説明

SiOx(x<1)の製造方法

【課題】高容量でかつサイクル低下がなく、しかも初回充放電時における不可逆容量の少ないリチウムイオン二次電池用負極材として適したSiOx(x<1)の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下もしくは減圧下、1,100〜1,600℃の温度範囲で加熱し、酸化珪素ガスを発生させる一方、金属珪素を不活性ガスの存在下もしくは減圧下、1,800〜2,400℃の温度範囲で加熱し、珪素ガスを発生させ、上記酸化珪素ガスと金属珪素ガスとの混合ガスを基体表面に析出させることを特徴とするSiOx(x<1)の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にリチウムイオン二次電池用負極材に適したSiOx(x<1)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性と機器の小型化、軽量化の観点から、高エネルギー密度の二次電池が強く要望されている。従来、この種の二次電池の高容量化策として、例えば、負極材料にV、Si、B、Zr、Sn等の酸化物及びそれらの複合酸化物を用いる方法(特開平5−174818号公報、特開平6−60867号公報:特許文献1,2他)、溶湯急冷した金属酸化物を負極材として適用する方法(特開平10−294112号公報:特許文献3)、負極材料に酸化珪素を用いる方法(特許第2997741号公報:特許文献4)、負極材料にSi22O及びGe22Oを用いる方法(特開平11−102705号公報:特許文献5)等が知られている。
【0003】
しかしながら、上記従来の方法では、充放電容量が上がり、エネルギー密度が高くなるものの、サイクル性が不十分であったり、市場の要求特性には未だ不十分であったりし、必ずしも満足でき得るものではなく、更なるエネルギー密度の向上が望まれていた。
【0004】
その中でも、負極材料に酸化珪素を用いる方法(特許第2997741号公報:特許文献4)では、電池特性の良好なリチウムイオン二次電池は得られるものの、更なる高容量化が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−174818号公報
【特許文献2】特開平6−60867号公報
【特許文献3】特開平10−294112号公報
【特許文献4】特許第2997741号公報
【特許文献5】特開平11−102705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、高容量でかつサイクル低下がなく、しかも初回充放電時における不可逆容量の少ないリチウムイオン二次電池用負極材として適したSiOx(x<1)の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行い、特に潜在的に高容量化が図れると考えられる酸化珪素をもとに、更なる高容量化に向けた検討を行った結果、酸化珪素に金属珪素を原子状に分散、ドープさせ、酸素の少ないSiOx(x<1)を得、このSiOx(x<1)を負極材として用いることで、従来に比べ、高容量で、かつサイクル劣化のない、しかも初回充放電時の不可逆容量の少ないリチウムイオン二次電池が製造できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、下記に示すSiOx(x<1)の製造方法を提供する。
(1)酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下もしくは減圧下、1,100〜1,600℃の温度範囲で加熱し、酸化珪素ガスを発生させる一方、金属珪素を不活性ガスの存在下もしくは減圧下、1,800〜2,400℃の温度範囲で加熱し、珪素ガスを発生させ、上記酸化珪素ガスと金属珪素ガスとの混合ガスを基体表面に析出させることを特徴とするSiOx(x<1)の製造方法。
(2)上記SiOx(x<1)のx値が、0.3<x<0.9であることを特徴とする(1)記載のSiOxの製造方法。
(3)酸化珪素ガスを発生する原料が、酸化珪素粉末、又は二酸化珪素粉末と金属珪素粉末との混合物であることを特徴とする(1)又は(2)記載のSiOxの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により製造されたSiOx(x<1)をリチウムイオン二次電池負極活物質として用いることで、高容量でかつ初回充放電効率及びサイクル特性の優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のSiOx(x<1)の製造方法において、酸化珪素ガスを発生させる原料としては、酸化珪素あるいは二酸化珪素粉末とこれを還元する粉末との混合物を用いる。具体的な還元粉末としては、金属珪素化合物、炭素含有粉末等が挙げられるが、特に金属珪素粉末を用いたものが、(1)反応性を高める、(2)収率を高めるといった点で効果的であり、好ましく用いられる。
この場合、金属珪素粉末と二酸化珪素粉末との混合割合は適宜選定されるが、金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、1<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.1、特には1.01≦金属珪素粉末/二酸化珪素粉末≦1.08の範囲であることが望ましい。
【0011】
本発明では、上記酸化珪素ガスを発生する原料を1,100〜1,600℃、好ましくは1,200〜1,500℃の温度に加熱、保持し、酸化珪素ガスを生成させる。反応温度が1,100℃未満では、反応が進行し難く生産性が低下してしまうし、1,600℃を超えると、混合原料粉末が溶融して逆に反応性が低下したり、炉材の選定が困難になったりする。
【0012】
この場合、上記炉内雰囲気は不活性ガスもしくは減圧下とするが、熱力学的に減圧下の方が反応性が高く、低温反応が可能となるため、減圧下、通常、1〜100Pa、特に5〜100Paで行うことが望ましい。
【0013】
一方、金属珪素は、1,800〜2,400℃、好ましくは2,000〜2,300℃の温度に加熱、保持し、金属珪素ガスを発生させる。反応温度が1,800℃未満では金属珪素ガスが発生し難く、所望のSiOx(x<1)が製造困難となる。逆に2,400℃以上の加熱は炉材選定が困難となる。
【0014】
この場合、上記炉内雰囲気は不活性ガスもしくは減圧下とするが、熱力学的に減圧下の方が反応性が高く、低温反応が可能となるため、減圧下、通常、1〜100Pa、特に5〜100Paで行うことが望ましい。
【0015】
また、本発明で得られるSiOxのx値はx<1であるが、この値は酸化珪素ガスを発生する原料及び金属珪素の加熱温度、即ち両者の蒸気圧と、酸化珪素ガスを発生する原料及び金属珪素の質量とで制御できる。本発明において、SiOxのx値は、0.3<x<0.9であることが好ましく、より好ましくは0.4≦x≦0.8、更に好ましくは0.4<x<0.8が望ましい。x値が0.3以下では、電池容量向上及び初期不可逆容量が減少するもののサイクル性に劣る場合があり、逆にx値が0.9以上では、市場が要求する容量が得られない場合がある。
【0016】
SiOxのx値を上記値とする場合、x値は酸化珪素ガスを発生する原料及び金属珪素の蒸気圧及びそれぞれの仕込み量によって制御することが可能であり、具体的には酸化珪素ガスを発生する原料と金属珪素の蒸気圧が同一で、仕込み量が同一の場合、x値は理論上0.5となる。ここで、酸化珪素ガスを発生する原料及び金属珪素の蒸気圧はそれぞれの加熱温度により決定されるものであり、例えば、加熱温度1350℃における酸化珪素ガスを発生する原料の蒸気圧と加熱温度2200℃における金属珪素の蒸気圧が500Paで同じ値となる。
また、酸化珪素ガスを発生する原料と金属珪素の混合割合は、所望するx値により適宜選定することができるが、一般的にSiの加熱温度が高いことからSiの混合割合が高い方が効率的であり、具体的には、酸化珪素ガスを発生する原料と金属珪素の質量割合として、酸化珪素ガスを発生する原料/金属珪素=1/5〜1/1、特に1/3〜1/1.5とすることが望ましい。
【0017】
本発明の製造装置については特に限定されないが、例えば、酸化珪素ガスを発生する機構と金属珪素ガスを発生する機構を別々に、又はこれら機構を同一装置内で行う装置等適宜選定される。なお、発生させた酸化珪素ガスと金属珪素ガスとの混合方法についても特に制限されない。
【0018】
また、上記混合ガスを析出させる基体の種類も特に限定されないが、加工性の点で、SUSやモリブデン、タングステンといった高融点金属が好適に用いられる。
上記析出基体に混合ガスを析出させる条件としては特に限定されず、ガス流通路中に析出基体を静置することで析出させることができるが、基体上に均一に析出させるために基体を回転体とさせたり、析出基体中に水等の冷却媒体を流通させたりすることもできる。
【0019】
上記基体上に析出したSiOx(x<1)は、掻き取り等の適宜な手段により回収する。また、回収したSiOxは、必要により適宜手段で粉砕し、所望の粒径とすることができる。
【0020】
本発明で得られたSiOx(x<1)は、これを負極材としてリチウムイオン二次電池を製造することができる。
この場合、得られたリチウムイオン二次電池は、上記負極活物質を用いる点に特徴を有し、その他の正極、負極、電解質、セパレータ等の材料及び電池形状等は限定されない。例えば、正極活物質としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、V26、MnO2、TiS2、MoS2等の遷移金属の酸化物及びカルコゲン化合物等が用いられる。電解質としては、例えば、過塩素酸リチウム等のリチウム塩を含む非水溶液が用いられ、非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、2−メチルテトラヒドロフラン等の単体又は2種類以上を組合せて用いられる。また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用できる。
【0021】
また、本発明のSiOx粉末は、黒鉛等導電剤を添加することができ、この場合においても導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であればよく、具体的にはAl、Ti、Fe、Ni、Cu、Zn、Ag、Sn、Si等の金属粉末や金属繊維、又は天然黒鉛、人造黒鉛、各種のコークス粉末、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、各種の樹脂焼成体等の黒鉛を用いることができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、下記の例において、平均粒径はレーザー光回折法による粒度分布測定における累積重量平均値(D50)として測定した値を示す。
【0023】
[実施例1〜3、比較例1,2]
図1に示す製造装置を用いて、SiOxを製造した。酸化珪素ガス発生原料として、酸化珪素粉末(325#PASS)を第2原料トレイ(5)内に、同様に金属珪素粉末を第1原料トレイ(4)内に表1に示す量仕込んだ。なお、上記原料トレイは、黒鉛製のφ80mm反応管(2)内に内挿されている。次に真空ポンプを用いて、炉内を0.1Torr以下に減圧した後、ヒーター(1)を加熱し、第1原料トレイ(4)の温度ゾーンが2,200℃になるように加熱保持した。なお、この時、第2原料トレイ(5)の温度は1,430℃であった。この運転を5時間行った後、室温まで冷却し、析出基体(3)上に析出した析出物を得た。なお、図1中、6は熱電対である。
次に、この中間体30gを2Lアルミナ製ボールミルにて粉砕、媒体としてφ5mmアルミナボール1,000g、溶液としてヘキサン500gを用い、1rpmの回転条件にて湿式粉砕を行った。粉砕後のSiOx粉末物性を表1に併記する。
【0024】
電池評価
次に、以下の方法で、得られたSiOx粉末を負極活物質として用いた電池評価を行った。
まず、得られたSiOx粉末に人造黒鉛(平均粒子径5μm)を45質量%、ポリフッ化ビニリデンを10質量%加え、更にN−メチルピロリドンを加え、スラリーとし、このスラリーを厚さ20μmの銅箔に塗布し、120℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、最終的には2cm2に打ち抜き、負極とした。
ここで、得られた負極の充放電特性を評価するために、対極にリチウム箔を使用し、非水電解質として六フッ化リンリチウムをエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの1/1(体積比)混合液に1モル/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレーターに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0025】
作製したリチウムイオン二次電池は、一晩室温で放置した後、二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用い、テストセルの電圧が0Vに達するまで1mAの定電流で充電を行い、0Vに達した後は、セル電圧を0Vに保つように電流を減少させて充電を行った。そして、電流値が20μAを下回った時点で充電を終了した。放電は1mAの定電流で行い、セル電圧が1.8Vを上回った時点で放電を終了し、放電容量を求めた。
以上の充放電試験を繰り返し、評価用リチウムイオン二次電池の10サイクル後の充放電試験を行った。結果を表1に併記する。
【0026】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例で用いたSiOxの製造装置の概略図である。
【符号の説明】
【0028】
1 ヒーター
2 反応管
3 析出基体
4 第1原料トレイ
5 第2原料トレイ
6 熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下もしくは減圧下、1,100〜1,600℃の温度範囲で加熱し、酸化珪素ガスを発生させる一方、金属珪素を不活性ガスの存在下もしくは減圧下、1,800〜2,400℃の温度範囲で加熱し、珪素ガスを発生させ、上記酸化珪素ガスと金属珪素ガスとの混合ガスを基体表面に析出させることを特徴とするSiOx(x<1)の製造方法。
【請求項2】
上記SiOx(x<1)のx値が、0.3<x<0.9であることを特徴とする請求項1記載のSiOxの製造方法。
【請求項3】
酸化珪素ガスを発生する原料が、酸化珪素粉末、又は二酸化珪素粉末と金属珪素粉末との混合物であることを特徴とする請求項1又は2記載のSiOxの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−290919(P2007−290919A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121954(P2006−121954)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】