説明

Si−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法及びデバイス作製法

【課題】シリカガラス製微小球を代表としたミリ、ミクロン乃至はサブミクロンオーダーの微小光学部品に、任意の波長の光を結合させることができる新規手法を確立する。
【解決手段】Si−O−Si結合を含む化合物としての固体状シリコーン1に波長190nm以下の光を照射することで形成されるシリカガラス改質層2の上面、側面乃至は近傍に微小光学部品としてのシリカガラス微小球3が位置するようにし、前記改質層2に所望の光を導波させることにより、前記微小球3へ光入射させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品への光入射法に係り、とくにSi−O−Si結合を含む化合物に波長190nm以下の光を照射することで形成される改質層の上面、側面乃至は近傍に微小光学部品が位置するようにし、前記改質層に所望の光を導波させることにより、極めて微小な光学部品への光入射を可能としたSi−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法及びデバイス作製法に関する。本発明は、光回路やマイクロ分析チップ等のマイクロ・ナノデバイス作製へ適用可能となる等、その用途は電気電子工学のみならずあらゆる分野で有用である。
【背景技術】
【0002】
微小光学部品の内、ミクロンサイズのシリカガラス製微小球を例にとると、そこに光を入射させるためには一般に、市販のシリカガラス製光ファイバー先端を熱によりミクロンオーダーまで溶融、延伸させ、その熱処理加工したファイバーを微小球に接近させ光を入射させる方法がある。しかし、微小光学部品のサイズがミクロン乃至はそれ以下に小さくなると、光ファイバー先端の熱処理加工が難しくなり、またその細い光ファイバーのハンドリングも容易ではなくなる場合が多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
シリカガラス製微小球を代表としたミリ、ミクロン乃至はサブミクロンオーダーの微小光学部品に、任意の波長の光を結合させることができる新規手法の確立を課題とする。
【0004】
そこで、本発明は、上記の点に鑑み、微小光学部品に任意の波長の光を結合させることができるSi−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法及びデバイス作製法を提供することを目的とする。
【0005】
本発明のその他の目的や新規な特徴は後述の実施の形態において明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様に係るSi−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法は、Si−O−Si結合を含む化合物に波長190nm以下の光を照射することで形成される改質層の上面、側面乃至は近傍に微小光学部品が位置するようにし、前記改質層に所望の光を導波させることにより、前記微小光学部品へ光入射させることを特徴としている。この場合、前記Si−O−Si結合を含む化合物に、前記微小光学部品を配置した状態で、波長190nm以下の光を照射して前記改質層を形成し、前記改質層と前記微小光学部品とを接触させてもよいし、あるいは、前記改質層を形成した後に、前記微小光学部品を前記改質層の上面、側面乃至は近傍に配置してもよい。
【0007】
本発明の第2の態様に係るSi−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法は、Si−O−Si結合を含む化合物に波長190nm以下の光を照射することで形成される改質層の上面、側面乃至は近傍に微小球が位置するようにし、前記改質層に所望の光を導波させることにより、前記微小球へ光入射させることを特徴としている。
【0008】
本発明の第3の態様に係るSi−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法は、Si−O−Si結合を含む化合物に波長190nm以下の光を照射することで形成される改質層の上面、側面乃至は近傍に1次元、2次元乃至は3次元的配列の微小球列が位置するようにし、前記改質層に所望の光を導波させることにより、前記微小球列へ光入射させることを特徴としている。
【0009】
前記第2又は第3の態様において、前記Si−O−Si結合を含む化合物に、前記微小球を配置した状態で、波長190nm以下の光を照射して前記改質層を形成し、前記改質層と前記微小球とを接触させてもよいし、前記改質層を形成した後に、前記微小球を前記改質層の上面、側面乃至は近傍に配置してもよい。
【0010】
本発明の第4の態様に係るデバイス作製法は、第2又は第3の態様に係るSi−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法により、前記改質層内に導波させた2波長以上の光の内、前記微小球の直径乃至は屈折率を選択することにより、所望の波長の光のみを取り出すことを特徴としている。
【0011】
本発明の第5の態様に係るデバイス作製法は、第2又は第3の態様に係るSi−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法により、前記改質層内に導波させた光の伝搬方向に対し垂直に光を取り出すことを特徴としている。
【0012】
本発明の第6の態様に係るデバイス作製法は、第2又は第3の態様に係るSi−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法により、前記改質層内に導波させた2波長以上の光の内、前記微小球の直径乃至は屈折率を選択することにより、所望の波長の光のみを、前記改質層内に導波させた光の伝搬方向に対し垂直に取り出すことを特徴としている。
【0013】
前記第4、第5又は第6の態様において、光を取り出す前記微小球と、前記Si−O−Si結合を含む化合物に形成した別の改質層とを接触乃至は近接させることにより、複数の改質層に光を分波させてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シリカガラス製微小球を代表としたミリ、ミクロン乃至はサブミクロンオーダーの微小光学部品に、任意の波長の光を結合させることができる新規手法が確立でき、発光素子、光導波路、受光素子など光部品をチップ上に高度に集積化できる等、光回路製作のための必要不可欠な技術となる。また本発明は、これら光エレクトロニクスの分野にとどまらず、マイクロ分析チップやその他マイクロ・ナノデバイス製作技術等、今後接合技術を利用して発展するデバイス製作のあらゆる分野に多大に利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、Si−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法及びデバイス作製法の実施の形態を図面に従って説明する。
【0016】
図1は本発明の第1の実施の形態に用いる実験の装置概略であって、Si−O−Si結合を含む化合物としての固体状シリコーン1に、波長190nm以下の光を照射することで形成される例えば直線帯状のシリカガラス改質層2の側面に微小光学部品としての光透過性微小球3が位置するようにしている。
【0017】
この場合、波長190nm以下の光として、波長157nmのFレーザー光を用いることができ、光透過性微小球3としては直径2.5μmのシリカガラス製微小球やプラスチック製微小球を用いることができ、微小球3はシリカガラス改質層2の側面に沿って複数個1次元的に整列しており、シリカガラス改質層2に部分的に接触している。
【0018】
このような構成において、改質層2に所望の光(可視光、赤外光、紫外光を含む)を導波させれば、改質層2を通った導波光4が、微小球3に入射され分波光5が得られる。このとき、改質層内に導波させた導波光4の伝搬方向に対し垂直に分波光5を取り出すことが可能である。
【0019】
また、前記改質層2内に導波させた2波長以上の導波光の内、微小球3の直径乃至は屈折率を選択することにより、所望の波長の光のみを取り出すことが可能である。
【0020】
なお、固体状シリコーン1に、微小球3を一列に配置した状態で、波長190nm以下の光を照射して改質層2を形成し、改質の結果盛り上がった改質層2と微小球3とを接触(接合)させてもよいし、改質層2を形成した後に、微小球3を改質層2の上面、側面に接触させて配置してもよい。固体状シリコーン1がシリコーンゴムで、微小球3がシリカガラス製微小球である場合、シリカガラス製微小球はシリコーンゴムに付着状態となる。
【0021】
図2は本発明の第2の実施の形態に用いる装置概略であって、固体状シリコーン1上に微小球3を複数列として2次元的に配置した構成を示す。その他は第1の実施の形態と同様であり、同一又は相当部分に同一符号を付した。なお、微小球3を改質層2の上面にも接触するように配置した3次元的な配列としてもよい。
【0022】
それらの第1又は第2の実施の形態によれば、次の通りの効果を得ることができる。
【0023】
(1)1ミリメートル以下、とくに光ファイバーのコア径に概ね相当する10μm以下の微小光学部品、例えば微小球単体や、それを複数個1次元的、2次元的乃至は3次元的に整列させた微小球列への光入射が可能となる。
【0024】
(2)微小球3の直径乃至は屈折率を選択することにより、改質層2内に導波させた2波長以上の光の内、所望の波長の光のみを取り出すことが可能となる。
【0025】
(3)改質層2内に導波させた光の伝搬方向に対し、微小球3を介して垂直に光を取り出すことが可能となる。
【0026】
(4)微小球3の直径乃至は屈折率を選択することにより、改質層2内に導波させた2波長以上の光の内、所望の波長の光のみを、かつ改質層内に導波させた光の伝搬方向に対し垂直に取り出すことが可能となる。
【0027】
図3は本発明の第3の実施の形態に用いる装置概略であって、Si−O−Si結合を含む化合物としての固体状シリコーン1に、波長190nm以下の光を照射することで形成される2本の直線帯状シリカガラス改質層2A,2Bの側面に微小光学部品としての光透過性微小球3が位置するようにしている。
【0028】
図示の場合、光透過性微小球3は改質層2A,2B間に2次元的に配置されており、両端の微小球列は改質層2A,2Bの側面に接触(接合)しており、微小球列相互も接触している。
【0029】
その他の構成は前述の第1、第2の実施の形態と同様である。
【0030】
この第3の実施の形態によれば、一方の改質層2A内に導波された導波光4を微小球3の列を介して取り出し、他方の改質層2Bに前記微小球3の列を接触(接合)させることにより、改質層2Bに分波光5を分波させることができる。この結果、複数の改質層に光を分波することが可能となる。
【0031】
なお、前記第1、第2及び第3の実施の形態では、微小球3が改質層の側面や上面に接触する場合であるが、微小球3が側面や上面の近傍にあってもよい。この場合、屈折率マッチング液(市販品)等の液体(改質層と屈折率が概ね等しい)を微小球3と改質層の間隙に充填することで、前記第1、第2及び第3の実施の形態と同様に分波光を得ることができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明に係るSi−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法及びデバイス作製法を実施例で詳述する。
【0033】
図1の実験概略構成において、直径2.5μmのシリカガラス製微小球をエタノール中に分散させた溶液をSi−O−Si結合を含む化合物としてのシリコーンゴム(厚さ2mm)上に滴下し、エタノールの蒸発に伴う自己整列効果により、複数の微小球を1次元的に配置した。前記シリコーンゴム上の微小球の1次元的配列に沿って波長157nmのFレーザー光を、エネルギー密度(フルエンス)10mJ/cm/pulse、パルス繰り返し周波数10Hz、照射パルス数6000に設定して、シリコーンゴムに照射してシリコーンゴム上にシリカガラス改質層を形成した。そして、波長532nm及び635nmのレーザー光を、市販のシングルモード光ファイバーを介して、改質層端面から入射させ導波光を得た。微小球が改質層と接触している場合、導波光が分波された。また、接触はしていないが、近傍に微小球が配置されている場合、屈折率マッチング液(シリカガラスと同様の屈折率を有する液体)を微小球と改質層との間隙に充填することにより前記と同様の分波光を得た。
【0034】
図4は、前記方法にて改質層側面にシリカガラス製微小球を1次元的に配置したときの試料の走査電子顕微鏡写真である。同図(a)及び(b)はそれぞれ撮影方向を90度変えた場合である。
【0035】
図5は、前記方法にて、改質層側面に微小球を1次元的に配置し、波長532nmの導波光を通した場合の試料の写真である。緑色光が微小球を介して分波されていることがわかった。
【0036】
図6は、前記方法にて、改質層側面に微小球を1次元的に配置し、波長635nmの導波光を通した場合の試料の写真である。赤色光が微小球を介して分波されていることがわかった。
【0037】
以上本発明の実施の形態及び実施例について説明してきたが、本発明はこれに限定されることなく請求項の記載の範囲内において各種の変形、変更が可能なことは当業者には自明であろう。以下、変形例について触れる。
【0038】
第1、第2及び第3の実施の形態では、改質層は直線帯状であるように図示されているが、直線的である必要はなく、曲線状であってもよい。
【0039】
微小光学部品は配列のしやすさから光透過性微小球である場合で説明したが、光透過性微小多角柱等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係るSi−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法及びデバイス作製法の第1の実施の形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態を示す概略構成図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態を示す概略構成図である。
【図4】本発明の実施例において、Fレーザーにより形成された改質層の側面にシリカガラス製微小球(直径2.5μm)列を配置した試料の走査電子顕微鏡写真図である。
【図5】本発明の実施例において、改質層に波長532nmの導波光を通し、その光が微小球を介して分波されたことを示す試料の光学顕微鏡写真図である。
【図6】本発明の実施例において、改質層に波長635nmの導波光を通し、その光が微小球を介して分波されたことを示す試料の光学顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0041】
1 固体状シリコーン
2、2A、2B 改質層
3 微小球
4 導波光
5 分波光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si−O−Si結合を含む化合物に波長190nm以下の光を照射することで形成される改質層の上面、側面乃至は近傍に微小光学部品が位置するようにし、前記改質層に所望の光を導波させることにより、前記微小光学部品へ光入射させることを特徴とするSi−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法。
【請求項2】
請求項1に記載のSi−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法において、前記Si−O−Si結合を含む化合物に、前記微小光学部品を配置した状態で、波長190nm以下の光を照射して前記改質層を形成し、前記改質層と前記微小光学部品とを接触させる、Si−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法。
【請求項3】
請求項1に記載のSi−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法において、前記Si−O−Si結合を含む化合物に波長190nm以下の光を照射して前記改質層を形成した後に、前記微小光学部品を前記改質層の上面、側面乃至は近傍に配置する、Si−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法。
【請求項4】
Si−O−Si結合を含む化合物に波長190nm以下の光を照射することで形成される改質層の上面、側面乃至は近傍に微小球が位置するようにし、前記改質層に所望の光を導波させることにより、前記微小球へ光入射させることを特徴とするSi−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法。
【請求項5】
Si−O−Si結合を含む化合物に波長190nm以下の光を照射することで形成される改質層の上面、側面乃至は近傍に1次元、2次元乃至は3次元的配列の微小球列が位置するようにし、前記改質層に所望の光を導波させることにより、前記微小球列へ光入射させることを特徴とするSi−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のSi−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法において、前記Si−O−Si結合を含む化合物に、前記微小球を配置した状態で、波長190nm以下の光を照射して前記改質層を形成し、前記改質層と前記微小球とを接触させる、Si−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法。
【請求項7】
請求項4又は5に記載のSi−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法において、前記Si−O−Si結合を含む化合物に波長190nm以下の光を照射して前記改質層を形成した後に、前記微小球を前記改質層の上面、側面乃至は近傍に配置する、Si−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法。
【請求項8】
請求項4、5、6又は7に記載のSi−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法により、前記改質層内に導波させた2波長以上の光の内、前記微小球の直径乃至は屈折率を選択することにより、所望の波長の光のみを取り出すことを特徴とするデバイス作製法。
【請求項9】
請求項4、5、6又は7に記載のSi−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法により、前記改質層内に導波させた光の伝搬方向に対し垂直に光を取り出すことを特徴とするデバイス作製法。
【請求項10】
請求項4、5、6又は7に記載のSi−O−Si結合を含む化合物を用いた微小光学部品への光入射法により、前記改質層内に導波させた2波長以上の光の内、前記微小球の直径乃至は屈折率を選択することにより、所望の波長の光のみを、前記改質層内に導波させた光の伝搬方向に対し垂直に取り出すことを特徴とするデバイス作製法。
【請求項11】
請求項8、9又は10に記載のデバイス作製法において、光を取り出す微小球又は微小球の列と、前記Si−O−Si結合を含む化合物に形成した別の改質層とを接触乃至は近接させることにより、複数の改質層に光を分波させることを特徴とするデバイス作製法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate