説明

RNAウイルスの完全長遺伝子を発現するベクター及びその用途

【課題】RNAウイルス複製の機構およびRNAウイルス感染症の発症機構の解明、治療薬および治療手段の開発等に有用な手段を提供する。
【解決手段】RNAウイルスの遺伝子をコードするcDNAを含むベクターであって、該RNAウイルスの遺伝子の両末端を正確かつ均一に転写できるように構築されているベクター、それを含む動物細胞及びRNAウイルス感染モデル動物、並びにそれらの細胞及びモデル動物を用いた薬物のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNAウイルスの完全長遺伝子を発現することのできるベクター、それを含む動物細胞及びRNAウイルス感染モデル動物、並びにそれらの細胞及びモデル動物を用いて薬物のスクリーニング方法に関する。これらは、RNAウイルス複製の機構およびRNAウイルス感染症の発症機構の解明、治療薬および治療手段の開発等に有用である。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎ウイルス(以下「HCV」という)は、輸血後非A非B肝炎の主な原因ウイルスであり(非特許文献1:Saito, I. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87, 6547-6549 (1990))、このウイルスに起因する肝炎は慢性化率が高く、肝硬変や肝がんに移行する率も高いことから、確実な治療手段の発見が急がれている疾患のひとつである。このウイルスのcDNAは1989年にChooらによりクローニングされ(非特許文献2:Choo, Q. -L., et al., Science, 244, 359-362 (1989))、フラビウイルス科に属する一本鎖RNAウイルスであることも知られている(非特許文献3:Kato, N., et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 87, 9524-9528 (1990))。これまでにいくつかの研究グループにより全塩基配列およびアミノ酸配列の解明がなされている(Kato, N., et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 87, 9524-9528 (1990)、非特許文献4:Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 88, 2451- 2455 (1991)、非特許文献5:J. Virol., 65, 1105-1113 (1991)、非特許文献6:J. Gen. Virol., 72, 2697-2704 (1991)、非特許文献7:Virology, 188, 331-341 (1992))。
【0003】
HCVのin vitro感染系の確立に関しては、いくつかの報告があるが、その複製量の低さ等の問題で、再現性のある安定な感染系で種々の機構の解明や治療法の開発に活用できるような実用的な系はできていないのが実情である(非特許文献8:Lanford, RE, et al., Virology, 202, 606(1994), 非特許文献9:Yoo, BJ, et al., J. Virol.,69,32(1995), 非特許文献10:Shimizu, YK, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 5477(1992), 非特許文献11:Kato, N., et al., Biochem. Biophys. Res. Comm., 206, 863(1995), 非特許文献12:Batolini, L., et al., Res. Virol., 144,281(1993))。
【0004】
一方、HCVを生成する別の手法として、対応するcDNAから転写により、RNAウイルスゲノムを生成させ、蛋白質合成を経てウイルスを生成させる方法がある(非特許文献13:Racaniello, VR, Science, 214, 916(1981) 、ポリオウイルス)。この方法についてもこれまでいくつかの研究グループにより精力的な検討が行われてきたが、上述の感染系と同様に実用的な系はない(非特許文献14:Mizuno, M, et al., Gastroenterology, 109, 1933(1995), 非特許文献15:Dash, S., et al., Am. J. Pathol., 151,363(1997) )。また、cDNAを発現する小動物、たとえば、トランスジェニックマウスについても、一部または全長cDNAを発現するマウスの報告はあるが、ウイルス遺伝子に対応する全てのウイルス蛋白質を効率良く発現できるようなものは知られていない(特許文献1:特開平9-9965号公報、特許文献2:特開平10-84813号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-9965号
【特許文献2】特開平10-84813号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Saito, I. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87, 6547-6549 (1990)
【非特許文献2】Choo, Q. -L., et al., Science, 244, 359-362 (1989)
【非特許文献3】Kato, N., et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 87, 9524-9528 (1990)
【非特許文献4】Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 88, 2451- 2455 (1991)
【非特許文献5】J. Virol., 65, 1105-1113 (1991)
【非特許文献6】J. Gen. Virol., 72, 2697-2704 (1991)
【非特許文献7】Virology, 188, 331-341 (1992)
【非特許文献8】Lanford, RE, et al., Virology, 202, 606(1994)
【非特許文献9】Yoo, BJ, et al., J. Virol.,69,32(1995)
【非特許文献10】Shimizu, YK, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 5477(1992)
【非特許文献11】Kato, N., et al., Biochem. Biophys. Res. Comm., 206, 863(1995)
【非特許文献12】Batolini, L., et al., Res. Virol., 144,281(1993)
【非特許文献13】Racaniello, VR, Science, 214, 916(1981)
【非特許文献14】Mizuno, M, et al., Gastroenterology, 109, 1933(1995)
【非特許文献15】Dash, S., et al., Am. J. Pathol., 151,363(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者らのこれまでの研究により、有効な量のウイルス粒子あるいはウイルス蛋白質が生成されない理由として、途中で生成されるウイルスゲノムの両末端が正確に転写されず、効率良く複製可能な完全長の遺伝子が生成していないことが考えられた。
本発明の目的は、完全長のウイルスゲノムを生成する発現系を構築し、より本来のウイルス複製に近い発現系を確立することであり、それを用いて、cDNAよりウイルスを発現する細胞あるいはモデル動物を樹立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、完全長のRNAウイルス遺伝子を発現することのできるベクターの構築に成功し、更に、それを組み込んだ細胞株を樹立し、発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第一は、RNAウイルスの遺伝子をコードするcDNAを含むベクターであって、該RNAウイルスの遺伝子の両末端を正確かつ均一に転写できるように構築されていることを特徴とするベクターである。
【0009】
本発明の第二は、上記のベクターを含むことを特徴とする動物細胞である。
本発明の第三は、その細胞中に上記のベクターを含むことを特徴とするRNAウイルス感染モデル動物である。
本発明の第四は、上記の動物細胞、又は上記のRNAウイルス感染モデル動物を用いたRNAウイルスの複製を阻害する薬物のスクリーニング方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、RNAウイルスの完全長遺伝子を発現することのできるベクター等を提供する。これらは、RNAウイルス複製の機構およびRNAウイルス感染症の発症機構の解明、治療薬および治療手段の開発等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】CALN/HCV RBZ の構造を示す図である。
【図2】CALN/HCV RBZ からの転写産物に対するノーザンブロットの結果を示す写真である。
【図3】5'-Race 法の概要を示す図である。
【図4】3'-Race 法の概要を示す図である。
【図5】CALN/HCV RBZ からの翻訳産物に対するウェスタンブロットの結果を示す写真である。
【図6】HCV 遺伝子発現細胞株のCore蛋白質の発現量を示す図である。
【図7】HCV 遺伝子発現細胞株のCore蛋白質の発現量とcre-adenovirus感染量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)第一発明(ベクター)
本発明のベクターは、RNAウイルスの遺伝子をコードするcDNAを含むベクターであって、該RNAウイルスの遺伝子の両末端を正確かつ均一に転写できるように構築されていることを特徴とするものである。ここで、「両末端を正確に転写できる」とは、cDNAから作られるRNAが、ウイルス本来のゲノムRNAと全く同一かあるいは翻訳能力に影響を与えない程度の塩基配列の差異しか存在しない、という意味である。また、「両末端を均一に転写できる」とは、一定の再現性をもって特定の塩基配列を持つRNAを作ることができる、という意味である。
【0013】
本発明に使用できるRNAウイルスとしては、ポリオ、コクサッキー、エコーウイルス等のピコルナウイルス、レオウイルス、HCV 等のフラビウイルス属を含むトガウイルス、オーソ、パラミキソウイルス、コロナウイルス、あるいは、タバコモザイクウイルス等の植物RNAウイルスなどを例示することができるが、これらに限定されるわけではない。好ましいRNAウイルスとしては、HCVを挙げることができる。
【0014】
RNAウイルスの遺伝子の両末端を正確かつ均一に転写する手段としては、RNAウイルスの遺伝子をコードするcDNAの5'末端の上流及び3'末端の下流のそれぞれにセルフプロセッシングにより切断するリボザイムをコードするDNAを配置する方法を例示することができるが、これに限定されるわけではない。
【0015】
セルフプロセッシングにより切断するリボザイムとしては、δ型肝炎ウイルス(Hepatitis Delta Virus: HDV)リボザイム、ハンマーヘッドリボザイム、ヘアピンリボザイム、インビトロおよびインビボセレクションにより得られる人工リボザイムなどを例示することができる。各リボザイムの塩基配列に関しては、大塚栄子等、蛋白質・核酸・酵素 40, 1400(1995) に記載されている。とくに、HDVリボザイムについては、Suh, Y-A., et al., Nucleic Acids Research, 20, 747(1992)に、ハンマーヘッドリボザイムについては、Shimayama, T., et al., Biochemistry, 34, 3649(1995) に塩基配列が記載されている。ベクター中に配置するリボザイムをコードするDNAは、これらの文献に記載されている共通塩基配列を参考にして、使用するRNAウイルスの種類、塩基配列に応じて決定することができる。例えば、HCV の場合は5'末端側にハンマーヘッドリボザイムをコードするDNA(具体的な配列としては配列X)、3'末端側にHDVリボザイムをコードするDNA(具体的な配列としては配列Y)が好ましいものとして挙げられる。
【0016】
配列番号X:
CTGATGAGGCCGAAAGGCCGAAACGGCGAAAGCCGTC(配列番号7)
配列番号Y:
TGGCCGGCATGGTCCCAGCCTCCTCGCTGGCGCCGGCTGGGCAACATTCCGAGGGGACCGTCCCCTCGGTAATGGCGAATGGGAC(配列番号8)
【0017】
本発明のベクターは、上述したようなリボザイムをコードする2つのDNAとRNAウイルスをコードするDNAとを含むDNA断片をPCRなどにより作製し、このDNA断片を適当なプロモーターとターミネーターを含むベクターに挿入することにより作製できる。
【0018】
本発明のベクターは、宿主細胞内に移入された後、直ちに発現するものであってもよいが、特定の処理によりはじめて発現を開始するものの方が好ましい。特定の処理により発現を開始させる手段としては、宿主細胞のRNAポリメラーゼに認識されないプロモーターを使用する手段、Cre/lox 発現システム(Nat sternberg et al. J. Molecular Biology 150. P467-486 、特開平10-84813号公報)を使用する手段などを例示することができる。前者の手段では、ベクター中のプロモーターを認識できるRNAポリメラーゼを宿主細胞内で発現させることにより、目的遺伝子の発現を開始させることができる。後者の手段では、Cre 酵素を宿主細胞内で発現させることにより、目的遺伝子の発現を開始させることができる。
【0019】
(2)第二発明(動物細胞)
本発明の動物細胞は、本発明のベクター(第一発明)を含むことを特徴とするものである。
本発明の動物細胞は、本発明のベクターを宿主となる動物細胞内に移入することにより作製できる。宿主動物細胞としては、IMY、HuH-7、HepG2、MOLT-4、MT-2、Daudi、肝プライマリー細胞、その他の肝細胞、血球系細胞由来の細胞または細胞株などを使用することができるが、これらに限定されるわけではない。ベクターを宿主内に移入する方法としては、Lipofection Reagant 法などを例示することができるが、これに限定されるわけではない。
【0020】
(3)第三発明(RNAウイルス感染モデル動物)
本発明のRNAウイルス感染モデル動物は、その細胞中に本発明のベクター(第一発明)を含むことを特徴とするものである。
本発明のRNAウイルス感染モデル動物は、本発明のベクターを受精卵に移入した後、受精卵を仮親に移植し、前記受精卵に由来する動物を得、その中から組み込んだRNAウイルスの遺伝子が発現している個体を選抜することにより作製できる。
【0021】
受精卵への移入は、マイクロインジェクション法など常法に従って行うことができる。対象とする動物は、トランジェニック動物の作出技術が確立されている動物であればどのようなものでもよく、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、メダカ、ゼブラフィッシュなどを使用することができる。RNAウイルスの遺伝子が発現している個体の選抜は、例えば、RNAウイルスの遺伝子に特異的に存在する塩基配列に基づいて作製されたプライマーを使用したPCR などにより行うことができる。
【0022】
(4)第四発明(薬物のスクリーニング方法)
本発明のRNAウイルスの複製を阻害する薬物のスクリーニング方法は、本発明の動物細胞(第二発明)、又は本発明のRNAウイルス感染モデル動物(第三発明)を用いることを特徴とするものである。
動物細胞を使用する場合には、スクリーニングは培地内に対象薬剤を添加することなどにより行うことができる。モデル動物を使用する場合には、スクリーニングは対象薬剤を動物に静脈内又は経口投与することなどにより行うことができる。
【実施例】
【0023】
〔実施例1〕 完全長HCV遺伝子発現ベクターの構築
(1)HCVcDNAのクローニング
HCV患者血清R6(genotype Ib)からAGPC法(Chomczynsky. P. et al., Anal. Biochem., 162, 156 (1987))によりHCV-RNAを抽出し、得られたRNA からSuperscript II(Gibco-BRL)キットを用いてcDNAを合成した。患者血清R6は、チンパンジーに感染性を示し(現在のところ、他の実験動物に対する感染性は確認されていない)、その力価は10^4.5 CID50 であり、また、PCR 価は10^8 である。
【0024】
これまでに発表されているHCV遺伝子配列(genotype I)のうち、保存性の高い領域の配列を基にプライマーをデザインし、Pfuポリメラーゼ(Stratagene)でPCR増幅した。これらのDNAフラグメントは常法(Maniatis, T., Molecular Cloning, 2nd Ed.., CHS Press(1989) )に従って、pBMプラスミド(特開平6-225770号公報)にサブクローニングし、塩基配列の決定を行った。
HCVはクローニングの工程で容易に変異を起こすので、3つ以上のクローンで共通する配列を本来のウイルス配列とみなし、そのような配列を複数つなぎ合わせ、全長のクローンを構築した。
全長クローンの構築方法は、特開平6-225770号公報の記載に従った。
【0025】
(2)pCALN/HCV RBZの作製
p5'RBZの作製
まずEcoRIサイト、SwaIサイト、XhoIサイト、T7 プロモーター、ハンマーヘッドリボザイムおよびHCVの5'端(1-45bp)の配列を含んだDNAをPCRで合成した。PCRは検出DNAの増幅感度と特異性を向上させるため2ステップ法を用いた。2ステップ法とは、まず、2種類のプライマーで1回目のPCRを行い(1st step PCR)、次にそのPCR産物のDNA配列両端から内側に存在する2種類のプライマーを用いて2回目のPCRを行う方法である(2nd step PCR)。以下に使用したPCRプライマーの塩基配列を示す。
【0026】
ESXT7RBZ1:5'-GCC GGA ATT CAT TTA AAT CTC G-3'(配列番号9)
ESXT7RBZ2:5'-GCC GGA ATT CAT TTA AAT CTC GAG TAA TAC GAC TCA CTA TAG GGC TGG CCC CTG ATG AGG CCG AAA GGC CGA AAC GGC G-3'(配列番号10)
ESXT7RBZ3:5'-GGG GAG TGA TCT ATG GTG GAG TGT CGC CCC CAA TCG GGG GCT GGC CCG ACG GCT TTC GCC GTT TCG GCC TTT CG-3'(配列番号11)
ESXT7RBZ4:5'-GGG GAG TGA TCT ATG GTG G-3'(配列番号12)
【0027】
PCR反応液は、0.5mlチューブに10X ThermoPol Buffer(10mM KCl、20mM Tris-HCl pH8.8、10mM (NH4)2SO4、2mM MgSO4、0.1% Triton X-100)を5μl、20mM dNTP mixture を0.5μl、10pmol/μlのtemplate兼1st step プライマー 2種(ESXT7RBZ2、 ESXT7RBZ3)を5μlずつ、2units/μlのvent DNA polymerase(Biolabs)を0.5μl加え滅菌水で50μlに調製した。PCRはまず96℃で30秒間加熱した後、変性96℃30秒間、アニーリング58℃15秒間、伸長72℃40秒間の条件で20サイクル行った。増幅された配列を配列番号1に示す。
【0028】
次に新しい0.5mlチューブに1st PCR反応終了液を0.5μl、10X ThermoPol buffer(10mM KCl、20mM Tris-HCl pH8.8、(NH4)2SO4、2mM MgSO4、0.1% Ttiton X-100)を5μl、20mM dNTP mixture を0.5μl、10pmol/μlの2nd step プライマー 2種(ESXT7RBZ1、ESXT7RBZ4)を2μlずつ、2units/μlのvent DNA polymerase(Biolabs)を0.5μlを加え滅菌水で50μlに調製した。PCR反応は先の条件で行った。このPCR反応液をポリアクリルアミドゲル電気泳動し、特異的に増幅した目的の断片をゲルから抽出した。目的の断片の抽出は、以下のようにして行った。まず、チャンバーのゲルコンポーネント側に通常の透析膜をセットし、ついでDNAコレクティング側にSartorius透析膜をセットした。電気溶出装置のチャンバーの外側に2xTBEを、内側に0.1xTBE-0.005%SDSを入れた後、切り出しておいた目的のDNA断片を含んだゲルを、チャンバーのゲルコンポーネント側に置き、DNAコレクティングコンポーネント側にXylene cyanoleを含んだTEを数μl加えた。150Vで1時間電気泳動を行った後、電極を変えてさらに45秒間泳動した。泳動装置からチャンバーをはずし、DNAコレクティングコンポーネント側に約300μl溶液が残るまでチャンバー内の溶液を除去した。残った300μlの溶液を回収した後、DNAコレクティングコンポーネントを100μlでwashし、その液も先の溶液に加えた。回収した溶液についてフェノール、クロロホルム抽出を行い、エタノール沈殿をした後、10μlのTEに溶解した。抽出した一部をポリアクリルアミドゲル電気泳動し、濃度を20ng/μlと概算した。このPCR産物をESXT7RBZ PCR productと命名した。増幅された配列は配列番号1に示した配列と同一である。
【0029】
さらにHCV 5'端からcore領域の一部(26-613bp)までのDNAをPCRで合成した。以下に使用したPCRプライマーの配列を示す。
ESXT7RBZ5:5'-CCA CCA TAG ATC ACT CCC C-3'(配列番号13)
ESXT7RBZ6:5'-ATG CCC TCG TTG CCA TAG AG-3'(配列番号14)
【0030】
PCR反応液は0.5mlチューブに10X ThermoPol Buffer(10mM KCl、20mM Tris-HCl pH8.8、10mM (NH4)2SO4、2mM MgSO4、0.1% Triton X-100)を10μl、20mM dNTP mixture を1μl、10pmol/μlのプライマー 2種(ESXT7RBZ5、 ESXT7RBZ6)を4μlずつ、2units/μlのvent DNA polymerase(Biolabs)を1μl、1μg/μlのtemplate (pT702R6 14-8)を1μl加え滅菌水で100μlに調製した。PCRは96℃で30秒間加熱した後、変性96℃30秒間、アニーリング58℃15秒間、伸長72℃40秒間の条件で20サイクル行った。このPCR反応終了液をアガロースゲル電気泳動し、特異的に増幅した目的の断片をQIAEX II Agarose Gel Extraction(QIAGEN)を用いてゲルから抽出した。目的の断片の抽出は、以下のようにして行った。まずゲル切り出し、その3倍量のQX1 Bufferを添加し、ついでQIAEX IIを10μl加え、50℃で10分間インキュベーションした。この際2分毎に振ってQIAEX IIを混和させた。インキュベーション後、遠心し、上清を除去し、その後、沈殿物をPE Bufferで2回洗浄、約15分程度風乾し、滅菌水を20μl加え、沈殿物を再懸濁させ、室温で5分間インキュベーションし、遠心後、上清を回収した。抽出した一部をアガロースゲル電気泳動し、濃度を200ng/μlと概算した。このPCR産物を5'-HCV PCR productと命名した。増幅された配列を配列番号2に示した。
【0031】
上記2種類のゲル抽出PCR産物(ESXT7RBZ PCR product、5'-HCV PCR product)を用いてEcoRIサイト、SwaIサイト、XhoIサイト、T7プロモーター、ハンマーヘッドリボザイムおよびHCVの5'端からcore領域の一部(1-613bp)までを含んだ目的のcDNAをPCRで合成した。PCR反応液は0.5mlチューブに10X ThermoPol Buffer(10mM KCl、20mM Tris-HCl pH8.8、10mM (NH4)2SO4、2mM MgSO4、0.1% Triton X-100)を5μl、20mM dNTP mixture 0.5μl、10pmol/μlのプライマー 2種(ESXT7RBZ1、ESXT7RBZ6)を2μlずつ、2units/μlのvent DNA polymerase(Biolabs)を0.5μl、templateとして4ng/μlのESXT7RBZ PCR product、5'-HCV PCR productをそれぞれ1μl加え、滅菌水で50μlに調製した。PCRは96℃で30秒間加熱した後、変性96℃30秒間、アニーリング58℃15秒間、伸長72℃40秒間の条件で20サイクル行った。このPCR productを5'-ribozyme PCR productと命名した。増幅された配列を配列番号3に示した。
【0032】
5'-ribozyme PCR productに4倍量のクロロホルムと3倍量のTE bufferを混和し、遠心後、その水層を1.5mlチューブに移し、2.35倍量の100%エタノールと1/4量の3M酢酸ナトリウムと1μg/μlのグリコーゲンを1μl加え、エタノール沈殿(-80℃、20分間)を行い、最終的に滅菌水20μlに溶解した。
精製した5'-ribozyme PCR product(10μl)を制限酵素反応液(10mM Tris-HCl pH7.5、10mM MgCl2、1mM Dithiothreitol)20μl中でKpnI 1μlで消化(37℃、1.5時間)後、1M塩化ナトリウムを2μlを添加しさらにEcoRI 1μlで二重消化(37℃、2.5時間)した。
【0033】
クローニングベクターにはpBMを用いた。HCV遺伝子は複製時に変異が導入されやすい可能性があり、クローニング時にもそのことが懸念される。そこでクローニング時に発生する人為的な変異を極力少なくするために構築されたベクターがpBMである。pBR322の制限酵素EcoRVサイトからBalIサイトの間の配列を制限酵素で欠失させ、EcoRIサイトとHindIIIサイトの間にpUC119のマルチクローニングサイトのEcoRIサイトからHindIIIサイトまでを組み込み、次にpBR322のVspIサイトからScaIサイトの間の配列をpUC119のVspIサイトからScaIサイトの配列に置き換え、この間のPstIサイトを欠失させてpBMベクターが作製されている。
【0034】
0.25μg/μlのpBM 10μlを制限酵素反応液(10mM Tris-HCl pH7.5、10mM MgCl2、1mM Dithiothreitol)100μl中でKpnI 1μlで消化(37℃、1.5時間)後、1M塩化ナトリウムを10μlを添加しさらにEcoRI 1μlで二重消化(37℃、2時間)した。酵素反応終了液に22units/μlのCIAP(子牛小腸由来、宝酒造) 5μlを添加し、37℃、30分間反応を行い、5'末端の脱リン酸化を行った。
【0035】
KpnI、EcoRIで消化した5'-ribozyme PCR productとKpnI、EcoRIで消化後アルカリフォスファターゼ処理を行ったpBMをアガロースゲル電気泳動し、目的のDNA断片およびクローニングベクターをゲルから抽出(QIAEX II)し、滅菌水20μlに溶解した。これらの一部をアガロースゲル電気泳動し、濃度をKpnI、EcoRIで消化した5'-ribozyme PCR product(DNA断片)は30ng/μl、 KpnI、EcoRIで消化後アルカリフォスファターゼ処理を行ったpBM(クローニングベクター)は20ng/μlと概算した。
5'-ribozyme PCR product(DNA断片)を1μl、pBM(クローニングベクター)を1μl、DNA Ligation Kit Ver.2(宝酒造)のsolution Iを6μl、滅菌水を4μl混和し、16℃で1時間ライゲーション反応を行った。
【0036】
ライゲーション反応終了液10μlを大腸菌DH5α株(コンピテントセル)100μlに添加し、氷上に30分間置いた後、42℃で30秒間のヒートショックを行い、再度氷上に2分間置いた後、SOC培地900μlに加え、37℃で1時間インキュベーションした。形質転換菌はLB-Ampプレート(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、1%塩化ナトリウム、1.5%寒天、アンピシリン100μg/ml)上で一夜培養した後、プレート上に出現したコロニーをそれぞれ4ml LB-Amp培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、1%塩化ナトリウム、アンピシリン75μg/ml)の入った13mlチューブで培養(37℃、6時間)し、培養液を遠心して集菌し、プラスミドDNAをQIAprep Spin Plasmids Kits(QIAGEN社製)を用いてミニプレパレーションを行い20μlのDNA液を調製した。ミニプレパレーションは、以下のようにして行った。まず、菌体ペレットにP1 Bufferを250μl加え、懸濁させ、次にP2 Bufferを250μl添加し、混和させ室温で5分間反応させた。反応後、即座に冷N3 Buffer 350μlを加え、氷上に5分間置いた後、遠心を行い、上清を2mlのmicrocentrifuge tubeに置かれたQIAprep-spin columnに移し、再度遠心した。flowthrough fractionを除去し、洗浄のため750μlのPE BufferをQIAprep-spin columnに加え、遠心を行い、flowthrough fractionを除去し、再度遠心を行い完全にPE Bufferを除去した。QIAprep-spin columnを1.5mlチューブに移し、TEを適当量加え、遠心し、プラスミドを溶出させた。
【0037】
調製したDNA溶液20μlのうち16μlを制限酵素反応液(10mM Tris-HCl pH7.5、10mM MgCl2、1mM Dithiothreitol)18μl中でKpnI 0.5μlで消化(37℃、40分間)後、1M塩化ナトリウムを2μl、EcoRIを0.5μlを添加し、二重消化(37℃、40分間)した。酵素反応終了液をアガロースゲル電気泳動し、目的のDNA断片が挿入されたクローンを得た。このクローンをp5'RBZと命名した。
【0038】
3' RBZ PCR productの作製
HCV遺伝子の3'端(9073-9609bp)、HDV リボザイム、XbaIサイト、SwaIサイト、HindIIIサイトを含んだDNAをPCRで合成した。以下に使用したPCRプライマーの配列を示す。
HDRBZ1 5'-TTG GGG TAC CAC CCT TGC G-3'(配列番号15)
HDRBZ2 5'-ACA TGA TCT GCA GAG AGG CC-3'(配列番号16)
HDRBZ3 5'-GGC CTC TCT GCA GAT CAT GTG GCC GGC ATG GTC CCA G-3'(配列番号17)
HDRBZ4 5'-GCC CAA GCT TAT TTA AAT CTA GAG TCC CAT TCG CCA TTA CCG AG-3'(配列番号18)
【0039】
まずHCV遺伝子の3'端(9073-9609bp)の配列を含んだcDNAをPCRで合成した。PCR反応液は0.5mlチューブに10X ThermoPol Buffer(10mM KCl、20mM Tris-HCl pH8.8、10mM (NH4)2SO4、2mM MgSO4、0.1% Triton X-100)を5μl、20mM dNTP mixture 0.5μl、template(N25-3'X+6)を0.5μl、10pmol/μlのプライマー 2種(HDRBZ1、HDRBZ2)を2μlずつ、2units/μlのvent DNA polymerase(Biolabs)を0.5μlを加え滅菌水で50μl(x2)に調製した。PCRはまず96℃で30秒間加熱した後、変性96℃30秒間、アニーリング58℃15秒間、伸長72℃40秒間の条件で20サイクル行った。この反応終了液を低融点アガロースゲル電気泳動し、特異的に増幅した目的の断片をGene CleanIIを用いてゲルから抽出した。Gene CleanIIを用いた抽出は以下のようにして行った。まず目的のDNA断片を含んだゲルを切り出し、3倍量のNaI stock solutionを添加し、50℃で10分間インキュベーションしてゲルを融解させた後、GLSSMILK suspensionを5μl加え、さらに50℃で5分間インキュベーションし、遠心した。遠心後、上清を除去し、300μlのNEW WASHを加え沈殿物を洗浄した。この操作を3回繰り返した後、沈殿物に滅菌水を15μl添加し、DNA断片を溶出させた。抽出したDNA断片の一部をアガロースゲル電気泳動し、濃度を20ng/μlと概算した。このPCR産物を3' productと命名した。増幅された配列を配列番号4に示した。
【0040】
次にHCV遺伝子の3'端(9590-9609bp)とHDV リボザイム、XbaIサイト、SwaIサイト、HindIIIサイトを含んだcDNAをPCRで合成した。0.5mlチューブに10X ThermoPol buffer(10mM KCl、20mM Tris-HCl pH8.8、10mM (NH4)2SO4、2mM MgSO4、0.1%Triton X-100)を5μl、20mM dNTP mixture 0.5μl、template(Cis-HDV-88)を0.4μl、10pmol/μlのプライマー 2種(HDRBZ3、HDRBZ4)を2μlずつ、2units/μlのvent DNA polymerase(Biolabs)を0.5μlを加え滅菌水で50μl(x4)に調製した。PCRはまず96℃で30秒間加熱した後、変性96℃30秒間、アニーリング58℃15秒間、伸長72℃40秒間の条件で20サイクル行った。このPCR反応液をポリアクリルアミドゲル電気泳動し、特異的に増幅した目的の断片をゲルから抽出した。抽出したDNA断片の一部をポリアクリルアミドゲル電気泳動し、濃度を50ng/μlと概算した。このPCR産物をRibo productと命名した。増幅された配列を配列番号5に示した。
【0041】
上記2種類の抽出PCR産物(3' product、Ribo product)を用いてHCV遺伝子3'端およびHDV リボザイム、XbaIサイト、SwaIサイト、HindIIIサイトを含んだ目的のDNAをPCRで合成した。PCR反応液は0.5mlチューブに10X ThermoPol Buffer(10mM KCl、20mM Tris-HCl pH8.8、10mM (NH4)2SO4、2mM MgSO4、0.1% Triton X-100)を5μl、20mM dNTP mixture 0.5μl、10pmol/μlのプライマー 2種(HDRBZ1、HDRBZ4)を2μl、2units/μlのvent DNA polymerase(Biolabs)を0.5μl、templateとして10ng/μlの3' product、5ng/μlの5'-Ribo productをそれぞれ2μl加え、滅菌水で50μl(x2)に調製した。PCRは96℃で30秒間加熱した後、変性96℃30秒間、アニーリング58℃15秒間、伸長72℃40秒間の条件で20サイクル行った。PCR product(90μl)をフェノール、クロロホルム抽出し、エタノール沈殿を行い、滅菌水45μlに溶解した。このPCR productを3'-terminal region PCR productと命名した。増幅された配列を配列番号6に示した。
【0042】
この内45μlを制限酵素反応液(10mM Tris-HCl pH7.5、10mM MgCl2、1mM Dithiothreitol)51.5μl中でKpnI 1.5μlで消化(37℃、45分間)後、5M塩化ナトリウムを0.5μlを添加しさらにHindIII 1.5μlで二重消化(37℃、1時間)した。反応後、アガロースゲル電気泳動し、特異的に増幅した目的の断片をQIAEX II Agarose Gel Extraction(QIAGEN)を用いてゲルから抽出し、滅菌水15μlに溶解した。
【0043】
p5'-3'RBZの構築
p5'RBZをKpnI、HindIIIで消化後、CIAPでアルカリフォスファターゼ処理し、アガロースゲル電気泳動を行い、ゲルからクローニングベクター用のDNA断片をQIAEX II Agarose Gel Extraction(QIAGEN)を用いて抽出した。この一部をアガロースゲル電気泳動し、濃度を40ng/μlと概算した。
【0044】
KpnI、HindIIIで消化後、ゲル抽出した3'-terminal region PCR productの一部をアガロースゲル電気泳動し、濃度を20ng/μlと概算した。
8ng/μlのp5'RBZ(クローニングベクター)を1μl、20ng/μlの3'-terminal region PCR product(DNA断片)を1μl、DNA Ligation Kit Ver.2(宝酒造)のsolution Iを6μl、滅菌水を4μl混和し、16℃で一夜ライゲーション反応を行った。ライゲーション反応終了液10μlを大腸菌DH5α株100μlに添加し、氷上に30分間置いた後、42℃で30秒間のヒートショックを行い、再度氷上に2分間置いた後、SOC培地900μlに加え、37℃で1.5時間インキュベーションした。形質転換菌はLB-Ampプレート(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、1%塩化ナトリウム、1.5%寒天、アンピシリン100μg/ml)上で一夜培養した後、プレート上に出現したコロニーをそれぞれ4ml LB-Amp培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、1%塩化ナトリウム、アンピシリン75μg/ml)の入った13mlチューブで培養(37℃、一夜)し、培養液を遠心して集菌し、プラスミドDNAをQIAprep Spin Plasmids Kits(QIAGEN社製)を用いてミニプレパレーションして30μlのDNA液を調製した。内20μlを制限酵素反応液(10mM Tris-HCl pH7.5、10mM MgCl2、1mM Dithiothreitol、50mM NaCl)22.8μl中でHindIII0.5μlで消化(37℃、40分間)後、0.5M塩化ナトリウムを2.6μl、EcoRIを0.5μlを添加し、二重消化(37℃、40分間)した。酵素反応終了液をアガロースゲル電気泳動し、目的のDNA断片が挿入されたクローンを得た。
【0045】
ここまで形質転換には遺伝子導入の簡便性から大腸菌DH5α株を使用したが、これをホスト株にした場合、複製時にHCV遺伝子に変異が導入されやすい可能性が考えられた。そこで目的のDNA断片が挿入されたベクターを大腸菌JM109株に移し新たな形質転換菌を獲得した。
【0046】
得られたクローンについて挿入されたDNA断片部の塩基配列をDNA sequencing kit Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction(PERKIN ELMER)を用いて解析を行い決定した。Sequenceはまず、Sequence反応溶液として、Terminator Ready Reaction Mixを8.0μl、0.1μg/μlのTemplate DNAを3μl、1.0pmol/μlのPrimerを3.2μlを混ぜ、滅菌水で20μlに調製した。反応は96℃5分間96℃30秒間、50℃15秒間、60℃4分間の条件で25サイクル行った。反応終了液をCENTRI-SEP COLUMNS(Applied Biosystems)で精製後、泳動サンプルとして用い、sequenceを行った。目的の塩基配列を有したクローンをp5'-3'RBZと命名した。
【0047】
pCALN/5'-3'RBZの構築
p5'-3'RBZ 24μg、pCALN/pBR 24μgをそれぞれ酵素反応液500μl中でSwaI(Boeheringer Mannheim)4μlで消化(25℃、一夜)した後、TE飽和フェノール、フェノール/クロロホルム及びクロロホルム処理を行い、エタノール沈殿し、TE 400μlに溶解した。この全量をアガロースゲル電気泳動し、p5'-3'RBZからは約1.3kbpのDNA断片を、pCALN/pBRからは約8kbpのDNA断片(クローニングベクター)をQIAEX II Agarose Gel Extraction(QIAGEN)を用いてゲルから抽出し、それぞれを滅菌水96μl、222μlに溶解した。これらの一部をアガロースゲル電気泳動し、それらの濃度をp5'-3'RBZのDNA断片は70ng/μl、クローニングベクターpCALN/pBRは35ng/μlと概算した。クローニングベクターpCALN/pBR 40μlに10X CIAP buffer 10μl、22units/μlのCIAP 5μlを添加し、滅菌水で100μlにした。アルカリフォスファターゼ反応を37℃で30分間行なった後、75℃で10分間インキュベーションし、酵素を失活させた。その後フェノール/クロロホルム処理を2回、クロロホルム処理を1回行い、エタノール沈殿し、滅菌水20μlに溶解した。その一部をアガロースゲル電気泳動し、その濃度を25ng/μlと概算した。
【0048】
70ng/μlのp5'-3'RBZ DNA断片を2μl、25ng/μlのクローニングベクターpCALN/pBRを1.5μl、滅菌水を4.5μl混ぜ、70℃、5分間インキュベーションした後、氷冷水で急冷し、即座に5X DNA dilution buffer(Boeheringer Mannheim、Rapid DNA Ligation Kit)を2μl、2X T4 DNA ligation buffer(Boeheringer Mannheim、Rapid DNA Ligation Kit)を10μl、5units/μlのT4 DNA ligase(Boeheringer Mannheim、Rapid DNA Ligation Kit)を1μl添加し、室温で1.5時間ライゲーション反応を行った。この反応終了液2μlを大腸菌DH5α株100μlに添加し、氷上に30分間置いた後、42℃で45秒間のヒートショックを行い、再度氷上に2分間置いた後、SOC培地400μlに加え、37℃で1時間インキュベーションした。形質転換菌はLB-Ampプレート(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、1%塩化ナトリウム、1.5%寒天、100μg/ml)上で一夜培養した後、プレート上に出現したコロニーをそれぞれ4mlのLB-Amp培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、1%塩化ナトリウム、75μg/ml)の入った13mlチューブで培養(37℃、6.5時間)し、培養液を遠心して集菌し、プラスミドDNAをQIAprep Spin Plasmids Kits(QIAGEN社製)を用いてミニプレパレーションし、TEで50μlのDNA液を調製した。この内15μlを制限酵素反応液(10mM Tris-HCl pH7.5、10mM MgCl2、1mM Dithiothreitol、50mM NaCl、0.01% BSA)20μl中でXbaIで消化(37℃、30分間)し、これをアガロースゲル電気泳動し、目的のDNA断片が挿入されたクローンを得た。これらのクローンについて挿入されたDNA断片部の塩基配列をDNA sequencing kit Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction(PERKIN ELMER)を用いて解析し、決定した。目的の塩基配列を有したクローンをpCALN/5'-3'RBZと命名した。
【0049】
pCALN/HCV RBZの構築
1μg/μlのpCALN・R6・CR8を4μl、制限酵素反応液(10mM Tris-HCl pH7.5、10mM MgCl2、1mM Dithiothreitol)30μl中でKpnI 2μlで消化(37℃、一夜)し、その酵素反応終了液28μlに0.5M塩化ナトリウムを4μl、HindIIIを2μl添加し、滅菌水で40μlにしてさらに消化(37℃、3.5時間)を行った。反応後、フェノール処理、フェノール/クロロホルム処理、クロロホルム処理を行い、エタノール沈殿し、TE 30μlに溶解した。この一部をアガロースゲル電気泳動し、約8.5kbpのDNA断片をQIAEX II Agarose Gel Extraction(QIAGEN)を用いてゲルから抽出し、滅菌水20μlに溶解した。そして再度フェノール処理、フェノール/クロロホルム処理、クロロホルム処理を行い、エタノール沈殿し、滅菌水20μlに溶解した。
【0050】
同様に2μg/μlのpCALN/5'-3'RBZを5μl、制限酵素反応液(10mM Tris-HCl pH7.5、10mM MgCl2、1mM Dithiothreitol)30μl中でKpnI 2μlで消化(37℃、一夜)し、その反応終了液をフェノール処理、フェノール/クロロホルム処理、クロロホルム処理を行い、エタノール沈殿し、TE 30μlに溶解した。これをアガロースゲル電気泳動し、約9.2kbpのクローニングベクターをQIAEX II Agarose Gel Extraction(QIAGEN)を用いてゲルから抽出し、滅菌水27μlに溶解した。次いでこのクローニングベクター 27μlに10X CIAP bufferを5μl、22units/μlのCIAPを2μl加え、滅菌水で50μlにし、50℃、30分間インキュベーションしてアルカリフォスファターゼ処理を行った。反応後、75℃、10分間の加熱で酵素を失活させ、フェノール/クロロホルム処理を2回、クロロホルム処理を1回行い、エタノール沈殿し、滅菌水20μlに溶解した。
pCALN・R6・CR8から回収したDNA断片とクローニングベクターpCALN/5'-3'RBZの一部をアガロースゲル電気泳動し、それらの濃度を共に約20ng/μlと概算した。
【0051】
ライゲーション反応は、 pCALN・R6・CR8から回収したDNA断片4μlとクローニングベクターpCALN/5'-3'RBZ 4μlを混ぜ80℃、3分間インキュベーションした後、氷冷水につけ、即座に5X DNA dilution buffer 2μl、2X DNA ligation buffer 10μl、5units/μlのT4 DNA ligase 1μlを添加し、室温で1.5時間行った。反応液2μlを大腸菌DH5α株100μlに添加し、氷上に30分間置いた後、42℃で45秒間のヒートショックを行い、再度氷上に2分間置いた後、SOC培地400μlに加え、37℃で1時間インキュベーションした。形質転換菌はLB-Ampプレート(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、1%塩化ナトリウム、1.5%寒天、アンピシリン100μg/ml)上で一夜培養した後、プレート上に出現したコロニーをそれぞれ4mlのLB-Amp培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、1%塩化ナトリウム、アンピシリン75μg/ml)の入った13mlチューブで培養(37℃、6時間)し、培養液を遠心して集菌し、プラスミドDNAをQIAprep Spin Plasmids Kits(QIAGEN社製)を用いてミニプレパレーションし、TEで100μlのDNA液を調製した。この内12.5μlを制限酵素反応液(50mM Tris-HCl pH7.5、10mM MgCl2、1mM Dithiothreitol、100mM NaCl)15μl中でEcoRI 1μlで消化(37℃、30分間)した後、アガロースゲル電気泳動し、目的のDNA断片の挿入されたクローンを得た。
【0052】
HCV遺伝子の複製時における変異を極力抑える目的で得られたクローンのホスト株を大腸菌DH5α株からJM109株に変え、新たな形質転換菌を得た。また細胞へのtransfectionやtgm作製といった本発明のベクターの応用性を考慮して、以降のプラスミド調製はTriton法を用いた。
まずSuper broth(3.3%バクトトリプトン、2%酵母エキス、0.75% 塩化ナトリウム、10N水酸化ナトリウム1/1000量)でクローンを大量培養し、遠心(5000rpm、10分間)で菌体を回収した。そこに冷TE Sucrose(25% Sucrose、50mM Tris-HCl pH8.0、1mM EDTA)を培養量の1/20量加え、チューブに移し、以後氷上で20mg/ml lysozymeを培養量の1/100量加え5分間インキュベーション、0.5M EDTA pH8.0を培養量の1/50量加え10分間インキュベーション、Tyiton-lytic mixture(0.1% Triton X-100、50mM Tris-HCl pH8.0、62.5mM EDTA)を培養量の2/25量加え15分間インキュベーションといった操作を行った。インキュベーション後、超遠心(Beckman rotor 45Ti、30krpm 30分間、4℃)を行い、上清をビーカーに移した。上清の重量の1/10量(w/w)のPEG 6000と1/10量(v/w)の5M塩化ナトリウムを加え攪拌して完全に溶解させ、溶解後、氷上で1,5時間インキュベーションした。その後、遠心チューブに移し、8000rpm、10分間、4℃で遠心を行った。沈殿物にTE-Sarkosyl(0.4% Sarkosyl、10mM Tris-HCl pH7.5、1mM EDTA)を培養量の3/200量加え、塩化セシウムを培養量の3/200量(w/v)加え、10mg/mlのエチレンブロマイドを3/8000量加え、チューブに移して遠心(8000rpm、10分間、15℃)した。遠心後、液体表面上に形成されたタンパクの膜を除去し、上清をチューブに移し、再度10mg/mlのエチレンブロマイドを3/4000量加えた後、超遠心チューブ(polyallomer Quick-seal 1x3 1/2 in)に移し、超遠心(Beckman rotor Vti50、4.8krpm、一夜、15℃)を行った。遠心終了後、プラスミドを回収し、再度超遠心チューブ(polyallomer Quick-seal 1x3 1/2 in)に移し、超遠心(Beckman rotor Vti80、6.5krpm、3.5時間、20℃)を行った。遠心終了後、プラスミドを回収し、5M塩化ナトリウム飽和イソプロパノールで6回抽出を行い、エチレンブロマイドを除去した。回収したサンプル量の3倍量のTEを添加後、エタノール沈殿を行い、適当量のTEに溶解した。このプラスミドに挿入されたHCV遺伝子の塩基配列をDNA sequencing kit Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction(PERKIN ELMER)を用いて決定した。目的の塩基配列を有したプラスミドベクターをpCALN/HCV RBZと命名した(図1)。このプラスミドを導入した大腸菌は独立行政法人産業技術総合研究所に寄託されている(FERM BP-6763、寄託日:平成9年10月31日)。
【0053】
〔実施例2〕 完全長HCV遺伝子発現の確認
(1)ノーザンブロッテイングによる確認
pCALN/HCV RBZをIMY細胞(Itoh, T. et al., submitted)にLipofectin Reagant(GIBCO-BRL)の方法(Felgner, PL, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413(1987) )に従いトランスフェクトし、T7-RNAポリメラーゼを持つ組み換えワクチニアウイルス(文献:Yasui, K. et al., J.Virol. in press)を感染させ、HCV-RNAを発現させた。具体的には、IMY細胞、6cm dish当たり、Rz-DNA4μgを用い、Lipofectinを18%の割合になるようにOpti-MEMで希釈したものを混合し、室温で15分間放置後、Opti-MEM 1.6mlを加え静かに混合し、dish上にまく。その後37℃で5時間インキュベートし、MOI=10でT7ポリメラーゼを持つ組換えワクチニアウイルスを1時間吸着させた。その後、37℃で、12時間培養し、感染細胞を集め、HCVの発現を検討した。Isogen(ニッポンジーン)を用いてRNAを抽出し、そのうちのトータルRNA4μgをホルムアルデヒトゲルで電気泳動し、ナイロン膜(アマシャム)に転写して10%Dextran sulfate,1%SDS溶液でノーザンンブロットを行った。HCV遺伝子の5'UTRからcoreの領域に相当する600bpのcDNAをpdCTPでラベルしプローブとし、発現されたHCV-RNAを検出した。また、対照として、pCALN/HCV RBZをin vitroで発現させた場合、及びリボザイムをコードするDNA を含まないT702X を発現させた場合についても同様にHCV-RNAの検出を試みた。この結果を図2に示す。
【0054】
pCALN/HCV RBZをin vitroで発現させた場合、HCV-RNA は完全にトリミングされず、約11kbのRNA が検出された。一方、pCALN/HCV RBZを細胞内で発現させた場合、完全長(9.6kb )のHCV-RNA のみが検出された。また、T702X を用いた場合、完全長のHCV-RNA は検出されたが、そのRNA 量はpCALN/HCV RBZを用いた場合に比べ著しく少なかった。
【0055】
(2)5'-Race 及び3'-Race による確認
pCALN/HCV RBZをトランスフェクトしたIMY細胞からHCV-RNA を抽出し、その両末端の塩基配列を調べた(図3及び図4)。
【0056】
5'末端のクローニング及びシークエンス
発現したHCV-RNA の5'末端配列の確認は、5'Race System(Gibco-BRL)を用いて、5'Race法により行った。抽出したHCV-RNA からA5'-IRプライマーとSuperscriptII(Gibco-BRL)を用いてcDNAを合成した。合成されたcDNAを、TdTでdA tailingし、これを鋳型とし、sense プライマー:CAC-T35、antisense プライマー:A5'-IIとしてPCRを行った。得られた増幅産物を鋳型とし、sense プライマー:KM2、antisense プライマー:CAC-T35として再度PCRを行った。増幅されたDNAフラグメントはpGEM-Tベクター(プロメガ)にクローニングし、塩基配列の決定を行った。
【0057】
3'末端のクローニング及びシークエンス
抽出したHCV-RNAにpoly A Polymerase(タカラ)でA tailingを行い、これからCAC-T35プライマーでcDNA合成を行った(Superscript II、Gibco-BRL)。このcDNAを鋳型として、CAC-T35プライマー、Takara Taqで1回目のPCRを、続いて3'-X-R6H3とCAC-T35で2回目のPCRを行い、得られたフラグメントを5'末端の場合と同様に配列決定した。
【0058】
以下に使用したプライマーの塩基配列を示す。
CAC-T35 :CAC(T)35(配列番号19)
KM2:5'-CTGTACGACACTCATACTAA-3'(配列番号20)
3'-XR6H3:5'-TTTTTGGTGGCTCCATCTTAGCC-3'(配列番号21)
A5'-IR:5'-GGGTTTGGGATTTGTGCTCATGAT,(配列番号22)
A5'-II:5'-CACTCGCAAGCACCCTATCAGGCAGT,(配列番号23)
【0059】
以上のシークエンスの結果をHCV 遺伝子の両末端の塩基配列と比較したところ、3'末端については完全な一致がみられたが、5'末端については、得られたシークエンスは、HCV 遺伝子の配列にG が一つ付加したものであった。このG はpCALN/HCV RBZ中に挿入したcDNAに含まれていないものなので、mRNAの5'末端のキャップ構造に由来するものと考えられた。
【0060】
(3)HCV蛋白質発現の確認
pCALN/HCV RBZをトランスフェクトしたIMY細胞についてウエスタンブロッティング法(新生化学実験講座タンパク質I、東京化学同人(1990))により、構成蛋白質の発現を解析した。
IMY細胞をRIPAバッファー(1%SDS、0.5%NP40、0.15MNaCl、10mMTris-HCl(pH7.4))で可溶化し、SDS-PAGEで電気泳動し、Immobilon-P(ミリポア)に転写溶液(25mM Tris, 192mM Glycine, 20%メタノール)で転写した。その後、抗core、E1、E2、NS3、NS4A/4B 、NS4B、NS5A、NS5Bの各ビオチン化モノクローナル抗体(1−2μg/ml)と37℃で反応させ、アビジン化-HRPO(Vector stein:1:1500)で反応後、ECL(アマシャム)でHCV蛋白質を検出した。対照として、pCALN/HCV RBZをトランスフェクトしなかったIMY細胞についても同様に構成蛋白質の発現を解析した。この結果を図5に示す(図中の2-18がトランスフェクトした場合、Mockがトランスフェクトしなかった場合を示す)。
図に示すように作製したすべてのモノクローナル抗体について特異的に結合する蛋白質が検出された。これより、pCALN/HCV RBZは、全HCV蛋白質を発現できるものと考えられる。
【0061】
〔実施例3〕HCV 遺伝子発現細胞株の樹立
HepG2、IMY細胞、6cm dish1枚当たり、プラスミドDNA4μgとLipofectin(GIBCO-BRL)をOpti-MEM(GIBCO-BRL)に約18%の割合で溶解したものを、混合し、室温で15分放置後、Opti-MEMを1.6ml加え、静かに混合し、予めOpti-MEMで洗浄した細胞の上にまいた。37℃でCO2インキュベーター内に5時間置いた後、上清を10%FCS-DMEM(細胞培養液)と置換した。37℃、48時間後、細胞を1:5の割合で継代し、G418を800μg/ml(Bioactive)で加えた。約3週間後、形成されたコロニーをピックアップした。
【0062】
ピックアップした細胞にcre-adenovirusを感染させ(感染量:moi=100 )、ウエルあたりのcore蛋白質の発現量を調べた。特に発現量の多かった3 系統についての結果を図6に示す。
次に、cre-adenovirusの感染量をmoi=1から100 まで変化させ、その際の発現量を調べた。この結果を図7に示す。図7に示すように、moi=30でほぼプラトーに達した。このことから全細胞でHCV が発現するためにはある程度のcre 酵素が必要であると考えられた。なお、図7では、最も発現の高い2-18系統のみ示したが、2-8 系統及び2-22系統でも同様の反応性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNAウイルスの遺伝子をコードするcDNAを含むベクターであって、該RNAウイルスの遺伝子の両末端を正確かつ均一に転写できるように構築されていることを特徴とするベクター。
【請求項2】
RNAウイルスの遺伝子をコードするcDNAの5'末端の上流及び3'末端の下流のそれぞれにセルフプロセッシングにより切断するリボザイムをコードするDNAが配置されていることを特徴とする請求項1記載のベクター。
【請求項3】
RNAウイルスがC型肝炎ウイルスであることを特徴とする請求項1又は2記載のベクター。
【請求項4】
請求項1又は2記載のベクターを含むことを特徴とする動物細胞。
【請求項5】
請求項3記載のベクターを含むことを特徴とする動物細胞。
【請求項6】
その細胞中に請求項1又は2記載のベクターを含むことを特徴とするRNAウイルス感染モデル動物。
【請求項7】
RNAウイルスがC型肝炎ウイルスであることを特徴とする請求項6記載のRNAウイルス感染モデル動物。
【請求項8】
請求項4記載の動物細胞、又は請求項6記載のRNAウイルス感染モデル動物を用いることを特徴とするRNAウイルスの複製を阻害する薬物のスクリーニング方法。
【請求項9】
請求項5記載の動物細胞、又は請求項7記載のRNAウイルス感染モデル動物を用いることを特徴とするC型肝炎ウイルスの複製を阻害する薬物のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−46083(P2010−46083A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242735(P2009−242735)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【分割の表示】特願平11−178347の分割
【原出願日】平成11年6月24日(1999.6.24)
【出願人】(591063394)財団法人 東京都医学研究機構 (69)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】