PTFE多孔体、絶縁電線・ケーブル
【課題】高気孔率を保持することができるとともに、引張強度にも優れたPTFE多孔体、及び、このPTFE多孔体を絶縁体とした絶縁電線・ケーブルを提供する。
【解決手段】370℃から390℃の範囲で吸熱現象を示すことを特徴とするPTFE多孔体。延伸法によらず、造孔剤の除去によって多孔化されていることを特徴とする上記PTFE多孔体。中心導体の周上に、上記PTFE多孔体からなる絶縁体が形成されてなる絶縁電線。上記絶縁電線と、上記絶縁電線の絶縁体の周上に形成された外部導体とからなる同軸ケーブル。
【解決手段】370℃から390℃の範囲で吸熱現象を示すことを特徴とするPTFE多孔体。延伸法によらず、造孔剤の除去によって多孔化されていることを特徴とする上記PTFE多孔体。中心導体の周上に、上記PTFE多孔体からなる絶縁体が形成されてなる絶縁電線。上記絶縁電線と、上記絶縁電線の絶縁体の周上に形成された外部導体とからなる同軸ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(以下、PTFEと記す)からなる多孔体、及び、このPTFE多孔体を絶縁体とした絶縁電線・ケーブルに係り、特に、高気孔率を保持することができるとともに、引張強度にも優れたものに関する。
【背景技術】
【0002】
PTFEは、耐熱性、耐薬品性に優れ、且つ比誘電率、エネルギー損失角などの電気特性に優れるため、電線被覆材、通信ケーブルの誘電体、フィルタ、ガスケット、断熱材、分離膜、人工血管、カテーテル、培養器など多くの用途に使用されている。特に、多孔質とすることで、素材の軽量化や使用量の低減がなされる上、通信ケーブルなどにおいては誘電率を低下させることができ、また、高温における断熱性を向上させることができるため、PTFE多孔体が望まれている。
【0003】
PTFEを多孔化させる技術としては、種々の技術が知られているが、バルク状のペースト押出成形が可能であり、残留応力が小さく形状が安定しており、且つ、気孔率60%を超えるような高い気孔率の素材を得ることのできる技術として、例えば、特許文献1〜4が挙げられる。この特許文献1〜4には、PTFEにショウノウやジカルボン酸等の揮発成分を造孔剤として混合し、この造孔剤を除去することでPTFEを多孔化させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−336459公報:クラベ
【特許文献2】特開2007−153967公報:クラベ
【特許文献3】国際公開WO2008/035682公報:クラベ
【特許文献4】特開2009−197147公報:クラベ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなPTFE多孔体は、高気孔率にすることができるが故、柔軟なものとなり、加圧等による凹みや外傷を受けやすいものであった。そのため、絶縁電線とした場合には、加圧等を受け難い用途などに適用範囲が制約されてしまう場合があった。また、この絶縁電線の外周に金属線編組による外部導体を形成し同軸ケーブルとして使用する際には、金属線がPTFE多孔体からなる絶縁体に食い込んでしまわないように編組する条件を厳密に制御する必要があった。また、高気孔率とすることで、単位断面積当たりにPTFEが占める割合が減少することから、引張強度も低下する傾向がある。そのため、例えば押出成形をする際には、成形中に樹脂が切れてしまう場合もあった。また、PTFEを焼成する際に気孔が潰れて気孔率が若干低下するという問題もあった。
【0006】
本発明はこのような従来技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、特に、高気孔率を保持することができるとともに、引張強度にも優れたPTFE多孔体、及び、このPTFE多孔体を絶縁体とした絶縁電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、種々検討の結果、PTFEに従来知られていた340℃付近の未焼成PTFEの融点による吸熱現象、及び、320℃付近の焼成PTFEの融点による吸熱現象の他に、更に高温部(370〜390℃)に吸熱現象を示すPTFE多孔体により上記の課題を解決することを見出した。
即ち、上記目的を達成するべく、本発明の請求項1によるPTFE多孔体は、
370℃から390℃の範囲で吸熱現象を示すことを特徴とするものである。
又、請求項2記載のPTFE多孔体は、延伸法によらずに多孔化されていることを特徴とするものである。
又、請求項3記載のPTFE多孔体は、造孔剤の除去によって多孔化されていることを特徴とするものである。
又、請求項4記載の絶縁電線は、中心導体の周上に、上記PTFE多孔体からなる絶縁体が形成されてなるものである。
又、請求項5記載の同軸ケーブルは、上記絶縁電線と、上記絶縁電線の絶縁体の周上に形成された外部導体とからなるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、370℃から390℃の範囲で吸熱現象を示すPTFE(以下、370℃から390℃の範囲での吸熱現象を高温吸熱現象と記す)であることにより、未焼成の状態でも引張強度の高い素材となり、例えば、押出成型をした際にも、成形時の樹脂の切れや外観の荒れを防止することができる。また、焼成時の気孔の破壊が抑制され、高気孔率を保持することができるとともに、焼成時の強度を向上させることができ、加圧等による凹みや外傷に抗することができるようになる。この効果はどのような焼成状態であっても反映させることができる。
【0009】
高温吸熱現象を示す構造については明らかになっていないが、高度に配向した高融点の新たな形態の結晶(以下、高温結晶と記す)と考えられる。この高温結晶により、PTFEに補強効果を与える他、気孔の破壊を抑制することができると考えられる。気孔の破壊を抑制する作用機構についても明らかになっていないが、高温結晶が造孔剤の周囲に形成されることで、造孔剤の除去、或いは、焼成時のPTFEの融解と冷却の収縮による応力に対し、この高温結晶が柱のように作用して気孔の破壊を抑制すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による実施例を表わす図で、絶縁電線の構成を示す一部切欠き斜視図である。
【図2】本発明による他の実施例を表わす図で、同軸ケーブルの構成を示す一部切欠き斜視図である。
【図3】本発明の実施例1によるPTFE多孔体の結晶融解曲線である。
【図4】本発明の実施例2によるPTFE多孔体の結晶融解曲線である。
【図5】本発明の実施例3によるPTFE多孔体の結晶融解曲線である。
【図6】本発明の実施例4によるPTFE多孔体の結晶融解曲線である。
【図7】本発明の実施例5によるPTFE多孔体の結晶融解曲線である。
【図8】本発明の比較例1によるPTFE多孔体の結晶融解曲線である。
【図9】本発明の比較例2によるPTFE多孔体の結晶融解曲線である。
【図10】本発明の比較例3によるPTFE多孔体の結晶融解曲線である。
【図11】本発明の比較例4によるPTFE多孔体の結晶融解曲線である。
【図12】本発明の比較例5によるPTFE多孔体の結晶融解曲線である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
PTFE多孔体は、例えば、以下のような製造方法で作成することができる。まず、PTFE粉末と造孔剤と成形助剤とを混合したPTFE混合物を加圧成形してPTFEプリフォームを作成し、このPTFEプリフォームをペースト押出により所定形状に成形する。このPTFE混合物の成形体について、造孔剤を除去することによって気孔を形成し、PTFE多孔体とする。
【0012】
PTFE粉末としては、例えば、乳化重合によって得られたファインパウダーや懸濁重合によって得られたモールディングパウダーが挙げられる。これらの内、繊維化しやすく、それにより得られる成形体の強度が向上するファインパウダーが、本願発明で好ましく使用される。一般的なPTFEファインパウダーは、平均粒径約0.2μmの一次粒子が凝集してなる平均粒径約600μmの二次粒子からなるものである。PTFE混合物中のPTFE粉末の含有割合が40%を下回る場合、PTFE同士の結合が弱く、成形中および焼成後に素材が裂けやすくなる傾向がある。これを防止するため、平均二次粒径が100μm以下のPTFE粉末を用いることにより、PTFEの結合点を増やし、機械的強度を向上させることで、より裂け難くすることができる。特に、押出成形をする場合は、長手方向は繊維化して成形上十分な強度を有するが、横方向に対しては繊維間の結合が弱く、ペースト成形中および焼成後に素材が裂けやすくなる傾向がある。このように、ファインパウダーによる繊維化と、平均二次粒径100μm以下にすることによる結合点の増加との相乗効果により、PTFE多孔体の機械的強度は格段に向上することになる。更に、PTFE粉末が二次粒径30μm以下の粉体を主体としていれば、例え、粗大なPTFE粉末が存在したとしても、その周囲を二次粒径の細かい粉体が取り囲み、PTFE粉末同士の結合点は増加することになる。そのため、これによってもPTFE多孔体の機械的強度は格段に向上することになる。なお、ここでいう「PTFE粉末が二次粒径30μm以下の粉体を主体とする」とは、PTFE粉末全体の中で、二次粒径30μm以下の粉体の個数が過半数を超える程度であることを示す。
【0013】
本発明において、PTFE粉末と混合される造孔剤は、容易にPTFE混合物から除去できるものであれば特に限定はない。造孔剤を除去する方法としては、設備の簡便さから加熱により造孔剤を気化や熱分解させることが好ましいが、減圧により造孔剤を気化させてもよい。また、溶媒や蒸気等により造孔剤を抽出させてもよい。これらの中でも設備が簡便で残渣が残らない点より、造孔剤を加熱により気化させることが特に好ましい。
【0014】
造孔剤の種類としては種々のものが考えられるが、125℃以上の融点又は分解温度を有し、且つ、空気中においてPTFEの融点以下の温度で加熱することにより99%以上消失するようなものが好ましい。また、一般的にPTFEの押出成形の際には、後述のように成形助剤としてナフサ等の有機溶剤が使用されるが、造孔剤はこのような有機溶剤に溶解しないものが好ましい。このようなものとして、例えば、フマル酸、マロン酸、リンゴ酸、コハク酸、アジピン酸などのジカルボン酸、安息香酸、ショウノウ、メントール、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、アニリン、ナフタレンなどが挙げられる。これらの中でも、フマル酸、マロン酸、リンゴ酸、コハク酸、アジピン酸などのジカルボン酸やカルボン酸が好ましい。これらのようなジカルボン酸の粉末であれば、その原因については明確になっていないが、特に、肌理が細かく、且つ、寸法精度が良好なPTFE多孔体を得ることができる。更に、管壁抵抗が大きくなることもないため、押出成形による成形もより良好なものとなる。また、PTFE多孔体の製造時に臭気が発生することがない。これらのジカルボン酸の中でも、フマル酸は、特に焼成時の収縮を抑える効果が大きいため好ましい。また、ジカルボン酸の中でも、空気中での加熱により気化する性質を有するもの(例えば、フマル酸、アジピン酸、コハク酸)であれば、加熱によって造孔剤を気化させて除去することが容易であるため、好ましい。造孔剤を気化させて除去する方法は、例えば、熱分解させて除去する方法に比べて、PTFE中に残渣を残しにくく、残渣による電気諸特性への悪影響を防止することができる。このような空気中での加熱により気化する性質を有するジカルボン酸粉末として、例えば、沸点(又は昇華点)が300℃以下のもの(例えば、フマル酸、コハク酸)であれば、特別な装置を必要とせず、通常用いられる加熱炉などにより容易に造孔剤を除去することができるため、好ましい。また、ジカルボン酸粉末の沸点が300℃以下のものであれば、PTFEの焼成温度(例えば、370〜400℃)より低い温度で除去されるため、ジカルボン酸成分が焼成中に引火することを防ぐことができる。
【0015】
また、造孔剤の平均粒径は100μm以下であることが好ましい。このような粒径であれば、気孔がより小さいものとなり、より肌理の細かいPTFE多孔体を得ることができる。また、粒径のより小さな造孔剤を用いることにより、成形時のクラック、裂けを防止し成形性をより良くする効果も生じる。
【0016】
上記PTFE粉末や造孔剤粉末は、粒径の大きな状態の粉体を粉砕して細粒化することにより製造できる。粉砕は、回転刃方式の混合機や粉砕機を用いて気相中で容易に行うことができる。粉砕方法は、気相中での粉砕に限定されるものではなく、溶液中での粉砕が可能な場合もある。例えば、フマル酸は水への溶解度が小さいので水中での回転刃による粉砕も可能である。しかし、溶液中での粉砕方法では、水との分離工程が生じるので、気相中での粉砕が好ましい。また、粉砕方法や粉砕に用いる設備のサイズ(処理量能力)は、特に限定されず、回転刃方式の他に、ボールミル、ジェットミル(気流粉砕)などを用いることができる。特にPTFE粉末は、細粒化の際に繊維化してしまうと、その後の、積層と圧縮の工程における繊維化の余地がなくなり、最終的な成形品の強度が充分なものにならなくなる恐れがある。そのため、PTFE粉末の細粒化は、繊維化が起こりにくいジェットミルにより行うことが好ましい。
【0017】
本発明において、更に、成形助剤が配合されても良い。この成形助剤を配合することで、PTFE粉末がペースト化し、ペースト押出が可能となり、PTFE混合物の成形や加圧の際に割れが生じてしまうことを防止することができる。成形助剤としては、有機溶剤が使用できる。有機溶剤としては、例えば、流動パラフィン、ナフサ、ホワイトオイル、灯油、軽油等の炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類などの溶剤が挙げられ、これらの中でも、PTFEとの浸透性からナフサ、灯油、軽油等の石油系溶剤を使うことが好ましい。
【0018】
特に、PTFE粉末に良好に保持させるために、成形助剤として、動粘度2mm2/s(40℃)以上の石油系溶剤を使うことが好ましい。このような成形助剤であれば、粉体の粒子間に一旦保持されれば、低粘度の成形助剤を使用したときよりも、所定形状に成形する際の圧力が加わった際に成形助剤のみが滲み出て、PTFE粉末と有機溶剤とが分離するようなことは起こり難く、管壁抵抗を下げる潤滑効果を保持することになる。そのため、PTFE粉末と造孔剤との配合量の適応範囲が広く、また潤滑効果が高く成形性(成形体の外観)が良好となる。更に、PTFE粉末や造孔剤による継粉の形成を効果的に防止することができ、気孔の大きさをより微細なものとすることができる。但し、PTFEを焼成させる場合、通常340℃以上の温度で焼成させるが、焼成前に完全に成形助剤が蒸発していることが好ましいため、成形助剤の沸点は300℃以下であることが好ましい。
【0019】
PTFE混合物は、上記のような造孔剤とPTFE粉末とを、例えば、タンブラーなどで攪拌、混合して得ることができる。この際、造孔剤の混合量を変えることにより、気孔率を容易に制御することができる。尚、造孔剤として複数の成分を混合して使用する場合、予め造孔剤を構成する各成分を混合しておけば、造孔剤が均質となるため、より肌理の細かいPTFE多孔体を作製することができ好ましいが、造孔剤を構成する各成分をPTFE粉末に別に加えた後、攪拌などによりこれらを一括して混合しても良い。
【0020】
特に、55%を超える高気孔率の多孔体をペースト押出により作製する場合には、素材の機械的強度(裂けやすさ)の面から、PTFE粉末はもちろんのこと、造孔剤についても、平均粒径100μm以下の微粉末を用いることが好ましい。PTFE粉末の細粒化は必ずしもPTFE粉末単独で行う必要はなく、PTFE粉末及び造孔剤の混合と、PTFE粉末の細粒化とを、1つの工程で同時に行うことができる。この混合と細粒化とを兼ねた処理は、回転刃式の粉砕機、混合機などを用いて気相中で容易に行うことができる。
【0021】
上記のようにして得られたPTFE混合物を加圧成形してPTFEプリフォームを作成し、このPTFEプリフォームをペースト押出により所定形状に成形する。この際、ペースト押出機のダイス温度は、125℃以上且つ成形助剤の沸点以下とすることが好ましい。PTFEの主鎖のα転移点である125℃以上の温度でペースト押出のようなせん断応力を加えることによって、高温吸熱現象を示すPTFEを得られることが確認されている。この125℃以上という温度は必須ではなく、結果的に高温吸熱現象を示す現象が発現すれば、本発明の効果は得られる。また、ペースト押出機のダイス温度を125℃以上とすることで、PTFEの繊維化が促進し、成形性が著しく良くなる。それにより、造孔剤を除去してPTFE多孔体とする際にも、裂けやひび割れの発生がなくなり、肌理の細かいPTFE多孔体を得ることができる。また、ダイス温度が成形助剤の沸点を超えると、ダイス部で成形助剤が蒸発してしまい、設計で意図した形状に成形することが困難となる。ダイス温度は可能な限り高温とした方が繊維化は促進され、150℃以上とすることがより好ましく、200℃以上とすることが特に好ましい。そのため、成形助剤として、なるべく沸点が高いものを選択することが好ましい。上記のように、従来のペースト押出におけるダイス温度は30℃〜100℃であったが、これは、低粘度で低融点の成形助剤を使用することが主流であったことから、ダイス部での成形助剤の蒸発を防ぐために設定されていた温度である。本願発明者は、上記のように高粘度の成形助剤についても検討しており、このような高粘度の成形助剤は沸点も高いものであることから、ダイス温度を上げることの阻害要因をなくすことができ、ダイス温度の検討をすることができたものである。
【0022】
また、本発明ではペースト押出の際に、PTFEプリフォームの流量よりも、押出ダイスでのPTFE混合物成型体の流量の方が大きいことが好ましい。これにより、PTFE混合物が引き伸ばされ、繊維化が促進することになる。また、PTFE混合物が造孔剤を含んでいるので、引き伸ばされた分、空隙が増加し、気孔率が上昇することになる。通常、このような条件でペースト押出をすると、押出成形体は引き伸ばされ、押出成形体の断面積は押出ダイスの有効断面積より小さくなる。しかし、詳細な理由は明確となっていないが、PTFE混合物成形体の引取り速度を上昇させるに従い、逆に、PTFE混合物成形体の断面積が押出ダイスの有効断面積より大きくなっていくことがある。このような状態であると、単に引き伸ばされたのみ以上に気孔率が上昇することになるとともに、外径の安定性が向上することとなる。
【0023】
このようにして成形されたPTFE混合物成形体から造孔剤を除去することにより、PTFEに気孔が設けられ、PTFE多孔体が製造される。また、造孔剤を除去する方法としては、設備の簡便さから加熱により造孔剤を気化させること好ましいが、減圧により造孔剤を気化させてもよい。また、溶媒や蒸気等により造孔剤を溶出させてもよい。気化の形態としては、昇華するもの、液化を経て蒸発するものがあるが、液化する場合、PTFE混合物表面に液膜を形成することがあることから、加熱速度が速すぎると内部の気化した造孔剤が抜けずにPTFE混合物自体を膨らめることがある。そのため、気化させて除去する場合には、造孔剤としては、液化せず昇華するフマル酸などを使用することが好ましい。溶媒などで抽出する場合の溶媒としては、造孔剤を溶解するものであれば限定されないが、水はPTFEに浸入し難く造孔剤を抽出し難いので、PTFEに浸透しやすいエタノール等のアルコール、ジエチルエーテル等のエーテル、アセトンやメチルエチルケトン等のケトンなどといった有機系の溶媒が好ましい。ただし、溶媒による抽出の場合には、抽出工程に時間を要するので、加熱による昇華が最も好ましい。
【0024】
尚、本発明のPTFE多孔体は、200℃程度の加熱処理などにより造孔剤を除去し、その後に焼成を行わず、未焼成PTFE多孔体として使用しても良い。また、造孔剤を除去した後、更に未焼成PTFEの融点以上370℃以下の温度で焼成を行い、完全焼成PTFE多孔体として使用しても良い。また、焼成温度を調節することで未焼成と完全焼成が混在した半焼成PTFE多孔体としても良い。焼成温度は、370℃以下とすることが好ましい。370℃を超える温度で焼成すると、徐々に高温吸熱現象が消失していくことが確認されているためである。370℃を超える温度に加熱をする場合は、短時間に止めておく必要がある。
【0025】
上記した高温吸熱現象の測定は熱分析によって行うことができる。熱分析は、高分子の吸熱現象を測定できるものなら何でも良く、例えば、示差走査熱量測定(DSC)や示差熱分析(DTA)などが挙げられる。また、焼成の状態については、示差走査熱量測定(DSC)による結晶融解曲線によって確認することができる。「未焼成状態」の場合は340℃付近に1箇所だけピークが観察され、「完全焼成状態」の場合は320℃付近に1箇所だけピークが観察され、「半焼成状態」の場合は340℃付近にピークが観察されると同時にその手前の320℃付近にも別のピークが観察される。これらの他に、国際特許公開WO04/086416に記載されたような、「微焼成状態」という状態があり、上記した「未焼成状態」と「半焼成状態」との中間の状態を示している。そして、これを区分けする目安になるのが、320℃付近におけるピークの有無である。つまり、この320℃付近におけるピークが明確に観察されるまで焼成が進行すると「半焼成状態」となってしまい、「微焼成状態」とは、そのようなピークが観察されるに至る手前の焼成状態を意味するものである。この際、本発明によるPTFE多孔体は、これら340℃付近のピークや320℃付近のピークの他に、370℃から390℃の範囲で高温吸熱現象に起因するピークを確認することができる。尚、これらのPTFE多孔体に、更に延伸加工を加えて気孔率を調整することができる。
【0026】
本発明のような高温吸熱現象を示すPTFE多孔体ではある程度抑えることができるが、焼成により、PTFEは半溶融状態となるため、程度の大小はあるがPTFE多孔体中の気孔は減少し気孔率が低下することになる。この気孔率が低下する度合いは焼成の進行に従い大きくなる。そのため、焼成前の気孔率は、焼成後の気孔率よりも更に大きくしておく必要があるが、これには造孔剤を過剰気味に添加する必要がある。
【0027】
上記のようにして得られたPTFE多孔体は、気孔状態を制御することも可能であり、例えば、気孔率5%以上40%未満では独立気孔を主体とし、気孔率40%以上50%未満では独立気孔と連続気孔をともに有し、気孔率50%以上では連続気孔を主体とする、というような気孔状態とすることができる。勿論、造孔剤の粒径や混合量を適宜設定することで、気孔率50%未満でも連続気孔を主体としたPTFE多孔体とすることが可能である。また、造孔剤の混合量を増加させることにより、例えば気孔率80%以上のPTFE多孔体を得ることも可能である。また、長尺のPTFE多孔体を押出成形によって製造した場合、その気孔形状は長手方向に配向したものとなる。このような気孔形状であれば、長手方向の引張強度が高いため長尺品であっても切断され難く、クラックが入り難いため曲げに対しても強いものとなり、取扱いが容易である。更には、高気孔率を保持することができるとともに、引張強度にも優れたものとすることができる。
【0028】
上記のようにして得られたPTFE多孔体は、フッ素ゴム成形体に保持して複合体とすることも考えられる。このようにPTFE多孔体をフッ素ゴム成形体に保持した複合体は、高温環境での使用が可能なため、例えば、酸素センサに使用されるフィルタ付きグロメットなどに好適に使用することが可能である。具体的な例としては、例えば、特許文献9を参照することができる。
【0029】
また、図1に示すように、上記のPTFE多孔体を中心導体1の周上に被覆して絶縁被覆2とし、絶縁電線10(リード線)としても良い。本発明によるPTFE多孔体を中心導体の周上に被覆すれば、被覆に裂けやひび割れが発生することなく、好適な外観を得ることができる。特に、上記したような造孔剤を選択すれば、焼成後の収縮を小さくすることができるから、更に好適な外観を得ることができる。また、この絶縁電線をフッ素ゴム成形体に保持させて、リード線付きグロメットとしても良い。このような形態の場合、PTFE多孔体の気孔率を調節することで絶縁被覆に通気性を持たせることもできる。
【0030】
更には、図2に示すように、中心導体1の周上にPTFE多孔体による絶縁被覆2を形成し、その周上に、金属箔、金属線による編組、コルゲート加工を施した金属パイプ等による外部導体3を形成し、また、この外部導体3の周上に任意でシース5を形成し、同軸ケーブル20としても良い。上記したように、PTFE多孔体による絶縁被覆、即ち、誘電体の気孔率を高気孔率とすることで、信号の遅延時間を小さくすることができるため、優れた同軸ケーブルを得ることができる。この際、更に信号の遅延時間を小さくすることを目的として、誘電体の外周に、長手方向に連続した溝やスパイラル状の溝を設けたり、押出し形状を工夫して誘電体内部に長手方向に連続した空隙部を形成したりすることも考えられる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を比較例と対比しつつ説明する。
【0032】
(実施例1、比較例1,2)
まず、PTFE粉末をジェットミルにて粉砕する。このPTFE粉末について、任意の部分を抽出して走査型電子顕微鏡を用いて拡大した写真を撮影し、各粉末の定方向径を算術平均して、平均二次粒径を求めた。これによると、本実施例のPTFE粉末の平均二次粒径は、34μmであった。また、この拡大した写真により二次粒径30μm以下の粉体が個数換算で全体の60%を超えていることが確認された。このPTFE粉末と、造孔剤としてのフマル酸、及び成形助剤(ナフサ(動粘度3mm2/s(40℃)、初留点約222℃))を表1に示す割合(重量%)になるように混合し、PTFE混合物を得た。このPTFE混合物を金型に入れ圧縮成形して予備成形しPTFEプリフォームを得た。このPTFEプリフォームをダイス温度150℃のペースト押出成形機にてペースト押出成形し、PTFE混合物成形体を形成した。さらにPTFEの融点以下の温度で加熱処理して造孔剤を気化させて除去してPTFE多孔体とし、さらに同一工程にて表1の焼成条件に示す加熱温度及び加熱時間で加熱処理をしてPTFE多孔体を焼成した。
【0033】
こうして得られたPTFE多孔体をサンプル片として、重量とその体積を測定し、PTFEの充実体の比重(2.155g/cm3)から下記式により気孔率を算出した。
計算式「気孔率=100−100×(サンプル片の重量/サンプル片の体積)/充実体の比重」
また、これらサンプル片について、引張速度50mm/minにて引張強度の測定、及び、破断するまでの伸びの測定を行った。尚、引張強度は、測定値を(1−気孔率)で除し、多孔体におけるPTFE部分の実力値を算出した。気孔率、引張強度、及び、伸びの値を併せて表1に記す。
併せて、これらサンプル片について、示差走査熱量測定(DSC)を行った。実施例1の結晶融解曲線を図3に、比較例1による結晶融解曲線を図8に、比較例2による結晶融解曲線を図9に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
図1に示すように、実施例1によるPTFE多孔体は、370℃から390℃の範囲にピークが見られており、高温吸熱現象を示すことが確認されたが、比較例1,2によるPTFE多孔体は、370℃から390℃の範囲にピークが見られなかった。これにより、表1に示すように、比較例1,2は実施例1よりも気孔率が低下するとともに、引張強度が低下することとなった。
【0036】
(実施例2〜5、比較例3〜5)
まず、PTFE粉末をジェットミルにて粉砕する。このPTFE粉末について、任意の部分を抽出して走査型電子顕微鏡を用いて拡大した写真を撮影し、各粉末の定方向径を算術平均して、平均二次粒径を求めた。これによると、本実施例のPTFE粉末の平均二次粒径は、34μmであった。また、この拡大した写真により二次粒径30μm以下の粉体が個数換算で全体の60%を超えていることが確認された。このPTFE粉末と、造孔剤としてのフマル酸、及び成形助剤(ナフサ(動粘度3mm2/s(40℃)、初留点約222℃))を表1に示す割合(重量%)になるように混合し、PTFE混合物を得た。このPTFE混合物を金型に入れ圧縮成形して予備成形しPTFEプリフォームを得た。このPTFEプリフォームを表2に示すダイス温度のペースト押出成形機にてペースト押出成形し、PTFE混合物成形体を形成した。さらにPTFEの融点以下の温度で加熱処理して造孔剤を気化させて除去してPTFE多孔体とし、さらに同一工程にて310℃×30minで加熱処理をした。これらのPTFE多孔体は未焼成の状態である。
【0037】
こうして得られたPTFE多孔体をサンプル片として、上記の実施例1等と同様に、気孔率、引張強度、及び、伸びの値を測定した。気孔率、引張強度、及び、伸びの値を併せて表2に記す。
併せて、これらサンプル片について、示差走査熱量測定(DSC)を行った。実施例2による結晶融解曲線を図4に、実施例3による結晶融解曲線を図5に、実施例4による結晶融解曲線を図6に、実施例5による結晶融解曲線を図7に、比較例3による結晶融解曲線を図10に、比較例4による結晶融解曲線を図11に、比較例5による結晶融解曲線を図12に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
図2に示すように、実施例2〜5によるPTFE多孔体は、370℃から390℃の範囲にピークが見られており、高温吸熱現象を示すことが確認されたが、比較例3〜5によるPTFE多孔体は、370℃から390℃の範囲にピークが見られなかった。実施例2〜4と比較例3,4或いは実施例5と比較例5を比べると、気孔率については差を生じることはなかったが、引張強度及び伸びに関しては、高温吸熱現象を示さない比較例は、実施例よりも大きく劣っていることが確認された。また、実施例5は、実施例3について造孔剤の配合量を多くして気孔率を増加させたものであるが、気孔率の大きい実施例5の方が370℃から390℃の範囲のピークも大きくなっているとともに、引張強度も大きく向上していることが確認された。
【0040】
(実施例6)
上記実施例3について、ペースト押出機のダイス温度を220℃としたものを実施例6とした。この実施例6、実施例3、及び、比較例3について、ペースト押出成形後のPTFE混合物成型体の表面外観を目視で確認し、割れや表面凹凸等を確認した。実施例6及び実施例3によるPTFE混合物成型体は、割れや表面凹凸がなく、良好な表面外観であったが、比較例3によるPTFE混合物成型体には、割れが発生してしまった。特に、ダイス温度220℃でペースト押出成型をした実施例6は、光沢が見られるほど平滑な表面外観であった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、高気孔率を保持することができるとともに、引張強度にも優れたPTFE多孔体を得ることができる。このようなPTFE多孔体は、例えば、電線被覆材、通信ケーブル(同軸ケーブル)の誘電体のみならず、フィルタ、ガスケット、断熱材、分離膜、人工血管、カテーテル、培養器など多くの用途に対して好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 中心導体
2 絶縁被覆
3 外部導体
5 シース
10 絶縁電線
20 同軸ケーブル
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(以下、PTFEと記す)からなる多孔体、及び、このPTFE多孔体を絶縁体とした絶縁電線・ケーブルに係り、特に、高気孔率を保持することができるとともに、引張強度にも優れたものに関する。
【背景技術】
【0002】
PTFEは、耐熱性、耐薬品性に優れ、且つ比誘電率、エネルギー損失角などの電気特性に優れるため、電線被覆材、通信ケーブルの誘電体、フィルタ、ガスケット、断熱材、分離膜、人工血管、カテーテル、培養器など多くの用途に使用されている。特に、多孔質とすることで、素材の軽量化や使用量の低減がなされる上、通信ケーブルなどにおいては誘電率を低下させることができ、また、高温における断熱性を向上させることができるため、PTFE多孔体が望まれている。
【0003】
PTFEを多孔化させる技術としては、種々の技術が知られているが、バルク状のペースト押出成形が可能であり、残留応力が小さく形状が安定しており、且つ、気孔率60%を超えるような高い気孔率の素材を得ることのできる技術として、例えば、特許文献1〜4が挙げられる。この特許文献1〜4には、PTFEにショウノウやジカルボン酸等の揮発成分を造孔剤として混合し、この造孔剤を除去することでPTFEを多孔化させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−336459公報:クラベ
【特許文献2】特開2007−153967公報:クラベ
【特許文献3】国際公開WO2008/035682公報:クラベ
【特許文献4】特開2009−197147公報:クラベ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなPTFE多孔体は、高気孔率にすることができるが故、柔軟なものとなり、加圧等による凹みや外傷を受けやすいものであった。そのため、絶縁電線とした場合には、加圧等を受け難い用途などに適用範囲が制約されてしまう場合があった。また、この絶縁電線の外周に金属線編組による外部導体を形成し同軸ケーブルとして使用する際には、金属線がPTFE多孔体からなる絶縁体に食い込んでしまわないように編組する条件を厳密に制御する必要があった。また、高気孔率とすることで、単位断面積当たりにPTFEが占める割合が減少することから、引張強度も低下する傾向がある。そのため、例えば押出成形をする際には、成形中に樹脂が切れてしまう場合もあった。また、PTFEを焼成する際に気孔が潰れて気孔率が若干低下するという問題もあった。
【0006】
本発明はこのような従来技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、特に、高気孔率を保持することができるとともに、引張強度にも優れたPTFE多孔体、及び、このPTFE多孔体を絶縁体とした絶縁電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、種々検討の結果、PTFEに従来知られていた340℃付近の未焼成PTFEの融点による吸熱現象、及び、320℃付近の焼成PTFEの融点による吸熱現象の他に、更に高温部(370〜390℃)に吸熱現象を示すPTFE多孔体により上記の課題を解決することを見出した。
即ち、上記目的を達成するべく、本発明の請求項1によるPTFE多孔体は、
370℃から390℃の範囲で吸熱現象を示すことを特徴とするものである。
又、請求項2記載のPTFE多孔体は、延伸法によらずに多孔化されていることを特徴とするものである。
又、請求項3記載のPTFE多孔体は、造孔剤の除去によって多孔化されていることを特徴とするものである。
又、請求項4記載の絶縁電線は、中心導体の周上に、上記PTFE多孔体からなる絶縁体が形成されてなるものである。
又、請求項5記載の同軸ケーブルは、上記絶縁電線と、上記絶縁電線の絶縁体の周上に形成された外部導体とからなるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、370℃から390℃の範囲で吸熱現象を示すPTFE(以下、370℃から390℃の範囲での吸熱現象を高温吸熱現象と記す)であることにより、未焼成の状態でも引張強度の高い素材となり、例えば、押出成型をした際にも、成形時の樹脂の切れや外観の荒れを防止することができる。また、焼成時の気孔の破壊が抑制され、高気孔率を保持することができるとともに、焼成時の強度を向上させることができ、加圧等による凹みや外傷に抗することができるようになる。この効果はどのような焼成状態であっても反映させることができる。
【0009】
高温吸熱現象を示す構造については明らかになっていないが、高度に配向した高融点の新たな形態の結晶(以下、高温結晶と記す)と考えられる。この高温結晶により、PTFEに補強効果を与える他、気孔の破壊を抑制することができると考えられる。気孔の破壊を抑制する作用機構についても明らかになっていないが、高温結晶が造孔剤の周囲に形成されることで、造孔剤の除去、或いは、焼成時のPTFEの融解と冷却の収縮による応力に対し、この高温結晶が柱のように作用して気孔の破壊を抑制すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による実施例を表わす図で、絶縁電線の構成を示す一部切欠き斜視図である。
【図2】本発明による他の実施例を表わす図で、同軸ケーブルの構成を示す一部切欠き斜視図である。
【図3】本発明の実施例1によるPTFE多孔体の結晶融解曲線である。
【図4】本発明の実施例2によるPTFE多孔体の結晶融解曲線である。
【図5】本発明の実施例3によるPTFE多孔体の結晶融解曲線である。
【図6】本発明の実施例4によるPTFE多孔体の結晶融解曲線である。
【図7】本発明の実施例5によるPTFE多孔体の結晶融解曲線である。
【図8】本発明の比較例1によるPTFE多孔体の結晶融解曲線である。
【図9】本発明の比較例2によるPTFE多孔体の結晶融解曲線である。
【図10】本発明の比較例3によるPTFE多孔体の結晶融解曲線である。
【図11】本発明の比較例4によるPTFE多孔体の結晶融解曲線である。
【図12】本発明の比較例5によるPTFE多孔体の結晶融解曲線である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
PTFE多孔体は、例えば、以下のような製造方法で作成することができる。まず、PTFE粉末と造孔剤と成形助剤とを混合したPTFE混合物を加圧成形してPTFEプリフォームを作成し、このPTFEプリフォームをペースト押出により所定形状に成形する。このPTFE混合物の成形体について、造孔剤を除去することによって気孔を形成し、PTFE多孔体とする。
【0012】
PTFE粉末としては、例えば、乳化重合によって得られたファインパウダーや懸濁重合によって得られたモールディングパウダーが挙げられる。これらの内、繊維化しやすく、それにより得られる成形体の強度が向上するファインパウダーが、本願発明で好ましく使用される。一般的なPTFEファインパウダーは、平均粒径約0.2μmの一次粒子が凝集してなる平均粒径約600μmの二次粒子からなるものである。PTFE混合物中のPTFE粉末の含有割合が40%を下回る場合、PTFE同士の結合が弱く、成形中および焼成後に素材が裂けやすくなる傾向がある。これを防止するため、平均二次粒径が100μm以下のPTFE粉末を用いることにより、PTFEの結合点を増やし、機械的強度を向上させることで、より裂け難くすることができる。特に、押出成形をする場合は、長手方向は繊維化して成形上十分な強度を有するが、横方向に対しては繊維間の結合が弱く、ペースト成形中および焼成後に素材が裂けやすくなる傾向がある。このように、ファインパウダーによる繊維化と、平均二次粒径100μm以下にすることによる結合点の増加との相乗効果により、PTFE多孔体の機械的強度は格段に向上することになる。更に、PTFE粉末が二次粒径30μm以下の粉体を主体としていれば、例え、粗大なPTFE粉末が存在したとしても、その周囲を二次粒径の細かい粉体が取り囲み、PTFE粉末同士の結合点は増加することになる。そのため、これによってもPTFE多孔体の機械的強度は格段に向上することになる。なお、ここでいう「PTFE粉末が二次粒径30μm以下の粉体を主体とする」とは、PTFE粉末全体の中で、二次粒径30μm以下の粉体の個数が過半数を超える程度であることを示す。
【0013】
本発明において、PTFE粉末と混合される造孔剤は、容易にPTFE混合物から除去できるものであれば特に限定はない。造孔剤を除去する方法としては、設備の簡便さから加熱により造孔剤を気化や熱分解させることが好ましいが、減圧により造孔剤を気化させてもよい。また、溶媒や蒸気等により造孔剤を抽出させてもよい。これらの中でも設備が簡便で残渣が残らない点より、造孔剤を加熱により気化させることが特に好ましい。
【0014】
造孔剤の種類としては種々のものが考えられるが、125℃以上の融点又は分解温度を有し、且つ、空気中においてPTFEの融点以下の温度で加熱することにより99%以上消失するようなものが好ましい。また、一般的にPTFEの押出成形の際には、後述のように成形助剤としてナフサ等の有機溶剤が使用されるが、造孔剤はこのような有機溶剤に溶解しないものが好ましい。このようなものとして、例えば、フマル酸、マロン酸、リンゴ酸、コハク酸、アジピン酸などのジカルボン酸、安息香酸、ショウノウ、メントール、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、アニリン、ナフタレンなどが挙げられる。これらの中でも、フマル酸、マロン酸、リンゴ酸、コハク酸、アジピン酸などのジカルボン酸やカルボン酸が好ましい。これらのようなジカルボン酸の粉末であれば、その原因については明確になっていないが、特に、肌理が細かく、且つ、寸法精度が良好なPTFE多孔体を得ることができる。更に、管壁抵抗が大きくなることもないため、押出成形による成形もより良好なものとなる。また、PTFE多孔体の製造時に臭気が発生することがない。これらのジカルボン酸の中でも、フマル酸は、特に焼成時の収縮を抑える効果が大きいため好ましい。また、ジカルボン酸の中でも、空気中での加熱により気化する性質を有するもの(例えば、フマル酸、アジピン酸、コハク酸)であれば、加熱によって造孔剤を気化させて除去することが容易であるため、好ましい。造孔剤を気化させて除去する方法は、例えば、熱分解させて除去する方法に比べて、PTFE中に残渣を残しにくく、残渣による電気諸特性への悪影響を防止することができる。このような空気中での加熱により気化する性質を有するジカルボン酸粉末として、例えば、沸点(又は昇華点)が300℃以下のもの(例えば、フマル酸、コハク酸)であれば、特別な装置を必要とせず、通常用いられる加熱炉などにより容易に造孔剤を除去することができるため、好ましい。また、ジカルボン酸粉末の沸点が300℃以下のものであれば、PTFEの焼成温度(例えば、370〜400℃)より低い温度で除去されるため、ジカルボン酸成分が焼成中に引火することを防ぐことができる。
【0015】
また、造孔剤の平均粒径は100μm以下であることが好ましい。このような粒径であれば、気孔がより小さいものとなり、より肌理の細かいPTFE多孔体を得ることができる。また、粒径のより小さな造孔剤を用いることにより、成形時のクラック、裂けを防止し成形性をより良くする効果も生じる。
【0016】
上記PTFE粉末や造孔剤粉末は、粒径の大きな状態の粉体を粉砕して細粒化することにより製造できる。粉砕は、回転刃方式の混合機や粉砕機を用いて気相中で容易に行うことができる。粉砕方法は、気相中での粉砕に限定されるものではなく、溶液中での粉砕が可能な場合もある。例えば、フマル酸は水への溶解度が小さいので水中での回転刃による粉砕も可能である。しかし、溶液中での粉砕方法では、水との分離工程が生じるので、気相中での粉砕が好ましい。また、粉砕方法や粉砕に用いる設備のサイズ(処理量能力)は、特に限定されず、回転刃方式の他に、ボールミル、ジェットミル(気流粉砕)などを用いることができる。特にPTFE粉末は、細粒化の際に繊維化してしまうと、その後の、積層と圧縮の工程における繊維化の余地がなくなり、最終的な成形品の強度が充分なものにならなくなる恐れがある。そのため、PTFE粉末の細粒化は、繊維化が起こりにくいジェットミルにより行うことが好ましい。
【0017】
本発明において、更に、成形助剤が配合されても良い。この成形助剤を配合することで、PTFE粉末がペースト化し、ペースト押出が可能となり、PTFE混合物の成形や加圧の際に割れが生じてしまうことを防止することができる。成形助剤としては、有機溶剤が使用できる。有機溶剤としては、例えば、流動パラフィン、ナフサ、ホワイトオイル、灯油、軽油等の炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類などの溶剤が挙げられ、これらの中でも、PTFEとの浸透性からナフサ、灯油、軽油等の石油系溶剤を使うことが好ましい。
【0018】
特に、PTFE粉末に良好に保持させるために、成形助剤として、動粘度2mm2/s(40℃)以上の石油系溶剤を使うことが好ましい。このような成形助剤であれば、粉体の粒子間に一旦保持されれば、低粘度の成形助剤を使用したときよりも、所定形状に成形する際の圧力が加わった際に成形助剤のみが滲み出て、PTFE粉末と有機溶剤とが分離するようなことは起こり難く、管壁抵抗を下げる潤滑効果を保持することになる。そのため、PTFE粉末と造孔剤との配合量の適応範囲が広く、また潤滑効果が高く成形性(成形体の外観)が良好となる。更に、PTFE粉末や造孔剤による継粉の形成を効果的に防止することができ、気孔の大きさをより微細なものとすることができる。但し、PTFEを焼成させる場合、通常340℃以上の温度で焼成させるが、焼成前に完全に成形助剤が蒸発していることが好ましいため、成形助剤の沸点は300℃以下であることが好ましい。
【0019】
PTFE混合物は、上記のような造孔剤とPTFE粉末とを、例えば、タンブラーなどで攪拌、混合して得ることができる。この際、造孔剤の混合量を変えることにより、気孔率を容易に制御することができる。尚、造孔剤として複数の成分を混合して使用する場合、予め造孔剤を構成する各成分を混合しておけば、造孔剤が均質となるため、より肌理の細かいPTFE多孔体を作製することができ好ましいが、造孔剤を構成する各成分をPTFE粉末に別に加えた後、攪拌などによりこれらを一括して混合しても良い。
【0020】
特に、55%を超える高気孔率の多孔体をペースト押出により作製する場合には、素材の機械的強度(裂けやすさ)の面から、PTFE粉末はもちろんのこと、造孔剤についても、平均粒径100μm以下の微粉末を用いることが好ましい。PTFE粉末の細粒化は必ずしもPTFE粉末単独で行う必要はなく、PTFE粉末及び造孔剤の混合と、PTFE粉末の細粒化とを、1つの工程で同時に行うことができる。この混合と細粒化とを兼ねた処理は、回転刃式の粉砕機、混合機などを用いて気相中で容易に行うことができる。
【0021】
上記のようにして得られたPTFE混合物を加圧成形してPTFEプリフォームを作成し、このPTFEプリフォームをペースト押出により所定形状に成形する。この際、ペースト押出機のダイス温度は、125℃以上且つ成形助剤の沸点以下とすることが好ましい。PTFEの主鎖のα転移点である125℃以上の温度でペースト押出のようなせん断応力を加えることによって、高温吸熱現象を示すPTFEを得られることが確認されている。この125℃以上という温度は必須ではなく、結果的に高温吸熱現象を示す現象が発現すれば、本発明の効果は得られる。また、ペースト押出機のダイス温度を125℃以上とすることで、PTFEの繊維化が促進し、成形性が著しく良くなる。それにより、造孔剤を除去してPTFE多孔体とする際にも、裂けやひび割れの発生がなくなり、肌理の細かいPTFE多孔体を得ることができる。また、ダイス温度が成形助剤の沸点を超えると、ダイス部で成形助剤が蒸発してしまい、設計で意図した形状に成形することが困難となる。ダイス温度は可能な限り高温とした方が繊維化は促進され、150℃以上とすることがより好ましく、200℃以上とすることが特に好ましい。そのため、成形助剤として、なるべく沸点が高いものを選択することが好ましい。上記のように、従来のペースト押出におけるダイス温度は30℃〜100℃であったが、これは、低粘度で低融点の成形助剤を使用することが主流であったことから、ダイス部での成形助剤の蒸発を防ぐために設定されていた温度である。本願発明者は、上記のように高粘度の成形助剤についても検討しており、このような高粘度の成形助剤は沸点も高いものであることから、ダイス温度を上げることの阻害要因をなくすことができ、ダイス温度の検討をすることができたものである。
【0022】
また、本発明ではペースト押出の際に、PTFEプリフォームの流量よりも、押出ダイスでのPTFE混合物成型体の流量の方が大きいことが好ましい。これにより、PTFE混合物が引き伸ばされ、繊維化が促進することになる。また、PTFE混合物が造孔剤を含んでいるので、引き伸ばされた分、空隙が増加し、気孔率が上昇することになる。通常、このような条件でペースト押出をすると、押出成形体は引き伸ばされ、押出成形体の断面積は押出ダイスの有効断面積より小さくなる。しかし、詳細な理由は明確となっていないが、PTFE混合物成形体の引取り速度を上昇させるに従い、逆に、PTFE混合物成形体の断面積が押出ダイスの有効断面積より大きくなっていくことがある。このような状態であると、単に引き伸ばされたのみ以上に気孔率が上昇することになるとともに、外径の安定性が向上することとなる。
【0023】
このようにして成形されたPTFE混合物成形体から造孔剤を除去することにより、PTFEに気孔が設けられ、PTFE多孔体が製造される。また、造孔剤を除去する方法としては、設備の簡便さから加熱により造孔剤を気化させること好ましいが、減圧により造孔剤を気化させてもよい。また、溶媒や蒸気等により造孔剤を溶出させてもよい。気化の形態としては、昇華するもの、液化を経て蒸発するものがあるが、液化する場合、PTFE混合物表面に液膜を形成することがあることから、加熱速度が速すぎると内部の気化した造孔剤が抜けずにPTFE混合物自体を膨らめることがある。そのため、気化させて除去する場合には、造孔剤としては、液化せず昇華するフマル酸などを使用することが好ましい。溶媒などで抽出する場合の溶媒としては、造孔剤を溶解するものであれば限定されないが、水はPTFEに浸入し難く造孔剤を抽出し難いので、PTFEに浸透しやすいエタノール等のアルコール、ジエチルエーテル等のエーテル、アセトンやメチルエチルケトン等のケトンなどといった有機系の溶媒が好ましい。ただし、溶媒による抽出の場合には、抽出工程に時間を要するので、加熱による昇華が最も好ましい。
【0024】
尚、本発明のPTFE多孔体は、200℃程度の加熱処理などにより造孔剤を除去し、その後に焼成を行わず、未焼成PTFE多孔体として使用しても良い。また、造孔剤を除去した後、更に未焼成PTFEの融点以上370℃以下の温度で焼成を行い、完全焼成PTFE多孔体として使用しても良い。また、焼成温度を調節することで未焼成と完全焼成が混在した半焼成PTFE多孔体としても良い。焼成温度は、370℃以下とすることが好ましい。370℃を超える温度で焼成すると、徐々に高温吸熱現象が消失していくことが確認されているためである。370℃を超える温度に加熱をする場合は、短時間に止めておく必要がある。
【0025】
上記した高温吸熱現象の測定は熱分析によって行うことができる。熱分析は、高分子の吸熱現象を測定できるものなら何でも良く、例えば、示差走査熱量測定(DSC)や示差熱分析(DTA)などが挙げられる。また、焼成の状態については、示差走査熱量測定(DSC)による結晶融解曲線によって確認することができる。「未焼成状態」の場合は340℃付近に1箇所だけピークが観察され、「完全焼成状態」の場合は320℃付近に1箇所だけピークが観察され、「半焼成状態」の場合は340℃付近にピークが観察されると同時にその手前の320℃付近にも別のピークが観察される。これらの他に、国際特許公開WO04/086416に記載されたような、「微焼成状態」という状態があり、上記した「未焼成状態」と「半焼成状態」との中間の状態を示している。そして、これを区分けする目安になるのが、320℃付近におけるピークの有無である。つまり、この320℃付近におけるピークが明確に観察されるまで焼成が進行すると「半焼成状態」となってしまい、「微焼成状態」とは、そのようなピークが観察されるに至る手前の焼成状態を意味するものである。この際、本発明によるPTFE多孔体は、これら340℃付近のピークや320℃付近のピークの他に、370℃から390℃の範囲で高温吸熱現象に起因するピークを確認することができる。尚、これらのPTFE多孔体に、更に延伸加工を加えて気孔率を調整することができる。
【0026】
本発明のような高温吸熱現象を示すPTFE多孔体ではある程度抑えることができるが、焼成により、PTFEは半溶融状態となるため、程度の大小はあるがPTFE多孔体中の気孔は減少し気孔率が低下することになる。この気孔率が低下する度合いは焼成の進行に従い大きくなる。そのため、焼成前の気孔率は、焼成後の気孔率よりも更に大きくしておく必要があるが、これには造孔剤を過剰気味に添加する必要がある。
【0027】
上記のようにして得られたPTFE多孔体は、気孔状態を制御することも可能であり、例えば、気孔率5%以上40%未満では独立気孔を主体とし、気孔率40%以上50%未満では独立気孔と連続気孔をともに有し、気孔率50%以上では連続気孔を主体とする、というような気孔状態とすることができる。勿論、造孔剤の粒径や混合量を適宜設定することで、気孔率50%未満でも連続気孔を主体としたPTFE多孔体とすることが可能である。また、造孔剤の混合量を増加させることにより、例えば気孔率80%以上のPTFE多孔体を得ることも可能である。また、長尺のPTFE多孔体を押出成形によって製造した場合、その気孔形状は長手方向に配向したものとなる。このような気孔形状であれば、長手方向の引張強度が高いため長尺品であっても切断され難く、クラックが入り難いため曲げに対しても強いものとなり、取扱いが容易である。更には、高気孔率を保持することができるとともに、引張強度にも優れたものとすることができる。
【0028】
上記のようにして得られたPTFE多孔体は、フッ素ゴム成形体に保持して複合体とすることも考えられる。このようにPTFE多孔体をフッ素ゴム成形体に保持した複合体は、高温環境での使用が可能なため、例えば、酸素センサに使用されるフィルタ付きグロメットなどに好適に使用することが可能である。具体的な例としては、例えば、特許文献9を参照することができる。
【0029】
また、図1に示すように、上記のPTFE多孔体を中心導体1の周上に被覆して絶縁被覆2とし、絶縁電線10(リード線)としても良い。本発明によるPTFE多孔体を中心導体の周上に被覆すれば、被覆に裂けやひび割れが発生することなく、好適な外観を得ることができる。特に、上記したような造孔剤を選択すれば、焼成後の収縮を小さくすることができるから、更に好適な外観を得ることができる。また、この絶縁電線をフッ素ゴム成形体に保持させて、リード線付きグロメットとしても良い。このような形態の場合、PTFE多孔体の気孔率を調節することで絶縁被覆に通気性を持たせることもできる。
【0030】
更には、図2に示すように、中心導体1の周上にPTFE多孔体による絶縁被覆2を形成し、その周上に、金属箔、金属線による編組、コルゲート加工を施した金属パイプ等による外部導体3を形成し、また、この外部導体3の周上に任意でシース5を形成し、同軸ケーブル20としても良い。上記したように、PTFE多孔体による絶縁被覆、即ち、誘電体の気孔率を高気孔率とすることで、信号の遅延時間を小さくすることができるため、優れた同軸ケーブルを得ることができる。この際、更に信号の遅延時間を小さくすることを目的として、誘電体の外周に、長手方向に連続した溝やスパイラル状の溝を設けたり、押出し形状を工夫して誘電体内部に長手方向に連続した空隙部を形成したりすることも考えられる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を比較例と対比しつつ説明する。
【0032】
(実施例1、比較例1,2)
まず、PTFE粉末をジェットミルにて粉砕する。このPTFE粉末について、任意の部分を抽出して走査型電子顕微鏡を用いて拡大した写真を撮影し、各粉末の定方向径を算術平均して、平均二次粒径を求めた。これによると、本実施例のPTFE粉末の平均二次粒径は、34μmであった。また、この拡大した写真により二次粒径30μm以下の粉体が個数換算で全体の60%を超えていることが確認された。このPTFE粉末と、造孔剤としてのフマル酸、及び成形助剤(ナフサ(動粘度3mm2/s(40℃)、初留点約222℃))を表1に示す割合(重量%)になるように混合し、PTFE混合物を得た。このPTFE混合物を金型に入れ圧縮成形して予備成形しPTFEプリフォームを得た。このPTFEプリフォームをダイス温度150℃のペースト押出成形機にてペースト押出成形し、PTFE混合物成形体を形成した。さらにPTFEの融点以下の温度で加熱処理して造孔剤を気化させて除去してPTFE多孔体とし、さらに同一工程にて表1の焼成条件に示す加熱温度及び加熱時間で加熱処理をしてPTFE多孔体を焼成した。
【0033】
こうして得られたPTFE多孔体をサンプル片として、重量とその体積を測定し、PTFEの充実体の比重(2.155g/cm3)から下記式により気孔率を算出した。
計算式「気孔率=100−100×(サンプル片の重量/サンプル片の体積)/充実体の比重」
また、これらサンプル片について、引張速度50mm/minにて引張強度の測定、及び、破断するまでの伸びの測定を行った。尚、引張強度は、測定値を(1−気孔率)で除し、多孔体におけるPTFE部分の実力値を算出した。気孔率、引張強度、及び、伸びの値を併せて表1に記す。
併せて、これらサンプル片について、示差走査熱量測定(DSC)を行った。実施例1の結晶融解曲線を図3に、比較例1による結晶融解曲線を図8に、比較例2による結晶融解曲線を図9に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
図1に示すように、実施例1によるPTFE多孔体は、370℃から390℃の範囲にピークが見られており、高温吸熱現象を示すことが確認されたが、比較例1,2によるPTFE多孔体は、370℃から390℃の範囲にピークが見られなかった。これにより、表1に示すように、比較例1,2は実施例1よりも気孔率が低下するとともに、引張強度が低下することとなった。
【0036】
(実施例2〜5、比較例3〜5)
まず、PTFE粉末をジェットミルにて粉砕する。このPTFE粉末について、任意の部分を抽出して走査型電子顕微鏡を用いて拡大した写真を撮影し、各粉末の定方向径を算術平均して、平均二次粒径を求めた。これによると、本実施例のPTFE粉末の平均二次粒径は、34μmであった。また、この拡大した写真により二次粒径30μm以下の粉体が個数換算で全体の60%を超えていることが確認された。このPTFE粉末と、造孔剤としてのフマル酸、及び成形助剤(ナフサ(動粘度3mm2/s(40℃)、初留点約222℃))を表1に示す割合(重量%)になるように混合し、PTFE混合物を得た。このPTFE混合物を金型に入れ圧縮成形して予備成形しPTFEプリフォームを得た。このPTFEプリフォームを表2に示すダイス温度のペースト押出成形機にてペースト押出成形し、PTFE混合物成形体を形成した。さらにPTFEの融点以下の温度で加熱処理して造孔剤を気化させて除去してPTFE多孔体とし、さらに同一工程にて310℃×30minで加熱処理をした。これらのPTFE多孔体は未焼成の状態である。
【0037】
こうして得られたPTFE多孔体をサンプル片として、上記の実施例1等と同様に、気孔率、引張強度、及び、伸びの値を測定した。気孔率、引張強度、及び、伸びの値を併せて表2に記す。
併せて、これらサンプル片について、示差走査熱量測定(DSC)を行った。実施例2による結晶融解曲線を図4に、実施例3による結晶融解曲線を図5に、実施例4による結晶融解曲線を図6に、実施例5による結晶融解曲線を図7に、比較例3による結晶融解曲線を図10に、比較例4による結晶融解曲線を図11に、比較例5による結晶融解曲線を図12に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
図2に示すように、実施例2〜5によるPTFE多孔体は、370℃から390℃の範囲にピークが見られており、高温吸熱現象を示すことが確認されたが、比較例3〜5によるPTFE多孔体は、370℃から390℃の範囲にピークが見られなかった。実施例2〜4と比較例3,4或いは実施例5と比較例5を比べると、気孔率については差を生じることはなかったが、引張強度及び伸びに関しては、高温吸熱現象を示さない比較例は、実施例よりも大きく劣っていることが確認された。また、実施例5は、実施例3について造孔剤の配合量を多くして気孔率を増加させたものであるが、気孔率の大きい実施例5の方が370℃から390℃の範囲のピークも大きくなっているとともに、引張強度も大きく向上していることが確認された。
【0040】
(実施例6)
上記実施例3について、ペースト押出機のダイス温度を220℃としたものを実施例6とした。この実施例6、実施例3、及び、比較例3について、ペースト押出成形後のPTFE混合物成型体の表面外観を目視で確認し、割れや表面凹凸等を確認した。実施例6及び実施例3によるPTFE混合物成型体は、割れや表面凹凸がなく、良好な表面外観であったが、比較例3によるPTFE混合物成型体には、割れが発生してしまった。特に、ダイス温度220℃でペースト押出成型をした実施例6は、光沢が見られるほど平滑な表面外観であった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、高気孔率を保持することができるとともに、引張強度にも優れたPTFE多孔体を得ることができる。このようなPTFE多孔体は、例えば、電線被覆材、通信ケーブル(同軸ケーブル)の誘電体のみならず、フィルタ、ガスケット、断熱材、分離膜、人工血管、カテーテル、培養器など多くの用途に対して好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 中心導体
2 絶縁被覆
3 外部導体
5 シース
10 絶縁電線
20 同軸ケーブル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
370℃から390℃の範囲で吸熱現象を示すことを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔体。
【請求項2】
延伸法によらずに多孔化されていることを特徴とする請求項1記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体。
【請求項3】
造孔剤の除去によって多孔化されていることを特徴とする請求項2記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体。
【請求項4】
中心導体の周上に、請求項1〜3記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体からなる絶縁体が形成されてなる絶縁電線。
【請求項5】
請求項4記載の絶縁電線と、上記絶縁電線の絶縁体の周上に形成された外部導体とからなる同軸ケーブル。
【請求項1】
370℃から390℃の範囲で吸熱現象を示すことを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔体。
【請求項2】
延伸法によらずに多孔化されていることを特徴とする請求項1記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体。
【請求項3】
造孔剤の除去によって多孔化されていることを特徴とする請求項2記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体。
【請求項4】
中心導体の周上に、請求項1〜3記載のポリテトラフルオロエチレン多孔体からなる絶縁体が形成されてなる絶縁電線。
【請求項5】
請求項4記載の絶縁電線と、上記絶縁電線の絶縁体の周上に形成された外部導体とからなる同軸ケーブル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−225633(P2011−225633A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93671(P2010−93671)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000129529)株式会社クラベ (125)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000129529)株式会社クラベ (125)
【Fターム(参考)】
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