説明

SNAC(サルカプロザートナトリウム)の製造法

N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸合成のための改良された方法を開示する。ある種の化合物は、エステル加水分解反応に含ませたとき、着色不純物の形成を防止するのに役立つことが見出された。嫌気的条件でエステル加水分解を実施することは、着色不純物の形成を最小化することも見出された。N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸のナトリウム塩を合成するための改良された方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸およびそのナトリウム塩を合成するための新規な方法を提供する。
【0002】
N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸(SNAC)の一般的な製造は、米国特許第5,650,386号明細書ならびに国際公開第00/46182号および第00/59863号公報(WO 00/46182およびWO 00/59863)に提示されている。
【0003】
本明細書に用いられる用語「SNAC」は、N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸、ならびにその一ナトリウムおよび二ナトリウム塩をはじめとする、薬学的に許容され得るその塩を意味する。用語「SNAC遊離酸」は、N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸を意味する。別途指摘されない限り、用語「SNAC」は、SNACのすべての無定形および多形相をはじめとする、SNACのすべての形態、たとえばSNAC三水和物、ならびに米国特許願第60/619,418号および60/569,476号明細書(いずれも、必要な程度に、引用によって本明細書に援用される)に記載されたものを意味する。
【0004】
ビスホスホネートについての用語「治療有効量」は、化合物、または薬学的に許容され得るその塩の、疾患の症状を治療、予防、軽快もしくは改善するのに有効である、単独でか、または担体、たとえばSNACと併用してかの量を意味する。
【0005】
用語「約」または「ほぼ」は、当業者によって決定されるような特定の値についての、部分的にはその値が測定または決定される方法、すなわち測定系の限界に左右されることになる、許容され得る誤差範囲内を意味する。たとえば、「約」は、当技術における一つの実施あたり一つまたはそれ以上の標準偏差以内を意味することができる。あるいは、配合物についての「約」は、10%以下、好ましくは5%以下の範囲を意味することができる。
【0006】
SNACまたはその塩に適用される用語「胃腸管内でのビスホスホネートの吸収を、ビスホスホネートが治療上有効になるように促進するのに有効な量」は、胃腸管内でのビスホスホネートの吸収を増大させて、単剤投与して治療効果を達成する場合に必要とされるビスホスホネートの量に比してビスホスホネートの量を減少させるような、担体の量を意味する。
【0007】
用語「ビスホスホネートを単独で経口投与したときに、ビスホスホネートが治療上有効でない量で存在する」は、ビスホスホネートまたは薬学的に許容され得るその塩の、疾患の症状を治療、予防、軽快または改善するのに有効でない量を意味する。たとえば、骨粗鬆症の処置に治療上有効なイバンドロネート(ibandronate)の量は、遊離酸の重量によって測定される、毎日2.5mgまたは毎月150mgである。そのそれぞれの投与期間についての上記より少ないイバンドロネートの量は、治療上有効あるとは考えられないであろう。「ビスホスホネートを単独で経口投与したとき」とは、ビスホスホネートを、胃腸管内でのビスホスホネートの吸収を促進する薬剤と一緒には経口投与しないときを意味する。この用語は、乳糖一水和物、クロスカルメロースナトリウム、ポビドン、水、ステアリルフマル酸ナトリウムなどを非限定的に包含する、そのような配合物に通常は含まれる慣用の添加剤を排除しない。好ましい経口投与剤形は、錠剤、最も好ましくはポビドンを含有する錠剤である。
【0008】
薬学的に許容され得る担体、賦形剤等々のような、用語「薬学的に許容され得る」は、特定の化合物を投与しようとする対象者に薬学的に許容されることができ、かつ実質的に非毒性であることを意味する。
【0009】
用語「薬学的に許容され得る塩」は、本発明の化合物の生物学的な有効性および特性を保持し、適切で非毒性の有機もしくは無機酸または有機もしくは無機塩基から形成される、慣用の酸付加塩または塩基付加塩を意味する。例としての酸付加塩は、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸および硝酸のような無機酸から誘導されるもの、ならびにp−トルエンスルホン酸、サリチル酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸などのような有機酸から誘導されるものを包含する。例としての塩基付加塩は、アンモニア、カリウム、ナトリウム、およびたとえば水酸化テトラメチルアンモニウムのような第四級アンモニウム水酸化物から誘導されるものを包含する。薬学的化合物(すなわち薬物)から塩への化学的修飾は、改善された物理および化学的安定性、吸湿性、ならびに化合物の溶解度を得ようとする製薬化学者には周知の手法である。たとえば、H. Anselら、Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivary Systems(第6版、1995)の第196頁および第1456〜1457頁を参照されたい。
【0010】
用語「着色体(color-body)」は、物質に色彩を付与する不純物を意味する。着色体は、10億部あたり数部(数ppb)という少量で存在してよく、しかも物質の色彩に影響し得る。
【0011】
用語「プロドラッグ」は、生体内変換を受けてからその薬理学的効果を示す化合物を意味する。薬学的な問題を克服するための化学的修飾は、「薬物潜在化(drug latentiation)」とも呼ばれている。薬物潜在化は、生物学的活性を有する化合物を化学的に修飾して、生体内での酵素による攻撃を受けると親化合物を遊離するような、新たな化合物を形成することである。親化合物の化学的変化は、物理化学的特性の変化が吸収、分布および酵素的代謝に影響するような変化である。薬物潜在化の定義は、親化合物の非酵素的再生も包含するよう拡張されている。再生は、加水分解、解離、および必ずしも酵素が介在しないその他の反応の結果として生じる。プロドラッグ、潜在化された薬物、および生体内可逆的誘導体という用語は、相互可換的に用いられる。類推により、潜在化は、生物活性を有する親分子の生体内での再生に関わる時間差要素または時間的成分を暗示する。プロドラッグという用語は、潜在化された薬物誘導体はもとより、レセプターと結合する実際の物質へと投与後に変換される物質も包含するという点で、全般的である。プロドラッグという用語は、生体内変換を受けてからその薬理学的作用を示す薬剤に対する総称である。
【0012】
ある場合には、SNACの製造は、着色体を含む生成物へと導くことがある。これらの着色体の生成は、pH依存的ではないものと思われる。観察される桃色へと導く着色体の正体を決定するために、加水分解反応を4日間という長期間還流にて実施した。これによって、強い桃色のSNACの遊離酸が得られて、これをアセトンに溶解し、シリカゲルを通過させて、不純物の多少の分離を達成した。桃色の帯域を水中に抽出し、乾燥した。この材料を、分取高性能液体クロマトグラフィーによって更に分離した。ピークは、約724の分子量を有すると決定されたが、構造は、未だ解明されていない。本出願人は、痕跡的な金属および/または酸素が桃色の不純物の形成の原因であるとの仮説を立てている。EDTAを用いて桃色を回避するのに成功したことから、混入金属が何らかの役割を果たしていることが示唆される。アスコルビン酸(1%)、NaHSO3(1%)、PPh3(0.1%)のようなその他の抗酸化剤も、桃色の形成を防止するのに有効である。しかし、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)(1%)は、有効ではない。減圧、および加圧N2による3回の脱気は、桃色の回避とは整合しないことが判明している。沸騰水の使用による脱気は、桃色の回避に成功する。
【0013】
一般に、基本的に桃色を帯びないSNAC遊離酸を形成するには、2,4−ジオキソ−1,3−ベンゾオキサジニルオクタン酸エチルエステルを、水中で、EDTA、たとえば0.001当量のEDTAの存在下、高い温度、たとえば約98℃で水酸化ナトリウム(40%水溶液として)と反応させることができる。反応が完了した後、反応混合物を、室温まで冷却し、次いで、約4当量のHClおよびアセトンの約20℃の予め混合した混合物を含む別のフラスコに仕込むことができる。次いで、水酸化ナトリウム、たとえば20%NaOHの溶液を、得られたスラリーに加えて、pHを約4.5に調整することができる。次いで、スラリーを、たとえば約60℃に、たとえば0.5時間加熱することができ、次いでその後、室温まで冷却し、たとえば4時間熟成させることができる。次いで、スラリーを、濾過し、水洗し、高真空中、高い温度、たとえば約80℃で乾燥して、SNAC遊離酸を得ることができる。
【0014】
あるいは、反応を上記のように実行するが、EDTAの使用に代えて、アスコルビン酸、NaHSO3またはトリフェニルホスフィンを用いることができる。またあるいは、プロセス水を沸騰させてから、加水分解反応に用いることができる。
【0015】
こうして、本発明は、N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸を、着色不純物のそこでの生成を回避または低減しつつ合成するための新規な方法であって、2,4−ジオキソ−1,3−ベンゾオキサジニルオクタン酸エチルエステルを水酸化ナトリウム、水、およびエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、アスコルビン酸、NaHSO3およびトリフェニルホスフィンからなる群から選ばれる一員と混合することによって、2,4−ジオキソ−1,3−ベンゾオキサジニルオクタン酸エチルエステルを加水分解して、反応混合物を生成する工程を含む方法を提供する。
【0016】
本発明は、N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸を、着色不純物のそこでの生成を回避または低減しつつ合成する、新規な方法であって、2,4−ジオキソ−1,3−ベンゾオキサジニルオクタン酸エチルエステルを水酸化ナトリウムおよび予め沸騰させた水と混合することによって、2,4−ジオキソ−1,3−ベンゾオキサジニルオクタン酸エチルエステルを加水分解して、反応混合物を得る工程を含む方法も提供する。
【0017】
更なる実施態様では、上に提示したSNAC遊離酸を製造する方法は、アセトンおよび塩酸を反応混合物と混合する工程も含む。
【0018】
SNACナトリウム塩を製造するには、SNAC遊離酸を、たとえば、2−プロパノール中の約1.02当量の水酸化ナトリウム(20%NaOHの溶液として)と約40℃で反応させることができる。添加が完了した後、反応混合物を、たとえば約50℃に加熱し、たとえば約35℃まで冷却することができ、そうして、種晶とともに仕込むことができる。約35℃で約1時間撹拌した後、懸濁液が形成されるはずであって、これを、たとえば約30℃まで徐々に冷却することができ、約30℃で約1時間保持して、濃密な懸濁液を得ることができる。約30℃で更に2−プロパノールを加えてもよく、次いで、得られたスラリーを、約0℃まで徐冷し、少なくとも4時間熟成させてもよい。次いで、スラリーを、濾過し、2−プロパノールおよび水の混合溶媒(約10:1体積比)で洗浄し、高真空中、約90℃で乾燥して、単一モードの粒度分布を有するSNACナトリウム塩を得ることができる。
【0019】
したがって、本発明は、N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸ナトリウム塩を合成する方法であって、2−プロパノールに懸濁させたN−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸を水性水酸化ナトリウムと混合して、N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸ナトリウム塩の溶液を形成する工程を含む方法も提供する。特に、この方法は、本発明の方法に従って生成されたN−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸を用いるため、最終的なN−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸ナトリウム塩の生成物は、着色体不純物が低減されているか、または不在である。
【0020】
もう一つの実施態様では、N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸ナトリウム塩を合成するための上に提示した方法は、N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸ナトリウム塩の溶液に更に2−プロパノールを加え、N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸ナトリウム塩の溶液に結晶N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸ナトリウム塩を種晶添加して、溶解したN−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸ナトリウム塩を溶液から沈澱させ、次いで、より多くの2−プロパノールを溶液に加えて、単一モードの粒度分布を有するSNACナトリウム塩を得る工程を含む。
【0021】
本発明は、経口投与のための固体の医薬剤形であって、単独で経口投与したときに治療上有効でない量で存在する、ビスホスホネートまたは薬学的に許容され得るその塩と;胃腸管内でのビスホスホネートの吸収を、ビスホスホネートが治療上有効になるように促進するのに有効な量で存在する、本明細書に開示された方法に従って製造されたSNACとを含む医薬剤形も提供する。ビスホスホネート対SNACの比率は、それぞれ、1:30〜約1:1である。これらの新規な固体医薬剤形は、骨再吸収の増大を特徴とする骨疾患、たとえば骨粗鬆症、および癌の高カルシウム血症の処置または制御はもとより、そのような疾患に伴う疼痛の処置または制御にも有用である。本発明は、該固体医薬剤形を用いてそのような疾患を処置する方法、および該医薬剤形を調製する方法も提供する。
【0022】
ビスホスホネートを本明細書に記載の本発明に従って生成されたSNACとともに経口投与することは、ビスホスホネートの単独での経口投与に比してビスホスホネートのバイオアベイラビリティの上昇をもたらし、そのためにビスホスホネートの投与量を低減するが、依然としてビスホスホネートの同等の薬効を達成するのを可能にする。SNACと一緒のビスホスホネートの経口投与は、ビスホスホネート摂取前の約2時間という絶食期間の短縮をもたらすことができ、ビスホスホネート摂取後の約30〜60分という端座または直立の期間を短縮すると期待される。
【0023】
上に説明したとおり、本発明は、経口投与のための新規な固体の医薬剤形であって、単独で経口投与したときに治療上有効でない量で存在するビスホスホネート、または薬学的に許容され得るその塩と;胃腸管内でのビスホスホネートの吸収を、ビスホスホネートが治療上有効になるように促進するのに有効な量で存在する、本発明の方法に従って製造されたSNACまたは薬学的に許容され得るその塩とを含む医薬剤形を提供する。ビスホスホネート対SNACの比率は、それぞれ、約1:30〜約1:1である。該剤形は、哺乳動物、たとえばヒトに投与し得る。
【0024】
本発明におけるビスホスホネートは、非常に多様なビスホスホネートおよび薬学的に許容され得るその塩から選ばれ得る。ビスホスホネートは、式:(HO)2(O)P−C(R1)(R2)−P(O)(OH)2で表され得る。上記式中、R1は、OH、ClおよびHからなる群から選ばれてよく;R2は、(CH23NH2、Cl、CH2−1−ピロリジニル、CH3、CH2CH2N(CH3)(CH2CH2CH2CH2CH3)、N−シクロヘプチル、H、(CH25NH2、(CH22N(CH32、(CH22NH2、CH2−3−ピリジニル、S−4−クロロフェニル、CH2−2−イミダゾ−ピリジニルおよびCH2−2−イミダゾリルからなる群から選ばれてよい。ビスホスホネートの例示的で非限定的な例は、アレンドロネート[Fosamax(登録商標)、R1=OH、R2=(CH23NH2]、クロドロネート(clodronate)[R1=Cl、R2=Cl]、EB−1053[R1=OH、R2=CH2−1−ピロリジニル]、エチドロネート[Didrocal(登録商標)、R1=OH、R2=CH3]、イバンドロネート[Boniva(登録商標)、R1=OH、R2=CH2CH2N(CH3)(CH2CH2CH2CH2CH3)]、インカドロネート[R1=H、R2=N−シクロヘプチル]、メドロネート(medronate)[R1=H、R2=H]、ネリドロネート(neridronate)[R1=OH、R2=(CH25NH2]、オルパドロネート(olpadronate)[R1=OH、R2=(CH22N(CH32]、パミドロネート[アレディア(登録商標)、R1=OH、R2=(CH22NH2]、リセドロネート[アクトネル(登録商標)、R1=OH、R2=CH3−3−ピリジニル]、チルドロネート(tiludronate)[Skelid(登録商標)、R1=H、R2=S−4−クロロフェニル]、YH529[R1=OH、R2=CH2−2−イミダゾ−ピリジニル]、およびゾレドロネート[ゾメタ(登録商標)、R1=OH、R2=CH2−2−イミダゾリル]を包含する。特に、ビスホスホネートは、アレンドロネートもしくはイバンドロネート、または薬学的に許容され得るその塩である。最も格別には、ビスホスホネートは、イバンドロネートまたは薬学的に許容され得るその塩である。
【0025】
イバンドロネートは、米国特許第4,927,814号明細書に開示されている(該開示は、引用によって本明細書に援用される)。イバンドロネートは、下式で示され得る:
【0026】
【化1】

【0027】
イバンドロネートは、ナトリウム塩、3−(N−メチル−N−ペンチル)アミノ−1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸、一ナトリウム塩、一水和物(Boniva(登録商標))として商業化されている。イバンドロネートは、C922NO72Na・H2Oという分子式、および359.24という分子量を有する。イバンドロン酸ナトリウムは、白色ないし黄白色の粉末であって、水に自由に可溶性であり、有機溶媒には実際的に不溶性である。
【0028】
ビスホスホネート対SNACの比率は、経口投与されたビスホスホネートの胃腸管内での吸収が、単独で経口投与されたときのビスホスホネートの吸収のそれより促進されるような比率である。本発明によるビスホスホネート対SNACの比率は、限度内で変動し得る。ビスホスホネート対SNACの比率は、投与される特定のビスホスホネート、用いられる特定のSNAC、処置しようとする条件ならびに処置しようとする患者をはじめとする、個々の症例のそれぞれにおける要件に調整され得る。ビスホスホネート対SNACの比率は、好ましくは、経口投与されたビスホスホネートの胃腸管内での吸収が、単独で経口投与されたときのビスホスホネートのそれより少なくとも2倍、好ましくは3倍、より好ましくは4倍、最も好ましくは5倍も多くなるような比率である。概して、ほぼ70kgの体重のヒト成人への経口投与の場合、薬学的組成物中の遊離酸としての各化合物の重量で測定される限りでのビスホスホネート対SNACの比率は、それぞれ、約1:30〜約1:1、好ましくは約1:20、より好ましくは約1:10、最も好ましくは約1:5である。
【0029】
本発明のビスホスホネートの治療上有効な量または投与量は、広い限度内で変動することができる。そのような投与量は、処置しようとする条件、処置しようとする患者ならびに投与しようとする具体的なビスホスホネートをはじめとする、個々の症例のそれぞれにおける個別的要件に調整されることになる。
【0030】
たとえば、骨粗鬆症の処置のためのイバンドロネートの推奨される経口投与量は、ほぼ70kgの体重のヒト成人に単剤投与するときは、毎日1回2.5mgまたは毎月1回150mgである。本発明では、骨粗鬆症の処置のためのイバンドロネートの日次投与量は、SNACとともに投与するときは、約1.25〜約0.25mg、好ましくは約1〜約0.4mg、より好ましくは約0.65〜約0.5mg、最も好ましくは約0.5mgに低減される。骨粗鬆症の処置のためのイバンドロネートの月次投与量は、SNACとともに投与するときは、約75〜約15mg、好ましくは約60〜約25mg、より好ましくは約40〜約30mg、最も好ましくは約30mgに低減される。
【0031】
癌の高カルシウム血症の処置、または転移性骨痛の処置のためのイバンドロネートの推奨される経口投与量は、ほぼ70kgの体重のヒト成人に単剤投与するときは、毎日1回50mgである。本発明では、癌の高カルシウム血症の処置、または転移性骨痛の処置のためのイバンドロネートの日次投与量は、SNACとともに投与するときは、約25〜約5mg、好ましくは約20〜約8mg、より好ましくは約13〜約10mg、最も好ましくは約10mgに低減される。
【0032】
癌の高カルシウム血症の処置、または転移性骨痛の処置のために予測されるイバンドロネートの経口投与量は、ほぼ70kgの体重のヒト成人に単剤投与するときは、毎週350mgである。本発明では、癌の高カルシウム血症の処置、または転移性骨痛の処置のために予測されるイバンドロネートの週間投与量は、SNACとともに投与するときは、約175〜約35mg、好ましくは約140〜約56mg、より好ましくは約90〜約70mg、最も好ましくは約70mgに低減されることが期待される。
【0033】
本発明の医薬剤形は、投与の前にビスホスホネートをSNACと単純に混合することによって調製し得る。この剤形は、投与の直前に、ビスホスホネートの水溶液をSNACと混合することによって調製してもよい。溶液は、場合により、乳糖一水和物、クロスカルメロースナトリウム、ポビドン、水、ステアリルフマル酸ナトリウムなどのような添加剤を含有し得る。好ましくは、該固体医薬剤形は、ビスホスホネートをSNACと密に接触させることによって調製する。
【0034】
該剤形は、好ましくは、錠剤またはカプセル剤の形態をなす。一実施態様では、該剤形は、錠剤であり、ポビドンを含む。もう一つの実施態様では、該剤形は、カプセル剤であり、ポビドンを含む。ポビドンは、好ましくは、組成物全体の重量にして約2〜約30%、好ましくは約10〜約20%、最も好ましくは約12〜約15%の量で該剤形中に存在する。
【0035】
またSNACは、ビスホスホネートを含有するミクロスフィア(微小球体)を形成するのに用いてもよい。ミクロスフィアは、胃腸管を通過しないか、または断片的にのみ通過するにすぎないか、あるいは胃腸管内での酵素的切断を受けやすい、活性薬剤の経口投与に特に役立つ。ミクロスフィアを調製する方法は、公知であるか、またはたとえば米国特許第5,650,386号明細書に開示されている(該開示は、引用によって本明細書に援用される)。
【0036】
もう一つの実施態様では、本発明は、骨粗鬆症を処置する方法であって、それを必要とする対象者に、本発明の新規な固体医薬剤形を経口投与することを含む方法を提供する。更にもう一つの実施態様では、本発明は、癌の高カルシウム血症を処置する方法であって、それを必要とする対象者に、本発明の新規な固体医薬剤形を経口投与することを含む方法を提供する。また更にもう一つの実施態様では、本発明は、転移性骨痛を処置する方法であって、それを必要とする対象者に、本発明の新規な固体医薬剤形を経口投与することを含む方法を提供する。上記の方法に用いられる剤形は、含有する。
【0037】
また更にもう一つの実施態様では、本発明は、経口投与のための固体医薬剤形を製造する方法であって、
(a)単独で経口投与したときに治療上有効でない量で存在するビスホスホネート、または薬学的に許容され得るその塩と;
(b)胃腸管内でのビスホスホネートの吸収を、ビスホスホネートが治療上有効になるように促進するのに有効な量で存在する、本発明の方法に従って製造されたSNACと
を混合する工程を含んで、ビスホスホネート対SNACの比率が、それぞれ、約1:30〜約1:1である方法を提供する。
【0038】
本発明の方法を立証することを目的とするが、限定することを目的とはせずに、実施例を提示する。
【0039】
実施例
実施例1:SNAC遊離酸の生成
スキーム1:
【0040】
【化2】

【0041】
機械的撹拌機、熱電対、冷却器および追加の漏斗を備えた、乾燥した清浄な500ml入りの、半ば被覆した四つ口丸底フラスコに、水153g、EDTA22mg(0.08mmol)、および2,4−ジオキソ−1,3−ベンゾオキサジニルオクタン酸エチルエステル30g(76.49mmol)を仕込んだ。混合物を、20±5℃で30分間撹拌した。次いで、40%NaOH溶液29.22g(292.18mmol)を混合物に加えた。混合物を、〜97℃に加熱し、20時間保った。次いで、混合物を20±5℃に冷却した。このバッチを追加の漏斗に仕込み、フラスコにアセトン29g、および31%HCl36.25gを仕込んだ。第一のフラスコ内のバッチを、温度を<30℃に維持しつつ、40分間にわたってアセトン/HCl溶液に移した。移転の後、バッチのpHを、20%NaOH溶液を用いて〜4.5に調整した。混合物を、〜60℃に加熱し、0.5時間保ち、次いで20±5℃に冷却した。バッチを、少なくとも2時間20±5℃に保った。固体を、濾過し、水洗し、減圧下で一晩80±5℃で乾燥して、SNAC遊離酸20.4g(収率95%)を得た。
【0042】
実施例2:SNACナトリウム塩の形成
スキーム2:
【0043】
【化3】

【0044】
機械的撹拌機、熱電対、追加の漏斗および冷却器を備えた、1L入りの、半ば被覆した四つ口丸底フラスコに、SNAC遊離酸46.35g(165.9mmol)、およびiPrOH180mlを仕込み、室温(rt)で撹拌した。この懸濁液を40℃に加熱した。得られた懸濁液に、20%NaOH溶液33.84g(169.2mmol)を30分間にわたって加えた。懸濁液は、塩基の約半量を加えただけで清澄な溶液になった。塩基の全量を加えた後は、この清澄溶液は、pH=9.0であった。次いで、反応温度を50℃に上げ、50℃で30分間撹拌した。ほとんど無色の清澄溶液を、1時間で35℃に冷却した。次いで、清澄溶液に、結晶したSNACナトリウム塩100mg(0.33mmol)を種晶添加し、35℃で1時間撹拌した。清澄溶液は、乳白色の明るい懸濁液になった。懸濁液を1時間で30℃に更に冷却し、30℃で1時間保ち、非常に濃い白色懸濁液になった。i−PrOH180mlを1時間にわたって加えた。添加の間は、内部温度を30℃に保った。添加の後、撹拌は、実際にはより容易になった。次いで、懸濁液を、1時間で0℃に冷却し、この温度で18時間熟成させた。固体を、粗い焼結ガラス漏斗上で濾過し、濾過は、非常に速やかであった。固体を、1時間空気乾燥した。得られた白色固体を、結晶皿に移し、35℃で6時間、更に18時間は窒素を注ぎつつ90℃で乾燥した。これを、オーブン内で、減圧下(40℃未満であることが必要)、室温まで冷却してから、オーブンから取り出した。合計46.8g(収率93.6%)の白色固体を捕集して、これが、単一モードの粒度分布を有する無水SNACナトリウム塩であることが判明した。含水量は、カールフィッシャー滴定によって判定した限りで0.52%であることが判明した。塩の水溶液は、pH=7.0であった。含水量は、水分のレベルが1%未満、好ましくは0.5%未満であるのを確保するために、乾燥工程の間注意深く追跡することが必要である。濾過の前に、反応の内容物を、0℃で一晩熟成させてもよい。品質低下は全く観察されなかった。単一モードの無水SNACナトリウム塩なる生成物は、三水和物形態のそれより有意に高い、優れた水溶性を有した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸を合成する方法であって、
2,4−ジオキソ−1,3−ベンゾオキサジニルオクタン酸エチルエステルを水酸化ナトリウム、水、およびエチレンジアミンテトラ酢酸、アスコルビン酸、NaHSO3およびトリフェニルホスフィンからなる群から選ばれる一員と混合することによって、2,4−ジオキソ−1,3−ベンゾオキサジニルオクタン酸エチルエステルを加水分解する工程を含む方法。
【請求項2】
N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸を合成する方法であって、
2,4−ジオキソ−1,3−ベンゾオキサジニルオクタン酸エチルエステルを水酸化ナトリウムおよび予め沸騰させた水と混合することによって、2,4−ジオキソ−1,3−ベンゾオキサジニルオクタン酸エチルエステルを加水分解する工程を含む方法。
【請求項3】
アセトンおよび塩酸を、水酸化ナトリウム、水、およびエチレンジアミンテトラ酢酸、アスコルビン酸、NaHSO3およびトリフェニルホスフィンからなる群から選ばれる一員とともに該2,4−ジオキソ−1,3−ベンゾオキサジニルオクタン酸エチルエステルと混合する工程を更に含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
アセトンおよび塩酸を、水酸化ナトリウムおよび予め沸騰させた水とともに該2,4−ジオキソ−1,3−ベンゾオキサジニルオクタン酸エチルエステルに加える工程を更に含む、請求項2記載の方法。
【請求項5】
N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸ナトリウム塩を合成する方法であって、
2−プロパノールに懸濁させたN−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸を水性水酸化ナトリウムと混合して、N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸ナトリウム塩の溶液を形成する工程を含む方法。
【請求項6】
該溶液に2−プロパノールを更に加え、該N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸ナトリウム塩の溶液に結晶N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸ナトリウム塩を種晶添加して、該N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸ナトリウム塩を該溶液から沈澱させ、次いで、より多くの2−プロパノールを該溶液に加える工程を更に含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
該結晶N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸ナトリウム塩が無水N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸ナトリウム塩である、請求項5記載の方法。
【請求項8】
該N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸が、該2,4−ジオキソ−1,3−ベンゾオキサジニルオクタン酸エチルエステルをエチレンジアミンテトラ酢酸、アスコルビン酸、NaHSO3およびトリフェニルホスフィンのうち少なくとも一つの不在下で加水分解した場合より少ない桃色の着色体を含有する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
該N−(8−[2−ヒドロキシベンゾイル]アミノ)カプリル酸が、該2,4−ジオキソ−1,3−ベンゾオキサジニルオクタン酸エチルエステルを予め沸騰させなかった水中で加水分解した場合より少ない桃色の着色体を含有する、請求項1記載の方法。

【公表番号】特表2010−502667(P2010−502667A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527117(P2009−527117)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際出願番号】PCT/EP2007/059037
【国際公開番号】WO2008/028859
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【出願人】(504209183)エミスフィアー テクノロジーズ インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】