説明

TRPCドメイン及びSESTD1ドメインの複合体並びにこれを必要とする方法及び使用

本発明は、古典的一過性受容体電位チャネル(TRPC)又はその機能的に活性な変異体を含む又はからなる第1タンパク質と、SEC14及びスペクトリンドメイン1(SESTD1)の第1スペクトリン(Spec 1)ドメインを含む又はからなる第2タンパク質とを含む、単離された複合体;第1タンパク質及び第2タンパク質並びに第1及び第2タンパク質の相互作用を検出するための手段を含むテストシステム;該システムを使用してTRPCモジュレーターをスクリーニングするための方法;並びにTRPCモジュレーターの同定のための該テストシステムの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一過性受容体電位チャネル(TRPC)又はその機能的に活性な変異体を含む又はからなる第1タンパク質と、SEC14及びスペクトリンドメイン1(SESTD1)の第1スペクトリン(Spec 1)ドメインを含む又はからなる第2タンパク質とを含む、単離された複合体;第1タンパク質及び第2タンパク質並びに第1及び第2タンパク質の相互作用を検出するための手段を含むテストシステム;該システムを使用してTRPCモジュレーターをスクリーニングするための方法;並びにTRPCモジュレーターの同定のための該テストシステムの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
古典的一過性受容体電位チャネルタンパク質(TRPC)は、非特異的カチオンチャネルのファミリーを構成する。それらは、ショウジョウバエTRPの初めて発見された哺乳類ホモログであり、その十分にキャラクタライズされた無脊椎動物祖先に最も近縁なサブファミリーである。これらの事実にもかかわらず、それらのネイティブな組成及び活性化機構、生理学的機能、並びに病態生理学及び疾患における役割に関して、多くの未解決の問題が存在する。
【0003】
ネイティブなTRPCチャネルのインサイチュ同定は、それらの広く、部分的に重複する分布、潜在的なヘテロ多量体化、類似する電気生理学的特性、及びこれらのチャネルを明白に追跡するツール化合物の不足によって、複雑化される。公知の有機阻害剤、例えば、2-アミノエトキシジフェニルボレート(2-APB)、エコナゾール、フルフェナメート、ルテニウムレッド、SK&F 96365、及び無機遮断薬、例えば、Gd3+、La3+は、十分には強力ではなく特異的ではない。トランスジェニックマウスにおける研究は、あるTRPCの可能性のある生理学的機能を解明することにおいて価値があることが既にわかっている。しかし、これらのモデルシステムは、今までのところ、7つの哺乳類TRPCチャネルの各々について存在せず、それらの作製及び分析は、時間及び費用がかかり、それらはまた、密接に関連するチャネルによる代償効果に弱いので、制限を有する。ドミナントネガティブチャネルサブユニットでの研究又は低分子干渉RNA(siRNA)での遺伝子破壊は、タンパク質発現の、それぞれ、誘導又は抑制に依存する。これはある程度時間がかかり得るので、代償効果が同様に可能であり、これは、チャネルが選択的ツール化合物で即座に遮断される場合には見られないと予想される。
【0004】
識別力のあるツール化合物の重要性及び価値は、TRPV1標的化薬物の迅速な開発によって強調される。このチャネルもまた、TRPスーパーファミリーに属し、その生理学的機能が、特異的アクチベーター(カプサイシン)の使用によって解明された。そのクローニング後の10年、いくつかの臨床試験が進行中であり、多数の適応症における、例えば、異なるタイプの疼痛、片頭痛、及び切迫尿失禁における、TRPV1調節の治療的価値をテストしている。
【0005】
内皮カルシウムシグナル伝達の調節異常は、多くの心臓血管の病理学的影響、例えば、アテローム性動脈硬化症、冠状動脈症候群、心不全及び腎不全、高血圧並びに血栓症に関与する。TRPC4欠損マウスからの証拠は、アゴニスト誘発内皮依存性血管弛緩についてのその必要性、及び内皮バリア機能の調節におけるその関与を示唆している。従って、TRPC4などのTRPCを調節することは、前述の病態生理学的状態を治療するための見込みのあるアプローチであり得る。しかし、TRPCについての創薬は、異種発現システムにおいてネイティブな流れを忠実に再構成することが困難であるために、妨げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の1つの目的は、細胞中におけるTRPCチャネル機能のよりよい理解を得るために、さらにTRPCチャネル複合体の新規のレギュレーター又はモジュレーターを同定するために使用され得る、新規の薬理学的ツールを開発することであった。好ましくは、新規のツールは、物質の経済的かつ便利なテスト、例えば、ハイスループットスクリーニング法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、以下を含む単離された複合体を提供することによって解決された:
− 一過性受容体電位チャネル(TRPC)又はその機能的に活性な変異体を含む又はからなる第1タンパク質、及び
− SEC14及びスペクトリンドメイン1(SEC14 and spectrin domains 1)(SESTD1)の第1スペクトリン(Spec 1)ドメインを含む又はからなる第2タンパク質。
【0008】
代替の単離された複合体は、以下を含む:
− 一過性受容体電位チャネル(TRPC)又はその機能的に活性な変異体のドメインを含む又はからなる第1タンパク質、該ドメインは、配列
【化1】

を有し、ここで、各Xは任意のアミノ酸残基を示す、及び
− SESTD1のSpec 1ドメインを含む又はからなる第2タンパク質。
【0009】
従って、本発明の第1及び第2局面は、以下に関する:
− 一過性受容体電位チャネル(TRPC)又はその機能的に活性な変異体を含む又はからなる第1タンパク質、及び
− SEC14及びスペクトリンドメイン1(SESTD1)の第1スペクトリン(Spec 1)ドメインを含む又はからなる第2タンパク質
を含む、単離された複合体
又は
− 一過性受容体電位チャネル(TRPC)又はその機能的に活性な変異体のドメインを含む又はからなる第1タンパク質、該ドメインは、配列
【化2】

を有し、ここで、各Xは任意のアミノ酸残基を示す、及び
− SESTD1のSpec 1ドメインを含む又はからなる第2タンパク質
を含む、単離された複合体。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】SESTD1のトポロジーを示す図である。全長タンパク質は、696個のアミノ酸からなり(予想される分子量79 kDa)、3つの構造ドメインから構成される。Sec 14(aa 8-147):SEC14p様脂質結合ドメイン;Spec 1(aa 233-381)、Spec 2(aa 430-605):スペクトリンリピート1及び2。
【図2】mTRPC4α-C末端のSESTD1結合部位のマッピングを示す図である。(A)SESTD1結合についてスクリーニングされたmTRPC4α C末端切断の略図。(B)mTRPC4α C末端の切断突然変異体(バイト(bait))及び全長hSESTD1(プレイ(prey))で同時形質転換された酵母コロニーを、選択的-Trp/-Leu/-Ade/-His寒天プレート上に平板培養した。酵母成長(明るい色)は、前記構築物の相互作用を示す。
【図3】異なるTRPCのC末端とSESTD1との相互作用の酵母ツーハイブリッドアッセイを示す図である。選択的-Trp/-Leu/-Ade/-His寒天プレート上に平板培養された、記載のTRPCチャネルのC末端(バイト)及び全長hSESTD1(プレイ)で同時形質転換された酵母コロニーが示される。酵母成長(明るい色)は、構築物の相互作用を示す。
【図4】mTRPC4α-C末端(aa 615-974)のGST-SESTD1プルダウンを示す図である。mTRPC4α-C末端(aa 615-974)を過剰発現するHEK293細胞由来の、GST-SESTD1(レーン3)又はGST(ネガティブコントロール、レーン4)で沈殿されたサンプルの抗TRPC4(1:200)免疫ブロット。ブロットを、二次Alexa Fluor 680ヤギ抗ウサギ(1:2,500)抗体で顕色させた。
【図5】GST-SESTD1融合タンパク質を示す図である。SESTD1の異なる部分を含有するGST融合タンパク質を、所定のスキームに従って構築した。GSTプルダウン研究のために、タンパク質を発現させ、細菌から精製した。
【図6】SESTD1中の相互作用部位としてのSpec 1の同定を示す図である。(A、B)mTRPC4α(A)又はmTRPC4β(B)を過剰発現するHEK293細胞由来の、記載のGST融合タンパク質又はGSTで沈殿されたサンプルの抗TRPC4免疫ブロット。(C)mTRPC5を過剰発現するHEK293細胞を用いての同様の実験の抗TRPC5免疫ブロット。ブロットを、二次Alexa Fluor 680ヤギ抗ウサギ(1:2,500)抗体で顕色させた。
【図7】SESTD1中のTRPC4/5相互作用部位としてのSpec 1の確認を示す図である。-Trp/-Leu/-His/-Ade上に平板培養された、mTRPC4α-又はmTRPC5-C末端及び全長SESTD1又はSESTD1-Sec 14、-Spec 1、若しくは-Spec 2構築物で同時形質転換された酵母コロニーが示される。酵母成長(明るい色)は、構築物の相互作用を示す。
【図8】ポリクローナルSESTD1抗体が、内因性及び過剰発現されたSESTD1を検出することを示す図である。トランスフェクトされていない(N)HM1細胞由来、及びHAタグ付きSESTD1でトランスフェクトされたHM1細胞(T)由来の溶解物を、抗HA及び抗SESTD1 #147(A)又は抗SESTD1 #148(B)抗体並びに二次Alexa Fluor 680ヤギ抗ウサギ(1:2,500)抗体で、ウエスタンブロットにおいてプローブした。抗体は両方とも、約80kDaの見かけの質量を有するタンパク質として、HA-SESTD1及び内因性SESTD1(トランスフェクトされていない細胞中)を検出した。
【図9】SESTD1は、mTRPC4β及びmTRPC5と共に共免疫沈降することを示す図である。(A)HAタグ付きSESTD1及びFLAGタグ付きmTRPC4β又はpcDNA3.1でコトランスフェクトされたHM1細胞の膜由来の、抗TRPC4免疫沈降物(P)及び対応の溶解物(L)のウエスタンブロット。(B)HAタグ付きSESTD1及びGFPタグ付きmTRPC5又はpcDNA3.1でコトランスフェクトされたHM1細胞由来の、抗GFP免疫沈降物(P)及び対応の溶解物(L)のウエスタンブロット。両方のブロット(A、B)を、抗SESTD1抗体#148(1:5,000)及びAlexa Fluor 680ヤギ抗ウサギ(1:2,500)でプローブした。
【図10】siRNAのトランスフェクションが、HM1-C5Y細胞中SESTD1タンパク質の発現を効率的に低下させることを示す図である。HM1-C5Y細胞に、20 nM特異的SESTD1 siRNA(Sp. siRNA)、非特異的コントロールsiRNA(Unsp. siRNA)、又はリポソームのみ(モック)をトランスフェクトし、トランスフェクションの48時間後に分析した。抗SESTD1及び抗GAPDH抗体と共にインキュベートされたウエスタンブロットは、siRNAトランスフェクトされた細胞中、内因性SESTD1タンパク質レベルの有意な減少を示した。
【図11】ヒト組織中におけるSESTD1 mRNAの発現を示す図である。SESTD1 mRNA発現を、qRT-PCRを用いて異なるヒト組織中において測定し、ハウスキーピング遺伝子RPL37aの発現に対して標準化した。示されるデータは二重の平均値である。1 脳;2 小脳;3 海馬;4 皮質;5 脊髄;6 副腎;7 心臓;8 大動脈;9 脂肪;10 脾臓;11骨髄;12 骨格筋;13 皮膚;14 気管;15 肺;16 胃;17 小腸;18結腸;19 肝臓;20膵臓;21 腎臓;22 乳房;23 卵巣;24 子宮;25 胎盤;26 精巣;27 前立腺;28 AoSMC;29 HUVEC。アスタリスクは、TRPC4又はTRPC5の有意な発現が報告された組織を意味する。
【図12】ヒト初代細胞中のSESTD1発現を示す図である。抗SESTD1 #148(1:5,000)及び二次Alexa Fluor 680ヤギ抗ウサギ抗体(1:2,500)で顕色された、記載の細胞サンプルのウエスタンブロット。各レーンにタンパク質15μgをロードした。等しいローディングが、ハウスキーピング遺伝子GAPDHの並行染色によって確認された。
【図13】リン脂質のSESTD1結合が、Ca2+依存性であることを示す図である。GST-SESTD1は、Ca2+依存性様式で、種々のホスファチジルイノシトールホスフェート(PIP)及びホスファチジン酸(PA)に特異的に結合したが、他のリン脂質にはそうでなかった。PIPストリップ(Echelon)を、60 nM又は2.5 μM遊離Ca2+を含有するブロッキング緩衝液中のGST-SESTD1で、又はブロッキング緩衝液中のGSTでプローブし、続いて、抗GST抗体(1:2,000)及びHRP結合ヤギ抗ウサギ抗体(1:20,000)でプローブした。シグナルを、増強化学発光(ECL)によって検出した。
【図14】DELFIAを使用しての、Cova-PIP特異性プレート(specifity plate)中の、SESTD1−リン脂質結合の検出を示す図である。各々にPIPn 100 pmolがロードされたポリスチレンマイクロタイターウエルを、所定の濃度のGST-SESTD1又は緩衝液のみと共に3時間インキュベートした。結合されたタンパク質を、抗GST(1:1,000)及び二次Eu-N1標識ヤギ抗ウサギ抗体(50ng/ウエル)で検出した。ランタニド蛍光(λexc=340 nm、λem=620 nm)を測定した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のコンテクストにおける単離された複合体は、その天然環境においては存在しない、本明細書において定義される第1及び第2タンパク質の複合体に関する。従って、「単離された複合体」は、本明細書において定義されるTRPC及びSESTD1のシグナル変換の部分ではないタンパク質と会合していないか、又は、それ(又はその構成成分)が、それが通常生じる細胞から単離されているか、又は、これをコードする核酸が発現されている細胞から単離されているか、又は、それぞれのシグナル変換経路に関与しない同一の細胞供給源由来の他のタンパク質を本質的に含んでいない。複合体は、天然の複合体、好ましくは、TRPC及びSESTD1又はその部分(本明細書において定義される通り)の天然の複合体であり得る。しかし、複合体のタンパク質はまた、それらが天然に生じないという点において、それらが天然には互いに連結されない1つ又はそれ以上のセクションを含み得るという点において、人工的であり得る;例えば、本明細書において定義されるTRPC又はSESTD1の部分と、さらなるタンパク質、例えば、第2ドメイン、又は、例えば、検出及び/又は精製目的のために使用される他の成分とを含む又はからなる融合タンパク質。
【0012】
好ましくは、用語「単離された複合体」は、その天然環境の他の細胞成分から本質的に分離されているタンパク質複合体を意味する。しかし、複合体のタンパク質の単離後に、細胞成分が、例えば、シグナル変換経路を測定するために、再び添加され得る。さらに、当業者は、単離された複合体は、単離された複合体の活性を可能にする好適な条件下で、例えば、好適な緩衝液、pH値、イオンなどの下で維持されることを理解する。
【0013】
本発明の複合体の1タンパク質は、以下を含む又はからなる:
− 第1選択肢において、一過性受容体電位チャネル(TRPC)又はその機能的に活性な変異体
又は
− 第2選択肢において、一過性受容体電位チャネル(TRPC)又はその機能的に活性な変異体のドメイン、該ドメインは、配列
【化3】

を有し、ここで、各Xは任意のアミノ酸残基を示す。
【0014】
TRPCは、任意の天然のTRPCであり得る。アミノ酸配列相同性及び機能的類似性に基づいて、TRPCは、4つのグループに下位分類され得る。TRPCファミリー内でかなり独特であるが、TRPC1及びTRPC2は、各々、それら自体によってサブファミリーを構成し、一方、TRPC4及び5は、TRPC3、6、及び7と同様に、まとめられる。これらのサブファミリー内でのヘテロマー相互作用が、TRPC1とTRPC4/5又はTRPC3/6/7サブファミリーメンバーのいずれかとのコアセンブリと同様に、示された。TRPC4/5及びTRPC3/6/7サブグループ間でクロス会合は生じないと長い間考えられていたが、最近、内因性レドックス感受性TRPC3/4ヘテロマーが、ブタの大動脈内皮細胞中において報告された。
【0015】
7つのTRPCを、下記においてそれらの可能性のあるインビボ機能と共に紹介する。
【0016】
TRPC1サブファミリー:広く発現されるホモマーTRPC1の研究は、細胞株中において該異所性タンパク質の形質膜標的化がないことによって妨げられてきた。使用される過剰発現系に依存して、報告は、細胞内膜中における保持に起因しての堅牢なTRPC1シグナルの欠如から、sf9細胞中におけるチャネル特性の詳細な説明に及ぶ。可能性のある説明は、過剰発現系中において補助サブユニット又は相互作用タンパク質がないことである。TRPC1の形質膜発現は、他のタンパク質、例えば、TRPC、カベオリン-1及びRhoAとの相互作用に依存することが示された。sf9細胞中においても、TRPC1によって刺激され得る、ホモ若しくはヘテロマーチャネルが又はネイティブチャネルでさえ、測定されるかどうかは、確かでない。今までのところ、異所的に発現されるホモマーTRPC1は、受容体、DAG、IP3R又は伸展活性化チャネルとして又は非機能性チャネルサブユニットとして記載され、ネイティブなTRPC1ホモマーの存在は今までのところ明白にはわかっていない。しかし、前記内因性タンパク質は、Purkinje細胞中における興奮性シナプス後コンダクタンス(EPSC)に必要とされ、従って、それは、神経可塑性に関与し得る。さらに、TRPC1は、新生内膜過形成及び心肥大においてアップレギュレートされ、その機能は、Duchenne型筋ジストロフィーに苦しむ患者において影響され得る。最近、TRPC1についての役割が、乳癌において提案された。TRPC1はまた、多発性嚢胞腎疾患の発達に関与する遠縁のTRPタンパク質であるTRPP2と相互作用すると報告された。結論として、TRPC1は、多くの病理学的及び生理学的プロセスに携わるようであり、その機能的役割のいくつかは、関連のTRPCによって容易には代償されない。これらの特徴は、遮断細胞外抗体へのそのアクセス可能性と共に、それを潜在的な薬物標的とするが、その広い発現及び好まれるヘテロ多量体化に起因して、それは、恐らく、容易には適用可能でない。
【0017】
TRPC2サブファミリー:TRPC2は、ヒトにおいては偽遺伝子であるが、齧歯動物においてはフェロモン感覚のために必須である。このチャネルを欠いている雄性マウスは、典型的な雄性間の攻撃的行動を示さず、求愛行動(court consexual)さえ示さない。TRPC2の細胞外ドメインへ向けられた抗体は、受精に重要な先体反応を阻害する。しかし、TRPC2ノックアウトマウスは、生殖において欠陥を示さなかった。TRPC2は、他のTRPCチャネルとヘテロ多量体化しないようである。
【0018】
TRPC3/6/7サブファミリー:そのメンバーは、70〜80%アミノ酸同一性を共有し、PLC産物DAGによって直接活性化される。TRPC3及び6活性は、非受容体型チロシンキナーゼSrc及びFynによるN-グリコシル化及びリン酸化によって調節される。
【0019】
ヒトにおいて、TRPC3は、脳、平滑筋及び血管内皮細胞において高度に発現される。それは、軸索成長ガイダンス、出生時前後のシナプス可塑性、及び心臓Ca2+恒常性に関与するようである。心筋細胞において、TRPC3に起因する細胞内Na+レベルの異常な蓄積は、Na+/Ca2+交換体(NCX1)モードを逆転させることが示された。このモード逆転は、Ca2+を細胞中へ輸送し、病態生理学的プロセス、例えば、心不全及び虚血に関与し得る。TRPC3は、TRPC4と共にレドックス感受性チャネルへとコアセンブルするとわかった。例えば脳
卒中によって誘発される、脳中の酸化ストレスは、レドックス感受性TRPCチャネルを活性化し、制御されないCa2+流入へ至り得ると仮定される。得られる神経変性は、最終的にTRPCアンタゴニストによって最小限にされ得る。
【0020】
TRPC6は、血管及び気道平滑筋細胞(SMC)の両方に存在し、血管及び心臓系において必須の役割を果たすようである。アゴニスト又は増加血管内圧によるその刺激は、膜を脱分極させると仮定される。続いて、L型電位依存性Ca2+チャネルが活性化され、これらは、最終的に筋収縮及び反射血管収縮を媒介する(Bayliss効果)。これに反して、アゴニス
ト誘発気管支収縮は、電圧非依存性チャネル(例えば、TRPC6)によって媒介されるCa2+流入に主に依存し、従って、L型Ca2+チャネル遮断薬は、例えば、喘息及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)において、有効ではない。特発性肺動脈高血圧(IPAH)に苦しむ患者の肺動脈SMC(PASMC)は、過剰増殖性であり、TRPC6(及びTRPC3)発現が有意に増加する。PASMC過剰増殖は、TRPC6低分子干渉RNA(siRNA)、又はIPAH患者の治療について認可されたエンドセリン受容体遮断薬であるボセンタンでの治療後に、著しく低下した。TRPC6はまた、白血球において見られ、喘息及びCOPDにおける炎症反応を恐らく媒介する。従って、TRPC6阻害は、IPAH、進行性の寿命を縮める疾患(右心不全)、及び他の慢性呼吸疾患の治療についての興味深い治療戦略であるようである。しかし、TRPC6はまた、むしろ遮断されるべきでない気道SMCにおける生理学的機能を有する。急性低酸素性肺血管収縮(HPV)を調節することが必要である。血流は、不十分に換気された領域から、急性低酸素条件下で適切なガス交換を維持する十分に換気された領域へ向けられる。肺炎、成人呼吸窮迫症候群、及び肝不全において生じるようなHPVにおける障害は、生命を脅かす低酸素血症を引き起こし得る。TRPC6は、HPVにおいて必須であるが、肺血管性高血圧、及び慢性低酸素症から生じるリモデリングには関与しない。末期腎疾患の大きな原因である、遺伝性巣状分節状糸球体硬化症(FSGS)におけるTRPC6の関与についての説得力のある証拠もまた示された。TRPC6機能獲得型突然変異体は、足細胞足突起への増加したCa2+流入へ導いたが、それは、これが疾患を引き起こすかどうか及びこれがどのようにして疾患を引き起こすかは、分かっていない。これらの細胞は、糸球体スリット膜と一緒に、その損傷が蛋白尿を生じさせる糸球体フィルターの重要な部分を形成する。糸球体フィルターは、必要不可欠なスリット膜構成成分である、ネフリンを欠損したトランスジェニックマウスにおいて乱されている。TRPC6は、これらのマウスの足細胞において過剰発現及びミスロケートされている。最近、TRPC6発現が、補体処理された足細胞においてアップレギュレートされ、アクチン細胞骨格再配置へ至ることもまたインビトロで示され、一方、インビボでの一過性チャネル過剰発現は、マウスにおいて蛋白尿へ至った。TRPC6欠損マウスは、予想外の驚くべき表現型を有する。上述のチャネルの提案される生理学的機能に反して、これらの動物は、気管支収縮剤に応答しての気道平滑筋過敏性、酸化窒素(NO)シンターゼの阻害によってさらに増加され得る上昇された平均動脈血圧、及び、Bayliss効果(過度の反射血管収縮)を誘発するに必要な血管内圧の低下した閾値を示した。また、TRPC6-/-マウスのSMC中における基底及びアゴニスト誘発カチオン流入は、より高い。一部分は、これは、密接に関連するチャネルであるTRPC3の増加した発現によって説明され得る。それは、より高い基底活性を有し、血管収縮剤によってそれほど強くは調節されず、従って、TRPC6ノックアウトを過剰代償し、このことは、両方のチャネルが機能的に重複していないことを実証している。逆のアプローチは、心肥大の病因におけるTRPC6の役割を明らかにした。トランスジェニックマウスにおける心臓特異的TRPC過剰発現は、増加したCa2+流入へと至り、これは、カルシニューリンを介して活性化T細胞の核因子(NFAT)刺激へと連結する。病的な心臓リモデリングは加速され、これらのマウスは、短縮された平均余命を有した。心筋細胞中におけるインビボTRPC6アップレギュレーションが肥大に関係する一方、それは、インビトロで心臓線維芽細胞中において保護的抗線維症機能を有するようである。さらなるインビボ研究が、TRPC6調節の治療的価値並びに心不全の病因におけるTRPC3及びTRPC3/6ヘテロマーの関与を評価するために必要とされる。
【0021】
TRPC7は、眼、心臓及び肺において発現され、より低い転写物レベルが、脳、脾臓及び精巣において見られるが、その生理学的機能ははっきりしないままである。
【0022】
TRPC4/5サブファミリー:これらのチャネルは、64%同一性を共有し、TRPC1に最も密接に関連する(このためいくつかのグループはこのサブファミリー内にTRPC1を分類するように説得される)。TRP及び他のストア感受性チャネルの特有の特徴は、Gq/11受容体媒介活性化後のランタニド(例えば、Gd3+、La3+)によるそれらの増強である。TRPC3/6/7サブグループと対照的に、それらは、DAG適用によって直接活性化されず、しかし、いくつかの内因性TRPC5アクチベーターが、最近、同定された:リゾホスファチジルコリン(LPC)及びスフィンゴシン1-ホスフェート(S1P)。例えば、酸化窒素(NO)による、S-ニトロシル化が、TRPC4及びTRPC5の両方を活性化することが示された。
【0023】
TRPC4は、マウスにおいてノックアウトされた最初のTRP遺伝子であった。それは、広く発現されており、内皮及び平滑筋細胞において見られた。TRPC4-/-マウスは、生存可能であり、成熟に達する。しかし、TRPC4-/-マウスの内皮細胞中へのアゴニスト誘発Ca2+流入は、著しく低下し、減少した内皮依存性血管弛緩が生じる。さらなる研究が、血管外傷の病因に関与する重要な炎症メディエーターであるトロンビンを用いて行われた。肺において、それは、血管透過性及び従って組織含水量を増加させた。TRPC4-/-マウスの肺ECは、トロンビン誘発アクチンストレス繊維形成を欠き、細胞収縮が損なわれ、続いて、肺微小血管透過性が約50%低下した。TRPC4はまた、中枢神経系内の種々の細胞中において発現され、神経伝達物質放出に関与するようである。TRPC4-/-マウスからの視床の介在ニューロンのF2末端において、5-ヒドロキシトリプタミン(5-HT、セロトニン)の適用後のγ−アミノ酪酸(GABA)の放出が、劇的に低下する。対照的に、代謝調節型グルタミン酸受容体の刺激でのGABA放出は、変化しない。視床は、睡眠及び覚醒を調節し、TRPC4は、睡眠/覚醒周期に依存して視覚情報の処理に関係し得る。膵β島において発現されたTRPC4は、インスリン分泌に関与し得、しかし、耐糖能テスト結果は、野生型及びTRPC4欠損マウスにおいて同様であった。最後に、前記チャネルは、Cajalの間質細胞(ICC)のペースメーカー活性を調節することによって、胃腸管の運動性を調節することに関与するようである。
【0024】
TRPC5は、脳において非常に豊富であるが、末梢、例えば、SMCにおいても見られる。ヒトにおいて、前記遺伝子は、非症候性精神遅滞に関連するX染色体のある領域上に位置される。ラット海馬ニューロンの成長円錐において発現されたTRPC5ホモマーは、神経突起伸展並びに成長円錐形態を調節する。ドミナントネガティブ突然変異体のトランスフェクションによる機能的チャネル抑制は、異常に伸長した神経突起へ至り、一方、過剰発現は、神経突起伸展阻害を生じさせた。小胞から形質膜中へのホスファチジルイノシトール(inositiol)4-ホスフェート5-キナーゼ(PIP(5)Kα)依存性チャネル挿入は、TRPC5による神経突起長さ調節に非常に重要であることが実証された。TRPC5はまた、心臓血管系内で多機能的に重要であり得る。ドミナントネガティブTRPC5突然変異体は、血管平滑筋細胞のスフィンゴシン1-ホスフェート(TRPC5アクチベーター)によって引き起こされた細胞運動性を阻害し、同一の効果が、抗TRPC5抗体を用いて達成された。SMC運動性は、創傷治癒などの生理学的適応プロセスにおいて非常に重要であるだけでなく、炎症性閉塞性疾患、例えば、アテローム性動脈硬化症にも関与する。高血圧の患者由来の単球において、増加したTRPC5発現及びチャネル媒介Ca2+流入が報告された。さらに、TRPC5タンパク質発現及び活性の(並びにTRPC4、NCX及びいくつかの転写因子の)代償性アップレギュレーションが、新生仔ラット心筋細胞においてCa2+-ATPアーゼSERCA2のsiRNA媒介ダウンレギュレーションによって観察された。末期特発性拡張型心筋症を有する患者由来のヒト不全心臓において、TRPC5は、選択的にさえアップレギュレートされ、一方、TRPC3 mRNA及びタンパク質は、検出可能ではなく、TRPC1、4、及び6発現レベルは変化しなかった。これらのデータに基づいて、心肥大におけるTRPC5(及びTRPC4)の関与が考えられる。
【0025】
本発明によれば、第1タンパク質はまた、本明細書に定義される任意のTRPCの機能的に活性な変異体を含む又はからなり得る。TRPCの機能的に活性な変異体は、1つ又はそれ以上のアミノ酸付加、欠失又は置換によってTRPCから誘導され得、ここで、変異体は、天然のSESTD1へ依然として結合することができる。好ましくは、変異体は、SESTD1及び/又はSESTD1のSpec 1へ結合する能力を提供するSESTD1結合ドメインを依然として含む、TRPCのフラグメントである。SESTD1への変異体の結合は、実施例1、2、3、4、5又は6において説明されるように調べられ得る。
【0026】
好ましくは、SESTD1への機能的に活性な変異体の親和性(KD=koff/kon)は、天然のTRPC、特にTRPC4又はTRPC5の少なくとも約0.1 KD、より好ましくは少なくとも約0.3 KD、なおより好ましくは少なくとも約0.5 KD、いっそうより好ましくは少なくとも約0.7 KD、最も好ましくは少なくとも約1KDとなる。別の分子についてのタンパク質の親和性は、放射リガンド及び蛍光マーカーなどの標識されたマーカーを使用する結合研究を含む種々の標準技術によって測定され得、当業者に周知である。
【0027】
機能的に活性な変異体は、任意の天然のTRPCのフラグメントであり得る。又は、機能的に活性な変異体はまた、2つ又はそれ以上の異なるTRPCのドメイン又はセグメントを含むキメラTRPCであり得る。機能的に活性な変異体はまた、TRPCへの変異体の結合特性を変化させ得る突然変異(例えば、置換、付加及び/又は欠失)を有する1つ又はそれ以上のセグメントを含み得る。しかし、変異体は、それが天然のSESTD1及び/又はSESTD1のSpec 1へ依然として結合することができるという点において定義される。
【0028】
本発明の一実施態様において、機能的に活性な変異体は、それが配列番号1、配列番号2又は配列番号3に相同な配列を含む又はからなるTRPC変異体であるという点において定義される。好ましくは、この配列は、天然のTRPCのフラグメントである。種々のTRPCタンパク質の配列は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)などのタンパク質データベースから誘導可能であり、相同配列は、当業者に公知であるような好適なアライメントプログラムによって同定され得る。
【0029】
本発明の一実施態様において、本発明の第1タンパク質は、マーカー、特にタグを含む。
【0030】
本発明のコンテクストにおけるマーカーは、容易に検出され得る任意の種類の分子であり得る。本発明において、前記分子は、TRPC又はその機能的に活性な変異体へ結合され、従って、マーカーの存在は、第1タンパク質の存在を示す。マーカー(標識とも呼ばれる)は、当業者に公知であり、例えば、放射標識(例えば、3H、32P、35S又は14C)、蛍光マーカー(例えば、フルオレセイン、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質又はDyLight 488)、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、β−ラクタマーゼ、アルカリホスファターゼ又はβ−グルコシダーゼ)、又は、好適な抗体又は抗体フラグメントによって検出可能な抗原を含む。
【0031】
好ましくは、マーカーはタグである。タグは、通常、生化学的インジケーターとして使用されるペプチド又はタンパク質である。それらは、タンパク質、例えば、組換え発現タンパク質中へ含まれ得、いくつかの目的に役立ち得る。好ましくは、それらは、そこへそれらが特定のタグに好適な標準条件を使用して結合されるタンパク質を精製するために使用される。しかし、タグはまた、特定のタンパク質の存在を検出するためのインジケーターとして使用され得る。
【0032】
多数の(親和性)タグが、現在、公知である。これらは、通常、それらのサイズに従っ
て3つのクラスへ分類される:小さなタグは、最大で12個のアミノ酸を有し、中程度のサイズのものは、最大で60個を有し、大きなものは60個超を有する。小さなタグとしては、Argタグ、Hisタグ、Strepタグ、Flagタグ、T7タグ、V5ペプチドタグ及びc-Mycタグが挙げられ、中程度のサイズのものとしては、Sタグ、HATタグ、カルモジュリン結合ペプチド、キチン結合ペプチド及びいくつかのセルロース結合ドメインが挙げられる。後者は、189個までのアミノ酸を含有し得、そのとき、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)及びMBPタグ(マルトース結合タンパク質タグ)のように、大きな親和性タグとしてみなされる。
【0033】
特に純粋なタンパク質を製造するために、いわゆるダブルタグ又はタンデムタグが開発された。この場合、タンパク質は、各場合において第1の次いで第2のタグの親和性を使用する、2つの別個のクロマトグラフィー工程において精製される。このようなダブル又はタンデムタグの例は、GST-Hisタグ(ポリヒスチジンタグへ融合されたグルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、6xHis-Strepタグ(Strepタグへ融合された6個のヒスチジン残基)、6xHis-タグ100-タグ(哺乳類MAPキナーゼ2の12アミノ酸タンパク質へ融合された6個のヒスチジン残基)、8xHis-HAタグ(血球凝集素エピトープタグへ融合された8個のヒスチジン残基)、His-MBP(マルトース結合タンパク質へ融合されたHisタグ)、FLAG-HAタグ(血球凝集素エピトープタグへ融合されたFLAGタグ)、及びFLAG-Strepタグである。
【0034】
好ましくは、本発明の第1タンパク質は、Hisタグ、Argタグ、Strepタグ、Flagタグ、T7タグ、V5ペプチドタグ、c-Mycタグ、Sタグ、HATタグ、カルモジュリン結合ペプチドタグ、キチン結合ペプチドタグ、GSTタグ及びMBPタグからなる群より選択されるタグを含む。しかし、任意の他のタグもまた使用され得、しかし、いくつかのタグ、例えば、Hisタグ、Argタグ、Strepタグ、Flagタグ又はGSTタグが好ましい。タグを含むTRPC又はその変異体についての好適な例はまた、実施例において示される。
【0035】
本発明の実施態様において、第1タンパク質は、マーカー又はタグを含み、ここで、マーカー又はタグは、特異的切断部位、例えば、酵素についての切断部位で、タンパク質分解切断によって、タンパク質から除去可能である。これは、TRPC又はその機能的に活性な変異体とマーカー又はタグとの間に配置され得る。切断部位は、例えば、プロテアーゼ切断部位であり得る。プロテアーゼの例は、キモトリプシン、トリプシン、エラスターゼ、及びプラスミンであり;対応の切断部位は、当業者に公知である。精製される分子はタンパク質であるので、特異的プロテアーゼ、特に、通常植物を攻撃するウイルス由来のプロテアーゼが好ましい。好適な特異的プロテアーゼの例は、トロンビン、第Xa因子、イガーゼ(Igase)、「タバコエッチウイルス」由来のTEVプロテアーゼ、プロテアーゼPreScission(ヒトライノウイルス3C プロテアーゼ)、エンテロキナーゼ又はKex2である。TEVプロテアーゼ及びPreScissionが特に好ましい。
【0036】
第2選択肢に関して、本発明の複合体の第1タンパク質は、古典的一過性受容体電位チャネル(TRPC)又はその機能的に活性な変異体のドメインであり、該ドメインは、上記に定義される配列番号1の配列を有する。
【0037】
本発明の好ましい実施態様において、配列番号1の必須の配列は、次の通りにさらに定義され得、ここで、可変アミノ酸Xは、以下の添え字によって特定される:
【化4】

− X1X2X3X4X5は、好ましくは少なくとも2個、好ましくは3個、より好ましくは4個の又は5個さえの極性(例えば、Asn、又はGln)、場合により塩基性アミノ酸残基(例えば、Arg又はHis)を含み、特にここで、部分配列X1X2X3X4X5は、配列番号2又は配列番号3
において定義される通りであり得;
− X6は、好ましくはより大きな非極性アミノ酸残基(例えば、Ile、Leu又はMet)であり;及び/又は
− X7X8は、好ましくは、酸性及び極性/中性アミノ酸残基の組み合わせ(例えば、Glu及びAla)又は2つの極性/中性アミノ酸残基の組み合わせ(例えば、Asn及びSer)であり、ここで、部分配列X7X8は、配列番号2又は配列番号3において定義される通りであり得る。
【0038】
本発明のより好ましい実施態様において、配列番号1の配列は、下記の通りにさらに定義され得る:
− X1X2X3X4X5は、好ましくは少なくとも2個、好ましくは3個、より好ましくは4個の又は5個さえの極性(例えば、Asn、又はGln)、場合により塩基性アミノ酸残基(例えば、Arg又はHis)を含み、特にここで、部分配列X1X2X3X4X5は、配列番号2又は配列番号3において定義される通りであり得;
− X6は、好ましくはより大きな非極性アミノ酸残基(例えば、Ile、Leu又はMet)であり;及び
− X7X8は、好ましくは、酸性及び極性/中性アミノ酸残基の組み合わせ(例えば、Glu及びAla)又は2つの極性/中性アミノ酸残基の組み合わせ(例えば、Asn及びSer)であり、ここで、部分配列X7X8は、配列番号2又は配列番号3において定義される通りであり得る。
【0039】
アミノ酸側鎖の特性を下記に要約する:
【表1】

【0040】
本発明の第2選択肢に関しての古典的一過性受容体電位チャネル(TRPC)の機能的に活性な変異体は、第1タンパク質についての第1選択肢のそれのように定義される。
【0041】
好ましい実施態様において、機能的に活性な変異体は、上記の通りに定義され得、ここで、配列番号1の配列は、以下という点においてさらに定義される:
− それは、1つ又はそれ以上のアミノ酸置換、好ましくは多くとも8、7、6又は5個、より好ましくは多くとも4個、なおより好ましくは多くとも3個、いっそうより好ましくは多くとも2個、最も好ましくは多くとも1個のアミノ酸置換によって、配列番号2又は配列番号3から誘導され;好ましくは、これらのアミノ酸置換の1つ又はそれ以上は、下記に定義されるような保存的アミノ酸置換である
又は
− それは、任意の天然のTRPC(上記を参照のこと)から誘導される。
【0042】
保存的置換は、それらの側鎖及び化学的性質が関連しているアミノ酸のファミリー内で行われるものである。このようなファミリーの例は、塩基性側鎖、酸性側鎖、非極性脂肪
族側鎖、非極性芳香族側鎖、非荷電性極性側鎖、小さな側鎖、大きな側鎖などを有するアミノ酸である。一実施態様において、1つの保存的置換がペプチド中に含まれる。別の実施態様において、2つの保存的置換又はそれ以下がペプチド中に含まれる。さらなる実施態様において、3つの保存的置換又はそれ以下がペプチド中に含まれる。
【0043】
保存的アミノ酸置換の例としては、下記に列挙されるものが挙げられるが、これらに限定されない:
【表2】

【0044】
第1タンパク質の第1及び第2選択肢のコンテクストにおいて、TRPCは、好ましくは、TRPC4、TRPC5及びTRPC6からなる群より選択され、特にそれは、TRPC4又はTRPC5、特にTRPC4α若しくはTRPC4β又はTRPC5である。
【0045】
本発明の別の好ましい実施態様において、第1タンパク質は、配列
【化5】

又は
【化6】

を含む。
【0046】
本発明のコンテクストにおいて、TRPCは任意の種に由来し得ることが、理解されるべきである。しかし、哺乳類TRPC、例えば、ヒト、ラット、マウス、ネコ、イヌ又はウマ由来のもの、特に、マウス又はヒトTRPCが好ましい。
【0047】
本発明の複合体の第2タンパク質は、SESTD1のSpec 1ドメインを含む又はからなる。ヒ
トSESTD1の配列は、GenBankアクセッション番号NP_835224に開示されている。しかし、天然の変異体もまた公知であり、例えば、1つが、ヒト大動脈cDNAライブラリーにおいて全長で見つかった。そのアミノ酸配列は、1つの交換(H508Q)を除けば、GenBankアクセッション番号NP_835224と同一である。それは、1571での点突然変異に基づき(NM_178123)、これはまた、ゲノミックブラストにおいて見られ得る。1748で見られる別の点突然変異は、サイレントである。Spec 1ドメインは、上記で特定されるようなSESTD1のアミノ酸233〜381からなる(図1もまた参照のこと)。本発明によれば、代替の天然のSESTD1由来の相同Spec 1配列もまた、使用され得る。代替のSESTD1は、別の種又は器官又は被験体由来であり得る。種々のSESTD1タンパク質の配列が、NCBI(National Center for Biotechnology Information)などのタンパク質データベースから誘導可能であり、相同配列は、好適なアライメントプログラムによって同定され得る。
【0048】
本発明によれば、第2タンパク質はまた、天然のSESTD1のフラグメントであり得、但し、Spec 1ドメインが依然として存在する。しかし、Spec 1ドメインはまた、いずれの天然のSESTD1にも関連しない(C及び/又はN末端に)付加された1つ又はそれ以上のアミノ酸配列を有し得る。好ましくは、1つ又はそれ以上のアミノ酸配列がSESTD1へ付加される場合、それ/それらは、天然のSESTD1のセグメントであり(フラグメント又はキメラへ至る)、これもまた、上記に定義されるように、アミノ酸置換(好ましくは、10までなどの限られた数)、好ましくは保存的置換を含み得る。
【0049】
さらに、第2タンパク質はまた、本発明の第1タンパク質に関連して定義されたように、マーカー又はタグを含み得る。SESTD1又はそのフラグメント及びGSTタグを含むタンパク質の例を、図5に示す。
【0050】
本発明の別の好ましい実施態様において、第2タンパク質は、全長SESTD1を含む又はからなり、ここで、SESTD1は、上記に定義される通りであり得る。
【0051】
本発明のコンテクストにおいて、SESTD1は任意の種に由来し得ることが、理解されるべきである。しかし、哺乳類SESTD1、例えば、ヒト、ラット、マウス、ネコ、イヌ又はウマ由来のもの、特に、ラット、マウス又はヒトSESTD1が好ましい。
【0052】
本発明の第3局面は、以下を含むテストシステムに関する:
− 本発明のコンテクストにおいて上記で定義された第1タンパク質
− 本発明のコンテクストにおいて上記で定義された第2タンパク質、並びに
− 第1及び第2タンパク質の相互作用を検出するための手段。
【0053】
上記に詳述したように、TRPCファミリーのメンバーの生理学的、病態生理学的及び生化学的役割は、まだ完全には解明されていない。従って、TRPCの機能及び制御並びにこれを調節する物質を研究するためのツールが必要とされる。本発明のテストシステムは、TRPCの機能及び活性を解明するために使用され得る。特に、TRPC及びSESTD1を含む機構が、本発明のテストシステムを使用することによって研究され得る。
【0054】
前記テストシステムが使用され得、前記テストシステムが適合され得る、一連のテストが、当技術分野において公知である。これは、ヘテロジニアス又はホモジニアスアッセイであり得る。本明細書において使用される場合、ヘテロジニアスアッセイは、1つ又はそれ以上の洗浄工程を含むアッセイであり、一方、ホモジニアスアッセイにおいては、このような洗浄工程は必要ではない。試薬及び化合物が、単に混合され、測定される。
【0055】
実施態様において、アッセイは、ELISA(酵素結合免疫吸着検査法)、DELFIA(解離促進ランタニド蛍光イムノアッセイ)、SPA(シンチレーション近接アッセイ)、フラッシ
ュプレートアッセイ、FRET(蛍光共鳴エネルギー転移)アッセイ、TR-FRET(時間分解蛍光共鳴エネルギー転移)アッセイ、FP(蛍光偏光)アッセイ、ALPHA(増幅ルミネッセンス近接ホモジニアスアッセイ)、EFC(酵素断片コンプリメンテーション)アッセイ、ツーハイブリッドアッセイ、又は免疫共沈降アッセイである。
【0056】
ELISA(酵素結合免疫吸着検査法)に基づくアッセイは、種々の会社によって提供される。それは、サンプル中の抗体又は抗原の存在を検出するために使用される生化学的技術である。ELISAを行うことは、特定の抗原(例えば、第1又は第2タンパク質のセグメント)について特異性を有する少なくとも1つの抗体を必要とする。一般的に、サンプル中の未知量の抗原が、表面上に固定される。次いで、表面上の特定の抗体が洗浄される。この抗体は、蛍光(fluorescene)又は色の変化などの検出可能なシグナルを生じる酵素へ結合される。例えば、未知量の抗原を有するサンプルが、非特異的に(表面への吸着を介する)又は特異的に(「サンドイッチ」ELISAにおいて、同一の抗原に対して特異的な別の抗体による捕捉を介する)、固体支持体(通常、マイクロタイタープレート)上に固定される。抗原が固定された後に、検出抗体が添加され、抗原との複合体が形成される。検出抗体は、酵素へ共有結合され得るか、又は、バイオコンジュゲーションを介して酵素へ結合される二次抗体によってそれ自体が検出され得る。各工程の間に、プレートは、典型的に、マイルドな洗剤溶液で洗浄され、特異的に結合されていないタンパク質又は抗体が除去される。最終洗浄工程の後に、プレートは、酵素基質を添加することによって顕色され、可視シグナルが生じ、これは、サンプル中の抗原の量を示す。古いELISAは、発色基質を使用するが、新しいアッセイは、遥かにより高い感度を有する蛍光発生基質を使用する。
【0057】
DELFIA(解離促進ランタニド蛍光イムノアッセイ)に基づくアッセイは、固相アッセイである。抗体は、通常、ユーロピウム又は別のランタニドで標識され、ユーロピウム蛍光が、結合されていないユーロピウム標識抗体を洗浄除去した後に、検出される。
【0058】
SPA(シンチレーション近接アッセイ)及びフラッシュプレートアッセイは、通常、放射標識基質を捕捉するためにビオチン/アビジン相互作用を利用する。一般的に、反応混合物は、キナーゼ、ビオチン化ペプチド基質及びγ-[P33]ATPを含む。反応後、ビオチン化ペプチドが、ストレプトアビジンによって捕捉される。SPA検出において、ストレプトアビジンはシンチラント含有ビーズ上に結合され、一方、フラッシュプレート検出において、ストレプトアビジンは、シンチラント含有マイクロプレートのウエルの内部へ結合される。いったん固定されると、放射標識基質は、発光を刺激するに十分にシンチラントへ接近する。
【0059】
蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)は、2つの発色団間の放射線フリーのエネルギー転移を記載する。その励起状態にあるドナー発色団は、非放射性長距離双極子−双極子カップリング機構によって、接近している(典型的に<10nm)アクセプターフルオロフォアへエネルギーを移し得る。分子は両方とも蛍光性であるので、エネルギー転移はしばしば「蛍光共鳴エネルギー転移」と呼ばれるが、エネルギーは、実際には、蛍光によって移されない。FRETは、タンパク質−タンパク質相互作用、タンパク質−DNA相互作用、及びタンパ
ク質構造変化を検出及び定量するための有用なツールである。あるタンパク質の別のものへの、又はあるタンパク質のDNAへの結合をモニタリングするために、分子の一方がドナーで標識され、他方がアクセプターで標識され、これらのフルオロフォア標識分子が混合される。それらが非結合状態で存在する場合、ドナー発光が、ドナー励起時に検出される。分子が結合されると、ドナー及びアクセプターは接近され、ドナーからアクセプターへの分子間FRETに起因して、アクセプター発光が主に観察される。FRETについての好適な隣接物は当技術分野において公知であり、当業者は、両方の抗体についての標識の好適な組み合わせを選択することができる。ドナー及び対応のアクセプターに関して本明細書にお
いて使用される場合、「対応の」は、ドナーの発光スペクトルと重複する励起スペクトルを有するアクセプター蛍光部分を指す。しかし、両方のシグナルは、互いから分離可能であるべきである。従って、アクセプターの発光スペクトルの波長最大値は、ドナーの励起スペクトルの波長最大値よりも、好ましくは少なくとも30 nm、より好ましくは少なくとも50 nm、例えば少なくとも80 nm、少なくとも100 nm又は少なくとも150 nmより大きくあるべきである。
【0060】
FRET技術において種々のアクセプター蛍光部分と共に使用され得る代表的なドナー蛍光部分としては、フルオレセイン、Lucifer Yellow、B-フィコエリトリン、9-アクリジンイソチオシアネート、Lucifer Yellow VS、4-アセトアミド-4'-イソチオシアナトスチルベン-2,2'-ジスルホン酸、7-ジエチルアミノ-3-(4'-イソチオシアナトフェニル)-4-メチルクマリン、スクシンイミジル1-ピレンブチレート、及び4-アセトアミド-4'-イソチオシアナトスチルベン-2,2'-ジスルホン酸誘導体が挙げられる。代表的なアクセプター蛍光部分としては、使用されるドナー蛍光部分に応じて、LC-Red 610、LC-Red 640、LC-Red 670、LC-Red 705、Cy5、Cy5.5、リッサミンローダミンBスルホニルクロリド、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、ローダミンxイソチオシアネート、エリスロシンイソチオシアネート、フルオレセイン、ジエチレントリアミンペンタアセテート、又はランタニドイオン(例えば、ユーロピウム、又はテルビウム)の他のキレートが挙げられる。ドナー及びアクセプター蛍光部分は、例えば、Molecular Probes (Junction City, OR) 又はSigma Chemical Co. (St. Louis, MO) から得ることができる。
【0061】
又は、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移(TR-FRET)が、本発明のテストシステムについて使用され得る。TR-FRETは、TRF(時間分解蛍光)及びFRET原理を合わせる。この組み合わせは、TRFの低バックグラウンド利益とFRETのホモジニアスアッセイ形式とを組み合わせる。FRETは既に上記に説明し、TRFは、ランタニド又は長い半減期を有する任意の他のドナーの特有の性質を利用する。TR-FRETについての好適なドナーとしては、特に、ランタニドキレート(クリプタート)及びいくつかの他の金属配位子錯体が挙げられ、これらは、マイクロ〜ミリ秒時間範囲内の蛍光半減期を有し得、従って、これらはまた、エネルギー転移がマイクロ〜ミリ秒測定値で生じることを可能にする。蛍光ランタニドキレートは、70年代後半にエネルギードナーとして使用されていた。一般的に使用されるランタニドとしては、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)及びジスプロシウム(Dy)が挙げられる。それらの特殊な光物理学的及びスペクトル的特性のために、ランタニドの錯体は、生物学における蛍光適用について大いに興味深い。具体的には、それらは、より伝統的なフルオロフォアと比較した場合、大きなストークシフト及び極めて長い発光半減期(マイクロ秒〜ミリ秒)を有する。
【0062】
通常、有機発色団がアクセプターとして使用される。これらとしては、アロフィコシアニン(APC)が挙げられる。TR-FRET並びにアクセプターについての適切な詳細は、WO 98/15830に記載されている。
【0063】
蛍光偏光(FP)に基づくアッセイは、溶液中の蛍光性基質ペプチドを励起するために、偏光を使用するアッセイである。これらの蛍光性ペプチドは、溶液中において遊離しており、回転し、そのため放射光が脱偏光する。基質ペプチドがより大きな分子へ結合すると、その回転速度は大いに減少し、放射光は高度に偏光されたままとなる。
【0064】
本発明のさらなる実施態様において、本発明のテストシステムは、増幅ルミネッセンス近接ホモジニアスアッセイ(ALPHA)に適合される。ALPHAは、Packard BioScienceによってもともと開発された溶液に基づくアッセイである。ALPHAは、ルミネッセンスに基づく近接アッセイであり、ここで、一方の相互作用パートナーがドナービーズへ結合され、他方がアクセプタービーズへカップリングされ、両方とも僅か約250 nmの直径を有する。光
増感剤化合物が、ドナービーズ中へ埋め込まれている。この化合物に約680 nmの波長のレーザー光を照射すると、周囲の酸素が、エネルギーリッチの短い寿命の一重項酸素へ変換される。アクセプタービーズが接近していない場合、一重項酸素は、シグナルを生じることなく減衰する。ドナー及びアクセプタービーズが、結合された生体分子の生物学的相互作用によって一緒にされる(約250 nm)と、ドナービーズによって放出された一重項酸素は、近くのアクセプタービーズにおいてルミネッセンス/蛍光カスケードを開始し、520〜620 nm範囲内の高度に増幅されたシグナルへ至る。ルミネッセンスシグナルは、好適なリーダーにおいて検出される。ALPHA技術に関するより多くの詳細については、Ullman et
al., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 91, 5426-5430を参照のこと。
【0065】
EFC(酵素断片コンプリメンテーション)に基づくアッセイ又は等価のアッセイが、特に、化合物のハイスループットスクリーニングについて使用され得る。EFCアッセイは、2つのフラグメントである酵素アクセプター(EA)及び酵素ドナー(ED)からなる遺伝子操作されたβ-ガラクトシダーゼ酵素に基づく。フラグメントが分離される場合、β−ガラクトシダーゼ活性は存在せず、しかしフラグメントが一緒に存在する場合、それらは、会合し(コンプリメントし)、活性酵素を形成する。EFCアッセイは、ED−分析物結合体を使用し、ここで、分析物は、特異的結合タンパク質、例えば、抗体又は受容体によって認識され得る。特異的結合タンパク質が存在しない場合、ED−分析物結合体は、EAをコンプリメントすることができ、活性β-ガラクトシダーゼが形成され、陽性発光シグナルが生じる。ED−分析物結合体が特異的結合タンパク質によって結合されると、EAとのコンプリメンテーションは妨げられ、シグナルは存在しなくなる。遊離の分析物が(サンプル中に)提供されると、それは、特異的結合タンパク質への結合について、ED−分析物結合体と競争する。遊離の分析物は、EAとのコンプリメンテーションのためにED−分析物結合体を放出し、サンプル中に存在する遊離の分析物の量に依存するシグナルが生じる。
【0066】
ツーハイブリッドスクリーニングは、2つのタンパク質間の物理的相互作用(例えば、結合)についてテストすることによってタンパク質−タンパク質相互作用を発見するために使用される分子生物学技術である。該テストの後にある前提は、上流の活性化配列上への転写因子の結合による下流のレポーター遺伝子の活性化である。ツーハイブリッドスクリーニングのために、転写因子は、結合ドメイン(BD)及び活性化ドメイン(AD)と呼ばれる、2つの別個のフラグメントへ分割される。BDは、UASへの結合を担うドメインであり、ADは、転写の活性化を担うドメインである。好適なツーハイブリッドシステムを実施例1に記載する。
【0067】
免疫共沈降は、複合体状態にあると考えられる1つのタンパク質を沈殿させることによるタンパク質複合体の同定のために使用され得、何故ならば、複合体の追加のメンバーが、同様に捕捉され、同定され得るためである。タンパク質複合体は、いったん特異的抗体へ結合されると、アガロースビーズなどの固体支持体へ結合された抗体結合タンパク質での捕捉によって、バルク溶液から除去される。抗体結合タンパク質(プロテインA、プロテインG、プロテインL)は、最初は細菌から単離され、多種多様の抗体を認識する。タンパク質又はタンパク質複合体の最初の捕捉に続いて、固体支持体は、数回洗浄され、抗体を介して特異的に堅く結合されていないタンパク質が除去される。洗浄後、沈殿したタンパク質は、溶出され、ゲル電気泳動、質量分析、ウエスタンブロッティング、又は複合体中の構成要素を同定するための任意の数の他の方法を使用して分析される。従って、免疫共沈降は、タンパク質−タンパク質相互作用を評価するための標準方法である。免疫共沈降(coimmunoprecipition)を必要とする好適なテストシステムを、実施例3に記載する。
【0068】
本発明の別の好ましい実施態様において、第1及び第2タンパク質の相互作用を検出するための手段は、1つ又はそれ以上のリン脂質、好ましくはホスファチジル-イノシトー
ル−ホスフェートを測定するように適合され得る。測定は、1つ又はそれ以上のリン脂質、好ましくはホスファチジル−イノシトール−ホスフェートの濃度の測定を含み得る。濃度は、本発明のモジュレーターをスクリーニングするための方法において記載したように、潜在的なTRPCモジュレーターに応答して測定され得る。1つ又はそれ以上のリン脂質、好ましくはホスファチジル−イノシトール−ホスフェートの濃度を測定するための手段及び方法は、当業者に周知であり、これらとしては、例えば、カラムクロマトグラフィー、又は質量分析による精製を含む、放射標識リン脂質、好ましくはホスファチジル-イノシトール-ホスフェートを必要とするこのようなものが挙げられる。しかし、PIPストリップリン脂質オーバーレイアッセイ又はCova-PIPプレート結合アッセイ(それぞれ、実施例8a及び8bに例示される通り)を必要とする手段及び方法が好ましい。
【0069】
例示的なテストシステム及びそれらの使用を、実施例1〜8において説明する。
【0070】
好ましくは、テストシステムは、ハイスループットスクリーニングに適合される。この方法において、多数の化合物が、細胞フリー又は全細胞アッセイにおいて、問題のTRPCに対してスクリーニングされる。典型的に、これらのスクリーニングは、自動化されたロボットステーションベースの技術を使用して96ウエルプレートにおいて、又はより高密度のアレイ(「チップ」)フォーマットにおいて、行われる。
【0071】
本発明によれば、本発明の複合体のタンパク質の各々は、上記の局面及び実施態様、特に好ましい実施態様において特定されたようなタンパク質のいずれでもあり得る。TRPCは、一連のさらなるタンパク質と相互作用することができることが、示され得た。従って、テストシステムは、アンキリンリピートドメイン35(ankyrin repeat domain 35)(ANKRD35)、アポリポタンパク質A-I結合タンパク質(apolipoprotein A-I binding protein)(APOA1BP)、亜鉛フィンガードメイン隣接ブロモドメイン(bromodomain adjacent to zinc finger domain)(BAZ1B)、高移動性群タンパク質2様1アイソフォームb(high-mobility group protein 2-like1 isoform b)(HMG2L1)、マコーリンRINGフィンガータンパク質1(makorin RING finger protein 1)(MKRN1)、プレB細胞白血病ホメオボックス相互作用タンパク質1(pre-B-cell leukemia homeobox interacting protein 1)(PBXIP1)、肉腫抗原NY-SAR-48(sarcoma antigen NY-SAR-48)、スペクトリンアルファ非赤血球1(spectrin alpha non-erythrocytic 1)(SPTAN1)、染色体構造維持3(structural maintenance of chromosomes 3)(SMC3)及びタリン2(talin 2)(TLN2)からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質をさらに含み得る。
【0072】
上記のタンパク質は、一般的なテストシステムにおいて好適な任意の種から得られ得る。しかし、例示的なタンパク質及びそれらの配列は、以下の通りである:
【0073】
【表3】

【0074】
テストシステムは、例えば、TRPCモジュレーターをスクリーニングするための下記の方法のために使用され得る。
【0075】
第4局面において、本発明は、以下の工程を含む、TRPCモジュレーターをスクリーニングするための方法に関する:
a)上記に特定された本発明に従うテストシステムと物質とを接触させる工程、及び
b)物質とテストシステムとの相互作用時の測定可能なシグナルを検出し、それによって、物質をTRPCモジュレーターと同定する工程。
【0076】
本発明によれば、テストシステムは、本発明の明細書に詳述されるように、特に、好ましい実施態様において詳述されるように、特定され得る。テストシステムは、細胞中に含まれ得、又は、それは、細胞フリーシステムであり得る。テストシステムは、測定可能なシグナルを検出するに好適な条件下で、テスト物質と接触され得る。これは、好適な温度、化学環境(緩衝液、pH値など)、並びに前記物質の好適な濃度、及び好適な接触時間を含む。
【0077】
接触後又は接触と同時に、シグナルが観察され、ここで、シグナルの検出は、第1及び第2タンパク質の相互作用を示す。
【0078】
本発明の好ましい実施態様において、上記に定義される第1及び第2タンパク質の相互作用に対する物質の影響は、直接検出され、即ち、第1及び第2タンパク質の近接が、TRPC/SESTD1シグナル変換の下流のシグナルではなく、シグナルの誘導によって検出される。シグナルの誘導は、構成成分の各々を標識することによって行われ得、ここで、標識の近接が、検出可能なシグナルを誘導する。誘導された検出可能なシグナルは、化学発光シグナル、色の変化、蛍光シグナル、放射線、又は、任意の他の好適なシグナルであり得る。シグナルは、2つの標識の相互作用によって誘導され得、ここで、各標識は、テストシステムの1つの構成成分、即ち、単離されたタンパク質及び補因子へ結合されている。このようなシグナルは、シンチレーションカウンターにおいて近接を検出するために、一方で、放射標識、例えば125I、及び他方で、好適なクエンチャーを含む(シンチレーション近接アッセイ)。構成成分は、FRET(蛍光共鳴エネルギー転移;上記を参照のこと)を検出するための様式で標識された抗体へ接近可能な抗原を含み得る。別の選択肢において、タンパク質の1つは、キナーゼによるリン酸化が可能な生体分子を、その表面へ結合された状態で有し、他方の構成成分は、例えば、好適なリンカー、例えば、ニトリロ三酢酸、イミノ二酢酸、又は適切に置換されたN含有ヘテロ環、例えば、トリアゾヘテロ環、例えば、トリアゾシクロノナネオノナン、例えば、1-プロピルアミノ-4-アセタト-1,4,7-トリ
アザシクロノナンによって、その表面へ錯化された三価の金属イオンを有する。化学発光シグナルが、ドナー及びアクセプター粒子が接近している場合に発生され、これは、補因子へのタンパク質の結合時に生じる(ルミネッセント近接アッセイ)。
【0079】
タンパク質−タンパク質相互作用の検出のための好適なテスト及びアッセイは、上記に詳述されている。
【0080】
本発明の1つの好ましい実施態様において、タンパク質間の相互作用を検出するための手段は、第1タンパク質又は第2タンパク質について特異的な少なくとも1つの抗体を含む。上記に詳述したように、単離されたタンパク質は、抗体の検出及び特異的抗体についての抗原を含み得る。本発明のなおより好ましい実施態様において、テストシステムは、2つの抗体を含み、ここで、第1抗体は、第1タンパク質について特異的であり、第2抗体は、第2タンパク質について特異的である。抗体は、それぞれの構成成分の存在を示す、好適なマーカーで標識され得る。又は、上述の一次抗体は、一次抗体へ向けられた好適な二次抗体によって検出され得る。二次抗体は、例えば、二次抗体へ結合される場合に、一次抗体の存在を検出するために使用され得る。一次又は二次抗体は、上記で定義されるようなマーカー、例えば、酵素、放射標識、蛍光マーカー、化学発光マーカーなどで標識され得る。又は、タンパク質は、好適な抗体で検出可能である、タグを含み得る。
【0081】
テストシステムは、複合体の少なくとも1つの構成成分の分離のための精製システムが使用され、複合体の又はタンパク質の複合体の構成成分の各々の存在が検出される様式で、使用され得る。例えば、複合体は、ゲル電気泳動、カラムクロマトグラフィー、親和性精製などによって精製され得、複合体は、複合体の一方の構成成分又は複合体の両方の構成成分を示す1つのシグナル又は2つのシグナルの存在によって検出され得る。例えば、構成成分の一方の複合体について特異的である分離技術が使用される場合、検出方法は、他方の構成成分に限定され得る。又は、精製方法は、ゲル電気泳動のように、構成成分の1つに特異的であるということがない場合があり、複合体の形成は、2つのシグナル、例えば、識別可能な蛍光マーカーで標識された2つの抗体によって検出され得、ここで、例えば、ゲルの同一の領域での、両方の蛍光マーカーの存在が、複合体を示す。これに従って、第1及び/又は第2タンパク質は、検出可能なマーカーを含む。好ましくは、測定可能なシグナルの検出はまた、上記で詳述されたように、第1タンパク質に対する特異的抗体及び/又は第2タンパク質に対する特異的抗体の使用を伴う。
【0082】
本発明の好ましい実施態様において、TRPCモジュレーターは、第2タンパク質への第1タンパク質の結合を増強する又は好ましくは害する若しくは阻害する。TRPCのモジュレーターは、問題のTRPCの活性を変化させる。活性の変化は、活性化又は阻害であり得、従って、それぞれ、TRPCのシグナル変換を増強するか又は害する。TRPCの活性を増強する、改善する又は増加させるモジュレーターは、アゴニストと呼ばれ、一方、TRPCの活性を害する、阻害する又は減少させるTRPCモジュレーターは、アンタゴニストと呼ばれる。活性の調節は、TRPCとの特異的相互作用に基づき、TRPCとの非特異的相互作用の結果(例えば、変性)に基づかない。
【0083】
本発明の別の好ましい実施態様において、測定可能なシグナルは、1つ又はそれ以上のリン脂質、好ましくは、ホスファチジル−イノシトール−ホスフェートである。リン脂質は、ある種の脂質であり、糖脂質、コレステロール及びタンパク質と共に、全ての生体膜の主成分である。ホスファチジル−イノシトールは、細胞シグナル伝達に関与する多数の酵素についての基質であり、何故ならば、それは、7つの異なる組み合わせでの、イノシトール環のヒドロキシル基3、4及び5上において、種々のキナーゼによってリン酸化され得るためである。リン脂質、好ましくは、ホスファチジル-イノシトール-ホスフェートの濃度が、上述のように測定され得る。
【0084】
本発明のスクリーニング方法の別の実施態様において、テスト化合物(物質)は、化学化合物ライブラリーの形態で提供される。化学化合物ライブラリーは、複数の化学化合物を含み、化学合成された分子及び天然産物を含む、任意の多数の供給源から集められているか、又は、コンビナトリアルケミストリー技術によって作製されている。それらは、特に、ハイスループットスクリーニングに適している。それらは、特定の構造の化学化合物、又は、植物などの特定の生物の化合物から構成され得る。本発明とのコンテクストにおいて、化学化合物ライブラリーは、好ましくは、タンパク質及びポリペプチド又は小分子を含むライブラリーである。
【0085】
TRPCの上記の機能に従って、本発明の方法は、内皮機能不全を含む疾患を予防及び/又は治療するための医薬をスクリーニングするために使用され得る。
【0086】
特に、前記方法は、心臓血管疾患、心肥大、心不全、虚血、新生内膜過形成、特発性拡張型心筋症、高血圧、冠状動脈症候群、心不全、腎不全、血栓症、喘息、慢性呼吸疾患、慢性閉塞性肺障害、特発性肺高血圧、急性低酸素性肺血管収縮、炎症性閉塞性疾患及びアテローム性動脈硬化症を予防及び/又は治療するための医薬をスクリーニングするために使用され得る。
【0087】
さらなる局面において、本発明は、TRPCモジュレーターの同定のための上記に特定された本発明に従うテストシステムの使用に関し、ここで、本発明のテストシステム及び本発明のスクリーニング方法についての上記の詳細が、同様に適用される。
【0088】
以下において、本発明を実施例及び図面によって説明するが、これらは本発明の範囲を限定することを意図していない。
【実施例】
【0089】
実施例1:バイトとしてTRPCを用いての酵母ツーハイブリッド(Y2H)スクリーニング
内皮機能不全は、種々の心臓血管疾患の主な原因であると考えられている。とりわけ、TRPC4は、内皮機能において重大な役割を果たし、それは、内皮依存性血管弛緩の調節に関連し、酸化ストレス誘発内皮損傷の一因となり得、内皮バリア機能に関与する。
【0090】
MATCHMAKERツーハイブリッドシステム3(Clontech, Mountain View, USA)は、酵母株AH109のmTRPC4αの細胞質ゾルC末端(aa 615-974)と相互作用する新規なタンパク質をスクリーニングするためであった。システムは、翻訳及びタンパク質発現を活性化する、4つのレポーター遺伝子(ADE2、HIS3、lacZ、MEL1)の上流への転写因子GAL4の結合に基づく。DNA結合及び活性化は、物理的に分離され得る2つの異なるタンパク質ドメインによって仲介される(Fields S & Song O (1989). A novel genetic system to detect protein-protein interactions. Nature 340, 245-246)。mTRPC4αのC末端(aa 615-974)は、バイトとして機能した。今までのところ、TRPCチャネルのX線構造は存在しないが、電位依存性K+チャネルとの類似性に起因して、それらは、四量体を形成すると予想される。本発明者は、そのタンパク質が生理学的多量体状態で集合することを確実にしたかった。従って、マウスTRPC4α (NM_016984)のC末端と、タンパク質四量体化を指令することが示されているロイシンジッパードメインとを融合することによって、バイトを構築した(Harbury PB, Zhang T, Kim PS, & Alber T (1993). A switch between two-, three-, and four-stranded coiled coils in GCN4 leucine zipper mutants. Science 262, 1401-1407)。ジッパー(下線)及びフランキング配列のアミノ酸配列は、
【化7】

である。この構築物を、最終的にpGBKT7(Clontech, Mountain View, USA)中に組込み、GAL4-DNA結合ドメインとのその融合に導いた(mTRPC4α (615-974)/ロイシンジッパー/pGBKT7)。ダイレクティッド酵母ツーハイブリッドスクリーニングのための他のバイトを、ヒトTRPC1(NM_003304)、マウスTRPC5(NM_009428)及びヒトTRPC6(NM_004621)のC末端を用いて同様に構築した。対照実験のために、チャネルC末端を、増強緑色蛍光タンパク質によって置き換えた(EGFP/ロイシンジッパー/pGBKT7)。
【0091】
GAL4活性化ドメイン(AD)への融合体として発現されたヒト大動脈cDNAライブラリー(pACT2中;Clontech, Mountain View, USA)を、酵母中に、バイトと共にコトランスフェクトした。バイトとライブラリータンパク質との相互作用のみが、DNA-BD及びADを、機能性GAL4を再構成する十分な空間的近接内にもっていき、従って、レポーター遺伝子の発現をもたらす。これらは、他の必須のアデニン(Ade)及びヒスチジン(His)を欠いている選択培地における栄養要求性株、酵母株AH109の生存を可能にした。さらに、GAL4活性は、β-ガラクトシダーゼの発現をもたらし、これは、青色生産物内へのX-galの変換によって酵母コロニーにおいて検出できた。このようなコロニー由来のプレイプラスミドを、単離し、ベクターマルチクローニング部位の外にcDNA挿入物を切断する制限エンドヌクレアーゼEcoRI/XhoIで分析的に消化した。得られたフラグメントをゲル電気泳動によって分離し、それによって、同一サイズのフラグメントは、同一のプレイを指した。続いて、それらは、これもまた四量体化されかつDNA-BDに融合されたエクオレア・ビクトリア(Aequorea victoria)由来の無関係の増強緑色蛍光タンパク質(EGFP/ロイシンジッパー/pGBKT7)と共に共形質転換すること(cotransformation)によって内在性DNA結合及び/又は転写活性についてテストした。EGFPと非特異的に相互作用しなかったプレイで共形質転換された酵母は、-Trp/-Leu/-Ade/-Hisプレート上で生き延びなかった。並行して、プレイプラスミドを、バイトで共形質転換していて、-Trp/-Leu/-His/-Ade寒天プレート上の成長について再テストした。生存クローン由来のプレイプラスミドを最終的に配列決定し、配列を、BLASTソフトウエアを使用することによってGenbankデータと比較した。
【0092】
ヒト大動脈MATCHMAKER cDNAライブラリー(Clontech, Mountain View, USA)を備え、大腸菌BNN132に形質転換し、増幅し、酵母中のスクリーニングに十分なプラスミドを得た。先ず、その力価を、LB/amp寒天プレート上で1×10-6、1×10-7、及び2×10-7の希釈物を平板培養することによって測定した。それらを2日間(30℃)インキュベートした後、成長コロニーの数をカウントし、結果は1mL当たり1.8×108コロニー形成単位(cfu)であった。増幅前にライブラリー中に存在する独立クローンの数の少なくとも2〜3xを得るために(製造業者によって提供されたときは3.5×106)、45,000 cfu/ 150-mmプレートを、160 LB/amp寒天プレート(1.5% Bacto寒天、1% Bactoトリプトン、0.5% Bacto酵母抽出物、1% NaCl、100μg/mLアンピシリン)上に広げた。30℃で36時間インキュベーション後、細胞を液体LB/amp中にこすり落とし、プールし、4つのアリコート中に分配し、遠心分離によってペレット化した。細菌を溶解し、プラスミドを、QIAfilter Plasmid Giga Kit(Qiagen, Hilden, Germany)を使用して精製した。
【0093】
酵母の形質転換のために、DNA-BD/バイト及びライブラリーを、連続して、酵母中にポリエチレングリコール/酢酸リチウム(PEG/LiAc)仲介形質転換した(Ito H, Fukuda Y, Murata K, & Kimura A (1983). Transformation of intact yeast cells treated with
alkali cations. J Bacteriol 153, 163-168)。
【0094】
小規模の形質転換を通して、DNA-BD/バイトを酵母中へ導入した。液体YPAD培地(30 mg/Lアデニン、0.65g/L完全サプリメント混合物、6.7g Difco酵母窒素塩基w/oアミノ酸、2% (w/v) グルコース)中30℃で成長させたサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisae)AH109の一晩培養物を、YPAD培地10 mLへ移し、A600=0.1が得られた。対数増殖期が達成されるまで(A600=0.5)、細胞懸濁液を30℃で成長させ、滅菌脱
イオン水で洗浄し、酢酸リチウム緩衝液200μL(100 mM LiAc、10 mM Tris-HCl、1mM EDTA)に再懸濁した。DNA-BD/バイト 1.5μg(共発現(coexpressions)のためにプラスミド3μg)を、熱変性キャリアDNA 18μL(サケ精子由来;Sigma, Munich, Germany)と混合し、40秒間煮沸し、氷に移した。酵母懸濁液200μLに、PEG 1.2 mL(40% PEG、100 mM
LiAc、10 mM Tris-HCl、1mM EDTA)を添加し、30℃で30分間インキュベートした。細胞に42℃で15分間熱ショックを与え、遠心分離し(centrifugated)、TE緩衝液100μL中に再懸濁し、選択培地上に広げ、30℃で少なくとも2日間インキュベートした。DNA-BD/バイトで形質転換された酵母は、-Trp培地において成長し、プレイでの共形質転換体は、-Trp/-Leu培地において成長した。バイトは、ネガティブコントロールベクターpGADT7での共形質転換によって、内在性DNA結合及び/又は転写活性ではないことが確認された。pGADT7は、酵母中においてGAL4-ADの単独の発現をもたらす空ベクターである。このプラスミドはTRPC4相互作用タンパク質を発現しないので、バイトでの共形質転換は、GAL4を再構成するに十分ではなく、従って、酵母は、-Trp/-Leu/-Ade/-Hisプレートにおいて生き延びなかった。
【0095】
単一DNA-BD/バイト形質転換体を、AD融合体ライブラリーでの続いての大規模の形質転換のための接種物として使用した。3つの一晩培養物を、-Trp培地150 mLへ移し、50 mL Falconチューブ中に12部分へ分割し、30℃で一晩インキュベートした。翌日、これらのスターター培養物をプールし、遠心分離(3分、2,000×g、RT)によってペレット化し、-Trp培地10 mL中に再懸濁した。この懸濁液を、-Trp培地900 mLへ添加し(A600=0.15-0.25)、細胞を、対数増殖期が達成されるまで成長させた(A600=0.45-0.75)。懸濁液をいくつかの50 mL Falconチューブに細分割し、遠心分離(5分、RT、2,000×g)によってペレット化し、滅菌脱イオン水300 mLで洗浄し、滅菌脱イオン水10 mL中に再び合わせた。酢酸リチウム緩衝液50 mL(100 mM LiAc、10 mM Tris-HCl、1mM EDTA)で洗浄した後、細胞を酢酸リチウム緩衝液4mLに再懸濁した。三連(in triplicate)で、ライブラリーのcDNA 40μgを、熱変性キャリアDNA 145μL(サケ精子由来)、細胞懸濁液1.2 mL及びPEG 8.6 mL(40% PEG、100 mM LiAc、10 mM Tris-HCl、1mM EDTA)と混合し、250 rpmで半時間30℃にてインキュベートした。1チューブ当たりDMSO1mLを添加した後、細胞に42℃で15分間熱ショックを与え、次いで、氷上に冷却し、遠心分離(5分、2,000×g、RT)によってペレット化した。ペレットを、各々、-Trp/-Leu培地25 mLに再懸濁し、再び合わせ、250 rpmで30℃において1時間成長させた。遠心分離(5分、2,000g、RT)後、細胞を-Trp/-Leu培地12 mL中に再懸濁し、-Trp/-Leu/-His寒天プレート(直径150 mm)上で300μLアリコートで平板培養し、30℃で2〜5日間インキュベートした。成長コロニーを、-Trp/-Leu/-His/-Ade寒天プレートに移し、さらに2〜3日間インキュベートした。生存コロニーをβ−ガラクトシダーゼアッセイでテストし、陽性反応クローンのプラスミドを単離し、配列決定した。形質転換効率をテストするために、10-3〜10-6の希釈物を、-Trp/-His寒天プレート上で平板培養し、30℃で2日間プレートをインキュベートした後、cfuの数をカウントした。
【0096】
β−ガラクトシダーゼアッセイのために、-Trp/-Leu/-His/-Ade寒天プレートで成長したクローンを、X-gal寒天(0.5%アガロース、500 mM NaPO4緩衝液(pH 7)、1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、2% X-gal、ジメチルホルムアミド(DMF)中)でトップレイヤーし、30℃で12時間までインキュベートした。青色生産物の生成を視覚によって確認した。
【0097】
酵母からのプラスミド調製のために、-Trp/-Leu/-His/-Ade寒天プレートで生存しかつβ−ガラクトシダーゼアッセイにおいて陽性反応するクローンを、-Leu培地2mLに再懸濁し、30℃及び250 rpmで24時間成長させた。それらを遠心分離によってペレット化し、溶解緩衝液200μL(2% Triton X-100、1% SDS、100 mM NaCl、10 mM Tris-HCl
(pH 8)、1mM EDTA)に再懸濁した。フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール
(25:24:1)200μL及び酸処理ガラスビーズ100μLを添加し、この混合物をボルテックス
することによって、細胞壁を破壊した。遠心分離(5分、10,000 x g、RT)後、水相135μLを新しいチューブへ移し、酢酸ナトリウム溶液15μL(10%)及びエタノール375μLと混合し、DNAを遠心分離(30分、10,000 x g、RT)によって沈殿させた。DNAペレットをエタノール(75%)で洗浄し、37℃で30分間乾燥し、Tris-HCl 10 μL(10 mM, pH 8.5)に溶解した。DNA2μLを大腸菌へエレクトロポレーションによって形質転換し、細菌をLBカナマイシン寒天プレート上に広げ、プラスミドを増幅し、QIAprep Spin Miniprep Kit(Qiagen, Hilden, Germany)を使用して精製した。
【0098】
DNAサイクルシークエンシング反応を、4つの区別して蛍光標識されたジデオキシヌクレオチド(Parker et al., 1996)を用いてのジデオキシターミネーター法(Sanger et al., 1977)に基づいて行った。ABI PRISM BigDyeターミネーターサイクルシークエンシングレディーリアクションキットを使用することによって作製されたPCRフラグメントを、電気泳動によって分離し、検出し、ABI PRISM 3100遺伝分析器で分析した。
【0099】
11個のタンパク質(下記の表に列挙)が、Y2HアッセイにおいてmTRPC4α C末端と物理的に相互作用することが思い出された。
【0100】
【表4】

【0101】
これらのタンパク質はいずれも、これまでTRPC4チャネルと相互作用すると公表されていない。SESTD1が、最も関心ある潜在的な相互作用パートナーであると思われ、何故ならばドメインサーチ(Marchler-Bauer A & Bryant SH (2004). CD-Search: protein domain
annotations on the fly. Nucleic Acids Res 32, W327-W331)によって、SESTD1中のN末端SEC14p様脂質結合ドメインが明らかにされたためである(図1)。保存SEC14モチーフは、細胞リン脂質に結合しこれを輸送することが公知である。
【0102】
いくつかの報告によって、リン脂質、特にPIP2によるTRPチャネルの調節が示されている。このことにより、本発明者は、SESTD1はTRPC4の調節に関与すると仮定した。SEC14p様脂質結合ドメインに加えて、スペクトリンリピートと呼ばれる2つのヘリックス構造が、SESTD1中に見い出された。これらのドメインは、タンパク質−タンパク質相互作用を仲介することが公知であり、いくつかの細胞骨格タンパク質において見られる。
【0103】
SESTD1は、ヒト大動脈cDNAライブラリーにおいて全長で見い出された。そのアミノ酸配列は、1つの交換(H508Q)を除けば、GenBankアクセッション番号NP_835224と同一であ
る。それは、1571での点突然変異に基づき(NM_178123)、これはまた、ゲノミックブラストにおいて見い出し得る。bp 1748で見られる別の点突然変異は、サイレントである。
【0104】
実施例2:mTRPC4αサイドからの相互作用部位マッピング
SESTD1とのTRPC4の相互作用部位をより詳細に規定するために、ダイレクティッド酵母ツーハイブリッドスクリーニング(実施例1を参照のこと)を行った。酵母を、SESTD1及び種々のC末端mTRPC4αフラグメントで共形質転換し、選択培地上に平板培養した。実験を、実施例1におけるものと同様に行った。しかし、TRPC4におけるSESTD1相互作用部位のマッピングのために、単量体バイト構築物を作製し(ジッパーを欠いている)、クローニングを容易にした。
TRPC4フラグメントの反復短縮によって、本発明者は、29個のアミノ酸の小さな配列(aa 700-728)が全長SESTD1との相互作用を仲介するに十分であることがわかった(図2)。この推定SESTD1結合配列は、より短いTRPC4βアイソフォーム並びにTRPC5において保存されている。
SESTD1及びTRPC4/5との相互作用の特異性を確認するために、酵母を、SESTD1、及びhTRPC1、mTRPC4β、mTRPC5又はhTRPC6のC末端で共形質転換し、選択培地上に平板培養した。結果は、SESTD1とTRPC4及びTRPC5のC末端尾部との特異的相互作用を示した(図3)。
【0105】
実施例3:GSTプルダウン
タンパク質生化学的方法によってSESTD1とmTRPC4との物理的相互作用を確認するために、GSTプルダウンアッセイを行った。
【0106】
細菌中におけるグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)融合タンパク質の組換え発現についての構築物を、ヒトSESTD1(NM_178123)をpGEX-4T-1ベクター(Amersham, Munich, Germany)に挿入することによって調製し、従って、GSTとのそのN末端融合をもたらした。pGEXベクターからのGST融合タンパク質発現は、tacプロモーターの制御下にあり、ラクトースアナログであるイソプロピルβ-Dチオガラクトシド(IPTG)によって誘導可能である。それぞれのプラスミドで形質転換されたBL21スター(DE3)ワンショットケミカリーコンピテント大腸菌(Invitrogen, Karlsruhe, Germany)を、選択LB培地(タンパク質発現を抑制するために0.2%(m/v) グルコースを含有)中一晩培養し、続いて、選択LB培地100 mL(0.2%(m/v) グルコースを有する)に移し、A600=0.1が得られた。この液体培養物を、A600=0.6〜0.8まで室温及び250 rpmで成長させた。タンパク質発現を、10 mM(GST)又は20 mM(GST-SESTD1、GST-SESTD1フラグメント)IPTGを添加することによって誘導し、インキュベーションを6時間継続した。遠心分離(16,000 x g、1分、RT)によって、細菌懸濁液を5mL部分ずつペレット化し、これらをD-PBS 2mL(w/o Ca2+, Mg2+)で1回洗浄し、-80℃で保存したか又は直ちに溶解した。各ペレットを、250μL溶解緩衝液(1mg/mLリゾチームを含有)に再懸濁し、20分間氷上においてインキュベートした。超音波処理(1×5sec)後、溶解物を16,000×g及び4℃で30分間遠心分離し、上清を新しいバイアルへ移した。グルタチオンセファロース懸濁液50μLを、溶解緩衝液500μL(G27針を使用)で3回洗浄し、その後、前記上清を添加し、溶解緩衝液を用いて1mLまで満たした。ローテーター(室温)において1時間インキュベーションした後、ビーズを溶解緩衝液500μLで3回洗浄した。グルタチオンセファロースへ結合されたGST融合タンパク質を、GSTプルダウンアッセイのために使用した。
【0107】
mTRPC4α-C末端又は全長mTRPC4αで一過性にトランスフェクトされたHEK293細胞を、溶解し、BCAタンパク質アッセイキットを使用してタンパク質濃度を測定した。トータルタンパク質50μg当量を、グルタチオンセファロースへ結合されたGST又はGST-SESTD1へ添加し、溶解緩衝液を用いて1mLまで満たし、ローテーターにおいてインキュベートした(2時間、RT)。セファロースをG27針及び溶解緩衝液500μLで3回洗浄し、その後、1×LDSサンプル緩衝液20μL(5% β-MEを含有)(Invitrogen, Karlsruhe, Germany)を添加
した。プローブを変性させ(95℃、3分)、遠心分離し、ウエスタンブロットによって分析した。ウエスタンブロッティングのために、サンプルをBis-Tris-HCl勾配ゲル(4-12%)上にロードし、150 Vで75分間、NuPAGE MOPS SDSランニングバッファー中電気泳動によって分離した。製造業者の説明書に従って、NuPAGEトランスファーバッファー(Invitrogen, Karlsruhe, Germany)及びNovex XCell 2 Blotmodul(Invitrogen, Karlsruhe, Germany)又はiBlot Dry System(Invitrogen, Karlsruhe, Germany)を使用し、ゲルをニトロセルロース膜上へブロットした。トランスファーを確認するために、ニトロセルロース膜上のタンパク質を、0.1% Ponceau S溶液(Sigma, Munich, Germany)で1分間染色し、水で洗浄することによって過剰な色素を除去した。膜をブロッキング緩衝液(0.6% Tween 20含有TBS(500 mM NaCl、20 mM Tris-HCl、pH 7.4)で1:1に希釈されたOdysseyブロッキング緩衝液)で1時間ブロックし(RT)、その後、それを一次抗体と共にインキュベートした(1時間、RT)(下記の抗体リストを参照のこと)。TBST(500 mM NaCl、20 mM Tris-HCl、0.05% Tween 20、pH 7.4)でそれを4回洗浄した後、それを蛍光標識抗体と共にインキュベートし(45分、RT)(抗体リストを参照のこと)、TBSTで再び4回洗浄した。Odyssey Infrared Imaging System(LiCor, Lincoln, USA)又はLumi Imager(Roche, Mannheim, Germany)を使用して、膜を分析した。
【0108】
【表5】

【0109】
GSTプルダウンアッセイを行い、タンパク質生化学的方法によってSESTD1とmTRPC4との物理的相互作用を確認した。大腸菌中において発現されそして精製された組換えGST-SESTD1を、先ず使用し、HEK293細胞溶解物由来の過剰発現された全長mTRPC4αをプルダウンした。しかし、タンパク質は両方とも同一のサイズを有するので、抗TRPC4抗体によって検出されるチャネルシグナルは、SESTD1への非特異的結合によって装われる可能性があった
。この問題を回避するために、より小さなmTRPC4α C末端(aa 615-974)を、GST-SESTD1を用いてのさらなるプルダウン実験において使用した。これらの実験で、SESTD1及びmTRPC4α-C末端が物理的に相互作用し得ることを実証できた(図4)。
【0110】
実施例4:SESTD1サイドからの相互作用部位マッピング
GSTプルダウンアプローチ(実施例3を参照のこと)を、mTRPC4αとSESTD1との相互作用部位を調べるために、適合し、使用した。予想されたドメインに従って、3つのSESTD1構築物(図5を参照のこと)を、pGEX-5X-3(Amersham, Munich, Germany)へクローニングし、ワンショットBL21スター(DE3)ケミカリーコンピテント大腸菌(Invitrogen, Karlsruhe, Germany)中GST融合タンパク質として発現させた。
【0111】
選択した条件下では、細菌から、SEC14p様脂質結合ドメインを有するGST-Sec 14(aa 1-192)の所望量を精製することは可能でなかった。その発現の誘導は、細菌にとって有毒であるようであり、何故ならば、それらは、GST-Spec 1(aa 193-406)、GST-Spec 2(aa 407-696)又は全長GST-SESTD1で形質転換された細菌よりも遥かに遅く成長したためである。
【0112】
mTRPC4α中におけるマッピングされたSESTD1結合部位はまた、TRPC4-βアイソフォーム中にも存在し、mTRPC5中において高度に保存されているので、本発明者は、GST結合SESTD1フラグメントとの3つ全てのチャネルの相互作用についてテストした。mTRPC4α〜β及びmTRPC5は全て、第1スペクトリンドメインと強力に相互作用し、あるブロットにおいては、第2ドメインへの弱い結合もまた観察できた。第2スペクトリンドメインは、相互作用の主要な部位であるようであるが、SEC14p様脂質結合ドメインの関与を除外することはできない(図6)。
【0113】
本発明者はSEC14ドメインでプルダウン実験を行うことができなかったので、ダイレクティッド酵母ツーハイブリッドスクリーニングを使用し、TRPC4/5結合における異なるSESTD1ドメインの関与をなおより詳細に規定した。3つのSESTD1構築物である、SESTD1-Sec 14(aa 1-192)、SESTD1-Spec 1(aa 193-406)及びSESTD1-Spec 2(aa 407-696)を、それぞれのSESTD1遺伝子フラグメントを酵母発現ベクターpACT2(Clontech, Mountain View, USA)中へ挿入することによって、図5に記載の構築物と同様にクローニングし、GAL4活性化ドメインへの融合体としてそれらの発現をもたらした。
【0114】
実験結果によって、SESTD1とmTRPC4α C末端との相互作用の部位として、第1スペクトリンドメインが確認された。SEC14p様脂質結合ドメインが関与していないことも示された(図7)。あるGSTプルダウン実験において観察されたSpec 2ドメインとmTRPC4α C末端との弱い相互作用は、選択培地上の共形質転換された酵母の生存を可能にする程に十分には強くなかった。対照的に、mTRPC5-C末端は、ダイレクティッド酵母ツーハイブリッドにおいてSpec 1及びSpec 2ドメインと独立して相互作用した。要約すると、適合されたGSTプルダウン及びダイレクティッド酵母ツーハイブリッドアッセイからの結果は、SESTD1中における主要な相互作用サイドとしてSpec 1 ドメインを同定する。
【0115】
実施例5:共免疫沈降
前述のY2H及びGSTプルダウン実験によって、SESTD1がmTRPC4α、β及びmTRPC5と相互作用することが示された。これらのタンパク質−タンパク質相互作用がインビボでも生じることを確認するために、共免疫沈降実験を行った。入手可能なSESTD1に対する市販の抗体は存在しないので、2つのポリクローナルペプチド抗体を、Eurogentec(Seraing, Belgium)によって注文作製し、キャラクタライズした。抗SESTD1 #147抗体は、第1スペクトリンドメイン内の配列(aa 265-280、
【化8】

に対して向けられ、抗SESTD1 #148は、C末端(aa 682-696、
【化9】

でウサギを免疫することによって作製された。抗体は、それぞれのペプチドで親和性精製された状態で供給された。
【0116】
hSESTD1をベクターpCMV-HA(Invitrogen, Karlsruhe, Germany)中に挿入し、ヒトインフルエンザウイルスの血球凝集素抗原エピトープ(HAタグ:
【化10】

とのN末端融合タンパク質としてのその発現をもたらした。HA-SESTD1で一過性にトランスフェクトされたHM1細胞(ムスカリン性M1受容体を安定発現するHEK293細胞株(Peralta EG, Ashkenazi A, Winslow JW, Ramachandran J, & Capon DJ (1988). Nature 334, 434-437))、並びにトランスフェクトされていないHM1細胞を、溶解し(コンプリートプロテアーゼインヒビターが補足された、1 mM EDTA、150 mM NaCl、50 mM Tris-HCl、1% Triton X-100)、BCAタンパク質アッセイキットを使用して、タンパク質濃度を測定した。
【0117】
ウエスタンブロッティングのために、等量のタンパク質サンプルを、Bis-Tris-HCl勾配ゲル(4-12%)上にロードし、電気泳動によって分離した(実施例3を参照のこと)。ウエスタンブロットでテストすると、抗体は両方とも、HM1細胞溶解物中、過剰発現されたHAタグ付きSESTD1を検出した(予想されるサイズ79 kDa)。さらに、トランスフェクトされていない細胞中、HA-SESTD1と共に移動する内因性タンパク質が、両方の抗体によって認識され、このことは、このタンパク質がネイティブなSESTD1であることを強く示唆している。SESTD1に加えて、抗SESTD1 #147は、使用した希釈物とは無関係にいくつかの他のタンパク質を認識し、抗SESTD1 #148もまた、見かけの質量が50 kDaである別のタンパク質を検出した(図8)。
【0118】
HM1細胞に、HAタグ付きSESTD1及びFLAGタグ付きmTRPC4β、GFPタグ付きmTRPC5又はpcDNA3.1(ネガティブコントロール)をそれぞれコトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、細胞を氷上に10分間置き、その後、それらを氷冷D-PBS 10 mL(w/o Ca2+、Mg2+)で2回洗浄することによって、細胞を採取した。1つの皿からホモジナイゼーションバッファー600μl(コンプリートプロテアーゼインヒビターが補足された、320 mMスクロース、5 mM HEPES、pH 7.4)中へ細胞をこすり落とすことによって、細胞膜を単離した。1トランスフェクション条件当たり4個の皿からの細胞懸濁液を合わせ、超音波処理し(1×5秒)、遠心分離し(100×g、10分)、得られた上清を、3つのバイアルに分配してさらに遠心分離した(100,000×g、30分)。1ペレット当たり溶解緩衝液600μL(コンプリートプロテアーゼインヒビターが補足された)で、得られたペレットから膜タンパク質を溶解し、1時間氷上においてインキュベートし、遠心分離した(15分、16000×g、4℃)。上清を新たなバイアルに移し、合わせた。アリコートをインプットコントロールとして維持し、溶解物の残りを2つのバイアルに分割した。各プローブへ、第1抗体4μgを添加し、それらをローテーター上において4℃で一晩インキュベートした。細胞溶解物を、1トランスフェクション条件当たり4つの皿から得た。1つの皿からの細胞を、溶解緩衝液600μL(コンプリートプロテアーゼインヒビターが補足された)中へ直接こすり落とし、氷上において1時間インキュベートし、遠心分離した(15分、16000×g、4℃)。上清を新たなバイアルへ移し、3つの残りの皿の溶解物と合わせ、上述のように処理した。翌日、プロテインA-セファロース又はプロテインG-セファロース懸濁液30μLを、それぞれ、洗浄し、前記プローブへ添加した。それらを4℃でさらに2時間インキュベートした。セファロースをゲージ27針及び溶解緩衝液500μLで3回洗浄し、その後、2×LDSサンプルバッファー20μL(10% β-MEを含有)を添加した。プローブを変性させ(95℃、3分)、遠心分離し、抗SESTD1抗体を用いてウエスタンブロット(実施例2を参照のこと)によって分析した。成功裏のイオンチャネルの沈殿は、抗FLAG(mTRPC4β)及び抗TRPC5でプローブすることによって確認された。
【0119】
mTRPC4β及びmTRPC5がHM1細胞溶解物から沈殿された場合、SESTD1が、沈殿されたサンプル中において見られた。ごく少量のSESTD1がまた、HA-SESTD1のみを発現ししかしFLAGタグ付きmTRPC4β又はGFPタグ付きmTRPC5を発現しなかったコントロールHM1細胞溶解物から、FLAG及びGFP抗体によって沈殿された。この非特異的結合は、異なる沈殿条件下で見られた。それは、常に、前記イオンチャネルタンパク質と共の共免疫沈降よりも遥かに低かった(図9)。
【0120】
実施例6:SESTD1及びTRPC5の機能的相互作用
TRPC5及びSESTD1の機能的相互作用研究のために、mTRPC5-YFPを安定発現するHM1細胞株(HM1-C5Y細胞)を作製した。
【0121】
HM1細胞に、Lipofectamine 2000を使用してmTRPC5-YFP構築物4μgをトランスフェクト
した。構築物を、mTRPC5-GFPのXbaI/NotIフラグメント(Strubing C, Krapivinsky G, Krapivinsky L, & Clapham DE (2003). Formation of novel TRPC channels by complex subunit interactions in embryonic brain. J Biol Chem 278, 39014-39019)をpcDNA3.1(-)zeoへ挿入することによって作製した。YFP融合体を、NotI/EcoRIカットYFP-PCRフラグメントをチャネルC末端へ連結することによって得た。トランスフェクションの24時間後、完全培地(10%(v/v) FBS(PAA, Pasching, Austria)、1mMグルタミン 400 μg/mLゲネチシン(geneticine)、50μg/mLゼオシン(全てInvitrogen, Karlsruhe, Germany製)が補足された、DMEM/Nutrient F12(glutaMAX Iを含む;Invitrogen, Karlsruhe, Germany))中細胞を培養することによって、クローン選択を開始した。数日間の選択後、単一クローンを、成長コロニーを手で選ぶことによって単離した。1つのクローンを、さらなる研究のために選択した。イオンチャネルの機能発現を、電気生理学的測定によってテストした。以前に記載されたように(Strubing C, Krapivinsky G, Krapivinsky L, & Clapham DE (2001). TRPC1 and TRPC5 form a novel cation channel in mammalian brain. Neuron 29, 645-655)測定したカルバコール及びトリプシン誘導イオン電流の電流密度は、15.9±5.5 pA/pF(n=10、カルバコール)及び127.8±57.6 pA/pF(n=6、トリプシン)であった。対照的に、トランスフェクションされていないHM1細胞中、有意な電流は、カルバコール又はトリプシンによって誘導されなかった。
【0122】
細胞質カルシウム[Ca2+]iの変化を、Ca2+感受性蛍光色素fura-2 AM(Invitrogen, Karlsruhe, Germany)を使用して測定し;これは、その蛍光励起最大値が、Ca2+結合時に、より短い波長へシフトし、一方、蛍光発光最大値は比較的不変である、広く使用されるインジケーターである。典型的に、340 nm及び380 nmで励起される蛍光強度の比が測定される。
【0123】
20,000〜40,000細胞/ウエルを、ブラックポリ-L-リジンコーティングされたガラスボトム96-ウエルプレート(Greiner, Frickenhausen, Germany)に播種し、ほぼコンフルエントな単層に一晩成長させた。それらを、135 mM NaCl、1 mM MgCl2、5.4 mM KCl、2 mM CaCl2、10mMHEPES、10 mMグルコース(pH 7.35)から構成されかつ2μM fura-2 AMが補われた標準細胞外溶液100μL(E)にロードし(30分、37℃)、E 80μL中37℃で15分間脱エステル化させた。細胞内カルシウムシグナルを、ベンチトップスキャニング蛍光光度計(FLEX; Molecular Devices, Sunnyvale, CA, USA)でレシオメトリカリーに(ratiometr
ically)測定した。蛍光を交互の340 nm及び380 nmで励起させ、495 nmでロングパスフィルターし、4秒間隔でキャプチャーした。340/380 nm励起比を、SoftMax Proソフトウエア(Molecular Devices)を使用して算出した。ベースライン蛍光を30秒間検出し、その後、ムスカリン性アゴニストであるカルバコール又はプロテアーゼ活性化受容体(PAR)アゴニストであるトリプシンを、FLEXピペッターで適用した。カルバコール及びトリプシンは両方とも、それぞれM1受容体及びPARを介して、HM1細胞中のホスホリパーゼC活性化へ連結する。ホスホリパーゼCは、次に、細胞内貯蔵からのCa2+放出(PI応答)及びTRPC5の活性化を刺激する。貯蔵からのCa2+放出及びTRPC5を介してのCa2+流入を、fura-2ロードされた細胞中において、蛍光測定によって測定した。細胞外Ca2+が存在しない場合、細胞内Ca2+のカルバコール及びトリプシン誘導増加は、内部貯蔵からの放出にのみ起因し、TRPC5とは無関係である。従って、Ca2+放出を、Ca2+フリーの細胞外溶液中で測定された蛍光曲線下面積として算出した。TRPC5仲介Ca2+流入を、標準(Ca2+を含有)細胞外溶液中で測定された曲線下面積からCa2+放出を引くことによって、算出した。
【0124】
HA-SESTD1がHM1-CY5細胞中において過剰発現された場合、カルバコール又はトリプシンの適用に続いてのTRPC5仲介Ca2+流入は、無関係のタンパク質(β−ガラクトシダーゼ、bGAL)がトランスフェクトされたコントロール細胞と有意には相違しなかった。内部貯蔵
からのCa2+放出もまた、HAタグ付きSESTD1の存在又は非存在において有意には変化しなかった。
【0125】
SESTD1を内因的に発現するHM1細胞株中におけるHA-SESTD1の過剰発現は(実施例5)、TRPC5媒介Ca2+流入に影響を与えなかった。従って、これらの細胞中におけるSESTD1タンパク質発現のノックダウンがTRPC5機能を修飾するかどうかをテストした。
【0126】
SESTD1のノックダウンは、異なるSESTD1配列に対して向けられた3つのsiRNA二本鎖(Dharmacon、配列、表2を参照のこと)のプールでの細胞のトランスフェクションによって達成された。FBSはトランスフェクション効率に対する有意な効果を有さなかったので、細胞を、Lipofectamine 2000(Invitrogen, Karlsruhe, Germany)を使用してフル培地中においてトランスフェクトした。リポソームのみが形成され、トランスフェクション培地(Opti-MEM、これもまたInvitrogen製)にロードした。3×105 HM1細胞/2mL/ウエルを、6-ウエルプレートに播種し、翌日、30-50%コンフルエンシーに成長した。20μM siRNAストック溶液2.5μL又は50μM siRNAストック溶液1μLを、それぞれ、トランスフェクション培地250μLに希釈し、Lipofectamine 2000 5μL(これもまたOpti-MEM 250μL中に希釈)と共に20分間(RT)インキュベートした。混合物を細胞へ適用し、最終siRNA濃度が20nmol/Lとなった。トランスフェクションの48時間後、SESTD1は、20 nM siRNA(各々6.6μM)によってほぼ完全にノックダウンされ、一方、無関係のタンパク質(GAPDH)の発現は変化しなかった(図10)。
【0127】
【表6】

【0128】
20 nMのプールされたSESTD-siRNA二本鎖、非特異的非サイレンシングコントロールsiRNA(SilencerRネガティブコントロール#2, Ambion)又はリポソームのみがトランスフェクトされたHM1-C5Y細胞を、フルオロメトリック[Ca2+]i測定において機能的にテストした。M1及びPAR活性化後の内部貯蔵からのTRPC5非依存性Ca2+放出は、前記3つのグループ間で有意には相違しなかった。対照的に、カルバコール又はトリプシンの適用後のTRPC5仲介Ca2+流入は、特異的SESTD1 siRNAで処理した細胞中において有意に低下した。カルバコール刺激後のTRPC5仲介Ca2+流入は、モック(mock)トランスフェクトされた細胞と比較して45.4±2.8%(n=14)へ、又はコントロールsiRNAでトランスフェクトされた細胞と比較して49.6±3.1%(n=14)へ低下した。細胞を100 nMトリプシンで活性化した場合;TRPC5仲介Ca2+流入は、モックトランスフェクトされた細胞と比較して51.4±3.7%(n=15)へ、又はコントロールsiRNAでトランスフェクトされた細胞と比較して57.5±4.2%(n=15)へ低下した。
【0129】
実施例7:SESTD1の発現
SESTD1の組織分布は公表されていなかったので、異なる組織のリアルタイム定量PCR(TaqMan, Livak KJ, Flood SJ, Marmaro J, Giusti W, & Deetz K (1995). Oligonucleotides with fluorescent dyes at opposite ends provide a quenched probe system useful
for detecting PCR product and nucleic acid hybridization. PCR Methods Appl 4, 357-362)分析を行った。結果は、SESTD1 mRNAはヒト組織中において遍在的に発現されることを示した(図11を参照のこと)。
【0130】
本発明者は、ヒト大動脈から作製されたcDNAライブラリー中SESTD1を見出し、どの血管細胞型において該タンパク質が発現されるかを見出すことに関心があった。従って、ヒト初代細胞の溶解物を、SESTD1発現について、ウエスタンブロットによって分析した。SESTD1は、大動脈(AoSMC)及び冠状動脈(CASMC)平滑筋細胞中、並びに大動脈(HAEC)及び
微小血管(HMVEC-d)内皮細胞中の両方に存在した(図12)。
【0131】
実施例8:インビトロリン脂質結合
SESTD1のN末端SEC14p様脂質結合ドメインは、そのメンバーが異なるリン脂質に特異的に結合しかつこれらを輸送することができる、完全な真核生物タンパク質ファミリーの名祖である。TRPCチャネル活性(Kwon Y, Hofmann T, & Montell C (2007). Integration of phosphoinositide- and calmodulin-mediated regulation of TRPC6. Mol Cell 25, 491-503)並びに多くの他の細胞機能(例えば、細胞形状及び接着;Raucher D, Stauffer T, Chen W, Shen K, Guo S, York JD, Sheetz MP, & Meyer T (2000). Phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate functions as a second messenger that regulates cytoskeleton-plasma membrane adhesion. Cell 100, 221-228)が、リン脂質含有量及び分布によって調節され得る。従って、本発明者は、SESTD1へ結合するリン脂質を検出及び定量するために使用され得るアッセイを開発した。
【0132】
a)PIPストリップリン脂質オーバーレイアッセイ
PIPストリップ(Invitrogen, Karlsruhe, Germany)は、15個の異なるリン脂質のサンプル100 pmol及びブランクサプルを含有する市販のニトロセルロース膜である。それらを、以下:
a)TBST(150 mM NaCl、10 mM Tris-HCl、0.1% Tween 20、pH 8)、
b)0.06μM遊離Ca2+を有するTBST(150 mM NaCl、10 mM Tris-HCl、1 mM EGTA、1 mM
MgCl2、0.9 mM CaCl2、0.1% Tween 20、pH 8)
c)2.5μM遊離Ca2+を有するTBST(150 mM NaCl、10 mM Tris-HCl、1 mM EGTA、1 mM MgCl2、1 mM CaCl2、0.1% Tween 20、pH 8)
中の本質的に脂肪酸フリーのBSA3%(Sigma, Munich Germary)から構成されているPIPストリップ用の異なるブロッキング緩衝液で1時間(RT)ブロックし、続いて、500 ng/mL精製GSTを含有するブロッキング緩衝液a)、又はそれぞれ500 ng/mL GST-SESTD1を有するブロッキング緩衝液b)若しくはc)と共にインキュベートした(4時間、RT)。洗浄後(個々のブロッキング緩衝液で2回、続いて、ブロッキング緩衝液a)で1回)、それらを、第1の抗体 抗GST(ブロッキング緩衝液a)中1:2,000)と共に、4℃で一晩インキュベートした。TBST(pH 8)での3回の洗浄工程に続いて、二次HRP結合抗ウサギ抗体(ブロッキング緩衝液a)中1:20,000)と共に45分間インキュベーションした。膜をTBSTで再び3回洗浄し、Lumi-LightPLUSウエスタンブロッティング基質1 mL(Roche, Mannheim, Germany)と共にインキュベートし(5分)、化学発光シグナルをLumi Imager(Roche, Mannheim, Germany)で分析した。
【0133】
全ての生理学的な見つかったホスファチジル-イノシトール−モノ−及びジホスフェート(PIP、PIP2)並びにホスファチジン酸へのSESTD1の特異的結合を、リン脂質オーバーレイアッセイにおいて検出した。これらの基質へのSESTD1の結合は、Ca2+濃度に応じて変化した。静止細胞中におけるおおよその生理学的濃度である、60 nM Ca2+の存在下で、SESTD1は、PIPへ強力に、異なるPIP2及びホスファチジン酸へより少ない程度に結合した。Ca2+ 濃度を上昇させる(2.5μM)ことにより細胞活性化をシミュレートすることによって、PI(3,5)P2、PI(4,5)2、ホスファチジン酸の、並びにPI(3,4)P2、PI(3)P 及び PI(4)Pの結合が増加した(図13)。
【0134】
b)Cova-PIPプレート結合アッセイ
LL5-αのGSTタグ付きPHドメイン、GSTのみ、又はGST-SESTD1を、PIPストリップ(実施例8a)のためにブロッキング緩衝液a)中に希釈した。1ウエル当たりPIPn 10又は100 pmolがロードされたCova-PIP特異性プレート(specifity plate)(Echelon, Salt Lake City, USA)を、RTで3時間、1ウエル当たりタンパク質溶液100μLと共にインキュベートした。プレートを、PIPストリップについてのブロッキング緩衝液a)で手動によって3
回洗浄し、その後、PIPストリップについての抗GST 100μL(ブロッキング緩衝液a中1:1,000)を、各ウエルへ添加し、RTで1時間インキュベートした。プレートを、自動プレート洗浄機を使用してTBST(150 mM NaCl、10 mM Tris-HCl、0.1% Tween 20、pH8)で4回洗浄した。
【0135】
解離促進ランタニド蛍光イムノアッセイ(DELFIA)のために、PIPストリップ用の二次Eu-N1標識抗ウサギ抗体100μL(ブロッキング緩衝液a中に500ng/mL)を、1ウエル当たり添加し、RTで1時間インキュベートした。プレートを、自動プレート洗浄機を用いてTBSTで4回洗浄し、その後、1ウエル当たり促進溶液100μL(Perkin Elmer, Waltham, USA)を添加した。20分インキュベーション後、ランタニドの蛍光を励起し(λexc=340nm)、Tecan Ultraプレートリーダー(Tecan, Crailsheim, Germany)において読み取った(λexc=620nm)。
【0136】
LL5−αのGSTタグ化PHドメインは、全てのホスホイノシチドを認識するコントロール試薬として示唆される。従って、GST-SESTD1及びLL5-αの結合を、先ず、1ウエル当たり基質10 pmolがロードされたCova PIP特異性プレート(specifity plate)において比較した。選択した条件下でLL5-αのGSTタグ付きPHドメインの有意な結合が存在した一方、GST-SESTD1の有意な結合は観察されなかった。
【0137】
本発明者は、1ウエル当たりの基質ローディングの量を増加させることが、GST-SESTD1で観察されるシグナルを増加させ得ると推論した。従って、種々の量のSESTD1の結合を、1ウエル当たり基質100 pmolがロードされたプレートを使用して同様にテストした。実際に、SESTD1は、PI(4,5)P2及びPI(3,4)P2に対して最も高い親和性で、全てのホスホイノシチドへ特異的に結合した(図14)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
− 一過性受容体電位チャネル(TRPC)又はその機能的に活性な変異体を含む又はからなる第1のタンパク質、及び
− SEC14及びスペクトリンドメイン1(SESTD1)の第1スペクトリン(Spec 1)ドメインを含む又はからなる第2のタンパク質
を含む、単離された複合体。
【請求項2】
− 一過性受容体電位チャネル(TRPC)又はその機能的に活性な変異体のドメインを含む又はからなる第1のタンパク質、該ドメインは、配列
【化1】

を有し、ここで、各Xは任意のアミノ酸残基を示す、及び
− SESTD1のSpec 1ドメインを含む又はからなる第2のタンパク質
を含む、単離された複合体。
【請求項3】
− 一過性受容体電位チャネル(TRPC)又はその機能的に活性な変異体を含む又はからなる第1のタンパク質、並びに
− アンキリンリピートドメイン35(ANKRD35)、アポリポタンパク質A-I結合タンパク質(APOA1BP)、亜鉛フィンガードメイン隣接ブロモドメイン(BAZ1B)、高移動度群タンパク質2様1アイソフォームb(HMG2L1)、マコーリンRINGフィンガータンパク質1(MKRN1)、プレB細胞白血病ホメオボックス相互作用タンパク質1(PBXIP1)、肉腫抗原NY-SAR-48、スペクトリンアルファ非赤血球1(SPTAN1)、染色体構造維持3(SMC3)及びタリン2(TLN2)からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質を含む又はからなる第2のタンパク質
を含む、単離された複合体。
【請求項4】
TRPCが、TRPC4、TRPC5及びTRPC6からなる群、特にTRPC4又はTRPC5、特にTRPC4α若しくはTRPC4β又はTRPC5より選択される、請求項1又は3のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項5】
第1のタンパク質が、配列
【化2】

又は
【化3】

を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項6】
TRPCが、哺乳類TRPC、特にマウス又はヒトTRPCである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項7】
第2タンパク質がSESTD1を含む又はからなる、請求項1、2、4、5又は6のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項8】
SESTD1が、哺乳類SESTD1、特にラット、マウス又はヒトSESTD1である、請求項1、2、4、5、6又は7のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項9】
− 請求項1〜6のいずれか1項に定義される第1のタンパク質
− 請求項1、2、3、7、及び8のいずれか1項に定義される第2のタンパク質、並びに
− 第1の及び第2のタンパク質の相互作用を検出するための手段
を含む、テストシステム。
【請求項10】
TRPCモジュレーターをスクリーニングするための方法であって、以下の工程:
a)請求項9に記載のテストシステムと物質とを接触させる工程、及び
b)物質とテストシステムとの相互作用時の測定可能なシグナルを検出し、それによって、物質をTRPCモジュレーターと同定する工程
を含む、方法。
【請求項11】
テストシステムの第1の及び第2のタンパク質間の相互作用に対する物質の影響が直接検出される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
第1の及び/又は第2のタンパク質が検出可能なマーカーを含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
測定可能なシグナルを検出する工程が、第1のタンパク質に対する特異的抗体及び/又は第2のタンパク質に対する特異的抗体の使用を含む、請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
TRPCモジュレーターが、第2のタンパク質への第1のタンパク質の結合を増強する又は好ましくは害する若しくは阻害する、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
− 請求項1、2、7、及び8のいずれか1項において第2のタンパク質として定義されるタンパク質、及び
− リン脂質、並びに
− タンパク質及びリン脂質の相互作用を検出する手段
を含む、テストシステム。
【請求項16】
リン脂質が、リゾホスファチジン酸、リゾホスホコリン、ホスファチジル−イノシトール−(3)ホスフェート、ホスファチジル−イノシトール−(4)ホスフェート、ホスファチジル−イノシトール−(5)ホスフェート、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、スフィンゴシン−1−ホスフェート、ホスファチジルイノシトール(3,4)ビスホスフェート、ホスファチジルイノシトール(3,5)ホスファト、ホスファチジルイノシトール(4,5)ビスホスフェート、ホスファチジルイノシトール(3,4,5)トリスホスフェート、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、又はモノホスフェートからなる群より選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
タンパク質及びリン脂質の相互作用のモジュレーターのスクリーニングのための方法であって、以下の工程:
c)請求項15又は16に記載のテストシステムと物質とを接触させる工程、及び
d)物質とテストシステムとの相互作用時の測定可能なシグナルを検出し、それによって、タンパク質とリン脂質との相互作用のモジュレーターとして物質を同定する工程
を含む、方法。
【請求項18】
方法が、内皮機能不全を伴う疾患を予防及び/又は治療するための薬剤をスクリーニングするために使用される、請求項10〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
方法が、心臓血管疾患、心肥大、心不全、虚血、新生内膜過形成、特発性拡張型心筋症、高血圧、冠症候群、心不全、腎不全、血栓症、慢性呼吸器疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患、特発性肺高血圧、急性低酸素性肺血管収縮、炎症性閉塞疾患及びアテローム性動脈硬化症を予防及び/又は治療するための医薬をスクリーニングするために使用される、請求項10〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
TRPCモジュレーターの同定のための請求項9に記載のテストシステムの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2011−501757(P2011−501757A)
【公表日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530308(P2010−530308)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【国際出願番号】PCT/EP2008/008670
【国際公開番号】WO2009/052971
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(399050909)サノフィ−アベンティス (225)
【Fターム(参考)】