説明

TRPV発現レベルの制御

【課題】本発明において、眼および毛包の異常を含む、高レベルのTRPV1に関連する状態の治療および/または予防のための手段の提供を目的とする。
【解決手段】当該目的は、TRPV1遺伝子の1つまたは複数のスプライシング形態のmRNA発現に干渉することをターゲットとする、siNAまたは低分子干渉NAと称する二本鎖核酸成分の使用によって引き起こすことができる。siNAは、好ましくはsiRNAであるが、修飾核酸または同様の化学合成物も本発明の範囲に含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一過性受容体電位バニロイド-1(transient receptor potential vanilloid-1; TRPV1)の高レベルの発現および/または活性に関連する状態の治療および/または予防のための方法および組成物に関する。とりわけ、屈折手術後の角膜の不快感および感受性の変化、コンタクトレンズの使用、ドライアイならびに糖尿病性網膜症などの眼の状態が改善される。
【0002】
脱毛などの、TRPV1の高レベルの発現および/または活性が介在する毛包および皮膚の異常の治療および/または予防のための方法および組成物も提供する。好ましい実施形態において本発明は、TRPV1の発現を下方制御するRNAi技術の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
RNA干渉は、短鎖干渉RNA(siRNA)が介在する配列特異的転写後遺伝子サイレンシングのプロセスを意味する。1990年代初めの植物における前記現象の発見後、Andy FireおよびCraig Melloは、エレガンス線虫(Caenorhabditis elegans)において二本鎖RNA(dsRNA)が非常に効率的に遺伝子の発現を特異的および選択的に阻害することを示した(Fireら、1998年、Potent and specific genetic interference by double stranded RNA in Caenorhabditis elegans.Nature,391: 806)。第一鎖(センスRNA)の配列は、標的メッセンジャーRNA(mRNA)の対応する領域の配列と一致していた。第二鎖(アンチセンスRNA)は、mRNAに相補的であった。得られたdsRNAは、対応する一本鎖RNA分子よりも(特にアンチセンスRNAにおいて)数桁さらに効率的になった。
【0004】
RNAiのプロセスは、酵素DICERがdsRNAに遭遇し、かつそれを低分子干渉RNA(siRNA)と称される小片に切断して開始する。このタンパク質は、RNase IIIヌクレアーゼファミリーに属する。タンパク質複合体は、これらの残っているRNAを集め、それらのコードを、細胞内の配列が一致する任意のRNA、例えば標的mRNAを探査しかつ破壊するための指標として使用する(参照、Bosher & Labouesse,2000年、RNA interference: genetic wand and genetic watchdog. Nat Cell Bio, 2000年、2(2): E31、およびAkashiら、2001年、Suppression of gene expression by RNA interference in cultured plant cells. Antisense Nucleic Acid Drug Dev, 11(6): 359)。
【0005】
遺伝子ノックダウンのためにRNAiを利用する試みにおいて、ウイルス感染に対する多様な防御機構を哺乳類細胞が発達させており、これによりこの試みの使用が妨げられる可能性があると認められた。実際に、非常に低いレベルのウイルス性dsRNAが存在すると、インターフェロン応答が誘発された結果、翻訳が包括的かつ非特異的に抑制され、さらにはアポトーシスが誘発される(Williams,1997年、Role of the double-stranded RNA-activated protein kinase (PKR) in cell regulation. Biochem Soc Trans,25(2): 509、Gil & Esteban,2000年、Induction of apoptosis by the dsRNA-dependent protein kinase (PKR): mechanism of action. Apoptosis, 5(2):107〜14)。
【0006】
2000年に、dsRNAがマウス卵母細胞および初期胚で3個の遺伝子を特異的に阻害すると報告された。翻訳の休止、例えばPKR応答は、胚が継続して発達している場合は観察されなかった(Wianny & Zernicka-Goetz, 2000年、Specific interference with gene function by double-stranded RNA in early mouse development. Nat Cell Biol, 2(2)70)。Ribopharma AG(Kulmbach,ドイツ)での研究は、ヒト細胞において急性期応答を開始させることなく遺伝子のスイッチを切るために短鎖(20〜24塩基対)dsRNAを使用して哺乳類細胞におけるRNAiの機能性を示した。他の研究グループによって実施された同様の実験でこれらの結果が確された(Elbashirら、2001年、RNA interference is mediated by 21- and 22-nucleotide RNAs. Genes Dev, 15(2): 188、Caplenら、2001年、Specific inhibition of gene expression by small double stranded RNAs in invertebrate and vertebrate systems. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98: 9742)。ヒトおよびマウスの多様な正常および癌の細胞系での試験において、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)がそれらのsiRNA対応物と同じ効率で遺伝子を抑制できることが示された(Paddisonら、2002年、Short hairpin RNAs (shRNAs) induce sequence-specific silencing in mammalian cells. Genes Dev, 16(8): 948)。近年、低分子RNA(21〜25塩基対)の他の群が遺伝子発現の下方制御に介在することが示された。これらのRNA、低分子一過性制御RNA(stRNA)は、エレガンス線虫において発達中の遺伝子発現の時期を制御している(総説についてはBanerjee & Slack, Control of developmental timing by small temporal RNA: a paradigm for RNA-mediated regulation of gene expression. Bioessays, 2002年、24(2):119〜29およびGrosshans & Slack, 2002年、Micro-RNAs; small is plentiful. J Cell Biol, 156(1): 17を参照)。
【0007】
科学者らは、エレガンス線虫、ショウジョウバエ、トリパノソーマ類および他の無脊椎動物を含むいくつかの系においてRNAiを使用している。いくつかのグループは、近年、RNAiがin vitroで遺伝子抑制に広く適用可能な方法であることを示す異なる哺乳類細胞系(具体的にはHeLa細胞)におけるタンパク質生合成の特異的抑制を示している。これらの結果に基づいて、RNAiは、遺伝子機能を確認(同定および帰属)するための方法として急速に認めされるようになった。短鎖dsRNAオリゴヌクレオチドを使用するRNAiは、部分的に配列確認されただけの遺伝子の機能の理解をもたらすことになる。
【0008】
バニロイド受容体1(VR-1)とも称される、一過性受容体電位バニロイド-1(TRPV1)は、1997年に最初に発見されたカプサイシン応答性リガンド開口型カチオンチャネルである(Caterinaら、The capsaicin receptor: a heat-activated ion channel in the pain pathway. Nature. 1997年10月23日; 389(6653): 816〜24)。TRPV1は、主に感覚神経において発現され、熱、カプサイシン、プロトンおよびエンドバニロイドの検出分子として作用する(Caterina MJ & Julius D. The vanilloid receptor: a molecular gateway to the pain pathway. Annu Rev Neurosci., 2001年;24:487〜517、Montellら、Short hairpin RNAs (shRNAs) induce sequence-specific silencing in mammalian cells. Genes Dev., 2002年、16(8): 948〜58、Baumann TK & Martenson ME. Extracellular protons both increase the activity and reduce the conductance of capsaicin-gated channels. J Neurosci.2000年; 20; RC80)。
【0009】
カプサイシンおよび熱、アシドーシス、リポオキシゲナーゼ産物またはアナンダミドなどの他の要因などのアゴニストによってTRPV1が活性化される場合、カルシウムが細胞に入り痛みシグナルが開始される。チャネルの活性化は、中枢および末梢感覚神経終末からの神経ペプチドの放出を誘発し、痛覚、神経性炎症ならびに場合により平滑筋の収縮およびせきを生じさせる。近年の証拠は、痛み、せき、ぜん息および切迫尿失禁におけるTRPV1の役割を示唆している(Jiaら、TRPV1 receptor: a target for the treatment of pain, cough, airway disease and urinary incontinence. Drug News Perspect.2005年4月; 18(3): 165〜71)。
【0010】
炎症状態においてTRPV1発現の感受性および発現密度の両方が促進されていることから(Di Marzoら、Endovanilloid signaling in pain. Curr Opin Neurobiol.2002年8月; 12(4): 372〜9)、TRPV1発現および/または活性の下方制御は、新規鎮痛薬のための有望な治療戦略である。実際にマウスへの選択的TRPV1ブロッカーの腹腔内投与は、化学的痛覚および温痛覚ならびに痛覚過敏を減じることが証明された(Garcia-Martinezら、Attenuation of thermal nociception and hyperalgesia by VR1 blockers. Proc Natl Acad Sci USA. 2002年2月19日; 99(4): 2374〜9)。
【0011】
TRPV1チャネルの機能は、炎症状態に存在しチャネルの活性化のための閾値を低下させるいくつかの内因性メディエーターによって上方制御される。したがって、近年、上昇したイオン強度によって引き出される急性痛覚関連反応は、TRPV1ヌルマウスにおいて消滅し、強力なTRPV1アンタゴニストであるヨードレシニフェラトキシンによって阻害されることが示された(Ahernら、Extracellular cations sensitize and gate capsaicin receptor TRPV1 modulating pain signaling. J Neurosci.2005年5月25日; 25 (21): 5109〜16)。さらにプロスタグランジンE2(PGE2)およびプロスタグランジンI2(PGI2)は、それぞれの受容体EP1またはIPを通じてTRPV1応答を増大させ、または敏感にすることが証明され(Moriyamaら、Sensitization of TRPV1 by EP1 and IP reveals peripheral nociceptive mechanism of prostaglandins. Mol Pain.2005年1月17日; 1(1): 3)、EP1またはIPの活性化を通じたTRPV1活性の敏感化が、PGE2またはPGI2の末梢痛覚作用の基礎的な1つの重要なメカニズムであり得ることを初めて示唆した。WO 2004/042046は、VR1を標的とするsiRNAを、慢性痛、VR1受容体およびVR関連炎症に関連する感受性機能不全、腫瘍性尿失禁ならびに掻痒の治療において使用できることを示している。
【0012】
ポリモーダル侵害受容体は、角膜で観察される最も多い侵害受容体型である。受容体がカプサイシン、熱および酸に応答することから、前記受容体繊維がTRPV1受容体を発現している薬理学的証拠がある。さらに、機械的応答が影響されずに残るにもかかわらず高投与量のカプサイシンは、熱および酸に対する角膜ポリモーダル侵害受容体の活性化を不活性化する。このことは、角膜のポリモーダル神経終末に存在するTRPV1受容体が選択的に不活性化されたこと示唆する。したがって、角膜傷害への急性痛覚応答ならびに前記組織での炎症および刺激性作用を伴う持続的痛覚の重要な部分は、TRPV1活性化に介在されているのであろう。
【0013】
近年の証拠は、インスリンおよびIGF-Iの両方が異種発現系および培養後根神経節ニューロンにおけるTRPV1介在膜電流を促進することを示している(Van Burenら、Sensitization and translocation of TRPV1 by insulin and IGF-I. Mol Pain. 2005年4月27日; 1(1): 17)。膜電流の促進は、受容体の感受性の増大およびTRPV1の細胞質ゾルから形質膜への転位の両方から生じる。IGF-Iの増大は、血清中(Merimeeら、Insulin-like growth factors. Studies in diabetics with and without retinopathy. N. Engl. J. Med., 1983年; 309: 527〜530、Grantら、Insulin-like growth factors in vitreous. Studies in control and diabetic subjects with neovascularization. Diabetes, 1986年; 35: 416〜420)ならびに糖尿病性網膜症患者の硝子体および眼内液(Grantら、1986年、Inokuchiら、Vitreous levels of insulin-like growth factor-I in patients with proliferative diabetic retinopathy. Curr. Eye Res., 2001年; 23: 368〜371)において観察されている。さらに、硝子体IGF-Iレベルは、虚血関連糖尿病性網膜血管新生の存在および重症度と関連する(Meyer-Schwickerathら、Vitreous levels of the insulin-like growth factors I and II, and the insulin-like growth factor binding proteins 2 and 3, increase in neovascular eye disease. Studies in nondiabetic and diabetic subjects. J Clin Invest., 1993年; 92(6): 2620〜5)。しかし、網膜症において眼のIGF-1が増大する原因には議論があり、内因性IGF-1または血清IGF-1のどちらの相対的寄与も未知である(Ruberteら、Increased ocular levels of IGF-1 in transgenic mice lead to diabetes-like eye disease. J Clin Invest.2004年4月; 113(8): 1149〜57)。TRPV1レベルの制御は、IGF-Iで介在される糖尿病性網膜症の制御を補助できた。
初めは感覚神経において記載されたが、現在ではTRPV1は、いくつかのヒト皮膚細胞集団ならびにヒト毛包(HF)の上皮構成成分、主に外毛根鞘(ORS)および毛母基において検出されている(Bodoら、A hot new twist to hair biology: involvement of vanilloid receptor-1(VR1/TRPV1) signaling in human hair growth control. Am J Pathol.2005年4月; 166(4): 985〜98)。器官培養およびヒトORSケラチノサイト培養物におけるTRPV1の刺激は、増殖を阻害し、アポトーシスを誘導し、細胞内カルシウム濃度を上昇させ、既知の内因性毛髪成長阻害因子を上方制御し、かつ既知の毛髪成長促進因子を下方制御する、したがってTRPV1がヒトの毛髪成長制御における重要な新規因子であることが支持される(Bodoら、2005年)。
上記で挙げた証拠は、屈折手術後の角膜の不快感および感受性の変化、コンタクトレンズの使用およびドライアイなどの、TRPV1の過剰な発現および/または活性が介在する眼の状態の効率的な治療としてTRPV1の阻害を指摘している。TRPV1とIGF-Iとの間の機能的関連は、高レベルのIGF-Iによって介在される糖尿病性網膜症の治療のためのTRPV1の下方制御の重要性を強調している。ヒト毛包の成長およびケラチノサイトにおいてTRPV1によって果たされる役割は、脱毛症などの毛包および皮膚の異常の治療のために阻害されるべき有望な候補としてTRPV1を標的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】WO 2004/042046
【特許文献2】WO 2005/045037
【特許文献3】国際公開WO03/070744
【特許文献4】WO2005/045037
【特許文献5】GB2406568
【特許文献6】国際公開WO2004/029212
【特許文献7】国際公開WO2005/044976
【特許文献8】WO03/070744
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Fireら、1998年、Potent and specific genetic interference by double stranded RNA in Caenorhabditis elegans. Nature, 391:806
【非特許文献2】Bosher & Labouesse, 2000年、RNA interference: genetic wand and genetic watchdog. Nat Cell Bio, 2000年、2(2): E31
【非特許文献3】Akashiら、2001年、Suppression of gene expression by RNA interference in cultured plant cells. Antisense Nucleic Acid Drug Dev, 11(6): 359
【非特許文献4】Williams, 1997年、Role of the double-stranded RNA-activated protein kinase (PKR) in cell regulation. Biochem Soc Trans, 25(2): 509
【非特許文献5】Gil & Esteban, 2000年、Induction of apoptosis by the dsRNA-dependent protein kinase (PKR): mechanism of action. Apoptosis, 5(2): 107〜14
【非特許文献6】Wianny & Zernicka-Goetz, 2000年、Specific interference with gene function by double-stranded RNA in early mouse development. Nat Cell Biol, 2(2) 70
【非特許文献7】Elbashirら、2001年、RNA interference is mediated by 21- and 22-nucleotide RNAs. Genes Dev, 15(2): 188
【非特許文献8】Caplenら、2001年、Specific inhibition of gene expression by small double stranded RNAs in invertebrate and vertebrate systems. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98: 9742
【非特許文献9】Paddisonら、2002年、Short hairpin RNAs (shRNAs) induce sequence-specific silencing in mammalian cells. Genes Dev, 16(8): 948
【非特許文献10】Banerjee & Slack, Control of developmental timing by small temporal RNAs: a paradigm for RNA-mediated regulation of gene expression.Bioessays, 2002年、24(2):119〜29
【非特許文献11】Grosshans & Slack, 2002年、Micro-RNAs ;small is plentiful. J Cell Biol, 156(1): 17
【非特許文献12】Caterinaら、The capsaicin receptor: a heat-activated ion channel in the pain pathway. Nature. 1997年10月23日; 389(6653): 816〜24
【非特許文献13】Caterina MJ & Julius D. The vanilloid receptor: a molecular gateway to the pain pathway. Annu Rev Neurosci., 2001年;24:487〜517
【非特許文献14】Montellら、Short hairpin RNAs (shRNAs) induce sequence-specific silencing in mammalian cells. Genes Dev., 2002年、16(8): 948〜58
【非特許文献15】Baumann TK & Martenson ME. Extracellular protons both increase the activity and reduce the conductance of capsaicin-gated channels. J Neurosci.2000年; 20; RC80
【非特許文献16】Jiaら、TRPV1 receptor: a target for the treatment of pain, cough, airway disease and urinary incontinence. Drug News Perspect.2005年4月; 18(3): 165〜71
【非特許文献17】Di Marzoら、Endovanilloid signaling in pain. Curr Opin Neurobiol.2002年8月; 12(4): 372〜9
【非特許文献18】Garcia-Martinezら、Attenuation of thermal nociception and hyperalgesia by VR1 blockers. Proc Natl Acad Sci USA. 2002年2月19日; 99(4): 2374〜9
【非特許文献19】Ahernら、Extracellular cations sensitize and gate capsaicin receptor TRPV1 modulating pain signaling. J Neurosci.2005年5月25日; 25(21): 5109〜16
【非特許文献20】Moriyamaら、Sensitization of TRPV1 by EP1 and IP reveals peripheral nociceptive mechanism of prostaglandins. Mol Pain.2005年1月17日; 1(1): 3
【非特許文献21】Van Burenら、Sensitization and translocation of TRPV1 by insulin and IGF-I. Mol Pain. 2005年4月27日; 1(1): 17
【非特許文献22】Merimeeら、Insulin-like growth factors. Studies in diabetics with and without retinopathy.N.Engl.J.Med., 1983年;309:527〜530
【非特許文献23】Grantら、Insulin-like growth factors in vitreous. Studies in control and diabetic subjects with neovascularization.Diabetes, 1986年;35:416〜420
【非特許文献24】Inokuchiら、Vitreous levels of insulin-like growth factor-I in patients with proliferative diabetic retinopathy. Curr. Eye Res., 2001年; 2 3: 368〜371
【非特許文献25】Meyer-Schwickerathら、Vitreous levels of the insulin-like growth factors I and II, and the insulin-like growth factor binding proteins 2 and 3, increase in neovascular eye disease. Studies in nondiabetic and diabetic subjects. J Clin Invest., 1993年;92(6):2620〜5
【非特許文献26】Ruberteら、Increased ocular levels of IGF-1 in transgenic mice lead to diabetes-like eye disease. J Clin Invest.2004年4月; 113(8): 1149〜57
【非特許文献27】Bodoら、A hot new twist to hair biology: involvement of vanilloid receptor-1 (VR1/TRPV1) signaling in human hair growth control. Am J Pathol.2005年4月; 166(4): 985〜98
【非特許文献28】Brockら、Tetrodotoxin-resistant impulses in single nociceptor nerve terminals in guinea-pig cornea. J Physiol.1998年10月1日; 512(Pt 1): 211〜7
【非特許文献29】Brock & Cunnane, 1995年、Effects of Ca2+ and K+ channel blockers on nerve impulses recorded from postganglionic sympathetic nerve terminals. The Journal of Physiology 489,389〜402
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明において我々は、眼および毛包の異常を含む、高レベルのTRPV1に関連する状態の治療および/または予防のための方法を記載する。この方法は、TRPV1遺伝子の1つまたは複数のスプライシング形態の発現の下方制御に基づいている。阻害(下方制御)は、TRPV1遺伝子の1つまたは複数のスプライシング形態のmRNA発現に干渉することをターゲットとする、siNAまたは低分子干渉NAと称する二本鎖核酸成分の使用によって引き起こすことができる。siNAは、好ましくはsiRNAであるが、修飾核酸または同様の化学合成物も本発明の範囲に含まれる。
【0017】
他の膜タンパク質およびチャネルと同様にTRPV1受容体は、細胞内部で合成され、軸索内輸送によって末梢に輸送される。しかし、TRPV1が感覚神経終末においても合成され、終末の形質導入部分の膜に局所的に挿入されている可能性がある。したがって、理論に制限されるわけではないが、TRPV1発現を担う遺伝子の特異的抑制に向けたsiNAの局所的投与を通じたTRPV1の局所的合成の遮断が、角膜の外因性または内因性の刺激による化学的刺激へのポリモーダル侵害受容繊維の部分的または完全不活性化を、ならびに、傷害および炎症に関連するそれらのインパルス活性の減少または消去を、導けることが示唆される。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第一の態様は、TRPV1の発現および/または活性の増大を特徴とする眼および/または毛包の異常の治療方法における使用のための薬剤の調製における、siNAの使用に関する。
【0019】
本発明の第二の態様は、TRPV1を標的にするsiNA化合物に関する。
【0020】
本発明の他の態様は、TRPV1を標的にするsiNA化合物を含む医薬組成物に関する。
本発明のさらなる態様は、患者におけるTRPV1遺伝子の発現を阻害するためにsiNAを投与することを含む、TRPV1の発現および/または活性が増大していることを特徴とする疾病の治療方法であって、疾病の状態が、屈折手術後の角膜の感受性の変化、コンタクトレンズの使用、ドライアイ、糖尿病性網膜症および他の眼科症状などの眼の異常ならびに脱毛などの毛包の異常を含む群から選択される治療方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、選択的スプライシングによって生成される4つのTRPV1転写物に対応するGenBankアクセッション番号を示す表である。
【図2A】図2は、本発明のsiNAの好ましい標的配列として選択される標的遺伝子配列の短鎖DNA断片を示す表である。
【図2B】図2A参照。
【図3A】図3は、本発明の好ましいsiNA分子を示す表である。
【図3B】図3A参照。
【図3C】図3A参照。
【図3D】図3A参照。
【図4】図4は、モルモットの右眼に0.1mMカプサイシン溶液10μlの液滴を、左眼に滅菌等張生理食塩水10μlを局所投与した効果を示すグラフであり、引っ掻きおよび払いのけ行動(A)、流涙(B)ならびに結膜充血(C)を分析したグラフである。
【図5】図5は、0.1mMカプサイシンの局所投与への行動応答についてのON3の低下効果を示すグラフであり、引っ掻きおよび払いのけ行動(A)、流涙(B)ならびに結膜充血(C)を分析したグラフである。
【図6】図6は、処置後のさまざまな日における実験した全ての動物についての引っ掻き/払いのけ行動の回数の平均減少を、絶対値(上のグラフ)および対照側から処置側への減少の百分率として示すグラフである。
【図7】図7は、記録装置の配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の第一の態様において本発明は、TRPV1の発現および/または活性の増大を特徴とする眼および/または毛包の異常の治療方法における使用のための薬剤の調製におけるsiNAの使用に関する。方法は、患者においてTRPV1の発現を阻害することを含むことができる。用語、阻害は、発現もしくは活性の低下または下方制御を意味して使用される。好ましくは、眼の状態は、屈折手術後の角膜の不快感および感受性の変化、コンタクトレンズの使用、ドライアイ、糖尿病性網膜症ならびに他の眼科症状などを含む群から選択される。同様に好ましくは毛包の異常は、脱毛である。
【0023】
例えばsiNA分子が選択的に遺伝子の発現を減少させるまたは阻害する場合に、その遺伝子は、本発明によるsiNAによって「標的にされる」。本明細書において使用される用語「選択的減少または阻害」は、一遺伝子の発現に影響するsiNAを包含する。二者択一的に、siNAが遺伝子転写物に厳密な条件下でハイブリダイズする場合にsiNAは、その遺伝子を標的にする。
【0024】
一実施形態において、本発明によるsiNAは、siRNAである。
【0025】
TRPV1に対応する4つの転写変異体は、同定されている。選択的スプライシングによって生成されるTRPV1の4つの転写産物に対応するGenBankアクセッション番号を図1に示す。好ましくは、siNAは、GenBankアクセッション番号NM_080704、NM_018727、NM_080706、NM_080705を有する群から選択されるTRPV1のスプライス形態を標的にする。
【0026】
本発明の第一の態様によりRNAiが対象とする選択されたオリゴヌクレオチド配列を図2に示す。示した配列は、siNAによって標的にされるDNA配列である。したがって、本発明は、示したDNA配列に相補的な配列を有する二本鎖NAを使用する。したがって、本発明の第一の態様によりsiNAは、配列番号1から配列番号81から選択される配列または配列番号1から配列番号81から選択される配列を含む配列を標的にする。したがって、siNAは、配列番号1から配列番号81から選択される配列または配列番号1から配列番号81から選択される配列を含む配列に相補的である。
【0027】
本発明により、複数のsiNA分子種を使用できる。一実施形態において、複数のsiNA分子種は、同一のmRNA分子種を標的にすることができ、他の実施形態においては異なる分子種を標的にできる。
【0028】
図2に示す配列は限定的では無い。本発明により、標的DNAは、必ずしもAAまたはCAに先行される必要は無い。さらに標的DNAは、任意の近接配列が隣接する図2に含まれる配列によって構成できる。
【0029】
他の好ましい実施形態において、本発明は、図2に示す配列番号1から44または配列番号46から81から選択されるヌクレオチド配列に相補的なヌクレチド配列を含むTRPV1を標的にするsiNA化合物に関する。一実施形態において好ましい配列は、配列番号65である。
【0030】
さらなる実施形態において、本発明は、TRPV1の発現および/または活性の増大を特徴とする疾病の治療における使用のための、配列番号1から44または配列番号46から81から選択されるヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含むTRPV1を標的にするsiNA化合物に関し、siNAは配列番号1から44または配列番号46から81から選択されるヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0031】
さらなる態様において、本発明は、配列番号1から44または配列番号46から81から選択されるヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含む医薬組成物に関する。
【0032】
一実施形態において、本発明のsiNA分子は、配列番号82から162の群から選択されるヌクレオチド配列を含む。例えば、本発明のsiNA分子は、配列番号82から122または123から162の群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0033】
好ましい実施形態においてsiNA分子は、オーバーハングヌクレオチドを含む。
【0034】
本発明は、配列番号1から44もしくは配列番号46から81から選択されるヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含む化合物で細胞または組織を処置し、TRPV1の発現を阻害することを含む、ex vivoで前記細胞もしくは組織においてTRPV1の発現および/または活性を阻害するための方法にも関する。
【0035】
最後の態様において本発明は、患者にTRPV1遺伝子の発現を阻害するためにsiNAを投与することを含むTRPV1の発現および/または活性が増大していることを特徴とする疾病の治療方法であって、疾病の状態が屈折手術後の角膜の感受性の変化、コンタクトレンズの使用、ドライアイ、糖尿病性網膜症および他の眼科症状などの眼の異常ならびに脱毛などの毛包の異常を含む群から選択される治療方法に関する。
【0036】
用語「処置」または「治療」は、本明細書において疾病を治療するための患者の管理または看護を表し、例えば症状または合併症の発症の阻止、すなわち予防のための、非徴候性の個体への活性薬剤の投与を含む。
【0037】
本発明は、本明細書に記載のsiNA化合物を含む医薬組成物にも関する。
【0038】
[siNAの設計]
標的遺伝子配列の短鎖断片(例えば長さ19〜40ヌクレオチド)を本発明のsiNAの標的配列として選択する。一実施形態においてsiNAはsiRNAである。そのような実施形態において標的遺伝子配列の短鎖断片は、標的遺伝子mRNAの断片である。好ましい実施形態において候補siRNA分子とする標的遺伝子mRNAから配列断片を選択する基準は、1)天然mRNA分子の5'または3'末端から少なくとも50〜100ヌクレオチドである標的遺伝子mRNAからの配列、2)G/C含有量が30%から70%の間、最も好ましくは約50%である標的遺伝子mRNAからの配列、3)反復配列(例えばAAA、CCC、GGG、TTT、AAAA、CCCC、GGGG、TTTT)を含まない標的遺伝子mRNAからの配列、4)mRNA中で利用しやすい、標的遺伝子mRNAからの配列、5)標的遺伝子に特有である標的遺伝子mRNAからの配列、を含む。標的遺伝子mRNAからの配列断片は、上記基準の1つまたは複数に合致できる。標的遺伝子mRNAの断片が上記基準のすべてには合致しない実施形態において、天然配列を標的遺伝子mRNAの断片よりもより多くの基準にsiRNAが合致するように変更できる。好ましい実施形態において、siRNAのG/C含有量は60%以下であり、かつ/または反復配列を欠いている。
【0039】
実質的に、選択された遺伝子は、最適オリゴヌクレオチドの設計のために上記変異体のすべてを考慮する予測プログラムにヌクレオチド配列として導入される。このプログラムは、siRNAが標的にできる領域の任意のmRNAヌクレオチド配列を調べる。この分析の出力は、可能なsiRNAオリゴヌクレオチドのスコアである。最高スコアの物が、典型的には化学合成により作製される二本鎖RNAオリゴヌクレオチド(他の長さも可能であるが典型的には長さ21bp)を設計するために使用される。
【0040】
mRNA標的領域に相補的であるsiNAに加えて、相同領域を標的にするために本発明により縮重siNA配列も使用できる。WO 2005/045037は、例えば追加の標的配列を提供できるミスマッチおよび/またはゆらぎ塩基対などの例えば非カノニカル塩基対を導入することによる、そのような相同配列を標的にするためのsiNA分子の設計を記載している。事実、ミスマッチが同定される場所では、非カノニカル塩基対(例えばミスマッチおよびまたはゆらぎ塩基)を、1つより多い遺伝子配列を標的にするsiNA分子の生成に使用できる。非限定的な実施例において、UUおよびCC塩基対などの非カノニカル塩基対は、相同配列を共有する異なる標的のための配列を標的にできるsiNA分子を生成するために使用される。
【0041】
好ましい実施形態において、本発明のsiNA分子は配列番号1〜81(図2)から選択される配列を標的にする。
【0042】
本発明の好ましいsiNA分子は、二本鎖である。一実施形態において、二本鎖siNA分子は、平滑末端を有する。他の実施形態において二本鎖siNA分子は、オーバーハングヌクレオチドを有する(例えば1〜5ヌクレオチドオーバーハング、好ましくは2ヌクレオチドオーバーハング)。具体的な実施形態においてオーバーハングヌクレオチドは、3'オーバーハングである。他の具体的な実施形態においてオーバーハングヌクレオチドは、5'オーバーハングである。任意の型のヌクレオチドがオーバーハングの一部になり得る。一実施形態において一つまたは複数のオーバーハングヌクレオチドは、リボ核酸である。他の実施形態において一つまたは複数のオーバーハングヌクレオチドは、デオキシリボ核酸である。好ましい実施形態において一つまたは複数のオーバーハングヌクレオチドは、チミジンヌクレオチドである。他の実施形態において一つまたは複数のオーバーハングヌクレオチドは、修飾ヌクレオチドまたは非古典的ヌクレオチドである。一つまたは複数のオーバーハングヌクレオチドは、非古典的ヌクレオチド間結合(例えばホスホジエステル結合とは異なる)を有し得る。
【0043】
好ましい実施形態において本発明のsiNA分子は、配列番号82〜162(図3)から選択されるヌクレオチド配列を含む。他の好ましい実施形態において本発明のdsRNA組成物は、配列番号82〜162のいずれかである。本発明は、40ヌクレオチド以下で、かつ配列番号82〜162のいずれかのヌクレオチド配列を含むsiNAおよび40ヌクレオチドまたはそれ未満で、かつ相補鎖にハイブリダイズした配列番号82〜162のいずれかのヌクレオチド配列を含むdsRNA組成物も包含する。一実施形態においてsiNAは21〜30ヌクレオチドであり、配列番号82〜162のいずれか1つを含む。
【0044】
[siNAの合成]
発明のsiNAは、当業者に周知の方法によって合成できる。RNAは、好ましくは適切に保護されたリボヌクレオシドホスホロアミダイトおよび従来型のDNA/RNA合成機を使用して化学的に合成される。追加的にsiRNAは、Proligo(ハンブルグ、ドイツ)、Dharmacon Research(ラファイエット、コロラド州、米国)、Glen Research(Sterling、バージニア州、米国)、ChemGenes(Ashland、マサチューセッツ州、米国)およびCruachem(グラスゴー、英国)、Qiagen(ドイツ)、Ambion(米国)およびInvitrogen(スコットランド)を非限定的に含む商業的RNAオリゴ合成供給元から得ることもできる。別法として、本発明のsiNA分子を、プロモーター制御下の逆向き相補siNA配列を含むベクターで細胞をトランスフェクトすることにより細胞中で発現できる。一度発現すれば当業者に十分に周知の技術を使用してsiNAを細胞から単離できる。
【0045】
siRNAがdsRNAである実施形態においては、一本鎖RNAが得られた場合はアニーリングステップが必要である。簡単には、100mM 酢酸カリウム、30mM HEPES-KOH pH7.4、2mM酢酸マグネシウム中の50μM RNAオリゴ溶液各30μlを合わせる。次いで、溶液を90℃で1分間インキュベートし、15秒間遠心分離し、37℃で1時間インキュベートする。siRNAが短鎖ヘアピンRNA(shRNA)である実施形態において、siRNA分子の2本の鎖はリンカー領域(例えばヌクレオチドリンカーまたは非ヌクレオチドリンカー)によって連結できる。
【0046】
[siNAの化学的修飾]
本発明のsiNAは1個または複数個の修飾ヌクレオチドおよび/または非ホスホジエステル結合を含有できる。当業者に十分に既知の化学的修飾は、安定性、収量および/またはsiNAの細胞への取込みを増大させ得る。当業者は、RNA分子に導入できる他の型の化学的修飾を承知している(修飾の型の概要は国際公開WO03/070744およびWO2005/045037を参照)。一実施形態において、修飾は分解への抵抗性の改善または取込みの改善を提供するために使用できる。そのような修飾の例は、ホスホロチオエートヌクレオチド間結合、2'-O-メチルリボヌクレオチド(特に二本鎖siRNAのセンス鎖において)、2'-デオキシ-フルオロリボヌクレオチド、2'-デオキシリボヌクレオチド、「ユニバーサル塩基」ヌクレオチド、5-C-メチルヌクレオチドおよび逆方向デオキシ脱塩基残基の導入を含む(一般にGB2406568を参照)。
【0047】
他の実施形態において修飾はsiRNAの安定性を促進するためまたは標的化効率を増大させるために使用できる。修飾は、1個のsiRNAの2個の相補鎖間の化学架橋結合、1本のsiRNA鎖の3'もしくは5'末端の化学的修飾、糖修飾、核酸塩基修飾および/または骨格修飾、2'-フルオロ修飾リボヌクレオチドもしくは2'-デオキシリボヌクレオチドを含む(一般に国際公開WO2004/029212を参照)。
【0048】
他の実施形態において、標的mRNA中および/または相補siNA鎖中の相補ヌクレオチドへの親和性を増大または減少させるために修飾を使用できる(一般に国際公開WO2005/044976を参照)。例えば、未修飾のピリミジンヌクレオチドを2-チオ、5-アルキニル、5-メチルまたは5-プロピニルピリミジンに置換できる。さらに、未修飾のプリンを7-デアザ、7-アルキルまたは7-アルケニルプリンに置換できる。
【0049】
他の実施形態において、siNAが二本鎖siRNAである場合、3'末端ヌクレオチドオーバーハングヌクレオチドはデオキシリボヌクレオチドに置き代わる(一般に、Elbashirら、2001年、Genes Dev,15:188を参照)。
【0050】
[製剤および投与経路]
したがって、本発明のsiNA分子および製剤または組成物を、当業者に周知の通り、直接または局所的(局部的)に目的器官(例えば眼、皮膚など)に投与できる。例えば投与は、関節内または静脈内であり得る。好ましい実施形態において投与は、例えば点眼薬の手段で眼に行える。
【0051】
例えば、siNA分子は、対象に投与するために、リポソームを含む送達用媒体を含有できる。担体および希釈剤ならびにそれらの塩は、薬学的に許容される製剤中に存在できる。核酸分子は、リポソーム中への被包、イオン導入法、または生分解性ポリマー、ハイドロゲル、シクロデキストリンポリ(ラクティック-co-グリコリック)酸(PLGA)ならびにPLCA微粒子、生分解性ナノカプセルおよび生付着性微粒子、などの他の媒体への導入またはタンパク質性ベクターを非限定的に含む当業者に周知の様々な方法によって細胞に投与できる。他の実施形態において本発明の核酸分子は、ポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-N-アセチルガラクトサミン(PEI-PEG-GAL)もしくはポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-トリ-N-アセチルガラクトサミン(PEI-PEG-triGAL)誘導体などのポリエチレンイミンおよびその誘導体と製剤または複合できる。
【0052】
本発明のsiNA分子は、膜崩壊剤および/または陽イオン性脂質もしくはヘルパー脂質分子と複合できる。
【0053】
本発明で使用できる送達系は、例えば水性および非水性ゲル、クリーム、複合乳剤、ミクロ乳剤、リポソーム、軟膏、水性および非水性溶液、ローション、エアルゾル、炭化水素基剤ならびに散剤を含み、さらに溶解剤、浸透促進剤(例えば脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族アルコールおよびアミノ酸)ならびに親水性ポリマー(例えばポリカルボフィルおよびポリビニルピロリドン)などの賦形剤を含有できる。一実施形態において薬学的に許容される担体は、リポソームまたは経皮促進剤である。
【0054】
本発明の医薬製剤は、例えば全身または局所投与、細胞または例えばヒトを含む対象への投与に適する形態である。適切な形態は、ある程度、例えば経口、経皮もしくは注射などの使用または適用経路に依存する。他の要因は、当業者に周知であり、組成物または製剤の効果の発揮を妨げる毒性および形態などの考慮すべき事柄を含む。
【0055】
本発明は、薬学的に許容される担体もしくは希釈剤中に所望の化合物の薬学的効量を含む、貯蔵または投与のために調製された組成物も含む。治療用に許容される担体または希釈剤は薬学の当業者に十分に周知である。例えば、保存剤、安定化剤、着色剤および香剤を提供できる。これらは、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸およびp-ヒドロキシ安息香酸エステルを含む。追加的に、抗酸化剤および懸濁剤を使用できる。
【0056】
薬学的に効果的な投与量は、疾病状態の予防、発症の阻害または治療(症状を幾分か、好ましくは全ての症状を軽減する)するために必要な投与量である。薬学的に効果的な投与量は、疾病の種類、使用する組成物、投与経路、治療する哺乳類の種類、対象とする具体的な哺乳類の身体的特徴、併用する薬剤および医学における当業者が認めるであろう他の要因に依存する。
【0057】
一般に、1日に体重1kg当たり0.1mgから100mgの間の量の有効成分を投与する。
【0058】
本発明の製剤は、従来型の非毒性で薬学的に許容される担体、補助剤および/または媒体を含む単位投与製剤で投与できる。製剤は、例えば錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性もしくは油性懸濁液、分剤もしくは顆粒、乳剤、硬もしくは軟カプセルまたはシロップもしくはエリキシル剤として経口使用に適する形態であり得る。経口使用を意図する組成物は、医薬組成物の製造のために当業者に周知の任意の方法に従って調製でき、そのような組成物は、医薬的に精密でかつ風味の良い調剤を提供するために1つまたは複数のそのような甘味剤、香剤、着色剤または保存剤を含有できる。錠剤は、錠剤の製造に適する非毒性の薬学的に許容される賦形剤との混合で活性成分を含む。
【0059】
例えばこれらの賦形剤は、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、乳糖、リン酸カルシウムまたはリン酸ナトリウムなどの不活性の希釈剤、例えばコーンスターチまたはアルギン酸などの顆粒化剤および崩壊剤、例えばデンプン、ゼラチンまたはアラビアゴムなどの結合剤および例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクなどの潤滑剤であり得る。錠剤は、非コートであり得るし、または周知の技術によってコートできる。いくつかの場合においてそのようなコーティングは、消化管内での崩壊および吸収を遅延させ、それにより長期間持続する作用を提供するために周知の技術によって調製できる。例えば、モノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリンなどの作用時間遅延物質を使用できる。
【0060】
経口使用のための製剤は、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウムもしくはカオリンなどの不活性な固体希釈剤と活性成分が混合した硬ゼラチンカプセルとして、あるいは例えばピーナッツ油、流動パラフィンもしくはオリーブ油などの水性または油性媒材と活性成分を混合した軟ゼラチンカプセルとして存在できる。
【0061】
水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適する賦形剤と混合で活性物質を含む。そのような賦形剤は、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロプロピル-メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガムおよびアラビアゴムなどの懸濁剤であり、分散剤または湿潤剤は、例えばレシチンなどの天然に存在するホスファチド、もしくは例えばポリオキシエチレンステアリン酸などのアルキレンオキシドと脂肪酸との縮合物、もしくは例えばヘプタデカエチレンオキシセタノールなどのエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合物、もしくは脂肪酸およびポリオキシエチレンソルビトールモノオレートなどのヘキシトール由来の部分エステルとエチレンオキシドとの縮合物、もしくは例えばポリエチレンソルビタンモノオレートなどのヘキシトール無水物と脂肪酸由来の部分エステルとエチレンオキシドとの縮合物であり得る。水性懸濁液は、例えばエチル、もしくはn-プロピル、p-ヒドロキシ安息香酸などの1つまたは複数の保存剤、1つまたは複数の着色剤、1つまたは複数の香剤、およびショ糖もしくはサッカリンなどの1つまたは複数の甘味剤も含有できる。
【0062】
油性懸濁液は活性成分を、例えばピーナッツ油、オリーブ油、ゴマ油もしくはココナッツ油などの植物油または、流動パラフィンなどの鉱物油中に懸濁することによって製剤できる。油性懸濁液は、例えばビーズワックス、固形パラフィンまたはセチルアルコールなどの濃化剤を含有できる。甘味剤および香剤を風味のよい経口調剤を提供するために添加できる。これらの組成物は、アスコルビン酸などの抗酸化剤の添加によって保存できる。
【0063】
水を添加することよって水性懸濁剤の調製に適する分散剤および顆粒は、分散剤または湿潤剤、懸濁剤および1つまたは複数の保存剤との混合で活性成分を提供する。適切な分散剤もしくは湿潤剤または懸濁剤は、既に上記に例示されている。追加的な賦形剤、例えば甘味剤、香剤および着色剤も存在できる。
【0064】
本発明の医薬組成物は、水中油型乳剤の形態でもあり得る。油相は、植物油もしくは鉱物油またはこれらの混合であり得る。適切な乳化剤は、例えばアラビアガムまたはトラガカントガムなどの天然に存在するガム、例えば大豆レシチンなどの天然に存在するホスファチド、および例えばソルビタンモノオレートなどのエステルまたは脂肪酸とヘキシトール無水物由来の部分エステル、ならびに例えばポリオキシエチレンソルビタンモノオレートなどの前記部分エステルとエチレンオキシドとの縮合産物であり得る。乳剤は、甘味剤および香剤も含有できる。
【0065】
シロップおよびエリキシル剤を、例えばグリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、ブドウ糖またはショ糖などの甘味剤と共に製剤できる。そのような製剤は、粘滑剤、保存剤および香剤ならびに着色剤も含有できる。医薬組成物は、滅菌注射用の水性または油性懸濁液の形態であり得る。
【0066】
前記懸濁液は、上記で挙げた適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を使用して周知の技術により製剤できる。
【0067】
滅菌注射用調剤は、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液などの非毒性で非経口用に許容される希釈剤または溶剤中の滅菌注射用液または懸濁液でもあり得る。これらの許容される媒体および溶剤中に使用できるのは、水、リンゲル液および等張塩化ナトリウム溶液である。追加的に、滅菌不揮発油が溶剤または懸濁媒として従来から使用されている。この目的のために、合成モノまたはジグリセリドを含む無刺激性の不揮発油を使用できる。追加的にオレイン酸などの脂肪酸を注射用調剤に使用できる。
【0068】
本発明の核酸分子は、例えば薬剤の直腸投与のための坐剤の形態で投与できる。これらの組成物は、周囲温度では固形であるが直腸温では液状であり、かつそれにより直腸で融解して薬剤を放出する適切な非刺激性の賦形剤と薬剤とを混合することによって調製できる。そのような物質はココアバターおよびポリエチレングリコールを含む。
【0069】
本発明の核酸分子は、滅菌媒中で非経口に投与できる。使用する媒体および濃度に依存して薬剤は、媒体中に懸濁または溶解できる。有利には、局所麻酔剤、保存剤および緩衝剤などの補助剤を、媒体中に溶解できる。
【0070】
任意の具体的な対象への特定の投与レベルは、使用する特定の化合物の活性、年齢、体重、健康全般、性、食餌、投与時間、投与経路および排せつ速度、薬剤の組合せならびに治療する具体的な疾病の重症度を含む多様な要因に依存することは理解される。
【0071】
ヒト以外の動物への投与用に組成物は、動物の餌または飲用水に添加できる。動物が食餌と共に治療に適切な量の組成物を摂取することから、動物の餌または飲用水用の組成物に処方することは便利であり得る。餌または飲用水への添加用のプレミックスとして組成物を供することも便利であり得る。
【0072】
本発明の核酸分子は、総合的な治療効果を増大させるために他の治療用化合物との組合せでも対象に投与できる。症状を治療するための複数の化合物の使用は、副作用の存在を減少させる一方で有益な効果を増大できる。
【0073】
別法として本発明の特定のsiNA分子を、真核細胞のプロモーターから細胞内で発現できる。siNA分子を発現できる組換えベクターを標的細胞内に輸送および持続させ得る。別法として、核酸分子の一過的発現を提供するベクターを使用できる。そのようなベクターは、必要に応じて繰り返し投与できる。一度発現すると、siNA分子は標的mRNAと相互に作用し、RNAi応答を生じさせる。siNA分子発現ベクターの輸送は、静脈内または筋肉内投与による、対象から外植した後に対象へ再導入する標的細胞への投与による、または望ましい標的細胞への導入のために許容される任意の他の方法によるなど、全身的であり得る。
【0074】
[実験手順]
(siNA合成)
一本鎖RNA分子で実験する場合はアニーリングステップが必要である。すべての操作段階を滅菌、無Rnaseの条件下で実施することは不可欠である。RNAをアニーリングするために、オリゴを最初に260ナノメートル(nm)でのUV吸収によって定量しなければならない。次いで、Elbashirら、(2001年)に基づく以下の手順をアニーリングに使用する:
各RNAオリゴを別々に一定分量取り、50μMの濃度に希釈する。
各RNAオリゴ溶液30μlと5Xアニーリング緩衝液15μlとを合わせる。最終緩衝液濃度は、100mM酢酸カリウム、30mM HEPES-KOH、pH7.4、2mM酢酸マグネシウム。最終容積は75μl。
溶液を1分間、90℃でインキュベートし、チューブを15秒間遠心分離し、37℃で1時間置き、次いで、周囲温度で使用する。溶液は-20℃で凍結保存でき、かつ5回まで凍結融解できる。二重鎖siRNAの最終濃度は通常20μMである。
代替として、既にアニールしたdsRNAを供給元から購入できる。
【0075】
化学的に修飾した核酸も使用できる。例えば、使用できる修飾の型の概要は、WO03/070744に記載されており、その内容を本明細書に参照として援用する。具体的に注目すべき点は、前記公報の11から21に記載されている。他の可能な修飾は、前記の通りである。当業者は、RNA分子に導入できる化学的修飾の他の型を認めるであろう。
【0076】
(「in vitro」系)
TRPV1発現は、皮膚感覚神経繊維、マスト細胞、表皮ケラチノサイト、皮膚血管、毛包の内毛根鞘および毛漏斗、分化したセボサイト、汗腺管、ならびに外分泌汗腺の分泌部分において、免疫活性アッセイにより検出されている(Standerら、2004年)。逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応およびウエスタンブロット分析において、TRPV1は、マスト細胞およびヒト皮膚由来のケラチノサイトにおいて検出されている(Standerら、2004年)。近年、樹状細胞もTRPV1を発現していることが示され(Basu & Srivastava、2005年)、神経細胞モデルが、TRPV1を発現している細胞で開発されている(Lilja & Forsby、2004年)。
【0077】
標的遺伝子TRPV1を発現している培養細胞をsiRNA干渉の特異性の予備実験に使用する。
細胞を対応するsiRNA二本鎖とインキュベートし、標的遺伝子の発現の下方制御の分析を実施する。培養細胞においてsiRNAノックダウンを特定の表現型と関連させるためには、標的タンパク質の減少を示すか、または少なくとも標的mRNAの減少を示すことが必要である。
【0078】
標的遺伝子のmRNAレベルは、定量リアルタイムPCR(qRT-PCR)によって定量できる。さらにタンパク質レベルは、標的タンパク質の減少を直接モニターできる標的に特異的な抗体でのウエスタンブロット分析などの当業者に周知の多様な方法によって決定できる。
【0079】
(培養細胞へのsiRNA二本鎖のトランンスフェクション)
当業者に周知の技術のいくつかの例は以下の通りである。我々は、RNAiFect Transfection Reagent(Qiagen)およびLipofectamine 2000 Reagent(Invitrogen)などの陽イオン脂質を使用してsiRNA二本鎖のシングルトランスフェクションを実施し、かつトランスフェクション後24、48および72時間でのサイレンシングを分析できる。
【0080】
典型的なトランスフェクションの手順は、以下の通り実施できる。6ウェルプレートの1ウェルに、我々は最終濃度100nMのsiRNAを使用してトランスフェクトする。RNAiFectの手順書に従ってトランスフェクションの前日に、我々は1ウェル当たり2〜4 x 105個の細胞をDMEM、10%血清、抗生物質およびグルタミンを含む適切な増殖培地3ml中に蒔き、通常の増殖条件下(37℃、5% CO2)で細胞をインキュベートする。トランスフェクションの当日に、細胞は30〜50%コンフルエンスである必要がある。我々は、20μM siRNA二本鎖15μl(最終濃度100nMに相当)を最終容積100μlとなるように85μl EC-R緩衝液中に希釈し、渦流撹拌により混合する。複合体形成のために、我々はRNAiFect Transfection Reagent 19μlを希釈したsiRNAに加え、ピペッティングまたは渦流撹拌により混合する。トランスフェクション複合体を形成させるために試料を室温で10〜15分間インキュベートした後、我々は、抗生物質が少ない新鮮増殖培地2.9mlと共に複合体を細胞に滴下する。トランスフェクション複合体を均一に分散させるためにプレートを回施した後、我々は細胞をその通常増殖条件下でインキュベートする。翌日、複合体を除去し、新鮮な完全増殖培地を加える。遺伝子サイレンシングをモニターするために、トランスフェクション後24、48および72時間で細胞を回収する。Lipofectamine 2000 Reagentの手順書も全く同様である。トランスフェクションの前日に、我々は1ウェル当たり2〜4 x 105個の細胞をDMEM、10%血清、抗生物質およびグルタミンを含む適切な増殖培地3ml中に蒔き、通常の増殖条件下(37℃、5% CO2)で細胞をインキュベートする。トランスフェクションの当日に、細胞は30〜50%コンフルエンスである必要がある。我々は、20μM siRNA二本鎖12.5μl(最終濃度100nMに相当)を最終容積262.5μlとなるように250μl DMEMに希釈し、混合する。Lipofectamine 2000 6μlもDMEM 250μlに希釈し、混合する。室温での5分間のインキュベート後、室温での20分間のインキュベーション中にトランスフェクション複合体を形成させるために、希釈したオリゴマーと希釈したLipofectamineとを混合する。次いで、我々は、抗生物質が少ない新鮮増殖培地2mlと共に複合体を細胞に滴下し、トランスフェクション複合体を均一に分散させるためにプレートを前後に揺することにより穏やかに混合する。我々は細胞をその通常増殖条件下でインキュベートし、翌日、複合体を除去し、新鮮な完全増殖培地を加える。遺伝子サイレンシングをモニターするために、トランスフェクション後24、48および72時間で細胞を回収する。
【0081】
トランスフェクションの効率は、細胞の型だけでなく継代数および細胞のコンフルエンスに依存する場合がある。時間およびsiRNA-リポソーム複合体の形成方法(例えば、転倒対渦流撹拌)も重要である。トランスフェクション効率の低さは、サイレンシングの失敗の最も頻繁な原因である。良いトランスフェクションは、些細な問題では無く、使用する新たな細胞系ごとに注意深く検討される必要がある。トランスフェクションの効率は、例えばCMV由来EGFP発現プラスミド(例えばClontechから)またはB-Gal発現プラスミドなどのレポーター遺伝子をトランスフェクトし、位相差顕微鏡および/または蛍光顕微鏡による翌日の評価で試験できる。
【0082】
(siRNA二本鎖の試験)
標的タンパク質の豊富さおよび寿命(または代謝回転)に依存して、ノックダウン表現型は、1から3日後またはさらに後に明らかになる場合がある。表現型が観察されない場合は、タンパク質の減少が免疫蛍光またはウエスタンブロッティングによって観察される場合がある。
【0083】
トランスフェクション後、細胞から抽出した総RNA画分をDnase Iで前処理し、ランダムプライマーを使用する逆転写に使用する。PCR増幅は、プレmRNAの増幅を制御するために少なくとも1つのエキソン-エキソン接合部をカバーする特異的プライマー対で実施する。標的ではないmRNAのRT/PCRも対照として必要である。標的タンパク質の減少が未検出のmRNAの効率的な減少は、細胞内に安定なタンパク質の大きなリザーバーが存在し得ることを示す場合がある。別法として、リアルタイムPCR増幅をさらに正確にmRNAの減少または消失を試験するために使用できる。リアルタイム逆転写(RT)PCRは、最も特異的、高感度および再現性良くテンプレートの初期量を定量する。リアルタイムPCRは、各PCRサイクル中のアンプリコン生成の指標として反応中の蛍光発光を、ライトサイクラー装置でモニターする。前記シグナルは、反応中のPCR産物の量に直接比例して増大する。各サイクルで蛍光発光量を記録することにより、最初の著しいPCR産物の量の増大が標的テンプレートの初期量に関連する対数増殖期におけるPCR反応をモニターすることが可能になる。
【0084】
培養細胞におけるTRPV1遺伝子の干渉パターンを証明するために、qRT-PCRを製造者の手順書に従って実施する。定量qRT-PCRのために、約250〜500ngの総RNAを逆転写に使用し、次いでMaster SYBR Green Iを含む反応混合物中のTRPV1用の特異的プライマーでPCR増幅を実施する。基本的PCR条件は、91℃、30分間の最初のステップ、次いで95℃で5秒間、62℃で10秒間および72℃で15秒間の40サイクルを含む。b-アクチンmRNAの定量は、データの標準化の対照として使用できる。相対遺伝子発現の比較は、選択した内因性/内部コントロールの遺伝子発現が試料中で総RNAと比較して、より豊富で一定に残存している場合に最も機能する。活性参照として不変の内因性対照を使用することにより、標的mRNAの定量を各反応に添加した総RNAの量の差異について標準化できる。ライトサイクラーから得られた増幅曲線を、製造者の手順書に従ってin vitroで転写サイトカインRNAテンプレートを標的とするコントロールkit RNAとの組合せで分析する。増幅されたPCR産物の特異性を評価するために、融解曲線分析を実施する。得られた融解曲線はプライマー-ダイマーと特異的PCR産物との区別を可能にする。
【0085】
(動物実験)
TRPV1発現レベルについてのsiNA分子のin vivoサイレンシング効果は、Brockら、Tetrodotoxin-resistant impulses in single nociceptor nerve terminals in guinea-pig cornea. J Physiol. 1998年10月1日; 512(Pt 1): 211〜7に記載の様にモルモットの角膜モデルにおいて試験できる。
【0086】
基本的な手順は、小容積に含まれている、検討するsiNA分子のモルモット角膜表面への滴下から成る。反対側の眼は、媒体のみで処理し、反対側の眼で交感症状が生じていないか各実験での対照として使用できる。同じ動物での複数回の実験は、実施しない。
SiNAで処置したまたは対照のモルモット角膜の感覚神経軸索の電気的活性の細胞外記録は、Brockら、1998年に記載の通り実施できる。基本的には、モルモット(150〜300g、1kg当たり100mgのペントバルビトンI.P.で殺す)由来の眼を記録装置に載せ、以下の組成(mM):Na+,151; K+,4.7; Ca2+,2; Mg2+,1.2; Cl-,144; H2PO3-,1.3; HCO3-,16.3およびブドウ糖,9.8の生理食塩水で灌流する。前記溶液は、95%O2-5%CO2(pH7.4まで)でガス処理し、31〜33℃に維持する。視神経および関連する毛様体神経は、吸引刺激電極に入れる。刺激パラメーターは実験中、必要に応じて変更する(パルス幅、0.1〜0.5ms、5〜30V)。生理食塩水で満たしたガラス記録電極(先端外経50μm)を角膜上皮の表面に軽い吸引とともにアプライする。電気的活性はAC増幅器を通して記録し(Neurolog NL104,Digitimer Ltd, Welwyn Garden City,英国; gain,2000; high pass filter set at 0.1Hz)、出力を44kHzでデジタル化し、PCM記録器(A. R. Vetter Co. Inc., Rebersburg, ペンシルバニア州、米国)を使用して磁気テープに保存する。記録は、神経インパルスがノイズと容易に区別できる(3〜5kHzでのローパスフィルターで、ピークからピークが10μV)部位からのみ作成する。角膜の多くの部位において、誘発されたのでは無いもしくは自発的な電気的活性が記録されるか、またはシグナルは分析するには小さ過ぎる。記録用電極の内部浸透は、200μm以内の電極先端に極細のプラスチック管を挿入することによって達成される(Brock & Cunnane, 1995年、Effects of Ca2+ and K+ channel blockers on nerve impulses recorded from postganglionic sympathetic nerve terminals. The Journal of Physiology 489, 389〜402を参照)。MacLabデータ収集システム(ADInstruments Pty Ltd, Castle Hill, NSW,オーストラリア)を、テープにすでに記録された電気生理学的信号のデジタル化(サンプル周波数、10〜20kHz)に使用する。デジタル化の前に、信号は低パスフィルター(カットオフ、3〜5kHz)を使用してフィルターする。続く分析は、コンピュータープログラムIgor Pro(Wavemetrics, Lake Oswego,オレゴン州、米国)で実施する。TRPV1 mRNAレベルは、定量リアルタイムPCR(qRT-PCR)で定量でき、タンパク質レベルの減少は、標的に特異的な抗体でのウエスタンブロット分析などの当業者に周知の様々な方法で直接モニターできる。
【0087】
毛包におけるsiNAによるTRPV1の発現の下方制御は、当業者に周知の他の動物モデルを排除することなく以下の代表的モデルの方法によってモニターできる。
【0088】
in vivoマウス毛包トランスフェクション 全身麻酔下で、Balb/cマウス(Charles River, Wilmington, MA)、50日齢の背部皮膚の毛を切り、脱毛クリームまたはシェービングマシン(Neet; Premier Consumer Products, Inc, Englewood, NJ)で5分間処理する。脱毛後の異なる時期に、脂質50mgおよび異なる量の個々のsiRNAをpCMV-b-gal、10mgと一緒に含むlipoplex、50mlを背部皮膚1cm2にマイクロピペットを使用して5mlずつ90分間、局所的に投与する。DNA量は、既に報告された研究と同様にする。対照用の皮膚は、混合したsiRNAおよび元のプラスミド10mgで、または脂質50mgのみで処置する。トランスフェクトした皮膚は、トランスフェクションの24または48時間後に回収し、b-gal活性用に染色する。
【0089】
異種移植モデル CB-17 Icr-scid/scid、マウス、オス、4週齢(Charles River, Wilmington, MA)を、病原体フリーの条件下で維持する。ヒト胎児頭皮(妊娠20週、Advanced Bioscience Resources, Alameda, CA由来)または美容手術由来ヒト成人頭皮を採取後24時間以内に移植する。移植手術は、無菌法を使用して層流フードにおいて実施する。マウスは、背部の毛を切った後にケタミン-キシラジン混合物で麻酔する。1 x 1cmに測った皮膚片を、筋膜までマウス皮膚を除去することにより準備しておいた同じ大きさの床に移植する。ヒト皮膚の移植片(通常マウス1匹あたり2箇所)は、6〜0非吸収性モノフィラメント縫合糸で定位置に保持する。移植部は、ワセリンでコートし、Tegaderm(3M Health Care Ltd. (St. Paul, MN))および滅菌包帯で覆う。包帯は、2から3週間後に除去し、移植片は実験を進める前に2から3週間さらに治癒させる。
【0090】
ヒト異種移植片のin vivoトランスフェクション トランスフェクションの前に、異種移植片を脱毛する。いくつかの移植片は、0.05%レチン酸クリーム(Retin-A, Johnson & Johnson, Raritan, NJ)でも1週間、隔日で処置する。トランスフェクション当日に、マウスを麻酔し、異種移植片をPBSで15分間、予備水和する。pFx-1脂質75mgおよびpCMV-b-gal 30mgと各siRNAを一緒にまたは各siRNA無しでOPTI-MEMに混合した後、混合物を3日間隔日で移植皮膚に5mlずつ(合計75ml)局所的にピペットで投与する。lipoplexを吸収できる可能性があり、小胞への適切な送達を阻害するより厚い角質組織層のため、DNAおよびリポソームのより高い投与量がヒト対マウスのトランスフェクションにおいては使用される。皮膚をトランスフェクション後48時間で回収し、b-gal活性用に処理する。
【0091】
組織化学的アッセイ マウスおよびヒト組織試料を、PBS中の新鮮調製2%ホルムアルデヒド/0.2%グルタルアルデヒドで4℃、2〜4時間固定し、次いで、室温、1時間でPBSを3回交換して洗浄する。固定した組織をPBS中の1mg/ml X-gal中で、37℃、一晩インキュベートする。次いで、組織をPBSで洗浄し、ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋する。5mmの切片をnuclear fast redで対比染色する。固定した生検材料も、TRPV1の発現の阻害を試験するために特異抗体で染色できる。染色は、既に報告の通り実施する。いくつかの生検材料切片は、RNA later(Ambion)に置き、RNA精製のために加工する。総RNAは、個々のsiRNA処置後に特異的干渉のための特異的プローブ/プライマーを使用して分析する。
【実施例】
【0092】
(実施例1)
TRPV1のアゴニスト、カプサイシンの局所投与への行動応答が、モルモットTRPV1に対して調製されたsiRNAでの前処置によって変化するかかどうか決定するために、実験を、モルモット、オス、成獣で実施した。
【0093】
[1-局所投与カプサイシンの効果]
モルモット2匹を、右眼に0.1mMカプサイシン溶液10μlの液滴、左眼に滅菌等張食塩水10μlで処置した。
局所投与に続く5分間、以下のパラメーターを測定した:
- 瞬きの回数
- 眼瞼の閉鎖時間
- 処置眼への引っ掻き行動(後脚で)および払いのけ行動(前脚で)
5分間の後、以下のパラメーターを評価した:
- 結膜の充血および眼瞼浮腫
- 流涙(結膜下包に3分間シルマー小片を保持)
【0094】
実験は、連続する4日間午前9時に実施した。両眼を同時に対応する溶液で処置し、パラメーターを同時に各眼について別の観察者が測定した。測定したすべてのパラメーターは、対照(食塩水で処置)と比較してカプサイシン処置眼において高かった。最も一致して変化していたパラメーターは、引っ掻き/払いのけ行動の数、充血および流涙であった。
【0095】
図4は、2匹の動物で得られた結果を要約する。カプサイシンが、食塩水処置側で生じなかった、引っ掻き/払いのけ行動、結膜充血および流涙を誘発したことは、明白である。連続する日での反復適用に対して脱感作は観察されなかった。
【0096】
[2-配列番号146に対応し、両3'末端にdTdTオーバーハングを有する、オリゴヌクレオチド3(ON3)のカプサイシン応答における効果]
【0097】
局所投与カプサイシンへの行動応答についてのON3の減衰効果は、まず4匹のモルモット群で調査した。ON3を含有する溶液15μlの2投与量を右眼(処置眼)に局所的に0、1、2日間、午前9時に滴用した。1、2、3、4、7、8および9日間午後3時に、0.1mMカプサイシン溶液10μlを両眼に滴用し、薬剤への行動応答を各眼について前記の方法により測定した。
【0098】
図5に示す通りON3は、未処置動物と比較してカプサイシン適用に対する行動応答(引っ掻き/払いのけ行動の数)の減少を引き出した。この減少は、2日目から始まり以降の日に増大して、漸次的に定着した。処置7日後、ON3処置眼と未処置眼との間の応答の差異が、依然存在していた。対照的に、涙の分泌は両眼間に差異は無かった。
【0099】
実験したすべての動物での引っ掻き/払いのけ行動の数の平均減少を、処置後の様々な日において、絶対値(上のグラフ)で、および対照側から処置側での減少の百分率として図6に要約する。
【0100】
(実施例2)
深く麻酔したモルモットの眼を眼窩から切開し、分離した記録装置に載せた。眼には継続的に以下の組成(mM)の生理学的溶液:Na+,151; K+,4.7; Ca2+,2; Mg2+,1.2; Cl-,144.5; H2PO3-,1.3; HCO3-,16.3;ブドウ糖,7.8(mM)を散布した。この溶液は、carbogen(95%O2、25%CO2)でpH7.4にガス処理し、Pelitier装置で約34℃に維持した。1本の角膜神経繊維の活性を毛様体神経から眼の背部で記録した。記録装置の配置を模式的に図7に示す。
【0101】
対照眼:神経活性は10匹のモルモットの眼から得て、機械的刺激への応答およびCO2(98%)を含むガスの噴射への応答によって同定した20ポリモーダル繊維から記録した。各繊維に一連の刺激を加えた:0.1mMカプサイシンの滴下に続く30秒後の洗浄。1分間、45℃の温食塩水、30秒間のCO2パルス。各刺激の間に、5分間の休止を置いた。1本の繊維当たりこの一連の刺激3回を、刺激サイクル間に15分間の間隔を置いて実施した。応答の定量は、刺激期間中に各刺激によって引き出された衝動の総数を測定して実施した。
【0102】
処置眼:5匹のモルモットにおいて、両眼をON3を含む溶液15μlで連続する3日間毎日午前9時に処置した。4日目に、両眼を摘出し、上記と同様に「in vitro」で実験した。
【0103】
ポリモーダル侵害受容体繊維として同定された9本の繊維はこれらの眼において同定された。対照眼に使用したのと同じ刺激手順、すなわちカプサイシン、熱およびCO2刺激を刺激の間に5分間の休止を置き、繊維1本当たり3回反復で連続して実施した。これらの各刺激への応答の定量は、誘発される衝動の数がON3処理動物において有意に低いことを示した。対照眼と比較した応答の減少は、カプサイシン刺激で60%、熱刺激で56%および酸刺激で40%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TRPV1の発現および/または活性の増大を特徴とする眼の状態の治療における使用のための薬剤の調製における、薬学的に効果的な投与量のTRPV1に対する低分子干渉核酸(siNA)の使用であって、前記薬剤が局所的に角膜表面に投与されるものである、使用。
【請求項2】
投与が点眼薬を使用して実施されるものである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
眼の状態が、屈折手術後の角膜の不快感および感受性の変化、コンタクトレンズの使用、ドライアイ、糖尿病性網膜症ならびに他の眼科症状を含む群から選択される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
siNAが短鎖干渉リボ核酸(siRNA)である、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
siRNAが二本鎖リボ核酸(dsRNA)または低分子ヘアピン型リボ核酸(shRNA)である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
siNAが修飾オリゴヌクレオチドを含み、前記修飾が、ホスホロチオエートヌクレオチド間結合、2'-O-メチルリボヌクレオチド、2'-デオキシ-フルオロリボヌクレオチド、2'-デオキシリボヌクレオチド、「ユニバーサル塩基」ヌクレオチド、5-C-メチルヌクレオチド、逆方向デオキシ脱塩基残基の導入、siRNAの2個の相補鎖間の化学架橋結合、siRNA鎖の3'もしくは5'末端の化学的修飾、糖修飾、核酸塩基修飾および/または骨格修飾、2'-フルオロ修飾リボヌクレオチド、2'-デオキシリボヌクレオチド、未修飾のピリミジンヌクレオチドの2-チオ、5-アルキニル、5-メチルまたは5-プロピニルピリミジンへの置換、未修飾のプリンの7-デアザ、7-アルキルまたは7-アルケニルプリンへの置換から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
siNAの複数の分子種を使用する、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記複数の分子種が同じmRNA分子種を標的とする、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
siNAが、配列番号1から配列番号81から選択される配列または配列番号1から配列番号81から選択される配列を含む配列を標的とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
本発明のsiNA分子が配列番号82から配列番号162の群から選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
siNA分子が3'オーバーハングを含有する請求項10に記載の使用。
【請求項12】
TRPV1に対するsiNAを含む、TRPV1の発現および/または活性の増大を特徴とする眼の状態の治療用組成物であって、局所的に角膜表面に投与されるものである、組成物。
【請求項13】
配列番号65のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含む、TRPV1を標的にするsiNA化合物。
【請求項14】
配列番号146に記載されたヌクレオチド配列を含む、請求項13に記載のsiRNA化合物。
【請求項15】
両方の3'末端にオーバーハングを有し、両オーバーハングがdTdTである、配列番号146に記載されたヌクレオチドを含む請求項14に記載されたsiNA化合物。
【請求項16】
siNAがsiRNAである、請求項13から15のいずれか一項に記載のsiNA化合物。
【請求項17】
siRNAがdsRNAまたはshRNAである、請求項16に記載のsiNA化合物。
【請求項18】
siNAが修飾オリゴヌクレオチドを含み、前記修飾が、ホスホロチオエートヌクレオチド間結合、2'-O-メチルリボヌクレオチド、2'-デオキシ-フルオロリボヌクレオチド、2'-デオキシリボヌクレオチド、「ユニバーサル塩基」ヌクレオチド、5-C-メチルヌクレオチド、逆方向デオキシ脱塩基残基の導入、siRNAの2個の相補鎖間の化学架橋結合、siRNA鎖の3'もしくは5'末端の化学的修飾、糖修飾、核酸塩基修飾および/または骨格修飾、2'-フルオロ修飾リボヌクレオチド、2'-デオキシリボヌクレオチド、未修飾のピリミジンヌクレオチドの2-チオ、5-アルキニル、5-メチルまたは5-プロピニルピリミジンへの置換、未修飾のプリンの7-デアザ、7-アルキルまたは7-アルケニルプリンへの置換から選択される、請求項13から17のいずれか一項に記載のsiNA化合物。
【請求項19】
薬剤として使用するための、請求項13から18のいずれか一項に記載のsiNA。
【請求項20】
TRPV1の発現および/または活性の増大を特徴とする眼の状態の治療における使用のための薬剤の調製における、薬学的に効果的な投与量の請求項13から18のいずれか一項に記載のsiNAの使用であって、前記薬剤が局所的に角膜表面に投与されるものである、使用。
【請求項21】
請求項13から18のいずれか一項に記載のsiNAを含む、TRPV1の発現および/または活性の増大を特徴とする眼の状態の治療用組成物であって、局所的に角膜表面に投与されるものである、組成物。
【請求項22】
請求項13から18のいずれか一項に記載の化合物を含む医薬組成物。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−74902(P2013−74902A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2013−7528(P2013−7528)
【出願日】平成25年1月18日(2013.1.18)
【分割の表示】特願2008−536136(P2008−536136)の分割
【原出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(507058270)
【Fターム(参考)】