーを含むことができるが、この場合、本発明のキットをさらに簡便に使用できるようにするためには、当該キットに1:4〜100の比でセンスプライマーとアンチセンスプライマーが含まれていることが望ましい。また、本発明にはさらにPNAチップを含むこともできるが、当該PNAチップは前述のものを含むことができる。また、本発明のキットには、当該キットを使用するプロトコールが記載された説明書なども含むことができる。
【0038】
以上のことから、本発明の検出方法及び検出用キットによれば、短時間で効率よく目的DNAまたはRNAの有無を判断することが可能となる。また、検体として、1:4〜100のモル比のセンスプライマーとアンチセンスプライマーを使用することにより得た増幅産物を含むものを用いた場合には、さらに効率良く目的DNAまたはRNAを検出することが可能となる。さらに、上記のようなPNAチップを用いることにより、競合ハイブリダイゼーションを必要することなく、より容易に目的DNAまたはRNAを検出することが可能となる。
【0039】
例えば、AIDS、SARSをはじめとする重篤な症状を示す感染症は、その治療が困難なことから、早期発見システムの確立が世界的に求められている。早期診断法を医療機関やベッドサイドへ導入することが予防方法として効果的であるが、従来の診断法は「時間がかかる・コストが高い・取り扱いが難しい」など問題点がある。
【0040】
また、例えば、各種ウイルス疾患の診断においては、臨床徴候から疑われるウイルスの抗原(蛋白質)に対する抗体の検出により診断することが多い。しかしながら、ウイルス由来の抗原の発生には、ウイルス感染後数日を要し、従って、発病後でないと治療に結びつかない時間的な課題を解決する必要性がある。
【0041】
また、近年、他の感染症と同様にウイルスのRNAまたはDNAまたはRNAをPCR法を用いて検出する方法やハイブリダイゼーション法を用いて検出する方法が用いられている。しかしながら、例えばDNAまたはRNAチップを使用した方法では、上述するように結果を得るまでに時間や手間を要する。
【0042】
本発明はこのような抗原抗体反応によってのみ正確な診断が可能であった感染症を早期に発見し、予防や治療に利用することも可能なものであり、また、DNAまたはRNAチップを使用した場合より迅速、簡便かつ正確に診断することも可能なものである。
【0043】
また、上記本発明は、ゲノム構造解析プロジェクトの成果をさらに発展させることを可能にするものであり、また、創薬研究・疾病の診断や予防法の開発などの研究開発をさらに効果的に行うことを可能にするものである。
【0044】
2.PNAプローブとハイブリダイズさせる目的DNAまたはRNAの調製方法及び調製用キット
本発明の調製方法は、目的DNAまたはRNAの増幅産物を、1:4〜100の比でセンスプライマーとアンチセンスプライマーを用いてPCRを行うことにより得ることを特徴とする。また、本発明の検出用キットは、1:4〜100の比で使用されるセンスプライマーとアンチセンスプライマーを含むことを特徴とする。
【0045】
ここで、該目的DNAまたはRNAは前述する通りであり、本発明の調製方法及び調整用キットによれば、増幅産物もセンスプライマーとアンチセンスプライマーのモル比を1:4〜100とする以外は前述と同様にして得ることができる。好ましくは、センスプライマーとアンチセンスプライマーのモル比を1:4〜50、さらに好ましくは1:10とするものである。また、当該調製方法及び/または調製用キットにより得られた増幅産物は、前述と同様してPNAプローブとハイブリダイズさせることができ、また前述と同様して目的DNAまたはRNAの有無を判断することができる。
【0046】
また、当該キットにはさらに1:4〜100の比で使用されるセンスプライマーとアンチセンスプライマーを含むことができるが、この場合、本発明のキットをさらに簡便に使用できるようにするためには、当該キットに1:4〜100の比でセンスプライマーとアンチセンスプライマーが含まれていることが望ましい。また、本発明にはさらにPNAチップを含むこともできるが、当該PNAチップは前述のものを含むことができる。本発明の調整用キットにおいても、当該キットを使用するプロトコールが記載された説明書などを含むことができる。
【0047】
前述するように、センスプライマーとアンチセンスプライマーのモル比を上記の比率にして増幅産物を得た場合には、増幅産物である目的DNAまたはRNAとPNAプローブとを一層効率良くハイブリダイズさせることが可能となる。
【0048】
3.目的DNAまたはRNAを検出するためのPNAチップ
本発明のPNAチップは、目的DNAまたはRNAの塩基配列と完全相補的な配列を有するPNAプローブ、目的DNAまたはRNAの塩基配列とミスマッチな塩基を1つ有するPNAプローブ、及びネガティブコントロールとなるPNAプローブを少なくとも備えることを特徴とし、該特徴を有するよう作製する以外は前述と同様にして得ることができる。
【0049】
また、目的DNAまたはRNAとしては前述と同様のものを使用することができ、また、増幅産物についても同様にして得ることができる。また、本発明のPNAチップを用いた場合にも、前述と同様にしてPNAプローブとハイブリダイズさせることができ、また前述と同様にして目的DNAまたはRNAの有無を判断することができる。また、本発明のPNAチップにはさらに、前述と同様にして、目的DNAまたはRNAの塩基配列とミスマッチな塩基を2つ有するPNAプローブを備えることもできる。
【0050】
従って、本発明のPNAチップによれば、上述と同様に、例えばSNPsを判断することが可能であり、また同一疾患の各種遺伝子表現亜型を診断することも可能である。また、ハイブリダイゼーション後の洗浄過程において、例えば1塩基のミスマッチを有するPNAプローブを配置したスポットに若干蛍光発光が残る程度に洗浄を制御することで、擬陽性の問題をクリアできる。
【0051】
また、本発明のPNAチップにおけるプローブの配置形態に関しても前述の記載を援用する。従って、このように配置させた場合には、前述と同様に各スポット間における蛍光強度を比較することがより容易になり、擬陽性の有無の判断が一層容易かつ正確となる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の内容を以下の実施例及び比較例を用いて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0053】
(i)チップ上に貼り付けるPNAオリゴマーの設計
実施例1:PNAチップ1
ヒトC型肝炎ウィルス(HCV)ゲノムの塩基配列データは米国国立衛生研究所のゲノムデータベースから入手し、PCRのプライマーおよびPNAプローブの配列を検討した。プライマー配列選択には、市販の遺伝子解析ソフトを用いた。PCR用プライマーの塩基配列は次の通りである。
5’センスプライマー:GCAGAAAGCGTCTAGCCATGGCGT(primer 1)(配列番号1)
3’センスプライマー:ACTGCCTGATAGGGTGCTTGCGAG(primer 2)(配列番号2)
このプライマーにより増幅される領域に相補的配列を有するPNAオリゴマーを検出用PNAプローブとして選択し、常法によりPNAオリゴマーを合成した。選択した塩基配列は次の通りである。
スポット1(HCVの塩基配列と完全相補的な配列を有する検出用PNAプローブ):AAGCGTCTAGCCATG(probe 1)(配列番号3)
スポット2(HCVの塩基配列と2塩基のミスマッチを有する検出用PNAプローブ、下線部がミスマッチ部位):AAGCTCTAGCATG(probe 2)(配列番号4)
スポット3(5’側上流に位置するHCVの塩基配列と完全相補的な配列を有する検出用PNAプローブ):CAGAAAGCGTCTAGCCA(probe 3)(配列番号5)
スポット4(3’側下流に位置するHCVの塩基配列と完全相補的な配列を有するPNAプローブ):TGGCGTTAGTATGAGTGTCGTGC(probe 4)(配列番号6)
スポット5(SARSコロナウイルス検出用プローブ、ネガティブコントロールとして使用):AAACATAACACTTGC(probe 5)(配列番号7)
即ち、検出用PNAプローブとして、標的であるHCVを特異的に検出できるPNAオリゴマー、当該PNAオリゴマーと2塩基のミスマッチを有するPNAオリゴマー、前記HCVを特異的に検出できるPNAオリゴマーの5’末端側上流に位置するPNAオリゴマー、前記HCVを特異的に検出できるPNAオリゴマーの3’側下流に位置するPNAオリゴマー、及びネガティブコントロールとなるPNAプローブを順にデュプリケートで並べたPNAチップ(以下、PNAチップ1)を作成した。当該PNAチップ1のスペックを図1に示す。なお、上記スポット1〜5はそれぞれ、図1の丸1〜丸5に相当する。
【0054】
ハイブリダイゼーション液は、1%SDS(Sodium Dodecyl Sulfate、SDS)および20%DMSO(dimethyl sulfoxide)を含む1xSSPE(1×SSPE=150mM NaCl、10mM NaHPO・HO、1mM EDTA、pH7.4)を用いた。PNAチップを、ハイブリダイゼーション用チャンバーに固定し、50℃にあらかじめ加温しておく。次に、HCVの一部の配列をターゲットとして作成されたRT−PCR増幅産物4μlを、16μlハイブリダイゼーション液に混和し、このPNAチップの上に丁寧に載せて50℃のハイブリダイゼーション専用恒温装置にいれて加温した。加温時間は、60分間で行った。ハイブリダイゼーション後のPNAチップ1の洗浄は、EtOH中でハイブリダイゼーション用カバーをはずした後5分間静置し、次いで0.1%SDSを含む1xSSPE中で1分間静置した。マイクロアレイ解析は、GeneTAC LSIV装置(Genomic Solution製)を用いて行った。
【0055】
その結果、スポット1のみならず、スポット3及びスポット4において蛍光発光が観察されたが、スポット2及びスポット5では蛍光発光は観察されなかった。結果を図2に示す。これより、目的遺伝子の塩基配列と完全相補的な配列を有するプローブのみならず、その上流側の配列を有するプローブ、及びその下流側の配列を有するプローブによっても、目的遺伝子を認識できることがわかった。また、目的遺伝子の塩基配列と2塩基のミスマッチを有するプローブは、当該実験条件では目的遺伝子を認識しないことがわかった。
【0056】
実施例2:PNAチップ2
実施例1で作成したPNAチップ1を用いて機能評価を行った結果、「設計するPNAオリゴマーの相補的DNAオリゴマーとのハイブリダイゼーション形成時における推定Tm値を統一すること」、「PCR増幅産物の末端部分をターゲットとすること」、「当然のことながらハイブリダイズの条件を適宜調整することにより1塩基のミスマッチを有するPNAプローブにはハイブリダイズさせないようにできると予想されるので、2塩基ミスマッチPNAオリゴマーのみではなく1塩基ミスマッチPNAオリゴマーも採用すること」などの改良すべき点が浮き彫りになった。
【0057】
そこで、実施例1で選択したプライマー領域に相補的配列を有するPNAオリゴマーを検出用PNAプローブとして選択し、常法によりPNAオリゴマーを合成した。選択した塩基配列は次の通りである。
スポット1(HCVの塩基配列と完全相補的な配列を有する検出用PNAプローブ、Tm値が55℃付近となるように設計した):CAGAAAGCGTCTAGCCA(probe 6)(配列番号8)
スポット2(HCVの塩基配列と1塩基のミスマッチを有する検出用PNAプローブ、下線部がミスマッチ部位):CAGAAAGGTCTAGCCA(probe 7)(配列番号9)
スポット3(HCVの塩基配列と2塩基のミスマッチを有する検出用PNAプローブ、下線部がミスマッチ部位):CAAAAGCGTCTACCA(probe 8)(配列番号10)
スポット4(16塩基分5’側上流に位置するHCVの塩基配列と完全相補的な配列を有する検出用PNAプローブ):ATGGCGTTAGTATGAGTGT(probe 9)(配列番号11)
スポット5(ネガティブコントロールとして使用):ACTGACTGACTGACTGACTG(probe 10)(配列番号12)
即ち、検出用PNAプローブとして、標的であるHCVを特異的に検出できるPNAオリゴマー、当該PNAオリゴマーと1塩基のミスマッチを有するPNAオリゴマー、前記HCVを特異的に検出できるPNAオリゴマーと2塩基のミスマッチを有するPNAオリゴマー、前記HCVを特異的に検出できるPNAオリゴマーの配列の16塩基分5’末端側上流に位置するPNAオリゴマー、及びネガティブコントロールとなるPNAプローブを順にデュプリケートで並べたPNAチップ(以下、PNAチップ2)を作成した。当該PNAチップ2のスペックを図3に示す。なお、上記スポット1〜5はそれぞれ、図3の丸1〜丸5に相当する。
【0058】
実施例1と同様に各スポットの蛍光輝度を測定した。なお、ハイブリダイゼーション後のPNAチップ2の洗浄は、EtOH中でハイブリダイゼーション用カバーをはずした後5分間静置し、次いで0.1%SDSを含む1xSSPE中で1分間静置した場合、1分間攪拌した場合及び3分間攪拌した場合を比較した。
【0059】
その結果、0.1%SDSを含む1xSSPE中で1分間静置した場合には、スポット1のみならず、スポット2及びスポット4においても蛍光発光がみられた(図4)。また、スポット2とスポット3は、スポット1と比較して徐々に蛍光発光強度が減少することが観察された。
【0060】
また、0.1%SDSを含む1xSSPE中で1分間攪拌した場合及び3分間攪拌した場合には、HCVの塩基配列と1塩基のミスマッチを有するPNAプローブを固定したスポット2及び3では蛍光発光はほとんど観察されなかった。
【0061】
(ii)PCR条件の検討
実施例3:PCR条件の検討1
サンプルとして、HCV感染血液を用いた。PCRはキット製造業者のマニュアル通りに行った。まず、Rneasy Mini Kit (QIAGEN製)を用いて、血清140μlからRNA分画を精製した。次に、Sensiscript RT Kit (QIAGEN製)を用いて、上記のRNA溶液10μlから、20μlのRT−PCR増幅産物を得た。インキュベーション条件は、37℃、60分間で逆転写反応を行い、93℃、5分間で反応を停止させた。HCVのコア領域を増幅するプライマーのペア(Roche株式会社のAmpliCore Kitにあるプライマーと同等のDNAオリゴヌクレオチド)を準備した。5’末端側のセンスプライマー(HCV001)(配列番号13)と3’末端側のアンチセンスプライマーの5’末端を蛍光色素Cy5で標識したもの(HCV002)(配列番号14)を用いた(表1)。HCV001とHCV002のモル比は1:10となるように調整した。5μlのRT−PCR増幅産物をPCR用ミックスで100μlとし、Gene Amp PCR System 9600-R(Perkin Elmer社製)を使って、40回増幅した。このときPCR増幅条件として、94℃で3分間、66℃で1分間、72℃で1分間を1サイクル、94℃で30秒間、66℃で30秒間、72℃で1分間を38サイクル、94℃で30秒間、66℃で30秒間、72℃で5分間を1サイクル、を採用した。この条件は、Roche株式会社のプロトコールに従った。
【0062】
【表1】

【0063】
PT−PCR増幅産物の出来状況は標準的電気泳動方法によって確認した。即ち、電気泳動後のゲルを、1μg/mlエチジウムブロマイド液中に15分間浸し、その後20分間蒸留水中で洗浄して染色した。紫外線照射により発色したバンドを、デジタルカメラにて撮影することにより観察した。その結果、長さの異なったバンドの存在もなく、目的とする分子量を有するバンドのみ存在することがわかった。
【0064】
得られたPCR増幅産物を用いて、PNAチップ2によるハイブリダイゼーション実験を実施した。その結果、スポット1、スポット2及びスポット4において蛍光発光が観察され、スポット2ではスポット1及び4より低い輝度で蛍光発光が観察された。また、スポット3及びスポット5では蛍光発光は観察されなかった。これより、センスプライマーとアンチセンスプライマーのモル比を1:10として調製した増幅産物を検体として使用した場合には、PNAプローブを使用して目的遺伝子を良好に検出できることがわかった。
【0065】
比較例1:PCR条件の検討2
実施例3に記載の5’末端側のセンスプライマー(HCV001)と3’末端側のアンチセンスプライマーの5’末端を蛍光色素Cy5で標識したもの(HCV002)の比が1:1となるように調整し、実施例3の条件に従いPT−PCRを実施した。その結果、長さの異なったバンドの存在もなく、目的とする分子量を有するバンドのみ存在することがわかった。
【0066】
このPT−PCR増幅産物を用いて、PNAチップ2によるハイブリダイゼーション実験を実施したが、実施例3ほど効率良く明瞭なスポットは観察できなかった。これは、上記プライマー比1:1のPT−PCR増幅産物は、そのほとんどが2本鎖を形成しているために、PNAとのハイブリ形成が両区に起こりにくいことが示唆された。
【0067】
(iii)ハイブリダイゼーション条件の検討
実施例4:ハイブリダイゼーション液の検討1
ハイブリダイゼーション液は、1%SDSおよび20%DMSOを含む5xSSPEを用いた。PNAチップ2を、ハイブリダイゼーション用チャンバーに固定し、50℃にあらかじめ加温した。次に、実施例3に従い作成されたRT−PCR増幅産物の4μlを、36μlハイブリダイゼーション液に混和し、このPNAチップ2の上に丁寧に載せて50℃のハイブリダイゼーション専用恒温装置に入れて加温した。加温時間は、60分間で行った。ハイブリダイゼーション後のPNAチップ2の洗浄は、EtOH中でハイブリダイゼーション用カバーをはずした後5分間静置し、次いで0.1%SDSを含む1xSSPE中で1分間または5分間静置した。その結果、いずれの条件においても鮮明なスポットを確認することが出来た(図5)。また、上記0.1%SDSを含む1xSSPE中で1分間または5分間攪拌洗浄を行った場合も、鮮明なスポットを確認することが出来た(図5)。
【0068】
比較例2:ハイブリダイゼーション液の検討2
ハイブリダイゼーション液は、1%SDSおよび20%DMF(dimethylformamide)を含む5xSSPEを用いた。しかし、DMFを加えた時点で、ハイブリダイゼーション液が白濁した。DMFの量を10%〜50%まで変化させたが、白濁したままであった。ハイブリダイゼーションをそのまま続行してマイクロアレイ解析を行ったが、全くスポットを確認できなかった。
【0069】
比較例3:ハイブリダイゼーション液の検討3
ハイブリダイゼーション液は、1%SDSおよび20%NMP(N-methylpyroridon)を含む5xSSPEを用いた。しかし、NMPを加えた時点で、ハイブリダイゼーション液が白濁した。NMPの量を10%〜50%まで変化させたが、白濁したままであった。ハイブリダイゼーションをそのまま続行してマイクロアレイ解析を行ったが、全くスポットを確認できなかった。
【0070】
比較例4:ハイブリダイゼーション液の検討4
ハイブリダイゼーション液は、1%SDSおよび50%ホルムアルデヒド含む5xSSPEを用いた。PNAチップ1を、ハイブリダイゼーション用チャンバーに固定し、50℃にあらかじめ加温した。次に、作成されたRT−PCR増幅産物の4μlを、36μlのハイブリダイゼーション液に混和し、このPNAチップ1の上に丁寧に載せて50℃のハイブリダイゼーション専用恒温装置に入れて加温した。加温時間は、60分間で行った。ハイブリダイゼーション後のPNAチップ1の洗浄は、0.1%SDSを含む1xSSPE中でハイブリダイゼーション用カバーをはずしただけのものと、さらに0.1%SDSを含む1xSSPE中で5または10分間攪拌洗浄を行ったものを用いて、洗浄方法及び時間について検討した。
【0071】
その結果、いずれの場合もスポット1においては蛍光発光の確認が出来ず、上流側のスポット3においてのみ蛍光発光が確認された(図6)。また、洗浄を行うことによって、スポットの蛍光発光が薄くなり、PT−PCR増幅産物がはがれていくことが観察された(図6)。このことから、本ハイブリダイゼーション液は不適切であることが分かった。
【0072】
実施例5:洗浄液の検討1
ハイブリダイゼーション液は、1%SDSおよび20%DMSOを含む5xSSPEを用いた。PNAチップ2を、ハイブリダイゼーション用チャンバーに固定し、36℃或いは50℃にあらかじめ加温した。次に、実施例3に従い作成されたRT−PCR増幅産物の4μlを、36μlハイブリダイゼーション液に混和し、このPNAチップの上に丁寧に載せて36℃或いは50℃のハイブリダイゼーション専用恒温装置に入れて加温した。加温時間は、5、15、30、60分間で行った。ハイブリダイゼーション後のPNAチップの洗浄は、EtOH中でハイブリダイゼーション用カバーをはずした後5分間静置し、次いで0.1%SDSを含む1xSSPE中で1分間静置した。また、一部のサンプルではさらに3または5分間、0.1%SDSを含む1xSSPE中での攪拌洗浄を行った。
【0073】
その結果、5分間攪拌することにより洗浄した場合、ハイブリダイゼーション温度が50℃の時のほうが36℃の時よりも蛍光発光強度が強かったことから(図7及び図8)、36℃でのハイブリダイゼーションは予想以上の量のPT−PCR増幅産物がハイブリダイズしていることが予想された。即ち、このことは、ハイブリ時間30分で5分間攪拌まで洗浄した場合、36℃でのスポットの蛍光発光強度は顕著に減少しているのに対して、50℃の場合にはその傾向が少なく標的をしっかりと認識していることからも推測できた。従って、ハイブリ温度は36℃より50℃のほうが有効であると判明した。また、ハイブリ時間は5分間から60分間へと時間を長くするほど、蛍光強度が強くなった。ただし、ハイブリ時間が5分間であっても、ハイブリ温度50℃であって、1分間静置または攪拌により洗浄した場合に、良好な結果を得ることができた。
【0074】
実施例6
ハイブリダイゼーション液は、1%SDSおよび20%DMSOを含む5xSSPEを用いた。PNAチップ2を、ハイブリダイゼーション用チャンバーに固定し、50℃にあらかじめ加温した。次に、実施例3に従い作成されたRT−PCR増幅産物の4μlを、36μlハイブリダイゼーション液に混和し、このPNAチップの上に丁寧に載せて50℃のハイブリダイゼーション専用恒温装置に入れて加温した。加温時間は、60分間で行った。ハイブリダイゼーション後のPNAチップの洗浄は、EtOH中でハイブリダイゼーション用カバーをはずした後5分間静置し、次いで0.1%SDSを含む1xSSPE中で1分間静置した。また、一部のサンプルではさらに3または6分間の0.1%SDSを含む1xSSPE中での攪拌洗浄を行い、洗浄方法及び時間について検討した。
【0075】
その結果、3または6分間の攪拌洗浄のいずれの場合も、スポット1及びスポット4の蛍光発光が明瞭に確認できた。結果を図9に示す。しかし、3分間の攪拌洗浄の場合、スポット2において蛍光発光が観察されたのに対し、6分間の場合にはスポット2の蛍光発光はほとんど消滅していることが判明した。これは6分間の攪拌洗浄が不適切であるということを示すものではないが、スポット2が消滅する直前で攪拌洗浄を止めても、スポット1及び4の蛍光発光に影響を与えないことから、洗浄方法をスポット2の蛍光発光の有無で制御可能であることを示すものである。
【0076】
比較例5
ハイブリダイゼーション液は、1%SDSおよび25%DMSOを含む5xSSPEを用いた。PNAチップ1を、ハイブリダイゼーション用チャンバーに固定し、50℃にあらかじめ加温した。次に、実施例3に従い作成されたRT−PCR増幅産物の4μlを、36μlハイブリダイゼーション液に混和し、このPNAチップ1の上に丁寧に載せて50℃のハイブリダイゼーション専用恒温装置に入れて加温した。加温時間は、60分間で行った。ハイブリダイゼーション後のPNAチップ1の洗浄は、70%イソプロパノール水溶液中でハイブリダイゼーション用カバーをはずした後5分間静置した。場合によっては、5、10分間の0.1%SDSを含む1xSSPE溶液中での攪拌洗浄を行い、洗浄方法及び時間について検討した。
【0077】
その結果、洗浄内容に関わらず、チップ表面の汚れが取れておらず、イソプロパノールの使用は不適切であることがわかった(図10)。
【0078】
比較例6
ハイブリダイゼーション液は、1%SDSおよび10%DMSOを含む5xSSPEを用いた。PNAチップ1を、ハイブリダイゼーション用チャンバーに固定し、50℃にあらかじめ加温した。次に、実施例3に従い作成されたRT−PCR増幅産物の4μlを、36μlハイブリダイゼーション液に混和し、このPNAチップ1の上に丁寧に載せて50℃のハイブリダイゼーション専用恒温装置に入れて加温した。加温時間は、120分間で行った。ハイブリダイゼーション後のPNAチップ1の洗浄は、10%DMSOを含む5xSSPE溶液中でハイブリダイゼーション用カバーをはずした後、5分間攪拌した。場合によっては、さらに5分間の10%DMSOを含む5xSSPE溶液中での攪拌洗浄を行い、洗浄方法及び時間について検討した。
【0079】
その結果、スポットの蛍光発光の検出は可能であったが、スポット1よりもスポット2及びスポット3の蛍光強度が強く、判定する上で不適切であることが判明した。また、洗浄条件の違いに関わらず、同一の洗浄条件においても、スポットの蛍光強度のばらつきがあった。また、10分洗浄後のスポットは明瞭に確認することが困難であり、5分洗浄との時間的な微妙な差が、スポット強度に与える影響がこれだけ鮮明になることから、操作性の厳密さが要求されることが分かった。
【0080】
(iv)DNAチップを用いた目的遺伝子の検出(比較例7)
従来のDNAマイクロアレイを用いたハイブリダイゼーションの条件で実験を開始したところ、ハイブリダイゼーションは2時間で認められることが判明した。しかし、さらなる洗浄条件の検討から、より少ない塩濃度でのハイブリダイゼーション液で反応を行う方が、より結合する力が強いと考えられた。さらに、ハイブリダイゼーション液中のSDS濃度を0.01%から1.0%まで変化させたところ、影響は少ないことが確認できた。ただし、SDSを添加しない場合には、バックグラウンドが汚れてくることが確認できたので、従来通り、1%SDSをハイブリダイゼーション液に用いた。
【0081】
(v)本願発明のPNAチップとDNAチップとの比較(実施例7)
下記に示す検出用PNAプローブに対応した検出用DNAプローブを合成し、同一チップ基板上に貼り付けたPNAチップ3を作製した(図11)。選択した塩基配列は次の通りである。
スポット1(HCVの塩基配列と完全相補的な配列を有する検出用PNAプローブ):TCGCAAGCACCCTATCA(probe 11)(配列番号15)
スポット2(HCVの塩基配列と中心付近で1塩基のミスマッチを有する検出用PNAプローブ、下線部がミスマッチ部位):TCGCAAGACCCTATCA(probe 12)(配列番号16)
スポット3(HCVの塩基配列と末端で1塩基のミスマッチを有する検出用PNAプローブ、下線部がミスマッチ部位):TCGCAAGCACCCTATA(probe 13)(配列番号17)
スポット4(16塩基分5’側上流に位置する、HCVの塩基配列と完全相補的な配列を有する検出用PNAプローブ):CCTATCAGGCAGTACCA(probe 14)(配列番号18)
スポット5(ネガティブコントロールとして使用):ACTGACTGACTGACTGACTG(probe 15)(配列番号19)
スポット6:TCGCAAGCACCCTATCA(probe 16)(配列番号20)
スポット7(スポット6として配置したプローブの塩基配列と中心付近で1塩基のミスマッチを有するDNAプローブ、下線部がミスマッチ部位):TCGCAAGACCCTATCA(probe 17)(配列番号21)
スポット8(スポット6として配置したプローブの塩基配列と末端で1塩基のミスマッチを有するDNAプローブ、下線部がミスマッチ部位):TCGCAAGCACCCTATA(probe 18)(配列番号22)
スポット9(16塩基分5’側上流に位置する、スポット6として配置したプローブの塩基配列と完全相補的な配列を有するDNAプローブ):CCTATCAGGCAGTACCA(probe 19)(配列番号23)
スポット10(ネガティブコントロールとして使用):ACTGACTGACTGACTGACTG(probe 20)(配列番号24)
当該PNAチップ3のスペックを図11に示す。なお、上記スポット1〜10はそれぞれ、図11の丸1〜丸10に相当する。また、各PNAプローブは順にデュプリケートで並べた。
【0082】
ハイブリダイゼーション液は、1%SDSおよび20%DMSOを含む5xSSPEを用いた。上記PNAチップ3を、ハイブリダイゼーション用チャンバーに固定し、50℃にあらかじめ加温した。次に、実施例3に従い作成されたRT−PCR増幅産物の4μlを、36μlハイブリダイゼーション液に混和し、このPNAチップの上に丁寧に載せて50℃のハイブリダイゼーション専用恒温装置に入れて加温した。加温時間は、5〜60分間で行った。ハイブリダイゼーション後のPNAチップの洗浄は、EtOH中でハイブリダイゼーション用カバーをはずした後1分間静置し、次いで0.1%SDSを含む1xSSPE中で1分間静置、さらに3分間の0.1%SDSを含む1xSSPE中での攪拌洗浄を行った。
【0083】
その結果を図12に示す。PNAプローブを配置させたスポットのほうが、DNAプローブを配置させたスポットより、良好な蛍光発光結果が得られた。これより、PNAプローブのほうがDNAプローブよりもハイブリ能力が高いことが判明した。また、ハイブリ時間を変化させた場合も、その傾向は同様であった。
【0084】
(vi)PNAプローブの長さの検討(実施例8)
下記に示す検出用PNAプローブのハイブリダイゼーション時における長さの影響を調べるために、Tm値が55度付近となる17merのPNAプローブ(スポット1〜5に対応)とTm値が35度付近となる12merのPNAプローブ(スポット6〜10に対応)を合成し、同一チップ基板上に貼り付けたPNAチップ4を作製した(図13)。選択した塩基配列は次の通りである。
スポット1:CAGAAAGCGTCTAGCCA(probe 21)(配列番号25)
スポット2(スポット1として配置したプローブの塩基配列と中心付近で1塩基のミスマッチを有する検出用PNAプローブ、下線部がミスマッチ部位):CAGAAAGGTCTAGCCA(probe 22)(配列番号26)
スポット3(スポット1として配置したプローブの塩基配列と末端で2塩基のミスマッチを有する検出用PNAプローブ、下線部がミスマッチ部位):CAAAAGCGTCTACCA(probe 23)(配列番号27)
スポット4(16塩基分5’側上流に位置する、スポット1として配置したプローブの塩基配列と完全相補的な配列を有する検出用PNAプローブ):ATGGCGTTAGTATGAGTGT(probe 24)(配列番号28)
スポット5(ネガティブコントロールとして使用):ACTGACTGACTGACTGACTG(probe 25)(配列番号29)
スポット6:CAGAAAGCGTCT(probe 26)(配列番号30)
スポット7(スポット6として配置したプローブの塩基配列と中心付近で1塩基のミスマッチを有するPNAプローブ、下線部がミスマッチ部位):CAGAAGCGTCT(probe 27)(配列番号31)
スポット8(スポット6として配置したプローブの塩基配列と末端で2塩基のミスマッチを有するPNAプローブ、下線部がミスマッチ部位):CAGAAGCTCT(probe 28)(配列番号32)
スポット9(16塩基分5’側上流に位置する、スポット6として配置したプローブの塩基配列と完全相補的な配列を有するPNAプローブ):GTTAGTATGAGTG(probe 29)(配列番号33)
スポット10(ネガティブコントロールとして使用):ACTGACTGACTGACTGACTG(probe 30)(配列番号34)
当該PNAチップ4のスペックを図13に示す。なお、上記スポット1〜10はそれぞれ、図13の丸1〜丸10に相当する。また、各PNAプローブは順にデュプリケートで並べた。
【0085】
ハイブリダイゼーション液は、1%SDSおよび20%DMSOを含む5xSSPEを用いた。上記PNAチップを、ハイブリダイゼーション用チャンバーに固定し、50℃にあらかじめ加温した。次に、実施例3に従い作成されたRT−PCR増幅産物の4μlを、36μlハイブリダイゼーション液に混和し、このPNAチップの上に丁寧に載せて50℃のハイブリダイゼーション専用恒温装置に入れて加温した。加温時間は、60分間で行った。ハイブリダイゼーション後のPNAチップの洗浄は、EtOH中でハイブリダイゼーション用カバーをはずした後5分間静置し、次いで0.1%SDSを含む1xSSPE中で1分間静置した。一部のサンプルではさらに3分間の0.1%SDSを含む1xSSPE中での攪拌洗浄を行った。
【0086】
その結果を図14に示す。PNAプローブの長さが17merと12merでは、プローブの長さにより各スポットの輝度は異なるものの、いずれの場合も目的遺伝子を検出することができた。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、PNAチップ1のスペックを示す。
【図2】図2は、PNAチップ1を使用したハイブリダイゼーション結果を示す。
【図3】図3は、PNAチップ2のスペックを示す。
【図4】図4は、PNAチップ2を使用したハイブリダイゼーション結果を示す。
【図5】図5は、20重量%のDMSOを含むハイブリダイゼーション液を使用したハイブリダイゼーション結果を示す。
【図6】図6は、50重量%のホルムアルデヒドを含むハイブリダイゼーション液を使用したハイブリダイゼーション結果を示す。
【図7】図7は、50℃でハイブリダイズさせたハイブリダイゼーション結果を示す。
【図8】図8は、36℃でハイブリダイズさせたハイブリダイゼーション結果を示す。
【図9】図9は、0.1%SDSを含む1×SSPEを使用した洗浄条件の検討結果を示す。
【図10】図10は、70重量%のイソプロパノールを洗浄液として使用したハイブリダイゼーション結果を示す。
【図11】図11は、PNAチップ3のスペックを示す。
【図12】図12は、PNAチップとDNAチップの比較結果を示す。
【図13】図13は、PNAチップ4のスペックを示す。
【図14】図14は、PNAチップにおけるPNAプローブの長さの検討結果を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0088】
配列番号1はprimer 1の塩基配列を示す。
配列番号2はprimer 2の塩基配列を示す。
配列番号3はprobe 1の塩基配列を示す。
配列番号4はprobe 2の塩基配列を示す。
配列番号5はprobe 3の塩基配列を示す。
配列番号6はprobe 4の塩基配列を示す。
配列番号7はprobe 5の塩基配列を示す。
配列番号8はprobe 6の塩基配列を示す。
配列番号9はprobe 7の塩基配列を示す。
配列番号10はprobe 8の塩基配列を示す。
配列番号11はprobe 9の塩基配列を示す。
配列番号12はprobe 10の塩基配列を示す。
配列番号13はHCV001 primerの塩基配列を示す。
配列番号14はHCV001 primerの塩基配列を示す。
配列番号15はprobe 11の塩基配列を示す。
配列番号16はprobe 12の塩基配列を示す。
配列番号17はprobe 13の塩基配列を示す。
配列番号18はprobe 14の塩基配列を示す。
配列番号19はprobe 15の塩基配列を示す。
配列番号20はprobe 16の塩基配列を示す。
配列番号21はprobe 17の塩基配列を示す。
配列番号22はprobe 18の塩基配列を示す。
配列番号23はprobe 19の塩基配列を示す。
配列番号24はprobe 20の塩基配列を示す。
配列番号25はprobe 21の塩基配列を示す。
配列番号26はprobe 22の塩基配列を示す。
配列番号27はprobe 23の塩基配列を示す。
配列番号28はprobe 24の塩基配列を示す。
配列番号29はprobe 25の塩基配列を示す。
配列番号30はprobe 26の塩基配列を示す。
配列番号31はprobe 27の塩基配列を示す。
配列番号32はprobe 28の塩基配列を示す。
配列番号33はprobe 29の塩基配列を示す。
配列番号34はprobe 30の塩基配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PNAプローブを利用した検体中の目的DNAまたはRNAの検出方法であって、以下の工程、
(1)DMSOを含むハイブリダイゼーション液中で検体中の目的DNAまたはRNAと、該目的DNAまたはRNAとハイブリダイズできるPNAプローブとを、ハイブリダイズできる条件下でインキュベートする工程、
(2)前記工程(1)の産物を炭素数1〜4の低級アルコールを含む洗浄液で洗浄する工程、及び
(3)前記工程(2)の後にPNAプローブと目的DNAまたはRNAとのハイブリダイズ産物の有無を検出する工程、
を含むことを特徴とする、検出方法。
【請求項2】
前記ハイブリダイゼーション液のDMSOの濃度が約5〜60重量%である、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記洗浄溶液の炭素数1〜4の低級アルコール濃度が50〜100重量%である、請求項1に記載の検出方法。
【請求項4】
目的DNAまたはRNAが、センスプライマーとアンチセンスプライマーを1:4〜100の比で用いて得られた増幅産物である、請求項1に記載の検出方法。
【請求項5】
前記PNAプローブがチップ上に配置されたPNAチップを用いて目的DNAまたはRNAを検出する、請求項1に記載の検出方法。
【請求項6】
前記PNAチップが、少なくとも、目的DNAまたはRNAの塩基配列と完全相補的な配列を有するPNAプローブ、目的DNAまたはRNAの塩基配列とミスマッチな塩基を1つ有するPNAプローブ、及びネガティブコントロールとなるPNAプローブを備えるものである、請求項5に記載の検出方法。
【請求項7】
PNAプローブを利用した検体中の目的DNAまたはRNAの検出用キットであって、以下、
(i)DMSOを含むハイブリダイゼーション液、及び
(ii)炭素数1〜4の低級アルコールを含む洗浄液、
を含むことを特徴とする、キット。
【請求項8】
さらに、1:4〜100の比で使用されるセンスプライマーとアンチセンスプライマーを含む、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
さらに、前記PNAプローブがチップ上に配置されたPNAチップを含む、請求項7に記載のキット。
【請求項10】
PNAプローブとハイブリダイズさせる目的DNAまたはRNAの調製方法であって、目的DNAまたはRNAを、センスプライマーとアンチセンスプライマーを1:4〜100の比で用いてPCRを行うことにより得ることを特徴とする、調製方法。
【請求項11】
PNAプローブとハイブリダイズさせる目的DNAまたはRNAの調製用キットであって、1:4〜100の比で使用されるセンスプライマーとアンチセンスプライマーを含むことを特徴とする、キット。
【請求項12】
目的DNAまたはRNAを検出するためのPNAチップであって、少なくとも、目的DNAまたはRNAの塩基配列と完全相補的な配列を有するPNAプローブ、目的DNAまたはRNAの塩基配列とミスマッチな塩基を1つ有するPNAプローブ、及びネガティブコントロールとなるPNAプローブを備えることを特徴とする、PNAチップ。
【請求項13】
前記目的DNAまたはRNAの塩基配列と完全相補的な配列を有するPNAプローブと、前記目的DNAまたはRNAの塩基配列とミスマッチな塩基を1つ有するPNAプローブと、前記ネガティブコントロールとなるPNAプローブが隣接して配置されているものである、請求項12に記載のPNAチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−142009(P2008−142009A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332662(P2006−332662)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(503280961)株式会社クレディアジャパン (10)
【Fターム(参考)】