説明

RNA分子の検出方法、それに関するキットおよび使用

【課題】改善された低RNA分子の検出方法を提供する。
【解決手段】a)RNA分子を含む試料を提供する工程;b)RNA分子に第一のポリヌクレオチドをハイブリダイズさせる工程;c)RNA分子を逆転写し、第一鎖cDNAを生成させる工程、d)第二のポリヌクレオチドを第一鎖cDNAにハイブリダイズさせる工程、第二のポリヌクレオチドは、(i)第一鎖cDNAの一部に相補的な3’-部分(ii)第二のプライマー結合部位の配列を含む5’-突出部を含む3’-非伸長性オリゴヌクレオチド、e)第一鎖cDNAから第二のプライマー結合部位に相補的な配列を含む伸長反応生成物を得る工程、f)第一のプライマーおよび第二のプライマー結合部位に相補的な第二のプライマーを使用し、ポリメラーゼ連鎖反応によって伸長反応生成物を増幅する工程、g)リアルタイム蛍光読出しによって増幅産物を検出する工程、を含む、RNA分子の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
第一の局面において、本発明は、RNA分子を含む試料を提供する工程;前記RNA分子に第一のポリヌクレオチドをハイブリダイズさせる工程;第一のポリヌクレオチドを伸長させて、第一鎖cDNAを生成する工程;第一鎖cDNAに、3'-非伸長性オリゴヌクレオチドであることを特徴とする第二のポリヌクレオチドをハイブリダイズさせる工程;第一鎖cDNAを伸長させて、伸長反応生成物を生成する工程;該伸長反応生成物を、ポリメラーゼ連鎖反応により増幅する工程;および増幅生成物をリアルタイム蛍光読み出しにより検出する工程を含むRNA分子の検出方法に関する。さらなる局面において、本発明は、本発明に規定される第一のポリヌクレオチドおよび第二のポリヌクレオチド、dNTPのセット、逆転写酵素、ならびに検出部分を含むキットに関する。さらに別の局面において、本発明は、RNA分子の検出のための本発明のキットの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
RNA分子は、種々の生物において、遺伝子発現に重要な役割を担う。最近、生細胞において生理学的プロセスおよび病理学的プロセスの両方に影響を及ぼす、転写後遺伝子発現、特に遺伝子サイレンシングの重要な調節因子としての低分子RNAが発見された。低分子RNAによって誘導される最初の遺伝子サイレンシングプロセスは、1993年に線虫セノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)で発見された。そこで、lin-4遺伝子の21-nt長のノンコーディングRNA転写産物が、lin-41と称される標的遺伝子の抑制を媒介することが示された。この抑制は、短いlin-4 RNA分子とlin-41遺伝子由来のmRNA転写産物の3'-非翻訳領域(UTR)の間の相補的塩基対形成に依存することが示された。その後、短いRNAは、植物、動物およびDNAウイルスにおける多くの種類の遺伝子調節因子であることが見出され、起源および機能の異なる短いRNAが、分裂酵母からヒトまでの種々の生物で同定された。短い調節性RNAの種類としては、例えばmiRNA(マイクロRNA)、siRNA(低分子干渉RNA)、piRNA(Piwi-相互作用RNA)、およびrasiRNA(反復配列関連低分子干渉(Repeat-associated small interfering)RNA)が挙げられる。これらの中では、植物および動物においてmiRNAが最も豊富な(abundant)型の低分子調節RNAである。例えば、ヒト遺伝子の約3%がmiRNAをコードし、ヒトタンパク質コーディング遺伝子の30%までがmiRNAにより調節されると推定されている。今日まで、10000より多くの種々のmiRNAが、クローニングおよび配列決定により同定されている(例えば、miRBase:マイクロRNA登録データベース、http://www.mirbase.org/, Sanger Institute, UK参照)。一般に、miRNAは、21〜25ヌクレオチド(nt)であることを特徴とし、前駆体miRNAまたはpre-miRNAと称される約70ヌクレオチド長のより長い内因性ヘアピン転写産物からプロセッシングされる。lin-4 RNAの場合と同様、miRNAは、miRNAとその標的mRNA間で相補的塩基対が形成される機構によってタンパク質発現を調節することが示されている。このプロセスは、タンパク質翻訳の阻害、およびmiRNAとその標的部位の間の配列相補性の程度に依存してmRNA転写産物の分解をもたらす(総説について、例えばBartel, 2009参照)。
【0003】
悪性腫瘍および腫瘍細胞株は、正常組織と比較して、調節が乱れた(deregulated)miRNA発現プロフィールを示すという発見に基づいて、改変されたmiRNA発現は、ヒトの疾患、特に癌の原因となるということが示されている(総説について、例えば、Sassen et al., 2008参照)。つまり、miRNAレベルの全体的な減少がヒトの癌で観察されたということは、低分子調節RNAは、腫瘍抑制に固有の機能を有し得るということを示唆する。Luら(2005)は、334のヒトの癌、癌細胞株および正常組織から合計217のヒトおよびマウスのmiRNAを分析することにより、多くのmiRNAの発現レベルが、対応する正常組織と比較して、癌で有意に低下していることを最初に示した。この著者らは、癌が全体的なmiRNA発現の有意な低下とともに進行すること、およびあまり分化していない腫瘍が、より分化した腫瘍と比較して低いmRNAレベルを示すことを見出した。別の最近の研究では、ヒト癌細胞株の包括的なパネルであるNCI-60パネル、および正常組織において、241のヒトmiRNAの発現を調べ、対応する正常組織と比較して、ヒト腫瘍由来細胞株において、ほとんどのmiRNAがより低いレベルで発現されるという発見を確認した(Gaur et al., 2007)。
【0004】
最近まで、癌で観察された、改変されたmiRNA発現は、悪性の形質転換の原因であるか、または結果であるかということは不確かであった。2007年に、Kumarらの研究は、miRNA発現の広範な低下は、実際に腫瘍化を促進するということを初めて明らかにした。この著者らは、細胞株において、miRNAプロセッシング酵素DroshaおよびDicerのノックダウンにより、成熟miRNAの産生を全体的に低下させた。その結果、マウスおよびヒト癌細胞は、低い安定状態のmiRNAレベルを示した。全体的なmiRNAの低下を有するこれらの細胞は、インビトロで、増強された細胞の増殖を示した(Kumar et al., 2007)。腫瘍にはmiRNAの全体的なダウンレギュレーションがあるので、miRNAプロフィールは腫瘍の起源および分化状態を反映し得る。従って、miRNA発現プロフィールの分析は、間もなく癌診断における重要なツールに発展し、個体におけるmiRNAについての信頼性のある検出方法および定量方法の応用は、この点において最も関連のある必須のものとなろう。
【0005】
RNA分子の検出および定量、例えばmiRNAなどの低分子調節RNAの検出は、原則的に、種々の標準的な手法、例えばノーザンハイブリダイゼーション、RNase保護、プライマー伸長またはマイクロアレイハイブリダイゼーションなどの標準的な核酸ハイブリダイゼーションに基づく技術によって実行することができる。しかしながら、これらの方法は、いずれも放射性標識剤の使用に依存するか、および/またはコストが高すぎるので、日常的な研究室のルーチンの使用には適さない。
【0006】
前駆体miRNAおよび成熟miRNAの両方の定量のために、リアルタイムPCR技術が開発された(例えば、Schmittgen et al., 2008参照)。原則的に、成熟miRNAの検出などの低RNA分子の増幅および検出には、二つの方法が常套的に使用される。一つの方法は、増幅のためにmiRNA特異的PCRプライマーと組み合わせた、ユニバーサルPCRプライマーを含む特異的ステムループRTプライマーに基づく。この系(例えば、Applied Biosystems TaqMan(登録商標) microRNA Assay, Applied Biosystems, USA参照)では、標的成熟miRNAは加水分解プローブによって検出される。第二の方法は、増幅のために(特異的RT-プライマーに結合させた)ユニバーサルPCRプライマーおよびLNA(ロックト核酸)プライマーを使用し、標的miRNAの検出のためにSybrGreen(登録商標)を使用する(例えば、miRCURY LNATM Univeral RT microRNA PCR, Exiqon, Denmark参照)。しかしながら、これらの方法による1つの試料中のmiRNAの成熟形態と前駆体形態の識別は、かなり困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Bartel D.P (2009), Cell, 136: 215-33
【非特許文献2】Gaur A., Jewell D.A.,Liang Y., Ridzon D. et al. (2007), Cancer Res. 67:2456-2468
【非特許文献3】Kumar M.S.,Lu J., Mercer K.L.,Golub T.R., Jacks T. (2007),Nat. Genetics 39: 673-677
【非特許文献4】Livak K.J. and Schmittgen T.D. (2001), Methods 25: 402-408
【非特許文献5】Lu J., Getz G., Miska E.A. et al. (2005), Nature 435: 834-838
【非特許文献6】Sassen S.,Miska E.A., Caldas C. (2008), Virchows Arch 452: 1-10
【非特許文献7】Schmittgen T.D., Lee E.J., Jiang J., Sarkar et al. (2008), Methods 44(1): 31-38
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そのため、改善された低RNA分子の検出方法が、常に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に関連して、驚くべきことに、低分子調節RNA分子などの種々の長さのRNA分子は、分解性3'-非伸長性オリゴヌクレオチド(以下、「ヘルパーオリゴ」ともいう)の使用を含む方法により検出できることが見出された。本発明の方法は、特にRNA分子が1つの前駆体分子に由来する場合、1つの試料中の1つより多くの種のRNA分子の検出に特に適している。従って、本発明の方法は、例えばmiRNAの成熟および前駆体形態の検出および定量などの低分子調節RNAの成熟形態および前駆体形態の検出およびそれらの識別に特に適している。
【0010】
従って、第一の局面において、本発明は、RNA分子の検出方法を提供し、該方法は、
a) RNA分子を含む試料を提供する工程;
b) 前記RNA分子に、第一のプライマー結合部位を含む第一のポリヌクレオチドをハイブリダイズさせる工程;
c) 該RNA分子の配列を逆転写することにより、第一のポリヌクレオチドを伸長させて第一鎖cDNAを生成する工程;
d) 第一鎖cDNAに第二のポリヌクレオチドをハイブリダイズさせる工程、ここで第二のポリヌクレオチドは、
(i) 第一鎖cDNAの一部に相補的な3'-部分、および
(ii) 第二のプライマー結合部位の配列を含む5'-突出
を含む3'-非伸長性オリゴヌクレオチドであり、少なくとも1つまたはいくつかのdUヌクレオチド残基を含む;
e) dUTPの非存在下で第一鎖cDNAを伸長させて、第二のプライマー結合部位に相補的な配列を含む伸長反応生成物を生成させる工程、および前記第二のポリヌクレオチドを、好ましくは熱不安定性ウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)の酵素反応により消化する工程;
f) 第一のプライマー結合部位に相補的な第一のプライマーおよび第二のプライマー結合部位に相補的な第二のプライマーを使用して、検出部分の存在下でポリメラーゼ連鎖反応により伸長反応生成物を増幅する工程;ならびに
g) リアルタイム蛍光読み出しにより増幅生成物を検出する工程を含む。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕a) RNA分子を含む試料を提供する工程;
b) 前記RNA分子に、第一のプライマー結合部位を含む第一のポリヌクレオチドをハイブリダイズさせる工程;
c) 該RNA分子の配列を逆転写することにより第一のポリヌクレオチドを伸長させ、第一鎖cDNAを生成させる工程;
d) 第二のポリヌクレオチドを第一鎖cDNAにハイブリダイズさせる工程、ここで、前記第二のポリヌクレオチドは、
(i) 第一鎖cDNAの一部に相補的な3’-部分、および
(ii) 第二のプライマー結合部位の配列を含む5’-突出部;
を含む3’-非伸長性オリゴヌクレオチドであり、少なくとも1つまたはいくつかのdUヌクレオチド残基を含む、
e) dUTPの非存在下で第一鎖cDNAを伸長させて、第二のプライマー結合部位に相補的な配列を含む伸長反応生成物を生成させる工程;および、好ましくは熱不安定性ウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)の酵素反応によって前記第二のポリヌクレオチドを消化する工程
f) 検出部分の存在下、第一のプライマー結合部位に相補的な第一のプライマーおよび第二のプライマー結合部位に相補的な第二のプライマーを使用し、ポリメラーゼ連鎖反応によって伸長反応生成物を増幅する工程;ならびに
g) リアルタイム蛍光読出しによって増幅産物を検出する工程
を含む、RNA分子の検出方法、
〔2〕前記RNA分子が、15〜200ヌクレオチド、好ましくは20〜100ヌクレオチドの長さを有することを特徴とする、〔1〕記載の方法、
〔3〕前記RNA分子が、成熟miRNA(miRNA)、前駆体miRNA(pre-miRNA)、一次miRNA前駆体(pri-miRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、piRNA(piwi相互作用(interacting)RNA)、前駆体piRNA、および低分子ヘアピン(short hairpin)RNA(shRNA)からなる群より選択されることを特徴とする、〔1〕または〔2〕記載の方法、
〔4〕工程a)のRNA分子が、好ましくは、ポリ(A)ポリメラーゼ、ターミナルトランスフェラーゼまたはリガーゼの酵素反応によって、より好ましくはポリAポリメラーゼの酵素反応によって3’末端でポリヌクレオチドテイルによって伸長されていることを特徴とする、〔1〕〜〔3〕いずれか記載の方法、
〔5〕第一のポリヌクレオチドが、該RNA分子の配列に相補的、ポリヌクレオチドテイルに相補的、または両方に相補的であることを特徴とする、〔1〕〜〔4〕いずれか記載の方法、
〔6〕第二のポリヌクレオチドが、3’末端リン酸の形態のブロックされた3’末端を有することを特徴とする、〔1〕〜〔5〕いずれか記載の方法、
〔7〕工程f)の検出部分がインターカレーティング色素であることを特徴とする、〔1〕〜〔6〕いずれか記載の方法、
〔8〕工程f)の検出部分が加水分解プローブであることを特徴とする、〔1〕〜〔7〕いずれか記載の方法、
〔9〕少なくとも2種類の異なる伸長反応生成物が工程f)で増幅されることを特徴とする、〔8〕記載の方法、
〔10〕工程f)の増幅が、少なくとも2種類の加水分解プローブの存在下で行なわれ、前記加水分解プローブのうち少なくとも1種類がRNA分子の特定種に特異的であり、該プローブが異なる組のドナー/アクセプター部分を含むことを特徴とする、〔9〕記載の方法、
〔11〕前記RNA分子の特定種が前駆体分子の1つに由来し、好ましくは異なる長さ(lenghts)を有することを特徴とする、〔10〕記載の方法、
〔12〕RNA分子の異なる種間の比率が、異なる増幅産物の検出によって、好ましくは識別可能な蛍光読出しによる異なる増幅産物の検出によって測定されることを特徴とする、〔9〕〜〔11〕いずれか記載の方法、
〔13〕〔1〕〜〔12〕いずれかに規定される第一および第二のポリヌクレオチド、
dNTPのセット、
逆転写酵素、ならびに
検出部分、好ましくは1種類以上の異なるRNA分子に特異的な1種類以上の加水分解プローブ、
ウラシル-DNA-グリコシラーゼ(UNG)活性を有する酵素、ならびに
任意に、〔1〕〜〔12〕いずれかに規定される第一および/または第二のプライマー
を含むキット、
〔14〕RNA分子の検出のため、好ましくは〔2〕または〔3〕に規定される1種類以上のRNA分子の検出のための、〔13〕記載のキットの使用
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、改善された低RNA分子の検出方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、標的RNA分子への配列特異性を有する第一のポリヌクレオチド(ここで、ユニバーサルプライマー結合部位B = UPBと表示する第一のプライマー結合部位を含む)を用いる、成熟および前駆体miRNAの検出のための方法Iの原理を示す。第二のポリヌクレオチド(dUヘルパーオリゴ、第二のプライマー結合部位 = ユニバーサルプライマー結合部位A、UPAを含む)は、酵素UNGを用いてPCR反応前に消化される。伸長反応生成物のPCR増幅は、第一および第二のプライマー(すなわち、それぞれ、UPAおよびUPB)の使用によって行なわれる。この2種類の増幅産物の検出は、それぞれ、成熟および前駆体第一鎖cDNAに相補的であり、異なるドナー/アクセプター部分(すなわち、FAM/BHQ2およびHEX/BHQ2)で標識された2種類の異なる加水分解プローブの存在下で行なわれる。
【図2】図2は、成熟および前駆体miRNAのポリ(A)テイルに相補的な第一のポリヌクレオチドと、分解性第二のポリヌクレオチド(dUヘルパーオリゴ)を用いた、miRNAの検出のための方法IIの原理を示す。ここでは、まず標的RNA分子の3’末端がポリ(A)-ポリメラーゼの酵素反応によって伸長され、したがって、第一のポリヌクレオチドがハイブリダイズするポリ(A)テイルが生成される。その後の工程は図1に示された方法Iの工程に対応する。
【図3】図3は、47回の増幅サイクルにわたってFAMについて測定された蛍光の増加を示すリアルタイムPCR増幅プロットを示す。図3は、成熟miR-21 RNAに相補的な配列特異的第一のポリヌクレオチドを用いたリアルタイムRT-PCR蛍光読出し(方法I)による合成miR-21 RNAオリゴヌクレオチド分子(50fg)の検出を示す。
【図4】図4は、47回の増幅サイクルにわたってFAMについて測定された蛍光の増加を示すリアルタイムPCR増幅プロットを示す。図4は、逆転写用の成熟miR-21 RNAに相補的な配列特異的第一のポリヌクレオチドを用いたリアルタイムRT-PCR蛍光読出し(方法I)による肺癌および正常組織から内因的に発現されたmiR-21 RNAの検出を示す。
【図5】図5は、47回の増幅サイクルにわたってFAMについて測定された蛍光の増加を示すリアルタイムPCR増幅プロットを示す。図5は、それぞれ、逆転写用のmiR-21 RNAの成熟および前駆体形態に相補的な配列特異的第一のポリヌクレオチドを用いた、リアルタイムRT-PCR蛍光読出し(方法I)による成熟および前駆体miR-21 RNAの(投入物質として合成オリゴヌクレオチドとの)同時検出を示す。
【図6】図6は、47回の増幅サイクルにわたってFAMについて測定された蛍光の増加を示すリアルタイムPCR増幅プロットを示す。図6は、逆転写用のポリ(A)テイルに相補的な第一のポリヌクレオチドを用いたリアルタイムRT-PCR蛍光読出し(方法II)による成熟および前駆体miR-21 RNAの(投入物質として合成オリゴヌクレオチドとの)同時検出を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の方法の原理は、それぞれ図1および2に例示される。詳細には、第一の反応工程において、第一のポリヌクレオチド(本明細書においてRT-(逆転写)-プライマーとも示す)を、検出対象のRNA分子にハイブリダイズさせる。この第一のポリヌクレオチドは、検出対象のRNA分子の一部に相補的であり、さらに第一のプライマー結合部位、つまり第一のプライマーが特異的に結合し得る配列を含むように設計される。第一のポリヌクレオチドがRNA分子にアニーリングすると、標的RNA分子の配列は、逆転写酵素の酵素反応により第一のポリヌクレオチドを伸長することによって、3'-5'方向に逆転写される。それにより、検出対象のRNA分子の配列に相補的なcDNA分子が生成される。さらに、このcDNA分子の長さは検出対象のRNA分子の長さに相当する。その後の反応工程において、第二のポリヌクレオチドを、逆転写によって先に生成したcDNAにハイブリダイズさせる。この第二のポリヌクレオチドは、(i) 該cDNAの一部に相補的であり、(ii) さらに第二のプライマー結合部位を有する5'突出、つまり第二のプライマーが特異的に結合する配列を含み、(iii) 3'非伸長性であるように設計される。第二のポリヌクレオチドのその標的配列へのアニーリング後、該cDNAは、第二のポリヌクレオチドの配列を逆転写することにより5'から3'方向にさらに伸長され、それにより第二のプライマー結合部位に相補的な配列を含む5'部分を有するDNA伸長反応生成物が生成される。第二のポリヌクレオチドを3'-非伸長性であるように設計することで、第二の反応工程中に第二のポリヌクレオチドの伸長は妨げられる。第二のポリヌクレオチドが分解可能なポリヌクレオチドであるように設計され、そのため第二のポリヌクレオチドは、例えば酵素切断によって分解され得る。次いで、第一のプライマー結合部位および第二のプライマー結合部位のそれぞれに相補的な第一のプライマーおよび第二のプライマーの存在下、ならびに検出部分の存在下で、ポリメラーゼ連鎖反応により伸長反応生成物の増幅が行われる。本発明の方法が、2つの異なるRNA分子の並行検出に適用される場合、2つの識別可能な検出部分を使用すると、2つの伸長反応生成物を、1つの反応設定において増幅することができる。さらに、検出対象のRNA分子が異なるサイズである場合、異なる長さを有する異なる伸長反応生成物が検出され得る。
【0015】
本発明に関連して使用する場合、特徴(feature)「試料を提供すること」は、一般的に、RNA分子またはRNA分子の集団を含む組成物の調製に適した全ての種類の手法のことをいう。これらの手法としては、限定されないが、目的のRNA分子を含む任意の種類の生物に由来し得る1つの細胞もしくは組織抽出物、複数の細胞および/または組織の調製に適した標準的な生化学的手法および/または細胞生物学的手法が挙げられる。例えば、本発明の試料は、細胞培養中で増殖した、もしくは切除および/または手術により生物から得られた細胞(1つもしくは複数)に由来する、精製された全RNAおよび/またはサイズ分画全RNAであり得る。特に、本発明の試料は、1人以上の患者の1つ以上の組織から得られた全RNAであり得る。細胞から、細胞抽出物から、または組織からの全RNAの調製は、例えば遠心分離および/または分画、例えば複数回の凍結および/または融解サイクル、(1つまたは複数の)塩処理および/またはフェノールクロロホルム抽出を含む機械的または化学的な破壊工程による、細胞溶解などの1つ以上の生化学的な精製工程を含み得る。任意に、本発明の試料を提供することは、ポリエチレングリコールおよび塩の存在下での沈殿、および/または変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動の方法による、大量のリボソームrRNAなどの巨大なRNAの除去も含み得る。細胞および/または組織から全RNAを精製する方法は当業者に周知であり、例えばグアニジニウムチオシアネート-酸性フェノール-クロロホルム抽出(例えば、TRIzol(登録商標), Invitrogen, USA)の使用などの標準的な方法が挙げられる。さらに、本発明の試料は、さらに、定量の内部標準として有用な1つ以上の合成RNA分子を含み得るかまたは該1つ以上の合成RNA分子から構成され(be of composed of)得る。本発明の試料の例としては、例えば個体から得られる血液、肺、肝臓もしくは任意の他の組織および/または生検試料が挙げられる。
【0016】
本明細書で使用する場合、用語「ポリヌクレオチド」は、一般的に、種々の長さおよび配列の相補的塩基対形成によりRNAまたはDNA標的分子と結合し得るヌクレオチド分子のことをいう。本発明のポリヌクレオチドは、一般的に、少なくとも10、好ましくは少なくとも20、より好ましくは少なくとも30ヌクレオチドを含む分子のことをいう。本発明のヌクレオチドが、必要な特異性を提供するのに適した長さを有することは当業者に明らかであろう。一般的に、ポリヌクレオチドは、DNAオリゴヌクレオチドまたはRNAオリゴヌクレオチド、好ましくはDNAオリゴヌクレオチドであり得る。従って、ポリヌクレオチドは、核酸塩基(すなわち窒素含有塩基)、リボース、2'-デオキシリボースまたはその任意の誘導体のいずれかであり得る5炭糖、およびリン酸基で構成される全ての種類の構造を含む。核酸塩基および糖は、ヌクレオシドと呼ばれる単位を構成する。リン酸基は、糖の2、3または5-炭素、特に3および5炭素と結合を形成し得る。リボヌクレオチドは、糖部分としてリボースを含み、デオキシリボヌクレオチドは糖部分としてデオキシリボースを含む。ヌクレオチドは、プリン塩基またはピリミジン塩基を含み得る。本発明のポリヌクレオチドは、例えば、2'-O-メチル(2'-OMe)RNA、2'-フルオロ(2'-F)、ペプチド核酸(PNA)もしくはロックト核酸(LNA)などの1つ以上の修飾ヌクレオチドおよび/または1つ以上の主鎖修飾をさらに含み得る。
【0017】
本明細書において使用する場合、用語「プライマー」は、一般的に、鋳型依存的DNAポリメラーゼによってDNA合成を「引き起こ(prime)」し得るオリゴマー化合物、または代替的にポリヌクレオチドのことをいう。つまり、プライマーの3'末端は、一般的に、3'から5'へのホスホジエステル結合の形成によりさらなるヌクレオチドが結合し得る遊離3'-OH基を含む。本発明のプライマーは、少なくとも約10、好ましくは少なくとも約20、より好ましくは約30ヌクレオチド長であり得る。本発明に関連して使用される場合、プライマーは、塩基対相補性によって、その指定されたプライマー結合部位に特異的にアニーリングおよび/または結合するように設計される。本発明に関連して、用語「プライマー」は、同等に「ポリヌクレオチド」を意味する。本発明のプライマーは、例えば実施例1および実施例2それぞれの表1および表2に例示される。
【0018】
本明細書で言及する場合、「プライマー結合部位」は、相補的なプライマーまたはポリヌクレオチドのアニーリングおよび/またはハイブリダイゼーションが可能となるように設計されたヌクレオチド鎖を意味する。本発明に関連して、プライマー結合部位は、約10〜20ヌクレオチド以上から構成され得、目的のプライマー分子に相補的な塩基対形成を確立するのに適するとみなされる任意の配列を示し得る。さらに、プライマー結合部位は、より長いポリヌクレオチドの一部分を形成し得、従ってこのポリヌクレオチドの配列の5'末端付近、3'末端付近または該配列の間の任意の位置に配置され得る。特に、本発明に関連して、第一のプライマー結合部位は、第一のポリヌクレオチドの一部を形成し、第二のプライマー結合部位は、第二のポリヌクレオチドの一部を形成する。この第一のプライマー結合部位および第二のプライマー結合部位は、互いに同一であるかまたは互いに異なるかのいずれかであり得る。好ましくは、第一のプライマー結合部位および第二のプライマー結合部位は異なる配列特異性を示す。さらに、好ましくは、プライマー結合部位は、検出対象のRNA分子の配列を指さない。例えばT7またはT3最小プライマー部位などのユニバーサルプライマー結合部位の配列は、当業者に周知であり、例えばNCBIジーンバンク(National Center for Biotechnology Information, Maryland, USA)などの公共のデータベースから入手可能である。
【0019】
本発明の方法の工程b)において、第一のプライマー結合部位を含む第一のポリヌクレオチドを、検出対象のRNA分子にハイブリダイズさせる。この第一のポリヌクレオチドは、標的RNA分子の内在配列に相補的であるか、または代替的に、該RNA分子を、その3'末端で伸長させたポリヌクレオチドテイルに相補的であるかのいずれかであり得る。このポリヌクレオチドテイルは任意のヌクレオチド鎖であり得、好ましくはポリAテイル、つまり複数のアデノシン残基の鎖である。
【0020】
従って、本発明の一態様において、第一のポリヌクレオチドは、検出対象のRNA分子の内在配列に相補的である。代替的な態様において、第一のポリヌクレオチドは、工程b)を行う前にRNA分子の3'末端に結合した特定の配列に相補的である。該RNA分子の配列に相補的な第一のポリヌクレオチド、つまり配列特異的な第一のポリヌクレオチドを使用した場合(方法Iの原理、図1参照)、RNA分子の配列に相補的な第一のポリヌクレオチドのこれらのヌクレオチドは、好ましくは、工程c)で使用される第二のポリヌクレオチドの配列と重複するべきではない。さらに、第一のポリヌクレオチドの特異性は、逆転写のプロセスの間、つまり工程c)の間に、第一のプライマー結合部位の配列をブロックするdU-DNAオリゴヌクレオチドを並行して使用することにより高めることができる。RNA分子の3'末端に結合した配列に相補的な第一のポリヌクレオチドを使用した場合(方法IIの原理、図2参照)、アンカーポリヌクレオチドの使用が好ましい。本発明に関連して、アンカーポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドテイル配列の結合前の標的RNA分子に特異的な少なくとも1つ以上のヌクレオチドを有するポリヌクレオチドを意味する。この設定において、RNAがポリアデニル化mRNAでない場合は、逆転写前のRNA分子のテイル形成が必要である。
【0021】
本発明に関連して言及する場合、用語「相補的」は、一般的に、相補的塩基対形成によりポリヌクレオチドが目的の標的配列に特異的に結合する能力を意味する。互いに相補的な(任意に修飾を含み得る)2つのヌクレオチド分子間で相補的塩基対が形成される。本発明に関連して、例えば第一のポリヌクレオチドとRNA標的分子の間に形成される相補的塩基対としては、限定されないが、ワトソン-クリックA-U、ワトソン-クリックA-T、ワトソン-クリックG-C、G-Uゆらぎ(Wobble)塩基対、A-UおよびA-C逆フーグスティーン(Hoogsteen)塩基対、または切断されたG-A塩基対またはG-Aイミノ塩基対などのプリン-プリンおよびピリミジン-ピリミジン塩基対などの全ての種類のカノニカル(canonical)または非カノニカル塩基対が挙げられ得る。好ましくは、相補的塩基対は、本発明に関連してカノニカル塩基対のことをいう。
【0022】
本明細書で使用する場合、用語「ハイブリダイズすること」または「ハイブリダイゼーション」は、一般的に、2つの相補鎖のアニーリングを意味する。首尾良いハイブリダイゼーションは、温度、塩濃度、および/またはpHなどの種々の要因に依存する。ハイブリダイゼーションに最適な温度は、好ましくは、Tm値(これはハイブリッドの融解温度(Tm)を規定する)より5〜15℃低い範囲、つまり二本鎖核酸鎖の50%が分離する温度である。Tm値を計算するための種々の公式が当業者に公知である。本発明に関連するハイブリダイズ誘導条件は、二本鎖の形成を最大にして、ポリヌクレオチドと標的分子の非特異的結合を阻害する試薬を含むバッファの使用が挙げられ得る。必要に応じて、ポリヌクレオチドの終濃度は、それぞれの反応について最適化され得る。ハイブリダイゼーション誘導条件はまた、最適なアニーリングを可能にするのに充分な時間ポリヌクレオチドと標的分子をインキュベートすることを含む。好ましくは、本発明によるハイブリダイズは、溶液中でポリヌクレオチドと標的分子をインキュベートするハイブリダイゼーション条件のことをいう。本発明のハイブリダイゼーション条件は、例えば、実施例1および実施例2の方法Iおよび方法IIに例示される。さらに、ヘルパーオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション後の第一鎖cDNA合成および伸長などのポリメラーゼ反応中の温度条件を最適化することが有利である。かかる最適化は、当業者により容易に実施される。
【0023】
本明細書で一般的に使用する場合、用語「3'-非伸長性オリゴヌクレオチド」は、3'末端に反応性の、つまり遊離の3'-OH基を有さないリボヌクレオチド、デオキシヌクレオチドまたはその両方からなるポリヌクレオチドを意味する。反応性の3'-OH基の非存在下では、さらなるヌクレオチドの酵素的付加によるオリゴヌクレオチドの5'から3'への方向の伸長(extension)および/または伸長(elongation)は妨げられる。好ましくは、本発明の3'-非伸長性オリゴヌクレオチドは、その3'末端にリン酸基を含む。本発明に関連して、用語「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」は同等に使用される。さらに、本発明の3'-非伸長性オリゴヌクレオチドは、その標的配列に配列相補性を有する3'部分を含むとともに、第二のプライマー結合部位の配列を含む5'部分を有することを特徴とする。しかしながら、この5'部分は、標的配列にアニーリングせず、それにより5'突出が生成される。本発明に関連して、用語「5'突出」は当業者に周知であり、図1および図2にさらに例示される。
【0024】
本明細書で使用する場合、用語「増幅すること」または「増幅」は、鋳型核酸(例えば、第一鎖cDNAおよび/または本発明の方法の工程e)で生成される伸長反応生成物)の一方または両方の鎖に相補的な核酸分子を合成するプロセスをいう。典型的に、核酸分子を増幅することは、鋳型核酸の変性、プライマーの融解温度未満の温度での鋳型核酸へのプライマーのアニーリング、および増幅生成物を生成するプライマーからの酵素伸長を含む。変性、アニーリングおよび伸長の各工程は1回であってもよい。しかしながら、一般的に、変性、アニーリングおよび伸長の工程は、増幅生成物の量が増加するように(しばしば指数関数的であるが、本発明では指数関数的増幅を必要としない)、複数回行われる。典型的に、増幅は、デオキシリボヌクレオシド三リン酸、DNAポリメラーゼ酵素(例えばTaqポリメラーゼ)およびポリメラーゼ酵素の最適な活性のための適切なバッファおよび/または補因子(例えば、MgCl2および/またはKCl)の存在を必要とする。本発明の増幅条件は、例えば実施例1、セクション6およびセクション7に記載される。
【0025】
本発明に関連して使用する場合、用語「ポリメラーゼ連鎖反応」または「PCR」は、鋳型分子を特異的に増幅させる任意のアッセイまたは手法を意味する。ポリメラーゼ連鎖反応は、鋳型分子が核酸鋳型である、当業者に公知の標準的な方法である。本発明に関連して、鋳型分子は、DNAまたはRNA分子、好ましくはプライマー伸長および逆転写によりRNA分子から生成されたcDNA分子であり得る。鋳型核酸は必ずしも精製される必要はなく;例えば、低存在量(abundance)でのみ発現されるRNA分子などの鋳型核酸は極少量で存在し得る。ポリメラーゼ連鎖反応により伸長反応生成物を増幅するために、プライマー伸長を誘導する反応条件下でプライマーを他のPCR試薬と合わせる。例えば、鎖伸長反応は、一般的に、50mM KCl、10mM Tris-HCl (pH8.3)、1.5mM MgCl2、1.0μgまでの変性鋳型DNA、50pモルのそれぞれのオリゴヌクレオチドプライマー、2.5UのTaqポリメラーゼ、および10% DMSOを含む。該反応液は、通常、150〜320μMのdATP、dCTP、dTTP、dGTP、または1つ以上のそのアナログを含む。特定の状況において、反応液中のdTTPを300〜640μM dUTPに置き換えてもよい。本発明に関連して、ポリメラーゼ連鎖反応は、第一および第二のプライマーの存在下、ならびに検出部分の存在下で行う。本発明のポリメラーゼ連鎖反応の実験条件は、例えば実施例1に記載される。
【0026】
ポリメラーゼ連鎖反応のプロセスの間、新しく合成された鎖は反応の次の工程に使用できる二本鎖分子を形成する。鎖分離、アニーリングおよび伸長の工程は、標的核酸分子に対応する所望の量の増幅生成物を生成するために必要なだけ多く反復され得る。反応の制限要因は、反応中に存在するプライマーの量、熱安定性酵素の量およびヌクレオシド三リン酸の量である。増幅工程およびハイブリダイゼーション工程は、好ましくは少なくとも1回反復される。検出における使用について、増幅工程およびハイブリダイゼーション工程の数は、例えば試料の性質に依存する。試料がわずか数コピーの標的核酸しか含まない場合、検出に充分な標的配列を増幅するために、より多くの増幅工程およびハイブリダイゼーション工程が必要であり得る。一般的に、増幅工程およびハイブリダイゼーション工程は、少なくとも約15回繰り返されるが、少なくとも20回、30回またはさらには40回ほど多く繰り返されてもよい。熱安定性ポリメラーゼは、熱に安定なポリメラーゼ、つまり二本鎖鋳型核酸の変性を行うために必要な時間、高温に供した場合に不可逆的に変性しないポリメラーゼ酵素のことをいう。一般的に、合成はそれぞれのプライマーの3'末端で開始され、鋳型鎖に沿って5'から3'方向に進む。熱安定ポリメラーゼは、サーマス・フラバス(Thermus flavus)、T.ルーバー(ruber)、T.サーモフィラス(thermophilus)、T.アクアティカス(aquaticus)、T.ラクテウス(lacteus)、T.ルーベンス(rubens)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)およびメタノサーマス・フェルビダス(Methanothermus fervidus)から単離された。しかしながら、酵素を補給するならば、熱安定性でないポリメラーゼもPCRに使用することができる。任意に、本発明に関連して、ポリメラーゼ連鎖反応は酵素ウラシル-DNAグリコシラーゼ(UNG)の存在下で行い得る。
【0027】
本発明に関連して、用語「検出」または「検出すること」は、一般的に、本発明の増幅生成物を可視化、分析および/または定量することを意味する。特に、用語「検出すること」は、蛍光読み出しにより、好ましくはリアルタイムRT-PCRにより増幅生成物を検出するために適用可能な当該技術分野で公知の任意の方法をいう。
【0028】
用語「リアルタイム蛍光読み出し」は、一般的に、本発明の増幅生成物をリアルタイムに、つまり増幅プロセスの最中に可視化、検出、分析および/または定量することに適した、当該技術分野で公知の全ての種類の可視化方法を意味する。特に、リアルタイム蛍光読み出しは、ポリメラーゼ連鎖反応に基づく方法であり、標的DNA分子の増幅と同時に定量するのに適したリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応、つまりQ-PCR/qPCRともいわれる)のことをいう。RT-PCRにより、(絶対コピー数またはDNAインプットまたはさらなる標準化遺伝子に対して標準化した場合の相対量として)DNA試料中の1つ以上の特異的配列の検出および定量の両方が可能になる。リアルタイムPCRまたはRT-PCRにおいて、PCR反応の各サイクル中の蛍光が測定されるとともに蛍光の量はPCR生成物の量に比例する。一般的に、リアルタイムPCRにおける生成物の検出のための二つの一般的な方法は:(1)任意の二本鎖DNA間に介在する非特異的蛍光色素、および(2)プローブとその相補的DNA標的のハイブリダイゼーション後のみに検出が可能になる蛍光レポーター部分で標識された配列特異的DNAプローブである。好ましくは、本発明のリアルタイム蛍光読み出しとしては、限定されないが、Lightcycler(登録商標)システム(Roche, Germany)を用いた増幅生成物のリアルタイム画像化が挙げられる。リアルタイムPCRおよび/またはRT-PCRの原理は当業者に周知であり、例えば「Critical Factors for Successful Real-Time PCR」、Qiagen, Germanyに記載されている。本発明に関連してリアルタイム蛍光読み出しにより得られた結果は、図3〜図5にさらに例示される。
【0029】
本明細書で使用する場合、用語「検出部分」は、一般的に、DNAに組み込まれ得るかまたは代替的にポリヌクレオチドに結合および/または連結し得、かつ蛍光測定により目的の増幅生成物を可視化および/または定量するために使用され得る任意の物質または剤のことをいう。本発明の検出部分は、例えばSyberGreen(登録商標)などのインターカレーティング色素、またはフルオロフォアなどの非インターカレーティング部分であり得る。SyberGreen(登録商標)は、あらゆる二本鎖DNA分子に結合し、結合時に所定の波長の蛍光シグナルを発する。インターカレーティング色素の使用により、標的特異的標識プローブを合成すること(synthezising)を必要とせずに多くの異なる標的の分析が可能になる。しかしながら、非特異的RNA生成物およびプライマーダイマーも蛍光シグナルの原因となるので、SyberGreen(登録商標)などのインターカレーティング色素を使用する場合には、高いPCR特異性が必要となる。フルオロフォアとしては限定されないが、フルオロセイン色素、ローダミン色素、またはシアニン色素が挙げられる。蛍光標識は、例えばInvitrogenTM (USA)などの種々の業者から市販されている。
【0030】
本発明の方法は、様々な長さのRNA分子の検出に適用可能である。しかしながら、本発明に関連して、本明細書に記載される方法は、低RNA分子の検出に特に適していることが見出された。
【0031】
従って、好ましい態様において、RNA分子は、15〜200ヌクレオチド、好ましくは20〜100ヌクレオチドの長さを有する。
【0032】
つまり、本発明に関連して、検出対象のRNA分子は、10〜250ヌクレオチドもしくは15〜200ヌクレオチドもしくは40〜120ヌクレオチドの長さ、または好ましくは20〜100ヌクレオチドの長さを有し得る。しかしながら、異なる範囲を達成するために、前述の上限および下限を組み合わせてもよいことは当業者に明らかである。従って、RNA分子は、15〜120、または40〜100、または80〜250の長さも有し得る。さらに、本発明の試料は、種々の長さを有するRNA分子の集団を含み得る。つまり、本発明に関連して提供される試料は、限定されないが、同じ長さのRNA分子を含むものであってもよく、または目的のRNA分子の前駆体および成熟形態などの、異なる長さのRNA分子を含むものであってもよい。好ましくは、本発明に関連して提供される試料は、例えば前駆体および成熟形態のRNA分子などの、識別可能な長さのRNA分子を含む。これらの例としては、限定されないが、長さが約50〜100ヌクレオチド異なり得る前駆体miRNAおよび成熟miRNAが挙げられる。
【0033】
さらに好ましい態様において、RNA分子は、成熟miRNA(miRNA)、前駆体miRNA(pre-miRNA)、一次miRNA前駆体(pri-miRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、piwi-相互作用RNA(piRNA)、前駆体piRNA、および低分子ヘアピンRNA(shRNA)からなる群より選択される。
【0034】
本発明に関連して同等に使用される用語「成熟miRNA」、「miRNA」または「マイクロRNA」は、一般的に、細胞内で発現される短いRNA分子のことをいう。特に、用語「miRNA」は、約70ヌクレオチド長の内在ヘアピン形状前駆体分子から生成される約20〜25ヌクレオチド長の一本鎖RNAのことをいう。miRNAをコードする遺伝子は、ヒト、動物、植物およびウイルスのそれぞれのゲノム中に見られる。
【0035】
miRNAコード遺伝子は、プロセッシングされた成熟miRNA分子よりもかなり長い。つまり、miRNAはまずキャップ(cap)およびポリAテイルを有する一次転写産物(「一次miRNA前駆体」とも表示される)として転写され、細胞核内で「前駆体miRNA」(pre-miRNA)として公知の短い70ヌクレオチドステムループ構造にプロセッシングされる。このプロセッシングは、動物内でヌクレアーゼDroshaおよび二本鎖RNA結合タンパク質Pashaからなるマイクロプロセッサー複合体として公知のタンパク質複合体により行われる。このpre-miRNAは、次いで、エンドヌクレアーゼDicerとの相互作用により細胞質内で成熟miRNAにプロセッシングされ、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)の形成も開始される。この複合体は、miRNA発現およびRNA干渉により観察される遺伝子サイレンシングの原因となる。
【0036】
用語「低分子干渉RNA」または「siRNA」は、一般的に、dsRNA分子の細胞内への外因性輸送の際に生成されるRNA分子、または長いdsRNAのトランスジェニック発現時に生成されるかまたは遺伝子導入、細胞トランスフェクションもしくは細胞形質導入により細胞内に導入されるRNA分子、または細胞内で内因性発現されるRNA分子を意味する。用語「siRNA」はまた、RNA干渉および遺伝子サイレンシングに関連し、好ましくは標的RNA転写産物の分解を生じる低分子調節RNA分子を意味する。低分子干渉RNAは、一本鎖RNAであってもよく、または2つの別々のRNA鎖、つまりセンス鎖およびアンチセンス鎖からなる二本鎖RNAであってもよい。低分子干渉RNAは、一般的に20〜25ヌクレオチド長である。
【0037】
用語「piwi-相互作用RNA」または「piRNA」は、一般的に、生殖系発生時、特に精子形成時にトランスポゾンのサイレンシングおよびゲノム完全性の維持に機能的に関連するRNA分子のことをいう。Piwi-相互作用RNAは、Piwiタンパク質との相互作用によりRNA-タンパク質複合体の一部を形成し、好ましくは26-31ヌクレオチドの長さを有する点で、サイズにおいてmiRNAとは異なる。本明細書で使用する場合、用語「piRNA」はまた、「反復配列関連低分子干渉RNA」または「rasiRNA」と称される調節性低分子RNAのサブクラスを含む。RasiRNAは、Agoタンパク質サブファミリーおよびPiwiアルゴノート(Argonaute)タンパク質サブファミリーの両方に結合するが、piRNAはPiwiアルゴノートサブファミリーのみに結合する。生殖系において、rasiRNAは、へテロクロマチン構造の確立および維持、繰り返し配列から生じる転写産物の制御、ならびにトランスポゾンおよびレトロトランスポゾンのサイレンシングに関与する。また、RasiRNAは、そのサイズで異なる。21〜23ヌクレオチド長のmiRNA、20〜25ヌクレオチド長のsiRNAおよび24〜31ヌクレオチド長のpiRNAに対して、rasiRNAは、由来する生物に応じて、24〜29ヌクレオチド長である。また、種々のサブクラスのmiRNA、siRNAおよびpiRNAは、miRNAがその生成に酵素Dicer-1を要し、siRNAがDicer-2を要するが、rasiRNAがいずれも要さないという点で、それらの生合成の方法により識別できる。
【0038】
用語「ショートヘアピンRNA」または「shRNA」は、一般的に、ステムループヘアピン構造を有する短いRNA分子のことをいう。ショートヘアピンRNAはまた、限定されないが、遺伝子コーディングベクターまたは遺伝子コーディングプラスミドなどの内因性鋳型由来のステムループRNA構造であり得る。特に、ショートヘアピンRNAは、強固なヘアピンターンを作製し、遺伝子発現のサイレンシングに使用できるRNA分子を意味する。
【0039】
本発明の第一の局面の好ましい態様において、工程a)のRNA分子は、ポリヌクレオチドテイルにより、好ましくはポリ(A)ポリメラーゼ、ターミナルトランスフェラーゼまたはリガーゼの酵素反応により、より好ましくはポリ(A)ポリメラーゼの酵素反応により3'末端で伸長される。
【0040】
本明細書で使用する場合、用語「ポリヌクレオチドテイル」は、一般的に、RNA分子の3'末端のヌクレオチド鎖を表す。本発明のポリヌクレオチドテイルは、様々な長さであり得、好ましくは約20〜200ヌクレオチドを含む。本発明のポリヌクレオチドテイルは、任意の種類のヌクレオチドから構成され得、適当と思われる場合は、任意の種類の改変されたヌクレオチドも含み得る。本発明に関連して、ポリヌクレオチドテイルは、プライマーまたはポリヌクレオチドが適当な条件下でポリヌクレオチドテイルにハイブリダイズできるように設計される。ポリ(A)ポリメラーゼの酵素反応により生成された場合、本発明のポリヌクレオチドテイルは、好ましくはアデノシン残基から構成されている。
【0041】
本発明に関連して、「ポリ(A)ポリメラーゼ」は、一般的に、配列非依存的な様式でのRNA分子の3'末端へのアデノシンの付加を触媒する酵素を意味する。特に、本発明のポリ(A)ポリメラーゼは、EC 2.7.7.19またはそれと同等の酵素分類を有するポリヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼを意味する。
【0042】
用語「ターミナルトランスフェラーゼ」は、一般的に、DNA分子の3'末端への、好ましくは、本発明に関連して、RNA分子の3'末端へのヌクレオチドの付加を触媒する酵素をいう。好ましくは、本発明のターミナルトランスフェラーゼは、突出3'末端にヌクレオチドを付加するが、より低効率性ではあるが、DNA断片の平滑末端および3'陥凹(recessed)末端にもヌクレオチドを付加する。
【0043】
本明細書で使用する場合、用語「リガーゼ」は、二本鎖DNA中の一本鎖切断部位でホスホジエステルの形成を触媒することにより新しい化学結合を形成して、2つの大きな分子の連結を触媒し得る酵素を意味する。好ましくは、本発明のリガーゼは、EC 6.5.1.1に分類され、RNA基質にも作用し得る。
【0044】
別の好ましい態様において、本発明の方法は、第一のポリヌクレオチドがRNA分子の配列に相補的であるか、ポリヌクレオチドテイルに相補的であるか、またはその両方に相補的であることを特徴とする。
【0045】
先に詳述されるように、本発明の方法の工程b)でRNA分子にハイブリダイズする第一のポリヌクレオチドは、標的核酸に相補的な配列特異的ポリヌクレオチド、または3'伸長にポリ-Aポリメラーゼを使用した場合にポリ-Aテイルとなるポリヌクレオチドテイルに相補的なポリヌクレオチドのいずれかであり得る。ポリヌクレオチドテイルに配列相補性を有するポリヌクレオチドを使用した場合は、オリゴ-dTポリヌクレオチドの使用が好ましい。オリゴ-dTポリヌクレオチドはデオキシチミジン残基からなるポリヌクレオチドを意味する。
【0046】
本発明に関連して、さらに驚くべきことに、DNA分子の一方または両方の鎖への特定の配列の付加および/または伸長が必要な任意の適用に、分解性ポリヌクレオチド(「ヘルパーオリゴ」ともいう)を使用できることが見出された。分解性ポリヌクレオチドの使用は、ライゲーション反応またはテイルを有するPCRプライマーの使用の代替であり、分解性ポリヌクレオチドがハイブリダイズする元の正確な配列が増幅および検出されるという利点を有する。
【0047】
従って、さらに別の好ましい態様において、本発明の方法は、第二のポリヌクレオチドが分解性ポリヌクレオチドであることを特徴とする。
【0048】
第二のポリオヌクレオチドは、酵素ウラシル-DNA-グリコシラーゼ(UNG)により特異的に消化され得るように設計された分解性ポリヌクレオチドである。酵素ウラシル-DNA-グリコシラーゼ(UNG)は、ウラシルと糖の間のN-グリコシル結合の加水分解を触媒し、ウラシル含有一本鎖DNAまたは二本鎖DNA中にアピリミジン部位を残す。従って、酵素ウラシル-DNA-グリコシラーゼ(UNG)により消化可能であるためには、本発明の分解性ポリヌクレオチドは、デオキシウラシル(dU)ヌクレオチド残基を含むはずである。
【0049】
PCRの夾雑物の繰越し汚染の予防に関連して、ウラシル-DNA-グリコシラーゼの存在下での酵素消化物を含むポリヌクレオチドへのdUヌクレオチド残基の組み込みは、当業者にとって周知の事実であり、例えば米国特許第5,035,996号、同5,683,896号および同5,945,313号に記載されている。
【0050】
本発明に関連して、第二のポリヌクレオチドは、dUヌクレオチド残基を含み、従って、工程e)の後、ウラシル-DNA-グリコシラーゼ(UNG)の酵素反応により消化される。これは、第二のポリヌクレオチドが、その後の増幅反応を阻害しないという利点を有する。
【0051】
特に、熱不安定性ウラシル-DNA-グリコシラーゼ(UNG)を用いた処理によるポリヌクレオチド(つまり「ヘルパーオリゴ」)の分解は、PCR反応の一部であり得る(例えば、UNGがPCR酵素混合物に含まれる場合)。その後のPCRがdUTPを含む場合、使用するUNGは熱不安定性である必要がある。
【0052】
好ましくは、分解性ポリヌクレオチドの5'部分は、第二のプライマー結合部位の配列を含み、3'部分は標的RNA分子の5'部分の特異的配列を含む。例えば、分解性ポリヌクレオチドのこの配列特異的部分は、標的RNA分子の成熟形態のみもしくは前駆体形態のみまたは両方の形態に適合するように設計され得る。代替的に、本発明の分解性ポリヌクレオチドはまた、RNAヌクレオチドから構成され得る。
【0053】
さらに好ましい態様において、本発明の方法は、第二のポリヌクレオチドが3'末端リン酸の形態のブロックされた3'末端を有することを特徴とする。
【0054】
先に詳述されるように、3'末端リン酸基は、ポリヌクレオチドの任意の酵素的伸長、つまりポリメラーゼ連鎖反応の過程のさらなるヌクレオチドの付加を効率的にブロックする。第二のポリヌクレオチドのブロックされた3'末端は、当業者に公知の任意の他の適切な修飾によっても得られ得る。ブロックされた3'末端の態様は、本発明の方法に関連して特に有利である。
【0055】
好ましい態様において、本発明の方法は、工程f)の検出部分がインターカレーティング色素であることを特徴とする。
【0056】
用語「インターカレーティング色素」は、本明細書において使用されるように、一般的に、二本鎖DNAに結合する任意の色素を意味する。特に、本発明のインターカレーティング色素は、二本鎖DNAに結合するが、単鎖DNAには結合せず、二本鎖DNAに結合すると蛍光を増大させる色素であり、その例としては、例えば、SybrGreen(登録商標)(Invitrogen、USA)などの市販の色素が挙げられる。本発明によるインターカレーティング色素は、PCRにおいてすべての二本鎖DNAに結合し、色素の蛍光をもたらす。したがって、PCR中のDNA産物の増加は蛍光強度の増大をもたらし、各サイクルで測定され、したがってDNA濃度の定量が可能になる。しかしながら、SybrGreen(登録商標)などのdsDNA色素は、例えば「プライマー二量体」などの非特異的PCR産物も含むすべてのdsDNA PCR産物に結合する。これは、潜在的に、意図する標的配列の正確な定量が障害または妨害され得る。一般に、PCR反応物は、蛍光インターカレーティング色素の添加を伴って通常通りに調製される。反応はサーモサイクラー内で実施され、各サイクル後に、検出器により蛍光レベルが測定され、色素は、dsDNA(すなわち、PCR産物)に結合した場合にのみ蛍光を発する。標準希釈物に関して、PCRにおけるdsDNA濃度が測定され得る。他のリアルタイムPCR法と同様、得られた値は、そのままでは該濃度(すなわち、mRNAコピー/細胞)に関連する絶対単位を有しない。測定されたDNA/RNA試料と標準希釈物との比較によってのみ、標準に対する試料の割合または比が得られ、異なる組織間または実験条件間の相対比較のみが可能になる。定量の精度を確保するため、通常、標的遺伝子の発現を安定に発現される遺伝子に対して標準化することが必要である。これにより、実験試料間に生じ得るRNAの量または品質の差が補正され得る。
【0057】
別の好ましい態様において、本発明の方法は、工程f)の検出部分が加水分解プローブであることを特徴とする。
【0058】
用語「加水分解プローブ」は、本明細書において使用されるように、一般的に、酵素的に加水分解され得るオリゴヌクレオチドをいう。特に、本発明の状況において、「加水分解プローブ」は、PCR反応中、Taq DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によって加水分解され得るオリゴヌクレオチドをいう。より好ましくは、本発明の「加水分解プローブ」は、TaqMan(登録商標)プローブ、すなわち、フルオロフォアとクエンチャー部分の両方を有し、フルオロフォアとクエンチャー部分が、フルオロフォア(すなわち、蛍光レポーターまたは蛍光標識)がクエンチャーに近接すると、レポーターが蛍光を発することが妨げられるようにオリゴヌクレオチドに結合されている配列特異的オリゴヌクレオチドを意味する。定量的リアルタイムPCR分析におけるTaqMan(登録商標)プローブの使用は、例えば、実施例1に例示される当業者に知られた周知の手順である。一般に、TaqMan(登録商標)プローブは、フルオロフォアがオリゴヌクレオチドプローブの5’末端またはその付近に結合され、クエンチャーが3’末端またはその付近に位置するように(as such that)設計される。ポリヌクレオチド連鎖反応(PCR)のアニーリング/伸長期が組み合わされた期間(combined annealing/extension phase)の間、プローブはTaq DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によって切断され、それにより、フルオロフォアとクエンチャー部分が分離し、蛍光レポーターが蛍光シグナルを発することができるという結果になり、次いで、これが測定され得る。検出可能な蛍光は蓄積されたPCR産物の量に比例する。
【0059】
本発明の状況において、加水分解プローブに結合されたフルオロフォア(すなわち、蛍光レポーターまたは蛍光標識)は、限定されないが、カルボキシフルオレセイン(FAM)、6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ2’7’-ジメトキシフルオレセイン(JOE)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラクロロフルオレセイン(TET)、もしくは5'-ヘキサクロロ-フルオレセイン-CE ホスホロアミダイト(HEX)などのフルオレセイン色素;例えば、カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、テキサスレッドおよびテトラメチルローダミン(TAMRA)などのローダミン色素、ピリリウムシアニン(pyrylium cyanine)色素、DY548、Quasar 570などのシアニン色素、またはCy3、Cy5、Alexa 568などの色素などの群から選択され得る。蛍光標識の選択は、典型的には、そのスペクトル特性および画像化のための装置の入手可能性によって決定される。定量的アッセイにおける蛍光標識の使用は当業者に周知の標準的な手順であり、フルオロフォアは例えば、Invitrogen(登録商標)、USAなどのいくつかの供給業者から市販されている。
【0060】
クエンチャーは、一般的に、ドナー分子(すなわち、蛍光レポーター)から転移されたエネルギーを吸収する分子をいう。すなわち、ドナー分子はエネルギーをクエンチャーに転移し、ドナーは基底状態に戻り、クエンチャーの励起状態をもたらす。また、蛍光消光は、ドナー分子とアクセプター分子間の距離に依存する。ここ数年まで、クエンチャーは典型的には、蛍光色素、例えば、レポーターとしてフルオレセインおよびクエンチャー(FAM/TAMRAプローブ)としてローダミンであった。最もよく知られたクエンチャーの1つは、レポーター色素の放出を低下させるために使用されるTAMRA(テトラメチル-ローダミン)である。その特性のため、TAMRAは、FAM(カルボキシフルオレセイン)、HEX(ヘキサクロロフルオレセイン)、TET(テトラクロロ-フルオレセイン)、JOE(5'-ジクロロ-ジメトキシ-フルオレセイン)およびCy3-色素(シアニン)のクエンチャーとして適当である。あるいは、本発明による「クエンチャー」は、一般的に多重化(multiplexing)を可能にする非蛍光(いわゆる暗)クエンチャーであり得る。本発明の状況において適用可能であり得る暗クエンチャーとしては、限定されないが、例えば、380〜530nmの範囲の色素を消光するDABCYL(4-[[4-(ジメチルアミノ)-フェニル]-アゾ]-安息香酸)、530nmに最大吸収を有し、520〜670nmにわたるスペクトルを効率的に消光するEclipse(登録商標)Quencher(4-[[2-クロロ-4-ニトロ-フェニル]-アゾ]-アニリン、Epoch Biosciences,Inc.,Corporation Delaware 21720、23rd Drive NE、Suite 150、Bothell Washington 98021、USAの商標)または可視スペクトル全域において消光することができるBHQ-1([(4-(2-ニトロ-4-メチル-フェニル)-アゾ)-イル-((2-メトキシ-5-メチル-フェニル)-アゾ)]-アニリン)およびBHQ-2([(4-(1-ニトロ-フェニル)-アゾ)-イル-((2,5-ジメトキシ-フェニル)-アゾ)]-アニリン)(すべて、Biosearch Technologies,Inc. から入手可能)などのブラックホールクエンチャー(Black Hole Quenchers)などの剤が挙げられる。これらの非蛍光アクセプターは、しばしば、バックグラウンド蛍光およびこのようにして感度を減少させるために、蛍光アクセプターの代替品として適用される。
【0061】
本発明の状況において、加水分解プローブは増幅産物の有無を検出するために使用される。上記に詳述したように、この技術では、1つの蛍光部分と1つの消光部分で標識された単鎖ハイブリダイゼーションプローブを使用する。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)のアニーリング工程中、標識加水分解プローブは標的DNA(すなわち、増幅産物)に結合し、続く伸長期中、Taqポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によって分解される。その結果、励起された蛍光部分と消光部分は互いに空間的に離れる。結果として、クエンチャーが近接していない場合にフルオロフォアが励起されると、蛍光放出が検出され得る。一例として、ABI(登録商標)PRISM 7700 Sequence Detection System(Applied Biotechnology Institute,Inc. Corporation Iowa、Building 36、Cal Poly State University San Luis Obispo、California 93407、USAの商標)に加水分解プローブ技術が使用される。ABI(登録商標)PRISM 7700システムを用いたPCR増幅および検出に関する情報は、http://www.appliedbiosystems.com/productsで見い出すことができる。
【0062】
本発明による加水分解プローブならびに本発明の方法におけるその使用は、例えば、それぞれ実施例1および2に記載されている。
【0063】
本発明の方法は、さらに、1つの反応設定条件において1種類より多くのRNA分子を検出するために成功裡に適用された。すなわち、好ましい態様において、本発明の方法は、少なくとも2つの異なるRNA分子が並行して検出されるように(as such that)適用される。この設定条件において、RNA分子は、異なる長さのもの、または異なる実体のもの、または両方のもののいずれかであり得る。しかしながら、1つの反応おける少なくとも2種類のRNA分子の並行検出のための必須条件として、伸長反応生成物の増幅は、インターカレーティング色素でない検出部分の存在下で行なわれるべきである。好ましくは、1つの反応において少なくとも2種類の異なるRNA分子を検出するため、工程f)の対応する伸長反応生成物の増幅は、配列特異的加水分解プローブの存在下で行なわれるべきである。
【0064】
したがって、好ましい態様において、本発明の方法は、少なくとも2種類の異なる伸長反応生成物が工程f)において増幅されることを特徴とする。
【0065】
上記に詳述したように、用語「伸長反応生成物」は、本方法の工程e)で生成される分子をいう。すなわち、「伸長反応生成物」は、工程f)での増幅のための鋳型としての機能を果たすRNA分子の配列に対応する分子である。
【0066】
より好ましくは、本発明の方法は、工程f)の増幅が少なくとも2種類の加水分解プローブの存在下で行なわれ、前記加水分解プローブの少なくとも一方はRNA分子の特定の種に特異的であり、該プローブが異なる組のドナー/アクセプター部分を含むことを特徴とする。
【0067】
上記に詳述したように、各加水分解プローブは、蛍光レポーターまたは蛍光標識としての機能を果たすフルオロフォアで標識される。したがって、本発明の状況において、前記フルオロフォア/蛍光レポーター/蛍光標識は、「ドナー部分」であると理解されている。さらに、各加水分解プローブは、さらにクエンチャーで標識される。このクエンチャーは、これもフルオロフォアであってもよく、一般的に、本発明の状況において「アクセプター部分」であると理解されている。
【0068】
適当なドナーおよびアクセプター部分は当該技術分野で公知であり、当業者は、ドナーおよび対応するアクセプター分子の適当な組合せを選択することができる。ドナーおよび対応するアクセプター蛍光部分に関して本明細書において使用される場合、「対応する」は、ドナー蛍光部分の励起スペクトルと重複する放出スペクトルを有するアクセプター蛍光部分をいう。しかしながら、両方のシグナルは、互いに分離可能であるべきである。したがって、アクセプター蛍光部分の放出スペクトルの最大波長は、ドナー蛍光部分の励起スペクトルの最大波長よりも好ましくは少なくとも30nm、より好ましくは、少なくとも80nm、少なくとも100nmまたは少なくとも140nmのように少なくとも50nm大きいべきである。
【0069】
本発明による好ましいドナー蛍光部分は蛍光標識であり、限定されないが、例えば、フルオレセイン色素、ローダミン色素、シアニン色素、およびクマリン色素などの蛍光色素が挙げられる。例えば、ドナー蛍光部分はフルオレセインであり得るがアクセプター蛍光部分は、LC-Red 610、LC-Red 640、LC-Red 670、LC-Red 705、Cy5、およびCy5.5からなる群より選択され得、好ましくはLC-Red 610またはLC-Red 640である。より好ましくは、ドナー蛍光部分はフルオレセインであり、アクセプター蛍光部分はLC-Red 640またはLC-Red 610である。ドナーおよびアクセプター蛍光部分は、リンカーによって適切な加水分解プローブに結合され得る。リンカーは、ドナー部分とアクセプター蛍光部分間の距離に影響を及ぼすため、各リンカーの長さは重要であり得る。本発明の目的のためのリンカーアームの長さはヌクレオチド塩基から蛍光部分までのオングストロームの単位の距離である。
【0070】
あるいは、アクセプター部分はクエンチャー、好ましくは暗クエンチャーであり得る。
【0071】
本発明の状況において、ドナー蛍光部分としてカルボキシフルオレセイン(FAM)と、アクセプター部分としてBHQ-2([(4-(1-ニトロ-フェニル)-アゾ)-イル-((2,5-ジメトキシ-フェニル)-アゾ)]-アニリン)の組合せが、本方法における使用のために特に適当であることがわかった。同じことが、ドナー蛍光部分として5'-ヘキサクロロ-フルオレセイン-CE-ホスホロアミダイト(HEX)と、アクセプター部分(すなわち、暗クエンチャー)としてBHQ-2([(4-(1-ニトロ-フェニル)-アゾ)-イル-((2,5-ジメトキシ-フェニル)-アゾ)]-アニリン)の組合せにあてはまる。
【0072】
したがって、ドナー/アクセプター部分の好ましい組合せは、カルボキシフルオレセイン(FAM)とBHQ-2([(4-(1-ニトロ-フェニル)-アゾ)-イル-((2,5-ジメトキシ-フェニル)-アゾ)]-アニリン)、および5'-ヘキサクロロ-フルオレセイン-CE ホスホロアミダイト(HEX)とBHQ-2([(4-(1-ニトロ-フェニル)-アゾ)-イル-((2,5-ジメトキシ-フェニル)-アゾ)]-アニリン)である。
【0073】
本発明の状況において、さらに、異なるドナー/アクセプター部分で標識された加水分解プローブを使用した場合、同じ種に由来する異なる長さのRNA分子が1つの反応で検出され得ることがわかった。
【0074】
すなわち、本発明の方法は、1つの前駆体分子に由来する2つの異なる種のRNA分子を検出するために適用され得る。その場合、本発明の方法は、両方の種のRNA分子を1つの独立した反応において二重発色検出および定量によって検出および増幅するために適用され得る。この状況の例としては、限定されないが、前駆体miRNA(プレ-miRNA)に対する成熟miRNA(miRNA)の検出が挙げられる。特に、ここで、成熟プローブも前駆体内の成熟配列に結合するため、ポリヌクレオチドおよび/またはプライマーの設計により、成熟チャネルにおいて成熟+前駆体シグナルの検出がもたらされる。前駆体チャネルは前駆体シグナルのみを検出する。
【0075】
当業者にとって、第一および第二のポリヌクレオチドの設計が異なると、成熟miRNAおよび前駆体miRNAの検出の識別の可能性に対して影響を及ぼすことは明らかである。第一および第二のポリヌクレオチドが、異なるmiRNA形態、すなわち、成熟miRNAおよび前駆体miRNAについて同じである場合、第一のプローブは、前駆体および成熟miRNAを検出するように設計され得るが、第二のプローブは、前駆体形態のみを検出するように設計され得る。異なる長さを有し、1つの前駆体分子に由来する2つのRNA分子の検出は、例えば図5に例示される。あるいは、前駆体特異的第一のポリヌクレオチドと成熟miRNA特異的オリゴヌクレオチドが設計され得る。次いで、第一のプローブは、成熟miRNAを検出するように設計され得、第二のプローブは、前駆体形態のみ検出するように設計され得る。
【0076】
したがって、好ましい態様において、特定の種のRNA分子は、1つの前駆体分子に由来し、好ましくはRNA分子は異なる長さ(lenghts)を有する。
【0077】
本発明の状況において、第一および第二のポリヌクレオチドの設計によって、両方の形態(例えば、成熟および前駆体miRNA)が検出されるか、または一方だけの形態のRNA種が検出されるかが決定されることがわかった。すなわち、前駆体形態の標的miRNAもまた、この標的miRNAのより小さいアンプリコン(例えば、成熟形態と同じサイズ)を生成させる内部(internal)PCRプライマーによって増幅および検出され得る。この場合、加水分解プローブは、第一および第二のポリヌクレオチド間に適合するように設計されなければならない。すると、前駆体形態は、もはや両方のチャネルでは検出されなくなり、前駆体チャネルのみで検出されるようになる。したがって、成熟および前駆体の定量が別々になる。この場合、分解性ポリヌクレオチドによる前駆体形態の伸長は必要とされない。代わりに、miRNA前駆体の増幅には、前駆体特異的第一のポリヌクレオチドおよび第二の前駆体特異的ポリヌクレオチドが使用される。
【0078】
したがって、別の好ましい態様において、本発明の方法は、異なる種のRNA分子間の比が、異なる増幅産物の検出によって、好ましくは、識別可能な蛍光読出しによる異なる増幅産物の検出によって測定されることを特徴とする。
【0079】
当業者にとって、異なる増幅産物の検出が、識別可能な蛍光シグナルをもたらし得る異なるドナー/アクセプター部分を有する異なる加水分解プローブの使用を含むことは明らかである。異なる種のRNA分子間の比を測定するための典型的な反応は、異なる増幅産物の相対的定量を含む。相対的定量により、標的RNA分子と通常適当なハウスキーピング遺伝子である内因性参照分子の量の比が測定される。次いで、この標準化された値は、例えば、異なる試料中の識別的遺伝子発現を比較するために使用され得る。
【0080】
あるいは、相対的定量は、CT値の直接比較に依存する比較ΔΔCT法を適用することにより行なわれ得る。CT値は、閾値サイクルであり、増幅プロットが閾値と交差する、すなわち、蛍光の有意な検出可能な増加があるサイクルを意味する。一般的に、CTは、各試料中の出発鋳型の量の計算のためのツールとしての機能を果たす。ΔCT値は、標的遺伝子のCT値と対応する内因性参照遺伝子のCT値の差を示す。比較ΔΔCT法を適用する場合、標準曲線の作成には、最初の実験で標的および内因性参照遺伝子の増幅効率を測定することのみが必要とされる。相対的定量のための比較ΔΔCT法は、当該技術分野で公知の標準的な方法であり、例えば、LivakおよびSchmittgen、2001に詳細に記載されている。
【0081】
別の局面において、本発明は、本発明の状況において規定される第一および第二のポリヌクレオチド、1組のdNTP、逆転写酵素、および検出部分、好ましくは1種類以上の異なるRNA分子に特異的な1種類以上の加水分解プローブを含むキットを提供する。
【0082】
前記局面の好ましい態様において、キットは、さらに、(i)ウラシル-DNA-グリコシラーゼ(UNG)活性を有する酵素、および/または(ii)本発明の状況において規定される第一および/または第二のプライマーを含む。
【0083】
さらなる局面において、本発明は、RNA分子の検出のための、好ましくは、本発明の状況において規定される1種類以上のRNA分子の検出のための本発明によるキットの使用に関する。
【0084】
本発明の別の局面は、
a) RNA分子を含む試料を提供する工程;
b) 前記RNA分子に、第一のプライマー結合部位を含む第一のポリヌクレオチドをハイブリダイズさせる工程;
c) 該RNA分子の配列を逆転写することにより第一のポリヌクレオチドを伸長させ、第一鎖cDNAを生成させる工程;
d) 第二のポリヌクレオチドを第一鎖cDNAにハイブリダイズさせる工程、ここで、前記第二のポリヌクレオチドは、
(i) 第一鎖cDNAの一部に相補的な3’-部分、および
(ii) 第二のプライマー結合部位の配列を含む5’-突出部
を含む3’-非伸長性オリゴヌクレオチドであり;
e) 第一鎖cDNAを伸長させて、第二のプライマー結合部位に相補的な配列を含む伸長反応生成物を生成させる工程;
f) 検出部分の存在下、第一のプライマー結合部位に相補的な第一のプライマーおよび第二のプライマー結合部位に相補的な第二のプライマーを使用し、ポリメラーゼ連鎖反応によって伸長反応生成物を増幅する工程;ならびに
g) リアルタイム蛍光読出しによって増幅産物を検出する工程
を含む、RNA分子の検出方法である。
【0085】
上記の方法の特定の局面は、RNA分子が、15〜200ヌクレオチド、好ましくは20〜100ヌクレオチドの長さを有する;またはRNA分子が、成熟miRNA(miRNA)、前駆体miRNA(プレ-miRNA)、一次miRNA前駆体(pri-miRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、piRNA(piwi相互作用RNA)、前駆体piRNA、および低分子ヘアピンRNA(shRNA)からなる群より選択される;または工程a)のRNA分子が、好ましくは、ポリ(A)ポリメラーゼ、ターミナルトランスフェラーゼまたはリガーゼの酵素反応によって、より好ましくはポリAポリメラーゼの酵素反応によって3’末端でポリヌクレオチドテイルによって伸長されている;または第一のポリヌクレオチドが、該RNA分子の配列に相補的、ポリヌクレオチドテイルに相補的、または両方に相補的である;または第二のポリヌクレオチドが分解性ポリヌクレオチドである;または第二のポリヌクレオチドはdU-ヌクレオチド残基を含み、工程e)の後にウラシル-DNA-グリコシラーゼ(UNG)の酵素反応によって消化される;または第二のポリヌクレオチドが、3’末端リン酸の形態のブロックされた3’末端を有する;または工程f)の検出部分がインターカレーティング色素である;または工程f)の検出部分が加水分解プローブである;または少なくとも2種類の異なる伸長反応生成物が工程f)で増幅される;または工程f)の増幅が、少なくとも2種類の加水分解プローブの存在下で行なわれ、前記加水分解プローブのうち少なくとも1種類がRNA分子の特定種に特異的であり、該プローブが異なる組のドナー/アクセプター部分を含む;またはRNA分子の特定種が前駆体分子の1つに由来し、好ましくは異なる長さを有する;またはRNA分子の異なる種間の比率が、異なる増幅産物の検出によって、好ましくは識別可能な蛍光読出しによる異なる増幅産物の検出によって測定される、方法である。
【0086】
本発明の別の局面は、
-本発明で規定される第一のポリヌクレオチドおよび第二のポリヌクレオチド、
- 1組のdNTP、
- 逆転写酵素、および
- 検出部分、好ましくは1種類以上の異なるRNA分子に特異的な1種類以上の加水分解プローブ
を含むキットである。
【0087】
上記キットの特定の局面は、さらに、(i)ウラシル-DNA-グリコシラーゼ(UNG)活性を有する酵素、および/または(ii)本発明で規定される第一のプライマーおよび第二のプライマーを含むキットである。
【0088】
本発明の別の局面は、RNA分子の検出のため、好ましくは、上記に定義した1種類以上のRNA分子の検出のための上記のキットの使用である。
【0089】
以下の図面および実施例は本発明の種々の態様の例示を意図する。したがって、これらに記載された特定の変形は、本発明の範囲の限定ではないと理解されたい。当業者には、本発明の範囲を逸脱することなく、種々の均等物、変更物および変形物が作製され得ることが明らかであり、したがって、かかる均等な態様は本明細書に包含されることが理解されよう。
【実施例】
【0090】
実施例
実施例1
方法I
特異的RT-プライマー(第一のポリヌクレオチド)および第一鎖cDNA伸長用dU DNAヘルパーオリゴ(第二のポリヌクレオチド)を用いたmiRNAの検出
逆転写
1. miRNAおよびRT-プライマーの変性:miRNAおよび60nM(10μlのRT反応液中の終濃度)特異的RT-プライマーを含む4.5μlを65℃で10分間変性させ、次いで、直ちに4℃まで、または氷上で冷却する。
【0091】
2. 逆転写のための反応成分の添加:4.5μlの変性miRNA/RTプライマー+2μlの5×RTバッファー+0.25μlのRNaseインヒビター+1μlのdNTP混合物+0.25μlのRT酵素+2μlのPCR等級の水 = 10μlのRT反応液(Transcriptor First Strand cDNA Synthesis Kit、Roche、Germanyの添付文書参照)。
【0092】
3. 逆転写:55℃で5分間の逆転写、85℃で5分間のRT酵素の不活性化、4℃で冷却
【0093】
4. dU DNAポリヌクレオチドおよびさらなるRT酵素の添加:+1μlの60nM dU DNAオリゴ+0.5μlの1:4希釈RT酵素(Transcriptor First Strand cDNA Synthesis Kit、Roche、Germany)
【0094】
5. 第一鎖cDNAの伸長:55℃で5分間の逆転写、85℃で5分間のRT酵素の不活性化、4℃で冷却または-20℃で保存
【0095】
dU DNAポリヌクレオチド分解、増幅および検出
6. dU DNAポリヌクレオチドの分解および続くPCR反応:逆転写による1μlのcDNA+1×Taqman RNA AMP Kit RNA Mix+0.5μMのユニバーサルPCRプライマーA+0.5μMのユニバーサルPCRプライマーB+0.2μMのmi21matu-プローブ+2.8mM MgAc (20μlのPCR反応液)
【0096】
7. LC480 PCRサイクラー(Roche Diagnostics GmbH、Germany)でのPCRプログラム
反応容量:20μl;検出形式:二重発色(dual color)加水分解プローブ;
増幅サイクル:47回、95℃で15秒、60℃で25秒;冷却40℃で30分
【0097】

【0098】
実施例Ia:
逆転写用成熟特異的RT-プライマーおよびcDNA伸長用分解性dU DNAオリゴ
を用いた合成オリゴとしての50fgの成熟miR-21の検出。結果を図3に示す。結論:合成ポリヌクレオチドとしての成熟miR-21は、逆転写用成熟特異的RT-プライマーおよびcDNA伸長用分解性dU DNAオリゴを用いて検出され得る。
【0099】
実施例Ib:
逆転写用成熟特異的RT-プライマーおよびcDNA伸長用分解性dU DNAオリゴを用いてK562細胞株から単離されたmiRNAにおける成熟miR-21の検出。結論:K562細胞株由来のmiRNAにおける成熟miR-21は、逆転写用成熟特異的RT-プライマーおよびcDNA伸長用分解性dU-DNAオリゴを用いて検出され得る。
【0100】
実施例Ic:
逆転写用成熟特異的RT-プライマーおよびcDNA伸長用分解性dU DNAオリゴを用いて肺癌/正常組織FFPET物質から単離されたmiRNAにおける成熟miR-21の検出。結果を図4に示す。結論:肺癌/正常組織FFPET物質から単離されたmiRNAにおける成熟miR-21は、逆転写用成熟特異的RT-プライマーおよびcDNA伸長用分解性dU DNAオリゴを用いて検出され得る。
【0101】
実施例Id:
逆転写用前駆体特異的RT-プライマーおよびcDNA伸長用分解性dU DNAオリゴを用いた前駆体miR-21(投入物質:合成オリゴリボヌクレオチド)の検出。結論:合成オリゴリボヌクレオチドの形態で提供される前駆体miR-21は、逆転写用前駆体特異的RT-プライマーおよびcDNA伸長用分解性dU DNAオリゴを用いて検出され得る。
【0102】
実施例Ie:
逆転写用成熟および前駆体特異的RT-プライマーならびにcDNA伸長用分解性dU DNAオリゴを用いた成熟および前駆体miR-21(投入物質:合成オリゴヌクレオチド)の同時検出。結果を図5に示す。結論:成熟および前駆体miR-21は、逆転写における成熟および前駆体特異的RT-プライマーならびにcDNA伸長用分解性dU DNAオリゴを用いて同じ反応液において検出され得る。成熟miR-21のバックグラウンドにおける前駆体の検出はなお、1%前駆体まで可能である。
【0103】
実施例2
方法II
第一鎖cDNA伸長用(アンカー)オリゴ-dT RT-プライマー(第一のポリヌクレオチド)およびdU DNAヘルパーオリゴ(第二のポリヌクレオチド)を用いたmiRNAの検出
ポリAテイル付加およびmiRNA単離
1. PolyAテイル付加:添付文書Poly(A)Tailing Kit(Ambion Inc.,Austin、TX、USA)に従う
【0104】
2. ポリアデニル化miRNAの単離:添付文書High Pure miRNA Isolation Kit(Roche Diagnostics GmbH、Germany)の小分子RNAを含む全RNAの単離のための1-カラムプロトコルに従う。唯一の変更:等量のバッファーBBとBEを、細胞/組織溶解物を用いた単離に推奨されるようにして使用した。
【0105】
逆転写
3. miRNAおよびRT-プライマーの変性:miRNAおよび200nM(10μlのRT 反応容量中終濃度)のアンカーオリゴ-dT RT-プライマーを含む4.5μlを65℃で10分間変性させ、次いで、直ちに4℃まで、または氷上で冷却する。
【0106】
4. 逆転写用の反応成分の添加:4.5μlの変性miRNA/RTプライマー+2μlの5×RTバッファー+0.25μlのRNaseインヒビター+1μlのdNTP混合物+0.25μlのRT酵素+2μlのPCR等級の水 = 10μlのRT反応液(添付文書Transcriptor First Strand cDNA Synthesis Kit、Roche Diagnostics GmbH、Germany)
【0107】
5. 第一鎖DNAの逆転写および伸長:55℃で5分間の逆転写;85℃で5分間のRT酵素の不活性化;55℃で12分間の逆転写、55℃に達した直後、+1μlの100nM dU DNAオリゴ+0.5μlの1:4希釈RT酵素(Transcriptor First Strand cDNA Synthesis Kit、Roche)の添加;85℃で5分間のRT酵素の不活性化;4℃で冷却または-20℃で保存
【0108】
dU DNAオリゴ分解、増幅および検出
6. dU DNAオリゴ分解および続くPCR反応:逆転写による1μlのcDNA+1×Taqman RNA AMP Kit RNA Mix+0.5μMのユニバーサルPCRプライマーA+0.5μMのユニバーサルPCRプライマーB+0.2μMのmi21matu-プローブ+2.8mM MgAc (20μlのPCR反応液)
【0109】
7. LC480 PCRサイクラー(Roche Diagnostics GmbH、Germany)でのPCRプログラム
反応容量:20μl;検出形式:二重発色加水分解プローブ;増幅サイクル:47回、95℃で15秒、60℃で25秒;冷却40℃で30分間
【0110】

【0111】
実施例IIa:
逆転写用(成熟アンカー)オリゴ-dT RT-プライマーおよびcDNA伸長用分解性dU DNAオリゴを用いた合成オリゴとしての5ngの成熟miR-21 の検出。結論:合成オリゴとしての成熟miR-21は、逆転写における(成熟アンカー)オリゴ-dT RT-プライマーおよびcDNA伸長用分解性dU DNAオリゴを用いて検出され得る。陰性対照はいくらかの二量体形成を示すが、これはmiRNA検出に影響を及ぼさない(miRNA曲線が二量体曲線よりも早く現れる限り)。
【0112】
実施例IIb:
逆転写用(成熟アンカー)オリゴ-dT RT-プライマーおよびcDNA伸長用分解性dU DNAオリゴを用いたK562細胞株から単離されたmiRNAにおける成熟miR-21の検出。結論:K562細胞株由来のmiRNAにおける成熟miR-21は、逆転写における(成熟アンカー)オリゴ-dT RT-プライマーおよびcDNA伸長用分解性dU DNAオリゴを用いて検出され得る。陰性対照はいくらかの二量体形成を示すが、これはmiRNA検出に影響を及ぼさない(miRNA曲線が二量体曲線よりも早く現れる限り)。
【0113】
実施例IIc:
逆転写用(成熟アンカー)オリゴ-dT RT-プライマーおよびcDNA伸長用分解性dU DNAオリゴを用いた結腸癌FFPET物質から単離されたmiRNAにおける成熟miR-21の検出。結論:結腸癌FFPET物質から単離されたmiRNAにおける成熟miR-21は、逆転写における(成熟アンカー)オリゴ-dT RT-プライマーおよびcDNA伸長用分解性dU DNAオリゴを用いて検出され得る。陰性対照はいくらかの二量体形成を示すが、これはmiRNA検出に影響を及ぼさない(miRNA曲線が二量体曲線よりも早く現れる限り)。
【0114】
実施例IId:
逆転写用(前駆体アンカー)オリゴ-dT RT-プライマーおよびcDNA伸長用分解性dU DNAオリゴを用いた合成オリゴとしての前駆体miR-21の検出。結論:合成オリゴとしての前駆体miR-21は、逆転写における(前駆体アンカー)オリゴ-dT RT-プライマーおよびcDNA伸長用分解性dU DNAオリゴを用いて検出され得る。成熟チャネルにおける陰性対照はいくらかの二量体形成を示すが、これはmiRNA検出に影響を及ぼさない(miRNA曲線が二量体曲線よりも早く現れる限り)。
【0115】
実施例IIe:
逆転写用(成熟および前駆体アンカー)オリゴ-dT RT-プライマーおよびcDNA伸長用分解性dU DNAオリゴを用いた成熟および前駆体miR-21(合成オリゴとして)の同時検出。結論:成熟および前駆体miR-21(合成オリゴとして)は、逆転写における(成熟および前駆体アンカー)オリゴ-dT RT-プライマーおよびcDNA伸長用分解性dU DNAオリゴを用いて同じ反応液において検出され得る。成熟チャネルにおける陰性対照はいくらかの二量体形成を示すが、これはmiRNA検出に影響を及ぼさない(miRNA曲線が二量体曲線よりも早く現れる限り)。
【0116】
参考文献


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) RNA分子を含む試料を提供する工程;
b) 前記RNA分子に、第一のプライマー結合部位を含む第一のポリヌクレオチドをハイブリダイズさせる工程;
c) 該RNA分子の配列を逆転写することにより第一のポリヌクレオチドを伸長させ、第一鎖cDNAを生成させる工程;
d) 第二のポリヌクレオチドを第一鎖cDNAにハイブリダイズさせる工程、ここで、前記第二のポリヌクレオチドは、
(i) 第一鎖cDNAの一部に相補的な3’-部分、および
(ii) 第二のプライマー結合部位の配列を含む5’-突出部;
を含む3’-非伸長性オリゴヌクレオチドであり、少なくとも1つまたはいくつかのdUヌクレオチド残基を含む、
e) dUTPの非存在下で第一鎖cDNAを伸長させて、第二のプライマー結合部位に相補的な配列を含む伸長反応生成物を生成させる工程;および、好ましくは熱不安定性ウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)の酵素反応によって前記第二のポリヌクレオチドを消化する工程
f) 検出部分の存在下、第一のプライマー結合部位に相補的な第一のプライマーおよび第二のプライマー結合部位に相補的な第二のプライマーを使用し、ポリメラーゼ連鎖反応によって伸長反応生成物を増幅する工程;ならびに
g) リアルタイム蛍光読出しによって増幅産物を検出する工程
を含む、RNA分子の検出方法。
【請求項2】
前記RNA分子が、15〜200ヌクレオチド、好ましくは20〜100ヌクレオチドの長さを有することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記RNA分子が、成熟miRNA(miRNA)、前駆体miRNA(pre-miRNA)、一次miRNA前駆体(pri-miRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、piRNA(piwi相互作用RNA)、前駆体piRNA、および低分子ヘアピンRNA(shRNA)からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
工程a)のRNA分子が、好ましくは、ポリ(A)ポリメラーゼ、ターミナルトランスフェラーゼまたはリガーゼの酵素反応によって、より好ましくはポリAポリメラーゼの酵素反応によって3’末端でポリヌクレオチドテイルによって伸長されていることを特徴とする、請求項1〜3いずれか記載の方法。
【請求項5】
第一のポリヌクレオチドが、該RNA分子の配列に相補的、ポリヌクレオチドテイルに相補的、または両方に相補的であることを特徴とする、請求項1〜4いずれか記載の方法。
【請求項6】
第二のポリヌクレオチドが、3’末端リン酸の形態のブロックされた3’末端を有することを特徴とする、請求項1〜5いずれか記載の方法。
【請求項7】
工程f)の検出部分がインターカレーティング色素であることを特徴とする、請求項1〜6いずれか記載の方法。
【請求項8】
工程f)の検出部分が加水分解プローブであることを特徴とする、請求項1〜7いずれか記載の方法。
【請求項9】
少なくとも2種類の異なる伸長反応生成物が工程f)で増幅されることを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
工程f)の増幅が、少なくとも2種類の加水分解プローブの存在下で行なわれ、前記加水分解プローブのうち少なくとも1種類がRNA分子の特定種に特異的であり、該プローブが異なる組のドナー/アクセプター部分を含むことを特徴とする、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記RNA分子の特定種が前駆体分子の1つに由来し、好ましくは異なる長さ(lenghts)を有することを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項12】
RNA分子の異なる種間の比率が、異なる増幅産物の検出によって、好ましくは識別可能な蛍光読出しによる異なる増幅産物の検出によって測定されることを特徴とする、請求項9〜11いずれか記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12いずれかに規定される第一および第二のポリヌクレオチド、
dNTPのセット、
逆転写酵素、ならびに
検出部分、好ましくは1種類以上の異なるRNA分子に特異的な1種類以上の加水分解プローブ、
ウラシル-DNA-グリコシラーゼ(UNG)活性を有する酵素、ならびに
任意に、請求項1〜12いずれかに規定される第一および/または第二のプライマー
を含むキット。
【請求項14】
RNA分子の検出のため、好ましくは請求項2または3に規定される1種類以上のRNA分子の検出のための、請求項13記載のキットの使用。



【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−125337(P2011−125337A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−280527(P2010−280527)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】