説明

RNAi作用媒介物の同時デリバリーのためのマルチプロモーター発現カセット

本発明は、好ましくは哺乳類細胞に対して、インビボでRNAiを同時デリバリーするためのマルチプロモータ発現カセットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はRNAi種またはRNAi作用媒介物を標的細胞へデリバリーするための組成物及び方法に関する。
本出願は、2004年3月17日に提出された米国仮特許出願第60/553,920号、および2004年3月5日に提出された米国仮特許出願第60/550,504号の利益を主張するものであり、これらの両者を本明細書の一部として引用に取り込む。
【背景技術】
【0002】
遺伝子発現を配列特異的様式で阻害するために二本鎖RNAを使用することは薬剤発見業界に大改革を起こした。哺乳動物において、RNA干渉またはRNAiは、細胞内において長い二本鎖RNAのin vivo酵素的切断に由来する、低分子干渉RNAと称される19から29ヌクレオチド長の二本鎖RNA分子によって媒介される。RNAi作用媒介物は細胞外で化学的または酵素的に合成することができ、続いて細胞にデリバリーすることができる(例えば、Fireら、Nature, 391: 806-11 (1998); Tuschlら、Genes and Dev., 13: 3191-97 (1999);およびElbashirら、Nature 411: 494-498 (2001));または、細胞内の適切なベクターによりin vivoで発現させることができる(McCaffreyら、Nature Biotech. 21(6): 639-644 (2003))。
しかしながら、未改変RNAiを効果的治療薬としてヒトに使用するためにin vivoデリバリーすることは多くの技術的障害に直面する。第一に、細胞性および血清ヌクレアーゼのために、in vivo注入されたRNAの半減期はわずかに約70秒である(たとえばKurreck, Eur. J. Bioch. 270: 1628-44 (2003)参照)。化学的改変によって注入したRNAの安定性を増加させる多くの試みがなされてきたが、化学的改変が細胞傷害性効果を増加させるということが時々起こる。一つの具体的な例では、各2つめのリン酸をホスホロチオエートに置換したRNAi二本鎖の複数投与に対して細胞は耐えられなかった(Harborthら、Antisense Nucleic Acid Drug Rev. 13(2): 83-105 (2003))。他の障害には組織特異的デリバリーおよび治療応答を顕在化させるに十分であって毒性を示さない量でRNAi作用媒介物をデリバリーさせ得ることが含まれる。
【0003】
RNAiデリバリーのためにいくつかの選択肢が探索されており、それらには標的細胞に感染することができるRNAiをデリバリーし、in situで発現させることのできるウイルスベースのベクター系の使用が含まれる。典型的には、およそ70ヌクレオチドの低分子RNAは短いヘアピン前駆体(shRNA)としてウイルスベクター骨格から転写される。転写されたなら、このshRNAは酵素ダイサー(Dicer)によって適切な活性RNAi種へプロセッシングされる。ウイルスベースデリバリーアプローチは組織特異性を活用してウイルスの標的化特性を高め、適切に標的化されたなら内在性の細胞内装置に依存して治療的効果量を達成するに充分なレベルのRNAi種を生成する試みを行っている。
現在、標的配列をデリバリーするために最も一般的に使用されているウイルスはレトロウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)またはアデノウイルス(Ad)に由来する系に基づくものである。これらのベクターはいずれも比較的大きな挿入物に適合することができ治療的に適切な力価で産生することができる。しかしながら、すべての系において、癌の発生と関連する問題があり(Cavazzana-Calvoら、Science, 288: 669-72(2000))、望ましくない宿主の免疫応答および患者にとって毒性を生じさせるという問題がある。RNAiをデリバリーするために有用な他の例はアデノ随伴ウイルス(AAV)である。
【0004】
RNAi治療剤の一つの有用な応用は抗-ウイルス剤である。一般に、RNAウイルスはその複製をRNA/DNA-依存性RNAポリメラーゼに依存する。そのようなRNA/DNAポリメラーゼはウイルスゲノムを比較的低い忠実度で複製し、その機能の結果非常に多くの変異を有するゲノムを生じさせる。その結果、子孫ビリオンの急速な進化能が生じて一般的な免疫および化学的抗ウイルス剤を逃れる能力が生じる。従って、低分子治療薬に見られる効果と同様に、RNAi治療薬の相対的効能および効力は、長期治療の間にウイルス進化の結果として低下するかもしれない。ある研究では、発現されたshRNAのデリバリー後35日で単一ヌクレオチド変化を含むHIVエスケープ変異体が出現した(Bodenら、J. Virol. 77(21): 11531-11535 (2003))。別の研究では、予め合成したRNAiでトランスフェクションしておいた細胞において感染後わずかに54時間でポリオウイルスエスケープ変異体を検出することができた。しかし、ウイルス中の複数の標的配列に対する2種のRNAiの同時デリバリーはエスケープ変種の出現を顕著に遅くした(Giltinら、Nature 418: 430-434(2002)参照)。
従って、従来技術においては安定で効果的なRNAi治療薬の開発が求められている。本発明は従来技術のこの要求を満足するものである。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、標的細胞に対してRNAi種またはRNAi作用媒介物をデリバリーするための、革新的な組成物および方法に向けられている。このRNAi種は、好ましくはウイルスデリバリー系を介してデリバリーされるマルチプロモーター発現構築物の一部である。構築物当り三つ以上のRNAi作用媒介物が使用されるので、本発明は、変種間に配列の相違(SNP)を有する標的遺伝子を持った生物に対処する上で特に有用であり、ここでは導入されたRNAi作用媒介物のそれぞれが、変種の1以上イのサブセットをターゲッティングすることができる。同様に、前記組成物および方法はまた、迅速に突然変異する病原体によって生じる疾患状態、例えばRNAに基づくウイルス物質によって生じる疾患を治療する上でも有用である。即ち、ウイルスのエスケープ変異体が、三つ以上の異なるRNAi配列の効果を回避できる可能性は低い。
【0006】
従って、本発明の実施態様は、少なくとも三つのプロモーター/RNAi/ターミネーター構成要素を含むマルチプロモーターー発現カセットであって、各プロモーター/RNAi/ターミネーター構成要素が、プロモーター素片、ターミネーター素片ならびに前記プロモーター素片および前記ターミネーター素片に動作可能にリンクされたRNAi種を含んでなり、前記RNAi種の各々が相互に異なっている発現カセットを提供する。この実施態様の種々の好ましい側面において、マルチプロモーター発現カセットにおける各々のプロモーター素片の配列は、相互に異なっている。この実施態様の他の側面において、マルチプロモーター発現カセットにおける各々のターミネーター素片の配列、相互に異なり、および/または各ターミネーター素片は、自然界においてそれと対になるプロモーター素片と同じ遺伝子から取得される。加えて、この実施態様の一つの側面において、本発明は、治療用ベクターを感染性ウイルス粒子中にパッケージングするために必要な要素を含む、マルチプロモーター発現構築物を提供する。
【0007】
本発明のもう一つの実施態様においては、細胞内で発現される1以上の核酸標的を処理する方法であって:ウイルスRNAiデリバリー構築物を産生するために、1以上の核酸標的を阻害する三つ以上のRNAi作用媒介物を発現するマルチプロモーターRNAi発現カセットを、ウイルスベクターの中に組込むことと;前記ウイルスRNAiデリバリー構築物をウイルス粒子中にパッケージングすることと;前記ウイルス粒子を前記細胞にデリバリーすることと;前記マルチプロモーター発現カセットから、三つ以上のRNAi作用媒介物を発現させることとを含んでなる方法が提供される。本発明のこの実施態様の種々の側面において、発現される前記1以上の核酸標的は、前記細胞内において、癌状態のような疾患状態の開始および維持のために必要な遺伝子である。本発明のこの実施態様の他の側面において、発現される前記1以上の核酸標的は、病原体による前記細胞の感染または感染の維持のために必要な遺伝子である。或いは、前記マルチプロモーターRNAi発現カセットは、非ウイルスベクターの中に提供され、当該技術において既知の非ウイルス的方法を介して細胞にデリバリーされてもよい。
【0008】
上記で挙げた本発明の特徴、利点および目的が達成され、且つ詳細に理解され得るように、上記で簡単に要約した本発明の更に詳細な説明は、添付の図面に例示した実施態様を参照することによって得ることができる。しかし、添付の図面は本発明の一定の実施態様のみを示すものであり、従って、その範囲を限定するとみなされるべきではなく、本発明は他の等しく効果的な実施態様を許容するものであることに留意すべきである。
【0009】
(詳細な記載)
本発明の組成物および方法を説明する前に、このような方法、装置および処方は当然ならが変化するから、本発明は、説明される特定の方法論、生成物、装置および因子に限定されないことが理解されるべきである。また、ここで使用される用語は、特定の実施態様説明するためのものにすぎず、特許請求の範囲のみにより限定される本発明の範囲を限定することを意図するものでないことも理解されるべきである。
ここで使用する単数形は、明確にそうでないことを述べない限り、複数への参照を含むものである。従って、例えば「因子」の用語は、一つの因子または複数の因子の混合物を意味する。また、「製造方法」の用語は、当業者に知られた均等な工程および方法等への言及を含むものである。
異なるように定義しない限り、ここで使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術における当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。ここで述べる全ての刊行物は、前記刊行物に記載され、またここに記載する発明に関して使用され得る装置、処方および方法を説明する目的で、制限なく本明細書の一部として援用される。
【0010】
以下の説明において、本発明の更に完全な理解を提供するために、多くの特定の詳細が記載される。しかし、本発明は、1以上のこれら特定の詳細を伴うことなく実施されてもよいことが、当業者には明らかであろう。他の例においては、本発明を不明瞭にするのを回避するために、当業者に周知の特徴および方法は説明されていない。
本発明は、単一の発現構築物を使用して、少なくとも三つの異なるRNAi作用媒介物を同時に細胞にデリバリーするための、革新的で強靭な遺伝的組成物および方法に向けられている。この組成物および方法は、標的核酸の安定で持続的な阻害を提供する。
【0011】
一般に、当業者の知識の範囲内にある分子生物学、微生物学、組換えDNA技術、細胞生物学、およびウイルス学の従来の方法が、本発明において用いられる。このような技術は文献、例えば、Maniatis, Fritsch & Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (1982); DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes I and II (D. N. Glover, ed. 1985); Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait, ed. 1984); Nucleic Acid Hybridization (B. D. Hames & S. J. Higgins, eds. (1984)); Animal Cell Culture (R. I. Freshney, ed. 1986); および RNA Viruses: A practical Approach, (Alan, J. Cann, Ed., Oxford University Press, 2000)の中で十分に説明されている。
【0012】
「ベクター」とは、別のDNA切片を結合し得る、プラスミド、ファージ、ウイルス構築物またはコスミドのようなレプリコンである。ベクターは、細胞内にDNA切片をトランスダクションし、発現させるために使用される。
「プロモーター」または「プロモーター配列」は、細胞内においてRNAポリメラーゼに結合でき、またメッセンジャーRNA、リボゾームRNA、核小体RNA、またはRNAポリメラーゼI、IIもしくはIIIの何れかによって転写される何れかの種類のRNAのような、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドコード配列の転写を開始できるDNA調節領域である。
【0013】
細胞は、外来性または非相同性の核酸またはベクターのような核酸が、例えばトランスフェクション剤との複合体として、またはウイルス粒子中にパッケージされて細胞の内部に導入されたときには、これら核酸によって「形質転換」、「トランスダクション」または「トランスフェクション」されている。形質転換DNAは、前記細胞のゲノムの中に組込み(共有結合)されてもよく、または組込みされなくてもよい。真核細胞に関しては、安定に形質転換された細胞とは、形質転換DNAが宿主細胞の染色体の中に一体化されるに至ったか、または染色体外に維持されて、前記形質転換DNAが細胞複製の際に娘細胞に遺伝されるか、または持続的なエピソードが存在する非複製性の分化した細胞である。
「RNA干渉」または「RNAi」の用語は、一般には、二本鎖RNA分子または短いヘアピンRNAが、それに対して実質的または全体的な相同性を有する核酸配列の発現を変化させる過程を意味する。「RNAi種」または「RNAi作用媒介物」の用語は、RNAiを誘起する個別のRNA配列を言う。また、「RNAi発現カセット」の用語は、三つ以上のRNAi種を含む本発明の実施態様に従うカセットを意味する。
【0014】
図1は、本発明によるマルチプロモーターRNAi発現構築物が使用され得る一つの方法100の工程を示す、簡略化されたフローチャートである。先ず、工程200において、特定の疾患標的を標的とするマルチプロモーターRNAi発現カセットが構築される。次に、工程300において、前記マルチプロモーターRNAi発現カセットが、適切なウイルス性デリバリー構築物の中にライゲートされる。次いで、このウイルス性RNAi発現デリバリー構築物は、工程400においてウイルス粒子の中にパッケージされ、工程500において、前記ウイルス粒子は治療すべき標的細胞にデリバリーされる。これら工程および含まれる構成要素の各々の詳細は、以下に提示する。
【0015】
本発明によるウイルスに基づくマルチプロモーターRNAi発現構築物は、当業者に既知の多くの異なるプロトコルによって、合成的または酵素的に作製することができ、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)に記載された標準の組換えDNA技術を使用して、例えばUnited States Dept. of HHS, National Institute of Health (NIH) Guidelines for Recombinant DNA Researchに記載された規制の下に、生成させることができる。好ましい実施態様において、前記マルチプロモーターRNAi発現カセットは、当該技術において周知のプロトコールを使用したホスホロアミダイト化学または類似の化学を使用して合成される。
【0016】
図2Aおよび図2Bは、本発明の実施態様によるマルチプロモーターRNAi発現カセットを示す、簡略化された概略図である。図2Aは、三つのプロモーター/RNAi/ターミネーター構成要素(20で示す)を備えたマルチプロモーター発現カセットの実施態様(10)を示しており、図2Bは、五つのプロモーター/RNAi/ターミネーター構成要素(20で示す)を備えたマルチプロモーター発現カセットの実施態様(10)を示している。P1、P2、P3、P4およびP5は、プロモーター素片を表している。RNAi1、RNAi2、RNAi3、RNAi4およびRNAi5は、五つの異なるRNAi種の配列を表している。T1、T2、T3、T4およびT5は、終止要素を表している。本発明によるマルチプロモーターRNAi発現カセットは、三つ以上のプロモーター/RNAi/ターミネーター構成要素を含んでよく、いずれのマルチプロモーターRNAi発現カセットに含まれるプロモーター/RNAi/ターミネーター構成要素の数も、例えば、選択されたデリバリー系のパッケージングサイズ(例えば、AAVのような幾つかのウイルスは相対的に厳格なサイズ制限を有する); 細胞毒性、および最大効果(即ち、例えば四つのRNAi配列の発現が10個のRNAi配列の発現と同じく治療的に有効であるとき)によって制限される。
【0017】
一つのカセットを構成するプロモーター/RNAi/ターミネーター構成要素における三つ以上のRNAi種は、全て異なった配列を有する;即ち、RNAi1、RNAi2、RNAi3、RNAi4およびRNAi5は、全て相互に異なっている。しかし、何れかのカセットにおけるプロモーター素片は同じであってよく(即ち、例えばP1、P2、P3、P4およびP5の二以上の配列は同じでよい); 何れかのカセット内の全てのプロモーター素片は相互に異なってよく;または何れかのカセット内には、1回だけ現れるプロモーター素片および2回以上現れるプロモーター素片の組み合わせが存在してもよい。同様に、何れかのカセット内のターミネーター素片は同じであってよく(即ち、例えば4以上のT残基の連続した広がりのような、T1、T2、T3、T4およびT5の二以上の配列が同じであってよい);何れかのカセット内の全てのターミネター素片は相互に異なってよく;または何れかのカセット内に、1回だけ提示されるターミネター素片および2回以上提示されターミネター素片の組合せが存在してよい。好ましくは、何れかのカセットを構成する各プロモーター/RNAi/ターミネーター構成要素内のプロモーター素片およびターミネーター素片は、構成要素間および/またはカセット間でのDNA組換え事象の可能性を低減するために、全て異なる。更に好ましい実施態様において、各プロモーター/RNAi/ターミネーター構成要素において使用されるプロモーター素片およびターミネーター素片は、相互に適合している;即ち、プロモーター素片およびターミネーター素片は、それらが天然に存在する同じ遺伝子から取られる。
【0018】
図3A、図3Bおよび図3Cは、短いshRNAを発現するマルチプロモーターRNAi発現カセットの別の実施態様を含んでなるマルチプロモーターRNAi発現構築物を示している。shRNAは、センス鎖およびアンチセンス鎖がヘアピンループで結合された短い二本鎖である。発現されると、このshRNAはRNAi種へとプロセッシングされる。ボックスA、BおよびCは異なるプロモーター素片を表しており、矢印は転写の方向を示している。TERM1、TERM2、およびTERM3は、三つの異なる終止配列を表し、またshRNA-1、shRNA-2およびshRNA-3は、三つの異なるshRNA種を表している。この態様におけるマルチプロモーターRNAi発現カセットは、AでマークしたボックスからTerm3でマークした矢印へと伸びている。図3Aは、カセット内における同じ向きの三つのプロモーター/RNAi/ターミネーター構成要素(20)の各々を示しているのに対して、図3Bは、同じ向きのshRNA-1およびshRNA-2についてのプロモーター/RNAi/ターミネーター構成要素、および反対向きのshRNA-3についてのプロモーター/RNAi/ターミネーター構成要素を示してる(即ち、転写は前記カセットの両方の鎖上で生じる)。
【0019】
図3Cは、プロモーター/RNAi/ターミネーター構成要素間の距離を増大させるように、DNAの或る領域によって各々が分離されたカセットを示している。「スタッファー」DNAとして知られる挿入されたDNAは、5〜5000ヌクレオチドの如何なる長さであってもよい。1以上のスタッファー断片が、プロモーターの間に存在することができる。複数のスタッファー断片の場合、それらは同じ長さまたは異なる長さであることができる。これらのスタッファーDNA断片は、好ましくは異なる配列のものである。スタッファーDNA断片は、対応するデリバリーベクターの中にそれを適切に適合させることを可能にするために、本発明のマルチプロモーターカセットのサイズを増大させるように使用されてよい。スタッファーの長さは、マルチプロモーターカセットに関連した特定のベクターのサイズ要件によって指令される。例えば、一つの実施態様において、スタッファー断片は、AAVベクターのサイズ要件を適切に満たすために、全体で4000ヌクレオチド(nt)である。もう一つの態様において、スタッファー断片は、自己相補型AAVベクターのサイズ要件を適切に満たすために、全体で2000ntである。他の態様も利用することができる。
【0020】
図3Dおよび図3Eは、ヘアピンループのないRNAi種を発現するマルチプロモーターRNAi発現カセットの態様を構成する、マルチプロモーターRNAi発現構築物を示している。両方の図において、P1、P2、P3、P4、P5およびP6はプロモーター素片を表し(矢印は転写の向きを示している);T1、T2、T3、T4、T5およびT6は終止素片を表している。また、両方の図において、RNAi1センスおよびRNAi1アンチセンス(a/s)は相補的であり、RNAi2センスおよびRNAi2a/sは相補的であり、RNAi3センスおよびRNAi3a/sは相補的である。
【0021】
図3Dに示した実施態様において、三つの全てのRNAiセンス配列は一つの鎖から転写(P1、P2およびP3を介して)されるのに対して、三つのRNAia/s配列は相補鎖から転写(P4、P5、P6を介して)される。この特定の実施態様において、RNAi1a/sの終止素片(T4)は、プロモーターP1とRNAi1の間にある;他方、RNAi1センスの終止素片(T1)は、RNAia/s配列とそのプロモーターP4の間にある。このモチーフは、図3Dに示した一番上の鎖が(+)鎖で指定され且つ一番下の鎖が(−)鎖で指定されるときに、左から右へと移動するときに遭遇する要素がP1(+)、T4(-)、RNAi1(センスおよびa/s)、T1(+)、P4(-)、P2(+)、T5(-)、RNAi2(センスおよびa/s)、T2(+)、P5(-)、P3(+)、T6(-)、RNAi3(センスおよびa/s)、T3(+)、およびP6(-)であるように反復される。
図3Eに示した別の実施態様において、全てのRNAiセンスおよびアンチセンス配列は同じ鎖から転写される。当業者は、図3A〜図3Eに示したマルチプロモーターRNAi発現カセットの何れの実施態様も、その組合せまたは変形として、ある応用のために使用され得ることを理解する。
【0022】
幾つかの実施態様では、種々の強さのプロモーターを用いてもよい。例えば、三つ以上の強力なプロモーター(例えばPol III型プロモーター)の使用は、例えば利用可能なヌクレオチドまたは転写に必要な他の細胞成分のプールを枯渇させることによって、細胞に負担をかける可能性がある。これに加えて、またはその代りに、幾つかの強力なプロモーターの使用は、細胞内において、RNAi作用媒介物の毒性レベルの発現を生じるかもしれない。従って、幾つかの態様において、マルチプロモーターRNAi発現カセットにおける1以上のプロモーターは、前記カセットにおける他のプロモーターよりも弱くてよく、或いは、前記カセットにおける全てのプロモーターは、最大に満たない速度でRNAi作用媒介物を発現してもよい。また、プロモーターは改変しなくてもよく、分子技術を使用して、或いは、例えば調節要素を介してより弱いレベルの転写を達成するように改変してもよい。
【0023】
プロモーターは組織特異的または細胞特異的であってもよい。プロモーターに適用するときの「組織特異的」の用語は、問題のヌクレオチド配列の選択的な発現を、異なる種類の組織(例えば脳)における同じヌクレオチド配列の発現が相対的に存在しない状態で、特定の種類の組織(例えば肝臓)に対して指令できるプロモーターを言う。このような組織特異的プロモーターには、Ick、ミオゲニン(myogenin)またはthy1のようなプロモーターが含まれる。プロモーターに適用されるときの「細胞特異的」の用語は、問題のヌクレオチド配列の選択的な発現を、同じ組織内の異なる種類の細胞における同じヌクレオチド配列の発現が相対的に存在しない状態で、特定の種類の細胞に対して指令できるプロモーターを言う(例えば、Higashibata, et al., J. Bone Miner. Res. January 19(1):78-88 (2004); Hoggatt, et al., Circ. Res., December 91(12):1151-59 (2002); Sohal, et al., Circ. Res. July 89(1):20-25 (2001);およびZhang, et al., Genome Res. January 14(1):79-89 (2004)を参照されたい)。プロモーターに適用されるときの「細胞特異的」の用語はまた、単一組織内の或る領域において、問題のヌクレオチド配列の選択的発現を促進できるプロモーターを意味する。或いは、プロモーターは構成的または調節可能であってよい。加えて、プロモーターは異なる特異性を有するように改変することもできる。
【0024】
プロモーターに言及するときの「構成的」の用語は、プロモーターが、刺激(例えば熱ショック、化学物質、光など)の非存在下において、機能可能にリンクされた核酸配列の転写を指令できることを意味する。典型的には、構成的なプロモーターは、実質的に全ての細胞および全ての組織において、コード配列の発現を指令することができる。RNAi種を転写するために使用されるプロモーターは、好ましくは、RNAポリメラーゼIIによって制御されるユビキチン、CMV、βアクチン、ヒストンH4、EF-1αまたはpgk遺伝子のための構成的プロモーター、またはRNAポリメラーゼIによって制御されるプロモーター素片である。好ましい実施態様において、RNAポリメラーゼIIIによって制御されるプロモーター素片、例えばU6プロモーター(例えばU6-1、U6-8、U6-9、H1プロモーター、7SLプロモーター、ヒトYプロモーター(hY1、hY3、hY4 (Maraia, et al., Nucleic Acids Res 22(15):3045-52 (1994)参照)))およびhY5(Maraia, et al., Nucleic Acids Res 24(18):3552-59 (1994)参照)、ヒトMRP-7-2プロモーター、アデノウイルスVA1プロモーター、ヒトtRNAプロモーター、5sリボゾームRNAプロモーター、並びにこれらプロモーターの何れかの機能的ハイブリッドおよび組み合わせが使用される。
【0025】
或いは、幾つかの実施態様では、RNAi種の誘導発現を可能にするプロモーターを選択することが最適であるかもしれない。このようなプロモーターを使用した、誘導性発現のための多くの系が当該技術において知られており、これには、テトラサイクリン応答系およびlacオペレータ−リプレッサ系(WO03/022052A1;およびUS2002/0162126A1参照)、エクジソン調節系、或いはグルココルチコイド、プロゲスチン、エストロゲン、RU-486、ステロイド、甲状腺ホルモン、サイクリックAMP、サイトカイン、カルシフェロールファミリーのレギュレータ、またはメタロチオネインプロモーター(無機金属により調節される)が含まれるが、これらに限定されない。
ウイルス性マルチプロモーターRNAi発現構築物には、問題の遺伝子の発現を増大させるために、1以上のエンハンサーが存在してもよい。本発明の実施態様において使用するために適したエンハンサーは、Apo E HCRエンハンサー、最近記述されたCMVエンハンサー(Xia et al, Nucleic Acids Res 31-17 (2003)参照)、および当業者に既知の他のエンハンサーが含まれる。
【0026】
本発明の一つの実施態様では、ApoEエンハンサー素片が本発明のマルチプロモーターカセットに加えられてよい。ApoEエンハンサーは、適切なアポリポタンパク質EすなわちApoEに由来する約155塩基対(bp)のエンハンサー要素である。本発明のマルチプロモーターカセットにおける第一、第二および/または第三のプロモーターの上流または下流(または、存在するときには四つ以上のプロモーターの上流もしくは下流)に、1以上のApoEエンハンサーのコピーを加えてもよい。ApoEは、リポタンパク質粒子の結合、内部移行、異化を媒介するアポリポタンパク質であり、また肝臓組織の低密度リポタンパク質(ApoB/E)受容体およびApoE受容体のリガンドである。ApoE遺伝子に関連した遺伝子エンハンサーは、肝臓において特異的に、核酸の転写を増大させることができる真核生物制御要素である。ApoEエンハンサーは、肝臓特異的プロモーターの2000ヌクレオチド上流または下流までに配置されてよく、また1以上のコピーで存在すればよい。
【0027】
本発明のマルチプロモーターRNAi発現カセットによってコードされるRNAi配列は、哺乳動物細胞内において無毒の短い二本鎖RNAである低分子干渉性RNAの発現を引き起こす。本発明のRNAi種の長さには、それらが細胞毒性を示さない限り特別な制限はない。例えば、RNAiは15〜49bpの長さ、好ましくは15〜35bpの長さ、より好ましくは19〜29bpの長さであることができる。RNAiの二本鎖RNA部分は完全に相同であってもよく、或いは、配列のミスマッチ(各鎖上の対応するヌクレオチドが相補的でない)、隆起(一方の鎖上の対応する相補的ヌクレオチドの欠失)等に起因して対になっていない部分を含んでもよい。このような対になっていない部分は、それらがRNAiの二本鎖形成または効力を著しく妨げない範囲で許容することができる。
【0028】
本発明によるRNAi種の末端は、前記RNAiが標的遺伝子を有効にサイレンシングする限り、平滑末端または接着末端(オーバーハングする)であってよい。接着末端(オーバーハング)構造は、3'オーバーハングに限定されず、得られるRNAiがRNAi効果を誘導できる限り、5'オーバーハング構造が含まれてもよい。加えて、オーバーハングするヌクレオチドの数は、得られるRNAiがRNAi効果を誘導できる限り、如何なる数であってもよい。例えば、もし存在するときには、オーバーハングは1〜8ヌクレオチドからなっていてよく;好ましくは、オーバーハングは2〜4ヌクレオチドからなる。
【0029】
本発明において利用されるRNAi種は、二本鎖RNAの末端が一本鎖のリンカーRNAによって結合されたステム・ループ前駆体構造を有してよい。shRNAの一本鎖ループ部分の長さは、5〜20bpの長さ、好ましくは5〜9bpの長さであってよい。
【0030】
如何なる転写された核酸配列も、本発明のマルチプロモーターRNAi発現カセットのための標的であり得る。 RNAiの可能な標的は、以下に限定されるものではないが、発生遺伝子(例えば接着分子、サイクリンキナーゼ阻害剤、Wntファミリー科のメンバー、Paxファミリーのメンバー、Wingedヘリックスファミリーのメンバー、Hoxファミリーのメンバー、サイトカイン/リンホカインおよびそれらの受容体、成長/分化因子およびそれらの受容体、神経伝達物質およびそれらの受容体);発癌遺伝子(例えばABL1、BCL1、BCL2、BCL6、CBFA2、CBL、CSF1R、ERBA、ERBB、EBRB2、ETS1、ETS1、ETV6、FGR、FOS、FYN、HCR、HRAS、JUN、KRAS、LCK、LYN、MDM2、MLL、MYB、MYC、MYCL1、MYCN、NRAS、PIM1、PML、RET、SRC、TAL1、TCL3、およびYES); 腫瘍抑制遺伝子(例えばAPC、BRCA1、BRCA2、MADH4、MCC、NF1、NF2、RB1、TP53、およびWT1);および酵素(例えばACCシンターゼおよびオキシダーゼ、ACPデサチュラーゼおよびヒドロキシラーゼ、ADP-グルコースピロホスホリラーゼ、ATPase、アルコールデヒドロゲナーゼ、アミラーゼ、アミログルコシダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、カルコンシンターゼ、キチナーゼ、シクロオキシゲナーゼ、デカルボキシラーゼ、デキストリナーゼ、DNAおよびRNAポリメラーゼ、ガラクトシダーゼ、グルカナーゼ、グルコースオキシダーゼ、顆粒結合澱粉シンターゼ、GTPase、ヘリカーゼ、ヘミセルラーゼ、インテグラーゼ、イヌリナーゼ、インバターゼ、イソメラーゼ、キナーゼ、ラクターゼ、リパーゼ、リポオキシゲナーゼ、リソザイム、ノパリンシンターゼ、オクトピンシンターゼ、ペクチンステラーゼ、ペルオキシダーゼ、ホスファターゼ、ホスホリパーゼ、ホスホリラーゼ、植物成長レギュレータシンターゼ、ポリガラクツロナーゼ、プロテイナーゼおよびペプチダーゼ、プルラナーゼ、リコンビナーゼ、逆トランスクリプターゼ、RUBISCOs、トポイソメラーゼ、およびキシラナーゼ);ウイルス構造遺伝子、例えばキャプシドタンパク質およびエンベロープタンパク質;細菌遺伝子、例えば複製もしくは構造的特徴に関与する遺伝子、または複製もしくは構造的特徴に関与する他の病原菌由来の遺伝子である。加えて、本発明マルチプロモーターRNAi発現カセットは、SCAのような常染色体優性疾患における病理の原因である対立遺伝子、ハンチングトン病の原因である対立遺伝子、骨形成不全の原因であるコラーゲン遺伝子対立遺伝子に独特な特定の配列をターゲッティングするために使用されてよい。本発明の重要な側面は、siRNAによるウイルス感染のクリアランスが、感染細胞に害を与え得ないことである(Gitlin, et. al. Nature 418: 430-434 (2002))。本発明のこの特徴は、哺乳類宿主からのウイルスのクリアランスが、免疫系の作用によって、またはウイルスによって誘導されるアポトーシスによって感染細胞の破壊を生じるような先行技術から本発明を区別する(Guidotti et. al. Annu. Rev. Immunol. 19: 65-91 (2001))。こうして、本発明のこの側面は、非細胞壊死性ウイルスクリアランスという有効なRNAi作用媒介物を提供する。
【0031】
RNAi種の配列は、標的核酸配列の遺伝子配列に基づいて、好ましくは標的核酸配列の保存されている領域に基づいて選択される。例えば、ウイルス感染を治療するため、またはRNAiワクチンを構築するためのRNAi配列を選択する場合、選択される配列は、好ましくは、ウイルス種間、更にはウイルス亜種間で保存されているものである。ウイルスは迅速に変異することが知られているので、保存された配列の選択は、経時的にRNAiの効力を保存する可能性がある。癌または他の疾患を治療するためのRNAi配列を選択する場合、前記配列は、好ましくは、遺伝子または発癌遺伝子の変種間で保存されるものである。
【0032】
比較のための配列のアラインメント方法、およびRNAi配列の選択は、当該技術において周知である。二以上の配列間の同一性パーセントの決定は、数学的アルゴリズムを使用して達成することができる。このような数学的アルゴリズムの非限定的な例は、Myers and Miller (1988); the search-for-similarity-method of Pearson and Lipman (1988); および Karlin and Altschul (1993)のアルゴリズムである。好ましくは、これら数学的アルゴリズムのコンピュータによる実行が利用される。このような実施には、以下に限定されるものではないが、PC/GeneプログラムにおけるCLUSTAL(Intelligenetics, Mountain View, カリホルニア州から入手可能);ALIGNプログラム(バージョン2.0)、GAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、Megalign(Jotun Hein, Martinez, Needleman-Wunschアルゴリズムを使用)、DNAStar・Lasergene(www.dnastar.com参照)およびウィスコンシン遺伝学ソフトウエアパッケージ第8版におけるTFASTA(Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Drive, Madison、ウィスコンシン州、アメリカ合衆国から入手可能)が含まれる。これらのプログラムを使用する整列は、標準のパラメータまたはオペレータが選択したパラメータを使用して実行することができる。CLUSTALプログラムは、Higginsによって十分に記載されている。ALIGNプログラムは、MyersおよびMillerのアルゴリズムに基づいており;またBLASTプログラムは、 KarlinおよびAltschulのアルゴリズムに基づいている。BLAST分析を実行するためのソフトウエアは、国立バイオテクノロジー情報センター(the National Center for Biotechnology Information (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/))を通して公的に入手可能である。
【0033】
配列比較のために、典型的には一つの配列が参照配列として働き、試験配列がこれと比較される。配列比較アルゴリズムを使用するときには、試験配列および参照配列がコンピュータに入力され、必要であればサブ配列座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。次いで、配列比較アルゴリズムは、指定されたプログラムパラメータに基づいて、参照配列に対する試験配列の配列同一性パーセントを計算する。
典型的には、RNAiによる標的配列の阻害は、標的配列とRNAi分子のセンス鎖との間の高度な配列相同性を必要とする。幾つかの実施態様において、このような相同性は約70%よりも高く、約75%よりも高いであろう。好ましくは、相同性は約80%よりも高く、また85%、更には90%よりも高い。更に好ましくは、標的配列とRNAiのセンス鎖との間の配列相同性は、約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%よりも高い。マルチプロモーターRNAi発現構築物がウイルス感染をターゲッティングするために使用される実施態様においては、ウイルスの種々の亜種ゲノム間の配列相同性は、保存された領域においてでさえも、15〜30の連続するヌクレオチドに亘って90%以上、更には80%のレベルにも達しない可能性がある。このような場合に、幾つかの亜種についての標的配列とRNAiのセンス鎖との間の配列相同性は、80%以下である可能性がある。
【0034】
他方、本発明のマルチプロモーターRNAi発現構築物は、前記マルチプロモーターRNAi発現カセットにおける各RNAi種が、標的遺伝子または変種もしくは亜種のサブセットの異なる部分に対処するために使用できるので、種、亜種、または変種に亘って高い配列相同性を示さない生物の遺伝子を標的とするときに特に有用である。
標的配列の保存された領域に基づいてRNAi配列を選択することに加えて、RNAi配列の選択は他の因子に基づいてもよい。望ましい標的配列の特徴(例えばGC含量パーセント、翻訳開始コドンからの位置、または提案されたRNAiの相同体についてのコンピュータ配列データベースの検索に基づく配列類似性、熱力学的ペアリング基準)に基づいて、RNAiにおいて有効であろう配列を同定するための選択基準を考案する多くの試みにもかかわらず、無数の可能なRNAi配列候補の中から、何れが実際にRNAサイレンシング応答を誘導できる望ましい標的に対応するかを高い信頼性で予測することは、現在のところ不可能である。その代わり、典型的には個々の具体的なRNAiポリヌクレオチド配列を作製し、テストして所望の標的の発現との干渉が生じ得るかどうかを決定する。
【0035】
現在の抗ウイルス療法の主要な問題は、エスケープ変異体として一般に知られる耐性変異体の出現である(Gitlin et. al. J. of Virol. 79; 1027-1035, (2005))。本発明の一つの側面は、エスケープ変異体の出現を中和する。本発明の幾つかの実施態様において、ウイルス感染を治療するための多重RNAi配列の選択は、単一配列のRNAiを用いた感染細胞の治療からのエスケープ変異体の出現に基づいている。出現するエスケープ変異体は、細胞がウイルスに感染した後のRNAiの単一配列を含む発現構築物を用いた治療によって明らかになる。出現した耐性ウイルスを含んだ細胞が回収され、ウイルスゲノムの配列が決定される。配列決定によって、ウイルス阻害に抵抗するように生じた支配的な変異が明らかになる。標的遺伝子の遺伝配列に基づくRNAi配列を含み、更にRNAi治療に抵抗するように生じた点変異の配列を含んだ、本発明のマルチプロモーターRNAi発現構築物が作製される。
【0036】
上述したように、マルチプロモーターRNAi発現カセットのRNAiコーディング領域は、ターミネーター素片に機能可能に連結される。一つの実施態様において、前記ターミネーターは四つ以上のチミジン残基の配列を含んでいる。もう一つの好ましい実施態様において、使用されるターミネーター素片は全て異なり、且つターミネーターが由来する遺伝子に由来するプロモーター素片と適合される。このようなターミネーターには、SV40ポリA、Ad・VA1遺伝子、5SリボゾームRNA遺伝子、およびヒトt-RNAのためのターミネーターが含まれる。加えて、プロモーターおよびターミネーターは、RNA pol IIプロモーターおよびターミネーターを用いて通常行われるように、混合および適合させることができる。
【0037】
加えて、マルチプロモーターRNAi発現カセットは、プロモーター、RNAiおよびターミネーター素片が容易に除去または置換えられるように、マルチクローニング部位および/またはユニーク制限酵素部位が戦略的に位置するように配置することができる。更に、マルチプロモーターRNAi発現カセットは、戦略的に配置された制限酵素部位および/または相補的な接着末端を使用して、より小さいオリゴヌクレオチド構成要素から組立てることができる。本発明の実施態様に従う一つのアプローチのための基本ベクターは、全ての部位が唯一(ユニーク部位)である(これは絶対的な要件ではない)マルチリンカーを備えたプラスミドからなっている。その後、各プロモーターは、その指定されたユニーク部位の間に挿入されて、その全てが種々の向きを有することができる三つ以上のプロモーターを備えた基本カセットを生じる。続いて、アニールされたプライマー対が、個々のプロモーターのそれぞれの下流にあるユニーク部位に挿入されて、三重発現カセット構築物を生じる。前記挿入物は、例えば、三重発現カセット挿入物を挟む二つの(同じまたは異なる)ユニーク酵素部位を使用して、AAV骨格中へ移動させることができる。
【0038】
図1の工程300において、マルチプロモーターRNAi発現カセットは、デリバリーベクターの中にライゲーションされる。マルチプロモーターRNAi発現カセットがその中に挿入され、種々の細胞タイプにおけるRNAi作用媒介物の高効率でのトランスダクションおよび発現のために使用される構築物は、好ましくはウイルス由来であり、ウイルスデリバリーに適合している。前記構築物の作製は、当該技術において周知の何れか適切な遺伝子加工技術を使用して達成することができ、これにはPCR、オリゴヌクレオチド合成、制限エンドヌクレアーゼ消化、ライゲーション、形質転換、プラスミド精製、およびDNA配列決定の標準技術が含まれるが、これらに限定されない。前記構築物は、好ましくは、例えば、マルチプロモーターRNAi発現構築物の標的細胞ゲノムへの組込みを可能にするウイルス粒子および/または配列の中に、前記マルチプロモーターRNAi発現構築物をパッケージングするために必要な配列を含んでいる。このウイルス構築物はまた、ウイルスの複製および伝播を可能にする遺伝子を含んでよいが、好ましい実施態様では、かかる遺伝子はトランスで供給されるであろう。加えて、このウイルス構築物は、天然形態または修飾された形態で組み込まれた、何れか既知の生物のゲノムに由来する遺伝子または遺伝子配列を含んでいてよい。例えば、好ましいウイルス構築物は、細菌中における前記構築物の複製のために有用な配列を含んでいる。
【0039】
前記構築物はまた、追加の遺伝子要素を含んでよい。前記構築物に含められ得る要素の種類は如何なる意味でも限定されず、当業者によって選択されてよい。例えば、追加の遺伝子要素は、GFPまたはRFPのような蛍光マーカータンパク質;β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、β−グルクロニダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、または分泌胎児アルカリホスファターゼのような容易に試験される酵素;ホルモンもしくはサイトカインのような免疫アッセイが容易に利用可能なタンパク質のための、1以上の遺伝子等のレポーター遺伝子を含んでよい。本発明の実施態様において使用をできる他の遺伝子要素には、アデノシンデアミナーゼ、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、ハイグロマイシン−B−ホスホトランスフェラーゼ、または栄養要求株から失われた生合成能力を提供するタンパク質をコードするもののような、細胞に対する選択的成長の利点を与えるタンパク質をコードするものが含まれる。レポーター遺伝子がマルチプロモーターRNAi発現カセットと共に含まれるときは、内部リボゾームエントリー部位(IRES)配列が含まれることができる。好ましくは、追加の遺伝子要素が、独立のプロモーター/エンハンサーと機能可能に連結され、これによって制御される。
【0040】
本発明のマルチプロモーターRNAi発現構築物をデリバリーするために、何れの適切なウイルスに基づくウイルスデリバリー系を使用してもよい。加えて、ハイブリッドウイルス系を使用してもよい。ウイルスデリバリー系の選択は、デリバリーのためにターゲッティングされる組織、前記系のトランスダクション効率、病原性、免疫学的および毒性的な懸念等のような種々のパラメータに依存するであろう。本発明のマルチプロモーターRNAi発現構築物による干渉を受け得る疾患標的の多様性を考慮すれば、全ての適用に適した単一のウイルス系は存在しないことが明らかである。本発明で使用するためのウイルスデリバリー系を選択するときには、マルチプロモーターRNAi発現構築物を含んだウイルスパッケージが、好ましくは、1)再現可能で且つ安定に増殖し;2)高力価に精製でき;3)標的化されたデリバリー(マルチプロモーターRNAi発現構築物の広範な伝播を伴わない、問題の組織または器官へのデリバリー)を媒介でき;4)構成的または制御可能な方法で発現できる系を選択することが重要である。
【0041】
一般に、遺伝子治療に使用される五つの最も普通に使用される種類のウイルス系は、それらのゲノムが宿主細胞の染色質中に組込まれるか(オンコレトロウイルスおよびレンチウイルス)、または染色体外エピソームとして支配的に細胞核内で持続するか(アデノ随伴ウイルス、アデノウイルスおよびヘルペスウイルス)に従って、二つの群に分類することができる。この区別は、特定の適用のための各ベクターの適正の重要な決定因子である。組込まれないベクターは、一定の環境下に、非増殖細胞中における持続的な遺伝子発現を媒介するが、組込まれるベクターは、分裂細胞において安定な遺伝的改変を維持する必要がある場合に好まれる手段である。
例えば、本発明の一実施態様では、パルボウイルス科由来のウイルスが利用される。パルボウイルス科は、長さが約5000ヌクレオチドの、エンベロープで包まれていない小さい一本鎖DNAウイルスの科である。この科のメンバーには、アデノ関連ウイルス(AAV)、定義により、生産的感染サイクルを開始および維持するためにもう一つのウイルス(典型的にはアデノウイルスまたはヘルペスウイルス)との同時感染を必要とする依存性パルボウイルスが含まれる。このようなヘルパーウイルスの不存在下において、AAVは、非分裂細胞および分裂細胞の両方において受容体媒介性の結合および内部移行によって標的細胞を感染またはトランスダクションする能力がある。
【0042】
核に入るとウイルスは脱コートし、導入遺伝子が多くの異なる形態(その最も持続的なものは環状モノマーである)から発現される。AAVは、安定にトランスダクションされる細胞の1〜5%のゲノム中に組込まれるであろう(Nakai, et al., J. Virol. 76:11343-349 (2002))。導入遺伝子の発現は極めて安定であることができ、第IX因子のAAVデリバリーを用いた一つの研究において、イヌモデルは、1回の直接のウイルス感染後の5.0年に亘って、治療的レベルのタンパク質を発現し続ける。ヘルパーウイルスの不存在下でのAAV感染からは子孫ウイルスが産生されないので、トランスダクションの範囲はウイルスに感染する最初の細胞のみに限定される。この特徴が、AAVを本発明のための好ましい遺伝子治療ベクターにしている。更に、レトロウイルス、アデノウイルスおよび単純ヘルペスウイルスとは異なり、AAVはヒトに対する病原性および毒性を欠いているようである(Kay, et al., Nature. 424: 251 (2003) and Thomas, et al., Nature Reviews, Genetics 4:346-58 (2003))。
【0043】
典型的には、AAVのゲノムは二つの遺伝子しか含まない。「rep」遺伝子は、DNA複製に利用される少なくとも四つの別々のタンパク質をコードする。「cap」遺伝子産物は選択的にスプライスされて、ウイルスのキャプシドを構成する三つのタンパク質を生成する。ゲノムを新生ウイルスの中にパッケージングするときには、逆位末端反復(ITR)だけが必須の配列であり、repおよびcapをゲノムから欠失させて、これらを選択された異種配列で置換することができる。しかし、AAVに基づく異種構築物を新生ビリオンの中に複製およびパッケージするのに必要なタンパク質を産生するためには、repおよびcapタンパク質がtransに供給されなければならない。このヘルパー機能は通常は上記で述べたアデノウイルスまたはヘルペスウイルス等のヘルパーウイルスを同時感染させることによって与えられ、1以上のDNA発現プラスミドの形態でtransに与えることもできる。前記ゲノムは、通常は二つの遺伝子しかコードしないから、デリバリー担体として、AAVが一本鎖の4.5キロ塩基(kb)というパッケージング能力によって制限されることは驚くべきことではない。しかし、このサイズ制限は、置換遺伝子療法のためにデリバリーできる遺伝子を制限する可能性があるものの、RNAiのような更に短い配列のパッケージングおよび発現に悪影響を及ぼすことはない。
【0044】
AAVを使用してshRNAiをin vitroでデリバリーし、p53およびCaspase8発現を阻害する実験において、RNAi適用のためのAAVの有用性が実証された(Tomar et al., Oncogene. 22: 5712-15 (2003))。ガッティッド(gutted)AAV-2ベクター中への適切な配列のクローニングに続いて、HEK293細胞中で感染性AAVビリオンを発生させ、HeLaS3細胞を感染させるために使用した。投与量に依存した、内因性Caspase8およびp53のレベルの減少が実証された。Boden et alもまた、使用済み培地中でのp24産生により評価される組織培養系でのHIV複製を阻害するために、AAVを使用してshRNAをインビトロでデリバリーした(Boden, et al., J. Virol. 77(21): 115231-35 (2003))。
しかし、AAVをマルチプロモーターRNAi発現構築物のための担体として使用するときには、技術的障害に対処しなければならない。例えば、ヒト集団の種々の割合は、あるAAV血清型に対する中和抗体を保持している可能性がある。しかし、幾つかのAAV血清型が存在し、その幾つかについては、中和抗体を保持する個体のパーセンテージが大幅に低下するので、他の血清型を使用することができ、または偽型化を利用することができる。既に特徴付けされている少なくとも八つの異なる血清型が存在し、単離されている多数の他の血清型は未だ十分には記述されていない。もう一つの制限は、AAVに対する可能な免疫応答の結果として、AAVに基づく療法は1回しか投与することができないかもしれない;しかし、別の非ヒト由来の血清型を使用して、反復投与が可能になり得る。投与経路、血清型、およびデリバリーされるゲノムの組成は、全て組織特異性に影響する。
【0045】
マルチプロモーターRNAi発現構築物と共に、未修飾のAAV系を使用する際のもう一つの制限は、トランスダクションが非効率的であり得ることである。インビボでの安定なトランスダクションは、細胞の5〜10%に制限される可能性がある。しかし、当該技術において、安定なトランスダクションレベルを高めるための異なる方法が知られている。一つのアプローチは偽型化を利用することであり、他の血清型に由来するcapタンパク質を使用して、AAV-2ゲノムをパッケージングする。例えば、aav-5のcap遺伝子でそのAAV-2の対応物を置換することにより、Mingozzi et alは、安定なトランスダクションを肝細胞の約15%にまで増大させた(Mingozzi, et al., J. Virol. 76(20): 10497-502 (2002))。Thomas et alは、AAV8キャプシド遺伝子を使用して、インビボでマウス肝細胞の30%以上にトランスダクションした(Thomas, et al., J. Virol. in press)。Grimm et al(Blood. 2003-02-0495)は、組織培養研究のために、AAV-1、AAV-3B、AAV-4、AAV-5およびAAV-6を用いてAAV-2を網羅的に偽型化した。導入遺伝子発現の最も高いレベルは、AAV-6で偽型化されたビリオンによって誘導され、AAV-2よりも約2000%高い導入遺伝子発現を生じた。従って、本発明は、高いトランスダクションレベルを達成すると共に、RNAiマルチプロモーター発現構築物の発現での対応する増大を達成するために、偽型化されたAAVウイルスの使用を考慮している。
【0046】
本発明のマルチプロモーターRNAi発現構築物に関して有用なもう一つのウイルスデリバリー系は、レトロウイルス科由来のウイルスに基づくものである。レトロウイルス科は、二つの独特な特徴をもった一本鎖RNA動物ウイルスを含んでいる。第一に、レトロウイルスのゲノムは、RNAの二つのコピーからなる二倍体である。第二に、このRNAは、ビリオン関連の酵素である逆転写酵素によって二本鎖DNAに転写される。次いで、前記二本鎖DNAまたはプロウイルスは、宿主のゲノム中に組込まれることができ、宿主ゲノムの安定に組込まれた成分として親細胞から子孫細胞へと受け継がれることができる。
【0047】
幾つかの実施態様において、レンチウイルスは、本発明において使用するためのレトロウイルス科の好ましいメンバーである。レンチウイルスベクターは、水疱性ステアタイトウイルス(vesicular steatites virus)糖タンパク質(VSF-G)を用いて偽型化されることが多く、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒト後天的免疫不全症候群(AIDS)の病原因子;ヒツジの脳炎(ヴィスナ)または肺炎を引起すこすヴィスナ−マエディ;ウマにおいて自己免疫性の溶血性貧血および脳障害を引起すウマ感染性貧血ウイルス(EIAV);ネコにおいて免疫不全を引起すネコ免疫不全ウイルス(FIV);ウシにおいてリンパ節腫脹およびリンパ球増加症を引起すウシ免疫不全ウイルス(BIV);および非ヒト霊長類において免疫不全および脳障害を引起すサル免疫不全ウイルス(SIV)に由来する。HIVに基づくベクターは、一般には親ゲノムの5%未満を保持し、ゲノムの25%未満が構築物の中に組込まれ、これにより復帰的複製能力をもったHIVが発生する可能性を最小化する。下流の長い末端反復配列における調節要素の欠失を含み、ベクターの可動性のために必要なパッケージング信号の転写を除去した自己不活性化ベクターの開発によって、生物学的安全性は更に増大されている。
【0048】
レトロウイルスRNAゲノムの逆転写は、細胞質の中で生じる。C型レトロウイルスとは異なり、他のウイルス因子との複合体(前開始複合体として知られる)の中のレンチウイルスcDNAは、核膜を横切って転移して非分裂細胞をトランスダクションすることができる。ウイルスcDNAの構造的特徴部分(DNAフラップ)は、効率的な核移入に寄与するようである。このフラップは、ウイルス性ポリメラーゼ遺伝子に位置する中央のポリプリン列(cPPT)の完全性に依存し、従って殆どのレンチウイルス由来のベクターはこの配列を保持している。レンチウイルスは広範な親和性、低い炎症能を有しており、組込みベクターを生じさせる。主要な制限は、組込みが、幾つかの適用において発癌性を誘導することである。レンチウイルスベクターを使用することの主な利点は、殆どの組織型および細胞型において遺伝子導入が持続性であることである。
【0049】
RNAi作用媒介物を発現させるために使用されるレンチウイルスに基づく構築物は、好ましくは、レンチウイルスの5’および3’の長い末端反復配列(LTR)由来の配列を含んでいる。より好ましくは、前記ウイルス構築物は、レンチウイルス由来の不活性化された、または自己不活性化性の3’LTRを含んでいる。この3’LTRは、当該技術における何れか既知の方法によって自己不活性化されてよい。好ましい実施態様において、前記3' LTRのU3要素は、そのエンハンサー配列、好ましくはTATAボックス、Sp1およびNFκB部位の欠失を含んでいる。自己不活性化3’LTRの結果として、宿主ゲノムに組込まれるプロウイルスは5' LTRを含むであろう。このLTR配列は、如何なる種由来の如何なるレンチウイルスに由来するLTR配列であってもよい。レンチウイルスに基づく構築物はまた、MMLVまたはMSCV、RSVまたは哺乳類遺伝子のための配列を組込んでもよい。加えて、レンチウイルス5' LTR由来のU3配列は、ウイルス構築物中においてプロモーター配列で置換してもよい。これは、パッケージング細胞株から回収されるウイルスの力価を増大させる可能性がある。エンハンサー配列を含めることもできる。
【0050】
本発明のマルチプロモーターRNAi発現カセットを問題の細胞にデリバリーするために、当業者に既知の他のウイルス系または非ウイルス系を使用してもよく、これには、宿主細胞への組込みを介してウイルスにコードされた導入遺伝子をin vivoで安定に維持する遺伝子欠損アデノウイルストランスポゾンベクター(Yant, et al., Nature Biotech. 20:999-1004 (2002)参照);シンドビスウイルスまたはセムリキフォーレストウイルス(Semliki forest virus)由来の系(Perri, et al, J. Virol. 74(20):9802-07 (2002)参照); ニューキャッスル病ウイルスまたはセンダイウイルス由来の系;または細菌DNA配列を欠いたミニ環状DNAベクター(Chen, et al., Molecular Therapy. 8(3):495-500 (2003)参照)が含まれるが、これらに限定されない。米国公開公報2004/0214329に記載されたミニ環状DNAは、持続的な高レベルの核酸転写を提供するベクターを開示している。前記環状ベクターは、発現サイレンシングベクター配列を欠失していることを特徴とし、また発現カセットに加えて、一方向性の部位特異的組換え産物配列を含んでよい。
【0051】
更に、二以上のウイルス系の有用な性質を組合せるために、ハイブリッドウイルス系を使用してもよい。例えば、野生型AAVの部位特異的組み込み機構を、アデノウイルスの効率的内部移行および核ターゲッティング特性と組合せてもよい。AAVは、アデノウイルスまたはヘルペスウイルスの存在下で生産的複製サイクルを受ける;しかし、ヘルパー機能の不存在下では、AAVゲノムは19番染色体上の特定の部位に組込まれる。AAVゲノムの組込みには、AAVのrepタンパク質の発現を必要とする。従来のAAVベクターは、repを含む全てのウイルスゲノムを欠失しているので、19番染色体中に特異的に組込まれることができない。しかし、この特徴は、適切なハイブリッド系において活用され得る。加えて、ウイルスデリバリー系において望ましい性質を達成するために、部位特異的組換えを可能にする遺伝子要素のような、非ウイルス性ゲノム要素を使用してもよい。
【0052】
図1の工程400において、マルチプロモーターRNAi発現構築物は、ウイルス粒子の中にパッケージされる。ゲノムがウイルス性マルチプロモーターRNAi発現構築物のコピーを含む感染性ウイルス粒子を作製するために、当該技術において知られた如何なる方法を使用してもよい。図4Aおよび図4Bは、本発明のマルチプロモーターRNAi発現構築物を、デリバリー用のウイルス粒子の中にパッケージングするための別の方法を示している。図4Aの方法は、ウイルス性のマルチプロモーターRNAi発現構築物をウイルス粒子の中に組み込むために必要とされるウイルスタンパク質、並びに特定のウイルスデリバリー系のために必要とされまたは好ましい他の配列(たとえば複製、構造タンパク質およびウイルスアセンブリーのために必要な配列)、および組織導入のためのウイルス由来リガンドまたは人工リガンドを、transに安定に発現するパッケージング細胞を利用する。図4Aでは、マルチプロモーターRNAi発現カセットがウイルスデリバリーベクターに連結され(工程300)、得られたウイルス性マルチプロモーターRNAi発現構築物を使用して、パッケージング細胞にトランスフェクションする(工程410)。次いで、パッケージング細胞はウイルス配列を複製し、ウイルスタンパク質を発現し、ウイルス性マルチプロモーターRNAi発現構築物を感染性ウイルス粒子の中にパッケージングする(工程420)。パッケージング細胞株は、ウイルスタンパク質を発現できる如何なる細胞でもよく、293、HeLa、A549、PerC6、D17、MDCK、BHK、ビングチェリー、フェニックス、Cf2Th、または当業者に既知もしくは当業者が開発した何れか他の株が含まれるが、これらに限定されない。一つのパッケージング細胞株は、例えば米国特許第6,218,181号に記載されている。
【0053】
或いは、必要なウイルスタンパク質を安定に発現しない細胞株を、機能的粒子の効率的な産生を達成するために、二以上の構築物で同時トランスフェクションすることができる。前記構築物の一つは、ウイルス性マルチプロモーターRNAi発現構築物を含み、他のプラスミドは、前記細胞に機能的ウイルス(複製および構築物パッケージング)を産生させるために必要なタンパク質ならびに他のヘルパー機能をコードする核酸を含んでいる。図4Bに示した方法は、パッケージングのために、ウイルス複製遺伝子およびパッケージング遺伝子を安定に発現しない細胞を利用する。この場合、プロモーターRNAi発現構築物は、ウイルス性デリバリーベクターに連結され(工程300)、次いで、感染性ウイルス粒子の複製および産生に必要なウイルス配列を発現する1以上のベクターと共に、同時トランスフェクションされる(工程430)。この細胞はウイルス配列を複製し、ウイルスタンパク質を発現させ、ウイルス性マルチプロモーターRNAi発現構築物を感染性ウイルス粒子の中にパッケージングする(工程420)。
【0054】
パッケージング細胞株または複製およびパッケージング構築物は、エンベロープ遺伝子産物を発現しないかもしれない。これらの実施態様において、エンベロープをコードする遺伝子は、ウイルス性マルチプロモーターRNAi発現カセットと同時にトランスフェクションされる、別の構築物上に供給することができる。エンベロープタンパク質は、部分的にはウイルス粒子の宿主範囲の原因であるから、ウイルスを偽型化することができる。上記で述べたように、「偽型化」されるウイルスは、そのゲノムが由来するウイルス以外のウイルスに由来するエンベロープタンパク質をもったウイルス粒子である。当業者は、使用されるウイルスデリバリー系および標的となる細胞のための適切な偽型を選択することができる。特別な宿主範囲を与えることに加えて、選択された偽型は、ウイルスを非常に高濃度にまで濃縮することを可能にする。或いは、ウイルスは、感染を特定の種に限定する狭宿主性エンベロープタンパク質で偽型化することができる(例えば、狭宿主性エンベロープは、例えばマウス細胞のみの感染を可能にし、広宿主性エンベロープは、例えばヒト細胞およびマウス細胞の両方の感染を可能にする)。加えて、遺伝子的に改変されたリガンドは、肝細胞のためのアシアロ糖タンパク質、または受容体媒介性結合のような細胞特異的ターゲッティングのために使用することができる。
パッケージング細胞株で産生された後に、前記マルチプロモーターRNAi発現カセットを含むウイルス粒子は精製および定量(力価測定)される。精製の基本的な方法には、密度勾配遠心分離法、または、好ましくはカラムクロマトグラフィー法が含まれる。
【0055】
本発明のウイルス性マルチプロモーターRNAi発現カセットは、特に疾患を治療するための治療剤として、または疾患を予防するためのワクチンとして有用である。例えば、マルチプロモーターRNAi発現構築物を癌細胞または腫瘍の中に導入して、発癌性/腫瘍原性の発現型維持に必要な遺伝子の発現を阻害することができる。同様に、マルチプロモーターRNAi発現構築物を、ウイルスのような病原体に感染した細胞に導入して、前記病原体の維持に必要な1以上の遺伝子の発現を阻害することができる。疾患または他の病態を防止するために、マルチプロモーターRNAi発現構築物は、前記疾患または病態の開始に必要な遺伝子を標的とするワクチンとして使用することができる。
【0056】
本発明のウイルス性マルチプロモーターRNAi発現構築物は、固形腫瘍および白血病を含む癌の治療に使用することができ、これにはアプドーマ(apudoma)、分離腫(choristoma)、鰓腫(branchioma)、悪性カルチノイド症候群、カルチノイド心疾患、癌腫(例えばウオーカー癌、基底細胞癌、基底有棘細胞癌、ブラウン−ピアス癌、腺管癌、エールリッヒ腫瘍、インサイチュー癌、クレブス2癌、メルケル細胞癌、粘液性癌腫、非小細胞肺癌、燕麦細胞癌、乳頭状癌、硬性癌、細気管支癌、気管支原生癌、扁平上皮癌、および移行上皮癌)、組織球性疾患、白血病(例えばB細胞性、混合細胞性、ヌル細胞性、T細胞性、慢性T細胞性、HTLV-II関連、急性リンパ球性、慢性リンパ球性、肥満細胞性、および骨髄性)、悪性組織球増殖症、ホジキン氏病、免疫増殖性小腸疾患、非ホジキン氏リンパ腫、プラスマ細胞腫、細網内皮症、悪性黒色腫、軟骨腫、軟骨肉腫、線維腫、線維肉腫、巨細胞腫,組織球腫、脂肪腫、脂肪肉腫、中皮腫、粘液腫、粘液肉腫、骨腫、骨肉腫、ユーイング肉腫、骨膜腫、腺線維腫、腺リンパ腫、癌肉腫、脊索腫、頭蓋咽頭腫、未分化胚細胞腫、過誤腫、間葉腫、中腎腫、筋肉腫、エナメル上皮腫、セメント質腫、歯牙腫、奇形腫、胸腺腫、栄養膜腫瘍、腺癌、腺腫、胆管腫、コレステリン腫、円柱腫、嚢胞腺癌、嚢胞腺腫、顆粒膜細胞腫、半陰陽性卵巣腫瘍、肝細胞癌、汗腺腫、島細胞腫、ライディヒ細胞腺腫、乳頭腫、セルトーリ細胞腫、卵胞膜細胞腫、平滑筋腫、平滑筋肉腫、筋芽細胞腫、筋腫、筋肉腫、横紋筋腫、横紋筋肉腫、脳室上衣細胞腫、神経節細胞腫、神経膠腫、髄芽細胞腫、髄膜腫、神経鞘腫、神経芽細胞腫、神経上皮腫、神経線維腫、神経腫、傍神経節腫、非クロム親和性傍神経節腫、被角血管腫、好酸球増加随伴性血管類リンパ組織増殖症、硬化性血管腫、血管腫症、グロムス血管腫、血管内皮腫、血管腫、血管外皮細胞腫、血管肉腫、リンパ管腫、リンパ管筋腫症、リンパ管肉腫、褐色細胞腫、松果体腫、癌肉腫、軟骨肉腫、葉状嚢肉腫、線維肉腫、血管肉腫、平滑筋肉腫、白血肉腫、脂肪肉腫、リンパ管肉腫、筋肉腫、ミキソ肉腫、卵巣癌、横紋筋肉腫、肉腫(例えばユーイング肉腫、実験肉腫、カポシ肉腫、および肥満細胞肉腫)、新生物(例えば、骨、乳房、消化系、結腸直腸、肝臓、膵臓、下垂体、精巣、眼窩、頭および首、中枢神経系、聴覚系、骨盤、気道、泌尿生殖器)、神経線維腫症、および子宮頸部形成異常が含まれる。また。細胞が不死化したまたは形質転換した他の状態の治療のために使用してもよい。加えて、本発明のマルチプロモーターRNAi発現構築物は、化学療法、外科的介入、寒冷療法、温熱療法および放射線療法などのような他の治療様式と組合せて使用することができるであろう。
【0057】
病原体の複製、病原体の伝染、または感染の維持に関与する遺伝子は、前記ウイルス性マルチプロモーターRNAi発現構築物による標的となり得る。このようなウイルス性マルチプロモーターRNAi発現構築物 は、病原体による感染の危険に曝される細胞を治療するため(即ち、ワクチン)、または既に感染している細胞を治療するために使用することができる。前記マルチプロモーターRNAi発現構築物および本発明の方法によって治療され得る病原体には、パルボウイルス科、パポバウイルス科(パピローマウイルス等を含む)、アデノウイルス科、ヘルペスウイルス科(1型〜7型のヘルペスウイルスを含む)、ポックスウイルス科、ヘパドナウイルス科、ピコルナウイルス科(コクサッキーAおよびコクサッキーBウイルス、並びにECHOウイルス)、カリシウイルス科、レオウイルス科、トガウイルス科(脳炎ウイルス)、フラビウイルス科(脳炎ウイルス)、アレナウイルス科、レトロウイルス科、ブンヤウイルス科、コロナウイルス科、オルトミクソウイルス科、パラミクソウイルス科、ラブドウイルス科、およびフィロウイルス科が含まれ、また細菌は、一般にはマイコバクテリア、真菌、熱帯熱菌、およびトリパノソーマ住血吸虫等である。
【0058】
図1の工程500において、マルチプロモーター RNAi発現構築物は治療すべき細胞にデリバリーされる。本発明のマルチプロモーターRNAi発現構築物は、in vitroまたはex vivoで細胞へ導入することができ、続いて治療を行うために動物の中に配置されるか、或いは、 in vivo投与によって生物、器官または細胞の中に直接投与することができる。ウイルス感染によるデリバリーは好ましいデリバリー方法である;しかし、本マルチプロモーターRNAi発現構築物をデリバリーする如何なる適切な方法を用いてもよい。このマルチプロモーターカセットを含むベクターは、何れか便利なプロトコールを使用して哺乳動物宿主に投与することができ、このような多くの異なるプロトコールが当該技術において知られている。
【0059】
核酸は、ウイルス感染、マイクロインジェクション、または小胞体の融合を含む多くの経路の何れかによって、組織または宿主細胞の中に導入すればよい。また、Furth et al., Anal. Biochem. 115(205): 365-368 (1992)に記載されているようにして、筋肉内投与のために注射を使用してもよい。核酸は金微粒子上に被覆されて、粒子衝撃装置または文献(例えば、Tang et al., Nature. 356:152-154 (1992))に記載された「遺伝子銃」によって皮膚内にデリバリーされてもよく、ここでは金の微小銃弾がDNAで被覆され、次いで皮膚細胞の中に撃ち込まれる。
【0060】
本発明の方法のための別のデリバリー方法は、Davis et.alの米国特許第6,509,323号に記載されたシクロサート(Cyclosert;商標名)技術を含むものである。シクロサート(商標名)技術プラットホームは、シクロデキストリンとして知られるグルコースのカップ形の循環式反復分子に基づいている。シクロデキストリン分子の「カップ」は、他の分子と共に「封入複合体」を形成することができ、シクロサート(商標名)を他の部分と組合せて安定性を高め、またはターゲッティングリガンドを添加することを可能にする。加えて、シクロデキストリンは、一般にはヒトにおいて安全であることが分かっており(個々のシクロデキストリンは、現在ではFDAが承認した経口およびIV薬物における可溶性を高めている)、また低コストで大規模に医薬等級品を購入することができる。これらのポリマーは著しく水溶性であり、反復投与したときでも、治療的投与量において無毒かつ非免疫原性である。前記ポリマーは、広範囲の小分子治療剤を、リポソームよりも顕著に高い薬物装荷量で担持するために容易に適合させることができる。
【0061】
本マルチプロモーターカセットを含むベクターは、それらを、望ましい場合には可溶化剤、等張化剤、懸濁剤、乳化剤、安定剤、および保存剤と共に、水性溶媒、または油、合成脂肪酸グリセリド、高分子脂肪酸エステル、またはプロピレングリコールのような非水生溶媒の中に溶解、懸濁または乳化させることによって、注射または投与のための製剤に処方することができる。
加えて、本マルチプロモーターカセットを含むベクターは、適切な医薬的に許容可能な適切なキャリアまたは希釈剤と組み合わせることによって、医薬組成物に処方することができる。医薬投与量形態において、前記マルチプロモーターカセットを含んでなるベクターは、単独で、または他の医薬的有効成分と共に組合せて投与することができる。当業者は、前記マルチプロモーターカセットを含むベクターのための投与量レベルが、デリバリー担体、標的細胞へのトランスダクションの相対的容易さ、標的細胞におけるRNAi種の発現レベルの関数として変化するであろうことを容易に理解するであろう。
【0062】
実施例
本発明のマルチプロモーターRNAi発現構築物で治療できる疾患の一つはC型肝炎ウイルス(HCV)感染である。疾病管理予防センターから集めた統計に基づくと米国民のおよそ2%−400万人近い人々が現在HCVに感染している。最初、HCVに感染した個人の大部分は何の症状も示さない;しかしながら、80%を越える人々が慢性および進行性肝疾患に移行し、ついには肝硬変または肝細胞がんになる。HCVは米国において肝移植の先行指標であり毎年8,000から10000人の米国民の死をもたらす。世界的規模では、世界保健機構は1億7000万人を超える感染患者がいると見積もっており、ある国々の一般住民の10〜30%という高い感染率になっている。
HCVはフラビウイルス科に属する、エンベロープを有するプラス一本鎖のRNAウイルスである。HCVの感染サイクルは典型的にはレセプター媒介結合によるウイルス粒子の細胞への侵入およびインターナリゼーションから始まる。細胞質におけるアンコーティング後、ゲノムを含むRNAプラス鎖は宿主細胞の翻訳装置と直接に相互作用し得る。5'キャップメチル化を欠くので、このRNAは5'非翻訳領域(UTR)において長い二次構造を形成し、これが内部リボソームエントリー部位(IRES)として機能し、翻訳過程の最初の工程としての40Sサブユニットの直接結合が可能になる。
【0063】
およそ9600ヌクレオチド長のHCVゲノムはポリタンパク質と呼ばれる単一の長いオープンリーディングフレームをコードしている(図8Aに示した)。ウイルスタンパク質はポリタンパク質から連結した前駆体として生成され、続いて種々のウイルスおよび細胞の酵素によって成熟産物へ切断される。子孫ウイルス粒子において不可欠な構造構成要素であるために構造タンパク質と呼ばれるコアおよびエンベロープタンパク質がこれらの遺伝子にコードされている。RNA依存性RNAポリメラーゼのような不可欠な機能を提供する非構造タンパク質も生成される。ウイルス複製装置が感染細胞の細胞質中で確立され、プラス鎖RNAをマイナス鎖中間体に転写する。従って、HCVゲノムRNAは自身の複製のための鋳型としておよびウイルスにコードされるタンパク質の翻訳のためのメッセンジャーRNAとしての両方として機能する。マイナス鎖はRNAのプラス鎖へ転写しなおされ、それによって細胞内でプラス鎖のコピー数が増幅される。この段階で、プラス鎖は宿主細胞の翻訳装置と再び相互作用することができ、または、十分な構造タンパク質が蓄積されているならば、ウイルス粒子にパッケージングされる。細胞から出た後、ウイルスはその感染サイクルを繰り返す。
【0064】
実施例1:shRNA配列のin vivoデリバリーのためのAAV-2発現ベクターの開発
感染性粒子によるshRNAデリバリーのテストの前に、適切な発現プラスミドを構築して評価する。マルチプロモーターRNAi発現構築物を設計する際に考慮することのできる少なくとも2つの特徴がある:1)前記構築物は子孫ウイルス粒子に効率的にパッケージングされねばならない;2)前記プラスミドは高レベルのshRNA発現を生じさせなければならない。さらに、種々のマルチプロモーターRNAi発現構築物をテストするため、トランスフェクション及びトランスダクション効率を評価する手段がなければならない。
repおよびcap配列を除去したAAV-2ベクターはウイルス性RNAi発現構築物の骨格(以下rAAVベクターと呼ぶ)を与える。このベクターはAAV研究で広く使用されており効率的なパッケージングの必要条件はよく知られている。U6およびH1プロモーターがshRNA配列の発現に使用されるが、各プロモーターに独立に駆動される個々のshRNA阻害レベルに大きな相違があることが報告されている。しかしながら、そのような変動が見られた場合にはこのベクター構築物はプロモーターを容易に交換できるものである。
【0065】
実質的にどのウイルスデリバリー系もそうであるように、rAAVベクターは、効率的にパッケージングされるためにはあるサイズ基準を満たさなければならない。一般に、rAAVベクターは長さ4300-4900ヌクレオチドでなければならない(McCartyら、Gene Ther. 8:1248-1254 (2001))。rAAVベクターがこの限界を下回る場合は、「スタッファー」断片を追加しなければならない(Muzyczkaら、Curr. Top. Microbiol. Immunol. 158: 970129 (1992))。あるいは、rAAVマルチプロモーターRNAi発現構築物に2以上のマルチプロモーター発現カセットを含めることができる。
本明細書に記載のrAAVベクター態様において、各プロモーター/RNAi/ターミネーター構成要素は長さがおよそ400ヌクレオチドであり、発現カセットあたり多くのプロモーター/RNAi/ターミネーター構成要素を含めるための十分な余地が残されている。あるいは、rAAV発現構築物のトランスフェクション効率および感染性粒子によってデリバリーされるrAAV発現構築物による標的細胞のトランスダクションの定量を可能にするため、1以上の選択可能マーカーカセットをrAAVマルチプロモーターRNAi発現構築物に操作して導入することができる。
【0066】
最初のテスト発現構築物は、レポーター構築物からのルシフェラーゼ活性を阻害する能力が示されている配列(Elbashirら、Embo. J. 20(23): 6877-6888(2001)参照)から設計したshRNA種の発現を駆動する。プロモーター配列、shRNA配列、ターミネーター配列を含むRNAiカセットの要素は短く、長い相補的オリゴヌクレオチドを用いて独立にde novoにアッセンブルされ次にマルチクローニング部位を利用してウイルスベクターにクローン化される。ルシフェラーゼをコードする商業的に入手可能な発現プラスミドは、(図5に示すように)shRNAが標的配列をダウンレギュレーションする能力があることを確認するためのレポーターとして機能する。
ルシフェラーゼに対するshRNAは従前に評価されているが、in vivoで構築物をテストするに先だってrAAV-デリバリーされるshRNAの効率をin vitroで評価する。テストおよびレポーター構築物を標準的技術を用いて許容細胞へトランスフェクションする。ルシフェラーゼ特異的shRNAを無関係のshRNA配列に置換したrAAV発現構築物をネガティブコントロールとしてこの実験で使用する。蛍光顕微鏡を用いて選択マーカーのレベルを評価することによってトランスフェクション効率の相対百分率を直接見積る。shRNAの阻害活性を評価するため、ルシフェラーゼ活性を標準的な市販のキットを用いて測定する。あるいは、並行実験プレートから収集して精製したRNAに対して定量的リアルタイムPCR解析(Q-PCR)を行う。無関係のshRNA種で処理した細胞の溶解物中に見られる活性に比較して90パーセントよりも大きく低下した活性は、そのshRNAが高度に機能的であることの指標である。
【0067】
続いての実験は、Nature 418:38-39(2002)のMcCaffreyらの仕事と同様に、マウス肝臓にトランスフェクションされたshRNAのルシフェラーゼレポーター系に対する効果を評価するために行う。ハイドロダイナミックトランスフェクション法(高圧尾静脈注入)によってマウスにデリバリーされた核酸は主として肝臓に局在する。培養細胞において同時トランスフェクションを支配する原理と全く同様に、混合物として複数のプラスミドの同時注入はしばしば同じ細胞への全ての発現構築物の導入を可能にする。従って、尾静脈注入法は肝臓内の肝細胞の5〜40%しかトランスフェクションしないとよく記載されているが(McCaffreyら、Nature Biotech. 21(6): 639-644 (2003))、同時注入により同じ細胞へのレポーター系および発現構築物のデリバリーが可能となる。
【0068】
ルシフェラーゼを標的とするshRNA配列を保持するrAAv発現構築物をルシフェラーゼ遺伝子をコードするレポーター構築物と同時注入する。ネガティブコントロールを与えられる動物では、無関係のshRNAを保持する発現構築物が前記レポーター構築物と同時注入される。7日後、マウスを犠牲にし肝臓を集める。ルシフェラーゼ活性を肝臓の一部から作成したライセートで測定する。肝臓の残りの部分はQ-PCR測定およびデータの正規化のためにマーカータンパク質発現を測定するための組織学的解析に使用する。トランスフェクション効率を評価するための別の方法にはヒトα1-アンチトリプシン(hAAT)(Yantら、Nature Genetics. 25: 35-41 (2000), McCaffreyら、Nature Biotech. 21(6): 639-644 (2003)も参照されたし)のような分泌タンパク質用の3番目のマーカープラスミドと同時注入されたマウスの血清のELISA測定が含まれ得る。
裸のDNAプラスミドの同時トランスフェクションを用いてin vitro培養細胞系およびin vivoマウスモデルの両方において発現構築物が機能することが明らかになったならば、感染性粒子にパッケージングされたrAAV発現構築物でテストを開始する。感染性粒子は、1)ルシフェラーゼに対するshRNA(AAV ITRに挟まれている)を発現するrAAV構築物;2)AAV repおよびcap遺伝子をコードする構築物;および3)高力価のウイルスを生産するために必要なヘルパーアデノウイルス遺伝子を含む発現構築物、を含む3つの別個の発現構築物の同時トランスフェクションを必要とする商業的に入手可能なAVV無ヘルパー系によって作製される。標準的な精製手順により、実験で使用するためのウイルス粒子が用意される。
【0069】
レポーター系をマウス肝臓中に確立した後、マウスにrAAV粒子を注入できるようになる。ハイドロダイナミックトランスフェクションを用いて、ルシフェラーゼレポーター構築物、および動物ごとのトランスフェクション効率の相違を制御するためのhAAT用の発現プラスミドをデリバリーする。レポーター活性の十分なレベルが達成されるようにマウスを数日間回復させる。
ルシフェラーゼレポーター活性が肝臓において確立された後、rAAV粒子を門脈または尾静脈注入によって正常なC57Bl/6マウスに注入する。無関係のshRNA発現構築物を保持するrAAV粒子はネガティブコントロールとして使用される。最初、マウスにかなり高用量(2x1012ベクターゲノム(vg))を注入し、用量応答曲線を作製するため続く実験では低下させる。7日から10日後、マウスを犠牲にし、肝臓を集め血清サンプルを集める。肝臓ルシフェラーゼ活性及びRNAの相対レベルを、上述したルシフェラーゼアッセイ及びQPCR法を用いて、単離した肝臓から測定する。更に、肝臓組織の連続切片中でマーカータンパク質を測定することによってトランスダクションの効率を評価する。
【0070】
実験の結果は広い範囲にわたるであろう。ハイドロダイナミックトランスフェクション法は肝細胞の5〜40%のトランスフェクションを生じるであろうことが確立されている。AAV-2デリバリー法による肝臓細胞のトランスダクションは5〜10%のトランスダクション効率であることが示されている。AAVは最初の尾静脈注入法によってトランスフェクションされた肝細胞と同じ集団を優先的にトランスダクションするが、各技術によって影響される細胞の部分集団が重ならない可能性がある。前者が起こる場合には、無関係のshRNA種でトランスダクションされたマウスに比較してルシフェラーゼ活性の低下が見られる。後者が起こる場合は、ルシフェラーゼ活性の低下が全く見られない。
三重発現構築物によってデリバリーされるAAV粒子がin vitroでルシフェラーゼ-HCV融合レポーターを阻害することを確認しなければならない。許容組織培養細胞を図9に記載したレポーター構築物の一つでトランスフェクションする。さらに、各同時トランスフェクション混合物にhAATをコードするプラスミドを補充する。48時間のインキュベーション後、HCVに対する三重プロモーターshRNA発現プラスミドを保持する感染性粒子を細胞に投与する。3種の無関係のshRNA種を発現する三重プロモーター構築物AAV粒子はネガティブコントロールとして機能する。ルシフェラーゼ活性の測定を用いてAAV-デリバリーshRNAが高度に機能的であることを確認する。
【0071】
実施例2:肝臓組織のAAVトランスダクションの効率を増大させるための改変
AAVベースのベクターは所望の配列を肝細胞へデリバリーできることが示されているがそれらの組織内で起こるトランスダクションの相対レベルは伝統的にかなり低いものであった。第IX血液因子のデリバリーおよび発現のためにAAV-2を使用する血友病の臨床研究についてはこれは重大な問題ではない。血友病の治療のためには分泌タンパク質レベルを治療レベルにまで補充することだけが重要である。そのような補充は所望のタンパク質を有意なレベルに発現するこのできる小数のトランスダクション細胞から起こりえるであろう。しかしながら、RNAi作用の機序は細胞内機構でありその効果は直接には細胞から細胞へと伝搬せず、shRNAを発現するAAVを治療薬として使用するためにはトランスダクション効率を上げなければならない。
McCartyらは、キャプシド内に同じ発現カセットのプラス鎖とマイナス鎖の両方を有する自己相補性AAVベクター(scAAV)を作製することができた(Gene Ther. 8: 1248-1254 (2001))。これは5' ITRを変異させ、3' ITRを無傷で残すことによって達成された。末端解離部位他の非必須AAV配列を変異または欠失させ、それによって野生型AAVとこの構築物との可能な組換えを排除することによって、複製が3' ITRから開始するDNA鋳型が作製させる。複製装置が5' ITRに達したならば、解離は起こらず複製は3' ITRへ継続する。生じた産物はプラス鎖と相補的なマイナス鎖の両方を有し、なお効率的にパッケージングされる。scAAVベクターを使用して、肝臓細胞のトランスダクションは全肝臓細胞の30%に増大した(Fuら、Mlec Therapy. 8(6): 911-7 (2003))。大槽内デリバリーした場合、50%を越える小脳のプルキニエ細胞がscAAV粒子によってトランスダクションされた。Thomasらは、マウス肝臓に等価な用量で注入した場合、自己相補ベクターは対応する一本鎖AAV対応物よりもマウス肝臓において50倍高いルシフェラーゼ導入遺伝子発現を生じさせることを示した(Thomasら、J. Virol.(近刊))。若干落ちるものの、これらのベクター間の発現の相対的相違は注入およそ1年後に20倍に維持された。
【0072】
ここでは同様なストラテジーを用いた。rAAVマルチプロモーターRNAi発現構築物のパッケージングに伴うサイズ制限のため、治療用配列のデリバリーに使用し得るスペースの量(他のウイルスデリバリー系に比較して十分に小さい)はscAAVを使用することによって半分になる。従って、4500ヌクレオチドをパッケージングできるのではなく、制限は2250ヌクレオチドに下がる。それにも関わらず、本マルチプロモーターRNAi発現カセットのサイズはそのような構築物を可能とする。scAAVの主要な要素の図解は図6に示してある。
AAVデリバリー系の他の改変もトランスダクション効率を劇的に増大させるために利用されてきた。それらには他の血清型からのCapタンパク質を有するrAAV-2ベクターゲノムをパッケージングすることによって偽型ウイルス粒子を作製することが含まれる。全ての血清型の中でもっともよく解析されているので、AAV-1からAAV-6までのCapタンパク質がAAV-2ベクターを偽型化するためにもっとも一般的に使用されている。偽型化ストラテジーを使用することによって得られる利益があっても、肝細胞のトランスダクション効率の閾値は全集団のわずかに15%までしか増加しないであろう。しかしながら、多数の他の血清型のAAVが単離および同定されているが、それは評価できる程度に特徴解析されていない。例えば、最初にアカゲザルの心臓組織から単離されたAAV-8はそれらの一つである。新規なキャップタンパク質のトランスダクションに対する影響を決定するため、一本鎖AAV-2ゲノムをAAV-8capに偽型化した偽型ウイルスが作製された。このベクターは感染性粒子の用量を増加させて注入した後のマウス肝臓のトランスダクションの相対効率を評価するためにLacZゲノムを保持している。表1に結果のまとめ(Thomasら、J Virol. 78(6):3110-22 (2004))を示す。
【0073】
表1.AAV-2/2およびAAV-2/8 用量応答 (% β-gal陽性肝細胞)

【0074】
注入する対照AAV-2/2粒子の容量が増加すると、肝細胞のトランスダクションが中程度に増加した;しかしながら、トランスダクションの上限は10%制限付近に止まっている。驚いたことに、偽型AAV-2/8粒子は最も低い用量(AAV-2/2対応物よりも30-80倍低い)の粒子投与においても8%の肝細胞をトランスダクションした。さらに、トランスダクション効率の用量応答増加は、最も高い用量においてAAV-2/2のトランスダクション効率の限界を越えて97%を上回った。この範囲のトランスダクション効率は組織内の細胞にRNAiをデリバリーすることを可能にする。
【0075】
AAVの類似の改変をrAAV RNAi発現構築物に施す。これらの単純な改変を取り込んだ後、マウスモデル系でテストするためにウイルスのストックを作製する。以下のrAAV RNAi実験ウイルスストックをテストする:一本鎖AAV-2/2;一本鎖AAV-2/8;自己相補性AAV-2/2;および自己相補性AAV-2/8。
無関係のshRNA配列を発現するrAAVベクターを保持する対応するウイルス粒子を作製し、陰性対照として使用する。ルシフェラーゼ活性の相対レベルの大きな低下はトランスダクション効率の増加と相関する。
【0076】
実施例3A:ルシフェラーゼ-HCV融合プラスミドに対するRNAi作用媒介物の選択及びテスト
HCVに対する治療剤として有用なshRNAの選抜は簡単な命題ではない。エスケープ変異体の出現という問題に加えて、高い変異率はウイルスを保持する感染個体の集団内で広範囲の配列相違を生じさせ、ヌクレオチド配列内で31-34%程度の遺伝子が相違が生じる。サブタイプ(任意のある遺伝子型内の種)は完全長ゲノム配列比較に基づくと20〜23%異なり得る。従って、高い保存性を有するウイルスゲノム領域を同定し、最も広い治療用途を保証するために選択する。どのように配列をアラインメントするか、および、治療的に関連する領域を選択するかの例として、HCV遺伝子型1bのウイルスに対応する30の完全長配列を公共データベースから入手し、Jotun Hein MethodおよびMdgAlign解析ソフトウエァ(DNASTAR)を用いてアラインメントする。5' UTR中の領域(ヌクレオチド75-112番)のように高い保存性を有する領域を同定した。
【0077】
候補配列を選別するため、公表されている全ての独立な完全長またはほぼ完全長のHCV配列のアラインメントを行った;現在、全ての既知の遺伝子型を代表する入手可能なそのような配列が200以上も存在する。RNAi治療薬の選抜および開発のためのいくつかの候補領域が現在存在しており、5'および3' UTR領域はHCVゲノム中でもっとも高度に保存された領域の一つであることもよく立証されている。細胞性翻訳複合体タンパク質または制御タンパク質との立体障害の可能性のためにこれらの非コード配列が最適な配列を表してはいないかもしれないという認識にもかかわらず、Yokotaらはレプリコン系においてこの5' UTRを標的とする高度に機能的なRNAiを既に同定している(EMBO Rep. 4(6):602-603(2003))。個々の21ヌクレオチド(shRNA種内の標的化配列に対応する大きさ)内で完全な同一性を有するいくつかの領域を同定することは有益かもしれないが、今日までの解析によればそのような程度の保存性は全遺伝子型にわたっては勿論、特定された遺伝子型の種々のサブタイプ内で現れないことが示されている。従って、この選抜は80%を越える領域が完全な保存性を維持するゲノム断片を含むであろう。前臨床候補物の最終的な構築において、3つの独立なshRNAがこの配列変動性を補償し、それによって単一のデリバリービヒクル内に含まれる組み合わせ治療が可能になる。
【0078】
あるいは、全HCV遺伝子型の解析において選抜基準を満たす保存領域が同定できない場合、配列解析を遺伝子型1(1aおよび1b)に限定することもできる。遺伝子型1は合衆国の感染人口のほぼ3/4の原因であり、およびアフリカを除く全世界において支配的な遺伝子型である。加えて、現在最も効果的な抗-HCV治療、リバビリン(グアノシン類似物)とPEG化インターフェロンの組み合わせは遺伝子型1に対してかなり効果が低いが、他の遺伝子型に対してはかなり効果的である。従って、最も大きな患者集団において別の治療法に対する大きな需要が存在する。配列アラインメントは相同性しか明らかにしないので、GC相対含量や配列データベースを照会したときの交叉特異性がないことなどの他の選別基準を最終的にテストすべきRNAiの選抜の際に適用する。
【0079】
例えば、ある実験について、アラインメントをHCVサブタイプ1aおよび1bからの複数の配列についてアラインメントを行った。いくつかの保存領域がテスト用のRNAi作用媒介物を選抜するために十分な長さ(>19ヌクレオチド)があるとして同定された。5' UTRおよび3' UTR領域は最も保存された領域であった。同定された相同な領域はかなり長いので、異なる遺伝子型間でもアラインメントを行った。2つのアラインメントを合わせると、汎用的な保存領域の選別が可能になる。一連の長いA若しくはU、または、GおよびC列のようなある領域は、RNAi作用媒介物による標的化には好ましくないので考慮から外してあり、さらなる選別のための「適格」領域が残る。考慮したHCVの全遺伝子型についてのコード領域全体(オープンリーディングフレーム)中でたった一つの汎用的な保存領域が同定された;従って、ほとんどの場合において標的として選択する配列はサブタイプ1aおよび1bで保存されている配列であった。
【0080】
「適格」領域が同定されたなら、RNAi作用媒介物におけるアンチセンス鎖の5'末端がその3'末端よりも低い自由エネルギーを有していなければならないという基準を適用して個々のRNAi配列を選抜した。「隣接対自由エネルギー」則を適用して、そのようにして選択した可能なすべてのRNAi作用媒介物の5'および3'端の末端の5個のヌクレオチドについて自由エネルギーを計算した。その結果、合計30の可能なRNAi作用媒介物が同定された:5' UTR中に10個(5'-n)、オープンリーディングフレーム中に12個(C-n)、および3' UTR中に8個(3'-n)(表2参照)。HCVゲノム上のこれらのRNAi標的部位の相対的位置は図8Aに示した。

【0081】
表2:RNAi配列

** 小文字はHCV融合レプリコンにもHCVゲノムにも対応しない配列を示す










【0082】
表3.ルシフェラーゼ-HCV融合プラスミド

【0083】
選択したRNAi配列の効力をテストするため、RNAi作用媒介物をルシフェラーゼ-HCV融合プラスミドと共に培養細胞に直接デリバリーした。これらの実験で使用したルシフェラーゼ-HCV融合プラスミドの模式図は図9の左パネルに示した。このプラスミドはHCV標的配列に対応する100bpの核酸列(RNAiが由来するHCV領域)に融合したホタルルシフェラーゼタンパク質をコードする遺伝子配列を含んでいる。この100bp領域内の配列に向けられたRNAi作用媒介物は、効力がある場合、ルシフェラーゼ-HCV転写産物を分解し、従って、ルシフェラーゼ発現を低下または消滅させるであろう。表3に、使用した幾つかの対応するルシフェラーゼ-HCV融合プラスミドおよびHCV標的領域を列挙してある。
【0084】
予め合成されたsiRNA試薬をDharmacon社(Lafayete、CO)から入手した。Huh7細胞を12ウェルプレートにウェルあたり9.5x105細胞で播種し24時間後にトランスフェクションを行った。トランスフェクション時に細胞はおよそ30〜40%コンフルエントであった。350μlのOptiMEM培地(Invirogen Inc.)を15μlのNovaFECTOR(VennNova、Pompano Beach, FL)と混合し、室温にて1時間インキュベーションした。50μlのOptiMEMを0.05μgのpRL-SV40(Promega)、0.45μgのLuc-HCVレポータープラスミド、および2μlの適切なRNAi作用媒介物(20μMストック)と混合した。NovaFECTOR溶液をこのDNA/RNAi混合物に添加し、室温にて15分間インキュベーションした。細胞を一度OptiMEMでリンスし、400μlのNovaFSCTOR/DNA/RNAi混合物でトランスフェクションした。次に、細胞を5%CO2雰囲気中、37℃にて1.5時間インキュベーションした。完全培地1mlを各ウェルに添加し、さらに2.5時間インキュベーションを続き、培地を新鮮な完全培地と交換した。さらに、2日間インキュベーションを続けた。
【0085】
2日後、培地を吸引し、細胞を溶解し、製造業者(Promega、Madison, WI)のデュアルルシフェラーゼプロトコルに従ってルシフェラーゼ発現を測定した。阻害の百分率を、既知の内部標的を有しない非特異的RNAi種でトランスフェクションした細胞に対する、正規化したルシフェラーゼ相対光単位(RLU)に基づいて計算した。データは前記ルシフェラーゼ-HCV融合プラスミドで同時トランスフェクションしたpRL-SV40プラスミドからのレニラルシフェラーゼ活性の発現に基づいたトランスフェクション効率の差について正規化した。
図12は、HCVの5つの異なる100bp領域を標的とする種々のRNAi作用媒介物による相対光単位として測定したルシフェラーゼ発現の阻害の結果を示す。図13はルシフェラーゼ発現阻害の結果を示すが、図12のデータをパーセント値として表してある。これらの結果を見ると、選択した全てのRNAi作用媒介物について少なくとも50%阻害が達成されており、半分以上のプラスミドは80%より大きくルシフェラーゼ発現を阻害することが注目される
図14はHCVの5'領域中の異なる100bp部分を標的とする4つの異なるRNAi作用媒介物(5'-1、5'-2、5'-3および5'-4)をテストして行った実験結果の再現性を示す。再現性はテストした各作用因子について極めて優れていたことが注目される。
【0086】
図15は、HCVの5'領域中の異なる100bp部分を標的とする5つの異なるRNAi作用媒介物(5'-3、5'-4、5'-5、5'-6および5'-7)について、トランスフェクション後24時間および48時間におけるルシフェラーゼ発現のパーセント阻害の変化を示す。
図16は、HCVの5'領域中の異なる100bp部分を標的とする2つの異なるRNAi作用媒介物(5'-1および5'-3)、HCVの3'領域中の異なる100bp部分を標的とする5つの異なるRNAi作用媒介物(3'-1、3'-2、3'-3、3'-4および3'-5)、およびHCVのオープンリーディングフレーム内の100bpの部分を標的とする一つのRNAi(C-3)について、トランスフェクション後44時間および72時間におけるルシフェラーゼ発現のパーセント阻害の変化を示す。阻害は、感染後72時間で44時間のレベルの約10%以内に維持される。
図18は、ルシフェラーゼ-HCV融合プラスミド中のHCVゲノム内の異なる領域を標的とする種々のRNAi作用媒介物で処理したルシフェラーゼ阻害結果を示す。ルシフェラーゼ活性はRNAi作用媒介物のHuh7細胞へのトランスフェクション後48時間で測定した。このデータからRNAi作用媒介物はHCVゲノムの全ての領域を効率的に標的とすることができ、ルシフェラーゼレポーターシグナルを強く阻害することが分かる。
【0087】
実施例3B:ルシフェラーゼ-HCVレプリコン系に対するRNAi作用媒介物の選別およびテスト
HCV複製の個々の過程の多くは理解されているが、最近までこのウイルス生活環を展開できる組織培養系がなく、このウイルスの研究を困難にしていた。しかしながら、in vitroレプリコン系が開発された(例えば、Riceらの米国特許第5,585,258号;第6,427,180号および第6,127,116号参照)。レプリコンはHCVゲノムRNAの自律複製部分を含み、選抜および複製確認のためのマーカー遺伝子を含み得る。HCV-RNA構築物を連続増殖を支持し得る細胞株にトランスフェクションする。感染サイクル工程に続いて、RNAは細胞内装置によって翻訳され、ゲノムの複製に必要な適切なウイルスタンパク質および存在する場合には選抜マーカーの両方を生成する。完全長およびサブゲノムレプリコンが作製されており、機能することが示されているが、非構造タンパク質だけが絶対的である。このRNAの自律的に複製する性質は構造遺伝子の発現とは独立に維持される。完全長HCVゲノムを発現するレプリコン中に存在する場合であっても、コアタンパク質およびエンベロープタンパク質はゲノムを感染性粒子へ効率的にパッケージングすることができず、従って、このウイルスのパッケージング、放出、再侵入過程を研究するためのモデル系が存在しない。そうであっても、レプリコンはHCVが利用する生物学と装置の一部を再形成することができる。
【0088】
ルシフェラーゼまたは他のそのようなレポーターの使用に加えてまたはその代わりに、レプリコン活性のレベルは種々の他の方法によっても測定できる。HCV複製の阻害は一連の商業的に入手可能なHCV-特異的モノクローナル抗体を用いた免疫蛍光顕微鏡観察によって評価することができる。あるいは、またはそれに加えて、Q-PCRを用いて各トランスフェクション条件からのHCVゲノムRNAの相対レベルを測定することができる。
siRNAがゲノムRNAの複製を阻害する能力はルシフェラーゼ-HCV融合レプリコンによって形質転換された細胞株におけるレニラルシフェラーゼ発現を測定することによってテストする。対応する配列が無いので5つのsiRNAはサブゲノム複製系でテストすることができず、非特異的対照としてこのテストに含めた。これらのルシフェラーゼ-HCVレプリコンの模式図は図8Bと8Cに示した。細胞を96ウェルプレートに播種した:24時間のインキュベーション後、HCVレプリコン活性を阻害することが知られている(Blightら、Science. 290:1972-72 (2000))インターフェロンα2B(IFN)を特定のウェルに100ユニット/mlの濃度で添加した。さらに48時間のインキュベーション後、培地を捨て、細胞抽出物をin situで作製し、ルシフェラーゼ活性を測定した。ルシフェラーゼ活性は正確にルシフェラーゼmRNAに対応していた(データ示さず)。RNAi作用媒介物のテストにおいて、ルシフェラーゼ-HCVレプリコンを含む29Σ細胞(図8Bに示した)をHCVゲノム中の種々の領域を標的とするRNAi作用媒介物でトランスフェクションした。細胞を48時間後に集め、抽出物を作製し、ルシフェラーゼ活性の相対レベルを評価した。図19はルシフェラーゼ-HCVレプリコンの種々の領域に対するsiRNAによるルシフェラーゼ阻害の結果を示す。コード領域C-1からC-5に対するRNAi作用媒介物はルシフェラーゼ-HCVレプリコン中に標的を有さず、さらなる非特異的対照として機能する。再度、HCVゲノムの全ての領域中の標的はsiRNA作用因子の効果的な阻害部位として作用することができる。
【0089】
いくつかの高度に機能的なRNAiが選択され個々にテストされたなら、このレプリコン系を保持する細胞中へそれらを三重トランスフェクションする。1つの対照は並行に等価な数の無関係のRNAi種をトランスフェクションすることである。三重トランスフェクションの阻害活性を、ただ一つのRNAi種でトランスフェクションした一群の並行プレートの活性と比較する。
3種のRNAi作用媒介物の効果が確認され、各々対応するshRNAに対するこれらのコード配列を長い、相補的な自己アニーリングオリゴヌクレオチドから作製し、三重プロモーターAAVベクターの個々の部位にクローニングする。次にこの構築物を本明細書に記載の方法に従って、肝臓組織の高いトランスダクション効率を生じさせる系を用いてウイルス粒子へパッケージングする。この三重プロモーターカセットの各プロモーター/RNA/ターミネーター構成要素の全長は短い(〜400ヌクレオチド);3つのプロモーター/RNA/ターミネーター構成要素を一緒に連結して、長さ1200〜1300ヌクレオチドの配列が生じ、これは自己相補性AAVのサイズ制限の上限よりはるかに小さい。
これらの粒子の阻害活性を前記レプリコンを保持する細胞株でテストする。3種の無関係のshRNA種を発現する三重プロモーター構築物の作製はネガティブコントロールとして役に立つ。shRNA配列の効力は上述した解析技術によって調べることができる。
【0090】
実施例4:三重プロモーター発現構築物の開発
三重プロモーター発現構築物の構築には、個々のshRNAを豊富と言えるレベルで発現を駆動する3つの独立のプロモーター配列およびターミネータ配列が含まれる。プロモーター素片の繰り返しは組込み発現カセットの組換え事象を生じやすい状態にするかもしれない;従って、3つの個別のプロモーターおよびターミネーターを同定し、有効であると確認する。核内小RNAおよびトランスファーRNAの合成はRNAポリメラーゼIII(pol III)特異的プロモーターの制御下にpol IIIによって指令される。これらの制御配列素片によって指令される転写物は相対的に非常に豊富なので、U6およびH1遺伝子由来のプロモーターを含めて、pol IIIプロモーターをshRNAの発現を駆動するために使用する(例えば、DomitrovichとKunkel, Nucl.Acids Res. 31(9):2344-52 (2003);Bodenら、Nucl. Acids Res. 31(17):5033-38 (2003a);および、Kawasakiら、Nucleic Acids Res. 31(2): 700-7 (2003)参照)。
最初に、pol III特異的配列の相対的なプロモーターの強さの評価を単一の個々のプロモーターを含むベクターで行った(図7に示した)。各プロモーター構築物はルシフェラーゼ活性を機能阻害することが示されているshRNA(Elbashirら、Nature. 411:494-498 (2001a))の発現を駆動する。shRNAの発現のためにU6プロモーターの成功裡の使用を示す豊富なデータがあるので、他のプロモーターの相対的強さを評価するための標準としてこのプロモーターを使用する。テストしたプロモーターの大部分は極めて短く、ほとんどは長さ200-300ヌクレオチドである。長い、重複するオリゴヌクレオチドをこのプロモーターおよびターミネーターをde novoでアッセンブルするために使用し、これらをshRNAを挟むマルチクローニング部位へクローン化した。このプロモーターはそのプロモーターが得られた遺伝子の下流に通常存在する終結シグナルと対になっている。
【0091】
各プロモーターの相対的な強さを同時トランスフェクションした市販のルシフェラーゼレポーターpGL3Control(図7に示した)またはpRLSV40(Promega, Madison, WI)の活性の低下によってin vitroで評価する。テスト構築物およびレポーター構築物を標準技術によって許容細胞へトランスフェクションする。対照は、ルシフェラーゼに対する機能的shRNAが無関係のshRNAによって置換されたテストプロモーター構築物からなる。分泌タンパク質、ヒトα1-アンチトリプシン(hAAT)をコードする三番目の構築物をトランスフェクション効率の変動を評価するために前記細胞へトランスフェクションする。shRNAの阻害活性を評価するため、ルシフェラーゼ活性を標準的な市販のキット(Promega, Madiosn, WI)を用いて測定する。hAATレベルに対して正規化した、shRNAに媒介されるルシフェラーゼ発現低下は、プロモーター強度の間接的な測定指標である。あるいは、またはそれに加えて、ルシフェラーゼRNAレベルに対する定量的リアルタイムPCR解析(Q-PCR)を並行実験プレートから集めて精製したRNAに対して行う。
適切なプロモーターおよびターミネーター対が同定されたなら、最終的な三重プロモーターRNAi発現カセットを設計する。3つの全てのプロモーターを直列配置にする、あるいは時計回りおよび反時計回りに配置すること(すなわち、カセットDNAのトトップおよびボトム鎖から転写される)、あるいはそれらの任意の変化型を含めて最終ベクターのいくつかの設計をテストする。これらの3つの配置は図3A、3Bおよび3Cに示してある。
【0092】
図3Bおよび3Cに示した配置を細胞にトランスフェクションし、ルシフェラーゼ活性アッセイを用いて阻害活性についてテストした。別個のRNAi種を駆動する2以上のプロモーターは追加的なまたは相乗的な阻害効果を生じさせることができ、従って、三重プロモーター発現構築物という状況の中で各プロモーターの機能性および相対的強度を評価するため、表4に詳細に記載した発現カセットの変種を作製した。これらの変種を用いて、三重発現構築物中の各プロモーターから駆動されるshRNAの阻害効果をルシフェラーゼアッセイを用いて測定した。あるいは、Q-PCRを用いて各プロモーターに駆動される転写物の相対レベルを評価した。ヘアピン-RNAの自己相補的性質は通常それらのRNA転写物の直接Q-PCR測定を阻害するであろうが、図3Dおよび3Eに示したようなカセットを有するウイルス性マルチプロモーターRNAi発現カセットを用いて、ほぼ同じサイズの異なる3種の非-ヘアピン転写物でベクター中のshRNAを置換することができる。
以下のRNA Pol IIIクラス3プロモーター:U6-1、U6-8、H1 ロング、ヒトY4、ヒトY5を選択し、合成して単一またはマルチプロモーター構築物へクローン化した。次にルシフェラーゼ特異的shRNAを単一プロモーター構築物の下流または三重プロモーター構築物の一つのプロモーターの下流にクローン化した(表4)。
【0093】
トランスフェクション72時間後に培地を吸引し、細胞を溶解し、製造業者のデュアルルシフェラーゼプロトコル(Promega、Madison、WI)に従ってルシフェラーゼ発現を測定した。模擬処理した細胞(ネガティブコントロール)に対する正規化したルシフェラーゼ相対光単位に基づいて阻害の百分率を計算した。無関係のRNAi作用媒介物を模擬/ネガティブコントロールとして各実験に使用した。トランスフェクション効率に関するRLUの正規化は、標的プラスミドと同時トランスフェクションしたpRLSV40プラスミドから発現されるレニラルシフェラーゼの発現に基づいて行った。
全てのプロモーターは、図3C型の構築物がHuh7細胞において(17A)、図3B型の構築物が293細胞において(17B)、いずれも同様に活性であることが示された。阻害特性は単一プロモーター状況でもマルチプロモーター状況でも同様であったことが分かる。これらのデータはshRNAの阻害は三重プロモーター環境において、並びにHuh7細胞および293細胞においても同等であることを示す。
【0094】
表4.各発現カセットの相対阻害寄与の評価に使用した図3Bおよび3Cに示した型の構築物中のプロモーター/shRNA挿入物

【0095】
図3Bに示した型のプロモーター/shRNA/ターミネーターを含むプラスミドを用いてマルチプロモーター発現カセットから発現されるshRNAの相対的阻害寄与を評価した。HCVの種々の領域を標的とするshRNA構築物を含むプラスミドを種々のプロモーターの制御下に機能的に配置した。表5は、どのshRNAが個別のプロモーターの制御下にあるかを示しており、不活性である位置Bのプロモーターの制御下にあるshRNAを含む。ルシフェラーゼ遺伝子に連結した5'-3から5'-10までのHCV配列を含むルシフェラーゼ-HCV融合プラスミド#16をマルチプロモーター構築物と共にHuh7細胞に同時トランスフェクションした。図20は、単一プロモーターに連結した単一shRNAを含む構築物に比較した、マルチプロモーター/ダブルshRNA発現構築物でトランスフェクションした場合のルシフェラーゼ阻害の増加を示す。
【0096】
表5.マルチプロモーター発現カセット中の個々のプロモーターおよび二重プロモーターの相対阻害寄与の評価に使用した図3Bに示した型の構築物中のプロモーター/shRNA挿入物

【0097】
実施例4B:shRNA三重プロモーター構築物のin vitroテスト
以下のプロモーターを有する図3Cに示した型の三重プロモーターカセットを作製した:位置AにU6-9、位置BにU6-1、位置CにU6-8。これらのプロモーターは、HCVゲノムの種々の部分を標的とするshRNA配列の転写物を駆動するか、または「空」配置においてはプロモーターのリードスルーを防止するためその後にT列が続く。対照として用いた単一プロモーター/shRNA構築物はU6-1プロモーターを用いて構築した。単一または三重プロモーター構築物を種々のHCV標的領域を含むルシフェラーゼ-HCVレポータープラスミドと共に同時トランスフェクションした。図21は、HCVゲノム中の異なる領域を標的とする単一またはマルチプロモーター構築物およびHCVゲノム内の標的領域からの配列を含む3種のルシフェラーゼ-HCV融合プラスミドの一つで同時トランスフェクションした後のルシフェラーゼ阻害の結果を示す。Huh7細胞へ同時トランスフェクションした72時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。図21の一番上のグラフでHCVのC-12領域に特異的なshRNAがHCVのC-12コード領域を含むルシフェラーゼレポータープラスミドに対して適切な阻害活性を示すことが分かる。HCVの他の領域に特異的なshRNAが単独でまたは本発明のマルチプロモーターカセットの一部として発現された場合には、非特異的な阻害は観察されなかった。ルシフェラーゼ-HCVレポータープラスミドがHCVのコード領域C-9からの配列を含む場合である、真ん中のグラフでも同様な結果が見られる。この場合、単一プロモーターまたは三重プロモーターカセットから発現されたC-9領域に特異的なshRNAは、テストしたshRNA作用因子中最も強い阻害活性を有していた。下のグラフは、HCVの5'6領域を含むレポータープラスミドおよび単一または三重プロモーター構築物による同時トランスフェクションから得られたルシフェラーゼ阻害を示す。単一またはマルチプロモーター構築物のいずれにおいても、最も強い阻害は5'6標的に対して特異的なshRNAを含む構築物から得られることが分かる。本発明の三重プロモーター構築物は特異的な遺伝子標的を効率的に抑制するために機能する。
【0098】
実施例5:shRNA三重プロモーター構築物のin vivoテスト
本発明のマルチプロモーター構築物のin vivo評価をマウス肝臓を図3Cに示した型のマルチプロモーター/shRNAプラスミドDNAおよび適切なホタルルシフェラーゼ-HCV融合レポータープラスミドとをハイドロダイナミック尾静脈注入法を用いて同時トランスフェクションすることによって評価した。ここで用いたマルチプロモーター/shRNAプラスミドはHCVのコーディング9、コーディング12および5'8領域を標的とするshRNA種の発現を制御する。ネガティブコントロールマウスにはレポーター構築物および無関係のshRNAを注入した。さらに、レニラルシフェラーゼタンパク質を発現するプラスミドをマウスに注入した。このタンパク質はマウス肝臓のトランスフェクション効率を正規化するために使用した。注入の48時間後、動物を犠牲にし、肝臓を集めた。肝臓溶解物をホタルルシフェラーゼ活性及びレニラルシフェラーゼ活性についてプロメガルシフェラーゼキットを用いてアッセイした。ヘアピン構築物からのshRNA発現によって誘導された、ネガティブコントロールに対する阻害のレベルを評価した。表6に示した結果は、本発明の三重プロモーター構築物がin vivoでレポーターシグナルを効率的に阻害することを示している。
【0099】
表6.三重プロモーター/shRNAプラスミドによるホタルルシフェラーゼシグナルのパーセント阻害

【0100】
HCV配列を標的とするshRNAを発現するベクターを含む感染性AAV粒子を尾静脈または肝門脈注入によって正常なマウスにデリバリーする。3種の無関係なshRNAを発現する感染性AAV粒子はネガティブコントロールとして役立つ。最初、かなり高用量のウイルス、例えば、2x1012ベクターゲノムを用いるが、用量応答曲線を確立するため続いて実験を行う。適切なホタルルシフェラーゼ-HCV融合レポータープラスミドを種々の時間にハイドロダイナミック尾静脈注入法を用いて注入する。レポータープラスミドの注入の48〜72時間後、マウスを犠牲にし、肝臓を集め、血清サンプルを収集する。ホタルルシフェラーゼ活性はshRNAをデリバリーしたAAVの効力を評価するための標線として使用する。加えて、hAATの血清レベルまたはレニラルシフェラーゼの肝臓レベルを調べて動物間のトランスフェクション効率を決定する。肝臓の酵素、アラニンアミノトランスフェラーゼ、アスパルテートアミノトランスフェラーゼ、および腫瘍壊死因子αを測定し、一般的な肝臓毒性がこの処理によって誘導されていないことを確かめる。
【0101】
実施例6:in vivo HBV複製モデル系に対するshRNAのAAV-デリバリーテスト
AAV-デリバリーされるHCVに対するshRNA発現構築物の効力をテストするための理想的な小動物モデルが存在しない。しかしながら、AAV発現RNAi構築物の代替えモデル系におけるテストを肝臓におけるウイルス複製の阻害の程度を評価するために利用することができる。そのようなモデルではデリバリーするshRNAの配列組成は当然に異なるが、AAV三重プロモーター発現ベクターおよびパッケージング構成要素を含むこの系の残りは変わらずに維持される。B型肝炎ウイルス(HBV)のためのモデル系を利用する。HBVを標的とするための三重プロモーターAAV発現構築物に含めるべきshRNA配列の選択はこれまでに公表されているshRNA配列の効力に基づいて選ぶ(McCaffreyら、Nature Biotech. 21(6): 639-644 (2003);Yingら、Biochem. Biophys. Res. Commun. 309 (2): 482-484 (2003);Kleinら、Gastroent. 125(1): 9-18 (2003);および、Shlomaiら、Hepatology 37(4): 764-70 (2003))。次に、3種のHBV-特異的shRNAを駆動する三重プロモーターを有する適切なAAV発現構築物をここに記載の方法に従ってウイルス粒子にパッケージングする。
【0102】
最初にマウスにHBVゲノムの配列を保持する発現プラスミドをハイドロダイナミックトランスフェクション法によって注入し、HBV複製を確立させる。トランスフェクション効率を評価するため、hAATをこの同時注入用の混合物に添加する。HBV活性の初期徴候は、眼窩後方網採血によって集めた処置動物の血清中のB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)およびHBVコア抗原(HBcAg)の出現をELISAアッセイによって評価する。
HBV複製の確立に続いて、HBV shRNAをコードする三重プロモーター構築物をパッケージングしたAAVウイルス粒子を未静脈注射または肝門脈注射を用いてマウスに導入する。HBVと無関係の3種のshRNAをコードするAAV発現構築物を保持するAAVウイルス粒子はネガティブコントロールとして使用する。実験の終わりに、血清サンプルをHBsAgおよびHBcAgタンパク質の量のダウンレギュレーションについて調べる。あるいは、またはそれに加えて、肝臓組織をHBV RNAの相対レベルについてQ-PCRによって評価する。全体的肝臓毒性はアラニンアミノトランスフェラーゼ、アスパルテートアミノトランスフェラーゼおよび腫瘍壊死因子αについてELISAにより血清を調べることによって評価する。
【0103】
図10は前駆体三重プロモーターカセットの一つの態様の図解であり、RNAi種またはターミネーター素片を挿入または除去するため、またはプロモーターU6-9、pU6若しくはU6-8プロモーターを切り替えるために有用なユニーク制限サイトが示されている。加えて、矢印は3つの各プロモーター/RNAi/ターミネーター構成要素の各々の転写方向を示している。図11Aおよび11B/11Cは本発明の前駆体プロモーターカセットの2つの態様のヌクレオチド配列(それぞれ、配列番号31および32)を示している。図10はU6-9、pU6およびU6-8プロモーターの位置および本発明の前駆体プロモーターカセットの制限酵素部位を示している。
【0104】
本発明を具体的な態様と共に記載してきたが、当業者であれば本発明の精神及び発明の範囲を逸脱することなく種々の変更を行うことができ等価物を置換することができることは理解されよう。さらに、特定の状況、材料または工程を本発明の目的、精神および範囲に適合させるために多くの改変を行うことができるであろう。そのような改変も本発明の範囲内である。
本明細書中に引用した全ての参考文献は本発明の理解を助けるためであり、何らの制限無くその全体が取り込まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】図1は、本発明のRNAi種をデリバリーするため一実施態様の単純化したブロック図である。
【図2A】図2Aは本発明のマルチプロモーターRNAi発現カセットの実施態様の単純化した概略図である。
【図2B】図2Bは本発明のマルチプロモーターRNAi発現カセットの実施態様の単純化した概略図である。
【図3A】図3AはRNAi作用媒介物をshRNA前駆体としてデリバリーするマルチ発現カセットの2つの態様を示している。
【図3B】図3BはRNAi作用媒介物をshRNA前駆体としてデリバリーするマルチ発現カセットの2つの態様を示している。
【図3C】図3Cはプロモーター/RNAi/ターミネター構成要素間に挿入されたスタッファー領域を含むマルチ発現カセットの態様を示す。
【図3D】図3DはshRNA前駆体なしにRNAiをデリバリーするマルチプロモーターRNAi発現カセットの態様を示す。
【図3E】図3EはshRNA前駆体なしにRNAiをデリバリーするマルチプロモーターRNAi発現カセットの態様を示す。
【図4A】図4Aはウイルス粒子にパッケージングされたマルチプロモーターRNAi発現ベクターを作成する一つの方法の単純化した図である。
【図4B】図4Bはウイルス粒子にパッケージングされたマルチプロモーターRNAi発現ベクターを作製する別の方法の単純化した図である。
【図5】図5は、テスト組換えAAV(rAAV)発現構築物およびルシフェラーゼレポーター構築物の一態様の概略図である。
【図6】図6は、本発明の一態様による自己相補性(scAAV)RNAi発現ベクターの概略図である。
【図7】図7は、プロモーターテスト構築物およびレポーター構築物の代表的概略図である。
【図8A】図8Aは本明細書に記載の実験においてテストしたRNAi作用媒介物の位置を示すHCVゲノムの概略図である。
【図8B】図8Bは非構造タンパク質に対する遺伝子要素を含むルシフェラーゼ-HCV融合レプリコンの概略図である。
【図8C】図8Cは構造タンパク質および非構造タンパク質に対するHCV遺伝子要素を含むルシフェラーゼ-HCV融合レプリコンの概略図である。
【図9】図9はRNAi作用媒介物のテストするために有用な二つのルシフェラーゼ-HCV融合レポータープラスミドの概略図である。左の構築物はルシフェラーゼ遺伝子に融合した100bpのHCV配列を一つ含み、右の構築物はルシフェラーゼ遺伝子に融合した3つの異なる100bpのHCV配列を含む。この100bp領域内の配列を標的とするRNAi作用媒介物は、効果を示す場合には、HCV-ルシフェラーゼ転写産物を分解し、従ってルシフェラーゼ発現を減少(おそらく消滅)させるであろう。
【図10】三重プロモーターの一つの実施態様の図解であり、種々のRNAi作用媒介物、プロモーター素片およびターミネーター素片のモジュールアッセンブルに有用なユニーク制限部位を示している。
【図11A】図11Aは図3Bに示したタイプの三重プロモーターカセットの配列(配列番号31)の一例である。
【図11B】図11B/11Cは図3Cに示したタイプの三重プロモーターカセットの配列(配列番号32)の一例である。
【図11C】図11B/11Cは図3Cに示したタイプの三重プロモーターカセットの配列(配列番号32)の一例である。
【図12】図12は、HCVの5つの異なる100bp領域を標的とする種々のRNAi作用媒介物による、相対光単位で測定したルシフェラーゼ発現の阻害の結果を示す。
【図13】図13はパーセント阻害値として表示した、種々のRNAi作用媒介物によるルシフェラーゼ発現の阻害の結果を示す。
【図14】図14は、HCVの5'領域からの異なる100bpの配列部分を標的とする4つの異なるRNAi作用媒介物をテストするために行った実験の結果の再現性を示す。
【図15】図15は、HCVの5'領域の種々の100bpの配列部分を標的とする5つの異なるRNAi作用媒介物について、トランスフェクション後24時間および48時間におけるルシフェラーゼ発現のパーセント阻害の変化を示す。
【図16】図16は、HCVの5'領域の異なる100bpの配列部分を標的とする2つの異なるRNAi作用媒介物、HCVの3'領域の異なる100bpの配列部分を標的とする5つの異なるRNAi作用媒介物、および、HCVのオープンリーディングフレーム中の100bp配列部分を標的とする1つのRNAi作用媒介物について、トランスフェクション後44時間および72時間におけるルシフェラーゼ発現のパーセント阻害の変化を示す。
【図17A】図17Aは3つのPol IIIプロモーターの強さを評価するデータを示す。ホタルルシフェラーゼmRNA(McCfreyら、2002)に特異的なshRNA配列を示したPol IIIの制御下に挿入した。得られたプラスミドDNAをルシフェラーゼレポタープラスミドと共にHuh7細胞(図17A)に同時トランスフェクションした。ルシフェラーゼレベルをトランスフェクション72時間後に測定した。図3Bの三重プロモーター構築物において(各パネルの右の3つの構築物)shRNAを駆動するプロモーターを示した。
【図17B】図17Bは3つのPol IIIプロモーターの強さを評価するデータを示す。ホタルルシフェラーゼmRNA(McCfreyら、2002)に特異的なshRNA配列を示したPol IIIの制御下に挿入した。得られたプラスミドDNAをルシフェラーゼレポタープラスミドと共に293細胞(図17B)に同時トランスフェクションした。ルシフェラーゼレベルをトランスフェクション72時間後に測定した。図3Bの三重プロモーター構築物において(各パネルの右の3つの構築物)shRNAを駆動するプロモーターを示した。
【図18】図18は、ルシフェラーゼ-HCV融合レポータープラスミドアッセイにおける、種々のsiRNA作用媒介物によるルシフェラーゼ発現の阻害を示す。ルシフェラーゼ-HCVレポータープラスミドを各siRNAと共にHuh7細胞に同時トランスフェクションし、48時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。
【図19】図19は、サブゲノムルシフェラーゼ-HCV融合レプリコンに対する選択したsiRNA作用媒介物の活性を示す。テストsiRNA作用媒介物を(トランスフェクション効率に関するコントロールとして)微量のpGL3Control DNAと共に29Σ細胞にトランスフェクションした。レニラルシフェラーゼおよびホタルルシフェラーゼレベルを48時間後に測定した。
【図20】図20は、1または2つの活性なプロモーターを含むプロモーター/shRNAカセットを含むプラスミドで同時トランスフェクションした後の、ルシフェラーゼ-HCVレポータープラスミドからのルシフェラーゼシグナルのパーセント阻害を示す。
【図21】図21は、1または2または3つの活性なプロモーターを含むプロモーター/shRNAカセットを含むプラスミドで同時トランスフェクションした後の、コード領域C12(最上段)、コード領域C-9(中段)または5' 6領域(下段)を含むルシフェラーゼ-HCVレポータープラスミドからのルシフェラーゼシグナルのパーセント阻害を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3つのプロモーター/RNAi/ターミネーター構成要素を含むマルチプロモーター発現カセットを含む遺伝子構築物であって、前記各プロモーター/RNAi/ターミネーター構成要素がプロモ−ター、ターミネーターおよび前記プロモーターおよびターミネーターに機能的に連結されたRNAi種を含み、前記RNAi種のそれぞれが互いに異なっている前記遺伝子構築物。
【請求項2】
更に感染性ウイルス粒子への構築物のパッケージングに必要な配列を含んでいる、請求項1記載の遺伝子構築物。
【請求項3】
各プロモーター/RNAi/ターミネーター構成要素中の各ターミネーターの配列が互いに異なっている、請求項1記載の遺伝子構築物。
【請求項4】
各プロモーター/RNAi/ターミネーター構成要素中の各プロモーターの配列が互いに異なっている、請求項1記載の遺伝子構築物。
【請求項5】
RNAi種の配列が変種間で単一ヌクレオチド配列多型(SNPs)を有する遺伝子を標的とし、前記RNAi種の各々が前記変種の一種以上を標的とし得る、請求項1記載の遺伝子構築物。
【請求項6】
RNAi種の配列が、急速な変異を起こすウイルス配列を標的とする、請求項1記載の遺伝子構築物。
【請求項7】
RNAi種の各配列が、遺伝子の一以上の変種を標的とする、請求項1記載の遺伝子構築物。
【請求項8】
細胞と請求項1記載の遺伝子構築物とを核酸標的の発現が改変されるに十分な条件下で接触させることを含む、細胞中で発現している前記核酸標的のレベルを阻害する方法であってRNAi種の各々が前記核酸標的またはその変種の配列と実質的に同一である、前記方法。
【請求項9】
a)請求項1記載の遺伝子構築物をウイルス粒子にパッケージングすること、
b)細胞に前記ウイルス粒子をデリバリーすること、
c)核酸標的の発現を改変するに十分な条件下で、請求項1記載のマルチプロモーター発現カセットから3以上のRNAi種を発現させること、
を含む、細胞中で発現している1以上の核酸標的を改変する方法。
【請求項10】
核酸標的が、疾患状態を開始または維持させるために必要な遺伝子と実質的に同一である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
疾患状態が癌である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
核酸標的がウイル中に見いだされる遺伝子と実質的に同一である、請求項9記載の方法。
【請求項13】
ウイルスがC型肝炎ウイルスである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
3以上のRNAi種の配列が、ウイルスに見いだされる遺伝子およびエスケープ変異として生ずる2以上の前記ウイルスの遺伝子の変異体と実質的に同一である、請求項12記載の方法。
【請求項15】
a)請求項1記載の遺伝子構築物を非ウイルス粒子にパッケージングすること;
b)前記非ウイルス粒子を細胞にデリバリーすること;
c)核酸標的の発現を改変するに十分な条件下で、請求項1記載のマルチプロモーター発現カセットから3以上のRNAi種を発現させること、
を含む、細胞中で発現している1以上の核酸標的を改変する方法。
【請求項16】
核酸標的が疾患の開始又は維持に必要な遺伝子と実質的に同一である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
核酸標的がウイルスに見いだされる遺伝子と実質的に同一である、請求項15記載の方法。
【請求項18】
ウイルスがC型肝炎ウイルスである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
3以上のRNAi種の配列がウイルスに見いだされる遺伝子および、エスケープ変異として生ずる2以上の前記ウイルスの遺伝子の変異体と実質的に同一である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
配列番号1〜30のいずれかに記載のヌクレオチド配列を含む請求項1記載の遺伝子構築物を動物細胞、組織または器官に導入することを含む、動物細胞、組織または器官において発現している1以上の核酸標的を処置する方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2007−527244(P2007−527244A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502094(P2007−502094)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【国際出願番号】PCT/US2005/007447
【国際公開番号】WO2005/087926
【国際公開日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(506301036)ベニテック インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】