説明

SiOxの製造方法

【課題】優れたサイクル特性および初期効率を有するリチウムイオン二次電池の負極活物質として好適に使用することができるSiOxの製造方法を提供する。
【解決手段】下記(1)および(2)の工程を含むSiOxの製造方法であり、SiOxにおけるxの値を0.8<x<0.95の範囲内に制御する。
(1)酸化珪素(SiO)を非酸化性雰囲気中で400〜800℃(望ましくは、600〜700℃)で2時間以上熱処理する。
(2)前記熱処理後の酸化珪素を0.5〜10体積%のフッ酸で洗浄する。
前記(1)の工程の非酸化性雰囲気中での熱処理に替えて、遊星ボールミルによる粉砕処理を行うこととしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiOxの製造方法、特にリチウムイオン二次電池の負極材に用いられるSiOxの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性および機器の小型化、軽量化の観点から、高エネルギー密度の二次電池の開発が強く要望されている。このような高エネルギー密度の二次電池として、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン二次電池、ポリマー電池などがある。このうち、リチウムイオン二次電池は、高寿命かつ高容量であることから、電源市場において高い需要の伸びを示している。
【0003】
図1は、リチウムイオン二次電池の構成例を示す図である。リチウムイオン二次電池は、図1に示すように、正極1、負極2および電解液を含浸させたセパレータ3、ならびに正極1と負極2の電気的絶縁性を保つとともに電池内容物を封止するガスケット4から構成されており、充放電によってリチウムイオンが電解液を介して正極1と負極2の間を往復する。
【0004】
正極1は、対極ケース1aと対極集電体1bと対極1cとで構成され、対極1cにはコバルト酸リチウム(LiCoO3)やマンガンスピネル(LiMn24)が主に使用される。負極2は、作用極ケース2aと作用極集電体2bと作用極2cとで構成され、作用極2cに用いる負極材は、一般に、リチウムイオンの吸蔵放出が可能な活物質(負極活物質)と導電助剤およびバインダーとで構成される。
【0005】
リチウムイオン二次電池の負極活物質としては、従来、リチウムとホウ素の複合酸化物、リチウムと遷移金属(V、Fe、Cr、Mo、Niなど)との複合酸化物、Si、GeまたはSnと窒素(N)および酸素(O)を含む化合物、化学蒸着により表面を炭素層で被覆したSi粒子などが提案されている。
【0006】
しかし、これらの負極活物質はいずれも、充放電容量を向上させ、エネルギー密度を高めることができるものの、充放電に伴って電極上にデンドライトや不働体化合物が生成するため劣化が顕著であり、またはリチウムイオンの吸蔵放出時の膨張や収縮が大きくなる。そのため、これらの負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、充放電の繰り返しによる放電容量の維持性(以下、「サイクル特性」という)が不十分である。また、製造直後の放電容量と充電容量の比(放電容量/充電容量;以下、「初期効率」という)も十分ではない。
【0007】
これに対し、負極活物質としてSiOなどの珪素酸化物を用いる試みがなされている。珪素酸化物はリチウムに対する電極電位が低く(卑であり)、充放電時のリチウムイオンの吸蔵、放出による結晶構造の崩壊や不可逆物質の生成等による劣化がなく、かつ可逆的にリチウムイオンを吸蔵、放出できることから、この珪素酸化物を負極活物質として用いることにより、高電圧、高エネルギー密度で、かつ充放電特性(初期効率)およびサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られることが期待できるからである。
【0008】
例えば、特許文献1では、ケイ素の酸化物と、リチウムもしくはリチウムを含有する物質を両電極とし、非水電解質中で対向させて両電極間に通電し、電気化学的にリチウムイオンを収蔵させることにより得られるリチウム含有ケイ素酸化物、または、ケイ素もしくはケイ素化合物と、リチウムもしくはリチウムを混合し、加熱することにより得られるリチウム含有ケイ素酸化物を負極活物質として用いたリチウムイオン二次電池の製造方法が提案されている。しかし、本発明者らの検討によれば、このリチウムイオン二次電池では、初回の充放電時における不可逆容量が大きく(すなわち、初期効率が十分ではなく)、またサイクル特性が実用レベルに十分達しているとはいえない。
【0009】
また、特許文献2では、酸化珪素ガス(SiOガス)を発生する原料を1100〜1600℃で加熱して発生させた酸化珪素ガスと、金属珪素を1800〜2400℃で加熱して発生させた珪素ガスとの混合ガスを基体表面に析出させてSiOx(0.3<x<0.9)とするSiOxの製造方法が提案されており、これを負極活物質として用いることにより、初回充放電効率(前記の「初期効率」に相当する)およびサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができるとしている。しかし、金属珪素の融液およびそれから発生する高温で高濃度の珪素ガスに十分に耐える容器(材質)が少なく、かつ高価であるため、この方法は実用的ではない。また、珪素の溶融時における突沸など安全上の問題もあって製造装置の大型化が難しく、量産用として適しているとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2997741号公報
【特許文献2】特許第4207055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、負極活物質として珪素酸化物を用いるに際し、上述した問題に鑑みてなされたものであり、珪素酸化物(SiOx)、特に、優れたサイクル特性および初期効率を有するリチウムイオン二次電池の負極活物質として好適に使用することができるSiOxの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために、前掲の特許文献2に記載の方法で採用されている、1100〜1600℃や1800〜2400℃のような高温下での原料処理を伴わず、より低い温度領域で処理することによりSiOxを製造する方法、ならびにSiOxにおけるxの値の適正な範囲について検討を重ねた。その結果、酸化珪素(SiO)をAr雰囲気中で400〜800℃で所定時間熱処理した後、フッ酸(HF)でエッチング(洗浄)することにより、SiOx(x<1)を得ることが可能であることを知見した。
【0013】
これは、後に詳述するが、前記Ar雰囲気下での熱処理によって、SiO内にSiが富化した部分(Siリッチな領域)とSiO2が富化した部分(SiO2リッチな領域)とを生成させ(言い換えれば、SiOからSiリッチな領域とSiO2リッチな領域とを分離させ)、続いて、HFで洗浄することにより、SiO2リッチな領域を溶解除去して、原料である酸化珪素(SiO)中の酸素(O)を一部取り除くという発想に基づき検討した結果得られた知見である。SiOxにおけるxの値は、前記熱処理時の温度や時間を適宜調整することにより制御することができる。
【0014】
前記のSiリッチな領域とSiO2リッチな領域の分離は、熱処理によらず、酸化珪素(SiO)を遊星ボールミルで粉砕処理することによっても行える。
【0015】
さらに、得られたSiOxをリチウムイオン二次電池の負極活物質として使用し、作製したリチウムイオン二次電池について初期効率およびサイクル特性を調査した結果、SiOxにおける理想的なxの値は、0.8<x<0.95であることを見いだした。
【0016】
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、下記のSiOxの製造方法を要旨とする。
すなわち、SiOxの製造方法であって、下記(1)および(2)の工程を含み、前記SiOxにおけるxの値を0.8<x<0.95の範囲内に制御することを特徴とするSiOxの製造方法である。
(1)酸化珪素(SiO)を非酸化性雰囲気中で400〜800℃で2時間以上熱処理する。
(2)前記熱処理後の酸化珪素を0.5〜10体積%(以下、「%」と記す)のフッ酸で洗浄する。
【0017】
本発明のSiOxの製造方法において、前記(1)の工程の非酸化性雰囲気中での熱処理に替えて、遊星ボールミルによる粉砕処理を行うこととしてもよい。
また、本発明のSiOxの製造方法において、前記(1)の工程の非酸化性雰囲気中での熱処理温度は600〜700℃とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のSiOxの製造方法によれば、酸化珪素(SiO)を原料として、高温下での加熱処理を伴わない、比較的容易な処理により、所定のx値のSiOxを製造することができる。特に、本発明の方法により製造されたSiOx(0.8<x<0.95)をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いることによって、優れたサイクル特性および初期効率を有するリチウムイオン二次電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】リチウムイオン二次電池の構成例を示す図である。
【図2】珪素酸化物の製造装置の構成例を示す図である。
【図3】本発明の製造方法で実施する非酸化性雰囲気中での熱処理後の酸化珪素(SiO)のミクロ状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のSiOxの製造方法は、前記のとおり、SiOxの製造方法であって、下記(1)および(2)の工程を含み、前記SiOxにおけるxの値を0.8<x<0.95の範囲内に制御することを特徴とするSiOxの製造方法である。
(1)酸化珪素(SiO)を非酸化性雰囲気中で400〜800℃で2時間以上熱処理する。
(2)前記熱処理後の酸化珪素を0.5〜10%のフッ酸で洗浄する。
【0021】
前記(1)の工程で原料として使用する酸化珪素(SiO)は、特定のものに限定されない。例えば、以下に述べる構成を備えた装置により製造される酸化珪素(SiO)の粉末を原料として使用してもよい。
【0022】
図2は、珪素酸化物の製造装置の構成例を示す図である。この装置は、真空室5と、真空室5内に配置された原料室6と、原料室6の上部に配置された析出室7とから構成される。
【0023】
原料室6は円筒体で構成され、その中心部には、円筒状の原料容器8と、原料容器8を囲繞する加熱源9が配置される。加熱源9としては、例えば電熱ヒータを用いることができる。
【0024】
析出室7は、原料容器8と軸が一致するように配置された円筒体で構成される。析出室7の内周面には、原料室6で昇華して発生した気体状の珪素酸化物を蒸着させるためのステンレス鋼からなる析出基体10が設けられる。
【0025】
原料室6と析出室7とを収容する真空室5には、雰囲気ガスを排出するための真空装置(図示せず)が接続されており、矢印A方向にガスが排出される。
【0026】
この図2に示す製造装置を用いて本発明の製造方法で原料として使用する酸化珪素(SiO)を製造する場合、珪素粉末と二酸化珪素粉末とを等モル配合し、混合、造粒および乾燥した混合造粒原料11を用いる。この混合造粒原料11を原料容器8に充填し、不活性ガス雰囲気または真空中で加熱してSiOを生成(昇華)させる。昇華により発生した気体状のSiOは、原料室6から上昇して析出室7に入り、周囲の析出基体10上に蒸着し、析出酸化珪素(SiO)12として析出する。その後、析出酸化珪素(SiO)12を析出基体10から取り外し、粉砕することにより酸化珪素粉末が得られる。
【0027】
前記(1)の工程において、原料である酸化珪素(SiO)を非酸化性雰囲気中で400〜800℃で熱処理するのは、酸化珪素(SiO)からSiリッチな領域とSiO2リッチな領域とを分離させるためである。
【0028】
図3は、本発明の製造方法における前記(1)の工程で実施する非酸化性囲気中での熱処理後の酸化珪素(SiO)のミクロ状態を模式的に示す図である。図3に示すように、原料である酸化珪素(SiO)を非酸化性雰囲気中において前記所定温度で熱処理することにより不均化反応が進行し、酸化珪素(SiO)からSiリッチな領域(図3では、「Si」と表示)とSiO2リッチな領域(図3では、「SiO2」と表示)が分離する。このとき、反応を完全には進行させず、未反応のSiO(図3では、「中間層」と表示)とSiリッチ領域とSiO2リッチ領域とが混在した状態で熱処理を終了する。
【0029】
このような熱処理を施した酸化珪素に対し、次に述べる(2)の工程のHF洗浄処理を行うと、SiO2リッチ領域が選択的に除去されるので、中間層(SiO)とSiとがミクロ的に混在したSiOx(x<1)を得ることができる。
【0030】
その場合、反応の進行度により中間層(SiO)とSiリッチ領域とSiO2リッチ領域の存在比が変わり、それに応じて、得られるSiOx(x<1)におけるxの値が変わるので、熱処理条件とSiOxにおけるxの値との関係をあらかじめ把握しておくことにより、得られるSiOxにおけるxの値の制御が可能になる。なお、SiOxのx値は、例えば、O(酸素)をセラミック中酸素分析装置(不活性気流下溶融法)によって定量し、SiはSiOxを溶液化した後にICP発光分光分析により定量することによって算出することができる。
【0031】
熱処理温度が400℃未満では、反応が進行しにくく、Siリッチな領域とSiO2リッチな領域の分離が起こりにくい。一方、熱処理温度が800℃を超えると、反応速度が速すぎるためxの値が小さくなりやすく、SiOxにおけるxの値の適正な制御が困難になる。
【0032】
前記(1)の工程の非酸化性雰囲気中での熱処理温は、600〜700℃とするのが望ましい。これにより、Siリッチ領域とSiO2リッチ領域とSiOとが混在した状態が得られやすく、SiOxにおけるxの値の制御がし易くなる。
【0033】
非酸化性雰囲気としては、通常はAr雰囲気とするのがよいが、N2雰囲気等としてもよい。
【0034】
前記所定温度での熱処理時間は2時間以上とする。熱処理時間が2時間に満たないと、反応の進行度が低いため、前記のSiOとSiリッチ領域およびSiO2リッチ領域が混在した状態に達しにくく、SiOxにおけるxの値の制御が難しい。熱処理時間の上限は特に定めないが、過度に長時間の熱処理を行うと作業能率が低下するので、12時間以下とするのが望ましい。
【0035】
前記(2)の工程では、前記熱処理後の酸化珪素(SiO)を0.5〜10%のフッ酸(HF)で洗浄する。これは、SiO中に生成したSiO2リッチな領域を溶解除去して、酸化珪素(SiO)中の酸素(O)を一部取り除くためである。HF濃度が0.5%未満ではSiO2リッチ領域の溶解除去に長時間を要し、10%を超えると、濃度の増大に伴う溶解速度上昇のため、SiOxにおけるxの値の制御が難しく、またSiH4の発生による爆発の危険性がある。
【0036】
HFによる洗浄では、SiO2リッチ領域が選択的に溶解され、SiOやSiリッチ領域への影響は少ない。したがって、洗浄時間は特に限定しないが、作業能率等を考慮して5〜30分程度とすることが望ましい。また、溶解の促進を図るため、適宜攪拌することが望ましい。
【0037】
前述したように、酸化珪素(SiO)を非酸化性雰囲気中で熱処理した後、HFで洗浄することにより、酸化珪素(SiO)中の酸素(O)の一部を取り除き、SiOx(x<1)とすることができる。その際、SiOxにおけるxの値を0.8<x<0.95の範囲内に制御するのは、このSiOxをリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた場合に、優れたサイクル特性および初期効率を有するリチウムイオン二次電池を製造できるからである。前記xの値が0.8以下であれば、サイクル特性が劣化する。一方、xの値が0.95以上であれば、初期効率が低下する。
【0038】
このようにして得られた珪素酸化物(SiOx;0.8<x<0.95)は、通常は、粉末状で、HF中に懸濁した状態にあるので、ろ過した後、乾燥させる。例えば、適切なろ過器を使用してろ過した後、120℃に設定した乾燥機で24時間程度乾燥させるのが望ましい。また、このSiOxをリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いる場合には、さらに粉砕して、適切な粒度(例えば、D50(積算粒子径分布における50%径)で10μm程度)に調整する。
【0039】
本発明のSiOxの製造方法において、前記(1)の工程の非酸化性雰囲気中での熱処理に替えて、遊星ボールミルによる粉砕処理を行うこととしてもよい。
【0040】
遊星ボールミルは、一般に、モータの駆動力によって回転する主軸(公転回転軸)と、主軸から放射状に延伸している公転回転アームと、当該アームの先端において、主軸に対して傾斜している自転軸を中心として自転自在に装着されている粉砕容器(ミルポット)とを有している。
【0041】
この遊星ボールミルを使用し、酸化珪素(SiO)を被粉砕物として処理する場合、被粉砕物と粉砕媒体ボールを入れたミルポットを公転させながら自転させるので、公転遠心加速度と自転遠心加速度をミルポット内の被粉砕物と粉砕媒体ボールに与えることができ、被粉砕物と粉砕媒体ボールが激しく衝突し、被粉砕物に強い衝撃力が加えられる。その結果、瞬間的に高圧状態が生じ、前述の熱処理を施した場合と同様に、酸化珪素(SiO)からSiリッチな領域とSiO2リッチな領域が分離されて、SiOとSiリッチ領域およびSiO2リッチ領域とが混在した状態が得られるものと推察される。
【0042】
遊星ボールミルでの処理条件については、主軸(公転回転軸)の回転数:10〜60rpm、処理時間:5〜60分の範囲内で適宜調整するのが望ましい。回転数が10rpm未満であると、衝撃力が小さく分離が行えない。同様に、処理時間が5分未満であると、分離を行うことができない。一方、回転数が60rpm、または処理時間が60分を超えるようになると、粒度が小さくなり過ぎて微粉が多くなるため、分離反応の制御が困難になる。
【0043】
本発明のSiOxの製造方法によれば、酸化珪素(SiO)を原料として、比較的容易な処理により、所定のx値のSiOxを製造することができる。特に、本発明の方法により製造されたSiOx(0.8<x<0.95)をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いれば、優れたサイクル特性および初期効率を有するリチウムイオン二次電池を製造することができる。本発明の製造方法は、SiOxの製造に際して、高温下での加熱処理を伴わないので、装置材質の選定における制約も少なく、製造装置の大型化への対応が比較的容易であり、量産に適している。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
珪素粉末と二酸化珪素粉末とを等量配合し、混合、造粒した混合造粒原料を用い、前記図2に示した構成を有する装置を使用して減圧下で昇華反応させ、発生した気体状のSiOを冷却した析出基体上に酸化珪素(SiO)として析出させた。
【0045】
この酸化珪素(SiO)を粒径1〜4mmに粉砕して得られた粒状SiOを、雰囲気炉内で、Ar雰囲気中、700℃で2時間熱処理した後、HFにより洗浄してSiOxとし、ろ過、乾燥処理を経た後、粉砕して、D50で10μmのSiOx粉末とした。
【0046】
このSiOx粉末を負極活物質として使用し、これに導電助剤としてのアセチレンブラックとバインダーを加えて負極材とし、正極にLi箔を用いたコイン状のリチウムイオン二次電池を作製して、初期効率およびサイクル特性を調査した。なお、この場合のサイクル特性は、充放電を100回繰り返した後の放電容量の初期放電容量(製造直後の放電容量)に対する維持率である。
【0047】
初期効率およびサイクル特性調査においては、SiOx粉末におけるxの値を、0.86〜0.97の範囲で変更した。また、熱処理後の洗浄に使用するHFの濃度を0.4%、0.5%、または10%とした。なお、調査に用いたSiOxのx値は、セラミック中酸素分析装置によるO(酸素)の定量値と、ICP発光分光分析法によるSiの定量値から求め、所期のx値もしくはそれに近い値であることを確認した。
【0048】
調査結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示した結果から、SiOxにおけるxの値が0.8〜0.95の範囲内(本発明例1、2)であれば、初期効率が85%以上であり、サイクル特性も85%以上の良好な値が維持されるとみることができる。熱処理後の洗浄に用いるHFの濃度は、表1の結果から、0.5〜10%の範囲内とするのが妥当である。SiOxにおけるxの値が0.97、HF濃度が0.4(比較例)の場合は、本発明例1、2に比べて初期効率、サイクル特性のいずれも大きく低下した。
(実施例2)
【0051】
実施例1で用いた粒状SiOを、遊星ボールミルで処理した後、HFにより洗浄してSiOxとし、ろ過、乾燥処理後、粉砕して、D50で10μmのSiOx粉末とした。遊星ボールミルでの処理条件は、主軸(公転回転軸)の回転数:12rpm、処理時間:20分とし、遊星ボールミルによる処理後の洗浄に使用するHF濃度は10%とした。得られたSiOx粉末におけるxの値は0.91であった。
【0052】
このSiOx粉末を負極活物質として使用し、実施例1の場合と同様にリチウムイオン二次電池を作製して、初期効率およびサイクル特性を調査した。
【0053】
調査結果を表1に本発明例3として示す。この結果から、遊星ボールミルで処理することによって、非酸化性雰囲気中で所定温度で熱処理する場合と同等の効果が得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のSiOxの製造方法によれば、酸化珪素(SiO)を原料として、比較的容易な処理により、SiOx(0.8<x<0.95)を製造することができる。このSiOx(0.8<x<0.95)をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いれば、優れたサイクル特性および初期効率を有するリチウムイオン二次電池を製造することができる。したがって、本発明は、リチウムイオン二次電池の製造において好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1:正極、 1a:対極ケース、 1b:対極集電体、 1c:対極、
2:負極、 2a:作用極ケース、 2b:作用曲集電体、 2c:作用極、
3:セパレータ、 4:ガスケット、 5:真空室、 6:原料室、
7:析出室、 8:原料容器、 9:混合造粒原料、 10:加熱源
11:析出基体、 12:析出珪素酸化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiOxの製造方法であって、
下記(1)および(2)の工程を含み、前記SiOxにおけるxの値を0.8<x<0.95の範囲内に制御することを特徴とするSiOxの製造方法。
(1)酸化珪素(SiO)を非酸化性雰囲気中で400〜800℃で2時間以上熱処理する。
(2)前記熱処理後の酸化珪素を0.5〜10%のフッ酸で洗浄する。
【請求項2】
前記(1)の工程の非酸化性雰囲気中での熱処理に替えて、遊星ボールミルによる粉砕処理を行うことを特徴とする請求項1に記載のSiOxの製造方法。
【請求項3】
前記(1)の工程の非酸化性雰囲気中での熱処理温度が600〜700℃であることを特徴とする請求項1に記載のSiOxの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−51844(P2011−51844A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202747(P2009−202747)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(397064944)株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ (133)
【Fターム(参考)】