説明

RFコイル

【課題】高耐圧かつ均一の容量を形成することができ、共振周波数の調整が容易となるRFコイルを提供する。
【解決手段】RFコイルにおいて、中空円筒状の基板と、基板上において、基板の中心軸に略平行かつ略等間隔に配置される複数の軸導体部と、軸導体部から分岐される複数の分岐導体部と、を有する導体膜と、を有し、各導体膜の分岐導体部は、隣接する他の導体膜の分岐導体部と所定の間隔をあけて対向して配置されていることを特徴とする。この場合において分岐導体部は、軸導体部に対し略垂直に分岐してなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFコイルに関する。より具体的には、MRI装置において使用されるRFコイルに好適なものである。
【背景技術】
【0002】
MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置は、強い静磁界中に置かれた被検体(主に人体)にパルス状の電磁波を照射することによって生じるNMR(Nuclear Magnetic Resonance)信号を受信し、被検体の内部構造を画像化することのできる装置である。そして、この被検体にパルス状の電磁波を照射するための装置は、RF(Radio Frequency)コイルと呼ばれ、電磁波の送受信をおこなうアンテナとして用いることができる。
【0003】
このRFコイルの公知の文献としては、例えば、下記非特許文献1に、いわゆるバードケージ型のRFコイルが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Jian−Ming Jin,“Electromagnetics in Magnetic Resonance Imaging”,IEEE Antennas and Propagation Magazine,Vol.40,No.6,December1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで上記バードケージには、複数個の同一容量のコンデンサが装荷されており、これらの容量を変化させることでその共振周波数を調整する。また、これらのコンデンサにはコイルの構造上、高電圧を印加する必要がある。
【0006】
しかしながら、上記非特許文献1に記載の技術では、高耐圧かつ均一容量の複数のコンデンサが必要となるものの、その要求を満たすことは非常に難しく、共振周波数の調整が難しいといった課題がある。
【0007】
そこで、本発明は上記課題を鑑み、高耐圧かつ均一の容量を形成することができ、共振周波数の調整が容易となるRFコイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の一観点に係るRFコイルは、中空円筒状の基板と、基板上において、基板の中心軸に略平行かつ略等間隔に配置される複数の軸導体部と、軸導体部から分岐される複数の分岐導体部と、を有する導体膜と、を有し、各導体膜の分岐導体部は、隣接する他の導体膜の分岐導体部と所定の間隔をあけて対向して配置されることを特徴の一つとする。
【0009】
また、本観点において、限定されるわけではないが、分岐導体部は、軸導体部に対し略垂直に分岐してなることが好ましい。
【0010】
また、本観点において、限定されるわけではないが、分岐導体部は、軸導体部の端部近傍において分岐してなることが好ましい。
【0011】
また、本観点において、限定されるわけではないが、分岐導体部は、隣接する導体膜の前記分岐導体部と、0.05mm以上0.5mm以下の範囲の間隔をあけて略平行に配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上、本発明により、高耐圧かつ均一の容量を形成することができ、共振周波数の調整が容易となるRFコイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係るRFコイルの概略を示す図である。
【図2】実施形態に係るRFコイルの導体膜の分岐導体部近傍の拡大図である。
【図3】実施例に係るFDTDの配置の概要を示す図である。
【図4】実施例に係るFDTDの結果を示す図である。
【図5】実施例に係るRFコイルのxy平面における磁界強度分布を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0015】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係るRFコイル(以下「本RFコイル」という。)1の概略を示す図である。本図で示すように、本RFコイル1は、中空円筒状の基板2と、基板2上において、基板2の中心軸21に略平行かつ略等間隔に配置される複数の軸導体部31と、軸導体部31から分岐される複数の分岐導体部32と、を有する導体膜3と、を有している。
【0016】
本実施形態において、基板2は、上記の通り、中空の円筒状であって、絶縁性を有し、磁界に与える影響が少ない材質を用いることが好ましく、この限りにおいて限定されるわけではないが、例えばガラスやエポキシ等のプラスチック樹脂を採用することができる。
【0017】
また、中空の円筒状の基板の厚さや径については、必要とされる条件に基づき適宜調整可能であり限定されるわけではないが、外径としては150mm以上500mm以下であることが好ましく、より好ましくは300mm以下の範囲である。また基板の厚さとしては、円筒形状を保持するとともに、導電膜の形状を安定的に保持することができる程度に硬いものであれば限定されるわけではないが、2mm以上10mm以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは5mm以下の範囲内である。また、基板の軸方向の長さについても限定されるわけではないが、例えば50mm以上1000mm以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは500mm以下の範囲内である。
【0018】
また、本実施形態において、導体膜3は、導電性を有するものであり、基板2上に形成されている。なお導体膜3は、基板2上に形成されている限りにおいて限定されず、円筒形状の基板2の外表面側に配置されていても良いし、基板2の内表面側に配置されていても良い。導体膜3の材質としては、良好な導電性を有する限りにおいて限定されず、例えば、銅等の金属であることが好ましい。
【0019】
また、本実施形態において、導体膜3は、軸導体部31と、分岐導体部32とを有して構成されており、各導体膜3は、分岐導体部32において、隣接する導体膜3の分岐導体部32と所定の間隔をあけて略平行に対向して配置されており、分岐導体部32全体でこの基板の周囲をリング状に囲んでいる。この分岐導体部32近傍の概略を図2に示しておく。
【0020】
本実施形態の導体膜3において、軸導体部31は、中空円筒状の基板2上において、この中心の軸21に対し略平行となるよう複数所定の間隔をあけて均等に配置されている。限定されるわけではないが、導体膜3の長さは、基板2の軸方向の長さと略等しくすることが好ましく、幅としては、1mm以上5mmであることが好ましい。
【0021】
また本実施形態の導体膜3には、軸導体部31には分岐導体部32が接続されており、かつ分岐導体部32は、軸導体部31に交差して接続されている。分岐導体部32が軸導体部31と接続する位置は、限定されるわけではないが、中空円筒状の基板2の両縁近傍に配置されていることが好ましい。このようにすることで、同じ長さの基板を用いた場合であっても軸導体部31を長く確保することができる。
【0022】
また、本実施形態において、分岐導体部32が軸導体部31と交差する角度としては、限定されるわけではないが、いずれも略垂直であることが好ましい。このようにすることで、中空円筒状の基板の中心の軸21に対し略垂直にすることで、上記と同様、同じ長さの基板を用いた場合であっても軸導体部31を長く確保することができる。なおここで「略垂直」とは、完全な垂直を含むことはもちろんであるが、製造上の数度程度(5度程度)の誤差は許容する意味である。
【0023】
また本実施形態において、隣接する導体膜3の分岐導体部32同士は、均一の距離を開けて対向して配置されている。このようにすることで、コンデンサを使用せずに共振周波数を調整することができるようになる。
【0024】
また、本実施形態において、導体膜3は、分岐導体部32が一本のものであってもよいが、複数の分岐導体部32を有しており、隣接する導体膜3同士の分岐導体部32が櫛歯状に組み合わされたものとなっていることも好ましい。このようにすることでより効率よく共振周波数の調整が可能となるといった利点がある。つまり、隣接する導体膜3同士の分岐導体部32の本数が異なり、それらが櫛歯状に組み合わされることで、より効率が良くなる。図2の例は、二本の分岐導体部32を有する導体膜3と、一本の分岐導体部32を有する導体膜3とが組み合わされた例となっている。
【0025】
以上、本実施形態に係るRFコイルによると、高耐圧かつ均一の容量を形成することができ、共振周波数の調整が容易となる。具体的には、本実施形態のような構成とすることで、コンデンサを配置する必要がなくなるため、高磁場化や高出力化使用とする場合であっても、その性能に耐えうるコンデンサを選択、考慮する必要がなくなり、また、コンデンサ容量のバラツキなどについても考慮する必要がなくなるため、高性能化を図ることが容易にできる。
【実施例】
【0026】
ここで、上記実施形態に係るRFコイルの効果につき、実際にRFコイルを作製し、その効果を確認した。以下に示す。
【0027】
(実施例1)
外径350mm、厚さ4mm、長さ330mmの中空の円筒状の基板に、16本の導体膜3を均等かつ略平行に配置した。なお導体膜3の軸導体部31及び分岐導体部32の幅は5mmとした。また分岐導体部32の本数は隣接する導体膜3同士で異なり1本又は2本とし、隣接する分岐導体部32は、0.2mmの隙間で櫛歯状に平行に組合わされるよう形成した。なお、給電点は、90°の位相差をつけて上記分岐胴体部32に配置した。
【0028】
一方、外径180mm、長さ250mmの円柱型のファントムを作製し、上記RFコイルの内部に配置し、更に、このRFコイルの周囲に、外形400mm、長さ440mmのシールドを配置した。下記表1に、ファントムの組成を示す。
【表1】

【0029】
そして、この配置において、解析領域500mm×500mm×640mmとしたFDTD(Finite−Difference Time−Domain)法を用いて数値解析を行なった。なおこの数値解析におけるセルサイズは以下とした。なおこのFDTDの配置の概要図を図3に示しておく。
【表2】

【0030】
このFDTDの結果を図4に示す。この結果、4TのMRIシステムにおいて170MHz近傍で共振していることが確認できた。これはFDTD及び実測においても同様の結果を得ることができた。
【0031】
また、図5に、本実施例のRFコイルのxy平面における磁界強度分布を示す。左側の(a)は本実施例に係るRFコイルに関するものであり、(b)は、直径及び長さ等を等しくしてコンデンサを用いた比較例としてのRFコイルの磁界強度分布に関するものである。この結果、コイル内で比較の例よりも均一な磁界分布を形成していることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、RFコイルとして産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0033】
1…RFコイル、2…基板、3…導体膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空円筒状の基板と、
前記基板上において、基板の中心軸に略平行かつ略等間隔に配置される複数の軸導体部と、前記軸導体部から分岐される複数の分岐導体部と、を有する導体膜と、を有し、
各導体膜の分岐導体部は、隣接する他の前記導体膜の前記分岐導体部と所定の間隔をあけて対向して配置されるRFコイル。
【請求項2】
前記分岐導体部は、前記軸導体部に対し略垂直に分岐してなる請求項1記載のRFコイル。
【請求項3】
前記分岐導体部は、前記軸導体部の端部近傍において分岐してなる請求項1記載のRFコイル。
【請求項4】
前記分岐導体部は、隣接する導体膜の前記分岐導体部と、0.05mm以上0.5mm以下の範囲の間隔をあけて配置される請求項1記載のRFコイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−191970(P2012−191970A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56025(P2011−56025)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】