説明

Snめっき被膜及びそれを有する複合材料

【課題】Snめっき被膜の摺れや脱落を防止することにより、ロールのメンテナンス性に優れ、生産性を向上させることができるSnめっき被膜及びそれを有する複合材料を提供する。
【解決手段】樹脂層又はフィルム4を積層した銅箔又は銅合金箔1の他の面に形成され、Snめっき表面の光沢度が10〜80%であるSnめっき被膜2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド材料等に用いられ、樹脂等を積層した銅箔又は銅合金箔の他の面に形成されるSnめっき被膜、及びそれを有する複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
Snめっき被膜は耐食性に優れ、かつ、はんだ付け性が良好で接触抵抗が低いと言う特徴を持っている。このため、例えば、車載電磁波シールド材の複合材料として、銅等の金属箔にSnめっきされて使用されている。
上記の複合材料としては、銅又は銅合金箔を基材とする電磁波シールド材料等の複合材料として、銅箔又は銅合金箔の一方の面に樹脂層又はフィルムを積層し、他の面にSnめっき被膜を形成した構造が用いられている。
【0003】
銅又は銅合金箔へのSnめっきは、通常は湿式めっきにより行われるが、めっき被膜の安定性 (色調が均一で、色斑や模様がないこと) を図るため、めっき液に添加剤を加えて光沢Snめっきを行うことが多い。
例えば、特許文献1には、めっき液に光沢剤を加えて光沢Snめっきを行う技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特許第3007207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、銅又は銅合金箔のような金属箔に、通常の光沢Snめっきを連続ラインで行う場合に、Snめっき表面がこすれてロールに転写、付着するという問題がある。ロール表面にめっきが付着すると、ロールの清掃等でめっき時の生産性を低下させると共に、Snの付着が極端にひどい場合にはSnめっき被膜が薄くなり、得られる複合材料の耐食性の低下を招くおそれもあるため、無視できない問題である。
このような不具合が発生する理由は明確でないが、光沢Snめっきはめっき表面が平滑であるため、ロールとストリップ(めっき表面)との接触面積が大きくなることによると考えられる。
【0006】
又、銅箔は薄いため強度が低く、Snめっきのような連続ラインへの通板の際には、折れやシワが発生しやすい。そのため、シールド材として使用する場合、銅箔に樹脂またはフィルムを予め貼り付けた後、Snめっきを実施するのが一般的である。しかし、このように樹脂またはフィルムを貼り付けた銅箔であっても、連続めっき時にストリップにかかる張力を高くすると折れやシワが発生する場合がある。このため、安定的に折れやシワの発生を防止するためには、低い張力で通箔することが必要になる。一方、ストリップにかかる張力を低くすると、ロールとストリップとの接点圧力が低くなり、ロールがスリップしやすくなる。特に、張力が低い状況下で、ロールとストリップとの接触面積が大きい場合には、接触面が多くなったことにより接点圧力が低くなるため、さらにスリップがしやすくなる。そして、一旦、ロールとSnめっき皮膜がスリップした際には、摩擦熱等によりSnめっきがロールに凝着しやすくなり、連続的にめっきを実施しているとロールにSnめっきが付着し始めるものと考えられる。
【0007】
又、銅箔にSnめっきして得られた複合材料をケーブル等の電磁波シールド材料に用いる場合、ケーブル外周に複合材料を巻き、更にその外側に樹脂を被覆する。この樹脂被覆工程で、上記したようにSnめっき工程でSnめっきが付着した複合材料を用いると、複合材料がダイス(金型)を通過する際、Snめっき被膜が脱落しやすくなり、ダイスにSnカスが付着する可能性が高くなる。そして、ダイスにSnカスが付着するとメンテナンスに時間を要し、生産性を低下させる。
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、めっき時や使用時のSnめっき皮膜の摺れや脱落を防止することにより、ロールのメンテナンス性に優れ、生産性を向上させることができるSnめっき被膜及びそれを有する複合材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは種々検討した結果、銅又は銅合金箔表面のSnめっき被膜表面の光沢度を小さくすることで、Snめっき皮膜の摺れや脱落を低減することに成功した。
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明のSnめっき被膜は、樹脂層又はフィルムを積層した銅箔又は銅合金箔の他の面に形成され、Snめっき表面の光沢度Gs(60°)が10〜80%である。
【0010】
Snめっき被膜の厚みが0.5μm以上であることが好ましい。
【0011】
本発明の複合材料は、銅箔又は銅合金箔と、前記銅箔又は銅合金箔の一方の面に積層された樹脂層又はフィルムと、前記銅箔又は銅合金箔の他の面に形成された前記Snめっき被膜とからなる。
【0012】
複合材料の厚みが0.1mm以下であることが好ましい。
なお、本発明におけるSnめっきの光沢度Gs(60°)は、「JIS Z 8741、測定方法3 60度鏡面光沢」に準拠して測定された光沢度とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、Snめっき被膜の摺れや脱落を防止することにより、ロールのメンテナンス性に優れ、生産性を向上させることができるSnめっき被膜及びそれを有する複合材料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明において%とは、特に断らない限り、質量%を示すものとする。
【0015】
本発明の実施の形態に係る複合材料は、銅箔(又は銅合金箔)1と、銅箔(又は銅合金箔)1の一方の面に積層された樹脂層(又はフィルム)4と、銅箔(又は銅合金箔)1の他の面に形成されたSnめっき被膜2とからなる。
材料の軽薄化の観点から、複合材料の厚みは0.1mm以下であることが好ましい。
【0016】
銅箔としては、純度99.9%以上のタフピッチ銅、無酸素銅、又、銅合金箔としては要求される強度や導電性に応じて公知の銅合金を用いることができる。公知の銅合金としては、例えば、0.01〜0.3%の錫入り銅合金や0.01〜0.05%の銀入り銅合金が挙げられ、中でも、導電性に優れたものとしてCu-0.12%Sn、Cu-0.02%Agがよく用いられる。
銅箔(又は銅合金箔)の厚みは特に制限されないが、例えば5〜50μmのものを好適に用いることができる。
なお、銅箔(又は銅合金箔)としては、電解箔よりも高強度の圧延箔を用いることが好ましい。
又、銅箔(又は銅合金箔)の表面粗さは、中心線平均粗さで0.3μm以下、好ましくは0.2μm以下とすることができるが、表面粗さが0.1μmより小さいと樹脂層との接着性が十分でなくなることがある。
【0017】
樹脂層としては例えばポリイミド等の樹脂を用いることができ、フィルムとしては例えばPET(ポリエチレンテレフタラート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)のフィルムを用いることができる。樹脂層やフィルムは、接着剤により銅箔(又は銅合金箔)に接着されてもよいが、接着剤を用いずに溶融樹脂を銅箔(銅合金箔)上にキャスティングしたり、フィルムを銅箔(銅合金箔)に熱圧着させてもよい。
樹脂層やフィルムの厚みは特に制限されないが、例えば5〜50μmのものを好適に用いることができる。又、接着剤を用いた場合、接着層の厚みは例えば10μm以下とすることができる。
【0018】
Snめっき表面の光沢度Gs(60°)を10〜80%とする。Snめっき被膜の光沢度Gs(60°)が80%以下であれば、Snめっき表面に適度な凹凸を有し、Snめっき表面とロールとの接触面積が小さくなってロールとの接点圧力が強くなる。そのため、ロールでのスリップが少なくなり、Snめっきの付着が生じ難い。
又、Snめっき表面のGs(60°)が80%以下であれば、得られた複合材料をケーブル等の電磁波シールド材料として用いる場合にも、シールド材加工時にSnめっき被膜とロール(やダイス)との接触面積が小さくなる。このため、ロールへのSn付着を防止でき、生産性を向上できる。そして、得られた複合材料を加工した際、Snめっき被膜の粉落ちが生じず、密着性が低下しない。
【0019】
一方、Snめっき被膜の光沢度Gs(60°)が80%を越えるような平滑なSnめっき表面の場合には、Snめっき表面とロールとの接触面積が大きくなり、ロールとの接点圧力が低くなる。そのため、ロールでのスリップが起こりやすくなり、スリップした状態で連続的にめっきを行うと、摩擦熱等でSnめっきがロールに付着する。
なお、通常のめっき皮膜が得られれば、Gs(60°)が10%未満となることはないが、例えば、めっき時間が極端に短い等の不十分なめっき条件の場合には、Snめっきの電着粒が島状になり、めっきムラが発生し、Gs(60°)が10%未満となることがある。従って、Snめっき被膜の光沢度を10〜80%とする。
【0020】
Snめっき被膜の厚みが0.5μm以上であることが好ましい。厚みが0.5μm未満の場合は耐食性、はんだ付け性が低下する場合がある。
また、Snめっき被膜の厚みの上限は、Snめっきの製造条件等によって変化するので特に制限されないが、2μmを超えてSnめっきを厚くしても耐食性、はんだ付け性の更なる向上はみられず、逆に、Snめっき代を増加させる、生産性を低下させる等のマイナス面もある。従って、Snめっき被膜の厚みが0.5〜2μmであることが好ましい。
【0021】
Snめっき被膜の光沢度の測定方法は以下のように行う。まず、Snめっき被膜表面から「JIS Z 8741 測定方法3 60度鏡面光沢」に準拠して測定する。そして、接触式の光沢度計を用い、10X20mmの測定サイズで5箇所を測定し、その平均値を光沢度とする。
【0022】
Snめっき被膜の光沢度を10〜80%に制御する方法としては、Snめっき浴中に光沢剤(例えば、ホルマリン及びアルデヒド系、イミダゾル系、ベンザルアセトン等の市販されている薬品)を添加せず、表面を平滑にしない(無光沢な)電気めっきをする方法;電流密度、Sn濃度及び浴温をそれぞれ調整し、電着粒を大きくする方法;が挙げられる。
本発明に用いることができるSnめっき浴の基剤としては、フェノールスルホン酸、硫酸、メタンスルホン酸等を挙げることができる。但し、ナフトール系等の界面活性剤EN(エトキシレーテッドナフトール)をSnめっき浴中に添加してもよい。また、ENSA(エトキシレーテッドナフトールスルフォニックアシッド)、ポリエチレングリコール、さらにはポリエチレングリコールノニルフェノールエーテル等のノニオン界面活性剤をSnめっき浴中に添加してもよい。また、界面活性剤以外にも光沢効果の低いナフトール等の有機物を添加しても良い。
めっき条件では、電流密度を低く、Sn濃度は高く、温度は高くすることで、電着粒を大きくする方向に調整できる。例えば、電流密度2〜12A/dm2、Sn濃度30〜60g/L、浴温30〜60℃とすることで、粒状の電着Snを銅箔面に均一に電着させることができ、Snめっき被膜の光沢度を10〜80%にすることができる。但し、めっき条件はめっき装置によって異なるので、特に上記に限定されるものではない。
【0023】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
銅99.9%以上のタフピッチ銅箔(厚み7.3μm)の片面に厚み12.5μmのPETフィルムを熱可塑性接着剤を使用して接着したものをストリップとした。このストリップを錫陽極と対向させ、連続めっきセル中で電気めっきした。めっき浴としてフェノールスルホン酸浴を用い、界面活性剤EN 10g/Lと酸化錫を添加し、Sn濃度32〜40g/Lとした。めっき条件は、浴温45〜55℃、電流密度8〜11A/dm2とし、めっき厚1.5μmとした。
【0025】
得られたSnめっき被膜の光沢度は、38%であった(図3参照)。光沢度は、「JIS Z 8741 測定方法3 60度鏡面光沢」に準拠して、接触式の光沢度計(日本電色工業株式会社製 PG-1M)にて測定した。測定サイズは10X20mmとして、5箇所測定し、その平均値を光沢度とした。
又、連続めっき中、めっき出側のロールを観察したところ、4700m通箔してもロールにSn付着が見られなかった。
さらに、耐食性評価として塩水噴霧試験(Z2371)(温度:35℃、塩水濃度:5%(塩化ナトリウム)、噴霧圧力:98±10kPa、噴霧時間:480h)を行った。目視でめっき面を観察したところ、めっき表面に変化がなく(具体的には母材の銅色が見られず)耐食性評価が良好であった。
【実施例2】
【0026】
めっき厚を0.5μmとしたこと以外は実施例1とまったく同様にして連続めっきを行った。
得られたSnめっき被膜の光沢度Gs(60°)は、72%であった。
又、連続めっき中、めっき出側のロールを観察したところ、4700m通箔してもロールにSn付着が見られなかった。また、耐食性評価も良好であった。
【実施例3】
【0027】
めっき厚を2.0μmとし、電流密度6〜8A/dm2としたこと以外は実施例1とまったく同様にして連続めっきを行った。
得られたSnめっき被膜の光沢度Gs(60°)は、35%であった。
又、連続めっき中、めっき出側のロールを観察したところ、4700m通箔してもロールにSn付着が見られなかった。また、耐食性評価も良好であった。
【実施例4】
【0028】
めっき厚を2.0μmとし、電流密度5〜6A/dm2としたこと以外は実施例1とまったく同様にして連続めっきを行った。
得られたSnめっき被膜の光沢度Gs(60°)は、20%であった。
又、連続めっき中、めっき出側のロールを観察したところ、4700m通箔してもロールにSn付着が見られなかった。また、耐食性評価も良好であった。
【実施例5】
【0029】
めっき厚を0.4μmとしたこと以外は実施例1とまったく同様にして連続めっきを行った。
得られたSnめっき被膜の光沢度Gs(60°)は、75%であり、連続めっき中、めっき出側のロールを観察したところ、4700m通箔してもロールにSn付着が見られなかった。
しかしながら、めっき厚が0.4μmと薄いため、目視観察したところ、めっき層の腐食が見られ(具体的には、母材の色である銅色が表面に観察され)、耐食性評価に劣った。
【0030】
<比較例1>
めっき厚を1.0μmとし、Snめっき浴中に光沢剤(パラアルデヒド12ml/L、ナフトアルデヒド0.2ml/L)を添加したこと以外は実施例1とまったく同様にして連続めっきを行った。
得られたSnめっき被膜の光沢度Gs(60°)は、90%であった。(図4参照)。
又、連続めっき中、めっき出側のロールを観察したところ3000m通箔した時点でロールにSn付着が顕著に見られた。耐食性評価は良好であった。
【0031】
<比較例2>
めっき厚を0.5μmとし、電流密度12〜15A/dm2としたこと以外は実施例1とまったく同様にして連続めっきを行った。
得られたSnめっき被膜の光沢度Gs(60°)は、85%であった。
又、連続めっき中、めっき出側のロールを観察したところ3000m通箔した時点でロールにSn付着が顕著に見られた。耐食性評価は良好であった。
【0032】
<比較例3>
めっき厚を1.5μmとし、Snめっき浴中に光沢剤(パラアルデヒド12ml/L、ナフトアルデヒド0.2ml/L)を添加し、電流密度12〜15A/dm2としたこと以外は実施例1とまったく同様にして連続めっきを行った。
得られたSnめっき被膜の電着粒の光沢度Gs(60°)は、108%であった。
又、連続めっき中、めっき出側のロールを観察したところ3000m通箔した時点でロールにSn付着が顕著に見られた。耐食性評価は良好であった。
【0033】
得られた結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1から明らかなように、Snめっき被膜の光沢度Gs(60°)が10〜80%である各実施例の場合、連続めっきによっても長期間、ロールにSnが付着しなかった。
一方、Snめっき被膜の光沢度Gs(60°)が80%を超えた比較例1〜3の場合、連続めっきを3000m行った時点でロールにSnが付着した。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の複合材料の一例を示した図である。
【図2】発明例1のSnめっき被膜表面から5000倍の倍率の走査型電子顕微鏡像である。
【図3】比較例2のSnめっき被膜表面から5000倍の倍率の走査型電子顕微鏡像である。
【符号の説明】
【0037】
1 銅箔(又は銅合金箔)
2 Snめっき被膜
4 樹脂層(又はフィルム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層又はフィルムを積層した銅箔又は銅合金箔の他の面に形成され、Snめっき表面の光沢度Gs(60°)が10〜80%であるSnめっき被膜。
【請求項2】
厚みが0.5μm以上である請求項1に記載のSnめっき被膜。
【請求項3】
銅箔又は銅合金箔と、前記銅箔又は銅合金箔の一方の面に積層された樹脂層又はフィルムと、前記銅箔又は銅合金箔の他の面に形成された請求項1又は2に記載のSnめっき被膜とからなる複合材料。
【請求項4】
厚みが0.1mm以下である請求項3に記載の複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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