説明

RNA干渉による遺伝子発現抑制のためのターゲット遺伝子としてのcar遺伝子の使用

【課題】CARの発現を簡便且つ迅速に抑制する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、RNA干渉による遺伝子発現抑制のためのターゲット遺伝子としてのcar遺伝子の使用に関する。また、car遺伝子の使用は、RNA干渉による遺伝子発現抑制下における化合物投与系でのターゲット遺伝子の発現抑制レベルを指標とする当該化合物の毒性評価のためのターゲット遺伝子としての使用、及びRNA干渉による遺伝子発現抑制下における化合物投与系でのターゲット遺伝子関連薬物代謝酵素の発現亢進レベルを指標とする当該化合物の毒性評価のためのターゲット遺伝子としての使用等に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物代謝酵素の転写調節に働く核内受容体CARを短鎖干渉RNA(siRNA)を使用して抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
CAR(Constitutive Active/Androstane Receptor)は、核内受容体(nuclear receptor)ファミリーに属する転写因子であり、生体内での薬物濃度増加に対する生体防御機構としての役割を有する。一般的に、CARは薬物の投与に対して例えば肝臓のような臓器における薬物代謝酵素の発現を誘導し、当該薬物の代謝を早めて生体を防御すると考えられている(非特許文献1)。
一方、CARのこの様な防御機構は深刻な副作用を誘発することがマウスにおいて報告されている。例えば、長期間のフェノバルビタール投与によって、肝臓における薬物代謝酵素の発現量の上昇とともに、DNAの複製頻度の上昇及び癌抑制遺伝子であるp53を介したアポトーシスの減少が見られる結果、肝臓の腫瘍化が誘発される。この腫瘍化メカニズムはCARを介して機能している事が示されている(非特許文献2)。これまで、マウス等の動物においてCAR関連薬物代謝酵素の発現亢進による腫瘍化とフェノバルビタールのような化合物との毒性との関連を調べる場合、CARのノックアウトマウス等のノックアウト動物が用いられてきた(非特許文献2)。
【0003】
【非特許文献1】Swales and Negishi 2004 Mol Endo 18(7) 1589-1598
【非特許文献2】Yamamoto et al 2004 Cancer Res 64 7197-7200
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記CARのノックアウト動物の作成は、例えばマウスでは通常2年程度かかり迅速性に欠ける。また、ホモ欠損体はへテロ欠損体の両親から1/4の確立で生まれるため、化合物の発癌性試験等のホモ欠損体を多数使用する実験では、実験動物の入手に大変な労力を要する。更に、ラット等の動物ではノックアウト動物を作成すること自体が必ずしも容易でない場合があった。
これらの状況から、各動物種での培養細胞から動物レベルに至る広範囲の実験系において、CARの発現を簡便且つ迅速に抑制する方法の開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、かかる状況のもと鋭意検討した結果、car遺伝子をRNA干渉による遺伝子発現抑制のためのターゲット遺伝子として使用し得ることを見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち本発明は、
1.RNA干渉による遺伝子発現抑制のためのターゲット遺伝子としてのcar遺伝子の使用;
2.前記car遺伝子の使用が、RNA干渉による遺伝子発現抑制下における化合物投与系でのターゲット遺伝子の発現抑制レベルを指標とする当該化合物の毒性評価のためのターゲット遺伝子としての使用である請求項1記載のcar遺伝子の使用;
3.前記car遺伝子の使用が、RNA干渉による遺伝子発現抑制下における化合物投与系でのターゲット遺伝子関連薬物代謝酵素の発現亢進レベルを指標とする当該化合物の毒性評価のためのターゲット遺伝子としての使用である請求項1記載のcar遺伝子の使用;
4.前記car遺伝子の使用が、RNA干渉による遺伝子発現抑制下における化合物投与系でのターゲット遺伝子の発現抑制若しくは当該遺伝子関連薬物代謝酵素の発現亢進に基づく表現形レベルを指標とする当該化合物の毒性評価のためのターゲット遺伝子としての使用である請求項1記載のcar遺伝子の使用;
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、CAR遺伝子の発現を簡便且つ迅速に抑制する方法等が提供可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、RNA干渉による遺伝子発現抑制のためのターゲット遺伝子としてのCAR遺伝子の使用について説明する。
一般的に、RNA干渉におけるターゲット遺伝子の特異的抑制は、二重らせんの少なくとも第一鎖の末端におよそ二つのヌクレオチドのオーバーハングを有する短い二本鎖オリゴリボヌクレオチド(以下dsオリゴリボヌクレオチドと称することもある)を当該ターゲット遺伝子に作用させることにより行われる。このようなdsオリゴリボヌクレオチドは、短鎖干渉RNA(siRNA)として知られている。このsiRNAは、CAR遺伝子をターゲット遺伝子とする場合には当該CAR遺伝子の塩基配列の部分配列とマッチする塩基配列を有する。なお、当該siRNAは、肝臓での送達を効率良くするために、コレステロール等の修飾がなされたものが好ましく、更に、保存安定性を高める為、sense鎖又はantisense鎖に2'-O-メチル又は2'-デオキシ等の化学修飾がされたものがより好ましい。
【0009】
培養細胞(ここで培養細胞とは、株化された細胞若しくは例えば哺乳動物等から採取された初代培養細胞も含む。)内へCARに対するsiRNAを送達する場合、好ましい送達方法として、塩化カルシウム法、リポフェクション法並びにエレクトロポレーション法等を用いたフォワード及びリバーストランスフェクション法が挙げられる。より好ましくは、リポフェクション法であるが、導入する培養細胞の種類によって、最適な送達方法を選択するのが好ましい。
一方、生体内の細胞へCARに対するsiRNAを送達する方法として、対象動物への種々な投与方法が挙げられるが、好ましい投与方法として、経口投与、経皮投与、皮下投与、腹腔内投与、経気道投与、経眼投与、筋肉内投与、血管内投与等が挙げられる。このとき、siRNAは、外包せずにそのまま投与してもよく、好ましくはリポソーム等のキャリヤーに内包若しくは結合させて投与してもよい。より好ましくは、リポソームとコレステロールとの混合物、更に好ましくはDMRIE-Cに内包若しくは結合させて投与してもよい。なお、前記経口投与を行うとき、siRNAを食物に混合して生物に摂食させることも可能である。前記血管には、生物体内の動脈及び静脈の全てが含まれ、好ましくは肝門脈、肝動脈、尾静脈、頚静脈等が挙げられる。
【0010】
投与するsiRNAの有効量は、対象とする細胞種、動物種、投与方法等によって異なり、適切な量はそれぞれの条件毎に変更することができる。例えば、動物生体内への一日一回の投与において、例えばマウスの尾静脈投与の場合には、好ましくは0.01〜1000mg/kg体重/日、より好ましくは10mg/kg体重/日であり、例えばラットの尾静脈投与の場合には、好ましくは0.01〜1000mg/kg体重/日、より好ましくは10mg/kg体重/日である。なお、1日あたりの投与量を複数回に分割して投与することもできる。
【0011】
siRNAを反復投与する場合、肝門脈や肝動脈等への投与としては当該血管へのカテーテルの留置若しくはsiRNAを含有した浸透圧ポンプの埋め込み等による投与を好ましく挙げることができる。また、外科的処置が好ましくない場合には、尾静脈や頚静脈等への投与が好ましく挙げられる。
なお、反復投与の間隔及び回数は、実施形態の条件毎に変更することができる。例えば、マウスの尾静脈投与の場合には、好ましくは0.01〜1000mg/kg体重/日、より好ましくは10mg/kg体重/日のsiRNAを複数日間行う。また、投与日の間隔を1日以上空けて行うこともできる。例えばラットの尾静脈投与の場合には、好ましくは0.01〜1000mg/kg体重/日、より好ましくは10mg/kg体重/日のsiRNAを複数日間行う。また、投与日の間隔を1日以上空けて行うこともできる。
【0012】
ターゲット遺伝子であるCAR遺伝子の発現量の測定は、単位細胞量当たりの当該遺伝子の転写産物量を測定する方法や同翻訳産物量を測定する方法等により行うことができる。
当該遺伝子の転写産物量を測定するには、当該遺伝子の転写産物であるmRNA量を測定する。このmRNA量の測定は、具体的には、定量的リアルタイム−ポリメラ−ゼチェイン反応(以下、定量的RT−PCRと記す。)、ノ−ザンハイブリダイゼ−ション法[J.Sambrook, E.F.Frisch,T.Maniatis著;モレキュラ−・クロ−ニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コ−ルドスプリング・ハ−バ−・ラボラトリ−(Cold Spring Harbor Laboratory)発行、1989年]、DNAアレイ法、インサイチュ−ハイブリダイゼ−ション法等により実施することができる。
また、当該遺伝子の翻訳産物量を測定するには、当該遺伝子の塩基配列にコ−ドされたアミノ酸配列からなる蛋白質量を測定する。この蛋白質量の測定は、具体的には、当該蛋白質に対する特異抗体を用いた免疫学的測定法(例えば、ELISA、ウェスタンブロット、RIA、免疫組織化学的検査等)、二次元電気泳動法、高速液体クロマトグラフィ−を用いた方法等により実施することができる。なお、当該蛋白質に対する特異抗体は、定法に準じて、当該蛋白質を免疫抗原として調製することができる。
【0013】
ターゲット遺伝子であるCAR遺伝子の発現抑制レベルは、前述した方法によって測定されたsiRNAが投与された動物のCAR遺伝子の発現量と、当該動物のCAR遺伝子の塩基配列とマッチしない塩基配列を有するコントロールsiRNAを投与された同種同系統同性同週齢の動物、例えば哺乳動物等の肝臓で発現するCAR遺伝子の発現量とを比較して判断する。なお、この哺乳動物は、特に限定されるものではないが、ヒト、サル、マーモセット、イヌ、ウサギ、モルモット、ラット若しくはマウス等を用いることができる。
【0014】
次に、RNA干渉によるCAR遺伝子発現抑制下における化学物質の毒性評価を行う方法を説明する。
【0015】
当該化学物質の毒性評価方法は、下記三つの工程を含むことができる。
(一)細胞におけるCAR遺伝子の発現をRNA干渉によって抑制する第一工程。
(二)第一工程で得られた細胞に対して化学物質を接触させる第二工程。
(三)第二工程で得られた細胞に対して化学物質の毒性を評価する第三工程。
【0016】
第一工程で用いられる細胞として、例えば培養細胞又は動物生体内の細胞を用いることができ、具体的には哺乳動物等の肝臓細胞等を用いることが出来る。これらの細胞はそのまま用いてもよく、また、かかる細胞から分離、分画、固定化等の種々の処理により調製された細胞を用いてもよい。なお、細胞を採取する前記哺乳動物としては、例えばラット、マウス等のげっ歯類動物等を挙げることができる。
また、細胞におけるCAR遺伝子の発現をRNA干渉によって抑制するには、段落番号[0008]〜[0011]で説明したsiRNAをCAR遺伝子に作用させることによって行うことができる。
【0017】
第二工程において、細胞として培養細胞を用いる場合、第一工程でsiRNAを処理した24h後に、化学物質を含む溶液を当該培養細胞の培地に添加する。このとき添加する溶液の化学物質の濃度は、用いる培養細胞と化学物質との組み合わせに応じて変更可能であり、第三工程で化学物質の毒性を評価することができる濃度に設定することが望ましい。また、添加する当該溶液は、培養液を毎日交換する度に新たに添加することが好ましい。
また、例えば哺乳動物生体内の細胞を用いる場合、第一工程の後、好ましくは複数日後に、当該細胞に対して化学物質を投与する。この化学物質の投与方法は、経口(強制又は飲料水や餌に混合する等)、筋肉内、静脈内、皮下、腹腔内、経気道等に投与する方法が挙げられる。このときの投与量、投与回数及び投与期間は、当該哺乳動物の全身状態、全身諸器官組織等に重篤な影響を及ぼさない範囲内(例えば最大耐量以下)とすればよい。このようにして、哺乳動物等から採取された細胞(組織、この組織から分離させた細胞或いは当該細胞の培養細胞等)と、化学物質とを直接又は間接的な手段によって接触させることができる。
【0018】
具体的に、第一工程で得られた例えば哺乳動物の細胞に、第二工程において化学物質を投与する場合、前記哺乳動物が成獣動物の場合には3日間以上、また幼若動物の場合には3日間、少なくとも1日1回以上、例えば経口投与、皮下投与或いは吸入投与等を行う。
【0019】
この場合の経口投与は、以下の手順で行う。
まず、化学物質を必要量秤量し、必要に応じて当該化学物質に適当な溶媒(コーンオイルや約0.25〜0.5%のメチルセルロース溶液等)を加えて溶液又は均一な懸濁液を作製し、これを投与液とする。そして、前記哺乳動物に投与を行うときは、注射筒及び弾性カテーテル等を用いて望ましくは5mL/kg/day以下の液量を少なくとも1日1回以上行う。
【0020】
また、この場合の皮下投与は、以下の手順で行う。
まず、化学物質を必要量秤量し、必要に応じて当該化学物質に適当な溶媒(コーンオイルや約0.25〜0.5%のメチルセルロース溶液等)を加えて溶液又は均一な懸濁液を作製し、これを投与液とする。そして、前記哺乳動物に投与を行うときは、注射筒及び注射針等を用いて望ましくは4mL/kg/day以下の液量を少なくとも1日1回以上行う。
【0021】
また、この場合の吸入投与は、以下の手順で行う。
まず、化学物質を必要量秤量し、必要に応じて当該化学物質に適当な溶媒(コーンオイルやアセトン等)を加えて溶液又は均一な懸濁液を作製し、これを投与液とする。そして、この投与液を噴霧装置に装着し、適当な曝露チャンバーを用いて前記哺乳動物に自発呼吸により吸引させる。この吸引は少なくとも1日1回以上、1回当たり連続約4時間以上行う。
【0022】
第三工程では、第二工程で得られた細胞に対して化学物質の毒性を評価するが、この毒性の評価は、
(イ)CAR遺伝子の発現抑制レベルを検出、
(ロ)CAR遺伝子関連薬物代謝酵素の発現亢進レベルを検出、
(ハ)CAR遺伝子の発現抑制若しくは当該遺伝子関連薬物代謝酵素の発現亢進に基づく表現形レベルを検出、
することによって行うことができる。
【0023】
前記(イ)について、CAR遺伝子の発現抑制レベルを検出するには、前述したCAR遺伝子の発現量を測定することによって行うことができる。
【0024】
前記(ロ)について、例えば化学物質を接触させた培養細胞又は哺乳動物生体内の細胞からCAR遺伝子関連薬物代謝酵素の発現量の増減(CAR遺伝子関連薬物代謝酵素の発現亢進レベル)を検出するには、当技術分野における通常の方法を用いればよい。具体的には、単位細胞量当たりのCAR遺伝子関連薬物代謝酵素の遺伝子の転写産物量や翻訳産物量を測定する方法等が挙げられる。
【0025】
なお、肝臓で発現する前記「薬物代謝酵素の遺伝子」とは、肝臓細胞内で発現する遺伝子であってホルモンや薬物(化学物質)の代謝反応に関わる遺伝子を指す。例えば、肝臓における酸化、還元並びに加水分解の過程からなる第一相反応に関わる酵素としてはCYP(Cytochrome P450)、ADH(アルコール脱水素酵素)或いはALDH(アルデヒド脱水素酵素)等が含まれ、肝臓における抱合の過程からなる第二相反応に関わる酵素としてはUGT(UDP グルクロン酸転移酵素)やSULT(硫酸転移酵素)等が含まれる。
【0026】
なお、前記CYPには、例えばラットにおいてCYP1、CYP2、CYP3等のサブタイプが含まれ、更に例えばCYP2にはCYP2B1等の複数のサブタイプが含まれる。また、UGTには、例えばラットにおいてUGT1AとUGT2Bのサブタイプが含まれ、更にUGT1AにはUGT1A1、UGT1A2、UGT1A3p、UGT1A4、UGT1A5p、UGT1A6、UGT1A7、UGT1A8、UGT1A9、UGT1A10、UGT1A11といった複数のサブタイプが含まれる。それぞれのサブタイプは基質が異なるため、目的に応じてサブタイプを選択することができる。例えば、ある被験物質の安全性評価において、ラットにおける肝臓や甲状腺の発癌プロモーターであるフェノバルビタールとの類似性を評価する場合、フェノバルビタールによって誘導されるCYP2B1、UGT1A1、UGT1A6或いはUGT2B1の発現レベルを指標として、被験物質投与動物とフェノバルビタール投与動物との結果を比較することによって判定することができる。その場合、サブタイプの選択は、薬剤の開発若しくは被験物質の安全性評価を行える当業者であれば容易に理解できる。
【0027】
前記(ハ)の検出方法としては、例えばCAR遺伝子関連薬物代謝酵素の活性の増減、細胞増殖量の増減、細胞のアポトーシス量の増減、活性酸素産生量、肝臓の湿重量、若しくは肝臓の小葉中心性の肝細胞肥大を起こす細胞数の増減等を検出する方法が挙げられる。
【0028】
例えば化学物質を接触させた培養細胞又は哺乳動物生体内の細胞からCAR遺伝子関連薬物代謝酵素の活性の増減を検出するには、当技術分野における通常の方法を用いればよい。
具体的には、CAR遺伝子関連薬物代謝酵素の基質を細胞に接触させ、単位細胞量当たりの基質又は代謝物の変化量を測定することで活性を測定することが出来る。この基質又は代謝物の量を測定する方法としては、レポーター遺伝子アッセイ法を用いて測定する方法、吸光光度計を用いて測定する方法、蛍光量を測定する方法、放射線標識体を用いその放射線量を測定する方法、当該基質又は代謝物に対する特異抗体を用いた免疫学的測定法(例えばELISA、ウェスタンブロット、RIA、免疫組織化学的検査等)を用いて測定する方法、二次元電気泳動法を用いて測定する方法、高速液体クロマトグラフィ−を用いて測定する方法等が挙げられる。
【0029】
また、化学物質を接触させた培養細胞又は哺乳動物生体内の細胞から細胞増殖量の増減を検出するには、当技術分野における通常の方法を用いればよい。
具体的には、単位細胞量当たりの細胞数の増減を測定する方法、細胞増殖量の増減と相関関係にある指標(例えばチミジンやBrdUの取り込み量等)を測定する方法等が挙げられる。
【0030】
また、化学物質を接触させた培養細胞又は哺乳動物生体内の細胞のアポトーシス量の増減を検出するには、当技術分野における通常の方法を用いればよい。
具体的には、単位細胞量当たりのアポトーシス細胞数を測定する方法として、細胞レベルでの形態学的検査法、Fas等のアポトーシス関連蛋白を抗原とする組織化学的検査法、TUNEL法、シトクロームCリリース測定等が挙げられる(詳しくは、“新アポトーシス実験法 改訂第2版 羊土社 1999年発刊”等を参照)。
【0031】
また、化学物質に接触させた培養細胞又は哺乳動物生体内の細胞から活性酸素産生量の増減を検出するには、当技術分野における通常の方法を用いればよい。
具体的には、単位細胞量当たりのO2−,H2O2の測定、NO,peroxynitriteの測定、Lipid peroxideの測定、Chemiluminescenceによる分析、スピントラッピング剤を用いたESR分析、FACSによるperoxidesの分析、抗酸化活性のバイオアッセイ法等により活性酸素産生量の増減を検出する(詳しくは、“活性酸素実験プロトコール(監修:谷口直之、秀潤社、1994年発行)”参照)。
【0032】
また、化学物質に接触させた哺乳動物等由来の細胞から肝臓の湿重量の増減を検出するには、当技術分野における通常の方法を用いればよい。
具体的には、解剖直前の哺乳動物等の体重を測定した後、エーテル等の麻酔薬を用いて当該哺乳動物に麻酔をかけた後、腹大動脈から採血を行って致死させる。致死後、肝臓を摘出し、速やかに天秤を用いて湿重量を測定する。
【0033】
また、化学物質に接触させた哺乳動物生体内の細胞から、肝臓の小葉中心性の肝細胞肥大を起こす細胞数の増減を検出するには、当技術分野における通常の方法を用いればよい。
具体的には、前述した方法により哺乳動物を致死させた後、肝臓を摘出して一部を病理組織学的検査用細胞として10%中性緩衝ホルマリン液中で固定し、定法に従って光学顕微鏡観察による病理組織学的検査を実施し、小葉中心性の肝細胞肥大を起こしている細胞数を数える。
【0034】
将来、本発明のRNA干渉による遺伝子発現抑制のためのターゲット遺伝子としてのcar遺伝子の使用方法を用いて、ヒトの肝臓で発現するCAR遺伝子を制御することにより、病態の治療薬や治療法の開発、病態モデル動物や安全性評価モデル動物の作製等が期待される。また、CAR遺伝子の発現を抑制して当該遺伝子の調節を受けるCAR遺伝子関連薬物代謝酵素の発現を抑制することによって、投与された医薬品の薬効を増強することができるとともに、医薬品の投与量を低減できると考えられる。
【0035】
なお、前述した発明に関する各々の方法、プロトコール、試薬、装置、並びに材料等の記載は、本発明を実施するための最良の形態等を記載したものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて更に詳細に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
実施例1
培養細胞を用いたCARの抑制
(1)動物及び細胞の調整
肝臓初代培養細胞は、Wistarラット10週齢 ♂ 単一個体の肝臓より調整した。細胞の調整は、コラゲナーゼ肝環流により採取し、William's培養液で洗浄した後、コラーゲンコート6穴プレートへ3.5x10細胞/wellの濃度で播種した(0日目)。3h後に死細胞を除去するために、液換えを行った。1群当り2〜4wellの細胞を用いて検討を行った(N=2〜4)。培養液は毎日交換を行った。
(2)RNA干渉
CARのmRNAに相補的な配列を持つ、siRNAを作製し(sense鎖 配列番号1; 5' GCU CAC ACA CUU UGC AGA UAU CAA U 3'、及びantisense鎖 配列番号2;5' AUU GAU AUC UGC AAA GUG UGU GAG C 3')、培養細胞へLipofectamine RNAiMax導入試薬を用いて導入した。RNA干渉の効果は、いかなる遺伝子配列とも相補的でない配列を持つコントロールsiRNA(Stealth RNAi Negative Control with Midium GC、インビトロジェン社製、カタログ番号:12935-300)を対照群として評価した。
CARに対するsiRNAの導入は、細胞を播種した翌日に行い(1日目)、最終濃度100nMで処理し、4h後に新しい培養液へ交換した。細胞密度は、導入時でおよそ50%コンフレントであった。
(3)total RNAの調製
RNAの調製は、siRNAの導入から72h後に行った( 4日目)。細胞をPBSで洗い、1 mlのISOGEN(株式会社 ニッポンジーン社製)を加え、氷冷しながらピペッティング及びボツテックスにてホモジナイズし、5分間室温で放置した。次いで、0.2mlのクロロホルム(関東化学社製)を添加し、15秒間上下に激しく撹拌した後、5分間室温で放置した。4℃、12,000g、15分間遠心分離した後、水層を1.5mlアシストチューブ(アシスト社製)に回収した。更に、0.5mlの2-プロパノール(関東化学社製)を添加して、転倒混和後、室温で10分間静置した。4℃、12,000g、10分間遠心分離後、上清を除去しペレットを得た。得られたペレットは、1mlの70%エタノール溶液で洗浄した。得られたペレットにDEPC処理滅菌蒸留水を20μl添加して溶解し、total RNA溶液を得た。このRNA溶液は更に、RNeasy Kit(Qiagen社製)を使用し、取り扱い説明書に従い、DNase処理及び精製を行った。
(4)cDNAの調製
TaqMan Reverse Transcription Regents(ABI社製)に含まれる試薬(10x Taq Man RT buffer 1μL、25mM MgCl2 2.2μL、DeoxyNTPs Mixure 2μL、Oligo dT 0.5μL、RNase Inhibitor 0.2μL、MultiScribe RT 0.25μL)及びDEPC処理滅菌蒸留水2.85μLを混合した。次いで、前記(3)で調製されたtotal RNA 1μLを添加し、得られた混合液について、25℃、10分間、次いで48℃、30分間保温した後、95℃、5分間加熱することで、逆転写反応を行った。反応後は4℃で冷却し、cDNA溶液とした。
(5)定量的RT-PCRを用いたCAR遺伝子の発現解析
前記(4)で調製されたcDNAを鋳型として、以下のようにPCRを行って増幅されたDNAを定量した。すなわち、当該cDNA 2μl、Forwardプライマ−(配列番号3:5' CCA TCA CCG GCC TTT CC 3')22.5pmol、Reverseプライマー(配列番号4:5' GCT GCA CCA TGA AAG TAT TGA TAT CT 3')22.5pmol、プローブ(配列番号5:5' CCT GGC CCC CGT GTT GCC T 3')6.25pmol及びTaqMan Universal Master Mix(ABI社) 12.5μlを含む25μlの反応液を調製し、GeneAmp5700 Sequence detection System(ABI社)を用いて、50℃ 5分間、次いで95℃ 10分間保温した後、95℃ 15秒、次いで60℃ 1分間の保温を1サイクルとしてこれを40サイクル実施する条件でPCRを行った。増幅されたDNAの量から、CAR遺伝子のmRNA量を測定した。
また、対照遺伝子としてGlyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)遺伝子のmRNA量も同様の操作で測定した(Forwardプライマー 配列番号6:5' GCT GCC TTC TCT TGT GAC AAA GT 3'、及び、Reverseプライマー 配列番号7:5' CTC AGC CTT GAC TGT GCC ATT 3'、並びに、プローブ 配列番号8:5' TGT TCC AGT ATG ATT CTA CCC ACG GCA AG 3')。CAR遺伝子のmRNA量とGAPDH遺伝子のmRNA量との比を算出してCAR遺伝子の発現レベルとし、無処置群、siRNA(Cont)処置群、 siRNA(CAR)投与群の細胞におけるCAR遺伝子の発現レベルをそれぞれ求めた。その結果、siRNA(CAR)投与群におけるCAR遺伝子の発現レベルが、siRNA(Cont)処置群におけるCAR遺伝子の発現レベルと比較して、およそ30%にまで抑制した(図1)。
【0038】
実施例2
CAR siRNAの単回尾静脈投与によるラット肝臓におけるCAR遺伝子の抑制
(1)被験哺乳動物の準備
4週齢のCrl:CD(SD)雄ラット(日本チャールス・リバーから購入)を、1週間の検疫期間の後、5週齢で実験に供した。
(2)CARをターゲット遺伝子としたsiRNA(CAR)若しくはコントロールsiRNA(Cont)を含む投与液の準備
CARをターゲット遺伝子としたsiRNA(CAR)(sense鎖 配列番号1; 5' GCU CAC ACA CUU UGC AGA UAU CAA U 3'、及びantisense鎖 配列番号2;5' AUU GAU AUC UGC AAA GUG UGU GAG C 3') (インビトロジェン社製)を0.8mg/mLの濃度でリンゲルに溶かし、同容量のDMRIE-Cと混和する。また、コントロールsiRNA(Cont)は、Stealth RNAi Negative Control with Midium GC(インビトロジェン社製、カタログ番号:12935-300)を0.8mg/mLの濃度でリンゲルに溶かし、同容量のDMRIE-Cと混和する。
(3)被験哺乳動物への投与
(1)で準備した被験哺乳動物について天秤を用いて固体別に体重を測定した後、(2)で準備したsiRNA(CAR)を含む投与液を10mg/kg/dayの投与量で、且つ12mL/mg/dayの液量で、1日1回、注射により尾静脈投与した(以下、siRNA(CAR)投与哺乳動物と称する)。なお、対照哺乳動物として、siRNA(CAR)を含む投与液の代わりに、コントロールsiRNA(Cont)を含む投与液をsiRNA(CAR)投与哺乳動物と同様にして投与した(以下、コントロールsiRNA(Cont)投与哺乳動物と称する)。更に、これらの処置によって生じる影響を把握する目的で、何も投与しない動物(以下、無処置動物と称する)を設定した。なお、いずれの場合も、3から5匹の被験哺乳動物を用いた。
(4)毒性把握の為の観察、測定及び検査
前記投与した全動物に関して、投与による毒性を把握する目的で、定法に従って、生死確認、体重測定(投与直前及び解剖時)、解剖時の剖検、血液生化学的検査(例えば、ALT、AST、LDH、γ-GTP等)、肝重量測定、肝臓の病理組織学的検査を実施し、コントロールsiRNA(Cont)投与哺乳動物において問題となる様な毒性は存在しないことを確認した。
(5)検査標本の採取及び保存
解剖直前の体重を測定後、エーテル等の適切な麻酔薬を用いて解剖対象哺乳動物に麻酔をかけた後、腹大動脈からの採血にて致死させた。致死後、全身の諸器官の剖検(肉眼的病理観察)を行った後、肝臓を摘出し、速やかに天秤を用いて湿重量を測定した。重量測定後、肝臓を切り分け、一部はRNA発現解析用肝臓組織としてRNA later(アンビオン社製)中に入れ、解析まで4℃で保存した。また、一部は蛋白解析用肝臓組織として液体窒素で凍結し、その後、解析まで-80℃で保存した。更に、一部は定法に従って光学顕微鏡観察による病理組織学的検査を実施した。また、採取した血液は、ヘパリン処理して血漿を分取した後、血液生化学的検査に供した。
(6)total RNAの調製
前記(5)で保存した肝臓組織について、それぞれ湿重量10〜50mgに対して1mlのISOGEN(株式会社 ニッポンジーン社製)を加え、氷冷しながらポリトロンホモジナイザーにてホモジナイズし、5分間室温で放置した。次いで、0.2mlのクロロホルム(関東化学社製)を添加し、15秒間上下に激しく撹拌した後、5分間室温で放置した。4℃、12,000g、15分間遠心分離した後、水層を1.5mlアシストチューブ(アシスト社製)に回収した。更に、0.5mlの2-プロパノール(関東化学社製)を添加して、転倒混和後、室温で10分間静置した。4℃、12,000g、10分間遠心分離後、上清を除去しペレットを得た。得られたペレットは、1mlの70%エタノール溶液で洗浄した。得られたペレットにDEPC処理滅菌蒸留水を20μl添加して溶解し、total RNA溶液を得た。このtotal RNA溶液は更に、RNeasy Kit(Qiagen社製)を使用し、取り扱い説明書に従い、DNase処理及び精製を行った。
(7)cDNAの調製
TaqMan Reverse Transcription Regents(ABI社製)に含まれる試薬(10x Taq Man RT buffer 1μL、25mM MgCl2 2.2μL、DeoxyNTPs Mixure 2μL、Oligo dT 0.5μL、RNase Inhibitor 0.2μL、MultiScribe RT 0.25μL)及びDEPC処理滅菌蒸留水2.85μLを混合した。次いで、前記(6)で調製されたtotal RNA 1μLを添加し、得られた混合液について、25℃、10分間、次いで48℃、30分間保温した後、95℃、5分間加熱することで、逆転写反応を行った。反応後は4℃で冷却し、cDNA溶液とした。
(8)定量的RT-PCRを用いたCAR 遺伝子の発現解析
前記(7)で調製されたcDNAを鋳型として、以下のようにしてPCRを行って増幅されたDNAを定量した。すなわち、当該cDNA 2μl、Forwardプライマ−(配列番号3:5' CCA TCA CCG GCC TTT CC 3')22.5pmol、Reverseプライマー(配列番号4:5' GCT GCA CCA TGA AA GTA TTG ATA TCT 3')22.5pmol、プローブ(配列番号5:5' CCT GGC CCC CGT GTT GCC T 3')6.25pmol及びTaqMan Universal Master Mix(ABI社) 12.5μlを含む25μlの反応液を調製し、GeneAmp5700 Sequence detection System(ABI社)を用いて、50℃ 5分間、次いで95℃ 10分間保温した後、95℃ 15秒、次いで60℃ 1分間の保温を1サイクルとしてこれを40サイクル実施する条件でPCRを行った。増幅されたDNAの量から、CAR遺伝子のmRNA量を測定した。
また、対照遺伝子としてGlyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)遺伝子のmRNA量も同様の操作で測定した(Forwardプライマー 配列番号6:5' GCT GCC TTC TCT TGT GAC AAA GT 3'、及び、Reverseプライマー 配列番号7:5' CTC AGC CTT GAC TGT GCC ATT 3'、並びに、プローブ 配列番号8:5' TGT TCC AGT ATG ATT CTA CCC ACG GCA AG 3')。CAR遺伝子のmRNA量とGAPDH遺伝子のmRNA量との比を算出してCAR遺伝子の発現レベルとし、無処置動物群、コントロールsiRNA(Cont)投与哺乳動物群、 siRNA(CAR)投与哺乳動物群の肝臓組織におけるCAR遺伝子の発現レベルを個体別にそれぞれ求めた。その結果、siRNA(CAR)投与哺乳動物の肝臓組織におけるCAR遺伝子の発現レベルが、コントロールsiRNA(Cont)投与哺乳動物の肝臓組織におけるCAR遺伝子の発現レベルと比較して、投与後1日(投与翌日)では40%まで低い値を示した(図2)。
【0039】
実施例3
蛋白質発現解析を用いたCARの発現解析
実施例2(5)に記載した操作にて保存した蛋白質解析用肝臓組織は、ホモジナイザー(ポリトロン社製)により、20mLの磨砕用緩衝液(プロテアーゼインヒビターとして10mg/mLのロイペプシン、1mg/mLのペプスタチン、200μMのPMSFを含むPBS溶液)中でホモジナイズした。サンプルの一部を1.5mLのチューブ(エッペンドルフ社製)へ分注し、4℃で30分間、15,000rpmで遠心し、その上清を蛋白質解析に用いた。含まれる蛋白質の濃度は、Protein assay試薬(Biorad社製)を用い、吸光光度系により595nmの吸光度から測定した。ウエスタンブロッティングは、プレキャストゲル(Biorad社製)に蛋白質サンプル50μgをロードし、泳動条件(120V、30mA、80min)で泳動を行った。トランスファーは、Hybondメンブレン(GE Healthcare社製)を用い、泳動条件(270V、350mA、60min)で行った。一次抗体処理は、5%スキムミルクを含むTBST溶液で1時間ブロッキングした後、メンブレンをTBST溶液で数回洗浄し、1:1000希釈の抗CARポリクローナル抗体(サンタクルズ社製)を含むTBST溶液中、4℃の条件下で約12時間処理した。二次抗体処理として、メンブレンをTBST溶液で数回洗浄したのち、1:1000希釈の抗ラビットIgG抗体(サンタクルズ社製)を含むTBST溶液中、室温で約2時間処理した。抗体の検出は、Chemi-Lumi One試薬(ナカライテスク社製)を用いてバンドを可視化し、46KD付近にあるCARのバンドをルミノ・イメージアナライザー(富士フィルム社製)で測定した。次に、内在蛋白質のコントロールとしてβアクチンを測定する為に、メンブレンを20mLのストリッピングバッファー(PIERCE社製)で処理して抗体を除去した後、前記と同様の行程を、一次抗体に抗βアクチン抗体(サンタクルズ社製)を用いて行った。CARのバンドとβアクチンのバンドとの比を算出してCAR蛋白質の発現レベルとし、無処置動物群、コントロールsiRNA(Cont)投与哺乳動物群、siRNA(CAR)投与哺乳動物群の肝臓組織におけるCAR蛋白質の発現レベルを個体別にそれぞれ求めた。その結果、siRNA(CAR)投与哺乳動物の肝臓組織におけるCAR蛋白質の発現レベルが、コントロールsiRNA(Cont)投与哺乳動物の肝臓組織におけるCAR蛋白質の発現レベルと比較して、投与後3日目で50%まで低い値を示した。
【0040】
実施例4
マウスにおけるCAR遺伝子の発現抑制
5週齢のCrj:CD-1雄マウス(日本チャールス・リバーから購入)を、1週間の検疫期間の後、5週齢で実験に供した。実施例2(2)に記載の操作と同様にして、CARをターゲット遺伝子としたsiRNA(CAR)を作製した(sense鎖 配列番号1; 5' GCU CAC ACA CUU UGC AGA UAU CAA U 3'、及びantisense鎖 配列番号2;5' AUU GAU AUC UGC AAA GUG UGU GAG C 3')。このsiRNA(CAR)を含む投与液を、実施例2(3)から(7)に記載の操作を行い、cDNAを調製した。この調製したcDNAを鋳型として、実施例2(8)に記載の操作にて、CAR遺伝子、及び対照遺伝子として
Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)遺伝子のPCRを行い、増幅されたDNAを定量した。ただし、定量的RT-PCRを行う際のプライマー及びプローブに関しては、マウスCAR遺伝子用(Forwardプライマー 配列番号9:5' GCA TCA CCG GCC TTT CC 3'、及び、Reverseプライマー 配列番号10:5' CCA TAA ACG TGT TGA TAT CTG CAA A 3'、並びに、プローブ 配列番号11:5' CCC CGT GTT GCC TCT GCT CAC AC 3')、及びマウスGAPDH遺伝子用(Forwardプライマー 配列番号12:5' TGT GTC CGT CGT GGA TCT GA 3'、及び、Reverseプライマー 配列番号13:5' CCT GCT TCA CCA CCT TCT TGA 3'、並びに、プローブ 配列番号14:5' CCG CCT GGA GAA ACC TGC CAA GTA TG 3')を使用した。CAR遺伝子のmRNA量とGAPDH遺伝子のmRNA量との比を算出してCAR遺伝子の発現レベルとし、無処置動物群、及びsiRNA(CAR)投与哺乳動物群の肝臓組織におけるCAR遺伝子の発現レベルを個体別にそれぞれ求めた。その結果、siRNA(CAR)投与哺乳動物の肝臓組織におけるCAR遺伝子の発現レベルが、無処置動物群の肝臓組織におけるCAR 遺伝子の発現レベルと比較して、投与後1日(投与翌日)では40%まで低い値を示した(図3)。
【0041】
実施例5
培養細胞を用いたフェノバルビタール(PB)の毒性評価
(1)化合物処理
実施例1の(1)〜(2)に記載の方法により、ラット初代肝培養細胞にsiRNA(CAR)、若しくはコントロールsiRNA(Cont)処理した 24h後に、PB溶液を最終濃度50nMで培地へ添加した(2日目)。化合物は、毎日の培養液交換時に新たに添加した。対照として、PBを添加しない群(無処置群)を作製した。
(2)定量的RT-PCRを用いたCAR及びCYP2B1酵素遺伝子発現の解析
実施例1の(1)〜(4)に記載の方法によりで調製されたcDNAを鋳型として、実施例1の(5)と同様に以下のようにしてPCRを行い、増幅された各遺伝子のDNA量を定量した。すなわち、当該cDNA 2μl、CAR遺伝子に対するForwardプライマ−(配列番号3:5' CCA TCA CCG GCC TTT CC 3')22.5pmol、Reverseプライマー(配列番号4:5' GCT GCA CCA TGA AA GTA TTG ATA TCT 3')22.5pmol、プローブ(配列番号5:5' CCT GGC CCC CGT GTT GCC T 3')6.25pmol及びTaqMan Universal Master Mix(ABI社) 12.5μlを含む25μlの反応液を調製し、GeneAmp5700 Sequence detection System(ABI社)を用いて、50℃ 5分間、次いで95℃ 10分間保温した後、95℃ 15秒、次いで60℃ 1分間の保温を1サイクルとしてこれを40サイクル実施する条件でPCRを行った。増幅されたDNAの量から、CAR遺伝子のmRNA量を測定した。
また、CYP2B1遺伝子の発現に関しては、CYP2B1に対するForwardプライマ−(配列番号15:5' GCT CAA GTA CCC CCA TGT CG 3')45pmol、Reverseプライマー(配列番号16:5' ATC AGT GTA TGG CAT TTT ACT GCG G 3')45pmol及びPower SYBR Green PCR Master Mix (ABI社) 12.5μlを含む25μlの反応液を調製し、GeneAmp5700 Sequence detection System(ABI社)を用いて、95℃ 10分間保温した後、95℃ 30秒、60℃ 30秒、次いで72℃ 45秒の保温を1サイクルとしてこれを40サイクル実施する条件でPCRを行った。増幅されたDNAの量から、CYP2B1遺伝子のmRNA量を測定した。
また、対照遺伝子としてGlyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)遺伝子のmRNA量も同様の操作で測定した(Forwardプライマー 配列番号6:5' GCT GCC TTC TCT TGT GAC AAA GT 3'、及び、Reverseプライマー 配列番号7:5' CTC AGC CTT GAC TGT GCC ATT 3'、並びに、プローブ 配列番号8:5' TGT TCC AGT ATG ATT CTA CCC ACG GCA AG 3')。CYP2B1遺伝子のmRNA量とGAPDH遺伝子のmRNA量との比を算出してCAR及びCYP2B1遺伝子の発現レベルとし、無処置細胞、コントロールsiRNA(Cont)処理細胞、siRNA(CAR)処理細胞におけるCAR遺伝子の発現レベルをそれぞれ求めた。その結果、siRNA(CAR)処理細胞におけるCAR遺伝子の発現レベルが、コントロールsiRNA(Cont)処理細胞におけるCAR遺伝子の発現レベルと比較して、およそ40%にまで抑制した(図4)。
(3)CAR遺伝子関連薬物代謝酵素(CYP2B1)の発現を指標としたフェノバルビタール(PB)の毒性評価系の検証
PB及びコントロールsiRNA(Cont)を処理した細胞では、PB無処置細胞に比べてCYP2B1 mRNA発現はおよそ5倍程度に亢進した(図5)。一方、CARを抑制した細胞では、PBによるCYP2B1の発現亢進が化合物無処置細胞に比べておよそ2倍程度であり、有意な減弱が見られた(図5)。化合物無処理細胞でのCYP2B1発現を差し引いた誘導部分での変化量を見ると、CARの抑制により80%以上減弱していた(図6)。以上のことは、PB処理によるCYP2B1発現誘導が、CARを介して成されていることを示している。
【0042】
実施例6
CYP2B依存的なPROD(ペントキシレゾルフィンO-脱ペンチル化活性)を指標とした毒性評価系の検証
実施例5(1)と同様の処置をした細胞において、siRNAの導入から72h後(4日目)に培養液をWilliam's培地で2回洗浄し、ペントキシレゾルフィン(7-pentoxyresorufin)7μMとジクマロール(dicoumarol)10μMを含む2mLの William's培地に交換する。37℃で4時間培養した後、培養液を回収し、1000Uのβ-glucronidase(ウシ肝臓由来)及び50mM酢酸ナトリウム溶液(pH5)と混合した後、37℃で3時間放置する。ペントキシレゾルフィンO-脱ペンチル化活性の測定は単位溶液当りの蛍光量を測定することで行い、蛍光光度計(日立、F-4010)を用いて励起波長530nm及び蛍光波長585nmの条件で測定する。結果の評価については、基質を処理した細胞の総タンパク量をProtein assay kit(Bio-Rad)により測定し、単位タンパク量あたりのレゾルフィン産生量(ペントキシレゾルフィンO-脱ペンチル化量)をレゾルフィンの検量線を基に計算し、無処理、PB及びコントロールsiRNA(Cont)処理、PB処理及びsiRNA(CAR)処理細胞に関してそれぞれ求める。その結果、無処理細胞に比べ、PB及びコントロールsiRNA(Cont)処理によりペントキシレゾルフィンO-脱ペンチル化活性は亢進する。一方、siRNA(CAR)処理した細胞では、活性が無処理と同じである。このことから、PB処理によるペントキシレゾルフィンO-脱ペンチル化活性誘導が、CARを介して成されていることを示している。
【0043】
実施例7
細胞増殖を指標とした評価系の検証
実施例5(1)と同様の処置をした細胞において、siRNAの導入から48h後(3日目)に、細胞増殖ELISA,BrdU化学発光キット(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を使用して、培養液へBrdU標識溶液を200μL/well加え、37℃で24h培養する。siRNAの導入から72h後(4日目)に、溶液を吸引し、FixDenatを2mL加え室温で30分放置後、FixDenatを除き、抗BrdU-PODを加え室温で90分放置する。溶液を除きPBSで3回洗浄した後、トリプシン処理により細胞をプレートより剥がす。細胞に基質液2mLを添加し、200μLを96穴プレートへ分注し、透明なプレートの底をくろの粘着フォイルでシールし、シェイカー上で3分間放置後、マイクロプレートルミノメーター(ベルトールド社製、MicroLumat Plus LB96V)で測定する。評価に当っては、無処理、PB及びコントロールsiRNA(Cont)処理、PB処理及びsiRNA(CAR)処理細胞に関してそれぞれの蛍光量を求める。その結果、無処理細胞に比べ、PB及びコントロールsiRNA(Cont)処理によりBrdU取り込み量は亢進する。一方、siRNA(CAR)処理した細胞では、BrdU取り込み量が無処理と同じである。このことから、PB処理による細胞増殖の亢進が、CARを介して成されていることを示している。
【0044】
実施例8
細胞のアポトーシスを指標とした評価系の検証
実施例5(1)と同様の処置をした細胞において、siRNAの導入から72h後(4日目)に、TUNEL法にてアポトーシス細胞を染色し、1wellあたりの総数を数える。アポトーシスが進行すると、DNA分解が起きるが、 Tunel法ではTdT(terminal deoxynucleotidyl transferase)を用いてそのDNA断片にFITC標識dUTPを結合させる。それを蛍光顕微鏡で観察すると、アポトーシスを起こしている細胞は蛍光を発する。本実験ではIn situ cell death detectionkit, Fluorescein(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いて行った。評価に当っては、無処理、PB及びコントロールsiRNA(Cont)処理、PB処理及びsiRNA(CAR)処理細胞に関してそれぞれ蛍光値を求めアポトーシスの量とする。その結果、無処理細胞に比べ、PB及びコントロールsiRNA(Cont)により細胞のアポトーシス量は減少する。一方、siRNA(CAR)処理した細胞では、BrdU取り込み量が無処理と同じである。このことから、PB処理によるアポトーシスの減少が、CARを介して成されていることを示している。
【0045】
実施例9
活性酸素産生を指標とした評価系の検証
実施例5(1)と同様の処置をした細胞において、siRNAの導入から72h後(4日目)に培養上清から100μLずつを96穴プレートへ分注し、100μLのルミノール液を添加する。透明なプレートの底を黒の粘着フォイルでシールし、シェイカー上で3分間放置後、マイクロプレートルミノメーター(モレキュラーデバイス社製、SpectraMaxL)で測定する。評価に当っては、無処理、PB及びコントロールsiRNA(Cont)処理、PB処理及びsiRNA(CAR)処理細胞に関してそれぞれの蛍光量を求める。その結果、無処理細胞に比べ、PB及びコントロールsiRNA(Cont)処理により活性酸素量は亢進する。一方、siRNA(CAR)処理した細胞では、活性酸素量が無処理と同じである。このことから、PB処理による活性酸素量の増加が、CARを介して成されていることを示している。
【0046】
実施例10
肝重量を指標とした評価系の検証
実施例2(1)〜(3)において記載した方法によってsiRNA(CAR)若しくはコントロールsiRNA(Cont)を投与したラットの肝臓の湿重量を、実施例2(5)に記載の方法にて測定する。その結果、無処置動物群に比べ、PB及びコントロールsiRNA(Cont)処置群では肝重量は増加する。一方、siRNA(CAR)投与を行った動物群では、肝重量が無処置群と同じである。このことから、PB処理による肝重量の増加が、CARを介して成されていることを示している。
【0047】
実施例11
小葉中心性の細胞肥大を起こす細胞数を指標とした評価系の検証
実施例2(1)〜(3)において記載した方法によってsiRNA(CAR)若しくはコントロールsiRNA(Cont)を投与したラットにおいて、実施例2(5)に記載の方法にての肝臓の病理組織学的検査を行う。その結果、無処置動物群に比べ、PB及びコントロールsiRNA(Cont)処置群では小葉中心性の細胞肥大は増加する。一方、siRNA(CAR)投与を行った動物群では、小葉中心性の細胞肥大が無処置群と同じである。このことから、PB処理による小葉中心性の細胞肥大の増加が、CARを介して成されていることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によって、CAR遺伝子の発現を簡便且つ迅速に抑制する方法等が提供可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1(5)の結果を示すグラフである。
【図2】実施例2(8)の結果を示すグラフである。
【図3】実施例4の結果を示すグラフである。
【図4】実施例5(2)の結果を示すグラフである。
【図5】実施例5(3)の結果を示すグラフである。
【図6】実施例5(3)の結果を示すグラフである。
【配列表フリーテキスト】
【0050】
配列番号1
RNA干渉のために設計されたオリゴヌクレオチド
配列番号2
RNA干渉のために設計されたオリゴヌクレオチド
配列番号3
RT−PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号4
RT−PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号5
RT−PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプローブ
配列番号6
RT−PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号7
RT−PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号8
RT−PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプローブ
配列番号9
RT−PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号10
RT−PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号11
RT−PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプローブ
配列番号12
RT−PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号13
RT−PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号14
RT−PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプローブ
配列番号15
RT−PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号16
RT−PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNA干渉による遺伝子発現抑制のためのターゲット遺伝子としてのcar遺伝子の使用。
【請求項2】
前記car遺伝子の使用が、RNA干渉による遺伝子発現抑制下における化合物投与系でのターゲット遺伝子の発現抑制レベルを指標とする当該化合物の毒性評価のためのターゲット遺伝子としての使用である請求項1記載のcar遺伝子の使用。
【請求項3】
前記car遺伝子の使用が、RNA干渉による遺伝子発現抑制下における化合物投与系でのターゲット遺伝子関連薬物代謝酵素の発現亢進レベルを指標とする当該化合物の毒性評価のためのターゲット遺伝子としての使用である請求項1記載のcar遺伝子の使用。
【請求項4】
前記car遺伝子の使用が、RNA干渉による遺伝子発現抑制下における化合物投与系でのターゲット遺伝子の発現抑制若しくは当該遺伝子関連薬物代謝酵素の発現亢進に基づく表現形レベルを指標とする当該化合物の毒性評価のためのターゲット遺伝子としての使用である請求項1記載のcar遺伝子の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−33986(P2009−33986A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198725(P2007−198725)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】