説明

Si系セラミックスを有す複合材およびその製造方法。

【課題】 接合強度の強い、接合界面近傍にGe濃化領域を有す接合部を介して接合された、シリコン系セラミックスを有する複合材を提供する。
【解決手段】 シリコン系セラミックス部材と接合相手部材が、アルミニウムを主成分としゲルマニウムを0.1重量%〜50重量%含む接合部で接合された複合材であって、前記接合部は、前記シリコン系セラミックス部材との接合界面近傍に、第1のゲルマニウム濃化領域が形成されていることを特徴とする複合材を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Si系セラミックス、特にSi(窒化珪素)を有する複合材、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化珪素(Si)は高温強度に優れ、電気絶縁性が高く、さらにアルミナに比べて熱伝導率が高いことから、ヒーターや、放熱板、電気絶縁板として使用されている。しかし、セラミックスは一般に機械加工が困難であるため、所望形状のセラミックス製品を得るには接合方法の開発が重要である。
【0003】
また、金属材料の加工性の高さと窒化珪素の前述した利点を生かした高機能製品を製造することも可能である。
【0004】
特許文献1には、窒化珪素のようなセラミックス基板の少なくとも一主面にアルミニウムを主成分とする金属板をアルミニウムを主成分とし、マグネシウム(Mg)を含むろう材を介して接合したセラミックス回路基板が開示されている。このようなろう材から作られる接合部は、セラミックス回路基板との接合界面近傍に前記Mgが偏在した形態を有す。
【特許文献1】特開2001−144433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1では、Alを主成分とするろう材に添加されるMgが高い酸化性を示し、その添加量が制限されるため、セラミックス部材に対して金属板を十分な接合強度で接合することが困難であった。
【0006】
本発明は、Alを主成分とし耐酸化性に優れたGeを比較的多量に含有させた接合部でSi系セラミックス部材と接合相手部材とを高強度にて接合した複合材およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シリコン系セラミックス部材と接合相手部材が、アルミニウムを主成分としゲルマニウムを0.1重量%〜50重量%含む接合部で接合された複合材であって、前記接合部は、前記シリコン系セラミックス部材との接合界面近傍に第1のゲルマニウム濃化領域が形成されていることを特徴とする複合材を提供するものである。
【0008】
また本発明は、シリコン系セラミックス部材と接合相手部材が、アルミニウムを主成分とし珪素を0.1重量%〜20重量%含む接合部で接合された複合材であって、前記接合部は、前記シリコン系セラミックス部材との接合界面近傍に珪素濃化領域が形成されていることを特徴とする複合材を提供するものである。
【0009】
さらに本発明は、シリコン系セラミックス部材と接合相手部材の間にアルミニウムを主成分としゲルマニウムを0.1重量%〜50重量%含むろう材を介在し、加熱することにより前記シリコン系セラミックス部材との接合界面近傍にゲルマニウム濃化領域が存在する接合部を前記部材間に形成する工程を含むことを特徴とする複合材の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、低空隙率を示し接合強度が高い接合部を有すSi系セラミックスを有する複合材およびその製造方法が提供できる。
【0011】
さらに、Geを含むろう材を用いることにより、ろう材の溶融(ろう付け)温度を下げることができ、様々な用途のSi系セラミックスを有する複合材を製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る複合材を、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1はこの第1実施形態に係るSi系セラミックスを有する複合材を示す部分切欠斜視図である。複合材1は、シリコン系セラミックス部材2が二つの接合相手部材3間に挟まれた状態で存在し、セラミックス部材2と二つの接合相手部材3との間にそれぞれ接合部4を介在して接合した構造を有する。
【0014】
前記シリコン系セラミックスは主たる成分が珪素含有セラミックスであればよく、特に主たる成分が窒化珪素であることが好ましい。この珪素含有セラミックスとしては、例えば窒化珪素(Si)、炭化珪素(SiC)、酸化珪素(SiO)、ムライト(Al−SiO)、コーディエライト((Mg,Fe)Al(SiAl)O18)、サイアロン(Si・AlN・SiO・Al)が挙げられる。窒化珪素は、通常アルミナ(Al)、イットリア(Y)、酸化マグネシウム(MgO)または酸化カルシウム(CaO)などの焼結助剤を含む焼結体の形態で用いられる。例えば、これら助剤成分はAl+YまたはMgO+Yなどの複数の成分であってもよい。これら助剤成分を含む窒化珪素の焼結体を具体的に例示すると、Si−3wt%Al−5wt%Y、Si−2wt%MgO−10wt%Yなどがある。
【0015】
前記接合相手部材3としては、セラミックスまたは金属が挙げられる。前記接合相手部材3がセラミックスの場合、例えば前述したSi系セラミックスが好ましい。前記接合相手部材3が金属の場合、前記接合相手部材3は融点が300℃以上、好ましくは450℃以上の材料から作られることが望ましい。この接合相手部材3は、例えばAlを含有する金属、より好ましくはAlもしくはAl合金で作られることが望ましい。
【0016】
前記接合部4とは、前記シリコン系セラミックス部材2および前記接合相手部材3の間に位置する領域で、これら接合部材のいずれに対しても組成が異なる領域を意味する。金属を前記接合相手部材3として選択する場合、接合界面から金属部材方向に向かって組成が徐々に変化する場合があり、その場合接合部の領域が明瞭でない。この場合、ある元素に注目して組成の範囲で領域を決定してもよい。
【0017】
前記接合部4は、Alを主たる成分としGeを0.1重量%〜50重量%含む組成を有する。前記接合部4は、シリコン系セラミックス部材2との接合界面近傍5にGe濃化領域6が形成されている。
【0018】
ここで界面近傍5とは、濃化領域の分布領域に相当し、接合界面から500μm以内の領域を意味する。接合部の厚さとは関係なく、濃化領域の分布領域は500μmを超えると強度が低下する虞があるため500μm以下が好ましい。
【0019】
濃化領域、濃化領域の濃度、およびその分布領域は以下の方法により判定される。
【0020】
(a)濃化領域の判定
接合部断面にてセラミックス部材端面から接合相手部材方向に向かって、電子プローブ微量分析装置[(EPMA;electron probe microanalyser)(株)島津製作所、EPMA−1600]で元素ごとの2次元分布を計測し、該当元素のカウント数の分布を見て濃化領域を判定する。濃化領域は、他の領域に比べ該当元素のカウント数が計測誤差よりも大きなカウント数の差を有することが必要であり、2倍以上であることが本発明の効果を得るうえで望ましい。
【0021】
(b)濃化領域の濃度の判定
まず、濃度が既知の複数のサンプルを用意して、これらのサンプルについてEPMAおよびエネルギー分散型蛍光X線分析装置[(EDX;Energy Dispersive X-ray Spectrometer)(株)島津製作所、EMAX−2770]を使用して該当元素のカウント数を測定する定量分析を行い、この測定結果から該当元素のカウント数と該当元素の濃度との関係を示す検量線を作成する。実際の濃化領域の該当元素の濃度は、前記EPMAおよびEDXから測定した該当元素のカウント数をこの検量線に照合することにより判定される。接合部の濃化領域以外の領域との濃度は、同様に該当元素のカウント数をこの検量線に照合することにより判定される。これらの判定結果から濃化領域以外の領域に対する濃化領域の濃度の倍率を求める。ただし、各領域の濃度は複数箇所の平均値として用いる。このような濃度倍率は1.5倍以上、より好ましくは2倍以上であることが望ましい。その倍率が1.5倍未満では、Si系セラミックス部材2と接合相手部材3とを十分な強度で接合することが困難になる場合がある。該当元素の濃化領域における濃度の上限は接合部に含まれる該当元素の濃度に依存する。
【0022】
(c)濃化領域の分布領域の判定
接合部断面にて、セラミックス部材端面から接合相手部材方向に向かってEPMAを用いて距離XまでとXから2Xまでの領域で測定し、その濃化領域の面積比率(該当する全領域面積に対する濃化領域の面積分率)が1.5倍に達した時の距離Xを濃化領域の分布領域とする。
【0023】
接合部4に含まれるGeの含有量が0.1重量%未満では所望の濃化領域が形成することが困難になる。一方、Ge含有量が50重量%を超えると、Ge量が過剰になり接合不良などにより接合部自体の強度が低下する虞がある。より好ましいGeの含有量は、0.5重量%〜30重量%である。
【0024】
接合部4は、さらにSiを0.1重量%〜20重量%含むものであってよい。この場合、シリコン系セラミックス部材2との接合界面近傍5には、上述のGe濃化領域(第1濃化領域)に加えて、
(1)Si濃化領域、
(2)Ge・Si濃化領域、および
(3)Si濃化領域およびGe・Si濃化領域、
から選ばれる第2濃化領域が形成される。
【0025】
前記Ge・Si濃化領域は、前記第1の濃化領域の一部にSiが含有されることにより形成されてもよい。
【0026】
前記接合部4にSiが含有される場合において、Siの含有量が0.1重量%未満では所望の濃化領域を形成することが困難になる。一方、Siの含有量が20重量%を超えると、Si量が過剰になり接合不良などにより接合部自体の強度が低下する虞がある。より好ましいSiの含有量は0.2重量%〜10重量%である。
【0027】
接合部4は、さらにMgを0.05重量%〜5重量%含むものであってよい。この場合、シリコン系セラミックス部材2との接合界面近傍5に、上述の第1濃化領域に加えて、
(4)Mg濃化領域、
(5)Ge・Mg濃化領域、および
(6)Mg濃化領域およびGe・Mg濃化領域
から選ばれる第3濃化領域が形成される。
【0028】
前記Ge・Mg濃化領域は、前記第1の濃化領域の一部にMgが含有されることにより形成されてもよい。
【0029】
前記接合部4にMgが含有される場合において、Mgの含有量が0.05重量%未満では所望の濃化領域を形成することが困難になる。一方、Mgの含有量が5重量%を超えると、Mg量が過剰になり接合不良などにより接合部自体の強度が低下する虞がある。より好ましいMgの含有量は0.1重量%〜2重量%である。
【0030】
接合部4は、Siを0.1重量%〜20重量%含み、かつMgを0.05重量%〜5重量%含むものであってよい。この場合、シリコン系セラミックス部材2との接合界面近傍5には、第1濃化領域に加えて、前記第2濃化領域および第3濃化領域が形成されるか、またはこれら第1〜第3濃化領域に加えてGe・Si・Mg濃化領域(第4濃化領域)が形成される。
【0031】
前記接合部4にSiおよびMgが含有される場合において、Siの含有量が0.1重量%未満では所望の濃化領域を形成することが困難になる。一方、Siの含有量が20重量%を超えると、Si量が過剰になり接合不良などにより接合部自体の強度が低下する虞がある。より好ましいSiの含有量は0.2重量%〜10重量%である。
【0032】
また、前記接合部4にSiおよびMgが含有される場合において、Mgの含有量が0.05重量%未満では所望の濃化領域を形成することが困難になる。一方、Mgの含有量が5重量%を超えると、Mg量が過剰になり接合不良などにより接合部自体の強度が低下する虞がある。より好ましいMgの含有量は0.1重量%〜2重量%である。
【0033】
前述した前記第2、第3および第4濃化領域のそれぞれの分布領域は、前記第1Ge濃化領域と同様に、接合界面から500μm以内の領域を意味する前記接合界面近傍5に相当する。これらの濃化領域の分布領域は、接合部の厚さとは関係なく、500μmを超えると強度が低下する虞があるため500μm以下が好ましい。
【0034】
さらに接合部4は、不可避不純物が含まれていてもよく、セラミックス部材2または相手部材3由来の成分を含んでもよい。
【0035】
なお、前述した各濃化領域は、例えば粒状または塊状で接合界面近傍5に存在される。
【0036】
次に本発明に係るSi系セラミックスを有する複合材の製造方法を図2を参照して一例として説明する。
【0037】
まず、有機接着剤にGeまたはGeを含む合金の粉末を添加し、この粘稠性Ge含有粉末をSi系セラミックス部材2の両面に塗布してGe含有粉末層9をそれぞれ形成する。つづいて、このSi系セラミックス部材2の両面のGe含有粉末層9にAlを主成分とするろう材8をそれぞれ重ね、さらにこれらろう材8に接合相手材3を重ねることにより積層物7を作製する。
【0038】
次いで、得られた積層物7を真空炉中に設置し、最上段の接合相手部材3の上から荷重を加えながら真空中で加熱して、前記セラミックス部材2両面に対して接合相手部材3を接合部4を介してそれぞれ接合して複合材1を製造する。この接合において、1MPaの接合面圧を加える場合はホットプレスを採用し、0.01MPaの接合面圧を加える場合は重りを載せる。ここで接合面圧とは、接合時の荷重を接合部の面積で除した値である。
【0039】
前述した製造方法によれば、セラミックス部材2との接合界面近傍5にゲルマニウム濃化領域が存在する接合部4で、二つの部材を接合された複合材が得られる。このような接合部4の接合界面近傍5に第1のGe濃化領域6が形成されるのは、Al中のGeの固溶限を超える濃度でGeが存在する場合、過剰なGeは析出して分離し、セラミックス部材2の珪素と化学的性質が類似であるため、なじむようにセラミックス部材2側に偏在するからではないかと考えられる。
【0040】
次に本発明に係るSi系セラミックスを有する複合材の別の製造方法を図3を参照して説明する。この方法は、Si系セラミックス部材2とろう材8の間に前述したGe含有粉末層9を介さず、Si系セラミックス部材2の両面にろう材8を直接配置した以外、前述した複合材の製造方法と同様である。
【0041】
ろう材8としては、以下の列挙する組成を有することが好ましい。
【0042】
(i)Geを0.1〜50重量%、好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは10〜30重量%含み、残部が実質的にAlであるろう材。
【0043】
(ii)前記(i)のGeに加え、珪素を1〜20重量%、好ましくは4〜15重量%含む、残部が実質的にAlのろう材。
【0044】
(iii)前記(i)のGeに加え、Mgを0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%含み、残部が実質的にAlであるろう材。
【0045】
(iv)前記(ii)のGeおよびSiに加え、Mgを0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%含み、残部が実質的にAlであるろう材。
【0046】
なお、複合材の製造においてGeの他にSiおよびMgの少なくとも一方を含む接合部を形成する場合、これらの合金粉末を接着剤に混合し、これを前記部材間に介在させて加熱処理してもよい。
【0047】
(第2実施形態)
この第2実施形態の複合材はSi系セラミックス部材と接合相手部材とを、Alを主たる成分としSiを0.1重量%〜20重量%含む組成を有する接合部で接合し、かつこの接合部はSi系セラミックス部材との接合界面近傍にSi濃化領域が形成されている。
【0048】
ここで界面近傍5とは、濃化領域の分布領域に相当し、接合界面から500μm以内の領域を意味する。濃化領域の分布領域は、接合部の厚さとは関係なく、500μmを超えると強度が低下する虞があるため500μm以下が好ましい。濃化領域、濃化領域の濃度、およびその分布領域の判定方法は第1実施形態と同様な方法によりなされ、濃化領域の濃度の倍率は1.5倍以上、好ましくは2.0倍以上であることが望ましい。
【0049】
Siの含有量が0.1重量%未満では所望の濃化領域が形成されず、20重量%を超えると、Si量が過剰になり接合不良などにより接合部自体の強度が低下する虞がある。より好ましいSiの含有量は0.2重量%〜10重量%である。
【0050】
接合部4は、さらにMgを0.05重量%〜5重量%含むものであってよい。この場合、シリコン系セラミックス部材2との接合界面近傍5に上述のSi濃化領域に加えて、
(7)Mg濃化領域、
(8)Si・Mg濃化領域、および
(9)Mg濃化領域およびSi・Mg濃化領域
から選ばれる濃化領域が形成される。
【0051】
前記Si・Mg濃化領域は、前記Si濃化領域の一部に同量のMgが含有されることにより形成されてもよい。
【0052】
前記接合部にMgが含有される場合において、Mgの含有量が0.05重量%未満では所望の濃化領域を形成することが困難になる。一方、Mgの含有量が5重量%を超えると、Mg量が過剰になり接合不良などにより接合部自体の強度が低下する虞がある。より好ましいMgの含有量は0.1重量%〜2重量%である。
【0053】
第2実施形態の接合部は、不可避不純物が含まれていてもよく、セラミックス部材または相手部材由来の成分を含んでもよい。
【0054】
なお、前述した各濃化領域は、例えば粒状または塊状で接合界面近傍に存在される。
【0055】
次に第2実施形態に係る複合材の製造方法を一例として説明する。
【0056】
Si系セラミックス部材の両面に直接Alを主成分とするろう材をそれぞれ重ね、さらにこれらろう材に接合相手材を重ねることにより積層物を作製する。
【0057】
次いで、得られた積層物を真空炉中に設置し、最上段の接合相手部材の上から荷重を加えながら真空中で加熱して、前記セラミックス部材両面に対して接合相手部材を接合部を介してそれぞれ接合して複合材を製造する。この接合において、1MPaの接合面圧を加える場合はホットプレスを採用し、0.01MPaの接合面圧を加える場合は重りを載せる。
【0058】
接合部4の接合界面近傍5にSi濃化領域が形成されるのは、Al中のSiの固溶限を超える濃度でSiが存在する場合、過剰なSiは析出して分離し、セラミックス部材2の珪素となじむようにセラミックス部材2側に偏在するからではないかと考えられる。
【0059】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0060】
(実施例1)
まず、アクリル系樹脂をアルコールで希釈したバインダーに、平均粒径が25μmのGe粉末を添加して粘稠性Ge含有粉末を調製した。つづいて、前述した図2に示すように、焼結助剤として3重量%のAlおよび5重量%のYを含む、30×30×0.6mmの板体状のSi焼結体2の両面に前記粘稠性Ge含有粉末を塗布しGe重量で0.02gのGe粉末層9をそれぞれ形成した。引き続き、Si焼結体2両面の前記Ge粉末層9の両面に、Al−12Siからなる厚さ30μmの箔(ろう材)8をそれぞれ重ねた。さらに、これらろう材8上にJIS4000に規定されるNo.A1050Pである、30×30×0.5mmのAl板(接合相手部材)3を重ねて、積層物7とした。
【0061】
次いで、前記積層物7を真空炉に設置した後、最上段のAl板の上から重りを使用し0.01MPaの接合面圧を加え、真空炉中のガスを排気して3×10−2Paの圧力に設定し、575℃で1時間加熱することによって複合材を製造した。この接合部は、EDXの組成分析により濃化領域以外の領域の濃度がGe6重量%、Si1重量%、残部が実質的にAlであった。
【0062】
また、前記複合材を接合界面近傍に垂直な方向に切断し、研磨した後、電子顕微鏡反射電子線像にて撮影した。この電子顕微鏡反射電子線像の写真を図4に示す。図4の中央部分の白い領域を、EPMAを用いて分析した結果、この領域はAl−Geの組成を有する濃化領域であった。その他にも接合界面近傍においてAl−Si−Oの組成を有する濃化領域の存在が確認された。これらの濃化領域はSi焼結体2との接合界面から100μmの範囲に分布していた。
【0063】
濃化領域のGe濃度を前述した(b)の方法に基づいて測定した結果、接合部の他の領域に対して3〜6倍の濃度であった。同様に珪素に関しても、濃化領域のSi濃度は接合部の他の領域に対し平均して4倍の濃度であった。
【0064】
Si焼結体2と接合部4との界面における任意の視野内に存在する空隙の長さをその視野内の接合長さで除することにより空隙率を求めた。その結果、空隙率は2%以下であった。
【0065】
このような実施例1では、接合部にAl−GeおよびAl−Si−Oの組成を有する濃化領域が接合界面近傍に形成されるため、低空隙率によって裏づけされたようにSi焼結体とAl板を高強度で接合された複合材を得ることができる。
【0066】
(実施例2)
まず、アクリル系樹脂をアルコールで希釈したバインダーに、平均粒径が45μmのGe15重量%、Si8重量%、Mg1重量%、残部が実質Alである合金粉末を添加し、粘稠性Ge、SiおよびMg含有合金粉末を調製した。つづいて、前述した図2に示すように、焼結助剤として3重量%のAlおよび5重量%のYを含む、30×30×0.6mmの板体状のSi焼結体2の両面に前記粘稠性Ge、SiおよびMg含有合金粉末を塗布し厚さ70μmのGe、SiおよびMg含有合金粉末層9をそれぞれ形成した。引き続き、Si焼結体2両面の前記Ge粉末層9の両面にJIS4000に規定されるNo.A1050Pである、30×30×0.5mmのAl板(接合相手部材)3を重ねて、積層物7とした。
【0067】
次いで、前記積層物7を真空炉に設置した後、最上段のAl板の上から重りを使用し0.01MPaの接合面圧を加え、真空炉中のガスを排気して3×10−2Paの圧力に設定し、575℃で1時間加熱することによって複合材を製造した。この接合部は、EDXの組成分析により濃化領域以外の領域の濃度はGe4重量%、Si1重量%、残部が実質的にAlであった(Mgは検出不能であった)。
【0068】
前記複合材の接合界面近傍の電子顕微鏡反射電子線像を撮影した。その結果Al−Geの組成を有する濃化領域の他に図5に示す同反射電子線像の写真のように濃化領域が接合界面近傍に形成されていることが確認された。図5の白い領域およびやや白い領域をEPMAを用いて分析した結果、白い領域はAl−Geの組成を有す濃化領域であり、やや白い領域はAl−Siの組成を有す濃化領域であった。どちらの領域も微量ながらMgおよびOも濃化しており、部分的にAl−Ge−MgおよびAl−Si−Oの組成を有する濃化領域が存在することが確認された。これらの濃化領域はSi焼結体2との接合界面から100μmの範囲に分布していた。
【0069】
濃化領域のGe濃度を前述した(b)の方法に基づいて測定した結果、接合部の他の領域に対して2〜5倍の濃度であった。同様に珪素に関しても、濃化領域のSi濃度は接合部の他の領域に対し平均して2倍の濃度であった。また実施例1と同様に空隙率を測定したところ、空隙率は2%以内であった。
【0070】
このような実施例2では接合部にAl−Ge、Al−Si、Al−Ge―MgおよびAl−Si−Oの組成を有する濃化領域が形成されるため、低空隙率によって裏づけされたようにSi焼結体とAl板を高強度で接合された複合材を得ることができる。
(実施例3)
焼結助剤として3重量%のAlおよび5重量%のYを含む、30×30×0.6mmの板体状のSi焼結体の両面に、Al−12Siからなる厚さ30μmの箔(ろう材)をそれぞれ重ねた。さらに、これらろう材上にJIS4000に規定されるNo.A1050Pである、30×30×0.5mmのAl板(接合相手部材)を重ねて、積層物とした。
【0071】
次いで、前記積層物を真空炉に設置した後、最上段のAl板の上からホットプレスを使用し1MPaの接合面圧を加え、真空炉中のガスを排気して3×10−2Paの圧力に設定し、595℃で1時間加熱することによって複合材を製造した。EDXの組成分析により濃化領域以外の領域の濃度はSi2重量%、残部が実質的にAlであった。
【0072】
前記複合材の接合界面近傍を、EPMAを用いて分析した結果、Al−Siの濃化領域が存在することが確認された。
【0073】
濃化領域のSi濃度を前述した(b)の方法に基づいて測定した結果、接合部の他の領域に対して3倍の濃度であった。この濃化領域はSi焼結体との接合界面から100μmの範囲に分布していた。また実施例1と同様に空隙率を測定したところ、空隙率は2%以内であった。
【0074】
このような実施例3では接合部にAl−Si濃化領域が形成されるため、低空隙率によって裏づけされたようにSi焼結体とAl板を高強度で接合された複合材を得ることができる。
【0075】
以上のように説明した実施例1〜3の複合材において、Al−Ge、Al−Si、Al−Si−OまたはAl−Ge−Mgの組成を有する濃化領域が形成されることにより、Si系セラミックスに対するろう材の濡れ性が高まり、空隙率を低く抑えた良好な接合界面近傍を得ることができた。
【0076】
さらに実施例2の複合材の接合部では、接合界面近傍にAl−Ge−MgおよびAl−Si−Oの組成を有する濃化領域が形成されることで濡れ性が大幅に向上し、重り程度の小さな加圧でも接合することが可能となった。これにより、ホットプレスなど特別な加圧装置を使用することなく複合材の作成が可能となり、製造コストを抑えることができる。加えて、実施例1および2のように接合部にGeが含まれることにより、Geを含まない接合部を用いる場合よりもろう付け温度を下げることが可能となる。温度を下げたことでも、Al−Si−Oの濃化領域が十分形成でき、コスト削減の達成ならびに処理可能な製品の範囲を広げることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係るSi系セラミックスを有する複合材のを示す部分切欠斜視図。
【図2】本発明に係るSi系セラミックスを有する複合材の製造方法を示す分解斜視図。
【図3】本発明に係るSi系セラミックスを有する複合材の他の製造方法を示す分解斜視図。
【図4】本発明の実施例1に従って製造されたSi系セラミックスを有する複合材の接合界面近傍の、電子顕微鏡反射電子線像の写真。
【図5】本発明の実施例2に従って製造されたSi系セラミックスを有する複合材の接合界面近傍の、電子顕微鏡反射電子線像の写真。
【符号の説明】
【0078】
1…複合材、2…セラミックス部材、3…接合相手部材、4…接合部、5…接合界面近傍、6…濃化領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン系セラミックス部材と接合相手部材が、アルミニウムを主成分としゲルマニウムを0.1重量%〜50重量%含む接合部で接合された複合材であって、
前記接合部は、前記シリコン系セラミックス部材との接合界面近傍に、第1のゲルマニウム濃化領域が形成されていることを特徴とする複合材。
【請求項2】
前記接合部は0.1重量%〜20重量%の珪素をさらに含み、前記第1のゲルマニウム濃化領域のほかに、前記シリコン系セラミックス部材の接合界面近傍に珪素濃化領域およびゲルマニウム・珪素濃化領域から選ばれる少なくとも1つの第2濃化領域が、さらに形成されていることを特徴とする請求項1記載の複合材。
【請求項3】
前記珪素濃化領域は、珪素−アルミニウム−酸素の組成を有することを特徴とする請求項2記載の複合材。
【請求項4】
前記接合部は0.05重量%〜5重量%のマグネシウムをさらに含み、前記第1のゲルマニウム濃化領域のほかに、前記シリコン系セラミックス部材の接合界面近傍にマグネシウム濃化領域およびゲルマニウム・マグネシウム濃化領域から選ばれる少なくとも1つの第3濃化領域が、さらに形成されていることを特徴とする請求項1記載の複合材。
【請求項5】
前記接合材は、0.1重量%〜20重量%の珪素および0.05重量%〜5重量%のマグネシウムをさらに含み、前記第1のゲルマニウム濃化領域のほかに、前記シリコン系セラミックス部材の接合界面近傍に珪素濃化領域およびゲルマニウム・珪素濃化領域から選ばれる少なくとも一つの第2濃化領域と、マグネシウム濃化領域およびゲルマニウム・マグネシウム濃化領域から選ばれる少なくとも1つの第3濃化領域とが、さらに形成されていることを特徴とする請求項1記載の複合材。
【請求項6】
前記第1のゲルマニウム濃化領域の少なくとも一部は珪素をさらに含有することを特徴とする請求項2または5記載の複合材。
【請求項7】
前記ゲルマニウム・珪素濃化領域は、前記第1のゲルマニウム濃化領域の一部に形成されることを特徴とする請求項項2または5記載の複合材。
【請求項8】
前記第1のゲルマニウム濃化領域の少なくとも一部はマグネシウムをさらに含有することを特徴とする請求項4または5記載の複合材。
【請求項9】
前記ゲルマニウム・マグネシウム濃化領域は、前記第1のゲルマニウム濃化領域の一部に形成されることを特徴とする請求項項4または5記載の複合材。
【請求項10】
前記ゲルマニウム・珪素濃化領域は、前記第1のゲルマニウム濃化領域の一部に形成され、かつ前記ゲルマニウム・マグネシウム濃化領域は前記第1ゲルマニウム濃化領域の残りの一部に形成されることを特徴とする請求項5記載の複合材。
【請求項11】
シリコン系セラミックス部材と接合相手部材が、アルミニウムを主成分とし珪素を0.1重量%〜20重量%含む接合部で接合された複合材であって、
前記接合部は、前記シリコン系セラミックス部材との接合界面近傍に珪素濃化領域が形成されていることを特徴とする複合材。
【請求項12】
前記シリコン系セラミックスが窒化珪素(Si)であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項記載の複合材。
【請求項13】
前記接合相手部材はアルミニウムまたはアルミニウム合金であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項記載の複合材。
【請求項14】
シリコン系セラミックス部材と接合相手部材の間にアルミニウムを主成分としゲルマニウムを0.1重量%〜50重量%含むろう材を介在し、加熱することにより前記シリコン系セラミックス部材との接合界面近傍にゲルマニウム濃化領域が存在する接合部を前記部材間に形成する工程を含むことを特徴とする複合材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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