説明

QOLを改善する方法およびそのための組成物

患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する方法、およびそのために用いる組成物を提供する。この組成物は、カワリハラタケの抽出物を含有する。上記癌は、子宮癌患者、卵巣癌患者、子宮内膜癌患者からなる群から選択される癌である。上記カワラリハラタケの抽出物は、カワリハラタケの子実体を熱水抽出する工程、得られる抽出物にエタノールを加えて混合し、遠心分離して沈殿物と上澄液に分ける工程、この上澄液にエタノールを加えて混合し、遠心分離して沈殿物と上澄液に分ける工程、得られた沈殿物を蒸留水に溶解して透析処理する工程を包含する方法によって得られる透析外液であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する方法、およびそのために用いる組成物に関する。
【背景技術】
過去一世紀の間に癌化学療法の分野は顕著な進展を遂げ、これによって、無限の数の癌患者が救われている。しかし、化学療法剤は、化学療法の間およびその後に、免疫抑制および骨髄抑制(bone marrow depression)のような、種々の重篤かつ生命を脅かすような副作用を引き起こすことが知られている。特に、遅延型骨髄抑制(delayed bone marrow suppression)または急性の顆粒球増多症(agranulocyosis)によって無数の癌患者が死亡している。
最近、医療分野において、積極的に取り上げられるようになった考え方の一つにクオリティ・オブ・ライフ(QOL)がある。QOLは、本来、人生や生活の質を意味する用語である。医療分野においてQOLの考え方が取り入られた背景には、従来の医療が疾患の治療に主眼をおいた結果、時として、全身の機能の異常をきたし、上記のように、患者の生活または人生を廃絶させたしまうこともあるというようなことがある。そこで、患者の生活や人生の質に重点をおいて医療方針を定める医療が取り入れらるようになった。
癌治療における1つの問題点は、再発した症例や、最初に受けた化学療法が効かなくなることである。多くの場合、患者は、さらなる治療を望むが、有効でない抗癌剤を使用することはかえって命を縮めてしまう。このような場合、いかにして生存期間を延長し、しかも、快適な生活を作り出すことが重要である。
一般に、カワリハラタケと呼ばれるものは、学名を「カワリハラタケ・ブラゼイ・ムリルgaricuslazeiurill」和名を「カワリハラタケ」という担子菌類ハラタケ科に属するきのこである。カワリハラタケ(以後、本明細書では、一般に、カワリハラタケ、またはABM、またはアガリクスと称する)は、ブラジルのサンパウロ州に位置するPiedade地方で伝統的に医薬として用いられている。カワリハラタケは、種々の免疫賦活活性、発癌予防効果、腫瘍増殖抑制効果をもつといわれ、現在、健康食品として幅広く内服されている。健康食品として経口的に利用されるのは、カワリハラタケの粉末または種々の抽出物である。
カワリハラタケに含まれる多糖類は、β−1,6−グルコピラノシル残基を含み、ザルコーマ180に対して抗腫瘍活性を有する(Ebina Tら(1986)、Jpn.J.Cancer Res 77:1034−1042)。
カワリハラタケの抽出物は、(1→6)−β分岐をもつ(1→4)−α−D−グルカンを含み、ナチュラルキラー細胞活性化およびアポトーシスを経由して媒介される選択的抗腫瘍活性を有する(Fujimiya Yら(1998)、Cancer Immunol Immunother 46:147−159)。
カワリハラタケに含まれるペプチドグリカンは、二重移植腫瘍系において、Meth A腫瘍細胞に対して直接的な細胞傷害性作用を有し、そして腫瘍をもつマウスに対して間接的な免疫増強作用を有する(Ebina Tら(1998)、Biotherapy 11:259−265)。
カワリハラタケに含まれる多糖類は、マウスにおけるT細胞サブセットにおける脾臓Thy1,2−、L3T4陽性細胞の割合を変えた(Mizuno Mら(1998)、Biosci.Biotechnol.Biochem.62:434−437)。
これらの報告は、カワリハラタケに含まれる多糖類が、免疫調節活性を通じて腫瘍細胞に対する細胞傷害性作用を有することを示唆している。
カワリハラタケ由来の成分に関し、上記のように、β−D−グルカンに代表される多糖類、タンパク質などの高分子物質の作用に関する報告が多数ある。しかし、タンパク質、多糖類などの高分子物質は、一般に、必ずしも消化管からの吸収が良いとは限らない。これまで、一般に、カワリハラタケの菌体成分は消化され難いことが知られており、医薬品および健康食品として、優れた生理活性を有し、かつ経口投与が可能なカワリハラタケ由来の物質が求められている。
協和のアガリクス茸は、免疫増強、特に、ナチュラルキラー細胞の活性化(Fujimiya,Yら(1998)前述;Ebina,Tら(1986)前述;およびIkekawa、T.Twenty years studies on antitumor activities of mushrooms.Nagno Prefecture Agriculture Technology Institute、Japan 9−22頁、1989)、外来抗原に対して抗体を形成するBリンパ球の能力の増大、およびマクロファージの数および活性の増大(Ito,H.、Ito,H.、Asano,H.、Noda,H.、Inhibitory action of (1−6)−β−D−glucan−protein complex(FIII−2b) isolated from Agaricus blazei Murill (Himematsutake) on Met A fibrosarcoma−bearing mice and its antitumor mechanism.Jpn.J.Pharmacology 66:265、1994;Preutus,H.A.、Ensley,H.E.、McNamee,R.B.、Jones,E.L.、Broweder,I.W.、Williams,D.L.Isolation、physiochemical characterization and preclinical efficacy evaluation of soluble seleroglucan.J.Pharmacol.Exp.Therap.257:500、1991;Immunotoxicity of Kyowa’s Agaricus blazei Murill:29−week dietary exposure and subsequent immune function and toxity in F344 male and female rats.Toxicology Report No.98022 by Toxicology Research Center、Korea Research Institute of Chemical Toxicology、Tajeon,Korea、1.12、1999)、化学療法に対する防御効果(Hamuro,J.、Rollinghoff,M.、Wagner,H.β−(1−3)Glucan−mediated augmentation of alloreactive murine cytotoxic T−lymphocytes in vivo.Cancer Res.38:3080、1978;2002年7月2日出願の特願2002−193943および2002年11月5日出願の特願2002−321864)などの生理活性をもつことが示されている。
【発明の開示】
本発明は、患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する方法、およびそのために用いる組成物に関する。本発明者らは、カワリハラタケの抽出物およびそれに含まれる成分が、ナチュラルキラー(NK)細胞を活性化し、外因性の抗原に対する抗体形成に至るB細胞の能力を増強し、そしてマクロファージの数およびその活動を増強する結果、化学療法に対する保護効果および化学療法を受けている癌患者のQOLの向上をもたらすことを認め、本発明を完成するに至った。
本発明は、患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する組成物に関し、この組成物は、カワリハラタケの抽出物を含む。
上記組成物は、薬学的に受容可能なキャリアをさらに含み得る。
代表的には、上記患者は癌患者であり得る。
代表的には、上記癌は、子宮癌患者、卵巣癌患者、子宮内膜癌患者からなる群から選択され得る。。
上記カワラリハラタケの抽出物は、カワリハラタケの子実体を熱水抽出する工程、得られる抽出物にエタノールを加えて混合し、遠心分離して沈殿物と上澄液に分ける工程、上記上澄液にエタノールを加えて混合し、遠心分離して沈殿物と上澄液に分ける工程、上記沈殿物を蒸留水に溶解して透析処理する工程を包含する方法によって得られる透析外液であり得る。
本発明はまた、患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する方法に関し、この方法は、カワリハラタケの抽出物を含む組成物を被験体に投与する工程を包含し得る。
本発明はまた、患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する組成物の調製のためのカワリハラタケの抽出物の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
図1は、本明細書に記載の質問表を用いて行った、化学療法を受けている癌患者のQOL評価のためのアンケート調査の集計結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は、患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する方法、およびそのために用いる組成物を提供する。この組成物は、カワリハラタケの抽出物を含有する。
本明細書で用いる用語「カワリハラタケ」は、一般に、学名を「カワリハラタケ・ブラゼイ・ムリル Agaricus blazei Murill」和名を「カワリハラタケ」という担子菌類ハラタケ科に属するきのこの子実体、菌糸体、培養液などを含むカワリハラタケ原料を意味する。代表的には、用語「カワリハラタケ」は、カワリハラタケの子実体を意味する。なお、以後、本明細書では、「カワリハラタケ」、「ABM」、および「アガリクス」は、交換可能に用いられ、同じカワリハラタケ原料を意味する用語として用いられる。
好ましくは、上記抽出物は、カワリハラタケを熱水抽出して調製される。
好ましくは、上記成分は、カワリハラタケを熱水抽出する工程、得られる抽出液を透析処理する工程、および得られる透析外液をクロマトグラフィー処理する工程によって得られる、分子量100〜2000のクロマトグラフィー主溶出画分である。
好ましくは、上記成分は、カワリハラタケの子実体を熱水抽出する工程、得られる抽出液にエタノールを添加して沈殿を得る工程、および該沈殿を水に溶解して透析処理する工程によって得られる透析外液である。
上記組成物は、粉末、液体、錠剤、カプセル、およびペレットからなる群から選択される形態であり得る。
本発明のカワリハラタケの抽出物は、カワリハラタケ原料を、溶媒抽出して調製される。カワリハラタケ原料は、代表的には、天然または栽培されたカワリハラタケの子実体である。培養タンクなどで培養されたカワリハラタケの菌糸体を用いてもよい。通常、カワリハラタケは、洗浄された後、乾燥して用いられる。市販されている子実体の乾燥物もまた便利に利用できる。通常、乾燥されたカワリハラタケは定法に従って粉末とされ、抽出原料として用いられる。
本発明のカワリハラタケの抽出物は、上記子実体の乾燥物またはその粉末に種々の溶媒を添加して抽出操作を行うことによって得られ得る。一般に、上記溶媒は、上記乾燥子実体またはその粉末の重量に対して2〜10倍の重量で添加されて抽出操作が行われる。上記溶媒としては、水、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、1,3−ブチレングリコール、酢酸エチル、ヘキサン、塩化メチレン、メタノールまたはそれらの混合物が用いられる。代表的には、水を用いてカワリハラタケの抽出物を調製する。例えば、カワリハラタケ粉末と上記溶媒のいずれかとの混合物を、0℃〜100℃の温度、好ましくは室温〜80℃の温度で、10分〜数日、好ましくは1〜24時間の間、マグネティックスターラー(100〜500rpmでの回転数)などを用いて攪拌または振盪して抽出操作が行われる。代表的には、本発明のカワリハラタケの抽出物は、カワリハラタケ粉末に脱イオン水を添加し、70℃で24時間連続攪拌することによって得られ得る。得られる溶液から、遠心分離法、濾過などの定法に従って残渣を取り除いた後、凍結乾燥する。得られた粉末をカワリハラタケの抽出物とする。
このように調製されたカワリハラタケの抽出物に含まれる、患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する成分は、当業者に公知のHPLC(高速液体クロマトグラフィー)などの手法を利用して得ることができる。得られた成分は、NMR法(核磁気共鳴分析法)などの手法を用いてその構造が識別され得る。
以下は、本発明のカワリハラタケの抽出物の製法の一例である。
乾燥子実体に5から10倍の重量の水を加え、1〜3時間加熱抽出または加熱還流する。このカワリハラタケの熱水抽出は、必要に応じて、熱水抽出残渣についても繰り返して行われる。このようにして得られる熱水抽出液は、凍結乾燥、スプレードライなど、当業者に公知の方法によって乾燥物(以下乾燥物Aという)とする。乾燥物Aを、5〜20倍の容量の水に懸濁または溶解した後、これを、透析チューブに入れ、数倍の容量の蒸留水に対して10〜15時間透析する。得られる透析外液を凍結乾燥して、患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する成分を含む、乾燥物(以下乾燥物Cという)を得る。
次に、透析内液についても、さらに流水中で20〜40時間透析し、そして蒸留水で2回各数時間透析した後に得られる透析内液を、上記と同様に乾燥物とすることによっても、患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する成分を含む、カワリハラタケの熱水抽出物の乾燥物(以下乾燥物Bという)が得られる。
次に、得られた上記乾燥物Cを、約10倍重量の蒸留水に溶解し、蒸留水を流出溶媒としてゲル濾過クロマトグラフィーを行い、20mLずつ分取し、多くの画分を得る。得られた画分の中程の主溶出画分で、ゲル濾過法によって分子量100〜2000の画分が、本発明の、患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する成分である。
これらの画分は、さらにODS(オクタデシルシラン化シリカゲル)を用いる逆相クロマトグラフィー、DEAE−TOYOPEARL650を用いるイオン交換クロマトグラフィーなどを用いて分析すると、アルギニン、リジン、マンニトールの他、複数の成分を含んでいることが確認されている。
また、上記の方法で得られる熱水抽出液に等量のエタノールを加えて混合し、遠心分離処理して沈殿と上澄液に分け、得られる上澄液にさらにその1〜3倍容量のエタノールを加えて混合し、さらに遠心分離処理して得られる沈殿を蒸留水に溶解し、得られる溶液を透析処理して得られる透析外液もまた、本発明の、患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する成分である。
上記のように調製されたカワリハラタケの抽出物またはそれに含まれる患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する成分は、そのまま、あるいは種々のキャリアとともに医薬製剤の製造に用いることができる。
以下は、カワリハラタケの抽出物の製造の具体例である。
(1)カワリハラタケの熱水抽出物として上記の乾燥物Aを用いた。これは、カワリハラタケの乾燥子実体(協和アガリクス茸)を沸騰水で抽出し、1800×gで10分間遠心分離して残渣を取り除き、そして凍結乾燥したものである。これを、3.7mg/mlの濃度で精製水に溶解したものを試料I、そして8mg/mlの精製水に溶解したものを試料IIとした。
(2)300gの協和アガリクス茸に蒸留水2Lを加え、2時間加熱還流を行った。得られた液を濾過して濾液(熱水抽出液)と残査とに分けた。残査には再び蒸留水2Lを加え、さらに2時間加熱還流して熱水抽出を行い濾液を得た。さらに残った残査についてもう一度同様の熱水抽出を行った。得られた濾液を合わせて凍結乾燥し、乾燥物A(153g:抽出率51%)を得た。
50gの乾燥物Aに500mLの蒸留水を加え、透析チューブ(Spectra/Por Membrane 50×31、8mm内径×30cm長さ、FE−0526−65)に入れた。これを3Lの蒸留水に対して12時間透析した。得られた透析外液を凍結乾燥して乾燥物C(27g:抽出率53%)を得た。透析内液についてはさらに流水中で30時間透析し、その後蒸留水で2回(各4時間、合計8時間)透析した後、透析内液を凍結乾燥し、乾燥物B(11g:抽出率22%)を得た。続いて、3gの乾燥物Cを30mLの蒸留水に溶かし、TOYOPEARL HW40C(40mm内径×420mm長さ)を用いるクロマトグラフィーを行った。流出溶媒はすべて蒸留水を用いた。各フラクションについてそれぞれ20mLずつ分取し、画分1〜30を得た。それらのフラクションは薄層クロマトグラフィーを参考にして以下の5群に分けた。乾燥重量は次の通りであった。画分1〜11(75mg、2.5%)、画分12〜15(920mg、30.7%)、画分16〜17(1570mg、52.3%)、画分18〜19(270mg、9%)、画分20〜28(97mg、3.2%)。
画分16(以後、1SY−16という)の赤外線吸収スペクトル(IR)データは以下の通りであった。
画分16:IR(KBr)3390、3325、3285、2940、2920、1641、1634、1622、1615、1600、1595、1405、1394、1084、1020:分子量(ゲル濾過法)100〜2000。
(3)上記(2)と同様の熱水抽出を実施して、合わせた濾液(熱水抽出液)6Lを得た。この濾液を減圧濃縮して1Lとし、これにエタノール1Lを加えて混合し、遠心分離して沈殿と上澄液を得た。この上澄液にさらにエタノール3Lを加えて混合し、遠心分離して得られる沈殿を蒸留水に溶解し、透析処理した。得られた透析外液を凍結乾燥して粉末を得た。
上記のように調製されたカワリハラタケの抽出物またはそれに含まれる、患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する成分は、代表的には、生体適合性の薬学的キャリア(例えば、生理食塩水、緩衝化生理食塩水、デキストロース、および水など)とともに経口的に摂取され得る組成物として処方され得る。
上記薬学的に受容可能なキャリアは、当業者に公知であって、例えば、以下のものが挙げられる:リンゲル溶液、ハンクス溶液、または緩衝化生理食塩水などの緩衝液;ゴマ油などの脂肪酸、オレイン酸エチルまたはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル;ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトールなどの糖類;トウモロコシ、コムギ、イネ、ジャガイモなどの植物由来デンプン;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース;アラビアゴム、トラガカントゴムなどのゴム;ゼラチン、コラーゲンなどのタンパク質;架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはその塩など。
上記のように調製されたカワリハラタケの抽出物またはそれに含まれる、患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する成分は、単独または他の薬剤もしくは食品素材と組み合わせて摂取され得る。
上記のように調製されたカワリハラタケの抽出物またはそれに含まれる、患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する成分およびそれを含む組成物は、経口的または非経口的に投与され得る。非経口送達は、静脈内、筋肉内、腹腔内、または鼻孔内への投与により達成され得る。本発明の薬学的組成物の処方および投与の詳細は、例えば、当該分野における教科書「REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES」(Maack Publishing Co.、Easton、PA)に記載に従って行なわれ得る。
経口投与のためのカワリハラタケの抽出物またはそれに含まれる、患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する成分は、摂取に適した投与形態で当該分野で周知の薬学的に受容可能なキャリアを含む組成物として処方され得る。このようなキャリアは、得られる組成物が、患者による摂取に適した、錠剤、丸剤、糖衣剤、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁物などに処方されることを可能とする。
本発明の組成物は、カワリハラタケ熱水抽出物またはそれに含まれる、患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する成分を、患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善するに有効な量で含む。当業者は、「患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善するに有効な量」を十分に理解および認識する。「患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善するに有効な量」は、細胞培養によるインビトロアッセイまたは適切な動物モデルによって評価され得る。次に、このような情報を用いて、ヒトにおける摂取に有用な量を決定し得る。あるいは、「患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善するに有効な量」は、本願明細書に開示されるように、前述の試料IIを用いる場合、通常、一日あたり0.5g〜10.0g/kg、好ましくは一日あたり1.0g〜5.0g/kg、さらにより好ましくは一日あたり1.5g〜3.0g/kgの範囲である。
実際に摂取されるカワリハラタケの抽出物またはそれに含まれる癌、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する成分の量は、適用される個体の健康状態などに依存し、所望の効果が達成されるように最適化され得る。薬学的または栄養学的に有効な量を決定することは、当業者にとっては慣用的な手順である。
上記のカワリハラタケの抽出物またはそれに含まれる、患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する成分は、その機能を発揮するに十分な量で、選択された1種またはそれ以上の食品素材と混合され得る。選択された1種またはそれ以上の食品素材は、当業者に公知の形態、通常粉末形態で、この免疫賦活活性を有する画分と混合される。そしてこれらは、用途または好みに応じて、液状の食品として供することができる。あるいはハードカプセル、ソフトカプセルなどのカプセル剤、錠剤もしくは丸剤としてか、または粉末状、顆粒状、茶状、ティーバック状もしくは、飴状などの形状に成形され得る。
上記のカワリハラタケの抽出物またはそれに含まれる、患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する成分は、化学療法を受けている癌患者のQOLの増大により、抗腫瘍効果を提供し得る。本明細書に開示される手法またはプロトコールを指針として参照すれば、種々の癌に対する上記のカワリハラタケの抽出物またはそれに含まれる成分の、患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する効果は、容易に実証され得る。
ここで、対象となる癌は、上皮癌、造血系と免疫系の癌、中枢神経と眼の癌、および肉腫を含む。上皮癌には、口頭癌、咽頭癌、消化器官の癌(結腸癌、直腸癌、膵臓癌、胃癌、肝臓癌、胆汁系の癌)、呼吸器系の癌(肺癌、乳房癌)、皮膚癌(悪性黒色腫)、生殖器官の癌(前立腺癌、卵巣癌,子宮頚部癌、子宮内膜癌)、泌尿器系の癌(膀胱癌など)などが含まれる、造血系と免疫系の癌には、白血病、リンパ腫などが含まれる。中枢神経と眼の癌には、神経膠腫、網膜芽細胞腫、結合組織の癌、筋肉の癌、脈管系の癌が含まれる。肉腫には、上記の他のすべての癌および部位を特定できない癌が含まれる。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の例示であり、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【実施例1】
本実施例の目的は、化学療法を受けている婦人科癌患者の免疫機能およびQOLの増大の検討である。評価項目は、NK細胞の活性化、白血球数、リンパ球、単球および過酸化水素の定量、CD3陽性細胞、CD4陽性細胞/CD8陽性細胞比率、およびCD56陽性Tリンパ球細胞、そしてQOL評価のための、25間のアンケート調査である。
方法
被験体(Cohorts):
1999年〜2002年の3年間にKangnamセント・マリー病院の産婦人科(Department of Obstetrics and Gynecology、Kangnam St.Mary’s Hostpital、The Catholic University of Korea(Seoul、Korea))を訪れた、子宮頚部癌、卵巣癌、および子宮内膜癌の総計100人の集団を対照とした(表1)。


治療養生法(Therapeutic regimen):
これらの患者は、カルボプラチン(300mg/m、ここで、mg/mは、患者の身体表面積あたりの投与量を表す)に、VP16(エトポシド、100mg/m)またはタキソール(175mg/m)のいずれかをプラスした化学療法(表1中では、それぞれカルボ−VP16およびカルボ−タキソールと略して記載する)を3週ごとに少なくとも3サイクル行い、これらを、ABM投与ありと、投与なしの2群に分けた。ABMを投与された群は、協和エンジニアリング株式会社から提供されたパック詰め(50mg/パック)のABM(前述の、製造の具体例に記載される試料IIに相当するカワリハラタケの抽出物)を1回あたり1パック、1日3回経口摂取した。これらの患者からは、化学療法の1日前、第2回目の化学療法の1日前、および第3回目の化学療法の1日前に採血した。次いで、採血した血液中の、NK細胞の活性およびリンホカイン活性化キラー(LAK)細胞の活性、白血球、リンパ球、単球、CD3陽性細胞、CD4陽性細胞、CD8陽性細胞、CD48陽性細胞、およびCD56陽性細胞の数、ならびに単球のH産生レベルを分析した。
免疫細胞の数の測定:
免疫細胞の数は、白血球、リンパ球および単球は、XE−2100装置(Sysmex社製、Japan)を用いて測定した。CD3陽性細胞、CD4陽性細胞、CD8陽性細胞、CD48陽性細胞、およびCD56陽性細胞の数は、FACS分析によって測定した。FACS分析に用いたヒトCD3、CD4、CD8、CD48、およびCD56に対するFITC標識モノクローナル抗体(mAb)は、DiNona社、Immunotech社またはBeckman Coulter社(いずれも米国)から購入した。
血液からの末梢血単核細胞の単離:
末梢血単核細胞(PBMC)は、被験体から得た血液を、Ficoll−plague密度勾配遠心分離し、得られる白血球の層(buffy coat)から得た。得られた単核細胞は、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、そして選択された細胞集団をさらに精製するために用いた。
NK細胞およびLAK細胞障害性アッセイ:
PBMCから、CD56−microbead(Miltenyi Biotec、Co.、Germany)を用い、製造業者のプロトコールに従って、NK細胞を精製した。精製されたNK細胞のFACS分析は、95%以上の純度を示した。次いで、NK細胞と標的細胞K562とを、20:1の細胞数比率で、37℃、1〜4時間反応させてNK細胞活性を測定した。LAK活性測定では、最初に、NK細胞を、400U/mlの濃度の組み換えヒトIL−2(Sigma社、Mi、USA)と24時間反応させ、次いで、標的細胞Daudiと、3〜1の細胞数比率で、37℃、3時間反応させた。インキュベーションの後、上清液を集め、そして細胞障害性検出キット(BM社製、Germany)を用い、製造業者のプロトコールに従って評価した。次いで、490/630nmで乳酸デヒドロゲナーゼ活性に対応する吸光度を測定し、細胞障害性を以下のように算出した:
細胞障害性(%)=[(エフェクター−標的細胞ミックス−エフェクター細胞コントロール)]−低コントロール/高コントロール−低コントロール]×100。
単球のHアッセイ:
単球は、PBMCから、CD14−microbeads(Miltenyi Biotec)を用い、製造業者のプロトコールに従って精製した。精製された単球のFACS分析は、95%以上の純度を示した。次いで、単球を、2’,7’−ジクロロフルオロセイン−ジアセテート(10μg/ml)の溶液の50倍希釈液と反応させ、そして37℃で1時間インキュベートした。インキュベーションの後、H産生レベルおよびその相対蛍光単位(RFU)を、Cytofluorometer(Millipore社、Dedford、MA)を用い、485/535nmの波長の吸光度を測定することにより計測した。
統計分析:
得られたデータの統計分析は、M.J.Crowder & D.J.Hand、Analysis of Repeated Measures:Chapman & Hall:London、1990の統計法を基礎にしたANOVAの繰り返し検定(Repeated Measures)のためのコンピュータープログラムを用いて実施した。
結果
以下の表2に免疫機能の測定結果を示す。表2の1に示されるように、ABMと組み合わせたカルボプラチン+Vp16の場合、NK細胞の活性が、化学療法の開始から6週間に亘って有意に増加した。コントロール群では、NK活性は同期間で徐々にかつ有意に低下した(p<0.05;p=0.0021)。さらに、表2の2、3、6、および9に示されるように、ABM処置の前に比べ、同じ患者群で、LAK活性、H、単球の数、およびCD56陽性細胞の数はABMK処置の後に増加する傾向を示した。なお、表2の各項目において記載されるp値は、上記に記載の統計分析における、ABM群とプラセボ群(前述の試料IIとほぼ同じ色(茶色)の食品用色素の水溶液を摂取)との間の有意水準である。




上記の結果は、カワリハラタケの抽出物ABMの投与を行った癌化学療法患者では、プラセボ投与群に比べ、免疫機能の指標となる測定項目が増強されたことを示す。特に、NK細胞の活性は、ABM投与開始後6週間にわたり、ABMK投与開始前やプラセボ対照群に比較して有意に増加した(p<0.05)。それとは対照的に、対照群においては、同じ期間内にNK細胞のゆっくりとした有意な減少が観察された(p<0.05;p=0.0021)。
また、ABM投与開始前に比べ、ABM投与後に、LAK活性、Hレベル、単球の数およびCD56陽性細胞の数の増加が観察された。しかし、これらの免疫機能の指標値は、プラセボ群との比較においては統計的有意差は認められなかった(表2の各項目において示されたp>0.05)。これは、患者の遺伝子多様性に起因すると考えられた。さらに正確な評価は、さらに多くの被験体数を必要とする。
QOL評価のためのアンケート調査は、表3に示す質問表を用いて行った。アンケートの集計結果を図1に示す。図1に示される9つの図は、それぞれ、表3に示す質問表の不眠、食欲、脱毛、体重変化、吐気および嘔吐、情緒の状態、抗癌剤の治療による副作用等、虚弱、および末梢神経毒性の評価結果を示す。各図において、横軸は、ABM投与群、プラセボ投与群、そしてABMおよびプラセボをいずれも投与しなかった群をそれぞれ示す。各図において、縦軸は、各評価項目における評価が、1.改善、2.変化なし、および3.悪くなった割合を表し、各棒においては、下から順に、1.改善、2.変化なし、および3.悪くなったの評価を示している。
図1に示されるように、今回の婦人科癌患者におけるQOLの評価において、癌化学療法によってもたらされた食欲不振、脱毛、情緒不安定、抗癌剤治療に対する態度、吐気および嘔吐、虚弱などの副作用発現が有意に改善されたことが示された。なお、抗癌剤治療に対する態度とは、抗癌剤治療に対し恐怖感を抱くか否かを意味し、ABM投与によって抗癌剤治療に対する恐怖感が取り除かれることが示された。その一方、末梢神経毒性、不眠、体重変化においては、ABM投与によってこれらの諸症状が改善される傾向が認められたが統計的に有意差は示されなかった。



【産業上の利用可能性】
患者、特に癌治療における患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する方法、およびそのために用いる組成物が提供される。ナチュラルキラー(NK)細胞を活性化し、外因性の抗原に対する抗体形成に至るB細胞の能力を増強し、そしてマクロファージの数およびその活動を増強する結果、化学療法に対する保護効果および化学療法を受けている癌患者のQOLの向上をもたらす天然素材由来の成分およびその適用方法が提供されるので、医療、食品工業、および製薬工業において種々の形態で広範に利用され得る。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する組成物であって、カワリハラタケの抽出物を含む組成物。
【請求項2】
薬学的に受容可能なキャリアをさらに包含する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記患者が癌患者である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記癌が、子宮癌患者、卵巣癌患者、子宮内膜癌患者からなる群から選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記カワラリハラタケの抽出物が、カワリハラタケの子実体を熱水抽出する工程、得られる抽出物にエタノールを加えて混合し、遠心分離して沈殿物と上澄液に分ける工程、該上澄液にエタノールを加えて混合し、遠心分離して沈殿物と上澄液に分ける工程、該沈殿物を蒸留水に溶解して透析処理する工程を包含する方法によって得られる透析外液である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する方法であって、カワリハラタケの抽出物を含む組成物を被験体に投与する工程を包含する、方法。
【請求項7】
患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善する組成物の調製のためのカワリハラタケの抽出物の使用。

【国際公開番号】WO2004/073727
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−568479(P2004−568479)
【国際出願番号】PCT/JP2003/001819
【国際出願日】平成15年2月19日(2003.2.19)
【出願人】(398052759)株式会社サンドリー (1)
【出願人】(395013968)協和エンジニアリング株式会社 (1)
【Fターム(参考)】