説明

RuTe2とタングステン酸化物を含む燃料電池用触媒と、この燃料電池用触媒を用いた燃料電池用電極材料及び燃料電池

【課題】安価で、白金等の貴金属触媒に代替しうる、優れた触媒作用を発揮するRuTe系燃料電池用触媒であって、酸素還元反応開始電位が高い燃料電池用触媒を提供する。
【解決手段】活性成分としてRuTeとタングステン酸化物とを含むことを特徴とする燃料電池用触媒。安価で、白金等の貴金属触媒に代替しうる、優れた触媒作用を発揮する燃料電池用触媒であるRuTeにタングステン酸化物を加えることにより、より高い電位で多くの電流を与える燃料電池用触媒が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RuTeとタングステン酸化物を含む燃料電池用触媒と、この燃料電池用触媒を用いた燃料電池用電極材料及び燃料電池に関する。
本発明はまた、この燃料電池を用いた燃料電池スタック及び燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギーのより一層の効率化と環境問題の解決のために、燃料電池を自動車の動力源とすることにより排気ガスをクリーンにすることが試みられており、その普及に大きな関心が寄せられている。特に、燃料自動車(FCHV)用燃料電池として固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)の実用化に向けた開発が急速に進んでいる。
【0003】
燃料電池は、アノードに燃料、カソードに酸化剤をそれぞれ供給し、アノードとカソード間の電位差を電圧として取り出し、負荷に供給する発電装置であり、アノード燃料としては水素が、酸化剤としては一般的には空気中の酸素が用いられる。燃料電池は、アノード極とカソード極とその間に挟まれた電解質で構成されており、固体高分子型燃料電池においては、電解質としてイオン交換膜が用いられている。具体的には、電解質としてのイオン交換膜の両面に触媒層が形成され、該触媒層の外側にそれぞれアノードガス拡散層及びカソードガス拡散層が一体に形成されてなる電解質膜/電極接合体が、隔壁板、電解質膜/電極接合体及び隔壁板の積層体よりなる単位セルとして、用途に応じた所望の電圧が得られるように数十セルから数百セル積層されて燃料電池が構成されている。
【0004】
このような燃料電池では、アノード触媒層に水素が到達すると電気化学的反応過程によりプロトンと電子が生ずる。ここで生成したプロトンは順次電解質中を移動してカソードに達する。一方、電子は、外部負荷を経由してカソードに送られる。カソード触媒層では、外部負荷を経由して送られてきた電子と、酸化剤としての空気中の酸素と、電解質中を移動してきたプロトンとが電気化学的反応過程により結合して水を生成する。
【0005】
従来、このような燃料電池の触媒としては、カソード、アノードとも、高価で資源的にも問題がある白金等の貴金属を主体にした触媒が使用されており、その使用量は、同じ動力を発生するガソリン車の排気ガス浄化用触媒に使用される白金の量よりも相当に多量となっている。
【0006】
従って、燃料電池を商業的に実用化するためには、価格的にも資源的にも問題のある白金等の貴金属を主体とした触媒に代わる、安価で実用に供しうる燃料電池用触媒の開発が必須の課題の一つとなる。
【0007】
非特許文献1にはWOで修飾されたRuSeが開示されており、WOの効果により酸素還元電位が貴(positive)にシフトすることが記載されている。しかし、開示されている触媒はRu:Seの重量比が20:2であることからモル表示でRuSe0.13であり、RuTeとは、カルコゲナイドの種類と量が異なり、明らかに異なる触媒種である。
【0008】
また、この非特許文献1においては、WOで修飾することにより、RuSeのKoutecky−Levichプロットの傾きが緩やかになり、酸素還元反応が4電子で進行しやすくなったという実験事実から、RuSeによる2電子反応で生成した過酸化水素(hydrogen peroxide)がWOで還元されることにより、WO−RuSe触媒全体として酸素の4電子還元反応が進行しやすくなったと考察している。
一方、実施例の項で後述するように、本発明に係るRuTe触媒は、それ単独で4電子反応が進行する。
従って、RuTeにタングステン酸化物を併用する本発明の燃料電池用触媒は、非特許文献1により何ら示唆されるものではない。即ち、単独で酸素の4電子還元触媒能を持つRuTeに対して、タングステン酸化物が適した材料となることは非特許文献1の記載からは想起し得ない。
【0009】
また、特許文献1には炭素系基体などに被着されたRuTe触媒が開示され、基体に更に遷移金属が被着されてもよく、遷移金属としてW元素が例示されている。しかし、この特許文献1においては、製造された触媒のTe/Ruの比が所定の値を超えると活性が著しく向上するということが発明として開示されており、W元素等のその他の触媒成分は、この発明の効果を損なわない限り基体にさらに被着されてもよい、と開示されているのみである。しかも、特許文献1には、タングステン酸化物の記載は無く、また酸素還元反応開始電位(Onset Potential)についても何ら触れられていない。
【特許文献1】WO2006/137302
【非特許文献2】Electrochemistry Communications 8(2006) 904 Sebastian Fiechter et al.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載されるように、ルテニウムとテルルの合金を燃料電池用触媒として用い得ることは知られているが、この燃料電池用触媒は、0.5V程度以下(卑)において高いカソード活性を示すものの、酸素還元反応開始電位が低いために、高い電位を与え得る燃料電池用触媒としては難点があり、その実用化に当たっては、酸素還元反応開始電位を向上させる必要があった。
【0011】
従って、本発明は、安価で、白金等の貴金属触媒に代替しうる、優れた触媒作用を発揮するRuTe系燃料電池用触媒であって、酸素還元反応開始電位が高い燃料電池用触媒と、この燃料電池用触媒を用いた燃料電池用電極材料、燃料電池、燃料電池スタック及び燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記状況に鑑み鋭意検討した結果、安価で、白金等の貴金属触媒に代替しうる、優れた触媒作用を発揮する燃料電池用触媒であるRuTeにタングステン酸化物を加えることにより、より高い電位で多くの電流を与える燃料電池用触媒が得られることを見出した。
本発明は、このような知見をもとに完成されたものであり、以下を要旨とする。
【0013】
[1] 活性成分としてRuTeとタングステン酸化物とを含むことを特徴とする燃料電池用触媒。
【0014】
[2] [1]において、活性成分が炭素系基体に被着されていることを特徴とする燃料電池用触媒。
【0015】
[3] イオン交換膜と、該イオン交換膜上に形成された[1]又は[2]に記載の燃料電池用触媒の層とを有することを特徴とする燃料電池用電極材料。
【0016】
[4] 電極ガス拡散層と、該電極ガス拡散層上に形成された[1]又は[2]に記載の燃料電池用触媒の層とを有することを特徴とする燃料電池用電極材料。
【0017】
[5] 転写用フィルムと、該転写用フィルム上に形成された[1]又は[2]に記載の燃料電池用触媒の層とを有することを特徴とする燃料電池用電極材料。
【0018】
[6] [1]又は[2]に記載の燃料電池用触媒を用いたことを特徴とする燃料電池。
【0019】
[7] [6]に記載の燃料電池を用いたことを特徴とする燃料電池スタック。
【0020】
[8] [7]に記載の燃料電池スタックを用いたことを特徴とする燃料電池システム。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高価で資源的にも問題のある白金等の貴金属触媒に代替し得る、良好な触媒作用を示し、酸素還元反応開始電位が高められた、安価で実用的な燃料電池用触媒と、この燃料電池用触媒を用いた燃料電池用電極材料、燃料電池、燃料電池スタック、燃料電池システムが提供される。
本発明によれば、印加電圧耐久性に優れた安価な燃料電池用触媒により、実用的な燃料電池が提供されるため、燃料自動車、固定式コジェネレーションシステム等への燃料電池の用途の拡大と実用化が促進される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0023】
[燃料電池用触媒]
本発明の燃料電池用触媒は、活性成分として、RuTeとタングステン酸化物とを含む。
本発明の燃料電池用触媒は活性成分としてRuTeとタングステン酸化物のみを含むものであっても良く、他の遷移金属よりなるその他の活性成分を含むものであっても良い。
また、本発明の燃料電池用触媒は、活性成分のみからなるものであっても良く、活性成分を基体に被着させたものであっても良い。
【0024】
なお、以下において、活性成分が基体に被着されておらず、実質的に活性成分のみから構成される燃料電池用触媒を「純触媒(essential catalyst)」と称し、活性成分を基体に被着させた燃料電池用触媒を「被着触媒(adhered catalyst)」と称す場合がある。
【0025】
<活性成分>
本発明の燃料電池用触媒は、活性成分としてRuTeとタングステン酸化物を含有するが、このRuTeの他に、他の成分を、本発明の効果を損なわない範囲で含んでいても良く、この場合、その他の成分としては、ルテニウム(Ru)及び/又はテルル(Te)が挙げられる。
【0026】
RuTeと併用するタングステン酸化物としては、具体的には、WOの他にWO、WOO、HWOO、HWO(0<x<1)、WO3−y(0<y<1)、[W、[W、[W11等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0027】
本発明の燃料電池用触媒が活性成分として、RuTe及びタングステン酸化物以外に、Ruを更に含む場合、その含有量は、Ru元素換算で、触媒に含まれるRuTe中のRu元素に対して好ましくは5倍モル以下、更に好ましくは3倍以下、最も好ましくは1倍以下である。
また、本発明の燃料電池用触媒が活性成分としてTeを更に含む場合、その含有量は、Te元素換算で、触媒に含まれるRuTeのRu元素に対して、好ましくは10倍モル以下、更に好ましくは5倍モル以下、最も好ましくは2倍モル以下である。
これらの存在比がこの範囲を上回ると活性が低くなりやすくなる。
なお、本発明の燃料電池用触媒が活性成分として、RuTeとタングステン酸化物の他にRuとTeとを含む場合、これらの含有量は合計の元素換算で触媒に含まれるRuTeのRu元素に対して5倍モル以下、更に好ましくは3倍モル以下、最も好ましくは1倍モル以下であることが好ましい。
【0028】
触媒中の各元素の存在比は、常法に従い、触媒を秤量後、アルカリ溶融して分解し、酸を添加後定容して誘導結合プラズマ発光分光分析法により定量することができる。
【0029】
なお、活性成分を構成するテルルは、RuTeを構成するTe元素であってもよく、TeO,TeO等の酸化物、HTeO,HTeO等のオキソ酸、TeCl,TeBr等の塩化物などの無機化合物、及びテルロフェン等の有機化合物の形態をとっていても良い。また、ルテニウムも、金属元素、酸化物、塩化物等の無機化合物の他、有機化合物と結合する形態をとることができる。例えば、ルテニウムは、RuTeを構成するRu元素であってもよく、RuO,RuO等の酸化物、RuCl・xHO等の塩化物やRu(NO)(NO等の無機化合物、ルテニウムアセチルアセトネートRu(acac)及びRu(CO)12等の有機化合物と結合する形態をとっていても良い。
【0030】
また、タングステン酸化物は、WO、WO、WOO、HWOO、HWO(0<x<)、WO3−y(0<y<1)、[W、[W、[W11のような形態をとっても良い。
【0031】
また、活性成分を構成するこれらタングステン酸化物、テルル成分及びルテニウム成分は、それぞれ結合を有さずに存在しても良いし、結合を有して存在しても良い。これらが結合を有して存在している場合で、元素同士が直接結合している場合は、活性成分としてはいわゆる合金の形態を有するものが挙げられる。特に、タングステン酸化物とRuTe成分が結合を有する場合、相互作用により酸素還元反応開始電位が高くなることが期待される。
【0032】
本発明の燃料電池用触媒中の活性成分を構成する元素の存在形態は、X線回折(XRD)で確認することができる。即ち、例えば、後述の基体に被着された活性成分に対してX線(Cu−Kα線)を照射し、その回折スペクトルを観察することによって確認することができる。
【0033】
その測定装置及び測定条件としては、例えば以下のものが挙げられるが、本発明の燃料電池用触媒のXRD分析手法は、何ら以下の測定装置及び測定条件に限定されるものではない。
【0034】
(粉末XRD分析)
測定装置
粉末X線解析装置/PANalytical PW1700
測定条件
X線出力(Cu−Kα):40kV,30mA
走査軸:θ/2θ
測定範囲(2θ):3.0°〜90.0°
測定モード:Continuous
読込幅:0.05°
走査速度:3.0°/min
DS,SS,RS:1°,1°,0.20mm
【0035】
具体的には、RuTeは、X線回折の2θ(±0.3°)のピークとして、21.808°、27.920°、31.287°、32.716°、43.369°、45.203°、48.322°、51.509°、53.981°、56.910°、68.565°等の特徴的ピークを与えるものや、21.767°、26.189°、27.877°、31.249°、32.658°、33.847°、36.719°、39.822°、43.308°、44.377°、45.177°、45.801°、48.244°、50.117°、50.661°、51.426°等の特徴的ピークを与えるものや、27.857°、31.271°、34.344°、39.873°、47.123°、49.353°、51.532°、53.614°、57.636°、65.236°、67.032°、68.881°、72.414°、77.547°、80.922°、82.608°、85.948°等の特徴的ピークを与えるものが挙げられる。
【0036】
また、WOは、具体的には、X線回折の2θ(±0.3゜)のピークとして、25.913゜、28.118゜、31゜.122、31゜.570゜、34.392゜、35.642゜、36.965゜、42.266゜、45.772゜、47.026゜、53.452゜、54.666゜、55.622゜、56.634゜、57.641゜等の特徴的ピークを与えるものが挙げられる。
【0037】
<RuTe/タングステン酸化物重量比>
本発明の燃料電池用触媒に含まれるRuTe/タングステン酸化物の重量比は通常100以下、好ましくは30以下、より好ましくは10以下で、通常0.01以上、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上である。この範囲よりもRuTeが多く、タングステン酸化物が少ないと酸素還元反応開始電位が向上せず、逆にこの範囲よりもRuTeが少なく、タングステン酸化物が多いと高い活性(電流値)が得られない。
【0038】
<純触媒の形状>
基体に被着されていない活性成分よりなる純触媒の形状は特に制限はないが、最も一般的には粒子状である。粒子状の純触媒の平均粒径は、通常100μm以下、好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下、中でも300nm以下で、通常0.5nm以上、好ましくは1.0nm以上、より好ましくは2.0nm以上である。純触媒の粒径がこの範囲を下回ると不安定となって、失活しやすくなり、この範囲を超えると高い活性を得にくくなる。
【0039】
なお、純触媒の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)或いは透過型電子顕微鏡(TEM)により、粒径の長さを測定する方向を統一して、その方向での粒子長さを測定し、これを平均した値で示される。
【0040】
なお、純触媒として、RuTeとタングステン酸化物とを併用する具体例としては、次のi)〜iii)が挙げられる。
i)RuTeとタングステン酸化物を共に混合する(即ち、RuTe純触媒とタングステン酸化物純触媒とを混合する。)。
ii)タングステン酸化物にRuTeを担持する。
iii)タングステン酸化物をRuTeに担持する。
【0041】
<基体>
本発明の燃料電池用触媒は、上述の活性成分のみで構成される純触媒であっても良いが、活性成分を保持し電気的に導通させるための基体に活性成分を被着して用いることも可能である。高い導電性が得られる点で、上述の活性成分を基体に被着して用いることが好ましい。
【0042】
本発明で用いる基体としては、特に制限はないが、炭素系基体を用いることが、高い導電性が得られる点で好適である。
【0043】
炭素系基体としては種々のものが使用でき、特に制限はないが、例えば、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノクラスター、フラーレン、熱分解炭素、活性炭素等が挙げられる。炭素系基体は、気相法による気相成長炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:以下「VGCF」と略すこともある。)であってもよく、特に、熱処理して電気伝導性を高めたVGCFは適度な弾性を持ち、好適である。
【0044】
これらの炭素系基体の中でも、導電性、入手容易性、価格、の点で総合的に、カーボンブラックが工業的に有利である。カーボンブラックとしては、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック等が挙げられる。
これらの炭素系基体は1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
基体の比表面積は、特に制限が無いが、通常5m/g以上、好ましくは100m/g以上、更に好ましくは150m/g以上で、通常5000m/g以下、好ましくは2000m/g以下であることが好ましい。この比表面積が小さ過ぎると活性成分の被着有効面積が少なくなることにより、反応場が少なくなって触媒活性が十分に得られなくなる。また、比表面積が過度に大きいものは、基体の細孔径が小さい場合があり、その小さな細孔内に活性成分が被着しても触媒活性が十分に得られなくなる。なお、基体の比表面積はBET法で測定される。
【0046】
また基体の形態についても特に制限はないが、最も一般的に用いられるのは、粉体状のものである。
【0047】
<基体への活性成分の被着>
本発明において、基体に活性成分が被着されている状態とは、活性成分と基体との間の導電性がとれるように両者が接触している状態を指す。従って、活性成分と基体とを単に混合するのみでも活性成分を基体に被着させることができるが、後述のように、活性成分の供給化合物と基体を混合した後、この混合物を焼成して被着させることが好ましい。また、基体と活性成分とを混合した後焼成しても良い。なお、以下において、基体に活性成分の供給化合物又は活性成分を混合後焼成して活性成分を被着させた状態を「担持」と称す。
【0048】
RuTeとタングステン酸化物を基体と共に併用した被着触媒の具体例としては、次のi)〜vii)が挙げられる。これらのうち、特に「担持」を採用したものが、粉末が細かいものが得られるため、好ましい。
i)RuTeとタングステン酸化物を共に基体に混合する。
ii)RuTeとタングステン酸化物を共に基体に担持する。
iii)RuTeとタングステン酸化物を混合した後に基体に混合する。
iv)RuTeにタングステン酸化物を担持した後に基体に混合する。
v)タングステン酸化物にRuTeを担持した後に基体に混合する。
vi)タングステン酸化物を基体に担持した後にRuTeを担持する
vii)RuTeを基体に担持した後にタングステン酸化物を担持する
【0049】
基体に被着された活性成分の形状としては特に制限はないが、最も一般的なのは粒子状である。粒子状の活性成分は、その平均粒径が通常100μm以下、好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下、中でも300nm以下であり、通常0.5nm以上、好ましくは1.0nm以上、より好ましくは2.0nm以上であることが望ましい。活性成分の粒径がこの範囲を下回ると不安定となって、失活しやすくなり、この範囲を超えると高い活性を得にくくなる。
【0050】
なお、基体に被着された活性成分の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)或いは透過型電子顕微鏡(TEM)により、粒子の長さを測定する方向を統一して、その方向での粒子長さを測定し、これを平均した値で示される。
【0051】
このような小さめの平均粒径の活性成分を基体に被着させるには、後述の如く、その製造方法を工夫すれば良い。中でも、基体と活性成分とを混合した後の焼成温度を低めとし、焼成時間を短めにすることによって、結晶成長の状態を制御することが好ましい。
【0052】
活性成分の基体への被着比率としては、特に限定されるものではないが、Ru/(Ru+基体)の重量比で、通常10−5以上、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上、中でも0.05以上で、通常0.95以下、好ましくは0.4以下、中でも0.3以下であることが望ましい。活性成分の被着比率がこの下限を下回ると所望の活性が得られず、上限を超えると被着による活性の向上効果が出にくくなる。
【0053】
<その他の触媒成分>
本発明においては、本発明の効果を損なわない限り、基体にさらに遷移金属が被着されていてもよい。
【0054】
この遷移金属(以下「他の触媒成分」と称す場合がある)は、周期律表のIIIA〜VIIA族、VIII族、及びIB族の第4周期から第6周期に属する元素であり、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ランタン(La)、ユウロピウム(Eu)、金(Au)、セリウム(Ce)、タンタル(Ta)、レニウム(Re)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)が例示され、好ましくは下記電気化学平衡式
酸化体+ne=還元体
で示される、水溶液中での標準電極電位E°(25℃)の値がプラスであるものが望ましい。これは、金属本来の性質として酸化による溶出が起こり難く、それに起因する触媒の劣化が少ないからである。このようなものとしては、具体的には、金、銀等が挙げられる。
【0055】
ただし、より工業的に有利な触媒とするには、上記の中で高価な触媒成分をなるべく少なくする方が良い。
【0056】
また、遷移金属として白金(Pt)を併用することも当然可能であるが、白金は高価であるため、添加量は所望の触媒活性を考慮しつつ、少量であることが、安価で実用的な燃料電池用触媒を提供する上で望ましい。白金を添加する場合、具体的には、白金成分の合計/活性成分の重量比は、通常0.001以上、好ましくは0.01以上、中でも0.05以上で、通常0.4以下、好ましくは0.3以下、中でも0.2以下が好ましい。
【0057】
なお、以下に主な遷移金属の電気化学平衡式と標準電極電位E°(25℃)を示す。
【0058】
【表1】

【0059】
これらの他の触媒成分としての遷移金属は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0060】
RuTeとタングステン酸化物を含む活性成分と他の触媒成分を併用する場合に、他の触媒成分の併用形態としては、次のようなものが挙げられる。
i)RuTe及びタングステン酸化物を他の触媒成分と共に基体に混合する。
ii)RuTe及びタングステン酸化物を他の触媒成分と共に基体に担持する。
iii)RuTe及びタングステン酸化物を他の触媒成分を混合した後に基体に混合する。
iv)RuTe及びタングステン酸化物を他の触媒成分を担持した後に基体に混合する。
v)基体にRuTe及びタングステン酸化物を担持した後に他の触媒成分を基体に担持する。
vi) 基体に他の触媒成分を担持した後にRuTe及びタングステン酸化物を基体に担持する
【0061】
本発明の燃料電池用触媒が他の触媒成分として遷移金属を含む場合、本発明の燃料電池用触媒中の、遷移金属の合計/RuTe及びタングステン酸化物の合計、の重量比は、通常0.001以上、好ましくは0.01以上、中でも0.05以上であり、通常0.5以下、好ましくは0.4以下、中でも0.3以下が好ましい。この重量比がこの範囲を下回ると所望の活性が得られにくく、この範囲を超えると活性の向上効果が出にくくなる。
【0062】
本発明の燃料電池用触媒に含まれる遷移金属は粉体状であることが好ましい。この粉体の平均粒径は、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下、中でも300nm以下であり、通常0.5nm以上であることが好ましい。平均粒径がこの範囲を下回ると触媒が不安定となって失活しやすくなり、この範囲を超えると高い活性を得にくくなる。
【0063】
なお、触媒中の遷移金属粉体の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)或いは透過型電子顕微鏡(TEM)により、粒子の長さを測定する方向を統一して、その方向での粒子長さを測定し、これを平均した値で示される。
【0064】
なお、本発明の燃料電池用触媒においては、上記遷移金属元素以外の金属成分が、活性成分の重量を基準に数重量%以下の量で含まれていてもよい。
【0065】
活性成分としてのRuTe及びタングステン酸化物と遷移金属とを含んだ触媒、とりわけ、RuTe及びタングステン酸化物と遷移金属が基体に担持された触媒は、触媒活性が高い。これは、遷移金属が活性成分の助触媒として機能し、活性が向上するためであると推定される。
【0066】
<純触媒の製造>
基体に被着されていない活性成分のみで構成される第1態様の純触媒の合成方法については特に制限はなく、公知の任意の方法によって行うことができる。
【0067】
例えば、活性成分となる元素の供給化合物、即ち活性成分の前駆体を所定のモル比で、水等の溶媒に溶解或いは分散させ、濾過或いは溶媒を留去した後、必要に応じて前駆体を活性化する工程(例えば還元処理)を施して調製される。
【0068】
各元素の前駆体としては加熱分解可能なものであれば特に制限はない。テルル前駆体としては、テルルパウダー(Te)の他、TeCl,TeBr,TeCl等のハロゲン化物、TeO,TeO等の酸化物、HTeO,HTeO等のオキソ酸等の無機塩が挙げられる。これらのTe前駆体は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0069】
一方、ルテニウムの前駆体としては、ルテニウムのハロゲン化物、酸化物、無機塩、有機酸塩等の他、有機化合物と結合する化合物等が挙げられる。ルテニウム化合物としては、具体的にはRuCl・xHO,RuBr等のハロゲン化物,Ru(SO,Ru(NO)(NO、KRuO・HO等の無機塩,Ru(OCHCO)等の有機酸塩、ルテニウムアセチルアセトネート(Ru(acac))等の有機化合物が挙げられる。これらのルテニウム前駆体は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0070】
RuTe純触媒を製造するには、例えば、RuCl又はRu(acac)等のルテニウム前駆体とHTeO等のTe前駆体を所望のモル比(RuCl、Ru(acac)等に対するHTeOのモル比は、通常0.2以上、好ましくは1以上、通常10以下、好ましくは4以下)に応じた配合比で水に溶解させ、所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)放置した後、必要であれば所定の温度(通常60℃以上、好ましくは100℃以上、通常300℃以下、好ましくは200℃以下)で所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)加熱或いは還流し、その後、エバポレーターにより沈殿物を取得する。これを室温で風乾後、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)、所定の温度(通常100℃以上、好ましくは200℃以上、通常1000℃以下、好ましくは800℃以下)で乾燥処理する。次いで、所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)、所定の温度(通常100℃以上、好ましくは200℃以上、更に好ましくは300℃以上、通常1000℃以下、好ましくは800℃以下)で水素を含む気流下(窒素或いはAr等の不活性ガスを混合しても良く、不活性ガス中の水素濃度としては特に制限はないが、1%以上、好ましくは10%以上、100%以下、或いは80%以下)で加熱する。これにより、RuTeを含有する活性成分よりなる純触媒を得ることができる。
【0071】
この後、更に、低酸素濃度(例えば、5重量%以下、中でも2重量%以下程度の酸素濃度)の不活性ガス雰囲気中で、所定時間(通常数10分以上、好ましくは30分以上、通常10時間以下、中でも5時間以下)で、所定の温度(通常は、室温付近)で処理することにより不動態膜を形成させる不動態化処理を行っても良い。
【0072】
タングステン酸化物の前駆体としては、タングステン金属の他、WCl、WCl、WOCl、WOCl等のハロゲン化物、WN等の窒化物、WS等の硫化物、タングステン酸(HWO)の他タングステン酸ナトリウム(NaWO)等が挙げられる。これらのタングステン酸化物前駆体は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0073】
タングステン酸化物純触媒を製造するには、例えば、タングステン酸ナトリウム水溶液にHClを加えてpHを1〜2に調節して、所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)放置した後、必要であれば所定の温度(通常0℃以上、好ましくは20℃以上、通常100℃以下、好ましくは80℃以下)で所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)加熱し、その後、濾過により沈殿物を取得する。これを室温で風乾後、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)、所定の温度(通常100℃以上、好ましくは200℃以上、通常1000℃以下、好ましくは800℃以下)で乾燥処理する。これによりタングステン酸化物を含有する活性成分よりなる純触媒を得ることができる。
【0074】
RuTeとタングステン酸化物とを含有する純触媒の製造方法の一例として、例えば上記方法で製造したWOを水に懸濁させた後、所定量のRuCl・xHO等のRu前駆体とHTeO等のTe前駆体を加え、水を留去し、水素ガスで所定温度所定時間還元処理することにより得ることができる。
【0075】
具体的には、例えば、WOを水に懸濁させた後、所望の量のRuCl・xHO(Ru含量42重量%)と、Ruに対して、通常2倍モル以上、好ましくは2.2倍モル以上、通常10倍モル以下、好ましくは4倍モル以下のHTeOを加えて混合し、必要であれば所定時間超音波処理し、所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)放置した後、必要であれば所定の温度(通常60℃以上、好ましくは100℃以上、通常300℃以下、好ましくは200℃以下)で所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)加熱或いは還流し、その後、エバポレーターにより溶媒を留去し沈殿物を取得する。これを室温で風乾後、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)、所定の温度(通常100℃以上、好ましくは200℃以上、通常1000℃以下、好ましくは800℃以下)で乾燥処理する。次いで、所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)、所定の温度(通常100℃以上、好ましくは200℃以上、更に好ましくは300℃以上、通常1000℃以下、好ましくは800℃以下)で水素を含む気流下(窒素或いはAr等の不活性ガスを混合しても良く、不活性ガス中の水素濃度としては特に制限はないが、1%以上、好ましくは10%以上、100%以下、或いは80%以下)で加熱する。これにより、RuTeとタングステン酸化物を併用した活性成分よりなる純触媒を得ることができる。
【0076】
この後、更に、低酸素濃度(例えば、5重量%以下、中でも2重量%以下程度の酸素濃度)の不活性ガス雰囲気中で、所定時間(通常数10分以上、好ましくは30分以上、通常10時間以下、中でも5時間以下)で、所定の温度(通常は、室温付近)で処理することにより不動態膜を形成させる不動態化処理を行っても良い。
【0077】
<被着触媒の製造>
第2態様の被着触媒は、活性成分を基体に被着することにより製造される。ここで、基体への活性成分の被着は、例えば、活性成分或いは活性成分の前駆体を基体と混合して焼成する担持法のほか、活性成分と基体とを単に混合する混合法、その他含浸法、沈殿法、吸着法等の公知の手法によって行うことができる。
【0078】
例えば、被着触媒は、各元素の前駆体を所望のモル比で、水溶液等の溶媒に溶解或いは分散させ、この液を基体に含浸させるか、この液中に基体を浸漬させた後、濾過或いは溶媒を留去することにより基体上に前駆体を被着させ、必要に応じて活性成分の前駆体を活性化する工程(例えば還元処理)を施して調製される。
【0079】
なお、活性成分の前駆体は、純触媒の製造に用いられる化合物と同様の化合物を用いることができる。中でもルテニウム前駆体としてはRuCl・xHO、Ru(acac)、Ru(NO)(NOが好ましく、テルル前駆体としてはHTeOが好ましく、タングステン酸化物としてはタングステン酸ナトリウム(NaWO)及びその水和物が好ましい。
【0080】
活性成分としてRuTeを基体に被着した被着触媒の製造法の一例を次に説明する。
【0081】
RuCl又はRu(acac)とHTeOを所望とするモル比に応じた配合比(RuCl、Ru(acac)等に対するHTeOのモル比は、通常0.2以上、好ましくは1以上、通常10以下、好ましくは4以下)で水に溶解させ、これにカーボンブラック等の基体を所定量混合し、所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)放置する。尚、この放置の際、超音波処理を行っても良い。次に必要であれば所定の温度(通常60℃以上、好ましくは100℃以上、通常300℃以下、好ましくは200℃以下)で所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)加熱或いは還流する。その後、濾過或いはエバポレーターにより沈殿物を取得する。これを室温で風乾する。次いで、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)、所定の温度(通常100℃以上、好ましくは200℃以上、通常1000℃以下、好ましくは800℃以下)で乾燥処理後、所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)、所定の温度(通常100℃以上、好ましくは200℃以上、更に好ましくは300℃以上、通常1000℃以下、好ましくは800℃以下)で水素を含む気流下(窒素或いはAr等の不活性ガスを混合しても良く、不活性ガス中の水素濃度としては特に制限はないが、1%以上、好ましくは10%以上、100%以下、或いは80%以下)で加熱する。これにより、RuTeを含有する活性成分が基体に担持された被着触媒が得られる。
【0082】
その後、更に、低酸素濃度(例えば、5重量%以下、中でも2重量%以下程度の酸素濃度)の不活性ガス雰囲気中で、所定時間(通常数10分以上、好ましくは30分以上、通常10時間以下、中でも5時間以下)で、所定の温度(通常は、室温付近)で処理することにより不動態膜を形成させる不動態化処理を行うこともできる。
【0083】
タングステン酸化物を基体に被着した被着触媒の製造法の一例を次に説明する。
タングステン酸ナトリウム水溶液にHClを加えてpHを1〜2に調節して、これにカーボンブラック等の基体を所定量混合し、所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)放置する。尚、この放置の際、超音波処理を行っても良い。次に必要であれば所定の温度(通常0℃以上、好ましくは20℃以上、通常100℃以下、好ましくは80℃以下)で所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)加熱し、その後、濾過により沈殿物を取得する。これを室温で風乾後、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)、所定の温度(通常100℃以上、好ましくは200℃以上、通常1000℃以下、好ましくは800℃以下)で乾燥処理する。これによりタングステン酸化物が基体に担持された被着触媒が得られる。
【0084】
RuTeとタングステン酸化物とを基体に被着した被着触媒の製造法の一例を次に説明する。
例えば上記方法で製造したタングステン酸化物が担持された基体を水に懸濁し、所定量のRuCl・xHOとHTeOを加え、水を留去し、水素ガスで所定温度所定時間還元処理する方法を挙げることができる。
具体的には、例えば、上記方法で製造したタングステン酸化物が担持された基体を水に懸濁させた後、これに所望の量のRuCl・xHO(Ru含量42重量%)と、Ruに対して、通常2倍モル以上、好ましくは2.2倍モル以上、通常10倍モル以下、好ましくは4倍モル以下のHTeOを加えて混合し、必要であれば所定時間超音波処理し、所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)放置した後、必要であれば所定の温度(通常60℃以上、好ましくは100℃以上、通常300℃以下、好ましくは200℃以下)で所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)加熱或いは還流し、その後、エバポレーターにより溶媒を留去し沈殿物を取得する。これを室温で風乾後、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)、所定の温度(通常100℃以上、好ましくは200℃以上、通常1000℃以下、好ましくは800℃以下)で乾燥処理する。次いで、所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)、所定の温度(通常100℃以上、好ましくは200℃以上、更に好ましくは300℃以上、通常1000℃以下、好ましくは800℃以下)で水素を含む気流下(窒素或いはAr等の不活性ガスを混合しても良く、不活性ガス中の水素濃度としては特に制限はないが、1%以上、好ましくは10%以上、100%以下、或いは80%以下)で加熱する。これにより、RuTeとタングステン酸化物が基体に担持された被着触媒が得られる。
【0085】
この後、更に、低酸素濃度(例えば、5重量%以下、中でも2重量%以下程度の酸素濃度)の不活性ガス雰囲気中で、所定時間(通常数10分以上、好ましくは30分以上、通常10時間以下、中でも5時間以下)で、所定の温度(通常は、室温付近)で処理することにより不動態膜を形成させる不動態化処理を行っても良い。
【0086】
また、これら活性成分を、前記した公知の方法により予め調製し、これを基体と混合し、乳鉢等で混練することにより、活性成分を基体に被着させることもできる。この混合は、乾式でも湿式でも良いが、好ましくは水等の媒体を用いて湿式混合し、その後100〜200℃程度で乾燥することが好ましい。
【0087】
上記した触媒の製造方法の中でも、炭素系基体と、活性成分及び活性成分の前駆体から選ばれるものとを混合した後に、焼成する担持法が好ましい。この焼成は、得られる触媒の活性を向上させることができる。このように焼成を行うことにより活性を向上させることができる理由については必ずしも明らかではないが、炭素系基体に活性成分が被着しているので、焼成時に活性成分のシンタリングが押さえられ、活性が向上することによるものと推定される。
【0088】
活性成分と共に前述の遷移金属を基体に被着させる場合、活性成分の被着工程において同時に遷移金属を被着させても良く、活性成分の被着工程の前、又は後に遷移金属を被着させても良い。なお、ここで、「活性成分の被着工程」とは、活性成分を被着させるための処理過程、即ち、活性成分前駆体の添加から活性成分を与える迄の過程全体を包含する。
【0089】
基体に遷移金属を被着するための遷移金属の前駆体としては、酸化物の他、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等の無機酸塩、酢酸塩等の有機酸塩、ハロゲン化物、水素化物、カルボニル化合物、アミン化合物、オレフィン配位化合物、ホスフィン配位化合物又はホスファイト配位化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0090】
活性成分と共に遷移金属を基体に被着させるには、例えば、先に記載した方法で合成したRuTeとタングステン酸化物を含有する活性成分を基体に担持させた触媒に、塩化物等の遷移金属化合物を溶解した溶液を加えて所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)放置した後、溶媒をエバポレーターにより留去する。なお、この放置の際、超音波処理を行っても良い。次に、水素を含む気流下(窒素或いはAr等の不活性ガスを混合しても良く、不活性ガス中の水素濃度としては特に制限はないが、1%以上、好ましくは10%以上、100%以下、或いは80%以下)、所定の温度(通常100℃以上、好ましくは150℃以上、通常800℃以下、好ましくは500℃以下)で所定の時間(通常10分以上、好ましくは30分以上、通常50時間以下、好ましくは30時間以下)加熱する。これにより、RuTe及びタングステン酸化物を含有する活性成分と遷移金属が共に基体に担持された被着触媒が得られる。
【0091】
その後、更に、この被着触媒を低酸素濃度(例えば、5重量%以下、中でも2重量%以下程度の酸素濃度)の不活性ガス雰囲気中で、所定時間(通常数10分以上、好ましくは30分以上、通常10時間以下、中でも5時間以下)で、所定の温度(通常は、室温付近)で処理することにより不動態膜を形成させる不動態化処理を行うこともできる。
【0092】
なお、前述の如く、遷移金属は、そのまま活性成分を被着した基体と混合して用いても良く、また、遷移金属を被着した基体に、活性成分を混合して用いても良い。
【0093】
[燃料電池用電極材料、燃料電池、燃料電池スタック、燃料電池システム]
本発明の燃料電池用電極材料、及び燃料電池は、上記した本発明の燃料電池用触媒を含有することを特徴とする。なお、本発明の燃料電池用電極材料及び燃料電池は、本発明の燃料電池用触媒の1種のみを含有するものであっても良く、2種以上を含むものであっても良い。
また、本発明の燃料電池スタックは、このような本発明の燃料電池を用いたことを特徴とする。
また、本発明の燃料電池システムは、このような本発明の燃料電池スタックを用いたことを特徴とする。
【0094】
本発明に係る燃料電池とは、前述の如くアノードに燃料、カソードに酸化剤を供給しアノードとカソード間の電位差を電圧として取り出し、負荷に供給する発電装置であり、アノード極とカソード極とその間に挟まれた電解質で構成される。
【0095】
固体高分子型燃料電池においては、電解質としてイオン交換膜が用いられる。固体高分子型燃料電池は、燃料として水素を用いるPEFC型燃料電池、及びメタノールと水を用いる直接メタノール型燃料電池(DMFC,Direct Methanol Fuel Cell)の双方を含む。
【0096】
電解質としてのイオン交換膜の両面に触媒層が形成され、該触媒層の外側にそれぞれガス拡散層が形成されたPEFC型燃料電池の場合、アノードガス拡散層及びカソードガス拡散層が一体に形成されてなる電解質膜/電極接合体が用いられる。一方、DMFC型燃料電池の場合、メタノール水溶液集電体及びカソードガス拡散層が一体に形成されてなる電解質膜/電極接合体が用いられる。電解質膜/電極接合体はその拡散層側に隔壁板が配置され、この隔壁板、電解質膜/電極接合体及び隔壁板からなる単位セルが、用途に応じた所望の電圧になるまで複数積層されて燃料電池スタックが形成される。通常、単位セルが数十セルから数百セル積層されて、燃料電池スタックが形成される。
【0097】
この電解質膜/電極接合体の触媒層を形成する触媒として、前述の本発明の燃料電池用触媒が用いられる。
【0098】
電解質としてのイオン交換膜は、カチオン交換能があれば良いが、実用上、燃料電池の使用温度である80〜100℃程度での酸化還元雰囲気に長期に耐えることが望まれることから、パーフルオロアルキルスルホン酸樹脂がもっぱら用いられている。具体的には、ナフィオン(デュポン社製登録商標)、フレミオン(旭硝子社製登録商標)、Aciplex(旭化成社製登録商標)等のパーフルオロアルキルスルホン酸樹脂膜が挙げられる。
【0099】
イオン交換膜は、好ましくは、10μm程度以上、数100μm程度以下の厚さを有するが、電気抵抗を下げるためにはより薄くすることが望ましい。ナフィオンを例に取ると、厚み120μm程度のナフィオン115がよく使用されるが、補強材を入れた30〜50μmの厚さの電解質膜が開発され始めており、これらのものも同様に用いることができる。
【0100】
PEFC型燃料電池の拡散層は、アノードでは水素、カソードでは、空気を供給すると共に、発生した電圧を取り出すための集電体としての機能も併せ持つ。従って、拡散層は好ましくは優れた電子伝導体でかつ水素、空気の両ガスが通流し、かつ使用雰囲気に耐える材料で構成される。アノードガス拡散層及びカソードガス拡散層を構成する材料としては、厚みが、通常100〜500μm、好ましくは100〜200μm程度の、カーボンペーパー、カーボンクロス等のカーボン多孔体が用いられる。DMFC型燃料電池のメタノール水溶液集電体の材料についても同様に、メタノール水溶液が流通し、かつ使用雰囲気に耐える材料が選択され、厚みが、通常100〜500μm、好ましくは100〜200μm程度の、カーボンペーパー、カーボンクロス等のカーボン多孔体が用いられる。
【0101】
電解質膜/電極接合体を燃料電池に用いる際には、その背後に水素と空気が混合しないように、通常、カーボン、場合によってはステンレス、チタン等の材料でできた隔壁板が配置されるが、この隔壁板には、水素と空気の均一かつ安定供給を目的とした溝を形成したものを用いることが一般的である。
【0102】
本発明の燃料電池の電解質膜/電極接合体を作製する方法としては特に制限はないが、例えば次のような方法が挙げられる。
【0103】
カソード側触媒層及びアノード側触媒層をイオン交換膜上に形成する方法の一例について次に説明する。まず、前述の本発明の燃料電池用触媒を、適当な容器に入れ、DuPont社のNafion(登録商標)を溶解したNafionの溶液(濃度5重量%,アルドリッチ製)及びアルコール、水等の媒体に分散させ触媒スラリーを調製する。この際に分散を良好に進行させるために、超音波振動をかける方がより好ましい。この触媒スラリー中の本発明の燃料電池用触媒の濃度は、所望の分散性を得るために、1〜50g/L程度であるのが好ましい。また、撥水性を持たせたり、触媒層の剥がれを防ぐ等の目的でポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のバインダーをスラリー中に3〜30重量%程度の範囲で加えることは勿論可能である。また、内容物を凝集させて、ペースト化したい場合、エタノール、イソプロピルアルコールといった炭素数2〜5、好ましくは炭素数2〜4程度の低級アルコール、或いはエチレングリコール等の炭素数2〜5、好ましくは炭素数2〜4程度の多価アルコールを、水に対して0.25〜1.0の比になるように加えて凝集させることもできる。
【0104】
このようにして得られる触媒スラリーをイオン交換膜、ガス拡散電極材又は転写用フィルムの上に付着させた後、乾燥してカソード側触媒層及びアノード側触媒層を形成する。
【0105】
カソード側触媒層及びアノード側触媒層は具体的には、それぞれ次のa)〜d)のいずれかの方法でイオン交換膜上、又は、ガス拡散電極材上に形成される。
a) 用いるイオン交換膜に触媒スラリーを吹き付けて乾燥する。
b) カーボンペーパー等のガス拡散電極材に触媒スラリーを吹き付けて乾燥する。
c) テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)フィルム等の転写用フィルム材上に触媒スラリーを吹き付けて(展開処理)乾燥し、転写用フィルム面と反対側の面をナフィオン等の所望のイオン交換膜上に適宜圧接して触媒層を転写する。
d) c)と同様に、FEPフィルム上に触媒スラリーを展開処理した後、スラリー上にカーボンペーパー等のガス拡散電極材を被せて乾燥する。
【0106】
カソード側触媒層及びアノード側触媒層のいずれにおいても、触媒付着量は、Ru付着量(目付量)として、通常0.01mg/cm以上、好ましくは0.1mg/cm以上、通常50mg/cm以下、好ましくは20mg/cm以下、最も好ましくは10mg/cm以下程度である。この活性成分付着量がこの範囲よりも少ないと充分な触媒活性を得ることができず、この範囲よりも多いと電解質膜/電極接合体が形成し難くなる。
【0107】
触媒層をイオン交換膜上に形成してからアノードガス拡散層材またはカソードガス拡散層材と積層してもよく、触媒層をアノードガス拡散層材上またはカソードガス拡散層材上に形成してからイオン交換膜と積層してもよい。この積層体を予備的に加圧成形した後、プレス機によって加圧加熱成形することにより電解質膜/電極接合体が得られる。この接合体においては、イオン交換膜の片側の面に上記したカソード側触媒層が形成され、該イオン交換膜の反対側の面に、アノード側触媒層が形成され、更に、両触媒層の外側にそれぞれアノード及びカソードを構成するガス拡散層が積層されている。
【0108】
なお、積層体を予備的に加圧成形する場合は、触媒層の崩壊が防止される範囲で、本成形の条件より温度、圧力は低く、時間は短く設定するのが好ましい。それは、触媒粒子、ガス拡散層用多孔体の圧縮破壊を起こさないためである。
【0109】
本発明の燃料電池システム、例えばPEFC用燃料電池システムは、電気化学反応により起電力を得る上述の燃料電池スタックと、酸素含有ガスとして圧縮空気を供給するコンプレッサの他、燃料ガスである水素を高圧に圧縮した状態で貯蔵する水素ボンベを有する。他に燃料電池スタックにおいて発電に利用されなかった排水素および排空気を燃焼する触媒燃焼器を必要に応じて備えてもよい。また、メタノール、天然ガスまたはメタン等の改質反応により水素を供給してもよい。その場合燃料電池システムは水素ボンベの代わりに、メタノール、天然ガスまたはメタン等のタンク、水タンク、及び、メタノール等と水の混合器、メタノール水溶液等を蒸発させるための蒸発器、改質反応を行う改質器を備える。更に、改質反応後の水素ガス中に含まれる一酸化炭素による燃料電池の被毒を防ぐために、一酸化炭素低減装置を備えてもよい。
【0110】
また、本発明のDMFC用燃料電池システムは、電気化学反応により起電力を得る燃料電池スタックと、酸素含有ガスとして圧縮空気を供給するコンプレッサの他、燃料であるメタノール水溶液容器を備える。メタノール水溶液は送液ポンプにより燃料電池スタックのアノード極に送られる。また、メタノール水溶液は予め蒸発器により昇温・気化させてからアノード極に供給しても良い。他に燃料電池スタックにおいて発電に利用されなかったメタノール水溶液は回収し、メタノール水溶液容器に戻しても良い。メタノール水溶液の回収は必要時には気液分離器を用いて行っても良い。
【実施例】
【0111】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0112】
[粉末XRD分析]
以下の実施例及び比較例において、作製した触媒のXRD分析は、下記の条件で行った。
測定装置
粉末X線解析装置/PANalytical PW1700
測定条件
X線出力(Cu−Kα):40kV,30mA
走査軸:θ/2θ
測定範囲(2θ):3.0°〜90.0°
測定モード:Continuous
読込幅:0.05°
走査速度:3.0°/min
DS,SS,RS:1°,1°,0.20mm
【0113】
[酸素還元反応開始電位及び酸素還元反応に用いられる電子数の測定]
以下の実施例及び比較例において、酸素還元反応開始電位(onset potential)は、作製したカソード電極において5A/1g−Ruを超えた電流が得られた電位と定義した。
酸素還元開始電位の測定条件は以下の通りである。
電解液:0.5M HSO水溶液
雰囲気:1気圧酸素雰囲気
走査速度:5mV/秒
走査範囲:50〜850mV
作用電極:回転ディスク、グラッシーカーボンディスク 4φ
カウンター電極:Ptメッシュ電極
比較電極:標準水素電極(SHE)
回転数:1600rpm
【0114】
電極の電位を標準水素電極に対して850mV程度から低電位(50mV)の方向に走査にすると作用電極とPt対極の間に
4H+O+4e→2H
による酸素の還元電流が流れるのが認められる。50mVに達した後折り返し、高電位(850mV)の方向に走査した時に流れる電流値を、作製したカソード電極に含まれるRuの単位重量(1g)当たりの電流値に換算し、5A/1g−Ruを超えた電位を酸素還元反応開始電位とした。
また、Koutecky−Levichプロット(回転数:400、900、1600、2500、3600rpm)を作成し、酸素還元反応に用いられる電子の数(酸素分子が還元される際の電子数n値、標準水素電極に対して0.5Vでの値)を求めた。求め方は非特許文献2(Journal of Electroanalytical Chemistry 495(2001)134)によった。
なお、その際ブランク試験として雰囲気を窒素、回転数を0rpmとし、同様な走査条件(走査速度:5mV/秒、走査範囲:50〜850mV)で流れる電流値を測定し、この値を先の酸素1気圧下での電流値から引き算し、得られた値を作製したカソード電極触媒による酸素還元電流値とたした。
【0115】
〔実施例1〕
<RuTe/WO被着触媒の調製>
非特許文献3(J.Power Source,102(2001)172)に準じて調製した。
カーボンブラック(VULCAN XC−72R(Cabot社製、比表面積(BET)254m/g)3gを200mlの水に懸濁させた後、NaWO 0.213gを加え、HClでpH1〜2に調整した後、1昼夜放置した。濾過して、60℃で乾燥した後、300℃で3時間、アルゴン気流下で乾燥した。このようにして得た5重量%WO担持カーボンブラック0.4gを20mlの水に懸濁させた後、RuCl・xHO(Ru含量42重量%)0.238g,HTeO 0.454gを加えて1時間超音波処理した。その後、水をエバポレーターで留去した後、アルゴン気流下、300℃で3時間乾燥した。更に、水素ガスに切り替え、350℃で3時間還元処理した。反応終了後、室温まで冷却した後、2%O−98%N雰囲気で不動態化してRuTe/WO被着触媒(カーボンブラックに対するWO担持量5重量%、RuTe担持量20重量%)を得た。
【0116】
この触媒は、XRD分析により、RuTe(2θの値、22.525°、27.825°、31.419°、39.984°、43.382°、48.048°、51.819°、57.316°、68.313°にピークを与えた)を含有していることを確認した。
【0117】
<カソード電極の作成>
得られたRuTe/WO被着触媒20mgを、水20mLに懸濁し、超音波洗浄器で充分撹拌した後、マイクロシリンジでRuの付着量(RuとTe元素が揮発していないとして計算。以下の実施例及び比較例においても同様)が15μg/cmとなるように作用電極であるグラッシーカーボン電極に滴下し、次に、5%ナフィオン(登録商標)溶液(アルコール溶液、アルドリッチ・ケミカル社製)を重量で100倍に水で希釈した液体を10μL滴下し、放置により乾燥し、カソード電極とした。
このカソード電極について、酸素還元反応開始電位の測定とn値の測定を行い、結果を表2に示した。
【0118】
〔比較例1〕
<RuTe被着触媒の調製>
50ml水に懸濁させたカーボンブラック(VULCAN XC−72R)0.4gに、RuCl・xHO(Ru含量42重量%)0.238gとHTeO 0.454gを加えて1時間超音波処理した。その後、水をエバポレーターで留去した後、アルゴン気流下、300℃で3時間乾燥した。更に、水素ガスに切り替え、300℃から350℃まで3時間かけて昇温し、350℃で2時間還元処理した。反応終了後、室温まで冷却した後、2%O−98%N雰囲気で不動態化してRuTe被着触媒(カーボンブラックに対するRuTe担持量20重量%)を得た。
【0119】
この触媒は、XRD分析により、RuTe(2θの値、27.850°、31.447°、39.763°、43.700°、48.254°、57.108°にピークを与えた)を含有していることを確認した。
【0120】
<カソード電極の作成>
得られたRuTe被着触媒を用いた他は、実施例1と同様の方法によりRuの付着量が15μg/cmとなるようにカソード電極を作成し、同様に評価を行って結果を表2に示した。
【0121】
【表2】

【0122】
表2より明らかなように、RuTeにWOを共存させることにより、酸素還元反応開始電位が上昇し、高活性な燃料電池用触媒が提供される。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によれば、酸素還元反応開始電位が高められた安価な燃料電池用触媒により、実用的な燃料電池が提供されるため、燃料自動車、固定式コジェネレーションシステム等への燃料電池の用途の拡大と実用化が促進される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分としてRuTeとタングステン酸化物とを含むことを特徴とする燃料電池用触媒。
【請求項2】
請求項1において、活性成分が炭素系基体に被着されていることを特徴とする燃料電池用触媒。
【請求項3】
イオン交換膜と、該イオン交換膜上に形成された請求項1又は2に記載の燃料電池用触媒の層とを有することを特徴とする燃料電池用電極材料。
【請求項4】
電極ガス拡散層と、該電極ガス拡散層上に形成された請求項1又は2に記載の燃料電池用触媒の層とを有することを特徴とする燃料電池用電極材料。
【請求項5】
転写用フィルムと、該転写用フィルム上に形成された請求項1又は2に記載の燃料電池用触媒の層とを有することを特徴とする燃料電池用電極材料。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の燃料電池用触媒を用いたことを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
請求項6に記載の燃料電池を用いたことを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項8】
請求項7に記載の燃料電池スタックを用いたことを特徴とする燃料電池システム。

【公開番号】特開2008−287929(P2008−287929A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129480(P2007−129480)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】