説明

T形鋼の製造方法

【課題】T形鋼の左右曲がりを防止するユニバーサル圧延方法方法を提供する。
【解決手段】略T字形状に粗成形されたT形鋼片に対し、ユニバーサル圧延機によりウェブとフランジを圧下するとともにエッジャ圧延機によりフランジの端面を圧下する中間圧延工程を有するT形鋼の製造方法において、ユニバーサル圧延機による各圧延パスにおけるフランジ圧下率rとウェブ圧下率rの差r−rを圧下率差とし、中間圧延工程におけるユニバーサル圧延機の各圧延パスでの前記圧下率差が0〜10%、且つ、中間圧延工程を圧延初期、圧延中期、圧延後期に分けたときの各期の圧延パスの平均圧下率差が下記(1)式を満たし、好ましくは圧延初期の平均圧下率差を7%±3%、圧延後期の平均圧下率差を2%±2%とする。
(圧延初期の平均圧下率差)>(圧延中期の平均圧下率差)>(圧延後期の平均圧下率差) ・・・・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延によるT形鋼の製造方法に関し、特にユニバーサル圧延における左右曲がりを防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図6にT形鋼の断面形状を示す。T形鋼10はウェブ11とフランジ12からなる断面がT字形状の形鋼であり、造船や橋梁等の分野で広く使用され、その用途や使用条件、使用箇所等によって様々な寸法の製品が製造されている。
【0003】
通常用いられるT形鋼の寸法は、ウェブ高さ:200〜1000mm程度、ウェブ厚:8〜25mm程度、ウェブ内法寸法(フランジ内面からウェブ先端部までの距離):190〜980mm程度、フランジ幅:80〜300mm程度、フランジ厚:12〜40mm程度である。造船用として用いられるT形鋼の場合、ウェブ高さはフランジ幅の2倍以上であることが多い。
【0004】
ウェブ高さとフランジ幅がほぼ同じであっても、ウェブ厚とフランジ厚が異なる複数のサイズのT形鋼が、必要とされる強度に応じて選択され、構造物に適用される。このため、厚みの異なるT形鋼を効率よく製造する技術が必要とされている。
【0005】
T形鋼はウェブ11とフランジ12とを溶接して製造されることが一般的であるが、圧延にてT形鋼を一体成形する技術も提案されている。
【0006】
例えば、ウェブ厚、フランジ厚、ウェブ高さおよびフランジ幅が様々な寸法のT形鋼を効率よく製造するため、H形鋼の製造に用いられるユニバーサル圧延法を用いてT形鋼を圧延する技術が開示されている(特許文献1)。
【0007】
また、断面寸法精度が良好なT形鋼を製造するため、2基のユニバーサル圧延機を近接配置し、一方のユニバーサル圧延機の竪ロールでウェブ先端を圧延する技術が開発されている(特許文献2)。さらに、ユニバーサル圧延機を中間圧延工程に2基、仕上圧延工程に1基配置した熱間圧延設備と圧延方法が提案されている(例えば特許文献3)。
【0008】
図7はその一例を示し、図において1は粗造形圧延機、2は第1の粗ユニバーサル圧延機、3はエッジャ圧延機、4は第2の粗ユニバーサル圧延機、5は仕上ユニバーサル圧延機を示す。加熱炉(図示せず)から搬出された素材鋼片(図示せず)は粗造形圧延機1によって断面形状が略T形のT形鋼片に圧延される。
【0009】
得られたT形鋼片を、第1の粗ユニバーサル圧延機2とエッジャ圧延機3と第2の粗ユニバーサル圧延機4が近接して配置された圧延設備列で圧延を行って、ウェブとフランジの圧下を複数パス行う(中間圧延工程)。
【0010】
第1の粗ユニバーサル圧延機2は図8に示すように、水平軸上を回転する水平ロール21a,21bと、垂直軸上を回転する竪ロール22a,22bを有する。図8の例では、水平ロール21a、21bの圧下面の幅は、ウェブ11の内法寸法(フランジ内面からウェブ先端部までの距離)より大きくする。
【0011】
第1の粗ユニバーサル圧延機2では、水平ロール21a,21bによりウェブ11の高さ方向の全面をその板厚方向に圧下し、竪ロール22aと、水平ロール21a,21bの側面でフランジ12をその板厚方向に圧下する。
【0012】
エッジャ圧延機3は図9に示すように、水平軸方向に大径ロール部33と小径ロール部32を備えた水平ロール31a,31bを有し、大径ロール部33が被圧延材のウェブを誘導し、小径ロール部32のロール表面がフランジの端面をその幅方向に圧下する。ここで、大径ロール部33と小径ロール部32の段差の大きさは、フランジ脚長(フランジ12の幅とウェブ11の板厚の差の1/2の値)と同じかやや小さい値となっている。
【0013】
第2の粗ユニバーサル圧延機4は、図10に示すように、水平軸上を回転する水平ロール41a,41bと、垂直軸上を回転する竪ロール42a,42bを有する。図10の例では、水平ロール41a、41bのロール面の幅は、ウェブの内法寸法(フランジ内面からウェブ先端部までの距離)より小さくする。被圧延材のフランジを水平ロール41a、41bの側面に押し付けた場合、ウェブ先端部は、水平ロール41a、41bのロール面より外側に突出するので、竪ロール42bでウェブをその高さ方向に圧下することが可能となる。
【0014】
第2の粗ユニバーサル圧延機4では、水平ロール41a,41bのロール開度を調整して、ウェブの板厚を調整し、竪ロール42aと水平ロール41a,41bの一方の側面との開度を調整することによりフランジの板厚を調整し、竪ロール42bと水平ロール41a,41bの他方の側面との開度を調整することによりウェブの高さと、端部の形状を調整する。
【0015】
中間圧延工程で得られたT形鋼は、仕上圧延工程で製品寸法に圧延する。仕上ユニバーサル圧延機5は、図11に示すように、水平軸上を回転する水平ロール51a,51bと垂直軸上を回転する竪ロール52a,52bを有し、水平ロール51a,51bの側面はロール面と直交させる。竪ロール52aで被圧延材のフランジを圧延すると、ウェブに対し、フランジが垂直に整形される。竪ロール52bを水平ロール51a,51bのフランジと対向しない側の側面に押圧することで水平ロール51a,51bが軸方向に移動しないようにできる。なお、図11の例では、水平ロール51a,51bの圧下面の幅は、ウェブ内法寸法より大きくする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特公昭43−19671号公報
【特許文献2】特開2007−331027号公報
【特許文献3】特許4544371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところで、T形鋼のユニバーサル圧延では、被圧延材が左右非対称な断面形状であることから、左右対称なH形鋼と異なり、圧延材の圧延左右への曲がりが発生しやすいという問題がある。
【0018】
被圧延材の曲がりが大きい場合には、圧延後の被圧延材が圧延ラインの外に飛び出して重大な事故を発生させる場合があり、また、被圧延材が周囲のガイド類と強く接触して、疵がつくなどの品質問題を発生させる恐れがあるので、T形鋼のユニバーサル圧延では左右曲がりを制御することが重要である。
【0019】
被圧延材の曲がりの問題に対し、特許文献1では、フランジの圧下率に対してステム(ウェブ)の圧下率を大きくとれば被圧延材がフランジ側に曲がり、またフランジの圧下率がステムの圧下率よりも大きい場合には被圧延材がステム側に曲がるため、曲り防止用ガイドを設置して曲りを防止することが記載されている。
【0020】
さらに、特許文献1には曲りを防止するための圧延条件として、普通サイズのT形鋼を圧延する場合は、フランジとステムの長手方向への伸びを均一にするためにフランジとステムの圧下率をほぼ等しくすることが記載され、フランジ厚みに比較して特にステム厚みの薄いT形鋼の場合は、特に圧延中に波打や形状不良を生じ易いステム部に対してフランジの圧下率をステムのそれよりもほぼ3%大きくすることが記載されている。
【0021】
しかしながら、特許文献1には、T形鋼のユニバーサル圧延は多数のパスでフランジとウェブの厚みを減じていくものであるが、被圧延材の厚みが大きい圧延初期と厚みが薄くなった圧延後期で具体的にどのような圧下条件を用いるかなど、具体的な曲がり制御方法は開示されていない。
【0022】
特許文献2には、被圧延材に生じる左右曲がりを抑制するために、被圧延材の各部の延伸率が概ね同じ値となるように圧延することが望ましい、という曲がり防止方法が記載されている。
【0023】
しかし、特許文献2には各部の延伸率を概ね同じ値とするための、フランジとウェブの圧下率など、具体的な圧延条件については記載がなく、特許文献3には曲がり防止方法は記載されていない。
【0024】
そこで本発明は中間圧延におけるユニバーサル圧延におけるT形鋼の左右曲がりを防止することができる、T形鋼の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、T形鋼の曲がりを防止するフランジとウェブの圧下条件を検討するため、純鉛をモデル材料とするT形鋼ユニバーサル圧延実験を行った。純鉛は室温で熱間鋼とほぼ同じ圧延変形を示すため、熱間圧延のモデル実験用材料として広く使用されている。
【0026】
T形鋼の製造における中間圧延工程の圧延初期を模擬するため、ウェブ高さ68mm、フランジ幅28mm、ウェブ厚6mm、フランジ厚約12mmの鉛T形材を12本準備し、小型の実験用ユニバーサル圧延機を用いてウェブとフランジの圧下率を変えた圧延実験を行った。実験はウェブ高さ約300mmのT形鋼を圧延する場合の1/5を想定した。実験用ユニバーサル圧延機の水平ロール直径は180mm、竪ロール直径は140mmである。
【0027】
また、中間圧延工程の圧延後期を模擬するため、ウェブ高さ約60mm、フランジ幅約24mm、ウェブ厚約2mm、フランジ厚約4mmの鉛T形材を12本準備し、同じ実験用ユニバーサル圧延機で同様の圧延実験を行った。
【0028】
圧延した鉛T形材の先端部で、幅50mm区間での曲がりを測定した。ウェブとフランジの圧下率rは、ウェブとフランジ各々の圧延前の板厚tと圧延後の板厚tの測定値から以下の式で算出した。
r=(1−t/t
次に、算出したウェブの圧下率rとフランジの圧下率rから、フランジとウェブの圧下率差(以下、圧下率差とよぶ)r−rを求めた。 図2(a)に圧下率差と、曲がりの関係を、図2(b)に曲がりの定義を示す。図2(a)の図中に示す鉛T形鋼は曲がりが大きくなるとウェブ側に、小さくなるとフランジ側に曲がることを示している。
【0029】
圧下率差が大きくなると鉛T形鋼はウェブ側に曲がり、圧下率差が小さくなるとフランジ側に曲がるようになる。
【0030】
図2に示す、圧延初期を模擬したウェブ厚6mmの実験結果(図中■印で示す)と圧延後期を模擬したウェブ厚2mmの実験結果(図中▲印で示す)を比較すると、同じ圧下率差であれば圧延後期の条件の方がウェブ側に曲がりやすいことがわかる。
【0031】
また、圧延初期を模擬したウェブ厚6mmの実験では曲がりが0になる圧下率差が7%程度であるのに対し、圧延後期を模擬したウェブ厚2mmの実験では曲がりが0になる圧下率差が2%程度と小さくなっている。
【0032】
以上のように、T形鋼のウェブの厚みによって左右曲がりがなく真っ直ぐに圧延される圧下率差が異なることが、本発明者らの検討によって明らかになった。
【0033】
本発明は上記知見を基に更に検討を加えてなされたもので、すなわち、本発明は、
1.略T字形状に粗成形されたT形鋼片に対し、ユニバーサル圧延機によりウェブとフランジを圧下するとともにエッジャ圧延機によりフランジの端面を圧下する中間圧延工程を有するT形鋼の製造方法において、ユニバーサル圧延機による各圧延パスにおけるフランジ圧下率rとウェブ圧下率rの差r−rを圧下率差とし、中間圧延工程におけるユニバーサル圧延機の各圧延パスでの前記圧下率差が0〜10%、且つ、中間圧延工程を圧延初期、圧延中期、圧延後期に分けたときの各期の圧延パスの平均圧下率差が下記(1)式を満たすことを特徴とするT形鋼の製造方法。
(圧延初期の平均圧下率差)>(圧延中期の平均圧下率差)>(圧延後期の平均圧下率差) ・・・・・・(1)
2.圧延初期の平均圧下率差が7%±3%であることを特徴とする、1に記載のT形鋼の製造方法。
3.圧延後期の平均圧下率差が2%±2%であることを特徴とする、2に記載のT形鋼の製造方法。
【発明の効果】
【0034】
本発明によればウェブ曲がりやフランジ曲がりがないT形鋼が製造できるので、被圧延材の曲がりに起因するトラブルや品質問題が防止され、高い生産性で高品質なT形鋼を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】T形鋼用ユニバーサル圧延機の模式図。
【図2】(a)は圧下率差(フランジとウェブの圧下率の差)と曲がりの関係を示す図で(b)は曲がりの定義を説明する図。
【図3】本発明に係る圧延方法における圧下率差の推移を示す模式図。
【図4】本発明の一実施例における圧下率差の推移を示す図。
【図5】比較例における圧下率差の推移を示す図。
【図6】T形鋼の断面形状を示す図。
【図7】T形鋼の圧延ラインの設備配置を示す図。
【図8】T形鋼圧延設備の第1の粗ユニバーサル圧延機の圧延状態を示す図。
【図9】T形鋼圧延設備のエッジャ圧延機の圧延状態を示す図。
【図10】T形鋼圧延設備の第2の粗ユニバーサル圧延機の圧延状態を示す図。
【図11】T形鋼圧延設備の仕上ユニバーサル圧延機の圧延状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、略T字形状に粗成形されたT形鋼片に対し、ユニバーサル圧延機によりウェブとフランジを圧下するとともにエッジャ圧延機によりフランジの端面を圧下する中間圧延工程を有するT形鋼の製造方法において、中間圧延工程を圧延初期、圧延中期および圧延後期に分けたときの各期の圧延パスにおける平均圧下率差が、圧延初期>圧延中期>圧延後期となるように圧延することを最大の特徴とする。ここで、圧下率差とは、ユニバーサル圧延機によるフランジ圧下率rとウェブ圧下率rの差r−rを指すものとする。
【0037】
本発明では、中間圧延工程における全ユニバーサル圧延パスを圧延初期、圧延中期、圧延後期の3期に分け、圧延初期の平均圧下率差とは、全ユニバーサル圧延パスの最初から1/3程度のパス数の圧下率差を平均した値であり、圧延中期は中盤の1/3程度のパス数の圧下率差を平均し、圧延後期は圧延最終パスを含む全体の最後の1/3程度のパス数の圧下率差を平均した値を指す。中間圧延工程におけるユニバーサル圧延のパス数が3で割り切れる場合は、圧延初期、中期、後期のパス数は全ユニバーサル圧延パス数を3で割った商となり、同じパス数となる。3で割り切れない場合は、圧延初期と圧延後期のパス数は全ユニバーサル圧延パス数を3で割った商のパス数とし、圧延中期のパス数を商と余りの和のパス数とする。
【0038】
各パス毎の圧下率差は0〜10%の範囲とする。圧下率差が0%未満になると、フランジ側への曲がりが大きくなってガイドで曲がりを抑制することが困難になり、また圧延後期ではガイドによってウェブ側に曲がりを矯正されることによって、ウェブの先端が圧延(圧下)方向に圧縮されて波打ちが発生する恐れがある。
【0039】
一方、圧下率差が10%を超えると、ウェブ側への曲がりが大きくなってガイドで曲がりを抑制することが困難であり、特に圧延後期ではウェブ側に曲がりやすいため、各パス毎の圧下率差は10%以下とする。
【0040】
さらに、圧延材先端部の曲がりが±0.1mm以下の範囲であれば圧延材定常部の曲がりはガイドによって抑制でき、圧延に支障がないという実験で得られた知見により、圧延材先端部の曲がりは±0.1mm以下の範囲に抑えることが好ましい。したがって、以上の理由と図2(a)に示した結果から、目標とする平均圧下率差は、圧延初期においては7%±3%、圧延後期においては2%±2%の範囲が適切であり、圧延中期はその間の値とすることが好ましい。
【0041】
また、各パス毎の圧下率差は、最初の圧延パスから最後の圧延パスにかけて、徐々に小さくすることが望ましいが(図3に示すパターンA)、実機においては、ユニバーサル圧延の間にエッジャ圧延機でフランジ先端を圧下するため、フランジの厚みがエッジャ圧延で変化し、前後のパスで圧下率差に逆転が生じる場合がある(図3に示すパターンB)。
【0042】
このような場合であっても、逆転する圧下率差の範囲が数%であれば圧延が可能であるため、平均圧下率差が圧延初期>圧延中期>圧延後期の関係であれば、左右曲がりを防止して圧延することが可能である。
【0043】
図7に示すT形鋼圧延設備の第1の粗ユニバーサル圧延機2(例えば、図1)、第2の粗ユニバーサル圧延機4(例えば、図10)に本発明に係るT形鋼のユニバーサル圧延方法を適用した場合、ユニバーサル圧延設備の中間圧延工程では、2基の粗ユニバーサル圧延機2、4で往復圧延するので、ユニバーサル圧延の1パス目は第1の粗ユニバーサル圧延機(U1)、2パス目は第2の粗ユニバーサル圧延機(U2)となり、以降は逆方向圧延と正方向圧延が交互に実施されるためU2→U1→U1→U2・・・という順番で圧延されることになる。
【0044】
このような場合、どちらの圧延機で圧延されるかに関係なく、圧延される順番で1パス目から最終パスまでのパス数を決定し、平均圧下率差を圧延初期>圧延中期>圧延後期となるように圧延する。
【0045】
尚、図10に示す第2の粗ユニバーサル圧延機はウェブ先端を圧下するが、圧下率差の算出方法は図1に示す第1の粗ユニバーサル圧延機2の場合と同様である。
【0046】
また、本発明法は図7に示した圧延設備に限定されず、T形鋼のユニバーサル圧延に広く適用できる。例えば、特許文献1のように粗ユニバーサル圧延機が1基の場合や、あるいは粗ユニバーサル圧延機が3基以上の場合にも適用できる。
【0047】
また、特許文献2のように2基のユニバーサル圧延機が近接配置されている場合であっても、ウェブとフランジの厚みを圧下する圧延機が実質的に1基である場合には、この1基の粗ユニバーサル圧延機の圧延パスに本発明の圧下率差の関係を適用すれば良い。
【0048】
本発明に係るユニバーサル圧延方法はウェブ高さがフランジ幅の2倍以上、4倍以下のT形鋼をユニバーサル圧延する場合において、特に好適である。通常用いられるT形鋼では、ウェブ高さがフランジ幅の4倍を超えるものは少ない。
【実施例】
【0049】
前図7に示す圧延設備を用いて本発明法と比較法によりT形鋼を製造した。T形鋼の製品寸法は、ウェブ高さ300mm、フランジ幅125mm、ウェブ厚10mm、フランジ厚19mmである。
【0050】
中間圧延工程のパス数は5パスとし、第1の粗ユニバーサル圧延機2と第2の粗ユニバーサル圧延機2でそれぞれ5パスずつ、合計10パスのユニバーサル圧延を行った。
【0051】
パススケジュールを表1に示す。エッジャ圧延ではフランジ先端が幅方向に圧下されるため、フランジの厚みが増加することを考慮してユニバーサル圧延の圧下量を設定している。
【0052】
表1のパススケジュールで圧延する場合、各ユニバーサル圧延パスの圧下率差は図4に示す推移となる。1〜3パス目が圧延初期、4〜7パス目が圧延中期、8〜10パス目が圧延後期で、平均圧下率差はそれぞれ5.0%、4.4%、2.4%となり、圧延初期>圧延中期>圧延後期の関係を満たす。また各パスの圧下率差は圧延初期が4〜7%、圧延後期で1〜4%の間で設定した。
【0053】
表1のパススケジュールに基づいて圧延した結果、各パス圧延出側の被圧延材の左右曲がりは小さく、圧延ラインからの飛び出しがないだけでなく、ガイドと被圧延材が接触することによる表面疵もほとんど発生しなかった。なお、エッジャ圧延機によるフランジ先端の圧下がフランジ厚を増加させる量や、圧延荷重がかかった状態での圧延ロールの開度変化を考えた場合、表1のパススケジュールに対して圧下率が1%程度変動する可能性があるが、それでも各パスの圧下率差は圧延初期で4〜10%、圧延後期で0〜4%の範囲であったと考えられる。
【0054】
一方、比較例として表2に示すように圧延初期と中期の圧下率差よりも圧延後期の圧下率差を大きくしたパススケジュールでT形鋼の圧延を行った。パス数は実施例と同じであるが、圧下率差の推移は図5に示すように圧延後期の方が大きく、圧延初期の平均圧下率差が2.2%、圧延中期の平均圧下率差が2.9%、圧延後期の平均圧下率差が3.6%であった。
【0055】
表2のパススケジュールで圧延した結果、圧延初期と圧延中期ではフランジ側への被圧延材の曲がりが大きく、ガイドに強く接触するため、圧延が安定せず圧延時間が長くなった。また、圧延後期ではウェブ側への曲がりが大きくなり、ガイドとの接触によりウェブ側のフランジ面に疵が多発した。
【0056】
以上のように、本発明のT形鋼のユニバーサル圧延方法によれば、被圧延材の曲がりを防止しつつ安定した操業が可能となり、また得られる製品の表面疵が少ないため、高品質な製品を製造することができる。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【符号の説明】
【0059】
1 粗造形圧延機
2 第1の粗ユニバーサル圧延機
3 エッジャ圧延機
4 第2の粗ユニバーサル圧延機
5 仕上ユニバーサル圧延機
10 T形鋼
11 ウェブ
12 フランジ
21 粗ユニバーサル圧延機2の水平ロール
22 粗ユニバーサル圧延機2の竪ロール
31 エッジャ圧延機3の水平ロール
41 粗ユニバーサル圧延機4の水平ロール
42 粗ユニバーサル圧延機4の竪ロール
51 仕上ユニバーサル圧延機5の水平ロール
52 仕上ユニバーサル圧延機5の竪ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略T字形状に粗成形されたT形鋼片に対し、ユニバーサル圧延機によりウェブとフランジを圧下するとともにエッジャ圧延機によりフランジの端面を圧下する中間圧延工程を有するT形鋼の製造方法において、
ユニバーサル圧延機による各圧延パスにおけるフランジ圧下率rとウェブ圧下率rの差r−rを圧下率差とし、中間圧延工程におけるユニバーサル圧延機の各圧延パスでの前記圧下率差が0〜10%、且つ、中間圧延工程を圧延初期、圧延中期、圧延後期に分けたときの各期の圧延パスの平均圧下率差が下記(1)式を満たすことを特徴とするT形鋼の製造方法。
(圧延初期の平均圧下率差)>(圧延中期の平均圧下率差)>(圧延後期の平均圧下率差) ・・・・・・(1)
【請求項2】
圧延初期の平均圧下率差が7%±3%であることを特徴とする、請求項1に記載のT形鋼の製造方法。
【請求項3】
圧延後期の平均圧下率差が2%±2%であることを特徴とする、請求項2に記載のT形鋼の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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