説明

RSVのRNAi調節及びその治療上の使用方法

本発明は、RSVがiRNA剤の鼻腔内投与及び同iRNA剤の非経口投与により阻害されるインビボの検証に基づいている。更に、1つ以上のウイルスを同時に治療して効果的なウイルスの低減が達成できることも示されている。そのような知見に基づいて、本発明は、対象、例えばヒトのような哺乳動物におけるRSVmRNAレベル、RSVタンパク質レベル及びウイルス価を低減するのに有用な一般的かつ特殊な組成物及び方法を提供する。これらの知見はその他の呼吸器系ウイルスにも適用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)療法並びにウイルス複製を調節する組成物及び方法の分野に関し、より詳細には、吸入/鼻腔内投与を介して肺及び鼻腔に局所投与されるか或いは注射/静脈を介して全身的に投与されるRNA干渉を介してオリゴヌクレオチドにより呼吸器合胞体ウイルスの遺伝子を下方制御することに関する。
【背景技術】
【0002】
本願は、2005年1月7日に出願された米国特許仮出願第60/642364号の利益を主張するものであり、同出願の全体が参照により本明細書に援用される。
その生来の機能により、気道は空気中にある多量の病原菌にさらされ、種々の呼吸器疾患を引き起こす。気道のウイルス感染は先進国において小児が入院を必要とする最も一般的な原因であり、アメリカ合衆国においては一年間に推定91000人が入院してその費用は3億ドルである。ヒト呼吸器合胞体ウイルス(RSV)及びパラインフルエンザウイルス(PIV)は呼吸器疾患の2つの主たる病原であり、共に上気道及び下気道を感染し、クループ、肺炎及び細気管支炎を引き起こす(非特許文献1及び非特許文献2)。RSV単独では、全ての新生児の65%までが最初の1年の間に感染し、最初の2年の間にはほぼ全ての乳児が感染する。それは、高齢者においても疾病及び死亡の深刻な原因となる。RSV感染後の免疫は完全ではなく、永続的なものではないために、感染が全ての年代において繰り返される。RSV細気管支炎を経験した乳児は後において喘鳴及び喘息を引き起こしやすくなる。RSVに対する効果的な治療及びワクチンに関する研究はほぼ40年にわたって続けられているが、ほとんど成果を挙げていない(非特許文献1及び非特許文献3)。現在、いずれのRSVに対するワクチンも臨床的には承認されていない。両ウイルスの菌株は、ウシ、ヤギ、ブタ及び羊のような非ヒト動物にも存在しており、農業及び乳業及び食肉産業の損失の原因となっている(非特許文献2)。
【0003】
両RSVは非分節マイナス鎖RNAゲノムを含んでおり、パラミクソウイルス科に属している。これらのウイルスの種々の特徴が予防及び治療を困難にしている。ウイルスゲノムは、RNAゲノムの複製プルーフリーディング機構の欠如により高い確率にて突然変異し、再現性のあるワクチン及び抗ウイルスの構築において重要な課題となっている(非特許文献4)。RSV融合タンパク質(F)の有望な阻害剤は、1つにはF遺伝子にマッピングされた耐性の突然変異をウイルスが生じたことから断念された(非特許文献5及び非特許文献6)。両ウイルスは細胞性のタンパク質に関連しており、それはワクチン化のための細胞フリーのウイルス材料を入手することを困難にしている(非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9)。最後に、両者の免疫学、特にRSVの免疫学は、極めて複雑である(非特許文献10、非特許文献11)。ワクチンとして変性したRSVタンパク質を使用することは、「免疫増強」又はワクチン−増強疾患をきたす(非特許文献12)。全体の問題は、種々の抗−RSV生物薬剤学的プログラムの最近の撤退により強調される。
【0004】
RSVゲノムは、1本鎖のマイナスセンスRNAからなり、15222ヌクレオチド長であり、11個の主要なタンパク質を生ずる(非特許文献13)。これらのタンパク質のうちの2つ、F(融合)糖タンパク及びG(接合)糖タンパク質は主要な表面タンパク質であり、感染防御免疫を誘導するために最も重要である。SH(小さな疎水性の)タンパク質、M(マトリックス)タンパク質及びM2(22kDa)タンパク質はウイルスのエンベロープと結合するが、感染防御免疫応答を誘導しない。Nタンパク質(主たるヌクレオカプシドと会合したタンパク質)、Pタンパク質(リンタンパク)及びLタンパク質(主たるポリメラーゼタンパク質)は、ビリオンRNAに結合されていることが確認されている。2つの非構造タンパク質であるNS1及びNS2は、宿主ウイルス相互作用に寄与
していると推定されているが、感染性ビリオンには存在していない。
【0005】
ヒトRSV菌株は、2つの主たる群、A及びBに分類されてきた。G糖タンパク質は、RSVタンパク質のうちで最も分岐しているものであるとして示されてきた。2つのRSV群の間の、そしてRSV群内におけるRSV G糖タンパク質の可変性は、疾病を毎年発生させるRSVの能力に対して重要であると考えられている。G糖タンパク質は289−299のアミノ酸(RSV菌株に依存する)からなり、90kDaの細胞内、膜透過性かつ高度にグリコシル化したストーク構造とヘパリン結合ドメインとを有する。糖タンパク質は、分泌型かつ膜結合型にて存在する。
【0006】
RSV感染を治療する有効な方法は、現在のところは利用できない(非特許文献3)。下気道のRSV感染は多くの場合自己限定的症状である。どのように治療するか、あるいは、疾病に感染した乳児及び子供が何時退院できるかに関して明確なガイドライン又は基準が存在していない。RSV感染に伴って起こり得る低酸素症は鼻のカニューレを介する酸素によって治療され得る。呼吸不全、ショック状態又は再発性の無呼吸を伴う子供に対する機械的人工換気法は死亡率を低減することができる。ある医師はステロイド剤を処方する。しかしながら、ステロイド療法は、細気管支炎により入院している乳児及び子供の臨床経過に影響を与えないことを幾らかの研究が示している。従って、コルチコステロイド単独又は気管支拡張薬との組み合わせは、その他の点では健康で、かつ換気を必要としない患者における細気管支炎の管理においては有用ではない。潜在的な心肺疾患、例えば気管支肺不全及び喘息を伴う乳児及び子供では、ステロイドは使用されてきた。
【0007】
抗ウイルス活性を有するグアノシン類似体であるリバビリンは1980年代半ばからRSV細気管支炎に罹患した乳児及び小児を治療するために使用されてきたが、その使用を評価する多くの研究では矛盾する結果が示されてきた。多くの施設において、リバビリンの使用は現在では、免疫無防備状態の患者及び重篤な疾病の患者における使用に制限されている。
【0008】
RSV細気管支炎の重篤度は、低血清レチノール濃度に関連しているが、RSV細気管支炎を伴う入院中の小児における治験では、ビタミンAの補給に効果の無いことが示された。RSV下気道の感染に対して1500mg/kgのRSV免疫グロブリンの静注、或いは100mg/kgの免疫グロブリンの吸入の治験では実質的な効果は示されなかった。
【0009】
先進国において、RSV下気道感染の治療は、一般的には対症療法に限られている。抗ウイルス療法は、それが高コストであるとともに効果に対する統一見解が得られていないことから、生命の危機に関わる状況のみに限られている。発展途上国では酸素が主たる治療法(可能な場合のみ)であり、死者を減らす唯一の方法は予防である。
【0010】
RNA干渉、もしくは「RNAi」は、2本鎖RNA(dsRNA)が線虫の体内に導入された際に遺伝子発現をブロックすることがあるという観察を説明するのに、ファイヤー(Fire)および共同研究者らによって最初に造られた用語である(非特許文献14)。短いdsRNAは、脊椎動物を含めた多くの生物において遺伝子特異的な転写の後にサイレンシングを引き起こすものであり、遺伝子機能を研究するための新たなツールを提供している。RNAiは新たなクラスの治療剤を開発するための方法として提案されてきた。しかしながら、現在のところ、提案されたように、RNAiが治療において使用され得ることを立証したものはない。
【非特許文献1】オープンショウ,ピー.ジェイ.エム.(Openshaw,P.J.M.)、Respir.Res.3(Suppl 1)、S15−S20、2002年
【非特許文献2】イーストン,エイ.ジェイ.(Easton,A.J.)ら、Clin.Microbiol.Rev.、第17巻、390−412頁、2004年
【非特許文献3】マゴン,ケイ.(Maggon,K.)ら、Rev.Med.Virol.、第14巻、149−168頁、2004年。
【非特許文献4】スレンダー,ダブリュ.エム.(Sullender,W.M.)、Clin.Microbiol.Rev.、第13巻、1−15頁、2000年
【非特許文献5】ラジンコフ,ブイ.(Razinkov,V.)ら、Antivir.Res.、第55巻、189−200頁、2002年
【非特許文献6】モートン,シー.ジェイ.(Morton,C.J.)ら、Virology、第311巻、275−288頁、2003年
【非特許文献7】ビュルケ,イー.(Burke,E.)ら、Virology、第252巻、137−148頁、1998年
【非特許文献8】ビュルケ,イー.(Burke,E.)ら、Virology、第74巻、669−675頁、2000年
【非特許文献9】グプタ,エス.(Gupta,S.)ら、J.Virol.、第72巻、2655−2662頁、1998年
【非特許文献10】ピーブルズ,アール.エス.ジュニア(Peebles,R.S.,Jr.)ら、Viral.Immunol.、第16巻、25−34頁、2003年
【非特許文献11】ハイネス,エル.エム.(Hynes,L.M.)ら、J.Virol.、第77巻、9831−9844頁、2003年
【非特許文献12】ポラック,エフ.ピー.(Polack、F.P.)ら、J.Exp.Med.、第196巻、859−865頁、2002年
【非特許文献13】ファルゼイ,エイ.アール.(Falsey,A.R.)及びイー.イー.ワルシュ(E.E.Walsh)、Clinical Microbiological Reviews、第13巻、371−384頁、2000年
【非特許文献14】ファイヤー(Fire)ら、Nature、第391巻、806−811頁、1998年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、RSVに対して、特に乳児及び小児に対する安全かつ効果的なワクチンの必要性が存在する。また、全ての年齢において、かつ免疫無防備状態の患者におけるRSV感染を治療するための治療剤及び方法の必要性が存在している。また、疾病の病原を研究し、かつ治療剤及びワクチンのスクリーニングを容易にするように、RSVに対する保護免疫応答を特徴づける科学的な方法の必要性が存在する。本発明は、RSV感染を調整又は予防するのに効果的な方法及び組成物を提供することにより、当該技術分野における上記課題を解決する。特に、本発明は、インビトロ及びインビボにてRSVレベルを低減することが示されているとともにRSVの主要なサブタイプのいずれに対しても効果的であり、かつこのクラスの分子の治療活性を示すiRNA剤を提供することによりこの技術分野を前進させる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、RSVがiRNA剤の鼻腔内投与及び非経口投与を介して阻害され得ることに関するインビトロ及びインビボの検証、並びにRSVのサブタイプA及びサブタイプBのいずれのサブタイプのRNAレベルをも低減する、RSVのP、N及びL遺伝子からの可能性のあるiRNA剤の同定、に基づいている。これらの知見に基づき、本発明は、対象、例えばヒトのような哺乳動物における、RSVmRNAレベル、RSVタンパク質レベル及びRSVウイルス価を低減するのに有用な特殊な組成物及び方法を提供する。
【0013】
本発明は、RSV遺伝子、特にRSVのP、N及びL遺伝子のうちの1つの15以上の連続したヌクレオチドから構成されるか、ほぼ構成されるか、或いは含むiRNA剤を特に提供し、より詳細には、表1(a−c)に記載された配列の1つからの15以上の連続したヌクレオチドからなる薬剤を提供する。iRNA剤は鎖につき30未満のヌクレオチド、例えば、表1(a−c)に提供されているように21−23個のヌクレオチドから構成されていると好ましい。2本鎖のiRNA剤は、平滑末端或いはより好ましくは、同剤の一方又は両方の3’末端からの1乃至4個のヌクレオチドの突出部分(overhang)を有している。
【0014】
更に、iRNA剤は、天然に由来するリボヌクレオチドサブユニットのみを含んでいるか、或いは同剤に含まれるリボヌクレオチドサブユニットの1つ以上の糖又は塩基に対して1つ以上の修飾部を含むように合成され得る。iRNA剤は更に、安定性、分布又は同剤の細胞への取り込みを改善するために選択されたリガンド、例えばコレステロールに付着されるように、修飾され得る。iRNA剤は更に、単離された形態であり得るか、或いは本明細書にて記載された方法に使用される製薬組成物、特に肺又は鼻腔への送達のために処方化されるか、又は非経口投与用に処方化される製薬組成物としての一部であり得る。製薬組成物は、1つ以上のiRNA剤を含み得、ある実施形態においては2つ以上のiRNA剤を含んでおり、各々がRSV遺伝子の異なるセグメントに指向するか、或いは2つの異なるRSV遺伝子に指向する。
【0015】
本発明は更に、細胞中においてRSVウイルス性mRNAのレベルを低減するための方法を提供する。同方法は、本発明のiRNA剤の1つを以下に更に述べるように、対象に投与する工程を含む。本発明の方法は、細胞中におけるウイルス性mRNAを選択的に低減するためにRNA干渉に関与する細胞機構を使用し、かつ本発明の抗ウイルスiRNA剤の1つを細胞と接触させる工程を含む。当該方法は細胞上にて直接実施され得るか、或いは本発明のiRNA剤/製薬組成物の1つを哺乳動物の対象に投与することにより、同対象にて実施され得る。細胞におけるウイルス性mRNAの低減は生成されるウイルス性タンパク質の量を低減し、かつ生物体において、(実施例に示されるように)複製ウイルス価を低減する。
【0016】
本発明の方法及び組成物、例えば方法及びiRNA剤組成物は、本明細書に記載された任意の用量及び/又は製剤として、並びに、本明細書に記載された任意の投与経路にて使用され得る。特に重要なものとして、本明細書においては、iRNA剤の鼻腔内投与及び呼吸器組織におけるウイルス複製の阻害能力を示す。
【0017】
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細を、添付図面および以下の説明に記載する。本発明の他の特徴、目的、および利点は、この説明、図面、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。引用されたすべての参考文献、特許、および特許出願を、あらゆる目的に、全体として本願明細書に援用する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
解説を容易にするために、本明細書では時として、「ヌクレオチド」または「リボヌクレオチド」という用語を、RNA剤の1つまたは複数の単量体サブユニットに関して使用する。本明細書では、「リボヌクレオチド」または「ヌクレオチド」という用語の使用は、修飾RNAまたはヌクレオチド代替物に関する場合、以下で更に記載するように、1つまたは複数の位置における、修飾ヌクレオチドまたは代替置換部分も指すことがあると理解されよう。
【0019】
本明細書で使用される場合、「RNA剤」は、無修飾RNA、修飾RNA、またはヌクレオシド代替物であり、これらはすべて本明細書に記載されているか、又はRNA合成の
技術分野では周知である。多数の修飾RNAおよびヌクレオチド代替物が記載されているが、好ましいものの例には、ヌクレアーゼ分解に対して、無修飾RNAが有するものより大きな抵抗性を有するものが含まれる。好ましいものの例には、2’糖修飾、単一鎖突出部分内、好ましくは3’単一鎖突出部分内の修飾、あるいは、特に1本鎖の場合、1つもしくは複数のリン酸基または1つもしくは複数のリン酸基類似体を含有する5’修飾を有するものが含まれる。
【0020】
本明細書で使用される場合、「iRNA剤」(「干渉RNA剤」の略)は、標的遺伝子、例えばRSVの発現を下方制御できるRNA剤である。理論に拘泥するものではないが、iRNA剤は、当技術分野では時にRNAiと呼ばれる標的mRNAの転写後の切断、または転写前もしくは翻訳前の機構を含めた多数の機構のうちの1つまたは複数によって作用し得る。iRNA剤は、2本鎖iRNA剤であり得る。
【0021】
「ds iRNA剤」(「2本鎖iRNA剤」の略)は、本明細書で使用される場合、複数、好ましくは2本の鎖を含み、その中で鎖間ハイブリダイゼーションが2本鎖構造領域を形成できるiRNA剤である。本明細書では、「鎖」は、連続したヌクレオチド(天然には存在しないヌクレオチドおよび修飾ヌクレオチドも含まれる)の配列を指す。2本以上の鎖が別々の分子であっても、それらの各鎖が別々の分子の一部を形成してもよく、また、それらが、例えばリンカー、例えばポリエチレングリコールリンカーによって共有結合で相互連結され、1分子のみを形成していてもよい。少なくとも1本の鎖は、標的RNAに十分に相補的な領域を含むものであり得る。そのような鎖は「アンチセンス鎖」と称される。アンチセンス鎖に相補的な領域を含むdsRNA剤中に含まれている第2の鎖は「センス鎖」と称されている。しかしながら、ds iRNA剤は、少なくとも一部が自己相補的であり、2本鎖領域を含む、例えばヘアピンまたはフライパンハンドル構造を形成する単一のRNA分子から形成されていてもよい。そのような場合、「鎖」という用語は、同一RNA分子の別の領域に相補的なRNA分子の領域の1つを指す。
【0022】
哺乳動物細胞では、長いds iRNA剤によってインターフェロン応答が誘導されることがあり、それがしばしば有害であるが、短いds iRNA剤は、インターフェロン応答を、少なくとも細胞および/または宿主に有害となる程度までには誘導しない。本発明のiRNA剤は、十分に短い分子を含有しており、それらは正常な哺乳動物細胞において有害な非特異的インターフェロン応答を誘発しない。したがって、哺乳動物細胞へのiRNA剤組成物(例えば本明細書に記載の通り製剤化されたもの)の投与を用いて、有害なインターフェロン応答を回避しながら、RSV遺伝子の発現をサイレンシングすることができる。十分に短くて、有害なインターフェロン応答を誘発しない分子を、本明細書では、siRNA剤またはsiRNAと称する。「siRNA剤」または「siRNA」は、本明細書で使用される場合、十分に短くて、ヒト細胞で有害なインターフェロン応答を誘導しないiRNA剤、例えばds iRNA剤を指し、それは例えば30ヌクレオチド対未満の2本鎖領域を有する。
【0023】
ds iRNA剤およびsiRNA剤を含めた、本明細書に記載の単離されたiRNA剤は、例えばRNA分解による遺伝子のサイレンシングを媒介することができる。便宜のために、そのようなRNAは、本明細書では、サイレンシングされるRNAとも称される。そのような遺伝子は、標的遺伝子とも称される。サイレンシングされるRNAは、RSV遺伝子の遺伝子産物、特にP、N又はL遺伝子産物であることが好ましい。
【0024】
本明細書で使用される場合、「RNAiを媒介する」という用語は、薬剤が標的遺伝子を配列特異的な様式でサイレンシングする能力を指す。「標的遺伝子をサイレンシングする」とは、それによって、上記薬剤に接触していないときに標的遺伝子の特定の産物を含有および/または分泌する細胞が、上記薬剤に接触しているときに、上記薬剤に接触して
いない同様な細胞と比較して、そのような遺伝子産物を少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%少なく含有および/または分泌するであろう過程を意味する。標的遺伝子のそのような産物は、例えば、メッセンジャーRNA(mRNA)、タンパク質、または調節エレメントであり得る。
【0025】
本発明の抗ウイルスの用途において、標的遺伝子のサイレンシングは、細胞或いは対象における「ウイルス価」を低減する。本明細書に使用されるように、「ウイルス価の低減」は、細胞により生成されるか、またはウイルス標的遺伝子のサイレンシングを受けている生物に見出される生存ウイルスの数の減少を示す。生成されるウイルスの細胞数の減少は、好ましくは、治療を受けている対象の組織において生成される測定可能なウイルスの数の減少及びウイルス感染の症状の重篤度の低減をもたらす。本発明のiRNA剤は、「抗ウイルスiRNA剤」として参照される。
【0026】
本明細書にて使用されるように、「RSV」遺伝子は、RSVウイルスゲノムにて特定される遺伝子の任意の1つを参照する(非特許文献13)。これらの遺伝子は当該技術分野では周知であり、本明細書において例示されるN、P及びL遺伝子を含む。
【0027】
本明細書で使用される場合、「相補的」という用語は、本発明の化合物と標的RNA分子、例えばRSVウイルスmRNA分子との間で安定かつ特異的な結合が生じるのに十分な程度の相補性を示すのに使用される。特異的な結合は、特異的な結合が望ましい条件下で、すなわちインビボ試験または治療処置の場合には生理条件下で、あるいはインビトロ試験の場合では同試験が実施される条件下で、非標的配列へのオリゴマー化合物の非特異的結合を回避するのに十分な程度の相補性を必要とする。非標的配列は、通常、少なくとも4ヌクレオチドの相違を有する。
【0028】
本明細書で使用される場合、iRNA剤が標的RNA、例えば標的mRNA(例えば標的RSVmRNA)に「十分に相補的である」のは、上記iRNA剤によって、細胞内での、上記標的RNAによってコードされたタンパク質の産生が減少する場合である。上記iRNA剤は、標的RNAに「正確に相補的」であってもよく、例えば上記標的RNAと上記iRNA剤とがアニールするものでもよい。正確に相補的な領域では、ワトソンクリック塩基対のみでハイブリット形成されていることが好ましい。「十分に相補的な」iRNA剤は、標的ウイルスRNAに正確に相補的な内部領域(例えば少なくとも10ヌクレオチド)を含み得る。さらに、一部の実施形態では、上記iRNA剤が単一ヌクレオチドの相違を特異的に識別する。この場合、上記iRNA剤は、単一ヌクレオチド相違の(例えば7ヌクレオチド以内の)領域で正確な相補性が存在する場合にのみRNAiを媒介する。好ましいiRNA剤は、実施例に示すセンス配列およびアンチセンス配列に基づいているか、もしくはそれからなるか、もしくはそれを含むであろう。
【0029】
本明細書での使用において、「本質的には同一」は、第2のヌクレオチド配列と比較して第1のヌクレオチド配列に関して使用される場合、最大1、2、または3ヌクレオチドまでの置換(例えばアデノシンがウラシルで置換されている)を除いて、第1のヌクレオチド配列が第2のヌクレオチド配列に同一であることを意味する。
【0030】
本明細書で使用される場合、「対象」は、RSV感染のようなウイルス発現により媒介された障害の治療を受けている、又はウイルス感染を回避するために予防的に治療を受けている哺乳類生物を指す。対象は、霊長類、ウシ、ウマ、マウス、ラット、イヌ、ブタ、又はヤギなど、いかなる哺乳動物でもよい。好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0031】
本明細書で使用される場合、RSV感染を治療することは、1)、対象におけるウイルスの存在によって一部媒介され、かつ2)存在している、ウイルス遺伝子産物のレベルを
低減することによって結果に影響を与えることができるいかなる生物学的または病理学的状態も指す。
【0032】
(iRNA剤の設計および選択)
本発明は、iRNA剤を経鼻投与/吸入のいずれかを介して肺及び鼻腔に局所投与するか、或いは注射により全身的/非経口的に投与した後の、インビボにおける呼吸器系ウイルス遺伝子の標的遺伝子サイレンシングの検証及び得られるウイルス感染の治療法に基づいている。本発明は更に、iRNA剤の治療を1つ以上の呼吸器系ウイルスに対して使用すること、及び2つ以上のiRNA剤を同時に投与することを伴う両方のウイルス感染の治療にまで拡張する。
【0033】
これらの結果に基づいて、本発明は、以下に記載されているように単離した形態にて、かつ製薬組成物として、ウイルス感染、特に呼吸器系ウイルス、とりわけRSV感染を治療するために使用され得るiRNA剤を特に提供する。そのような薬剤は、ウイルス遺伝子と相補的な少なくとも15の連続したヌクレオチドを有するセンス鎖と、同センス鎖配列と相補的な少なくとも15の連続したヌクレオチドを有するアンチセンス鎖とを含有するであろう。特に有用なものは、表1(a−c)に記載されているような、RSVのP、N及びL遺伝子からのヌクレオチド配列から構成されるか、ほぼ構成されるか、又は同配列を含むiRNA剤である。
【0034】
本発明のiRNA剤は、表1(a−c)において活性を示すiRNA剤の1つからの少なくとも15の連続したヌクレオチドに基づいており、かつ同ヌクレオチドを含む。そのような薬剤において、同薬剤は、表に提供された配列全体から構成されるか、ほぼ構成されるか、又は同配列を含むか、或いは、標的遺伝子からの連続的な領域からの更なるヌクレオチドとともに表1(a−c)に提供された少なくとも15の連続的な残基を含み得る。
【0035】
iRNA剤は、配列情報、所望の特性及び表1(a−c)に提供された情報に基づいて合理的に設計され得る。例えば、iRNA剤は、表に提供された薬剤の配列に従って、並びに標的遺伝子のコード化全配列を考慮して設計され得る。
【0036】
従って、本発明は、各々が、少なくとも15、16、17、18、19、20、21又は23個のヌクレオチドの配列を含むセンス鎖とアンチセンス鎖とを含み、同配列は、上記したように、呼吸器系ウイルス、特にRSVのP、N又はLタンパク質遺伝子からの遺伝子の一部と本質的に同一である。例示的なiRNA剤は、表1(a−c)に提供された薬剤の1つからの15以上の連続したヌクレオチドからなるものを含む。
【0037】
iRNA剤のアンチセンス鎖は、長さが15、16、17、18、19、25、29、40または50ヌクレオチド以上であるべきである。上記アンチセンス鎖は、長さが50、40、または30ヌクレオチド以下であるべきである。好ましい長さの範囲は、15〜30、17〜25、19〜23、および19〜21ヌクレオチドである。例示的なiRNA剤は、表1(a−c)の薬剤の1つのアンチセンス鎖の1つからの15個以上のヌクレオチドを含むものを含む。
【0038】
iRNA剤のセンス鎖は、長さが15、16、17、18、19、25、29、40または50ヌクレオチド以上であるべきである。上記センス鎖は、長さが50、40または30ヌクレオチド以下であるべきである。好ましい長さの範囲は、15〜30、17〜25、19〜23、および19〜21ヌクレオチドである。例示的なiRNA剤は、表1(a−c)の薬剤の1つのセンス鎖の1つからの15個以上のヌクレオチドを含むものを含む。
【0039】
iRNA剤の2本鎖部分は、長さが15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、29、40または50ヌクレオチド対以上であるべきである。上記2本鎖部分は、長さが50、40または30ヌクレオチド対以下であるべきである。好ましい長さの範囲は、15〜30、17〜25、19〜23、および19〜21ヌクレオチド対である。
【0040】
表1(a−c)に提供された薬剤は、各鎖が21ヌクレオチド長である。iRNA剤は19個のヌクレオチドからなる2本鎖領域を含み、薬剤の3’末端の各々が2個のヌクレオチドの突出部分を備えている。これらの薬剤は、本明細書において記載されているように、これらの配列の少なくとも一部(15個以上の連続したヌクレオチド)を含む同等の薬剤、又はオリゴヌクレオチド塩基及び結合部に対する修飾を得るために、本明細書に記載されているように修飾され得る。
【0041】
通常、本発明のiRNA剤は、ウイルス遺伝子、例えば、RSVのP、N又はLタンパク質と十分な相補性を有する領域を含み、上記iRNA剤またはその断片が特定のウイルス遺伝子の下方制御を媒介できる十分なヌクレオチドの長さを有する。本発明のiRNA剤のアンチセンス鎖は、好ましくはウイルス遺伝子、本明細書において示されるようなRSVのP、L又はNタンパク質のmRNA配列に完全に相補的である。しかしながら、上記iRNA剤と上記標的との間に完全な相補性が存在している必要はないが、それらの対応性は、上記iRNA剤またはそれの切断産物が、例えばRSV mRNAのRNAi切断による配列特異的なサイレンシングを誘導することを可能にするのに十分でなければならない。
【0042】
したがって、本発明のiRNA剤には、培養ヒト細胞におけるRSV発現を阻害する能力を本質的に保持しながら、それぞれ、鎖当たり1、2、または3個以下のヌクレオチドが他のヌクレオチドで置換されている(例えばアデノシンがウラシルで置換されている)ことを除いて、下記に定義する通り、それぞれが、表1(a−c)に提供された薬剤のようなウイルス遺伝子、特にRSVのP、N又はLタンパク質の配列の1つに本質的に同一である少なくとも16、17または18ヌクレオチドの配列からなるセンス鎖およびアンチセンス鎖からなる薬剤が含まれる。したがって、これらの薬剤は、標的ウイルスmRNA配列に関して、もしくはセンス鎖とアンチセンス鎖との間に、1、2または3塩基のミスマッチが導入されているウイルス遺伝子、特にRSVのP、N又はLタンパク質の配列の1つに本質的に同一である少なくとも15ヌクレオチドを有するものであろう。標的ウイルスmRNA配列とのミスマッチ、特にアンチセンス鎖におけるミスマッチは、末端領域で最もよく許容され、存在する場合には、1箇所または複数の端末領域内、例えば5’および/または3’末端の6、5、4、または3ヌクレオチド以内にあることが好ましく、センス鎖の5’末端またはアンチセンス鎖の3’末端の6、5、4、または3ヌクレオチド以内にあることが最も好ましい。上記センス鎖は、分子の全体的な2本鎖特性を維持するのに十分なだけアンチセンス鎖に相補的であればよい。
【0043】
上記センス鎖およびアンチセンス鎖は、上記iRNA剤が、例えば表1(a−c)に例示されたような分子の一端または両端に単一鎖または不対領域を含有するように選択されることが好ましい。したがって、iRNA剤は、好ましくは突出部分、例えば1または2つの5’または3’突出部分、但し好ましくは2〜3ヌクレオチドの3’突出部分1つを含有するように対合されたセンス鎖およびアンチセンス鎖を含有する。ほとんどの実施形態は、3’突出部分を有するであろう。好ましいsiRNA剤は、上記iRNA剤の一端又は両端に長さが1〜4ヌクレオチド、好ましくは2または3ヌクレオチドの1本鎖の突出部分、好ましくは3’突出部分を有するであろう。上記突出部分は、一方の鎖がもう一方より長い結果、または同じ長さの2本の鎖がずれている結果であり得る。5’末端はリ
ン酸化されていることが好ましい。
【0044】
2本鎖領域の好ましい長さは、15から30ヌクレオチドの間、最も好ましくは18、19、20、21、22および23ヌクレオチドの長さ、例えば上記に論じたsiRNA剤の範囲である。siRNA剤の2本の鎖が、例えば共有結合によって、連結されている実施形態も含まれる。ヘアピン構造、または必要な2本鎖領域と、好ましくは3’突出部分とを提供する他の1本鎖構造も本発明に包含される。
【0045】
(候補となるiRNA剤の評価)
候補となるiRNA剤を、それが標的遺伝子発現を下方制御する能力に関して評価することができる。例えば、候補となるiRNA剤を用意し、興味のあるウイルス、例えば標的遺伝子を含むウイルスに感染されたか、又は感染されるであろう細胞、例えばヒト細胞と接触させることができる。代替的に、細胞は、標的ウイルス遺伝子をそれから発現することができるコンストラクトでトランスフェクションさせ、それにより、ウイルス感染価モデルの必要性を回避できる。上記候補となるiRNA剤との接触の前および後の標的遺伝子発現のレベルを、例えばmRNAまたはタンパク質レベル或いはウイルス価で比較することができる。標的遺伝子から発現されたRNA、タンパク質又はウイルスの量が、上記iRNA剤と接触した後に低下していると判定された場合、上記iRNA剤が標的遺伝子発現を下方制御すると結論付けることができる。細胞中の標的ウイルスRNAまたはウイルスタンパク質のレベル、或いは細胞又は組織中のウイルス価は、いかなる望ましい方法でも測定できる。例えば、標的RNAのレベルは、ノーザンブロット解析、逆転写連結ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、bDNA分析、またはRNアーゼプロテクションアッセイで測定することができる。タンパク質のレベルは、例えば、ウェスタンブロット解析または免疫蛍光によって測定することができる。ウイルス価はプラーク形成試験法にて検出できる。
【0046】
(iRNA剤の安定性試験、修飾、および再試験)
候補となるiRNA剤を、そのiRNA剤が対象の体内に導入された際などの安定性、例えばエンドヌクレアーゼまたはエクソヌクレアーゼによる切断に対する感受性に関して評価することができる。同方法は、修飾、特に切断、例えば対象の体内に存在する成分による切断の影響を受けやすい部位を同定する方法を利用することができる。
【0047】
切断の影響を受けやすい部位が同定された場合、例えば切断部位への2’修飾、例えば2’−O−メチル基の導入によって、上記潜在的切断部位が切断に抵抗性を有するように作製された更なるiRNA剤を設計および/または合成することができる。この更なるiRNA剤を、安定性に関して再試験することができ、あるiRNA剤が望ましい安定性を示すことが見出されるまで、この工程を繰り返すことができる。
【0048】
(インビボ試験)
ウイルス遺伝子発現を阻害できるものとして同定されたiRNA剤を、動物モデル(例えばマウス、ラット又は霊長類などの哺乳動物)中でのインビボでの機能に関して試験することができる。例えば、上記iRNA剤を動物に投与して、同iRNA剤を、その生体内分布、安定性、およびそれがウイルス遺伝子発現、例えばRSV遺伝子発現を阻害するか或いはウイルス価を低減する能力に関して評価した。
【0049】
上記iRNA剤は、注射などによって標的組織に直接投与することができ、あるいは上記iRNA剤を、それがヒトに投与されるのと同じ様に動物モデルに投与することもできる。本明細書において示されるように、同剤は、ウイルス感染を治療する手段として、吸入により投与されると好ましい。
【0050】
上記iRNA剤を細胞内分布に関して評価することもできる。この評価には、上記iRNA剤が細胞内に摂取されたかどうかの判定も含めることができる。この評価には、上記iRNA剤の安定性(例えば半減期)の測定も含めることができる。iRNA剤のインビボ評価は、追跡可能なマーカー(例えば、フルオレセインなどの蛍光マーカー:35S、32P、33P、もしくはHなどの放射性標識;金粒子;または免疫組織化学用抗原粒子)に結合されたiRNA剤の使用、或いはその他の適切な検出方法によって容易に行うことができる。
【0051】
上記iRNA剤を、それがウイルス遺伝子発現を下方制御する能力に関して評価することができる。インビボでのウイルス遺伝子発現のレベルは、例えば、in situハイブリダイゼーション、または上記iRNA剤への組織の曝露の前および後における同組織からのRNAの単離によって測定することができる。組織を採取するために動物を屠殺する必要がある場合、未処置のコントロール動物が比較対象となろう。標的ウイルスmRNAは、限定されるものではないが、RT−PCR、ノーザンブロット、分岐DNAアッセイ、またはRNアーゼプロテクションアッセイを含めたいかなる望ましい方法でも検出することができる。代替的又は付随的に、上記iRNA剤で処理された組織抽出物のウェスタンブロット解析を行うことによって、或いはELISAによって、ウイルス遺伝子発現をモニタリングすることもできる。ウイルス価はpfuアッセイを使用して決定され得る。
【0052】
(iRNA化学)
ここでは、RNAiを媒介して、ウイルス遺伝子、例えば、RSVのPタンパク質の発明を阻害する、単離されたiRNA剤、例えばdsRNA剤について述べる。
【0053】
ここで論じるRNA剤には、他には無修飾のRNAに加えて、例えば効力を向上させるために修飾されたRNA、およびヌクレオチド代替物のポリマーも含まれる。無修飾のRNAは、その中で、核酸成分、すなわち、糖、塩基、およびリン酸部分が天然に存在しているもの、好ましくはヒト体内に生来的に存在しているものと同じであるか、もしくは本質的に同じである分子を指す。当技術分野は、まれであるか、もしくは一般的でないが、天然に存在するRNAを修飾RNAと称することがある。例えば、リンバッハ(Limbach)ら(1994年)、Nucleic Acids Res.第22巻、2183〜2196頁を参照されたい。しばしば修飾RNAと称される(明らかに、それらが通常は転写後修飾の結果であるため)、そのようなまれであるか、もしくは一般的でないRNAは、本明細書で使用される場合、無修飾RNAという用語の範囲内にある。本明細書で使用される場合、修飾RNAは、その中で、1つまたは複数の核酸成分、すなわち、糖、塩基、およびリン酸部分が、天然に存在しているもの、好ましくはヒト体内に生来的に存在しているものと異なる分子を指す。それらは修飾「RNA」と称されるが、それらには修飾によりRNAではない分子も当然ながら含まれる。ヌクレオチド代替物は、その中で、ハイブリダイゼーションが実質的にリボリン酸骨格で見られるものと類似するように、それらの塩基の正しい空間的関係での提示が可能となっている非リボリン酸骨格構造物、例えばリボリン酸骨格の非荷電模倣体で、リボリン酸骨格が置換されている分子である。上記のすべての例が本明細書に論じられている。
【0054】
本明細書に記載の修飾は、本明細書に記載のいかなる2本鎖RNAおよびRNA様分子、例えばiRNA剤にも組み入れら得る。上記修飾は、iRNA剤のアンチセンス鎖およびセンス鎖の一方または両方を修飾することが望ましい。核酸が重合体のサブユニットまたは単量体である場合には、下記の修飾の多くは核酸中で反復される位置で起こり、例えば、塩基もしくはリン酸部分、またはリン酸部分の非結合性Oの修飾である。一部の場合には、上記修飾が核酸中の対象となる位置のすべてで起こるであろうが、多くの場合、そして実際にはほとんどの場合には、そうならないであろう。一例として、修飾は、3’ま
たは5’末端位置でのみ起こることもあり、あるいは末端領域、例えば鎖の末端ヌクレオチドの位置または最終2、3、4、5、または10ヌクレオチドでのみ起こることもある。修飾は、2本領域に起こっても、1本鎖領域に起こっても、あるいはそれら両方に起こってもよい。例えば、非結合性Oの位置でのホスホロチオエート修飾は、一方または両方の末端で起こることも、あるいは末端領域、例えば鎖の末端ヌクレオチドの位置または最終2、3、4、5、または10ヌクレオチドでのみ起こることも、あるいは2本鎖および1本鎖領域、特に末端で起こることもある。同様に、修飾は、センス鎖で起こることも、アンチセンス鎖で起こることも、それら両方で起こることもある。一部の場合には、センス鎖およびアンチセンス鎖が同じ修飾または同じクラスの修飾を有するであろう。しかしながら、他の場合には、センス鎖およびアンチセンス鎖は異なった修飾を有するであろう。例えば、一部の場合には、一方の鎖、例えばセンス鎖のみを修飾することが望ましい場合がある。
【0055】
iRNA剤に修飾を導入する2つの主要な目的は、生物学的環境における分解に対するそれらの安定化、および下記に詳細に論じる薬理学的特性、例えば薬動力学的特性の改良である。iRNA剤の糖、塩基、または骨格への他の適当な修飾は、共有されている2004年1月16日出願の国際出願第PCT/US2004/01193号パンフレットに記載されている。iRNA剤は、共有されている2004年4月16日出願の国際出願第PCT/US2004/011822号パンフレットに記載の塩基のような天然に存在しない塩基を含有することもできる。iRNA剤は、非糖質環状担体分子のような天然に存在しない糖を含むこともできる。iRNA剤で使用する天然に存在しない糖の例示的特性は、共有されている2003年4月16日出願の国際出願第PCT/US2004/11829号パンフレットに記載されている。
【0056】
iRNA剤は、ヌクレアーゼ抵抗性の増強に有用なヌクレオチド間結合(例えばキラルホスホロチオエート結合)を含有できる。付随的に、又は代替的に、ヌクレアーゼ抵抗性を増強させるために、iRNA剤にリボース摸倣体を含有させることができる。ヌクレアーゼ抵抗性を増強させるための例示的ヌクレオチド間結合およびリボース模倣体は、共有されている2004年3月8日出願の国際出願第PCT/US2004/07070号パンフレットに記載されている。
【0057】
iRNA剤は、リガンド結合単量体サブユニットおよびオリゴヌクレオチド合成用の単量体を含有できる。例示的な単量体は、共有されている2004年8月10日出願の米国特許出願第10/916185号明細書に記載されている。
【0058】
iRNA剤は、共有されている2004年3月8日出願の国際出願第PCT/US2004/07070号パンフレットに記載されているようなZXY構造を有することができる。
【0059】
iRNA剤は、両親媒性部分と複合体形成され得る。iRNA剤と共に使用するための例示的な両親媒性部分は、共有されている2004年3月8日出願の国際出願第PCT/US2004/07070号パンフレットに記載されている。
【0060】
別の実施形態では、iRNA剤は、モジュール複合体の特性を有する送達薬剤と複合体形成され得る。この複合体は、(a)濃縮剤(例えば、核酸を、例えばイオンまたは静電気相互作用を介して、誘引、例えば結合できる薬剤);(b)融合誘導剤(例えば、細胞膜に融合し、かつ/またはそれを通って輸送される性能を有する薬剤):および、(c)標的化化学基、例えば細胞または組織標的化剤、例えば特定の細胞型に結合するレクチン、糖タンパク、脂質、またはタンパク質(例えば抗体)、のうちの1つまたは複数(好ましくは2つ以上、より好ましくは3つすべて)に結合される担体物質を含み得る。送達物
質と複合体形成されるiRNA剤は、共有されている2004年3月8日出願の国際出願第PCT/US2004/07070号パンフレットに記載されている。
【0061】
iRNA剤は、iRNA2本鎖のセンス配列とアンチセンス配列との間などに、非標準的な対合を備え得る。非標準的なiRNA剤の例示的特徴は、共有されている2004年3月8日出願の国際出願第PCT/US2004/07070号パンフレットに記載されている。
【0062】
(ヌクレアーゼ抵抗性の強化)
iRNA剤、例えばRSVを標的とするiRNA剤は、同薬剤が有するヌクレアーゼ抵抗性を強化することができる。
【0063】
ヌクレアーゼ抵抗性を強化する、及び/又は標的との結合親和性を強化するために、iRNA剤、例えばiRNA剤のセンス鎖及び/又はアンチセンス鎖は、2’−修飾リボース単位及び/又はホスホロチオエート結合を含み得る。例えば、2’ヒドロキシル基(OH)は種々の異なる「オキシ」又は「デオキシ」置換基で修飾され得るか或いは置換され得る。
【0064】
「オキシ」−2’ヒドロキシ基修飾の例には、アルコキシもしくはアリールオキシ(OR、例えばR=H、アルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、または糖);ポリエチレングリコール(PEG)、すなわちO(CHCHO)CHCHOR;例えばメチレン架橋によって2’ヒドロキシ基が同じリボース糖の4’炭素に連結されている「ロックト」核酸(LNA)、O−AMINE、およびアミノアルコキシ、すなわちO(CHAMINE(例えば、AMINE=NH;アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ヘテロシクリルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、ヘテロアリールアミノ、またはジへテロアリールアミノ、エチレンジアミン、ポリアミノ)が含まれる。メトキシエチル基(MOE)(OCHCHOCH、PEG誘導体)のみを含有するオリゴヌクレオチドは、強固なホスホロチオエート修飾で修飾されたものに匹敵するヌクレアーゼ安定性を示すことは、注目に値する。
【0065】
「デオキシ」修飾には、水素(すなわち、デオキシリボース糖、これらは部分的dsRNAの突出部分に特に重要である);ハロ(例えばフルオロ);アミノ(例えば、NH;アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ヘテロシクリル、アリールアミノ、ジアリールアミノ、ヘテロアリールアミノ、ジへテロアリールアミノ、またはアミノ酸);NH(CHCHNH)CHCH−AMINE(AMINE=NH;アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ヘテロシクリルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、ヘテロアリールアミノ、またはジへテロアリールアミノ)、−NHC(O)R(R=アルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキル、ヘテロアリールまたは糖)、シアノ;メルカプト;アルキル−チオ−アルキル:チオアルコキシ;及びアルキル、シクロアルキル、アリール、アルケニル、およびアルキニルが含まれ、これらは、選択的に、例えばアミノ官能基で置換することができる。
【0066】
好ましい置換基は、2’−メトキシエチル、2’−OCH、2’−O−アリル、2’−C−アリル、および2’−フルオロである。
抵抗性を強化する方法の1つは、共有されている2004年5月4日に出願の米国特許仮出願第60/559917号明細書に記載の通り、切断部位を同定し、そのような部位を修飾して、切断を阻害することである。例えば、ジヌクレオチド5’−UA−3’、5’−UG−3’、5’−CA−3’、5’−UU−3’、又は5’−CC−3’を切断部位として利用できる。ヌクレアーゼ抵抗性の強化は、ウリジンが2’修飾ヌクレオチドである、少なくとも1つの5’−ウリジン−アデニン−3’(5’−UA−3’)ジヌクレ
オチド;5’−ウリジンが2’修飾ヌクレオチドである、少なくとも1つの5’−ウリジン−グアニン−3’(5’−UG−3’)ジヌクレオチド;5’−シチジンが2’修飾ヌクレオチドである、少なくとも1つの5’−シチジン−アデニン−3’(5’−CA−3’)ジヌクレオチド;5’−ウリジンが2’修飾ヌクレオチドである、少なくとも1つの5’−ウリジン−ウリジン−3’(5’−UU−3’)ジヌクレオチド;または5’−シチジンが2’修飾ヌクレオチドである、少なくとも1つの5’−シチジン−シチジン−3’(5’−CC−3’)ジヌクレオチドをもたらす5’ヌクレオチド修飾を行うことによって実現できる。上記iRNA剤は、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、または少なくとも5つのそのようなジヌクレオチドを含み得る。特定の実施形態では、iRNA剤のすべてのピリミジンが、2’修飾を有し、そのため、そのiRNA剤は、エンドヌクレアーゼに対する抵抗性が強化される。
【0067】
ヌクレアーゼ抵抗性を最大にするために、2’修飾は、1つ以上のリン酸塩リンカー修飾(例えば、フォスフォロチオエート)と組み合わせて使用され得る。いわゆる「キメラ」オリゴヌクレオチドは2つ以上の異なる修飾を含むものである。
【0068】
オリゴヌクレオチド骨格におけるフラノース糖の包含も、エンドヌクレオチド鎖切断を低減できる。iRNA剤は、さらに3’陽イオン基を包含させることによって、あるいは3’−3’連結を伴う3’末端でのヌクレオシドの反転によって修飾され得る。別の代替法では、アミノアルキル基、例えば、3’C5−アミノアルキルdTで3’末端をブロックすることができる。他の3’結合体も、3’−5’エキソヌクレオチド分解性の切断を阻害できる。理論に拘泥するものではないが、ナプロキセンまたはイブプロフェンなどの3’結合体は、エクソヌクレアーゼがオリゴヌクレオチドの3’末端に結合するのを立体的にブロックすることによって、エキソヌレオチド分解性の切断を阻害し得る。小さなアルキル鎖、アリール基、または複素環式結合もしくは修飾糖(D−リボース、デオキシリボース、グルコースなど)でさえも、3’−5’エクソヌクレアーゼをブロックすることができる。
【0069】
同様に、5’−結合は、5’−3’−エキソヌクレオレチド分解性の切断を阻害する。理論に拘泥するものではないが、ナプロキセンまたはイブプロフェンなどの5’結合体は、エクソヌクレアーゼがオリゴヌクレオチドの5’末端に結合するのを立体的にブロックすることによって、エキソヌクレオレチド分解性の切断を阻害し得る。小さなアルキル鎖、アリール基、または複素環式結合もしくは修飾糖(D−リボース、デオキシリボース、グルコースなど)でさえも、3’−5’−エクソヌクレアーゼをブロックすることができる。
【0070】
iRNA剤は、2本鎖iRNA剤が少なくとも一方の末端に1本鎖ヌクレオチド突出部分を含有している場合に、ヌクレアーゼに対する抵抗性を増大させることができる。好ましい実施形態では、上記ヌクレオチド突出部分は、1乃至4個の、好ましくは2乃至3個の不対ヌクレオチドを含有する。好ましい実施形態では、末端ヌクレオチド対に直接隣接している上記1本鎖の突出部分の不対ヌクレオチドがプリン塩基を含有し、上記末端ヌクレオチド対がG−C対であるか、もしくは相補的な最終4ヌクレオチド対のうち少なくとも2対がG−C対である。さらに別の実施形態では、上記ヌクレオチド突出部分は、1または2つの不対ヌクレオチドを有することがあり、例示的実施形態では、上記ヌクレオチド突出部分が5’−GC−3’である。好ましい実施形態では、上記ヌクレオチド突出部分が、上記アンチセンス鎖の3’端にある。一実施形態では、上記iRNA剤は、2ntの突出部分5’−GC−3’が形成されるように、上記アンチセンス鎖の3’末端に5’−CGC−3’というモチーフを含有する。
【0071】
したがって、iRNA剤は、例えば対象の体内に存在するヌクレアーゼ、例えば、エン
ドヌクレアーゼまたはエクソヌクレアーゼによる分解を阻害するように修飾された単量体を含有できる。これらの単量体は、本明細書ではNRMすなわちヌクレアーゼ抵抗性促進単量体と称され、対応する修飾は、NRM修飾と称される。多くの場合、これらの修飾は、iRNA剤の他の特性、例えばタンパク質、例えば運搬体タンパク質、例えば血清アルブミンまたはRISCのメンバー、と相互作用する能力、または第1の配列および第2の配列の、お互いと2本鎖を形成する能力、もしくは別の配列、例えば標的分子と2本鎖を形成する能力、も調節するであろう。
【0072】
1つまたは複数の異なったNRM修飾を、iRNA剤の中、または、iRNA剤の配列の中に導入することができる。1つの配列中またはiRNA剤中で1つのNRM修飾を複数回用いることができる。
【0073】
NRM修飾には、末端にのみ配置できる一部のものも、いかなる位置にも配置できる他のものも含めることができる。一部のNRM修飾は、ハイブリダイゼーションを抑制する可能性があり、したがって、それらは末端領域のみで使用するのが好ましく、それらを切断部位、または対象の配列もしくは遺伝子を標的とする配列、特にアンチセンス鎖上の切断領域にて用いないことが好ましい。それらは、上記ds iRNA剤の2つの鎖の間で十分なハイブリダイゼーションが維持される場合に、センス鎖の任意の場所にて使用できる。一部の実施形態では、NRMが標的外のサイレンシングを最小にし得るので、NRMを切断部位またはセンス鎖の切断領域に配置するのが望ましい。
【0074】
ほとんどの場合、NRM修飾は、それらがセンス鎖に含まれるか、もしくはアンチセンス鎖に含まれるかに応じて異なって分配されるであろう。アンチセンス鎖に含まれる場合には、エンドヌクレアーゼ切断を妨害または阻害する修飾は、RISC媒介の切断を受ける領域、例えば切断部位または切断領域に挿入されるべきでない(本願明細書に援用する、エルバシル(Elbashir)ら、2001年、Genes and Dev.第15巻、188頁に記載されている)。標的の切断は、20または21ntのアンチセンス鎖のほぼ中央、すなわち上記アンチセンス鎖に相補的な標的mRNAの最初のヌクレオチドの上流のほぼ10または11ヌクレオチドで起こる。本明細書で使用される場合、切断部位は、標的mRNAまたはそれにハイブリダイズするiRNA剤の鎖における、切断部位のいずれかの側のヌクレオチドを指す。切断領域は、いずれかの方向における、上記切断部位の1、2、または3ヌクレオチド以内にあるヌクレオチドを意味する。
【0075】
そのような修飾は、標的となる配列、或いは対象の配列を標的としない配列の末端領域、又は同末端の2、3、4、もしくは5番目の位置を含めた位置に導入することができる。
【0076】
(テザーリガンド)
薬理学的特性を含めたiRNA剤の特性は、リガンド、例えば、テザーリガンドを導入することによって、影響を受け、調整され得る。
【0077】
多種多様な構成要素、例えば、リガンドを、iRNA剤、例えば、リガンド結合単量体サブユニットの担体に連結することができる。リガンド結合単量体サブユニットの場合について以下にその例を説明するが、これは単に好適な例に過ぎず、同構成要素はiRNA剤のその他の点にも結合することができる。
【0078】
好ましい部分は、干渉テザー(tether)を介して直接的または間接的に担体に、好ましくは共有結合するリガンドである。好ましい実施形態では、このリガンドは干渉テザーを介して担体に結合される。リガンド結合単量体が伸長する鎖に取り込まれるとき、リガンドまたはテザーリガンドは、リガンド結合単量体上に存在し得る。いくつかの実施
形態では、このリガンドは、「前駆体」リガンド結合単量体サブユニットが伸長する鎖に取り込まれた後で、同「前駆体」リガンド結合単量体サブユニットに取り込まれる。例えば、TAP−(CHNHなどのアミノ末端テザーなどを有する単量体は、伸長するセンスまたはアンチセンス鎖に取り込まれてよい。その後の操作において、すなわち、前駆体単量体サブユニットが鎖に取り込まれた後で、求電子基、例えば、ペンタフルオロフェニルエステルまたはアルデヒド基を有するリガンドは、リガンドの求電子基と前駆体リガンド結合単量体サブユニットテザーの末端求核基との結合によって、その後前駆体リガンド結合単量体に結合され得る。
【0079】
好ましい実施形態では、リガンドは、取り込まれたiRNA剤の分布、標的化または寿命を改変する。好ましい実施形態では、リガンドは、例えば、このようなリガンドを備えていない種と比較して、選択した標的、例えば、分子、細胞または細胞種、細胞区画もしくは器官区画などの区画、組織、器官または身体の領域に対する親和性を増強する。
【0080】
好ましいリガンドは、輸送、ハイブリダイゼーションおよび特異性の特性を改善することができ、得られた天然もしくは修飾オリゴリボヌクレオチド、または本明細書で説明した単量体および/または天然もしくは修飾リボヌクレオチドの任意の組合せを含むポリマー分子のヌクレアーゼ抵抗性も改善することができる。
【0081】
一般的に、リガンドは、例えば、取り込みを高めるための治療調節剤、例えば、分布をモニタリングするための診断用化合物もしくはレポーター群、架橋剤、ヌクレアーゼ抵抗性を付与する部分および天然もしくは通常にはない核塩基を含むことができる。一般的な例には、脂溶性分子、脂質、レクチン、ステロイド(例えば、ウバオール、ヘシゲニン(hecigenin)、ジオスゲニン)、テルペン(例えば、トリテルペン、例えば、サルササポゲニン、フリーデリン、エピフリーデラノール誘導体化リトコール酸)、ビタミン、炭水化物(例えば、デキストラン、プルラン、キチン、キトサン、イヌリン、シクロデキストリンまたはヒアルロン酸)、タンパク質、タンパク質結合剤、インテグリン標的化分子、ポリカチオン、ペプチド、ポリアミンおよびペプチド模倣体が含まれる。
【0082】
リガンドは、天然物質または組換えもしくは合成分子、例えば、合成ポリアミノ酸などの合成ポリマーであり得る。ポリアミノ酸の例には、ポリリジン(PLL)、ポリL−アスパラギン酸、ポリL−グルタミン酸、スチレン−無水マレイン酸コポリマー、ポリ(L−ラクチド−コ−グリコリド)コポリマー、ジビニルエーテル−無水マレイン酸コポリマー、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミドコポリマー(HMPA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン、ポリ(2−エチルアクリル酸)、N−イソプロピルアクリルアミドポリマーまたはポリホスファジンが含まれる。ポリアミンの例には、ポリエチレンイミン、ポリリジン(PLL)、スペルミン、スペルミジン、ポリアミン、シュードペプチドポリアミン、ペプチド様ポリアミン、デンドリマーポリアミン、アルギニン、アミジン、プロタミン、陽イオン部分、例えば、陽イオン性脂質、陽イオン性ポルフィリン、ポリアミンの4級塩またはアルファヘリックスペプチドが含まれる。
【0083】
リガンドにはまた、標的化化学基、例えば、細胞または組織標的化剤、例えば、甲状腺刺激ホルモン、メラノトロピン、サーファクタントタンパク質A、ムチン炭水化物、グリコシル化ポリアミノ酸、トランスフェリン、ビスホスホン酸、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、またはRGDペプチドもしくはRGDペプチド模倣体が含まれる。
【0084】
リガンドは、例えば糖タンパク質、例えば低密度リポタンパク質(LDL)のようなリポタンパク質、ヒト血清アルブミン(HSA)のようなアルブミン、又はペプチドのようなタンパク質、コ−リガンドに対して特異的な親和性を有する分子、或いは癌細胞、内皮
細胞又は骨細胞のような特定のタイプの細胞に結合する抗体のような抗体であり得る。リガンドはまた、ホルモン及びホルモン受容体を含み得る。それらはまた、補因子、多価ラクトース、多価ガラクトース、N−アセチル−ガラクトサミン、N−アセチル−グルコサミン、多価マンノース又は多価フコースのような非ペプチド種を含み得る。リガンドは、例えばリポ多糖体、p38MAPキナーゼのアクチベータ又はNF−κBのアクチベータであり得る。
【0085】
リガンドは、例えば、細胞骨格を破壊することによって、例えば、細胞の微小管、微小繊維および/または中間径繊維を破壊することによって、細胞へのiRNA剤の取り込みを増加させることができる物質、例えば、薬剤であり得る。この薬剤は、例えば、タキソン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、サイトカラシン、ノコダゾール、ジャプラキノリド(japlakinolide)、ラトランクリンA、ファロイジン、スウィンホライドA、インダノシンまたはミオセルビン(myoservin)であり得る。
【0086】
一態様では、リガンドは脂質または脂質をベースにした分子である。このような脂質または脂質をベースにした分子は、血清タンパク質、例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)に結合することが好ましい。HSAに結合できるその他の分子もリガンドとして使用できる。例えば、ネプロキシン(neproxin)またはアスピリンを使用できる。脂質または脂質をベースにしたリガンドは、(a)結合体の分解に対する抵抗性を増強し、(b)標的細胞または細胞膜への標的化または輸送を増強し、および/または(c)血清タンパク質、例えば、HSAへの結合を調節するために使用することができる。
【0087】
脂質をベースにしたリガンドは、標的組織に対する結合体の結合を調節するために、例えば、制御するために使用され得る。例えば、HSAに一層強力に結合する脂質または脂質をベースにしたリガンドは、腎臓を標的とする傾向が少なく、したがって、身体から排出される傾向が低い。HSAにあまり強く結合しない脂質または脂質をベースにしたリガンドは、結合体を腎臓に対する標的とするために使用することができる。
【0088】
好ましい実施形態では、脂質をベースにしたリガンドはHSAに結合する。これは、結合体が好ましくは腎臓以外の組織に分布するような十分な親和性で同HSAに結合することが好ましい。しかしながら、この親和性はHSAリガンドの結合が離れることできないほど強力ではないことが好ましい。
【0089】
別の態様では、リガンドは、標的細胞によって、例えば増殖細胞によって取り込まれる部分、例えば、ビタミンまたは栄養素である。これらは、例えば、悪性型または非悪性型の、例えば、癌細胞の、望ましくない細胞増殖を特徴とする障害を治療するために特に有用である。ビタミンの例には、ビタミンA、EおよびKが含まれる。その他のビタミンの例は、ビタミンB群、例えば、葉酸、B12、リボフラビン、ビオチン、ピリドキサールまたは癌細胞によって取り込まれるその他のビタミンもしくは栄養素である。
【0090】
別の態様では、リガンドは、細胞透過性薬剤、好ましくはヘリックス細胞透過性薬剤である。この薬剤は両親媒性であることが好ましい。薬剤の例は、tatまたはアンテナペディアなどのペプチドである。この薬剤がペプチドの場合、修飾可能であり、ペプチジル模倣体、反転異性体(invertomer)、非ペプチドまたは偽ペプチド結合が含まれ、Dアミノ酸も使用できる。ヘリックス剤は、親油性相および疎油性相を有するアルファヘリックス剤であることが好ましい。
【0091】
(5’−リン酸修飾)
好ましい実施形態では、iRNA剤は、5’がリン酸化されているか、または5’プライム末端にホスホリル類似体を含む。アンチセンス鎖の5’−リン酸修飾には、RISC
媒介遺伝子サイレンシングに適合したものが含まれる。適切な修飾には、5’−モノホスファート((HO)2(O)P−O−5’);5’−ジホスファート((HO)2(O)P−O−P(HO)(O)−O−5’);5’−トリホスファート((HO)2(O)P−O−(HO)(O)P−O−P(HO)(O)−O−5’);5’−グアノシンキャップ(7−メチル化または非メチル化)(7m−G−O−5’−(HO)(O)P−O−(HO)(O)P−O−P(HO)(O)−O−5’);5’−アデノシンキャップ(Appp)、および任意の修飾または非修飾ヌクレオチドキャップ構造が含まれる。その他の適切な5’リン酸塩修飾は当業者に周知であろう。
【0092】
センス鎖は、同センス鎖を不活性化し、活性型RISCの形成を阻止し、それによって標的外効果を潜在的に減少させるために修飾され得る。これは、センス鎖の5’−リン酸化を阻止する修飾によって、例えば、5’−O−メチルリボヌクレオチドで修飾することによって実現することができる(ニカネン(Nykaenen)ら、2001年、「ATP requirements and small interfering RNA
structure in the RNA interference pathway.」Cell、第107巻、309〜321頁を参照のこと)。リン酸化を阻止するその他の修飾、例えば、O−MeよりもHによる5’−OHの簡単な置換も使用され得る。代替的に、大きな嵩高い基を5’−リン酸塩に添加して、ホスホジエステル結合に変更してもよい。
【0093】
(iRNA剤の組織及び細胞への送達)
(処方化)
本明細書に記載されているiRNA剤は対象へ投与するために、好ましくは吸入又は鼻腔内投与を介して肺及び鼻腔(呼吸組織)へ局所投与するために、又は注射のような非経口投与をするために、処方化され得る。
【0094】
説明を容易にするために、この項における製剤、組成物および方法は、ほとんどは無修飾iRNA剤に関して論じる。しかしながら、これらの製剤、組成物および方法は、その他のiRNA剤、例えば、修飾iRNA剤で実施することができ、このような実施は本発明の範囲内であることを理解されたい。
【0095】
製剤化されたiRNA剤組成物は、様々な状態をとることができる。いくつかの例では、この組成物は少なくとも部分的な結晶、均一な結晶、および/または無水物(例えば、水分が80、50、30、20または10%未満)である。他の例では、iRNA剤は水相、例えば、水を含む溶液に含まれており、この形態は吸入を介する投与においては好ましい形態である。
【0096】
水相または結晶組成物を、例えば、送達媒体、例えば、リポソーム(特に水相用)または粒子(例えば、結晶組成物に適し得る微粒子)に取り込むことができる。一般的に、iRNA剤組成物は、企図した投与方法に適合する方法で製剤化される。
【0097】
iRNA剤調製物は、他の薬剤、例えば、他の治療剤またはiRNA剤を安定化する薬剤、例えば、iRNPを形成するためにiRNA剤と複合体化するタンパク質と、組み合わせて、製剤化することができる。さらに他の薬剤には、キレート剤、例えば、EDTA(例えば、Mg2+などの2価陽イオンを除去するため)、塩、RNアーゼ阻害剤(例えば、RNAsinなどの特異性の広いRNアーゼ阻害剤)などが含まれる。
【0098】
一実施形態では、iRNA剤調製物には、別のiRNA剤、例えば、第2の遺伝子に関してRNAiを媒介する第2のiRNA剤を含む。更に他の調製物には、少なくとも3個、5個、10個、20個、50個または100個以上の異なるiRNA剤種を含めること
ができる。幾らかの実施形態において、同剤は、同一のウイルスであるが異なる標的配列に指向され得る。別の実施形態において、各iRNA剤は異なるウイルスに指向する。実施例に示されるように、1つ以上のウイルスが2つのiRNA剤を同時に投与する、又は非常に近い時間間隔にて同時に投与することにより阻害され得、各々が治療されるべきウイルスの1つに指向する。
【0099】
(治療方法および送達経路)
本発明のiRNA剤、例えば、RSVを標的とするiRNA剤を含む組成物は、様々な経路によって対象に送達することができる。例示的な経路には、吸入、静脈内、経鼻又は経口送達が含まれる。本発明のiRNA剤を投与する好ましい手段は、肺及び鼻腔への直接投与によるもの、又は非経口投与による全身的な投与によるものである。
【0100】
iRNA剤は、投与に適した医薬組成物に取り込むことができる。例えば、組成物は、1種または複数種のiRNA剤および薬学的に許容される担体を含むことができる。本明細書では、「薬学的に許容される担体」という用語は、医薬品投与に適合した任意の、およびすべての溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張化剤及び吸収遅延剤などを含むものとする。薬学的に活性のある物質のためにこのような媒体および作用物質を使用することは、当該技術分野では周知である。従来の媒体または作用物質が活性化合物に不適合である場合を除いて、それらは組成物に使用されるものとする。補充的な活性化合物もこの組成物に組み入れることができる。
【0101】
本発明の医薬品組成物は、局所治療または全身治療が望ましいかどうかに応じて、および治療する部位に応じていくつかの方法で投与することが可能である。投与は、局所投与(経鼻又は経肺を含む)、経口投与又は非経口投与であり得る。非経口投与には、静脈点滴、皮下、腹腔内もしくは筋肉内注射が含まれる。
【0102】
一般的に、本発明のiRNAの送達は、対象の感染部位への送達を実現するために実施される。これを実現する好ましい手段は、肺又は鼻腔、例えば吸入、噴霧或いは鼻腔投与を介する呼吸器系組織への局所投与、或いは非経口投与のような全身投与を介するものである。
【0103】
吸入又は非経口投与用製剤は当業者には周知である。そのような製剤は、緩衝剤、希釈剤およびその他の適切な添加物も含有できる滅菌水性溶液が含まれ、例えばPBS又は5%デキストロース水溶液である。静脈内での使用のために、溶質の全濃度は調製物を等張にするように制御されるべきである。
【0104】
本明細書に開示されている活性化合物は、好ましくは任意の適切な手段によって対象の肺又は鼻腔に投与される。活性化合物は、同対象が吸入する1つ又は複数の活性化合物からなる呼吸に適した粒子のエアロゾル懸濁液を投与することにより投与される。活性化合物は、限定されるものではないが、乾燥粉末吸入薬、定量吸入薬、又は液体/液体懸濁液のような種々の形態にてエアロゾル化され得る。呼吸に適した粒子は液体又は固体であり得る。同粒子は、選択的に、アミロリド、ベンザミル又はフェナミルのようなその他の治療剤を、米国特許第4501729号に記載されているような水の再吸収を気道粘膜分泌物から阻害するのに効果的な量にて含まれている選択された化合物とともに含み得る。
【0105】
粒子状の製薬組成物は、分散又は輸送を容易にするために、選択的に担体と結合され得る。糖(即ち、デキストロース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マニトール)のような適切な担体は、任意の適切な比率(例えば、1:1の重量比)にて1つ又は複数の活性化合物と混合され得る。
【0106】
本発明を実施するための活性化合物からなる粒子は、呼吸に適したサイズの粒子、即ち、吸入によって口又は鼻と咽頭とを通過し、気管支及び肺胞に到達するのに十分小さいサイズの粒子を含むべきである。一般に、約1乃至10ミクロンのサイズの粒子(より詳細には、約5ミクロン未満のサイズ)が呼吸に適している。エアロゾルに含まれる呼吸に適していないサイズの粒子は喉に堆積して飲み込まれる傾向にあり、エアロゾル中の呼吸に適していない粒子の量は最小限に留めることが好ましい。経鼻投与に対しては、10−500ミクロンの範囲の粒子径が、鼻腔内にて確実に保持されるためには好ましい。
【0107】
エアロゾルを製造するための活性化合物の液体製薬組成物は、滅菌した発熱物質を含まない水のような適切な担体と同活性化合物とを組み合わせることにより調製され得る。本発明を実施するために使用される高張生理食塩水は、生理学的に許容可能な塩を好ましくは1乃至15重量%含み、より好ましくは生理学的に許容可能な塩を3乃至7重量%含む、滅菌された発熱物質を含まない溶液である。
【0108】
活性化合物からなる液体粒子のエアロゾルは、圧力駆動式のジェット噴霧器又は超音波噴霧器のような任意の適切な手段により製造され得る。例えば、米国特許第4501729号明細書を参照されたい。噴霧器は市販された装置であり、典型的には空気又は酸素である圧縮ガスを、狭いベンチュリオリフィスを介して加速させることにより、又は超音波撹拌手段によって、治療用エアロゾルミストに変換する。
【0109】
噴霧器にて使用するのに適した製剤は、液体担体中の活性成分から構成され、製剤中に40w/w%までであるが、好ましくは20w/w%未満である活性成分を含む。担体は、典型的には水(そして、最も好ましくは滅菌した発熱物質を含まない水)であるか、又は好ましくは等張であるが、例えば塩化ナトリウムを加えることにより体液で高張となり得る希釈されたアルコール水溶液である。選択的な添加物は、同製剤が滅菌されていない場合には、例えばメチルヒドロベンゾエート、抗酸化剤、香料添加剤、揮発性オイル、緩衝剤及び界面活性剤のような保存剤を含んでいる。
【0110】
活性化合物を含む固体粒子のエアロゾルも同様に、任意の固体粒子治療用エアロゾル発生器を用いて製造され得る。固体粒子治療剤を対象に投与するためのエアロゾル発生器は呼吸に適し、かつヒトへの投与に適した割合にて治療剤を所定量含む一定量のエアロゾルを発生する粒子を製造する。1つの例示的なタイプの固体粒子エアロゾル発生器は吸入器である。吸入投与に適した製剤は、吸入器により送達され得るか、或いは嗅ぐことによって鼻腔に取り入れられる微粉砕された粉末を含む。吸入器において、粉末(例えば、本明細書に記載された治療を実施するのに有効な所定量)は、典型的にはゼラチン又はプラスチックにより形成されるカプセル又はカートリッジに包含され、それらはその位置にて穿孔されるか又は開口され、そして、粉末は吸入装置を介して空気により導入されるか又は手動ポンプにより送達される。吸入器に使用される粉末は活性成分のみから構成されているか、又は活性成分とラクトースのような適切な粉末の賦形剤と選択的な界面活性剤とからなる粉末混合物から構成されている。活性成分は典型的には、製剤の0.1乃至100w/w%からなる。
【0111】
第2のタイプの例示的なエアロゾル発生器は、定量吸入器を含む。定量吸入器は圧縮されたエアロゾルディスペンザーであり、典型的には液状の推進剤中に活性成分を含んだ懸濁液製剤又は溶液製剤を含んでいる。使用時にこれらの装置は、所定量、典型的には10乃至200μlを送達するように構成されたバルブより同製剤が放出され、活性成分を含む微細な流体スプレーを形成する。適切な推進剤は、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン及びそれらの混合物である、ある種のクロロフルオロカーボン化合物を含む。同製剤は、付随的に、例えばエタノールのような一つ以上の共溶媒、オレイン酸又はソルビタントリオレエートのような界面活
性剤、抗酸化剤及び適切な香料添加剤を含んでいる。
【0112】
投与は、対象によって提供され得るか、または例えば治療奉仕者のような別の人によって提供され得る。治療奉仕者は、人に治療を提供することに関与する任意の存在、例えば、病院、ホスピス、診療所、外来患者向け診療所で医療に従事する人、例えば、医者、看護師もしくはその他の専門家などの医療従事者、または配偶者または親などの保護者であり得る。投薬は、測定された用量で、または計測された用量を送達する分配器で提供され得る。
【0113】
「治療有効量」という用語は、望ましい生理学的応答をもたらすために、治療する対象において所望するレベルの薬剤を提供するのに必要な、組成物中に存在する量のことである。一実施形態において、2つ以上のiRNA剤であって各々がRSVのような異なる呼吸器系ウイルスに指向するiRNA剤の治療上有効な量が同時に対象に投与される。
【0114】
「生理学的有効量」という用語は、所望とする緩和または治療的効果を与えるために対象に送達される量である。
「薬学的に許容される担体」という用語は、その担体が肺に著しく有害な毒性効果を与えず肺に取り込まれることが可能であることを意味する。
【0115】
「共投与」という用語は、2種以上の薬剤、特に2種以上のiRNA剤を対象に投与することである。薬剤は、単一の医薬組成物に含有され、同時に投与され得るか、または薬剤は別々の製剤に含有され、順番に対象に投与され得る。2種の薬剤が同時に対象にて検出されることができる限り、2種の薬剤は共投与されたと言える。
【0116】
担体として有用な医薬賦形剤の種類には、ヒト血清アルブミン(HSA)などの安定化剤、炭水化物、アミノ酸およびポリペプチドなどの賦形剤、pH調整剤または緩衝剤;塩化ナトリウムなどの塩などがある。これらの担体は、結晶形であっても、アモルファス形であってもよく、2つの混合物であってもよい。
【0117】
特に有用である賦形剤には、適合性のある炭水化物、ポリペプチド、アミノ酸またはそれらの組合せが含まれる。適切な炭水化物には、ガラクトース、D−マンノース、ソルボースなどの単糖類、ラクトース、トレハロースなどの2糖類、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンなどのシクロデキストリン、およびラフィノース、マルトデキストリン、デキストランなどの多糖類、マンニトール、キシリトールなどのアルジトール類が含まれる。好ましい炭水化物群には、ラクトース、トレハロース、ラフィノース、マルトデキストリンおよびマンニトールが含まれる。適切なポリペプチドには、アスパルテームが含まれる。アミノ酸には、アラニンおよびグリシンが含まれ、グリシンが好ましい。
【0118】
適切なpH調整剤または緩衝剤には、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウムなどの有機酸および塩基から調製された有機塩が含まれ、クエン酸ナトリウムが好ましい。
【0119】
投与量。iRNA剤は、体重1kg当たり約75mg未満、または体重1kg当たり約70、60、50、40、30、20、10、5、2、1、0.5、0.1、0.05、0.01、0.005、0.001または0.0005mg未満の単位用量で、および体重1kg当たりiRNA剤200nmol未満(例えば、約4.4×1016コピー)の単位用量で、または体重1kg当たりiRNA剤1500、750、300、150、75、15、7.5、1.5、0.75、0.15、0.075、0.015、0.0075、0.0015、0.00075、0.00015nmol未満の単位用量で投与され得る。例えば、この単位用量は、吸入された用量若しくは噴霧によって、或いは注射によ
って投与され得る。一実施例において、0.02−25mg/kgの用量範囲が使用され得る。
【0120】
肺又は鼻腔へのiRNA剤の直接の送達は、鼻腔当たり約1mg〜約150mgの投与量にて実施され得る。
投与量は、疾患または障害を治療または予防するのに有効な量であり得る。
【0121】
一実施形態では、単位用量は1日1回投与される。その他の用法において、単位用量は最初の日は2回、その後は1日1回投与される。代替的に、単位用量は1日1回より少ない頻度で、例えば、2日、4日、8日または30日毎に1回より少ない頻度で投与する。別の実施形態では、単位用量は一定頻度(例えば、規則正しい頻度)では投与されない。例えば、単位用量を1回で投与することが可能である。iRNA剤が媒介するサイレンシングは、iRNA剤組成物を投与した後、数日間維持され得るので、多くの場合、1日1回より少ない頻度で、場合によっては全治量期間中1回のみ組成物を投与することが可能である。
【0122】
一実施形態では、例えば、2本鎖iRNA剤、またはsiRNA剤(例えば、前駆体、例えば、siRNA剤中に処理されることができるより大きなiRNA剤、またはiRNA剤、例えば、2本鎖iRNA剤、もしくはsiRNA剤、もしくはそれらの前駆体をコードするDNA)の初回量および1回または複数の維持用量が対象に投与される。1回又は複数回の維持用量は、一般的に初回量よりも少なく、例えば、初回量の2分の1より少ない。維持治療計画は、1日当たり体重1kgに対して0.01μg〜75mgの範囲、例えば、1日当たり体重1kgに対して70、60、50、40、30、20、10、5、2、1、0.5、0.1、0.05、0.01、0.005、0.001または0.0005mgの1回又は複数回の用量で対象を治療することを含み得る。維持用量は、5乃至14日毎に1回以下投与することが好ましい。さらに、治療計画は、特定の疾患の性質、重症度および患者の全体的状態に応じて変化し得る期間の間、維持され得る。好ましい実施形態では、投与量は1日1回以下、例えば、24、36、48時間以上に1回以下、例えば、5日または8日毎に1回以下にて送達され得る。処置後、患者の状態の変化および疾患状態の徴候の軽減をモニタリングすることができる。化合物の投与量は、患者が現在の用量レベルに有意に応答しない場合増加させることができ、あるいは疾患状態の徴候の軽減が認められた場合、疾患状態が消失した場合、または望ましくない副作用が認められた場合、用量を減少させることができる。
【0123】
一実施形態において、iRNA剤の製薬組成物は複数のiRNA剤種を含む。iRNA剤種は、例えばRSV遺伝子の標的配列のような天然の標的配列に対して重複せずかつ隣接しない配列を有する。別の実施形態において、複数のiRNA剤種は天然由来の異なる標的遺伝子に特異的である。例えば、RSVのPタンパク質遺伝子を標的とするiRNA剤は、異なる遺伝子、例えばNタンパク質遺伝子を標的とするiRNA剤と同じ製薬組成物中に存在し得る。別の実施形態において、iRNA剤は例えばRSVのような異なるウイルスに特異的である。
【0124】
iRNA剤組成物の濃度は、障害を治療もしくは予防するのに有効であるか、またはヒトの生理学的状態を調節するために十分な量である。投与するiRNAの薬剤の濃度または量は、薬剤について測定されたパラメータ、および経鼻、頬側または肺投与などの投与方法に依存される。例えば、経鼻用製剤は、鼻孔の刺激または灼熱感を回避するために、いくつかの成分をはるかに低い濃度にしなければならない傾向がある。適切な経鼻用製剤を提供するために、経口用製剤を10〜100倍希釈することが時として望ましい。
【0125】
非限定的ではあるが、疾患もしくは障害の重症度、以前の治療法、対象の一般的健康状
態および/または年齢、その他の既存の疾患を含めたある種の因子が、対象を効果的に治療するために必要な投与量に影響を及ぼし得る。治療に使用するsiRNAなどのiRNA剤の効果的投与量は、特定の治療の期間中、増加または減少し得ることも理解されたい。投与量の変化は、診断試験法の結果から得られ、明らかとなり得る。例えば、iRNA剤組成物投与後に対象をモニタリングすることができる。モニタリングからの情報に基づいて、iRNA剤組成物の追加量を投与することができる。
【0126】
本発明は、以下の実施例によってさらに例示されるが、それらはさらに限定するものではない。
【実施例】
【0127】
(RSVmRNAに対する抗ウイルスsiRNAの設計)
RSV P、N及びLmRNAに対するsiRNAは公知の手法を使用して化学的に合成した。siRNAの配列、幾らかの阻害の交叉サブタイプ活性及びIC50値を列挙した(表1(a−c))。
【0128】
(インビトロアッセイ及びウイルス感染)
ベロ(Vero)E6細胞は、10%の熱不活性化FBSを含むDMEM中にて80%コンフルエンシーまで培養した。siRNAを導入するために、4μlのTransit−TKOを50μlの血清を含まないDMEMに加え、室温にて10分間インキュベートした。次に、所定の濃度のsiRNAを培地/RKO試薬にそれぞれ加え、室温にて10分間インキュベートした。RNA混合物を10%のFBSを含む200μlのDMEMに加え、次に細胞単層に加えた。細胞は37℃かつ5%COにて6時間インキュベートした。RNA混合物は1xハンクス平衡塩類溶液(HBSS)で緩やかに洗浄することにより除去され、RSV/A2の300プラーク形成単位(pfu)/ウェルを同ウェルに加え(MOI=30)、37℃、5%COにて1時間吸着させた。ウイルスを除去し、細胞を1xHBSSで洗浄した。細胞を、10%FBS培地を含むDMEM中の1%メチルセルロースで積層し、37℃かつ5%COにて6日間インキュベートした。細胞は抗Fタンパク質モノクロナール抗体131−2Aを使用して、プラークに対して免疫染色した。
【0129】
(siRNAの送達及びインビボにおけるウイルス感染)
病原菌に感染していない4週齢の雌のBALB/cマウスをハーラン(Harlan)より購入した。感染時及び鼻腔内点滴注入時(i.n.)にはマウスは麻酔状態にした。マウスへの鼻腔内点滴注入により、所定量のsiRNAを5μlのTransitTKOと複合体化しない状態又はした状態にて同マウスを免疫化した。150μgのSynagis(モノクロナール抗体クローン143−6C、抗RSV Fタンパク質)及びマウスイソタイプ対照(IgG1)をRSV攻撃(RSV/A2の10PFU)の4時間前に、腹腔内投与(i.p.)した。1群10匹のマウスを使用した。動物の体重は、感染後0日、2日、3日及び6日に測定した。感染の6日後に肺を採取し、免疫染色プラーク試験法によりRSVを試験した。
【0130】
(免疫染色プラーク試験法)
24−ウェルプレートのベロE6細胞を10%の熱不活性化FBSを含むDMEM中にて90%コンフルエンシーまで培養した。マウスの肺を、1mlの滅菌したDulbeccoのPBS(D−PBS)中にて手持ち式のホモジナイザーでホモジナイズし、血清を含まないDMEMにて10倍に希釈した。ウイルスを含む肺溶解物の希釈物を24ウェルプレート上に3重に接種し、37℃かつ5%COにて1時間吸着させた。10%のFBSを含むDMEM中の1%メチルセルロースをウェルに積層した。次にプレートを37℃かつ5%COにて6日間インキュベートした。6日後、積層した培地を除去し、細胞を
アセトン:メタノール(60:40)中にて15分間固定した。細胞を5%の粉乳/PBSで37℃で1時間ブロックした。1:500で希釈した抗−RSV Fタンパク質抗体(131−2A)をウェルに加え、37℃にて2時間インキュベートした。細胞をPBS/0.5%Tween20で2回洗浄した。1:500で希釈したヤギ抗マウスIgG−アルカリフォスファターゼをウェルに加え、37℃で1時間インキュベートした。細胞をPBS/0.5%Tween20で2回洗浄した。Vectorのアルカリフォスファターゼ基質キットII(Vector Black)を使用して反応を展開し、ヘマトキシリンで対比染色した。プラークが視認され、オリンパス(Olympus)社の倒立顕微鏡を用いてカウントした。
【0131】
(治療試験法)
マウスを鼻腔内点滴注入により0日目にRSVで攻撃し(RSV/A2の10PFU)、鼻腔内点滴注入にて送達される50μgの所定のsiRNAを所定の時間(ウイルス攻撃後1乃至4日)にて治療した。1群3乃至5匹のマウスを使用し、ウイルス価を、既に述べたように、ウイルス攻撃後5日目に肺溶解物から測定した。
【0132】
(iRNA剤を使用するRSVのインビトロ阻害)
表1(a−c)に示されたiRNA剤は、既に記載したように、プラーク形成試験法にて抗RSV活性を試験した(図1)。各カラム(バー)は、表1(a−c)に示されたiRNA剤を示す。例えば、カラム1は、表1aの最初の薬剤であり、2番目のカラムは2番目の薬剤であるなど。活性iRNA剤は残存したウイルスの%にて確認した。数種の薬剤については、ほぼ90%の阻害を示した。結果を表1(a−c)に要約した。
【0133】
iRNA剤を使用してRSVのインビトロ用量反応阻害を決定した。表1からの活性剤の例について、4種類の濃度にて、既に述べたようにプラーク形成試験法にて抗RSV活性を試験した。用量依存反応は、試験した活性iRNA剤にて見出され(図2)、表1(a−c)に要約した。
【0134】
iRNA剤を使用したRSV Bサブタイプのインビトロの阻害を既に記載したように試験した。図2に示されたiRNA剤を、サブタイプBに対する抗RSV活性について試験した(図3)。RSVサブタイプBは試験されたiRNA剤により種々の程度にて阻害され、表1(q−c)に要約した。
【0135】
(iRNA剤を使用したRSVのインビボ阻害)
AL1729及びAL1730を用いたRSVのインビボ阻害を既に述べたように試験した。図4に記載された薬剤を、マウスモデルにおける抗RSV活性について試験した。iRNA剤はインビボにおけるウイルス価を低減するのに効果的であり、対照抗体(Mab143−6c、RSV治療に対して承認されているマウスIgG1Ab)よりも効果的であった。
【0136】
AL1730は、既に提供された方法を用いて用量依存活性が試験された。同薬剤は用量依存反応を示した(図5)。
インビトロでの活性を示すiRNA剤を、既に概説したようにインビボにおける抗RSV活性について試験した。数種の薬剤は、予防的に与えられた場合、4ログ(logs)超のウイルス価の低減を示した(図6)。
【0137】
インビトロ及び/又はインビボにて活性を示すiRNA剤は既に概説した治療プロトコルにおいてインビボにおける抗RSV活性を試験した。数種の薬剤は、ウイルス感染後1−2日にて2−3ログのウイルス価の低減を示した(図7)。
【0138】
(標的配列を超える分離株の配列解析)
(方法)
分離株の成長及びRNAの単離:RSV感染患者からの臨床的な分離株をジョージア州アトランタに所在のCDCのLarry Anderson氏から(4菌株)、メンフィスに所在のテネシー大学のJohn DeVincenzo氏から(15菌株)入手した。これらはHEp−2、ヒト上皮細胞(ATCC、Cat# CCL−23)中にて培養したとき、ジョージアの4つの分離株はテネシーの15の分離株よりも成長が遅かったのでこれらは別々に加工及び分析したことを明記したい。手順を以下に簡単に記載する。
【0139】
サル肝臓上皮細胞であるベロE6(ATCC、Cat# CRL−1586)を95%コンフルエンシーまで培養し、初代分離株の1/10希釈物で感染させた。ウイルスを37℃にて1時間吸収させ、細胞をD−MEMで補充し、37℃にてインキュベートした。毎日の頻度にて、光学顕微鏡により細胞の細胞変性効果(CPE)をモニタリングした。90%のCPEにて細胞を擦り取って採取し、3000rpmにて10分間の遠心分離によりペレット化した。RNAの調製は製造業者のプロトコルに従って標準的な手順により実施した。
【0140】
RSV N遺伝子の増幅:ウイルスのRNAを感染後に回収し、約450塩基対のフラグメントを増殖するためにALDP−2017標的部位の上流側及び下流側をハイブリダイズするプライマーを使用するPCR反応におけるテンプレートとして使用した。全RNAを、RSV N遺伝子の前進方向プライマー及び逆方向のプライマーの存在下にて65℃にて5分間変性させ、氷上にて保存し、SuperscriptIII(インビトローゲン社)を使用して55℃にて60分間、70℃にて15分間逆転写した。PCR産物を1%のアガロースゲル上のゲル電気泳動により分析し、標準的なプロトコルにて精製した。
【0141】
結果:最初の15の分離株の配列分析は、ALDP−2017の標的部位がそれぞれの菌株にわたって完全に保存されたことを確認した。重要なことに、この保存は多様な個体群にわたり維持されており、そのような個体群はRSVのA及びBサブタイプの両方からの分離株も含まれている。興味深いことに、4個のゆっくりと成長する分離株を分析すると、4つのうちの1つ(LAP6824)はALDP−2017の認識部位にひとつの塩基の変異を有することが観察された。この変異は、この分離株のRSV N遺伝子の13番目のコード配列がAからGへと変化していた。
【0142】
(結論)
19の患者の分離株から、ALDP−2017の標的部位のRSV N遺伝子の配列を決定した。19例のうちの18例(95%)において、ALDP−2017の認識要素が100%保存されている。分離株のうちの1つにおいて、RSV N遺伝子内の13番目のヌクレオチドがAからGへと変化している1つの塩基の変更が存在している。この変化は、ALDP−2017のアンチセンス鎖と標的配列との間の1つのG:Uウォッブルを作出する。そのようなG:Uウォッブルのハイブリダイズ化の可能性の理解に基づいて、ALDP−2017はこの分離株のRSV N遺伝子のサイレンシングに有効であることが予測される。
【0143】
(分離株のサイレンシングデータ)
(方法)
ベロE6細胞を10%の熱不活性化FBSを含むDMEM中にて80%コンフルエンシーまで培養した。siRNAを導入するために、4μlのTransit−TKOを50μlの血清を含まないDMEM中に加え、室温にて10分間インキュベートした。次に、所定の濃度のsiRNAを培地/RKO試薬にそれぞれ加え、室温にて10分間インキュ
ベートした。RNA混合物を10%のFBSを含む200μlのDMEMに加え、次に細胞単層に加えた。細胞は37℃かつ5%COにて6時間インキュベートした。RNA混合物は1xハンクス平衡塩類溶液(HBSS)で緩やかに洗浄することにより除去され、RSV/A2の300プラーク形成単位(pfu)/ウェルを同ウェルに加え(MOI=30)、37℃かつ5%COにて1時間吸着させた。ウイルスを除去し、細胞を1xHBSSで洗浄した。細胞を、10%FBS培地を含むDMEM中の1%メチルセルロースで積層し、37℃かつ5%COにて6日間インキュベートした。細胞は抗Fタンパク質モノクロナール抗体131−2Aを使用して、プラークに対して免疫染色した。
【0144】
結果:サイレンシングは全ての分離株に対して見られた(表2)。
【0145】
【表1】

結論:試験された全ての臨床上の分離株は、siRNA2017により85%以上にて特異的に阻害された。ミスマッチ対照であるsiRNA2153を顕著に阻害した分離株はなかった。
【0146】
(プラスミドに基づく試験法におけるサイレンシング)
(方法)
24ウェルプレートにHeLaS6細胞を接種し、80%コンフルエンスまで成長させた。各ウェルに対して、1μgのRSV N−V5プラスミドをsiRNA(所定の濃度にて)と50μlのOPTI−MEM中にて混合し、製造業者の指示に従って調製された
Lipofectamine2000(インビトローゲン社)−Optimem混合物に加え、室温にて20分間静置し、複合体を形成した。複合体を細胞に加え、37℃にて一晩インキュベートした。培地を除去し、細胞をPBSにて洗浄し、50μlのLysis緩衝液(RIPA緩衝液(50mMのTris−HCl、pH8.0.150mMのNaCl、1mMのEDTA、0.5%のデオキシコレートナトリウム、1%のNP−40、1%のNP−40、0.05%のSDS)で1乃至2分間溶解した。阻害は、細胞溶解物中のRSVタンパク質のレベルを測定することにより定量化され、抗−V5抗体を用いたウェスタンブロッティングにより検出した。
【0147】
結果:一過性のプラスミドの発現は、RNAi剤に対する効果的な試験法であることが示された(表3)。
【0148】
【表2】

(結論)
siRNA2017は、RSV N遺伝子を発現するプラスミドで一時的にコトランスフェクトした場合、RSV Nタンパク質の産生を特異的かつ用量依存的に阻害した。この阻害は、ミスマッチ対照であるsiRNA2153では観察されていない。
【0149】
(siRNAのエアロゾル送達を介するRSVのサイレンシング)
(方法)
2mg/mlのALDP−1729又はALDP−1730溶液をエアロゾル装置を使用して全部で60秒間噴霧療法にて送達した。ウイルスは既に記載されたように肺から調製され、かつプラーク試験法に変えてELISAにより測定した。ELISAはマウス肺溶解物から得られたウイルスに感染した細胞中のRSV Nタンパク質の濃度を測定する。
【0150】
(ELISA)
肺溶解物は、作用濃度である6−10μg/100μLまで炭酸塩−重炭酸塩の緩衝液(NaHCO、pH9.6)で1:1に希釈し、各試験ウェルに加え、37℃にて1時
間、或いは4℃にて一晩インキュベートした。ウェルをPBS/0.5%Tween20を用いて3回洗浄し、5%の粉乳/PBSで37℃で1時間、又は4℃で一晩ブロックした。初代抗体(Fタンパク質の陽性対照=クローン131−2A;Gタンパク質の陽性対照=130−2G;陰性対照=標準IgG1(BD Pharmingen,Cat.#553454、試験用血清、或いはハイブリドーマ上澄液)をウェルに1:1000の比率にて加え、37℃にて1時間又は4℃にて一晩、インキュベートした。PBS/0.5%Tween20を用いてウェルを3回洗浄した。1:1000に希釈された二次抗体(ヤギ抗マウスIgG(H+L)全分子−アルカリフォスファターゼ結合体)をウェル(100μl/ウェル)に加え、37℃にて1時間、又は4℃にて一晩、インキュベートした。PBS/0.5%Tween20を用いて3回洗浄し、次に製造業者の指示に従ってNpp(Sigmafast)基質,Signa Aldrich N2770を加えた。200μlの基質/ウェルを加え、10−15インキュベートした。OD405/495にて吸光度を測定した。
【0151】
(結論)
RSV特異的siRNAの送達は、ミスマッチ対照siRNAと比較して、マウス肺におけるRSV Nタンパク質のレベルを低減する(図8a−b)。
【0152】
(3日の予防におけるインビボ阻害)
(方法)
インビボの予防は、上記のインビボ法を用いて試験したが、例外的に、RSVで感染する前に、3日前から4時間前の異なる時間にてsiRNAを送達した。
【0153】
(結果)
ウイルス攻撃の3日前までに鼻腔内に送達されたsiRNAはインビボにおいて顕著なサイレンシングを示す(図9)。
【0154】

【表3】






【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】iRNA剤を使用したRSVのインビトロの阻害を示す。表1(a−c)に示されたiRNA剤について、実施例に記載されているプラーク形成試験法にて抗RSV活性を試験した。各カラム(バー)は、表1(a−c)に示されたiRNA剤を示す。例えば、カラム1は、表1a等の1番目の薬剤である。活性iRNA剤が特定できた。
【図2】iRNA剤を使用したRSVのインビトロの用量反応阻害を示す。図1の活性を示す薬剤の複数の例について、4種類の濃度にて、実施例に記載されたようにプラーク形成試験法にて抗RSV活性を試験した。用量依存性反応は、試験された活性を有するiRNA剤において見られた。
【図3】iRNA剤を使用したRSVサブタイプBのインビトロ阻害を示す。図2に示されたiRNA剤について、実施例に記載されたプラーク形成試験法にてサブタイプBに対する抗RSV活性を試験した。サブタイプBは試験したiRNA剤により阻害された。
【図4】iRNA剤を使用したRSVのインビボの阻害を示す。図面に記載された薬剤について、実施例に記載されたマウスのモデルにて抗RSV活性を試験した。iRNA剤はインビボにおけるウイルス価を低減するのに効果的であった。
【図5】AL−DP−1730を使用したRSVのインビボの阻害を示す。AL−DP−1730は実施例に提供された方法を使用して用量依存活性を試験した。薬剤は、用量依存反応を示した。
【図6】iRNA剤を使用したRSVのインビボの阻害を示す。図面に示されたiRNA剤は、実施例に記載されたように、インビボにおける抗RSV活性を試験した。
【図7】iRNA剤を使用したRSVのインビボの阻害を示す。図面に示されたiRNA剤は、実施例に記載されたように、インビボにおける抗RSV活性を試験した。
【図8A】局所的に送達されたiRNA剤を使用したRSVのインビボの阻害を示す。
【図8B】エアロゾルにて送達されたiRNA剤を使用したRSVのインビボの阻害を示す。図面に示されたiRNA剤は実施例に記載されたように、インビボにおける抗RSV活性を試験した。
【図9】iRNA剤を使用したRSV感染に対するインビボの予防を示す。図面に示されたiRNA剤は予防活性を試験するために、RSV攻撃の前に試験した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の細胞中のウイルスタンパク質、ウイルスmRNA又はウイルス価のレベルを低減するための方法であって、
前記方法は、iRNA剤を前記対象に投与する工程を含み、前記iRNA剤は第1の哺乳動物呼吸器系ウイルスからの遺伝子と相補的な少なくとも15個の連続したヌクレオチドを有するセンス鎖と、前記センス鎖と相補的な少なくとも15個の連続したヌクレオチドを有するアンチセンス鎖とを含み、前記遺伝子はRSVのP、N又はL遺伝子からなる群より選択される、方法。
【請求項2】
前記iRNA剤は表1(a−c)の薬剤の1つから選択される15個以上のヌクレオチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記iRNA剤は対象へ鼻腔内投与される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記iRNA剤は対象に対して、吸入又は噴霧により投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記iRNA剤は前記対象のウイルス価を低減する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法は前記対象に第2のiRNA剤を同時に投与する工程を更に含み、前記第2のiRNA剤は前記呼吸器系ウイルスの第2の遺伝子と相補的な少なくとも15個の連続したヌクレオチドを有するセンス鎖と、前記センス鎖と相補的な少なくとも15個の連続したヌクレオチドを有するアンチセンス鎖とを含む、方法。
【請求項7】
前記iRNA剤は表1(a−c)に記載の薬剤の1つから選択された15個以上のヌクレオチドを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記対象は、前記第1及び第2の哺乳動物の呼吸器系ウイルスでウイルス感染していると診断されている、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
対象の細胞中の呼吸器系ウイルスの第1の遺伝子及び第2の遺伝子からのウイルスタンパク質のレベルを低減するための方法であり、
前記方法は、前記対象に第1及び第2のiRNA剤を同時に投与する工程を含み、前記第1のiRNA剤は哺乳動物の呼吸器系ウイルスからの第1の遺伝子と相補的な少なくとも15個の連続したヌクレオチドを有するセンス鎖と、前記センス鎖と相補的な少なくとも15個の連続したヌクレオチドを有するアンチセンス鎖とを含み、かつ前記第2のiRNA剤は哺乳動物の呼吸器系ウイルスからの第2の遺伝子と相補的な少なくとも15個の連続したヌクレオチドを有するセンス鎖と、前記センス鎖と相補的な少なくとも15個の連続したヌクレオチドを有するアンチセンス鎖とを含む、方法。
【請求項10】
前記iRNA剤は、表1(a−c)の薬剤の1つから選択された15個以上のヌクレオチドを含む、請求項9に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2008−526876(P2008−526876A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550488(P2007−550488)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【国際出願番号】PCT/US2006/000425
【国際公開番号】WO2006/074346
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(505369158)アルナイラム ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (51)
【氏名又は名称原語表記】ALNYLAM PHARMACEUTICALS, INC.
【Fターム(参考)】