説明

POD型推進装置および船舶

【課題】効率の良いエネルギ回収が可能になるPOD型推進装置、および該POD型推進装置を有する船舶を提供する。
【解決手段】POD型推進装置10は、ポッド本体3の側面にはポッド本体3の軸方向に平行で、ポッド本体3の側面の法線方向に位置するように、略矩形板からなる大型翼5aおよび小型翼5bが固定されている。大型翼5aと小型翼5bとは、プロペラ4の中心(ポッド本体3の中心に同じ)を挟んで互いに対称の位置に(水平に相当する)配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPOD型推進装置および船舶、特に、船舶に設置され、ポッドがプロペラ後流の中に位置することになるトラクター型のPOD型推進装置と、該POD型推進装置を有する船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶のPOD型推進装置は、船体の下方に突き出すように設置されるものであって、流線形の収納容器(以下、「ポッド」と称す)と、ポッドの先端側に形成された回転部(以下、「ハブ」と称す)と、ハブに固定されたプロペラと、ポッドを船体に固定するストラットと、ポッドに収納されたプロペラ回転手段または船体側からプロペラに回転を伝達する回転伝達手段と、を有している。
そして、プロペラによってその後方に形成された流体の流れ(以下、「プロペラ後流」と称す)は、ポッドにまとわりつくように螺旋状を呈するとの認識の元に、推進性能の向上を図ろうとする発明が開示されている(例えば、特許文献1〜5参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−249874号公報(第3−4頁、図1)
【特許文献2】特開2003−200892号公報(第3−4頁、図2)
【特許文献3】特開2003−200891号公報(第3−4頁、図3)
【特許文献4】特開平7−1956085号公報(第3−4頁、図1)
【特許文献5】特開2004−90841号公報(第4−5頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1−5に記載された発明は、何れもプロペラに形成される一方向に旋回する旋回流(以下「プロペラ旋回流」と称す)にのみ着目し、これを回収するために左右対称に翼を設置したものであった。
ところが、実際は、ポッドの周囲には、船体が発生する縦渦(左右略対称)とプロペラ旋回流とが合わさった左右非対称な旋回流が生じている。このため、一方の側面で旋回流の回収に好適な形状にしても、他方の側面ではかえって翼自体の抵抗になり、所望のエネルギ回収ができないという問題があった。
また、翼形状のフィンは製作が困難であるため、製造コストが上昇するという問題があった。
【0005】
本発明は上記問題を解決するものであって、効率の良いエネルギ回収が可能になるPOD型推進装置、および該POD型推進装置を有する船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係るPOD型推進装置は、船体に設置されたストラットと、
該ストラットに固定されたポッドと、
該ポッドの先端側に回転自在に設置されたプロペラと、
該プロペラを回転させる回転手段または回転伝達手段と、
前記船体が形成する船体縦渦の方向と前記プロペラが形成するプロペラ旋回流の方向とが略同じになる前記ポッドの側面に設置された大型翼と、
前記船体が形成する船体縦渦の方向と前記プロペラが形成するプロペラ旋回流の方向とが同反対になる前記ポッドの側面に設置された、前記大型翼よりも小さな小型翼と、
を有することを特徴とする。
【0007】
(2)前記大型翼および前記小型翼が、平面視において略矩形状の断面矩形の板材によって形成されてなることを特徴とする。
【0008】
(3)本発明に係る船舶は、船体と、
該船体に設置された前記(1)または(2)記載のPOD型推進装置と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るPOD型推進装置および船舶は以上の構成であるから、以下の効果を奏する。
(i)非対称な旋回流に直目して、船体縦渦とプロペラ旋回流とが合わさった大きな旋回流(下降流、場合によっては上昇流)の側には大型翼を配置して、大きな揚力を得ることによって推力を大きくし、反対に、船体縦渦とプロペラ旋回流とが打ち消しあった小さな旋回流(上昇流、場合によっては下降流)の側には小型翼を配置して、翼自体の摩擦抵抗や形状抵抗を小さくしているから、船体が形状抵抗として失ったエネルギもプロペラ後流の旋回エネルギと同時に回収することが可能になる。よって、大きなエネルギを回収することができるから、推進効率が向上する。
(ii)前記大型翼および前記小型翼が、略矩形状の板材(通常の鋼板を切り出したもの)によって形成されるから、製造コストが格段に安価になる。
【0010】
(iii)本発明に係る船舶は、前記効果を奏する前記(1)または(2)記載のPOD型推進装置を有するから、推進性能が向上し、さらに、製造コストを低く抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[実施形態1:一軸船]
図1は、本発明の実施形態1に係るPOD型推進装置を説明するものであって、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は平面図である。なお、各図において、それぞれの部材は模式的に示されているため、その寸法等は図示されたものに限定されるものではない。
【0012】
(POD型推進装置)
図1において、POD型推進装置10は、船舶の船体1に設置されるものであって、プロペラ4と、プロペラ4を具備するポッド本体3と、ポッド本体3を船体1に設置するためのストラット2と、を有している。
ポッド本体3は、船首側に紡錘状のハブ(ポッド後端部)3aと、船尾側に紡錘状のコーン(ポッド後端部)3cと、円筒状または樽状のポッド中央部3bと、を具備している。そして、プロペラ4によってポッド本体3に向かう水流が形成されるもの、すなわち、プロペラ4によってポッド本体3が牽引されるものである。
なお、本発明はプロペラ4を回転する機構を限定するものではなく、ポッド本体3内に回転駆動手段が配置されたものでも、船体1に設置された回転駆動手段からの回転をストラット2を経由して伝達するものであってもよい。
【0013】
(VANE)
ポッド本体3の側面にはポッド本体の軸方向に平行で、ポッド本体の側面の法線方向に位置するように、略矩形板からなる大型翼5aおよび小型翼5bが固定されている。大型翼5aと小型翼5bとは、プロペラ4の中心(ポッド本体3の中心に同じ)を挟んで互いに対称の位置に(水平に相当する)配置されている。
なお、本発明は、大型翼5aおよび小型翼5bが水平であるものに限定するものではなく、流れに対して所定の仰角を設けて配置されたものであってもよい。
【0014】
ポッド本体3は、船首側に紡錘状のハブ(ポッド後端部)3aと、船尾側に紡錘状のコーン(ポッド後端部)3cと、円筒状または樽状のポッド中央部3bと、を具備している。なお、本発明はプロペラ4を回転する機構を限定するものではなく、ポッド本体3内に回転駆動手段が配置されたものでも、船体1に設置された回転駆動手段からの回転をストラット2を経由して伝達するものであってもよい。
【0015】
(旋回流)
図2および図3は、本発明の実施形態1に係るPOD型推進装置の周囲の流れを説明するためのものであって、図2の(a)は船尾縦渦を模式的に示す背面図、図2の(b)はプロペラ旋回流を模式的に示す背面図、図2の(c)は船尾縦渦とプロペラ旋回流が合わさった合計旋回流を模式的に示す背面図、図3は合計旋回流の計測結果を示す背面図である。
図2の(a)において、船体1の船尾には、船体中央に向かって巻き込むような船尾縦渦Sa、Sbが形成される。船尾縦渦Saと船尾縦渦Sbとは左右略対称であって、ポッド本体3の両側では下降流が形成されている。
図2の(b)において、プロペラ4が時計回りに回っているため、プロペラ旋回流Pも又、時計回りの流れに形成されている。すなわち、ポッド本体3の右側(右舷側に同じ)では下降流が、ポッド本体3の左側(左舷側に同じ)では上昇流が、それぞれ形成されている。
図2の(c)および図3において、船尾縦渦Sa、Sbがプロペラ旋回流Pによって捩られ、大小2つの合計旋回流Ca、Cbになっている。すなわち、ポッド本体3の右側では強い下方向の合計旋回流Caが形成され、一方、ポッド本体3の左側では緩やかな略一様な上方向の合計旋回流Cbがそれぞれ形成されている。
【0016】
(作用)
図4は、本発明の実施形態1に係るPOD型推進装置の作用を説明するためのものであって、(a)は背面図、(b)は側面図である。
図4において、ポッド本体3の右舷側には、大型翼5aが設置されているから、前記強い下方向の合計旋回流Saによって、大きな揚力Faが生じる。よって、揚力Faの水平方向成分として大きな推力Daが得られる。
一方、ポッド本体3の左舷側には、小型翼5bが設置されているから、前記緩やかな上方向の合計旋回流Sbによって、小さな揚力Fbが生じる。よって、揚力Fbの水平方向成分として小さな推力Dbが得られる。このとき、小型翼5bにかかる荷重度は小さく、剥離のおそれも小さい。また、翼自体の摩擦抵抗や形状抵抗が小さく抑えられるため、全体として推力Dbは小さいものの、推進効率を高めている。
【0017】
すなわち、POD型推進装置10は、船体が作る船体縦渦の影響を考慮して、左右非対称の大型翼5aおよび小型翼5bを対向する位置に配置しているから、船体1の形状抵抗として失ったエネルギとプロペラ後流の旋回エネルギとの両方を同時に回収することができるから、高い推進効率を得ることができる。
なお、以上は、大型翼5aおよび小型翼5bをそれぞれ1枚のみ有する場合を示しているが、本発明はこれに限定するものではなく、一方または両方が複数枚であってもよい。
【0018】
なお、大型翼5aおよび小型翼5bの大きさの割合等は限定するものではなく、合計旋回流SaSbの相違の程度に応じて適宜決定されるものである。
なお、何れの側を大型翼5a(小型翼5b)にするのかを決定するには、プロペラが船尾から見て時計回りの場合、以下の式1によって定義される循環「ΓPDO」の正負による。
すなわち、「ΓPDO ≧0」のとき、左舷側を小型翼5bに、右舷側を大型翼5aにする。一方、「ΓPDO <0」のとき、左舷側を大型翼5aに、右舷側を小型翼5bにする。
なお、式1において循環を示すΓportおよびΓhullについては、船尾から見て時計回りの循環を正とし、反時計回りを負とする。
【0019】
【数1】

【0020】
[実施形態2:二軸船]
図5は、本発明の実施形態2に係るPOD型推進装置を説明する背面図である。なお、実施の形態1と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、一部の説明を省略する。また、それぞれの部材は模式的に示されているため、その寸法等は図示されたものに限定されるものではない。
【0021】
(POD型推進装置)
図5において、POD型推進装置20は、左弦寄りに配置されたPOD型推進装置10PORTと、右弦寄りに配置されたPOD型推進装置10STBとから形成されている。POD型推進装置10PORTおよびPOD型推進装置10STB は、POD型推進装置10(実施の形態1)に同じであるから、共通する内容については説明を省略する。
すなわち、船体6には、左舷寄りには時計回りに回転するプロペラ(図示しない)と、右舷寄りには反時計回りに回転するプロペラ(図示しない)と、が設置されている。
【0022】
したがって、左舷寄りのPOD型推進装置10PORTの回りには、時計回りのプロペラ旋回流PPORTと、時計回りの船尾縦渦SPORTと、が形成され、船体6の幅方向の中央側で強い下降流が生じ、左舷側で緩やかな上昇流が生じている。このため、船体6の幅方向の中央側には大型翼5aが、左舷側には小型翼5bが、それぞれ設置されている。
一方、右舷寄りのPOD型推進装置10STBの回りには、反時計回りのプロペラ旋回流PSTBと、反時計回りの船尾縦渦SSTBと、が形成され、船体6の幅方向の中央側で強い下降流が生じ、左舷側で緩やかな上昇流が生じている。このため、船体6の幅方向の中央側には大型翼5aが、左舷側には小型翼5bが、それぞれ設置されている。
【0023】
よって、POD型推進装置20は、POD型推進装置10(実施の形態1)と同じ理由により、船体が作る船体縦渦の影響を考慮して、左右非対称の大型翼5aおよび小型翼5bを対向する位置に配置しているから、船体6の形状抵抗として失ったエネルギとプロペラ後流の旋回エネルギとの両方を同時に回収することができるから、高い推進効率を得ることができる。
【0024】
なお、二軸船の左舷寄りに配置されたPOD型推進装置10PORTおよび右舷寄りに配置されたPOD型推進装置10STBのそれぞれにおいて、何れの側を大型翼5a(小型翼5b)にするのかを決定するには、プロペラが船尾から見て時計回りの場合、以下の式2によって定義される循環「ΓPDO_PORT」の正負、および以下の式3によって定義される循環「ΓPDO_STB」の正負、による。
すなわち、左舷寄りのPOD型推進装置10PORTにおいて、「ΓPDO_PORT ≧0」のとき、左舷側を小型翼5bに、船体中央側を大型翼5aにする。一方、「ΓPDO_PORT <0」のとき、左舷側を大型翼5aに、船体中央側を小型翼5bにする。
また、右舷寄りのPOD型推進装置10STBにおいて、「ΓPDO_STB ≧0」のとき、船体中央側を大型翼5aに、右舷側を小型翼5bにする。一方、「ΓPDO_STB <0」のとき、船体中央側を小型翼5bに、右舷側を大型翼5aにする。
なお、式2において循環を示すΓportおよびΓhullについては、左舷側は船尾から見て時計回りの循環を正とし、反時計回りを負とし、一方、右舷側は船尾から見て時計回りを負とし、反時計回りを正とする。
【0025】
【数2】

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は以上の構成であって、効率の良いエネルギ回収が可能になるから、各種POD型推進装置、およびこれを有する各種船舶として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態1に係るPOD型推進装置を説明する三面図。
【図2】図1に示すPOD型推進装置の周囲の船尾縦渦、プロペラ旋回流および合計旋回流を模式的に示す背面図。
【図3】図1に示すPOD型推進装置の周囲の合計旋回流の計測結果を示す背面図。
【図4】図1に示すPOD型推進装置の作用を説明するための背面図および側面図。
【図5】本発明の実施形態2に係るPOD型推進装置を説明する背面図。
【符号の説明】
【0028】
1 船体(実施の形態1)
2 ストラット
3 ポッド本体
4 プロペラ
5a 大型翼
5b 小型翼
6 船体(実施の形態2)
10 POD型推進装置(実施の形態1)
20 POD型推進装置(実施の形態2)
10PORT POD型推進装置(左舷寄り)
10STB POD型推進装置(右弦寄り)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に設置されたストラットと、
該ストラットに固定されたポッドと、
該ポッドの先端側に回転自在に設置されたプロペラと、
該プロペラを回転させる回転手段または回転伝達手段と、
前記船体が形成する船体縦渦の方向と前記プロペラが形成するプロペラ旋回流の方向とが略同じになる前記ポッドの側面に設置された大型翼と、
前記船体が形成する船体縦渦の方向と前記プロペラが形成するプロペラ旋回流の方向とが同反対になる前記ポッドの側面に設置された、前記大型翼よりも小さな小型翼と、
を有することを特徴とするPOD型推進装置。
【請求項2】
前記大型翼および前記小型翼が、平面視において略矩形状の断面矩形の板材によって形成されてなることを特徴とする請求項1記載のPOD型推進装置。
【請求項3】
船体と、
該船体に設置された請求項1または2記載のPOD型推進装置と、
を有することを特徴とする船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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