Tリンパ性白血病の検出方法及び検出用キット
【課題】本発明はATL等のTリンパ性白血病に関連する遺伝子異常を指標とした、Tリンパ性白血病の効果的な検出方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は生体から単離された検体中のAREB6遺伝子の発現レベルを測定し、前記発現レベルの低下を指標としてTリンパ性白血病を検出することを特徴とするTリンパ性白血病の検出方法に関する。本発明はまたAREB6遺伝子の発現レベルを測定するための試薬を含むTリンパ性白血病を検出するためのキットに関する。
【解決手段】本発明は生体から単離された検体中のAREB6遺伝子の発現レベルを測定し、前記発現レベルの低下を指標としてTリンパ性白血病を検出することを特徴とするTリンパ性白血病の検出方法に関する。本発明はまたAREB6遺伝子の発現レベルを測定するための試薬を含むTリンパ性白血病を検出するためのキットに関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Tリンパ性白血病、特に成人T細胞白血病(adult T−cell leukemia;本明細書において「ATL」と略記する場合がある)の検出方法及びそのためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
成人T細胞白血病はヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T−lymphotrophic virus type 1;本明細書において「HTLV−1」と略記する場合がある)がCD4陽性T細胞に母子感染により感染することに起因する白血病の1種である。ATLは特に南九州に多く見られる風土病である。ATLはHTLV−1感染者の5%程度にしか発症せず、感染から発症までは50年程度の期間を要するものの、発症後の予後は極めて悪く効果的な治療方法が存在しない難治性の白血病である。
【0003】
従来から用いられているATLの診断法の一つに、サザンブロット法を用いて白血病細胞においてウイルスの組込みを確認する方法がある。この方法は確定診断としては使用できるが発症前の診断法としては用いることができず、また、白血病患者に対する診断に用いても患者予後の予測はできず、適切な治療法の選択のための情報を得ることができないという問題があった。
【0004】
また特許文献1及び2にはATLの検出方法が記載されているが、これらの方法も必ずしも満足できるものではない。特許文献3には種々の遺伝子を利用した骨髄系白血病(MDS、AML)の診断法が開示されているがATLを含むTリンパ性白血病の診断法は開示されていない。
【特許文献1】特許第3323258号公報
【特許文献2】特開2004−163121号公報
【特許文献3】国際公開WO2004/097051号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はATL等のTリンパ性白血病に関連する遺伝子異常を指標とした、Tリンパ性白血病の効果的な検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の発明を包含する。
(1)生体から単離された検体中のAREB6遺伝子の発現レベルを測定し、前記発現レベルの低下を指標としてTリンパ性白血病を検出することを特徴とするTリンパ性白血病の検出方法。
(2)前記Tリンパ性白血病が成人T細胞白血病である(1)記載の方法。
(3)前記検体が白血球細胞である(1)又は(2)記載の方法。
(4)AREB6遺伝子の発現レベルを測定するための試薬を含むTリンパ性白血病を検出するためのキット。
【発明の効果】
【0007】
本発明によりTリンパ性白血病の有効な検出方法が提供される。本発明に係る検出方法は、Tリンパ性白血病の発症前診断や、発症した患者の予後判定や、遺伝子以上特異的な治療法の選択のために応用できる可能性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明により検出され得るTリンパ性白血病としては例えば成人T細胞白血病、悪性リンパ腫等が挙げられる。
【0009】
被験体はTリンパ性白血病に罹患し得る動物である限り特に限定されるものではなく、例えば、ヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス等の哺乳動物が挙げられる。典型的にはヒトである。
【0010】
本発明において「生体から単離された検体」とは、典型的には、これらの哺乳動物から単離された白血球細胞、血清、リンパ節から単離されたサンプル等の検体を指す。
【0011】
AREB6遺伝子の発現レベルの低下は、例えば、正常検体との比較及び/または対照タンパク質の発現レベルとの比較によって判定することによって検出することができる。正常検体との比較は、具体的には、Tリンパ性白血病に罹患していないことが明らかな1または複数の検体におけるAREB6遺伝子の発現を予め調べ、その結果をAREB6遺伝子発現レベルの正常値として使用することができる。あるいはまた、実験条件による誤差を最小にするために、検体におけるAREB6遺伝子発現を検出する際に、同時に対照検体の測定を行っても良い。更に、Tリンパ性白血病患者であると判定された患者について、異なる時期に行った複数の測定結果を比較して、Tリンパ性白血病の病状の進行との相関性を調べることもできる。
【0012】
対照タンパク質としては、特に限定されるものではないが、Tリンパ性白血病の罹患の有無に関わらずその発現が一定しているタンパク質、例えばβ−アクチン等を選択することができる。
【0013】
「AREB6遺伝子の発現」には、AREB6遺伝子のmRNAへの転写及びタンパク質への翻訳が含まれる。したがって、検体におけるAREB6遺伝子の発現レベルは、検体におけるAREB6をコードするmRNAの存在量、あるいは、検体におけるAREB6の存在量に基づいて測定することができる。
【0014】
検体におけるAREB6をコードするmRNAの存在量の測定にあたっては、公知の遺伝子解析技術、例えば、ハイブリダイゼーション技術(例えば、ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットブロット法、DNAマイクロアレイ法等)、遺伝子増幅技術(例えば、RT−PCR等)等を利用することができる。
【0015】
ハイブリダイゼーション技術を利用する際には、AREB6をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをプローブとして利用することができ、遺伝子増幅技術を利用する際には、当該オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをプライマーとして利用することができる。当該オリゴヌクレオチドの一例としては配列番号2及び3に示すものが挙げられる。
【0016】
なお本明細書において、「オリゴヌクレオチド」の塩基長は特に限定されないが、通常15〜100塩基、好ましくは17〜35塩基である。また、「ポリヌクレオチド」の塩基長は特に限定されないが、通常50〜1000塩基、好ましくは150〜500塩基である。
【0017】
「AREB6をコードする核酸」にはDNA及びRNAの両者が含まれ、例えば、mRNA、cDNA、cRNA等が含まれる。オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド及びリボヌクレオチドのいずれであってもよい。
【0018】
AREB6をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは、AREB6をコードする核酸に特異的にハイブリダイズし得ることが好ましい。「特異的にハイブリダイズし得る」とは、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得ることを意味し、「ストリンジェントな条件」とは、通常、42℃、2×SSC及び0.1%SDSの条件であり、好ましくは、65℃、0.1×SSC及び0.1%SDSの条件である。
【0019】
AREB6をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドの塩基配列は、被験動物のAREB6遺伝子の塩基配列に基づいて設計することができる。AREB6遺伝子の塩基配列としては、例えば、ヒト、マウス等のAREB6遺伝子の塩基配列が公知である。ヒト由来のAREB6遺伝子は配列番号1に示す塩基配列を有するDNAからなる。なおAREB6はマウスではdeltaEF1とも称される。オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは、例えば、AREB6をコードする核酸のCDS領域にハイブリダイズし得るように、CDS領域の5’末端側又は3’末端側の領域にハイブリダイズし得るように、あるいは、CDS領域からその5’末端側又は3’末端側の領域にわたる領域にハイブリダイズし得るように設計される。プライマーの5’末端側には制限酵素認識配列、タグ等を付加することができる。また、プライマー及びプローブには、蛍光色素、ラジオアイソトープ等の標識を付加することができる。
【0020】
検体におけるAREB6をコードするmRNAの存在量の測定方法について、RT−PCRを利用する場合を例にしてより具体的に説明する。被験動物から採取した検体から全RNAを抽出し、抽出した全RNAからcDNAを合成した後、合成したcDNAを鋳型とし、AREB6をコードするcDNAにハイブリダイズし得るプライマーを用いてPCRを行い、PCR増幅断片を定量することによって、AREB6をコードするmRNAの存在量を測定することができる。この際、PCRは、PCR増幅断片生成量が初期鋳型cDNA量を反映するような条件(例えば、PCR増幅断片が指数関数的に増加するPCRサイクル数)で行う。
【0021】
PCR増幅断片の定量方法は特に限定されるものではなく常法により行うことができる。PCR増幅断片の定量には、例えば、ラジオアイソトープ(RI)を用いた定量方法、蛍光色素を用いた定量方法等を利用することができる。
【0022】
RT−PCR法の1つであるリアルタイムPCR法は、微量なDNAを高感度かつ定量的に検出できるという点で本発明の方法に特に適したものの1つである。リアルタイムPCR(TaqMan(商標)PCR)法では、5’端を蛍光色素(レポーター)で、3’端を蛍光色素(クエンチャー)で標識され、目的遺伝子の特定領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブが使用される。該プローブは、通常の状態ではクエンチャーによってレポーターの蛍光が抑制されている。この蛍光プローブを目的遺伝子に完全にハイブリダイズさせた状態で、その外側からTaq DNAポリメラーゼを用いてPCRを行う。Taq DNAポリメラーゼによる伸長反応が進むと、そのエキソヌクレアーゼ活性により蛍光プローブが5’端から加水分解され、レポーター色素が遊離し、蛍光を発する。リアルタイムPCR法は、この蛍光強度をリアルタイムでモニタリングすることにより、鋳型DNAの初期量を正確に定量することができる。
【0023】
検体におけるAREB6タンパク質の存在量の測定にあたっては、公知のタンパク質解析技術、例えば、抗AREB6抗体又はその断片を利用したウェスタンブロッティング法、免疫沈降法、ELISA、組織免疫染色法等を利用することができる。
【0024】
「抗AREB6抗体」には、被験動物のAREB6に反応し得る限り、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれもが含まれ、「その断片」には、被験動物のAREB6に反応し得る限り、いかなる断片も含まれる。抗体の断片としては、例えば、Fab断片、F(ab)’2断片、単鎖抗体(scFv)等が挙げられる。
【0025】
抗AREB6抗体又はその断片を用いて、検体におけるAREB6の存在量を測定する際には、例えば、放射能免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、化学発光測定法(CLIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、組織免疫染色法等を利用することができる。具体的には、物理吸着や化学結合等により抗体を結合させた固相担体(例えば、イムノプレート、ラテックス粒子等)を用いて、検体中のAREB6を捕捉した後、捕捉されたAREB6を、固相担体に固定化した抗体とはAREB6に対する抗原認識部位が異なる標識化抗体(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素、フロレッセンス、ウンベリフェロン等の蛍光物質等で標識した抗体)を用いて定量することができる。
【0026】
本発明のキットは、AREB6遺伝子の発現レベルを測定するための試薬を含み、Tリンパ性白血病の検出を行うために用いるものである。該キットを用いればTリンパ性白血病の検出をより簡便に行うことができる。
【0027】
本発明のキットは、上述の本発明の検出方法を行うことができるものであれば、いかなる構成のものでもよい。該キットは、上述の検出方法に応じて、被験動物のAREB6をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド、或いは、被験動物のAREB6に反応し得る抗体又はその断片を含むものであってよい。
【0028】
本発明のキットは更に任意の試薬、器具等を含むことができる。例えば、本発明のキットが、上記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含む場合には、PCRに必要な試薬(例えば水、緩衝剤、MgCl2、dNTPミックス、Taqポリメラーゼ等)、PCR増幅断片の定量に必要な試薬(例えばRI、蛍光色素等)、DNAマイクロアレイ、DNAチップ等の1種以上を含むことができる。また、本発明のキットが、上記抗体又はその断片を含む場合には、上記抗体又はその断片を固定化するための固相担体、二次抗体、抗体(二次抗体を含む)又はその断片の標識(例えば、酵素、蛍光物質等)、各種試薬(例えば、酵素基質、緩衝液、希釈液等)等の1種以上を含むことができる。
【実施例】
【0029】
以下に本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが本発明はこれらの実施例には限定されない。
【0030】
(ATL細胞に対するSKY−FISH法を用いた染色体分析)
ATL細胞に対するSKY−FISH法を用いた染色体分析を行った。方法は次の通りである。ATL細胞あるいは細胞株から型のごとく染色体標本を作製し、SKYプローブカクテル(Applied Spectral Imaging Inc)を37℃で2日間分子雑種させ、洗浄後に蛍光顕微鏡に装着したSD200 Spectracubeで画像を記録し、附属のソフトウエアを用いて核型を作成した。次に、10p11−13にマップされたBACクローンをビオチンあるいは蛍光色素で標識しプローブにしてFISH解析を行い、10p11−13領域の切断点と欠失を同定した。1例のATL細胞で1.2Mbのホモ欠失を見出した。
【0031】
ATL患者における10番染色体短腕の染色体異常集中部位p11−13の有無と生存率との関係を図1に示す。得られた10番染色体短腕の染色体異常集中部位p11−13を有するATL患者は、その異常を持たない患者に比べて予後が悪いことがわかった。すなわち、10p異常の有無により生存期間に差が見られた。以下に示す通り、この領域にAREB6遺伝子がその原因遺伝子であることがわかったので、AREB6発現の低下は、予後が悪いという患者の経歴との関連が示唆される。
【0032】
(遺伝子群の発現解析)
以上の通り、ATL細胞において10番染色体短腕の染色体異常集中部位p11−13を同定した。この領域は1.2Mbのホモ欠失領域を含む約2Mbの領域であり、その中に38遺伝子がマップされた。そこで、その遺伝子群の発現解析を行ったところ、AREB6遺伝子が原因遺伝子候補であることがわかった。図2は10番染色体のマップであり、各細胞株、患者検体における欠失領域のマップを示す。最下部にはマップされた遺伝子候補のうち、確実に遺伝子であることが確認されている遺伝子を示す。
【0033】
(DNAマイクロアレイ法を用いた遺伝子発現解析)
10pの共通欠失領域にマップされた遺伝子に対してDNAマイクロアレイ法を用いた遺伝子発現解析を行った。Affymetrix社マイクロアレイHU95Aを用い、目的細胞より取り出したRNA 5μgを逆転写酵素(Superscript II、Life Technologies社)によりT7−dT24プライマーを用いてcDNAに変換、さらに、MEGAscript High Yield Transciption kit(Ambion社)を用いてビオチン付加cRNAに転写した。転写したcRNAをT7 RNA polymeraseにより増幅し、これをプローブとしてAffymetrix社プロトコールに従い、DNAマイクロアレイを処理した。染色したアレイはGeneArray Scannerにより取り込み、Affymetrix社解析ソフトによりデータ解析を行った。
【0034】
結果を図3に示す。横軸はそれぞれのコントロール細胞とATL患者白血病細胞を示す。縦軸は遺伝子発現量を示し、この中にマップされた3遺伝子(ITGB1、EPC1、AREB6)における遺伝子発現を棒グラフで表している。AREB6において、コントロール細胞では1000−2000の発現量を示すが、ATL患者白血病細胞では全例発現量が低下していることがわかる。
【0035】
(RT−PCR法を用いた遺伝子発現解析)
図2中マップされた遺伝子群のうち、確実に発現が確認された遺伝子の発現を、インフォームドコンセント後同意を得られた、4例の健常人コントロールCD4陽性T細胞と8例のATL細胞においてRT−PCR法を用いて測定した。AREB6遺伝子を増幅するために5’末端側プライマーcgtcacatgacatcacataaatca及び3’末端側プライマーaagcaaccactatgggtttgaattを用いた。totalRNA 1μgよりtakara T4 reverse transcriptaseを用いた逆転写反応によりcDNAに変換後、このDNAを鋳型としてPCRを行った。PCRは94度5分加熱後、94度30秒、58度30秒、72度1分を25サイクルで行った。
【0036】
結果を図4に示す。AREB6についてコントロールでは確実に発現が見られるが、ATLではその発現量が低下している。
【0037】
(Real−time PCR法を用いたAREB6遺伝子発現解析)
Real−time PCR法を用いて、ATL患者白血病細胞のAREB6発現レベルを測定した。インフォームドコンセント後同意を得られた、健常人末梢血リンパ球(CD4陽性)4例、ATL患者末梢血白血病細胞6例につき、AREB6遺伝子発現を検討した。上記サンプルRNAよりRT−PCRによりcDNAを合成、このDNAを鋳型としてABI PRISM 7000を用い、ABIリアルタイムPCRプロトコールに準じてPCRを行った。プライマーとしてABI 4323969 AREB6−308T (FAMラベル)を用い、コントロールとしてヒトb−actinプローブ(4326315E)(VICラベル)を用いた。
【0038】
結果を図5に示す。ATL全例で正常リンパ球に比べてAREB6遺伝子発現レベルが低下していた。
【0039】
(各種白血球細胞におけるAREB6遺伝子発現解析)
RT−PCRを用いてATL細胞株(6),HTLV1感染細胞株(3),T−ALL細胞株(2)についてAREB6遺伝子発現を検討した。AREB6遺伝子を増幅するために5’末端側プライマーcgtcacatgacatcacataaatca及び3’末端側プライマーaagcaaccactatgggtttgaattを用いた。totalRNA 1μgよりtakara T4 reverse transcriptaseを用いた逆転写反応によりcDNAに変換後、このDNAを鋳型としてPCRを行った。PCRは94度5分加熱後、94度30秒、58度30秒、72度1分を25サイクルで行った。KOB,SO4,KK1,OMT細胞株は長崎大学医学部山田先生より、Su9T,S1Tは鹿児島大学医学部有馬先生より、ED細胞株は京都大学医学部前田先生より、Jurkat,MOLT4,HUT102,MT2は理研細胞センターより分与していただいた。
【0040】
結果を図6に示す。HTLV1感染細胞株とATL細胞株においてその発現がほぼ全例で低下していることがわかった。
【0041】
(5−azacytidine添加によるATL細胞株におけるAREB6転写の亢進)
AREB6プロモーター領域のDNAメチル化が転写低下に関係するかどうかを検討するために、ATL細胞株を5−azacytidine添加培養液にて5日培養しその転写の変化をRT−PCR法にて検討した。AREB6遺伝子を増幅するために5’末端側プライマーcgtcacatgacatcacataaatca及び3’末端側プライマーaagcaaccactatgggtttgaattを用いた。totalRNA 1μgよりtakara T4 reverse transcriptaseを用いた逆転写反応によりcDNAに変換後、このDNAを鋳型としてPCRを行った。PCRは94度5分加熱後、94度30秒、58度30秒、72度1分を25サイクルで行った。KK1,KOB細胞株は長崎大学医学部山田先生より、ED細胞株は京都大学医学部前田先生より分与していただいた。それぞれの細胞株に培養液中に5−Azacytidine 1mMを添加、もしくは無添加し4日間培養し、total RNAを抽出、1μgをcDNAに変換し、これを鋳型としてRT−PCRを行った。
【0042】
結果を図7に示す。5−Azacytidine 1mMを添加(+)した3つのATL細胞株において転写の亢進が確認されたことから、AREB6プロモーター領域はDNAメチル化されていることがわかった。
【0043】
(ヒストンタンパク質の脱アセチル化阻害剤によるAREB6転写活性化)
ヒストンタンパク質のアセチル化の影響がAREB6の転写に関連するかどうか検討するため、抗ガン剤として用いられている脱アセチル化阻害剤Trichostatin A(TSA)処理による転写の変化をRT−PCR法により検討した。AREB6遺伝子を増幅するために5’末端側プライマーcgtcacatgacatcacataaatca及び3’末端側プライマーaagcaaccactatgggtttgaattを用いた。totalRNA 1μgよりtakara T4 reverse transcriptaseを用いた逆転写反応によりcDNAに変換後、このDNAを鋳型としてPCRを行った。PCRは94度5分加熱後、94度30秒、58度30秒、72度1分を25サイクルで行った。SO4細胞株は長崎大学医学部山田先生より、ED細胞株は京都大学医学部前田先生より分与していただいた。それぞれの細胞株に培養液中にTSA 1mMを添加、もしくは無添加し、培養前(Pre)、培養後24時間後(24)、48時間後(48)に細胞より、total RNAを抽出、1μgをcDNAに変換し、これを鋳型としてRT−PCRを行った。
【0044】
結果を図8に示す。ED及びSO4の二つのATL細胞株において両者ともTSA処理により転写が活性化されたことから、ヒストン脱アセチル化の影響によりAREB6の転写が低下していることがわかった。
【0045】
図7,8の結果を表にまとめた。KOB、KK1、KOBの3細胞株はそれぞれ10pの欠失があった。KOB、KK1、KOB、SO4の4細胞株はそれぞれDNAメチル化されていた。KOB、KK1、KOB、SO4、MOLT4、HUT102、MT2の7細胞株はヒストン脱アセチル化による転写阻害を受けていた。
【0046】
【表1】
【0047】
(CTLL細胞株におけるWestern法によるタンパク質発現解析)
マウスCTLL細胞株にアンチセンスdeltaEF1(マウスにおけるAREB6)を導入し、deltaEF1抗体を用いてWestern法によりタンパク質発現を検討した。pcDNA3ベクターにdeltaEF1遺伝子を逆向きに挿入し、マウスCTLL2細胞株にelectroporation法により導入した。導入後G418 800μg/mlを添加約3週間培養した。生き残った細胞株をそれぞれ分画し、細胞株を6株得た。それぞれのクローン(clone 1,clone2など)について、deltaEF1のたんぱく質発現をWestern法により同定した。コントロール細胞(CTLl/neo,CTLL/GFP)および、得られたクローン細胞株(CTLL/3及びCTLL/4)について5x106細胞よりより得られた蛋白質をSDS−PAGEで分離後、ナイロン膜(Amersham)に転写し、一次抗体である3000倍希釈抗deltaEF1抗体(大阪大学医学部東先生より供与)で処理し、二次抗体である4000倍希釈ビオチン標識抗ラビットIgG抗体で処理し、さらに4000倍希釈HRP標識ストレプトアビジンで処理後、ECLキット(Amersham社)により発色させLAS3000(富士フィルム)を用いてdeltaEF1蛋白質を同定した。
【0048】
結果を図9に示す。4つのクローンのうちクローン1,3,4についてdeltaEF1(AREB6)の発現が低下していることがわかった。
【0049】
これらの細胞を使ってTGFβに対する反応性を検討したところ、Clone 3, 4においてTGFβに抵抗性が出現し、細胞死が40%程度抑えられていた(図10)。
【0050】
(ED細胞株におけるWestern法によるタンパク質発現解析)
ATL細胞株EDにdeltaEF1(マウスにおけるAREB6)を導入し、deltaEF1抗体を用いてWestern法にて発現レベルを検討した。pcDNA3ベクターにdeltaEF1遺伝子を組み込み、electroporation法(Biolad社)にてヒトATL細胞株EDに遺伝子導入を行った。導入後G418 800μg/mlの条件で3週間培養し、3種類の細胞株(dEF1−1, dEF1−2, dEF1−3)を作成した。それぞれの細胞株5x106細胞より蛋白質を抽出し、SDS−GAGEゲル電気泳動により蛋白質を分離し、ナイロン膜に転写した。この膜に対して、一次抗体である3000倍希釈抗deltaEF1抗体(大阪大学医学部東先生より供与)で処理し、二次抗体である4000倍希釈ビオチン標識抗ラビットIgG抗体で処理し、さらに4000倍希釈HRP標識ストレプトアビジンで処理後、ECLキット(Amersham社)により発色させLAS3000(富士フィルム)を用いてdeltaEF1蛋白質を同定した。
【0051】
結果を図11に示す。dEF1−1,−2,−3細胞株において、deltaEF1タンパク質の高発現が見られた。
【0052】
これらの細胞株に対するTGFβに対する反応性を検討した(図12)。オリジナルのED細胞株(ED/p)、ED/neoクローンは、TGFβに対して、不反応性を獲得しており、10ng/mlを添加しても細胞死は起こらない。しかしdEF1−1、−2、−3においては、約40%の細胞で細胞死を起こしており、deltaEF1(AREB6)の発現はTGFβの反応性を上昇させ、細胞死をもたらすことが示唆された。
【配列表フリーテキスト】
【0053】
配列番号2及び3:プライマー
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】ATL患者における10番染色体短腕の染色体異常集中部位p11−13の有無と生存率との関係を示す図である。
【図2】10番染色体の遺伝子マップを示す図である。
【図3】DNAマイクロアレイ法を用いた遺伝子発現解析の結果を示す図である。
【図4】RT−PCR法を用いた遺伝子発現解析の結果を示す図である。
【図5】Real−time PCR法を用いたAREB6遺伝子発現解析の結果を示す図である。
【図6】各種白血球細胞におけるAREB6遺伝子発現解析の結果を示す図である。
【図7】5−azacytidine添加によるATL細胞株におけるAREB6転写の亢進を示す図である。
【図8】ヒストンタンパク質の脱アセチル化阻害剤によるAREB6転写活性化を示す図である。
【図9】CTLL細胞株におけるWestern法によるタンパク質発現解析の結果を示す図である。
【図10】TGFβに対する反応性を示す図である。
【図11】ED細胞株におけるWestern法によるタンパク質発現解析の結果を示す図である。
【図12】TGFβに対する反応性を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、Tリンパ性白血病、特に成人T細胞白血病(adult T−cell leukemia;本明細書において「ATL」と略記する場合がある)の検出方法及びそのためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
成人T細胞白血病はヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T−lymphotrophic virus type 1;本明細書において「HTLV−1」と略記する場合がある)がCD4陽性T細胞に母子感染により感染することに起因する白血病の1種である。ATLは特に南九州に多く見られる風土病である。ATLはHTLV−1感染者の5%程度にしか発症せず、感染から発症までは50年程度の期間を要するものの、発症後の予後は極めて悪く効果的な治療方法が存在しない難治性の白血病である。
【0003】
従来から用いられているATLの診断法の一つに、サザンブロット法を用いて白血病細胞においてウイルスの組込みを確認する方法がある。この方法は確定診断としては使用できるが発症前の診断法としては用いることができず、また、白血病患者に対する診断に用いても患者予後の予測はできず、適切な治療法の選択のための情報を得ることができないという問題があった。
【0004】
また特許文献1及び2にはATLの検出方法が記載されているが、これらの方法も必ずしも満足できるものではない。特許文献3には種々の遺伝子を利用した骨髄系白血病(MDS、AML)の診断法が開示されているがATLを含むTリンパ性白血病の診断法は開示されていない。
【特許文献1】特許第3323258号公報
【特許文献2】特開2004−163121号公報
【特許文献3】国際公開WO2004/097051号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はATL等のTリンパ性白血病に関連する遺伝子異常を指標とした、Tリンパ性白血病の効果的な検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の発明を包含する。
(1)生体から単離された検体中のAREB6遺伝子の発現レベルを測定し、前記発現レベルの低下を指標としてTリンパ性白血病を検出することを特徴とするTリンパ性白血病の検出方法。
(2)前記Tリンパ性白血病が成人T細胞白血病である(1)記載の方法。
(3)前記検体が白血球細胞である(1)又は(2)記載の方法。
(4)AREB6遺伝子の発現レベルを測定するための試薬を含むTリンパ性白血病を検出するためのキット。
【発明の効果】
【0007】
本発明によりTリンパ性白血病の有効な検出方法が提供される。本発明に係る検出方法は、Tリンパ性白血病の発症前診断や、発症した患者の予後判定や、遺伝子以上特異的な治療法の選択のために応用できる可能性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明により検出され得るTリンパ性白血病としては例えば成人T細胞白血病、悪性リンパ腫等が挙げられる。
【0009】
被験体はTリンパ性白血病に罹患し得る動物である限り特に限定されるものではなく、例えば、ヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス等の哺乳動物が挙げられる。典型的にはヒトである。
【0010】
本発明において「生体から単離された検体」とは、典型的には、これらの哺乳動物から単離された白血球細胞、血清、リンパ節から単離されたサンプル等の検体を指す。
【0011】
AREB6遺伝子の発現レベルの低下は、例えば、正常検体との比較及び/または対照タンパク質の発現レベルとの比較によって判定することによって検出することができる。正常検体との比較は、具体的には、Tリンパ性白血病に罹患していないことが明らかな1または複数の検体におけるAREB6遺伝子の発現を予め調べ、その結果をAREB6遺伝子発現レベルの正常値として使用することができる。あるいはまた、実験条件による誤差を最小にするために、検体におけるAREB6遺伝子発現を検出する際に、同時に対照検体の測定を行っても良い。更に、Tリンパ性白血病患者であると判定された患者について、異なる時期に行った複数の測定結果を比較して、Tリンパ性白血病の病状の進行との相関性を調べることもできる。
【0012】
対照タンパク質としては、特に限定されるものではないが、Tリンパ性白血病の罹患の有無に関わらずその発現が一定しているタンパク質、例えばβ−アクチン等を選択することができる。
【0013】
「AREB6遺伝子の発現」には、AREB6遺伝子のmRNAへの転写及びタンパク質への翻訳が含まれる。したがって、検体におけるAREB6遺伝子の発現レベルは、検体におけるAREB6をコードするmRNAの存在量、あるいは、検体におけるAREB6の存在量に基づいて測定することができる。
【0014】
検体におけるAREB6をコードするmRNAの存在量の測定にあたっては、公知の遺伝子解析技術、例えば、ハイブリダイゼーション技術(例えば、ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットブロット法、DNAマイクロアレイ法等)、遺伝子増幅技術(例えば、RT−PCR等)等を利用することができる。
【0015】
ハイブリダイゼーション技術を利用する際には、AREB6をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをプローブとして利用することができ、遺伝子増幅技術を利用する際には、当該オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをプライマーとして利用することができる。当該オリゴヌクレオチドの一例としては配列番号2及び3に示すものが挙げられる。
【0016】
なお本明細書において、「オリゴヌクレオチド」の塩基長は特に限定されないが、通常15〜100塩基、好ましくは17〜35塩基である。また、「ポリヌクレオチド」の塩基長は特に限定されないが、通常50〜1000塩基、好ましくは150〜500塩基である。
【0017】
「AREB6をコードする核酸」にはDNA及びRNAの両者が含まれ、例えば、mRNA、cDNA、cRNA等が含まれる。オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド及びリボヌクレオチドのいずれであってもよい。
【0018】
AREB6をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは、AREB6をコードする核酸に特異的にハイブリダイズし得ることが好ましい。「特異的にハイブリダイズし得る」とは、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得ることを意味し、「ストリンジェントな条件」とは、通常、42℃、2×SSC及び0.1%SDSの条件であり、好ましくは、65℃、0.1×SSC及び0.1%SDSの条件である。
【0019】
AREB6をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドの塩基配列は、被験動物のAREB6遺伝子の塩基配列に基づいて設計することができる。AREB6遺伝子の塩基配列としては、例えば、ヒト、マウス等のAREB6遺伝子の塩基配列が公知である。ヒト由来のAREB6遺伝子は配列番号1に示す塩基配列を有するDNAからなる。なおAREB6はマウスではdeltaEF1とも称される。オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは、例えば、AREB6をコードする核酸のCDS領域にハイブリダイズし得るように、CDS領域の5’末端側又は3’末端側の領域にハイブリダイズし得るように、あるいは、CDS領域からその5’末端側又は3’末端側の領域にわたる領域にハイブリダイズし得るように設計される。プライマーの5’末端側には制限酵素認識配列、タグ等を付加することができる。また、プライマー及びプローブには、蛍光色素、ラジオアイソトープ等の標識を付加することができる。
【0020】
検体におけるAREB6をコードするmRNAの存在量の測定方法について、RT−PCRを利用する場合を例にしてより具体的に説明する。被験動物から採取した検体から全RNAを抽出し、抽出した全RNAからcDNAを合成した後、合成したcDNAを鋳型とし、AREB6をコードするcDNAにハイブリダイズし得るプライマーを用いてPCRを行い、PCR増幅断片を定量することによって、AREB6をコードするmRNAの存在量を測定することができる。この際、PCRは、PCR増幅断片生成量が初期鋳型cDNA量を反映するような条件(例えば、PCR増幅断片が指数関数的に増加するPCRサイクル数)で行う。
【0021】
PCR増幅断片の定量方法は特に限定されるものではなく常法により行うことができる。PCR増幅断片の定量には、例えば、ラジオアイソトープ(RI)を用いた定量方法、蛍光色素を用いた定量方法等を利用することができる。
【0022】
RT−PCR法の1つであるリアルタイムPCR法は、微量なDNAを高感度かつ定量的に検出できるという点で本発明の方法に特に適したものの1つである。リアルタイムPCR(TaqMan(商標)PCR)法では、5’端を蛍光色素(レポーター)で、3’端を蛍光色素(クエンチャー)で標識され、目的遺伝子の特定領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブが使用される。該プローブは、通常の状態ではクエンチャーによってレポーターの蛍光が抑制されている。この蛍光プローブを目的遺伝子に完全にハイブリダイズさせた状態で、その外側からTaq DNAポリメラーゼを用いてPCRを行う。Taq DNAポリメラーゼによる伸長反応が進むと、そのエキソヌクレアーゼ活性により蛍光プローブが5’端から加水分解され、レポーター色素が遊離し、蛍光を発する。リアルタイムPCR法は、この蛍光強度をリアルタイムでモニタリングすることにより、鋳型DNAの初期量を正確に定量することができる。
【0023】
検体におけるAREB6タンパク質の存在量の測定にあたっては、公知のタンパク質解析技術、例えば、抗AREB6抗体又はその断片を利用したウェスタンブロッティング法、免疫沈降法、ELISA、組織免疫染色法等を利用することができる。
【0024】
「抗AREB6抗体」には、被験動物のAREB6に反応し得る限り、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれもが含まれ、「その断片」には、被験動物のAREB6に反応し得る限り、いかなる断片も含まれる。抗体の断片としては、例えば、Fab断片、F(ab)’2断片、単鎖抗体(scFv)等が挙げられる。
【0025】
抗AREB6抗体又はその断片を用いて、検体におけるAREB6の存在量を測定する際には、例えば、放射能免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、化学発光測定法(CLIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、組織免疫染色法等を利用することができる。具体的には、物理吸着や化学結合等により抗体を結合させた固相担体(例えば、イムノプレート、ラテックス粒子等)を用いて、検体中のAREB6を捕捉した後、捕捉されたAREB6を、固相担体に固定化した抗体とはAREB6に対する抗原認識部位が異なる標識化抗体(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素、フロレッセンス、ウンベリフェロン等の蛍光物質等で標識した抗体)を用いて定量することができる。
【0026】
本発明のキットは、AREB6遺伝子の発現レベルを測定するための試薬を含み、Tリンパ性白血病の検出を行うために用いるものである。該キットを用いればTリンパ性白血病の検出をより簡便に行うことができる。
【0027】
本発明のキットは、上述の本発明の検出方法を行うことができるものであれば、いかなる構成のものでもよい。該キットは、上述の検出方法に応じて、被験動物のAREB6をコードする核酸にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド、或いは、被験動物のAREB6に反応し得る抗体又はその断片を含むものであってよい。
【0028】
本発明のキットは更に任意の試薬、器具等を含むことができる。例えば、本発明のキットが、上記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含む場合には、PCRに必要な試薬(例えば水、緩衝剤、MgCl2、dNTPミックス、Taqポリメラーゼ等)、PCR増幅断片の定量に必要な試薬(例えばRI、蛍光色素等)、DNAマイクロアレイ、DNAチップ等の1種以上を含むことができる。また、本発明のキットが、上記抗体又はその断片を含む場合には、上記抗体又はその断片を固定化するための固相担体、二次抗体、抗体(二次抗体を含む)又はその断片の標識(例えば、酵素、蛍光物質等)、各種試薬(例えば、酵素基質、緩衝液、希釈液等)等の1種以上を含むことができる。
【実施例】
【0029】
以下に本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが本発明はこれらの実施例には限定されない。
【0030】
(ATL細胞に対するSKY−FISH法を用いた染色体分析)
ATL細胞に対するSKY−FISH法を用いた染色体分析を行った。方法は次の通りである。ATL細胞あるいは細胞株から型のごとく染色体標本を作製し、SKYプローブカクテル(Applied Spectral Imaging Inc)を37℃で2日間分子雑種させ、洗浄後に蛍光顕微鏡に装着したSD200 Spectracubeで画像を記録し、附属のソフトウエアを用いて核型を作成した。次に、10p11−13にマップされたBACクローンをビオチンあるいは蛍光色素で標識しプローブにしてFISH解析を行い、10p11−13領域の切断点と欠失を同定した。1例のATL細胞で1.2Mbのホモ欠失を見出した。
【0031】
ATL患者における10番染色体短腕の染色体異常集中部位p11−13の有無と生存率との関係を図1に示す。得られた10番染色体短腕の染色体異常集中部位p11−13を有するATL患者は、その異常を持たない患者に比べて予後が悪いことがわかった。すなわち、10p異常の有無により生存期間に差が見られた。以下に示す通り、この領域にAREB6遺伝子がその原因遺伝子であることがわかったので、AREB6発現の低下は、予後が悪いという患者の経歴との関連が示唆される。
【0032】
(遺伝子群の発現解析)
以上の通り、ATL細胞において10番染色体短腕の染色体異常集中部位p11−13を同定した。この領域は1.2Mbのホモ欠失領域を含む約2Mbの領域であり、その中に38遺伝子がマップされた。そこで、その遺伝子群の発現解析を行ったところ、AREB6遺伝子が原因遺伝子候補であることがわかった。図2は10番染色体のマップであり、各細胞株、患者検体における欠失領域のマップを示す。最下部にはマップされた遺伝子候補のうち、確実に遺伝子であることが確認されている遺伝子を示す。
【0033】
(DNAマイクロアレイ法を用いた遺伝子発現解析)
10pの共通欠失領域にマップされた遺伝子に対してDNAマイクロアレイ法を用いた遺伝子発現解析を行った。Affymetrix社マイクロアレイHU95Aを用い、目的細胞より取り出したRNA 5μgを逆転写酵素(Superscript II、Life Technologies社)によりT7−dT24プライマーを用いてcDNAに変換、さらに、MEGAscript High Yield Transciption kit(Ambion社)を用いてビオチン付加cRNAに転写した。転写したcRNAをT7 RNA polymeraseにより増幅し、これをプローブとしてAffymetrix社プロトコールに従い、DNAマイクロアレイを処理した。染色したアレイはGeneArray Scannerにより取り込み、Affymetrix社解析ソフトによりデータ解析を行った。
【0034】
結果を図3に示す。横軸はそれぞれのコントロール細胞とATL患者白血病細胞を示す。縦軸は遺伝子発現量を示し、この中にマップされた3遺伝子(ITGB1、EPC1、AREB6)における遺伝子発現を棒グラフで表している。AREB6において、コントロール細胞では1000−2000の発現量を示すが、ATL患者白血病細胞では全例発現量が低下していることがわかる。
【0035】
(RT−PCR法を用いた遺伝子発現解析)
図2中マップされた遺伝子群のうち、確実に発現が確認された遺伝子の発現を、インフォームドコンセント後同意を得られた、4例の健常人コントロールCD4陽性T細胞と8例のATL細胞においてRT−PCR法を用いて測定した。AREB6遺伝子を増幅するために5’末端側プライマーcgtcacatgacatcacataaatca及び3’末端側プライマーaagcaaccactatgggtttgaattを用いた。totalRNA 1μgよりtakara T4 reverse transcriptaseを用いた逆転写反応によりcDNAに変換後、このDNAを鋳型としてPCRを行った。PCRは94度5分加熱後、94度30秒、58度30秒、72度1分を25サイクルで行った。
【0036】
結果を図4に示す。AREB6についてコントロールでは確実に発現が見られるが、ATLではその発現量が低下している。
【0037】
(Real−time PCR法を用いたAREB6遺伝子発現解析)
Real−time PCR法を用いて、ATL患者白血病細胞のAREB6発現レベルを測定した。インフォームドコンセント後同意を得られた、健常人末梢血リンパ球(CD4陽性)4例、ATL患者末梢血白血病細胞6例につき、AREB6遺伝子発現を検討した。上記サンプルRNAよりRT−PCRによりcDNAを合成、このDNAを鋳型としてABI PRISM 7000を用い、ABIリアルタイムPCRプロトコールに準じてPCRを行った。プライマーとしてABI 4323969 AREB6−308T (FAMラベル)を用い、コントロールとしてヒトb−actinプローブ(4326315E)(VICラベル)を用いた。
【0038】
結果を図5に示す。ATL全例で正常リンパ球に比べてAREB6遺伝子発現レベルが低下していた。
【0039】
(各種白血球細胞におけるAREB6遺伝子発現解析)
RT−PCRを用いてATL細胞株(6),HTLV1感染細胞株(3),T−ALL細胞株(2)についてAREB6遺伝子発現を検討した。AREB6遺伝子を増幅するために5’末端側プライマーcgtcacatgacatcacataaatca及び3’末端側プライマーaagcaaccactatgggtttgaattを用いた。totalRNA 1μgよりtakara T4 reverse transcriptaseを用いた逆転写反応によりcDNAに変換後、このDNAを鋳型としてPCRを行った。PCRは94度5分加熱後、94度30秒、58度30秒、72度1分を25サイクルで行った。KOB,SO4,KK1,OMT細胞株は長崎大学医学部山田先生より、Su9T,S1Tは鹿児島大学医学部有馬先生より、ED細胞株は京都大学医学部前田先生より、Jurkat,MOLT4,HUT102,MT2は理研細胞センターより分与していただいた。
【0040】
結果を図6に示す。HTLV1感染細胞株とATL細胞株においてその発現がほぼ全例で低下していることがわかった。
【0041】
(5−azacytidine添加によるATL細胞株におけるAREB6転写の亢進)
AREB6プロモーター領域のDNAメチル化が転写低下に関係するかどうかを検討するために、ATL細胞株を5−azacytidine添加培養液にて5日培養しその転写の変化をRT−PCR法にて検討した。AREB6遺伝子を増幅するために5’末端側プライマーcgtcacatgacatcacataaatca及び3’末端側プライマーaagcaaccactatgggtttgaattを用いた。totalRNA 1μgよりtakara T4 reverse transcriptaseを用いた逆転写反応によりcDNAに変換後、このDNAを鋳型としてPCRを行った。PCRは94度5分加熱後、94度30秒、58度30秒、72度1分を25サイクルで行った。KK1,KOB細胞株は長崎大学医学部山田先生より、ED細胞株は京都大学医学部前田先生より分与していただいた。それぞれの細胞株に培養液中に5−Azacytidine 1mMを添加、もしくは無添加し4日間培養し、total RNAを抽出、1μgをcDNAに変換し、これを鋳型としてRT−PCRを行った。
【0042】
結果を図7に示す。5−Azacytidine 1mMを添加(+)した3つのATL細胞株において転写の亢進が確認されたことから、AREB6プロモーター領域はDNAメチル化されていることがわかった。
【0043】
(ヒストンタンパク質の脱アセチル化阻害剤によるAREB6転写活性化)
ヒストンタンパク質のアセチル化の影響がAREB6の転写に関連するかどうか検討するため、抗ガン剤として用いられている脱アセチル化阻害剤Trichostatin A(TSA)処理による転写の変化をRT−PCR法により検討した。AREB6遺伝子を増幅するために5’末端側プライマーcgtcacatgacatcacataaatca及び3’末端側プライマーaagcaaccactatgggtttgaattを用いた。totalRNA 1μgよりtakara T4 reverse transcriptaseを用いた逆転写反応によりcDNAに変換後、このDNAを鋳型としてPCRを行った。PCRは94度5分加熱後、94度30秒、58度30秒、72度1分を25サイクルで行った。SO4細胞株は長崎大学医学部山田先生より、ED細胞株は京都大学医学部前田先生より分与していただいた。それぞれの細胞株に培養液中にTSA 1mMを添加、もしくは無添加し、培養前(Pre)、培養後24時間後(24)、48時間後(48)に細胞より、total RNAを抽出、1μgをcDNAに変換し、これを鋳型としてRT−PCRを行った。
【0044】
結果を図8に示す。ED及びSO4の二つのATL細胞株において両者ともTSA処理により転写が活性化されたことから、ヒストン脱アセチル化の影響によりAREB6の転写が低下していることがわかった。
【0045】
図7,8の結果を表にまとめた。KOB、KK1、KOBの3細胞株はそれぞれ10pの欠失があった。KOB、KK1、KOB、SO4の4細胞株はそれぞれDNAメチル化されていた。KOB、KK1、KOB、SO4、MOLT4、HUT102、MT2の7細胞株はヒストン脱アセチル化による転写阻害を受けていた。
【0046】
【表1】
【0047】
(CTLL細胞株におけるWestern法によるタンパク質発現解析)
マウスCTLL細胞株にアンチセンスdeltaEF1(マウスにおけるAREB6)を導入し、deltaEF1抗体を用いてWestern法によりタンパク質発現を検討した。pcDNA3ベクターにdeltaEF1遺伝子を逆向きに挿入し、マウスCTLL2細胞株にelectroporation法により導入した。導入後G418 800μg/mlを添加約3週間培養した。生き残った細胞株をそれぞれ分画し、細胞株を6株得た。それぞれのクローン(clone 1,clone2など)について、deltaEF1のたんぱく質発現をWestern法により同定した。コントロール細胞(CTLl/neo,CTLL/GFP)および、得られたクローン細胞株(CTLL/3及びCTLL/4)について5x106細胞よりより得られた蛋白質をSDS−PAGEで分離後、ナイロン膜(Amersham)に転写し、一次抗体である3000倍希釈抗deltaEF1抗体(大阪大学医学部東先生より供与)で処理し、二次抗体である4000倍希釈ビオチン標識抗ラビットIgG抗体で処理し、さらに4000倍希釈HRP標識ストレプトアビジンで処理後、ECLキット(Amersham社)により発色させLAS3000(富士フィルム)を用いてdeltaEF1蛋白質を同定した。
【0048】
結果を図9に示す。4つのクローンのうちクローン1,3,4についてdeltaEF1(AREB6)の発現が低下していることがわかった。
【0049】
これらの細胞を使ってTGFβに対する反応性を検討したところ、Clone 3, 4においてTGFβに抵抗性が出現し、細胞死が40%程度抑えられていた(図10)。
【0050】
(ED細胞株におけるWestern法によるタンパク質発現解析)
ATL細胞株EDにdeltaEF1(マウスにおけるAREB6)を導入し、deltaEF1抗体を用いてWestern法にて発現レベルを検討した。pcDNA3ベクターにdeltaEF1遺伝子を組み込み、electroporation法(Biolad社)にてヒトATL細胞株EDに遺伝子導入を行った。導入後G418 800μg/mlの条件で3週間培養し、3種類の細胞株(dEF1−1, dEF1−2, dEF1−3)を作成した。それぞれの細胞株5x106細胞より蛋白質を抽出し、SDS−GAGEゲル電気泳動により蛋白質を分離し、ナイロン膜に転写した。この膜に対して、一次抗体である3000倍希釈抗deltaEF1抗体(大阪大学医学部東先生より供与)で処理し、二次抗体である4000倍希釈ビオチン標識抗ラビットIgG抗体で処理し、さらに4000倍希釈HRP標識ストレプトアビジンで処理後、ECLキット(Amersham社)により発色させLAS3000(富士フィルム)を用いてdeltaEF1蛋白質を同定した。
【0051】
結果を図11に示す。dEF1−1,−2,−3細胞株において、deltaEF1タンパク質の高発現が見られた。
【0052】
これらの細胞株に対するTGFβに対する反応性を検討した(図12)。オリジナルのED細胞株(ED/p)、ED/neoクローンは、TGFβに対して、不反応性を獲得しており、10ng/mlを添加しても細胞死は起こらない。しかしdEF1−1、−2、−3においては、約40%の細胞で細胞死を起こしており、deltaEF1(AREB6)の発現はTGFβの反応性を上昇させ、細胞死をもたらすことが示唆された。
【配列表フリーテキスト】
【0053】
配列番号2及び3:プライマー
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】ATL患者における10番染色体短腕の染色体異常集中部位p11−13の有無と生存率との関係を示す図である。
【図2】10番染色体の遺伝子マップを示す図である。
【図3】DNAマイクロアレイ法を用いた遺伝子発現解析の結果を示す図である。
【図4】RT−PCR法を用いた遺伝子発現解析の結果を示す図である。
【図5】Real−time PCR法を用いたAREB6遺伝子発現解析の結果を示す図である。
【図6】各種白血球細胞におけるAREB6遺伝子発現解析の結果を示す図である。
【図7】5−azacytidine添加によるATL細胞株におけるAREB6転写の亢進を示す図である。
【図8】ヒストンタンパク質の脱アセチル化阻害剤によるAREB6転写活性化を示す図である。
【図9】CTLL細胞株におけるWestern法によるタンパク質発現解析の結果を示す図である。
【図10】TGFβに対する反応性を示す図である。
【図11】ED細胞株におけるWestern法によるタンパク質発現解析の結果を示す図である。
【図12】TGFβに対する反応性を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から単離された検体中のAREB6遺伝子の発現レベルを測定し、前記発現レベルの低下を指標としてTリンパ性白血病を検出することを特徴とするTリンパ性白血病の検出方法。
【請求項2】
前記Tリンパ性白血病が成人T細胞白血病である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記検体が白血球細胞である請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
AREB6遺伝子の発現レベルを測定するための試薬を含むTリンパ性白血病を検出するためのキット。
【請求項1】
生体から単離された検体中のAREB6遺伝子の発現レベルを測定し、前記発現レベルの低下を指標としてTリンパ性白血病を検出することを特徴とするTリンパ性白血病の検出方法。
【請求項2】
前記Tリンパ性白血病が成人T細胞白血病である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記検体が白血球細胞である請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
AREB6遺伝子の発現レベルを測定するための試薬を含むTリンパ性白血病を検出するためのキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−325440(P2006−325440A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150813(P2005−150813)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
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