説明

TGF−β1阻害剤ペプチドの医薬処方物

本発明は、TGF−β1阻害剤ペプチドと、シクロデキストリンまたはその誘導体とを含んでなる複合体に関する。セチルPEG/PPG−10/1ジメチコーンを含んでなるTGF−β1阻害剤ペプチドエマルションも提供される。前記複合体および前記TGF−β1阻害剤ペプチドエマルションを調製するための方法、ならびに、TGF−β1が介在する疾患または状態の治療用薬剤を製造するためのその使用も記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、薬学、特にGalenic製剤(galenic formulations)である。
【背景技術】
【0002】
形質転換成長因子−ベータ(TGF−β)は、細胞増殖および分化、胚および骨の発育、細胞外マトリックス形成、造血、免疫および炎症反応の多機能調節因子であるタンパク質ファミリー、TGF−β1、TGF−β2およびTGF−β3を意味する(RobertsおよびSporn、Handbook of Experimental Pharmacology (1990) 95: 419-58;Massagueら、Ann Rev Cell Biol (1990) 6: 597-646)。このスーパーファミリーの他のメンバーとしては、アクチビン、インヒビン、骨形成タンパク質およびミュラー管抑制物質が挙げられる。TGF−βは、細胞内シグナル伝達経路を開始させることで、最終的には細胞周期を調節するか、増殖反応を制御するか、または外部入力細胞シグナル伝達、細胞接着、転移および細胞間伝達を仲介する細胞外マトリックスタンパク質に関係する遺伝子の発現をもたらす。
【0003】
TGF−βスーパーファミリーのメンバーは、心脈管系および女性生殖器系における多数の異なるプロセスを決定的に調節する。TGF−βスーパーファミリーのメンバーは、骨環境において豊富に発現し、多数の重要な骨プロセスを調節する。ヒトの癌や結合組織疾患に対するTGF−βシグナル伝達の寄与については広く研究されている。TGF−βスーパーファミリーのシグナル伝達も、胚形成中、胞胚形成の初期段階から、原腸形成中、および多段階の器官形成を通じて重要である。TGF−βスーパーファミリーのメンバーは、神経障害、耳硬化症、乾癬、胆汁性肝硬変および小児ぜんそくなどの他の疾患と継続的に関連している。TGF−βスーパーファミリーのメンバーが関与する疾患の範囲は拡大し続けるであろう(GordonおよびBlobe、Biochimica et Biophysica Acta (2008) 1782:197-228)。
【0004】
いくつかの病理過程におけるTGF−βスーパーファミリーの遍在的な役割に起因して、小分子ならびにアンチセンスオリゴヌクレオチドおよび抗体を含む様々なアンタゴニスト分子が、TGF−β1活性を中和するために案出されている。
【0005】
WO2000/31135(Proyecto de Biomedicina Cima, S.L.)は、III型TGF−β1受容体またはエンドグリンへのTGF−β1の結合のペプチドアンタゴニストに関する。
【0006】
WO2007/048857(Proyecto de Biomedicina Cima, S.L)は、免疫反応調節剤の調製における、配列番号1に対応する配列を有するペプチドP144、配列番号2に対応する配列を有するペプチドp17、それと少なくとも90%の相同性を有するペプチド、または上記の断片から選択される、TGF−β1を阻害するペプチドの使用に関するものである。
【0007】
TGF−β1阻害剤ペプチドの臨床開発により、ガレン製剤は、身体に対するこれらアンタゴニストの投与にますます必要とされている。
【0008】
この点に関して、US2007/0207965は、TGF−βを阻害するペプチドで皮膚線維症を治療するための方法、およびその投与に適する組成物を提供する。この方法は、特に、ペプチドP144の使用を包含する。このペプチドを投与するために、可溶化剤としてジメチルスルホキシドを有する安定なエマルションも供給される(965エマルションまたはE.965)。親油性相は、ジメチコーン350と鉱油とを含んでなる。前記エマルションは、1ml当たり最大で300μgのペプチドを添加することができ、その保管条件はおよそ5℃の温度を必要とする。
【0009】
ペプチド性薬物は通常、処方するに困難が伴う。特に、TGF−βペプチド阻害剤P144は、水、ポリエチレングリコール400(PEG400)、エタノール、グリセロール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(Pluronic(登録商標)F68)、テトラヒドロフラン、ヘキサン、ジメチルホルムアミド、ジクロロメタン、ポリビニルピロリドン(Plasdone(登録商標))、プロピレングリコール、Gantrez(登録商標)S97、デオキシコール酸ナトリウムなどの溶媒に不溶性である。
【0010】
シクロデキストリンは、治療化合物を可溶化するための有望な手段として当該技術分野において知られている。シクロデキストリンは、6個以上のα−D−グルコピラノシド単位から構成される環状オリゴ糖であり、特定容量の中空内部を有する堅い円錐形分子構造を形成している。それらは、特定の疎水性分子とホスト−ゲスト複合体を形成することができ、ゲスト分子の物理的および化学的特性(主に水溶性に関する)を修飾するものである。
【0011】
この点について、WO2008/013928(Biogen IDEC MA Inc., The Trustees of the University of Pennsylvania)は、(a)TGF−β阻害剤の投与および(b)インターフェロンポリペプチドをコードする単離ポリヌクレオチドを含んでなるベクターを含む併用療法を、治療を必要とする被験者に対して施すことを含んでなる癌治療方法に関するものである。TGF−β阻害剤としては、可溶性ヒトTGFRIIIポリペプチドが挙げられる。シクロデキストリンなどの可溶化剤、または当業者によく知られた他の可溶化剤は、治療化合物を送達するための医薬賦形剤として利用することができる。しかし、この特許公報は、TGF−β阻害剤とシクロデキストリンとを含んでなる実際の処方物を提供していない。
【0012】
WO2003/048323(Bristol-Myers Squibb Company)は、関節リウマチおよび関連する病状の診断、治療および予防におけるポリペプチドに関し、関節リウマチと関連する前記ポリペプチドは、配列番号48のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有する。配列番号48は、ヒト形質転換成長因子−βIII型受容体のアミノ酸配列(アクセッション番号:Q03167)に相当する。この発明の1以上の化合物は、マンニトール、ラクトース、スクロースおよび/またはシクロデキストリンなどの速溶性希釈剤を用いて処方され得る。同様に、TGFBRIIIポリペプチドを可溶化するというシクロデキストリンの有効な活性は実証されていない。
【0013】
シクロデキストリン複合体の形成は、シクロデキストリンとゲスト分子との幾何学的および構造的親和性、ならびにシクロデキストリンの内部空洞の容量に左右される。よって、全ての分子が、シクロデキストリンまたは特定種類のシクロデキストリンと複合体を形成できるわけではない。そのため、TGF−β1阻害剤ペプチドがシクロデキストリンと複合体を形成することができる否か、そしていずれの種類のシクロデキストリンがこれら分子カプセル化を形成するのに適するのかはいまだ実証されていない。
【0014】
TGF−β1阻害剤ペプチドを可溶化するのに十分ではないため、活性化合物を効率よく身体へ送達することができる最終処方物を提供するという最終目的を実現するための処方が、依然として求められている。この点において、エマルションのような脂質をベースとする処方は、難溶性薬物を送達するための有望なビヒクル系である。エマルションは、2つの不完全に混ざり合った液体(油と水)の密接な混合物であり、通常は乳化剤または界面活性剤を用いて、一方の液体が微細液滴の形態で他方の液体中に分散している。
【0015】
特定の用途のための十分に安定なエマルションを調製するのに適する界面活性剤の選択は、予測可能な、または常套の作業ではない。更に、大量のTGF−β1阻害剤ペプチドを調製するという特定の場合、薬物の結晶化および沈殿の低下などの他のパラメーターを考慮する必要がある。
【0016】
TGF−β1阻害剤ペプチドの物理化学的特性(特に、溶解性に関する)を改善し、かつ、前記の965エマルション(E.965)処方物を改良するという課題を解決するための徹底的な努力において、本発明の発明者らは、目的のTGF−β1阻害剤ペプチドとのシクロデキストリン複合体を取得することに成功し、これらシクロデキストリン複合体と、TGF−β1阻害剤ペプチドと、界面活性剤であるセチルPEG/PPG−10/1ジメチコーン(Abil(登録商標)EM90)とを含んでなるエマルションを作成した。このエマルションは、以下に述べる目的の1つまたはそれ以上を満たすものである。
【0017】
本発明の目的は、TGF−β1阻害剤ペプチドの水溶性を向上させる処方物を提供することである。
【0018】
本発明の目的は、有機溶媒の存在を回避するか、またはその量を低下させる、TGF−β1阻害剤ペプチドの水溶性を向上させる処方物を提供することである。
【0019】
本発明の目的は、医薬的に許容可能な賦形剤を使用する、安全なTGF−β1阻害剤ペプチド処方物を提供することである。
【0020】
本発明の目的は、好適な貯蔵寿命または化学安定性を有する、十分に安定なTGF−β1阻害剤ペプチドエマルションを提供することである。
【0021】
本発明の目的は、結晶を全く含まないか、またはごくわずかしか含まないTGF−β1阻害剤ペプチドエマルションを提供することである。
【0022】
本発明の目的は、十分に均質なTGF−β1阻害剤ペプチドエマルションを提供することである。
【0023】
本発明の目的は、組成物ごとの薬物量が増加されたTGF−β1阻害剤ペプチドエマルションを提供することである。
【0024】
本発明の目的は、微粒子グレードの(内部粒子を有する)TGF−β1阻害剤ペプチドエマルションを提供することである。
【0025】
本発明の目的は、穏やかな条件下で、例えば、あまり加熱せず調製できるTGF−β1阻害剤ペプチドエマルションを提供することである。
【0026】
本発明の目的は、工業的な大規模生産に適するTGF−β1阻害剤ペプチドエマルションを提供することである。
【0027】
本発明の目的は、TGF−β1阻害剤ペプチドが、吸収されることなく、または最低限しか吸収されることなく、局所作用するのを可能にする処方物を提供することである。
【0028】
本発明の目的は、身体への様々な投与方法(例えば、経口、非経口または局所経路)を許容するTGF−β1阻害剤ペプチドの処方物を提供することである。
【0029】
本発明の目的は、容易に拡散可能なTGF−β1阻害剤ペプチドエマルションを提供することである。
【0030】
本発明の目的は、べたつきのない快適な外観のTGF−β1阻害剤ペプチドエマルションを提供することである。
【0031】
本発明の1つの態様において、本発明は、TGF−β1阻害剤ペプチドと、シクロデキストリンまたはその誘導体とを含んでなる複合体であって、
・前記TGF−β1阻害剤ペプチドが、配列番号1〜23の1つのアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するペプチド、その塩、TGF−β1を阻害することができるそれらの機能性誘導体、変異体、類似体および断片から選択されるものであり、かつ
・前記シクロデキストリンまたはその誘導体が、β−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンから選択されるものである、複合体に関する。
【0032】
別の態様において、本発明は、前記複合体を含んでなる医薬処方物であって、前記TGF−β1阻害剤ペプチドが治療に有効な量で存在し、かつ、シクロデキストリンが医薬的に許容可能なシクロデキストリンである医薬処方物に関する。特定の実施態様において、前記医薬処方物は、セチルPEG/PPG−10/1ジメチコーンを含んでなる。
【0033】
別の態様において、本発明は、セチルPEG/PPG−10/1ジメチコーンを含んでなることを特徴とする、TGF−β1阻害剤ペプチドエマルションに関する。
【0034】
別の態様において、本発明は、前記TGF−β1阻害剤ペプチドエマルションを含んでなる医薬処方物であって、前記TGF−β1阻害剤ペプチドが治療に有効な量で存在する医薬処方物に関する。前記エマルションの特定の実施態様において、前記TGF−β1阻害剤ペプチドは、シクロデキストリンまたはその誘導体と複合体を形成し、前記シクロデキストリンは医薬的に許容可能なシクロデキストリンである。
【0035】
別の態様において、本発明は、TGF−β1阻害剤ペプチドと、シクロデキストリンまたはその誘導体とを含んでなる前記複合体を調製するための方法であって、前記TGF−β1阻害剤ペプチドを、前記シクロデキストリンまたはその誘導体を含む水溶液と混合することを含んでなる方法に関する。この方法によって得られる生成物は、本発明の更なる態様を構成する。
【0036】
別の態様において、本発明は、セチルPEG/PPG−10/1ジメチコーンを含んでなる前記TGF−β1阻害剤ペプチドエマルションを調製するための方法であって、
a)(i)前記TGF−β1阻害剤ペプチドを、前記シクロデキストリンまたはその誘導体を含む水溶液と混合することによる複合体と、(ii)セチルPEG/PPG−10/1ジメチコーンを含む親油性相とを調製し、そして
b)前記複合体を前記親油性相に混和させることを含んでなる方法に関する。
【0037】
この方法によって得られる生成物は、本発明の更なる態様を構成する。
【0038】
別の態様において、本発明は、TGF−β1が介在する疾患または状態の治療用薬剤を製造するための、前記複合体、前記TGF−β1阻害剤ペプチドエマルション、または前記医薬処方物の使用に関する。別の態様において、本発明は、哺乳動物において、TGF−β1が介在する疾患または状態を治療するための方法であって、前記複合体、または前記TGF−β1阻害剤ペプチドエマルション、または前記医薬処方物を有効な量で投与することを含んでなる方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】100μg/gのシリコーンエマルション(バッチA−2)の顕微鏡画像であり、左側は可視光を利用し、右側はUV光を利用したもの。白黒で見やすくするため後加工した(カラー形式CMYKに変換;チャンネルまたはブラックコンポーネントの選択;グレー反転(画像に表されている))。
【図2】ブランクのシリコーンエマルション(バッチA−3)の顕微鏡画像であり、左側は可視光を利用し、右側はUV光を利用したもの。上述のように加工してある。
【図3】シリコーンエマルション(バッチA−10)の顕微鏡画像であり、左側は可視光を利用し、右側はUV光を利用したもの。上述のように加工してある(P144の濃度:1,000μg/g)。
【図4】シリコーンエマルション(バッチA−16)の顕微鏡画像であり、左側は可視光を利用し、右側はUV光を利用したもの。上述のように加工してある(P144の濃度:1,000μg/g)。
【図5】シリコーンエマルション(バッチA−18)の顕微鏡画像であり、左側は可視光を利用し、右側はUV光を利用したもの。上述のように加工してある(P144の濃度:700μg/g)。P144の結晶が矢印で示されている。
【図6】P144の濃度が1,100μg/gであるシリコーンエマルション(バッチA−28)の顕微鏡画像であり、左側は可視光を利用し、右側はUV光を利用したもの。P144の結晶が矢印で示されている。
【図7】P144の濃度が800μg/gであるシリコーンエマルション(バッチA−30)の顕微鏡画像であり、左側は可視光を利用し、右側はUV光を利用したもの。加工してある。
【図8】(ESD600)P144エマルションの写真。
【図9】P144エマルション(ESD600)の展開能力の測定[実施例6、段落2.2]。まず、ミリメートル方眼紙上にスライド辺をトレースし(図9)、
【図10】対角線をトレースする(図10)。
【図11】次に、前述のトレース線と一致させるように下側スライドを配置し(図11)、
【図12】P144エマルションESD600の試料を対角線の交差点に置く(図12)。
【図13】次いで、上側スライドを、エマルションのサンプルを含んだ下側スライド上に載せ(図13)、
【図14】覆っているスライドの重みによって形成された円の直径を測定する(図14);
【図15】次に、既知のおもりを、対角線の交差点上の試料の上に置き(図15)、
【図16】トレースした対角線に沿って直径を測定する(図16)。
【図17】加えた重量の関数としての、P144エマルション(ESD600)の表面積増を示す表。
【図18】希釈法を使用した、P144エマルション(ESD600)の外相の定量。
【図19】希釈法を使用した、P144エマルション(ESD600)の外相の定量。
【図20】色素法を使用した、P144エマルション(ESD600)の外相の定量。
【図21】フランツ型セルのレセプター内のP144の量。ES−0:コントロールのシリコーンエマルションESD600[0];ES−100:100μgのP144/gを含むシリコーンエマルションESD600(ESD600[100])。データは平均±標準偏差(SD)を表す(ES−0の場合はn=4であり、ES−100の場合はn=8である)。
【図22】ブタ耳皮膚の様々な領域におけるP144の量の定量比較。各縦列は、皮膚切片に保持されるP144の濃度の平均値を示しており、P144のmg/皮膚のcm+SD(n=8)として表される。CD−100:100μgのP144/gを含むエマルションE.965(E.965[100]);ES−100:100μgのP144/gを含むシリコーンエマルションESD600[100]
【図23】ブタ耳皮膚の様々な領域におけるP144の量の定量。各縦列は、皮膚切片に保持されたP144の濃度の平均値を示しており、P144のmg/皮膚のcm+SD(n=8)として表される。CD−100:100μgのP144/gを含むエマルションE.965(E.965[100]);ES−100:100μgのP144/gを含むシリコーンエマルションESD600[100]
【図24】様々な実験切片(performed cuts)におけるP144の理論量を示す表。全ての薬物が、半固体状調製物から皮膚へと移行したときに100%が達成される(ブタ皮膚:176mm×1mm(深さ))。CD−100:100μgのP144/gを含むエマルションE.965(E.965[100]);ES−100:100μgのP144/gを含むシリコーンエマルションESD600[100]
【発明を実施するための形態】
【0040】
1つの態様において、本発明は、TGF−β1阻害剤ペプチドと、シクロデキストリンまたはその誘導体とを含んでなる複合体であって、
・前記TGF−β1阻害剤ペプチドが、配列番号1〜23の1つのアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するペプチド、その塩、TGF−β1を阻害することができるその機能性誘導体、変異体、類似体および断片から選択されるものであり、かつ
・前記シクロデキストリンまたはその誘導体が、β−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンから選択されるものである、複合体(以下、「本発明による複合体」)に関する。
【0041】
「複合体」という用語は、1つまたはそれ以上のシクロデキストリン分子(「ホスト」)が空洞を形成し、その中に第二の化合物の1つまたはそれ以上の分子(「ゲスト」)が置かれた構造体を指す。本明細書において用いられる、第二の化合物は、TGF−β1阻害剤ペプチドを指す。複合体および分子カプセル化という用語は互換的に用いることができる。
【0042】
「TGF−β1阻害剤ペプチド」という用語は、活性型のTGF−β1、具体的にはTGF−βアイソフォーム1(アクセス番号:AAL27646またはNP 000651)との相互作用によって、TGF−β1の生物学的機能を阻害する能力を有する分子を指す。本明細書における阻害剤は、TGF−β1と相互作用するそれらの能力を特徴とするが、更に、他の哺乳動物アイソフォーム(TGF−β2およびβ3)とも相互作用し得る。この活性は、アクチビン様キナーゼALK1、ALK2、ALK5などのI型受容体;II型TGF−β受容体(TβRII)などのII型受容体;エンドグリンおよびクリプト(crypto)などの共受容体のような、対応するスーパーファミリー受容体とのTGF−βの相互作用を阻害する。更に、当該阻害剤は、ALK3、ALK4、ALK6、ALK7などのI型受容体;ActRII、ActRIIb、BMPRII、MISRIIおよびTβRIIなどのII型受容体;RGMa、RGMbおよびヘモジュベリンなどの共受容体;BAMBIなどの偽受容体;コーディン、ホリスタチン、レフティ1、ノギン、スクレロスチンなどのシグナル伝達成分;ならびに、TGF−βシグナル伝達経路における他のメンバーまたはTGF−βシグナル伝達経路および別の経路によって共有されるメンバーとも相互作用し得る。
【0043】
これらの分子はペプチド性であり、このことは、当該分子が、アミド結合、すなわちペプチド結合によって連結されたα−アミノ酸を含んでなることを意味する。「ペプチド」という用語は、短いアミノ酸鎖に限定されるものではなく、50個を超えるアミノ酸長の鎖も包含し得る。したがって、本明細書で使用する際、ペプチドという用語には、ポリペプチドおよびタンパク質も包含される。
【0044】
本発明において、TGF−β1阻害剤ペプチドは、以下の表1に示される配列番号1〜23の1つのアミノ酸配列に対して、少なくとも70%、有利には少なくとも80%、または好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドから選択されるのが好ましい。
【0045】
【表1】

【0046】
TGF−β1阻害剤ペプチドは、これらのペプチドを合成する様々な細胞源から得ることができ、このような細胞源としては、例えば、当該ペプチドの合成または分泌を指示することができる組み換えDNA分子をトランスフェクトされた細胞が挙げられる。あるいは、TGF−β1阻害剤ペプチドは、固相ペプチド合成を含むが、これに限定されない化学的な合成方法によって合成され得る。これらのペプチドはまた商業的に入手可能であり、例えば、P144は、Sigma−Genosys,Ltd.(英国、ケンブリッジ)により供給されている。
【0047】
当該技術分野において知られているように、2つの(ポリ)ペプチドまたはタンパク質間の「配列同一性」は、一方の(ポリ)ペプチドのアミノ酸配列を、他方の(ポリ)ペプチドの配列と比較することによって測定される。本明細書中で検討されるように、ある特定の(ポリ)ペプチドが、別の(ポリ)ペプチドと少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%または95%同一であるかどうかは、当該技術分野において知られている方法およびコンピュータープログラムまたはソフトウェアを用いて決定することができ、例えば、BESTFITプログラム(ウィスコンシン配列分析パッケージ、Unix用バージョン8、Genetics Computer Group)またはGCGパッケージ(GAPバージョン8、Genetics Computer Group(米国))が挙げられるが、これに限定されない。BESTFITは、スミスおよびウォーターマンの局所相同性アルゴリズムを使用して(Advances in Applied Mathematics 2:482-489 (1981))、2つの配列間の最良の相同性セグメントを見出す。GCGパッケージは、タンパク質に対する標準的なペナルティを使用する:ギャップ重量3.00、長さ重量0.100、ならびに、GribskovおよびBrugess, Nucl. Acids Res. (1986) 14(16), 6745-6763に記載されるマトリックス。
【0048】
特定の実施態様において、TGF−β1阻害剤ペプチドは、配列番号1〜23に示される配列を有するペプチド群から選択されるペプチドもしくは塩、TGF−β1を阻害する能力を有するその機能性誘導体、変異体、類似体または断片である。故に、特定の実施態様では、TGF−β1阻害剤ペプチドは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、または配列番号23に示されるアミノ酸配列を有するペプチドまたはその塩、TGF−β1を阻害する能力を有するその機能性誘導体、変異体、類似体または断片である。
【0049】
別の特定の実施態様において、TGF−β1阻害剤ペプチドは、配列番号1〜23のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%、有利には少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドもしくは塩、TGF−β1を阻害する能力を有するその機能性誘導体、変異体、類似体または断片から選択される。
【0050】
従って、特定の実施態様では、TGF−β1阻害剤ペプチドは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、または配列番号23に示されるアミノ酸配列に対して、少なくとも70%、有利には少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するペプチドまたはその塩、TGF−β1を阻害する能力を有するその機能性誘導体、変異体、類似体または断片である。
【0051】
本明細書中の「塩」という用語は、TGF−β1阻害剤ペプチドのカルボキシル基の塩およびそのアミノ基の酸付加塩の両方を指す。カルボキシル基の塩は、当該技術分野において知られている手段によって形成されてもよく、無機塩、例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、第二鉄塩または亜鉛塩、および、有機塩基との塩、例えば、トリエタノールアミン、アルギニン、リシン、ピペリジン、プロカインなどのアミンを伴って形成されるような塩を包含する。酸付加塩としては、例えば、塩酸または硫酸などの鉱酸との塩、および、酢酸またはシュウ酸などの有機酸との塩などが挙げられる。もちろん、このような塩はいずれも、TGF−β1阻害剤ペプチドの生物学的活性を保持していなければならない。治療用途の場合、TGF−β1阻害剤ペプチドの塩は、対イオンが医薬的に許容可能である塩である。医薬的に許容できない塩も、医薬的に許容可能な最終生成物の製造において使用することができるので、本発明の範囲に包含される。
【0052】
「機能性誘導体」は、本明細書中で用いられる際、当該技術分野で知られている手段によって、残基またはNもしくはC末端基上の側鎖として生じる官能基から調製され得る誘導体を包含し、それらが医薬的に許容可能なままである限り、すなわち、上述のようなペプチドの生物学的活性、つまり対応する受容体と結合して受容体のシグナル伝達を開始させる能力を破壊せず、それを含有する組成物に有毒性を与えない限り、本発明に包含される。誘導体は、ペプチドの生物学的活性を保持し、かつ、医薬的に許容可能なままであるならば、炭水化物残基またはリン酸残基などの化学的部分を有していてもよい。
【0053】
例えば、誘導体としては、カルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニアまたは第一級アミンもしくは第二級アミンとの反応によるカルボキシル基のアミド、アシル部分を用いて形成されるアミノ酸残基のN−アシル誘導体または遊離アミノ基(アルカノイルまたは炭素環式アロイル基など)、またはアシル部分を用いて形成される遊離水酸基のO−アシル誘導体(セリルまたはスレオニル残基のそれ)が挙げられる。このような誘導体としてはまた、例えば、ポリエチレングリコール側鎖も挙げられ、これらは抗原部位をマスクし、かつ、体液中での分子の滞留を延長し得る。
【0054】
本発明による「変異体」は、先に定義したペプチド全体またはその断片のいずれかと実質的に同様である分子を指す。変異体ペプチドは、当該技術分野で周知の方法を使用して、変異体ペプチドの直接化学合成によって従来通りに調製され得る。もちろん、このような変異体は、対応するTGF−β1阻害剤ペプチドと同様の受容体結合およびシグナル開始活性を有する。
【0055】
ペプチド一次構造における変異ならびにより高度の構造における変異、例えば、アミノ酸残基を連結する共有結合またはペプチドの末端残基への基の付加のタイプにおける変異は、本発明の範囲内である。更に、ペプチド分子は、分子の機能を維持するサイレントな変化をもたらすアミノ酸配列の保存または非保存的な改変(例えば、欠失、付加および置換)を含んでいてもよい。このような改変分子は、それらの使用時にいくつかの利点をもたらす場合には望ましいかもしれない。本明細書で使用する際、保存的置換には、官能的に同等な分子をもたらす、同様の極性および疎水性/親水性特性を有する別のアミノ酸による、対応するペプチド配列内の1つ以上のアミノ酸の置換が包含される。かかる保存的置換としては、以下のアミノ酸群:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸;アスパラギン、グルタミン;セリン、スレオニン;リジン、アルギニン;フェニルアラニン、チロシン;およびメチオニン、ノルロイシン内での置換が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
上で定義したペプチドのアミノ酸配列変異体は、合成した誘導体をコードするDNAにおける変異によって調製することができる。このような変異体としては、例えば、アミノ酸配列内の残基からの欠失、またはその挿入もしくは置換が挙げられる。最終構築物が所望の活性を所有するのであれば、最終構築物に到達するために、欠失、挿入および置換をどのように組み合わせてもよい。明らかに、変異体ペプチドをコードするDNAにおいてなされる変異は、リーディングフレームを改変してはならず、二次mRNA構造体を産生し得る相補領域を創製しないのが好ましい。
【0057】
遺伝子レベルでは、これらの変異体は通常、ペプチド分子をコードするDNAにおけるヌクレオチドに部位特異的突然変異を導入し、これにより、変異体をコードするDNAを生成し、その後、組み換え細胞培養物中でDNAを発現させることによって調製される。変異体は、典型的には、非変異体ペプチドと同質の生物学的活性を呈する。
【0058】
上で定義したペプチドの「類似体」は、本発明によれば、分子全体またはその活性断片のいずれかと実質的に同様である非天然分子を指す。このような類似体は、対応するTGF−β1阻害剤ペプチドと同じ活性を呈する。
【0059】
本発明による「断片」は、当該分子のいずれかのサブセット、つまり、所望の生物学的活性(例えば、TGF−β1阻害能力)を保持するより短いペプチドを指す。断片は、分子のいずれかの末端からアミノ酸を除去し、その結果物を、受容体アンタゴニストとしてのその特性について試験することによって容易に調製し得る。ポリペプチドのN末端またはC末端のいずれかから一度に1つのアミノ酸を除去するためのプロテアーゼが、当該技術分野において知られている。
【0060】
TGF−β1阻害剤ペプチドの所望の生物学的活性(例えば、TGF−β1阻害能力)は、TGF−β1活性を測定するためのいずれかの好適な従来型バイオアッセイによって、例えば、Meager
Journal of Immunological Methods (1991) 141: 1-14に記載されたアッセイによって、決定され得る。これらの方法の中で、Mv−1−Lu細胞増殖阻害アッセイが特に好適である。Mv−1−Lu細胞アッセイについては、WO2005/019244にも記載がある。好ましくは、本発明のTGF−β1阻害剤ペプチドは、Mv−1−Lu細胞増殖阻害アッセイにおいて20%以上の阻害活性を有する。より好ましくは、本発明のTGF−β1阻害剤ペプチドは、Mv−1−Lu細胞増殖阻害アッセイにおいて少なくとも50%の阻害活性を有する。
【0061】
本明細書で使用する際、「シクロデキストリン」という用語は、6〜12個のグルコース単位を含有する未置換シクロデキストリン(特に、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、それらの誘導体およびそれらの混合物)のようないずれの既知のシクロデキストリンも包含する。α−シクロデキストリンは6個のグルコース単位からなり、β−シクロデキストリンは7個のグルコース単位からなり、γ−シクロデキストリンは8個のグルコース単位からなり、いずれもドーナツ型の環状に配置されている。
【0062】
本明細書で用いられる、「シクロデキストリン誘導体」という用語は、少なくとも1つの末端水酸基が修飾されたいずれのシクロデキストリンも包含する。シクロデキストリンの化学的修飾は、それらの物理化学的特性を改変し、溶解性、安定性を向上させ、かつ、それらが結合される分子(ゲスト分子)の化学的活性を制御することができる。シクロデキストリンの水酸基(OH)、アルキル基、アリールカルボキシアルキル(aryl carboxialquil)、シアノアルキル、ヒドロキシアルキル、スルホ−アルキル、アミノ、アジド、ヘテロシクリル、アセチル、ベンゾイル、スクシニル、および、リンや硫黄などを含有する他の基の反応による導入は既に記述されている[Robyt (1998) “Essentials of carbohydrate chemistry”, Ed Charles R. Cantor, Springer Advanced Text in Chemistry]。
【0063】
TGFβ1ペプチド阻害剤と複合体を形成するのに好ましいシクロデキストリンは、β−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンである。より好ましいものは、β−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンの親水性誘導体、例えば、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、2−ヒドロキシエチル−γ−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン、または硫酸化β−シクロデキストリンおよび硫酸化β−γ−シクロデキストリンである。β−シクロデキストリン誘導体の例としては、モノ−またはポリ−(C−C)アルキル化β−シクロデキストリン、例えば、ジメチル−β−シクロデキストリンまたはヘプタキス(2,6−ジ−0−メチル)−β−シクロデキストリン(DIMEB)、トリメチル−β−シクロデキストリンまたはヘプタキス(2,3,6−トリ−0−メチル)−β−シクロデキストリン(TRIMEB)、ランダムメチル化β−シクロデキストリン(RM−β−CD);モノ−またはポリ−(C−C)ヒドロキシアルキル化β−シクロデキストリン、例えば、ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HP−β−CD)、ヒドロキシブチル−β−シクロデキストリン;カルボキシ(C−C)アルキル化β−シクロデキストリン、例えば、カルボキシメチル−β−シクロデキストリン、カルボキシエチル−β−シクロデキストリン;(C−C)アルキルカルボニル化β−シクロデキストリン、例えば、アセチル−β−シクロデキストリン;モノ−、テトラ−またはヘプタ−置換β−シクロデキストリン;スルホアルキルエーテルシクロデキストリン(SAE−CD)、例えば、スルホブチルエーテルシクロデキストリン(SBECD);マルトシル−β−シクロデキストリン;(2−カルボキシメトキシ)プロピル−β−シクロデキストリンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
本発明で使用するためのシクロデキストリンおよびそれらの誘導体は、Sigma−Aldrichなどから市販されている。それらはまた、当業者に知られている方法に従って合成されてもよい。
【0065】
本発明による複合体中に存在するTGF−β1阻害剤ペプチドの量は広範囲で種々多様であり得るが、しかし、本発明の一つの特定の実施態様では、TGF−β1阻害剤ペプチドは、シクロデキストリンに対して約0.002:1〜約0.024:1の重量比(0.002−0.024:1)で本発明による複合体中に存在する。別の特定の実施態様において、TGF−β1阻害剤ペプチドは、シクロデキストリンに対して約0.004:1〜約0.018:1の重量比(0.004−0.018:1)で本発明による複合体中に存在する。別の特定の実施態様において、TGF−β1阻害剤ペプチドは、シクロデキストリンに対して約0.004:1〜約0.024:1の重量比(0.004−0.024:1)で本発明による複合体中に存在する。別の特定の実施態様において、TGF−β1阻害剤ペプチドは、シクロデキストリンに対して約0.002:1〜約0.018:1の重量比(0.002−0.018:1)で本発明による複合体中に存在する。TGF−β1阻害剤ペプチドとシクロデキストリンとの実施可能な比の範囲は、本明細書に記載される実施形態のいずれか1つのエマルション処方物中に存在する他の賦形剤に左右される場合がある。好ましくは、複合体は、配列番号6のTGF−β1阻害剤ペプチドと、HP−β−CDとを含んでなる。より好ましくは、本発明による複合体は、配列番号6のTGF−β1阻害剤ペプチドと、HP−β−CDとを、シクロデキストリンに対して約0.004:1〜約0.018:1の重量比(0.004−0.018:1)で含んでなる。更により好ましくは、本発明による複合体は、配列番号6のTGF−β1阻害剤ペプチドと、HP−β−CDとを、約0.018:1の重量比で含んでなる。
【0066】
別の態様において、本発明は、本発明による複合体を含んでなる医薬処方物であって、前記TGF−β1阻害剤ペプチドが治療に有効な量で存在し、かつ前記シクロデキストリンが医薬的に許容可能なシクロデキストリンである医薬処方物(以下、「本発明による医薬組成物[1]」)に関する。
【0067】
本明細書において、「治療に有効な量」とは、TGF−β1が介在する疾患または状態に罹患している被験者において、かかる疾患または状態に対して予防的に作用する、それを安定化させるまたは治療するのに十分な量である。
【0068】
TGF−β1阻害剤ペプチドの治療に有効な量は、一日当たり0.01mg〜50g、一日当たり0.02mg〜40g、一日当たり0.05mg〜30g、一日当たり0.1mg〜20g、一日当たり0.2mg〜10g、一日当たり0.5mg〜5g、一日当たり1mg〜3g、一日当たり2mg〜2g、一日当たり5mg〜1.5g、一日当たり10mg〜1g、一日当たり10mg〜500mgの範囲であってもよい。
【0069】
本発明において、シクロデキストリンに適用される「医薬的に許容可能な」という用語は、治療を受ける被験者の健康に何ら持続的な有害作用を与えないことを意味する。シクロデキストリンの医薬的許容可能性は、いくつかある要因の中でも特に、当該特定のシクロデキストリン化合物、投与される組成物におけるその濃度、および投与経路に左右される。例えば、静脈内または非経口組成物における賦形剤としてのβ−シクロデキストリンの使用は、溶血作用および腎毒性作用によって制限されるが、一般に、経口投与の場合には無毒性である。
【0070】
一つの特定の実施態様において、本発明による複合体を含んでなる本発明の医薬処方物[1]は更に、セチルPEG/PPG−10/1ジメチコーンを含んでなる。
【0071】
別の態様において、本発明は、セチルPEG/PPG−10/1ジメチコーンを含んでなることを特徴とする、TGF−β1阻害剤ペプチドエマルション(以下、「本発明によるエマルション」)に関する。
【0072】
セチルPEG/PPG−10/1ジメチコーンであるABIL(登録商標)EM90は、HLB(親水性−親油性バランス)値が約5であるシリコーンをベースとする非イオン性乳化剤または界面活性剤である。セチルPEG/PPG−10/1ジメチコーンは、Degussaから市販されている。
【0073】
そして、本発明によるエマルションは、連続媒体−親油性相−中に分散された、実質的に均一かつ球状の液滴−親水性相−を含んでなる油中水性(w/o)エマルションである。親水性相は、β−またはγ−シクロデキストリンと複合体を形成したTGF−β1阻害剤ペプチドを含んでなる。親油性相は、いくつかある賦形剤の中でも特に、セチルPEG/PPG−10/1ジメチコーンを含んでなる。
【0074】
本発明によるエマルションは一般に、その熱力学的安定性と、そしてミクロンの範囲にある平均粒径、すなわち、約0.5〜20μmの直径、好ましくは約0.5μm〜10μm、より好ましくは1〜10μmの直径を特徴とする。平均粒径は、いくつかの要因の中でも特に、水性媒体との混合速度に左右される。
【0075】
本発明によるエマルションの親油性相は、利用される界面活性剤系が、HLB系をベースとして0〜8の全HLB値を有するのであれば、セチルPEG/PPG−10/1ジメチコーンに加えて他の界面活性剤を含んでいてもよい。しかし、PEG/PPG−10/1ジメチコーンと、任意のHLB値を有する1以上の更なる界面活性剤とを含んでなり、そして、w/oエマルションにかき立てることができる界面活性剤組成物もまた、本発明によるエマルションに適するものである。従って、PEG/PPG−10/1ジメチコーンとの最終的な界面活性剤の組み合わせがw/oエマルションをかき立てることができる限りは、または界面活性剤系の全HLBが少なくとも8より小さい限りは、界面活性剤組成物は、8よりも高いHLBを有する、すなわちより親水性である1以上の界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤組成物の最終的なHLB値を算出するために、Griffinによる方法を使用してもよく、この方法は更に、特定の水/油の組み合わせに対して物理的に安定な処方物を生成するのに必要な界面活性剤の相対量の算出を可能にする。
【0076】
本発明の特定の実施態様は、本発明によるTGF−β1阻害剤ペプチドのエマルションに関し、ここでTGF−β1阻害剤ペプチドは、配列番号1〜23のアミノ酸配列に対して少なくとも70%、有利には少なくとも80%、または好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドから選択されるものとされる。本発明によるエマルションの例としては、TGF−β1阻害剤ペプチドが、シクロデキストリンまたはその誘導体と複合体を形成するものが挙げられる。
【0077】
特定の実施態様は、TGF−β1阻害剤ペプチドが、シクロデキストリンに対して約0.002:1〜約0.024:1の重量比(0.002−0.024:1)で、または約0.004:1〜約0.024:1の重量比(0.004−0.024:1)で、または約0.002:1〜約0.018:1の重量比(0.002−0.018:1)で、または約0.004:1〜約0.018:1の重量比(0.004−0.018:1)で存在する、本発明によるエマルションに関する。TGF−β1阻害剤ペプチドとシクロデキストリンとの実施可能な比の範囲は、本発明によるエマルション処方物中に存在する他の賦形剤に左右される場合がある。
【0078】
そして、別の態様にあって、本発明は、本発明によるエマルションを含んでなる医薬処方物であって、TGF−β1阻害剤ペプチドが治療に有効な量で存在し、かつシクロデキストリンが医薬的に許容可能なシクロデキストリンである医薬処方物(以下、「本発明による医薬組成物[2]」)に関する。
【0079】
別の態様において、本発明は、シクロデキストリンまたはその誘導体を含んでなる水溶液とTGF−β1阻害剤ペプチドとを混合することを含んでなる、本発明による複合体を調製するための方法に関する。この方法によって得られる生成物(本発明による複合体)は、本発明の更なる態様を構成する。
【0080】
別の態様において、本発明は、本発明によるエマルションを調製する方法であって、
a)(i)シクロデキストリンまたはその誘導体を含む水溶液とTGF−β1阻害剤ペプチドとを混合することによって複合体と、(ii)セチルPEG/PPG−10/1ジメチコーンを含んでなる親油性相とを調製し、そして
b)前記複合体を前記親油性相に混和させることを含んでなる方法(以下、「本発明によるエマルションを調製するための方法」)に関する。
【0081】
1つの特定の実施態様では、前記エマルションを調製するための方法において、工程b)の前に、複合体および親油性相の各々を15℃〜70℃の温度で、好ましくは20℃〜50℃の温度で、より好ましくは25℃〜35℃の温度で加熱する。
【0082】
本発明によるエマルションを調製するための前記方法によって得られる生成物(本発明によるエマルション)は、本発明の更なる態様を構成する。
【0083】
本発明の様々なエマルションは、一般的には、好適な容量のステンレススチール製容器内で各エマルション相(水性相および油性相)の成分を別々に計量することによって調製される。次いで、各相を、好適には自動調温制御付きの槽で、15℃〜70℃の温度にて、好ましくは20℃〜50℃の温度にて、より好ましくは25℃〜35℃の温度にて加熱する。水性相を含む容器には、蒸発による損失を防ぐためにカバーをかけてもよい。油性相を、均質な溶融物が得られるまで加熱する。好ましくは、いずれの相も、25℃〜70℃の温度で透明かつ均質な外観を呈する。その後、油性相を撹拌し、水性相を少しずつ油性相の上に注ぐ。エマルションを30〜40分撹拌し続ける。プロセスの最後では、エマルションは室温である。最終段階は、エマルションの熟成である。この段階の時間は様々であり、一般には48〜72時間、すなわちその安定性を保障するのに十分な時間である。
【0084】
医薬分野で通常利用される様々な賦形剤を、本発明によるエマルションに添加することができる。これらの医薬的に許容可能な賦形剤は、防腐剤、皮膚軟化剤、消泡剤、酸化防止剤、緩衝剤、顔料、着色剤、甘味剤、風味剤、コーティング剤、造粒剤、崩壊剤、流動促進剤、潤滑剤、従来のマトリックス材料、錯化剤、吸収剤、充填剤であってもよい。それらは、組成物の特性に悪影響を及ぼすことなく、通常の目的のために、典型的な量で使用してもよい。本発明によって提供される生成物の剤形も他の治療に有益な物質を含有していてもよい。
【0085】
表2は、本発明と共に使用される更なる好ましい処方物をまとめたものであり、処方物に使用される化合物、それらの機能、好ましい範囲、およびこれら化合物の実例に関する実際の量についての一般的記載を包含している。
【0086】
【表2】

【0087】
そして、一つの特定の実施態様において、本発明は、0.01%〜1%w/wの量のTGF−β1阻害剤ペプチドと、1%〜10%w/wの量のβ−またはγ−シクロデキストリンと、0.5%〜6%w/wの量のセチルPEG/PPG−10/1ジメチコーンと、0.005%〜0.6%w/wの量の防腐剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベンなどのパラベン)と、3%〜20%w/wの量のシリコーンと、10%〜40%w/wの量の鉱油と、100%となるまでの水とを含んでなる医薬処方物に関する。
【0088】
本発明によるエマルションは、局所的、または、口腔内もしくは鼻腔スプレーとして、点眼などのいずれかの投与経路によって、被験者に投与することができる。
【0089】
TGF−β1阻害剤ペプチドと、シクロデキストリンまたはその誘導体とを含んでなる複合体であって、
・前記TGF−β1阻害剤ペプチドが、配列番号1〜23の1つのアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するペプチド、その塩、TGF−β1を阻害することができるその機能性誘導体、変異体、類似体および断片から選択され、かつ
・前記シクロデキストリンまたはその誘導体が、β−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンから選択され、
この本発明による複合体は、例えば、経口的、経直腸的、非経口的(静脈内、筋肉内または皮下的など)、嚢内、膣内、腹腔内、膀胱内、局所的に、または口鼻もしくは肺経路によって、例えば、口腔内もしくは鼻腔スプレーとして、点眼などのいずれかの適切な投与経路によって被験者に投与することができる。
【0090】
本発明において使用することができる好適な単位剤形としては、例えば、硬質ゼラチンカプセル、軟質ゼラチンカプセル、錠剤、カプレット、腸溶性錠剤、腸溶性硬質ゼラチンカプセル、腸溶性軟質ゼラチンカプセル、ドラジェ、経口液体、シロップ、スプレー、座薬などが挙げられる。
【0091】
別の態様において、本発明は、TGF−β1が介在する疾患または状態の治療用薬剤を製造するための、本発明による複合体、または本発明によるエマルション、または本発明による医薬処方物[1]または本発明による医薬処方物[2]の使用に関する。別の態様では、本発明は、TGF−β1が介在する疾患または状態の治療で使用するための、本発明による複合体、または本発明によるエマルション、または本発明の医薬処方物[1]または本発明の医薬処方物[2]に関する。更に、本発明は、治療を必要とする哺乳動物において、TGF−β1が介在する疾患または状態を治療する方法であって、有効量の本発明による複合体、または本発明によるエマルション、または本発明の医薬処方物[1]または本発明の医薬処方物[2]を、治療が必要な前記哺乳動物に投与することを含んでなる方法を提供する。
【0092】
「TGF−β1が介在する疾患または状態」という用語には、心血管疾患、例えば、遺伝性出血性毛細管拡張症(ランデュ−オスラー−ウェバー症候群);大動脈の疾患、例えば、ロイス・ディーツ症候群、家族性胸部大動脈瘤症候群、および動脈蛇行症候群、原発性肺高血圧症および家族性肺高血圧症、子癇前症、アテローム性動脈硬化、再狭窄、高血圧症、肥大型心筋症/鬱血性心不全;結合組織疾患、例えば、マルファン症候群およびマルファン様疾患、線維症;骨格および筋肉疾患、例えば、カムラチ・エンゲルマン病、進行性骨化性線維異形成、ハンター−トンプソンおよびグレーベ型軟骨発育不全、骨粗しょう症、硬結性骨化症およびヴァンブッヘム病、短指症および指趾関節癒合症、ならびにデュシェンヌ型筋ジストロフィー;生殖疾患、例えば、早期卵巣不全およびミュラー管開存症;遺伝性癌症候群、例えば、若年性ポリポーシス症候群、遺伝性非ポリポーシス結腸直腸癌およびバナヤン−ライリー−ルバルカバおよびカウデン症候群;散発性癌、例えば、乳癌、結腸直腸癌、膵臓癌、肺癌および前立腺癌;発達障害、例えば、口蓋披裂および内臓逆位および内臓不定位が包含される。
【0093】
一つの特定の実施態様において、前記TGF−β1が介在する疾患または状態としては、線維増殖性疾患が挙げられる。線維増殖性疾患としては、とりわけ、未制御TGF−β活性および糸球体腎炎(GN)(例えば、糸球体間質増殖性GN、免疫性GNおよび半月体性GN)を含む過剰線維症と関連する腎疾患が挙げられる。その他の腎疾患としては、糖尿病性腎症、腎間質線維症、シクロスポリンを受けた移植患者の腎線維症、およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)関連腎症が包含される。膠原血管病としては、例えば、進行性全身性硬化症、多発性筋炎、強皮症、皮膚筋炎、好酸球性筋膜炎、斑状強皮症、またはレイノー症候群の発症と関連したものがある。過剰なTGF−β活性から生じる肺線維症としては、例えば、自己免疫疾患(例えば全身性紅斑性狼蒼および強皮症)、化学薬品接触またはアレルギーとしばしば関連する、成人呼吸窮迫症候群、特発性肺線維症および間質性肺線維症が挙げられる。線維増殖特性と関連する他の自己免疫性疾患は、リウマチ様関節炎である。
【0094】
特定の実施態様において、前記TGF−β1が介在する疾患または状態は、肝線維症、肺線維症、角膜線維症、および腹膜損傷の線維症(腹膜透析損傷により誘発される線維症)から選択される。
【0095】
TGF−βスーパーファミリーメンバーは、他の疾患と継続的に関連している。例えば、TGF−β1発現の改変は、自閉症、統合失調症、パーキンソン病、多発性硬化症およびアルツハイマー病を含むいくつかの神経障害において観察されているが、アクチビン発現は、ハンチントンおよびパーキンソン病において改変される。TGFβ1多型も、耳硬化症、耳嚢の再形成増加に起因する進行性難聴、ならびに、乾癬、胆汁性肝硬変および小児気管支喘息と関連がある。
【0096】
TGF−β1が介在する更なる疾患または状態としては、ケロイド、肥厚性瘢痕(手術または負傷によるものなど)、熱または冷たさによって引き起こされる化学熱傷または熱傷、骨髄移植と関連する皮膚線維症、斑状強皮症、強皮症および同様の疾患(尖端角化類弾力線維症など);パシニ−ピエリニ皮膚萎縮;クレスト症候群;人工皮膚炎;びまん性強皮症;好酸球性筋膜炎;移植片対宿主病;ケロイド皮膚硬化症;硬化性苔癬; 線状強皮症;限局型全身性強皮症;下顎末端骨形成不全;骨髄腫に関連する皮膚変化;腎性線維化性皮膚症;重複症候群;パリー−ロンベルク症候群;晩発性皮膚ポルフィリン症;プロジェリア;多発性神経障害症候群、臓器巨大症、内分泌病、単クローン性タンパク質の皮膚変化およびPOEMSの皮膚変化(skin changes or POEMS);偽強皮症;ブシュケ強皮症;硬化性粘液水腫(scleromyxoedema);白斑;ウェルナー症候群、アクネ、蜂巣炎、デュピュイトラン症候群、ペーロニ病、皺、および一般には、線維症またはTGF−βの産生および/もしくは活性化の増大を伴う段階を経るいずれかの皮膚病変もしくは病状、ならびに、合併症として皮膚線維症を伴ういずれかの疾患が挙げられる。
【0097】
本発明による複合体、本発明によるエマルションまたは本発明の医薬処方物[1]もしくは[2]を投与するのにふさわしい哺乳動物としては、イヌ、ネコ、ウマ、ブタ、ネズミ、ラット、霊長類および特にヒトが挙げられる。
【0098】
以下の非限定例は、本発明の原理を例証するのに役立つ。
【実施例】
【0099】
実施例1
処方物の組成についての検討
P144を吸収および全身分布させないエマルション965(E.965)の場合と同じ様に、特定の密封特性を備え、大量の工業処理を容易にするべく適切な流動特性を有する処方物を取得することを目的とした。
【0100】
シリコーンエマルションを得るために、最良の可能性あるエマルションを得る目的でいくつかの界面活性剤を探索した。様々な供給業者のものを系統的に探索した後、Abil(登録商標)Care 85(ビス−PEG/PPG−16/16 PEG/PPG16/16)およびAbil(登録商標)EM90(セチル/PEG/PPG−10/1/ジメチコーン)を選択した。
【0101】
良好な官能特性を有する安定な流動エマルションが得られるまで、いくつかの処方物アッセイを行った。表3は、様々なアッセイ処方物をまとめたものである。
【0102】
【表3】

【0103】
表3に示される処方物を用いて得られた結果は以下の通りであった。
・処方F.1:相混合物の撹拌が終了した時点で、相は分離した。エマルションの形成はなかった。
・処方F.2:エマルションが得られ、そのまま数時間維持したが、しばらくの間放置した後に分離した。
・処方F.3:前の場合と同じことが起こったが、処方2よりも少し長い時間放置した後に分離した。
・処方F.4:処方物2と比べて大きな差異は見受けられなかった。
・処方F.5:最終的に、エマルションは得られなかった。
・処方F.6:良好な流動性および許容可能な官能特性を有する安定なエマルションが得られた。その一部を室温で保存し、別の一部を4℃で保存した。
・処方F.7:最終処方物は、目的として定義したパラメーターに設定された。
【0104】
従って、ペプチド(P144)の輸送または取り込み能力アッセイのための開始点として処方物F.7を選択した。
【0105】
実施例2
P144を加えた(100μg/g)シリコーンエマルションを製造するための方法
処方F.7に従ってシリコーンエマルションを製造するための方法は以下の通りであった。
1.水を計量した。
2.プロピルパラベンおよびメチルパラベンを計量し、水に溶解し、わずかな加熱(35℃未満)して防腐剤の溶解を促進した。
3.パラベンが溶解したら、溶液を冷まし、次いで、CD(ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン)を撹拌下、徐々に加えて完全に溶解させた。
4.次いで、P144を撹拌下ゆっくりと添加した。P144の溶解に必要な時間はきわめて長かった(一晩)。
5.異なる容器においてパラフィンおよびジメチコーン350を計量し、そこにAbil(登録商標)EM90を添加した。3つの成分をマグネチックスターラーにて混合した。
6.P144を含む水性相を油性相に添加して溶解させてエマルションを得た。エマルションの熟成プロセスが終了したら、およそ6gの3つのアリコートを、エマルションの安定性を調べるための試験に供した。
前記試験は以下からなるものであった。
− 2,000rpmで5分間遠心分離する。
− 4,000rpmで10分間遠心分離する。
− 8,000rpmで10分間遠心分離する。
− 13,000rpmで10分間遠心分離する。
− 90℃で加熱する。
【0106】
最初の2つの場合、エマルションの態様に変化は見られなかった。3つ目の場合には、最少量の水がエマルションの表面上から放出されるのが観察された。しかしながら、エマルションを13,000rpmで遠心分離または加熱した後には、いかなる変化も認められなかった。
【0107】
P144を処方物に配合するための代替的な方法を調べた:物理的な混合。この方法は、P144とシクロデキストリンとを乳鉢を用いて乾式混合することからなるものであった。次いで、この混合物を処方物の水に加えることにより懸濁液が得られたが、完全には溶解できなかった。この理由のため、このP144の配合方法は放棄された。
【0108】
エマルションの両相をわずかに加温する(35℃未満)という修正を加えてはいるが、シクロデキストリン溶液を調製し、そこにペプチドを添加する製造方法を選択した。
【0109】
実施例3
シリコーンエマルション中のP144の溶液の検証
P144が処方物中で溶解したかどうか、または逆にエマルション中で分散結晶の形態であるかどうかを判別する迅速かつ簡便な方法を探索した。P144の特性から、我々は、この方法を、様々なアッセイ対象の処方物からの代表試料を、可視光およびUV光を用いて顕微鏡で観察することと決定した。
【0110】
実験的なアッセイ条件は以下の通りであった:顕微鏡はNikon ECLIPSE E800、カメラはNikon DIGITAL CAMERA DXM 1200、画像分析プログラムはACT−1。様々な試料を、可視光およびUV放射下(EX 330−380、DM 400、BA 420)4倍で観察した。図1〜7は、上述の処方物を用いて製造したバッチの一部の画像を示す。図1および2は、100μg/gのP144を含むシリコーンエマルション、および、P144を含まないブランクとしてのシリコーンエマルションそれぞれの写真を示す。
【0111】
実施例4
エマルションE.965と、新たなシリコーンエマルションとの、P144の輸送能力の比較
エマルションE.965と、最初に選択した処方F.7に従った新たなシリコーンエマルションとの、P144の輸送能力の比較を行った。同様に、P144の取り込み能力を同時に増加させる意図でシクロデキストリンの量を増やした新たな処方物F.8およびF.9を加えた。これらの新たな処方物は表4に記載されているとおりである。
【0112】
【表4】

【0113】
最初に、ペプチドの量を2倍にし、200μg/gに達するエマルション(処方F.7)を調製した。この質量の増加は、水含有量を低減することによって相殺したが、これは処方物全体では有意な変化ではない。このエマルションを得るための方法は、上述の例と同一とした。
【0114】
この処方物(バッチA−4)の可視光およびUV光を用いた顕微鏡による評価では、P144の結晶は見つからなかった。このことは、P144が適切に可溶化したことを示している。
【0115】
次に、同じ処方物F.7および方法をアッセイしたが、濃度は300μg/gであった。この濃度は、エマルションE.965で達成された最高濃度と同様である。可視光およびUV光を用いたこの処方物(バッチA−5)の顕微鏡による観察において、結晶は検出されなかった。
【0116】
従って、エマルションE.965と同様のP144取り込み能力を有し、かつより良好なGalenic特性を有し、その製造方法に必要とされる温度が低い、処方物が達成されたと結論付けることができる。
【0117】
この段階で、ペプチド結晶が検出されることなく処方物中のP144の濃度が増加したことは、エマルションE.965と比べて取り込み能力が向上したと見なされ、提案された目的が達成されたと推測される。
【0118】
上述の場合と同じ処方物F.7を使用して、P144の濃度を徐々に高めた新たなシリコーンエマルションを調製した:処方物1gにつき、400μg、600μg、800μgおよび1,000μg。新たな4つの処方物を可視光またはUV光を用いて分析すると、当該処方物中においてP144の結晶は観察されなかった(図3)。
【0119】
しかしながら、さらに、P144濃度がそれぞれ1,000μg/g、1,200μg/gおよび800μg/gであるエマルションの新たなバッチ(A−12、A−14およびA−15)を再度詳しく調べた。このとき、UV光を用いて分析すると、P144結晶がはっきりと観察された。
【0120】
同様のバッチ間でこのような結果の差異が生じた理由は、バッチA−9(800μg/g)およびA−10(1,000μg/g)の調製が、これら2つのバッチのいずれか一つに必要な濃度とは異なる濃度で予め調製されたP144溶液の希釈物を用いて行われたことが理由である可能性がある。
【0121】
考えられる原因は、その濃度がすでに本処方物におけるP144の溶解性の限度と非常に近く、それ故、その時々によって、少量の結晶が出現したり、P144結晶が全く観察されなかったりすることである。
【0122】
この可能性を検証するために、最初の処方物F.7に対してわずかな修正を施した新たな処方F.8を調べた。ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(CD)の含有量を2.5%w/wから4.2%w/wまで高くし、パラベンの含有量を2倍にして、新たな処方物が表4に示すとおり設定された。
【0123】
この新たな代替的な処方物を用いて、P144の量が1000μg/gであるバッチ(A−16)を調製した。顕微鏡で様々な領域を観察すると、P144の結晶は見られなかった(図4)。このことは、第2の仮説が正しかったことを示唆している。ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(CD)の量を増やすことによって、ペプチドの完全な溶解が達成された。
【0124】
シクロデキストリンの存在がパラベンの効率を低下させることがよく知られていることから、処方物におけるこの変更は、文献によれば、処方物中の防腐剤を増やす必要が生じた。この理由から、メチルおよびプロピルパラベンの濃度を2倍にした。
【0125】
後に、P144結晶の発生原因が分かったので、最初にアッセイした処方物F.7を維持し、取り込み可能なペプチドの量を調節することにした。このように、溶解性の限度に近いペプチド濃度(750μg/gおよび700μg/g)を有するエマルションの新たなバッチを調製した(A−17およびA1−18)。いずれの場合も、結晶が検出された(図5)
【0126】
これらの結果を鑑みて、この処方物F.7についてのP144の最大濃度を600μg/gと設定することにした。これをESD600と表す。
【0127】
表5は、様々な処方物についてのP144添加試験において、様々なアッセイバッチに関して得られた結果をまとめたものである。
【0128】
【表5】

【0129】
P144の新たなシリコーンエマルション(処方物ESD600)に関する結論
本プロジェクトの開始時に定めた目的は達成されたと考えられる。両処方物について最初に開示した要件は、
−P144が著しく吸収されることなく、P144の局所作用を可能にすること;
−良好な拡散性を示すこと;
−べたつきのない快適な外観を示すこと。
【0130】
新たな処方物ESD600を用いると、以下の目的が達成されると予想された。
−有機溶媒の除去/低減を可能にするいずれかの系を使用して、活性成分の可溶化を促進すること;
−より均質かつ安定なエマルションを得ること;および
−活性成分の安定性を喪失する危険性なく、エマルションを得るための相の加温を少なくすること。
【0131】
溶媒としてのジメチルスルホキシド(DMSO)を取り除き、その代わりに、エマルションE.965で達成されたペプチドの最高濃度の2倍の濃度を可能にするヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンの溶液を使用することで第1の目的が達成された。
【0132】
第2の目的も達成された。第3の目的も、エマルションを形成するための相の加熱温度を低くすることで最終的に達成された。エマルションE.965を調製するための作業温度は50〜56℃に達したが、エマルションESD600を調製するための作業温度は常に35℃未満に維持されていた。
【0133】
実施例5
シリコーンエマルションP144(処方物ESD600)の修正
更に高濃度のペプチドを輸送することができる処方物を達成するという新たな目的を設定した。
【0134】
処方物F.7(ESD600)に対して最低限の修正を施して、P144取り込み能力をできる限り増大させた。このために、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンの濃度を5%w/wまで上げ、パラベンの濃度も2倍にし、パラフィンのパーセンテージを比例的に低下させた。このような当該処方物(処方F.9(ESD900))は表4に示される通りであった。このエマルションは、かなり大量の活性成分を輸送するビヒクルであった。この新たな処方に従って、P144の取り込み濃度を高くした様々なエマルションバッチを調製した:0μg/g(ブランク処方物)、700μg/g、800μg/g、1,100μg/g、1,200μg/gおよび1,400μg/g。
【0135】
バッチA−21に対応するブランク処方物(P144を含まないESD900)は、可視光およびUV光のいずれを用いても何らのシグナルもないコントロールとした。
【0136】
【表6】

【0137】
対応する試料を顕微鏡で観察することによって、1000μg/g以上のP144濃度を有する処方物においてP144結晶が形成されることが証明された(図5および6)。
【0138】
その後、900μg/gのペプチド濃度を有するバッチA−31を調製した。この場合、P144の結晶は認められなかった。
【0139】
従って、5%w/wのヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを含有する新たな処方物F.9により、P144最大濃度は900μg/gになると結論付けることができた。この処方物をESD900と表した。
【0140】
結論
P144のシリコーンエマルション(ESD600またはESD900)は、P144が吸収されることなく局所作用するのを可能にし、良好な拡散性およびべたつきのない快適な外観を示し、より均質かつ安定なエマルションであり、有機溶媒を必要とすることなく、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンの水溶液(ESD600では2.5%w/wまたはESD900では5.0w/w)を用いて活性成分の可溶化を促進する。
【0141】
P144輸送能力は、エマルションE.965の取り込み能力を2倍(ESD600)または3倍(ESD900)にすることによって増大されている。
【0142】
当該新たなシリコーンエマルションを用いると、活性物質の安定性を喪失する危険性なく、当該エマルションを得るための相の加温が低減される。
【0143】
実施例6
処方物ESD600のGalenic特性
1.巨視的特性
外観:シリコーンエマルションESD600の外観は均一かつ乳白色で、流体コンシステンシーおよび優れた均質性を有していた。
臭い:なし。
感触:シリコーンエマルションESD600は、乾燥効果を有することなく密封特性を呈し、塗布後、わずかに緩吸収性の油性残渣を残した。手触りは滑らかで、鮮やかな外観であった。
【0144】
2.微視的特性
2.1.液滴サイズ:
手順:ESD600のアリコートをスライド上に載せた。Olympus CH40顕微鏡(×100×1.25=×125)のもと、可視化を行った。
結果:2〜3μm範囲のきわめて均質な液滴サイズ、およそ10%の液滴が10μmのサイズであると測定された。図8を参照のこと。
【0145】
2.2.コンシステンシーの測定
−拡散能力の測定(図9〜16)
手順:
ミリメートル方眼紙上にスライド辺のしるしをつけし、対応する対角線をトレースしてそれらの交差点を参照中央点として求めた後、スライドが前述のトレース線と確実に一致するように注意しながらスライドを配置し、約25mlのエマルションを中央点に置いた。次いで、重さが分かっている第2のスライドを、先のスライド上にそっと載せ、1分後に、トレースした対角線の交差点に対して形成された円の2つの直径を測定し、平均値を算出し、2で割った。それにより、円の平均半径を算出した。次いで、3種類の異なる重量を用いて、常に1分の間隔で同じ手順を繰り返した。そのようにして求めた半径を使用して、式S=πに基づき、対応する表面積を算出した。拡散能力は室温で測定した。図9〜16を参照。
【0146】
結果:表7は、処方物の拡散能力を測定するのに使用した重量を、P144シリコーンエマルションESD600試料の対応する直径増分、平均半径および表面積と共に報告するものである。
【0147】
【表7】

【0148】
図17を参照のこと。
算出した表面積増分は1,884.955mmであった。
P144シリコーンエマルションESD900は、表面積増分がおよそ2倍であったため、エマルションE.965よりも良好な拡散能力を呈した。
【0149】
3.エマルションのタイプの決定
エマルションのタイプの決定は2つの方法によって行った。
【0150】
3.1 希釈法:水(3ml)を含有する管に、少量のP144シリコーンエマルションESD600を撹拌しないで加える。外側の相が水性の場合、水は濁る。外側の相が油性の場合、水は変化しないままで、濁らない。
記載したような試験を行った後、水は濁らず、油性の液滴さえ見られた。故に、シリコーンエマルションが油性の外側相(w/o)を呈することが確認できた。図18および19は、この方法で得られた結果を示している。
【0151】
3.2 色素法:水溶性色素、具体的にはメチレンブルー溶液(0.4%w/v)を使用した。エマルションがo/wタイプの場合、色素は分散する。しかしながら、エマルションがw/oタイプの場合、色素ははじかれ、分散しない。
少量の試験エマルションをスライド上に置いた。次いで、一滴のメチレンブルーを混合せずに加えた。記載したような試験を行った後、エマルションが色素をはじくのが見られた。故に、このエマルションはw/oタイプであると結論付けた。図20を参照。
【0152】
4.pHの測定
10mlの水で500mgのエマルションを希釈し、次いでろ過することにより、pH値の測定を行った。GLP21 Crison pHメーターを使用して、3回測定を行った。結果は次の通りであった。
・試料番号1:5.78
・試料番号2:5.79
・試料番号3:5.70
・平均pH=5.76±0.049
【0153】
実施例7
エマルションESD600に配合されたP144の経皮吸収についての試験
計画および目的
この試験の目的は、「ESD600」と示される処方物中に100μg/gの濃度で配合されたペプチドP144(ESD600[100])の、ブタ耳皮膚の試料における吸収および経皮浸透を評価することであった。参照生成物としては、ペプチドを含有しない処方物「ESD600コントロール」(ESD600[0])を使用した。
【0154】
材料および方法
ブタ耳皮膚を食用のハイブリッドブタから取得した。以下の「方法1 工程1:ダーマトームによる切り出し」に開示されるように耳を処理した。
【0155】
アッセイ生成物は、100μgのP144/gを含むエマルションESD600(ESD600[100]、バッチ番号:X−6)であった。この半固体調製は上記の方法に従って行った。その組成を表8に示す。
【0156】
【表8】

【0157】
参照製品は、P144を含まないコントロールのシリコーンエマルションESD600[0](ESD600[0]、バッチ番号:X−5)であった。この半固体調製物は、活性成分を添加せずに、上記の方法に従って行った。その組成は表9に示されるとおりであった。
【0158】
【表9】

【0159】
キットには:
−てんびん Mettler AT261デルタレンジ;
−pHメーター Crison、pHメーターGLP21;
−フランツ型Variomag Telesystem拡散セル
(フランツ型セル装置は、レセプターチャンバー(容量7mL)およびドナーチャンバー(直径15mm)を備えたホウケイ酸ガラスおよびテフロン(登録商標)製の6つのセルからなる);
−ダーマトーム(Aesculap−Wagner Dermatome C. GA 630;B. Braun Surgical S.A.,(スペイン、バルセロナ));
−−80℃のアーチ(Forma Scientific,938);
−−20℃のフリーザー
が使用された。
【0160】
全ての化学試薬、塩および生成物は分析品質を有していた。リン酸緩衝液(PBS)(Sigma、参照番号:P4417− 100 TAB)、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(OH−CD)(Sigma、参照番号:332607)、Tissue Tek(登録商標)OCT化合物(Sakura、参照番号:4583)。Wasserlabのシステム(自動モデル番号:AU050503)で得られたII型水を使用して溶液を調製した。
【0161】
セルから試料を収集するためのバイアル(Watters参照番号:7176)
【0162】
試料を保存するためのクリオチューブ(criotubes)。
【0163】
「Franz型拡散セル」装置は6つのセルからなり、これらのセルは2列に分かれている。各セルは2つのチャンバーを有する。アッセイすべき生成物またはそのコントロールを第1チャンバーに入れ、実験系(ブタまたはヒトの皮膚)を通過する薬物の量を捕獲する溶液を第2チャンバーに入れる。この実験系は、ドナーチャンバーとレセプターチャンバーとの界面に置かれる。「Franz型セル」装置においてアッセイされるべき生成物の分配は以下のように行った:ESD600[100](セル5および6)、ESD600[0]コントロール(セル2)。ブタ耳皮膚を用いた実験を4回繰り返した。
【0164】
方法
1.工程1:ダーマトームによる切り出し
取得したのと同じ日に、ブタの耳を洗浄し、処理し、ダーマトームを用いて切断して、厚さが1mmで最少表面積が4cmの膜を得た。これらの膜を−20℃のフリーザー内に別々に保管した。
【0165】
2.工程2:経皮拡散アッセイ
2.1.経皮拡散アッセイ
24時間(h)の拡散試験を行った。この試験では、100μg/gのペプチドを含むシリコーンエマルションESD600[100]をアッセイした。拡散膜として、1.0mmの切り出したブタ皮膚耳を使用した。アッセイを開始する前に、PBS(リン酸緩衝液、pH7.4±0.2)に30分間浸漬させることによって皮膚を水和させた。一方、各セルのレセプターに、pH7.4±0.2に設定した、5%w/wのOH−CDを含有するリン酸緩衝液7mlを充填した。切り出し、水和させた皮膚の一部をレセプターチャンバー上に置いた。この皮膚の上に、レセプターチャンバーを固定し(15mm直径)、ここで、約0.9gの半固体状調製物(1ml容量)、アッセイすべき生成物(ESD600[100])またはその参照生成物(コントロールのシリコーンエマルションESD600;ESD600[0])を置いた。32.5±0.5℃の温度にて、400r.p.m.で撹拌下、レセプターを維持した。一定の時間間隔(0h、1h、2h、6h、12hおよび24h)で、レセプターチャンバーから1mlの試料を手で収集し、次いで、この容量をもとの溶液(original solution)1mlと置き換えて、レセプターの容量を一定に維持した。収集した試料を、後続のクロマトグラフィー分析のために、−80℃のフリーザー内で−80℃のクリオチューブに保管した。
【0166】
3.様々な皮膚層におけるP144の存在に関する試験
アッセイが終了した時点で、膜の切断を行った。このために、予めセルから皮膚を取り出し、残っているアッセイ生成物またはコントロールをII型水で洗浄して取り出した。試料を硬質表面上に置き、十分な量のOCTを加えることにより、均質な凍結ブロックを得た。このブロックは連続切断を可能にするものである。各試料に対して、ブタ耳皮膚の場合には深さ(depth)50μmの6つの連続切片を、クリオスタット(criostate)を用いて作製した。これらの切片を個々にクリオチューブ内に集め、コードで識別し、最終的には、後続のクロマトグラフィー分析まで−80℃で保管した。表10〜13は、皮膚試料の特性をまとめたものである。これらの表は、クリオスタットにおいて切断を行った後に分析した皮膚表面のパーセンテージ(そのP144を定量するのに必要とされる)を示している。
【0167】
【表10】

【0168】
【表11】

【0169】
【表12】

【0170】
【表13】

【0171】
処理、評価および結果の解釈
質量検出を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC/MS/MS)によって皮膚試料中および容器内のペプチドP144の定量を行った。
【0172】
レセプターからの試料:
レセプターからの試料に関するHPLC−Mass技術の定量下限(LOQ)は10ng/mlであり、これを用いることによって、以下の陳述のうちの1つの状態になった。
・レセプターチャンバーの収集溶液中にペプチドP144の量が検出されない(陰性試料、または、いずれにしても分析技術の定量下限よりも低い)場合:「半固体状調製物ESD600に配合されたP144は皮膚バリアを通り抜けることができない。」
・レセプターチャンバーの収集溶液中にペプチドP144の量が検出される(分析技術の定量下限よりも高い)場合:「半固体状調製物ESD600に配合されたP144は皮膚バリアを通り抜けることができる。」
【0173】
ペプチドP144の量がレセプターチャンバー内で検出されたのであれば、累積量対時間の表示X−Yが行われたはずである。同様に、有意な量の薬物が存在した場合、定常状態を表す曲線の傾斜からの経皮流動(J)が算出されたはずである。
【0174】
皮膚の水平切片からの試料:
皮膚の様々な層(深さ)におけるP144の存在に関する試験では、HPLC−MSにより定量されたP144の量を、深さに対して表した。全てのデータは、平均偏差および標準偏差として表されたものであり、これは、反復数(n)を示している。有意差および統計比較の存在は、ANOVAによって分析された。これら異なる処理間の比較については、チューキー法およびダネット法が適用された。その他の場合、p<0.05が有意であると考えられた。プログラムSPSSバージョン11を用いて統計分析を行った。
【0175】
ブタ耳皮膚に関する皮膚吸収および浸透試験に関する結果および検討
図21は、経皮吸収試験でレセプターが達成し得る、100μgのP144/gを含むESD600(ESD600[100])中に配合されたP144の量を示している。図示されるように、レセプター内で検出されたP144の量は、分析した全ての場合において、常に2ngよりも少なかった(HPLC/MS/MS技術の定量下限;表14を参照のこと)。いずれにせよ、最小限のペプチド画分の通過だけでも許容するシグナルを見ることはできなかった。このため、この試験の条件下では、ブタ耳皮膚を通って全身循環に向かうP144の経皮流動はないと言える。
【0176】
【表14】

【表15】

【表16】

【0177】
表10〜13は、ブタ皮膚の様々な被分析層におけるP144の定量に関する結果を示している。図22は、ESD600[100]を24時間局所適用した後のブタ耳皮膚中のP144の分布を示しており、かつ、それを、同量のペプチドを含有するエマルション965(E.965)(E.965[100])を用いて得られた結果と比較している。この分布は、50mmの皮膚の一部分の水平切片を用いて見積もった。コントロールとして、P144を含まないESD600[0]で処理した皮膚切片を使用した。いずれの場合にも、作製した6つの切片における薬物含有量における有意差(p<0.05)は見られなかった。コントロールエマルションESD600[0]の場合、P144は全く見出されなかった(LOQ:100ng)。
【0178】
構造的な観点から見て、ブタの皮膚はヒトの皮膚と最も似ているとされている(Touitouら、J. Controlled Release, 1998, 56, 7-21; SimonおよびMaibach. Skin Pharmacol. Appl. Skin Physiol. 2000, 13, 229-234)。更に、皮膚を通じての多数の薬物の透過試験についてその適合性が報告がされている(NeubertおよびWohlrab. Acta Pharm. Technol., 1990, 36, 197-206)。Jenningら(Jenningら、Eur. J. Pharm. Biopharm., 2000, 49, 211-218)は、ブタの皮膚においては、およそ100mmの角質層、次いで100〜200mmの生表皮層を識別できることを光学顕微鏡を使用して証明した。真皮は200〜500mmの間に位置しており、残りの真皮部分および少量の皮下脂肪組織を考慮している(Jenningら、Eur. J. Pharm. Biopharm., 2000, 49, 211-218)。
【0179】
ブタ耳皮膚におけるP144の分布からの結果(図23)は、その様々な領域に対するP144の親和性を明確に示している。しかしながら、ESD600の場合、E.965で得られた結果とは反対に、この親和性は、皮膚の角質層(SC)の場合がより高い。実際、P144の濃度勾配は、角質層から真皮の最終層まで観察することができる。
【0180】
皮膚浸透に関するデータを用いて、皮膚の様々な層に存在する投薬画分の理論量を算出した。図24は、ESD600に関するこれらの結果を示しており、E.965に関して得られた結果と比較している。ここから分かるように、シリコーンエマルションESD600は、エマルションE.965と比べて、皮膚の様々な層へのP144の浸透を強化する効果が著しく低い。
【0181】
実施例8
P144の溶解性試験
最適化されたペプチド生成物の調製
1.ヒトアルブミン−ペプチド凍結乾燥試料:2バイアル、各々が500μgのペプチドおよび400mgのヒトアルブミンの凍結乾燥製剤を含有する。
2.ヒトアルブミン−ペプチド凍結乾燥試料:2バイアル、各々が500μgのペプチドおよび200mgのヒトアルブミンの凍結乾燥製剤を含有する。
3.ヒドロキシ(Hycroxy)−プロピル−β−シクロデキストリン−ペプチド凍結乾燥試料:2バイアル、各々が500μgのペプチドおよび100mgのヒドロキシ−プロピル−β−シクロデキストリンの凍結乾燥製剤を含有する。
4.尿素−ペプチド凍結乾燥試料:2バイアル、各々が500μgのペプチドおよび200mgの尿素の凍結乾燥製剤を含有する。
【0182】
凍結乾燥前の本来の容量は2mlであった。我々は各バイアルに2mlの蒸留水を分注することを推奨する。
【0183】
【表17】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
TGF−β1阻害剤ペプチドと、シクロデキストリンまたはその誘導体とを含んでなる複合体であって、
・前記TGF−β1阻害剤ペプチドが、配列番号1〜23の1つのアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するペプチド、その塩、TGF−β1を阻害する能力を有するその機能性誘導体、変異体、類似体または断片から選択されるものであり、かつ
・前記シクロデキストリンまたはその誘導体が、β−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンから選択されるものである、複合体。
【請求項2】
前記β−シクロデキストリンが、モノまたはポリ(C−C)ヒドロキシアルキル化β−シクロデキストリンである、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記TGF−β1阻害剤ペプチドが、前記シクロデキストリンに対して約0.002:1〜約0.024:1の重量比で存在するものである、請求項1または2に記載の複合体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の複合体を含んでなる医薬処方物であって、前記TGF−β1阻害剤ペプチドが治療に有効な量で存在し、かつ前記シクロデキストリンが医薬的に許容可能なシクロデキストリンである、医薬処方物。
【請求項5】
セチルPEG/PPG−10/1ジメチコーンを更に含んでなる、請求項4に記載の医薬処方物。
【請求項6】
セチルPEG/PPG−10/1ジメチコーンを含んでなる、TGF−β1阻害剤ペプチドエマルション。
【請求項7】
前記TGF−β1阻害剤ペプチドが、配列番号1〜23のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するペプチドから選択されるものである、請求項6に記載のエマルション。
【請求項8】
前記TGF−β1阻害剤ペプチドが、シクロデキストリンまたはその誘導体と複合体を形成している、請求項7に記載のエマルション。
【請求項9】
前記TGF−β1阻害剤ペプチドが、前記シクロデキストリンに対して約0.002:1〜約0.024:1の重量比で存在する、請求項8に記載のエマルション。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか一項に記載のTGF−β1阻害剤ペプチドエマルションを含んでなる医薬処方物であって、前記TGF−β1阻害剤ペプチドが治療に有効な量で存在し、請求項8に記載のエマルションの前記シクロデキストリンが医薬的に許容可能なシクロデキストリンである、医薬処方物。
【請求項11】
0.01%〜1%w/wの量のTGF−β1阻害剤ペプチドと、1%〜10%w/wの量のβ−またはγ−シクロデキストリンと、0.5%〜6%w/wの量のセチルPEG/PPG−10/1ジメチコーンと、0.005%〜0.6%w/wの量のパラベン防腐剤と、3%〜20%w/wの量のシリコーンと、10%〜40%w/wの量の鉱油と、100%となるまでの水とを含んでなる、請求項10に記載の医薬処方物。
【請求項12】
前記TGF−β1阻害剤ペプチドを、前記シクロデキストリンまたはその誘導体を含む水溶液と混合することを含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の複合体を調製するための方法。
【請求項13】
a)(i)請求項1〜3のいずれか一項に記載の複合体と、(ii)セチルPEG/PPG−10/1ジメチコーンを含む親油性相とを調製し、
b)前記複合体を前記親油性相に混和させることを含んでなる、請求項8に記載のTGF−β1阻害剤ペプチドエマルションを調製するための方法。
【請求項14】
工程b)の前に、前記複合体および前記親油性相が25℃〜70℃の温度で加熱される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、生成物。
【請求項16】
TGF−β1が介在する疾患または状態の治療用薬剤を製造するための、請求項1〜3のいずれか一項に記載の複合体、または請求項6〜9のいずれか一項に記載のエマルション、または請求項4、5、10もしくは11のいずれか一項に記載の医薬処方物の使用。
【請求項17】
TGF−β1が介在する疾患または状態の治療で使用するための、請求項1〜3のいずれか一項に記載の複合体、または請求項6〜9のいずれか一項に記載のエマルション、または請求項4、5、10もしくは11のいずれか一項に記載の医薬処方物。
【請求項18】
治療を必要とする哺乳動物において、TGF−β1が介在する疾患または状態を治療するための方法であって、請求項1〜3のいずれか一項に記載の複合体、または請求項6〜9のいずれか一項に記載のエマルション、または請求項4、5、10もしくは11のいずれか一項に記載の医薬処方物を有効な量で前記哺乳動物に投与することを含んでなる、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−10】
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【図11−12】
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【図13−14】
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【図15−16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公表番号】特表2012−516879(P2012−516879A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548731(P2011−548731)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際出願番号】PCT/ES2010/070062
【国際公開番号】WO2010/089443
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.UNIX
【出願人】(511172391)
【氏名又は名称原語表記】DIGNA BIOTECH,S.L.
【Fターム(参考)】