説明

SARSを治療するためのスクテラリア抽出物

本発明は、コロナウイルス、特に重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因となるコロナウイルスに対する抗ウイルス活性を有する医薬組成物に関する。好適な実施態様では、当該医薬組成物にはスクテラリア属種の全標準化抽出物が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、抗ウイルス活性を示す医薬組成物に関する。特に、コロナウイルスに対して抗ウイルス活性を示す医薬組成物、より詳しくは、重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因となるコロナウイルスに対して抗ウイルス活性を示す医薬組成物に関する。
発明の背景
マカク類(R. A. M. Fouchier, A. D. M. E. Osterhaus et al. Koch's postulates fulfilled for SARS virus Nature 423, 240 (2003))およびヒト同齢集団(T. Kuiken, A. D. M. E. Osterhaus, et al. Newly discovered Coronavirus as the primary cause of severe acute respiratory syndrome. Lancet 6318, 1 (2003))を用いた最近の観察からは、新たに発見されたコロナウイルス(SARS−CoV)が重症急性呼吸器症候群(SARS;2002年11月に中国で最初に発生した高死亡率(世界規模でおよそ10%(世界保健機構−www.who.int/csr/sars))のウイルス性肺炎の一形態)の主な原因である、との確証が得られている。
【0002】
従って、SARS−CoVに対する活性を有する抗ウイルス剤は、SARSの治療において重要であることはほぼ間違いない。コロナウイルスのゲノムはRNAのプラス一本鎖からなり、SARS−CoVゲノムおよび近縁の変異体の全配列は刊行物に記載されており(P. A. Rota et al. Characterization of a novel Coronavirus associated with Severe Acute Respiratory Syndrome, Science 300 1394 (2003)およびM. A. Marra et al. The genome sequence of the SARS-associated Coronavirus, Science 300 1399 (2003))、抗ウイルス療法の分子標的について詳細に調べられている。(http://www.sarsresearch.ca/;SARS−CoVおよび近縁ウイルスのゲノム、遺伝子およびタンパク質を分析するための詳細なデータおよびツールを提供するバイオインフォマティクスのサイト)。ウイルスのポリメラーゼ酵素と共に、主要なウイルスプロテイナーゼ(3CLpro)が重要な標的であると考えられる(K. Anand et al. Coronavirus main proteinase (3CLpro)structure: Basis for design of Anti-SARS drugs. Science 300 1763 (2003))。
【0003】
しかしながら、有力な候補薬物(AG7088)はウイルスを阻害することができず、一方で見かけ上関係のないHIV療法(ロピナビル、ネルフィナビル)が一部有効であった(SCRIPオンライン−www.pjbpubs.co.uk/SCRIP/;Factivaオンライン−www.factiva.com/news)。
【0004】
リバビリン(RBV)等の既知の広域抗ウイルス薬以外にも、知名度は劣るが甘草から抽出した阻害剤(例えばグリチルリチン)(Cinatl, J.et al. Glycyrrhizin, an active component of liquorice roots, and replication of SARS-associated Coronavirus. The Lancet, 361, 2045 (2003))もSARS−CoVに対して有効であると考えられる。
【0005】
しかしながら、SARSが再発するおそれがあるとの十分に根拠のある懸念から、有効な療法の検索に拍車がかかっている。
従って、東洋人および西洋人の患者双方にとって許容可能な剤形をした、SARS治療の有効な薬物および薬物候補が求められている。
定義
本明細書中、以下に示す定義は、米国保健福祉省、食品医薬品局、医薬品評価研究センター(CDER)、2000年8月の業界向けガイダンス「Botanical Drug Products(生薬製剤)」から取ったものであり、下記の通りである。
【0006】
有効な構成要素(active constituent):目的の薬理活性または治療効果を担う植物性原料、生薬原薬または生薬製剤に含まれる化学的な構成要素。
植物製品(botanical product);生薬(botanical):植物質(vegetable matter)を含有するラベル表示された完成品であって、当該植物質としては植物材料(下記参照)、藻類、肉眼で見える菌類またはこれらの組み合わせが挙げられる。目的の用途にある程度依存するが、植物製品は食品、薬物、医療用デバイスまたは化粧品であってよい。
【0007】
生薬製剤(botanical drug product);植物薬(botanical drug):薬物としての使用を意図した植物製品;生薬原薬から調製した製剤。生薬製剤は、液剤(例えば茶剤)、散剤、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤および局所剤等の様々な剤形で使用可能である。
【0008】
生薬原薬(botanical drug substance):1種以上の植物、藻類または肉眼で見える菌類に由来する原薬。植物性原料から以下の工程の1つ以上によって調製される:粉砕、煎出、圧出、水抽出、エタノール抽出または他の類似の工程。粉末、ペースト、濃縮液、ジュース、ガム、シロップまたは油等の様々な物理的形態で使用可能である。生薬原薬は、1種以上の植物性原料(単種ハーブおよび多種ハーブ生薬原薬または生薬製剤を参照)から製造可能である。生薬原薬には、天然源に由来するが高度に精製または化学的に修飾された物質は含まれない。
【0009】
植物性成分(botanical ingredient):植物性原料に由来する生薬原薬または生薬製剤の構成成分。
植物性原料(botanical raw material):単一種の植物の生もしくは処理(例えば、浄化、凍結、乾燥または薄切)された部分、あるいは、生もしくは処理された藻や肉眼で見える菌。
【0010】
クロマトグラフ・フィンガープリント(chromatographic fingerprint):植物性原料または生薬原薬のクロマトグラフ・プロファイルであって、バッチの同一性と質、バッチ毎の均一性を確保するために基準サンプルまたは標準物質のプロファイルと定性的・定量的に突き合わされる。
【0011】
栄養補助食品(dietary supplement):(1)食事を補うことを意図した製品(タバコ以外)であって、以下の食品成分のうち1種以上を含有するもの:(A)ビタミン;(B)ミネラル;(C)ハーブまたは他の生薬;(D)アミノ酸;(E)食事の総摂取量を増やすことで食事を補うために人為的に利用される食品物質;または(F)濃縮物、代謝産物、構成要素、抽出物、あるいは、前記(A)、(B)、(C)、(D)または(E)に記載した任意の成分の組み合わせ。(2)(A)連邦食品医薬品化粧品法第411(c)(1)(B)(i)項に記載の形態での摂取を意図しているか、または、第411(c)(1)(B)(ii)項に従うが、従来の食品としての利用、または、食事としての単品利用を意図しておらず、また、「栄養補助食品」とラベルに表示されている製品を意味する。(3)(A)以下の物品を含む:公衆衛生法(42U.S.C.262)第505項により新薬として承認されるか第351項により生物製剤として認可される物品であって、このような承認、認定または認可に先立って栄養補助食品もしくは食品として販売されたもの(但し、告示・意見聴取後に[FDA]が規制を設け、当該物品を栄養補助食品としてまたは栄養補助食品においてラベルに記載された使用および投与量の条件下で使用した際に、第402(f)項に対して違法であることが判明したものは除く);(B)以下の物品は含まない:(i)公衆衛生法(42U.S.C.262)第505項により新薬として承認されるか、第507項により抗生物質として認定されるか、第351項により生物製剤として認可される物品、あるいは、(ii)新薬、抗生物質または生物製剤としての研究を許可された物品であって、実質的な臨床研究が始められており、かつ、このような研究の存在が公になっており、このような承認、認定、認可または許可以前には栄養補助食品または食品として販売されていなかった物品(但し、告示・意見聴取後に[FDA]がその裁量で規制を設け、当該物品が本法(21U.S.C.321(ff))に対して違法であることが判明したものは除く)。
【0012】
剤形(dosage form):医薬品の型。例えば、錠剤、カプセル剤、液剤またはクリーム剤。薬物成分(物質)を通常含有するが、必ずしも賦形剤を伴うものではない。
薬物(drug):以下のものを意味する:(A)米国薬局方、米国ホメオパシー薬局方、米国医薬品集またはこれらのいずれかの補足資料に認定された物品;(B)ヒトまたは他の動物の疾患の診断、治癒、緩和、治療、予防への使用を意図した物品;(C)ヒトまたは他の動物の身体の構造やいずれかの機能に作用することを意図した物品(食品以外);(D)前記(A)、(B)または(C)で特定したいずれかの物品の構成成分としての使用を意図した物品。連邦食品医薬品化粧品法第403(r)(1)(B)項および第403(r)(3)項または第403(r)(1)(B)および(r)(5)(D)項に準拠して、第403(r)項の要件に従って表示がなされる食品または栄養補助食品は、ラベルにこのような表示が含まれているという理由だけでは薬物に当たらない。第403(r)(6)項に従って誠実かつ誤解を招かない表現がなされる食品、食品成分または栄養補助食品は、ラベルにこのような表現が含まれているという理由だけでは(C)でいう薬物に当たらない(21U.S.C.321(g)(1))。
【0013】
原薬(drug substance):疾患の診断、治癒、緩和、治療、予防において薬理活性もしくは他の直接的な作用をもたらすか、または、人体の構造もしくはいずれかの機能に作用することを意図した有効成分(21CFR314.3(b))。
【0014】
製剤(drug product):すぐに使用できる最終包装中の剤形であって、販売を意図したもの。
食品(food):用語「食品」とは、(1)食品または飲料に使用される物品、(2)チューインガム、(3)このような物品の構成成分に使用される物品、を意味する(21U.S.C.321(f))。
【0015】
処方(formulation):剤形の構成成分(または成分)および組成を列挙した処方箋。多種ハーブ生薬原薬の構成成分および組成は、処方全体の一部でなければならない。
マーカー(marker):特に、有効な構成要素が未知または未特定の場合に特定および/または品質管理の目的で使用される、植物性原料、生薬原薬または生薬製剤の化学的構成要素。
【0016】
多種ハーブ(生薬)原薬または製剤(multi-herb (botanical drug) substance or product):1種よりも多くの植物性原料(いずれも植物性成分と考えられる)に由来する生薬原薬または生薬製剤。多種ハーブ生薬原薬は、2種以上の植物性原料を同時に処理したり、2種以上の単種ハーブ生薬原薬(それぞれ対応の原料から処理したもの)を組み合わせることで調製可能である。後者の場合、個々の単種ハーブ生薬原薬を、剤形の製造過程で同時にまたは異なる段階で導入してもよい。
【0017】
植物材料(plant material):植物または植物の一部(例えば、樹皮、木部、葉、幹、根、花、果実、種、液果もしくはこれらの一部)並びに滲出物。
単種ハーブ(生薬)原薬または製剤(single-herb (botanical drug) substance or product):1種類の植物性原料に由来する生薬原薬または生薬製剤。従って、単種ハーブ原薬または製剤は、通常1種類の植物性成分のみを含有する。
【0018】
さらに下記の用語を定義する。
「本質的になる」とは、植物性原料およびその誘導体の存在を指すに留まり、例えば製剤化に使用される賦形剤の存在は除外されるものとする。
【0019】
「治療」とは、症状の軽減および/または原因因子に対する作用の双方を指すものとする。
発明の開示
驚くべきことに、本出願人は、組成物(PYN5C)が細胞培養試験においてSARS−CoVに対して用量依存的な活性を示すことを見出した。
【0020】
本発明の第一の側面によれば、スクテラリア属の種から得られる植物性原料(botanical raw material;BRM)、生薬原薬(botanical drug substance;BDS)または1種以上の植物性成分の、抗ウイルス医薬の製造における使用を提供する。
【0021】
好ましくは、当該医薬は、プラス鎖RNAウイルス、特にSARS−CoVに感染した患者を治療するためのものである。
一実施態様では、当該医薬は単一の生薬原薬または植物性成分から本質的になる。
【0022】
好ましくは、当該医薬は賦形剤と共に製剤化される。一実施態様では、当該医薬の剤形は懸濁剤である。
本発明の第二の側面によれば、スクテラリア属種を含む懸濁剤剤形医薬(suspension dosage form medicament)を提供する。
【0023】
しかしながら、任意の適切な剤形、例えば、固体剤形(錠剤等)または液体剤形(シロップ剤等)が許容可能であることは明らかであろう。
同様に、当該医薬を、任意の経路(経口、静脈内等)または容認されている他のいずれかの形態での送達用に製剤化してもよい。
【0024】
好ましい実施態様では、当該医薬は上気道感染症を治療するためのものであることから、噴霧剤、特にネブライザーとしての送達用に製剤化する。
別の実施態様では、当該医薬には、スクテラリア属種以外にも下記のうちの1種以上から得られる1種以上の追加の生薬原薬または植物性成分が含まれる:
b)ロニセラ属種;
c)レンギョウ属種;および/または
d)ヤマハッカ属種。
【0025】
PYN5Cは、Radix Scutellariaeの単種ハーブエタノール抽出物である。
スクテラリア属種の水抽出物は、ピコルナウイルス(ポリオ;マイナス鎖RNAウイルス)およびパラミクソウイルス(麻疹;別のマイナス鎖RNAウイルス)に対する抗ウイルス活性を示すことが判っている(WO5,411,733参照)。
【0026】
スクテラリア属種から単離した植物フラボノイド(flavenoids)(バイカレイン、バイカリンおよびオウゴニン等)も、(限定するわけではないが主として)HIVに対する抗ウイルス活性を示し、また、RSV(Journal of Ethnopharmacology (2002) 79(2), p205-211)およびインフルエンザに対する活性を示すことが判っている。
【0027】
以上のことにもかかわらず、PYN5Cは、一般的にその抗菌活性から中国医学に使用され、その上典型的には数種類の他の植物の種と併用されるため、SARS−CoVに対する活性を示すとの知見は予想外であった。実のところ、本出願人は、例えばRadix Scutellariae、Fructus ForsythiaeおよびFlos Loniceraeの3種類のハーブの抽出物を含む組み合わせが認可漢方薬であるShang Huang Lian(SHL)と変わりのない組成物であって、SARS−CoVに対して有効であるかもしれないと期待していたとはいえ、上記の単一の植物抽出物が活性を示したことに驚いたのである。
【0028】
従って、本発明の第三の側面によれば、下記の属の種から得られる1種以上の植物性原料(BRM)、1種以上の生薬原薬(BDS)または1種以上の植物性成分の、SARS−CoV感染患者を治療するための植物薬(BD)または栄養補助食品の製造における使用を提供する:
a)スクテラリア
b)ロニセラ;
c)レンギョウ;または
d)ヤマハッカ。
【0029】
上記植物属の適切な種であればいずれも使用可能である。例としては下記のものが挙げられる:
a)スクテラリア属種としては:Scutellaria baicalensis、S. amoena、S. barbata、S. discolor、S. hypericifolia、S. inbica、S. likiangensis、S. orthocalyx、S. rehderiana、S. scssilifloraおよびS. viscidula;
b)ロニセラ属種としては:Lonicera japonica、L. hispidapall、L. harmsiiおよびL. fulvotomentosa;
c)レンギョウ属種としては:Forsythia suspensa、F. viridissima、F. ovata、F. mandschurica、F. koeana、F. spectabilis、F. europaeaおよびF. X intermedia;
d)ヤマハッカ属種としては:Rabdosia rubescens、R. adenantha、R. amethystoides、R. coetsa、R. nervosa、R. sculponeataおよびR. ternioflia。
【0030】
植物薬は、これらの種の組み合わせ、特に(但し限定するわけではないが)下記のいずれかの組み合わせを用いて得ることができる:
a)Scutellaria baicalensis;
b)Lonicera japonica;
c)Forsythia suspensa;および
d)Rabdosia rubescens。
【0031】
好適な組み合わせは、各属の種の1種または組み合わせ、特に上記した好適な種の1種以上を含むか、これらから本質的になるか、または、これらからなる。
好適な組み合わせとしては、以下に示す属の種(および上記した好適な種)の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない:
1.a)スクテラリア属種およびc)レンギョウ属種;
2.a)スクテラリア属種およびb)ロニセラ属種;
3.a)スクテラリア属種およびd)ヤマハッカ属種;
4.a)スクテラリア属種、b)ロニセラ属種およびc)レンギョウ属種;
5.a)スクテラリア属種、b)ロニセラ属種、c)レンギョウ属種およびd)ヤマハッカ属種。
【0032】
好ましくは各々の種は生薬原薬または植物性成分として存在する。
当該植物の任意の適切な部分を使用することが可能である。例えば、葉、細枝、枝、樹皮、根、花、果実を用いることができる。
【0033】
それぞれの属の好ましい種の好適な部分は、下記の通りである:
a)スクテラリアは根であり;
b)ロニセラは花であり;
c)レンギョウは果実であり;
d)ヤマハッカは気中部分、即ち、根以外の任意の部分である。
【0034】
各々の種の相対量(植物性原料の乾燥重量として計算)は、得られる組み合わせによって異なる。
単種ハーブ医薬および混合ハーブ医薬の場合には、各生薬の量(植物性原料の乾燥重量として計算)は典型的には下記の表1に示す範囲である。
【0035】
【表1】

【0036】
2種類の組み合わせの場合には、各植物は、生薬含有量の5〜95%、より好ましくは25〜75%、最も好ましくは40〜60%となるように存在すればよい。
3種類の生薬の組み合わせの場合には、量は組み合わせに応じて異なってよい。
【0037】
組み合わせがスクテラリア属種、ロニセラ属種およびレンギョウ属種から本質的になる場合には、各々の種は以下の量で存在すればよい。
レンギョウ属種は、全植物性原料の総重量に対して30〜70%、より好ましくは40〜60%、最も好ましくは50%以上、最も好ましくは55%を超える量(重量基準)で存在する。
【0038】
ロニセラ属種は、全植物性原料の総重量に対して12.5〜37.5%、より好ましくはl8.75〜31.25%、最も好ましくは約27.5%の量(重量基準)で存在する。
【0039】
スクテラリア属種は、全植物性原料または成分の総重量に対して12.5〜37.5%、より好ましくはl8.75〜31.25%、最も好ましくは約27.5%の量(重量基準)で存在する。
【0040】
本発明の第四の側面によれば、生薬として
全植物性原料の総重量に対して30〜70%の量(重量基準)のレンギョウ属種、
全植物性原料の総重量に対して12.5〜37.5%の量(重量基準)のロニセラ属種、および
全植物性原料の総重量に対して12.5〜37.5%の量(重量基準)のスクテラリア属種
を含み、賦形剤として
粒子の100重量%が60メッシュ篩を通過し、粒子の95重量%が80メッシュ篩を通過し、粒子の70重量%が200メッシュ篩を通過するような粒度分布を有する少なくとも1種のキサンタンガムを含む1種以上のゲル化剤または増粘剤と、1種以上の充填剤と、1種以上の湿潤剤または界面活性剤
を含む懸濁剤粉末混合物(suspension powder mixture)を提供する。
【0041】
本出願人には、スクテラリア属種の他にも、レンギョウ属の種がSARS−CoVに対する活性を示す可能性があると考える理由がある。
従って、別の実施態様では、レンギョウは全植物抽出物の50%よりも多くを占める(植物性原料相当物の重量基準)。
【0042】
スクテラリア属種またはレンギョウ属種が主要な有効成分(active)であることが明らかな場合には、植物構成成分の50%よりも多く、より好ましくは60%よりも多く、さらに好ましくは70%よりも多く、80、90%から最高100%までを占めるのが好ましい。
【0043】
本発明はまた、本発明の医薬を患者へ投与することによりSARS−CoVに感染した患者を治療する方法にも及ぶ。
発明を実施するための最良の形態
本発明は、PYN5C(スクテラリア属種の70%エタノール抽出物を凍結乾燥したもの)が細胞培養においてSARS−CoVを阻害したとの知見に基づくものである。
【0044】
i)SHLの組成および類似のハーブの組み合わせ;
ii)スクテラリア属種、ロニセラ属種、レンギョウ属種およびヤマハッカ属種の推定される有効成分(active);並びに
iii)伝統的な中国医学において類似の薬効をもたらす別の漢方ハーブ
に関する知見を参照することにより、本出願人は、推定ではあるが、スクテラリア抽出物の他にも、最初に試験したものとは異なる抽出物並びに他のハーブ材料またはその特定可能な植物性成分もしくは有効な構成要素も、SARS−CoV阻害活性を担う可能性があり、さらに、他のウイルス感染症、特にRNAウイルス、特にプラス鎖RNAウイルス(例えば、RSV、インフルエンザおよび鳥インフルエンザ等)の治療において有用である可能性を提案する。
【0045】
従って、例えばUS6,083,921(当該文献の開示内容は引用により本明細書に含まれるものとする)には、
a)Radix Scutellariaeから単離されたバイカリン;
b)Flos Loniceraeから単離されたクロロゲン酸;および
c)Fructus Forsythiaeから単離されたforsythiaside
がSHLの有効な構成成分であることが示唆されている。
【0046】
特に、US6,083,921には、組成物1mL当たりに
a)0.25mgのRadix Scutellariae;
b)0.25mgのFructus Forsythiae;および
c)0.5mgのFlos Lonicerae
を含む第一の組成物と、組成物1mL当たりに
a)2mgのバイカリン;
b)1mgのクロロゲン酸;および
c)1mgのforsythiaside
を含む第二の組成物とが教示されている。
【0047】
従って本出願人は、このような処方が、本出願人の組成物と同様、SARS−CoVに対する活性を示す可能性があるとの仮説を立てている。
従って、本発明の第五の側面によれば、SARS−CoVを治療するための薬物または栄養補助食品の製造において使用する、バイカリン、クロロゲン酸およびforsythiasideのいずれか1つ、または、これらの任意の組み合わせを提供する。
【0048】
さらに、US6,083,921では、複数の非常に良く似た化合物、即ち、第2欄に特定されているような式Iおよび式IIの化合物が、抗ウイルス活性を有する可能性を示唆している。
【0049】
本出願人は、これらの化合物がSARS−CoVに対する活性も示すのではないかと予想している。
改良されたSHL様組成物に関する他の研究は、WO02/060379に開示されている(当該文献の開示内容も引用により本明細書に含まれるものとする)。WO02/060379には、改良型SHL錠剤が開示されている。この錠剤は、
a)Flos Lonicerae;
b)Fructus Forsythiae;および
c)Radix Scutellariae
の異なる「改良された」抽出物から製造されている。
【0050】
特に、使用されている抽出方法では、インフルエンザウイルス、パラ−インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルスIおよびヘルペスウイルスIIの阻害においてより有効な規定の原薬および製剤が得られる。これらのより活性な画分を得るために使用されている抽出方法は超臨界二酸化炭素抽出である。
【0051】
従って本出願人は、超臨界二酸化炭素抽出物が、そのエタノール抽出物よりも高い活性を示すのではないかと予想している。
WO02/060379に開示されている特定の処方には、以下に示す量でハーブ原料の定量(ratioed)混合物が含まれている:
a)Flos Lonicerae 1重量部(原料の1875gに相当);
b)Fructus Forsythiae 2重量部(原料の3750gに相当);および
c)Radix Scutellariae 1重量部(原料の1875gに相当)。
【0052】
特に、下記のものが含まれている:
i)Flos LoniceraeおよびFructus Forsythiaeの軟抽出物90〜180部;
ii)Flos LoniceraeおよびFructus Forsythiaeの超臨界抽出物10〜60部;および
iii)Radix Scutellariaeの抽出物30〜50部。
【0053】
当該明細書中では、三次元スペクトルクロマトグラムを用いて抽出物の特性決定を行っている。
Flos Lonicerae原料は8〜11個のピークを有することが判明し、その4番目のピークはクロロゲン酸であり、基準ピークとして使用されている(当該明細書の図2)。
【0054】
Fructus Forsythiae原料は11〜14個のピークを有することが判明し、その8番目のピークはフィリリンであり、基準ピークとして使用されている(当該明細書の図3)。
Radix Scutellariae原料は22〜25個のピークを有することが判明し、その12番目のピークはバイカリンであり、21番目のピークはバイカレインであり、いずれも基準ピークとして使用されている(当該明細書の図4)。
【0055】
さらに、効力の向上した当該抽出物は、採用した抽出技術のため、含有量が原料とは異なっている。
従って、Flos LoniceraeおよびFructus Forsythiaeを一緒に抽出にかけたところ、抽出物は18〜21個のピークを有することが判明し、その8番目、10番目および16番目のピークは、それぞれクロロゲン酸、カフェー酸およびフィリリンの基準ピークであった(当該明細書の図5)。
【0056】
Radix Scutellariaeは4〜5個のピークを有し、その最初のピークはバイカリンであり、5番目のピークはバイカレインであった(当該明細書の図6)。
3種類のハーブの抽出物からなる製剤は27〜30個のピークを有し、その8番目、12番目、20番目、22番目および28番目のピークは、それぞれクロロゲン酸、カフェー酸、フィリリン、バイカリンおよびバイカレインであった(当該明細書の図7)。
【0057】
本出願人は、上記の組成物が示した活性に基づいて、これらの組成物および類似の組成物も同じく活性を示すことが予測できるのではないかと推量している。
本出願人の発明の好適な実施態様では、剤形は懸濁剤粉末であり、典型的にはサッシェに包装されており、好ましくは経口投与の単位用量を調製するための容器を備えている。当該容器は、好ましくは容積が100ml未満であり、かつ、好ましくは、製剤を懸濁するのに加える液体の量が使用者に分かるように表示がなされている。最も好ましくは、製剤を懸濁するのに激しく振盪できるよう、当該容器は密封可能な蓋を備えている。
【0058】
当該懸濁剤粉末の好適な賦形剤としては下記のものが挙げられる:
a)1種以上のゲル化剤または増粘剤、好ましくは、粒子の100重量%が60メッシュ篩を通過し、粒子の95重量%が80メッシュ篩を通過し、粒子の70重量%が200メッシュ篩を通過するような粒度分布を有する少なくとも1種のキサンタンガムを含む1種以上のゲル化剤または増粘剤;
b)1種以上の充填剤、特に矯味剤;
c)1種以上の湿潤剤または界面活性剤または懸濁を助ける他の物質。
【0059】
適切な材料はEP1231746に記載されている(当該文献は引用により本明細書に含まれるものとする)。
最も好ましくは、当該剤形は水等の冷溶媒に懸濁可能であり、その量は50ml未満、より好ましくは25ml未満である。
【0060】
好適なキサンタンガムの分子量は3.5〜4.0×10であり、例えばFerwogelとして販売されている。
好適な湿潤剤はポリエチレングリコールまたはマクロゴールである。
【0061】
生薬原薬または栄養補助食品は、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、フレーバー剤および粘稠化剤(viscosifying agent)を1種以上さらに含んでいてもよい。
生薬原薬(単数又は複数種類)の製剤化に使用し得る賦形剤の一例を下記の表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
以下、例示のみの目的で実施例を挙げて本発明をさらに説明する。
実施例1
抽出プロトコール
スクテラリア属種を以下に示す抽出工程にかけた。
【0064】
1.材料を粉砕して微粉末状にする
2.粗粉末を100g計量し、還流下で2時間1リットルの70%エタノールを使用して抽出する
3.冷却し、濾紙で濾過してエタノール抽出物を回収する
4.スクテラリア属種の残渣へ1リットルの70%エタノールを加えて2時間還流し、工程3を繰り返す
5.工程3と4のエタノール抽出物を合わせる
6.「RotaVapour」上の溶剤を回収し、凍結乾燥に適した容積まで濃縮する
7.抽出物を凍結乾燥する
8.凍結乾燥後の抽出物を計量し、密封ガラス容器内に保存する
コロナウイルスに対する活性の試験
細胞培養(vero C1008細胞、元々はECACCより提供)において、PYN5Cを2種類のウイルス(SARS CoVおよびRSV S2、NCPVより提供)に対して試験した。各試験材料はDMSO中で調製し、2種類の異なる最終濃度で培養上層へ添加した。3日間37℃でインキュベーション後、細胞単層を固定・染色し、全てのプラークを計数した。
【0065】
RSV2s2を使用した結果は、はっきりしたものではなかった。細胞対照とウイルス対照とを含む単層には僅かな違いはあったものの、プラークは生成されなかった。ウイルスは明らかに増殖して合胞体を作ったが、当該アッセイでは、細胞死とプラークの目視観察を可能にするには、さらに長いインキュベーション期間が必要と思われた。いずれの試験材料も細胞を保護しなかったようである(l0μg/mlのリバビリンを除く。但し、100μg/mlの濃度では保護しなかった)。
【0066】
驚くべきことに、SARS−CoVを使用した結果からは、はっきりとしたプラークが認められた(プラーク数を下記の表3に示す)。代表的なプレートの写真を図1に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
高濃度のリバビリンおよびPYN5Cの場合には、いずれもプラークサイズは対照よりも小さかった。
結論
PYN5C組成物は、使用した最も高濃度(200μg/ml)においてSARS−CoVの感染力をおよそ50%阻害する。試みた用量のうち低用量では阻害が少ないことから、当該効果は用量依存的であると考えられる。意義深いことに、高レベルでの阻害はリバビリン(100μg/ml)を超えるものであった。
実施例2
下記の賦形剤と混合することで、ハーブ抽出物を懸濁剤の剤形へ製剤化した。
【0069】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、PYN5CのSARS−CoV阻害作用を示す代表的なアッセイプレートのデジタル画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Scutellaria baicalensis、S. amoena、S. barbata、S. discolor、S. hypericifolia、S. inbica、S. likiangensis、S. orthocalyx、S. rehderiana、S. scssilifloraおよびS. viscidulaからなる群より選択されるスクテラリア属の種から得られる単一の生薬原薬(BDS)または1種以上の植物性成分の、SARS−CoV感染症患者を治療するための医薬の製造における使用。
【請求項2】
前記医薬がスクテラリア属種の全抽出物である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記医薬が1種以上の賦形剤をさらに含む、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
前記生薬原薬が標準化抽出物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記スクテラリア属種由来の生薬原薬が、バイカリンおよび/またはバイカレインのマーカーに対して標準化されたものである、請求項4記載の使用。
【請求項6】
前記標準化抽出物がエタノール抽出物を乾燥させたものである、請求項4または5記載の使用。
【請求項7】
前記標準化抽出物が凍結乾燥抽出物である、請求項4〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記医薬が植物薬である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記植物薬がサッシェに包装されている、請求項8記載の使用。
【請求項10】
前記植物薬が投薬容器と共に包装されている、請求項9記載の使用。
【請求項11】
前記投薬容器が密封可能な蓋を有する、請求項10記載の使用。
【請求項12】
前記賦形剤が、粒子の100重量%が60メッシュ篩を通過し、粒子の95重量%が80メッシュ篩を通過し、粒子の70重量%が200メッシュ篩を通過するような粒度分布を有する少なくとも1種のキサンタンガムを含む1種以上のゲル化剤または増粘剤と、1種以上の充填剤と、1種以上の湿潤剤または界面活性剤とを含む、請求項3記載の使用。
【請求項13】
スクテラリア属の種から得た前記1種以上の植物性成分が植物フラボノイドまたはその合成等価物である、請求項1記載の使用。
【請求項14】
前記植物フラボノイドが、バイカレイン、バイカリンおよびオウゴニンからなる群より選択されるものである、請求項13記載の使用。
【請求項15】
スクテラリア属の種から得られる植物性原料(BRM)、生薬原薬(BDS)または1種以上の植物性成分の、抗ウイルス医薬の製造における使用。
【請求項16】
前記抗ウイルス医薬が、プラス鎖RNAウイルス感染症の患者を治療するためのものである、請求項15記載の使用。
【請求項17】
前記医薬が、SARS−CoV感染症患者を治療するためのものである、請求項15または16記載の使用。
【請求項18】
スクテラリア属種を含む懸濁剤投与医薬。
【請求項19】
下記の属の種から得られる1種以上の植物性原料(BRM)、1種以上の生薬原薬(BDS)または1種以上の植物性成分の、SARS−CoVを治療するための植物薬(BD)または栄養補助食品の製造における使用:
a)スクテラリア;
b)ロニセラ;
c)レンギョウ;または
d)ヤマハッカ。
【請求項20】
懸濁剤粉末混合物であって、生薬として
全植物性原料の総重量に対して30〜70%の量(重量基準)のレンギョウ、
全植物性原料の総重量に対して12.5〜37.5%の量(重量基準)のロニセラ、および
全植物性原料の総重量に対して12.5〜37.5%の量(重量基準)のスクテラリア
を含み、賦形剤として
粒子の100重量%が60メッシュ篩を通過し、粒子の95重量%が80メッシュ篩を通過し、粒子の70重量%が200メッシュ篩を通過するような粒度分布を有する少なくとも1種のキサンタンガムを含む1種以上のゲル化剤または増粘剤と、1種以上の充填剤と、1種以上の湿潤剤または界面活性剤
を含む前記懸濁剤粉末混合物。
【請求項21】
レンギョウ、ロニセラおよびスクテラリア属種の各々の標準化抽出物を含む、請求項20記載の懸濁剤粉末混合物。
【請求項22】
レンギョウ属種が、フィリリンのマーカーに対して標準化されたものであり、
スクテラリア属種が、バイカリンおよびバイカレインのいずれか一方または双方のマーカーに対して標準化されたものであり、
ロニセラ属種が、クロロゲン酸および/またはカフェー酸のマーカーに対して標準化されたものである、請求項21記載の懸濁剤粉末混合物。
【請求項23】
SARS−CoVの治療に使用するための医薬の製造における、バイカリン、バイカレイン、クロロゲン酸、forsythiaside、カフェー酸およびフィリリンのうちの1種または複数種の使用。
【請求項24】
下記の属の種から得られる生薬原薬または植物性成分から本質的になる医薬:
a)スクテラリア;
b)ロニセラ;
c)レンギョウ;および
d)ヤマハッカ。
【請求項25】
患者に請求項1〜24のいずれか一項に記載の医薬を投与することを含む、SARS−CoVの治療方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−524709(P2007−524709A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−500294(P2007−500294)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【国際出願番号】PCT/GB2005/000714
【国際公開番号】WO2005/082388
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(506282263)ファイノバ・リミテッド (4)
【Fターム(参考)】