説明

RFIDタグおよびRFIDシステム

【課題】交信が可能な範囲を調整したり、タグの移動に追随して交信を行うことを容易に実現する。
【解決手段】RFIDタグ1のパッケージ10内に、2つのアンテナ11A,11Bと、各アンテナ11A,11Bを独立して動作させるICチップ12とを設け、各アンテナ11A,11Bからの電波の指向性を調整することにより、パッケージ10の前面10aから見て互いに異なる方向に広がる交信領域A,Bを設定する。このタグ1と交信するリーダライタは、交信領域A,Bのいずれかを選択し、選択した交信領域の識別情報を含むコマンドを送信する。ICチップ12内の制御回路は、受信したコマンドに含まれる識別情報と当該コマンドを受信したアンテナとが整合することを条件としてコマンドを実行すると共に、当該コマンドを受信したアンテナ部を介して応答情報を返送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナおよびICチップを含むRFIDタグと、このRFIDタグと交信してICチップ内のメモリに対する情報の読み書きを行うリーダライタとを具備するRFIDシステム、およびこのシステムで使用されるRFIDタグに関する。
【背景技術】
【0002】
RFIDシステムが導入される現場では、物品に取り付けられたRFIDタグ(以下、単に「タグ」という場合もある。)に対する交信が可能になる範囲を限定したり、タグ(物品)の移動方向を認識することが求められる場合がある。
このような要求に応えるための従来技術として、リーダライタのアンテナ部をアレイアンテナにより構成して、タグの移動方向を検出したり、放出される電波の指向性を調整することが、提案されている(たとえば、特許文献1,2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4353298号公報
【特許文献2】特開2007−336305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
RFIDタグとの交信が可能な範囲を調整する一般的な方法として、アンテナ部からの電波の指向性を変更する方法が知られている。しかし、電波法上の制約があるため、このような方法を採用するのは困難である。
【0005】
また、リーダライタにアレイアンテナを導入した場合には、アレイアンテナを構成する各アンテナ毎にRFIDタグとの交信を行って、これらのアンテナが受信した信号を用いた演算を実行する場合があるが、このような処理ではリーダライタにおける演算の負荷が大きくなり、読み書き処理を高速化するのが困難となる。
【0006】
本発明は上記の問題点に着目し、タグ側の構成を改良することによって、交信が可能な範囲を調整したり、タグの移動に追随して交信を行うことを容易に実現することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるRFIDタグは、リーダライタに対向させる面から見て相対的に異なる方向に広がる複数の交信領域を設定する機能と、リーダライタからのコマンドを受信した交信領域を介してコマンドに対する応答情報をリーダライタに返送する機能とを具備する。一方、リーダライタは、複数の交信領域のうちの少なくとも1つを選択し、タグとの交信のうち選択された交信領域を介した交信を有効とし、選択されていない交信領域を介した交信を無効とする。
【0008】
上記のRFIDタグとリーダライタを具備するRFIDシステムによれば、RFIDタグで設定される複数の交信領域のうち、リーダライタからの電波を受信することが可能で、かつリーダライタにより選択されている交信領域を介して、読み書き処理のための交信を行うことができる。
【0009】
リーダライタでは、いずれの交信領域を選択するかによって、タグとの交信が可能になる範囲を変更することができる。また、移動するタグと交信する場合には、選択中の交信領域を介してタグからの応答情報を受信していることを確認しながら、適宜、交信領域の選択を切り替えることによって、タグの移動に追随した交信を行うこともできる。また、同時に複数の交信領域を選択して、双方の交信領域を介した交信が可能となったときのみ、その交信を有効とすることによって、交信を行う範囲を限定することができる。または、複数の交信領域の少なくとも1つを介した交信が可能であれば、その交信を有効とすることによって、広い範囲で交信を行うこともできる。
【0010】
本発明によるRFIDシステムの第1の実施形態では、RFIDタグには、互いに異なる方向に電波を放出するように調整された複数のアンテナと、これらのアンテナをそれぞれ独立に動作させる制御回路を含むICチップとが設けられる、また、リーダライタは、自装置が選択している交信領域の識別情報を含むコマンドを送信し、ICチップの制御回路は、リーダライタからのコマンドをその中の識別情報に適合するアンテナを介して受信したことを条件として、当該コマンドを実行すると共に、当該コマンドを受信したアンテナから応答情報を返送する。
【0011】
上記の構成によれば、RFIDタグでは、2以上の交信領域を介してリーダライタからのコマンドを受信する可能性があるが、リーダライタにより選択されている交信領域を介してコマンドを受信したときでなければコマンドには反応しないので、選択外の交信領域を介して受信したコマンドにより誤った処理が行われるおそれがない。よって、読み書き処理の精度を確保することができる。
【0012】
第2の実施形態のRFIDタグは、複数の交信領域のいずれか1つを選択して、選択された交信領域のみを有効にするように構成される。
リーダライタは、交信領域の選択を切り替える必要が生じたとき、その切り替えを指示するコマンドをRFIDタグに送信する。
【0013】
上記の構成によれば、RFIDタグがリーダライタからの電波を受信可能になり、両者の交信領域の選択が整合している場合に、交信を開始することができる。その後に、交信領域の選択を切り替える必要が生じたときにも、リーダライタからのコマンドにより、タグ側の交信領域の選択をリーダライタと同様に切り替えることができるので、交信を支障なく続けることができる。
【0014】
第3の実施形態のRFIDタグも、複数の交信領域のいずれか1つを選択して、選択された交信領域のみを有効にするように構成される。
この実施形態のリーダライタは、自装置が選択している交信領域の識別情報を含むコマンドを送信する。またRFIDタグは、選択中の交信領域の識別情報を含むコマンドをリーダライタから受信したときは、そのコマンドを実行すると共に、コマンドに対する応答情報をリーダライタに返送し、選択中の交信領域以外の交信領域の識別情報を含むコマンドをリーダライタから受信したときは、応答情報を返送せずに、受信したコマンドに含まれる識別情報に対応する交信領域に選択を切り替える。
【0015】
上記の構成によれば、RFIDタグが選択している交信領域がリーダライタが選択している交信領域と一致し、かつこの交信領域を介してリーダライタからのコマンドを受信することができた場合にのみ、タグはコマンドを実行し、リーダライタに応答情報を返送する。RFIDタグがコマンド中の識別情報に整合しない交信領域を選択している場合には、RFIDタグはコマンドには応答しないが、受信したコマンド中の識別情報に対応する交信領域に選択を切り替えるので、リーダライタからコマンドを再送信することによって、タグにコマンドの実行および応答情報の返送をさせることができる。
このような処理により、リーダライタにより選択された交信領域のみを用いた交信を行うことができるので、誤った交信による読み書き処理が実施されるのを防止することができる。
【0016】
つぎに、第4〜第6の実施形態によるRFIDタグには、リーダライタに対向させる面の一幅方向に沿って各交信領域が分布するように電波の放出方向が調整された複数のアンテナと、これらのアンテナをそれぞれ独立に動作させる制御回路を含むICチップとが設けられる。
【0017】
この構成のRFIDタグは、移動する物品に対し、交信領域が分布する方向が移動方向に対応するようにして取り付けることができる。これを利用して第4の実施形態では、ICチップの制御回路は、少なくとも1つのアンテナを介してリーダライタから検出用のコマンドを受信したとき、そのコマンドを受信したアンテナから当該アンテナに対応する交信領域の識別情報を含む応答情報を送信する。また、リーダライタは、複数の交信領域の全てを選択した状態で検出用のコマンドを送信し、このコマンドに対する応答情報に含まれる識別情報に基づきRFIDタグの移動方向を判別する。
【0018】
第4の実施形態によれば、リーダライタは、少なくとも最初の応答情報を受信するまで検出用のコマンドを送信し続けることにより、タグの移動に応じて最初にリーダライタからの検出用のコマンドを受信したアンテナに対応する交信領域を認識することができる。よって、この認識結果に基づいてRFIDタグの移動方向を正しく判別することが可能になる。
【0019】
第5の実施形態によるリーダライタは、交信領域が分布する方向に沿って並ぶ2以上の交信領域を選択すると共に、送信したコマンドに対し、選択中の交信領域の少なくとも1領域を介して当該領域の識別情報を含む応答情報を受信したとき、この応答情報を有効にする。また、ICチップの制御回路は、リーダライタにより選択されている交信領域に対応するアンテナの少なくとも1つからリーダライタからのコマンドを受信したとき、そのコマンドを実行すると共に、当該コマンドを受信したアンテナから対応する交信領域の識別情報を含む応答情報を送信する。
【0020】
第6の実施形態によるリーダライタは、交信領域が分布する方向において隣り合う2つの交信領域を選択すると共に、送信したコマンドに対し、選択中の各交信領域からそれぞれ当該領域の識別情報を含む応答情報を受信し、かつこれらの応答情報の内容が一致しているとき、当該応答情報を有効にする。また、ICチップの制御回路は、リーダライタにより選択されている交信領域に対応するアンテナの全てからリーダライタからのコマンドを受信したとき、そのコマンドを実行すると共に、当該コマンドを受信した全てのアンテナからそれぞれそのアンテナに対応する交信領域の識別情報を含む応答情報を送信する。
【0021】
第5の実施形態は、タグとの交信が可能になる範囲を広く設定したい場合に採用することができる。一方、第6の実施形態は、1つの交信領域を選択する場合よりも、タグとの交信が可能になる範囲を縮小したい場合に採用することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、RFIDタグ側の複数の交信領域の中から、読み書き処理のための交信に使用する交信領域を選択することによって、交信が可能な範囲の位置や広さを調整したり、当該範囲をRFIDタグの移動に追従させて変更することが可能になる。また、リーダライタの処理が複雑になることがないので、RFIDタグが高速で移動したり、交信の回数が多く設定されている場合でも、安定した交信が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】RFIDシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施例のRFIDタグの構成を示す図である。
【図3】第2の実施例のRFIDタグの構成を示す図である。
【図4】第3の実施例のRFIDタグの構成を示す図である。
【図5】第4の実施例のRFIDタグの構成を示す図である。
【図6】第5の実施例のRFIDタグの構成を示す図である。
【図7】第6の実施例のRFIDタグの構成を示す図である。
【図8】第7の実施例のRFIDタグの構成を示す図である。
【図9】交信処理の例を示す図である。
【図10】図9の交信処理を実行する場合のリーダライタの処理手順を示すフローチャートである。
【図11】図9の交信処理を実行する場合のリーダライタの処理手順の他の例を示すフローチャートである。
【図12】他の交信処理の例を示す図である。
【図13】図12の交信処理を実行する場合のリーダライタの処理手順を示すフローチャートである。
【図14】交信領域Aを介した交信によりタグを検出した後に、交信領域Bを介した交信処理を実行する場合のリーダライタの処理手順を示すフローチャートである。
【図15】交信領域A,Bを共に選択した場合の交信制御の例を示す図である。
【図16】RFIDタグの移動方向を検出するための交信処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明が適用されるRFIDシステムの構成を示す。このRFIDシステムは、UHF帯域の電波によりパッシブ方式の交信を行うもので、物品に取り付けられるRFIDタグ1と、このRFIDタグ1に対する読み書き処理を行うためのリーダライタ2と、上位機器3(パーソナルコンピュータ、PLCなど。)とにより構成される。リーダライタ2は、アンテナ部20と制御部21とが別体になったタイプのものであるが、これに限らず、両者が一体になったリーダライタを使用することもできる。
【0025】
リーダライタ2の制御部21は、上位機器3からのコマンドを受けて、このコマンドをアンテナ部20からRFIDタグ1に転送する。また、アンテナ部20がコマンドを実行したRFIDタグ1から受信した応答情報は、アンテナ部20から制御部21へと出力され、さらに制御部21から上位機器へと出力される。
【0026】
図2〜図8は、上記のシステムに適用されるRFIDタグ1の具体例を示す。
いずれの実施例のRFIDタグ1も、それぞれ異なる方向に広がる2つの交信領域A,Bが生じるように設計されている。また、各図では、タグ1の本体を形作るパッケージを符号10で示し、その前面(リーダライタ2のアンテナ部20に対向させる面)を符号10aで示す。
【0027】
各実施例でいうところの交信領域A,Bとは、アンテナ部20に電波を送信することが可能な範囲であって、タグ1から放出される電波の指向性を2通り設定することにより、交信領域A,Bをパッケージ10の横幅方向に沿って分布させるようにしている。図2〜図4の実施例のタグ1は、交信領域A,Bを同時に発生させることができるタイプのものであり、図5〜図8の実施例のタグ1は、交信領域A,Bのいずれか一方を発生させるタイプのものである。
【0028】
以下、図2〜図8を参照して、各実施例におけるRFIDタグ1の構成を説明する。
まず図2に示すRFIDタグ1は、パッケージ10の内部に、アンテナ11およびICチップ12を含む処理部13が2組導入される。図1では、各処理部13の構成要素を、A,Bを付けた符号により区別している。
【0029】
各処理部13A,13Bは、それぞれのアンテナ11A,11Bをパッケージ10の前面10aに向け、かつパッケージ10の横幅方向に沿って並んだ状態で配備される。各処理部13A,13BのICチップ12A,12Bには、CPUや不揮発性メモリを含む制御回路や、送受信回路が含まれる。各処理部13A,13Bおよびアンテナ11A,11Bの配置はこの実施例のものに限らず、各アンテナ11A,11Bから放射される電波の方向を異ならせた様々な配置が可能である。
【0030】
各アンテナ11A,11Bは、それぞれ異なる方向に向けて電波を放射する。図中、パッケージ10の右側に位置するアンテナ11Aからの電波は、斜め右方向に向けて放射され、これにより交信領域Aが設定される。パッケージ10の左側に位置するアンテナ11Bからの電波は、斜め左方向に向けて放射され、これにより交信領域Bが設定される。また、交信領域A,Bの間には所定広さの重複部分が生じるように設定されている。以下の実施例でも、交信領域A,Bの関係は同様である。
【0031】
この実施例のRFIDタグ1では、アンテナ11A,11Bの少なくとも一方がリーダライタ2のアンテナ部20からの電波を受信したことによって起動し、電波を受信したアンテナを介してアンテナ部20と交信できる状態となる。しかし、この実施例では、後記するように、リーダライタ2の制御部21で交信領域A,Bのいずれか一方を選択し、選択された交信領域を介した交信のみが有効になるようにしている。以下の実施例のタグ1にも、同様の交信制御が適用される。
【0032】
図3に示す実施例のRFIDタグ1は、図2の実施例と同様に2つのアンテナ11A,11Bを有するが、ICチップ12は1つのみとなる。このICチップ12には、各アンテナ11A,11Bに対する接続端子14A,14Bが設けられる。また、ICチップ12には、接続端子14A,14Bからの信号線毎に送受信回路が設けられる。さらに、各送受信回路は、それぞれ個別のポートを介して制御回路内のCPUに接続される。この構成により、制御回路は、各アンテナ11A,11Bをそれぞれ独立に動作させて、それぞれが受信した信号を個別に処理すると共に、リーダライタ2からのコマンドに対する応答情報を送信するアンテナを選択することができる。
【0033】
各アンテナ11A,11Bは、図2の実施例と同様に、それぞれ斜め右方向、斜め左方向に向けて電波を放射するように調整される。これにより交信領域A,Bが設定される。
【0034】
つぎに、図4に示す実施例のRFIDタグ1には、図2の例と同様に、アンテナ11およびICチップ12を含む処理部13が2つ(処理部13A,13B)設けられると共に、リフレクタ15が導入される。このリフレクタ15は、三角柱状の金属体であって、両側面をそれぞれの処理部13A,13Bに対向させた状態で処理部13A,13Bの間に配備される。
【0035】
この実施例では、アンテナ11Aからの電波は、リフレクタ15により斜め右に放射方向が変更され、アンテナ11Bからの電波はリフレクタ15により斜め左に放射方向が変更される。この結果、図2や図3の実施例と同様の交信領域A,Bが設定される。
【0036】
なお、リフレクタ15の形状は三角柱に限らず、たとえば、金属板が板面を斜めにした状態で支持された構成のリフレクタを2つ導入してもよい。
【0037】
図2〜図4に示したRFIDタグ1では、交信領域A,Bの両方を有効にすることができる。これに対し、図5〜図8に示すRFIDタグ1は、交信領域A,Bのいずれか一方を選択し、選択された交信領域Aのみを有効にするように構成されている。また、これらの実施例のRFIDタグには、交信領域の選択を自力で切り替えるための電力源として、電池(図示せず。)が組み込まれる。
【0038】
図5の実施例のRFIDタグ1は、2つのアンテナ11A,11Bを具備するが、各アンテナ11A,11BとICチップ12との接続を切り替えるために、スイッチ機構16が設けられる。ICチップ12は、交信領域A,Bのいずれか一方を選択し、選択された交信領域に対応するアンテナがICチップ12に接続されるように、スイッチ機構16の動作を制御する。接続されたアンテナがリーダライタ2のアンテナ部20からの電波を受信できる状態になると、選択された交信領域を介した交信が可能となる。
【0039】
図6の実施例のRFIDタグ1も、2本のアンテナ11A,11Bと単独のICチップ12とが設けられるが、ICチップ12からの信号線は、図示しない分配器を介して双方のアンテナ11A,11Bに接続され、さらに分配器とアンテナ11Aとの間に可変位相器17が介装される。
【0040】
上記構成のタグ1では、ICチップ12から送出された所定周波数の信号が分配器17を介して各アンテナ11A,11Bに分配される。アンテナ11Aに分配された信号は可変位相器17により位相が変更され、これによりアンテナ11A,11Bからは、互いに位相が異なる電波が送出される。これらの電波の合成波が放出される範囲が交信領域となる。
【0041】
合成波が放出される方向は、各アンテナ11A,11B間の位相のずれ量に応じて変動する。そこでこの実施例では、可変位相器17に2通りの位相の調整量を切り替えて設定するようにしている。これらの調整量の一方が設定されたときは、電波の合成波が斜め右方向に放射されて交信領域Aが設定され、他方の調整量が設定されたときは、電波の合成波が斜め左方向に放射されて交信領域Bが設定される。また、初期状態として2通りの位相の調整量のうちの一方を選択し、適宜、他方の調整量へと選択を切り替えることにより、交信領域A,Bを切り替えることができる。
【0042】
図7の実施例のRFIDタグ1では、アンテナ11およびICチップ12は1つずつとなり、小型モータを含む方向切替器18が設けられる。図示を省略するが、方向切替器18のモータの回転軸は、その軸方向を図7の紙面に直交する方向に合わせて配備されており、この回転軸に、図示しない連結部材を介してアンテナ11が連結される。ICチップ12は、モータを所定の角度範囲内で正逆両方向に回転させることにより、アンテナ11が左右に振られる状態にして、その向きを変更する。これにより交信領域Aと交信領域Bとを適宜切り替えることが可能になる。
【0043】
図8の実施例のRFIDタグ1にも、アンテナ11およびICチップ12が1つずつ設けられる。さらに、このRFIDタグ1には、小型モータを含む方向切替器18´と、板状のリフレクタ15´とが導入される。リフレクタ15´は、図7の実施例のアンテナ11と同様に、方向切替器18´のモータの回転軸に連結され、モータの回転に応じてリフレクタ15´の向きが変更される。
【0044】
この実施例では、方向切替器18´によりリフレクタ15´の向きを変更することによって、電波の放射方向を切り替えることができる。具体的には、リフレクタ15´が、アンテナ部11の右手側に実線で示すような姿勢で位置する場合には、アンテナ11からの電波は斜め左に向けて放射され、これにより交信領域Bが設定される。また、リフレクタ15´が、アンテナ部11の左手側に図中の破線で示すような姿勢で位置する場合には、アンテナ12からの電波は斜め右に向けて放射され、これにより交信領域Aが設定される。
【0045】
このように、図5〜8の各実施例では、電波が放射される方向を切り替えることによって、交信領域A,Bのいずれか一方を有効にすることができる。
なお、図6の実施例では、可変調整器17の位相の調整値を3段階以上に切り替えることにより、パッケージ10の前方に円弧状の軌跡が描かれるようにして、3以上の交信領域を切り替えて設定することができる。図7や図8の実施例でも、方向切替器18,18´のモータの回転をより細かい単位で制御することにより、同様に、3以上の交信領域を切り替えて設定することが可能になる。また、図2〜5の実施例においても、3本以上のアンテナ11を設けることにより、3以上の交信領域を設定することができる。
【0046】
各実施例によるRFIDタグ1は、所定の方向に沿って搬送される物品に対し、その搬送方向に交信領域A,Bの並び方向が対応するようにして取り付けて使用することができる。
【0047】
また、各実施例によるRFIDタグ1を使用するRFIDシステムでは、前出の交信領域A,Bをそれぞれ特定の識別情報により管理する。各交信領域A,Bの識別情報は、リーダライタ2の制御部21および各タグ1のICチップ12内のメモリに共通情報として登録される。
なお、識別情報は、交信領域A,Bを直接示すものに限らず、たとえば、タグ1に2本のアンテナ11A,11Bが設けられる場合には、ICチップ12が各アンテナ11A,11Bを制御するために用いている識別コードを、交信領域A,Bの識別情報として使用してもよい。
【0048】
リーダライタ2の制御部21は、従来と同様に、アンテナ部20の交信領域に入ったタグ1を検出するためのコマンドを送信し、このコマンドに応答したタグ1との交信を行う。ただし、この実施例では、交信領域A,Bのいずれか一方を選択し、選択された交信領域を介した交信のみを実行する。また、一連の交信処理の中で、適宜、交信領域の選択を切り替えるようにしている。
【0049】
図9は、交信処理の一例を示す。
図中、30はタグ1が取り付けられた物品であり、40は物品30の搬送路である。また、図中の矢印Fは物品30が搬送される方向を示す。搬送方向Fが示す方向を前とすると、リーダライタ2のアンテナ部20は、搬送路40の左手に配置される。これに合わせて、タグ1も物品の左側面に取り付けられる。これにより、図9の交信領域A,Bは、図2〜8に示した状態から180°回転した状態になっている(図12,図15,図16でも同様である。)。
【0050】
図9の例では、タグ1(物品30)の移動に伴い、2つの交信領域A,Bのうちの交信領域Aが先にアンテナ部20と交信できる状態になり、続いて交信領域Bがアンテナ部20と交信できる状態となる。この原理を利用して、リーダライタ2の制御部21は、最初に交信領域Aを選択し、この交信領域Aを介してタグ1と所定回数の交信を行った後、交信領域Bに選択を切り替え、引き続き、交信領域Bを介してタグ1と交信する。
【0051】
図10は、図9に示した交信処理を実施する場合に、リーダライタ2の制御部21により実行される処理の手順を示すフローチャートである。なお、図10および後続の図11,図13,図14のフローチャートでは、上位機器3との通信に関する処理を省略する。
【0052】
以下、図2〜図4の実施例によるタグ1を使用することを前提として、タグ1の処理と関連づけながら図10の交信処理を説明する。
この実施例では、リーダライタ2の制御部21は、交信領域Aを選択した状態に初期設定される。制御部21は、この初期設定に基づき、交信領域Aの識別情報を含む検出用のコマンドを送信する(ステップS1)。このコマンドは、RFIDタグ1からの応答が得られるまで繰り返し送信される。
【0053】
上記のコマンドをアンテナAが受信できる位置にまでタグ1が移動すると、ICチップ12内の回路が起動し(図2,4の例では、交信領域Aに対応するICチップ12Aのみが起動する。)、交信領域Aを介した交信が可能になる。起動したICチップ12の制御回路は、リーダライタ2からの検出コマンドに応じて自装置を知らせる応答情報を作成し、これをアンテナ11Aから送信する。
【0054】
リーダライタ2の制御部21はこの応答情報を受信すると、ステップS1の検出処理を終了し、本格的な交信処理を開始する。
この場合、制御部21は、引き続き、交信領域Aの識別情報を含むコマンドを送信して、タグ1からの応答情報を受け付ける(ステップS2〜S4)。タグ1のICチップ12内の制御回路は、アンテナ11Aを介してコマンドを受信すると、コマンド中の識別情報と受信したアンテナ11Aとが整合していることを確認した上で、そのコマンドに応じた処理(メモリからの情報の読み出しまたは情報の書き込み)を実行する。さらに、制御回路は、処理結果を示す応答情報を作成し、これをアンテナ11Aより送信する。これにより、図10のステップS3が「YES」となる。さらに、領域Aを選択して送信するコマンドがある場合には、ステップS4が「NO」となってステップS2に戻る。
【0055】
以下、同様の流れで、コマンドの送信と応答情報の受信とを繰り返すが、交信領域Aを選択した状態で実行される交信回数には上限値が設定されている。交信回数がこの上限値に達すると、制御部21は交信領域Aの選択を終了する時期になったと判断する。これによりステップS4が「YES」となり、ステップS5に進む。
【0056】
また、図10には明示していないが、この実施例では、コマンドの送信に対して所定時間が経過しても応答情報が得られなかった場合には、同じコマンドを再度送信する。ただし、この再送信の回数があらかじめ設定された上限値に達した場合には、制御部21は、RFIDタグ1からの応答はないものと判断する。この場合には、ステップS3が「NO」となって、ステップS5に進む。
【0057】
ステップS5では、交信領域Aから交信領域Bに選択を切り替え、この交信領域Bの識別情報を含むコマンドを送信する。
このときのタグ1では、まだ、このコマンドをアンテナAにより受信する可能性があるが、ICチップ12の制御回路は、受信したアンテナに対応しない識別情報を含むコマンドには反応しない。ただし、アンテナ11Aと同時にアンテナ11Bがコマンドを受信した場合には、ICチップ12の制御回路はコマンドを実行し、その処理結果を示す応答情報をアンテナ11Bより送信する。この応答情報をリーダライタ2の制御部21が受信すると、ステップS6が「YES」となる。
【0058】
なお、ステップS5でも、何度かコマンドを再送信することができる。よって、交信領域の選択が切り替えられた直後に送信されたコマンドをアンテナ11Bが受信できなかった場合でも、タグ1の移動に伴い、アンテナ11Bが再送信されたコマンドを受信したときに、そのコマンドを実行し、応答情報を返送することができる。
【0059】
リーダライタ2の制御部21では、タグ1からの応答情報を受信すると、引き続き、次のコマンドを送信する。以下、必要な情報のやりとりが終了するまで、交信領域Bの識別情報を含むコマンドの送信と応答情報の受信とを繰り返し(ステップS5〜S7のループ)、しかる後に処理を終了する。
【0060】
なお、ステップS5において、再送信回数が許容値に達するまでコマンドの再送信を繰り返しても、応答情報が得られなかった場合には、ステップS6が「NO」となり、エラー処理(ステップS8)を実施する。
【0061】
上記のように、アンテナ部20の電波により先に発生する交信領域Aを選択して交信を開始した後に、タグ1の移動に応じて後から発生する交信領域Bに選択を切り替えて交信処理を続行することにより、タグ1の移動経路上で交信が可能となる範囲を、交信領域が1つしか発生しないタグを使用する場合よりも広くすることができる。したがって、タグ1(物品30)が高速で移動する場合や、交信回数が多い場合でも、交信を支障なく実施することができる。
【0062】
ただし、図2や図4の実施例、すなわち2つのICチップ12A,12Bを有するRFIDタグ1が使用される場合には、交信処理の間に読み書き対象のICチップが変更されるので、ICチップ12A,12B間の情報の整合性が崩れ、処理に支障が生じるおそれがある。したがって、たとえば、交信領域Bに選択を切り替える直前にICチップ12Aから情報を読み出し、読み出した情報を、選択が切り替えられた直後にICチップ12Bに書き込むなどして、ICチップ12A,12B間の情報の整合性を確保する必要がある。
【0063】
つぎに、図5〜8の実施例、すなわち、交信領域A,Bのいずれか一方を選択するように設計されたRFIDタグ1を用いて図9に示した交信処理を行う場合には、RFIDタグ1も、交信領域Aを選択した状態に初期設定される。また、タグ1の制御回路は、リーダライタ2からのコマンドに含まれる識別情報が自己が選択中の交信領域を示すものである場合にのみコマンドを実行して、応答情報を返送する。自己が選択している交信領域以外の交信領域の識別情報を含むコマンドを受信した場合には、制御回路は、そのコマンドを実行しない代わりに、受信した識別情報に対応する交信領域が機能するように、交信領域の選択を切り替える。このようにすれば、リーダライタ2の制御部21では、交信領域Aから交信領域Bに選択を切り替えた直後のコマンド送信(ステップS4〜S5)に対しては、応答情報を得ることができないが、このコマンドを再送信することによって、タグ1にコマンドを実行させて、応答情報を得ることができる。RFIDタグ1でも、リーダライタ2により選択された交信領域を介してコマンドを受信したときのみ、そのコマンドを実行するので、誤った交信による読み書き処理が行われるのを防ぐことができる。
【0064】
また、図5〜図8の実施例によるタグ1を用いて図9に示した交信処理を行う場合には、リーダライタ2の制御部21において、図11に示すような手順を実行することもできる。
【0065】
この手順も、基本的な流れは図10と同様であるので、簡単に説明する。リーダライタ2の制御部21は、図10の例と同様に、交信領域Aの識別情報を含む検出コマンドを送信する(ステップS11)。タグ1は、交信領域Aを介して検出コマンドを受信できる状態になると、応答情報を返送する。この応答情報を受信した制御部21は、検出処理を終了し、引き続き、交信領域Aの識別情報を含むコマンドを用いてタグ1との交信を実施する(ステップS12〜14)。
【0066】
交信領域Aの選択を終了する時期になると、制御部21は、交信領域Aの識別情報を含む最後のコマンドとして、交信領域Bへの選択の切替えを指示するコマンドを送信する(ステップS15)。このコマンドを受けたRFIDタグ1は、交信領域Bを選択した状態に切り替えて、応答情報を返送する。リーダライタ2の制御部21がこの応答情報を受信すると、ステップS16が「YES」となる。
以後、制御部21は、交信領域Bの識別情報を含むコマンドを用いて、タグ1との交信を実施する(ステップS17〜18)。
【0067】
なお、各段階でのコマンドの送信に対してタグ1からの応答情報を受信できなかった場合(ステップS13,S16,S18のいずれかが「NO」となる場合)には、エラー処理(ステップS20)を実行する。
【0068】
図12は、交信処理の他の例を示す。
この実施例でも、図9の例と同様に、方向Fに移動するRFIDタグ1と交信するが、交信領域Aではなく、交信領域Bを先に選択する。ただし、交信領域Bを選択した交信は、タグ1の検出処理にのみ用いられ、検出が終了すると、すぐに交信領域Aに選択が切り替えられる。
【0069】
図13は、上記の交信処理を実施する場合にリーダライタ2の制御部21に適用される処理手順を示す。この手順が適用されるRFIDタグ1も、自己が選択している交信領域の識別情報を含むコマンドを受信したときのみ、そのコマンドを実行して応答情報を返送する。また、図5〜図8の実施例によるRFIDタグ1が使用される場合には、当該タグ1では、自己が選択する交信領域とは異なる交信領域の識別情報を含むコマンドを受信したときは、その識別情報に対応する交信領域に選択を切り替える。
【0070】
この実施例では、リーダライタ2の制御部21は、交信領域Bの識別情報を含む検出コマンドを用いて検出処理を実行する(ステップS21)。図2〜図4の実施例によるRFIDタグ1が使用される場合には、タグ1は、このコマンドを、まず交信領域Aを介して受信するが、コマンド内の識別情報が交信領域Aに整合していないため、検出コマンドには応答しない。図5〜図8の実施例によるタグ1を使用する場合も同様であるが、この場合には、タグ1を、交信領域Bを選択した状態に初期設定しておくのが望ましい。
いずれの実施例のRFIDタグ1が使用される場合でも、RFIDタグ1が移動して交信領域Bを介して検出コマンドを受信する状態になったとき、RFIDタグ1は初めてコマンドに反応し、応答情報を返送する。
【0071】
リーダライタ2の制御部21は、この応答情報を受信したことに応じて本格的な交信を開始するが、その開始時点から、交信領域Aに選択を切り替えて、当該領域Aの識別情報を含むコマンドを送信する(ステップS22)。
【0072】
図1〜図4の実施例によるRFIDタグ1が使用されている場合には、タグ1は、上記のコマンドを、アンテナ11A,11Bの両方で受信するが、応答情報は、アンテナ11Aのみから送信される。リーダライタ2の制御部21は、この応答情報を受信すると、さらに次のコマンドを送信する。
【0073】
以下、必要な回数分の交信が実施されるまで、交信領域Aの識別情報を含むコマンドの送信と応答情報の受信とを繰り返し、しかる後に処理を終了する(ステップS22〜24)。なお、この例でも、ステップS22では、コマンドに対する応答情報が得られない場合には同じコマンドを再送信するが、その再送信回数が許容値に達した場合(ステップS23が「NO」)にはエラー処理(ステップS25)を実行する。
【0074】
図5〜図8の実施例によるRFIDタグ1が使用されている場合には、タグ1は、検出コマンドに応答するために交信領域Bを選択した状態にあるため、ステップS22による最初のコマンドには応答しない。しかし、RFIDタグ1は、このコマンドの受信に応じて交信領域Aに選択を切り替えるので、リーダライタ2の制御部21は、コマンドを再送信することにより、タグ1にコマンドを実行させて応答情報を受信することができる。これによりステップS23が「YES」となり、以下、ステップS22〜S24のループを繰り返すことが可能になる。
【0075】
なお、図5〜図8の実施例のタグ1が使用される場合には、リーダライタ2の制御部21において、交信領域Bの識別情報を含む検出コマンドによりタグ1を検出した後に、交信領域Bの識別情報を含めたコマンドにより交信領域Aへの切り替えを指示してもよい。
【0076】
図12,図13に示した交信処理は、実質的には、交信領域Aのみを用いて読み書き処理のための交信を行っていることになるが、交信領域Aによる交信が可能になってもすぐには交信を開始せずに、ある程度の時間が経過してから交信を開始するので、タグ1の移動経路上で交信が可能となる範囲は、交信領域Aのみを選択した交信を行う場合よりも狭くなる。よって、図12に示すように、交信領域の選択が切り替えられた時点の交信領域Aとアンテナ部20との関係が良好になるように、交信領域A,Bの範囲を調整することにより、交信の安定度を高めることができる。
【0077】
つぎに、図14は、交信領域Bを読み書き処理に利用する場合にリーダライタ2の制御部21が実施する処理手順を示す。この例でも、RFIDタグ1が、図9や図12に示した方向Fに沿って移動することを前提とする。
【0078】
この実施例では、リーダライタ2の制御部21は、交信領域Aの識別情報を含む検出コマンドを用いた検出処理を実行する(ステップS31)。タグ1は交信領域Aを介してリーダライタ2からの検出コマンドを受信すると、リーダライタ2に応答情報を返送する。この応答情報を受信したリーダライタ2の制御部21は、交信領域Bに選択を切り替えて、この領域Bの識別情報を含むコマンドを用いてタグ1との交信を実施する(ステップS32〜34)。なお、この交信において、許容値に達するまでコマンドを再送信してもタグ1からの応答情報を得られなかった場合には、エラー処理(ステップS36)に進む。
【0079】
交信が順調に進み、全ての交信が終了すると、制御部21は、交信領域の選択を、領域Bから領域Aに切り替える(ステップS35)。これにより、制御部21は、後続のタグ1を検出するために、再び交信領域Aの識別情報を含む検出コマンドを送出可能な状態となる。
【0080】
なお、図5〜図8の実施例によるRFIDタグ1を用いて上記の交信処理を実施する場合には、タグ1は交信領域Aを選択した状態に初期設定され、自己が選択していない交信領域の識別情報を含むコマンドを受信したとき、そのコマンドを実行せずに、受信した識別情報に対応する交信領域に選択を切り替える。
【0081】
交信領域が1つしかない従来型のタグを使用した場合には、タグの検出処理のための交信によって実質的な交信をすることができる範囲が狭められる。これに対し、図12に示した交信処理によれば、リーダライタからの電波を先に受信できる状態となる交信領域Aを用いてタグ1を検出することにより、他方の交信領域Bを実質的な交信処理のみに使用することができる。よって、タグ1の移動速度が速い場合や、交信回数が多い場合にも、余裕をもって交信することが可能になる。
【0082】
なお、図9〜図14に示した各種の交信処理は、交信領域Aが交信領域Bより先に有効になることを前提としているが、RFIDタグ1が図9や図12に示した方向Fとは反対の方向に移動する場合には、交信領域A,Bの選択を逆にすればよい。
【0083】
また、上記の各例では、リーダライタ2は、交信領域A,Bのいずれか一方を選択し、選択中の交信領域の識別情報を含むコマンドを送信することによって、RFIDタグ1が応答情報の送信に用いることのできる交信領域を限定しているが、2つの交信領域A,Bを同時に発生させることができるRFIDタグ1(図2〜図4の実施例)を使用する場合には、図15に示すような交信処理を実施してもよい。
【0084】
図15(1)(2)の例では、リーダライタ2の制御部21は、交信領域の識別情報を含まないコマンド、または両方の交信領域A,Bの識別情報を含むコマンドを送信する。このコマンドは、双方の交信領域A,Bが選択されていることを示す。
【0085】
図15(1)の例では、RFIDタグ1は、交信領域A,Bの双方からリーダライタ2のコマンドを受信したときのみ、そのコマンドを実行し、それぞれの交信領域A,Bを介して応答情報を返送する。このとき、RFIDタグ1では、各交信領域A,Bに送出する応答情報に、それぞれ当該領域の識別情報を含める。
【0086】
リーダライタ2の制御部21は、コマンドを送信した後に、応答情報を受信すると、その応答情報中の識別情報に基づき、応答情報の送信に使用された交信領域を判別する。そして、アンテナ11A,11Bの双方から応答情報を受信し、これらの応答情報中の識別情報を除いた内容が一致することを条件に、受信した応答情報を有効なものとして取り扱う。応答情報を受信した場合でも、その受信が交信領域A,Bのいずれか一方によるものであれば、交信は失敗と判断され、エラー処理が実行される。
この処理によれば、各交信領域A,Bが交わる範囲が実質的な交信領域となるので、タグ1とアンテナ部20とが良好な位置関係にあるときに限定して交信を行うことができ、交信の安定性を高めることができる。
【0087】
図15(2)の例では、RFIDタグ1は、アンテナ11A,11Bの少なくとも一方からリーダライタ2からのコマンドを受信したとき、そのコマンドを実行する。また、コマンドを受信したアンテナから、そのアンテナに対応する交信領域の識別情報を含む応答情報を返送する。リーダライタ2の制御部21も、選択中の交信領域A,Bの少なくとも一方の識別情報を含む応答情報を受信したことをもって、交信成功と判断し、応答情報を有効にする。
この処理によれば、交信領域A,Bが包含される範囲全体で読み書き処理のための交信を行うことが可能になる。
【0088】
つぎに、図16は、リーダライタ2の制御部21でRFIDタグ1が移動する方向を検出する場合の交信処理の例を示す。この例でも、制御部21は、交信領域A,Bの双方を選択して検出コマンドを送信する。RFIDタグ1は、図15の例と同様に、図2〜図4の実施例が適用されたもので、交信領域A,Bのいずれかを介して検出コマンドを受信すると、その受信に用いられた交信領域に、当該領域の識別情報を含む応答情報を送出する。リーダライタ2の制御部21は、受信した応答情報中の識別情報に基づき、タグ1が交信領域A,Bのいずれを介して応答したかを認識し、これによりタグ1の移動方向を判別する。
【0089】
たとえば、図16(1)に示すように、タグ1が搬送路40を矢印Fの方向(図中の右から左に向かう方向)に沿って移動する場合には、アンテナ11Aが先に検出コマンドを受信するので、タグ1からは、交信領域Aの識別情報を含む応答情報が送信される。一方、図16(2)に示すように、タグ1が矢印Hの方向(図中の左から右に向かう方向)に沿って移動する場合には、アンテナ11Bが先に検出コマンドを受信するので、ICチップ12(12B)は、アンテナ11Bから交信領域Bの識別情報を含む応答情報を返送する。
【0090】
よって、リーダライタ2の制御部21は、最初に受信した応答情報に交信領域Aの識別情報が含まれる場合には、タグ1が方向Fに沿って移動していると判断し、受信した応答情報に交信領域Bの識別情報が含まれる場合には、タグ1が方向Hに沿って移動していると判断する。この判断の結果は、上位機器3に送信されて、他の装置(たとえば物品30をつかみ上げるロボット)の動作の制御に利用することができる。
【0091】
また、リーダライタ2の制御部21は、上記の判断の後に、検出コマンドへの応答情報に含まれていた識別情報の交信領域のみが選択された状態にして、タグ1に対し、読み書き処理のための交信をすることができる。さらに、他方の交信領域に選択を切り替えて、タグ1との交信を続けることもできる。
【0092】
なお、リーダライタ1の制御部21では、応答情報の受信後も、さらに検出コマンドの送信を続けて、毎回の応答情報に含まれる識別情報の変化をチェックすることにより、タグの移動方向と共に移動速度を判別することもできる。
【0093】
さらに上記の実施例において、アンテナ部20からの電波が広い範囲に伝搬する場合には、検出コマンドの送信が開始された直後から、タグ1のアンテナA,Bの双方が検出コマンドを受信して応答する可能性がある。このような場合にも、受信した信号の電圧の大きさと識別情報とに基づいて、タグ1の移動方向を判別することができる。
すなわち、交信領域Aの識別情報を含む信号が交信領域Bの識別情報を含む信号より大きい場合には、タグ1は方向Fに沿って移動していると判断し、交信領域Bの識別情報を含む信号が交信領域Aの識別情報を含む信号より大きい場合には、タグ1は方向Hに沿って移動していると判断することになる。
【0094】
なお、ここではパッシブ方式のRFIDシステムにおけるRFIDタグ1の構成や交信処理について、複数の実施例を説明したが、これらの実施例はセミパッシブ方式やアクティブ方式のRFIDシステムにも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0095】
1 RFIDタグ
2 リーダライタ
10 パッケージ
10a パッケージの前面
11(11A,11B) アンテナ
12(12A,12B) ICチップ
15,15´ リフレクタ
16 スイッチ機構
17 可変位相器
18,18´ 方向切替器
20 アンテナ部
21 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナおよびICチップを含み、外部のリーダライタと交信して前記ICチップ内のメモリに対する情報の読み書きを行うRFIDタグであって、
前記リーダライタに対向させる面から見て相対的に異なる方向に広がる複数の交信領域を設定する機能と、前記リーダライタからのコマンドを受信した交信領域を介して前記コマンドに対する応答情報をリーダライタに返送する機能とを、具備することを特徴とするRFIDタグ。
【請求項2】
アンテナおよびICチップを含むRFIDタグと、このRFIDタグと交信して前記ICチップ内のメモリに対する情報の読み書きを行うリーダライタとを具備するRFIDシステムにおいて、
前記RFIDタグは、前記リーダライタに対向させる面から見て相対的に異なる方向に広がる複数の交信領域を設定する機能と、前記リーダライタからのコマンドを受信した交信領域を介して前記コマンドに対する応答情報をリーダライタに返送する機能とを具備し、
前記リーダライタは、前記複数の交信領域のうちの少なくとも1つを選択し、前記RFIDタグとの交信のうち選択された交信領域を介した交信を有効とし、選択されていない交信領域を介した交信を無効とする、
ことを特徴とするRFIDシステム。
【請求項3】
前記RFIDタグには、互いに異なる方向に電波を放出するように調整された複数のアンテナと、これらのアンテナをそれぞれ独立に動作させる制御回路を含むICチップとが設けられ、
前記リーダライタは、自装置が選択している交信領域の識別情報を含むコマンドを送信し、前記ICチップの制御回路は、前記リーダライタからのコマンドをその中の識別情報に適合するアンテナを介して受信したことを条件として、当該コマンドを実行すると共に、当該コマンドを受信したアンテナから応答情報を返送する、請求項2に記載されたRFIDシステム。
【請求項4】
前記RFIDタグは、前記複数の交信領域のいずれか1つを選択して、選択された交信領域のみを有効にするように構成されており、
前記リーダライタは、交信領域の選択を切り替える必要が生じたとき、その切り替えを指示するコマンドをRFIDタグに送信する、請求項2に記載されたRFIDシステム。
【請求項5】
前記RFIDタグは、前記複数の交信領域のいずれか1つを選択して、選択された交信領域のみを有効にするように構成されており、
前記リーダライタは、自装置が選択している交信領域の識別情報を含むコマンドを送信し、
前記RFIDタグは、選択中の交信領域の識別情報を含むコマンドを前記リーダライタから受信したときは、そのコマンドを実行すると共に、当該コマンドに対する応答情報をリーダライタに返送し、選択中の交信領域以外の交信領域の識別情報を含むコマンドを前記リーダライタから受信したときは、応答情報を返送せずに、受信したコマンドに含まれる識別情報に対応する交信領域に選択を切り替える、請求項2に記載されたRFIDシステム。
【請求項6】
前記RFIDタグには、前記リーダライタに対向させる面の一幅方向に沿って各交信領域が分布するように電波の放出方向が調整された複数のアンテナと、これらのアンテナをそれぞれ独立に動作させる制御回路を含むICチップとが設けられ、
前記ICチップの制御回路は、少なくとも1つのアンテナを介してリーダライタから検出用のコマンドを受信したとき、そのコマンドを受信したアンテナから当該アンテナに対応する交信領域の識別情報を含む応答情報を送信し、
前記リーダライタは、前記複数の交信領域の全てを選択した状態で前記検出用のコマンドを送信し、このコマンドに対する応答情報に含まれる識別情報に基づきタグの移動方向を判別する、請求項2に記載されたRFIDシステム。
【請求項7】
前記RFIDタグには、前記リーダライタに対向させる面の一幅方向に沿って各交信領域が分布するように電波の放出方向が調整された複数のアンテナと、これらのアンテナをそれぞれ独立に動作させる制御回路を含むICチップとが設けられ、
前記リーダライタは、交信領域が分布する方向に沿って並ぶ2以上の交信領域を選択すると共に、送信したコマンドに対し、選択中の交信領域の少なくとも1領域を介して当該領域の識別情報を含む応答情報を受信したとき、この応答情報を有効にし、
前記ICチップの制御回路は、リーダライタにより選択されている交信領域に対応するアンテナの少なくとも1つからリーダライタからのコマンドを受信したとき、そのコマンドを実行すると共に、当該コマンドを受信したアンテナから対応する交信領域の識別情報を含む応答情報を送信する、請求項2に記載されたRFIDタグシステム。
【請求項8】
前記RFIDタグには、前記リーダライタに対向させる面の一幅方向に沿って各交信領域が分布するように電波の放出方向が調整された複数のアンテナと、これらのアンテナをそれぞれ独立に動作させる制御回路を含むICチップとが設けられ、
前記リーダライタは、前記交信領域の分布方向において隣り合う2つの交信領域を選択すると共に、送信したコマンドに対し、選択中の各交信領域からそれぞれ当該領域の識別情報を含む応答情報を受信し、かつこれらの応答情報の内容が一致しているとき、当該応答情報を有効にし、
前記ICチップの制御回路は、リーダライタにより選択されている交信領域に対応するアンテナの全てからリーダライタからのコマンドを受信したとき、そのコマンドを実行すると共に、当該コマンドを受信した全てのアンテナからそれぞれそのアンテナに対応する交信領域の識別情報を含む応答情報を送信する、請求項2に記載されたRFIDシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−63932(P2012−63932A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207033(P2010−207033)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】