説明

PNHII型白血球を検出するための試薬および方法、ならびに血栓障害の危険因子としてのそれらの同定

本開示は、生物学的試料においてPNH II型細胞集団を検出するための方法ならびに患者の血液中のPNH II型細胞のパーセンテージに基づき、患者が血小板減少症または血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを決定するための方法に関する。本開示はまた、この方法において使用するための試薬およびコンジュゲートを特徴とする。例えば、患者が血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを予測するための方法であって、患者からの生物学的試料中の同じ組織型の全白血球に対するPNH II型白血球のパーセンテージを決定すること;および該患者が血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを予測することであって、ここで、PNH II型白血球のパーセンテージが1.2%以上である場合、該患者は血栓症を発症する危険度が増大していることを含む、方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の引用
本願は、2009年11月9日に出願された「Reagents and methods for detecting PNH type II cells」とのタイトルの米国仮特許出願第61/280,897号に対する優先権およびその利益を主張する。米国仮特許出願第61/280,897号の内容全体は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
配列表
本願は、EFS−Webを通して提出され。その全体がここに参考として援用される配列表を含む。2010年11月5日に作成されたそのASCIIコピーは、ALXN150WO1.txtと名付けられており、そのサイズは26,000バイトである。
【0003】
技術分野
本発明の分野は、医学、免疫学、分子生物学およびタンパク質化学である。
【背景技術】
【0004】
背景
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は、中でも特に、造血異常、補体介在性血管内溶血および血栓症の傾向を特徴とするまれな消耗性疾患である。例えば、非特許文献1および非特許文献2参照。PNHは、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー生合成の初期段階に必要な酵素をコードする、X連鎖性ホスファチジルイノシトールグリカン相補性クラスA(PIGA)遺伝子における体細胞突然変異によって引き起こされる。非特許文献3および非特許文献4参照。GPIアンカーは、多くのタンパク質を造血細胞の表面に付着させる。これらのいわゆるGPIアンカー型タンパク質は、中でも特に、CD55(DAF)およびCD59などの補体調節タンパク質を包含する。PIGA遺伝子に起こる突然変異の種類に依存して、GPIアンカー生合成の部分的または完全な喪失が生じることがあり、これは細胞表面でのGPIアンカー型タンパク質(例えば、GPIアンカー型CD55およびCD59)の存在の部分的または完全な喪失に対応する。非特許文献5参照。赤血球(RBC)の表面に補体調節タンパク質が部分的にまたは完全に存在しないことは、罹患患者において補体介在性溶解およびPNHの付随症状に対するこれらの細胞の感受性上昇を生じさせる。非特許文献6および非特許文献7参照。
【0005】
伝統的に、PNHの診断およびPNH患者のモニタリングは、フローサイトメトリを使用したRBCおよび顆粒球の表面のCD55およびCD59発現の分析を含んだ。非特許文献8。最近開発されたPNHの診断方法は、造血細胞の表面のGPIアンカーに結合する、組換え非溶解型の細菌タンパク質アエロリシン(aerolysin)を使用している。BuckleyとBrodskyに対する特許文献1参照。伝統的および新規方法はどちらも、医師が、PNH患者からのRBCまたは白血球を3つの群の1つに分類することを可能にした:GPIアンカー型タンパク質の正常またはほぼ正常な細胞表面発現を有するI型細胞;GPIアンカー型タンパク質の細胞表面発現が皆無または完全に不在であるPNH III型細胞;およびGPIアンカー型タンパク質の中間的なレベルの細胞表面発現を有するPNH II型細胞。非特許文献9。白血球系統の中でII型細胞の特性づけは、これらの細胞を正常なI型白血球と区別することの困難さのために実施されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,593,095号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】RosseとNishimura(2003)Int J Hematol 77(2):121−124
【非特許文献2】Brodsky(2008)Blood Rev 22(2):65−74
【非特許文献3】Miyataら(1993)Science 259:1318−1320
【非特許文献4】Besslerら(1994)EMBO J 13:110−117
【非特許文献5】Rosse(1997)Medicine 76:63−93
【非特許文献6】Nicholson−Wellerら(1983)Proc Natl Acad Sci USA 80:5066−5070
【非特許文献7】Yamashinaら(1990)N Engl J Med 323:1184−1189
【非特許文献8】Sutherlandら(2009)Am J Clin Pathol 132:564−572
【非特許文献9】Brodskyら(2000)Am J Clin Pathol 114:459−466
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
概要
本開示は、少なくとも一部には、少なくとも1.2%のPNH II型白血球集団または少なくとも0.02%のPNH II型赤血球集団を有する患者は、PNH II型細胞集団を有さない、または白血球および赤血球についてそれぞれ1.2%未満もしくは0.02%未満であるPNH II型細胞集団を有する患者と比較して、血小板減少症を有する可能性がより高いという本発明者らによる発見に基づく。血小板破壊から生じる血小板減少症を有する患者は、血栓症を発症する可能性がはるかに高く、PNH患者の中で、血栓症は主たる死亡原因である。したがって、本開示は、患者におけるPNH II型細胞の相対的存在率に基づき、患者が血小板減少症および/または血栓症についての危険度がより高いかどうかを決定するための方法を提供する。PNH II型細胞と血小板減少症の間の関係の同定は、一部には、PNH II型細胞を検出するための改善された方法の開発によって支援された。
【0009】
したがって、本開示はまた、例えば、患者からの生物学的試料において、PNH II型細胞(例えば、II型白血球および/またはII型赤血球)を検出するために有用な試薬および方法を提供する。本開示はまた、患者におけるPNH II型細胞の存在または量に基づいて患者を診断し、処置するための方法を提供する。例えば、本開示は、PNHを有することが疑われる患者からの生物学的試料中で検出されたPNH II型白血球のパーセンテージに基づいて患者における血小板減少症についての危険度を決定するための方法を特徴とする。本明細書で述べる診断方法は、先行技術の方法に比べて多くの利点を有する。例えば、本明細書で述べる方法は、PNH II型白血球をI型細胞からより有効に分離することができ、これは、生物学的試料中のII型細胞のパーセンテージのより正確で厳密な測定、ならびにII型およびIII型細胞の両方を含む、全PNHクローンのサイズのより正確な評価を可能にする。加えて、II型RBC上のGPI発現に基づくPNH診断方法は、赤血球の高い代謝回転(補体介在性溶解に対する上昇した感受性によるPNH III型RBCの固有のより短い生存期間)およびPNH患者が受ける頻繁なRBC輸血のために、信頼できないことがある。それゆえ、本明細書で述べる診断方法は、医師が生物学的試料中のII型白血球のパーセンテージを、したがって試料中の全異常クローンのサイズを正確かつ厳密に定量することを可能にするだけでなく、前記方法はまた、PNH II型RBCの比較的不安定な集団を検出することに基づく先行技術の方法よりも信頼性がある。
【0010】
1つの態様では、本開示は、患者が血栓症についての危険度が増大しているかどうかを予測するための方法を特徴とする。前記方法は、患者からの生物学的試料中の同じ組織型(同じ系統)の細胞の総数に対するPNH II型細胞のパーセンテージに基づき、患者が血栓症について危険度が増大しているかどうかを決定することを含み、前記パーセンテージは、患者が血栓症についての危険度が増大していることを示す。
【0011】
別の態様では、本開示は、患者が血小板減少症である可能性が高いかどうかを予測するための方法を特徴とする。前記方法は、患者からの生物学的試料中の同じ組織型(同じ系統)の細胞の総数に対するPNH II型細胞(例えば、II型赤血球および/またはII型白血球)のパーセンテージに基づき、患者が血小板減少症である可能性が高いかどうかを決定することを含み、前記パーセンテージは、患者が血小板減少症である可能性が高いことを示す。
【0012】
別の態様では、本開示は、患者が血栓症についての危険度が増大しているかどうかを決定するための方法を特徴とする。前記方法は、患者からの生物学的試料中の同じ組織型(同じ系統)の全細胞に対するPNH II型細胞のパーセンテージに関する情報を提供する(または受け取る)こと;および患者が血栓症についての危険度が増大しているかどうかを決定することであって、生物学的試料中の同じ組織型の細胞の総数に対するPNH II型細胞のパーセンテージは、患者が血栓症についての危険度が増大していることを示すことを含む。
【0013】
別の態様では、本開示は、患者が血栓症を発症する危険があるかどうかを予測するための方法を特徴とし、前記方法は、患者からの生物学的試料中のPNH II型細胞のパーセンテージを決定すること;および患者が血栓症についての危険度が増大しているかどうかの予測を提供することであって、生物学的試料中の同じ組織型の細胞の総数に対するPNH II型細胞のパーセンテージは、患者が血栓症についての危険度が増大していることを示すことを含む。
【0014】
一部の実施形態では、PNH II型細胞は白血球(例えば、顆粒球または単球)である。一部の実施形態では、PNH II型細胞は赤血球である。
【0015】
本明細書で述べる方法のいずれかの一部の実施形態では、1.2%以上のPNH II型白血球のパーセンテージと0.02%以上のPNH II型赤血球のパーセンテージの組合せは、患者が血栓症を発症する危険度が増大しているかまたは血小板減少症である可能性が高いことを予測する。
【0016】
本明細書で述べる方法のいずれかの一部の実施形態では、PNH II型白血球のパーセンテージが少なくとも1.2%(例えば、少なくとも1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、65.3または70%以上)である場合、患者は血栓症を発症する危険度が増大している(および/または血小板減少症である可能性が高い)。本明細書で述べる方法のいずれかの一部の実施形態では、PNH II型赤血球のパーセンテージが少なくとも0.02%(例えば、少なくとも0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、71、71.3または75%以上)である場合、患者は血栓症を発症する危険度が増大している(および/または血小板減少症である可能性が高い)。
【0017】
本明細書で述べる方法のいずれかの一部の実施形態では、1.2%〜65%(1.2%および65%を含む)であるPNH II型白血球集団は、患者が血栓症についての危険度が増大している(および/または血小板減少症である可能性が高い)ことを示す。一部の実施形態では、5%以上であるPNH II型白血球集団は、患者が血栓症についての危険度が増大している(および/または血小板減少症である可能性が高い)ことを示す。一部の実施形態では、10%、20%、さらには50%以上であるPNH II型白血球集団は、患者が血栓症についての危険度が増大している(および/または血小板減少症である可能性が高い)ことを示す。
【0018】
一部の実施形態では、本明細書で述べる方法のいずれかは、患者から生物学的試料を得ることをさらに含み得る。生物学的試料は、例えば全血試料であり得る。
【0019】
別の態様では、本開示は、患者が血栓症を発症する危険度が増大している(および/または血小板減少症である可能性が高い)かどうかを予測するための方法を特徴とする。前記方法は、患者からの生物学的試料中の同じ組織型の全白血球に対するII型白血球のパーセンテージを決定すること;および患者が血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを予測することであって、II型白血球のパーセンテージが1.2%以上(例えば、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、65.3または70%以上)である場合、患者は血栓症を発症する危険度が増大している(および/または血小板減少症である可能性が高い)ことを含む。
【0020】
別の態様では、本開示は、患者が血栓症を発症する危険度が増大している(および/または血小板減少症である可能性が高い)かどうかを予測するための方法を特徴とする。前記方法は、患者からの生物学的試料中の同じ組織型の全赤血球に対するII型赤血球のパーセンテージを決定すること;および患者が血栓症を発症する危険度が増大している(および/または血小板減少症である可能性が高い)かどうかを予測することであって、II型赤血球のパーセンテージが0.02%以上(例えば、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、71、71.3または75%以上)である場合、患者は血栓症を発症する危険度が増大している(および/または血小板減少症である可能性が増大している)ことを含む。
【0021】
さらに別の態様では、本開示は、患者のために療法を選択するための方法を特徴とし、前記方法は、1.2%以上(例えば、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、65.3もしくは70%以上)のPNH II型白血球集団および/または0.02%以上(例えば、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、71、71.3もしくは75%以上)のPNH II型赤血球集団を有すると決定された患者のために抗血栓症療法および抗血小板減少症療法の一方または両方を選択することを含む。
【0022】
別の態様では、本開示は患者を処置するための方法を特徴とする。前記方法は、患者が1.2%以上(例えば、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、65.3もしくは70%以上)のPNH II型白血球集団および/または0.02%以上(例えば、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、71、71.3もしくは75%以上)のPNH II型赤血球集団を有すると決定された場合、抗血栓症療法および抗血小板減少症療法の一方または両方を、処置を必要とする患者に投与することを含む。
【0023】
本明細書で述べる方法のいずれかの一部の実施形態では、抗血小板減少症療法は、例えば血小板輸血であり得る。
【0024】
さらに別の態様では、本開示は、患者が血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを決定するためのコンピュータベースの方法を特徴とし、前記方法は、PNH患者の医学的プロフィールを含むデータを受け取ること、前記プロフィールは、患者からの生物学的試料中の同じ組織型(同じ系統)の全白血球に対するPNH II型白血球のパーセンテージに関する情報を含むこと;および患者が血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを決定するための情報を含むデータの少なくとも一部を処理することであって、II型白血球のパーセンテージが1.2%以上(例えば、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、65.3または70%以上)である場合、患者は血栓症を発症する危険度が増大していることを含む。
【0025】
さらに別の態様では、本開示は、患者が血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを決定するためのコンピュータベースの方法を特徴とし、前記方法は、PNH患者の医学的プロフィールを含むデータを受け取ること、前記プロフィールは、患者からの生物学的試料中の同じ組織型(同じ系統)の全赤血球に対するPNH II型赤血球のパーセンテージに関する情報を含むこと;および患者が血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを決定するための情報を含むデータの少なくとも一部を処理することであって、II型赤血球のパーセンテージが0.02%以上(例えば、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、71、71.3または75%以上)である場合、患者は血栓症を発症する危険度が増大していることを含む。
【0026】
別の態様では、本開示は、患者が血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを決定するためのコンピュータベースの方法を特徴とし、前記方法は、患者からの生物学的試料中の同じ組織型(同じ系統)の全白血球に対するPNH II型白血球のパーセンテージに関する情報を提供すること;前記情報をコンピュータに入力すること;およびコンピュータと入力情報を使用して、患者が血栓症についての危険度が増大しているかどうかを示すパラメータを計算することであって、II型白血球のパーセンテージが1.2%以上(例えば、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、65.3または70%以上)である場合、患者は血栓症を発症する危険度が増大していることを含む。
【0027】
別の態様では、本開示は、患者が血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを決定するためのコンピュータベースの方法を特徴とし、前記方法は、患者からの生物学的試料中の同じ組織型の全白血球に対するPNH II型白血球のパーセンテージに関する情報を提供すること;前記情報をコンピュータに入力すること;およびコンピュータと入力情報を使用して、患者が血栓症についての危険度が増大しているかどうかを示すパラメータを計算することであって、II型白血球のパーセンテージが0.02%以上(例えば、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、71、71.3または75%以上)である場合、患者は血栓症を発症する危険度が増大している、ことを含む。
【0028】
一部の実施形態では、本明細書で述べるコンピュータベースの方法のいずれかは、コンピュータ読取り可能媒体にパラメータを保存することおよび/またはパラメータを出力することをさらに含み得る。
【0029】
一部の実施形態では、本明細書で述べる方法のいずれかは、患者が血栓症を発症する危険度が増大している場合、血栓症の少なくとも1つの症状の発症に関して患者をモニタリングする段階を含み得る。一部の実施形態では、本明細書で述べる方法のいずれかは、患者が血栓症を発症する危険度が増大している場合、患者のための抗血栓症療法を選択することを含み得る。一部の実施形態では、本明細書で述べる方法のいずれかは、患者が血栓症を発症する危険度が増大している場合、患者に抗血栓症療法を投与することを含み得る。抗血栓症療法は、例えば抗凝固薬または血栓溶解剤であり得る。抗凝固薬は、例えばクマジン、ヘパリンまたはそれらの誘導体であり得る。血栓溶解剤は、例えば組織プラスミノーゲン活性化因子、ストレプトキナーゼまたはウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子であり得る。
【0030】
本明細書で述べる方法のいずれかの一部の実施形態では、生物学的試料中のPNH II型白血球のパーセンテージを決定するために非溶解型のアエロリシンタンパク質を使用し得る。
【0031】
一部の実施形態では、本明細書で述べる方法のいずれかは、生物学的試料中のPNH II型細胞の決定されたパーセンテージを記録することを含み得る。一部の実施形態では、本明細書で述べる方法のいずれかは、患者が血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかまたは患者が血栓症を発症する危険度が高くないかどうかの予測を記録することを含み得る。前記記録は、コンピュータ読取り可能媒体においてであり得る。記録はまた、例えば有形的表現媒体(例えば患者の身体記録またはカルテ)であり得る。
【0032】
さらに別の態様では、本開示は、白血球を分類するための方法を特徴とする。前記方法は、複数の白血球を、(i)GPIまたは(ii)GPIアンカー型タンパク質に結合する試薬と接触させること;および前記白血球に結合した試薬の量に基づき白血球の1以上をPNH II型細胞として分類することを含む。
【0033】
別の態様では、本開示は、白血球を分類するための方法を特徴とし、前記方法は、複数の白血球を、(i)GPIまたは(ii)GPIアンカー型タンパク質に結合する試薬と接触させること;前記白血球に結合した試薬の量に基づき、試薬と接触させた白血球の少なくとも一部を調べること;および調べた細胞の1以上をPNH II型細胞として分類することを含む。
【0034】
別の態様では、本開示は、種々の白血球集団を区別するための方法を特徴とする。前記方法は、複数の白血球を、(i)GPIまたは(ii)GPIアンカー型タンパク質に結合する試薬と接触させること;ならびに前記白血球に結合した試薬の量に基づいて複数のうちの少なくとも一部の白血球を他の白血球から区別し、複数の白血球中の同じ組織型の全白血球に対するPNH II型白血球のパーセンテージを決定することを可能にするために、PNH II型白血球が、存在する場合、同じ組織型(同じ系統)のI型白血球およびPNH III型細胞から十分に区別されることを含む。前記方法はまた、PNH II型白血球のパーセンテージを決定することを含み得る。
【0035】
さらに別の態様では、本開示は、試料中のPNH II型白血球のパーセンテージを決定するための方法を特徴とし、前記方法は、白血球に結合した試薬の量に基づいて、試薬と接触させた複数の白血球を調べ、その場合、試薬は(i)GPIまたは(ii)GPIアンカー型タンパク質に結合し、調べることは、複数の白血球中の同じ組織型の全白血球に対するPNH II型白血球のパーセンテージを決定することを可能にするために、PNH II型白血球を、存在する場合、同じ組織型のI型白血球およびPNH III型細胞から十分に区別すること;ならびにPNH II型白血球のパーセンテージを決定することを含む。
【0036】
本明細書で述べる方法のいずれかの一部の実施形態では、複数の白血球を、GPIに結合する試薬およびGPI連結タンパク質に結合する試薬と接触させる。
【0037】
本明細書で述べる方法のいずれかの一部の実施形態では、白血球を区別することまたは調べること(および/またはPNH II型白血球のパーセンテージの決定)は、フローサイトメトリを含む。
【0038】
本明細書で述べる方法のいずれかの一部の実施形態では、調べる複数の白血球は、PNHを有する、PNHを有することが疑われる、またはPNHを発症する危険性がある患者から入手する。一部の実施形態では、患者は、PNH II型赤血球のパーセンテージが以前に決定されているが、疑わしいおよび/または不確定であった患者である。
【0039】
一部の実施形態では、本明細書で述べる方法のいずれかは、PNH II型白血球のパーセンテージを記録することをさらに含み得る。記録は、コンピュータ読取り可能媒体または有形的表現媒体(例えば患者のカルテまたは記録)においてであり得る。
【0040】
本明細書で述べる方法のいずれかの一部の実施形態では、試薬はヒトGPI部分に結合し得る。試薬は、例えば抗体もしくはその抗原結合フラグメント、またはアエロリシンタンパク質であり得る。アエロリシンタンパク質は、例えば、野生型のアエロリシンタンパク質と比較して非溶解性であるまたは実質的に非溶解性であるバリアント型のアエロリシンタンパク質であり得る。非溶解性または実質的に非溶解性のアエロリシンタンパク質は、253位のトレオニンがシステインで置換され、および300位のアラニンがシステインで置換されている、配列番号2または7に示すアミノ酸配列を含み得る。
【0041】
本明細書で述べる方法のいずれかの一部の実施形態では、試薬はGPIアンカー型タンパク質に結合し得る。例えば、試薬は、例えばGPIアンカー型タンパク質に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントであり得る。GPIアンカー型タンパク質は、例えばアルカリホスファターゼ、5’ヌクレオチドアーゼ(5’nucleotidease)、アセチルコリンエステラーゼ、ジペプチダーゼ、LFA−3、NCAM、PH−20、CD55、CD59、Thy−1、Qa−2、CD14、CD33、CD16(Fcγ受容体III型)、癌胎児性抗原(CEA)、CD24、CD66b、CD87、CD48、CD52または当分野で公知のおよび/または本明細書で述べる任意の他のGPIアンカー型タンパク質であり得る。
【0042】
一部の実施形態では、1.2%以上のPNH II型白血球集団または0.02%以上のPNH II型赤血球集団を有すると決定された患者は、PNHを有すると診断され得る。一部の実施形態では、PNHを有すると診断された患者、または1.2%以上のPNH II型白血球集団または0.02%以上のPNH II型赤血球集団を有すると決定される、以前に診断されたPNH患者は、エクリズマブなどの、しかしこれに限定されない補体阻害剤を処方され得るおよび/または前記補体阻害剤で処置され得る。
【0043】
さらに別の態様では、本開示は、ヒトGPI部分に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを特徴とする。抗体またはその抗原結合フラグメントは、例えば、組換え抗体、ダイアボディ、キメラ化またはキメラ抗体、脱免疫ヒト抗体、完全ヒト抗体、一本鎖抗体、Fvフラグメント、Fdフラグメント、Fabフラグメント、Fab’フラグメントおよびF(ab’)フラグメントであり得る。
【0044】
特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術および学術用語は、本開示が関連する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾の場合は、定義を含む本書類が支配する。好ましい方法および材料を以下で述べるが、本明細書で述べるものに類似するまたは等価の方法および材料も、本明細書で開示される方法および組成物の実施または試験において使用できる。本明細書で言及されるすべての出版物、特許出願、特許および他の参考文献は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0045】
本開示の他の特徴および利点、例えば被験体において血小板減少症または血栓症の危険度を決定するための方法は、以下の説明、実施例から、および特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、Alexa Fluor(登録商標)488と複合した非溶解型アエロリシンおよびフィコエリトリン(PE)に複合したCD24に結合する抗体の両方を含む溶液と共にインキュベートしたヒト末梢血顆粒球の集団を示す2色のドットプロットである。非溶解性アエロリシンはGPIアンカーに特異的に結合し、それゆえ任意のGPIアンカー型タンパク質を発現する細胞はこの蛍光タンパク質で標識される。CD24は顆粒球上で発現されるGPI連結タンパク質であり、そのためCD24を発現する細胞は、抗CD24抗体および非溶解性アエロリシンの両方によって結合される。X軸は、細胞に結合したアエロリシンコンジュゲートから生成される検出可能なシグナルの対数強度を表し、Y軸は、細胞に結合した抗CD24抗体コンジュゲートから生成される検出可能なシグナルの対数強度を表す。顆粒球の3つの集団がこの分析によって明らかにされる:GPI連結タンパク質を有さず、したがって抗CD24抗体および非溶解性アエロリシンのどちらでも標識されないと思われる、III型細胞;GPIアンカーを欠く細胞と比較して高レベルのGPI連結タンパク質を発現する、I型顆粒球;および中間的なレベルのGPI連結タンパク質を発現し、したがって正常(I型)顆粒球で見られるよりも低いレベルで抗CD24および非溶解性アエロリシンの両方で標識される、II型顆粒球。
【図2】図2は、PNHを有する患者の血液中の絶対血小板数対PNH II型顆粒球のパーセンテージを示す散布図である。Y軸は、1μLの患者血液(×10−3)中の血小板数を表し、X軸は、全顆粒球集団内のPNH II型顆粒球のパーセンテージを表す。散布図の左半分は、検出可能なPNH II型顆粒球集団を有さないPNH患者(N=141)において認められた血小板数の分布である。散布図の右半分は、検出可能なPNH II型顆粒球集団を有するPNH患者(N=19)において認められた血小板数の分布である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
詳細な説明
本開示は、中でも特に、患者がPNH II型細胞集団を有するかどうかならびに/または血小板減少症および/もしくは血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを決定するために有用な種々の診断および治療適用を特徴とする。本開示はまた、前記方法において使用できる試薬を特徴とする。決して限定を意図するものではないが、例示的な試薬、コンジュゲートおよび前記のいずれかを使用するための方法を以下で詳述し、実施例において例証する。
【0048】
試薬
本開示は、本明細書で述べる診断および治療方法において有用な多くの試薬を特徴とする。一部の実施形態では、試薬は、多くの細胞表面タンパク質を細胞膜につなぎとめる、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)部分に結合する。GPI部分は一般に、エタノールアミン−HPO−6Manα1−2Manα1−6Manα1−4GlcNHl−6ミオイノシトール−1HPO−ジアシルグリセロール(またはアルキルアシルグリセロールまたはセラミド)のコアを含む。例えば、PaulickとBertozzi(2008)Biochemistry 47(27):6991−7000参照。しかし、このコア構造の多くの変形が報告されている。例えば、グリカンコアは、ホスホエタノールアミン、マンノース、ガラクトース、シアル酸または他の糖類などの、しかしこれらに限定されない側鎖で修飾され得る。同上。
【0049】
一部の実施形態では、試薬はアエロリシンタンパク質、例えば、非溶解性アエロリシンタンパク質であり得る。アエロリシンは、Aeromonas hydrophilaおよびAeromonas salmonicidaなどの、しかしこれらに限定されない毒性Aeromonas種によって発現されるチャネル形成細胞溶解タンパク質である。アエロリシンは、C末端ペプチドのタンパク質分解除去によって活性形態に変換される(活性化される)52kDaの前駆体として細菌細胞から分泌される。アエロリシン前駆体は、宿主プロテアーゼならびにアエロリシン発現細菌により分泌されるプロテアーゼによって活性化され得る。細胞に結合すると、アエロリシンはオリゴマー化し、細胞内でチャネルを生成して、最終的に細胞を溶解する(HowardとBuckley(1985)J Bacteriol 163:336−340)。
【0050】
Aeromonasファミリーの様々な成員の各々によって産生されるアエロリシンポリペプチドのアミノ酸配列は高度に保存されている。したがって、アエロリシンポリペプチドは、本明細書で使用される場合、A.hydrophila、A.caviae、A.veronii(生物型sobria)、A veronii(生物型veronii)、A.jandaei、A.salmonicida、およびA.schubertiiなどの、しかしこれらに限定されないAeromonasの任意の種に由来し得る。
【0051】
一部の実施形態では、アエロリシンポリペプチドはA.hydrophilaまたはA.salmonicidaに由来する。一部の実施形態では、アエロリシンポリペプチドは24アミノ酸のシグナルペプチドを含むプロフォームである。一部の実施形態では、プロフォームアエロリシンポリペプチドは、配列番号1または配列番号6に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドを有し得るまたは前記ポリペプチドで構成され得る。
【0052】
一部の実施形態では、アエロリシンポリペプチドは、シグナル配列が除去された形態のタンパク質である。例えば、アエロリシンポリペプチドは、配列番号2または配列番号7に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドを有し得るまたは前記ポリペプチドで構成され得る。
【0053】
一部の実施形態では、アエロリシンポリペプチドは活性形態のタンパク質である。例えば、アエロリシンポリペプチドは、配列番号3に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドを有し得るまたは前記ポリペプチドで構成され得る。
【0054】
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は交換可能に使用され、長さまたは翻訳後修飾に関わらず、アミノ酸の任意のペプチド連結鎖を意味する。本明細書で述べるアエロリシンポリペプチドは、野生型タンパク質を含み得るもしくは野生型タンパク質であり得るか、または50以下(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、15、20、25、30、35、40または50以下)の保存的アミノ酸置換を有する野生型ポリペプチドの変異体であり得る。保存的置換は、典型的には以下の群内での置換を含む:グリシンおよびアラニン;バリン、イソロイシンおよびロイシン;アスパラギン酸およびグルタミン酸;アスパラギン、グルタミン、セリンおよびトレオニン;リシン、ヒスチジンおよびアルギニン;ならびにフェニルアラニンおよびチロシン。
【0055】
本明細書で述べるアエロリシンポリペプチドはまた、完全長のプロフォームポリペプチドより短いが、GPI部分に結合する活性ポリペプチドの能力の少なくとも10%(例えば、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%または100%以上)を保持する、ポリペプチドの「GPI結合フラグメント」を含む。アエロリシンポリペプチドのGPI結合フラグメントは、タンパク質の末端ならびに内部欠失変異体を含む。欠失変異体は、(2以上のアミノ酸の)1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20のアミノ酸セグメントまたは連続しない単一アミノ酸を欠如し得る。GPI結合フラグメントは、少なくとも40(例えば、少なくとも41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、250、300または325以上)アミノ酸残基長(例えば、配列番号1〜3の少なくとも40の連続するアミノ酸残基)であり得る。一部の実施形態では、アエロリシンポリペプチドのGPI結合フラグメントは、400未満(例えば、350、325、300、275、250、225、200、190、180、170、160、150、140、130、120、110、100、95、90、85、80、75、60、50、49、48、47、46、45、44、43、42、41または40未満)のアミノ酸残基長(例えば、配列番号1〜3の400未満の連続するアミノ酸残基)である。一部の実施形態では、アエロリシンポリペプチドのGPI結合フラグメントは、少なくとも40であるが400未満のアミノ残基長である。
【0056】
一部の実施形態では、アエロリシンポリペプチドのGPI結合フラグメントは、以下のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含み得るまたは前記ポリペプチドで構成され得る:
【0057】
【化1】

一部の実施形態では、アエロリシンポリペプチドのGPI結合フラグメントは、以下のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含み得るまたは前記ポリペプチドで構成され得る:
【0058】
【化2】

一部の実施形態では、アエロリシンポリペプチドは、配列番号1〜3、6または7のいずれか1つに示すアミノ酸配列を有するアエロリシン配列に70%以上(例えば、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%)同一であるアミノ酸配列を有し得る(下記参照)。
【0059】
アミノ酸配列同一性パーセント(%)は、配列を整列し、必要に応じてギャップを導入して、最大の配列同一性パーセントを達成した後の、参照配列中のアミノ酸に同一である候補配列中のアミノ酸のパーセンテージと定義される。配列同一性パーセントを決定するためのアラインメントは、当分野の技術範囲内の様々な方法で、例えば、BLAST、BLAST−2、ALIGN、ALIGN−2またはMegalign(DNASTAR)ソフトウエアなどの公的に利用可能なコンピュータソフトウエアを使用して達成され得る。比較する配列の全長にわたって最大アラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータは、公知の方法によって決定され得る。
【0060】
意図される適用に依存して、一部の実施形態では、細胞を溶解する能力を欠くバリアント型アエロリシンポリペプチドを使用することが好ましいと考えられる。そのようなバリアント型のアエロリシンポリペプチドは当分野において公知であり、例えば、Brodskyら(2000)Am J Clin Pathol 114:459−466に記載されている。一部の実施形態では、非溶解性のバリアント型アエロリシンは、132位のヒスチジンがアスパラギンで置換されている(His132Asn);202位のグリシンがシステインである;253位のトレオニンがシステインであり、および300位のアラニンがシステインである;ならびに225位のトレオニンがグリシンである、のうちの1つ以上である、配列番号2または配列番号7に示すアミノ酸配列を含むまたは前記アミノ酸配列からなる。1つの例示的な非溶解性バリアント型のアエロリシンは、253位のトレオニンがシステインであり、および300位のアラニンがシステインである、配列番号2または7に示すアミノ酸配列を含む。上述したように、バリアント型は、GPI部分に結合する能力を保持する。
【0061】
一部の実施形態では、バリアント型アエロリシンポリペプチドは、標的細胞を溶解する非バリアント型の対応するアエロリシンポリペプチドの能力の10%未満(例えば、9、8、7、6、5、4、3、2または1%未満)を有する。一部の実施形態では、バリアント型アエロリシンポリペプチドは検出可能な細胞溶解活性を有さない。
【0062】
バリアント型アエロリシンポリペプチドがGPI部分に結合するかどうかを決定するための方法は当分野において公知であり、実施例に例示されている。例えば、バリアント型アエロリシンポリペプチドと細胞表面のGPI部分との結合を検出するための細胞ベースの方法は、フローサイトメトリ技術および検出可能に標識された(例えばフルオロフォア標識された)バリアント型アエロリシンポリペプチドを使用して決定され得る。例えば、Hongら(2002)EMBO J 21(19):5047−5056参照。
【0063】
同様に、アエロリシンポリペプチドまたはそのバリアント型の細胞溶解活性を検出するおよび/または定量するための方法も当分野において公知である。例えば、バリアント型アエロリシンポリペプチドの溶血活性は、バリアント型ポリペプチドを正常ヒト赤血球に接触させ、赤血球から放出されるヘモグロビンの量を測定することによって決定され得る。例えば、HowardとBuckley(1982)Biochemistry 21(7):1662−1667;AvigadとBernheimer(1976)Infection and Immunity 13(5):1378−1381;GarlandとBuckley(1988)Infection and Immunity 56(5):1249−1253;およびBernheimerとAvigard(1974)Infection and Immunity 9:1016−1021参照。非バリアント型の対応するポリペプチドが有する細胞溶解活性の量と比較して、バリアント型による細胞溶解活性の低下した量または細胞溶解活性の不在は、バリアント型ポリペプチドが低下した細胞溶解活性を有するかまたは細胞溶解活性を有さないことの指標である。
【0064】
アエロリシンポリペプチドを得るまたは本明細書で述べるポリペプチドの変異体を生産するための方法は、分子生物学の分野において公知であり、実施例に例示されている。例えば、Sambrookら(1989)“Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition,”Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.およびAusubelら(1992)“Current Protocols in Molecular Biology,”Greene Publishing Associates参照。アエロリシンポリペプチドをコードする鋳型DNAは、標準的な方法(例えばSambrookら(1989)、前出参照)を用いて本明細書で述べるAeromonas種のいずれかから入手し得る。例えば、Howardらは、Aeromonas hydrophilaからのアエロリシンポリペプチドをコードする核酸配列の単離および特性づけを述べている(Howardら(1987)J Bacteriol 169(6):2869−2871)。Aeromonas salmonicidaから単離されたアエロリシンポリペプチドは、Buckley(1990)Biochem.Cell Biol.68:221−224およびWongら(1989)J Bacteriol.171:2523−2527に述べられている。
【0065】
一部の実施形態では、アエロリシンポリペプチドは、内部または末端(カルボキシまたはアミノ末端)の無関係なまたは異種アミノ酸配列(例えば他のタンパク質に由来する配列またはいかなる天然タンパク質にも対応しない合成配列)を含み得る。配列は、例えば抗原性標識(例えば、FLAG、ポリヒスチジン、赤血球凝集素(HA)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)またはマルトース結合タンパク質(MBP))であり得る。異種配列はまた、診断または検出マーカーとして有用なタンパク質、例えばルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)を含み得る。
【0066】
例示的なアエロリシンポリペプチドならびに前記ポリペプチドを作製し、精製するための方法は、その開示の全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許仮出願第61/200,655号に述べられている。
【0067】
一部の実施形態では、試薬は、GPI部分に結合する抗体であり得る。非ヒトGPI部分に結合する抗体が同定され、単離されている。例えば、Naikら(2006)Infection and Immunity 74(2):1412(Plasmodium falciparumのGPI部分に結合する天然抗体の単離)参照。本明細書で詳細に述べるように、ヒトGPI部分に結合する抗体を作製することは十分に当業者の能力の範囲内である。
【0068】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、全長または無傷抗体分子(例えば、IgM、IgG(IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を含む)、IgA、IgDもしくはIgE)またはその任意の抗原結合フラグメントを指す。抗体という用語は、例えば、キメラ化またはキメラ抗体、ヒト化抗体、脱免疫抗体および完全ヒト抗体を含む。抗体の抗原結合フラグメントは、例えば、一本鎖抗体、一本鎖Fvフラグメント(scFv)、Fdフラグメント、Fabフラグメント、Fab’フラグメントまたはF(ab’)フラグメントを含む。scFvフラグメントは、scFvが由来する抗体の重鎖および軽鎖可変領域の両方を含むポリペプチド一本鎖である。加えて、細胞内抗体、ミニボディ、トリアボディおよびダイアボディ(例えば、その各々の開示の全体が参照により本明細書に組み込まれる、Todorovskaら(2001)J Immunol Methods 248(1):47−66;HudsonとKortt(1999)J Immunol Methods 231(1):177−189;Poljak(1994)Structure 2(12):1121−1123;RondonとMarasco(1997)Annual Review of Microbiology 51:257−283参照)も抗体の定義に含まれ、本明細書で述べる方法における使用に適合性である。二重特異性抗体も、「抗体」の用語に包含される。二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原に対して結合特異性を有する、好ましくはヒトまたはヒト化の、モノクローナル抗体である。抗体またはそのフラグメントを作製するための方法を本明細書で論じる。
【0069】
一部の実施形態では、試薬はGPIアンカー型タンパク質に結合し得る。例えば、試薬は、GPIアンカー型タンパク質に結合する抗体であり得る。一部の実施形態では、試薬はGPIアンカー型タンパク質に対するリガンドであり得る。GPIアンカー型タンパク質は多種多様であり、限定されることなく、アルカリホスファターゼ、5’ヌクレオチダーゼ(5’nucleotidease)、アセチルコリンエステラーゼ、ジペプチダーゼ、LFA−3、NCAM、PH−20、CD55、CD59、Thy−1、Qa−2、CD14、CD33、CD16(Fcγ受容体III型)、癌胎児性抗原(CEA)およびCD52を含む。GPIアンカー型タンパク質に結合する抗体は当分野において周知であり、例えば、HallとRosse(1996)前出、Richardsら(2008)Cytometry B Clin Cytom 76B(1):47−55;RichardsとBarnett(2007)Clin Lab Med 27(3):577−590;Luzzattoら(2006)Int J Hematol 84(2):104−112;およびThomasonら(2004)Am J Clin Pathol 122(1):128−134に述べられている。そのような抗体はまた、例えば、Santa Cruz Biotechology,Inc.(Santa Cruz,California)、Novus Biologicals(Littleton,Colorado)およびR&D Systems(Minneapolis,MN)から市販されている。
【0070】
前述した診断および/または治療方法における使用のためにGPIアンカー型タンパク質またはGPI部分に結合する抗体を作製するための適切な方法は当分野において周知であり、以下の章で述べる。
【0071】
抗体を作製するための方法
本開示にしたがって抗体(例えば、GPI部分またはGPIアンカー型タンパク質に結合する抗体)またはその抗原結合フラグメントを生産するための適切な方法は当分野において公知であり、本明細書で説明する。例えば、モノクローナル抗CD55抗体は、ヒトCD55発現細胞、CD55ポリペプチドまたはCD55ポリペプチドの抗原性フラグメントを免疫原として使用し、したがって抗体産生細胞および次にモノクローナル抗体が単離され得る動物において免疫応答を誘発して作製され得る。そのような抗体の配列を決定し、組換え技術によって抗体またはその変異体を生成し得る。組換え技術を使用して、モノクローナル抗体の配列ならびにGPIアンカー型タンパク質またはGPI部分に結合することができるポリペプチドの配列に基づいてキメラ、CDR移植、ヒト化および完全ヒト抗体を生産し得る。
【0072】
さらに、組換えライブラリに由来する抗体(「ファージ抗体」)は、例えば、GPI部分もしくはGPIアンカー型タンパク質、組換えGPI連結タンパク質、または遊離GPI部分を発現する細胞を、標的特異性に基づいて抗体またはポリペプチドを単離するためのバイトとして使用して選択し得る。非ヒトおよびキメラ抗体の生産および単離は十分に当業者の技術範囲内である。
【0073】
組換えDNA技術を使用して、非ヒト細胞において産生される抗体の1以上の特性を修飾することができる。したがって、診断または治療適用においてその免疫原性を低減するためにキメラ抗体を構築することができる。さらに、CDR移植および、場合によりフレームワーク修飾によって抗体をヒト化することにより、免疫原性を最小限に抑えることができる。その各々の内容が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,225,539号および同第7,393,648号参照。
【0074】
抗体は、動物血清から入手できるかまたは、モノクローナル抗体またはそのフラグメントの場合は、細胞培養物において生産できる。組換えDNA技術を使用して、細菌または、好ましくは哺乳動物細胞培養物における手順を含む、確立された手順にしたがって抗体を生産することができる。選択される細胞培養系は、好ましくは抗体産物を分泌する。
【0075】
別の実施形態では、本明細書で開示される抗体の生産のための工程は、ハイブリッドベクターで形質転換された宿主、例えばE.coli(大腸菌)または哺乳動物細胞を培養することを含む。ベクターは、正しいリーディングフレーム内で抗体タンパク質をコードする第二DNA配列に連結されたシグナルペプチドをコードする第一DNA配列に作動可能に連結されたプロモータを含有する1以上の発現カセットを含む。次に抗体タンパク質を収集し、単離する。場合により、発現カセットは、各々個別に正しいリーディングフレーム内でシグナルペプチドに作動可能に連結された抗体タンパク質をコードするポリシストロン性(例えば2シストロン性)DNA配列に作動可能に連結されたプロモータを含み得る。
【0076】
ハイブリドーマ細胞または哺乳動物宿主細胞のインビトロでの増殖は、場合により哺乳動物血清(例えばウシ胎仔血清)または微量元素と増殖維持添加物(例えば、正常マウス腹腔浸出細胞、脾細胞、骨髄マクロファージ、2−アミノエタノール、インスリン、トランスフェリン、低密度リポタンパク質、オレイン酸等のようなフィーダー細胞)を添加した、通常の標準的な培地(例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)またはRPMI 1640培地など)を含む、適切な培地中で実施される。細菌細胞または酵母細胞である宿主細胞の増殖は、同様に当分野で公知の適切な培地中で実施される。例えば、細菌に関しては、適切な培地は、LE、NZCYM、NZYM、NZM、テリフィックブロス、SOB、SOC、2xYT培地またはM9最小培地を含む。酵母については、適切な培地は、YPD、YEPD、最小培地または完全最小ドロップアウト培地を含む。
【0077】
インビトロ生産は比較的純粋な抗体製剤を提供し、大量の所望抗体が得られるスケールアップ生産を可能にする。細菌細胞、酵母、植物または哺乳動物細胞培養のための技術は当分野で公知であり、均一懸濁培養(例えばエアリフト反応器または連続撹拌反応器中)および固定化または捕捉細胞培養(例えば、中空糸、マイクロカプセル中、アガロースマイクロビーズまたはセラミックカートリッジ上)を含む。
【0078】
大量の所望抗体はまた、哺乳動物細胞をインビボで増殖させることによっても得られる。このために、所望抗体を産生するハイブリドーマ細胞を組織適合性哺乳動物に注射し、抗体産生腫瘍の増殖を生じさせる。場合により、注射の前に動物を炭化水素、特にプリスタン(テトラメチルペンタデカン)などの鉱油でプライムする。1〜3週間後、それらの哺乳動物の体液から抗体を単離する。例えば、Balb/cマウスからの抗体産生脾細胞と適切な骨髄腫細胞の融合によって得られるハイブリドーマ細胞、または所望抗体を産生するハイブリドーマ細胞株Sp2/0に由来するトランスフェクト細胞を、場合によりプリスタンで前処置したBalb/cマウスに腹腔内注射する。1〜2週間後、動物から腹水を採取する。
【0079】
前記や他の技術は、例えば、その開示がすべて参照により本明細書に組み込まれる、KohlerとMilstein(1975)Nature 256:495−497;米国特許第4,376,110号;HarlowとLane,Antibodies:a Laboratory Manual(1988)Cold Spring Harborにおいて論じられている。組換え抗体分子の作製のための技術は、上記参考文献およびまた、例えば、その各々の内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる、国際公開公報第WO97/08320号;米国特許第5,427,908号;米国特許第5,508,717号;Smith(1985)Science 225:1315−1317;ParmleyとSmith(1988)Gene 73:305−318;De La Cruzら(1988)Journal of Biological Chemistry 263:4318−4322;米国特許第5,403,484号;米国特許第5,223,409号;国際公開公報第WO88/06630号;国際公開公報第WO92/15679号;米国特許第5,780,279号;米国特許第5,571,698号;米国特許第6,040,136号;Davisら(1999)Cancer Metastasis Rev.18(4):421−5;およびTaylorら(1992)Nucleic Acids Research 20:6287−6295;Tomizukaら(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97(2):722−727の中で述べられている。
【0080】
細胞培養上清を、優先的にGPIもしくはGPIアンカー型タンパク質発現細胞の免疫蛍光染色によって、免疫ブロット法によって、酵素免疫検定法、例えばサンドイッチアッセイもしくはドットアッセイによって、または放射免疫検定法によって、所望抗体に関してスクリーニングする。
【0081】
抗体の単離のために、培養上清中または腹水中の免疫グロブリンを、例えば、硫酸アンモニウムでの沈殿、ポリエチレングリコールなどの吸湿性材料に対する透析、選択性膜でのろ過等によって濃縮し得る。必要に応じておよび/または所望する場合は、抗体を通常のクロマトグラフィ法によって、例えば、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィ、DEAE−セルロースでのクロマトグラフィおよび/または(免疫)アフィニティクロマトグラフィ、例えばGPI部分、その表面にGPIアンカーを発現する細胞、GPIアンカー型ポリペプチド、その表面にGPIアンカー型タンパク質を発現する細胞またはプロテインAもしくはGによるアフィニティクロマトグラフィによって精製する。
【0082】
別の実施形態は、適切な哺乳動物においてGPI部分またはGPIアンカー型タンパク質に対する抗体を分泌する細菌細胞株の調製のための工程を提供する。例えば、ウサギをGPI部分、その表面にGPIアンカーを発現する細胞、GPIアンカー型ポリペプチド、その表面にGPIアンカー型タンパク質を発現する細胞、またはそのフラグメントで免疫する。免疫したウサギから作製されるファージディスプレイライブラリを構築し、当分野で周知の方法(例えば、参照により本明細書に組み込まれる様々な参考文献に開示されている方法など)にしたがって所望抗体に関してパニングする。
【0083】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ細胞も開示される。好ましいハイブリドーマ細胞は、遺伝的に安定であり、所望特異性を有する本明細書で述べるモノクローナル抗体を分泌し、深冷凍培養物からインビトロでの解凍と増殖によってまたはインビボで腹水として増殖させることができる。
【0084】
別の実施形態では、GPI部分またはGPIアンカー型タンパク質に対するモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ細胞株の調製のための工程が提供される。その工程では、適切な哺乳動物、例えばBalb/cマウスを、例えばCD55もしくはCD14の1以上のポリペプチドもしくは抗原性フラグメント、またはCD55発現細胞に由来する1以上のポリペプチドもしくは抗原性フラグメント、CD55発現細胞自体または精製ポリペプチドを含む抗原性担体で前述したように免疫する。同様に、哺乳動物をヒトGPI部分、そのフラグメント、またはヒトGPI部分を、おそらく高い量で、発現する細胞で免疫することができる。免疫した哺乳動物の抗体産生細胞を培養中で短期間増殖させるかまたは適切な骨髄腫細胞株の細胞と融合する。融合で得られたハイブリッド細胞をクローニングし、所望抗体を分泌する細胞クローンを選択する。例えば、例えばGPIアンカー型タンパク質またはGPI部分で免疫したBalb/cマウスの脾細胞を、骨髄腫細胞株PAIまたは骨髄腫細胞株Sp2/0−Ag14の細胞と融合する。得られたハイブリッド細胞を、次に、所望抗体の分泌に関してスクリーニングし、陽性ハイブリドーマ細胞をクローニングする。
【0085】
ハイブリドーマ細胞株を調製するための方法は、対象とする抗原を数か月間にわたって、例えば2〜4か月間、数回、例えば4〜6回、皮下および/または腹腔内注射することによってBalb/cマウスを免疫することを含む。免疫マウスからの脾細胞を、最後の注射の2〜4日後に採取し、融合プロモータ、好ましくはポリエチレングリコールの存在下で骨髄腫細胞株PAIの細胞と融合する。好ましくは、骨髄腫細胞を、約30%〜約50%の分子量約4000のポリエチレングリコールを含む溶液中で3〜20倍過剰の免疫マウスからの脾細胞と融合する。融合後、通常の骨髄腫細胞が所望のハイブリドーマ細胞を圧倒するのを防ぐために、一定の間隔で選択培地、例えばHAT培地を添加した、前述したような適切な培地中で細胞を増殖させる。
【0086】
抗体およびそのフラグメントは「キメラ」であり得る。キメラ抗体およびその抗原結合フラグメントは、2以上の異なる種(例えばマウスとヒト)に由来する部分を含む。キメラ抗体は、ヒト定常ドメイン遺伝子セグメントにスプライシングされた所望特異性のマウス可変領域を用いて生産できる(例えば米国特許第4,816,567号参照)。このようにして、非ヒト抗体を、ヒトでの臨床適用(例えばPNH II型細胞を検出するための方法)により適したものにするように修飾することができる。
【0087】
本開示のモノクローナル抗体は、「ヒト化」形態の非ヒト(例えばマウス)抗体を含む。ヒト化またはCDR移植mAbは、マウス抗体ほど迅速に循環中から清掃されず、典型的には有害な免疫反応を引き起こさないので、ヒトのための治療薬として特に有用である。一般に、ヒト化抗体は、非ヒト供給源からその中に導入された1以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基はしばしば「インポート」残基と称され、典型的には「インポート」可変ドメインから取られる。ヒト化抗体を調製する方法は、一般に当分野において周知である。例えば、ヒト化は、基本的に、ヒト抗体の対応する配列をげっ歯動物CDRまたはCDR配列に置換することにより、Winterと共同研究者達の方法(例えば、Jonesら(1986)Nature 321:522−525;Riechmannら(1988)Nature 332:323−327;およびVerhoeyenら(1988)Science 239:1534−1536参照)にしたがって実施できる。また、例えばStaelensら(2006)Mol Immunol 43:1243−1257も参照のこと。一部の実施形態では、ヒト化形態の非ヒト(例えばマウス)抗体は、レシピエント抗体の超可変(CDR)領域残基が、マウス、ラット、ウサギまたは所望の特異性、親和性および結合能力を有する非ヒト霊長動物などの非ヒト種(ドナー抗体)からの超可変領域残基によって置換されているヒト抗体(レシピエント抗体)である。一部の場合には、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域残基も、対応する非ヒト残基によって置換されている(いわゆる「復帰突然変異」)。加えて、ファージディスプレイライブラリは、抗体配列内の選択位置でアミノ酸を変化させるために使用できる。ヒト化抗体の特性はまた、ヒトフレームワークの選択によっても影響される。さらに、ヒト化およびキメラ化抗体は、例えば親和性またはエフェクター機能などの抗体特性をさらに改善するために、レシピエント抗体またはドナー抗体では認められない残基を含むように修飾できる。
【0088】
完全ヒト抗体も本開示で提供される。「ヒト抗体」という用語は、(存在する場合は)ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変および定常領域を有する抗体を含む。ヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的突然変異によってまたはインビボでの体細胞突然変異によって導入される突然変異)を含み得る。しかし、「ヒト抗体」という用語は、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞系に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列に移植された抗体(すなわちヒト化抗体)を含まない。完全ヒト抗体またはヒト抗体は、ヒト抗体遺伝子を担持する(可変(V)、多様性(D)、連結(J)および定常(C)エクソンを担持する)トランスジェニックマウスまたはヒト細胞に由来し得る。例えば、現在、免疫の際、内因性免疫グロブリン産生の不在下でヒト抗体の完全なレパートリーを生産することができるトランスジェニック動物(例えばマウス)を作製することが可能である。(例えば、Jakobovitsら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2551;Jakobovitsら(1993)Nature 362:255−258;Bruggemannら(1993)Year in Immunol.7:33;およびDuchosalら(1992)Nature 355:258参照)。トランスジェニックマウス系統を、再構成されていないヒト免疫グロブリン遺伝子からの遺伝子配列を含むように遺伝子操作することができる。ヒト配列は、ヒト抗体の重鎖および軽鎖の両方をコードすることができ、マウスにおいて正しく機能して、再構成を受け、ヒトにおけるものに類似する広い抗体レパートリーを提供する。トランスジェニックマウスを標的タンパク質(例えば、GPI部分またはCD55もしくはCD14などのGPIアンカー型タンパク質)で免疫して、特異的抗体およびそれらがコードするRNAの多様なアレイを創造することができる。そのような抗体の抗体鎖成分をコードする核酸を、その後、動物からディスプレイベクターにクローニングし得る。典型的には、重鎖および軽鎖配列をコードする核酸の別々の集団をクローニングし、次に、ベクターの所与のコピーが重鎖と軽鎖のランダムな組合せを受け取るように、別々の集団をベクターへの挿入時に組み換える。ベクターは、ベクターを含むディスプレイパッケージの外表面で構築され、提示され得るように抗体鎖を発現するように設計される。例えば、抗体鎖は、ファージの外表面からファージコートタンパク質との融合タンパク質として発現され得る。その後、ディスプレイパッケージを、標的に結合する抗体の提示に関してスクリーニングし得る。
【0089】
加えて、ヒト抗体はファージディスプレイライブラリに由来し得る(Hoogenboomら(1991)J.Mol.Biol.227:381;Marksら(1991)J.Mol.Biol.,222:581−597;およびVaughanら(1996)Nature Biotech 14:309(1996))。合成ヒト抗体V領域のランダムに選ばれた組合せを使用する合成ファージライブラリを創造することができる。抗原の選択により、V領域が本質的に非常にヒト様である完全ヒト抗体を作製することができる。例えば、その各々の内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,794,132号、同第6,680,209号、同第4,634,666号およびOstbergら(1983)Hybridoma 2:361−367参照。
【0090】
ヒト抗体の作製については、その開示の全体が参照により本明細書に組み込まれる、Mendezら(1998)Nature Genetics 15:146−156、GreenとJakobovits(1998)J.Exp.Med.188:483−495も参照のこと。ヒト抗体は、米国特許第5,939,598号;同第6,673,986号;同第6,114,598号;同第6,075,181号;同第6,162,963号;同第6,150,584号;同第6,713,610号;および同第6,657,103号ならびに米国特許公開第20030229905 A1号、同第20040010810 A1号、同第20040093622 A1号、同第20060040363 A1号、同第20050054055 A1号、同第20050076395 A1号、同第20050287630 A1号においてさらに論じられ、説明されている。また、国際公開公報第WO94/02602号、同第WO96/34096号および同第WO98/24893号ならびに欧州特許第EP 0 463 151 B1号も参照のこと。上記に引用した特許、特許出願および参考文献の各々の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0091】
選択的なアプローチでは、GenPharm International,Inc.を含む他者が「ミニ遺伝子座」法を用いている。ミニ遺伝子座法では、Ig遺伝子座からの複数の断片(個々の遺伝子)を含めることを介して外因性Ig遺伝子座を模倣する。したがって、1以上のV遺伝子、1以上のD遺伝子、1以上のJ遺伝子、μ定常領域、および2番目の定常領域(好ましくはγ定常領域)が、動物に挿入するための構築物へと形成される。このアプローチは、例えば、その開示が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,545,807号;同第5,545,806号;同第5,625,825号;同第5,625,126号;同第5,633,425号;同第5,661,016号;同第5,770,429号;同第5,789,650号;同第5,814,318号;同第5,591,669号;同第5,612,205号;同第5,721,367号;同第5,789,215号;同第5,643,763号;同第5,569,825号;同第5,877,397号;同第6,300,129号;同第5,874,299号;同第6,255,458号;および同第7,041,871号に述べられている。また、その各々の開示の全体が参照により本明細書に組み込まれる、欧州特許第0 546 073 B1号、国際公開公報第WO92/03918号、同第WO92/22645号、同第WO92/22647号、同第WO92/22670号、同第WO93/12227号、同第WO94/00569号、同第WO94/25585号、同第WO96/14436号、同第WO97/13852号および同第WO98/24884号も参照のこと。さらに、その各々の開示の全体が参照により本明細書に組み込まれる、Taylorら(1992)Nucleic Acids Res.20:6287;Chenら(1993)Int.Immunol.5:647;Tuaillonら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:3720−4;Choiら(1993)Nature Genetics 4:117;Lonbergら(1994)Nature 368:856−859;Taylorら(1994)International Immunology 6:579−591;Tuaillonら(1995)J.Immunol.154:6453−65;Fishwildら(1996)Nature Biotechnology 14:845;およびTuaillonら(2000)Eur.J.Immunol.10:2998−3005も参照のこと。
【0092】
ある実施形態では、脱免疫抗体(例えば、ヒトGPI部分もしくはGPIアンカー型タンパク質に結合する抗体)またはその抗原結合フラグメントが提供される。脱免疫抗体またはその抗原結合フラグメントは、抗体またはその抗原結合フラグメントを所与の種に対して非免疫原性にするまたはより低免疫原性にするように修飾され得る。脱免疫は、当業者に公知の様々な技術のいずれかを利用して抗体またはその抗原結合フラグメントを修飾することによって達成できる(例えば、PCT公開公報第WO04/108158号および同第WO00/34317号参照)。例えば、抗体またはその抗原結合フラグメントは、抗体またはその抗原結合フラグメントのアミノ酸配列内の潜在的T細胞エピトープおよび/またはB細胞エピトープを同定し、例えば組換え技術を使用して、抗体またはその抗原結合フラグメントから潜在的T細胞エピトープおよび/またはB細胞エピトープの1以上を除去することによって脱免疫され得る。次に、修飾された抗体またはその抗原結合フラグメントを、場合により生産し、例えば結合親和性などの1以上の所望の生物学的活性を保持するが、低い免疫原性を有する抗体またはその抗原結合フラグメントを同定するために試験し得る。潜在的T細胞エピトープおよび/またはB細胞エピトープを同定するための方法は、例えばコンピュータによる方法(例えばPCT公開公報第WO02/069232号参照)、インビトロまたはインシリコ技術、および生物学的アッセイまたは物理的方法(例えば、MHC分子へのペプチドの結合の測定、抗体もしくはその抗原結合フラグメントを受容する種に由来するT細胞受容体へのペプチド:MHC複合体の結合の測定、抗体もしくはその抗原結合フラグメントを受容する種のMHC分子に関するトランスジェニック動物を使用したタンパク質もしくはそのペプチド部分の試験、または抗体もしくはその抗原結合フラグメントを受容する種に由来する免疫系細胞で再構成されたトランスジェニック動物に関する試験等)などの、当分野で公知の技術を使用して実施し得る。様々な実施形態において、本明細書で述べる脱免疫抗体は、脱免疫された抗原結合フラグメント、Fab、Fv、scFv、Fab’およびF(ab’)、モノクローナル抗体、マウス抗体、遺伝子操作された抗体(例えば、キメラ、一本鎖、CDR移植、ヒト化、完全ヒト抗体および人為的に選択された抗体など)、合成抗体ならびに半合成抗体を含む。
【0093】
一部の実施形態では、抗体発現細胞株の重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメインをコードする挿入物を含む組換えDNAを生産する。DNAという用語は、コード一本鎖DNA、前記コードDNAとそれに相補的なDNAからなる二本鎖DNA、またはこれらの相補的(一本鎖)DNA自体を含む。
【0094】
さらに、抗体(例えば、抗GPI抗体または抗GPIアンカー型タンパク質抗体)の重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメインをコードするDNAを、重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメインをコードする真正DNA配列、またはその突然変異体を含むように酵素的または化学的に合成することができる。真正DNAの突然変異体は、1以上のアミノ酸が欠失している、挿入されているまたは1以上の他のアミノ酸と交換されている上記抗体の重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメインをコードするDNAである。好ましくは、前記修飾は、ヒト化および発現最適化適用では抗体の重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメインのCDRの外側である。突然変異体DNAという用語はまた、1以上のヌクレオチドが、同じアミノ酸をコードする新しいコドンを有する他のヌクレオチドによって置換されているサイレント突然変異体を包含する。突然変異体配列という用語はまた、縮重配列を含む。縮重配列は、無制限の数のヌクレオチドが、もともとコードされているアミノ酸配列の変化を生じさせずに他のヌクレオチドによって置換されているという点で遺伝暗号の意味の範囲内で縮重している。そのような縮重配列は、それらの異なる制限部位ならびに/または重鎖マウス可変ドメインおよび/もしくは軽鎖マウス可変ドメインの最適発現を得るために特定の宿主、特に大腸菌によって好まれる特定のコドン使用頻度のゆえに有用であり得る。
【0095】
突然変異体という用語は、当分野で公知の方法に従って真正DNAのインビトロ突然変異誘発によって得られるDNA突然変異体を含むことが意図されている。
【0096】
完全な四量体免疫グロブリン分子の構築およびキメラ抗体の発現のために、重鎖および軽鎖可変ドメインをコードする組換えDNA挿入物を、重鎖および軽鎖定常ドメインをコードする対応するDNAと融合し、次に、例えばハイブリッドベクターへの組込み後、適切な宿主細胞に移入する。
【0097】
ヒト定常ドメインIgG、例えば、γ1、γ2、γ3またはγ4、特定の実施形態ではγ1またはγ4に融合した対象とする抗体の重鎖マウス可変ドメインをコードする挿入物を含む組換えDNAを使用し得る。ヒト定常ドメインκまたはλ、好ましくはκに融合した抗体の軽鎖マウス可変ドメインをコードする挿入物を含む組換えDNAも提供される。
【0098】
別の実施形態は、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインがスペーサー基によって連結されており、場合により、宿主細胞における抗体のプロセシングを促進するシグナル配列ならびに/または抗体の精製を促進するペプチドおよび/もしくは切断部位および/もしくはペプチドスペーサーおよび/もしくは作用物質をコードするDNA配列を含む、組換えポリペプチドをコードする組換えDNAに関する。作用物質をコードするDNAとは、診断または治療適用において有用な作用物質をコードするDNAであることが意図されている。したがって、毒素または酵素、特にプロドラッグの活性化を触媒することができる酵素である作用物質分子が特に指示される。そのような作用物質をコードするDNAは、天然の酵素または毒素をコードするDNAの配列またはその変異体を有し、当分野で周知の方法によって調製できる。
【0099】
したがって、本開示のモノクローナル抗体または抗原結合フラグメントは、他の作用物質、例えば、治療薬または検出可能標識に複合されていない裸の抗体または抗原結合フラグメントであり得る。あるいは、モノクローナル抗体または抗原結合フラグメントは、例えば、細胞傷害性薬剤、低分子、ホルモン、酵素、増殖因子、サイトカイン、リボザイム、ペプチドミメティック、化学物質、プロドラッグ、コード配列を含む核酸分子(例えば、アンチセンス、RNAi、遺伝子標的構築物等)または検出可能標識(例えば、NMRもしくはX線造影剤、蛍光分子等)のような作用物質に複合し得る。ある実施形態では、抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、Fab、Fv、一本鎖scFv、Fab’およびF(ab’))は、抗体または抗原結合フラグメントの半減期を上昇させる分子に連結される(「コンジュゲート」と題する章参照)。
【0100】
いくつかの考えられるベクター系が、哺乳動物細胞におけるクローニングされた重鎖および軽鎖遺伝子の発現のために使用可能である。1つのクラスのベクターは、宿主細胞ゲノムへの所望遺伝子配列の組込みに基づく。安定に組み込まれたDNAを有する細胞を、大腸菌gpt(MulliganとBerg(1981)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,78:2072)またはTn5 neo(SouthernとBerg(1982)Mol.Appl.Genet.1:327)などの薬剤耐性遺伝子を同時に導入することによって選択できる。選択マーカー遺伝子を、発現されるDNA遺伝子配列に連結するか、または同時トランスフェクションによって同じ細胞に導入することができる(Wiglerら(1979)Cell 16:77)。2番目のクラスのベクターは、染色体外プラスミドに自律複製する能力を与えるDNAエレメントを利用する。これらのベクターは、ウシパピローマウイルス(Sarverら(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,79:7147)、ポリオーマウイルス(Deansら(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:1292)またはSV40ウイルス(LuskyとBotchan(1981)Nature 293:79)などの動物ウイルスに由来し得る。
【0101】
免疫グロブリンcDNAは、抗体タンパク質をコードする成熟mRNAを示す配列だけからなるので、免疫グロブリンmRNAの合成のためには遺伝子の転写およびRNAのプロセシングを調節する付加的な遺伝子発現エレメントが必要である。これらのエレメントは、スプライシングシグナル、誘導的プロモータを含む転写プロモータ、エンハンサーおよび終結シグナルを含み得る。そのようなエレメントを組み込んだcDNA発現ベクターは、OkayamaとBerg(1983)Mol.Cell Biol.3:280;Cepkoら(1984)Cell 37:1053;およびKaufman(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:689によって述べられているものを含む。
【0102】
本開示から明らかなように、抗GPI部分抗体または抗GPIアンカー型タンパク質抗体は、疾患を診断する(例えば、PNHまたは血小板減少症を発症する増大している危険度を診断する)ための方法、疾患の進行のモニタリング、および被験体においてPNH、血小板減少症または血栓症を処置するための、併用療法を含む適切な療法の選択において使用できる。
【0103】
本開示の診断実施形態では、二重特異性抗体が企図される。二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原に対して結合特異性を有する、好ましくはヒトまたはヒト化の、モノクローナル抗体である。本開示の場合、結合特異性の1つはGPI部分または細胞(例えば、白血球また赤血球など)上のGPIアンカー型タンパク質に対してであり、他の1つは任意の他の抗原、好ましくは細胞表面タンパク質または受容体もしくは受容体サブユニットに対してである。
【0104】
二重特異性抗体を作製するための方法は当業者の技術範囲内である。伝統的に、二重特異性抗体の組換え生産は、2つの免疫グロブリン重鎖/軽鎖対の共発現に基づき、前記の2本の重鎖は異なる特異性を有する(MilsteinとCuello(1983)Nature 305:537−539)。所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗体−抗原結合部位)を免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合することができる。融合は、好ましくは、ヒンジ、C2およびC3領域の少なくとも一部を含む、免疫グロブリン重鎖定常ドメインとの間で行われる。免疫グロブリン重鎖融合物および、所望する場合は、免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAを別々の発現ベクターに挿入し、適切な宿主生物に同時トランスフェクトする。二重特異性抗体を作製するための例示的な現在公知の方法のさらなる詳細については、例えば、Sureshら(1986)Methods in Enzymology 121:210;PCT公開公報第WO96/27011号;Brennanら(1985)Science 229:81;Shalabyら、J.Exp.Med.(1992)175:217−225;Kostelnyら(1992)J.Immunol.148(5):1547−1553;Hollingerら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−6448;Gruberら(1994)J.Immunol.152:5368;およびTuttら(1991)J.Immunol.147:60参照。二重特異性抗体はまた、架橋またはヘテロコンジュゲート抗体を含む。ヘテロコンジュゲート抗体は、任意の好都合な架橋法を用いて作製し得る。適切な架橋剤は当分野で周知であり、米国特許第4,676,980号の中で多くの架橋技術と共に開示されている。
【0105】
組換え細胞培養から直接二重特異性抗体フラグメントを作製し、単離するための様々な技術も記述されている。例えば、二重特異性抗体はロイシンジッパーを使用して生産されてきた(例えば、Kostelnyら(1992)J.Immunol.148(5):1547−1553参照)。FosおよびJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドを、遺伝子融合によって2つの異なる抗体のFab’部分に連結し得る。抗体ホモ二量体をヒンジ領域で還元して単量体を形成し、次に再酸化して抗体ヘテロ二量体を形成し得る。この方法はまた、抗体ホモ二量体の生産のためにも利用できる。Hollingerら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−6448によって記述された「ダイアボディ」技術は、二重特異性抗体フラグメントを作製するための選択的機構を提供している。フラグメントは、同じ鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にするには短すぎるリンカーによって軽鎖可変ドメイン(VL)に連結された重鎖可変ドメイン(VH)を含む。したがって、1つのフラグメントのVHおよびVLドメインは別のフラグメントの相補的VLおよびVHドメインと対合することを強いられ、それにより2つの抗原結合部位を形成する。一本鎖Fv(scFv)二量体の使用によって二重特異性抗体フラグメントを作製するための他の方法も報告されている(例えば、Gruberら(1994)J.Immunol.152:5368参照)。あるいは、抗体は、例えばZapataら(1995)Protein Eng.8(10):1057−1062に述べられているような「線状抗体」であり得る。簡単に述べると、これらの抗体は、一対の抗原結合領域を形成する一対の縦列Fdセグメント(V−C1−V−C1)を含む。線状抗体は二重特異性または単一特異性であり得る。
【0106】
コンジュゲート
一部の実施形態では、本明細書で述べる試薬(例えば、非溶解性アエロリシンポリペプチドまたはGPI部分もしくはGPIアンカー型タンパク質に結合する抗体)は異種部分に複合することができる。異種部分は、例えば、異種タンパク質(上記参照)、治療薬(例えば、毒素もしくは薬剤)、または放射性標識、酵素標識、蛍光標識もしくは発光標識などの、しかしこれらに限定されない検出可能標識であり得る。適切な放射性標識は、例えば、32P、33P、14C、125I、131I、35SおよびHを含む。適切な蛍光標識は、限定されることなく、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、Alexa Fluor(登録商標)488、Alexa Fluor(登録商標)647、GFP、DyLight 488、フィコエリトリン(PE)、ヨウ化プロピジウム(PI)、PerCP、PE−Alexa Fluor(登録商標)700、Cy5、アロフィコシアニン、Cy7およびPE−Alexa Fluor(登録商標)750を含む。発光標識は、例えば、様々な発光ランタニド(例えば、ユウロピウムまたはテルビウム)キレートの任意のものを含む。例えば、適切なユウロピウムキレートは、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)のユウロピウムキレートを含む。酵素標識は、例えば、アルカリホスファターゼ、CAT、ルシフェラーゼおよびホースラディッシュペルオキシダーゼを含む。
【0107】
異種部分を試薬に複合するための適切な方法はタンパク質化学の分野において周知である。例えば、2つのタンパク質を、多くの公知の化学的架橋剤のいずれかを使用して架橋することができる。そのような架橋剤の例は、「障害された」ジスルフィド結合を含む連結によって2個のアミノ酸残基を連結するものである。これらの連結において、架橋ユニット内のジスルフィド結合は、例えば、還元型グルタチオンまたはジスルフィドレダクターゼ酵素の作用による還元から保護されている(ジスルフィド結合の両側の障害基によって)。1つの適切な試薬、4−スクシンイミジルオキシカルボニル−α−メチル−α(2−ピリジルジチオ)トルエン(SMPT)は、一方のタンパク質上の末端リシンおよび他方のタンパク質上の末端システインを利用して2つのタンパク質の間にそのような連結を形成する。各々のタンパク質上の異なるカップリング部分によって架橋するヘテロ二官能性試薬も使用できる。他の有用な架橋剤は、限定されることなく、2つのアミノ基(例えばN−5−アジド−2−ニトロベンゾイルオキシスクシンイミド)、2つのスルフヒドリル基(例えば1,4−ビス−マレイミドブタン)、アミノ基とスルフヒドリル基(例えばm−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル)、アミノ基とカルボキシル基(例えば4−[p−アジドサリチルアミド]ブチルアミン)、およびアミノ基とアルギニンの側鎖に存在するグアニジニウム基(例えばp−アジドフェニルグリオキサール一水和物)を連結する試薬を含む。
【0108】
放射性標識は、共有または非共有(例えば、イオンまたは疎水)結合によって試薬に複合することができる。それらは、複合が、GPI部分またはGPIアンカー型タンパク質に結合する試薬の能力を妨げないことを条件としてタンパク質の任意の部分に結合し得る。一部の実施形態では、試薬がタンパク質である場合、放射性標識を試薬のアミノ酸骨格に直接複合することができる。あるいは、放射性標識を、遊離アミノ基に結合して関連タンパク質のメタヨードフェニル(mIP)誘導体を形成する(例えば、Rogersら(1997)J.Nucl.Med.38:1221−1229参照)より大きな分子(例えばメタ−[125I]ヨードフェニル−N−ヒドロキシスクシンイミド([125I]mIPNHS)中の125I)またはキレート(例えばDOTAもしくはDTPA)の一部として含めることができ、次にそれをタンパク質骨格に結合する。本明細書で述べる試薬に放射性標識またはそれらを含むより大きな分子/キレートを複合する方法も当分野において公知である。そのような方法は、放射性標識またはキレートの試薬への結合を促進する条件(例えば、pH、塩濃度および/または温度)下で試薬を放射性標識と共にインキュベートすることを含む(例えば、その開示の全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,001,329号参照)。
【0109】
蛍光標識(時として「フルオロフォア」と称される)を試薬(例えば非溶解性アエロリシンタンパク質または抗体)に複合するための方法はタンパク質化学の分野において公知である。例えば、フルオロフォアを、フルオロフォアに結合したスクシンイミジル(NHS)エステルまたはTFPエステル部分を使用してタンパク質の遊離アミノ基(例えばリシンの)またはスルフヒドリル基(例えばシステイン)に複合することができる。一部の実施形態では、フルオロフォアをスルホ−SMCCなどのヘテロ二官能性架橋剤部分に複合することができる。適切な複合方法は、フルオロフォアの試薬への結合を促進する条件下で試薬をフルオロフォアと共にインキュベートすることを含む。例えば、WelchとRedvanly(2003)“Handbook of Radiopharmaceuticals:Radiochemistry and Applications,”John Wiley and Sons(ISBN:0471495603)参照。フルオロフォアをタンパク質に複合する際に使用するための様々なキット、例えばAlexa Fluor(登録商標)488 Protein Labeling KitおよびAlexa Fluor(登録商標)647 Protein Labeling Kit(Molecular Probes,Invitrogen(商標))が市販されている。一部の実施形態では、フルオロフォアを、タンパク質1モルにつき1〜2モルの染料で試薬に複合することができる。
【0110】
一部の実施形態では、試薬(例えば、アエロリシンタンパク質またはGPI部分もしくはGPIアンカー型タンパク質に結合する抗体)を、例えば、循環中、例えば血液、血清または他の組織中の抗体自体の安定化および/または保持を改善する部分で修飾することができる。例えば、本明細書で述べる試薬は、例えば、Leeら(1999)Bioconjug.Chem 10(6):973−8;Kinstlerら(2002)Advanced Drug Deliveries Reviews 54:477−485;およびRobertsら(2002)Advanced Drug Delivery Reviews 54:459−476に述べられているようにPEG化することができる。安定化部分は、被験体の身体(例えば血液または組織)中での試薬の安定性または保持を少なくとも1.5倍(例えば少なくとも2、5、10、15、20、25、30、40または50倍以上)改善し得る。
【0111】
生物学的試料および試料の収集
本明細書で述べる方法における使用のための適切な生物学的試料は、1以上の白血球および/または1以上の赤血球を含む、任意の生物学的液体、細胞の集団、または組織もしくはその画分を含む。生物学的試料は、例えば、被験体(例えばヒトなどの哺乳動物)から得られる標本であり得るかまたはそのような被験体に由来し得る。例えば、試料は、生検によって得られる組織切片、または組織培養下にあるもしくは組織培養に適した細胞であり得る。生物学的試料はまた、尿、全血もしくはその画分(例えば血漿)、唾液、精液、痰、脳脊髄液、涙または粘液などの生物学的液体であり得る。生物学的試料は、所望する場合は、特定の細胞型を含む画分にさらに分画することができる。例えば、全血試料を血清にまたは赤血球もしくは白血球などの特定の型の血球を含む画分に分画できる。所望する場合は、生物学的試料は、組織と液体試料の組合せなどの、被験体からの異なる生物学的試料の組合せであり得る。
【0112】
生物学的試料は、被験体、例えば発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)を有する、有することが疑われる、または発症する危険性がある被験体から入手できる。生物学的試料を得るための任意の適切な方法が使用できるが、例示的な方法は、例えば瀉血、スワブ(例えば口腔スワブ)、洗浄または微細針吸引生検手順を含む。微細針吸引を実施しやすい組織の非限定的な例は、リンパ節、肺、甲状腺、乳房および肝臓を含む。生物学的試料はまた、骨髄からも入手できる。試料はまた、例えば顕微解剖(例えばレーザー捕捉顕微解剖(LCM)もしくはレーザー顕微解剖(LMD))、膀胱洗浄、スミア(PAPスミア)または乳管洗浄細胞診によっても収集できる。
【0113】
生物学的試料中の細胞の活性または完全性を保持する試料を得るおよび/または保存するための方法は当業者に周知である。例えば、生物学的試料を、適切な緩衝液および/またはプロテアーゼ阻害剤を含む阻害剤、細胞を保存するまたは細胞における変化(例えば浸透圧もしくはpHの変化)もしくは細胞表面タンパク質(例えばGPI連結タンパク質)もしくは細胞表面のGPI部分の変性を最小限に抑えることが意図された作用物質などの1以上の付加的な作用物質とさらに接触させ得る。そのような阻害剤は、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)などのキレート剤、フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、アプロチニンおよびロイペプチンなどのプロテアーゼ阻害剤を含む。細胞全体を保存するまたは操作するための適切な緩衝液および条件は、例えば、PollardとWalker(1997),“Basic Cell Culture Protocols,”volume 75 of Methods in Molecular Biology,Humana Press;Masters(2000)“Animal cell culture:a practical approach,”volume 232 of Practical approach series,Oxford University Press;およびJones(1996)“Human cell culture protocols,”volume 2 of Methods in molecular medicine,Humana Pressに述べられている。
【0114】
試料はまた、干渉物質を排除するまたはその存在を最小限に抑えるように処理することができる。例えば、生物学的試料を、対象でない1以上の物質(例えば細胞)を除去するように分画または精製することができる。生物学的試料を分画または精製する方法は、フローサイトメトリ、蛍光活性化細胞選別および沈降を含むが、これらに限定されない。
【0115】
診断および治療方法
上記で指摘し、実施例で詳述するように、本発明者らは、患者におけるPNH II型造血細胞(例えばII型白血球および/またはII型赤血球)の存在または量と血小板減少症との間の臨床的関係を発見した。例えば、本発明者らは、試験した生物学的試料中の同じ組織型(同じ系統)の全白血球と比較して少なくとも1.2%(例えば、少なくとも1.2、1.5、2、3、5、7、9、10、12、15、17、20、22、25、27、30、32、35、37、40、42、45、47、50、52、55、57、60、62、65または65.3%以上)のPNH II型白血球集団を有する患者は、検出可能なPNH II型白血球集団を有さない患者または1.2%未満のPNH II型白血球集団を有する患者よりも血小板減少症である可能性がはるかに高いと決定した。PNH II型顆粒球集団を有する患者試料は、検出可能なII型顆粒球集団を有さない患者試料と比較して、類似の末梢白血球数、末梢赤血球数、絶対好中球数およびヘモグロビン(Hgb)レベルを有しており、血小板数の差は、基礎にある骨髄産生の差によるものではない可能性が高いことを示した。言い換えると、検出可能なPNH II型顆粒球クローンを有する患者における低下した血小板数は、PNH患者における死亡の主要原因である血栓症に結びつき得る、末端補体介在性血小板消費または破壊の上昇によるものであると考えられる。例えば、Franchini(2006)Hematology 11(3):139−146参照。したがって、本開示は、患者が血小板減少症および/または血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを決定するために患者試料中のPNH II型白血球のパーセンテージに関する情報を使用するための方法を特徴とする。同様に、本発明者らは、少なくとも0.02%(例えば、少なくとも0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、71、71.3または75%以上)のPNH II型RBC集団を有する患者は、検出可能なPNH II型RBC集団を有さない患者または0.02%未満のPNH II型RBC集団を有する患者よりも血小板減少症である可能性がはるかに高いと決定した。したがって、本開示はまた、患者が血小板減少症および/または血栓症を発症する危険性があるかどうかを決定するために患者におけるPNH II型RBCクローンサイズに関する情報を使用するための方法を特徴とする。
【0116】
以下の方法は、患者からの生物学的試料中の同じ組織型(同じ系統)の細胞の総数と比較してPNH II型造血細胞(例えばPNH II型白血球)の存在を検出するまたはそのパーセンテージを決定するために使用できる。複数の白血球を調べる実施形態では、前記方法は、複数の中の同じ組織型の白血球の総数と比較して全異常PNH集団(すなわちII型プラスIII型細胞)のサイズを正確に決定する(および/または医師が複数の中のPNH II型白血球のパーセンテージを決定することを可能にする)ために、医師が、同じ組織型(同じ系統)のPNH I型、II型およびIII型白血球の集団を区別することを可能にするうえで有用である。第一に、細胞(例えば、白血球、赤血球、または白血球と赤血球の組合せ)の集団を、(i)GPI部分または(ii)GPI連結タンパク質に結合する試薬と、試料中に存在する細胞の表面上の、存在する場合は、GPI部分またはGPI連結タンパク質への試薬の結合を可能にする期間および条件下で接触させる。細胞の集団は、生物学的試料(例えば、全血試料;「生物学的試料および試料の収集」と題する章参照)、例えば患者から得た生物学的試料中に存在し得る。例えば、患者からの全血試料中に存在する細胞を、アエロリシンタンパク質(例えば非溶解性形態のアエロリシン)またはGPI部分もしくはCD59などのGPIアンカー型タンパク質に結合する抗体と接触させ得る。例えば、HallとRosse(1996)Blood 87(12):5332−5340および米国特許第6,593,095号参照。試薬と接触させた細胞(例えば白血球またはRBC)の少なくとも一部を、細胞の表面に結合した試薬の量に基づいて区別することができる。例えば、検出可能に標識された試薬を使用した場合は、表面に結合した試薬の量を、細胞の表面に結合した検出可能標識試薬から生成されるシグナルの総量の関数として決定できる。上述したように、細胞への試薬の結合の量は、細胞がPNH III型細胞(GPIおよびGPIアンカー型タンパク質をほとんどまたは全く発現しない)、正常細胞(I型細胞;III型細胞と比較して相対的に高いレベルのGPIおよびGPIアンカー型タンパク質の発現を有する)ならびにPNH II型細胞(I型細胞およびIII型細胞と比較して中間的なレベルのGPIおよびGPIアンカー型タンパク質の発現を有する)であることを示す、GPI部分および/またはGPIアンカー型タンパク質の発現の量を反映する。区別するかまたは調べる工程は、例えばフローサイトメトリを含み得る。
【0117】
一部の実施形態では、前記方法は、患者試料からのRBCへの試薬の結合の量を検出するために使用できる。一部の実施形態では、前記方法は、患者試料からの白血球への試薬の結合の量を検出するために使用できる。本明細書で述べる診断方法における評価に特に適する白血球は、例えば、顆粒球および単球(例えばマクロファージ)を含む。
【0118】
試料は、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)を有する、有することが疑われる、または発症する危険性がある被験体に由来し得る。一部の実施形態では、患者は、例えばクームス陰性血管内溶血、LDHレベル上昇、再発性鉄欠乏性貧血、異常な部位における血栓症、エピソード性嚥下障害または腹痛を含む1以上の症状を有する。
【0119】
一部の実施形態では、正常細胞またはPNH細胞の同定を助けるために、対照細胞集団のセットも検出方法に供することができる。対照集団は、対象とする細胞集団の評価の前に、評価と同時にまたは評価後に評価することができる。以下でより詳細に論じるように、医師は、PNH II型細胞であることが公知の細胞の対照集団、PNH III型細胞であることが公知の細胞の対照集団、および/または正常もしくはI型細胞であることが公知の細胞の対照集団を、使用される試薬の特定細胞型への結合の典型的な量または平均量を決定する方法に供することを選択できる。この対照情報を使用して、対象とする細胞(例えば、白血球または赤血球)を正常細胞、PNH II型細胞および/またはPNH III型細胞として分類するまたは同定することができる。
【0120】
生物学的試料中の細胞集団の特定の組成に依存して、集団の少なくとも一部の細胞を、結合試薬の高い量、結合試薬の低い量または結合試薬の中間的な量に基づいて他の細胞から区別することができる。一部の場合には、結合試薬の高い量を有する細胞だけが存在する(例えば、健常患者またはPNHを有さない患者からの細胞)。一部の場合には、より大きなパーセンテージの細胞が、ほとんどまたは全くそれらの表面に試薬を結合しない(例えば、高いパーセンテージのPNH III型細胞を有するPNH患者からの白血球またはRBC)。一部の実施形態では、試薬と接触させた細胞の集団を、細胞に結合した試薬の量に基づいて高、低および中間カテゴリーに分類できる。
【0121】
一部の実施形態では、1以上の細胞(例えば、1以上の区別されたかまたは調べられた細胞)を、それらの細胞表面に結合した試薬の量に基づいて分類できる。実施例で例示し、図1に示すように、フローサイトメトリ法を用いて、集団中の個々の細胞を、試薬が多量に結合しているか、試薬が少量結合しているかまたは試薬がわずかに結合しているか、および試薬が中間的に結合していると容易に分類できる。例えば、PNHを有する患者から得た白血球を2つの異なる試薬:GPI部分に結合する第一試薬(例えば検出可能に標識された非溶解性アエロリシンタンパク質)およびGPIアンカー型タンパク質に結合する第二試薬(例えばヒトCD24に結合する検出可能に標識された抗体)と接触させる。第一試薬および第二試薬は異なる検出可能標識で標識する。接触させた細胞を、次に、フローサイトメトリに供する。フローサイトメトリの当業者は、各々の試薬の細胞への結合の量に基づいて細胞間を区別する方法を容易に使用し得る。例えば、Macey(2007)“Flow Cytometry:principles and applications,”Humana Press(ISBN:1588296911)およびBrodskyら(2000)Am J Clin Pathol 114:459−466参照。図1に示すように、フローサイトメトリ法は、PNH患者から得た顆粒球を、各々の試薬の多量の結合(右上の細胞集団;正常またはI型細胞)、各々の試薬の少量の結合(左下の細胞集団;III型細胞)、および各々の試薬の中間的な量の結合(下部中央の細胞集団;II型細胞)を有すると分類するために容易に使用できる。
【0122】
細胞の分類は、細胞に結合した試薬の量を対照量(例えば、PNH I型細胞、PNH II型細胞および/またはPNH III型細胞への試薬の結合の対照量)と比較することによって実施できる。PNH I型細胞への試薬の結合の対照量は、例えば、1名以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35または40名以上)の健常個人から得た同じ組織型の細胞への試薬の観察された結合の平均量に基づき得る。PNH III型細胞への試薬の結合の対照量は、PNHを有する1名以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35または40名以上)の患者から得た同じ型の細胞への観察された結合の平均量に基づき得る。PNH II型細胞への試薬の結合の対照量は、例えば、PNHを有し、同じ組織型(同じ系統)のPNH II型細胞の検出可能な集団を有する1名以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35または40名以上)の患者から得た同じ型の細胞への観察された結合の平均量に基づき得る。例えば、細胞の表面に結合した試薬の量に基づいて対象とする白血球を分類するために、医師は、細胞に結合した試薬の量を、PNH I型白血球であることが公知の白血球、PNH II型白血球であることが公知の白血球、および/またはPNH III型白血球であることが公知の白血球に結合した試薬の典型的な量または平均量と比較することができる。
【0123】
一部の実施形態では、対象とする細胞(例えば、白血球またはRBC)の区別または分類は、細胞に結合した試薬の量が、同じ組織型のPNH I型細胞、PNH II型細胞またはPNH III型細胞を示すあらかじめ定められた範囲内であるかどうかを決定することによって実施できる。一部の実施形態では、対象とする造血細胞の区別または分類は、細胞の表面に結合した試薬の量が、あらかじめ定められたカットオフ値より上または下であるかどうかを決定することを含み得る。カットオフ値は、典型的にはそれより上
または下であることが特定のクラスの細胞、すなわちPNH I型細胞、PNH II型細胞またはPNH III型細胞を示すとみなされる、細胞の表面に結合した試薬の量(または細胞から検出されたシグナルの量)である。
【0124】
一部のカットオフ値は、診断上の相関関係(例えば、細胞の表面に結合する試薬の量と細胞がPNH II型細胞である可能性)がカットオフ値のいずれかの側の数値範囲にわたってまだ有意のままであり得るという意味で、絶対ではない。最適カットオフ値の精密化は、使用される試薬の品質、使用される統計方法および検出装置(例えばフローサイトメトリ)の洗練、ならびに調べられた試料の数および供給源に依存して決定され得ると理解される。それゆえ、カットオフ値は、方法論または試料分布の定期的な再評価または変更に基づいて、上下に調整され得る。
【0125】
本明細書で使用される場合、「血小板減少症」は、患者が、血液μL当たり200,000未満(例えば、150,000未満;140,000未満;130,000未満;120,000未満;110,000未満;100,000未満または90,000未満)の血小板の血小板数を有する状態を指す。一部の実施形態では、血小板減少症を有する患者は血液μL当たり100,000未満の血小板の血小板数を有する。
【0126】
上述したように、PNH II型細胞のパーセンテージに関する情報は、患者が血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを決定するための方法において使用できる。患者からの生物学的試料中のPNH II型細胞(例えば、II型白血球および/またはII型赤血球)のパーセンテージに関する情報は、医師が患者のために適切な治療レジメンを選択するのに使用されるべく、医師に伝達される(例えば電子または印刷形態)。試験した生物学的試料中の同じ組織型の白血球の総数と比較して、少なくとも1.2%(例えば、少なくとも1.2、1.5、2、3、5、7、9、10、12、15、17、20、22、25、27、30、32、35、37、40、42、45、47、50、52、55、57、60、62、65または65.3%以上)のPNH II型白血球集団に基づき、医師は、患者が血小板減少症を発症する危険性がある、または血小板減少症である可能性があり得ると決定し得る。同様に、試験した生物学的試料中の全RBCに対して少なくとも0.02%(例えば、少なくとも0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、71、71.3または75%以上)のPNH II型RBC集団を有する患者は、検出可能なPNH II型RBC集団を有さない患者または0.02%未満のPNH II型RBC集団を有する患者よりも血小板減少症である可能性がはるかに高い。少なくとも1.2%のPNH II型白血球集団または少なくとも0.02%のPNH II型赤血球集団を有する患者は、正常個人またはそのパーセンテージのPNH II型細胞を有さない患者よりも血栓症を発症する可能性が、例えば、少なくとも1.5倍(例えば、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、12.5、15、20、30またはさらに40倍以上)高いかもしれない。
【0127】
医師は、患者における血小板数を決定する付加的な試験を要求し得る。被験体からの血液由来試料中の血小板数を決定するための方法は医学の分野において周知であり、例えば、Sallahら(1998)Postgraduate Medicine 103:209−210;Kottke−Marchant(1994)Hematol Oncol Clin North Am.8:809−853;Redeiら(1995)J Crit Illn 10:133−137;Butkiewiczら(2006)Thrombosis Research 118(2):199−204;Tomitaら(2000)Am J Hematol 63(3):131−135;およびSchrezenmeierら(1998)Br J Haematol 100(3):571−576に述べられている。
【0128】
患者が医師によって血小板減少症であるまたは血小板減少症である可能性が高いと決定された場合、医師は患者に抗血小板減少症療法を選択、処方または投与し得る。抗血小板減少症療法は、例えば、コルチコステロイド、血小板輸血、脾摘出術または血小板産生促進剤であり得る。血小板産生促進剤は、例えば、トロンボポエチン(TPO)またはトロンボポエチンミメティックであり得る。例えば、KuterとBegley(2002)Blood 100:3457−3469;Liら(2001)Blood 98:3241−3248;およびVadhan−Rajら(2000)Ann Intern Med 132:364−368参照。TPOミメティックペプチドは、その開示(特に図5)の全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第20030049683号の図5に示されているアミノ酸配列を有し得る。
【0129】
患者からの生物学的試料中のPNH II型白血球のパーセンテージが約1.2%である場合、医師はまた、患者が血栓症を発症する危険度が増大していると決定し得る。医師は、次に、患者のために適切な抗血栓症療法を選択し得る。例えば、医師は患者に抗凝固薬または血栓溶解剤を選択、処方または投与し得る。抗凝固薬は、例えば、クマジン、ヘパリンまたはそれらの誘導体であり得る。血栓溶解剤は、例えば、組織プラスミノーゲン活性化因子(例えば、Retavase(商標)、Rapilysin(商標))、ストレプトキナーゼまたはウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子であり得る。
【0130】
一部の実施形態では、1.2%以上のPNH II型白血球集団または0.02%以上のPNH II型赤血球集団を有すると決定された患者は、PNHを有すると診断され得る。一部の実施形態では、PNHを有すると診断された患者または1.2%以上のPNH II型白血球集団または0.02%以上のPNH II型赤血球集団を有すると決定される、以前に診断されたPNH患者は、補体阻害剤を処方され得るおよび/または補体阻害剤で処置され得る。
【0131】
ヒト補体成分のいずれかに結合するまたはさもなければその生成および/もしくは活性をブロックする任意の化合物を本開示にしたがって利用し得る。例えば、補体の阻害剤は、例えば、低分子、核酸もしくは核酸類似体、ペプチドミメティック、または核酸もしくはタンパク質ではない高分子であり得る。これらの作用物質は、有機低分子、RNAアプタマー、L−RNAアプタマー、スピーゲルマー、アンチセンス化合物、二本鎖RNA、低分子干渉RNA、ロックト核酸阻害剤、およびペプチド核酸阻害剤を含むが、これらに限定されない。一部の実施形態では、補体阻害剤はタンパク質またはタンパク質フラグメントであり得る。
【0132】
一部の実施形態では、ヒト補体成分に特異的な抗体は本明細書において有用である。一部の化合物は、補体成分C1、C2、C3、C4、C5(またはそのフラグメント;下記参照)、C6、C7、C8、C9、D因子、B因子、P因子、MBL、MASP−1およびMASP−2に対する抗体を含み、したがってC5aに関連するアナフィラトキシン活性の生成を防ぐおよび/またはC5bに関連する膜攻撃複合体の構築を防ぐ。
【0133】
また、CR1、LEX−CR1、MCP、DAF、CD59、H因子、コブラ毒因子、FUT−175、コンプレスタチンおよびK76 COOHなどの天然または可溶性形態の補体阻害性化合物も本発明の方法において有用である。ヒト補体成分のいずれかに結合するまたはさもなければその生成および/または活性をブロックするために利用し得る他の化合物は、タンパク質、タンパク質フラグメント、ペプチド、低分子、ARC187(Archemix Corporation,Cambridge,MAから市販されている)、L−RNAアプタマー、スピーゲルマーを含むRNAアプタマー、アンチセンス化合物、セリンプロテアーゼ阻害剤、低分子干渉RNA(siRNA)、ロックト核酸(LNA)阻害剤、ペプチド核酸(PNA)阻害剤等を含む二本鎖RNAなどのRNA干渉(RNAi)に利用し得る分子を含むが、これらに限定されない。
【0134】
一部の実施形態では、補体阻害剤は補体の活性化を阻害する。例えば、補体阻害剤はC1(例えば、C1q、C1rもしくはC1s)に結合してその補体活性化活性を阻害し得るか、または補体阻害剤はC2、C3またはC4に結合してそれらを阻害し得る(例えばその切断を阻害し得る)。一部の実施形態では、阻害剤は、補体の選択的および/または古典的経路のC3コンベルターゼおよび/またはC5コンベルターゼの形成または構築を阻害する。一部の実施形態では、補体阻害剤は、末端補体形成、例えばC5b−9膜攻撃複合体の形成を阻害する。例えば、抗体補体阻害剤は抗C5抗体を含み得る。そのような抗C5抗体は、C5bの形成および/または生理的機能を阻害するように、C5および/またはC5bと直接相互作用し得る。例示的な抗C5抗体は、例えば、エクリズマブ(Soliris(登録商標);Alexion Pharmaceuticals,Inc.,Cheshire,CT;例えば、Kaplan(2002)Curr Opin Investig Drugs 3(7):1017−23;Hill(2005)Clin Adv Hematol Oncol 3(11):849−50;およびRotherら(2007)Nature Biotechnology 25(11):1256−1488参照)およびペキセリズマブ(Alexion Pharmaceuticals,Inc.,Cheshire,CT;例えばWhiss(2002)Curr Opin Investig Drugs 3(6):870−7;Patelら(2005)Drugs Today(Barc)41(3):165−70;およびThomasら(1996)Mol Immunol.33(17−18):1389−401参照)を含む。
【0135】
適切な抗血栓症療法および/または抗血小板減少症療法を、それを必要とする患者に投与するための方法は、医学の分野において周知である。
【0136】
一部の実施形態では、患者が血小板減少症または血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを決定するための方法は、コンピュータを援用することができる。例えば、前記方法は、PNH患者の医学的プロフィール、すなわち患者からの生物学的試料中の同じ組織型(同じ系統)の全白血球に対するPNH II型白血球のパーセンテージに関する情報を含むプロフィールを含むデータを受け取ること;および患者が血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを決定するための情報を含むデータの少なくとも一部を処理することを含み得る。別の例では、前記方法は、患者からの生物学的試料中の同じ組織型の全白血球に対するPNH II型白血球のパーセンテージに関する情報を提供すること;前記情報をコンピュータに入力すること;およびコンピュータと入力情報を使用して、患者が血栓症についての危険度が増大しているかどうかを示すパラメータを計算することを含み得る。血小板減少症または血栓症を発症することについての患者の相対的危険度を、コンピュータによって印刷物として出力し得るおよび/またはコンピュータ読取り可能媒体において保存し得る。
【0137】
キット
また、患者からの生物学的試料がPNH II型白血球集団を含むかどうかを決定するおよび/または患者が血小板減少症または血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを決定する際に使用するためのキットも本明細書で取り上げる。キットは、例えば、アエロリシンコンジュゲート(例えば非溶解性変異体アエロリシンタンパク質コンジュゲート)またはGPIアンカー型タンパク質に結合する抗体のコンジュゲートから選択される検出可能に標識されたコンジュゲートの1以上を含み得る。キットはまた、GPI発現細胞またはGPI結合粒子を含む対照試料;および場合により、GPI発現細胞の存在を検出するための指示書を含み得る。キットはまた、ヒトから生物学的試料(例えば血液試料)を得るための1以上の手段および/または上述したキット成分のいずれかを含み得る。
【0138】
以下の実施例は本発明を例示することを意図するものであり、本発明を限定することを意図しない。
【実施例】
【0139】
実施例1
試験材料および方法
PNH II型細胞およびPNH III型細胞の存在を試験するために合計2,921名の患者の末梢血試料を得た。血液試料を、EDTAを含む滅菌バイアルに導き入れた。
【0140】
各々の患者試料中に存在する正常白血球(I型細胞)、PNH II型およびPNH III型白血球のパーセンテージを決定するために、末梢血を以下のコンジュゲートの1以上と混合し、染色した:Alexa Fluor(登録商標)488に複合した非溶解型アエロリシン変異体タンパク質(Protox Biotech FL2−S)、フィコエリトリン(PE)に複合した抗CD24抗体(Beckman CoulterクローンALB9)、PC5に複合した抗CD15抗体(クローン80H5)、およびPC7に複合した抗CD45抗体(クローンJ.33)。血液を上記試薬の1以上と共に室温で15〜30分間インキュベートした後、血液をImmunoprep(商標)(Beckman Coulter)で溶解し、PBA緩衝液(リン酸緩衝食塩水、1%ウシ血清アルブミンおよび10mM NaN)で2回洗浄した。次に細胞をPBA緩衝液に再懸濁し、FC 500フローサイトメータ(Beckman Coulter)を用いて分析した。PNH II型またはIII型顆粒球集団が同定された場合は、単球も、単球への系統特異的ゲーティングを可能にする、以下のコンジュゲートの1以上と接触させた患者血液を使用してII型またはIII型集団に関して調べた:Alexa Fluor(登録商標)488に複合した非溶解型アエロリシン変異体タンパク質(Protox Biotech FL2−S)、フィコエリトリン(PE)に複合したCD33に結合する抗体(クローンD3HL60.251)、ECDに複合したCD14に結合する抗体(クローンRM052)、PC5に複合したCD64に結合する抗体(クローン22)、およびPC7に複合したCD45に結合する抗体(クローンJ.33)。
【0141】
正常赤血球(I型細胞)、PNH II型およびPNH III型赤血球のパーセンテージを決定するために、EDTA中20μlの末梢血を3mLのリン酸緩衝食塩水(PBS)中に入れ、十分に混合した。50μlの希釈患者血液を以下のコンジュゲートの1以上と接触させた:FITCに複合した抗CD235a抗体(Beckman Coulterクローン11E4B−7−6/KC 16)およびPEに複合した抗CD59抗体(Invitrogen Clone MEM−43)。血液とコンジュゲートを暗所にて室温で1時間、15分ごとにボルテックスしながらインキュベートした。1時間のインキュベーション後、血液をPBSで2回洗浄し、PBSに再懸濁して、FC 500フローサイトメータ(Beckman Coulter)で分析した。
【0142】
実施例2
PNHに関する診断試験に供した2,921名の患者からの全血試料を、白血球(特に顆粒球)上のGPIおよびGPIアンカー型タンパク質の発現レベルを検出し、それによって各々の試料中のI型、PNH II型およびPNH III型白血球(顆粒球)集団を決定するために、高感度フローサイトメトリに基づくアッセイを使用して分析した。前記アッセイを、各々の患者試料中のI型、PNH II型およびPNH III型赤血球集団を検出するためにも使用した。前記方法は、蛍光標識した非溶解性アエロリシンタンパク質変異体を、特定のGPIアンカー型系統特異的タンパク質抗原に対する抗体と共に用いた。1つの患者試料の例示的なフローサイトメトリ分析を図1に示す。全血試料からの細胞を蛍光標識アエロリシン試薬(Alexa Fluor)およびGPIアンカー型タンパク質CD24に結合するフィコエリトリン(PE)標識抗体と接触させた。全血試料の細胞をフローサイトメトリ分析に供し、その中の顆粒球を、顆粒球の表面に結合した各試薬から検出されたシグナルの量に基づいて提示した。図1に示すように、AlexaFluorおよびPE標識物から検出された最も増大している量のシグナルを有する顆粒球(右上;I型細胞)が、非常に低いシグナルを有するかまたはシグナルが存在しない顆粒球の集団(左下;III型顆粒球)および中間的な量のシグナルを生じる顆粒球(中央の集団;II型顆粒球)から分離された。
【0143】
PNH赤血球集団を2つの試薬:CD235に結合する検出可能標識抗体およびCD59に結合する検出可能標識試薬を使用して調べた。PNH白血球集団を、検出可能標識アエロリシンタンパク質およびCD24、CD14、CD16、CD66bおよびCD55を含むGPIアンカー型系統特異的細胞表面タンパク質に対するいくつかの抗体を使用して調べた。
【0144】
患者試料のうち216は、検出可能なPNH III型顆粒球集団を有しており、これは試料中の顆粒球の総数の>0.01%であり、少なくとも50のPNH III型顆粒球の絶対数であった。いくつかのパラメータ(例えば、ヘモグロビンレベル、LDHレベルおよび血小板数)に関する臨床情報が、これらの患者のうち162名について得られた(表1参照)。
【0145】
【表1】

臨床情報が得られた患者からの試料のうちで、19(8.8%)の患者試料は、全顆粒球集団の1.2〜65.3%の範囲の明確なII型顆粒球集団を含み、クローンサイズのメジアンは約7%であった。19の患者試料のうち4では、II型顆粒球集団は全異常集団(例えば、PNH II型およびIII型細胞)の>50%を占めた。19の患者試料のうち10では、PNH II型単球集団も検出された。顆粒球上で認められる個々のGPI連結タンパク質に特異的な様々な抗体の、PNH II型顆粒球を検出する能力の評価は、II型顆粒球集団が、検出可能標識アエロリシン試薬を使用したすべての症例において検出可能であったが、CD66b(88%)、CD55(50%)、CD24(47%)およびCD16(0%)に特異的な抗体を使用すると検出可能な症例の割合は低下した(表2参照)。これらの結果は、アエロリシンに基づくコンジュゲートは患者試料においてPNH II型顆粒球集団を正確に検出するために特に有用であることを示す。
【0146】
【表2】

PNH II型顆粒球集団を含む患者試料は、II型顆粒球を有さない患者試料よりも有意に大きな、PNH II型とPNH III型を合わせた全顆粒球集団のメジアン(87%対11%;p=0.0003)、ならびにより大きなII型およびIII型RBC集団メジアンを有しており、これは、全体としてより大きなPNH細胞集団を有する患者試料においてPNH II型白血球集団を検出する、前記方法の増大している能力を反映する。
【0147】
臨床データと比較した後、PNH II型顆粒球集団を有する患者試料はまた、より低い血小板(plt)数のメジアン(54×10/L;p<0.01)を有することが発見された。図2参照。PNH II型顆粒球集団を有する患者試料は、検出可能なII型顆粒球集団を有さない患者試料と比較して、類似の末梢白血球数、末梢赤血球数、絶対好中球数およびヘモグロビン(Hgb)レベルを有しており(表1)、血小板数の差は、基礎にある骨髄産生の差によるものではない可能性が高いことを示した。言い換えると、本開示は決していかなる特定の理論または作用機構にも限定されるものではないが、PNH患者はGPI連結補体調節タンパク質CD55およびCD59の欠如による補体調節機能不全を有するので、検出可能なPNH II型顆粒球クローンを有する患者において認められた低い血小板数は、PNH患者における死亡の主要原因である血栓症に結びつき得る、末端補体介在性血小板消費または破壊の上昇によるものであると考えられる。
【0148】
本開示は、その特定の実施形態を参照して説明されているが、本開示の真の精神および範囲から逸脱することなく様々な変更を行い得ることおよび等価物で置換され得ることが当業者に理解されるはずである。加えて、特定の状況、材料、物質の組成、工程、1以上の工程段階を本開示の目的、精神および範囲に適合させるために多くの修正を行い得る。すべてのそのような修正は本開示の範囲内であることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者が血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを予測するための方法であって、
患者からの生物学的試料中の同じ組織型の全白血球に対するPNH II型白血球のパーセンテージを決定すること;および
該患者が血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを予測することであって、ここで、PNH II型白血球のパーセンテージが1.2%以上である場合、該患者は血栓症を発症する危険度が増大していること
を含む、方法。
【請求項2】
前記白血球が顆粒球である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記白血球が単球である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記生物学的試料が全血試料である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記患者から前記生物学的試料を得ることをさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
1.2%〜65.3%(1.2%および65.3%を含む)であるPNH II型白血球集団は、前記患者は血栓症の危険度が増大していることを示す、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
5%以上であるPNH II型白血球集団は、前記患者は血栓症の危険度が増大していることを示す、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
10%以上であるPNH II型白血球集団は、前記患者は血栓症の危険度が増大していることを示す、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
20%以上であるPNH II型白血球集団は、前記患者は血栓症の危険度が増大していることを示す、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
50%以上であるPNH II型白血球集団は、前記患者は血栓症の危険度が増大していることを示す、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記患者が血栓症を発症する危険度が増大している場合、血栓症の少なくとも1つの症状の発症に関して前記患者をモニタリングすることをさらに含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記患者が血栓症を発症する危険度が増大している場合、前記患者のための抗血栓症療法を選択することをさらに含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記抗血栓症療法が抗凝固薬または血栓溶解剤である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記抗凝固薬がクマジン、ヘパリンまたはそれらの誘導体である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記血栓溶解剤が組織プラスミノーゲン活性化因子、ストレプトキナーゼまたはウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記患者が血栓症を発症する危険度が増大している場合、該患者に抗血栓症療法を投与することをさらに含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
1.2%以上のPNH II型白血球集団を有すると決定された患者のために抗血栓症療法および抗血小板減少症療法の一方または両方を選択することを含む、患者のために療法を選択するための方法。
【請求項18】
患者を処置するための方法であって、該患者が1.2%より高いPNH II型白血球集団を有する場合、抗血栓症療法および抗血小板減少症療法の一方または両方を、処置を必要とする患者に投与することを含む、方法。
【請求項19】
前記抗血栓症療法が抗凝固薬または血栓溶解剤である、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記抗血小板減少症療法が血小板輸血である、請求項17〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
患者が血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを決定するためのコンピュータベースの方法であって、
PNH患者の医学的プロフィールを含むデータを受け取ることであって、該プロフィールが、該患者からの生物学的試料中の同じ組織型の全白血球に対するPNH II型白血球のパーセンテージに関する情報を含む、こと;および
該患者が血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを決定するための情報を含むデータの少なくとも一部を処理することであって、II型白血球のパーセンテージが1.2%以上である場合、該患者は血栓症を発症する危険度が増大している、こと
を含む方法。
【請求項22】
患者が血栓症を発症する危険度が増大しているかどうかを決定するためのコンピュータベースの方法であって、
該患者からの生物学的試料中の同じ組織型の全白血球に対するPNH II型白血球のパーセンテージに関する情報を提供すること;
該情報をコンピュータに入力すること;および
該コンピュータおよび該入力情報を使用して、該患者が血栓症についての危険度が増大しているかどうかを示すパラメータを計算することであって、II型白血球のパーセンテージが1.2%以上である場合、該患者は血栓症を発症する危険度が増大している、こと
を含む方法。
【請求項23】
PNH II型白血球のパーセンテージを決定するために非溶解バリアント型のアエロリシンタンパク質を使用する、請求項1〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
PNH II型白血球を同定するための方法であって、
複数の白血球を、(i)GPIまたは(ii)GPIアンカー型タンパク質に結合する試薬と接触させること;および
該白血球に結合した試薬の量に基づいて該白血球のうちの1以上をPNH II型白血球と同定することであって、PNH III型白血球への該試薬の結合の量およびI型白血球への該試薬の結合の量と比較して中間的な量の、白血球への該試薬の結合は、該白血球がPNH II型白血球であることを示す、こと
を含む方法。
【請求項25】
白血球集団を区別するための方法であって、
複数の白血球を、(i)GPIまたは(ii)GPIアンカー型タンパク質に結合する試薬と接触させること;ならびに
該白血球に結合した試薬の量に基づいて該複数の白血球のうちの少なくとも一部の白血球を他の白血球から区別することであって、PNH II型白血球は、存在する場合、該複数の白血球中の同じ組織型の全白血球に対するPNH II型白血球のパーセンテージを決定することを可能にするために、同じ組織型のI型白血球およびPNH III型白血球から十分に区別されること
を含む方法。
【請求項26】
前記複数の白血球中の同じ組織型の全白血球に対するPNH II型白血球のパーセンテージを決定することをさらに含む、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
PNH II型白血球のパーセンテージを決定するための方法であって、
(i)GPIまたは(ii)GPIアンカー型タンパク質に結合する試薬と接触させた複数の白血球を提供すること;
該白血球に結合した試薬の量に基づいて該複数の白血球のうちの少なくとも一部の白血球を他の白血球から区別することであって、該PNH II型白血球は、存在する場合、複数の白血球中の同じ組織型の全白血球に対するPNH II型白血球のパーセンテージを決定することを可能にするために、同じ組織型のI型白血球およびPNH III型白血球から十分に区別されること;ならびに
PNH II型白血球のパーセンテージを決定すること
を含む方法。
【請求項28】
PNH III型白血球のパーセンテージを決定することをさらに含む、請求項26または27に記載の方法。
【請求項29】
前記区別することがフローサイトメトリを含む、請求項25〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記複数の白血球が、PNHを有するか、PNHを有することが疑われるか、またはPNHを発症する危険性がある患者から得られたものである、請求項24〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
PNH II型白血球のパーセンテージを記録することをさらに含む、請求項26〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記記録がコンピュータ読取り可能媒体においてである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記試薬がヒトGPI部分に結合する、請求項24〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記試薬がアエロリシンタンパク質を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記試薬が、野生型のアエロリシンタンパク質と比較して非溶解性であるかまたは実質的に非溶解性であるバリアント型のアエロリシンタンパク質を含む、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
前記試薬が、253位のトレオニンがシステインで置換され、そして300位のアラニンがシステインで置換されている、配列番号2または7に示すアミノ酸配列を含む、請求項33〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記試薬が抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
前記試薬がGPIアンカー型タンパク質に結合する、請求項24〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記GPIアンカー型タンパク質が、アルカリホスファターゼ、5’ヌクレオチドアーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、ジペプチダーゼ、LFA−3、NCAM、PH−20、CD55、CD59、Thy−1、Qa−2、CD14、CD33、CD16(Fcγ受容体III)、癌胎児性抗原(CEA)、CD24、CD66b、CD87、CD48およびCD52からなる群より選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記試薬が抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項38または39に記載の方法。
【請求項41】
前記複数の白血球を、GPIに結合する試薬およびGPI連結タンパク質に結合する試薬と接触させる、請求項24〜40のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−510325(P2013−510325A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538081(P2012−538081)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/055997
【国際公開番号】WO2011/057250
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(503102674)アレクシオン ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (51)
【Fターム(参考)】