説明

RORγt機能の調節のための組成物および方法

本発明は、細胞及び組織におけるRORγtの発現、並びに特定の免疫細胞の増殖に対するこの遺伝子の発現の効果、および免疫細胞凝集物の促進における、この遺伝子の発現の効果に関する。さらに、本発明は、炎症状態、自己免疫疾患、もしくは食物アレルギー、又は免疫応答を阻害することが望ましいその他の状態を経験している個体における、この遺伝子産物(タンパク質)の機能又はこの遺伝子の発現を減少させ得る方法及び薬剤に関する。さらに、病原体又は腫瘍細胞に対する免疫を増加させることが望ましい場合に使用するための(例えば、ワクチンと共に使用するための)、アゴニストによりRORγtの機能を増強するか、又はこの遺伝子の発現を増強するのに有用な方法及び薬剤も、考慮される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、腸管免疫の制御のための新規な方法及び組成物に関する。特に、本発明は、免疫が所望される予め選択された抗原に対する粘膜免疫を増強するため、又はクローン病、炎症性腸疾患、H.pylori関連潰瘍のような腸管障害に関連した炎症を減じるための手段を提供する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
消化管関連リンパ組織(GALT)には、腸間膜リンパ節(mLN)、パイエル板(PP)、虫垂、及び孤立リンパ小節(ILF)が含まれる(非特許文献1)。GALTにはまた、腸管粘膜固有層に存在するリンパ球(LPL)及び腸管上皮細胞の単層内のリンパ球(上皮内リンパ球、IEL)も含まれる(非特許文献2、非特許文献3)。mLN及びPPに存在するT細胞は、(αβT細胞抗原レセプター、TCRを保有している)主流末梢αβT細胞の特徴を共有しているが、LPL及びIELはγδT細胞に富み、大部分のIELが独特にCD8ααホモダイマーを発現している。胸腺の非存在下で、CD8ααのαβIEL及びγδIELは発達し、リンパ球減少症マウスへの骨髄及び胎児の肝臓又は腸管の移植片から誘導され得る(非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6)。これらの観察は、少なくとも無胸腺マウス又はリンパ球減少症マウスにおいては、IELの発生のための胸腺外経路が存在することを支持している(非特許文献7)。この議論に続いて、プレTα鎖及び生殖細胞系列T細胞レセプター(TCR)の転写物を発現しているCD3IELが、CD8αααβ及びγδIELの前駆細胞に相当することが提唱された(非特許文献8、非特許文献9)。しかしながら、無胸腺マウスは、γδIELの2〜5倍の減少、及びCD8αααβIELのさらに大きな低下を有しており、このことは、大部分のIELが胸腺細胞に由来することを示唆している(非特許文献2、非特許文献10)。さらに、腸管のαβIEL及びγδIELが、ネガティブ胸腺選択の状況において(即ち、胸腺において自己Agの存在下で)発生し、一方、主流T細胞は削除されることを、多数のTCRトランスジェニックモデルが示している(非特許文献11、非特許文献12、非特許文献13、非特許文献14、非特許文献15、非特許文献16)。しかしながら、トランスジェニックTCRは、胸腺細胞分化の間に異常に初期に発現され、従って、IELが、通常、胸腺細胞ネガティブ選択を回避するか否かは不明なままである。
【0003】
最近、造血細胞の小さなクラスターが、小腸の陰窩間に検出され、クリプトパッチ(CP)と命名された(非特許文献18)。CPは、新生児には存在せず、離乳後に徐々に増え、成体の腸管において最大数(1500〜1700)に達する。CP内に存在する細胞の大半が、低レベルのCD3ε及び生殖細胞系列TCR転写物を発現し、プレTα鎖(非特許文献17)又はRAG−2(非特許文献7)は発現しない、CD3c−kitIL−7Rα造血細胞(CP細胞)である。CP細胞は、リンパ球減少症マウスへと移植された場合にαβIEL及びγδIELを生成させることが報告されており、消化管において胸腺外発達するT細胞の前駆細胞であることが示唆されているが(非特許文献6、非特許文献6、非特許文献18)、この解釈には未だ幾分議論の余地がある(非特許文献7)。
【0004】
レチノイン酸関連オーファンレセプター(ROR)γtは、ステロイド、レチノイド、甲状腺ホルモン、及びビタミンD3についてのレセプターを含むホルモン核レセプターの大きなファミリーのメンバーである(非特許文献19)。核レセプターは、発生、細胞分化、及び器官生理学の強力な調節因子であり、RORサブファミリーのメンバーは、特に、一連の発生過程及び生理学的過程に必要とされる。マウスRorg遺伝子は、2つの別個のプロモーターからの開始によっておそらく産生される2個のアイソフォームであるRORγ及びRORγtをコードするが、非コーディング上流エキソンからのディファレンシャルスプライシングの可能性も現在のところ排除され得ない。最初の2つのエキソンによりコードされたRORγの24個のN末端残基は、RORγtに特異的な第1エキソンによりコードされた3個のオルタナティブな残基に交換される(非特許文献20、非特許文献21、非特許文献22、非特許文献23、非特許文献24)。RORγ mRNAは、肝臓、肺、筋肉、心臓、及び脳を含む多くの組織において検出されるが、RORγt mRNAは、リンパ節(LN)及びパイエル板(PP)の発達に関与していることが示されている(非特許文献25、非特許文献26、非特許文献27、非特許文献28)、未熟二重陽性(DP)CD4+CD8+胸腺細胞及び胎児CD3CD4+CD45+細胞集団においてのみ検出されている(非特許文献20、非特許文献21、非特許文献22、非特許文献23、非特許文献24、非特許文献29)。
【0005】
胎児期には、RORγtは、リンパ組織誘導(LTi)細胞において排他的に発現され、これらの細胞の発生に必要とされる(非特許文献30)。成体においては、RORγtは、二重陽性(DP)CD4CD8未熟胸腺細胞において発現され、その生存を調節する(非特許文献31)。
【非特許文献1】H.Hamadaら,J Immunol,2002年,第168巻,p.57
【非特許文献2】D.Guy−Grand,P.Vassalli,Curr Opin Immunol,2002年,第14巻,p.255
【非特許文献3】A.Hayday,E.Theodoridis,E.Ramsburg,J.Shires,Nat Immunol,2001年,第2巻,p.997
【非特許文献4】B.Rocha,P.Vassalli,D.Guy−Grand,J Exp Med,1994年,第180巻,p.681
【非特許文献5】L.Lefrancois,S.Olson,J Immunol,1997年,第159巻,p.538
【非特許文献6】H.Saitoら,Science,1998年,第280巻,p.275
【非特許文献7】D.Guy−Grandら,J Exp Med,2003年,第197巻,p.333
【非特許文献8】T.Linら,Eur J Immunol,1994年,第24巻,p.1080
【非特許文献9】S.T.Pageら,Proc Natl Acad Sci USA,1998年,第95巻,p.9459
【非特許文献10】T.Lin,G.Matsuzaki,H.Kenai,K.Nomoto,Eur J Immunol,1994年,第24巻,p.1785
【非特許文献11】B.Rocha,H.von Boehmer,D.Guy−Grand,Proc Natl Acad Sci USA 8,1992年,第9巻,p.5336
【非特許文献12】D.Cruzら,J Exp Med,1998年,第188巻,p.255
【非特許文献13】D.Guy−Grandら,Eur J Immunol,2001年,第31巻,p.2593
【非特許文献14】A.J.Leishmanら,Immunity,2002年,第16巻,p.355
【非特許文献15】T.Linら,J Clin Invest,1999年,第104巻,p.1297
【非特許文献16】C.N.Leveltら,Proc Natl Acad Sci USA,1999年,第96巻,p.5628
【非特許文献17】Y.Kanamoriら,J Exp Med,1996年,第184巻,p.1449
【非特許文献18】K.Suzukiら,Immunity,2000年,第13巻,p.691
【非特許文献19】Mangelsdorf DJら,Cell,1995年,第83巻,p.835−839
【非特許文献20】He YW,Deftos ML,Ojala EW,Bevan MJ.,Immunity,1998年,第9巻,p.797−806
【非特許文献21】Villey I,de Chasseval R,de Villartay JP.,Eur J Immunol,1999年,第29巻,p.4072−4080
【非特許文献22】Medvedev A,Yan ZH,Hirose T,Giguere V,Jetten AM,Gene,1996年,第181巻,p.199−206
【非特許文献23】Hirose T,Smith RJ,Jetten AM.,Biochem Biophys Res Commun,1994年,第205巻,p.1976−1983
【非特許文献24】Medvedev A,Chistokhina A,Hirose T,Jetten AM.,Genomics,1997年,第46巻,p.93−102
【非特許文献25】Mebius RE,Rennert P,Weissman IL,Immunity,1997年,第7巻,p.493−504
【非特許文献26】Adachi S,Yoshida H,Kataoka H,Nishikawa S.,Int Immunol,1997年,第9巻,p.507−514
【非特許文献27】Mebius RE,Streeter PR,Michie S,Butcher EC,Weissman IL.,Proc Natl Acad Sci USA,1996年,第93巻,p.11019−11024
【非特許文献28】Cupedo T,Kraal G,Mebius RE.,Immunol Rev,2002年,第189巻,p.41−50
【非特許文献29】Eberl,G.ら,Nature Immunol.,2004年,第5巻,第1号,p.1−8
【非特許文献30】G.Eberlら,Nat Immunol,2004年,第5巻,p.64
【非特許文献31】Z.Sunら,Science,2000年,第288巻,p.2369
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明が向けられているのは、腸管免疫の調節のための新規な方法及び組成物である。特に、緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーターがRorγt遺伝子の制御下にあるヘテロ接合性マウス(Rorc(γt)+/gfpマウス)の使用を通して、本願の発明者らは、RORγtアゴニスト及びRORγtアンタゴニストの発見が、炎症性腸疾患、自己免疫性疾患及び自己免疫性障害の処置において、又は、そのような処置を必要とする被験体において病原体及び腫瘍に対する粘膜免疫を増強する手段として、有益であり得ることを企図する。
【0007】
本明細書中のいかなる参照の引用も、そのような参照が本発明に対する先行技術として利用可能であることの承認として見なされるべきではない。
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、Rorc(γt)GFP対立遺伝子のホモ接合性への交配を通してRORγt欠損にされたマウスにおいて、腸管linc−kitIL−7Rα細胞及びCPが存在せず、腸管GFP細胞が観察され得なかったことを証明する。これらの動物においては、ILFもまた、これらの構造に特徴的なB細胞クラスターの欠如により明らかなように、発達し得なかった(Kanamori Y,Ishimaru K,Nanno M,Maki K,Ikuta K,Nariuchi H,Ishikawa H;(1996);J.Exp.Med.184:1449−1459;Suzuki K,Oida T,Hamada H,Hitotsumatsu O,Watanabe M,Hibi T,Yamamoto H,Kubota E,Kaminogawa S,Ishikawa H;(2000);Immunity 13:691−702)。変異マウスにおいて、腸管γδT細胞及びCD11c細胞は、正常な数で存在したが、CD4(DN)細胞、CD4細胞、CD8αβ細胞、及びCD8αα細胞を含む腸管αβT細胞の全てのサブセットが実質的かつ特異的に低下しており、粘膜固有層及び糞便の中のB細胞及びIgAも低下していた。さらに、Rorc(γt)+/gfpマウスの粘膜固有層にRORγtT細胞の亜集団が存在することを示す証拠が提供された。特に、Rorc(γt)+/gfpマウスの小腸内のこれらのRORγtT細胞の大部分がIL−17を発現していること、及びこのIL−17産生T細胞の集団がRORγtを欠くマウスには存在しないことを示す証拠が提供されている。Tヘルパー(Th)細胞は、サイトカインIL−23に応答してIL−17を産生する(Langrish,CL.ら(2004),Immunol.Rev.202:96−105;Langrish,C.L.ら(2005),J.Exp.Med.201:233−240;van Epps,H.(2005),J.Exp.Med.201:163;Honey,K.(2005),Nature,5:94;Bettelli,E.ら(2005),J.Exp.Med.201:169−171)。Th17と呼ばれるこのTh細胞サブセットは、炎症誘発機能を有すると提唱されている。本明細書に提示された結果は、炎症誘発性である可能性のあるTh17細胞の発達に、RORγtが必要とされることを示している。
【0009】
著者らは、胎児リンパ組織誘導(LTi)細胞、未熟胸腺細胞、腸管linc−kitIL−7Rα細胞、及び腸管内のTh17細胞において排他的において発現される遺伝子RORγtを発見した。RORγtは、全ての二次リンパ組織に加え、腸管クリプトパッチ(CP)及び孤立リンパ小節(ILF)の発達に必要であり、αβT細胞の効率的な発生にも必要であることが証明された。さらに、この結果は、腸管RORγt細胞が、胎児LTi細胞に対する成体における等価物であり、従って、腸内菌叢又は様々な炎症刺激に応答してILFのような粘膜リンパ組織の形成を誘導する可能性が高いことを示唆している。
【0010】
従って、その最も広い態様において、この発明は、RORγt活性の調節因子、即ち、RORγtのアゴニスト又はアンタゴニストをそれぞれ投与することにより、免疫細胞の活性又は機能を増強又は抑制する方法を提供する。炎症性又は自己免疫性の疾患又は状態のように、炎症細胞の活性及び/又は機能を阻害することが望ましい場合には、RORγtアンタゴニストを投与することが有益であろう。過剰増殖性又は癌性の疾患又は状態に罹患した個体のように、免疫細胞の活性及び/又は機能を増強することが望ましい場合には、RORγtのアゴニストを投与することが望ましいであろう。
【0011】
従って、本発明の第1の態様は、RORγtのインヒビター又はアンタゴニストを投与する工程を包含する、哺乳動物の消化管における免疫細胞凝集物の形成を阻害する方法を提供する。特定の実施形態において、この凝集物には、哺乳動物の消化管内の結腸パッチを含む孤立リンパ小節が含まれる。従って、本発明は、動物における、好ましくは、制限はされないが動物の消化管における、免疫細胞凝集物の形成の阻害のためのRORγtのアンタゴニスト又はインヒビターの使用を提供する。
【0012】
1つの特定の実施形態において、阻害される細胞は、DP胸腺細胞、クリプトパッチ(CP)細胞、及びTh−IL17細胞である。もう1つの特定の実施形態において、阻害される細胞は、IL−17産生RORγtT細胞である。もう1つの実施形態において、CP細胞は、孤立リンパ小節(ILF)の発達に必要とされる。さらにもう1つの実施形態において、消化管における免疫細胞凝集物の形成を阻害する方法は、粘膜固有層におけるリンパ球凝集物の形成の欠如、及び上皮内リンパ球の発達をもたらす。さらにもう1つの実施形態において、この方法は、さらに、αβT細胞の数、又はIL−17産生RORγtT細胞の低下をもたらす。さらにもう1つの特定の実施形態において、αβT細胞は、CD4T細胞、CD4+T細胞、CD8αβ+T細胞、CD8αα+T細胞、及びTh−IL17細胞からなる群より選択され得る。もう1つの実施形態において、αβT細胞又はIL−17産生RORγtT細胞の低下は、腸管において起こり、以下に制限はされないが、肺、肝臓、脾臓、又は炎症性の疾患もしくは状態に関与し得るその他のリンパ系の組織もしくは器官のような、リンパ細胞を含有している組織においても起こる。
【0013】
本発明の第2の態様は、RORγtの調節因子を投与する工程を包含する、炎症性及び自己免疫性の疾患を処置する方法を提供する。1つの好ましい実施形態において、この調節因子は、RORγtのインヒビター又はアンタゴニストである。もう1つの特定の実施形態において、この調節因子は、RORγtの刺激因子又はアゴニストである。本発明はまた、哺乳動物、好ましくはヒトにおける炎症性及び/又は自己免疫性の疾患又は状態を処置するためのRORγtの調節因子、好ましくはRORγtのアンタゴニスト又はインヒビターの使用も提供するが、この調節因子は、以下に制限はされないが、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、及びげっ歯類を含むその他の家畜又は非家畜動物を処置するためにも使用され得る。
【0014】
1つの特定の実施形態において、炎症性又は自己免疫性の疾患は、関節炎、糖尿病、多発性硬化症、ブドウ膜炎、慢性関節リウマチ、乾癬、喘息、気管支炎、アレルギー性鼻炎、慢性閉塞性肺疾患、アテローム性動脈硬化症、H.pylori感染及びそのような感染に起因する潰瘍、並びに炎症性腸疾患からなる群より選択される。もう1つの特定の実施形態において、炎症性腸疾患は、クローン病、潰瘍性大腸炎、スプルー、及び食物アレルギーからなる群より選択される。もう1つの特定の実施形態において、炎症性の疾患又は状態は、RORγtの存在及び/又は発現が証明されている細胞を含有している器官又は組織に影響するものである。
【0015】
本発明の第3の態様は、RORγtの調節因子を投与する工程を包含する、哺乳動物における感染を処置する方法を提供する。1つの特定の実施形態において、この調節因子は、RORγtの刺激因子又はアゴニストである。もう1つの特定の実施形態において、この調節因子は、RORγtのインヒビター又はアンタゴニストである。本発明はまた、哺乳動物、好ましくはヒトにおける感染性の疾患又は状態を処置するためのRORγtの調節因子の使用も提供するが、この調節因子は、以下に制限はされないが、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、及びげっ歯類を含むその他の家畜又は非家畜動物を処置するためにも使用され得る。この調節因子は、RORγtのアンタゴニスト又はアゴニストであり得る。
【0016】
特定の実施形態において、この投与工程は、T細胞前駆細胞からのT細胞発達の促進、及び三次リンパ器官の形成の促進をもたらす。もう1つの特定の実施形態において、この投与工程は、αβT細胞の数の増加をもたらす。もう1つの特定の実施形態において、この投与工程は、IL−17を産生するRORγtT細胞の数の増加をもたらす。さらにもう1つの実施形態において、αβT細胞は、CD4T細胞、CD4+T細胞、CD8αβ+T細胞、及びCD8αα+T細胞からなる群より選択される。
【0017】
本発明の第4の態様は、RORγtのアゴニスト又は刺激因子を投与する工程を包含する、哺乳動物における抗腫瘍免疫を誘導する方法を提供する。特定の実施形態において、以下に制限はされないが、胃、腸、及び腸管の腫瘍のような胃腸管の腫瘍に対する特異免疫の発達のための方法が、構想される。もう1つの特定の実施形態において、胃腸管において生じるもの以外の腫瘍に対する特異免疫の発達のための方法が、構想される。例えば、肺、肝臓、膵臓、胸部、骨の腫瘍、及び他の任意の固形腫瘍、又は血液由来腫瘍の処置が企図される。RORγtのアゴニスト又は刺激因子は、単独で投与されてもよいし、又は腫瘍細胞ワクチンと共に、もしくは当業者に公知のその他の抗腫瘍治療と共に投与されてもよい。アゴニストは、他の治療と同時に、その前に、又はその後に、投与され得る。本発明はまた、癌性の疾患もしくは状態を処置するための、又は癌性状態を有する動物において抗腫瘍免疫を増加させるための、RORγtの調節因子の使用も提供する。1つの実施形態において、動物は好ましくはヒトであるが、調節因子は、以下に制限はされないが、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、及びげっ歯類を含むその他の家畜又は非家畜動物を処置するためにも使用され得る。この調節因子は、RORγtのアンタゴニスト又はアゴニストであり得る。
【0018】
もう1つの特定の実施形態において、局所的な抗腫瘍免疫を誘発するためのアジュバントとしての機能し得るアゴニストの開発が、構想される。さらにもう1つの特定の実施形態において、本発明は、腫瘍における炎症を低下させるための手段を提供し、そして、血管形成及び腫瘍の増殖は炎症を伴うと現在考えられているため、炎症を伴うかもしれない血管形成及び腫瘍の増殖を低下させるための手段を提供する。
【0019】
特定の実施形態において、この投与工程は、T細胞前駆細胞からのT細胞発達の促進、及び三次リンパ器官の形成の促進をもたらす。もう1つの特定の実施形態において、この投与工程は、αβT細胞の数の増加をもたらす。もう1つの特定の実施形態において、この投与工程は、IL−17を産生するRORγtT細胞の数の増加をもたらす。さらにもう1つの実施形態において、αβT細胞は、CD4T細胞、CD4+T細胞、CD8αβ+T細胞、及びCD8αα+T細胞からなる群より選択される。
【0020】
本発明の第5の態様は、抗原の投与と共に、その前に、又はその後に、RORγtのアゴニストを投与する工程を包含する、特定の抗原に対して反応性のT細胞の数を増加させる方法を提供する。
【0021】
本発明の第6の態様は、ワクチン候補と共に、その前に、又はその後に、免疫原性を促進する量のRORγtに対するアゴニストを被験体に投与する工程を包含する、ワクチン候補(該ワクチン候補によるT細胞の増殖及び応答性の増加が所望される)の免疫原性を増加させる方法を提供する。
【0022】
特定の実施形態において、このワクチン候補は、弱毒化生ワクチン又は非複製性かつ/もしくはサブユニットのワクチンであり、この方法は、ワクチン候補に対して特異的な細胞溶解性T細胞又は記憶T細胞の誘導をもたらす。さらにもう1つの実施形態において、ワクチンは、腫瘍ワクチン、ウイルスワクチン、細菌ワクチン、寄生虫ワクチン、及び感染又は疾患からの長期的な防御を提供するために長期間続く免疫応答が必要なその他の病原生物のためのワクチンからなる群より選択される。さらにもう1つの実施形態において、ウイルスワクチンは、DNAウイルスワクチン、RNAウイルスワクチン、及びレトロウイルスワクチンからなる群より選択される。もう1つの態様において、ワクチンは、遺伝物質(例えば、核酸配列)が免疫感作剤として使用される「裸のDNAワクチン」である。従って、本発明は、タンパク質に対する免疫応答を誘発し得る外因性タンパク質をコードする外因性又は外来のDNA分子の、個体の組織又は細胞への導入に関する。外因性の核酸配列は、単独で導入されてもよいし、又はコードされたタンパク質の発現を調節し得るプロモーター及び/もしくはエンハンサーとこの配列とが作動可能に連結されている発現ベクターに関連して導入され得る。
【0023】
本発明の第7の態様は、該抗原と共に、又はその後に、粘膜免疫を促進する量のRORγtに対するアゴニストを被験体に投与する工程を包含する、予め選択された抗原に対する粘膜免疫を増加させる方法を提供する。
【0024】
特定の実施形態において、抗原は、細菌、ウイルス、腫瘍細胞、及び増加した粘膜免疫が望まれるその他の病原体からなる群より選択される。
【0025】
本発明の第8の態様は、RORγtのアンタゴニストを投与する工程を包含する、T細胞起源の癌を処置する方法を提供する。
【0026】
特定の実施形態において、癌は、急性Tリンパ性白血病(T−ALL)、慢性Tリンパ性白血病(T−CLL)、成人T細胞白血病(ATL)、非ATL末梢Tリンパ腫(PNTL)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、並びに二重陽性CD4+,CD8+表現型を示すその他の白血病及びリンパ腫からなる群より選択され得る。
【0027】
本発明の第9の態様は、被験体からの組織サンプルにおいてRORγtのレベルを測定又は検出する方法を提供し、ここで、組織サンプル中のRORγtの存在は、炎症性もしくは自己免疫性の疾患、又は炎症細胞の数もしくは活性の増加によって特徴付けられるその他の疾患もしくは状態の存在、又はそれらを発症する可能性の指標となる。そのような状態には、炎症性腸疾患、慢性関節リウマチ、I型糖尿病、又は食物アレルギーが含まれ得る。又は、RORγtの欠如は、RORγtの欠如を示す被験体における、病原生物又は腫瘍に対する妥当な免疫応答を惹起する能力の欠如の指標となり得る。従って、個体におけるRORγtの存在又は欠如を測定する能力は、そのような状態のための適切な治療戦略を決定する能力を支援し得る。被験体におけるRORγtのレベルを測定する方法は、生物学的サンプルをリガンドと接触させる工程、及びサンプル中のRORγtと結合した該リガンドを検出する工程を包含し、ここで、RORγtと結合したリガンドの検出は、炎症状態又は自己免疫疾患の指標となる。特定の実施形態において、リガンドは、サンプル中のRORγtと特異的に結合する抗体又はその誘導体もしくはそれらのフラグメントである。
【0028】
もう1つの実施形態において、サンプル中のRORγtを測定する能力は、RORγtに特異的なヌクレオチドプローブを使用して達成され得る。当技術分野において周知の技術、例えば、定量的又は半定量的なRT PCR又はノーザンブロットが、RORγtの発現レベルを測定するために使用され得る。もう1つの特定の実施形態において、組織サンプルは生検サンプルである。
【0029】
さらなる実施形態において、生物学的サンプル中のRORγtの濃度を決定する方法は、
a.リガンドが、サンプル中に含有されているRORγtと複合体を形成し得る条件の下で、サンプルをリガンドと接触させること;及び
b.放射標識、酵素、発色団、又は蛍光プローブの使用により達成される、形成された複合体の量の検出により、RORγt及びリガンドが結合したRORγtの量を決定すること:を含む。
【0030】
さらにもう1つの特定の実施形態において、その方法は、被験体における、関節炎、糖尿病、多発性硬化症、ブドウ膜炎、慢性関節リウマチ、乾癬、喘息、気管支炎、アレルギー性鼻炎、慢性閉塞性肺疾患、アテローム性動脈硬化症、H.pylori感染及びそのような感染に起因する潰瘍、炎症性腸疾患、自己免疫疾患、並びに食物アレルギーからなる群より選択される高いRORγtレベルによって特徴付けられる疾患のスクリーニング、診断、又は予後判定を提供する。その方法は、
(I)被験体に由来する組織サンプルにおいてRORγt遺伝子又はRORγt遺伝子産物の量を測定する工程であって、ここで、該RORγt遺伝子又は遺伝子産物は、
(a)配列番号1に相当するDNA、又はそれに由来する核酸;
(b)配列番号2を含むタンパク質;
(c)高ストリンジェンシー条件下で配列番号1もしくはその相補鎖にハイブリダイズ可能な配列を含む核酸、又はハイブリダイズ可能な配列によりコードされる配列を含むタンパク質;
(d)NBLASTアルゴリズムを使用して決定される場合、配列番号1もしくはその相補鎖と少なくとも90%相同な核酸;又はそれによりコードされるタンパク質
である工程;及び
(II)該被験体における該RORγt遺伝子産物の量を、RORγtの高いレベルによって特徴付けられる疾患を有していない被験体から入手された正常組織サンプル、又は予め決定された標準に存在するRORγt遺伝子産物の量と比較する工程を包含し、ここで、正常組織サンプル又は予め決定された標準における量と比較された、該被験体における該RORγt遺伝子産物の量の増加は、該被験体における炎症性又は自己免疫性の疾患の存在を示す。
【0031】
さらにもう1つの実施形態において、その方法は、被験体における炎症性もしくは自己免疫性の疾患又は食物アレルギーの素因、発症、又は存在を決定するための診断法を提供する。その方法は、被験体において、配列番号1及び配列番号2に示されるようなRORγt遺伝子もしくは遺伝子産物のレベルの変化の存在を検出する工程、又はタンパク質の機能に影響を与えるRORγt遺伝子の多形を検出する工程を包含する。その方法は、さらに、
a)該被験体から組織生検を入手する工程;
b)該組織生検中の細胞を透過性化する工程;
c)該組織生検又は該組織生検から単離された細胞を、
i)RORγt遺伝子産物に特異的な抗体、もしくはタンパク質の機能に影響を与える多形を有するRORγt遺伝子の遺伝子産物に特異的な抗体;又は
ii)RORγt遺伝子に特異的な核酸プローブ、もしくはタンパク質の機能に影響を与える多形を有するRORγt遺伝子とハイブリダイズする核酸プローブ
のうちの1つと共にインキュベートする工程;
d)結合した抗体又は核酸プローブを検出し、その量を定量する工程;
e)該被験体における生検サンプル中の結合した抗体又は核酸プローブの量を、正常な組織サンプル又は細胞サンプル中の結合した抗体又は核酸プローブの量と比較する工程を包含し、ここで、結合した標識された抗体又は核酸プローブの量は、該被験体における炎症性もしくは自己免疫性の疾患又は食物アレルギーの素因、発症、又は存在と直接相関する。
【0032】
組織サンプル中のRORγtの存在又は欠如を測定するその他の方法もまた企図され、当業者に公知である。
【0033】
(詳細な説明)
本発明の方法及び処置方法論が記載される前に、この発明は、記載された特定の方法及び実験条件に制限されず、従って、方法及び条件は変動し得ることが理解されるべきである。また、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲においてのみ制限されるため、本明細書において使用される用語法は、特定の実施形態を記載するためのものに過ぎず、制限的なものではないことも理解されるべきである。
【0034】
この明細書及び添付の特許請求の範囲において使用されるように、単数形「a」、「an」、及び「the」には、そうでないことが文脈から明白に指示されない限り、複数の対象が含まれる。従って、例えば「ある方法(the method)」との言及には、本明細書に記載された型の、かつ/又はこの開示を参照した当業者には明白であろう、1つ以上の方法及び/又は工程が含まれ、その他も同様である。
【0035】
他に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、この発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるのと同一の意味を有する。本明細書に記載されたものと類似しているか又は等価である任意の方法及び材料が、本発明の実施又は試行において使用され得るが、好ましい方法及び材料がここでは記載される。本明細書において言及された刊行物は、全て、その全体が参考として援用される。
【0036】
(定義)
前述のように、本明細書において使用される用語は、当業者に認識され公知である意味を有する。しかしながら、便宜性及び完全性のため、特定の用語及びそれらの意味を、以下に示す。
【0037】
「DP又は二重陽性胸腺細胞」とは、表面上にCD4レセプター及びCD8レセプターの両方を発現している未熟胸腺細胞である。
【0038】
「孤立リンパ小節」又は「ILF」とは、リンパ小結節としても知られる。結腸においては、「孤立リンパ小節」は、結腸パッチ又は「CP」として知られる。
【0039】
「上皮内リンパ球」とは、本明細書において使用される場合、腸管の裏打ちに位置しているT細胞をさす。「IEL」とも呼ばれるこれらのT細胞は、有害な細菌及びウイルスによる侵襲からの身体の防御、食物及び無害な細菌に対する免疫応答の最小化、並びに腸管裏打ちの修復の促進において重要な役割を果たしている。
【0040】
「クリプトパッチ(CP)細胞」とは、腸管壁に見出される独特の細胞クラスターである。これらの造血細胞の小さなクラスターは、小腸の壁において陰窩間に検出されている。
【0041】
「炎症性腸疾患」(IBD)は、小腸及び大腸のいずれか又は両方に影響し得る。クローン病及び潰瘍性大腸炎は、IBDの最も有名な型であり、いずれも、病因が未知であるため、「特発性」炎症性腸疾患のカテゴリーに分類される。病理学的所見は、特定の型のIBDを示唆し得るが、一般に、特異的ではない。「活動性」IBDは、急性炎症を特徴とする。「慢性」IBDは、陰窩の歪み及び瘢痕という構造的変化を特徴とする。陰窩膿瘍(陰窩腔における好中球からなる活動性IBD)は、潰瘍性大腸炎のみならず多くの型のIBDにおいて起こり得る。
【0042】
「抗腫瘍免疫」とは、特定の腫瘍細胞又は特定の癌性組織に対して生成した免疫応答をさす。その応答は、B細胞(抗体)応答であるかもしれないし、又はT細胞(細胞性)応答であるかもしれない。
【0043】
「免疫原」という用語は、ペプチドもしくはタンパク質または糖脂質に対する抗体の調製のため、又はT細胞応答の誘発のために使用される、典型的にはペプチドもしくはタンパク質または糖脂質を活性成分(即ち、抗原)として含有している組成物を記載するために本明細書において使用される。
【0044】
「免疫原性の」という用語は、体液性又は細胞性の免疫応答を誘発する抗原の能力をさす。「免疫原として有効な量」とは、本明細書において使用される場合、当業者に公知の標準的なアッセイにより測定されるような、免疫応答、細胞性(T細胞)応答又は体液性(B細胞もしくは抗体)応答を誘発するのに十分な抗原の量をさす。免疫原としての抗原の有効性は、増殖アッセイによるか、特異的な標的細胞を溶解するT細胞の能力を測定するクロミウム放出アッセイのような細胞溶解アッセイによるか、又は血清中の抗原に特異的な循環抗体のレベルを測定することによりB細胞活性のレベルを測定することによるか、又は脾臓内の抗原特異的コロニー形成単位の数を測定することによって、測定され得る。さらに、免疫応答の防御のレベルは、免疫感作された宿主を、抗原を保持している病原体によりチャレンジすることにより測定され得る。例えば、免疫応答が望まれる抗原がウイルス又は腫瘍細胞である場合、「免疫原的に有効な量」の抗原により誘導された防御のレベルは、動物のウイルス又は腫瘍細胞のチャレンジ後の生存のレベルを検出することにより測定される。
【0045】
「粘膜免疫」という用語は、粘膜を介した感染に対する抵抗性をさす。粘膜免疫は、生殖器、胃腸管の裏打ち、及び外界に曝された身体のその他の湿表面に存在する免疫細胞及び抗体に依存している。従って、粘膜免疫を有する者は、粘膜の抗体分泌の結果として、外来微生物又は抗原性物質の病原作用に対して感受性でない。胃腸管、呼吸器、及び生殖器の粘膜上皮は、身体へのこれらの侵入口を防御するよう働くある型のIgA(IgA、分泌型)を産生する。多くの病原体が、粘膜表面を通って宿主に侵入するため、粘膜免疫を誘発するワクチンは、インフルエンザ又はSARSウイルスのような多くの公知の病原体からの防御に関して有益であろう。さらに、経口経路を介して抗原を投与することにより、特定の抗原に対するT細胞耐性が確立され得ることが公知であり、従って、これは、共生細菌、食物成分等に応答して起こる炎症を防止するためのメカニズムとなる。従って、RORγt発現クリプトパッチ細胞は、経口耐性の誘導の過程において役割を果たす可能性がある。
【0046】
「サブユニットワクチン」とは、精製された病原微生物の抗原性成分から調製された無細胞ワクチンであり、従って、全細胞調製物より低い有害反応のリスクを保持している。これらのワクチンは、細菌又はウイルスに由来する精製されたタンパク質又は多糖から作製される。それらは、宿主細胞への病原体の接着又は侵襲に関与している毒素及び細胞表面分子のような成分を含む。これらの単離されたタンパク質は、免疫応答が惹起され得る標的タンパク質/抗原として作用する。サブユニットワクチンのために選択されるタンパク質は、通常、病原体の細胞表面に提示されているものであり、そのため、被験体の免疫系は、その後、その病原体によりチャレンジされた場合に、細胞表面タンパク質を認識し、そして拡張的に接着している病原体を認識し、それらに対する免疫反応を惹起する。サブユニットワクチンは、完全な感染因子ではないため、感染性にはなり得ない。従って、それらは、その他の型のワクチンに関連した有意な欠点である、望ましくない有毒な感染性のリスクを提示しない。2つ以上の病原体からのサブユニット分子が、しばしば、組み合わせワクチンを形成させるために混合される。組み合わせワクチンの利点は、一般に、比較的安価であり、比較的少ない接種を必要とし、従って、動物に対する外傷性が比較的低いという点である。
【0047】
「DNAワクチン」とは、免疫感作剤としての遺伝物質(例えば、核酸配列)の使用に関する。1つの態様において、本発明は、個体の組織又は細胞への外因性又は外来のDNA分子の導入に関し、ここで、これらの分子は、タンパク質に対する免疫応答を誘発し得る外因性タンパク質をコードする。外因性核酸配列は、単独で導入されてもよいし、又はコードされたタンパク質の発現を調節し得るプロモーター及び/もしくはエンハンサーと配列が作動可能に連結されている発現ベクターに関連して導入されてもよい。外因性核酸配列の導入は、細胞への核酸配列の取り込み又は組み込みを増強し得る細胞刺激剤の存在下で実施され得る。そのような外因性核酸配列は、生物学的に適合性であるか又は薬学的に受容可能なキャリアを含む組成物に含まれ投与され得る。外因性核酸配列は、本明細書に記載されたような、そして当技術分野において周知の、多様な手段により投与され得る。DNAは、個体の細胞における発現に必要な調節エレメントと連結される。調節エレメントには、プロモーター及びポリアデニル化シグナルが含まれる。当業者に公知のその他のエレメントも、用途に依存して、本発明の遺伝子構築物に含まれ得る。以下の参照が、生存動物への核酸配列の直接導入のための方法に関係している:Nabelら,(1990)Science249:1285−1288;Wolfeら,(1990)Science 247:1465−1468;Acsadiら(1991)Nature 352:815−818;Wolfeら(1991)BioTechniques 11(4):474−485;ならびにFelgnerおよびRhodes,(1991)Nature 349:351−352(これらは、参考として本明細書中で援用される)。そのような方法は、個体に病原体が感染するリスクなしに、病原体に対する免疫を誘発するために使用され得る。本発明は、一工程手法で個体の細胞へ直接ポリヌクレオチドを注射することにより、病原体感染に対して個体を免疫感作する方法が提示されているPCT国際出願第PCT/US90/01515号、及び米国特許第6,635,624号;第6,586,409号;第6,413,942号;第6,406,705号;第6,383,496号に記載されたもののような、当技術分野において公知の手法を使用して実施され得る。
【0048】
「アゴニスト」とは、レセプターと相互作用し、そのレセプターに特徴的な生理学的又は薬理学的な応答(収縮、弛緩、分泌、酵素活性化等)を開始させることができる内因性の物質又は薬物である。アゴニストは、陽性の固有活性を有する。「固有活性」とは、薬物−レセプター結合事象を生物学的応答へと変換する薬物(及び細胞)の能力である。
【0049】
「アンタゴニスト」又は「インヒビター」とは、指定された分子(本発明の場合、その分子はRORγtである)の発現及び/又は機能を防止する、有機低分子またはタンパク質もしくはペプチドのような物質、あるいはアンチセンス核酸もしくは低分子干渉RNA分子(siRNA)のような核酸分子、あるいは抗体である。
【0050】
「粘膜固有層」とは、粘膜内の疎性結合組織である。粘膜固有層は、繊細な粘膜上皮を支持し、上皮がより深い構造に対して自由に動くことを可能にし、かつ免疫防御を提供する。他の疎性結合組織と比較して、粘膜固有層は比較的細胞性である。それは、「リンパ傾向を有する結合組織」とも呼ばれている。粘膜上皮は比較的繊細で、脆弱である(即ち、表皮と比較して相当容易に、侵襲してくる可能性のある微生物により侵害される)ため、粘膜固有層は、効果的な二次防御線を提供するための免疫機能を有する細胞を多数含有している。リンパ組織が、GI管の至る所の粘膜固有層に存在し、それは、時には「消化管関連リンパ組織」、略して「GALT」とも呼ばれる。消化管関連リンパ組織の最も特徴的な特質は、リンパ球が集積する部位であるリンパ小結節(リンパ小節とも呼ばれる)のクラスターの存在である。各リンパ小結節の中心には、リンパ球が増殖する胚中心がある。
【0051】
「三次リンパ器官」とは、発生プログラムに従って胎児において発達するリンパ節及びパイエル板のような二次リンパ器官とは対照的に、炎症刺激に応答して発達するリンパ組織である。三次リンパ組織は、一般的に、慢性関節リウマチ(reumathoid arthritis)、甲状腺炎、及びI型糖尿病のような、自己免疫の標的である慢性的に炎症を起こしている組織に見出される。
【0052】
本明細書において使用される場合、「有機低分子」とは、3キロダルトン未満、好ましくは1.5キロダルトン未満の分子量を有する有機化合物(又は無機化合物(例えば、金属)と錯体を形成した有機化合物)である。
【0053】
本明細書において使用される場合、「レポーター」遺伝子とは、「マーカー遺伝子」という用語と交換可能に使用され、容易に検出可能な核酸、および/又は(1997年4月29日発行の米国特許第5,625,048号及び1997年7月24日公開のWO97/26333(各開示は、参考として本明細書中でその全体が援用される)に記載されたような)緑色蛍光タンパク質、もしくはルシフェラーゼのような容易に検出可能な遺伝子産物をコードする核酸である。
【0054】
「薬学的に受容可能な」という語句は、ヒトに投与された場合に、生理学的に体制であり、典型的には、胃不調、眩暈等のようなアレルギー反応又は類似の不都合な反応を生じない分子実体及び組成物をさす。好ましくは、本明細書において使用される場合、「薬学的に受容可能な」という用語は、動物、特にヒトにおいて使用するため、連邦政府もしくは州政府の規制機関により承認されているか、又は米国薬局方もしくはその他の一般に認められている薬局方に掲載されていることを意味する。「キャリア」という用語は、化合物が共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はビヒクルをさす。そのような薬学的キャリアは、水、及び落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油等のような、石油、動物、植物、又は合成起源のものを含む油のような無菌の液体であり得る。水、又は水性溶液である生理食塩水溶液及びデキストロース水溶液及びグリセロール水溶液が、好ましくは、特に注射可能溶液のためのキャリアとして利用される。適当な薬学的キャリアは、E.W.Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載されている。
【0055】
「治療的に有効な量」という語句は、宿主の活性、機能、及び応答の臨床的に有意な欠陥を、少なくとも約15パーセント、好ましくは少なくとも50パーセント、より好ましくは少なくとも90パーセント低下させ、最も好ましくは防止するのに十分な量を意味するために本明細書において使用される。又は、治療的に有効な量は、宿主における臨床的に有意な状態/症状の改善を引き起こすのに十分なものである。
【0056】
「薬剤」とは、薬学的組成物及び診断用組成物を調製するために使用され得る物質、又は、全て本発明に従い、そのような目的のために独立に使用され得る、合成のもしくは天然に存在する、小さな有機化合物、核酸、ポリペプチド、抗体、フラグメント、アイソフォーム、改変体、もしくはその他の物質のような化合物であり得る物質、全てをさす。
【0057】
「処置」又は「処置すること」とは、治療、防止、及び予防をさし、特に、予防(防止)のための、又は、患者が罹患している場合には、虚弱質、疾病、状態もしくは事象を治癒させるか、またはそれらの程度もしくは発生の可能性を低下させるための、患者に対する医薬品の投与又は医学的手技の実施をさす。
【0058】
「診断」とは、臨床試験参加者を含む患者の診断、予後判定、モニタリング、性質決定、選択、及び特定の障害もしくは臨床的事象のリスクを有するか、またはそれらを有している患者、もしくは特定の治療的処置に対して応答する可能性が最も高い患者の同定、又は特定の治療的処置に対する患者の応答の査定もしくはモニタリングをさす。
【0059】
「被験体」又は「患者」とは、状態、障害、又は疾患のための処置を必要とする哺乳動物、好ましくはヒトをさす。
【0060】
本明細書において使用される場合、「核酸」、「ポリヌクレオチド」、及び「オリゴヌクレオチド」という用語は、プライマー、プローブ、及び検出すべきオリゴマーフラグメントをさし、(2−デオキシ−D−リボースを含有している)ポリデオキシリボヌクレオチド、(D−リボースを含有している)ポリリボヌクレオチド、及びプリンもしくはピリミジン塩基又は(無塩基部位を含む)改変されたプリンもしくはピリミジン塩基のN−配糖体である任意の他の型のポリヌクレオチドの総称である。「核酸」、「ポリヌクレオチド」、及び「オリゴヌクレオチド」という用語の間に意図された長さの区別はなく、これらの用語は交換可能に使用されるであろう。これらの用語は、分子の一次構造のみをさす。従って、これらの用語には、二本鎖及び一本鎖のDNAが含まれ、二本鎖及び一本鎖のRNAも含まれる。
【0061】
「ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)」技術は、米国特許第4,683,202号、第4,683,195号、及び第4,800,159号に開示されている。その最も単純な型において、PCRは、反対の鎖にハイブリダイズし、かつ標的DNA内の目的の領域に隣接する2つのオリゴヌクレオチドプライマーを使用した、特定のDNA配列の酵素的合成のためのインビトロの方法である。鋳型の変性、プライマーのアニーリング、及びDNAポリメラーゼによるアニールしたプライマーの伸長を含む、反復的な一連の反応工程が、末端がプライマーの5’末端により画定された特定のフラグメント(即ち、アンプリコン)の指数関数的な蓄積をもたらす。PCRは、10倍、特定のDNA配列を選択的に濃縮し得ると報告されている。PCR法は、Saikiら,1985,Science,230:1350にも記載されている。
【0062】
本明細書において使用される場合、「プローブ」とは、プローブ内の少なくとも1つの配列の、標的部位内の配列との相補性のために、標的核酸内の配列と二重鎖構造を形成する、標識されたオリゴヌクレオチドプライマーをさす。そのようなプローブは、本発明に係るRORガンマtの標的核酸配列の同定のために有用である。一本鎖DNAプライマーの対は、標的核酸配列内の配列にアニールさせられ得るか、又は標的核酸配列のDNA合成を開始するために使用され得る。
【0063】
「相同な」とは、当技術分野において公知であり認められている理由及び標準の範囲内のレベルで、標的核酸との類似性を保有している同一センス核酸を意味する。PCRに関して、「相同な」という用語は、もう1つの核酸、例えば、鋳型cDNAとの高レベルの核酸類似性を示すアンプリコンをさすために使用され得る。当技術分野において理解されるように、酵素的な相補鎖合成の忠実度が絶対的ではなく、増幅された核酸(即ち、アンプリコン)が鋳型核酸と全てのヌクレオチドで完全に同一である必要はないことを、当業者は理解するであろうという点で、酵素的転写は、本明細書に記載された様式を使用した転写の精度の限度内で、測定可能な周知の(使用される特定の酵素に依る)エラー発生率を有している。
【0064】
「相補的な」とは、その認識されている意味において、A→T、U及びC→G(及びその逆)という規則に従ってもう1つの配列内のヌクレオチドにハイブリダイズ(アニール)し、従って、この定義の目的のため、そのパートナーと「マッチ」する、ある配列内のヌクレオチドの同定として理解される。酵素的な相補鎖合成の忠実度が絶対的ではなく、アンプリコンが標的又は鋳型RNAと全てのヌクレオチドで完全にマッチしている必要はないことを、当業者は理解するであろうという点で、酵素的転写は、本明細書に記載された様式を使用した転写の精度の限度内で、測定可能な周知の(使用される特定の酵素に依る)エラー発生率を有している。
【0065】
高ストリンジェンシー条件を使用した手法は、以下の通りである。DNAを含有しているフィルターのプレハイブリダイゼーションを、6×SSC、50mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM EDTA、0.02%PVP、0.02%フィコール、0.02%BSA、及び500μg/ml変性サケ精子DNAから構成された緩衝液において、65℃で8時間〜一夜、実施する。フィルターを、100μg/ml変性サケ精子DNA及び5〜20×10cpmの32P標識プローブを含有しているプレハイブリダイゼーション混合物において、65℃で48時間、ハイブリダイズさせる。フィルターの洗浄を、2×SSC、0.01%PVP、0.01%フィコール、及び0.01%BSAを含有している溶液において、37℃で1時間、行う。これに続いて、0.1×SSCにおいて50℃で45分間洗浄した後、オートラジオグラフィーを行う。使用され得るその他の高ストリンジェンシー条件は、当技術分野において周知である(例えば、Sambrookら,1989,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,第2版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New Yorkを参照のこと;Ausubelら,編,the Current Protocols in Molecular Biology series of laboratory technique manuals,1987−1997 Current Protocols,(著作権)1994−1997 John Wiley and Sons,Inc.も参照のこと)。
【0066】
(一般的な説明)
Tリンパ球は、胸腺における発達及びT細胞レセプター(TCR;αβ又はγδのヘテロダイマー)の発現により定義されるリンパ球のサブセットである。Tリンパ球は、病原体を直接認識するのではなく、抗原提示細胞(APC)上に発現されたMHC/ペプチド複合体を認識する。Tリンパ球は、CD3(TCR複合体の一部)の発現によっても特徴付けられ、CD4又はCD8のいずれかの発現により2つの主要なクラスへと細分され得る。CD4+Tリンパ球は、クラスII MHC/ペプチド複合体を認識し、CD8+Tリンパ球はクラスI MHC/ペプチド複合体に拘束される。T細胞は、他の細胞及びタンパク質との相互作用を可能にするレセプターを表面上に有している。T細胞レセプター(TCR)は、ガンマ−デルタ又はアルファ−ベータいずれかのヘテロダイマーである。全T細胞の約95%が、アルファ−ベータTCRを発現する。残りが、ガンマ−デルタTCRを発現する。T細胞の正常な発達においては、ガンマ−デルタTCRが最初に生じる。このレセプターを発現するT細胞は、細胞傷害能力を有しており、補充リンホカインを分泌する。
【0067】
成熟Tリンパ球の大多数が、2つの機能的カテゴリー:抗原提示細胞上の主要組織適合性抗原(MHC)クラスII分子と複合体化したペプチドと反応するヘルパー細胞、及びMHCクラスI分子と結合したペプチドを認識する細胞傷害性細胞、のいずれかに分類される。これらの細胞は、未熟二重陽性(DP)胸腺細胞においては共発現されるが、成熟すると単発現される、CD4又はCD8コレセプターの表面発現に基づき区別される。自己−MHCクラスI分子のためのT細胞抗原レセプター(TCR)を有する細胞は、CD8を発現し、MHCクラスIIのためのレセプターを有する細胞はCD4を発現する。CD4及びCD8は、それぞれクラスII及びクラスIの非多形領域に結合し、細胞質プロテインチロシンキナーゼLckとの会合を通してシグナルを伝達する。
【0068】
成熟T細胞は、表面上にCD4又はCD8のいずれかを発現している。大部分のヘルパーT細胞が、クラスII主要組織適合性抗原(MHC)タンパク質と結合するCD4を発現しており、大部分の細胞傷害性T細胞が、クラスI MHCタンパク質と結合するCD8を発現している。αβT細胞抗原レセプター(TCR)を発現する成熟CD4CD8T細胞及び成熟CD4CD8T細胞は、胸腺において、未熟胸腺細胞から、CD4CD8αβTCR中間細胞を経由して発達する。
【0069】
ガンマ/デルタT細胞は、以下のいくつかの点でアルファ/ベータT細胞と異なっている:
●それらのTCRは、異なる遺伝子セグメントによりコードされる。
●それらのTCRは、
○完全タンパク質及び多様なその他の型の有機分子(しばしば、リン原子を含有している)であり得、
○クラスI又はクラスII組織適合性分子内に「提示」され得ず、
○マクロファージのような「専門の」抗原提示細胞(APC)により提示され得ない:抗原と結合する。
●消化管において、IELは、主としてCD8ααホモダイマーである。
●ガンマ/デルタT細胞は、アルファ/ベータT細胞と同様に、胸腺において発達する。しかしながら、アルファ/ベータT細胞は、身体組織、特に上皮(例えば、腸管、皮膚、膣の裏打ち)へと移動し、血液とリンパ節との間を再循環しない。ヒトにおいて、ガンマ/デルタT細胞は、血中T細胞の最大30%を占める場合がある。それらは、リンパ節に見出されるAPCに頼るのではなく、それらを囲む上皮細胞の表面で抗原に遭遇する。
【0070】
外界と内界との界面に位置しているため、γδT細胞は、侵襲してくる病原体に対する一次防御線となり得る。それらの応答は、αβT細胞のものより迅速であるようである。
【0071】
CD8は、Igスーパーファミリーの2つのポリペプチド鎖であるα及びβからなる。細胞表面に発現されたCD8は、αβヘテロダイマー又はααホモダイマーのいずれかとして存在する。胸腺由来のCD8CTLは、一般に、CD8αβヘテロダイマーを発現し、CD8のMHCクラスIとの結合が、TCRのペプチド/MHCクラスI複合体との抗原特異的な結合を強化すると考えられている。しかしながら、CD8ααホモダイマーは、MHCクラスIとの結合にとって十分である。CD8−アルファ−アルファレセプタータンパク質は、前駆細胞の生存及び記憶T細胞への分化、並びに腸管上皮におけるIELのホーミング又は生存を媒介するようである。
【0072】
緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーターがRorγt遺伝子の制御下にあるヘテロ接合性マウス(Ror(γt)+/gfpマウス)を使用して、本願の発明者らは、成体動物において、RORγtが、第3の型の細胞、即ち、クリプトパッチ(CP)細胞において発現されていることを見出し、それは、ILF及びPPの上皮下ドーム構造にも見出されるが、腸管上皮内、mLN又は大動脈周囲LNには見出されなかった。CPは、有意な数のCD11c細胞を含有しており、主に小腸に見出された。対照的に、ILFは、主としてB細胞、少数のαβT細胞、及び活性化されたVCAM−1間質からなり、結腸に主に見出された。腸管Rorγt細胞は、IL−7Rα及びc−kitを発現し、IL−7Rα細胞は同様にRORγt陽性であった。腸管RORγt細胞は、cKit及びIL−7Rαの両方を発現しており、全てのlincKitIL−7Rα+細胞が同様にRORγt陽性であった。さらに、IL−17を産生するRorγtT細胞の亜集団が、Rorc(γt)+/gfpマウスの小腸及び結腸において同定された(しかし大腸においては同定されなかった)。
【0073】
従って、本発明は、クリプトパッチ及びILFの発達のために必要とされる分子(RORγt)の初めての証明を提供する。クリプトパッチに関する以前の研究は、それらが、胸腺から独立して発達すると考えられる腸管T細胞の前駆細胞であることを提唱した。本明細書に示された本発明者らの運命マッピング研究は、成体腸管内のRORγt発現細胞が、リンパ球又はその他の分化造血細胞の前駆細胞ではなく、腸管リンパ組織の誘導因子であることを明白に証明している。さらに、RORγtがこれらの誘導細胞の出現のために必要とされ、その非存在下では、組織化されたリンパ組織が消化管に存在しないことが示された。細菌叢への曝露が、腸管クリプトパッチ及びILFの数及びサイズを指示するため、本発明者らは、RORγt依存性の腸管誘導細胞が、外的な合図に応答して、自己免疫疾患の部位にしばしば見出される炎症巣である、三次リンパ組織の形成を開始させることを提唱する。
【0074】
腸管上皮内Tリンパ球の発生起源には依然として議論の余地があるが、本願の発明者らは、ここで、腸管αβT細胞が、未熟CD4CD8胸腺細胞(二重陽性又はDP胸腺細胞)、胎児リンパ組織誘導(LTi)細胞、及び成体腸管クリプトパッチ(CP)細胞にのみ検出されるオーファン核ホルモンレセプターであるRORγtを発現する前駆細胞に由来することを示す。運命マッピングを使用して、本発明者らは、全ての腸管αβT細胞が胸腺細胞の子孫であり、CP細胞に由来する腸管T細胞は存在せず、その代りに、CP細胞は、成体消化管におけるリンパ組織発達においてLTi細胞と類似の役割を有していることを見出した。
【0075】
本発明は、この所見に関して向けられたものである。
【0076】
(診断目的のためのRORγtタンパク質に対する抗体の使用)
本発明の1つの態様は、炎症性疾患、自己免疫疾患のような高いRORγtレベルによって特徴付けられる疾患を有するか、もしくはその素因を有する被験体、又は食物アレルギーに罹患している個体を診断するために、RORγt遺伝子産物(例えば、タンパク質(もしくはそれに由来するペプチド))又はRORγtをコードする核酸に対する抗体を使用する方法を提供する。上昇したRORγtのレベルは、関節炎、糖尿病、多発性硬化症、ブドウ膜炎、慢性関節リウマチ、乾癬、喘息、気管支炎、アレルギー性鼻炎、慢性閉塞性肺疾患、アテローム性動脈硬化症、H.pylori感染及びそのような感染に起因する潰瘍、並びに炎症性腸疾患のような疾患において見出され得る。従って、本発明の1つの態様において、これらの状態のための適切な治療の後には、RORγt遺伝子の発現の減少が見られるかもしれない。他方、個体にワクチンが送達され、次いでそれがRORγt遺伝子の発現を増強すべき場合には、RORγt遺伝子又は遺伝子産物の増強された発現レベルが望ましいかもしれない。
【0077】
本発明の診断法は、被験体から単離された生検サンプル、組織、又は細胞のような生物学的サンプルを、RORγtに結合する抗体と接触させる工程を提供する。抗体は、抗体−抗原複合体が形成されるようRORγt抗原と結合させられる。RORγt抗原には、本明細書において使用される場合、RORγtタンパク質又はそれから単離されたペプチドが含まれる。抗体−抗原複合体を形成させるために必要とされる条件及び時間は変動する場合があり、試験される生物学的サンプル及び使用される検出法に依存する。例えば、サンプルを洗浄することにより、非特異的相互作用が除去された後は、抗体−抗原複合体が、抗原を検出及び/又は定量化するために使用される任意のイムノアッセイを使用して検出される[例えば、HarlowおよびLane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1988)555−612を参照のこと]。そのような周知のイムノアッセイには、抗体捕獲アッセイ、抗原捕獲アッセイ、及び二抗体サンドイッチアッセイが含まれる。抗体捕獲アッセイにおいては、抗原を固体支持体に接着させ、標識された抗体を結合させる。洗浄の後、固体支持体上に保持された抗体の量を測定することにより、アッセイが定量化される。抗原捕獲アッセイにおいては、抗体を固体支持体に接着させ、標識された抗原を結合させる。未結合のタンパク質を洗浄により除去し、結合した抗原の量を測定することにより、アッセイが定量化される。二抗体サンドイッチアッセイにおいては、1つの抗体を固体支持体に結合させ、抗原をこの一次抗体に結合させる。抗原に結合した標識された二次抗体の量を測定することにより、アッセイが定量化される。
【0078】
これらのイムノアッセイは、典型的には、検出のため、標識された抗原、抗体、又は二次性の試薬に基づく。これらのタンパク質は、放射性化合物、酵素、ビオチン、又は蛍光色素により標識され得る。これらのうち、放射性標識は、ほぼ全ての型のアッセイに使用され得る。放射能を回避しなければならない場合、又は迅速な結果が必要である場合には、酵素結合体化標識が特に有用である。ビオチンとカップリングした試薬は、通常、標識されたストレプトアビジンにより検出される。ストレプトアビジンは、ビオチンと強く迅速に結合し、放射性同位体又は酵素により標識され得る。蛍光色素は、それらを使用するための高価な装置を必要とするが、極めて高感度の検出の方法を提供する。当業者は、本発明に従って利用され得るその他の適当な標識を承知しているであろう。これらの標識の、抗体又はそのフラグメントとの結合は、Kennedyら[(1976)Clin.Chim.Acta 70:1−31]及びSchursら[(1977)Clin.Chim Acta 81:1−40]により記載されたもののような標準的な技術を使用して達成され得る。
【0079】
本発明の診断法によると、抗体−抗原複合体の存在又は非存在は、生物学的サンプル中のRORγt遺伝子産物の存在又は非存在と相関させられる。上昇したレベルのRORγt遺伝子産物を含有している生物学的サンプルは、炎症性疾患又は自己免疫疾患又は食物アレルギーの指標となる。そのような疾患の例は、上記されている。従って、本発明の診断法は、そのような疾患を有すると推測される被験体における、又はそのような疾患の素因を有するかもしれない被験体のための、慣用的スクリーニングの一部として使用され得る。さらに、本発明の診断法は、単独で使用されてもよいし、又はそのような疾患を確認するためのその他の周知の診断法と組み合わせて使用されてもよい。
【0080】
本発明の診断法は、薬物処置が健康を回復させるために有効であるか否か、そしてどの程度有効であるか、を同定するため、薬物処置の様々な間隔において患者サンプル中のRORγt抗原のレベルをモニタリングするために、本発明の抗体が使用され得ることをさらに提供する。さらに、RORγt抗原レベルは、モデル系及び臨床試験において薬物候補の効力を評価する研究において、本発明の抗体を使用してモニタリングされ得る。例えば、この発明の抗体を使用して、公知又は未知の治療剤により処置された個体の生物学的サンプルにおいて、RORγt抗原レベルをモニタリングすることができる。これは、調査される疾患に依って、インビトロ細胞系を用いて、又はモデル系及び臨床試験において達成され得る。薬物候補による処置の間又はその直後に増加した生物学的サンプル中のRORγt抗原の全レベルは、その薬物候補が、実際、疾患を増悪させ得ることを示す。RORγt抗原の全レベルの不変は、その薬物候補が疾患の治療において無効であることを示す。RORγt抗原の全レベルの低下は、その薬物候補が疾患の処置において有効であることを示す。これは、前臨床創薬、臨床薬物試験、そしてその後の薬物処置を受ける患者のモニタリングの全ての段階において有益な情報を提供し得る。他方、増強された免疫が望まれる場合(即ち、個体が病原体又は腫瘍に対するワクチン接種を受ける場合)には、RORγtの発現を増加させる薬剤によりそのような個体を処置することが望まれる。そのようなRORγtのアゴニスト又は増強因子は、ワクチンと同時に送達されてもよいし、又はワクチンとは独立に送達されてもよい。
【0081】
(RORγt核酸分子の検出)
もう1つの特定の実施形態において、本発明は、RORγt遺伝子又はRORγt遺伝子発現の定量的及び定性的な態様を査定する方法を含む。一例において、RORγt遺伝子又はRORγt遺伝子産物の増加した発現は、炎症性疾患又は自己免疫疾患又は食物アレルギーの発症の素因を示す。又は、ワクチンが個体に送達され、次いで、それがRORγt遺伝子の発現を増強すべき場合には、RORγt遺伝子又はRORγt遺伝子産物の増強された発現レベルが望ましいかもしれない。当技術分野において周知の技術、例えば、定量的又は半定量的なRT PCR又はノーザンブロットが、RORγt遺伝子の発現レベルを測定するために使用され得る。RORγt遺伝子又はRORγt遺伝子産物の発現の定性的及び定量的な態様を記載する方法は、下記実施例に詳細に記載される。RORγt遺伝子発現レベルの測定は、天然に存在するRORγt転写物及びそれらの改変体、そして天然には存在しないそれらの改変体を測定する工程を包含し得る。しかしながら、被験体における炎症性疾患、自己免疫障害、又は食物アレルギーの診断及び/又は予後判定は、好ましくは、天然に存在するRORγt遺伝子産物又はその改変体の増加したレベルの検出に向けられる。従って、本発明は、被験体におけるRORγt遺伝子又は遺伝子産物の発現を測定する工程により、被験体における炎症性疾患、自己免疫疾患又は食物アレルギーを診断及び/又は予測する方法に関する。例えば、正常サンプル又は予め決定された正常標準と比較して増加している、RORγt遺伝子(例えば、配列番号1)によりコードされたmRNAのレベルは、該被験体における炎症性疾患、自己免疫疾患もしくは食物アレルギーの存在、又は該被験体における炎症性疾患、自己免疫疾患もしくは食物アレルギーの発症の増加したリスクを示すであろう。
【0082】
本発明のもう1つの態様において、正常サンプル又は予め決定された正常標準のものと比較して増加している、RORγt遺伝子(例えば、配列番号1(登録番号U16997.1を有するヒトDNA)、又は配列番号3(登録番号AF019657を有するマウスDNA))によりコードされたmRNA又はその他の関連遺伝子産物(例えば、配列番号2(ヒトタンパク質)、又は配列番号4(マウスタンパク質))のレベルは、該被験体における病期又は該被験体における予後不良の可能性を示すであろう。
【0083】
もう1つの例において、RORγt遺伝子を発現することが公知であるか、又は発現すると推測される細胞型又は組織からのRNAが、上記のようなハイブリダイゼーション技術又はPCRの技術を利用して単離され試験され得る。単離された細胞は、細胞培養物又は患者に由来し得る。培養物から得られた細胞の分析は、細胞に基づく遺伝子治療技術の一部として使用すべき細胞の査定において、又はRORγt遺伝子の発現に対する化合物の効果を試験するため、必要な工程であり得る。そのような分析は、RORγt遺伝子発現の活性化又は抑制、及びオルタナティブスプライシングを受けたRORγt遺伝子転写物の存在を含む、RORγt遺伝子の発現パターンの定量的及び定性的な態様を明らかにし得る。
【0084】
そのような検出スキームの1つの実施形態において、cDNA分子が逆転写により目的RNA分子から合成される。次いで、得られたcDNAの全部又は一部が、PCR等のような核酸増幅反応のための鋳型として使用される。この方法の逆転写工程及び核酸増幅工程において合成開始試薬(例えば、プライマー)として使用される核酸試薬は、RORγt遺伝子核酸試薬の中から選出される。そのような核酸試薬の好ましい長さは、少なくとも9〜30ヌクレオチドである。
【0085】
増幅された産物の検出のため、核酸増幅は、放射標識されたヌクレオチド又は非放射標識されたヌクレオチドを使用して実施され得る。又は、標準的な臭化エチジウム染色により、又は任意の他の適当な核酸染色法を利用することにより産物が可視化され得るよう十分な増幅産物が作製され得る。
【0086】
RT−PCR技術は、正常又は異常なオルタナティブスプライシングによるかもしれないRORγt遺伝子転写物サイズの差を検出するために利用され得る。さらに、そのような技術は、正常個体と、炎症性疾患、自己免疫疾患、もしくは食物アレルギーを有するか、又はこれらの状態の素因を示す個体との間の、検出されるRORγt遺伝子転写物のレベルの定量的な差を検出するため、標準的な技術を使用して実施され得る。
【0087】
特定のオルタナティブスプライシング種の検出が望まれる場合には、例えばそのような配列の非存在下では増幅が起こらないであろう、適切なプライマー及び/又はハイブリダイゼーションプローブが使用され得る。
【0088】
増幅技術の別法として、十分な量の適切な細胞又は組織が入手され得る場合には、標準的なノーザン分析が実施され得る。ノーザン分析において使用されるプローブの好ましい長さは、9〜50ヌクレオチドである。そのような技術を利用すれば、RORγt転写物の間の定量的な差が検出され得、さらに、サイズに関連した差も検出され得る。
【0089】
さらに、インサイチューで(即ち、核酸精製を必要とせず、生検又は切除により入手された患者組織の(固定及び/又は凍結)組織切片に対して直接)、そのようなRORγt遺伝子発現アッセイを実施することが可能である。本明細書に記載されたもののような核酸試薬は、そのようなインサイチュー手法のためのプローブ及び/又はプライマーとして使用され得る(例えば、Nuovo,G.J.,1992,PCR In Situ Hybridization:Protocols And Applications,Raven Press,NYを参照のこと)。
【0090】
RORγt遺伝子内の変異又は多形は、多数の技術を利用することにより検出され得る。任意の有核細胞からの核酸(例えば、ゲノムDNA)が、そのようなアッセイ技術のための出発点として使用され得、当業者に周知の標準的な核酸調製手法により単離され得る。RORγt転写物又はRORγt遺伝子産物の検出のためには、RORγt遺伝子が発現されている任意の細胞型又は組織が利用され得る。
【0091】
ゲノムDNAは、点変異、挿入、欠失、及び染色体再編成を含むRORγt遺伝子構造に影響する異常を検出するため、生物学的サンプルのハイブリダイゼーション又は増幅のアッセイにおいて使用され得る。そのようなアッセイには、以下に制限はされないが、直接配列決定(Wong,C.ら,1987,Nature 330:384)、一本鎖コンフォメーション多形分析(SSCP;Orita,M.ら,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:2766)、ヘテロ二重鎖分析(Keen,T.J.ら,1991,Genomics 11:199;Perry,D.J.& Carrell,R.W.,1992)、変性勾配ゲル電気泳動(DGGE;Myers,R.M.ら,1985,Nucl.Acids Res.13:3131)、化学的ミスマッチ切断(Cotton,R.G.ら,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:4397)、及びオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション(Wallace,R.B.ら,1981,Nucl.Acids Res.9:879;Lipshutz,R.J.ら,1995,Biotechniques 19:442)が含まれる。
【0092】
患者サンプル又はその他の適切な細胞源におけるRORγt遺伝子核酸分子の検出のための診断法は、例えば、PCR(Mullis,K.B.,1987、米国特許第4,683,202号を参照のこと)により、特定の遺伝子配列を増幅した後、例えば、上記されたもののような当業者に周知の技術を使用して、増幅された分子を分析することを含み得る。これらのような分析技術を利用して、増幅された配列は、RORγt遺伝子変異が存在するか否かを決定するため、増幅された核酸が正常なコピー数のRORγt遺伝子のみを含有している場合に予想されるであろうものと比較され得る。
【0093】
(治療用及び予防用組成物並びにそれらの使用)
本明細書に記載された方法により同定された薬剤による治療のための候補は、炎症性疾患、自己免疫障害、もしくは食物アレルギーに罹患しているか、又はそのような障害を発症する傾向のある患者である。この状況において、薬剤は、RORγtの調節因子、好ましくは、RORγtのインヒビター又はアンタゴニストであろう。さらに、癌のための「幹細胞」仮説が正しいのであれば、(前駆二重陽性段階で阻止するための)RORγtインヒビターと、分化した腫瘍を排除するための化学療法との組み合わせにより、これらの癌を処置することが有効であるかもしれない。さらに、ある種の病原生物(例えば、細菌、ウイルス、真菌、寄生虫)、又は腫瘍に対する予防接種を必要とする患者は、RORγtの発現を増強する薬剤、又はRORγtの発現及び/もしくは活性を増強するアゴニストによる処置を必要とするかもしれない。
【0094】
本発明は、RORγtの発現及び/又は活性を調節する有効量の薬剤を被験体に投与する工程を包含する、処置の方法を提供する。「RORγtの調節因子」とは、RORγtの発現及び/もしくは活性を増強するアゴニストもしくは刺激因子、又はRORγtの発現及び/もしくは活性を減少させるアンタゴニストとして作用する薬剤と定義される。その薬剤は、RORγtの発現に拮抗するよう作用する有機低分子のような化合物として同定されるかもしれないし、又は、それは、RORγtの発現を防止する、タンパク質もしくはポリペプチド、アンチセンスRNAもしくはsiRNA分子のような核酸分子であるかもしれない。それは、炎症性状態、自己免疫疾患、又は食物アレルギーのような疾患の処置のための、RORγtの発現を減少させるアンタゴニスト性抗体であるかもしれない。又は、様々な病原生物のためのワクチン候補と共に、又は腫瘍ワクチンと共に使用され得るアゴニストのようなRORγtの発現を増加させる薬剤により処置することが望ましいかもしれない。アゴニストとして作用する薬剤は、RORγtの発現を刺激するよう作用する有機低分子のような化合物として同定されるかもしれないし、又は、それは、タンパク質もしくはポリペプチド、もしくは核酸分子であるかもしれない。RORγtタンパク質の発現及び/又は活性に直接作用するアゴニストが開発され得ることも構想される。これらの薬剤は、単独で使用されてもよいし、又は処置される特定の疾患のために一般的に使用されている他の標準的な処置計画もしくは戦略と組み合わせて使用されてもよい。好ましい態様において、化合物は、実質的に精製されている(例えば、その効果を制限するか又は望まれない副作用を生ずる物質を実質的に含まない)。被験体は、好ましくは、以下に制限はされないが、サル、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌ等のような動物を含む動物であり、好ましくは、哺乳動物であり、最も好ましくは、ヒトである。1つの特定の実施形態において、非ヒト哺乳動物が被験体である。もう1つの特定の実施形態において、ヒト哺乳動物が被験体である。従って、本明細書に記載された方法により同定された薬剤は、これらの患者を処置するための予防的又は治療的な用途のために使用される薬学的組成物として処方され得る。
【0095】
様々な送達系、例えば、リポソーム、微粒子、又はマイクロカプセルへの封入が公知であり、本発明の化合物を投与するために使用され得る。導入の方法は、経腸であってもよいし、又は非経口であってもよく、以下に制限はされないが、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、局所、及び経口の経路を含む。化合物は、任意の便利な経路、例えば、注入又はボーラス注射、上皮又は粘膜皮膚の裏打ち(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸管の粘膜等)を介した吸収により投与され得、他の生物学的に活性な薬剤と共に投与されてもよい。投与は、全身性であってもよいし、又は局所性であってもよい。さらに、脳室内及びくも膜下腔内の注射を含む任意の適当な経路により中枢神経系へ本発明の薬学的組成物を導入することが望ましいかもしれない;脳室内注射は、例えば、オマヤレザバーのようなレザバーに取り付けられた脳室内カテーテルにより容易にされ得る。例えば、吸入器又は噴霧器、及びエアロゾル化剤による処方を使用することにより、肺内投与もまた利用され得る。特定の実施形態において、処置を必要とする領域に局所的に本発明の薬学的組成物を投与することが望ましいかもしれない。
【0096】
そのような組成物は、治療的に有効な量の薬剤及び薬学的に受容可能なキャリアを含む。特定の実施形態において、「薬学的に受容可能な」という用語は、動物、特にヒトにおいて使用するため、連邦政府もしくは州政府の規制機関により承認されているか、又は米国薬局方もしくはその他の一般に認められている薬局方に掲載されていることを意味する。「キャリア」という用語は、治療薬が共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はビヒクルをさす。そのような薬学的キャリアは、水、及び落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油等のような、石油、動物、植物、又は合成起源のものを含む油のような無菌の液体であり得る。薬学的組成物が静脈内投与される場合には、水が好ましいキャリアである。生理食塩水溶液及びデキストロース水溶液及びグリセロール水溶液もまた、特に注射可能溶液のため、液体キャリアとして利用され得る。適当な薬学的賦形剤には、デンプン、グルコース、乳糖、ショ糖、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等が含まれる。組成物は、所望により、微量の湿潤剤、乳化剤、又はpH緩衝剤を含有していてもよい。これらの組成物は、溶液、懸濁物、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル、粉末、徐放性処方物等の形態をとり得る。組成物は、トリグリセリドのような伝統的な結合剤及びキャリアを用いて、坐剤として処方され得る。経口処方物は、薬学的等級のマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等のような標準的なキャリアを含み得る。適当な薬学的キャリアの例は、E.W.Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載されている。そのような組成物は、被験体への適切な投与のための形態を提供するための適当な量のキャリアと共に、好ましくは精製された形態で、治療的に有効な量の化合物を含有しているであろう。処方物は、投与様式に適しているべきである。
【0097】
好ましい実施形態において、組成物は、ヒトへの静脈内投与のために適合した薬学的組成物として慣用的の手法に従って処方される。典型的には、静脈内投与のための組成物は、無菌の等張水性緩衝液中の溶液である。必要な場合には、組成物は、可溶化剤、及び注射部位における疼痛を緩和するためのリドカインのような局所麻酔薬も含み得る。一般に、成分は、活性薬剤の量を示すアンプル又はサシェのような密封容器において、例えば、乾燥した凍結乾燥粉末又は無水濃縮物として、別々に供給されるか、又は単位投薬形態へと一緒に混合される。組成物が輸液により投与される場合、無菌の薬学的等級の水又は生理食塩水を含有している輸液ボトルにより分配され得る。組成物が注射により投与される場合には、成分が投与の前に混合され得るよう、無菌の注射用水又は生理食塩水のアンプルが提供され得る。
【0098】
本発明は、本発明の薬学的組成物の成分のうちの1つ以上が充填された1つ以上の容器を含む薬学的なパック又はキットを提供する。必要に応じて、そのような容器には、(a)ヒト投与のための製造、使用、又は販売の機関による承認、(b)使用のための説明、又はその両方を反映する、医薬品又は生物学的生成物の製造、使用、又は販売を規制する政府機関により規定された形態の通知が添付され得る。
【0099】
特定の実施形態において、処置を必要とする領域に局所的に本発明の薬学的組成物を投与することが望ましいかもしれない;これは、例えば、以下に制限はされないが、手術中の局所注入、局所適用、注射、カテーテル、又はインプラント(該インプラントは、sialasticメンブレンのようなメンブレン、又はファイバー、又はElvaxのようなコポリマーを含む、多孔性、非多孔性、又はゼラチン状の物質のものである)により達成され得る(Ruanら ,1992,Proc Natl Acad Sci USA,89:10872−10876を参照のこと)。1つの実施形態において、投与は、エアロゾル吸入器による直接注入により行われ得る。
【0100】
もう1つの実施形態において、化合物は、小胞、特にリポソームに含まれ送達され得る(Langer(1990)Science 249:1527−1533;Treatら,Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer,Lopez−Berestein and Fidler(編),Liss,New York,pp.353−365(1989);Lopez−Berestein,同書,pp.317−327を参照のこと;一般的には同書を参照のこと)。
【0101】
さらにもう1つの実施形態において、化合物は、放出調節系で送達され得る。1つの実施形態において、ポンプが使用され得る(Langer,前出;Sefton(1987)CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201;Buchwaldら(1980)Surgery 88:507;Saudekら(1989)N.Engl.J.Med.321:574を参照のこと)。もう1つの実施形態において、ポリマー物質が使用され得る(Medical Applications of Controlled Release,LangerおよびWise(編),CRC Pres.,Boca Raton,Florida(1974);Controlled Drug Bioavailability,Drug Product Design and Performance,SmolenおよびBall(編),Wiley,New York(1984);RangerおよびPeppas,J.(1983)Macromol.Sci.Rev.Macromol.Chem.23:61を参照のこと;Levyら(1985)Science 228:190;Duringら(1989)Ann.Neurol.25:351;Howardら(1989)J.Neurosurg.71:105も参照のこと)。さらにもう1つの実施形態において、放出調節系は、治療標的(即ち、気道)の近傍に配置され得、従って、全身用量の一部分のみを必要とするかもしれない(例えば、Goodson,Medical Applications of Controlled Release(1984)前出,vol.2,pp.115−138を参照のこと)。その他の適当な放出調節系は、Langer(1990)Science 249:1527−1533による概説に記述されている。
【0102】
(有効用量)
化合物の毒性及び治療効力は、例えば、LD50(集団の50%に対して致死の用量)及びED50(集団の50%において治療的に有効な用量)を決定するための、細胞培養物又は実験動物における標準的な薬学的手法により決定され得る。候補アゴニスト及び候補アンタゴニストは、野生型マウス及びRORγtノックアウト(ko)マウスにおいて、koマウスにおける効果の欠如を示すため試験されるであろう。しかしながら、候補薬物は、その他の動物(ラット、イヌ)においても同様に試験されるであろう。一般に、標的は、まずヒトRORγtであり、次いで、マウス(及びその他の種)において種間効果に関して試験されるであろう。毒性と治療効果との間の用量比率が治療指数であり、それは比率LD50/ED50として表され得る。大きい治療指標を示す化合物が好ましい。毒性副作用を示す化合物が使用されてもよいが、影響を受けていない細胞へ傷害の可能性を最小限に抑え、それにより副作用を低下させるため、影響を受けた組織の部位へとそのような化合物を標的化する送達系が設計されるよう注意すべきである。
【0103】
細胞培養アッセイ及び動物研究から得られたデータは、ヒトにおいて使用される用量範囲を公式化するために使用され得る。そのような化合物の投薬量は、好ましくは、毒性をほとんど又は全く有しないED50を含む循環血中濃度の範囲内にある。投薬量は、利用される投薬形態及び利用される投与経路に依って、この範囲内で変動し得る。本発明の方法において使用される任意の化合物について、治療的に有効な用量は、細胞培養アッセイからまず推定され得る。細胞培養物において決定されたようなIC50(即ち、症状の最大の半分の阻害を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するための用量が、動物モデルにおいて公式化され得る。そのような情報は、ヒトへの投与のための効果的な用量を最適化するために使用され得る。血漿レベルは、当技術分野において公知の任意の技術(例えば、高速液体クロマトグラフィー)により、測定され得る。
【0104】
さらに、必要に応じて、インビトロアッセイが、最適な投薬量範囲の同定を補助するために利用され得る。処方物中に利用すべき正確な用量はまた、投与経路、及び疾患又は障害の重度にも依り、医師の判断及び各被験体の状況によって決められるべきである。特定の疾患のために利用される特定の治療剤のために使用される通常の用量範囲は、Physicians’ Desk Reference,第54版(2000)に見出され得る。
【0105】
処置は、発現可能な遺伝子構築物に含まれる、上記のRORγt遺伝子の発現を増加又は減少させる薬剤をコードするDNAを投与することによっても、達成され得る。薬剤をコードするDNAは、例えば、該薬剤がタンパク質又はポリペプチドである場合、細胞にDNAを送達するための当技術分野において公知の技術を使用して患者に投与され得る。例えば、レトロウイルスベクター、エレクトロポレーション、又はリポソームが、DNAを送達するために使用され得る。
【0106】
本発明は、RORγt遺伝子発現に関連した有意に低下したか又は増加した活性を示さない上記薬剤の改変又は等価物の使用を含む。例えば、活性に実質的に有害な影響を与えることなく、アミノ酸の含有量又は配列が改変される改変が、含まれる。従って、本明細書に含有されている効果及び使用の表現は、これに応じて解釈されるべきであり、改変された遺伝子産物又は等価な遺伝子産物を利用したそのような使用及び効果は、本発明の一部である。
【0107】
RORγt又はRORγt遺伝子もしくはRORγt遺伝子産物の発現を増強する本発明の薬剤は、それ自体、唯一の活性薬剤として使用されてもよいし、又は他の活性成分と組み合わせて使用されてもよい。
【0108】
(免疫により媒介される疾患の処置のためのRORγt調節因子の使用)
上述のように、RORγtの発現を調節する化合物は、炎症細胞及びこれらの細胞により産生された炎症メディエーターの存在に関連した、免疫により媒介される疾患を処置するために使用され得る。好ましい実施形態において、免疫により媒介される疾患が炎症状態である場合、免疫により媒介される疾患又は状態を処置するための薬剤は、RORγt発現のアンタゴニスト又はインヒビターであろう。そのようなアンタゴニストによる処置は、炎症細胞及びメディエーターの存在に関連した組織傷害を減じ得る。RORγt発現の調節因子による処置が有効であり得る疾患を、以下にまとめる。
【0109】
(炎症性腸疾患)
RORgtの調節因子は、炎症性腸疾患(IBD)の処置のために特に有効であるかもしれない。潰瘍性大腸炎(UC)及びクローン病は、ヒトにおける特発性炎症性腸疾患(IBD)の2つの主要な型であり、広く蔓延している十分に理解されていない障害である(Kirsner,J.B.,ら,編,Inflammatory Bowel Disease:第3版,LeaおよびFebiger,Philadelphia(1988);Goldner,F.H.,ら,Idiopathic Inflammatory Bowel Disease,Stein,J.H.,編,Internal Medicine,Little Brown&Co.,Boston,pp.369−380(1990);Cello,J.P.,ら,Ulcerative Colitis,Sleisenger,M.H.,ら.編,Gastrointestinal Disease:Pathophysiology Diagnosis Management,W.B.Saunders Co.,Philadelphia,p.1435(1989))。IBDの他の形態には、感染因子、薬物により引き起こされるもの、又は孤立性直腸潰瘍症候群及びコラーゲン蓄積大腸炎が含まれる。公知及び未知の病因のIBDの診断を行うのは、困難であり、時には不可能である(Riddell,R.H.,編,Pathology of Drug−induced and Toxic Diseases,Churchill Livingstone,New York(1982))。
【0110】
大腸炎とは、一般に、深く、しばしば経粘膜的な影響及び裂溝として現れるクローン病とは対照的に、より表面的な粘膜疾患をさす(Riddell,R.H.,編,Pathology of Drug−induced and Toxic Diseases,Churchill Livingstone,New York(1982);Morrison,B.C,ら.編,Gastrointestinal Pathology,第2版,London(1979);Fenoglio−Preiser,C.M.,ら,編,Gastrointestinal Pathology:An Atlas and Text,Raven Press,New York(1989);Goldman,H.,ら,Hum.Pathol.13:981−1012(1982))。潰瘍性大腸炎は、典型的には、直腸に影響し、介在する未影響の領域なしに近位に拡張する。これらの未影響の領域は、通常、クローン病の大きな特徴である。活動性潰瘍性大腸炎の組織学的特徴には、表面的な潰瘍の他に、粘膜固有層に広範囲に影響する炎症細胞(例えば、主としてリンパ球、形質細胞、可変性の数の好中球、好酸球、及び肥満細胞)による浸潤が含まれる。陰窩上皮の近くの好中球及び陰窩上皮に侵襲している好中球の凝集物である陰窩膿瘍は、一般に、信頼性のある活性の指標であり、杯状細胞におけるムチンの枯渇がより低い頻度の所見である。しかしながら、陰窩膿瘍の破裂及び粘膜下へのムチンの漏出のために、異物巨細胞及び少数の組織球の集団が存在する場合があり、それは、しばしば細胞反応を誘発する。非乾酪性肉芽腫が、クローン病からの消化管セグメントに存在する場合があり、それは、しばしば、肉芽腫性大腸炎とも呼ばれる。
【0111】
特発性IBDの病因及び病原は、その名称が暗示するように、十分に理解されていない。しかしながら、多数の理論が、遺伝的素因、環境因子、感染因子、及び免疫学的改変の関与を示している(Kirsner,J.B.,ら.編,Inflammatory Bowel Disease,第3版,LeaおよびFebiger,Philadelphia(1988);Zipser,R.D.,編,Dig.Dis.Sci.,33,補遺:1S−87S(1988))。
【0112】
Eliakimらは、活動性疾患における血小板活性化因子(PAF)の増強された産生、並びにスルファサラジン及びプレドニゾロンによる阻害を証明しており(Eliakim,R.,ら,Gastroenterology 95:1167−1172(1988))、従って、このことは、疾患過程における可能性のあるメディエーターとしてのPAFの関与を示している。さらに、プロスタグランジン、トロンボキサン、及びロイコトリエンのようなエイコサノイドの増強された合成が、ヒトIBD及び実験的IBDの両方において示されている(Schumert,R.,ら,Dig.Dis.Sci.33,補遺:58S−64S(1988))。これらの産物は、IBDの病原に関与しているかもしれない。ロイコトリエンの選択的な阻害は、IBDにおける炎症を低下させるための治療戦略となり得る(Schumert,R.,ら,Dig.Dis.Sci.33,補遺:58S−64S(1988);Goetzl,E.J.,ら,Dig.Dis.Sci.33,補遺:36S−40S(1988);Allgayer,H.,ら,Gastroenterology 96:1290−1300(1989))。
【0113】
可能性のある体液性の炎症メディエーター(例えば、腫瘍壊死因子、増殖因子、ニューロペプチド、リポキシン、及び肥満細胞産物)もまた、IBDの病原に関与しているかもしれない(Zipser,R.D.,編,Dig.Dis.Sci.,33,補遺:1S−87S(1988);Shanahan,F.,ら,Dig.Dis.Sci.33,補遺:41S−49S(1988);Nast,C.C,ら,Dig.Dis.Sci 33,補遺:50S−57S(1988);Mayer,E.A.,ら,Dig.Dis.Sci.33,補遺:71S−77S(1988))。クローン病においては、炎症誘発性ペプチドホルミル−メチオニル−ロイシル−フェニルアラニン(FMLP)のための好中球レセプター及びそれに対する応答(Anton,P.A.,ら,Gastroenterology 97:20−28(1989))並びに白血球の接着(Cason,J.,ら,J.Clin.Pathol.41:241−246(1988))の増加のように、炎症細胞及びそれらの産物の数が変化するのみならず、レセプターの数も増加する可能性がある。
【0114】
IBDにおける免疫学的改変は、主に、結腸上皮細胞に対する結腸自己抗体及びリンパ球細胞傷害性を含む、自己免疫性のものである。IBDの病因及び病原を研究するために利用される動物モデルは多く存在する。IBDの動物モデルの基準は、概説されている(Strober,W.,Dig.Dis.Sci.33,補遺:3S−10S(1988);Beekan,W.L.,Experimental inflammatory bowel disease:Kirsner,J.B.,ら,編,Inflammatory Bowel Disease,LeaおよびFebiger,Philadelphia,pp.37−49(1988))。入手可能な動物モデルは、天然に存在するIBD動物モデル及び実験的に誘導されたIBD動物モデルへと分類され得る。遺伝的欠陥による腸管炎症の自然発症型の稀に存在するモデルは、極少数のみ、入手可能であり、これらのうちの大部分は特発性ではなく、細菌又はその他の感染因子により誘導されたものである(例えば、Bacillus psyliformnisによるマウス及び「桿菌(rod−shaped bacteria)」によるハムスターにおける過形成、陰窩膿瘍、潰瘍)(Strober,W.,Dig.Dis.Sci.33,補遺:3S−10S(1988))。自然発症型の潰瘍性大腸炎及び肉芽腫性全腸炎の稀な形態も、それぞれラット及びウマに存在する。
【0115】
実験的に誘導された潰瘍性大腸炎の動物モデルは、通常、毒性の食事性物質、薬理学的薬剤、もしくはその他の環境化学物質への曝露により、又は患者に由来する物質の投与により、又は動物の免疫系の操作により作製される(Strober,W.,Dig.Dis.Sci.33,補遺:3S−10S(1988);Beekan,W.L.,Experimental inflammatory bowel disease:Kirsner,J.B.,ら,編,Inflammatory Bowel Disease,LeaおよびFebiger,Philadelphia,pp.37−49(1988);Onderdonk,A.B.,Dig.Dis.Sci.33,補遺:40S−44S(1988))。
【0116】
最も広く使用されているモデルは、ジニトロベンゼンスルホン酸(DNBS)、2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)、及びカラゲナンにより作製された実験的結腸病変である。これらのモデルは、結腸における組織破壊を含む。ラットにおける5〜30mgのTNBSを含む50%エタノール0.25mlの直腸内投与は、3〜4週間目に、肉眼検査及び光学顕微鏡検査、並びに結腸におけるミエロペルオキシダーゼ活性の生化学的測定により観察される、用量依存性の結腸の潰瘍及び炎症を生ずる(Morris,G.P.,ら,Gastroenterology 96:795−803(1989))。組織学的には、粘膜及び粘膜下の炎症性浸潤物には、多形核白血球、リンパ球、マクロファージ、及び結合組織肥満細胞が含まれていた。初期に、多量の浮腫が検出され、治癒期(6〜8週間)には繊維芽細胞も検出される。肉芽腫も、3週間で死亡させられたラットの57%に見られる。
【0117】
カラゲナンは、食品産業において広く使用されている硫酸化ポリガラクトース(分子量100,000超)であり、ヒトにおいて使用するのに安全であると考えられている。飲料水を通して投与されたこの多糖の分解形態(分子量20,000〜40,000)は、実験動物において、2週間以内又はそれ以降に潰瘍性大腸炎を誘導する(Beekan,W.L.,Experimental inflammatory bowel disease:Kirsner,J.B.,ら,編,Inflammatory Bowel Disease,LeaおよびFebiger,Philadelphia,pp.37−49(1988);Onderdonk,A.B.,Dig.Dis.Sci.33,補遺:40S−44S(1988);Benitz,K.F.,ら,Food Cosmet.Toxicol.11:565(1973);Engster,M.,ら,Toxicol.Appl.Pharmacol.38:265(1976))。潰瘍、急性及び慢性の炎症に加え、分解されたカラゲナンが負荷されたマクロファージ、及び抑制された食作用も見られる。
【0118】
カラゲナンに加え、FMLPにより誘導された実験的な結腸病変もまた、化学的に誘導された動物モデルと細胞的に誘導された動物モデルとの間の推移を表わす。この細菌ペプチドは、好中球を活性化し誘引し、ラット回腸において潰瘍及び炎症を引き起こす(VonRitter,C,ら,Gastroenterology 95:651−656(1988);VonRitter,C,ら,Gastroenterology 96:811−816(1989))。この新たな動物モデルも、TNBと同様に、広範には使用されていない。
【0119】
Szaboは、N−エチルマレイミド、ヨードアセトアミド、ヨードアセテート、又はクロロアセテート(米国特許第5,214,066号)のようなスルフヒドリルブロッカーの動物の腸管粘膜への投与が組み込まれた、潰瘍性大腸炎の新たなモデルを提唱した。げっ歯類の結腸へのこれらの薬剤の送達は、慢性潰瘍性大腸炎をもたらした。
【0120】
(多発性硬化症)
RORγtの調節因子による処置に応答し得るもう1つの炎症性疾患は、多発性硬化症(MS)である。MSは、神経に沿った電気伝導の減速をもたらすヒト中枢神経系の多因子性の炎症性疾患である。その疾患は、炎症細胞の浸潤の増加、乏突起膠細胞の欠損、並びに増加したグリオーシス(星状細胞の肥大及び増殖)によって特徴付けられる。(概説については、Amitら,1999;Poulyら,1999;Steinmanら,1993;Miller,1994を参照のこと)。ミエリンは、神経伝導を損なう、この細胞性自己免疫性炎症過程の標的である(概説については、例えば、Thompson 1996,Clin.Immunother.5,1−11を参照のこと)。臨床的な症候は可変性であるが、通常、急性の増悪を含む初期の再発−緩解経過の後に、臨床的に安定な期間が続くことによって特徴付けられる。時間を経て、疾患が慢性進行期へと進展するにつれ、神経学的機能の定常的な悪化が起こる。この悪化は、影響を受けた患者の生活の質に大いに影響を与え、死亡率リスクを増加させる、不能にする合併症及び副作用の原因となる。米国内の100万人のうちの3分の1近くがMSを有すると推定されている。
【0121】
MSの処置において有効であるかもしれない治療の試験のために広く使用されているいくつかのモデルが存在する。1つのモデルは、実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)モデルである。EAEは、中枢神経系(CNS)のT細胞により媒介される自己免疫疾患である。疾患は、CNSミエリン抗原による免疫感作によって感受性マウス系統(SJLマウス)において誘導され得るか、又は、疾患は、抗原により刺激されたCD4+T細胞を使用して感受性マウスに受動的に移植され得る(Pettinelli,J.Immunol.127,1981,p.1420)。EAEは、霊長類における多発性硬化症の許容される動物モデルとして広く認識されている(Alvordら(編)1984.Experimental allergic encephalomyelitis−−A useful model for multiple sclerosis.Alan R.Liss,New York)。もう1つの一般的に利用されている実験的なMSモデルは、タイラーマウス脳脊髄炎ウイルス(TMEV)によりMS様疾患が誘導されるウイルスモデルである(Dal Canto,M.C.,およびLipton,H.L.,Am.J.Path.,88:497−500(1977))。さらに、リゾレシチンモデルが、MSのような脱髄性状態のモデルとして広く認められている。
【0122】
(関節炎)
RORγtの調節因子は、関節炎(慢性関節リウマチ及び骨関節炎の両方)を処置するために使用され得る可能性もある。
【0123】
慢性関節リウマチ(RA)は、炎症誘発性サイトカイン(例えば、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、インターロイキン1(IL−1))の過剰産生、及び抗炎症性サイトカイン(例えば、IL−10、IL−11)の欠如を引き起こす免疫系における不均衡として特徴付けられる慢性全身性関節炎症性障害である。RAは、滑膜の炎症によって特徴付けられ、それは、軟骨破壊、骨浸食、及びその後の関節変形へと進行する。RAの主症状は、関節炎症、硬直、膨潤、疲労、運動の困難、及び疼痛である。炎症過程においては、多形核細胞、マクロファージ、及びリンパ球が放出される。活性化されたTリンパ球が、細胞毒素及び炎症誘発性サイトカインを産生し、一方、マクロファージが、プロスタグランジン及び細胞毒素の放出を刺激する。血管作動性物質(ヒスタミン、キニン、及びプロスタグランジン)が、炎症の部位において放出され、炎症を起こした関節に関連した浮腫、温熱、紅斑、及び疼痛を引き起こす。
【0124】
関節を破壊させる慢性関節リウマチの病原は、2つの期によって特徴付けられる:1)血漿タンパク質及び細胞エレメントの関節への流入を可能にする滑膜細胞の微小循環に影響する滲出期、並びに2)関節空間におけるパンヌス(肉芽組織)形成、骨浸食、及び軟骨破壊によって特徴付けられる滑膜下及び肋軟骨下の骨において起こる慢性炎症期。パンヌスは、慢性関節リウマチに特徴的な関節変形を引き起こす癒着及び瘢痕組織を形成し得る。
【0125】
慢性関節リウマチの病因は不明なままである。細菌及びウイルスのような感染因子の関与が示されている。
【0126】
現在の慢性関節リウマチ処置は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の投与による症状の緩解から主に構成される。NSAID処置は、慢性関節リウマチの初期に主として有効である;疾患が1年を超えて存在する場合には、それが関節炎症の抑制を生じる可能性は低い。金、メトトレキサート、免疫抑制薬、及び副腎皮質ステロイドもまた、使用される。
【0127】
骨関節炎は、関節軟骨の悪化及び摩滅、並びに関節末梢における新たな骨の形成によって特徴付けられる可動関節の障害であり、通常、運動により悪化する疼痛として、又は単に希薄になりつつある軟骨を明白に示すX線として現れる。影響を受ける一般的な関節は、膝、臀部及び脊椎、指、親指の基部、及び足の親指の基部である。骨関節炎は、関節軟骨(支持構造)の変性性の変化、及びその後の関節端部における新たな骨形成によって特徴付けられる。骨関節炎が進行するにつれ、関節軟骨の表面が破壊され、摩損粒子が滑液へと到達し、次にそれが、マクロファージ細胞による食作用を刺激する。従って、骨関節炎においては、最終的には、炎症性の応答が誘導される。骨関節炎の一般的な臨床症状には、指関節の軟骨性及び骨性の肥大、並びに起床時の硬直、並びに運動時の疼痛が含まれる。
【0128】
骨関節炎の原因は、決定的には解明されていない。天然の軟骨の浸食が加齢により起こるが、関節にかけられた過剰な負荷、肥満、遺伝、外傷、減少した循環、骨配列不良、及び反復的なストレス運動が、役割を果たしている。骨関節炎は、老化過程、癌、心疾患、及び変性性疾患を含む多くの疾患の主因であると考えられているフリーラジカル傷害の結果でもあるかもしれない。
【0129】
骨関節炎を逆転させることを主張している公知の薬物は存在しない。大部分の治療剤は、炎症の低下及び疼痛の軽減に向けられている。非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は、骨関節炎のための処置のファーストラインである。他の処置には、疾患改変性関節炎薬(「DMARD」)、ステロイド、及び理学療法が含まれる。
【0130】
関節炎のための新たな治療について試験するために使用されるモデルの1つには、コラーゲンにより誘導された関節炎モデル(CIA)が含まれる(Myers,L.K.ら,Life Sci.(1997),61(19):1861−1878)。このモデルにおいては、遺伝学的に感受性のげっ歯類又は霊長類のII型コラーゲン(CII)による免疫感作が、自己免疫応答により媒介される重度の多関節性関節炎を発症させる。それは、滑膜炎並びに軟骨及び骨の浸食が、CIAの特徴であるという点で、RAを模倣する。
【0131】
(糖尿病)
RORγtの調節因子は、糖尿病を処置するために使用され得る可能性もある。RORγtの調節因子は、インスリン依存性糖尿病(IDDM)の処置において特に有用であり得る。IDDMの主な臨床的特質は、上昇した血糖レベル(高血糖)である。上昇した血糖レベルは、膵臓のランゲルハンス島におけるインスリン産生β細胞の自己免疫性の破壊により引き起こされる(Bachら1991,Atkinsonら1994)。これには、CD4+Tリンパ球及びCD8+Tリンパ球、Bリンパ球、マクロファージ、並びに樹状細胞の不均一な混合物から構成された、島を囲み、島に浸透する大量の細胞浸潤(膵島炎)が伴う(O’Reillyら,1991)。
【0132】
IDDMを処置するための薬剤の試験において特に有用な1つの動物モデルは、NODマウスである。NODマウスは、ベータ細胞に対する自己免疫が、IDDMの発症における主要な事象であるモデルを表わす。糖尿病発症は、ヒト疾患の場合と同様に、独特のMHCクラスII遺伝子と多数の非連鎖遺伝子座との間の多因子相互作用により媒介される。さらに、NODマウスは、遺伝と環境との間、及び一次自己免疫と二次自己免疫との間の重要な相互作用を良好に示す。その臨床的症候は、例えば、様々な外的条件に依存し、最も重要なものとしては、NODマウスが収容されている環境の微生物負荷に依存する。
【0133】
IDDMにおける治療剤の効果を研究するためのもう1つの動物モデルは、ストレプトゾトシン(STZ)モデルである(Hartner,A.ら(2005),BMC Nephrol.6(1):6)。このモデルは、IDDMにおける膵臓ベータ細胞の破壊に関与しているメカニズムを研究するための動物モデルとして広範に使用されている。このモデルにおいては、ベータ細胞毒素ストレプトゾトシン(STZ)により、げっ歯類において糖尿病が誘導される。STZは、グルコーストランスポーターGLUT−2を通して膵臓ベータ細胞に取り込まれる。この物質は、細胞内で崩壊し、アルキル化又はNO発生のいずれかによりDNAに対する傷害を引き起こす。DNA鎖破片の出現は、NAD+を基質として使用して大量の(ADP−リボース)ポリマーを合成する多量の核酵素ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP)を活性化させる。次いで、PARP活性化の結果として、NAD+の細胞濃度が極めて低いレベルにまで減少し、それが、十分なエネルギーを発生する細胞の能力を排除し、最終的には細胞を死滅させると考えられている。
【0134】
(癌の処置のためのRORγt調節因子の使用)
(癌の処置及びワクチン)
本発明者らは、RORγtの調節因子、特に、RORγtのアンタゴニストが、多くの免疫に関連した疾患又は状態における炎症応答をダウンレギュレートするために使用され得ることを提唱しているが、免疫応答のアップレギュレーションが望ましい状況においては、RORγtのアゴニスト又は刺激因子が使用され得ることも提唱している。RORγtの存在/発現は、腫瘍細胞増殖を阻害するよう直接作用するか、又は抗腫瘍性のTリンパ球もしくはBリンパ球応答を刺激もしくは活性化するよう間接作用し得るリンパ細胞のある種の集団に関連しているため、腫瘍が生じ得る任意の器官又は組織が、RORγtのアゴニスト又は刺激因子による治療に対して応答し得る。従って、適切な腫瘍モデルにおいてさらに試験され得る、本明細書に記載されたようなRORγtの発現を刺激する薬剤を同定することが可能であるかもしれない。RORγtのアゴニストは、任意の腫瘍抗原に対する免疫応答をアップレギュレートするのに有用であり得るが、腸管の腫瘍が、本明細書に記載された研究の結果から、特に興味深いかもしれない。
【0135】
例えば、結腸直腸癌(CRC)は、西洋諸国における主要な癌型のうちの1つである(毎年130万例、年間死亡例600,000超)。CRC例の大多数が、遺伝的素因を確立することが可能でない散発性の癌である。明確なリスク群における有効なCRC防止は、集団の健康に対して有意な効果を有するであろう。近年、手術が、ほとんどの場合、唯一のモダリティとしては不十分であり、ほとんどの細胞傷害性であるレジメンが固形腫瘍に対して無効であるという事実が認知されたことから、癌の予防が大きく注目されている。化学的予防法という用語には、変異型悪性細胞のクローンの出現及び発達から防御する、薬理学的に活性な非細胞傷害性の薬剤又は天然に存在する栄養素の使用が包含される。
【0136】
非常に興味深いもう1つの分野は、腫瘍細胞ワクチンの開発である。腫瘍細胞は、細胞表面に腫瘍特異抗原を発現していることが公知である。これらの抗原は、わずかに免疫原性であると考えられているが、それは、主として、宿主に通常存在する癌遺伝子又はその他の細胞遺伝子の遺伝子産物を表しており、従って、非自己として明確には認識されないためである。多数の研究者らが、様々な腫瘍特異的抗原からのエピトープに対して免疫応答を標的化することを試みているが、いずれも、インビボの妥当な腫瘍免疫の誘発には成功していない(Mocellin S.,(2005),Front Biosci.10:2285−305)。
【0137】
本願の発明者らは、RORγtの調節因子、特に、RORγtのアゴニスト又は刺激因子が、癌性状態において蔓延している腫瘍抗原に対する適切な免疫応答の発達を支援し得ることを提唱している。腫瘍抗原に対する体液性及び細胞性の応答の査定のためのモデルは、当業者に周知である。
【実施例】
【0138】
(実施例1 動物モデルの開発及びこれらの動物のリンパ細胞に対する研究)
(材料及び方法)
(マウス)
遺伝子標的化されたRorc(γt)+/GFPマウス及びRorc(γt)GFP/GFPマウス(G.Eberlら(2004),Nat.Immunol.5:64)並びにBACトランスジェニックマウスRorc(γt)−Bcl−xl−IRES−EYFPTg(T.Sparwasserら(2004),Genesis 38:39)の作製は、最近記載されている。Rorc(γt)−CreTg BAC−トランスジェニックマウスは、同一のプロトコルに従って作製された。Id2欠損マウス(Yokotaら(1999),Nature 397:702)及びR26Rマウス(Maoら(2001),Blood 97:324)は、他の場所に報告されている。LTα欠損マウス及びRag−2欠損マウスは、The Jackson Laboratory(Bar Harbor,ME)より購入した。全てのマウスを、New York University School of Medicineの機関内動物管理使用委員会に準じて、当特定病原体除去動物施設において交配しそして使用された。
【0139】
(抗体)
以下のタンパク質及びmAbを、Pharmingen(San Diego,CA)より購入された:フルオレセインイソチオシアネート(FITC)結合体化アネキシンV、フィコエリトリン(PE)結合体化抗CD4(RM4−5)、抗CD11c(HL3)、抗CD8β(53−5.8)、抗CD44(IM7)、抗CD49b(DX5)、抗ICAM−1(3E2)、抗c−kit(2B8)、抗NK1.1(PK136)、抗TCRβ(H57−597)、アロフィコシアニン(APC)結合体化抗CD3ε(145−2C11)、抗CD11b(M1/70)、抗CD11c(HL3)、抗B220(RA3−6B2)、抗Gr−1(RB6−8C5)、ビオチン結合体化抗CD8α(53−6.7)、抗CD45.2(104)、抗VCAM−1(429)、抗TCRδ(GL3)、及び精製抗CD16/32(2.4G2)。ウサギ抗GFP、FITC結合体化ヤギ抗ウサギ、Cy3結合体化ヤギ抗アルメニアン(Armenian)ハムスター、及びAlexa Fluor 647結合体化ストレプトアビジンを、Molecular Probes(Eugene,OR)より購入した。ビオチン結合体化抗IL−7Rα mAbを、eBioscience(San Diego,CA)より購入した。PE結合体化抗マウスIL−17抗体を、BD Pharmingenより購入した。マウス抗CD3PerCP(145−2C11)及び抗マウスCD28(37.51)抗体を、BD Pharmingenより購入した。マウスRORγ及びRORγtに対するハムスターモノクローナル抗体を、Sloan Kettering Cancer Center monoclonal core facilityにおいて調製した。簡単に説明すると、細菌において発現されたHisタグ化RORγにより、動物を免疫感作し、ハイブリドーマ上清を、MBP−RORγ融合タンパク質に対するELISAによりスクリーニングした。陽性クローンの上清を、RORγでトランスフェクションされた293T細胞からの抽出物におけるRORγとのイムノブロット反応性、及び胸腺切片の免疫蛍光染色について、さらにスクリーニングした。タンパク質の免疫組織化学的局在決定を、PBS、0.1%Triton、1%熱不活化ヤギ血清(HINGS)で希釈された一次抗体の存在下で、4℃で一夜、スライドをインキュベートすることにより実施した。次いで、切片を、PBS、1%HINGSで濯ぎ、RTで30分間、二次抗体と共にインキュベートし、PBSで濯ぎ、Vectashield封入剤(Vector Laboratories)を使用してカバーガラスで覆った。
【0140】
(フローサイトメトリー)
単一細胞浮遊物を、胸腺、脾臓、及びパイエル板から調製した。小腸単核細胞を、以下のようにして調製した。パイエル板を除去し、腸管を1mm未満の片へと切断し、1mg/mlコラゲナーゼD(Roche Diagnostics,Mannheim,Germany)を含有している15ml DMEMにおいて、37℃で1時間、インキュベートした。全腸管細胞を、40%等張パーコール溶液(Pharmacia,Uppsala,Sweden)に再浮遊させ、その下に80%等張パーコール溶液を敷いた。2000rpmで20分間の遠心分離により、40〜80%の界面に単核細胞が得られた。細胞を、PBS−F(2%胎仔ウシ血清(FCS)を含有しているPBS)で2回洗浄し、FcγレセプターをブロッキングするためmAb 2.4G2と共にプレインキュベートし、次いで洗浄し、全容量100μlのPBS−Fにおいて40分間、示されたmAb結合体と共に事前インキュベートした。細胞を洗浄し、PBS−Fに再浮遊させ、FACScaliburフローサイトメーター(Becton−Dickinson,San Jose,CA)で分析した。胸腺細胞の細胞周期分析のため、細胞を、4℃で30分間、70%エタノールで固定し、PBS−Fで洗浄し、5×10個の細胞を、12.5μg/mlのヨウ化プロピジウム(Sigma)及び50μg/mlのRNAse Aを含む100μlのSTE緩衝液(100mM Tris塩基、100mM NaCl、及び5mM EDTA、pH7.5)と共に、37℃で5分間、インキュベートした。次いで、細胞を洗浄し、PBS−Fに再浮遊させ、分析した。
【0141】
(胸腺細胞生存アッセイ)
胸腺細胞を単離し、10%FCS、10mM HEPES、50μM β−メルカプトエタノール、及び1%グルタミンを含有しているDMEMが補足されたDMEM培地において培養した。示された期間の後、死細胞を排除するため、細胞を、アネキシンV(Pharmingen)及び1μg/mlのヨウ化プロピジウムで染色し、FACSにより分析した。
【0142】
(免疫蛍光組織学)
成体腸管を、PBSで数時間洗浄した後、4%パラホルムアルデヒド(Sigma,St−Louis,MO)を含むPBSの新鮮な溶液で4℃で一夜固定した。次いで、サンプルをPBSで1日洗浄し、サンプルが沈下するまで、30%ショ糖(Sigma)を含むPBSの溶液においてインキュベートし、OCT化合物4583(Sakura Finetek,Torrance,CA)で包埋し、液体窒素で冷却されたヘキサン浴で凍結させ、−80℃でストックした。ブロックを、Microm HM500 OM低温槽(Microm,Oceanside,CA)で8μmの(組織)厚さに切断し、切片をSuperfrost/Plusスライド(Fisher Scientific,Pittsburgh,PA)へと収集した。スライドを1時間乾燥させ、染色のため加工し、−80℃でストックした。染色のため、スライドを、まず、PBS−XG(0.1%TritonX−100及び1%正常ヤギ血清(Sigma)を含有しているPBS)で5分間水和し、室温で1時間、10%ヤギ血清及び1/100の抗FcレセプターmAb 2.4G2を含むPBS−XGでブロッキングした。内因性ビオチンは、ビオチンブロッキングキット(Vector Laboratories,Burlingame,CA)でブロッキングした。次いで、スライドを、4℃で一夜、一次ポリクローナルAb又は結合体化mAb(一般に1/100)を含むPBS−XGと共にインキュベートし、PBS−XGで5分間3回洗浄し、室温で1時間、二次結合体化ポリクローナルAb又はストレプトアビジンと共にインキュベートし、1回洗浄し、室温で5分間、4’6−ジアミジノ−2−フェニルインドール−2HCl(DAPI)(Sigma)と共にインキュベートし、5分3回洗浄し、Fluoromount G(Southern Biotechnology Associates,Birmingham,AL)で封入した。スライドを、CCDカメラを装備したZeiss Axioplan 2蛍光顕微鏡下で調査し、スライドブックv3.0.9.0ソフトウェア(Intelligent Imaging,Denver,CO)で加工した。
【0143】
(結果)
核レチノイン酸関連オーファンレセプターであるRORγtは、LN及びPPの発達に必要である(Sun,Z.ら,(2000)Science 288:2369;Eberl,G.ら(2004),Nat.Immunol.5:64)。胎児期には、RORγtは、リンパ組織誘導(LTi)細胞において排他的に発現され、これらの細胞の生成に必要とされる(Eberl,G.ら(2004),Nat.Immunol.5:64)。成体においては、RORγtは、二重陽性(DP)CD4CD8未熟胸腺細胞の生存を調節する(Sun,Z.ら,(2000)Science 288:2369)。Rorc(γt)遺伝子への緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーターの挿入に関してヘテロ接合性のマウス(Rorc(γt)+/GFPマウス)(Eberl,G.ら(2004),Nat.Immunol.5:64))を使用して、成体動物において、RORγtが第3の型の細胞、即ちクリプトパッチ(CP)細胞において発現されていることが決定された(図1A)。RORγt細胞は、孤立リンパ小節(ILF)及びPPの上皮下ドーム構造にも見出されたが、腸管上皮内、又はmLNもしくは大動脈周囲LNSには見出されなかった。全部ではないにしても大部分の腸管RORγt細胞が、c−kit及びIL−7Rαの両方を発現し、全てのlinc−kitIL−7Rα細胞がRORγtを発現していた(図1B及び1C)。
【0144】
Rorc(γt)GFP対立遺伝子のホモ接合性への交配を通してRORγt欠損にされたマウスにおいては、腸管linc−kitIL−7Rα細胞及びCPが存在せず、腸管GFP細胞が観察され得なかった。これらの動物においては、ILFもまた、これらの構造に特徴的なB細胞クラスター(図1A)の欠如により明白なように、発達し得なかった(図2)(Y.Kanamoriら,J Exp Med 184,1449(1996);K.Suzukiら,Immunity 13,691(2000))。変異体マウスにおいて、腸管B細胞、γδT細胞、及びCD11c細胞(図2)は、正常な数、存在したが、CD4(DN)細胞、CD4細胞、CD8αβ細胞、及びCD8αα細胞を含む腸管αβT細胞の全てのサブセットが、実質的かつ特異的に低下していた(図2B)。この腸管αβT細胞の減少は、低下した胸腺出力(Z.Sunら,Science 288,2369(2000)、又は胸腺外での細胞分化の障害のいずれかによって説明され得る。RORγtの非存在下では、DP胸腺細胞は、未熟に細胞周期へと進行し、大量のアポトーシスを受けるが(Z.Sunら,Science 288,2369(2000))、この表現型は、Bcl−xLのトランスジェニック発現により救出され得る(Z.Sunら,Science 288,2369(2000))。腸管RORγt細胞においてBcl−xLを発現させるため、本発明者らは、Rorc(γt)遺伝子の制御下でBcl−xLを発現する細菌人工染色体(BAC)トランスジェニックマウス(Rorc(γt)−Bcl−xlTGマウス)(X.W.Yang,P.Model,N.Heintz,Nat Biotechnol 15,859(1997)を作製した(T.Sparwasser,S.Gong,J.Y.H.Li,G.Eberl,Genesis 38,39(2004))。RORγt欠損マウスにおいて、このトランスジーンは、胸腺細胞の正常な細胞周期及び生存を回復させることができたが(図4)、腸管linc−kitIL−7Rα細胞(図2B)、CP、及びILFの発達は回復させ得なかった(データは示さず)。この結果は、腸管RORγt細胞におけるRORγtの作用様式が、Bcl−xL発現とは無関係であることを示唆している。CP及びILFの欠如にもかかわらず、比較的正常な数の腸管αβT細胞(CD8ααTCRIELを含む)が、RORγt欠損Rorc(γt)−Bcl−xlTGマウスの腸管から回収された(図2B)。これらの結果は、腸管RORγt細胞、即ち、linc−kitIL−7RαCP細胞が、腸管のαβT細胞又はγδT細胞の発達に必要とされないことを証明している。
【0145】
どの細胞が腸管αβT細胞を生じさせるかを直接決定するため、本発明者らは、遺伝学的細胞運命マッピング実験を実施した。Rorc(γt)遺伝子の制御下でCreリコンビナーゼを発現するBACトランスジェニックマウス(Rorc(γt)−CreTGマウス)を作製し、LoxPが隣接した終止配列がCreにより切除された後、遍在性で活性な遺伝子Rosa26の制御下でGFPを発現するR26Rレポーターマウス(X.Mao,Y.Fujiwara,A.Chapdelaine,H.Yang,S.H.Orkin,Blood 97,324(2001))と交配した(図3A)。従って、Rorc(γt)−CreTG/R26Rマウスにおいては、RORγt細胞及びそれらの子孫のみが、GFPを発現することができる。これらの動物において、DP胸腺細胞並びにそれらのCD4単一陽性(SP)子孫及びCD8単一陽性子孫は、GFPを発現したが、DN前駆細胞は発現しなかった(図3B)。脾臓において、全てのαβT細胞がGFPを発現し、そのため、それらはDP胸腺細胞の子孫としてマッピングされた。これは、GFPを発現しないγδT細胞、B細胞、NK細胞、CD11c樹状細胞、及びCD11b骨髄細胞とは対照的であった(図3B、上パネル)。類似した状況が腸管において観察され(図3B、下パネル)、このことから、腸管αβT細胞が全てRORγt細胞に特異的に由来することが明白に証明された。
【0146】
第2の細胞運命マッピング実験においては、R26Rマウスを、マウスCD4調節エレメントの制御下でCreを発現するトランスジェニックマウス(S.Sawada,J.D.Scarborough,N.Killeen,D.R.Littman,Cell 77,917(1994))(Cd4−CreTGマウス、図3A)と交配した。Cd4−CreTG/R26Rマウスにおいては、脾臓内のSP胸腺細胞及びαβT細胞のような、胸腺発達のDP段階を通過した全てのT細胞が、GFPを発現した(図5A)。ここでも、腸管αβT細胞はGFPを発現したが、γδT細胞又はB細胞は発現しなかった(図3B及び5A)。これらのマウスにおいて、腸管linc−kitIL−7Rα細胞は、GFPを発現しなかったが、おそらくこれは、たとえ、腸管RORγt細胞の実質的な画分がCD4を発現していたとしても、T細胞特異的な最小CD4エンハンサー/プロモーターがこれらの細胞では活性ではないためである(図5B)。これらの結果は、腸管αβT細胞が、腸管RORγt細胞の子孫ではなく、DP胸腺細胞に由来することを確認している。さらに、これらの結果は、CD8ααホモダイマーを発現するTCRαβIELの起源を明確にした。これらの独特の腸管T細胞は、TCRトランスジェニックマウスで実施された実験に基づき、二重陰性胸腺細胞に由来すると以前には提唱されていたが(D.Guy−Grandら,Eur J Immunol 31,2593(2001))、CD4CD8前駆細胞から分化することがここで示される。これらのマッピング実験から導出された細胞運命の要約は、表S1に提示される。
【0147】
CPがαβIEL及びγδIELの前駆細胞を保持しているという仮説(H.Saitoら,Science 280,275(1998);K.Suzukiら,Immunity 13,691(2000))は、linc−kitIL−7RαCP細胞が、生殖細胞系列TCR転写物を発現するが、プレTα鎖(K.Suzukiら,Immunity 13,691(2000)又はRAG−2(D.Guy−Grandら,J Exp Med 197,333(2003))は発現しないという所見により最初に疑問視された。実際、腸管のαβT細胞及びγδT細胞は、linc−kitIL−7RαCP細胞を含む腸管RORγt細胞に由来しないことが本明細書において証明された。腸管αβT細胞はDP胸腺細胞に由来すると結論付けられ得るが、これらの細胞はRORγt細胞に由来しないため、細胞運命マッピング実験は、γδIELのCP非依存性の胸腺外起源を排除しない(T.Linら,Eur J Immunol 24,1080(1994))。最後に、αβIELが無胸腺マウスに存在するという初期の所見は、本発明者らの結論と矛盾しない。これらIELの存在には、mLN内のRAGDP T細胞の出現が伴うが、そのような細胞は、正常胸腺(euthymic)マウスには存在しない(D.Guy−Grandら,J Exp Med 197,333(2003))。従って、胸腺外T細胞発達は、無胸腺マウス、又は新生児期に胸腺摘出を受けたマウスのようなリンパ球減少症マウスにおける新規経路であるようである。
【0148】
成体腸管RORγt細胞は、胎児RORγtLTi細胞と、全ての発達的、表現型的、及び機能的な特質を共有している(表S2)。両方の細胞(G.Eberlら,Nat Immunol 5,64(2004);R.E.Mebius,P.Rennert,I.L.Weissman,Immunity 7,493(1997))型が、その発達のためにRORγt及びbHLH転写因子(Id2)のインヒビターを必要とする(データは示さず)。さらに、LTα欠損マウスにおいては、LTi細胞は、発達するが、間葉細胞を活性化せず、さらなるLN及びPPの発達を誘導し得ない(G.Eberlら,Nat Immunol 5,64(2004))。同様に、LTα欠損マウスにおいて、腸管RORγt細胞は存在するが、成熟CPへとクラスター化し得ない(図6)。総合すると、これらのデータは、腸管RORγt細胞が、胎児LTi細胞の成体等価物であることを示唆している。この仮説と一致して、本明細書に提示されたデータは、腸管RORγt細胞が成体腸管におけるCP及びELFの発達に必要とされることを示している。胎児LTiと、小さなCPと、より複雑なILFとの間の関係を解明することが、重要であろう。RORγt細胞は、胎児期から成体期まで腸管粘膜固有層に絶えず存在するが(図7)、それらが出生後に持続するLTi細胞に相当するか否かは不明である。LTi細胞の表面表現型を有する胎児又は新生児の細胞が、インビトロで、NK細胞及び抗原提示細胞(APC)へと発達し得ることが報告されている(R.E.Mebiusら,J Immunol 166,6593(2001);H.Yoshidaら,J Immunol 167,2511(2001))。RORγt細胞の子孫はNK細胞、マクロファージ、又は樹状細胞を含んでいないため、これはインビボでは当てはまらない(図3B及び5D)。胸腺外RORγt細胞の子孫は、腸管又はリンパ器官には見出され得ないため、本発明者らは、これらの細胞が、胎児のLN及びPPの発達においても、成体のCP及びILFの発達においても、リンパ組織のオーガナイザーとして機能することを提唱する。さらに、図8に認められるように、本発明者らは、RORγtKI(ノックイン)マウスの小腸及び大腸におけるT細胞の亜集団の存在を決定した。本発明者らは、IL−17を産生するか否かを決定するため、これらのGFP+T細胞を試験した。図9に示されるように、小腸にはIL−17を産生するCD3 T細胞が存在したが、大腸には存在しなかった。従って、小腸におけるRORgt+細胞は、炎症誘発性であって、ある種の条件の下で大腸炎を誘導するのかもしれない。従って、腸管内のRORgt+細胞ThIL−17細胞の排除は、腸管の炎症のために有益であるかもしれない。しかしながら、大腸にはIL−17を産生するT細胞が存在しない(図10)。
【0149】
胚除去マウスにおいては、ILFは小さく、CP様linc−kit細胞の大多数を保有している(H.Hamadaら,J Immunol 168,57(2002))。さらに、ILFの数は、マウスにおけるデキストラン硫酸により誘導された大腸炎(T.W.Spahnら,Am J Pathol 161,2273(2002))においても、ヒトにおけるクローン病(E.Kaiserling,Lymphology 34,22(2001))及び潰瘍性大腸炎(M.M.Yeungら,Gut 47,215(2000))においても増加している。従って、本発明者らは、RORγt細胞に伝達された炎症性の自然免疫シグナルに従って、成体腸管においてCPがILFへと発達すると提唱する。従って、RORγtは、炎症性腸疾患のための、そしてその他の炎症性又は自己免疫性の疾患又は状態のための魅力的な治療標的となり得る。
【0150】
(表S1.RORγt+細胞及びCD4+細胞の子孫)
【0151】
【化1】

CD4+単一陽性胸腺細胞及びCD8+単一陽性(SP)胸腺細胞においては、Rorc(γt)mRNA及びタンパク質は検出されなかったが、これらの集団においても低レベルのEGFPが検出された。これは、Rorc(γt)転写の停止後にすらSP胸腺細胞に存在するEGFPの長い半減期(>24時間)によるのかもしれない。
【0152】
(表S2.胎児RORγt+LTi細胞と成体腸管RORγt+細胞との表現型的及び発生的な類似性。)
【0153】
【化2】

c−kitは、PP原基のCD3−IL−7Ra+細胞により発現され、新生児腸間膜LNのCD3−CD4+細胞により少量発現される。
【0154】
CD4は、LTi細胞の50%及び腸管RORγ+細胞の30〜40%により発現される。
【0155】
LTa欠損マウスにおいて、LTi細胞はLN及びPP原基に存在するが、間葉の活性化を誘導しない;RORγt+細胞は成体腸管に存在するが、成熟クリプトパッチへとクラスター化しない。
【0156】
(実施例2 炎症性腸疾患におけるRORγtの調節因子のインビボ査定)
(材料及び方法)
(潰瘍性大腸炎モデル)
潰瘍性大腸炎は、トリニトロベンゼンスルホン酸(TNB)90mgが20%エタノール1.5mlに溶解している溶液の肛門投与により、Sprague Dawleyラット(7〜8週齢)において誘導される。あるラット群を、様々な用量のRORγt調節因子で処理し、他の群をビヒクルコントロールで処理する。これらの研究において、RORγt調節因子の好ましい投与経路は、結腸へと化合物を直接送達するカテーテルによるものである。最も好ましくは、Nelatonカテーテル8番のようなゴムカテーテルが使用される(Rush Company,West Germany)。化合物は、好ましくは、ラットの直腸から約6cmに導入される。当業者であれば、様々な年齢及び体重のラット、並びにその他の実験動物において、所望の部位へ化合物を送達するためのそのようなカテーテルの使用に精通しているであろう。実験の間、毎日、ラットを臨床的に評価し、下痢の存在又は欠如をモニタリングする。
【0157】
大腸炎の誘導後1〜2週間目に、ラットを斬首により屠殺し、潰瘍性大腸炎の発症を評価するため、結腸病変及び一般的な結腸病理の重度に関して評価する。結腸を迅速に除去し、切開し、生理食塩水で濯ぎ、穏やかにブロットし、計量し、10%ホルマリンで固定する。また、回腸、空腸、十二指腸、胃、肝臓、膵臓、腎臓、及び肺の標準化された切片も固定し、組織学的調査のために加工する。結腸、回腸、及び空腸の肉眼的に影響された領域及び影響されていない領域からの付加的な切片を、凍結させ、その後、0.0005%過酸化水素を基質として使用するBradleyら(Bradley,P.P.,ら,J.Invest.Dermatol.78:206−209(1982))の方法による、結腸ミエロペルオキシダーゼ活性の決定のため、均質化する。主として多形核白血球のアズール親和性顆粒に位置しているこの酵素は、炎症の定量的な指数として使用される(Morris,G.P.,ら,Gastroenterology 96:795−803(1989);Bradley,P.P.,ら,J.Invest.Dermatol.78:206−209(1982);Krawisz,J.E.,ら,Gastroenterology 47:1344−1350(1985))。
【0158】
光学顕微鏡検レベルでの形態学的研究のため、組織の2〜4mm長の組織切片を、10%緩衝(pH7)ホルマリンで固定し、脱水し、パラフィン又はJ8−4プラスチック包埋媒体で包埋する。全ての器官からの切片(1〜5μm)を、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色し、さらに、胃及び十二指腸からの切片を過ヨウ素酸−シッフ(PAS)技術でも染色する。
【0159】
結腸病変の形態測定分析を、実体顕微鏡下での面積測定により実施する(Szabo,S.,ら,J.Pharm.Methods 13:59−66(1985);Szabo,S.,ら,Gastroenterology 88:228−236(1985);Szabo,S.,ら,Scand.J.Gastroenterol.21,補遺:92−96(1986))。さらに、TNBにより誘導された結腸病変の程度の肉眼的及び組織学的な査定の組み合わせを使用して、「傷害スコア」0〜5を計算する(Morris,G.P.,ら,Gastroenterology 96:795−803(1989))。従って、実験的結腸病変の評価においては、4つの定量的な評価項目が存在する:影響された結腸の面積測定(mm)、肉眼的及び組織学的な評価から導出された傷害スコア(グレード0〜5)、浮腫、炎症性浸潤物、及び組織増殖を示す結腸の重量(Calkins,B.M.,ら,Epidemiol.Rev.8:60−85(1986))、並びに炎症の強度を定量的に反映するミエロペルオキシダーゼ活性。
【0160】
4つの評価項目は、全て、誘導された実験的な胃及び結腸の病変の重度及び程度の高感度かつ定量的な指標であることが見出されている(Szabo,S.,ら,Gastroenterology 86:1271(1984);Szabo,S.,ら,Dig.Dis.Sci.34:1323(1989);Szabo,S.,ら,J.Pharm.Methods 13:59−66(1985);Morrison,B.C,ら,編,Gastrointenstinal Pathology,第2版,London(1979);Szabo,S.,ら,Scand.J.Gastroenterol.21,補遺:92−96(1986))。
【0161】
慢性炎症のさらなる性質決定のためには、標準的な免疫ペルオキシダーゼ及び細胞化学的方法を使用して、炎症を起こした結腸におけるBリンパ球及びTリンパ球の亜集団を選択的に入手し計数する。化学的に誘導された胃病変の病原においてよく確立されている(Szabo,S.,ら,Gastroenterology 88:228−236(1985);Szabo,S.,ら,Scand.J.Gastroenterol.21,補遺:92−96(1986))、初期血管損傷の検出のための血管トレーサーモナストラルブルー(monastral blue)を与えたラットの結腸を、粘膜潰瘍の面積測定査定の後、24時間、グリセロールにおいて浄化する。傷害のある内皮と血管基底膜との間の、モナストラルブルーの沈着により標識された血管の面積を、実体顕微鏡下での面積測定により測定する(Szabo,S.,ら,Gastroenterology 88:228−236(1985);Szabo,S.,ら,Scand.J.Gastroenterol.21,補遺:92−96(1986))。
【0162】
IA又はNEMの2日後までに死亡させられたラットからの結腸及び回腸からの組織サンプルを、記載されたようにして(Trier,J.S.,ら,Gastroenterology 92:13−22(1987))、電子顕微鏡検のためのカルノフスキー固定液で固定し、段階的エタノールで脱水し、包埋し、切断し、透過型電子顕微鏡検による調査のために染色する。
【0163】
薬理学的実験においては、詳細な用量及び時間−応答研究を、様々な経路(例えば、i.c.、経口(p.o.))によっても投与されるであろうRORγt調節因子を用いて実施する。結腸病変は、実体顕微鏡検と組み合わされたコンピューター化された面積測定(Szabo,S.,ら,J.Pharm.Methods 13:59−66(1985))、並びにIBDのTNBモデルでMorrisらにより記載されたような(Morris,G.P.,ら,Gastroenterology 96:795−803(1989))、腸管の肉眼的及び組織学的な調査から導出された傷害スコアと、結腸重量と、ミエロペルオキシダーゼ活性との組み合わせにより定量される。
【0164】
生化学的研究のためには、組織(ある種の実験において分離された全厚、粘膜、及び筋肉)を、Tekmarホモジナイザーで均質化するか、又は最大2週間、凍結維持する。
【0165】
統計的評価のため、結果がコンピューターにより保存され分析される。群の値の差の統計的有意性は、(パラメトリックデータのため)両側スチューデントt検定により計算されるか、又は(パラメトリック統計を用いて)Mann−Whiteney検定もしくはFisher−Yatesの直接確率検定により計算される。
【0166】
(実施例3 多発性硬化症モデルにおけるRORγtの調節因子のインビボ査定)
(リゾレシチンにより誘導された脱髄)
これらの実験のためには、12週齢SJL/Jマウスにペントバルビタールナトリウムで麻酔をかけ、脊髄の上胸部において背側椎弓切除を実施する。ハミルトン注射器に取り付けられた34ゲージ針を使用して、1%リゾレシチン溶液1μmlを脊髄の背側面へと直接注射する。動物を注射後21日目に死亡させ、脊髄の注射された領域を除去し、形態学的評価のために加工する。
【0167】
脱髄の第2のモデルとしては、リゾレシチンの脊髄内注射が使用される。12週齢SJL/Jマウスに、ペントバルビタールナトリウム(0.08mg/g)の腹腔内注射により麻酔をかける。脊髄の上胸部において背側椎弓切除を実施し、記載されたようにして(Pavelko,K.D.,van Engelen,B.G.&Rodriguez,M.(1998)J.Neurosci.18,2498_2505)、リゾレシチン(L−リゾホスファチジルコリン)(Sigma,St.Louis,MO)を注射する。簡単に説明すると、定位マイクロマニピュレーターに据え付けられたハミルトン注射器に取り付けられた34ゲージ注射針を使用して、エバンスブルー(Evan’s blue)がマーカーとして添加された1%リゾレシチンを含む無菌PBS(pH7.4)の溶液を注射する。針を、脊髄の背側部分へ挿入し、リゾレシチン溶液1μlを注射し、次いで、針を徐々に引き抜く。創傷を2つの層において縫合し、マウスを回復させる。リゾレシチン注射の日を、0日目と指定する。
【0168】
リゾレシチン注射後7日目に、ボーラス腹腔内注射として、又は静脈内で、RORγt調節因子によりマウスを処理する。まず、この動物モデルにおいて使用するための最も有効な用量を確立するため、用量応答研究が行われるであろう。コントロールマウスを、ビヒクルコントロールのボーラスの腹腔内注射又は静脈内注射により処理する。リゾレシチン注射後3週間目及び5週間目に、マウスを屠殺し、厚さ1mmの切片を調製する。最大のリゾレシチンにより誘導された脱髄病変を示すアラルダイト(araldite)ブロックを、定量分析に使用する。病変の総面積を、Zeiss対話式ディジタル分析システムを使用して定量化する。再ミエリン化された繊維の総数を、ニコン顕微鏡/コンピューター分析システムを使用して定量化する。データを、病変の1mm当たりの再ミエリン化された軸索の数として表す。
【0169】
リゾレシチンにより処理されたマウスに、リゾレシチン注射後0日目、3日目、7日目、10日目、14日目、及び17日目に、様々な用量のRORγt調節因子を与える。リゾレシチン注射後21日目に動物を死亡させる。PBS又はビヒクルコントロールを陰性コントロールとする。
【0170】
(EAEモデル)
実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)は、中枢神経系(CNS)のT細胞により媒介される自己免疫疾患である。疾患は、CNSミエリン抗原による免疫感作によって感受性マウス系統において誘導され得るか、又は、疾患は、抗原により刺激されたCD4+T細胞を使用して感受性マウスへと受動的に移植され得る[Pettinelli,J.Immunol.127,1981,p.1420]。EAEは、霊長類における多発性硬化症の許容される動物モデルとして広く認識されている[Alvordら(編)1984.Experimental allergic encephalomyelitis−−A useful model for multiple sclerosis.Alan R.Liss,New York]。ミエリンプロテオリピドタンパク質(PLP)の合成ペプチドによりインビトロで再刺激された、免疫感作されたマウスからのリンパ球の養子移植の後のEAEの誘導に対する、RORγt調節因子、好ましくはアンタゴニストの投与の効果を研究する。
【0171】
(PLPで感作されたLNCの養子移植)
雌SJL/Jマウス(7〜10週)を、The Jackson Laboratoryより購入し、5匹をケージに収容し、水と共に標準的なげっ歯類用飼料を自由に摂取させる。マウスを群に分割し、ある群をビヒクルコントロール(PBS)により処理し、他の群を様々な用量のRORγt調節因子により処理する。次いで、残基139−151を含むマウスPLPペプチド150μgにより、側腹部の2つの部位においてマウスを免疫感作する。PLPは、2mg/mlの結核菌(Mycobacteria Tuberculosis)H37RA(Difco)を含有している完全フロイントアジュバント200μlに含まれ投与された。免疫感作の日に、0.75×1010個の百日咳(Bordatella pertussis)菌(Massachusetts Public Health Laboratories,Boston,Mass.)をマウスに静脈注射する。免疫感作後10日目に、脾臓及びリンパ節(膝下、腋下、及び上腕)を採集し、10%FBS(Hyclone)、5×10−5M 2−メルカプトエタノール、100μg/mlストレプトマイシン、及び100U/mlペニシリンを含有しているRPMI−1640に細胞を再浮遊させる。PLPが2μg/mlで培養物に添加された。96時間後、細胞を採集し、2回洗浄し、未感作SJL/Jマウスへi.p.注射する。
【0172】
(疾患の臨床的評価)
マウスを、EAEの臨床的徴候について観察し、以下のような0〜3のスケールでスコア化する:
0.5−−遠位の柔弱な尾
1.0−−完全な柔弱な尾
1.5−−柔弱な尾及び後肢虚弱(不安定な歩行)
2.0−−部分的な後肢麻痺
3.0−−完全な両側後肢麻痺
(実施例4 関節炎のモデルにおけるRORγtの調節因子のインビボ査定)
(関節炎)
(関節炎の浮腫に対するRORγtアンタゴニストの阻害効果)
本発明の薬学的組成物(好ましくはRORγtアンタゴニストを含有する)、浮腫に対する阻害効果を観察するため、一試験群につき6匹の体重200gmのアルビノラットを使用し、Zymosan−A(20mg/ml/kg)0.5ml及びフロイントアジュバント0.5mlの混合物を動物の左足へ注射することにより浮腫を誘導し、浮腫の誘導の前後に写真をとり、ノギスにより足サイズを測定することにより、70日間、浮腫の進行について動物を観察する。ある群には、Zymosan−A及びフロイントアジュバントの注射後に、様々な用量のRORγt調節因子(アンタゴニスト)が与えられるであろう。投与は、静脈内経路、経口経路、腹腔内経路、又は皮下経路の注射を介して行われ得る。本発明の薬学的組成物の水抽出物及び有機溶媒画分(ビヒクルコントロール)を、それぞれ0.6mg/mlの濃度で構成し、次いで、浮腫に対する阻害効果を決定するために、1日1回、体重1kg当たり1mlの量で、アルビノラットへ14日間投与する。精密計器及び得られた写真を使用して、毎日、浮腫を測定する。
【0173】
関節炎のコラーゲンモデル(Myers,L.K.(1997),Life Sci.61(19):1861−1878)においても、類似の研究を行うことができる。
【0174】
(実施例5 増殖性(癌性)障害に対するRORγtの調節因子の効果を研究するための動物モデル)
(癌ワクチンモデル)
RORγt調節因子が、腫瘍抗原に対する免疫の増加を実現し得るか否かを決定するための研究が行われるであろう。例えば、単独で、又はRORγt調節因子と組み合わせて投与された場合の、腫瘍(例えば、Hepa1−6腫瘍細胞又はSMCC−1結腸癌細胞)のインビボ増殖、及びこれらの腫瘍のマウスへの注射に関連した死亡率を測定するための研究が行われるであろう。
【0175】
腫瘍細胞、例えば、CT−hepa1−6細胞又はSMCC−1結腸癌細胞による免疫感作が、RORγt調節因子と共に投与された場合、免疫応答の誘導により、確立された肝臓癌もしくは結腸癌を治癒させ得るか、又は腫瘍の発達から動物を防御し得ることを確立するため、以下の研究が実施される。任意の確立された動物/腫瘍モデルが使用され得る。
【0176】
第一の研究においては、40匹のマウスを群に分割し、全てに、hepa1−6生細胞又はSMCC−1生細胞2×10個を皮下接種する。いくつかの群を、腫瘍細胞+ビヒクルコントロールにより処理し、いくつかには、腫瘍細胞の注射の時点で、様々な用量のRORγt調節因子を与える(RORγt調節因子は、経口、IP、IM、IV、又はSCのいずれかで与えられ得る)。腫瘍の発達に関して、週1回、マウスをモニタリングする。大きな腫瘍負荷による死亡率もモニタリングする。
【0177】
もう1つの研究においては、ガンマ線を照射されたhepa1−6腫瘍細胞又はSMCC−1細胞をワクチンとして使用する。各群10匹の3つのマウス群に、ガンマ線を照射されたhepa1−6細胞又はSMCC−1細胞1×10個を皮下接種する。1つの群を、照射された腫瘍細胞の注射の時点で、ビヒクルコントロール(PBS)により処理する。他の2つの群には、照射された腫瘍細胞の注射の時点で、2つの異なる用量(低高)のRORγt調節因子を与える。次いで、2週間後に、生hepa1−6細胞1×10個をマウスに皮下注射する。次いで、腫瘍増殖及び死亡率に関して、週1回、マウスをモニタリングする。
【0178】
生存率の増加又は腫瘍の増殖の減少が、CTLにより媒介され得る誘導された免疫によるものであるか否かをさらに調査するため、免疫感作の前又は後に、抗体処理によりマウスのCD8+T細胞を枯渇させる。免疫感作の前又は後のCD8+T細胞の枯渇は、抗腫瘍免疫をインビボで誘発する細胞ワクチンの能力を排除するはずである。
【0179】
さらに、単独で又はRORγt調節因子と共に腫瘍細胞を注射された動物を屠殺し、脾臓を除去し、腫瘍特異的な細胞溶解性T細胞活性の測定を、当業者に公知の標準的な51Cr放出アッセイにおいて測定することができる。標準的なELISAアッセイにおいて、動物からの血清を試験することにより、腫瘍抗原に対して作製された抗体をモニタリングすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0180】
【図1】成体マウスにおけるRORγt発現。(A)腸管リンパ組織におけるRORγt細胞。成体Rorc(γt)+/GFPマウスの小腸及び結腸の縦方向切片を、示されるように、そしてGFP(緑)について染色した。クリプトパッチ(CP)、小型の小節(ILF)、及びパイエル板(PP)は小腸からのものであり、大型の小節(ILF)は結腸からのものである。これらの異なる構造の相対サイズは、第1列において比較される。拡大率は、第1列及び最後列の最後のパネル(40×)を除き、400×である。示された切片は、少なくとも10個の個々の切片及び5回の独立の実験の代表的なものである。(B)DP胸腺細胞、脾臓αβT細胞、及び腸管リンパ細胞におけるRORγt発現。Rorc(γt)+/GFP成体マウス(青ヒストグラム)及びコントロールRorc(γt)+/+マウス(赤線)からの細胞を、GFPの発現に関してフローサイトメトリーにより分析した。細胞は、示されるようにゲートされた。linc−kitIL−7Rα細胞は、全腸管単核細胞のおよそ0.5%、及び全PP細胞の0.1〜0.2%に相当した。示されたデータは、少なくとも10匹の個々のマウスの代表的なものである。(C)腸管linRORγt細胞によるc−kit及びIL−7Rαの発現。Rorc(γt)+/GFP成体マウスからの細胞をフローサイトメトリーにより分析し、lin細胞に対してゲートした。数字は、各四半分に存在する細胞の百分率を示す。示されたデータは、少なくとも10匹の個々のマウスの代表的なものである。
【図2】RORγtは、linc−kitIL−7Rα細胞、CP、及び孤立リンパ小節(ILF)の生成に必要とされる。(A)RORγtを発現する(Rorc(γt)+/GFP又はRorc(γt)+/+)マウス(wtと表示される)及びRORγt欠損(Rorc(γt)GFP/GFP)マウス(RORγtマウスと表示される)の小腸からのT細胞及びlin細胞を、フローサイトメトリーにより分析した。数字は、各四半分に存在する細胞の百分率を示す。示されたデータは少なくとも10匹の個々のマウスの代表的なものである。(B)RORγt発現マウス(白バー)、RORγt欠損マウス(黒バー)、及びRORγt欠損Bcl−xLトランスジェニックマウス(灰色バー)の小腸における、B細胞サブセット、T細胞サブセット、及びlinc−kitIL−7Rα細胞の絶対数。DN/4、8αβ、及び8ααは、それぞれ、αβT細胞のCD4CD8サブセット及びCD4サブセット、CD8αβサブセット、並びにCD8ααサブセットを示す。15匹のRorc(γt)+/GFP又はRorc(γt)+/+マウス、10匹のRorc(γt)GFP/GFPマウス、5匹のRorc(γt)GFP/GFP/Rorc(γt)−Bcl−xlTGマウスを、フローサイトメトリーにより分析した。スチューデントt検定を使用した統計分析において、全ての群を、対応する野生型コントロール(白バー)と比較する。p<10−2**p<10−3***p<10−5。コントロール群(白バー)において、αβT細胞の数は、残存するPP細胞からの混入の可能性のため、過剰推定されているかもしれない。(C)Rorc(γt)欠損マウスの小腸の縦方向切片を、示されるように、そしてGFP(緑)について染色した。造血(CD45)細胞の小さなクラスターは存在したが、CD11c樹状細胞及びB細胞クラスターの欠如は、それぞれCP及びILFの欠如を示唆する。拡大率は100×(最初の2枚のパネル)及び200×(最後の2枚のパネル)である。示された切片は、少なくとも10個の個々の切片及び3回の独立の実験の代表的なものである。
【図3】RORγt細胞の細胞運命マッピング。(A)遺伝学的細胞運命マッピングのための戦略。Rorc(γt)−CreTGマウスは、BACトランスジーン上のRorc(γt)遺伝子座の制御下でCreを発現する。Cre遺伝子は、Rorc(γt)の第1エキソンへ挿入された。Cd4−CreTGマウスは、(5’から3’へ)マウスCD4近位エンハンサー、プロモーター、エキソン1、CD4サイレンサーを含有しているイントロン1、及びエキソン2の一部からなる短い合成プロモーターの制御下でCreを発現する。R26Rマウスは、LoxPが隣接している終止配列のCreにより媒介される切除の後にのみ、Rosa26遺伝子座の制御下でGFPを発現する。Rosa26遺伝子は遍在性に発現される。(B)成体Rorc(γt)−CreTG/R26Rマウス(青ヒストグラム)の胸腺、脾臓、及び小腸、Cd4−CreTG/R26Rマウス(青ヒストグラム)の小腸、並びにコントロールR26Rマウス(赤線)からの細胞を、GFPの発現に関してフローサイトメトリーにより分析した。細胞は、示されるようにゲートされた。示されたデータは、個々の8匹の(Rorc(γt)−CreTG)マウス、5匹の(CD4−CreTG)マウス、及び10匹の(R26R)マウスの代表的なものである。
【図4】RORγt欠損Bcl−xL BACトランスジェニックマウスからの胸腺細胞の正常な細胞周期進行及びインビトロ生存率。細胞周期分析は、Rorc(γt)−Bcl−xlTGマウス(BclTG)、Ror(γt)GFP/GFPマウス(RORγt)、及びRORγtBclTGマウスから単離された新鮮な胸腺細胞のヨウ化プロピジウム(PI)染色により実施された。数字は、細胞周期のS+G2/M期に見出された細胞の百分率を示す。インビトロ生存率は、異なる期間の胸腺細胞の培養、及びその後の生細胞のアネキシンV染色により評価された。BclTGマウス及び野生型マウスで、類似した結果が得られた。示されたデータは、3回の個々の実験の代表的なものである。
【図5】RORγt又はCD4+細胞の細胞運命マッピング。(A)成体Rorc(γt)−CreTG/R26R(青ヒストグラム)又はコントロールR26Rマウス(赤線)の胸腺、脾臓、及び腸管からの細胞を、GFPの発現に関してフローサイトメトリーにより分析した。細胞は、示されるようにゲートされた。示されたデータは、3回の個々の実験の代表的なものである。(B)腸管linRORγt細胞によるCD4の発現。数字は各四半分に存在する細胞の百分率を示す。示されたデータは、3回の個々の実験の代表的なものである。(C)Rosa26プロモーターが、B細胞及びγδT細胞においても活性であることを証明するため、R26Rマウスを、遍在性デリーター(deleter)Tk−CreTGマウス系と交配した。類似の結果が、脾細胞で得られた。示されたデータは、2回の独立の実験の代表的なものである。(D)Rag−2欠損Rorc(γt)−CreTG/R26Rマウス(青ヒストグラム)又はRag−2欠損R26Rマウス(赤線)からの脾細胞を、GFPの発現に関して分析した。細胞は、示されるようにゲートされた。示されたデータは、3匹の個々のマウスの代表的なものである。
【図6】LTα欠損マウスにおける成熟CP及びILFの欠如。成体Lta−/−Rorc(γt)+/GFPマウスの小腸の縦方向切片を、示されるように、そしてGFP(緑)について染色した。これらのマウスにおいて、RORγt細胞の小さなクラスターからなり、CD11c+樹状細胞をほとんど含有していないCP原基痕跡が見出された。ILFは存在しなかった。RORγt細胞は、少量のCD45を発現した(緑色蛍光が除去された場合にのみ、これらのパネルに現れる)。拡大率は、100×(最初の2枚のパネル)及び200×(最後の2枚のパネル)である。示された切片は、少なくとも10個の個々の切片及び3匹の個々のマウスの代表的なものである。
【図7】出生後の腸管粘膜固有層におけるRORγt細胞。生後の異なる時点でのRorc(γt)+/GFPマウスの小腸の縦方向切片を、示されるように、そしてEGFP(緑)について染色した。拡大率は40×である。示された切片は、少なくとも5個の個々の切片及び2回の独立の実験の代表的なものである。
【図8】出生後の腸管粘膜固有層におけるRORγtT細胞:表面染色。使用されたマウスは、ヘテロ接合性RORgt−GFP−KIである。粘膜固有層リンパ球(LPL)は、小腸及び結腸から単離された。簡単に説明すると、腸管を解剖し、パイエル板の除去の後、管を縦方向に切開し、1.5cmの片へと切断した。上皮細胞及び上皮内リンパ球(IEL)を、5mM EDTAで処理することにより除去した。次いで、片を、各0.5mg/mlのコラゲナーゼD(Roche)及びDNAse I(Sigma)並びに0.5U/mlディスパーゼ(Dispase)(Fisher)により消化した。消化された腸管をパーコール勾配(80:40)に適用することにより、LPLを回収した。フローサイトメトリーのため、以下の抗体を使用した:抗マウスCD3−PerCP(145−2C11)(BD Pharmingen)、抗−TCRgd−PE(GL3)(BD Pharmingen)、抗−TCRb−APC(H57−597)(BD Pharmingen)。GFP蛍光を直接検出した。
【図9】Rorc(γt)−/−及び野生型マウスと比較されたRorc(γt)+/−の小腸からのIL−17産生T細胞の同定:PMAによる刺激なし。使用されたマウスは、ヘテロ接合性RORγt−GFP−KIである。粘膜固有層リンパ球(LPL)は、図8の説明に記載された方法により小腸から単離される。単離されたLPLを、刺激することなく、5時間、96穴プレートにおいて培養した(1ウェル当たり1×10細胞)。細胞を、抗マウスTCRb−APC(BD Pharmingen)により表面染色し、次いで固定し、ラット抗マウスIL−17−PE(BD Pharmingen)による細胞内サイトカイン染色のため透過性化した。上パネルは、B6 WTコントロールにおけるフローサイトメトリー結果を示し、2番目のパネルは、RORγt+/−マウスからの結果であり、3番目のパネルは、RORγt−/−マウスからの結果である。
【図10】Rorc(γt)+/GFPマウスの小腸からのIL−17産生T細胞の同定:PMAによる刺激あり。マウスは、ヘテロ接合性RORγt−GFP−KIである。粘膜固有層リンパ球(LPL)は、図8の説明に記載された方法により小腸から単離される。単離されたLPLを、刺激することなく、もしくはPMA/イオノマイシン(50ng/ml PMA+200ng/mlイオノマイシン)で刺激しながら、5時間、96穴プレートにおいて培養するか(1ウェル当たり1×10細胞)、又はウェルを、CD3/CD28刺激のため、5μg/ml精製抗CD3+抗CD28 Abを含むPBSによりプレコーティングした。刺激の後、細胞を、まず、抗マウスCD3−PerCP(BD Pharmingen)及び抗マウスTCRb−APC(BD Pharmingen)により表面染色し、次いで固定し、ラット抗マウスIL−17−PE(BD Pharmingen)による細胞内サイトカイン染色のため透過性化した。アイソタイプコントロールのため、CD3/CD28により刺激されたサンプルのうちの1つを、ラット抗マウスIgG1−PE(BD Pharmingen)により染色した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RORγtのインヒビター又はアンタゴニストを投与する工程を包含する、哺乳動物の消化管における免疫細胞凝集物の形成を阻害する方法であって、外免疫凝集物は、結腸パッチを含む孤立リンパ小節を含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、該阻害される細胞が、DP胸腺細胞、クリプトパッチ(CP)細胞、及びTh−IL17細胞からなる群より選択される方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、前記CP細胞が、孤立リンパ小節(ILF)の発達に必要とされる方法。
【請求項4】
粘膜固有層におけるリンパ球凝集物の形成の欠如、及び上皮内リンパ球の発達をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
CD4T細胞、CD4+T細胞、CD8αβ+T細胞、CD8αα+T細胞、及びTh−IL17細胞からなる群より選択されるαβT細胞の数の低下をさらにもたらす、請求項2又は4の方法。
【請求項6】
前記αβT細胞の低下が腸管において起こる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
RORγtのインヒビター又はアンタゴニストを投与する工程を包含する、炎症性疾患及び/又は自己免疫性疾患を処置する方法。
【請求項8】
前記処置が、異所性リンパ小節形成の減少及び/又はTh−IL17細胞の減少をもたらす、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記疾患が、関節炎、糖尿病、多発性硬化症、ブドウ膜炎、慢性関節リウマチ、乾癬、喘息、気管支炎、アレルギー性鼻炎、慢性閉塞性肺疾患、アテローム性動脈硬化症、H.pylori感染及びそのような感染に起因する潰瘍、並びに炎症性腸疾患からなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記炎症性腸疾患が、クローン病、潰瘍性大腸炎、スプルー、及び食物アレルギーからなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
RORγtのアゴニスト又は刺激因子を投与する工程を包含する、哺乳動物における感染を処置する方法。
【請求項12】
RORγtのアゴニスト又は刺激因子を投与する工程を包含する、哺乳動物における抗腫瘍免疫を誘導する方法。
【請求項13】
前記投与が、T細胞前駆細胞からのT細胞発達の促進、及び三次リンパ器官の形成の促進をもたらす、請求項11又は請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記投与が、CD4T細胞、CD4+T細胞、CD8αβ+T細胞、CD8αα+T細胞、及びTh−IL17細胞からなる群より選択されるαβT細胞の数の増加をもたらす、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
特定の抗原に対して反応性であるT細胞の数を増加させる方法であって、該抗原の投与と共に、又は該投与の後に、RORγtのアゴニストを投与する工程を包含する方法。
【請求項16】
ワクチン候補の免疫原性を増加させる方法であって、ここで、該ワクチン候補によるT細胞の増殖及び応答性の増加が所望され、該方法は、該ワクチン候補と共に、又は該ワクチン候補の後に、免疫原性を促進する量のRORγtに対するアゴニストを被験体に投与する工程を、包含する方法。
【請求項17】
前記ワクチン候補が、弱毒化生ワクチン又は非複製性かつ/もしくはサブユニットのワクチンであり、該方法が、該ワクチン候補に対して特異的な細胞溶解性T細胞又は記憶T細胞の誘導をもたらす、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ワクチンが、腫瘍ワクチン、ウイルスワクチン、細菌ワクチン、寄生虫ワクチン、及び感染又は疾患からの長期的な防御を提供するために長期間続く免疫応答が必要なその他の病原生物のためのワクチンからなる群より選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ウイルスワクチンが、DNAウイルスワクチン、RNAウイルスワクチン、及びレトロウイルスワクチンからなる群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
予め選択された抗原に対する粘膜免疫を増加させる方法であって、該抗原と共に、又は該抗原の後に、粘膜免疫を促進する量のRORγtに対するアゴニストを被験体に投与する工程を包含する方法。
【請求項21】
前記抗原が、細菌、ウイルス、腫瘍細胞、及び増加した粘膜免疫が望まれる任意の他の病原体からなる群より選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
T細胞起源の癌を処置する方法であって、RORγtのアンタゴニストを投与する工程を包含する方法。
【請求項23】
前記癌が、急性Tリンパ性白血病(T−ALL)、慢性Tリンパ性白血病(T−CLL)、成人T細胞白血病(ATL)、非ATL末梢Tリンパ腫(PNTL)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、並びに二重陽性CD4+,CD8+表現型を示すその他の白血病及びリンパ腫からなる群より選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
被験体における、関節炎、糖尿病、多発性硬化症、ブドウ膜炎、慢性関節リウマチ、乾癬、喘息、気管支炎、アレルギー性鼻炎、慢性閉塞性肺疾患、アテローム性動脈硬化症、H.pylori感染及びそのような感染に起因する潰瘍、炎症性腸疾患、自己免疫疾患、並びに食物アレルギーからなる群より選択される、高いRORγtレベルによって特徴付けられる疾患のスクリーニング、診断、又は予後判定の方法であって、該方法は、以下:
(I)被験体に由来する組織サンプル中のRORγt遺伝子又は遺伝子産物の量を測定する工程であって、該RORγt遺伝子又は遺伝子産物は、
(a)配列番号1に相当するDNA、又はそれに由来する核酸;
(b)配列番号2を含むタンパク質;
(c)高ストリンジェンシー条件下で配列番号1もしくはその相補鎖にハイブリダイズ可能な配列を含む核酸、又は該ハイブリダイズ可能な配列によりコードされる配列を含むタンパク質;
(d)NBLASTアルゴリズムを使用して決定される場合、配列番号1もしくはその相補鎖と少なくとも90%相同な核酸;又は該配列によりコードされるタンパク質
である、工程;及び
(II)該被験体における該RORγt遺伝子産物の量を、RORγtの高いレベルによって特徴付けられる疾患を有していない被験体から入手された正常組織サンプル、又は予め決定された標準に存在するRORγt遺伝子産物の量と比較する工程であって、ここで、該正常組織サンプル又は予め決定された標準における量と比較された、該被験体における該RORγt遺伝子産物の量の増加は、該被験体における炎症性又は自己免疫性の疾患の存在を示す工程を、包含する方法。
【請求項25】
被験体における炎症性疾患もしくは自己免疫性疾患又は食物アレルギーの素因、発症、又は存在を決定するための診断法であって、該方法は、該被験体において、配列番号1及び配列番号2に示されるようなRORγt遺伝子もしくはRORγt遺伝子産物のレベルの変化の存在を検出する工程、又はタンパク質の機能に影響を与える該RORγt遺伝子の多形を検出する工程を包含し、該方法は、以下:
a)該被験体から組織生検を入手する工程;
b)該組織生検中の細胞を透過性化する工程;
c)該組織生検又は該組織生検から単離された細胞を、
i)RORγt遺伝子産物に特異的な抗体、もしくはタンパク質の機能に影響を与える多形を有するRORγt遺伝子の遺伝子産物に特異的な抗体;又は
ii)RORγt遺伝子に特異的な核酸プローブ、もしくはタンパク質の機能に影響を与える多形を有するRORγt遺伝子とハイブリダイズする核酸プローブ
のうちの1つと共にインキュベートする工程;
d)結合した抗体又は核酸プローブを検出し、その量を定量する工程;
e)該被験体における生検サンプル中の結合した抗体又は核酸プローブの量を、正常な組織サンプル又は細胞サンプル中の結合した抗体又は核酸プローブの量と比較する工程であって、ここで、結合した標識された抗体又は核酸プローブの量は、該被験体における炎症性疾患もしくは自己免疫性疾患又は食物アレルギーの素因、発症、又は存在と直接相関する工程を、包含する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−505080(P2008−505080A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519313(P2007−519313)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【国際出願番号】PCT/US2005/022649
【国際公開番号】WO2006/007486
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(303008264)ニューヨーク ユニバーシティー (4)
【Fターム(参考)】