説明

R2adg及びR2sto遺伝子に連鎖するDNAマーカーを用いたジャガイモ疫病抵抗性検定法

【課題】ジャガイモ疫病に対する抵抗性個体をDNAレベルで、しかも短時間に検定できるようにすることにより、抵抗性品種育成を効率的に行うことのできる検、DNAマーカーを用いた抵抗性検定法を提供する。
【解決手段】5'-TACTAACCTTTTCCTAGATG-3、または5'-AGAACTTTCTCACAGCTTTT-3'の、特定の塩基配列で表されるR2adg及びR2sto遺伝子に連鎖するDNAマーカー検定用プライマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ジャガイモ栽培における最重要病害であるジャガイモ疫病に抵抗性を持つ品種育成を効率的に進めるため、交配によって得た雑種後代の抵抗性の有無を判別する検定法であって、特に、Solanum tuberosum ssp. andigenaの系統「W553-4」に由来するジャガイモ疫病抵抗性遺伝子(R2adg)およびS.stolonifermに由来するジャガイモ疫病真性抵抗性遺伝子(R2sto)に連鎖し、ジャガイモ疫病抵抗性または罹病性を判別するDNAマーカーを用いたジャガイモ疫病抵抗性検定法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジャガイモ疫病は一旦発生すると防除が困難なため、予防的な農薬散布が必要である。ジャガイモ栽培における農薬使用の大半は、疫病発生の予防目的で行われている。減農薬栽培や環境保全型農業の推進、薬剤費節減のためには、疫病抵抗性品種が必要である。
ジャガイモの疫病菌は異なるいくつかの系統が存在しており、最近はレース1,3,4の疫病菌系統の分布が拡大し問題となっている。この疫病菌は疫病真性抵抗性遺伝子R2を持つ品種・系統を侵すことができないことから、R2遺伝子を導入した品種を育成することが有効である。
従来、育成系統のジャガイモ疫病抵抗性検定は、疫病無防除栽培圃場等において、植物体への疫病菌の感染による病斑の有無によって判別している。また、切り取った葉に接種する室内検定法がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「園芸学研究 第7巻 別冊2」園芸学会発行 2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無防除栽培圃場等の検定は、結果を得るまでに3〜4ヶ月かかり、多くの労力を要する。また、気象や発生する疫病菌系統によって影響され、検定精度が安定しない。切り取った葉に接種する室内検定法もあるが、スペースが限られているため、検定数に限界がある。
育種現場において、交配における雑種後代から抵抗性個体を効率良く選抜できる、疫病抵抗性遺伝子に連鎖するDNAマーカーを開発する。
育種の早期世代でのDNAマーカーを用いた抵抗性個体の選抜が可能になると、今まで以上に多くの個体を取り扱うことができ、新品種育成を効率的に行うことができる。
【0005】
この発明は、上記のような課題に鑑み、その課題を解決すべく創案されたものであって、その目的とするところは、DNAマーカーを用いた抵抗性検定を利用可能にして、ジャガイモ疫病に対する抵抗性個体をDNAレベルで、しかも短時間に検定できるようにすることにより、抵抗性品種育成を効率的に行うことのできる検定法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の目的を達成するために、この発明は、配列番号1及び配列番号2で表されるR2adg及びR2sto遺伝子に連鎖するDNAマーカー検定用プライマーよりなる。
ここで、配列番号1は“5'-TACTAACCTTTTCCTAGATG-3'”の20塩基の合成プライマーから構成され、配列番号2は“5'-AGAACTTTCTCACAGCTTTT-3'”の20塩基の合成プライマーから構成される。
【0007】
疫病菌03001株(レース1,2,3)に対して抵抗性を示すSolanum tuberosum ssp. andigenaの系統「W553-4」に由来する疫病真性抵抗性遺伝子R2adgを持つ品種「さやあかね」と罹病性品種「農林1号」との雑種後代を作出し、疫病菌03001株を用いた接種検定を行った。罹病率0%の抵抗性10個体及び罹病率100%の罹病性10個体から抽出したDNAをそれぞれ等量ずつ混ぜて抵抗性混合DNA試料及び罹病性混合DNA試料とした。S.stolonifermに由来する、ジャガイモ疫病真性抵抗性遺伝子R2stoに連鎖するRAPDマーカーの塩基配列を基にRAPDマーカーの両端を挟むプライマー(R2SP-S1・R2SP-A1)を設計・合成した。合成したプライマーと混合DNA試料を使ってPCR増幅後、産物を制限酵素で切断するPCR-RFLP分析を行い、抵抗性個体に特異的なDNAバンド(CAPSマーカー)を得た。「さやあかね」からCAPSマーカー検出用のプライマー(R2SP-S1・R2SP-A1)を用いてPCR増幅し、増幅断片をTAクローニングによりクローン化した。制限酵素HindIIIないしMboIで消化してR2adgに連鎖するCAPSマーカーが検出されるクローンとされないクローンの塩基配列を比較し、R2adg特異的なDNA断片(R2-800)のみを増幅するプライマー(R2SP-S7:5'-TACTAACCTTTTCCTAGATG-3'、R2SP-A9:5'-AGAACTTTCTCACAGCTTTT-3')を設計・合成した(図1)。
【発明の効果】
【0008】
この発明によって、F1集団の疫病抵抗性の有無が、従来の無防除栽培圃場における検定に比べ、短期間で精度良く判別できるようになった。
圃場検定や接種検定は、実施時期が栽培期間に限られていたが、この発明によってジャガイモが栽培されていない時期でも検定が可能となったことから、今まで以上に多くの個体を取り扱うことができ、新品種育成を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】R2adg及びR2sto遺伝子に連鎖するDNAマーカー検定用プライマーを示す図である。
【図2】品種・系統におけるR2adg 及びR2sto遺伝子に連鎖するDNAマーカー(R2-800)の検出(矢印で表示)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔バイレショDNA簡易抽出法(CTAB-LiCL法)〕
(1)50mg組織を1.5mlチューブに入れ、ペッスルですりつぶす。
(2)175μlの2%CATB液と175μlの8M LiClを加えて、撹拌する。
(3)65℃、5分間インキュベート(時々撹拌する)。
(4)350μlクロロホルム/イソアミルアルコール(24:1)を加えて、10分間振盪する。
(5)12,000rpmで3分間遠心分離する。
(6)上澄み300μlを新しい1.5mlチューブに移す。
(7)210μlの冷イソプロパノールを加えて、優しく撹拌する。
(8)−30℃で15分間放置する。
(9)12,000rpmで10分間、4℃で遠心分離する。
(10)1mlの70%冷エタノールを加えて、すぐに吸い出す。
(11)1mlの冷エタノールを加えて、すぐに吸い出す。
(12)遠心濃縮機で5分間乾燥する。
(13)50μlの滅菌水(10μg/ml RNaseAを含む)を加え、55℃で溶解する。
【0011】
〔抽出DNA濃度測定〕
(1)2ml Low Range(A)液(0.1μg/ml H33258、0.2M NaCl、10mM Tris−HCl、1mM EDTA;pH7.4)をガラスセルに入れ、「ZERO」を押し、0点調整を行う。
(2)λDNA液(100μg/ml)を2μl加えて撹拌し、「CALIB」を押し、「l」「0」「0」と入力後、「ENTER」を押す。
(3)Calibration終了後、ガラスセルの液を捨て、新しい2ml Low Range(A)液を入れ、「ZERO」を押し0点調整後、抽出DNAサンプルの2μlを加えて撹拌し、濃度を測定する。
ここで、使用機器は、DyNA Quant 200(Hoefer社)を用いた。
【0012】
〔ジャガイモ疫病抵抗性遺伝子に連鎖するDNAマーカー反応液組成〕
10×PCR Buffer(MgCl free) 10μl(最終濃度:1×)
25mM MgCl 8μl(最終濃度:2mM)
2.5mM dNTP Mixture 8μl(最終濃度:0.2mM)
50μM R2SP-S7 1μl(最終濃度:0.5μM)
50μM R2SP-A9 1μl(最終濃度:0.5μM)
5units/μl Taq DNA Polymerase 0.5μl(最終量:2.5u)
鋳型DNA(5ng/μl) 10μl(最終量:50ng)
滅菌水 61.5μl
計 100μl
ここで、Taq DNA Polymeraseはタカラバイオ社のTaKaRa Ex TaqTMを使用。10×Buffer、MgClはキット添付のもの。
【0013】
〔ジャガイモ疫病抵抗性遺伝子に連鎖するDNAマーカー反応温度条件〕
94℃3分を1サイクル
94℃30秒→55.0℃30秒→72℃1分を35サイクル
72℃5分を1サイクル
【0014】
〔電気泳動〕
(1)アガロース0.42gを耐熱ビンに入れ、1×TAE buffer(40mM Tris、40mM氷酢酸、1mM EDTA、pH8.0)30mlを加えて電子レンジで加熱し撹拌しながら完全に溶かす。
(2)溶液の温度が約40℃に冷えたら、ゲルトレイに注ぎコームを差し込む。ゲルが固まったら泳動槽にセットする。
(3)Loading buffer(0.25%bromophenol blue、0.25%xylene cyanol FF、lmM EDTA、30%グリセロール)1μl取り、PCR反応させたチューブに直接加えて混合し、そこから5μ1取る。
(4)5μlのサンプルを泳動槽にセットしたアガロースゲルの注入穴に静かに注入する。
(5)100Vで30分間電気泳動後、0.5μg/mlエチジウムブロマイド(臭化エチジウム)を含む1×TAE bufferに浸して30分間ゆっくり振盪し、ゲルをトランスイルミネーターにのせ、紫外線を照射してカメラで撮影する。
【実施例】
【0015】
ジャガイモ疫病真性抵抗性遺伝子R2adgを持つ「さやあかね」と「農林1号」のF1雑種において、接種検定結果とR2-800の有無との間には80.0%の相関が認められた(表1)。
【0016】
【表1】



【0017】
ジャガイモ疫病罹病性品種「メークイン」とR2adgを持つ「W553-4」のF1雑種において、接種検定結果とR2-800の有無との間には92.8%の相関が認められた(表2)。
【0018】
【表2】



【0019】
S.stolonifermに由来するジャガイモ疫病真性抵抗性遺伝子R2stoを持つ「北海56号」と罹病性品種「Norchip」のF1雑種において、接種検定結果とR2-800の有無との間には91.1%の相関が認められ、R2sto遺伝子を持つジャガイモ個体の選抜にも使えることが確認された(表3)。
【0020】
【表3】



【0021】
ジャガイモ83品種・系統について疫病菌03001株(レース1,3,4)接種による罹病率とR2-800の有無を調査したところ、R2adgR2stoを持つと考えられる8品種・系統でR2-800が検出された(表4、図2)。
【0022】
【表4】

【配列表フリーテキスト】
【0023】
配列番号1:合成DNA
配列番号2:合成DNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1及び配列番号2で表されるR2adg及びR2sto遺伝子に連鎖するDNAマーカー検定用プライマー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−220571(P2010−220571A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73409(P2009−73409)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【Fターム(参考)】