説明

TSE感染の治療

伝染性海綿状脳症(TSE)感染は、プリオンダイマーに結合する抗体の投与によって治療される。必要に応じてオリゴマー形態および必要に応じて環状領域を有する、キャリアとプリオンタンパク質のフラグメントとの結合体が、抗体産生を刺激するために用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝染性海綿状脳症(TSE)因子による感染の治療のための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
伝染性海綿状脳症(TSE)は、ヒトにおけるクロイツフェルトヤコブ病(CJD)およびクールー病、ウシにおけるウシ海綿状脳症(BSE)、ならびにヒツジにおけるスクレイピーを含む、致命的な神経学的疾患の一群である。TSEは、感染した動物の脳組織内の正常な宿主タンパク質の病原性タンパク質への変換によって特徴づけられる。タンパク質の病原性形態は、しばしばプリオンと呼ばれ、そして物理的および化学的分解に非常に抵抗性である。プリオンは、TSE疾患が動物間で伝わる伝染性因子であると考えられる。
【0003】
食肉製品、特に、ウシのTSEの形態であるBSEに感染している可能性のある牛肉の消費に関する危険性について、近年、多くの公的な警告がなされている。この関心の多くは、ヒトによって食べられた場合、BSEプリオンが、ある場合には、異型CJD(vCJD)と呼ばれる不治のヒト形態の疾患を引き起こし得るという考えに関連する。
【0004】
TSEに感染したヒトについての予後は良くなく、利用できる有効な治療法がない。しばしば、診断から死亡までの期間は短く、そして患者ならびに患者の周囲のヒトおよび患者の介護者の両方とも不安である。
【0005】
プリオンタンパク質のフラグメントに対する抗体が惹起されることは公知である。Souanら、Eur.J.Immunol.2001:31,2338−2346頁は、T細胞応答およびB細胞応答の両方を誘発するペプチドを記載している。しかし、得られた抗体を用いても、プリオンタンパク質腫瘍の減少には至らなかった。
【0006】
プリオンタンパク質に対する抗体を惹起するための困難性は、ペプチドフラグメントが弱い免疫原であることであり、そして得られた抗体は、しばしば親和性が弱い。純粋な病原性プリオンタンパク質自身を用いる場合、これは得られた組成物が、病原性タンパク質を含むおそれがあるという結果となり、したがって、臨床での使用に適さない。
【0007】
抗プリオン抗体であるmAb 6H4はまた、Prionics,Switzerlandから市販されている。この抗体は、代表的には、検出可能マーカーに結合された二次抗体を用いて、プリオンタンパク質を検出するために用いられ得、この二次抗体は一次抗体に結合する。
【0008】
本発明者らによって発見された困難性は、プリオンで汚染されていると思われる器具、または汚染されていると思われるがプリオンを破壊することを意図した処理を施されている器具への、この抗体の結合が、感染力に相関しないことである。例えば、プロテアーゼで消化し、SDS−PAGEにかけ、次いで抗プリオン抗体でプロービングした、プリオン感染したマウス脳ホモジネートは、陰性の結果、すなわち抗体結合がないことを示すことが、本発明者らにより発見されている。それにもかかわらず、この材料は感染力を保持する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の目的は、TSE因子からの罹患、TSE因子による感染の危険性、またはTSE因子によって引き起こされる他の疾患に有効な治療法、治療薬、および/または予防薬を提供することにある。
【0010】
さらなる目的は、プリオンタンパク質に結合しそしてプリオン疾患を治療するために用いられ得る抗体の代替の産生、および特定の実施態様では、改良された産生を提供することにある。
【0011】
したがって、本発明は、プリオンタンパク質のダイマーに結合する抗体を投与する工程を含む、TSE感染の治療方法を提供する。
【0012】
抗体は、好ましくはダイマーに特異的であり、すなわちダイマーに結合するが実質的にはプリオンのモノマー形態に結合せず、そして以下に詳細に記載する方法によって得られ得る。
【0013】
本発明のさらなる局面は、プリオンタンパク質のダイマーに結合する抗体を含む、TSE感染の治療のための薬学的組成物を提供する。
【0014】
本発明の抗体は、プリオンタンパク質もしくはそのアナログ、または該タンパク質もしくはそのアナログのフラグメントを含む抗原で動物を免疫し、該動物から抗体を含む抽出物を得、そして該抽出物からプリオンダイマーに結合する抗体を単離することによって適切に得られる。マウス、ヒツジ、ヒト、およびウシの(ならびに他の)プリオンタンパク質配列は公知であり、したがって、例えば、少なくとも7個、好ましくは少なくとも10個、より好ましくは少なくとも14個のアミノ酸のフラグメントであるペプチドを調製することは、簡単である。アナログは、それぞれのプリオンタンパク質配列の比較、および1以上のプリオンタンパク質ソースに由来する領域との混成物を合成することによって調製され得る。あるいは、10個毎に2個までのアミノ酸が置換される合成配列が、調製される。
【0015】
本発明の抗原は、ペプチドの混合物を含み得る。これらのペプチドは、1以上のプリオンタンパク質配列とは異なる領域、および/または1以上のプリオンタンパク質配列と同じ領域を含み得、この同じ領域は同一種内の変異を含み得る。
【0016】
多くの哺乳動物のプリオンタンパク質配列間に高度の相同性があることは公知であり、重要な機能性残基および構造エレメントの両方とも非常に保存されている。したがって、本発明の免疫ペプチドを調製するために、これらの保存された配列領域またはそのフラグメントを用いることが可能である。これらのペプチドは、1以上のプリオンタンパク質配列とは異なる種々の領域を含み得る。種間の高度のプリオンタンパク質配列相同性を、図5および6に示す。
【0017】
図5では、ClustalW多重アラインメントプログラム(Higginsら、1994)を用いて、ヒトのプリオンタンパク質前駆体であるPrPを、ハムスター、ヒツジ、ミュールジカ、ヘラジカ、マウス、ウシ、ネコ、およびニワトリの相同タンパク質とアラインした。このアラインメントに用いた配列は、SWISSPROTデータベースから入手し、そして用いた配列のデータベース登録番号を以下に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
重要な構造上の特徴は、図5のアラインした配列上に示されており、そして番号付けは、ヒトPrP配列を参照する。配列の重要な構造上の特徴のいくつかは以下のとおりである(括弧中の用語はこれらの特徴が図5にどのように表されているかを示す)。
【0020】
1.シグナルペプチドは、22/23位で切断されて成熟タンパク質を生じる(シグナルペプチド)
2.N末端領域は、大部分は構造化されておらず、そして可撓性であるが、残基37から53はPro44でヒドロキシル化部位を形成する、伸長したPPIIへリックスを形成し得る(Proヒドロキシル化)
3.N末端はまた、銅結合に関与する5/6反復のセグメントを含む(反復領域)
4.タンパク分解は、Lys110とHis111との間で起こり得る(切断)
5.膜貫通セグメントであると考えられる短い疎水性残基領域(疎水領域)がある
6.C末端は、3つのα−へリックス(a1−3)および2つのβ−シート(b1−2)の一団によって特徴づけられる
7.ジスルフィド架橋は、残基Cys179と残基Cys214との間に生じる(−SS−)
8.アスパラギン残基Asn181およびAsn197は、Nグリコシル化に利用される(炭水化物基;保存されたモチーフはAsn−X−Thrである)(Asn−Gly)
9.残基Ser231はGPI(糖脂質)アンカー部分が付着する残基を提供する(GPIアンカー)。
【0021】
図5の多重アラインメントの調査において、以下の機能的に重要な残基は、示した哺乳動物種では完全に保存されていた。
【0022】
・シグナルペプチド切断部位(C23−K24)
・Pro44ヒドロキシル化部位
・タンパク分解切断部位(K110−H111)
・Arg−グリコシル化部位(R181、R197)
・ジスルフィド架橋(C179、C214)
・GPIアンカー(S231)
【0023】
異なった領域は、N末端配列およびいくつかの構造エレメント(例えば、α−へリックス)にある傾向にあるが、β−シートおよび疎水性領域は全体的に保存されている。
【0024】
図6は、タンパク質配列の個々の対のアラインメントに由来する同一性の割合を示す。さらに、この図は、プリオンタンパク質のアミノ酸配列の哺乳動物種間の高いレベルの同一性を証明する。好ましくは、本発明の方法および組成物に用いるためのペプチドは、同定された保存領域のフラグメントから調製される。
【0025】
プリオンダイマーに対して選択的な抗体を作る一つの方法は、動物を免疫し、そして血清を抽出することである。これをプリオンダイマーカラムに供して、ダイマーに結合する抗体を同定する。次いで、これらの抗体を、プリオンモノマーとの交差反応性についてテストして、交差反応する抗体を除去する。除去は、プリオンモノマーを投入したカラムを用いて行われ得、次いでそこから出てくる抗体について、交差反応性がないことをテストする。
【0026】
単離したプリオンダイマーは、本発明のさらなる実施態様を形成する。この単離された物質は、上述した方法でカラムから、または簡単にはプリオンダイマーを解析するために用いたSDS−PAGEゲルの一部を切り出すことによって得られ得る。あるいは、他の分離技法を用いて、ホモジナイズしたプリオン感染マウスの脳からプリオンダイマーを抽出し得る。プリオンモノマーに結合しそして交差反応性である抗体を用いて、このようにして得た物質がプリオンダイマーであり、そして同じ分子量の他のタンパク質ではないことを確認し得る。
【0027】
本発明の好ましい実施態様では、抗体は、必要に応じて一端または両端にシステイン残基が付加された、プリオンタンパク質のフラグメントであるペプチドまたは該フラグメントを含むペプチドで、特定の例では配列番号1から8より選択されるペプチドで、動物を免疫することによって得られる。システイン残基(配列またはフラグメントについて言うときは、末端に0、1または2個のシステイン残基を有する配列またはフラグメントを含むことを意図する)の使用は、ペプチドがシステイン−システイン結合によってオリゴマーを形成し得るという利点を提供する。結果として、免疫するペプチドとしては、直鎖状モノマー、直鎖状ダイマー、環状モノマー、環状ダイマー、および反復プリオンペプチド配列および環状領域を有する他のオリゴマー形態が挙げられる。これらのペプチドは、より広範囲の免疫抗原を動物に提示させる。疾患形成因子の天然の形態をよりそっくりに模倣し得る環状形態が提示される。病原性因子のダイマー形態もよりそっくりに模倣し得るダイマー形態、そのいくつかの環状形態が提示される。したがって、本発明は、図5に示すすべてのプリオン配列のすべてのフラグメントまで及び、このフラグメントは少なくとも7アミノ酸長であり、そして一端または両端にシステイン残基を有する。
【0028】
ペプチドは、種々の投与経路により動物に導入され得る。好ましい実施態様では、ペプチドは、腹膜中に注入され、この部位は、(a)外科的に容易に接近可能であり、(b)一度に大量の液体を注入することができ、そして(c)血流へのペプチドの迅速な吸収が可能である。
【0029】
使用する場合、抗体は、全身循環へ送達され得る。抗体がプリオンダイマーに結合することにより、ダイマーを除去および破壊し、ならびに感染を減少させる。脳内で生じるプリオンダイマーが、血液脳関門を越えて拡散し、そしてダイマーは関門を通過した後に掃討されるので、関門の全身側の抗体の存在は濃度勾配を生じると考えられ、これが感染および疾患を減少させることを助ける。
【0030】
抗体が血液脳関門を通過し得るように輸送ベクターに抗体を結合することが公知である。例えば、抗体は、アビジン/ビオチンを介してOX26モノクローナル抗体に結合され得、後者の抗体は血液脳関門を通過するための輸送ベクターとして作用する。さらに詳細には、Bickelら、Advanced Drug Discovery Reviews 46(2001)247−279に記載されている。したがって、本発明のさらなる実施態様は、例えば、Bickelらによって総説された技術を用いて、血液脳関門を通過するように適合した抗体にある。
【0031】
本発明のさらに好ましい実施態様は、キャリアの使用により抗原に対する免疫応答を高めることにある。したがって、抗体は、動物を抗原で免疫することによって得られ、ここで、抗原は、プリオンタンパク質またはプリオンタンパク質のアナログのフラグメントである本発明のペプチドまたは該フラグメントを含む本発明のペプチドを含み、そして抗原はさらに、必要に応じてリンカーを介して、ペプチドと共有結合したキャリアを含む。これは、抗体産生の刺激を改善する利点がある。キャリアは、広範な免疫原性キャリア物質、例えば、タンパク質、熱ショックタンパク質、トキソイドから選択され得、バクテリアタンパク質およびバクテリアトキソイドのような例、特にマイコバクテリアタンパク質、百日咳タンパク質およびトキソイド、ジフテリアタンパク質およびトキソイドが挙げられる。De Silvaら、Bioconjug Chem 1999 5−6月:10(3);496−501には、免疫原性のキャリアとしてのPPDの使用が記載されており、キャリアとしての熱ショックタンパク質は、Lussowら、Immunol 1991 10月:21(10);2297−2302に記載されている。動物は、抗体のソースであり得、この場合、抗体は動物から得られ得、同定されたプリオンダイマーに結合する抗体である。動物は、処置されているかまたは処置されるべきであり得る。したがって、本発明はまた、TSEの治療方法および/またはTSE感染に対して動物を免疫する方法を提供し、本発明のペプチドおよび/または本発明の抗原を投与する工程を含む。
【0032】
さらに、抗原/キャリアを投与する前または同時のいずれかに、動物をキャリアに対して感作することが好ましい。したがって、実施例に記載されている特定の方法では、抗体産生はキャリアに対する免疫応答を刺激する初回抗原を投与する工程を含む。また、抗体産生が改良されている利点がある。初回抗原は、それ自体のキャリアまたはキャリアのフラグメントであり得る。
【0033】
特定の例では、キャリアは、マイコバクテリアタンパク質であり、そして初回抗原はBCGワクチンを投与することによって投与される。このアプローチのさらなる詳細は、例えばLussowら、Immunol 1991 10月:21(10);2297−2302に記載されている。
【0034】
本発明のさらなる局面は、本発明の単離されたペプチドおよび抗原、ならびにそれらの使用にある。
【0035】
用語「伝染性海綿状脳症(TSE)因子」は、病原性プリオンタンパク質中間体によって明らかに伝染されるすべての神経学的疾患を含むことを意図する。このようなTSEとしては、代表的には、ヒト疾患のクロイツフェルトヤコブ病(CJD)、異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)、クールー病、致命的家族性不眠症、およびゲルストマン−ストロイスラー−シャインカー症候群が挙げられる。非ヒトTSEとしては、ウシ海綿状脳症(BSE)、スクレイピー、ネコ海綿状脳症、慢性消耗病、および伝染性ミンク脳症が挙げられる。現在、vCJDがBSEのヒト形態であると理解されるならば、あるTSE因子が種の障壁を交差し得、そして非ウシ起源の新規なTSEが将来明らかになり得ることは明白である。TSE感染という場合も、プリオン疾患をいう。
【0036】
本発明の抗体および/またはペプチドは、英国のスクレイピー(ヒツジ)の群れのすべてまたは一部を除去するために有効な治療法、治療薬および/または予防薬に用いられ得る。ヒツジでは、しばしば群れの20%までがスクレイピーに感染している群れがある。したがって、危険であることが知られている隔離された群れにワクチン接種すること、および/または感染したヒツジをプリオンタンパク質に結合する抗体で治療することは有益である。本発明の抗体および/またはペプチドは、同様に、英国のBSE(ウシ)の群れのすべてまたは一部を除去するために用いられ得る。
【0037】
本発明のさらなる局面は、CJDまたは新しい異型CJDの兆候を提示している、または危険であると同定されたヒトを治療するための抗体および/またはペプチドの使用にある。
【0038】
もう一つの実施態様では、本発明の抗体および/またはペプチドは、例えば、虫垂、扁桃腺から、または腰椎穿刺によって取り出された組織に基づく、TSE感染の早期診断を可能にする。早期診断により、治療の成功の可能性、または少なくとも治療による延命は、増加する。
【0039】
さらに他の実施態様では、本発明の抗体および/またはペプチドは、動物における広範なワクチン接種プログラムを提供するために用いられる。このようなワクチン接種プログラムが、事前の診断またはテストなしで行い得ることが予測される。
【0040】
本発明の抗体は、必要に応じて、プリオンタンパク質、好ましくは特異的にプリオンダイマーに結合するモノクローナル抗体であり、そしてプリオン疾患の治療に用いられ得る。
【0041】
実施例により詳細に記載するように、プリオン株301Vは、最終的にBSEにかかったホルスタイン−フリージアンウシ由来のマウス継代単離物であり、これはプリオン株の例として用いられる。感染は脳内接種により生じることが知られており、そして臨床的徴候の発現に必要なインキュベーション期間は非常に均一である。すなわち、感染性因子の投与量が充分であるならば、疾患の古典的兆候は接種後の所定の時間で出現する(VMマウスにおいて、これは120日である)。明らかな理由について、ヒトにおけるこれらの特性はテストされていないが、マウスのバイオアッセイが、最も近い利用可能なモデルとみなされ、したがってヒトにおけるBSE感染の良好な指標である。
【0042】
本発明の特定の実施態様の方法および組成物は、以下により詳細に記載されており、添付の図によって説明される。
【実施例】
【0043】
(消化したマウス脳におけるダイマー検出)
BSE(301V)感染したマウス脳のホモジネートを、プロテアーゼを用いて中性pHおよび60℃にて30分間消化した。全タンパク質消化物を、SDS−PAGEにかけ、そしてウエスタンブロッティングによってニトロセルロースメンブランに移した。これらを細片に切断し、そしてCAMR抗プリオン抗体(ウサギで産生)でプロービングした。一般の二次抗体(ヤギ抗ウサギ)を西洋ワサビペルオキシダーゼに結合し、そしてTMB比色定量基質による検出に用いた。
【0044】
この時点で、予測した結果は、抗プリオン抗体mAb 6H4(Prionics,Switzerlandから入手)を用いるコントロールブロット(第7番)と同じ結果となるということであった。このコントロールブロットでは、プロテアーゼ消化した感染性コンホメーションのプリオンタンパク質(PrPSc)についての代表的な3つのバンドパターン(グリコシル化状態)が見られる。
【0045】
しかし、この実施例におけるブロットは、このパターンを示さなかった。ブロット1は、プリオン分子のN末端領域に対応するPPD結合ペプチドに対して惹起したポリクローナル抗体を使用する。このレーンでは何も見られない。タンパク質のこの部分は、タンパク分解を受けやすく、そのためレーン(2および3)で何も見られないことは意外ではない。図1の左側のブロット1を参照のこと。レーン1は、分子量マーカーである。
【0046】
ブロット2は、プリオン分子中のさらなるペプチド配列に対して惹起した第2の抗体を有する。これは、ある範囲のグリコシル化状態を有するプリオンダイマーに対応する分子量で、ほぼ等距離で強度が異なる、少なくとも9つのバンドを示す。図1のブロット2を参照のこと。
【0047】
ブロット3抗体は、同様のプロファイルを示す;ブロット4も示すが、その結果は質が悪くて結論を得られない。図1のブロット3および4を参照のこと。
【0048】
コントロールブロット7とともに図2に示すブロット5および6も、複数のバンドのパターンを示す。
【0049】
(消化したマウス脳におけるダイマー検出)
上記の実施例を繰り返し、そして結果を図3および図4に示す。
【0050】
ブロット1は、レーン1および5に分子量マーカーを示す。レーン2は、組換えマウスPrPであり、組換えマウスPrPオリゴマーを示す。レーン3は、プロテアーゼ消化した感染性マウス脳のホモジネートに対する抗体応答がないことを示す。レーン4は、非消化コントロールにおける抗体応答である。
【0051】
ブロット2は、上記のとおりであるが、プロテアーゼ消化した試料におけるこれまでのバンドパターンを示す。
【0052】
ブロット3は、抗体3応答を示す。ここでは、組換えマウスPrPに対するいくつかの応答がある(レーン2)。レーン3は、複数の(ダイマーPrP)バンドパターンだけでなく、いくつかのモノマーPrP応答も示す。
【0053】
ブロット7は、6H4 mAb抗体コントロールである。ここでは、組換えマウスPrPオリゴマーの良好な検出がある(レーン2)。レーン3は、限定的プロテアーゼ処理したPrPScの大量のジグリコシル化形態、加えてBSE(301V)株に代表的なより少量のモノグリコシル化および非グリコシル化形態を示す。ダイマー検出は明らかでない。
【0054】
(ダイマー優先抗体を含む抗体の調製)
実施例において、本発明者らは6つのポリクローナル抗体を用いた。これらのうち3つはダイマーのみを検出しそしてモノマーに結合しないが、1つはモノマーおよびダイマーの両方と交差反応する。
【0055】
合成したプリオン模倣ペプチドでウサギに免疫接種することによって、ポリクローナル血清を産生した。これらのペプチドを、ヒト、マウス、およびウシのプリオンタンパク質アミノ酸配列間の高い相同性の領域に基づいて設計した。
【0056】
配列番号4、5、7および8が、ダイマー反応性抗体を産生した。
【0057】
両端にシステインを有する(上記を参照のこと)および一端のみにシステインを有するペプチドを合成した。キャリアタンパク質の表面上の抗原の直鎖形態およびループ構造の両方を提示するために、この方法を用いた。
【0058】
ペプチドを商業的に合成し、細菌Mycobacterium bovisの弱毒化株に由来するキャリアタンパク質PPD(精製したタンパク質誘導体)にカップリングした。これを凍結乾燥して、リンカーを介してペプチドに結合するために使用する。
【0059】
抗プリオンポリクローナル抗体を、以下のように産生した。
【0060】
免疫前血清の試料(約1ml)をDutchウサギの群のそれぞれから採集した。ウサギに、皮内用途用に再構成して凍結乾燥したBacillus Calmette−Guerin(BCG)ワクチンを注射した。再構成したBCGワクチンの0.1ml用量を、ウサギの首筋に2ヶ所投与した。4週後、0.6mgの各ペプチド−PPD結合体を測定し(1システインおよび2システイン型のそれぞれの0.3mg)、そして1mlの0.9%滅菌生理食塩水に溶解した。
【0061】
等容量の不完全フロイントアジュバントを加え、そして各ウサギにつき得られたエマルジョンの0.75mlアリコートを各後肢に、そして0.25mlアリコートを首筋の2ヶ所に筋肉内注射した。4週後に、工程3および4のように調製したペプチド−PPD結合体を含むブースト注射を行った。ブースト注射は、各ウサギの首筋への4ヶ所の0.25ml注射からなる。1回目のブースト注射の7〜14日後に、4mlのテスト採血を行い、抗体力価について血清をELISAによって評価した。2回目のブースト注射を1回目の4〜6週後に行った。
【0062】
3回目のブースト注射を4〜6週後に行った。3回目のブースト注射の6〜8週後に4mlのテスト採血を行って、抗体力価をELISAによって測定した。次いで、4回目のブースト注射を行った。
【0063】
4回目のブースト注射の7〜14日後に、4mlのテスト採血を行って、抗体力価をELISAによって測定した。最後の全採血を行い、そして血液を採集した。血清を遠心分離によって分離し、そして−20℃で保存した。
【0064】
抗体力価の分析を、ELISAを用いて行った。ペプチドに対する応答をキャリアタンパク質に対する応答と区別するために、イムノアッセイプレートを、異なるキャリアタンパク質(KLH)に結合した同じペプチドでコーティングした。
【0065】
記載の合成ペプチド配列の免疫接種によって産生した3つの抗体は、ダイマー形態の分子に優先的に結合する。
【0066】
(マウスにおけるプリオン感染の治療のための、PPD結合したプリオン由来ペプチドを用いる免疫接種プロトコル)
BSE(301V)感染したマウス脳ホモジネートの0.1%(w/v)懸濁液の20mlをVMマウスに大脳内接種した。2週後、接種したペプチド結合体に対する免疫応答を刺激するためにマウスにBCGを接種した。さらに2週後、不完全フロイントアジュバントまたは適切なコントロールと1:1で混合したPPD−ペプチド結合体100mlをマウスに接種した。結合体のペプチドを、配列番号1〜8から選択し、そして以下のように対応させた:
ペプチド1=配列番号5
ペプチド2=配列番号6
ペプチド3=配列番号8
【0067】
同じ濃度の結合体のさらに3つの接種物を2週間間隔で投与した。プリオン疾患の進行の臨床兆候について次の2〜6ヶ月にわたり、マウスを観察した。138日後の実験の結果を、表2にまとめる。
【0068】
【表2】

【0069】
この実験の結果は、これらのPPD−ペプチドのそれぞれでの免疫接種が、TSEに予め曝露したマウスの平均生存期間を増加させることに成功したことを示す。PPD−ペプチド1およびPPD−ペプチド2での免疫接種は、TSEに予め曝露したマウスの平均生存期間の特に著しい増加を示した。138日終了時のこれらの2つのペプチドについての結果の統計分析を以下に示す。
【0070】
上記の実験結果を解釈する場合、マウスが予めTSEに曝露されているので、実験がマウスにおけるプリオン感染の治療のためのペプチドの有効性の非常に厳格なテストを表すことを認識すべきである。したがって、本発明のペプチドは、TSEに予め曝露したマウスの生存期間を増加させることを示し、そして治療法における使用に適切な候補物である。
【0071】
ペプチドはまた、予防的治療、すなわち感染因子の曝露の前にペプチド−キャリア結合体に動物を曝露することによる使用に適切である。
【0072】
(TSEに予め曝露したマウスの平均生存期間におけるPPD−ペプチド1およびPPD−ペプチド2の効果の統計分析)
一元ANOVA:グループ2(PPD−ペプチド2)対グループ8(コントロール−BCGのみ)
グループ4についての分散分析
ソース DF SS MS F P
グループ8 1 26.889 26.889 35.29 0.001
誤差 7 5.333 0.762
合計 8 32.222
【0073】
【数1】

【0074】
2試料T検定およびCI:グループ8(コントロール−BCGのみ)、グループ2(PPD−ペプチド2)
グループ8対グループ2についての2試料T
N 平均 標準偏差 SE平均
グループ8 9 129.67 5.00 1.7
グループ2 9 135.44 2.01 0.67
差=muグループ8−muグループ2
差についての推定:−5.78
差についての95%CI:(−9.78、−1.78)
差のT検定=0(対なし=):T値=−3.22 P値=0.009 DF=10
【0075】
マン−ホイットニー検定およびCI:グループ8(コントロール−BCGのみ)、グループ2(PPD−ペプチド2)
グループ8 N=9 中央値=133.00
グループ2 N=9 中央値=136.00
ETA1−ETA2についての点推定は−3.00である
ETA1−ETA2についての99.2%Clは(−13.00、−0.00)である
W=54.0
ETA1=ETA2対ETA1<ETA2の検定は0.0031で有意である
テストは0.0016で有意である(つながりについて調整された)
【0076】
統計的に、コントロール群とPPD−ペプチド2で免疫した群との間に認められる差は、非常に有意であることが示された。
【0077】
マン−ホイットニー検定およびCI:グループ8(コントロール−BCGのみ)、グループ1(PPD−ペプチド1)
グループ8 N= 9 中央値=133.00
グループ1 N=10 中央値=133.00
ETA1−ETA2についての点推定は−0.00である
ETA1−ETA2についての95.5%CIは(−10.00、0.00)である
W=75.0
ETA1=ETA2対ETA1<ETA2の検定は0.1182で有意である
検定は0.0628で有意である(つながりについて調整された)
α=0.05で拒絶できない
【0078】
2試料T検定およびCI:グループ8(コントロール−BCGのみ)、グループ1(PPD−ペプチド1)
コントロール対PPD−ペプチド1についての2試料T
N 平均 標準偏差 SE平均
グループ8 9 129.67 5.00 1.7
グループ1 10 133.000 0.471 0.15
差=muグループ8−muグループ1
差についての推定:−3.33
差についての95%CI:(−7.19、0.53)
差のT検定=0(対なし=):T値=−1.99 P値=0.082 DF=8
【0079】
統計的に、コントロール群とPPD−ペプチド1で免疫した群との間に認められる差は、有意である。
【0080】
(プリオン疾患に感染したヒト被験者の免疫接種)
ペプチドは、上述したように本質的にPPDまたはBCGキャリアタンパク質に結合されている。この結合体は、当業者に公知の方法および組成物を用いて臨床患者への免疫接種を適切にするような方法で処方される。
【0081】
結合体での最初の免疫接種、次いで2週間毎に2回の50%濃度の注射、次いで2、3および4ヶ月目の追加の注射に基づく免疫接種プロトコルは、個体の治療方法に適切である。
【0082】
(ウサギポリクローナル抗体およびマウスモノクローナル抗体の産生)
ウサギにおけるポリクローナル抗体の産生を以下に述べる。
【0083】
Dutchウサギ(約2.5kg)を、新しい収容施設に約2週間飼育し、そして免疫前血清の試料(約1ml)をそれぞれから採集した。各ウサギに皮内用途用に再構成して凍結乾燥したBacillus Calmette−Guerin(BCG)ワクチン(Statens Seruminsitut、Denmark)を注射した。再構成したBCGワクチンの0.1ml用量を、ウサギの首筋に2ヶ所のそれぞれに投与した。ペプチド−PPD結合体の最初の注射前4〜6週間、すべてのウサギを放飼する。
【0084】
・等容量の不完全フロイントアジュバントを追加したペプチド−PPD結合体(1ml)のそれぞれを合わせ、そして各ウサギにつき得られた各エマルジョンの0.75mlアリコートを各後肢に、0.25mlアリコートを首筋の2ヶ所に筋肉内注射する。4〜6週間放置する。
【0085】
・最初のペプチド−PPD結合体不完全フロイントアジュバント接種の4〜6週後に、最初のブースト注射を行う。ブースト注射は、各ウサギの首筋への4ヶ所の0.25ml注射のみを含む。2回目のブーストを4〜6週の時点に行う。
【0086】
・最初のブースト注射の7〜14日後に、テスト採血(約4ml)を行う。
【0087】
・最初のブースト注射の4〜6週後に2回目のブースト注射を行う。ブースト注射はまた、各ウサギの首筋への4ヶ所の0.25ml注射のみを含む。3回目のブーストを4〜6週の時点に行う。
【0088】
・2回目のブースト注射の4〜6週後に、3回目のブースト注射を行う。ブースト注射はまた、各ウサギの首筋への4ヶ所の0.25ml注射のみを含む。
【0089】
・3回目のブースト注射の6〜7週間後に、2回目のテスト採血(約4ml)を行い、そして、およそ数週の時点に4回目のブースト注射を行う。
【0090】
4回目のブースト注射の7〜14日後に、3回目のテスト採血(約4ml)を行う。血清分析結果を受け、次の3日以内に最後の全採血を行う。
【0091】
マウスにおける抗体の産生のための免疫接種プロトコルは、上記のものと類似している。
【0092】
1.再構成して凍結乾燥したBacillus Calmette Guerin(BCG)のマウス当たり25mlの皮内注射(0日目)
2.不完全フロイントアジュバント中のペプチド−PPD結合体のマウス当たり80mgの腹腔内注射(28日目)
3.28日目のようにマウス当たり40mgを繰り返す(42日目)
4.28日目のようにマウス当たり40mgを繰り返す(49日目)
5.尾静脈からテスト採血(56日目)
6.ペプチド−PPD結合体(アジュバントなしでなければならない)の静脈内注射(63日目)
7.選択したマウスを融合(66日目)
【0093】
免疫応答を、終点を推定するために2倍希釈を用いて、遊離のペプチドまたはペプチド−KLH結合体をコーティングしたプレートのいずれかを用いるELISAによって評価する。遊離のペプチドでコーティングしたELISAプレートにおいて、免疫した動物については、代表的には、1:51,200と1:102,000との間の力価が得られる。
【0094】
モノクローナル抗体細胞株の生成のために、免疫接種したマウスの脾臓を取り出し、そして標準的方法を用いて骨髄腫細胞株と融合する(Antibodies;A laboratory Manual、HarlowおよびDavid Lane編、6章、196−224頁.(Cold Spring Harbour Laboratory、1988))。適切な方法の例を以下に示すが、当業者は、他の類似のプロトコルが抗体産生細胞株の生成に使用され得ることを認識している。
【0095】
(融合のための脾臓細胞の調製)
1.マウスを屠殺する。無菌的に脾臓を取り出し、そして10mlの無血清培地を含む組織培養ディッシュに入れる。夾雑している組織を脾臓から切り取りそして捨てる。
2.1mlシリンジにつけた19ゲージ針を用いて、脾臓を細裂する。細胞の大部分が離れるまで細裂し続け、そして脾臓を細かい部分に裂いた。ピペット操作により細胞塊を破壊する。滅菌遠心分離チューブ中に細胞および培地を移す。
3.10mlの無血清培地(予め37℃に温める)で組織培養プレートおよび組織塊を洗浄し、そしてチューブ中で最初の10mlと合わせる。
4.細胞懸濁液を約2分間静置する。沈殿物から上清を注意深く取り除き、新しい遠心分離チューブに移す。
【0096】
(融合技法)
融合の前に、融合パートナーとして用いる骨髄腫細胞は、凍結ストックから取り出し増殖しなければならない。
【0097】
1.0.3gのPEGのバイアルを50℃の水浴中で溶解する。血清を含まない0.7mlの培地を加え、37℃の水浴に移す。
2.免疫した動物からの脾臓細胞を400gにて、5分間遠心分離する。同時に20mlの骨髄腫細胞を遠心分離する。両方の細胞ペレットを、血清を含まない5mlの培地に再懸濁する。
3.2つの細胞懸濁液を合わせて、15mlの丸底遠心分離チューブに移す。400gで5分間遠心分離する。すべての培地を注意深く取り除く。
4.0.2mlのPEG溶液を加える。チューブを軽く叩くことによって細胞を懸濁する。
5.400gで5分間遠心分離する。血清を含まない5mlの培地を加えて、ペレットを分散させる。必要ならば、チューブをはじいて細胞を再懸濁する。細胞をピペットで移さない。次いで、20%ウシ胎児血清を含む5mlの培地を加える。
6.400gで5分間遠心分離する。上清を取り除き、そして20%ウシ胎児血清、1×OPIおよび1×HATを追加した10mlの培地に細胞を再懸濁する。20%ウシ胎児血清および1×HATを追加した200mlの培地に細胞を加える。
7.マイクロタイタープレートのウェル中に100mlの細胞を分配する。37℃でCOインキュベーター中に入れる。
8.4〜5日後、HATを含有する20%ウシ胎児血清を追加した新鮮な100mlの培地の添加によって、細胞を培養する。
【0098】
OPIは、低細胞密度でプレーティングした細胞の増殖を補助するために用いられる培地添加物である。これは、オキザロ酢酸、ピルビン酸、およびインスリンの溶液である。
HATはヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジン(薬剤選択培地)である。
他の通常用いられる薬剤選択方法は、AH(アザセリンおよびヒポキサンチン)である。
【0099】
(単細胞クローニング)
陽性の組織培養上清を同定した後、次の工程は、抗体産生細胞をクローニングすることである。
・マルチウェルピペッターを用いて、96ウェルプレートの各ウェルに20%FCSおよび2×OPIを含む50mlの培地を加える。
・100mlのハイブリドーマ細胞懸濁液を取り出し、左上側のウェルに移す。ピペット操作により混合する。
・プレートの左側のカラムを下方に2倍希釈する(8ウェル、7希釈段階)。チップを捨てる。
・8ウェル多重チャンネルピペットを用いてプレートを交差して2倍希釈する。クローンは、2〜3日後に目に見えるようになり、そして7〜10日後にスクリーニングの準備をするべきである。良好なウェルを選択し、培養し、そしてクローンニング手順を繰り返す。
【0100】
(CDR移植によるヒト化抗プリオンダイマー抗体の生成)
プリオン−ダイマーを認識するモノクローナル抗体の治療の可能性は、CDR移植と呼ばれるプロセスによってヒト可変領域上にマウス抗体の可変領域を融合移植することにより著しく向上し得る(Antibody engineering;a practical approach McCafferty,J.、Hoogenboom,H.R.およびChiswell,D.J.編 Oxford University Press 1996およびその中の参考文献に記載)。この方法は、マウス抗体の大部分を等価のヒトタンパク質と置換することによって、治療抗体調製物の免疫原性を減少させる。この方法を以下に簡潔に述べる。
【0101】
上述のように産生され特徴づけられた、マウスモノクローナルをコードするcDNAを、重鎖および軽鎖の可変領域に対して設計された特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いるPCRによって増幅する。これらの可変領域を、ヒト抗体の定常領域上にクローニングして、当業者に公知の方法を用いてキメラ抗体を生成する(Antibody engineering;a practical approach McCafferty,J.、Hoogenboom,H.R.およびChiswell,D.J.編 Oxford University Press 1996に含まれる参考文献に述べられている)。これらのキメラ抗体を、哺乳動物の細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞;CHO)または大腸菌のいずれかにおいて組換え発現する。
【0102】
(大腸菌における抗体フラグメントの組換え発現)
大腸菌における組換え発現のために、元のマウスモノクローナル抗体細胞株から増幅した、またはヒト化キメラ抗体から増幅したいずれかの可変領域を、scFVフラグメントまたはFabフラグメントのいずれかとして発現し、そして当業者公知の方法を用いて適切な大腸菌株(例えばtrxB変異株)の細胞質またはペリプラズムに発現させる。これはAntibody engineering;a practical approach McCafferty,J.、Hoogenboom,H.R.およびChiswell,D.J.編 Oxford University Press 1996およびその後の参考文献に述べられている。
【0103】
scFVフラグメントの精製を容易にするために、可変領域を、N末端またはC末端のいずれかに6−ヒスチジンタグを含む発現ベクターにクローニングする。タグの付加は、scFVによるプリオンダイマーの認識または機能に影響を与えない。タンパク質の発現のために、trxB変異体大腸菌株(例えば、AD494またはBL21trxB;Novagen)におけるクローンを、適切な抗生物質を含む100mlのLBに接種し、そして30℃で1晩培養する。培養物を、新鮮な培地で1:50に希釈し、そして0.6〜1のOD600nmになるまで30℃で培養する。培養物を、IPTGまたは発現系に適切な他のインデューサーの添加によって誘導し、そして培養物をさらに3〜4時間、25℃で培養する。細胞材料を、遠心分離によって単離する。
【0104】
(抗体の精製)
抗体フラグメントを、当業者に公知の標準的方法を用いて、ハイブリドーマ上清、ヒト化IgGでトランスフェクトしたCHO細胞、または組換え大腸菌培養物のいずれかから精製する。簡単に言えば、モノクローナル抗体を、粗培養上清から(任意の)硫安沈殿後のプロテインGまたはプロテインAセファロースカラムでのアフィニティークロマトグラフィーによって精製する。代表的には、ハイブリドーマまたはCHO細胞株からの粗上清を40%飽和の硫酸アンモニウムの添加によって硫安沈殿し、4℃で少なくとも1時間インキュベートする。沈殿物を4℃で30分間15000gでの遠心分離により収集する。ペレットを約2mg/mlの最終濃度で、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に再懸濁し、そして製造業者の指示に従って、リン酸緩衝化生理食塩水で平衡化したプロテインGセファロースまたはプロテインAセファロースカラム(Pharmacia)に載せる。精製した抗体を、100mMのグリシンpH2.8を用いて溶出し、そして高いpHの高濃度のリン酸緩衝液中に直接収集する。精製したタンパク質をPBSに対して広範囲で透析する。
【0105】
(大腸菌における組換え抗体フラグメントの発現および精製)
大腸菌からの組換えscFVフラグメントの精製を、標準的方法を用いて行う。実施例5に記載したヒスチジンタグ付けしたscFvフラグメントの場合、発現培養物からの細胞ペレットを、超音波を用いてまたは専売のデタージェント溶菌(例えば、Bugbuster;Novagen)によるいずれかで溶菌し、そして遠心分離により澄明にする。上清画分を、50mMのHEPES、150mMの塩化ナトリウムpH7.4、または類似の緩衝液中のCuまたはNiとともに充填した固定化金属イオンアフィニティーキレート(IMAC)カラム(Pharmacia)にアプライする。非特異的に結合したタンパク質を除去するために洗浄した後、scFvを、同じ緩衝液中の0〜500mMのイミダゾールのグラジエントを用いて溶出する。イミダゾールを透析によって除去して保存する。他の標準的なタンパク質精製方法も、大腸菌からの組換え抗体フラグメントの単離に適切である。
【0106】
(プリオン疾患の治療のための治療用抗体調製物の処方)
精製したモノクローナル抗体もしくは組換えキメラ抗体およびこれらのフラグメントを、上記のように調製し、そして内毒素汚染がないことを示す。抗体を、適切なキャリアタンパク質(例えば、血清アルブミン)とともにまたはなしのいずれかで、0.9%塩化ナトリウムとともにまたはなしで、およびデキストロース、ソルビトール、スクロース、またはマニトールのような適切な安定化剤の存在または不在下で処方する。抗体は、10mg/mlの濃度で処方されるべきである。
【0107】
(治療用抗体でのプリオン疾患の治療)
抗プリオンダイマーモノクローナル抗体の治療応用のために、モノクローナル抗体でのリンパ腫または他のガンの治療に用いられているのと類似のプロトコルを用い得る。適切な投与スケジュールの例は、5%デキストロース水溶液を含む0.9%塩化ナトリウム中で1mg/mlの濃度(最終濃度)の注入液として処方した抗体を調製することである。注入液を、数時間かけてゆっくりとした静脈内注入として適用する。使用する抗体の濃度は400mg/m体表面積までであり、そして投与は週に1回8週にわたって繰り返される。600mg/mを週に1回4週間のような代替の投与スケジュール、または当業者に公知の他のスケジュールも、抗体の投与に適切である。
【0108】
(血液脳関門を通る治療用抗体フラグメントの取り込みの改善)
抗プリオンダイマー抗体の治療応用の有効性は、抗体が中枢神経系(CNS)に達する能力に依存する。CNSへの抗体の接近を促進させるための多数の利用可能な方法は、治療用抗体の接種とともに使用する場合、接種のみについて増強された有効性を提供し得る。このようなプロセスの特定の例は次の通りである;1)標準的方法を用いる抗トランスフェリンレセプター抗体への治療用抗体の結合:Lee HJ、Engelhardt B、Lesley J、Bickel U、Pardridge WM.(2000)「Targeting rat anti-mouse transferrin receptor monoclonal antibodies through blood-brain barrier in mouse」J Pharmacol Exp Ther.292:1048−52および類似の論文に記載されている、2)接種後に血液脳関門を低くするために薬剤Cereport(Alkermes Cambridge、MA)の使用、3)逆行輸送による送達のための破傷風菌毒素レセプター結合ドメイン(Hc)のような因子に対する抗体の結合、4)組換え抗体産生細胞(例えば、グリアまたはシュワン細胞)のCNSへの直接接種。
【0109】
したがって、本発明は、TSE感染の治療およびそのための抗体を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の抗体がプリオンダイマーに結合していることを説明するための、BSE(301V)感染したマウス脳ホモジネートのブロットを示す。
【図2】本発明の抗体がプリオンダイマーに結合していることを説明するための、BSE(301V)感染したマウス脳ホモジネートのブロットを示す。
【図3】本発明の抗体がプリオンダイマーに結合していることを説明するための、BSE(301V)感染したマウス脳ホモジネートのブロットを示す。
【図4】本発明の抗体がプリオンダイマーに結合していることを説明するための、BSE(301V)感染したマウス脳ホモジネートのブロットを示す。
【図5】選択された哺乳動物および鳥類のPrPタンパク質の多重アラインメントを示す。
【図6】選択された哺乳動物および鳥類のPrPタンパク質配列の配列の対の相違を示す。
【配列表】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリオンに結合する抗体を投与する工程を含む、TSE感染の治療方法であって、該プリオンが、動物に感染性であるPrPScプリオンダイマーを含む、方法。
【請求項2】
前記抗体がPrPScプリオンダイマーに特異的である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗体が、プリオンタンパク質もしくはそのアナログ、または該タンパク質もしくは該アナログのフラグメントで動物を免疫し、該動物から抗体を含む抽出物を得、そしてプリオンに結合する抗体を該抽出物から単離することによって得られ、該プリオンが動物に感染性であるPrPScプリオンダイマーを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体が、プリオンタンパク質のフラグメントであるペプチドまたは該フラグメントを含むペプチドで動物を免疫することによって得られる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記ペプチドが、必要に応じて一端または両端にシステイン残基が付加された、配列番号1から8より選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ペプチドが、直鎖状コンホメーション、必要に応じて直鎖状ダイマー、または環状コンホメーション、必要に応じて環状ダイマーである、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記ペプチドがプリオンタンパク質の反復フラグメントを含む、請求項4から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
クロイツフェルトヤコブ病、異型クロイツフェルトヤコブ病、クールー病、致命的家族性不眠症、ゲルストマン−ストロイスラー−シャインカー症候群、ウシ海綿状脳症、スクレイピー、ネコ海綿状脳症、慢性消耗症、および伝染性ミンク脳症から選択される疾患の治療のための、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
プリオンに結合する抗体を含む、TSE感染の治療のための薬学的組成物であって、該プリオンが動物に感染性であるPrPScプリオンダイマーを含む、組成物。
【請求項11】
前記抗体がPrPScプリオンダイマーに特異的である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記抗体が、プリオンダイマーで動物を免疫し、該動物から抗体を含む抽出物を得、そしてプリオンに結合する抗体を該抽出物から単離することによって得られ、該プリオンが動物に感染性であるPrPScプリオンダイマーを含む、請求項10または11に記載の組成物。
【請求項13】
前記抗体が、プリオンタンパク質のフラグメントであるペプチドまたは該フラグメントを含むペプチドで動物を免疫する工程によって得られる、請求項10または11に記載の組成物。
【請求項14】
前記ペプチドが、必要に応じて一端または両端にシステイン残基が付加された、配列番号1から8より選択される、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記ペプチドが、直鎖状コンホメーション、必要に応じて直鎖状ダイマーである、請求項13または14に記載の組成物。
【請求項16】
前記ペプチドが、環状コンホメーション、必要に応じて環状ダイマーである、請求項13または14に記載の組成物。
【請求項17】
前記ペプチドがプリオンタンパク質の反復フラグメントを含む、請求項13から16のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】
クロイツフェルトヤコブ病、異型クロイツフェルトヤコブ病、クールー病、致命的家族性不眠症、ゲルストマン−ストロイスラー−シャインカー症候群、ウシ海綿状脳症、スクレイピー、ネコ海綿状脳症、慢性消耗症、および伝染性ミンク脳症から選択される疾患の治療のための、請求項10から17のいずれかに記載の組成物。
【請求項19】
TSE感染を治療するための医薬品の製造のための、プリオンに結合する抗体の使用であって、該プリオンが動物に感染性であるPrPScプリオンダイマーを含む、使用。
【請求項20】
抗原で動物を免疫する工程であって、該抗原が、プリオンタンパク質あるいはプリオンタンパク質のアナログのフラグメントであるペプチドまたは該フラグメントを含むペプチドを含む、工程;該動物から抗体を得る工程;およびプリオンに結合する抗体を同定する工程であって、該プリオンが動物に感染性であるPrPScプリオンダイマーを含む、工程;を含む、抗体の取得方法。
【請求項21】
前記抗原が、必要に応じてリンカーを介してペプチドに共有結合したキャリアを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記動物を前記キャリアに感作する工程を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記キャリアに対する免疫応答を刺激する初回抗原を投与する工程を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記キャリアが熱ショックタンパク質を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記キャリアがマイコバクテリアタンパク質であり、そして前記初回抗原がBCGワクチンを投与することによって投与される、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記ペプチドが環状形態である、請求項20から25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記抗原が前記ペプチドの反復の混成物を含む、請求項20から26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記抗原が前記ペプチドの直鎖状または環状ダイマーを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
プリオンタンパク質の少なくとも7つのアミノ酸のフラグメントを含む抗原であって、動物に感染性であるPrPScプリオンダイマーを含むプリオンに結合する抗体の産生を刺激するための、抗原。
【請求項30】
前記フラグメントが前記プリオンタンパク質の環状フラグメントである、請求項29に記載の抗原。
【請求項31】
前記フラグメントが前記プリオンタンパク質の直鎖状フラグメントである、請求項29に記載の抗原。
【請求項32】
前記抗原が、前記フラグメントの反復を含む、請求項29から31のいずれかに記載の抗原。
【請求項33】
前記抗原が、前記フラグメントのダイマーを含む、請求項32に記載の抗原。
【請求項34】
前記フラグメントが配列番号1から8のいずれか1つを含む、請求項29から33のいずれかに記載の抗原。
【請求項35】
請求項29から34のいずれか1つに記載の抗原に結合したキャリアを含む、抗体の産生を刺激するための結合体。
【請求項36】
抗体産生を刺激するための医薬品の製造のための、プリオンに結合する抗体の産生を刺激する抗原の使用であって、該プリオンが動物に感染性であるPrPScプリオンダイマーを含む、使用。
【請求項37】
前記抗原が、請求項29から34のいずれか1つに記載の抗原、または請求項35に記載の結合体を含む、請求項36に記載の使用。
【請求項38】
前記抗原に対する応答を刺激する初回抗原の事前または同時使用をさらに含む、請求項36または37に記載の使用。
【請求項39】
請求項29から34のいずれかに記載の抗原、または請求項35に記載の結合体を動物に投与する工程を含む、TSE感染に対して動物を免疫する方法。
【請求項40】
前記抗原が、該抗原に対する応答を刺激する初回抗原を後にまたは同時に投与される、請求項39に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−501142(P2006−501142A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−578418(P2003−578418)
【出願日】平成15年3月20日(2003.3.20)
【国際出願番号】PCT/GB2003/001295
【国際公開番号】WO2003/080665
【国際公開日】平成15年10月2日(2003.10.2)
【出願人】(503191210)ヘルス プロテクション エージェンシー (19)
【Fターム(参考)】