説明

SNPs解析装置、およびSNPs解析方法

【課題】電気泳動を行った結果からSNPs判定を行う際に、ノイズによるピークと、DNAによるピークとを区別することが困難であった。
【解決手段】泳動中に複数回測定したデータを2値化し、同じ場所に現れるピークをノイズと認識する。また、電気泳動によりDNAによるピークが移動する位置を想定し、任意の1サイクルの走査データと該サイクルの次の1サイクルでの走査データのピーク位置が、所定の移動距離の範囲に入っていない場合に、該ピーク位置をノイズと判定する。これにより、ノイズを減らし、正確なSNPs判定を行うことが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA、RNA、タンパク質、糖類その他のあらゆる生体試料を導電性媒体中で電気泳動により分離・分析する場合において、目的とする生体試料の泳動状態および泳動位置を正確に判別することのできるSNPs解析装置、およびSNPs解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な生体試料を考えた場合、代表的なものとして、DNA、RNAおよびタンパク質が存在する。近年、分子生物学の急速な進展によって、様々な疾患において遺伝子の関与がかなり正確に理解されるようになり、遺伝子をターゲットにした医療に注目が集まるようになってきた。DNAに関しては、現在SNPs(SINGLE NUCLEOTIDE POLYMORPHISMSの略で「1塩基多型」と一般に訳されており、遺伝子における1暗号(1塩基)の違いの総称である。)が注目されている。その理由としては、SNPsの分類により、多くの疾患に対する罹患率や各個人の薬剤に対する効果や副作用をあらかじめ予測でき、さらには、地球上に親子兄弟といえども全く同じSNPsを持つ人間は絶対に存在しないことから個人の完全な特定ができると考えられているからである。
【0003】
現在SNPsを調べる方法としては、DNAの塩基配列を端から直接読んでいくシーケンシング(塩基配列の決定方法)が最も一般的に用いられている。そして、前記シーケンシングを行う方法としては、いくつかの報告があるが、もっとも一般的に行われているのは、ジデオキシシーケンス法(SANGER法)である。
【0004】
なお、このシーケンシングは、このSANGER法を含め何れの方法においても、分離能の高い変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動か、キャピラリー電気泳動によって1塩基の長さの違いを分離・識別する技術が基になって成り立っている。そして、このようなシーケンシングによるSNPsの解析は、ターゲットとする遺伝子を単離した後、増幅・精製し、遺伝子の塩基配列決定法(装置)を用いて、目的遺伝子の塩基配列を読むことによって行うものであるため、実験に膨大な作業量と時間、さらには多大のランニングコストを要し、またその際に使用する塩基配列決定のための自動化装置は、非常に高価で、大きなスペースを占有し、高価な試薬を大量に必要とする、という問題を有している。
【0005】
こうした問題点は、アフィニティキャピラリー電気泳動によってDNAを分離する方法を用いればほぼ解決できる。アフィニティキャピラリー電気泳動は、分子間親和力、とくに生態系における特異的親和力(DNAとそれを相補するDNA、DNAとそのDNAから転写されたRNA、酵素と基質、抗原と抗体の親和力等)を利用して分離に特異性を持たせるものであり、具体的には、キャピラリー管中の泳動溶液に、相互作用する二成分のうちの一方を添加しておき、他方の成分を電気泳動させると、試料混合物中で相互作用する分子種だけが移動速度に変化を生じることに着目して分析を行うものである(特許文献1参照)。
【0006】
ここで、従来のアフィニティキャピラリー電気泳動では、塩基配列を特異的に認識するアフィニティ物質として、被検体DNAの塩基配列と相補的関係にある1本鎖DNAを使うが、ポリヌクレオチドを成分とするDNAは負電荷を有しているため、電圧を印加すると、このアフィニティ物質として用いているDNAがキャピラリー外に流出してしまう。これを防ぐため、従来では、アフィニティのために用いるDNAである、前記被検体DNAの塩基配列と相補的関係の1本鎖DNAを、キャピラリー内に固定化している。そして、固定化の方法としては、ビニル化DNAをリニアポリマー化したポリアクリルアミドと共重合し、それをキャピラリー内壁に共有結合的に固定化するものが提案されている。これにより、前記被検体DNAは、アフィニティ物質である固定的オリゴヌクレオチド(DNA)と強く相互作用してキャピラリー内に吸着され、一方ノイズDNAは該固定的オリゴヌクレオチド(DNA)に吸着されずキャピラリー外に流出され、この結果、前記被検体DNAを検出することが可能となる(特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、この方法では、アフィニティのために用いるDNA(以下:アフィニティDNA)がキャピラリー内壁にしか固定化できないので、アフィニティDNAと試料DNAとの相互作用が壁面近傍に限られ、測定が難しく、且つ測定精度が悪くなるという問題がある。
【0008】
そこで、本件出願人は、アフィニティDNAと試料との相互作用が壁面近傍に限られないように、該アフィニティDNAをキャピラリー内で擬似的に固定する方法を開発し、それぞれ電極を配置した第1容器と第2容器間を、リニアポリマーとDNA結合制御剤とを含む緩衝液を充たしたキャピラリー管で連絡し、次いで、このキャピラリー管の緩衝液の中に、該DNA試料に含まれる異常DNAに水素結合可能な塩基配列を結合したリニアポリマーからなる分離用DNAコンジュゲートを充填した後、続いて被検体であるDNA試料を充填し、その後、両電極間に電圧を印加して、キャピラリー管内の被検体DNA試料を電気泳動させることで、該DNA試料を分離する遺伝子診断装置および遺伝子診断方法を提案している(特許文献2参照)。
【0009】
以下、アフィニティDNAをキャピラリー内で擬似的に固定する方法について説明すると、DNAは二本鎖を形成するものと、一本鎖を形成するものとが存在するが、DNAのもつA,T,C,G4つの塩基は互いにAとT、GとCが結合し、ペアを形成する性質を有しており、DNAの二本鎖においてもAT,GCで対をなしている。従って、一方のDNAがATCGCGTと配列されている場合、他方のDNAはTAGCGCAという塩基配列をもっている。
【0010】
DNA試料を分離する分離用DNAコンジュゲートは、前述したようなDNAの相補的関係を利用するために、該分離用DNAコンジュゲートのDNA部分に、DNA試料の異常DNAと相補的関係をもつDNA配列を与えている。例えば、DNA試料の異常DNAのDNA配列がATCCGTを含み、正常DNAがATCCGTを含む場合、下線で示した部分で、異常DNAと正常DNAの塩基が異なっている。
【0011】
このとき、分離用DNAコンジュゲートのDNA部分の配列をTAGCGCAとすると、正常DNAは下線部においてDNAコンジュゲートと相補的ではなくなる。これにより、全体の結合力は異常DNAの方が正常DNAより1塩基分大きくなり、電気泳動時に異常DNAの方が正常DNAより遅延して泳動される。DNA試料は血液などから、細胞を破壊してDNAを抽出し、PCRなどによって目的のDNA配列を含む部分を増幅する。このとき、所定の塩基数にして増幅すると、相補的配列を持つDNAコンジュゲートの塩基数も決定できる。
【0012】
前述した方法によれば、負に帯電した分離用DNAコンジュゲートとDNA試料とを、電気泳動させる際に、アフィニティDNAと被DNA検体との相互作用が壁面近傍に限られないように擬似的に固定し、そのDNA試料の移動速度差から、該正常DNAと異常DNAとを分離することができ、この結果、SNPsの遺伝子異常を、短時間、且つ簡単、正確に判別することが可能になる。
【0013】
しかし、前述した特許文献2の遺伝子診断装置および診断方法においては、リニアポリマーとDNA結合制御剤とを含む緩衝液を充たしたキャピラリー管に、分離用DNAコンジュゲートとDNA試料とを充填する必要がある。このように、キャピラリー管1本1本に、分離用DNAコンジュゲートとDNA試料を充填するのは面倒な作業であるが、この問題に対しては、特許文献3に記載されているように、プラットホームであるプレートに微細な流路を形成し、該プレートの回転速度を変化させることで、該回転から生じる向心力を変化させて試料を移動させるという方法が提案されている。
【0014】
以上で説明した方法により、DNA試料を分離し、流路と相対的に移動するようにした光学検出部により前記DNA試料の蛍光度を検出することで、SNPsの有無を判定することができる装置を構成することができる。
【特許文献1】特開平7−311198号公報
【特許文献2】特開2002−340859号公報
【特許文献3】特開2003−28883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記した従来の方法では、測定されたデータにノイズが含まれており、DNA試料によるピークと、その他の原因によるノイズとを区別することができず、正確な判定が行えない場合がある、という課題を有していた。
【0016】
また、実際の測定においては、上記のノイズに加えて、プライマーと呼ばれるPCRの残物が加わり、さらにDNA試料によるピークの特定が困難になる、という課題を有していた。
【0017】
この発明は、上記のような従来の問題点に鑑みてなされたもので、ノイズを減らし、正確なSNPs判定を行うことのできるSNPs解析装置、およびSNPs解析方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1にかかるSNPs解析装置は、微細流路と、前記微細流路に電圧を印加する電極と、前記微細流路よりの光を検知する光検出器と、前記微細流路に対して前記光検出器を前記微細流路上で走査させる走査機構と、前記検出したデータを表示する表示部とを備えたSNPs解析装置において、前記光検出器を走査しながら該光検出器で連続的に検出して得られたデータを保存する1サイクルの工程を一定時間間隔で行い、前記保存したデータを所定の閾値で2値化し、前記各サイクルの連続したデータのピークの位置を比較し、所定回数の走査データにおいて同じ位置にピークがある場合に該ピークをノイズと判定する、ことを特徴とする。
【0019】
これにより、流路の形状による検出信号のノイズや、流路に付着した付着物によるノイズを除去し、SNPsの正確な判定を行うことができる。
【0020】
本発明の請求項2にかかるSNPs解析装置は、微細流路と、前記微細流路に電圧を印加する電極と、前記微細流路よりの光を検知する光検出器と、前記微細流路に対して前記光検出器を前記微細流路上で走査させる走査機構と、前記検出したデータを表示する表示部とを備えたSNPs解析装置において、前記光検出器を走査しながら該光検出器で連続的に検出して得られたデータを保存する1サイクルの工程を一定時間間隔で行い、前記保存したデータを所定の閾値で2値化したデータにおいて、任意の1サイクル時の走査データと該サイクルの次の1サイクル時での走査データのピーク位置が所定の移動距離に入っていない場合に、該ピーク位置をノイズと判定する、ことを特徴とする。
【0021】
これにより、DNA試料が電気泳動する際に移動する速度を想定できることを利用して、光検出器の位置のズレ等によるノイズを除去し、SNPsの正確な判定を行うことができる。
【0022】
本発明の請求項3にかかるSNPs解析方法は、請求項1に記載のSNPs解析装置における解析方法において、前記光検出器を走査しながら該光検出器で連続的に検出して得られたデータを保存する1サイクルの工程を一定時間間隔で行う工程と、前記保存したデータを所定の閾値で2値化する工程と、前記各サイクルの連続したデータのピークの位置を比較し、所定回数の走査データにおいて同じ位置にピークがある場合に該ピークをノイズと判定する工程とを含む、ことを特徴とする。
【0023】
これにより、流路の形状による検出信号のノイズや、流路に付着した付着物によるノイズを除去し、SNPsの正確な判定を行うことができる。
【0024】
さらに、本発明の請求項4にかかるSNPs解析方法は、請求項2に記載のSNPs解析装置における解析方法において、前記光検出器を走査しながら該光検出器で連続的に検出して得られたデータを保存する1サイクルの工程を一定時間間隔で行う工程と、前記保存したデータを所定の閾値で2値化する工程と、前記保存したデータを所定の閾値で2値化したデータにおいて、任意の1サイクル時の走査データと該サイクルの次の1サイクル時での走査データのピーク位置が所定の移動距離の範囲に入っていない場合に、該ピーク位置をノイズと判定する工程とを含む、ことを特徴とするSNPs解析方法。
【0025】
これにより、DNA試料が電気泳動する際に移動する速度を想定できることを利用して、光検出器の位置ズレ等によるノイズを除去し、SNPsの正確な判定を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のSNPs解析装置、及び解析方法によれば、電気泳動で得られた波形データから、泳動時間に係らず、同じ位置にあるピークをノイズと判定するため、従来では、流路の形状によるノイズや、流路に付着した付着物によるノイズが原因で、SNPsの判定が困難であったものを、該ノイズを除去することにより、SNPsを容易かつ正確に判定することができる。また、電気泳動する際に、DNA試料の移動速度を想定できることを利用して、任意の1サイクルの走査データと該サイクルの次の1サイクルでの走査データのピーク位置が所定の移動距離の範囲に入っていない場合に、該ピーク位置をノイズと判定するため、従来では、試料内に含まれるプライマーなどによるノイズや、光検出部の位置のズレによるノイズが原因で、SNPsの判定が困難であったものを、該ノイズを除去することにより、SNPsを容易かつ正確に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(実施の形態1)
以下に、本発明の実施の形態を、図面とともに詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態1によるSNPs解析装置を構成する電気泳動装置100の概略構成を示した図である。
【0028】
本実施の形態1のSNPs解析装置を構成する電気泳動装置100は、本体1、上蓋2、及び検査プレート3により構成され、検査プレート3は、2本の嵌合ピン4で回転体35と固定される。固定された検査プレート3は、ステッピングモータ5を動力源とする回転機構6によって、検査プレート3を回転制御することが可能である。該回転機構6の動力としては、DCモータ、あるいは他の駆動機構を使用することができる。検査プレート3の下には、光検出部7が備えられており、検査プレート3に対する光源の照射と、検査プレート3からの蛍光とを検出する。検査プレート3を測定する方法としては、発光、蛍光、吸光度などを測定することができる。
【0029】
また、検査プレート3が装着された空間8は、上蓋2を閉めた状態で気密性が高くなる構成となっており、該空間8は、温度制御機能を有するペルチェ素子やヒーター等の加熱冷却デバイス9とサーミスタ10とを用いて温度制御が可能となっている。それらを制御することによって、該空間8を検査プレート3に対して一定温度に制御することができる。
【0030】
また、上蓋2には、電圧印加手段11を備えている。電圧印加手段11は、電極基板ユニット12に装着されたプラスと、マイナスの電極プローブ13からなり、DCモータ14と、圧縮バネ15とを用いて昇降する。マイナス電極プローブ13は、電流検出機構16を備えており、電気泳動中の電流値を測定することが可能である。電極プローブ13は、1微細流路につきプラスとマイナスの電極プローブ13を1セットとして、微細流路の数に対応した数を装着しており、各電極プローブ13において印加電圧を変更することが可能な構成となっている。
【0031】
図2は、図1の構成において上蓋2を開けた状態を示し、この状態で検査プレート3を脱着する。検査プレート3の脱着は、上蓋2と本体1を一体型の装置とし、光ディスク装置に代表されるような、トレイにプレートを乗せて脱着する方式とすることができ、あるいは、スロットインの方式にしてもよい。
【0032】
次に、図3は、検査プレート3を上から見た概略構成を示した図である。
検査プレート3は、2本の嵌合ピンを接続するための接続穴26が開いており、その接続穴26と、プレートの角を落とした位置あわせ部17とで、本体との取り付け方向を固定し、表裏が逆にならない構造にしている。検査プレート3には、複数の検査部18が設けられており、本実施の形態では、4個の場合の例を示している。
【0033】
検査部18は、液体を注入するための注入口19、微細流路である検査流路20、余分な液体を溜めるバッファ21、検査流路20と、バッファ21へ液体を移動するための微細移動用流路22、及び検査流路20へ電圧を印加するための2箇所の電極部23で構成される。
【0034】
検査流路20は、断面積が直径50〜300μmの円形と同等とし、断面形状は変化してはならない。また、各検査部18の検査流路20は、検査プレート3の中心に位置する接続穴26を中心とした同一円周25上に位置している。
【0035】
同一円周25は、本体1に検査プレート3を装着して回転機構6で回転させた際に光検出部7上を通過する。また、バッファ21は、液体が漏れないほどの空気穴24を開けている。
【0036】
以上のように構成された本実施の形態1のSNPs解析装置を構成する電気泳動装置について、以下にその動作、作用を説明する。
まず、トリスとホウ酸によってpH調整された水溶液に、塩化マグネシウムなどの結合制御剤を混合して緩衝液とする。この緩衝液は、pH調整ができ、かつ緩衝作用を有し、サンプルに影響を与えない物質であれば他の緩衝液でもよい。
【0037】
次に、最低でも60塩基以上の塩基配列で構成されたサンプル溶液であるサンプルDNAの配列の一部と相補的に配列する6〜10塩基の配列を持つDNAをアミノ化して、MOSU(メタクリロイル・オキシ・スクシンイミド)を使用してビニル化する。(ここで、詳細な方法は、本発明に直接関係しないので省略する。) ビニル化したDNAと、モノマーのアクリルアミド、および、重合開始剤であるAPS(過硫酸アンモニウム)とTEMD(テトラメチルエチレンジアミン)とを混合して、嫌気性の中で反応させると、リニアーのポリアクリルアミドの一部に、サンプルDNAの配列の一部と相補的に配列する6〜10塩基の配列を持つDNAが混入される。この特殊なDNAを含むアクリルアミドポリマーと、前記緩衝液を混合してコンジュゲートとする(特許文献2参照)。
【0038】
次に、検査プレート3における検査部18に、コンジュゲートを注入口19から注入して検査流路20の全体を満たす。ここで、コンジュゲートを検査流路20の全体に移動させるために、回転機能6を用いた遠心力を使用することもできる。また、ポンプなどを用いて吸引または圧入することも可能である。
【0039】
このとき、コンジュゲートを検査流路20に満たす時に気泡が混入すると、後で電気泳動した際に電気が流れない、という現象が発生して、電気泳動をさせることができなくなるため、これには注意をする必要がある。
【0040】
次に、サンプル溶液を、一定量注入する。サンプル溶液であるDNAには、ターゲットの塩基配列を、血液や細胞などから抽出した全DNAよりも、PCR法などの方法により取り出してくるほうが良い。ここで、目的のDNAと同じ配列がないようにするためにDNAの塩基数は40塩基以上が望ましい。
【0041】
また、コンジュゲートと、サンプル溶液が注入された検査プレート3とを、本体1に装着した後、所定の温度に温度制御する。これにより、空間8の温度を制御することができ、検査プレート3を一定温度下におくことで、サンプル溶液が電気泳動する速度に対する温度による影響を抑えることができる。
【0042】
そして、所定の温度に制御された後、各電極プローブ13を降ろして、電極部23と接触させる。接触後、コンジュゲートと、サンプル溶液が注入された検査部18に、それぞれ一定の電圧を所定時間印加する。この際の印加電圧と、印加時間は、使用する検体によって異なるが、本実施の形態1では、印加電圧400V、印加時間30秒とする。この印加時間は、電気泳動によって泳動物質を測定可能な位置に移動させる時間である。
【0043】
30秒後、検査プレート3の検査流路20の状態、即ち、電気泳動結果を確認するため、電極プローブ13を上げて、回転機構6を用いて検査プレート3を、図3においては反時計回りに、回転させながら、光検出部7から励起光を照射して、DNAに結合した蛍光物質が発する光の強度を検出する。この時の測定結果を示したのが、図4である。
【0044】
図4の横軸は、電気泳動により泳動物質が移動した距離を示している。これは、検査流路20上の位置に相当する。また、図4の縦軸は、検出された光の強度を示している。
【0045】
図4中では、波形が右に移動するほど電気泳動が進んでいることを示す。即ち、図4において、ある時点での測定結果では、ピークの位置がピーク位置41であり、次の測定では、ピーク位置42に移動していることを示している。このように、電気泳動と、測定を繰り返すことで、泳動の経過を測定することが出来る。
【0046】
このような電気泳動の経過を測定することで、SNPsの判別を行うことができる。サンプル溶液に、ワイルドタイプDNA(正常型)と、SNPsタイプDNA(異常型)の両方が含まれる場合に、それぞれのDNAとコンジュゲートとの結合力の差から、電気泳動速度に違いが発生し、DNAによるピークが分離する。この分離を判定することで、SNPsの判別を行うことができる。
【0047】
図5(a)は、測定開始時点での測定結果を示しており、ピークは1つ(p)であり、DNAによるピークは分離していない。次に、30秒間電気泳動した後に測定した結果を、図5(b)に、さらに次の測定結果を図5(c)に示す。電気泳動が進むにつれて、DNAによるピーク(p1、p2)が分離して泳動されている。
【0048】
しかし、実際には、検査プレート3上に付着物などがあり、その付着物により光の測定が影響されて、ノイズが波形として表出することがある。また、検査プレートの形状により、光が反射・散乱し、特定の位置にノイズが現れることがある。これを、図6(a)、図6(b)、図6(c)に示す。図6(a)において、測定開始時点でピークは1つ(p)で、DNAによるピークは分離していないが、図6(b)の30秒間電気泳動した後の測定結果、および、図6(c)のさらに次の測定結果では、図5と同様に、電気泳動が進むにつれてDNAによるピーク(p1、p2)が分離して泳動されているが、ノイズ64は、時間に関係なく、同じ位置に現れている。このノイズ64をノイズによるピークであると認識する方法を、以下に説明する。
【0049】
まず、図6(a)、図6(b)、図6(c)のデータを、所定の閾値、例えば最大値の半分の値、により2値化する。2値化する方法は、データを微分して2値化する方法、あるいは他の方法を用いることも可能である。この結果を、図7(a)、図7(b)、図7(c)に示す。
【0050】
次に、付着物等の検査プレートの場所に依存するノイズは、測定のたびに同じ場所にピークが現れることを利用して、ノイズと認識する。
即ち、2回以上の複数回(図6の場合、図6(a),図6(b),図6(c)の3回)にわたって、同じ位置64(2値化した後は、図7の74)にピークが検出されると、そのピークを流路の形状による検出信号のノイズや、流路に付着した付着物によるノイズであると認識する。
【0051】
また、印加電圧など、条件にもよるが、サンプル溶液中のDNAが電気泳動する速度は、ある程度想定できる(5mm〜20mm/分)。それを利用して、一定時間電気泳動した後にピークが移動する位置を想定して、任意の1サイクルの走査データと該サイクルの次の1サイクルでの走査データとのピーク位置が所定の移動距離の範囲に入っていない場合に該ピーク位置をノイズによるピークである、と正確に認識する。
【0052】
即ち、測定したデータを2値化した後に、任意のサイクル時における測定値の全てのピークに対して、一定時間経過後のサイクル時の測定データにおいて、所定の移動距離の範囲内にピークがない場合に、そのピーク位置をノイズと判断する工程を繰り返す。これにより、2値化したデータから、ノイズを減らすことができる。
【0053】
また、測定した波形データと、ノイズと判定されなかった2値化データとを、重ねて表示することで、測定者に対して測定データを見やすくすることができる。そのため、測定者がデータから、より正確にSNPsを判定することの手助けとなることができる。
【0054】
以上のように、本実施の形態1によるSNPs解析装置によれば、微細流路と、前記微細流路に電圧を印加する電極と、前記微細流路よりの光を検知する光検出器と、前記微細流路に対して前記光検出器を前記微細流路上で走査させる走査機構と、前記検出したデータを表示する表示部とを備えたSNPs解析装置において、前記光検出器を走査しながら該光検出器で連続的に検出して得られたデータを保存する1サイクルの工程を一定時間間隔で行い、前記保存したデータを所定の閾値で2値化し、前記各サイクルの連続したデータのピークの位置を比較し、所定回数の走査データにおいて同じ位置にピークがある場合に、該ピークをノイズと判定するようにしたので、流路の形状による検出信号のノイズや流路に付着した付着物によるノイズを除去し、正確なSNPs判定を行うことができる。
【0055】
また、前記保存したデータを所定の閾値で2値化したデータにおいて、任意の1サイクル時の走査データと、該サイクルの次のサイクル時での走査データのピーク位置が所定の移動距離の範囲に入っていない場合に、該ピーク位置をノイズと判定するようにしたので、DNA試料が電気泳動する際に移動する速度を想定できることを利用して、光検出器などの位置のズレによるノイズを除去し、正確なSNPs判定を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明にかかる、SNPs解析装置及びSNPs解析方法は、すなわち、電気泳動により目的生体試料を解析、検出する装置および方法であり、これにより、サンプル溶液中に目的の試料が存在するかを正確に判定することができるものであり、電気泳動を使用する技術分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態1によるSNPs解析装置を構成する電気泳動装置100を示す概略構成図
【図2】本発明の実施の形態1の電気泳動装置100の上蓋2を開けた状態を示す概略構成図
【図3】本発明の実施の形態1の電気泳動装置100における検査プレート3の概略構成図
【図4】従来の電気泳動装置における電気泳動によるピークの移動を示す図
【図5】(a)は本発明の実施の形態1における1回目電気泳動結果を示す図、(b)は本発明の実施の形態1における2回目電気泳動結果を示す図、(c)は本発明の実施の形態1における3回目電気泳動結果を示す図
【図6】(a)は本発明の実施の形態1における1回目電気泳動結果(ノイズを含む)を示す図、(b)は本発明の実施の形態1における2回目電気泳動結果(ノイズを含む)を示す図、(c)は本発明の実施の形態1における3回目電気泳動結果(ノイズを含む)を示す図
【図7】(a)は本発明の実施の形態1における1回目電気泳動結果(2値化)を示す図、(b)は本発明の実施の形態1における2回目電気泳動結果(2値化)を示す図、(c)は本発明の実施の形態1における3回目電気泳動結果(2値化)を示す図
【符号の説明】
【0058】
100 電気泳動装置
1 電気泳動装置の本体
2 電気泳動装置の上蓋
3 検査プレート
4 嵌合ピン
5 ステッピングモータ
6 回転機構
7 光検出部
8 温度制御される空間
9 加熱冷却デバイス
10 サーミスタ
11 電圧印加手段
12 電極基板ユニット
13 電極プローブ
14 DCモータ
15 圧縮バネ
16 電流検出機構
17 位置あわせ部
18 検査部
19 注入口
20 検査流路
21 バッファ
22 微細移動用流路
23 電極部
24 空気穴
25 同一円周
26 接続穴
35 回転体
41 ピーク位置
42 一定時間後のピーク位置
64 ノイズ
74 場所に依存するノイズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細流路と、前記微細流路に電圧を印加する電極と、前記微細流路よりの光を検知する光検出器と、前記微細流路に対して前記光検出器を該微細流路上で走査させる走査機構と、前記検出したデータを表示する表示部と、を備えたSNPs解析装置において、
前記光検出器を走査しながら該光検出器で連続的に検出して得られたデータを保存する1サイクルの工程を一定時間間隔で行い、
前記保存したデータを所定の閾値で2値化し、
前記各サイクルの連続したデータのピークの位置を比較し、所定回数の走査データにおいて同じ位置にピークがある場合に、該ピークをノイズと判定する、
ことを特徴とするSNPs解析装置。
【請求項2】
微細流路と、前記微細流路に電圧を印加する電極と、前記微細流路よりの光を検知する光検出器と、前記微細流路に対して前記光検出器を該微細流路上で走査させる走査機構と、前記検出したデータを表示する表示部と、を備えたSNPs解析装置において、
前記光検出器を走査しながら該光検出器で連続的に検出して得られたデータを保存する1サイクルの工程を一定時間間隔で行い、
前記保存したデータを所定の閾値で2値化し、
前記保存したデータを所定の閾値で2値化したデータにおいて、任意の1サイクルの走査データと該サイクルの次の1サイクルでの走査データのピーク位置が所定の移動距離の範囲に入っていない場合に、該ピーク位置をノイズと判定する、
ことを特徴とするSNPs解析装置。
【請求項3】
請求項1に記載のSNPs解析装置における解析方法において、
前記光検出器を走査しながら該光検出器で連続的に検出して得られたデータを保存する1サイクルの工程を一定時間間隔で行う工程と、
前記保存したデータを所定の閾値で2値化する工程と、
前記各サイクルの連続したデータのピークの位置を比較し、所定回数の走査データにおいて同じ位置にピークがある場合に該ピークをノイズと判定する工程と、を含む、
ことを特徴とするSNPs解析方法。
【請求項4】
請求項2に記載のSNPs解析装置における解析方法において、
前記光検出器を走査しながら該光検出器で連続的に検出して得られたデータを保存する1サイクルの工程を一定時間間隔で行う工程と、
前記保存したデータを所定の閾値で2値化する工程と、
前記保存したデータを所定の閾値で2値化したデータにおいて、任意の1サイクルの走査データと該サイクルの次の1サイクルでの走査データのピーク位置が所定の移動距離の範囲に入っていない場合に、該ピーク位置をノイズと判定する工程と、を含む、
ことを特徴とするSNPs解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−232663(P2008−232663A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69096(P2007−69096)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】