SOFCカソードのための異方性CTEのLSM
固体酸化物燃料電池(SOFC)の異方性熱膨張率(CTE)のカソードが、2つのプラテン間にペロブスカイト粉末の層を配置することと、プラテンに圧力を加えながら層を焼結し、それによって異方性CTEのカソードを形成することとにより、形成される。このペロブスカイトはランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)であり得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2009年12月31日出願の米国仮特許出願第61/335,085号明細書の利益を主張するものである。上記出願の教示はその全体を参照により本明細書に組込む。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は化学反応により電気を生成する装置である。典型的には、燃料電池内で、カソードにおいてO2などの酸素ガスが酸素イオン(O2−)に還元され、アノードにおいてH2ガスなどの燃料ガスが酸素イオンで酸化されて水を形成する。さまざまな型の燃料電池の中でも、固体酸化物燃料電池(SOFC)は、たとえば、アノード、カソード、電解質およびインターコネクトなどの、燃料電池の構成要素を形成するために金属酸化物(たとえば酸化カルシウムまたは酸化ジルコニウム)の硬質セラミックス化合物を使用する。燃料電池は、スタックとして一般に設計されており、それによって、サブアセンブリは、おのおのがカソード、アノード、およびカソードとアノードの間の固体電解質を含み、1つのサブアセンブリのカソードと別のサブアセンブリのアノードの間に電気的なインターコネクトを設けることにより直列に組み立てられている。
【0003】
1つのSOFC電池の設計は、5層から成る。これらの5層のうちの2層は比較的厚い層、すなわち、アノードバルクおよびカソードバルクである。比較的薄い電解質層ならびに比較的薄い機能的なアノード層およびカソード層が、バルク層の間にはさまれる。通常、薄層の厚さはバルク層の厚さの1/100しかない。SOFCの同時焼成電池の応力発生における最も重要なメカニズムは、熱膨張率(CTE)における5層の材料間のミスマッチに起因して、焼結温度の通常1300〜1400℃から室温への冷却段階である。層の間でCTEの十分なミスマッチがあると、冷却、または急速すぎるあらゆる温度変化が、SOFCの破砕、および結果として故障を引き起こす場合がある。そのはるかに大きな厚さのために、アノードバルク層とカソードバルク層のCTEの間のミスマッチにより、大部分の応力が発生する。ほとんどのセラミックは、SOFCが動作する温度領域において、破損に至るまで線形の弾性の応力‐歪み挙動を示すので、確定した幾何学的形状設計のためには、熱のミスマッチ応力に影響を与える材料特性が、2つしかなく、それは、材料の弾性率(modulus)と熱膨張率である。
【0004】
熱的なミスマッチ応力を減少させるために、SOFCのカソードとアノードの材料の両方に、電解質のCTEにできるだけ接近しているCTEを持たせることが望ましく、この電解質は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)で通常作られている。YSZの典型的なCTEは、通常、およそ10.5×10−6℃−1と11×10−6℃−1の間の範囲にあり、これは、ほとんどのカソードのCTEよりはるかに低い。具体的には、典型的なアノード材料は、11.3×10−6℃−1のCTEを有する一方、SOFC用の、最も一般に用いられているカソード材料は、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)、La0.2Sr0.8MnO3(LSM20/80)であり、これは、約12.2×10−6℃−1と約12.4×10−6℃−1(室温と1200℃の間の平均CTE)の間の範囲にあるCTEを有する。L. Kindermann, et al., 「Synthesis and properties of La−Sr−Mn−Fe−O perovskites」, Proceedings of the 3rd European solid oxide fuel cell forum, 1998, pp. 123.を参照されたい。LSM材料とYSZ材料のCTE間の差は、SOFCの内部で大きい熱的なミスマッチ応力を発生させるであろう。0.2を超えるSr含有量の増加と共に、LSM材料のCTEはさらに増加するであろう。同上文献。一方、0.2未満のSr含有量を有するLSMを使用することは、電気化学的な性能が低下するために、多くの場合望ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、前述の問題を克服するか最小限にする必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一般に、異方性CTEを有するカソード、および固体酸化物燃料電池の異方性CTEカソードを形成するための方法を対象とする。
【0007】
一実施形態において、固体酸化物燃料電池のカソードは、面外CTEと面内CTEの間で少なくとも1x10−6℃−1の差を有する面外CTEおよび面内CTEによって定義された異方性の熱膨張率(CTE)を有する焼結された層を含む。焼結された層はペロブスカイトであり得る。いくつかの実施形態において、ペロブスカイトはランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)であり得る。これらの特定の実施形態において、LSMは、約10.6×10−6℃−1と約11.8×10−6℃−1の間の範囲にある、好ましくは、約11.0x10−6℃−1と約11.4×10−6℃−1の間の範囲にある面内CTEを有し得る。いくつかの実施形態において、LSMの面外CTEは約13.0×10−6℃−1であり得、LSMの面内CTEは約12.0×10−6℃−1である。別の実施形態において、LSMの面外CTEは約14.0×10−6℃−1であり得る。LSMの面内CTEは約10.6×10−6℃−1である。異方性CTEカソードは、約20℃と約50℃の間の範囲にある温度で非線形の応力‐歪み曲線を示し得る。
【0008】
別の実施形態において、固体酸化物燃料電池の低熱膨張率(CTE)カソードの形成のための方法は、2つのプラテン間にペロブスカイト粉末の層を配置するステップと、プラテンに圧力を加えながら層を焼結し、それによって異方性CTEカソードを形成するステップとを含む。この層は、約0.5mmと約4mmの間の範囲にある厚さを有し得る。いくつかの実施形態において、この層は、約1200℃と約1400℃の間の範囲にある温度で、約15分と約3時間の間の範囲にある期間、焼結され得る。実施形態によっては、この層は、約1270℃と約1290℃の間の範囲にある温度で、15分と約1時間の間の範囲にある期間、焼結され得る。プラテンに加えられる圧力は、約0.02MPaと約20MPaの間の範囲であり得る。いくつかの実施形態において、プラテン上に加えられる圧力は、約0.02MPaと約12MPaの間の範囲である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は多くの利点を有し、SOFCの電池とスタックにおいて、低い熱的ミスマッチ応力を維持することを含む。下記にさらに述べるように、熱処理中のLSMの圧縮は、LSMのCTEを低下させ、それによってLSMを用いるSOFCの使用中の故障を、最小限にするか、または著しくを低減することが見いだされた。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の方法の応用の図解説明である。
【図2】自由焼結された、および、ホットプレスされたCREE LSM20に対して、温度の関数としてのtangent CTE(接線勾配によるCTE)のグラフである。
【図3】焼鈍の前後のtangent CTEのグラフであり、自由焼結された、および、ホットプレスされたLSM20のCTEに対して比較している。
【図4】CTE異方性試験のための試験サンプルの略図である。
【図5】異方性CTEの試験結果のグラフである。
【図6】圧力の関数としてのCTEのグラフである。
【図7A】カソードバルク材料の変位の関数としての、四点曲げの荷重のグラフである。
【図7B】カソードバルク材料の変位の関数としての、四点曲げの荷重のグラフである。
【図7C】カソードバルク材料の変位の関数としての、四点曲げの荷重のグラフである。
【図7D】カソードバルク材料の歪みの関数としての、応力のグラフである。
【図8】ホットプレスされたサンプルの、面内と面外の表面のXRDパターンのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前述のことは、添付図面に示す本発明の実施形態例についての下記のより詳細な記述から明らかになるであろう。図面中、同様の参照記号は、異なる図の全てを通して同一の部分を指している。図面は、必ずしも一定の縮尺ではなく、むしろ本発明の実施形態を説明することを重要視している。本明細書中で引用される全ての特許、公開出願および参考文献の教示は参照によりその全体を本明細書に組込む。
【0012】
本発明は、一般に、異方性CTEを有するカソード、および固体酸化物燃料電池の異方性CTEカソードを形成するための方法を対象とする。SOFCスタックは、異方性CTEカソードを含むことができ、異方性CTEカソードは、スタック製作の前に別々に作製することができ、または、SOFCスタックの別の層と同時に処理することができる。本明細書で使用するとき、固体酸化物燃料電池という用語は、固形酸化物電気分解装置、すなわち、水の電気分解のために回生モードで運転される固体酸化物燃料電池を含む。
【0013】
図1に示す一実施形態において、固体酸化物燃料電池の異方性熱膨張率(CTE)カソードの形成のための方法は、2つのプラテン20間にペロブスカイト粉末の層10を配置するステップと、プラテン20に圧力を加えながら層を焼結し、それによって異方性CTEカソードを形成するステップとを含む。このペロブスカイトはランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)であり得る。他のペロブスカイトとそれらのCTEは、表1に記載されている。
【0014】
層10は、約0.5mmと約4mmの間の範囲にある厚さを有することができる。層10は、たとえば型押、テープキャスティング/積層化、押し出しおよびゲルキャスティングによってペロブスカイト粉末からグリーン形成(未焼結形成)することができる。
【0015】
【表1】
【0016】
いくつかの実施形態において、層10は、約1200℃と約1400℃の間の、好ましくは約1270℃と約1290℃の間の範囲にある温度で、約15分と約3時間の間の範囲にある、好ましくは約15分と約1時間の間の範囲にある期間、焼結され得る。プラテン20に加えられる圧力は、約0.02MPaと約20MPaの間の範囲で、好ましくは、約0.02MPaと約12MPaの間の範囲であり得、焼結期間中はプラテン20に一定圧力が加えられている。
【0017】
結果として得られる低CTEカソードは、約10.6×10−6℃−1と約11.8×10−6℃−1の間の範囲にある、好ましくは約11.0×10−6℃−1と約11.4×10−6℃−1の間の範囲にある、CTEを有し得る。ここに記載されたCTEは室温と約900℃の間の線形のセカント CTE(secant CTE)であり、これは約1000℃を超える継続焼結による複雑化を避けるためである。
【0018】
このCTEは異方性であり得る。図4に示すように、このCTEは面外CTEと面内CTEによって定義することができる。この低CTEカソードの面外CTEは、約14.0×10−6℃−1であり得て、またこの低CTEカソードの面内CTEは約10.6×10−6℃−1であり得る。いかなる特定の理論によっても束縛されることを望むものではないが、圧力によって引き起こされたCTEの変化は、異方性の生成に起因し得るということが示唆される。単結晶のLSMはその3つの軸に沿って異なった熱膨張率を有する。単結晶のLa0.83Sr0.17MnO3のa軸、b軸およびc軸に沿ったCTEについては、但し室温(RT)未満についてのみであるが、 Neumeier, J.J. et al., 1999, 「Thermal expansion of single−crystalline La0.83Sr0.17MnO3: the importance of temperature−induced strain for electrical resistivity」, Physical review B, vol. 58, No. 3, 1701−1705, を参照されたい。この文献の結果は、単結晶のLSMが異方性のCTEを有することを示す。温度依存の結晶格子パラメーターは、文献で見いだすことができる。Gaviko, et al., 2005,「 X−ray studies of the (La,Sr)MnO3 perovskite manganite structure」, Physics of the solid state, Vol 47, No. 7, 1299−1305、および、Iberl, A, et al., 1991, 「High−temperature x−ray diffraction measurements of phase transitions and thermal expansion in (La,Sr)(Mn,Co)O3−cathode materials」, Proceedings of the 2nd international symposium on solid oxide fuel cells, 527−535。巨視的なCTEは、巨視的には等方性に見える、異方性の単結晶のLSMのランダム分布の平均である。高温で加えられた圧力が、結晶のLSMの統計学的にランダムな配向を乱し、それにより、異方性を発生させるということは可能性がある。
【0019】
カソードは、約20℃と約50℃の間の範囲にある温度で、非線形の応力‐歪み曲線を示し得る。
【実施例】
【0020】
例証
他に断らない限り、サンプルはすべて約1280℃で約30分間空気中で焼結した。図6と下記の表7にその結果を示す、ホットプレスされた(HPed)サンプルに対して、約0.02MPaと約3MPaの間の範囲にある一定圧力を焼結工程の全体にわたって維持した。下記の表2は、いくつかのLSM材料の室温(RT)から900℃で測定されたCTE(ppmすなわち10−6℃−1での)を記載し、これらのLSM材料は、Praxair(Praxair、Woodinville、WA)La0.2Sr0.8MnO3(LSM20);0%、2%および5%のAサイト欠損を有するPraxair LSM20;自社内で、自由焼結されるか、ビスク焼成されるかのいずれかで製造されたLSM20(CREE LSM20);およびNexTech(NexTech Materials, Lewis Center, OH)LSM20からのものである。他に断らない限り、表2で記載したサンプルは、グリーン形成された、対応するLSM粉末を空気中で自由焼結することによって、製造した。
【0021】
【表2】
【0022】
LSMのサンプルをホットプレスする効果を実証するために、3組のサンプルをCREE LSM20の同一のバッチから作製した。組Aは、箱型オーブン内でスペーサで上面と底面を覆って自由焼結した。組Bは、ホットプレスオーブン内でサファイアスペーサで上面と底面を覆って自由焼結し、組Cは、ホットプレスした。サンプルの各組は、少なくとも4つのサンプルと2回の繰り返しの試験から成り立った。CTEの結果は次のとおりだった。
組A(箱型オーブン内でスペーサで覆って自由焼結した) −− 12〜12.2ppm
組B(ホットプレスオーブン内でスペーサで覆って自由焼結した) −− 11.9〜12.2ppm
組C(ホットプレスした) −− 11〜11.2ppm
微分CTEに関して、ホットプレスされたCREE LSM20粉末および自由焼結されたCREE LSM20粉末の比較を図2に示す。図2に示すように、ホットプレスされたLSM20のtangent CTEは、全温度範囲にわたって自由焼結されたLSM20のtangent CTEより低い。
【0023】
低CTEのLSMの追加の結果が、一連の事前焼結された(ビスク焼成された)カソードバルクのサンプルから得られた。3組の同じ1インチ(25mm)のディスクを最初に自由焼結した。次いで、そのうちの2組を、下記の表3に記載した、異なる温度と圧力の下でホットプレスした。その後にそれらのCTEを測定し、これらも表3に記載した。表3に示すように、ホットプレスするとLSM材料のCTEは低下した。
【0024】
【表3】
【0025】
Praxair LSM20から作られ、ホットプレス前に焙焼された追加サンプルもホットプレス後に低CTEを示した。
【0026】
熱的安定性結果
ホットプレスされたCREE LSM20に、熱サイクル試験を受けさせ、サンプルは、約16時間の累積期間、900℃にさらした。サイクル試験の前(最初の加熱中に)と、この試験の後(最終のサイクル冷却中に)のCTEを、計算した。この2つのCTE値は、試験された3つの型のすべてのサンプルに対して同じだった(ホットプレスされたCREE LSM20に対して11〜11.2ppm、自由焼結されたPraxair LSM20および自由焼結されたCREE LSM20に対して11.9〜12.2ppm)。したがって、CTEの比較的に短期の安定性は900℃で実証された。
【0027】
焼鈍結果
1組のホットプレスされたCREE LSM20を、膨張計において空気中で、900℃(4時間)、1200℃(4時間)、1280℃(6時間)および1380℃(2時間)でそれぞれ焼鈍した。焼鈍前後のCTEを測定した。焼鈍前のCTEは、焼鈍の加熱過程中に測定した。焼鈍後のCTEは、焼鈍の冷却過程中および少なくともそのすぐ後に1回の別個のCTE測定処理で測定した。結果を、下記の表4に示す。
【0028】
【表4】
【0029】
CTEは、1200℃以下で焼鈍した後に変化しなかったが、1200℃を超えて焼鈍した後には、自由焼結されたLSM20のCTEまで増加して戻った(またはほとんど戻った)。この傾向は、図3に示した微分CTEのプロットから見ることもできる。
【0030】
焼鈍の検討を、事前焼結された(ビスク焼成された)サンプルでも遂行した。その結果を、下記の表5に記載する。
【0031】
【表5】
【0032】
表5の結果が示すように、ホットプレスした後に得た、LSMの低CTEは、1280℃以上で焼鈍した後に、自由焼結したLSMのCTEに後戻りをしている。いかなる特定の理論によっても束縛されることは望むものではないが、1100℃を超えてホットプレスされたLSM20において観察される、継続的な焼結に類似して、CTEの後戻りは、結晶構造の移動性により促進され得るということは可能性がある。
【0033】
異方性結果
ホットプレスされたLSM20のCTEを、図4に示す2つの直交する方向において、試験した。ホットプレスされたディスク厚さ(4mm)の制限により、試験サンプルは典型的な膨張計の試験サンプル長さ(25mm)よりはるかに短かった。異方性試験サンプルの寸法は、4mm×4mm×4mmだった。
【0034】
4組の試験を遂行し、32の膨張曲線を記録し、各方向につき16本のカーブを得た。試験サンプルは、通常の長い膨張計試験棒(25mm長)から切断した。これらの材料は、自由焼結された、ホットプレスされた、ビスク焼成された、およびビスク焼成された/ホットプレスされた、CREE LSM20を含んでいた。測定値(膨張曲線)を図5に示す。図5を参照すると、面外方向(圧力方向に沿う)の測定値はホットプレス側面1と記載され、面内方向(圧力方向に垂直)の測定値はホットプレス側面2と記載されている。自由焼結されたサンプルの測定値は、自由焼結側面−1および2と記載されている。この試験での小さいサンプル長さは、結果における大きな変動に結びついた。確定的ではないが、このプロットは、約13ppmの面外方向のCTE、約11ppmの面内方向のCTEを有する異方性がホットプレスされたサンプルにおいて存在していたことを示唆する。自由焼結されたサンプルは、約12ppmのCTEを有していた。
【0035】
別の実施例で、面内と面外の両方に沿った測定のために、より長い(21mm)CTE棒を作製することができるように、より厚い(23mm)サンプルが、約1320℃の焼結温度と、約30分の時間で、約3MPaの圧力の下で、作製された。表6に、面内と面外の3つの試料のCTE値を示すが、それぞれ、サンプルの異方性の挙動を示している。表6に記載された面内方向に沿ったCTE値は、他のところで報告された値より高い。しかしながら、表6の測定に使用されたHPedサンプルは、上記に説明した通常のものよりはるかに厚かった(23mm対4mm以下)。いかなる特定の理論によっても束縛されることは望むものではないが、厚いサンプル内部では、圧力の遷移および対応する質量拡散が、薄いサンプル内部のものとは差異があり得ると示唆することは合理的である。この差異はCTEの異なった結果をもたらすかもしれないが、異方性の挙動は、厚さにかかわらず両方の型のサンプルにあてはまるものである。
【0036】
【表6】
【0037】
X線回折(XRD)評価を、HPedサンプルの面内と面外の表面上で適用した。図8に示すように、面内と面外の表面上での結晶異方性はXRD評価によって識別することができる。ピークの数とそれらのピークの位置は両方の方向に対して同一である。しかしながら、明らかな相対強度変化を示す5対のピークが存在する(表7)。それらの「増加している強度」ピークの指数(index)は、すべて結晶格子指数のc方向で大きな数を有しており、それは「面内」の表面が、結晶構造のc面に優先的に整列したこと、すなわち、面内の表面は、LSM結晶構造のc面に沿って好ましい結晶学的配向を示すことを示唆する。これは上記のCTE異方性の唯一の理由ではないかもしれないが、この結晶異方性は、有意な寄与者になり得ると推測される。
【0038】
【表7】
【0039】
変動する圧力でのホットプレス結果
上述の異方性結果は、圧力が低CTEの原因であることを強く示す。そこで、CREE LSM20の一連のサンプルをホットプレスしたが、異なったピーク圧力で行った。その圧力は、1MPa、0.1MPa、死荷重(約0.02MPa)、および、無圧力(ただしサファイアスペーサの覆いは有する)である。各圧力レベルに対して、少なくとも2つのサンプルを試験し、各試験は、異なった週に行われた少なくとも2回の繰り返しの試験から構成した。3MPaでホットプレスされたPraxair微細粉末LSM20も試験した。CTE結果を、表8に記載する。ホットプレスの後のサンプルディスクの直径膨張も、表8に記載する。これは変形が圧力によって引き起こされたかどうか示すためである。サンプルは焼結中に直径が収縮するはずであるが、変形(圧力誘起質量拡散)を引き起こすために十分な圧力が加えられた場合、ディスクの直径は拡大し得るであろう。
【0040】
【表8】
【0041】
表8と図6に示される結果によって実証されるように、ホットプレス圧力は、ホットプレスの後にLSM20の低CTEを確かに引き起こした。図6は、各個別試験サンプルに対するCTE値を示す。0.02MPaの圧力でさえ材料を変質するのに十分だったことが理解できる。ディスク直径の膨張結果から、0.02MPaの圧力でさえ圧力誘起変形(質量拡散)を引き起こすのに十分に大きいことが理解できる。この観察は、結晶方位の強制的な整列による、結晶構造における異方性の生成に関する上記の仮説に対応する。さらに、それは、CTEが、焼鈍の後に後戻りし得る温度(1200℃を超える)での上記の観察に対応し得るであろう。
【0042】
比較的低い圧力でもおこる効果を強調するために、5つのバッチの試験結果をすべて下記の表9に示すが、そのためのサンプルは、CR LSM−(E) (0.02MPa) および CR LSM−(G) (0.1MPa)のために、各圧力レベルに対して同一のディスクから切断したものである。膨張計中のどのスロットが試験に使用されるかに関して、サンプルを意図的に互い違いにした。試験は2か月の期間にわたって行なった。
【0043】
【表9】
【0044】
非線形の応力歪みの結果
LSM20粉末(CREE LSM20またはPraxair LSM20)を2インチのディスクへ、ホットプレスまたは自由焼結した。次いで、ディスクから、棒を50mm×4mm×4mmの寸法に切り出した。次いで、棒を四点曲げ試験にかけて、荷重対変位カーブを測定した。結果を図7A〜図7Dに示す。CB0513はホットプレスしたPraxair LSM20(焙焼された粉末)(図7A)、CB0616は自由焼結したCREE LSM20(図7B)、および、CB0704はホットプレスしたCREE SLM20(図7C)であった。CB0616(自由焼結したCREE LSM20)は、四点曲げ試験において破損に至るまで線形の弾性の荷重−変位カーブを示したが、これは、小さい荷重の下、室温でのセラミックス材料の予想された挙動である。図7A〜図7Cは、それぞれの組成物の個々のサンプルに対する荷重−変位カーブを示す。CB0513(ホットプレスしたPraxair LSM20)とCB0704(ホットプレスしたCREE LSM20)の両方は、塑性降伏、すなわち、軟化であり、いくつかのペロブスカイトセラミックに対して報告された強弾性に似ている挙動である、非線形の荷重対変位カーブを明らかに示した。
【0045】
ホットプレス試料調製の効果を確認するために、2組のサンプルを同一の処理をしたが、唯一の差異は、1組はホットプレスし、また、1組は自由焼結したことである。粉末バッチ、グリーン成形加工、ならびに焼結の時間および温度は、すべて同じだった。結果を図7Dに示す。自由焼結したサンプルは、線形として示され、ホットプレスしたサンプルは、CB0704サンプルによく一致する、明らかに非線形の挙動を有した。
【0046】
参照による組込み
上記に記載したすべての参考文献の教示は、その全体を参照により本明細書に組込む。
【0047】
均等物
本発明についてそれらの例示実施形態を参照して具体的に示し、記述してきたが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲により包含されている本発明の範囲から逸脱することなく、形態および詳細の様々な変更をそこに実施し得ることを、理解するであろう。
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2009年12月31日出願の米国仮特許出願第61/335,085号明細書の利益を主張するものである。上記出願の教示はその全体を参照により本明細書に組込む。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は化学反応により電気を生成する装置である。典型的には、燃料電池内で、カソードにおいてO2などの酸素ガスが酸素イオン(O2−)に還元され、アノードにおいてH2ガスなどの燃料ガスが酸素イオンで酸化されて水を形成する。さまざまな型の燃料電池の中でも、固体酸化物燃料電池(SOFC)は、たとえば、アノード、カソード、電解質およびインターコネクトなどの、燃料電池の構成要素を形成するために金属酸化物(たとえば酸化カルシウムまたは酸化ジルコニウム)の硬質セラミックス化合物を使用する。燃料電池は、スタックとして一般に設計されており、それによって、サブアセンブリは、おのおのがカソード、アノード、およびカソードとアノードの間の固体電解質を含み、1つのサブアセンブリのカソードと別のサブアセンブリのアノードの間に電気的なインターコネクトを設けることにより直列に組み立てられている。
【0003】
1つのSOFC電池の設計は、5層から成る。これらの5層のうちの2層は比較的厚い層、すなわち、アノードバルクおよびカソードバルクである。比較的薄い電解質層ならびに比較的薄い機能的なアノード層およびカソード層が、バルク層の間にはさまれる。通常、薄層の厚さはバルク層の厚さの1/100しかない。SOFCの同時焼成電池の応力発生における最も重要なメカニズムは、熱膨張率(CTE)における5層の材料間のミスマッチに起因して、焼結温度の通常1300〜1400℃から室温への冷却段階である。層の間でCTEの十分なミスマッチがあると、冷却、または急速すぎるあらゆる温度変化が、SOFCの破砕、および結果として故障を引き起こす場合がある。そのはるかに大きな厚さのために、アノードバルク層とカソードバルク層のCTEの間のミスマッチにより、大部分の応力が発生する。ほとんどのセラミックは、SOFCが動作する温度領域において、破損に至るまで線形の弾性の応力‐歪み挙動を示すので、確定した幾何学的形状設計のためには、熱のミスマッチ応力に影響を与える材料特性が、2つしかなく、それは、材料の弾性率(modulus)と熱膨張率である。
【0004】
熱的なミスマッチ応力を減少させるために、SOFCのカソードとアノードの材料の両方に、電解質のCTEにできるだけ接近しているCTEを持たせることが望ましく、この電解質は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)で通常作られている。YSZの典型的なCTEは、通常、およそ10.5×10−6℃−1と11×10−6℃−1の間の範囲にあり、これは、ほとんどのカソードのCTEよりはるかに低い。具体的には、典型的なアノード材料は、11.3×10−6℃−1のCTEを有する一方、SOFC用の、最も一般に用いられているカソード材料は、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)、La0.2Sr0.8MnO3(LSM20/80)であり、これは、約12.2×10−6℃−1と約12.4×10−6℃−1(室温と1200℃の間の平均CTE)の間の範囲にあるCTEを有する。L. Kindermann, et al., 「Synthesis and properties of La−Sr−Mn−Fe−O perovskites」, Proceedings of the 3rd European solid oxide fuel cell forum, 1998, pp. 123.を参照されたい。LSM材料とYSZ材料のCTE間の差は、SOFCの内部で大きい熱的なミスマッチ応力を発生させるであろう。0.2を超えるSr含有量の増加と共に、LSM材料のCTEはさらに増加するであろう。同上文献。一方、0.2未満のSr含有量を有するLSMを使用することは、電気化学的な性能が低下するために、多くの場合望ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、前述の問題を克服するか最小限にする必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一般に、異方性CTEを有するカソード、および固体酸化物燃料電池の異方性CTEカソードを形成するための方法を対象とする。
【0007】
一実施形態において、固体酸化物燃料電池のカソードは、面外CTEと面内CTEの間で少なくとも1x10−6℃−1の差を有する面外CTEおよび面内CTEによって定義された異方性の熱膨張率(CTE)を有する焼結された層を含む。焼結された層はペロブスカイトであり得る。いくつかの実施形態において、ペロブスカイトはランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)であり得る。これらの特定の実施形態において、LSMは、約10.6×10−6℃−1と約11.8×10−6℃−1の間の範囲にある、好ましくは、約11.0x10−6℃−1と約11.4×10−6℃−1の間の範囲にある面内CTEを有し得る。いくつかの実施形態において、LSMの面外CTEは約13.0×10−6℃−1であり得、LSMの面内CTEは約12.0×10−6℃−1である。別の実施形態において、LSMの面外CTEは約14.0×10−6℃−1であり得る。LSMの面内CTEは約10.6×10−6℃−1である。異方性CTEカソードは、約20℃と約50℃の間の範囲にある温度で非線形の応力‐歪み曲線を示し得る。
【0008】
別の実施形態において、固体酸化物燃料電池の低熱膨張率(CTE)カソードの形成のための方法は、2つのプラテン間にペロブスカイト粉末の層を配置するステップと、プラテンに圧力を加えながら層を焼結し、それによって異方性CTEカソードを形成するステップとを含む。この層は、約0.5mmと約4mmの間の範囲にある厚さを有し得る。いくつかの実施形態において、この層は、約1200℃と約1400℃の間の範囲にある温度で、約15分と約3時間の間の範囲にある期間、焼結され得る。実施形態によっては、この層は、約1270℃と約1290℃の間の範囲にある温度で、15分と約1時間の間の範囲にある期間、焼結され得る。プラテンに加えられる圧力は、約0.02MPaと約20MPaの間の範囲であり得る。いくつかの実施形態において、プラテン上に加えられる圧力は、約0.02MPaと約12MPaの間の範囲である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は多くの利点を有し、SOFCの電池とスタックにおいて、低い熱的ミスマッチ応力を維持することを含む。下記にさらに述べるように、熱処理中のLSMの圧縮は、LSMのCTEを低下させ、それによってLSMを用いるSOFCの使用中の故障を、最小限にするか、または著しくを低減することが見いだされた。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の方法の応用の図解説明である。
【図2】自由焼結された、および、ホットプレスされたCREE LSM20に対して、温度の関数としてのtangent CTE(接線勾配によるCTE)のグラフである。
【図3】焼鈍の前後のtangent CTEのグラフであり、自由焼結された、および、ホットプレスされたLSM20のCTEに対して比較している。
【図4】CTE異方性試験のための試験サンプルの略図である。
【図5】異方性CTEの試験結果のグラフである。
【図6】圧力の関数としてのCTEのグラフである。
【図7A】カソードバルク材料の変位の関数としての、四点曲げの荷重のグラフである。
【図7B】カソードバルク材料の変位の関数としての、四点曲げの荷重のグラフである。
【図7C】カソードバルク材料の変位の関数としての、四点曲げの荷重のグラフである。
【図7D】カソードバルク材料の歪みの関数としての、応力のグラフである。
【図8】ホットプレスされたサンプルの、面内と面外の表面のXRDパターンのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前述のことは、添付図面に示す本発明の実施形態例についての下記のより詳細な記述から明らかになるであろう。図面中、同様の参照記号は、異なる図の全てを通して同一の部分を指している。図面は、必ずしも一定の縮尺ではなく、むしろ本発明の実施形態を説明することを重要視している。本明細書中で引用される全ての特許、公開出願および参考文献の教示は参照によりその全体を本明細書に組込む。
【0012】
本発明は、一般に、異方性CTEを有するカソード、および固体酸化物燃料電池の異方性CTEカソードを形成するための方法を対象とする。SOFCスタックは、異方性CTEカソードを含むことができ、異方性CTEカソードは、スタック製作の前に別々に作製することができ、または、SOFCスタックの別の層と同時に処理することができる。本明細書で使用するとき、固体酸化物燃料電池という用語は、固形酸化物電気分解装置、すなわち、水の電気分解のために回生モードで運転される固体酸化物燃料電池を含む。
【0013】
図1に示す一実施形態において、固体酸化物燃料電池の異方性熱膨張率(CTE)カソードの形成のための方法は、2つのプラテン20間にペロブスカイト粉末の層10を配置するステップと、プラテン20に圧力を加えながら層を焼結し、それによって異方性CTEカソードを形成するステップとを含む。このペロブスカイトはランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)であり得る。他のペロブスカイトとそれらのCTEは、表1に記載されている。
【0014】
層10は、約0.5mmと約4mmの間の範囲にある厚さを有することができる。層10は、たとえば型押、テープキャスティング/積層化、押し出しおよびゲルキャスティングによってペロブスカイト粉末からグリーン形成(未焼結形成)することができる。
【0015】
【表1】
【0016】
いくつかの実施形態において、層10は、約1200℃と約1400℃の間の、好ましくは約1270℃と約1290℃の間の範囲にある温度で、約15分と約3時間の間の範囲にある、好ましくは約15分と約1時間の間の範囲にある期間、焼結され得る。プラテン20に加えられる圧力は、約0.02MPaと約20MPaの間の範囲で、好ましくは、約0.02MPaと約12MPaの間の範囲であり得、焼結期間中はプラテン20に一定圧力が加えられている。
【0017】
結果として得られる低CTEカソードは、約10.6×10−6℃−1と約11.8×10−6℃−1の間の範囲にある、好ましくは約11.0×10−6℃−1と約11.4×10−6℃−1の間の範囲にある、CTEを有し得る。ここに記載されたCTEは室温と約900℃の間の線形のセカント CTE(secant CTE)であり、これは約1000℃を超える継続焼結による複雑化を避けるためである。
【0018】
このCTEは異方性であり得る。図4に示すように、このCTEは面外CTEと面内CTEによって定義することができる。この低CTEカソードの面外CTEは、約14.0×10−6℃−1であり得て、またこの低CTEカソードの面内CTEは約10.6×10−6℃−1であり得る。いかなる特定の理論によっても束縛されることを望むものではないが、圧力によって引き起こされたCTEの変化は、異方性の生成に起因し得るということが示唆される。単結晶のLSMはその3つの軸に沿って異なった熱膨張率を有する。単結晶のLa0.83Sr0.17MnO3のa軸、b軸およびc軸に沿ったCTEについては、但し室温(RT)未満についてのみであるが、 Neumeier, J.J. et al., 1999, 「Thermal expansion of single−crystalline La0.83Sr0.17MnO3: the importance of temperature−induced strain for electrical resistivity」, Physical review B, vol. 58, No. 3, 1701−1705, を参照されたい。この文献の結果は、単結晶のLSMが異方性のCTEを有することを示す。温度依存の結晶格子パラメーターは、文献で見いだすことができる。Gaviko, et al., 2005,「 X−ray studies of the (La,Sr)MnO3 perovskite manganite structure」, Physics of the solid state, Vol 47, No. 7, 1299−1305、および、Iberl, A, et al., 1991, 「High−temperature x−ray diffraction measurements of phase transitions and thermal expansion in (La,Sr)(Mn,Co)O3−cathode materials」, Proceedings of the 2nd international symposium on solid oxide fuel cells, 527−535。巨視的なCTEは、巨視的には等方性に見える、異方性の単結晶のLSMのランダム分布の平均である。高温で加えられた圧力が、結晶のLSMの統計学的にランダムな配向を乱し、それにより、異方性を発生させるということは可能性がある。
【0019】
カソードは、約20℃と約50℃の間の範囲にある温度で、非線形の応力‐歪み曲線を示し得る。
【実施例】
【0020】
例証
他に断らない限り、サンプルはすべて約1280℃で約30分間空気中で焼結した。図6と下記の表7にその結果を示す、ホットプレスされた(HPed)サンプルに対して、約0.02MPaと約3MPaの間の範囲にある一定圧力を焼結工程の全体にわたって維持した。下記の表2は、いくつかのLSM材料の室温(RT)から900℃で測定されたCTE(ppmすなわち10−6℃−1での)を記載し、これらのLSM材料は、Praxair(Praxair、Woodinville、WA)La0.2Sr0.8MnO3(LSM20);0%、2%および5%のAサイト欠損を有するPraxair LSM20;自社内で、自由焼結されるか、ビスク焼成されるかのいずれかで製造されたLSM20(CREE LSM20);およびNexTech(NexTech Materials, Lewis Center, OH)LSM20からのものである。他に断らない限り、表2で記載したサンプルは、グリーン形成された、対応するLSM粉末を空気中で自由焼結することによって、製造した。
【0021】
【表2】
【0022】
LSMのサンプルをホットプレスする効果を実証するために、3組のサンプルをCREE LSM20の同一のバッチから作製した。組Aは、箱型オーブン内でスペーサで上面と底面を覆って自由焼結した。組Bは、ホットプレスオーブン内でサファイアスペーサで上面と底面を覆って自由焼結し、組Cは、ホットプレスした。サンプルの各組は、少なくとも4つのサンプルと2回の繰り返しの試験から成り立った。CTEの結果は次のとおりだった。
組A(箱型オーブン内でスペーサで覆って自由焼結した) −− 12〜12.2ppm
組B(ホットプレスオーブン内でスペーサで覆って自由焼結した) −− 11.9〜12.2ppm
組C(ホットプレスした) −− 11〜11.2ppm
微分CTEに関して、ホットプレスされたCREE LSM20粉末および自由焼結されたCREE LSM20粉末の比較を図2に示す。図2に示すように、ホットプレスされたLSM20のtangent CTEは、全温度範囲にわたって自由焼結されたLSM20のtangent CTEより低い。
【0023】
低CTEのLSMの追加の結果が、一連の事前焼結された(ビスク焼成された)カソードバルクのサンプルから得られた。3組の同じ1インチ(25mm)のディスクを最初に自由焼結した。次いで、そのうちの2組を、下記の表3に記載した、異なる温度と圧力の下でホットプレスした。その後にそれらのCTEを測定し、これらも表3に記載した。表3に示すように、ホットプレスするとLSM材料のCTEは低下した。
【0024】
【表3】
【0025】
Praxair LSM20から作られ、ホットプレス前に焙焼された追加サンプルもホットプレス後に低CTEを示した。
【0026】
熱的安定性結果
ホットプレスされたCREE LSM20に、熱サイクル試験を受けさせ、サンプルは、約16時間の累積期間、900℃にさらした。サイクル試験の前(最初の加熱中に)と、この試験の後(最終のサイクル冷却中に)のCTEを、計算した。この2つのCTE値は、試験された3つの型のすべてのサンプルに対して同じだった(ホットプレスされたCREE LSM20に対して11〜11.2ppm、自由焼結されたPraxair LSM20および自由焼結されたCREE LSM20に対して11.9〜12.2ppm)。したがって、CTEの比較的に短期の安定性は900℃で実証された。
【0027】
焼鈍結果
1組のホットプレスされたCREE LSM20を、膨張計において空気中で、900℃(4時間)、1200℃(4時間)、1280℃(6時間)および1380℃(2時間)でそれぞれ焼鈍した。焼鈍前後のCTEを測定した。焼鈍前のCTEは、焼鈍の加熱過程中に測定した。焼鈍後のCTEは、焼鈍の冷却過程中および少なくともそのすぐ後に1回の別個のCTE測定処理で測定した。結果を、下記の表4に示す。
【0028】
【表4】
【0029】
CTEは、1200℃以下で焼鈍した後に変化しなかったが、1200℃を超えて焼鈍した後には、自由焼結されたLSM20のCTEまで増加して戻った(またはほとんど戻った)。この傾向は、図3に示した微分CTEのプロットから見ることもできる。
【0030】
焼鈍の検討を、事前焼結された(ビスク焼成された)サンプルでも遂行した。その結果を、下記の表5に記載する。
【0031】
【表5】
【0032】
表5の結果が示すように、ホットプレスした後に得た、LSMの低CTEは、1280℃以上で焼鈍した後に、自由焼結したLSMのCTEに後戻りをしている。いかなる特定の理論によっても束縛されることは望むものではないが、1100℃を超えてホットプレスされたLSM20において観察される、継続的な焼結に類似して、CTEの後戻りは、結晶構造の移動性により促進され得るということは可能性がある。
【0033】
異方性結果
ホットプレスされたLSM20のCTEを、図4に示す2つの直交する方向において、試験した。ホットプレスされたディスク厚さ(4mm)の制限により、試験サンプルは典型的な膨張計の試験サンプル長さ(25mm)よりはるかに短かった。異方性試験サンプルの寸法は、4mm×4mm×4mmだった。
【0034】
4組の試験を遂行し、32の膨張曲線を記録し、各方向につき16本のカーブを得た。試験サンプルは、通常の長い膨張計試験棒(25mm長)から切断した。これらの材料は、自由焼結された、ホットプレスされた、ビスク焼成された、およびビスク焼成された/ホットプレスされた、CREE LSM20を含んでいた。測定値(膨張曲線)を図5に示す。図5を参照すると、面外方向(圧力方向に沿う)の測定値はホットプレス側面1と記載され、面内方向(圧力方向に垂直)の測定値はホットプレス側面2と記載されている。自由焼結されたサンプルの測定値は、自由焼結側面−1および2と記載されている。この試験での小さいサンプル長さは、結果における大きな変動に結びついた。確定的ではないが、このプロットは、約13ppmの面外方向のCTE、約11ppmの面内方向のCTEを有する異方性がホットプレスされたサンプルにおいて存在していたことを示唆する。自由焼結されたサンプルは、約12ppmのCTEを有していた。
【0035】
別の実施例で、面内と面外の両方に沿った測定のために、より長い(21mm)CTE棒を作製することができるように、より厚い(23mm)サンプルが、約1320℃の焼結温度と、約30分の時間で、約3MPaの圧力の下で、作製された。表6に、面内と面外の3つの試料のCTE値を示すが、それぞれ、サンプルの異方性の挙動を示している。表6に記載された面内方向に沿ったCTE値は、他のところで報告された値より高い。しかしながら、表6の測定に使用されたHPedサンプルは、上記に説明した通常のものよりはるかに厚かった(23mm対4mm以下)。いかなる特定の理論によっても束縛されることは望むものではないが、厚いサンプル内部では、圧力の遷移および対応する質量拡散が、薄いサンプル内部のものとは差異があり得ると示唆することは合理的である。この差異はCTEの異なった結果をもたらすかもしれないが、異方性の挙動は、厚さにかかわらず両方の型のサンプルにあてはまるものである。
【0036】
【表6】
【0037】
X線回折(XRD)評価を、HPedサンプルの面内と面外の表面上で適用した。図8に示すように、面内と面外の表面上での結晶異方性はXRD評価によって識別することができる。ピークの数とそれらのピークの位置は両方の方向に対して同一である。しかしながら、明らかな相対強度変化を示す5対のピークが存在する(表7)。それらの「増加している強度」ピークの指数(index)は、すべて結晶格子指数のc方向で大きな数を有しており、それは「面内」の表面が、結晶構造のc面に優先的に整列したこと、すなわち、面内の表面は、LSM結晶構造のc面に沿って好ましい結晶学的配向を示すことを示唆する。これは上記のCTE異方性の唯一の理由ではないかもしれないが、この結晶異方性は、有意な寄与者になり得ると推測される。
【0038】
【表7】
【0039】
変動する圧力でのホットプレス結果
上述の異方性結果は、圧力が低CTEの原因であることを強く示す。そこで、CREE LSM20の一連のサンプルをホットプレスしたが、異なったピーク圧力で行った。その圧力は、1MPa、0.1MPa、死荷重(約0.02MPa)、および、無圧力(ただしサファイアスペーサの覆いは有する)である。各圧力レベルに対して、少なくとも2つのサンプルを試験し、各試験は、異なった週に行われた少なくとも2回の繰り返しの試験から構成した。3MPaでホットプレスされたPraxair微細粉末LSM20も試験した。CTE結果を、表8に記載する。ホットプレスの後のサンプルディスクの直径膨張も、表8に記載する。これは変形が圧力によって引き起こされたかどうか示すためである。サンプルは焼結中に直径が収縮するはずであるが、変形(圧力誘起質量拡散)を引き起こすために十分な圧力が加えられた場合、ディスクの直径は拡大し得るであろう。
【0040】
【表8】
【0041】
表8と図6に示される結果によって実証されるように、ホットプレス圧力は、ホットプレスの後にLSM20の低CTEを確かに引き起こした。図6は、各個別試験サンプルに対するCTE値を示す。0.02MPaの圧力でさえ材料を変質するのに十分だったことが理解できる。ディスク直径の膨張結果から、0.02MPaの圧力でさえ圧力誘起変形(質量拡散)を引き起こすのに十分に大きいことが理解できる。この観察は、結晶方位の強制的な整列による、結晶構造における異方性の生成に関する上記の仮説に対応する。さらに、それは、CTEが、焼鈍の後に後戻りし得る温度(1200℃を超える)での上記の観察に対応し得るであろう。
【0042】
比較的低い圧力でもおこる効果を強調するために、5つのバッチの試験結果をすべて下記の表9に示すが、そのためのサンプルは、CR LSM−(E) (0.02MPa) および CR LSM−(G) (0.1MPa)のために、各圧力レベルに対して同一のディスクから切断したものである。膨張計中のどのスロットが試験に使用されるかに関して、サンプルを意図的に互い違いにした。試験は2か月の期間にわたって行なった。
【0043】
【表9】
【0044】
非線形の応力歪みの結果
LSM20粉末(CREE LSM20またはPraxair LSM20)を2インチのディスクへ、ホットプレスまたは自由焼結した。次いで、ディスクから、棒を50mm×4mm×4mmの寸法に切り出した。次いで、棒を四点曲げ試験にかけて、荷重対変位カーブを測定した。結果を図7A〜図7Dに示す。CB0513はホットプレスしたPraxair LSM20(焙焼された粉末)(図7A)、CB0616は自由焼結したCREE LSM20(図7B)、および、CB0704はホットプレスしたCREE SLM20(図7C)であった。CB0616(自由焼結したCREE LSM20)は、四点曲げ試験において破損に至るまで線形の弾性の荷重−変位カーブを示したが、これは、小さい荷重の下、室温でのセラミックス材料の予想された挙動である。図7A〜図7Cは、それぞれの組成物の個々のサンプルに対する荷重−変位カーブを示す。CB0513(ホットプレスしたPraxair LSM20)とCB0704(ホットプレスしたCREE LSM20)の両方は、塑性降伏、すなわち、軟化であり、いくつかのペロブスカイトセラミックに対して報告された強弾性に似ている挙動である、非線形の荷重対変位カーブを明らかに示した。
【0045】
ホットプレス試料調製の効果を確認するために、2組のサンプルを同一の処理をしたが、唯一の差異は、1組はホットプレスし、また、1組は自由焼結したことである。粉末バッチ、グリーン成形加工、ならびに焼結の時間および温度は、すべて同じだった。結果を図7Dに示す。自由焼結したサンプルは、線形として示され、ホットプレスしたサンプルは、CB0704サンプルによく一致する、明らかに非線形の挙動を有した。
【0046】
参照による組込み
上記に記載したすべての参考文献の教示は、その全体を参照により本明細書に組込む。
【0047】
均等物
本発明についてそれらの例示実施形態を参照して具体的に示し、記述してきたが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲により包含されている本発明の範囲から逸脱することなく、形態および詳細の様々な変更をそこに実施し得ることを、理解するであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
面外CTEと面内CTEの間で少なくとも1×10−6℃−1の差を有する面外CTEおよび面内CTEによって定義された異方性の熱膨張率(CTE)を有する焼結された層を含む、固体酸化物燃料電池のカソード。
【請求項2】
前記焼結された層がペロブスカイトである、請求項1に記載のカソード。
【請求項3】
前記ペロブスカイトがランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)である、請求項2に記載のカソード。
【請求項4】
前記LSMが、約10.6×10−6℃−1と約11.8×10−6℃−1の間の範囲にある面内CTEを有する、請求項3に記載のカソード。
【請求項5】
前記LSMが、約11.0×10−6℃−1と約11.4×10−6℃−1の間の範囲にある面内CTEを有する、請求項4に記載のカソード。
【請求項6】
前記LSMの面外CTEが約13.0×10−6℃−1であり、前記LSMの面内CTEが約12.0×10−6℃−1である、請求項3に記載のカソード。
【請求項7】
前記LSMの面外CTEが約14.0×10−6℃−1であり、前記LSMの面内CTEが約10.6×10−6℃−1である、請求項3に記載のカソード。
【請求項8】
前記カソードが、約20℃と約50℃の間の範囲にある温度で非線形の応力‐歪み曲線を示す、請求項1に記載のカソード。
【請求項9】
固体酸化物燃料電池の低熱膨張率(CTE)のカソード形成のための方法であって、
a)2つのプラテン間にペロブスカイト粉末の層を配置するステップと、
b)前記プラテンに圧力を加えながら前記層を焼結し、それによって前記低CTEのカソードを形成するステップと、を含む、方法。
【請求項10】
前記ペロブスカイトが、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記層が、約0.5mmと約4mmの間の範囲にある厚さを有する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記層が、約1200℃と約1400℃の間の範囲にある温度で、約15分と約3時間の間の範囲にある期間、焼結される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記層が、約1270℃と約1290℃の間の範囲にある温度で、約15分と約1時間の間の範囲にある期間、焼結される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記プラテンに加えられる圧力が、約0.02MPaと約20MPaの間の範囲にある、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記プラテンに加えられる圧力が、約0.02MPaと約12MPaの間の範囲にある、請求項14に記載の方法。
【請求項1】
面外CTEと面内CTEの間で少なくとも1×10−6℃−1の差を有する面外CTEおよび面内CTEによって定義された異方性の熱膨張率(CTE)を有する焼結された層を含む、固体酸化物燃料電池のカソード。
【請求項2】
前記焼結された層がペロブスカイトである、請求項1に記載のカソード。
【請求項3】
前記ペロブスカイトがランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)である、請求項2に記載のカソード。
【請求項4】
前記LSMが、約10.6×10−6℃−1と約11.8×10−6℃−1の間の範囲にある面内CTEを有する、請求項3に記載のカソード。
【請求項5】
前記LSMが、約11.0×10−6℃−1と約11.4×10−6℃−1の間の範囲にある面内CTEを有する、請求項4に記載のカソード。
【請求項6】
前記LSMの面外CTEが約13.0×10−6℃−1であり、前記LSMの面内CTEが約12.0×10−6℃−1である、請求項3に記載のカソード。
【請求項7】
前記LSMの面外CTEが約14.0×10−6℃−1であり、前記LSMの面内CTEが約10.6×10−6℃−1である、請求項3に記載のカソード。
【請求項8】
前記カソードが、約20℃と約50℃の間の範囲にある温度で非線形の応力‐歪み曲線を示す、請求項1に記載のカソード。
【請求項9】
固体酸化物燃料電池の低熱膨張率(CTE)のカソード形成のための方法であって、
a)2つのプラテン間にペロブスカイト粉末の層を配置するステップと、
b)前記プラテンに圧力を加えながら前記層を焼結し、それによって前記低CTEのカソードを形成するステップと、を含む、方法。
【請求項10】
前記ペロブスカイトが、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記層が、約0.5mmと約4mmの間の範囲にある厚さを有する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記層が、約1200℃と約1400℃の間の範囲にある温度で、約15分と約3時間の間の範囲にある期間、焼結される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記層が、約1270℃と約1290℃の間の範囲にある温度で、約15分と約1時間の間の範囲にある期間、焼結される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記プラテンに加えられる圧力が、約0.02MPaと約20MPaの間の範囲にある、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記プラテンに加えられる圧力が、約0.02MPaと約12MPaの間の範囲にある、請求項14に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7C】
【図8】
【図7B】
【図7D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7C】
【図8】
【図7B】
【図7D】
【公表番号】特表2013−516731(P2013−516731A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547306(P2012−547306)
【出願日】平成22年12月30日(2010.12.30)
【国際出願番号】PCT/US2010/062542
【国際公開番号】WO2011/082326
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(593150863)サン−ゴバン セラミックス アンド プラスティクス,インコーポレイティド (139)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月30日(2010.12.30)
【国際出願番号】PCT/US2010/062542
【国際公開番号】WO2011/082326
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(593150863)サン−ゴバン セラミックス アンド プラスティクス,インコーポレイティド (139)
【Fターム(参考)】
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