説明

TRL校正標準器およびそれを備えた校正装置

【課題】TRL校正の精度を向上することができるTRL校正標準器およびそれを備えた校正装置を提供する。
【解決手段】TRL校正標準器1は、スルー標準器1Tと、リフレクト標準器1Rと、ライン標準器1Lとを備えている。スルー標準器1T、リフレクト標準器1Rおよびライン標準器1Lのそれぞれは、一方面2aから他方面2bを貫通するように2つの貫通孔4が設けられた保持部材2と、両端のそれぞれにプローブ12と電気的に接触するための外部端子3aが設けられた同軸ケーブル3とを含み、同軸ケーブル3の外部端子3aのそれぞれは保持部材2の一方面2a側から2つの貫通孔4のそれぞれに挿入されており、スルー標準器1T、リフレクト標準器1Rおよびライン標準器1Lのそれぞれにおいて、2つの貫通孔4のそれぞれに挿入された外部端子3a同士は同じ間隔Lとなるように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TRL校正標準器およびそれを備えた校正装置に関し、特に、高周波測定器の校正に使用されるTRL校正標準器およびそれを備えた校正装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信機器では現在、数G〜数十GHz帯域の高周波を使用するケースが多い。この通信機器の高周波特性はネットワークアナライザなどの測定器を用いて測定される。その際、Sパラメータ(分散パラメータ)が使用される。この測定器は、環境条件によって誤差を生じるため、測定毎にTRL(Thru Reflect Line)校正と呼ばれる校正を行う必要がある。また、実際に高周波測定を行う際には、測定器、信号配線、プローブなどを含めた測定系のTRL校正を常時行う必要がある。
【0003】
TRL校正は電子デバイス単体の高周波特性を正確に測定するための校正手法である。一般的に電子デバイスはマイクロストリップラインなどの高周波特性を確保した配線上に接続される。マイクロストリップラインの他端が高周波プローブを通じて測定器に接続される。電子デバイス単体の特性を測定するためには、電子デバイスが接続されているマイクロストリップラインの先端までを測定系とし、マイクロストリップラインの先端までを校正する必要がある。
【0004】
そのため、TRL校正では、高周波特性が既知で電極間の距離が違うまたは断線や短絡で完全に反射する、スルー(T;Thru)、リフレクト(R;Reflect)、ライン(L;Line)の3種類の線路を有するそれぞれの標準器が利用される。スルー標準器では、短い伝送経路で標準器の両端が接続されている。リフレクト標準器では、スルー標準器と同一の長さの伝送経路が中央で断線されている。ライン標準器では、スルー標準器より長くなるように伝送経路が延長されている。
【0005】
TRL校正では線路の長さなどの物理的な形状が異なるため、高周波プローブを当てる電極の位置が変化する。そのため、通常は高周波プローブをTRL校正標準器の電極の位置に移動してTRL校正が行われている。
【0006】
一方、形状を被測定物に合わせたTRL校正標準器が提案されている。たとえば特開2007−71780号公報(特許文献1)では、TRL構成法のスルー(Through)の標準器、オープン(Open)の標準器、遅延線路(Line)の標準器の外部端子は、ソケット受け部に予め形成されている校正用電極に適度な圧力で押し当てられるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−71780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記公報では、フレシキブル基板上にマイクロストリップラインが形成され、フレキシブル基板が曲げられることにより標準器が形成されている。そのため、マイクロストリップラインの屈曲により標準器の特性インピーダンスが変化する。このため、標準器の高周波特性が変化する。したがって、TRL校正標準器としての精度が低下するという問題がある。
【0009】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、TRL校正の精度を向上することができるTRL校正標準器およびそれを備えた校正装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のTRL校正標準器は、測定器のプローブと電気的に接触することにより測定器の校正に使用するためのTRL校正標準器であって、スルー標準器と、リフレクト標準器と、ライン標準器とを備えている。スルー標準器、リフレクト標準器およびライン標準器のそれぞれは、一方面から他方面を貫通するように2つの貫通孔が設けられた保持部材と、両端のそれぞれにプローブと電気的に接触するための外部端子が設けられた同軸ケーブルとを含み、同軸ケーブルの外部端子のそれぞれは保持部材の一方面側から2つの貫通孔のそれぞれに挿入されており、スルー標準器、リフレクト標準器およびライン標準器のそれぞれにおいて、2つの貫通孔のそれぞれに挿入された外部端子同士は同じ間隔となるように配置されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明のTRL校正標準器によれば、スルー標準器、リフレクト標準器およびライン標準器のそれぞれにおいて、保持部材の2つの貫通孔のそれぞれに挿入された同軸ケーブルの外部端子同士は同じ間隔となるように配置されている。外部端子の位置が固定された測定系において、屈曲に対して特性インピーダンスがほとんど変化しない同軸ケーブルを用いることにより、特性インピーダンスを変化させることなくTRL校正標準器の配線長を変化させることができる。このため、TRL校正標準器の高周波特性を確保することができる。そのため、TRL校正の精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1における検査装置の概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1における校正装置の概略断面図である。
【図3】図2のP1部を拡大して示す概略断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1におけるTRL校正標準器のスルー標準器の概略断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1におけるTRL校正標準器のリフレクト標準器の概略断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1におけるTRL校正標準器のライン標準器の概略断面図である。
【図7】本発明の実施の形態1における校正装置の変形例の概略断面図である。
【図8】比較例のTRL校正標準器を示す概略断面図であって、スルー標準器を示す図(A)と、リフレクト標準器を示す図(B)と、ライン標準器を示す図(C)である。
【図9】本発明の実施の形態2における校正装置の概略断面図である。
【図10】図9のP2部を拡大して示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
(実施の形態1)
最初に本発明の実施の形態1のTRL校正標準器により校正される検査装置の構成について説明する。
【0014】
図1を参照して、検査装置20は、非測定物の高周波特性を検査するための装置である。非測定物の一例としての基板21の高周波特性を検査装置20により検査する場合について説明する。検査装置20は、測定器11と、プローブ12と、プローブ設置治具13と、信号配線14と、保持治具15とを主に有している。なお、図1では検査装置20によって検査される基板21も図示されている。
【0015】
測定器11は、プローブ12に信号配線14を介して電気的に接続されている。測定器11は、非測定物の高周波特性を測定するためのものであり、たとえばネットワークアナライザである。プローブ12は、プローブ設置治具13の固定孔13aに挿入されることによりプローブ設置治具13に固定されている。これによりプローブ12同士の間隔が固定されている。
【0016】
保持治具15は基板21を保持可能に構成されている。基板21のプローブ12と対向する面には、プローブ12の位置に合わせて検査用パッド22が形成されている。プローブ12は、検査用パッド22と電気的に接続可能なように検査用パッド22の位置に合わせて配置されている。
【0017】
プローブ12は、その先端に3本のプローブ針を有しており、グランド、信号、グランドの順に並んで配置されている。このような構造はGSG構造と呼ばれている。なお、プローブ12は、GSG構造に限定されず、グランド、信号の順に並んで配置されていてもよい。このような構造はGS構造と呼ばれている。
【0018】
検査装置20は、基板21が保持治具15の操作などによってプローブ12に対して図中矢印Y方向に移動することにより、検査用パッド22とプローブ12の先端とが接触可能に構成されている。検査用パッド22とプローブ12とが接触して電気的に接続されることにより、基板21の高周波特性が検査装置20によって検査される。
【0019】
基板21の高周波特性を測定する際には、高周波特性を正確に測定するために、測定器11、プローブ12、信号配線14などを含めた測定系に対して、TRL校正標準器を用いたTRL校正が行われる。
【0020】
次に、本実施の形態のTRL校正標準器を備えた校正装置の構成について説明する。
図2および図3を参照して、校正装置10は、TRL校正標準器1と、検査装置20とを主に有している。つまり、TRL校正標準器1が検査装置20に取り付けられることにより、校正装置10が形成されている。TRL校正標準器1は、測定器11のプローブ12と電気的に接触することにより測定器11の校正に使用するためのものである。
【0021】
図4〜図6を参照して、TRL校正標準器1は、スルー標準器1Tと、リフレクト標準器1Rと、ライン標準器1Lとを備えている。再び図2および図3を参照して、TRL校正標準器1を備えた校正装置10として、スルー標準器1Tが取り付けられた校正装置10の構成について説明する。なお、リフレクト標準器1Rおよびライン標準器1Lについてもスルー標準器1Tと同様に校正装置10に取り付けられる。
【0022】
スルー標準器1Tは、保持部材2と、同軸ケーブル3とを主に有している。保持部材2は、同軸ケーブル3を保持するためのものである。保持部材2は、導電性材料からなっていてもよい。同軸ケーブル3はセミリジッド同軸ケーブルからなっていてもよい。同軸ケーブル3は市販されている通常の仕様のものであってもよい。保持部材2が保持治具15で保持されることにより、スルー標準器1Tは検査装置20に取り付けられている。
【0023】
保持部材2には一方面2aから他方面2bを貫通するように2つの貫通孔4が設けられている。同軸ケーブル3には両端のそれぞれにプローブ12と電気的に接触するための外部端子3aが設けられている。同軸ケーブル3の先端に設けられた外部端子3aのそれぞれは保持部材2の一方面2a側から2つの貫通孔4のそれぞれに挿入されている。外部端子3aは、プローブ12と電気的に接続可能なようにプローブ12の位置に合わせて配置されている。
【0024】
同軸ケーブル3は、外部導体3bと、内部導体3cと、絶縁体3dとを有している。内部導体3cは、絶縁体3dを挟んで外部導体3bの内周側に形成されている。内部導体3cは、外部導体3bの貫通孔4に挿入された端部3b1から突出する部分3c1を有していてもよい。
【0025】
内部導体3cは、プローブ12の中央に配置された信号線に接触可能に構成されている。また、外部導体3bは、保持部材2を介してプローブ12の両端に配置されたグランド線に電気的に接続可能に構成されている。この場合、保持部材2は導電性材料からなっており、同軸ケーブル3は外部導体3bが絶縁体で被覆されていないセミリジッド同軸ケーブルからなっている。これにより、プローブ12は、内部導体3cと保持部材2の他方面2bとに接触することにより、スルー標準器1Tに電気的に接続される。
【0026】
また、同軸ケーブル3の先端の外部端子3aでは、内部導体3cが剥出しにされていてもよい。また、内部導体3cの突出する部分3c1の先端は平滑に形成されていてもよい。また内部導体3cの突出する部分3c1は保持部材2の他方面2bと同一面となる長さに形成されていてもよい。
【0027】
外部導体3bの端部3b1は、貫通孔4の一方面2aと他方面2bとの間に配置されていてもよい。外部導体3bの内径3D1は、外部導体3bの端部3b1が配置された位置から他方面2bまで延びる貫通孔の径4D1よりも大きくなるように設けられていてもよい。この場合、貫通孔の径4Dは、同軸ケーブル3の径3Dに合わせて形成されている。つまり、貫通孔の径4Dは、一方面2aから外部導体3bの端部3b1までにおいて、同軸ケーブル3の径3Dと略同じ大きさに形成されている。
【0028】
外部導体3bの端部3b1が配置された位置から他方面2bまで延びる貫通孔の径4D1は、突出する部分3c1が挿入された貫通孔4により取り巻かれる部分5の特性インピーダンスが同軸ケーブル3の特性インピーダンスと同じ大きさになるように設けられていてもよい。この場合、内部導体3cと、内部導体3cと外部導体3bの端部3b1が配置された位置から他方面2bまで延びる貫通孔4との間の空気とによる特性インピーダンスが同軸ケーブル3の特性インピーダンスと同じ大きさになるように設定されている。
【0029】
次に、スルー標準器1Tと、リフレクト標準器1Rと、ライン標準器1Lとの3種類の標準器の構成について説明する。
【0030】
図4を参照して、このスルー標準器1Tは、図2に示されるスルー標準器1Tと同一の構成を有している。2つの貫通孔4は、互いに間隔Lをあけて配置されている。
【0031】
図5を参照して、リフレクト標準器1Rは、スルー標準器1Tと比較して同軸ケーブル3が中央で断線している点が主に異なっている。同軸ケーブル3は中央に隙間3eを有している。これにより、同軸ケーブル3は中央で分離されている。これ以外の構成はスルー標準器1Tと同様である。
【0032】
図6を参照して、ライン標準器1Lは、スルー標準器1Tと比較して同軸ケーブル3の長さが長い点が主に異なっている。同軸ケーブル3は、保持部材2の一方面2aに沿う方向に延びる部分の高さがスルー標準器1Tより高くなっている。これ以外の構成はスルー標準器1Tと同様である。
【0033】
図4〜6を参照して、スルー標準器1T、リフレクト標準器1Rおよびライン標準器1Lのそれぞれは、一方面2aから他方面2bを貫通するように2つの貫通孔4が設けられた保持部材2と、両端のそれぞれにプローブ12と電気的に接触するための外部端子3aが設けられた同軸ケーブル3とを含んでいる。同軸ケーブル3の外部端子3aのそれぞれは保持部材2の一方面2a側から2つの貫通孔4のそれぞれに挿入されている。
【0034】
スルー標準器1T、リフレクト標準器1Rおよびライン標準器1Lのそれぞれにおいて、2つの貫通孔4のそれぞれに挿入された外部端子3a同士は同じ間隔Lとなるように配置されている。また、スルー標準器1T、リフレクト標準器1Rおよびライン標準器1Lのそれぞれにおいて、2つの貫通孔4の互いの間隔Lも同じとなるように配置されている。
【0035】
次に本実施の形態の校正装置による校正について説明する。
校正実施時には、保持治具15の操作などにより、TLR校正標準器1のスルー標準器1T、リフレクト標準器1Rおよびライン標準器1Lのそれぞれは、プローブ12に対して図中矢印Y方向に移動される。そして、TLR校正標準器1のスルー標準器1T、リフレクト標準器1Rおよびライン標準器1Lのそれぞれの外部端子3aは、プローブ12に電気的に接続される。
【0036】
校正装置10では、TLR校正標準器1のスルー標準器1T、リフレクト標準器1Rおよびライン標準器1LのそれぞれにおけるSパラメータ(分散パラメータ)の測定値から所定の計算により高周波特性の測定における誤差が除去される。これにより、校正装置10では、TLR校正標準器1を用いて高周波測定の校正が行われる。
【0037】
また、上記の保持部材2は金めっき処理が施されていてもよい。
図7を参照して、本実施の形態の変形例のTRL校正標準器1では、保持部材2は、母材2cと、母材2cの表面に形成された金めっき2dとを含んでいる。なお、図7ではスルー標準器1Tが図示されているが、図示されないリフレクト標準器1Rおよびライン標準器1Lも同様に構成されている。
【0038】
この変形例のTRL校正標準器1では、母材2cの表面に金めっき2dが形成されている。金めっき2dの導電率が高いため、保持部材2とプローブ12との導通不良が防止される。また、保持部材2とプローブ12との接触抵抗が低減される。また、また、酸化されにくい金めっき2dで母材2cの表面が覆われているため、保持部材2の表面が酸化されることが防止される。このため、保持部材2の表面の酸化による影響が防止される。
【0039】
次に本実施の形態の作用効果について説明する。
校正は、被測定物に最も近い部分であるプローブ12の先端で行うことで、より正確に行うことができる。そのため、TRL校正の精度を上げるためにはプローブ12の先端で校正する必要がある。
【0040】
一般的にTRL校正に使われるスルー標準器1T、リフレクト標準器1R、ライン標準器1Lのそれぞれは、セラミック基板上に直線に形成されたマイクロストリップラインの長さを変える、またはマイクロストリップラインを断線させることで作られているため、それぞれ外形および外部との接続コネクタである電極(外部端子)の位置が異なる。そのため、この場合、プローブ12をTRL校正標準器1の外部端子3aの位置に移動してTRL校正が行われている。
【0041】
量産などにより複数の特定の被測定物に対して高周波特性の測定を行う場合には、プローブ12の位置、形状などを被測定物に合わせる方が効率的である。そのため、量産などにより被測定物をプローブ12で測定する際には、プローブ12の位置が、たとえば被測定物の一例である電子デバイスの電極位置に固定される。このため、TRL校正標準器1の外部端子3aの位置も電子デバイスの電極位置と同様にプローブ12の位置に合わせる必要がある。
【0042】
図8(A)〜(C)を参照して、比較例に示すように、電極位置が固定されている場合、スルー標準器1Tとライン標準器1Lとでは、電極同士の間隔Lは同じであるがマイクロストリップライン31の配線長が異なる。そのため、ライン標準器1Lにおいて迂回パターンなどで配線長を変えた場合、屈曲のためマイクロストリップライン31の特性インピーダンスが変化する。これによりTRL校正標準器1の精度が低下する。
【0043】
本実施の形態のTRL校正標準器1によれば、スルー標準器1T、リフレクト標準器1Rおよびライン標準器1Lのそれぞれにおいて、保持部材2の2つの貫通孔4のそれぞれに挿入された同軸ケーブル3の外部端子3a同士は同じ間隔Lとなるように配置されている。外部端子3aの位置が固定された測定系において、屈曲に対して特性インピーダンスがほとんど変化しない同軸ケーブル3を用いることにより、特性インピーダンスを変化させることなくTRL校正標準器1の配線長を変化させることができる。このため、TRL校正標準器1の高周波特性を確保することができる。そのため、TRL校正の精度を向上することができる。
【0044】
また、本実施の形態のTRL校正標準器1によれば、プローブ12の位置に合わせて保持部材2によりTRL校正標準器1の外部端子3aの位置が固定されている。このため、プローブ12の位置をTRL校正標準器1の形状に合わせて移動させる場合と比較して、外部端子3aにプローブ12の先端を簡単に接触させて校正することができる。そのため、TRL校正を容易にすることができる。
【0045】
本実施の形態のTRL校正標準器1によれば、内部導体3cが外部導体3bの貫通孔4に挿入された端部3b1から突出する部分3c1を有し、外部導体3bの内径3D1が外部導体3bの端部3b1が配置された位置から他方面2bまで延びる貫通孔の径4D1よりも大きくなるように設けられていてもよい。
【0046】
これにより、内部導体3cの突出する部分3c1と、保持部材2の外部導体3bの端部3b1が配置された位置から他方面2bまで延びる貫通孔4の近傍の部分とにプローブ12を接触させることにより、同軸ケーブル3の内部導体3cと外部導体3bとにプローブ12を接触させる場合と比較して、プローブ12の間隔を狭くすることができる。そのため、TRL校正標準器1は、より狭いプローブ12の間隔に対応することができるため、非測定物の適用範囲を広げることができる。
【0047】
さらに、同軸ケーブル3の先端で内部導体3cの突出する部分3c1が形成されておらず、同軸ケーブル3が保持部材2の他方面2bまで挿入されている場合と比較して本実施の形態のTRL校正標準器1の作用効果を説明する。たとえば、同軸ケーブル3の特性インピーダンスが50Ω、内部導体3cの径が0.51mm、絶縁体3dの径が1.68mm、外部導体3bの径が2.19mmの場合、絶縁体3dの径が1.68mmであるので、接触させるためにはプローブ12の信号線とグランド線とのピッチは0.84(1.68/2=0.84)mm以上とする必要がある。
【0048】
一方、本実施の形態のTRL校正標準器1では、同軸ケーブル3の絶縁体3dの材質は、たとえばPTFE(Polytetrafluoroethylene;ポリテトラフルオロエチレン)からなっている。内部導体3cが剥出しになった部分では空気が絶縁体となる。たとえば、この部分の特性インピーダンスを同軸ケーブル3の特性インピーダンスと同様の50オームにするためには、外部導体3bの端部3b1が配置された位置から他方面2bまで延びる貫通孔の径4D1は約1.17mmと計算される。なお空気(大気)の比誘電率は1.0006とした。このため、プローブ12の信号線とグランド線とのピッチは約0.59(1.17/2=0.59)mmとなる。これにより、ピッチの狭いプローブ12を使用することができる。
【0049】
本実施の形態のTRL校正標準器1によれば、外部導体3bの端部3b1が配置された位置から他方面2bまで延びる貫通孔の径4D1は、突出する部分3c1が挿入された貫通孔4により取り巻かれる部分5の特性インピーダンスが同軸ケーブル3の特性インピーダンスと同じ大きさになるように設けられていてもよい。
【0050】
これにより、取り巻かれる部分5では空気(大気)が絶縁体となる。空気(大気)の比誘電率は、同軸ケーブル3のたとえばPTFEからなる絶縁体3dの比誘電率より小さいため、貫通孔の径4D1を同軸ケーブル3の外部導体3bの内径3D1より小さくすることができる。そのため、同軸ケーブル3の内部導体3cと外部導体3bとにプローブ12を接触させる場合と比較して、プローブ12の間隔を狭くすることができる。そのため、TRL校正標準器1は、より狭いプローブ12の間隔に対応することができるため、非測定物の適用範囲を広げることができる。
【0051】
本実施の形態のTRL校正標準器1によれば、保持部材2は導電性材料からなっており、同軸ケーブル3はセミリジッド同軸ケーブルからなっていてもよい。これにより、保持部材2の他方面2bに接触したプローブ12のグランド線は保持部材2を経由してセミリジッド同軸ケーブル3の外部導体3bに確実に電気的に接続することができる。
【0052】
本実施の形態のTRL校正標準器1によれば、保持部材2は、母材2cと、母材2cの表面に形成された金めっき2dとを含んでいてもよい。これにより、金めっき2dの導電率が高いため、保持部材2とプローブ12との導通不良を防止することができる。また、保持部材2とプローブ12との接触抵抗を低減することができる。また、酸化されにくい金めっき2dで母材2cの表面が覆われているため、保持部材2の表面が酸化されることが防止される。このため、保持部材2の表面の酸化による影響を防止することができる。
【0053】
本実施の形態のTRL校正装置10によれば、測定器11と、測定器11のプローブ12と電気的に接触することにより測定器11の校正に使用するための上記のTRL校正標準器1とを備えている。このため、TRL校正の精度を向上することができる。また、検査装置20をそのままTRL校正装置10の一部として使用できるため、生産性を向上することができる。
【0054】
本実施の形態のTRL校正装置10によれば、プローブ12を外部端子3aの間隔と同じ間隔に固定するためのプローブ設置治具13と、プローブ設置治具13に固定されたプローブ12と測定器11とを接続するための信号配線14と、TRL校正標準器1を測定器11に信号配線14で接続されたプローブ12に対して移動可能に設けられている保持治具15とをさらに備えていてもよい。
【0055】
これにより、プローブ設置治具13でプローブ12の間隔が確実に保持された状態で、保持治具15でTRL校正標準器1をプローブ12に対して移動することができる。このため、確実にプローブ12と外部端子3aとを電気的に接続することができる。
【0056】
本実施の形態のTRL校正装置10によれば、測定器11はネットワークアナライザであってもよい。これにより、特性インピーダンスなどの高周波特性を測定することができる。
【0057】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2では、実施の形態1と比較して、同軸ケーブルの外部端子の形状が主に異なっている。
【0058】
図9および図10を参照して、本実施の形態のTRL校正標準器1では、貫通孔の径4Dは、一方面2aから他方面2bまで同じ大きさで設けられている。貫通孔の径4Dは、同軸ケーブル3の径3Dと同じ大きさに設けられている。
【0059】
なお、図9および図10では、スルー標準器1Tが取り付けられた校正装置10が図示されているが、図示されていないリフレクト標準器1Rおよびライン標準器1Lについてもスルー標準器1Tと同様に校正装置10に取り付けられる。
【0060】
同軸ケーブル3の先端は、外部導体3b、内部導体3cおよび絶縁体3dが同一面上に配置されている。TRL校正標準器1は、実施の形態1のTRL校正標準器1と比較して、内部導体3cの突出する部分3c1は有していない。つまり、外部端子3aは同一面上に設けられている。
【0061】
同軸ケーブル3は、保持部材2に一方面2a側から挿入されており、他方面2bに達するように配置されている。同軸ケーブル3の貫通孔4に挿入された外部端子3aの端部3a1は、他方面2bと同一面上に位置している。
【0062】
なお、本実施の形態のこれ以外の構成および方法は上述した実施の形態1と同様であるため、同一の要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0063】
本実施の形態のTRL校正標準器1によれば、貫通孔の径4Dが同軸ケーブル3の径3Dと同じ大きさであり、同軸ケーブル3の貫通孔4に挿入された外部端子3aの端部3a1は、他方面2bと同一面上に位置している。
【0064】
このため、保持部材2の貫通孔の径4Dを途中で変える必要がない。また同軸ケーブル3の先端を内部導体3cが突出するように加工する必要がない。そのため、TRL校正標準器1の作成が容易になる。したがって、生産性を向上することができる。プローブ12のピッチを大きく設定できる場合に本実施の形態のTRL校正標準器1の構成を採用することが特に有効である。
【0065】
上記の各実施の形態は、適時組み合わせることができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【符号の説明】
【0066】
1 TRL校正標準器、1T スルー標準器、1R リフレクト標準器、1L ライン標準器、2 保持部材、2a 一方面、2b 他方面、2c 母材、2d 金めっき、3 同軸ケーブル(セミリジッド同軸ケーブル)、3a 外部端子、3a1 外部端子の端部、3b 外部導体、3b1 外部導体の端部、3c 内部導体、3c1 突出する部分、3d 絶縁体、3e 隙間、3D 同軸ケーブルの径、3D1 外部導体の内径、4 貫通孔、4D 貫通孔の径、4D1 外部導体の端部が配置された位置から他方面まで延びる貫通孔の径、5 取り巻かれる部分、10 校正装置、11 測定器、12 プローブ、13 プローブ設置治具、13a 固定孔、14 信号配線、15 保持治具、20 検査装置、21 基板、22 検査用パッド、31 マイクロストリップライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定器のプローブと電気的に接触することにより前記測定器の校正に使用するためのTRL校正標準器であって、
スルー標準器と、
リフレクト標準器と、
ライン標準器とを備え、
前記スルー標準器、前記リフレクト標準器および前記ライン標準器のそれぞれは、
一方面から他方面を貫通するように2つの貫通孔が設けられた保持部材と、
両端のそれぞれに前記プローブと電気的に接触するための外部端子が設けられた同軸ケーブルとを含み、
前記同軸ケーブルの前記外部端子のそれぞれは前記保持部材の前記一方面側から2つの前記貫通孔のそれぞれに挿入されており、
前記スルー標準器、前記リフレクト標準器および前記ライン標準器のそれぞれにおいて、2つの前記貫通孔のそれぞれに挿入された前記外部端子同士は同じ間隔となるように配置されている、TRL校正標準器。
【請求項2】
前記同軸ケーブルは、
外部導体と、
前記外部導体の内周側に形成され、かつ前記外部導体の前記貫通孔に挿入された端部から突出する部分を有する内部導体とを含み、
前記外部導体の端部は、前記貫通孔の前記一方面と前記他方面との間に配置されており、
前記外部導体の内径は、前記外部導体の端部が配置された位置から前記他方面まで延びる前記貫通孔の径よりも大きくなるように設けられている、請求項1に記載のTRL校正標準器。
【請求項3】
前記外部導体の端部が配置された位置から前記他方面まで延びる前記貫通孔の径は、前記突出する部分が挿入された前記貫通孔により取り巻かれる部分の特性インピーダンスが前記同軸ケーブルの特性インピーダンスと同じ大きさになるように設けられている、請求項2に記載のTRL校正標準器。
【請求項4】
前記貫通孔の径が前記同軸ケーブルの径と同じ大きさであり、
前記同軸ケーブルの前記貫通孔に挿入された前記外部端子の端部は、前記他方面と同一面上に位置している、請求項1に記載のTRL校正標準器。
【請求項5】
前記保持部材は導電性材料からなっており、
前記同軸ケーブルはセミリジッド同軸ケーブルからなっている、請求項1〜4のいずれかに記載のTRL校正標準器。
【請求項6】
前記保持部材は、
母材と
前記母材の表面に形成された金めっきとを含んでいる、請求項1〜5のいずれかに記載のTRL校正標準器。
【請求項7】
前記測定器と、
前記測定器の前記プローブと電気的に接触することにより前記測定器の校正に使用するための請求項1〜6のいずれかに記載のTRL校正標準器とを備えた、校正装置。
【請求項8】
前記プローブを前記外部端子の間隔と同じ間隔に固定するためのプローブ設置治具と、
前記プローブ設置治具に固定された前記プローブと前記測定器とを接続するための信号配線と、
前記TRL校正標準器を前記測定器に前記信号配線で接続された前記プローブに対して移動可能に設けられている保持治具とをさらに備えた、請求項7に記載の校正装置。
【請求項9】
前記測定器はネットワークアナライザである、請求項7または8に記載の校正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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